以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しつつ説明する。本発明は、エコー信号を処理する、エコー信号処理装置として広く適用することができる。尚、以下では、図中同一または相当部分には、同一符号を付してその説明は繰り返さない。
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態に係るエコー信号処理装置3を含む、レーダ装置1のブロック図である。本実施形態のレーダ装置1は、漁船等の船舶に備えられる舶用レーダである。レーダ装置1は、主に他船等の物標の探知に用いられる。また、レーダ装置1は、特定の物標(以下、特定物標という)を追尾することが可能に構成されている。より具体的には、レーダ装置1は、特定物標の進行方向、及び航行速度を推定可能に構成されている。
尚、以下では、レーダ装置1が備えられている船舶を「自船」という。また、特定物標が、自船以外の他の船舶である場合を例に説明する。レーダ装置1は、1つ又は複数の物標のなかから、追尾対象となる特定物標を特定し、次いで、当該特定物標の速度ベクトルを推定し、次いで、推定結果を表示することが可能に構成されている。尚、特定物標の速度ベクトルとは、特定物標の進行方向及び航行速度を示すベクトルである。また、特定物標の速度ベクトルの推定結果を、「推定速度ベクトル」という。
図1に示すように、レーダ装置1は、アンテナユニット2と、エコー信号処理装置3と、表示器4と、を備えている。
アンテナユニット2は、アンテナ5と、受信部6と、A/D変換部7と、を含んでいる。
アンテナ5は、指向性の強いパルス状電波を送信(放射)可能なレーダアンテナである。また、アンテナ5は、物標からのエコー信号(反射波)を受信するように構成されている。レーダ装置1は、パルス状電波を送信してからエコー信号を受信するまでの時間を測定する。これにより、レーダ装置1は、物標までの距離rを検出することができる。尚、エコー信号は、物標からの反射波を含む。アンテナ5は、水平面上で360°回転可能に構成されている。アンテナ5は、パルス状電波の送信方向を変えながら(アンテナ角度を変えながら)、電波の送受信を繰り返し行うように構成されている。以上の構成で、レーダ装置1は、自船周囲の平面上の物標を、360°にわたり探知することができる。
なお、以下の説明では、パルス状電波を送信してから次のパルス状電波を送信するまでの動作を「スイープ」という。また、電波の送受信を行いながらアンテナを360°回転させる動作を「スキャン」と呼ぶ。また、1スキャン毎に、後述するフローチャートにおける各ステップが行われることとなる。
受信部6は、アンテナ5で受信した信号(エコー信号)を検波して増幅する。受信部6は、増幅したエコー信号を、A/D変換部7へ出力する。A/D変換部7は、アナログ型式のエコー信号をサンプリングし、複数ビットからなるデジタルデータ(エコーデータ)に変換する。ここで、上記エコーデータの値は、アンテナ5が受信したエコー信号の強度(信号レベル)を示している。A/D変換部7は、エコーデータを、エコー信号処理装置3の信号処理部11へ出力する。
エコー信号処理装置3は、1つ又は複数の物標から1つの物標を特定物標として特定し、当該特定物標の推定速度ベクトルを算出するように構成されている。エコー信号処理装置3は、CPU、RAM及びROM(図示せず)等を含むハードウェアを用いて構成されている。また、エコー信号処理装置3は、ROMに記憶されたエコー信号処理プログラムを含むソフトウェアを用いて構成されている。
上記エコー信号処理プログラムは、本発明に係るエコー信号処理方法を、エコー信号処理装置3に実行させるためのプログラムである。上記ハードウェアとソフトウェアとは、協働して動作するように構成されている。これにより、エコー信号処理装置3を、信号処理部11、エコー検出部12、追尾処理部13、及び表示用ベクトルデータ生成部14等として機能させることができる。
エコー信号処理装置3は、信号処理部11と、エコー検出部12と、追尾処理部13と、表示用ベクトルデータ生成部14と、を含んでいる。
信号処理部11は、フィルタ処理等を施すことにより、エコーデータに含まれる干渉成分と、不要な波形データと、を除去する。信号処理部11は、処理したエコーデータを、エコー検出部12へ出力する。
エコー検出部12は、エコーデータ(エコー信号)を検出する。エコーデータ(エコー信号)は、アンテナ5で受信された信号のうち、アンテナ5からの送信信号に対する、物標での反射波である。エコー検出部12は、物標エコー像の検出と、物標エコー像の大きさの検出と、物標エコー像中における複数の点(後述する最前縁点PN等)の座標の検出と、を行うように構成されている。具体的には、エコー検出部12は、1スイープの間にサンプリングされたエコーデータを、先頭アドレスから順に受信するように構成されている。従って、エコー検出部12は、信号処理部11からエコーデータを読み出すときの読出しアドレスに基づいて、当該エコーデータに対応する位置までの距離rを求めることができる。また、アンテナ5からは、当該アンテナ5が現在どの方向を向いているか(アンテナ角度)を示すデータが出力されている(図示は省略)。以上の構成で、エコー検出部12は、エコーデータを読み出す際には、当該エコーデータに対応する位置を、距離rとアンテナ角度θとの極座標で取得することができる。
また、エコー検出部12は、エコーデータに対応する位置にエコー源が存在するか否かを検出するように構成されている。エコー検出部12は、例えば、エコーデータに対応する位置の信号レベル、即ち、信号強度を判別する。エコー検出部12は、信号レベルが所定のしきいレベル値以上である位置には、物標が存在していると判別する。エコー検出部12は、1スキャンを区切りとして、上記の判別処理を行う。
次いで、エコー検出部12は、物標が存在している範囲を検出する。エコー検出部12は、例えば、物標が存在している一まとまりの領域を、物標のエコー像が存在している領域として検出する。このようにして、エコー検出部12は、エコー信号を基に、物標のエコー像を検出する。即ち、エコー検出部12は、エコー信号を基に、物標エコー像を検出する。
物標エコー像の一例について、図2に示している。図2は、物標21、物標エコー像22及び自船23を、上方から見た状態を示す模式図である。尚、以下では、特定物標としての物標21の推定速度ベクトルを、エコー信号処理装置3で算出する構成を例に説明する。
図1及び図2に示すように、物標エコー像22は、物標21からのエコー信号(エコーデータ)によって特定される、物標21の像である。物標エコー像22は、水平面に沿って延びる像である。物標エコー像22の外郭形状は、物標21を上方(鉛直方向)から見た場合における、物標21の外郭形状に相当する。尚、図2では、平面視において、物標エコー像22の座標と、物標21の座標とが同じであるとして説明する。
図3は、物標エコー像22に関する情報検出の具体例を説明するための模式図である。図3では、物標エコー像22によって特定される物標21が示されている。図3では、物標21の外郭形状は、物標エコー像22と合致した状態で表示されている。
図1、図2及び図3に示すように、エコー検出部12は、極座標系(R−θ座標系)において、物標エコー像22を検出する。極座標系では、自船23位置としての自船位置M1を基準として、自船位置M1からの直線距離が、距離rとして示される。また、極座標系では、自船位置M1周りの角度が、角度θとして示される。本実施形態では、自船位置M1は、アンテナ5の位置に相当する。エコー検出部12は、物標エコー像22の情報抽出に際しては、自船位置M1を中心とする、リング状部分の一部形状の像110を用いる。この像110は、第1直線111、第2直線112、第1円弧113、及び第2円弧114によって囲まれた領域の像である。
第1直線111は、物標エコー像22の船尾部22bと、自船位置M1と、を通る直線である。第2直線112は、物標エコー像22の船首部22aのうち自船位置M1に最も近い点と、自船位置M1と、を通る直線である。第1円弧113は、物標エコー像22のうち自船位置M1から最も近い部分22cを通る円弧である。第1円弧113の曲率中心点は、自船位置M1である。第2円弧114は、物標エコー像22のうち自船位置M1から最も遠い部分22dを通る円弧である。第2円弧114は、第1円弧113と同心である。
エコー検出部12は、物標エコー像22の大きさと、物標エコー像22における判別用点の座標と、物標エコー像22における候補点の座標と、を検出する。
具体的には、エコー検出部12は、像110を基に、物標エコー像22の全長及び全幅を検出する。この検出結果に基づいて、物標21が大型船舶であるか、又は小型船舶であるかを判別することも可能である。大型船舶として、全長が数百メートルのタンカーを例示することができる。小型船舶として、全長が十数メートル程度の漁船を例示することができる。
上記の判別用点とは、表示用ベクトルデータ生成部14において、すれ違い判別を行うために用いられる点である。すれ違い判別については、後述する。判別用点は、物標エコー像22内の点であり、エコー信号処理装置3によって、複数設定される。
判別用点として、物標エコー像22の最前縁点PN、中心点PC、及び最後縁点PFを例示することができる。最前縁点PNは、自船23から物標エコー像22をアンテナ角度方向に見た場合における、物標エコー像22の最前縁点である。アンテナ角度方向とは、アンテナ5からパルス状電波を発射する瞬間の、当該電波の発射方向である。本実施形態では、エコー検出部12は、像110のうち、自船位置M1に最も近い点を、物標エコー像22の最前縁点PNとして検出する。
中心点PCは、例えば、物標エコー像22の図心点である。本実施形態では、エコー検出部12は、像110の中心点を、物標エコー像22の中心点PCとして検出する。また、最後縁点PFは、自船23から物標エコー像22をアンテナ角度方向に見た場合における、物標エコー像22の最後縁点である。
本実施形態では、第1の判別用点として、物標エコー像22の最前縁点PNが設定されている。また、本実施形態では、第2の判別用点として、物標エコー像22の中心点PCが設定されている。このように、第2の判別用点は、アンテナ5から遠ざかるように最前縁点PNから離隔した位置の点である。エコー検出部12は、最前縁点PNの座標を検出する。また、エコー検出部12は、中心点PCの座標を検出する。エコー検出部12は、判別用点に加えて、候補点を検出する。
候補点とは、表示用ベクトルデータ生成部14において、物標21の推定速度ベクトルの算出の基準となる点である。候補点は、物標エコー像22内の点であり、エコー信号処理装置3において、複数設定される。
候補点として、物標エコー像22の最前縁点PN、中心点PC、及び最後縁点PFを例示することができる。本実施形態では、第1の候補点として、物標エコー像22の最前縁点PNが設定されている。また、本実施形態では、第2の候補点として、物標エコー像22の中心点PCが設定されている。
即ち、物標エコー像22の最前縁点PNは、第1の候補点であり、且つ第1の判別用点である。また、物標エコー像22の中心点PCは、第2の候補点であり、且つ第2の判別用点である。
尚、物標21以外の物標(図示せず)が検出されている場合、エコー検出部12は、各物標について、上記の処理を行う。エコー検出部12は、1つ又は複数のエコー像のそれぞれについて、物標エコー像データと、最前縁点の座標データと、中心点の座標データとを、追尾処理部13へ出力する。
追尾処理部13は、エコー像データと、最前縁点の座標データと、中心点の座標データと、を基に、追尾処理を行う。より具体的には、追尾処理部13は、物標21の最前縁点PNの速度ベクトルを算出するように構成されている。また、追尾処理部13は、物標21の中心点PCの速度ベクトルを算出するように構成されている。尚、エコー信号処理装置3は、このように物標の追尾処理を行う。よって、エコー信号処理装置3は、物標追尾装置であるということもできる。
追尾処理部13は、エコー選別処理と、関連付け処理と、追尾フィルタ処理と、を行うように構成されている。
追尾処理部13は、エコー選別処理では、追尾対象としての物標21が存在すると推定される領域を特定する。具体的には、追尾処理部13は、追尾処理における1ステップ前の物標エコー像22の位置を基準に、当該位置から所定範囲の領域を特定する。通常、物標は複数存在する。したがって、上記特定された領域には、複数のエコー像が存在している可能性がある。この場合でも、追尾処理部13は、追尾処理を継続して行う必要がある。そこで、追尾処理部13は、関連付け処理を行う。
追尾処理部13は、関連付け処理では、最新のステップにおいて上記特定された領域内に存在する1つ又は複数の物標エコー像の中から、物標21の物標エコー像22を特定する。例えば、1ステップ前に追尾処理部13で算出された物標エコー像22の位置の近傍に、最新のステップで物標エコー像を検出した場合、追尾処理部13は、当該最新の物標エコー像が物標エコー像22であると判別する。
追尾処理部13は、更に、追尾フィルタ処理を行う。具体的には、追尾処理部13は、最新のステップにおける物標エコー像22の座標と、1ステップ前における当該物標エコー像22に対する追尾フィルタ処理の結果と、を参照する。これにより、追尾処理部13は、最前縁点PN及び中心点PCのそれぞれについて、座標の時間的変移を基に、最新の平滑位置及び予測位置を算出する。追尾処理部13は、これらの平滑位置と予測位置とに基づいて、最前縁点PNの速度ベクトル(平滑速度ベクトル)と、中心点PCの速度ベクトル(平滑速度ベクトル)と、を算出する。なお、追尾フィルタとして、α−βフィルタ、及びカルマン・フィルタ等を例示することができる。
追尾処理部13は、最前縁点PNの速度ベクトルデータと、中心点PCの速度ベクトルデータとを、表示用ベクトルデータ生成部14へ出力する。尚、追尾処理部13から出力される座標データは、直交座標系で特定されるデータである。
表示用ベクトルデータ生成部14は、表示器4に表示するためのデータ(情報)を生成するように構成されている。より具体的には、表示用ベクトルデータ生成部14は、物標21の推定速度ベクトルを算出する。表示用ベクトルデータ生成部14は、算出した推定速度ベクトルを特定するデータ(推定速度ベクトルデータ)を、表示器4へ出力する。
表示用ベクトルデータ生成部14は、すれ違い判別部16と、代表点情報選択部(情報選択部)17と、表示ベクトル処理部(推定速度ベクトルデータ生成部)18と、を有している。
すれ違い判別部16は、自船23と、追尾対象としての物標21とが、すれ違い状態にあるか否かを、エコー信号の時間的変移に基づいて、判別する。即ち、すれ違い判別部16は、すれ違い状態が発生しているか否かを判別する。ここで、「すれ違い状態」とは、自船23(アンテナ5)と物標21とが、近接した後に離隔するように相対移動する状態をいう。本実施形態において、「すれ違い状態」は、自船23と物標21とが、平面視において、互いに垂直な方向に接近した後に、離隔する状態を含む。「すれ違い状態」とは、追尾処理部13で算出される最前縁点PNの速度ベクトルと、物標21の実際の速度ベクトルと、の間に実質的な誤差が生じる態様で、自船23と物標21とが相対移動する状態ということもできる。
すれ違い判別部16は、追尾処理部13で得られた最前縁点PNの速度ベクトルデータと、追尾処理部13で得られた中心点PCの速度ベクトルデータと、を読み込む。次いで、すれ違い判別部16は、最前縁点PNの速度ベクトルと、中心点PCの速度ベクトルと、を比較する。このようにして、本実施形態では、すれ違い判別部16は、2つの速度ベクトルに基づいて、すれ違い状態にあるか否かを判別する。尚、すれ違い判別部16における判別処理の詳細は、後述する。
すれ違い判別部16は、判別結果としてのすれ違い判別フラグを生成する。すれ違い判別部16は、すれ違い状態が発生していると判別した場合は、判別フラグを「1」に設定する。一方、すれ違い判別部16は、すれ違い状態が発生していないと判別した場合は、判別フラグを「0」に設定する。すれ違い判別部16は、判別フラグデータを、例えば、1ステップ毎に代表点情報選択部17へ出力する。
代表点情報選択部17は、すれ違い判別部16の判別結果に応じて、物標21の推定速度ベクトル算出に用いる情報を、エコーデータ(エコー信号)から選択するように構成されている。代表点情報選択部17は、推定速度ベクトルを算出するための代表点を選択するように構成されている。本実施形態では、代表点情報選択部17は、推定速度ベクトルを算出するための代表点として、物標エコー像22の最前縁点PN、又は中心点PCを設定する。より具体的には、判別フラグが「1」である場合、即ち、すれ違い状態が発生している場合、代表点情報選択部17は、代表点として、中心点PCを設定する。一方、判別フラグが「0」である場合、即ち、すれ違い状態が発生していない場合、代表点情報選択部17は、代表点として、最前縁点PNを設定する。
代表点情報選択部17は、代表点として選択された最前縁点PNの速度ベクトルデータ、又は中心点PCの速度ベクトルデータを、追尾処理部13から読み出す。代表点情報選択部17は、読み出した速度ベクトルデータを、表示ベクトル処理部18へ出力する。
表示ベクトル処理部18は、代表点情報選択部17で選択された情報(代表点の速度ベクトルデータ)を用いて、物標21の推定速度ベクトルを算出し、推定速度ベクトルデータを生成するように構成されている。即ち、表示ベクトル処理部18は、追尾処理部13で算出された、代表点の速度ベクトル(代表点の座標の時間的変移)に基づいて、推定速度ベクトルを算出する。具体的には、表示ベクトル処理部18は、代表点の追尾速度ベクトルに対して、巡回型フィルタリング処理を行う。
本実施形態において、巡回型フィルタリング処理は、最新のステップにおける代表点の速度ベクトルと、過去のステップにおける代表点の推定速度ベクトルと、を用いて行われる。この処理が行われる結果、最新の代表点における推定速度ベクトルについて、すれ違い等に起因した速度誤差が、抑制される。
具体的には、表示ベクトル処理部18は、低域通過側のフィルタの一実現方法として、以下の式(1)を用いる、巡回式デジタルフィルタ処理を行う。
V(k)=α×V1(k)+(1−α)×V(k−1)・・・・・(1)
ここで、α、(1−α)は、フィルタ係数(重み係数)である。フィルタ係数αの範囲は(0≦α≦1)であり、フィルタ係数α,(1−α)の総和は1である。また、V(k)は、最新のステップ(第2時刻n2)における、代表点の推定速度ベクトルである。また、V1(k)は、最新のステップにおける、代表点の速度ベクトルであり、追尾処理部13で算出された速度ベクトルである。また、V(k−1)は、最新のステップよりも1つ前のステップ(第1時刻n1)において、表示ベクトル処理部18で算出された、代表点の推定速度ベクトルである。
したがって、本実施形態では、最新のステップで代表点として最前縁点PNが設定されている場合、V(k)は、最新のステップにおける、最前縁点PNの推定速度ベクトルである。また、V1(k)は、追尾処理部13で算出された、最新のステップにおける最前縁点PNの速度ベクトルである。一方、最新のステップで代表点として中心点PCが設定されている場合、V(k)は、最新のステップ(第2時刻)における、中心点PCの推定速度ベクトルである。また、V1(k)は、追尾処理部13で算出された、最新のステップにおける中心点PCの速度ベクトルである。
このように、表示ベクトル処理部18は、最新の時刻における代表点の速度ベクトルV1(k)と、過去の時刻における代表点の推定速度ベクトルV(k−1)と、の加重平均を、重み付け係数としてのフィルタ係数α、(1−α)を用いて算出する。
式(1)では、フィルタ係数αが大きくなるに従い、最新のステップにおける代表点の速度ベクトルV1(k)の値が占める割合は、大きくなる。即ち、フィルタ係数αが大きくなるに従い、推定速度ベクトルV(k)は、変動し易くなる。
一方、式(1)では、フィルタ係数αが小さくなるに従い、過去のステップにおける代表点の推定速度ベクトルV(k−1)の値が占める割合は、大きくなる。即ち、フィルタ係数αが小さくなるに従い、推定速度ベクトルV(k)は、変動し難くなる。
本実施形態では、フィルタ係数αは、所定の値に設定されており、変動しない。フィルタ係数αは、推定速度ベクトルV(k)が、適度に変動する値で、且つ、適度に安定した値となるように設定される。
推定速度ベクトルデータ生成部14は、上記のフィルタ処理を行うことにより、推定速度ベクトルを算出する。表示ベクトル処理部18は、生成した推定速度ベクトルデータを、表示器4へ出力する。
表示器4は、例えばカラー表示可能な液晶ディスプレイである。表示器4は、推定速度ベクトルデータ生成部14からのデータを読込み、当該データによって特定される画像を表示するように構成されている。これにより、液晶ディスプレイ等の表示器4には、物標の推定速度ベクトルV(k)を示す画像が表示される。レーダ装置1のオペレータは、表示器4に表示されたレーダ映像を確認することにより、自船23の周囲の物標21の様子を確認することができる。
次に、すれ違い状態において、推定速度ベクトルの誤差が誘発される現象を説明する。図4は、すれ違い状態について説明するための模式的な平面図である。図4において、自船23は、小型船舶であり、物標21は、大型タンカーである。また、物標21の全長A1は、例えば、294m、全幅A2は、32mである。また、自船23は、10(kt)で直進航行しているとする。また、物標21は、10(kt)で直進航行しているとする。また、自船23の進行方向D1と、物標21の進行方向D2とは、互いに平行で、且つ、互いの向きが反対であるとする。また、すれ違い間隔A3は、180mであるとする。すれ違い間隔A3とは、平面視において、物標21のうち、自船23を向く側面21aと、アンテナ5の中心5aとの間の最短距離をいう。換言すれば、すれ違い間隔A3とは、平面視において進行方向D1,D2の双方に直交する方向としての直交方向D3における、中心5aと側面21aとの間の距離ともいえる。
上記の場合を考えると、物標21から見て、自船23は、進行方向D1に20(kt)の速度で航行しているように見える。したがって、以下では、物標21が静止しており、自船23が進行方向D1に20(kt)の速度で航行している場合を例に説明する。このような相対移動の態様において、自船23に搭載されているレーダ装置1は、物標21を探知する。この場合、レーダ装置1は、複数回のスキャンを行う。その結果、レーダ装置1で検出される最前縁点PNについての軌跡PNLは、図5に示す通りとなる。
図5は、自船23と物標21等との関係を模式的に示す図である。図5のグラフにおける横軸は、進行方向D1に沿う自船23の移動距離X(m)を示している。また、図5のグラフにおける縦軸は、自船23からの直交方向D3の距離を示している。図5では、X=1400mの場合に、進行方向D1と平行な方向における自船23と物標21との距離が、約70mであるとしている。
図5に示すように、X=0〜約1470mである場合には、自船23と、物標21とは、直交方向D3に向かい合っていない状態(状態1)となる。この状態1の場合には、自船23と物標21とは、互いの間の距離が短くなるように、相対移動する。この状態1の場合の軌跡PNLは、PNL1で示される。PNL1は、軌跡PNLのうち、2つの菱形マークH1,H2で挟まれた領域である。
一方、X≒1470m〜1764mの場合には、自船23と、物標21とは、直交方向D3に向かい合う状態(状態2,3)となる。このうち、X≒1470〜1617mの場合には、自船23は、物標21の中心21bに向かって進んでいる(状態2)。この状態2の場合の軌跡PNLは、PNL2で示される。PNL2は、軌跡PNLのうち、2つの菱形マークH2,H3で挟まれた領域である。また、X≒1617〜1764mの場合には、自船23は、物標21の中心21bから遠ざかるように進んでいる(状態3)。この場合の軌跡PNLは、PNL3で示される。PNL3は、軌跡PNLのうち、2つの菱形マークH3,H4で挟まれた領域である。
また、X>約1764mの場合には、再び、自船23と、物標21とは、直交方向D3に向かい合っていない状態(状態4)となる。この状態4の場合には、自船23と物標21とは、互いの間の距離が遠くなるように、相対移動する。この状態4の場合の軌跡PNLは、PNL4で示される。PNL4は、軌跡PNLのうち、2つの菱形マークH4,H5で挟まれた領域である。この状態1〜4に示されるように、自船23と物標21とが近接した後に離隔するように相対移動する状態が、「すれ違い状態」の一例である。すれ違い状態は、特に、自船23と物標21とが数百m〜数千m以下程度の至近距離ですれ違っている状態をいう。
軌跡PNLから明らかなように、エコー像22の最前縁点PNは、主に、物標21の側面21a付近に存在することとなる。また、物標21の中心21bは、X≒1617mの位置に存在する。物標21の中心21bを境界として、状態2と状態3とが切り替わる。
軌跡PNL1に示されているように、自船23と物標21とが直交方向D3に対向するまでは、移動距離Xの増加に従い、直交方向D3における自船23と最前縁点PNとの距離は、小さくなる。
次に、自船23と物標21とが直交方向D3に向かい合っている場合を述べる。まず、状態2の場合、即ち、自船23と、物標21の中心21bとが直交方向D3に向かい合うまでの場合、移動距離Xの増大に伴って、直交方向D3における自船23と最前縁点PNとの距離は、大きくなる。一方、状態3の場合、即ち、自船23と、物標21の中心21bとが直交方向D3に向かい合った後の場合、移動距離Xの増大に伴って、直交方向D3における自船23と最前縁点PNとの距離は、小さくなる。
その後、状態3から状態4に移行し、再び、自船23と物標21とが直交方向D3に対向しない状態になると、移動距離Xの増大に伴い、直交方向D3における自船23と最前縁点PNとの距離は、増大する。
図6は、自船23と物標21とが図4に示すように相対移動した場合の、真の相対速度と、算出される相対速度との誤差(速度誤差)を示すグラフ図である。尚、図6の横軸のスキャン番号に所定の係数を乗じた値が、自船23の移動距離Xに相当する。図1,図4及び図6を参照して、次に、単に、最前縁点PNの位置変化に基づいて、自船23に対する最前縁点PNの相対速度を算出した場合を説明する。この場合、速度誤差は、図6の破線のグラフの通りとなる。
次に、単に、中心点PCの位置変化に基づいて、自船23に対する中心点PCの相対速度を算出した場合を説明する。この場合の速度誤差は、図6に示す実線のグラフの通りとなる。図6のグラフから明らかなように、すれ違い状態においては、自船23と物標21とが直交方向D3に向かい合っている場合に、速度誤差が急峻に大きくなっている。即ち、状態2,3の場合に、上記の速度誤差が急峻に大きくなっている。特に、最前縁点PNに関する速度誤差が大きくなっている。このような誤差が生じる原因としては、物標21の大きさが挙げられる。物標21の全長A1が数百m程度の大きな値である場合、すれ違い状態においては、移動距離Xの変化に伴って、最前縁点PNの位置が大きく変化する。
このような、最前縁点PNの位置の大きな変化が、上記した大きな誤差の原因と考えられる。尚、自船23と物標21とが直交方向D3に対向している場合、中心点PCに関する速度誤差は、比較的小さい。
即ち、すれ違い状態においては、最前縁点PNの速度の検出値と、中心点PCの速度の検出値との差が大きくなる。よって、すれ違い判別部16は、最前縁点PNの速度の検出値と、中心点PCの速度の検出値との差が所定のしきい値以上の場合に、すれ違い状態が発生していると判別することができる。このように判別できる理由について、以下で更に説明する。
図7は、図4で説明した態様で自船23が運動している場合における、追尾処理部13で算出された最前縁点PNの平滑速度と、中心点PCの平滑速度と、を示すグラフ図である。図7のグラフ図の横軸は、図6の場合と同様に、スキャン番号を示している。また、図7のグラフの縦軸は、算出された速度を示している。また、図7のグラフは、自船23と物標21との距離についても示している。
図1,図4及び図7から明らかなように、すれ違い状態では、スキャン数が100スキャン目程度になったとき、自船23と物標21との距離は、約500m程度の小さい値となる。これに伴い、最前縁点PNの平滑速度と、中心点PCの平滑速度との差(速度差)が、明らか大きくなっている。この大きな速度差は、170スキャン目程度まで維持されている。したがって、上記の速度差が、所定のしきい値以上である場合に、すれ違い状態が発生しているということができる。
以上の内容を踏まえて、すれ違い判別部16は、追尾処理部13で算出された中心点PCの速度ベクトル(平滑速度)と、追尾処理部13で算出された最前縁点PNの速度ベクトル(平滑速度)との差(速度差ΔV)を、判別する。すれ違い判別部16は、この速度差ΔVが所定のしきい値Th以上である場合に、すれ違い状態が発生していると判別する。速度差ΔVは、最前縁点PNの速度ベクトル(x1,y1)と、中心点PCの速度ベクトル(x2,y2)との差である。即ち、
ΔV={(x1−x2)2+(y1−y2)2}1/2・・・・・(2)
である。このように、すれ違い判別部16は、最前縁点PNの座標の時間的変移と、中心点PCの座標の時間的変移と、に基づいて、すれ違い状態が発生したか否かを判別する。
次に、第1実施形態に係るエコー信号処理装置における推定速度ベクトル算出の流れを説明する。図8は、本発明の第1実施形態に係るエコー信号処理装置3における、推定速度ベクトル算出の流れを説明するためのフローチャートである。エコー信号処理装置3は、以下に示すフローチャートの各ステップを図示しないメモリから読み出して実行する。このプログラムは、外部からインストールできる。このインストールされるプログラムは、例えば記録媒体に格納された状態で流通する。
推定速度ベクトル算出の処理の流れについて、図8に加えて、適宜、図1〜図7を参照しつつ説明する。この処理では、アンテナユニット2で取得されたエコーデータ(エコー信号)を、信号処理部11が受信する(ステップS101)。信号処理部11は、エコーデータに含まれる干渉成分及び不要な波形データを、信号処理によって除去する(ステップS102)。次いで、信号処理部11は、処理したエコーデータを、エコー検出部12へ出力する。
エコー検出部12は、エコーデータを基に、1つ又は複数の物標のそれぞれの物標エコー像22を検出する(ステップS103)。尚、物標のエコー像の検出の具体的な構成は、前述した通りである。また、エコー検出部12は、各エコー像について、最前縁点の座標及び中心点の座標を検出する(ステップS103)。エコー検出部12は、各エコー像データと、各エコー像における、最前縁点の座標データ及び中心点の座標データとを、追尾処理部13へ出力する。
追尾処理部13は、エコー選別処理と、関連付け処理と、追尾フィルタ処理と、を行う。これにより、追尾処理部13は、1つ又は複数の物標の中から、追尾対象としての物標21を特定する。また、追尾処理部13は、追尾フィルタ処理を行うことにより、物標エコー像22の最前縁点PNの速度ベクトルを算出する(ステップS104)。この算出処理と並行して、追尾処理部13は、物標エコー像22の中心点PCの速度ベクトルを算出する(ステップS104)。追尾処理部13は、最前縁点PNの速度ベクトルデータと、中心点PCの速度ベクトルデータとを、すれ違い判別部16へ出力する。
すれ違い判別部16は、最前縁点PNの速度ベクトルデータと、中心点PCの速度ベクトルデータと、を読み込む。次いで、すれ違い判別部16は、前述の式(2)を演算することにより、最前縁点PNと、中心点PCとの速度差ΔVを算出する(ステップS105)。次いで、すれ違い判別部16は、速度差ΔVが所定のしきい値Thより大きいか否かを判別する(ステップS106)。しきい値Thは、例えば、1.5(kt)に設定されている。
ΔV>Thである場合(ステップS106でYES)、すれ違い判別部16は、自船23と物標21とがすれ違い状態にあると判別する。この場合、すれ違い判別部16は、すれ違い判別フラグを「1」に設定する(ステップS107)。次いで、すれ違い判別部16は、すれ違い判別フラグデータを代表点情報選択部17へ出力する。
代表点情報選択部17は、すれ違い判別フラグが「1」である場合、物標エコー像22の中心点PCを代表点として設定する。そして、代表点情報選択部17は、中心点PCの速度ベクトルデータを、追尾処理部13から読み出し、当該速度ベクトルデータを、表示ベクトル処理部18へ出力する(ステップS108)。
次いで、表示ベクトル処理部18は、中心点PCが、最新のステップ(第1時刻n1)での代表点であるとして、表示ベクトル処理を行う(ステップS109)。即ち、前述の式(1)である、V(k)=α×V1(k)+(1−α)×V(k−1)のうちの、V1(k)が、中心点PCの速度ベクトルとなるように、式(1)を演算する。表示ベクトル処理部18は、上記の演算処理により、物標21の推定速度ベクトルV(k)を算出し、物標21の推定速度ベクトルデータを生成する。次いで、表示ベクトル処理部18は、物標21の推定速度ベクトルデータを、表示器4へ出力する(ステップS110)。
一方、ステップS106において、ΔV≦Thである場合(ステップS106でNO)、すれ違い判別部16は、自船23と物標21とがすれ違い状態となってはいないと判別する。この場合、すれ違い判別部16は、すれ違い判別フラグを「0」に設定する(ステップS111)。次いで、すれ違い判別部16は、すれ違い判別フラグデータを、代表点情報選択部17へ出力する。
代表点情報選択部17は、すれ違い判別フラグが「0」である場合、物標エコー像22の最前縁点PNを、代表点として設定する。そして、代表点情報選択部17は、最前縁点PNの速度ベクトルデータを、追尾処理部13から読み出し、当該速度ベクトルデータを、表示ベクトル処理部18へ出力する(ステップS112)。
次いで、表示ベクトル処理部18は、最前縁点PNが、最新の(第1時刻の)代表点であるとして、表示ベクトル処理を行う(ステップS113)。即ち、前述の式(1)である、V(k)=α×V1(k)+(1−α)×V(k−1)のうちの、V1(k)が、最前縁点PNの速度ベクトルとなるように、式(1)を演算する。表示ベクトル処理部18は、上記の演算処理により、物標21の推定速度ベクトルV(k)を算出し、物標21の推定速度ベクトルデータを生成する。次いで、表示ベクトル処理部18は、物標21の推定速度ベクトルデータを、表示器4へ出力する(ステップS110)。
次に、推定速度ベクトル算出結果を説明する。即ち、上記の処理を、例えば、図4で説明した態様で相対移動する自船23と物標21とに関して適用した場合について説明する。より具体的には、この相対移動について、コンピュータを用いてシミュレーションした結果を、以下に説明する。即ち、自船23に備えられるレーダ装置1に関して、図9(a)及び図9(b)に示す結果を得ることができる。
図9(a)は、自船23と物標21とが図4に示すように相対移動した場合の、真の相対速度と、推定速度ベクトルの速度との誤差を示すグラフ図である。図9(b)は、自船23と物標21とが図4に示すように相対移動した場合の、物標21の真の方位と、推定速度ベクトルの方位との誤差を示すグラフ図である。尚、図9(a)、図9(b)のそれぞれにおいて、横軸のスキャン番号に所定の係数を乗じた値が、自船23の移動距離Xに相当する。
図1,図4及び図9(a)に示すように、単に、最前縁点PNの位置変化を検出した場合、すれ違い状態においては、最前縁点PNに関する速度誤差は、4(kt)近く存在する。一方、図9(a)に示すように、エコー信号処理装置3において、ステップS101〜S113の処理を行った場合には、すれ違い状態においては、中心点PCが代表点として設定される。この場合、速度誤差を、2(kt)以下にすることができる。即ち、速度誤差を、50%以上低減することができた。
また、図9(b)に示すように、すれ違い状態においては、中心点PCを代表点に設定することにより、推定速度ベクトルの方位の誤差を、最大でも約8(deg)という、小さい値にすることができた。
以上説明したように、エコー信号処理装置3によると、物標21の推定速度ベクトルと、物標21の実際の速度ベクトルとの誤差(以下、「推定速度ベクトルの誤差」ともいう。)が大きくなることを抑制できる。具体的には、すれ違い状態が発生していると判別されている場合と、すれ違い状態が発生していないと判別されている場合とでは、物標21の推定速度ベクトル算出に用いる情報は、異ならされている。したがって、すれ違い状態が発生している場合には、すれ違い状態に起因する、速度ベクトルの誤差を抑制する態様で、推定速度ベクトルデータを生成することができる。また、すれ違い状態が発生していない場合には、すれ違い状態において速度ベクトルの誤差を誘発する要因に影響されることなく、推定速度ベクトルデータを生成することができる。その結果、すれ違い状態の有無に拘らず、物標21の速度ベクトルを、より正確に推定することができる。
従って、エコー信号処理装置3によると、物標21の速度ベクトルを、より正確に推定することができる。
また、エコー信号処理装置3によると、エコー検出部12は、物標エコー像22における、最前縁点PNの座標と、中心点PCの座標と、を検出するように構成されている。また、すれ違い判別部16は、最前縁点PNの座標の時間的変移と、中心点PCの座標の時間的変移と、に基づいて、すれ違い状態が発生したか否かを判別する。これにより、2つの判別用点(PN,PC)のそれぞれの座標の時間的変移に基づいて、すれ違い状態の発生の有無を判別することができる。このように、物標エコー像22における一部の点について演算を行うという簡易な構成によって、すれ違い状態の発生の有無を判別することができる。
また、エコー信号処理装置3によると、すれ違い判別部16は、最前縁点PNの移動速度と、中心点PCの移動速度と、の速度差ΔVが所定のしきい値Th以上である場合に、すれ違い状態が発生していると判別する。このように、2つの判別用点(PN,PC)の相対速度に基づいて、すれ違い状態の発生の有無を、容易に判別することができる。具体的には、速度差ΔVが大きい場合には、最前縁点PNの挙動と、中心点PCの挙動とが大きく異なっていることとなる。このような場合には、推定速度ベクトルの誤差が生じやすい状態としてのすれ違い状態が発生していると考えることができる。よって、最前縁点PNの速度と中心点PCの速度との速度差ΔVに基づいて、すれ違い状態の発生を、容易、且つ確実に判別することができる。また、速度差ΔVが、所定のしきい値Thを超えているか否かを判別するという簡易な構成である。これにより、すれ違い判別部16は、比較的簡易な演算を行うことにより、すれ違い状態の有無を、容易に判別することができる。
また、エコー信号処理装置3によると、追尾処理部13は、最前縁点PN(第1の判別用点)の座標データに所定のフィルタ処理を施すことで、最前縁点PNの速度ベクトルを算出するように構成されている。また、追尾処理部13は、中心点PC(第2の判別用点)の座標データに所定のフィルタ処理を施すことで、中心点PCの速度ベクトルを算出するように構成されている。このように、最前縁点PNの座標データにフィルタ処理を施すことにより、最前縁点PNの速度ベクトルを、より正確に算出することができる。また、中心点PCの座標データにフィルタ処理を施すことにより、中心点PCの速度ベクトルを、より正確に算出することができる。その結果、すれ違い判別部16は、すれ違い判別を、より正確に行うことができる。
また、エコー信号処理装置3によると、エコー検出部12は、物標エコー像22における、最前縁点PNの座標と、中心点PCの座標と、を、候補点として検出するように構成されている。また、代表点情報選択部17は、すれ違い判別部16の判別結果に応じて、最前縁点PN又は中心点PCを代表点として設定する。表示ベクトル処理部18は、代表点の座標の時間的変移に基づいて、推定速度ベクトルデータを生成する。このように、すれ違い判別部16の判別結果に応じて、推定速度ベクトルデータ生成の基となる代表点が異なっている。これにより、すれ違い状態が生じている場合と、すれ違い状態が生じていない場合の何れの場合でも、推定速度ベクトルの算出に適した代表点を用いることができる。その結果、すれ違い状態の有無に拘らず、物標21の推定速度ベクトルを、より正確に算出することができる。また、物標エコー像22のうちの一部の点について演算を行うという簡易な構成によって、推定速度ベクトルV(k)を算出することができる。
また、エコー信号処理装置3によると、代表点情報選択部17は、すれ違い状態が発生していないと判別した場合には、エコー像22の最前縁点PNを、代表点として設定する。また、代表点情報選択部17は、すれ違い状態が発生していると判別した場合には、中心点PCを代表点として設定する。最前縁点PNであれば、エコー信号を得るために送信されたパルス信号のパルス幅に影響されることなく、最前縁点PNの座標を検出することができる。その結果、物標21の推定速度ベクトルを、より正確に算出することができる。また、すれ違い状態が発生していると判別されている場合は、アンテナ5が取り付けられている自船23と、物標21との距離は近い。この場合、物標エコー像22における最前縁点PNの位置は、自船23と物標21との相対移動に起因して、大きく変化する。このため、最前縁点PNを代表点として用いると、推定速度ベクトルの値が大きく変化し、その結果、速度ベクトルの誤差が大きくなってしまう。したがって、すれ違い状態が発生していると判別されている場合は、物標エコー像22において、アンテナ5から遠い位置の点を、代表点として設定することが好ましい。このため、すれ違い状態が生じていると判別されている場合には、物標エコー像22においてアンテナ5から遠い位置の中心点PC点を、代表点として用いる。即ち、アンテナ5が設置されている自船23と物標21とが相対移動している場合において、物標エコー像22のうち位置が大きく変化しなくて済む点を代表点として用いる。これにより、推定速度ベクトルの不要な変動を抑制できる。その結果、物標21の推定速度ベクトルを、より正確に算出することができる。
即ち、上記したように、エコー信号処理装置3によると、物標エコー像22の中心点を、代表点として用いる場合、自船23と物標21との距離が近い場合でも、自船23と物標21との相対移動に伴って、中心点PCの位置は、大きく変化せずに済む。よって、推定速度ベクトルが大きく変化することを抑制できる。その結果、すれ違い状態においても、物標21の推定速度ベクトルを、より正確に算出することができる。
また、エコー信号処理装置3によると、推定速度ベクトル算出のための第1の候補点と、すれ違い判別に用いられる第1の判別用点とが、何れも、最前縁点PNである。また、推定速度ベクトル算出のための第2の候補点と、すれ違い判別に用いられる第2の判別用点とが、何れも、中心点PCである。これにより、すれ違い判別のための演算結果を、推定ベクトル算出のための演算結果として用いることができる。したがって、エコー信号処理装置3における演算回数を低減することができる。
また、エコー信号処理装置3によると、追尾処理部13は、代表点(最前縁点PN又は中心点PC)の座標データに所定のフィルタ処理を施すことで、代表点の速度ベクトルを算出するように構成されている。また、表示ベクトル処理部18は、代表点の速度ベクトルを基に、物標21の推定速度ベクトルを算出する。これにより、代表点の速度ベクトルを、より正確に算出することができる。その結果、推定速度ベクトルを、より正確に算出することができる。
また、エコー信号処理装置3によると、表示ベクトル処理部18は、最新のステップ(所定時刻)における代表点(最前縁点PN又は中心点)の速度ベクトルと、最新のステップよりも前のステップにおける代表点の推定速度ベクトルと、の加重平均を、フィルタ係数αを用いて算出する。これにより、時間的にランダムに変動しているエコー信号は、表示ベクトル処理によって信号レベルが抑えられる。したがって、推定速度ベクトルについて、すれ違いに起因した速度誤差を抑制することができる。
以上より、レーダ装置1によると、物標の速度ベクトルを、より正確に推定することができる。
[第2実施形態]
図10は、本発明の第2実施形態に係るエコー信号処理装置を含むレーダ装置1Bが、自船23に備えられた状態を示す模式的な平面図である。本発明の第2実施形態では、すれ違い状態について、前述の実施形態の観点とは別の観点から説明する。
次に、本実施形態におけるすれ違い状態を説明する。図10に示すように、本実施形態におけるすれ違い状態は、例えば、停止している物標21の脇を、自船23が通過する状態を含む。この状態について、以下、説明する。
まず、第1時刻n1と、第1時刻nよりも後の第2時刻n2と、第2時刻よりも後の第3時刻n3のそれぞれにおいて、自船23の側面23bが、物標21の側面21aと向かい合っている場合を考える。
この場合、第1時刻n1において、レーダ装置1Bで検出される物標エコー像22(221)の、最前縁点PN1と中心点PC1は、例えば、直線L1上に並ぶ。直線L1は、第1時刻n1において、レーダ装置1Bのアンテナ5からパルス状電波が発射された方向に沿って、延びている。
また、第2時刻n2において、レーダ装置1Bで検出される物標エコー像22(222)の、最前縁点PN2と中心点PC2は、例えば、直線L2上に並ぶ。直線L2は、第2時刻n2において、レーダ装置1Bからパルス状電波が発射された方向に沿って、延びている。この場合、最前縁点PN2は、最前縁点PN1と、物標エコー像22の船尾部22bとの間に位置している。また、中心点PC2は、中心点PC1と、物標エコー像22の船首部22aと、の間に位置している。
また、第3時刻n3において、レーダ装置1Bで検出される物標エコー像22(223)の、最前縁点PN3と中心点PC3は、例えば、直線L3上に並ぶ。直線L3は、第3時刻n3において、レーダ装置1Bからパルス状電波が発射された方向に沿って、延びている。この場合、最前縁点PN3は、最前縁点PN2と、物標エコー像22の船尾部22bとの間に位置している。また、中心点PC3は、中心点PC2と、物標エコー像22の船首部22aと、の間に位置している。
即ち、物標エコー像22の船首部22aから船尾部22bに向かう方向において、第1の判別用点としての最前縁点PN1,PN2,PN3は、PN1,PN2,PN3の順に並んでいる。一方、物標エコー像22の船首部22aから船尾部22bに向かう方向において、第2の判別用点としての中心点PC1,PC2,PC3は、PC3,PC2,PC1の順に並んでいる。
このように、n1,n2,n3と、時刻が変化するに伴い、最前縁点PNの位置は、変化する。また、n1,n2,n3と、時刻が変化するに伴い、中心点PCの位置は、変化する。中心点PC1,PC2,PC3の位置が互いに異なっているのは、例えば、物標エコー像221,222,223のぼやけが原因である。この場合の「ぼやけ」とは、例えば、レーダ装置1Bのアンテナ5から発射されたパルス状電波の放射方向に向かって、物標エコー像221,222,223が伸びてしまうことをいう。
より具体的には、第1時n1において、物標エコー像221は、直線L1に沿って自船23から遠ざかる方向に伸びることによる、ぼやけが生じている。同様に、第2時刻n2において、物標エコー像222は、直線L2に沿って自船23から遠ざかる方向に伸びることによる、ぼやけが生じている。同様に、第3時刻n3において、物標エコー像223は、直線L3に沿って自船23から遠ざかる方向に伸びることによる、ぼやけが生じている。
その結果、最前縁点PNを代表点に設定した場合と、中心点PCを代表点に設定した場合の何れの場合でも、レーダ装置1Bは、物標21が動いている場合と同様のエコー信号を取得することとなる。このような、見かけ上の物標21の運動は、推定速度ベクトルの正確な算出にとって、好ましくない。
上記見かけ上の物標21の運動は、例えば、以下のようにして、検出することができる。図11は、物標21の見かけ上の運動を検出する構成について説明するための、模式図である。図11に示すように、第1時刻n1における物標エコー像221の最前縁点PN1から、第2時刻n2における物標エコー像222の最前縁点PN2へのベクトルΔPNは、ΔPN=PN2−PN1となる。また、第1時刻n1における物標エコー像221の中心点PC1から、第2時刻n2における物標エコー像222の中心点PC2へのベクトルΔPCは、ΔPC=PC2−PC1となる。尚、以下では、ΔPNを第1ベクトルという場合がある。また、ΔPCを第2ベクトルという場合がある。
図11から明らかなように、第1ベクトルΔPNと、第2ベクトルΔPCとは、略反対方向を向く運動ベクトルである。よって第1ベクトルΔPNと、第2ベクトルΔPCの始点とを一致させた状態において、第1ベクトルΔPNと、第2ベクトルΔPCとがなす角度を基に、物標21の、見かけ上の運動を検出することができる。例えば、下記式(3)を満たす状態を、物標21の見かけ上の運動が生じている状態、即ち、すれ違い状態として検出することができる。
(ΔPN・ΔPC)/|ΔPN||ΔPC|<0・・・・・(3)
尚、式(3)は、ΔPNとΔPCの内積である、下記式(4)に基づく。
ΔPN・ΔPC=|ΔPN||ΔPC|cosθ・・・・・(4)
式(4)を変形すると、
(ΔPN・ΔPC)/|ΔPN||ΔPC|=cosθ・・・・・(5)
となる。この場合、式(5)から明らかなように、第1ベクトルΔPNと、第2ベクトルΔPCと、のなす角度θが、180度であるとき、又は劣角において90度より大きいときに、式(5)右項は、負の値をとる。即ち、式(3)を満たす。よって、第1ベクトルΔPNと、第2ベクトルΔPCと、のなす角度θが、180度である場合、又は劣角において90度より大きい場合に、すれ違い状態が発生していると判別することができる。尚、劣角とは、頂点と2辺を共有する角のうち、小さいほうの角をいい、180度より小さい。また、すれ違い状態であると判別される場合の角度θは、例えば、約175度〜180度であることが、より好ましい。
ここで、第1時刻n1における最前縁点PN1及び中心点PC1を結ぶ線分を、第1線分LS1として定義することができる。また、第2時刻n2における最前縁点PN2及び中心点PC2を結ぶ線分を、第2線分LS2として定義することができる。また、これら第1線分LS1及び第2線分LS2の交点を、物標エコー像22の交点LC(第2の候補点)と定義することができる。この交点LCの位置は、第1時刻n1及び第2時刻n2の何れの時刻においても、変化しない。
前述したように、最前縁点PN、又は中心点PCの動きに基づいて物標21の速度ベクトルを推定する場合には、物標21が動いていると推定するおそれがある。一方で、交点LCの動きに基づいて物標21の運動を推定する場合には、物標21は動いていないということを、より正確に推定することができる。尚、第3時刻n3における最前縁点PN3及び中心点PC3を結ぶ線分を、第3線分LS3として定義することができる。交点LCは、第3線分LS3上の点でもある。よって、この交点LCの位置は、第1時刻n1、第2時刻n2、及び第3時刻n3の何れの時刻においても、変化しない。
レーダ装置1Bは、上記のすれ違い状態が発生していることを判別した場合、物標エコー像22のうちの上記の交点LCを、代表点として設定するように構成されている。以下、レーダ装置1Bの具体的な構成を説明する。
次に、第2実施形態に係るレーダ装置の詳細な構成を説明する。図12は、レーダ装置1Bのブロック図である。図11及び図12に示すように、レーダ装置1Bは、アンテナユニット2と、エコー信号処理装置3Bと、表示器4と、を備えている。エコー信号処理装置3Bは、信号処理部11と、エコー検出部12Bと、追尾処理部13Bと、表示用ベクトルデータ生成部14Bと、を含んでいる。表示用ベクトルデータ生成部14Bは、すれ違い判別部16Bと、代表点情報選択部17Bと、表示ベクトル処理部18Bと、を有している。
エコー検出部12Bは、1スキャン毎に、物標エコー像22を検出する。また、エコー検出部12Bは、物標エコー像22における判別用点の座標と、物標エコー像22における候補点の座標と、を検出する。
本実施形態では、第1の判別用点として、物標エコー像22の最前縁点PNが設定されている。また、本実施形態では、第2の判別用点として、中心点PCが設定されている。また、本実施形態では、第1の候補点として、最前縁点PNが設定されている。また、本実施形態では、第2の候補点として、前述の交点LCが設定されている。このように、第2の判別用点としての交点LCは、アンテナ5から遠ざかるように最前縁点PNから離隔した位置の点である。また、物標エコー像22の最前縁点PNは、第1の候補点であり、且つ第1の判別用点である。
エコー検出部12Bは、所定時間毎(1ステップ毎)における最前縁点PNの座標データ、及び中心点PCの座標データを記憶するように構成されている。これにより、エコー検出部12Bは、前述の第1線分LS1の座標と、第2線分LS2の座標と、交点LCの座標とを、規定することができる。
尚、物標21以外の物標(図示せず)が検出されている場合、エコー検出部12は、各物標について、上記の処理を行う。エコー検出部12Bは、1つ又は複数のエコー像のそれぞれについて、エコー像データと、各代表点(PN,PC)の座標データと、各すれ違い判別用点(PN,LC)の座標データとを、追尾処理部13Bへ出力する。
追尾処理部13Bは、エコー選別処理と、関連付け処理と、追尾フィルタ処理と、を行うように構成されている。追尾処理部13Bは、エコー選別処理と、関連付け処理と、を行うことにより、追尾対象としての物標21(エコー像22)を特定する。次いで、追尾処理部13Bは、フィルタ処理を行う。これにより、追尾処理部13Bは、最前縁点PN及び交点LCのそれぞれについて、座標の時間的変移に基づいて、最新の平滑位置及び予測位置を算出する。追尾処理部13Bは、これらの平滑位置と予測位置とに基づいて、最前縁点PNの速度ベクトル(平滑速度ベクトル)と、交点LCの速度ベクトル(平滑速度ベクトル)と、を算出する。追尾処理部13Bは、最前縁点PNの速度ベクトルデータと、交点LCの速度ベクトルデータと、最前縁点PNの座標データと、中心点PCの座標データとを、表示用ベクトルデータ生成部14Bへ出力する。
表示用ベクトルデータ生成部14Bのすれ違い判別部16Bは、最新の時刻(第2時刻n2)よりも前の第1時刻n1における、最前縁点PN1の座標データ、及び中心点PC1の座標データを、記憶している。また、すれ違い判別部16Bは、第2時刻n2における、最前縁点PN2の座標データ、及び中心点PC2の座標データを、追尾処理部13Bから読み出す。すれ違い判別部16Bは、これらの位置データを用いて、前述した、第1ベクトルΔPNと、第2ベクトルΔPCと、を検出する。次いで、すれ違い判別部16は、上記式(3)の左項を演算し、当該演算結果を判別する。
当該演算結果が負の場合、すれ違い判別部16Bは、すれ違い状態が生じていると判別する。この場合、すれ違い判別フラグは「1」に設定される。一方、演算結果がゼロ又は正の値の場合、すれ違い判別部16Bは、すれ違い状態が生じていないと判別する。この場合、すれ違い判別フラグは、「0」に設定される。すれ違い判別部16Bは、判別フラグデータを、例えば、1ステップ毎に代表点情報選択部17Bへ出力する。
代表点情報選択部17Bは、代表点として、物標エコー像22の最前縁点PN、又は交点LCを設定する。より具体的には、判別フラグが「1」である場合、即ち、すれ違い状態が発生している場合、代表点情報選択部17Bは、前述した交点LCを、代表点として設定する。一方、判別フラグが「0」である場合、即ち、すれ違い状態が発生していない場合、代表点情報選択部17は、現在の時刻(第2時刻n2)における最前縁点PN2を、代表点として設定する。代表点情報選択部17Bは、代表点として選択された最前縁点PNの速度ベクトルデータ、又は交点LCの速度ベクトルデータを、追尾処理部13Bから読み出す。代表点情報選択部17Bは、読み出した速度ベクトルデータを、表示ベクトル処理部18Bへ出力する。
表示ベクトル処理部18Bは、代表点の追尾速度ベクトルに基づいて、推定速度ベクトルを算出し、推定速度ベクトルデータを生成する。具体的には、表示ベクトル処理部18Bは、代表点の追尾速度ベクトルに対して、表示ベクトル処理を行う。本実施形態では、前述した式(1)を用いる、巡回式デジタルフィルタ処理を行う。これにより、表示ベクトル処理部18Bは、推定速度ベクトルを算出し、速度ベクトルデータを生成する。表示ベクトル処理部18Bは、生成した推定速度ベクトルデータを、表示器4へ出力する。
次に、第2実施形態に係るエコー信号処理装置における推定速度ベクトル算出の流れを説明する。図13及び図14は、本発明の第2実施形態に係るエコー信号処理装置3Bにおける、推定速度ベクトル算出の流れを説明するためのフローチャートである。推定速度ベクトル算出の処理の流れについて、図13及び図14に加えて、適宜、図10〜図12を参照しつつ説明する。
エコー信号処理装置3Bは、図13に示すステップS301〜S314と、図14に示すステップS3041〜S3045とを、図示しないメモリから読み出して実行する。
この処理では、アンテナユニット2で取得されたエコーデータ(エコー信号)を、信号処理部11が受信する(ステップS301)。信号処理部11は、エコーデータに含まれる干渉成分及び不要な波形データを、信号処理によって、除去する(ステップS302)。次いで、信号処理部11は、処理したエコーデータを、エコー検出部12Bへ出力する。
エコー検出部12Bは、エコーデータを基に、1つ又は複数の物標のそれぞれの物標エコー像を検出する(ステップS303)。また、エコー検出部12は、各エコー像について、最前縁点の座標と、中心点の座標と、を検出する(ステップS303)。
次に、エコー検出部12Bは、各エコー像における、交点の座標を検出する(ステップS304)。尚、ステップS304で行われる処理については、複数のエコー像のうちの、物標エコー像22を例に説明する。ステップS304は、ステップS3041〜S3045を含む。
ステップS304では、エコー検出部12Bは、まず、第1時刻n1における、物標エコー像221の最前縁点PN1の座標データと、中心点PC1の座標データとを、メモリから読み出す。これにより、エコー検出部12Bは、物標エコー像221における、最前縁点PN1の座標と、中心点PC1の座標と、を特定する(ステップS3041)。
次に、エコー検出部12Bは、第2時刻n2における、物標エコー像222の最前縁点PN2の座標データと、中心点PC2の座標データとを、エコー検出部12Bから読み出す。第2時刻n2は、第1時刻n1の1つ後のスキャン時刻である。これにより、エコー検出部12Bは、物標エコー像222における、最前縁点PN2の座標と、中心点PC2の座標とを、特定する(ステップS3042)。
次に、エコー検出部12Bは、第1時刻n1にける、最前縁点PN1及び中心点PC1を結んだ線分としての第1線分LS1を特定する(ステップS3043)。次に、エコー検出部12Bは、第2時刻n2における、最前縁点PN2及び中心点PC2を結んだ線分としての第2線分LS2を特定する(ステップS3044)。
次に、エコー検出部12Bは、第1線分LS1と、第2線分LS2との交点LCの座標を検出する(ステップS3045)。具体的には、エコー検出部12Bは、第1線分LS1における座標と、第2線分LS2における座標とが一致している点を、交点LCとして特定する。
エコー検出部12Bは、上記ステップS303及びS304の処理を行うことにより、すれ違い判別用点としての最前縁点PN1,PN2及び中心点PC1,PC2のそれぞれの座標を検出する。また、エコー検出部12は、上記ステップS303及びS304の処理を行うことにより、候補点としての最前縁点PN2、及び交点LCのそれぞれの座標を検出する。エコー検出部12Bは、これら最前縁点PN1,PN2、中心点PC1,PC2、及び交点LCのそれぞれの座標データを、追尾処理部13Bへ出力する。
追尾処理部13Bは、最前縁点PN2の速度ベクトルを算出し、且つ、交点LCの速度ベクトルを算出する(ステップS305)。具体的には、追尾処理部13Bは、エコー選別処理と、関連付け処理と、追尾フィルタ処理と、を行う。まず、追尾処理部13Bは、1つ又は複数の物標の中から、追尾対象としての物標エコー像22を特定する。次いで、追尾処理部13Bは、物標エコー像22の最前縁点PN2の速度ベクトルと、交点LCの速度ベクトルとを算出する。
次いで、すれ違い判別部16Bは、最前縁点PN1,PN2の座標データと、中心点PC1,PC2の座標データとを、追尾処理部13B及びメモリから読み出す(ステップS306)。また、代表点情報選択部17Bは、最前縁点PN2の速度ベクトルデータと、交点LCの速度ベクトルデータとを、追尾処理部13B及びメモリから読み出す(ステップS306)。
次に、すれ違い判別部16Bは、すれ違い判別を行う(ステップS307)。具体的には、すれ違い判別部16Bは、上記式(3)、即ち、ΔPN・ΔPC/|ΔPN||ΔPC|を演算する。
ΔPN・ΔPC/|ΔPN||ΔPC|<0である場合(ステップS307でYES)、すれ違い判別部16Bは、自船23と物標21とがすれ違い状態にあると判別する。この場合、すれ違い判別部16Bは、すれ違い判別フラグを「1」に設定する(ステップS308)。次いで、すれ違い判別部16Bは、すれ違い判別フラグデータを、代表点情報選択部17へ出力する。
代表点情報選択部17Bは、すれ違い判別フラグが「1」である場合、物標エコー像22の交点LCを代表点として設定する。代表点情報選択部17は、交点LCの速度ベクトルデータを、表示ベクトル処理部18Bへ出力する(ステップS309)。
次に、表示ベクトル処理部18Bは、表示ベクトル処理を行う(ステップS310)。具体的には、表示ベクトル処理部18Bは、下記式
V(n2)=α0×V1(n2)+(1−α0)×V(n1)
を用いて、推定速度ベクトルを算出する。表示ベクトル処理部18Bは、生成した推定速度ベクトルデータを、表示器4へ出力する(ステップS311)。
一方、ステップS307において、ΔPN・ΔPC/|ΔPN||ΔPC|≧0である場合(ステップS307でNO)、すれ違い判別部16Bは、自船23と物標21とがすれ違い状態となってはいないと判別する。この場合、すれ違い判別部16Bは、すれ違い判別フラグを「0」に設定する(ステップS312)。そして、すれ違い判別部16Bは、すれ違い判別フラグデータを、代表点情報選択部17Bへ出力する。
代表点情報選択部17Bは、すれ違い判別フラグが「0」である場合、物標エコー像222の最前縁点PN2を、代表点として設定する。代表点情報選択部17Bは、最前縁点PN2の速度ベクトルデータを、表示ベクトル処理部18Bへ出力する(ステップS313)。
次いで、表示ベクトル処理部18Bは、最前縁点PN2が、最新の(第2時刻n2の)代表点であるとして、表示ベクトル処理を施す(ステップS314)。より具体的には、表示ベクトル処理部18は、下記式
V(n2)=α×V1(n2)+(1−α)×V(n1)
を用いて、推定速度ベクトルを算出する。表示ベクトル処理部18Bは、生成した推定速度ベクトルデータを、表示器4へ出力する(ステップS311)。
以上説明したように、エコー信号処理装置3Bによると、すれ違い判別部16Bは、第1ベクトルΔPNと、第2ベクトルΔPCと、について、始点を一致させた状態でなす角度θを算出する。また、すれ違い判別部16Bは、角度θが180度である場合、又は、角度θが劣角において90度より大きい場合に、すれ違い状態が発生していると判別する。第1ベクトルΔPNと第2ベクトルΔPCとのなす角度θが、180度又は劣角において90度より大きい場合、自船23から見て、物標21は、前進も後進もすることなく、旋回しているように見える。換言すれば、自船23は前進しているけれども、物標21は静止している状態において、物標21が、見かけ上の運動をしていることとなる。このような場合には、自船23と物標21とのすれ違いに起因して、速度ベクトルの誤差が生じやすい。この場合、すれ違い判別部16Bは、すれ違い状態が生じていると判別する。その結果、上記の見かけ上の運動を考慮した上で、速度ベクトルの誤差を抑制する態様で、推定速度ベクトルを算出することができる。これにより、上記の見かけ上の運動の影響を受けずに、推定速度ベクトルを正確に算出することができる。
また、エコー信号処理装置3Bによると、第1線分LS1と、第2線分LS2との交点LCを、代表点の候補点として設定している。即ち、自船23と物標21とが相対移動している状態において、物標エコー像22のうち、自船23との相対移動の前後で位置変化がより小さい点を、代表点(第2の候補点)として用いることができる。したがって、物標21が静止した状態で推定速度ベクトルを算出する際に、物標21が移動しているという、誤った算出結果がでてくることを抑制できる。その結果、すれ違い状態においても、物標21の推定速度ベクトルを、より正確に算出することができる。
また、エコー信号処理装置3Bによると、第1線分LS1、及び第2線分LS2は、それぞれ、物標エコー像22の中心点PCと、最前縁点PNと、を結んだ線分である。このような構成とすることにより、ノイズ等に起因する、物標エコー像22のぼやけの影響を比較的受け難い最前縁点PN、及び中心点PCを基に、交点LCを設定することができる。
以上、本発明の実施形態について説明したけれども、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能である。例えば、次のように変更して実施してもよい。
(1)第1実施形態では、物標エコー像22における最前縁点PNの速度ベクトルと、中心点PCの速度ベクトルとの速度差ΔVが、しきい値Thを超えている場合に、すれ違い状態が発生していると判別する形態を例に説明した。しかしながら、このような形態でなくてもよい。例えば、第1実施形態において、速度差ΔVに代えて、所定時間内における平均速度差ΔVaveを用いてもよい。この場合、平均速度差ΔVaveが所定のしきい値Thを超えている場合に、すれ違い状態が発生していると判別することができる。以下、具体的に説明する。
次に、変形例に係る信号処理装置における推定速度ベクトル算出の流れを説明する。図15は、本発明に係るエコー信号処理装置3の変形例における、推定速度ベクトル算出の流れを説明するためのフローチャートである。エコー信号処理装置3の変形例は、以下に示すフローチャートのステップ(S401〜S415)を、図示しないメモリから読み出して実行する。
尚、本変形例では、すれ違い判別部16は、スキャン毎に算出した速度差ΔVを記憶するように構成されている。
推定速度ベクトル算出の流れについて、図15に加えて、適宜、図1及び図8を参照しつつ説明する。この処理では、ステップS401〜S405の処理は、第1実施形態のステップS101〜S105の処理と同様である。したがって、詳細な説明は省略する。ステップS405では、すれ違い判別部16は、最前縁点PNの速度と、中心点PCの速度との速度差ΔVを算出する。
次に、すれ違い判別部16は、直近のn(nは、自然数)ステップのそれぞれにおける、過去の速度差ΔVpを、メモリから読み出す。そして、すれ違い判別部16は、最新の時刻(n+1ステップ目)に算出した速度差ΔVと、nステップのそれぞれの速度差ΔVpとを加算する。これにより、今回のステップ及び直近のnステップに対応する所定時間内における、各速度差ΔV,ΔVpの積算値ΣΔVが、すれ違い判別部16によって算出される(ステップS406)。
次に、すれ違い判別部16は、n+1ステップ分の時間における、速度差ΔVの平均値ΔVaveを算出する(ステップS407)。具体的には、すれ違い判別部16は、ΔVave=ΣΔV/(n+1)を算出する。
次に、すれ違い判別部16は、ΔVaveが所定のしきい値Thより大きいか否かを、判別する(ステップS408)。
ΔVave>Thである場合(ステップS408でYES)すれ違い判別部16は、自船23と物標21とがすれ違い状態にあると判別する。この場合、ステップS409〜S412の処理が行われる。尚、ステップS409〜S412の処理は、第1実施形態におけるステップS107〜S110(図8参照)の処理と同様であるので、詳細な説明は省略する。
一方、ステップS408において、ΔVave≦Thである場合(ステップS408でNO)すれ違い判別部16は、自船23と物標21とがすれ違い状態となってはいないと判別する。この場合、ステップS413〜S415の処理が行われる。尚、ステップS413〜S415の処理は、第1実施形態におけるステップS111〜S113の処理と同様であるので、詳細な説明は省略する。
この変形例によると、すれ違い判別部16は、速度差ΔVについて、所定期間(n+1ステップ分の期間)における平均値ΔVaveを参照する。そして、すれ違い判別部16は、平均値ΔVaveが所定のしきい値Th以上である場合に、すれ違い状態が発生していると判別する。この構成によると、例えば、すれ違い状態が一瞬だけ生じた場合に、代表点情報選択部17が選択する情報が、一瞬だけ変更されることを抑制できる。その結果、推定速度ベクトルの算出に用いる情報が不安定な変動を生じることを抑制できる。したがって、推定速度ベクトルが不安定に変動することを抑制できる。
(2)上述の各実施形態、及び変形例では、判別用点として、物標エコー像における2つの点を設定する形態を例にとって説明したけれども、この通りでなくてもよい。例えば、判別用点として、物標エコー像における3つ以上の点を設定してもよい。
(3)また、上述の各実施形態、及び変形例では、代表点として、物標エコー像における2つの点を設定する形態を例にとって説明したけれども、この通りでなくてもよい。例えば、代表点として、物標エコー像における3つ以上の点を設定してもよい。
(4)また、第1実施形態、第2実施形態、及び変形例では、自船と物標との相対速度差について、一定のしきい値を基に判別を行う形態を例に説明したけれども、この通りでなくてもよい。例えば、自船と物標との相対距離、相対速度、及び物標の大きさ等に基づいて、しきい値を変更してもよい。また、上記しきい値について、幾何学モデルを用いて理論値を算出し、当該理論値をテーブル化した状態でメモリに格納してもよい。
(5)また、各上記実施形態、及び変形例では、物標エコー像において、すれ違い判別に用いる点と、代表点の候補点とが、何れも、最前縁点である形態を例にとって説明したけれども、この通りでなくてもよい。また、第1実施形態、第2実施形態、及び変形例では、物標エコー像において、すれ違い判別に用いる点と、代表点の候補点とが、何れも、中心点である形態を例にとって説明したけれども、この通りでなくてもよい。
(6)また、各上記実施形態、及び変形例では、すれ違い判別部の判別結果に応じて、推定速度ベクトルの算出に用いる情報を変更する形態を例にとって説明した。この形態に加えて、自船が物標を追い越す状態、または、物標が自船を追い越す状態が発生したか否かを判別する、追い越し判別部を設けてもよい。この場合、追い越し判別部の判別結果に応じて、推定速度ベクトルの算出に用いる情報が変更される。この場合の情報の変更の態様は、すれ違い判別部による判別結果に応じて、推定速度ベクトルの算出に用いる情報を変更する場合の態様と同様でよい。