以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しつつ説明する。本発明は、追尾処理装置として広く適用することができる。尚、以下では、図中同一または相当部分には、同一符号を付してその説明は繰り返さない。
図1は、本発明の実施形態に係る追尾処理装置3を含む、レーダ装置1のブロック図である。本実施形態のレーダ装置1は、漁船等の船舶に備えられる舶用レーダである。以下では、レーダ装置1が備えられている船舶を「自船」という。レーダ装置1は、主に他船等の物標の探知に用いられる。レーダ装置1は、1つ又は複数の物標のなかから、追尾対象として選択された物標を追尾物標として特定し、次いで、当該追尾物標の推定速度ベクトルを算出するように構成されている。推定速度ベクトルとは、追尾物標について推定される進行方向及び進行速度を示すベクトルである。追尾物標の針路、及び航行速度を示すベクトルである。また、レーダ装置1は、推定速度ベクトルを基に、表示用のベクトルを算出するように構成されている。本実施形態では、表示用のベクトルについては、表示用推定ベクトルともいう。レーダ装置1は、当該表示用推定速度ベクトルを、追尾物標の運動推定結果として、画面に表示するように構成されている。
図1に示すように、レーダ装置1は、アンテナユニット(受信装置)2と、追尾処理装置3と、表示器4と、を備えている。
アンテナユニット2は、アンテナ5と、受信部6と、A/D変換部7と、を含んでいる。
アンテナ5は、指向性の強いパルス状電波を送信(放射)可能なレーダアンテナである。また、アンテナ5は、物標からのエコー信号(反射波)を受信するように構成されている。即ち、アンテナ5は、物標を特定するエコー信号を受信するように構成されている。レーダ装置1は、パルス状電波を送信してからエコー信号を受信するまでの時間を測定する。これにより、レーダ装置1は、物標までの距離rを検出することができる。アンテナ5は、水平面上で360°回転可能に構成されている。アンテナ5は、パルス状電波の送信方向を変えながら(アンテナ角度を変えながら)、電波の送受信を繰り返し行うように構成されている。以上の構成で、レーダ装置1は、自船周囲の平面上の物標を、360°にわたり探知することができる。
なお、以下の説明では、パルス状電波を送信してから次のパルス状電波を送信するまでの動作を「スイープ」という。また、電波の送受信を行いながらアンテナを360°回転させる動作を「スキャン」と呼ぶ。また、1スキャン毎に、後述するフローチャートにおける各ステップが行われることとなる。
以下では、あるスキャンのことを、「nスキャン」といい、nスキャンから1個前のスキャンのことを、「n−1スキャン」という。同様に、nスキャンからm個前のスキャンのことを、「n−mスキャン」という。尚、n、mは、何れも自然数である。本実施形態では、(n−1)スキャン時点は、本発明の「第1時点」の一例であり、nスキャン時点は、本発明の「第1時点よりも後の時点」の一例である。
受信部6は、アンテナ5で受信したエコー信号を検波して増幅する。エコー信号は、アンテナ5で受信された信号のうち、アンテナ5からの送信信号に対する、物標での反射波である。受信部6は、増幅したエコー信号を、A/D変換部7へ出力する。A/D変換部7は、アナログ形式のエコー信号をサンプリングし、複数ビットからなるデジタルデータ(エコーデータ)に変換する。ここで、上記エコーデータの値は、アンテナ5が受信したエコー信号の強度(信号レベル)を特定するデータを含んでいる。A/D変換部7は、エコーデータを、追尾処理装置3の信号処理部11へ出力する。
追尾処理装置3は、追尾物標の推定速度ベクトルV1(n)を算出するように構成されている。また、追尾処理装置3は、上記推定速度ベクトルV1(n)に基づく、表示用推定速度ベクトルV2(n)を算出するように構成されている。追尾処理装置3は、CPU、RAM及びROM(図示せず)等を含むハードウェアを用いて構成されている。また、追尾処理装置3は、ROMに記憶された追尾処理プログラムを含むソフトウェアを用いて構成されている。
上記追尾処理プログラムは、本発明に係る追尾処理方法を、追尾処理装置3に実行させるためのプログラムである。上記ハードウェアとソフトウェアとは、協働して動作するように構成されている。これにより、追尾処理装置3を、後述する信号処理部11、エコー検出部12、追尾処理部13、及び表示用ベクトルデータ生成部14等として機能させることができる。
追尾処理装置3は、信号処理部11と、エコー検出部12と、追尾処理部13と、表示用ベクトルデータ生成部14と、を含んでいる。
信号処理部11は、フィルタ処理等を施すことにより、エコーデータに含まれる干渉成分と、不要な波形データと、を除去する。信号処理部11は、処理したエコーデータを、エコー検出部12へ出力する。
エコー検出部12は、物標エコー像の検出と、物標エコー像における追尾代表点の座標の検出と、を行うように構成されている。具体的には、エコー検出部12は、1スイープの間にサンプリングされたエコーデータを、先頭アドレスから順に受信するように構成されている。従って、エコー検出部12は、信号処理部11からエコーデータを読み出すときの読出しアドレスに基づいて、当該エコーデータに対応する位置までの距離rを求めることができる。また、アンテナ5からは、当該アンテナ5が現在どの方向を向いているか(アンテナ角度)を示すデータが出力されている(図示は省略)。以上の構成で、エコー検出部12は、エコーデータを読み出す際には、当該エコーデータに対応する位置を、距離rとアンテナ角度θとの極座標で取得することができる。
また、エコー検出部12は、エコーデータに対応する位置にエコー源が存在するか否かを検出するように構成されている。エコー検出部12は、例えば、エコーデータに対応する位置の信号レベル、即ち、信号強度を判別する。エコー検出部12は、信号レベルが所定のしきいレベル値以上である位置には、物標が存在していると判別する。エコー検出部12は、1スキャン時間毎に、上記の判別処理を行う。
次いで、エコー検出部12は、物標が存在している位置の範囲を検出する。エコー検出部12は、例えば、物標が存在している一まとまりの領域(複数の位置)を、物標のエコー像が存在している領域として検出する。このようにして、エコー検出部12は、エコー信号を基に、物標エコー像を検出する。この物標エコー像の外郭形状は、物標の外郭形状と略合致する。但し、エコーデータに含まれるノイズ等に起因して、この物標エコー像の外郭形状と、物標の外郭形状とは、わずかに異なる。次に、エコー検出部12は、エコーデータを用いて、物標エコー像の追尾代表点Pを検出する。追尾代表点Pは、物標エコー像のうち、追尾処理の際に用いられる代表点である。
図2は、自船100と、物標エコー像120との関係を説明するための模式的な平面図である。図2では、物標エコー像120は、矩形の像として例示されている。図1及び図2に示すように、極座標系では、自船100の位置としての自船位置M1を基準として、自船位置M1からの直線距離が、距離rとして示され、自船位置M1周りの角度が、アンテナ角度θとして示される。エコー検出部12は、物標エコー像120の追尾代表点Pの抽出に際しては、自船位置M1を中心とする、リング状部分の一部形状の像110を用いる。この像110は、第1直線111、第2直線112、第1円弧113、及び第2円弧114によって囲まれた領域の像である。
第1直線111は、物標エコー像120の後縁120aのうち自船位置M1に最も近い点と、自船位置M1とを通る直線である。第2直線112は、物標エコー像120の前縁120bのうち自船位置M1に最も近い点と、自船位置M1とを通る直線である。第1円弧113は、物標エコー像120のうち自船位置M1から最も近い部分120cを通る円弧であり、当該円の曲率中心点は、自船位置M1である。第2円弧114は、物標エコー像120のうち自船位置M1から最も遠い部分120dを通る円弧であり、第1円弧113と同心である。第1円弧113及び第2円弧114は、それぞれ、第1直線111と第2直線112との間に延びている。
エコー検出部12は、像110の中心点を、物標エコー像120の追尾代表点Pとして検出するように構成されている。この場合、追尾代表点Pは、アンテナ角度θ方向において、第1直線111と第2直線112との間の中央に位置しており、且つ、距離方向において、第1円弧113と第2円弧114との間の中央に位置している。
尚、複数の物標が検出されている場合、エコー検出部12は、各物標について、上記の処理を行う。これにより、物標エコー像120が、複数検出される。エコー検出部10で検出された複数の物標エコー像120の一例を、図3に示している。図3は、エコー検出部12で検出された、物標エコー像120を示す模式的な平面図であり、各物標エコー像120を上方から見た状態を示している。図3では、X−Y座標系を示している。図3では、座標のX軸方向は、東西方向を示しており、Y軸方向は、南北方向を示している。
図3では、一例として、nスキャン時点における4つの物標エコー像120(121,122,123,124)を示している。物標エコー像121,122,123は、例えば、小型船舶である。物標エコー像124は、例えば、大型船舶である。エコー検出部12は、例えば、追尾代表点Pとして、物標エコー像121の追尾代表点P1d(n)と、物標エコー像122の追尾代表点P2d(n)と、物標エコー像123の追尾代表点P3d(n)と、物標エコー像124の追尾代表点P4d(n)と、を観測する。以下では、物標エコー像121によって特定される物標が、追尾対象200である場合を例に説明する。また、物標エコー像121,122,123,124を総称して説明する場合に、「物標エコー像120」ということがある。物標エコー像121の追尾代表点P1は、追尾物標200の追尾代表点でもある。
図1及び図3に示すように、エコー検出部12は、各物標エコー像120のそれぞれについて、追尾代表点Pの座標データを、追尾処理部13へ出力する。追尾処理部13は、追尾物標200の追尾代表点P1の推定速度ベクトルV1(n)を算出するように構成されている。
追尾処理部13は、捕捉処理部15と、運動推定部16と、を有している。
捕捉処理部15は、追尾物標200の追尾代表点P1(n)の観測位置P1d(n)を補足するように構成されている。捕捉処理部15は、エコー検出部12等を介してアンテナユニット2に接続されている。捕捉処理部15は、選別部17と、関連付け部18と、を有している。
選別部17は、エコー選別処理を行うように構成されている。具体的には、選別部17は、nスキャン時点(最新のスキャン時点)において、追尾代表点P1d(n)が存在すると推定される領域を特定する。
選別部17は、追尾物標200について、(n−1)スキャン時点において運動推定部16で算出された推定速度ベクトルV1(n−1)のデータと、推定位置P1e(n−1)のデータとを、参照する。これにより、選別部17は、nスキャン時点において、追尾代表点Pが存在していると推定される推定位置P1e(n−1)の座標データを取得する。選別部17は、当該推定位置P1e(n−1)を中心とする、選別領域S1(n)を設定する。この選別領域S1(n)は、例えば、上記推定位置P1e(n−1)を中心とする、円状の領域である。通常、物標は複数存在する。したがって、上記選別領域S1(n)には、複数のエコー像が存在している可能性がある。本実施形態では、選別領域S1(n)には、追尾代表点P1d(n),P2d(n)が存在している。この場合でも、追尾処理部13は、追尾処理を継続する必要がある。そこで、関連付け部18は、関連付け処理を行うように構成されている。
関連付け部18は、上記選別領域S1(n)内に存在する1つ又は複数の物標エコー像の追尾代表点Pのなかから、追尾物標200の観測位置P1d(n)を特定する。具体的には、関連付け部18は、(n−1)スキャン時点において運動推定部16で算出された、追尾代表点P1の推定位置P1e(n−1)の座標を参照する。この推定位置P1e(n−1)は、(n−1)スキャン時点において運動推定部16で算出されている。この推定位置P1e(n−1)は、(n−1)スキャン時点において、追尾代表点P1が存在すると推定された位置である。関連付け部18は、上記推定位置P1e(n−1)の座標に最も近い座標に存在する点を、追尾代表点P1の観測位置P1d(n)であると判定する。関連付け部18は、当該観測位置P1d(n)の座標を特定するデータを、運動推定部16へ出力する。
運動推定部16は、追尾フィルタ処理(第1フィルタ処理)を行うように構成されている。この追尾フィルタ処理に用いられる追尾フィルタとして、α−βフィルタ、カルマン・フィルタ等を例示することができる。追尾フィルタ処理について説明すると、運動推定部16は、関連付け部18において特定された観測位置P1d(n)の座標と、(n−1)スキャン時点における追尾フィルタ処理の結果と、を参照する。これにより、運動推定部16は、追尾代表点P1について、平滑位置P1s(n)と、推定位置P1e(n)と、推定速度ベクトルV1(平滑速度ベクトル)(n)と、を算出する。
平滑位置P1s(n)は、nスキャン時点における追尾フィルタ処理の基準位置として用いられる。また、推定位置P1e(n)は、(n+1)スキャン時点において、追尾物標200の追尾代表点P1が到達していると推定される位置を示す。また、推定速度ベクトルV1(n)は、nスキャン時点における追尾代表点P1の速度ベクトルを推定したベクトルを示す。
図4は、追尾処理部13での処理に関して説明するための模式図である。図4では、X−Y座標系を示している。図4では、座標のX軸方向は、東西方向を示しており、Y軸方向は、南北方向を示している。また、図4では、追尾物標200の追尾代表点P1の平滑位置の航跡RT1を示している。
図1及び図4を参照しながら説明すると、運動推定部16は、平滑位置P1s(n)、推定位置P1e(n)、及び推定速度ベクトルV1(n)の算出に際して、所定の第1フィルタ係数C1を用いる。この第1フィルタ係数C1は、(n−1)スキャン時点で算出された推定位置P1e(n−1)のデータに、nスキャン時点で観測された観測位置P1d(n)のデータを関連付ける度合いを決定する値である。この第1フィルタ係数C1は、nスキャン時点での平滑位置P1s(n)を決定するための値でもある。第1フィルタ係数C1は、運動推定部16での追尾フィルタ処理において、追尾物標200の変針運動を迅速に反映させる度合いを決定する係数でもある。尚、この場合の変針とは、追尾物標200の船首方位を変化させることをいう。当該旋回運動の一例として、右旋回運動と、左旋回運動とを挙げることができる。本実施形態では、第1フィルタ係数C1は、複数種類用意されており、追尾処理装置3のメモリ(図示せず)に格納されている。
運動推定部16の処理について、より具体的に説明すると、運動推定部16は、(n−1)スキャン時点において、追尾代表点P1の平滑位置P1s(n−1)、推定位置P1e(n−1)、及び推定速度ベクトルV1(n−1)を算出する。次いで、運動推定部16は、nスキャン時点において、平滑位置P1s(n)を算出する。この平滑位置P1s(n)の座標は、上記推定位置P1e(n−1)と、追尾代表点P1の観測位置P1d(n)と、を結ぶ線分LS1上に位置する。第1フィルタ係数C1がゼロの場合、平滑位置P1s(n)は、推定位置P1e(n−1)と一致する。また、第1フィルタ係数C1が小さいほど、平滑位置P1s(n)は、推定位置P1e(n−1)の近くに設定される。また、第1フィルタ係数C1が大きいほど、平滑位置P1s(n)は、観測位置P1d(n)に近く設定される。第1フィルタ係数C1が1の場合、平滑位置P1s(n)は、観測位置P1d(n)と一致する。尚、本実施形態では、0<C1<1に設定される。第1フィルタ係数C1は、X軸方向の座標、Y軸方向の座標、X軸方向の速度、及びY軸方向の速度のそれぞれに対応する係数ベクトルとして表される。
上記の構成によると、第1フィルタ係数C1が小さいほど、平滑位置P1s(n)は、推定位置P1e(n−1)に近くなる。このため、運動推定部16での算出結果は、平滑化された度合いが大きくなり、追尾物標200の観測誤差に起因するばらつき量が小さくなる。但し、追尾物標200の追尾代表点P1の変針運動を運動推定部16の演算結果に反映させる際の応答は、第1フィルタ係数C1が小さいほど、遅くなる。
一方、第1フィルタ係数C1が大きいほど、平滑位置P1s(n)は、観測位置P1d(n)に近くなる。このため、運動推定部16は、追尾物標200の追尾代表点P1の変針運動を、追尾フィルタ処理において、応答性よく反映できる。このため、追尾処理部13は、変針運動を伴う追尾物標200への追従性を高めることができ、結果として、追尾物標200と、他の物標とを間違えて検出することを抑制できる。よって、追尾処理部13は、追尾物標200を、確実に捕捉し続けることができる。但し、第1フィルタ係数C1が大きいほど、推定速度ベクトルV1(n)について、スキャン時点毎の変動量が大きくなってしまう。本実施形態では、運動推定部16は、上記の応答性を重視し、第1フィルタ係数C1を、比較的大きな値に設定する。但し、運動推定部16は、この第1フィルタ係数C1を変更可能に構成されている。第1フィルタ係数C1の設定の詳細は、後述する。
運動推定部16は、追尾フィルタ処理の結果を特定するデータを、選別部17へ出力する。選別部17では、当該データは、(n+1)スキャン時点における選別処理に用いられる。また、運動推定部16は、推定速度ベクトルV1(n)を特定するデータを、表示用ベクトルデータ生成部14へ出力する。
表示用ベクトルデータ生成部14は、表示器4に表示するためのデータ(情報)を生成するように構成されている。より具体的には、表示用ベクトルデータ生成部14は、追尾物標200に関する表示用推定速度ベクトルV2(n)を算出する。表示用ベクトルデータ生成部14は、算出した表示用推定速度ベクトルV2(n)を特定するデータ(推定速度ベクトルデータ)を、表示器4へ出力する。尚、表示用推定速度ベクトルV2(n)とは、表示器4に表示するベクトルのことをいう。表示用推定速度ベクトルV2(n)は、追尾処理部13での追尾フィルタ処理には用いられない。
表示用ベクトルデータ生成部14は、マニューバ検出部19と、速度ベクトル平滑部(表示用処理部)20と、を有している。
図5は、マニューバ検出部19における処理を説明するための、模式図である。図5では、X−Y座標系を示している。図5では、座標のX軸方向は、東西方向を示しており、Y軸方向は、南北方向を示している。
図1及び図5に示すように、マニューバ検出部19は、追尾物標200の変針の有無を検出するように構成されている。マニューバ検出部19は、運動推定部16に接続されている。マニューバ検出部19は、追尾代表点P1の平滑位置P1s(n−1)のデータと、推定速度ベクトルV1(n−1)のデータとを、運動推定部16から読み出す。次いで、マニューバ検出部19は、nスキャン時点における、追尾代表点Pの観測位置P1d(n)のデータを、運動推定部16から読み出す。
次いで、マニューバ検出部19は、推定速度ベクトルV1(n−1)に対する、観測位置P1d(n)の関係を判定する。推定速度ベクトルV1(n−1)に対して、観測位置P1d(n)が右側に位置している場合、マニューバ検出部19は、追尾代表点P1が右向きに変針していると判定する。図5では、追尾代表点P1が、右向きに変針している状態を示している。一方、推定速度ベクトルV1(n−1)に対して、観測位置P1d(n)が左側に位置している場合、マニューバ検出部19は、追尾代表点P1が左向きに変針していると判定する。
運動推定部16で算出された推定速度ベクトルV1(n−1)には、追尾物標200の実際の運動に対する応答遅れが生じる。このため、推定速度ベクトルV1(n−1)に対する観測位置P1d(n)の位置を判定することにより、追尾物標200の変針方向を判定することができる。尚、上記の変針方向の判定は、外積計算を用いることで、実現できる。追尾代表点Pの変針判定の詳細は、後述する。
また、マニューバ検出部19は、追尾代表点P1の運動状態に応じて、変針確度Acc(n)を設定するように構成されている。変針確度Acc(n)とは、追尾代表点Pが変針運動を行っている確度を特定するための変数である。変針確度Acc(n)の設定の詳細は、後述する。マニューバ検出部19は、変針確度Acc(n)を特定するデータを、速度ベクトル平滑処理部20へ出力する。
速度ベクトル平滑処理部20は、推定速度ベクトルV1(n)を特定するデータに、速度ベクトル平滑処理(第2フィルタ処理)を施す。これにより、速度ベクトル平滑処理部20は、表示器4での表示に用いられる表示用推定速度ベクトルV2(n)を算出する。表示用推定速度ベクトルV2(n)は、表示器4に表示するためのベクトルである。
速度ベクトル平滑処理部20における速度ベクトル平滑処理とは、(n−1)スキャン時点において算出された表示用推定速度ベクトルV2(n−1)と、nスキャン時点において算出された推定速度ベクトルV1(n)とを、第2フィルタ係数C2を用いて重み付けする処理である。本実施形態では、第2フィルタ係数C2は、表示用推定速度ベクトルV2(n−1)のデータに、推定速度ベクトルV1(n)のデータを関連付ける度合いを決定する値である。
第2フィルタ係数C2は、第1フィルタ係数C1とは独立して設定されるように構成されている。速度ベクトル平滑処理部20は、変針確度Acc(n)に基づいて、第2フィルタ係数C2を設定するように構成されている。即ち、速度ベクトル平滑処理部20は、追尾物標200の変針の有無に応じて、第2フィルタ係数C2を変更可能に構成されている。第2フィルタ係数C2の設定の処理の流れの詳細は、後述する。
速度ベクトル平滑処理部20が上記の速度ベクトル平滑処理を行う結果、nスキャン時点における表示用推定速度ベクトルV2(n)は、経時変化に伴う過度の変動を抑制される。
具体的には、速度ベクトル平滑処理部20は、デジタルフィルタ処理を行う。デジタルフィルタとしての、低域通過側のフィルタの一実現方法として、巡回式デジタルフィルタ処理が挙げられる。当該フィルタ処理の一例を説明すると、速度ベクトル平滑処理部20は、まず、推定速度ベクトルV1(n)と、第2フィルタ係数C2とを乗じる(第1乗算)。また、速度ベクトル平滑処理部20は、表示用推定速度ベクトルV2(n−1)と、第2フィルタ係数C2に関連する係数(1−C2)とを、乗じる(第2乗算)。次いで、速度ベクトル平滑処理部20は、第1乗算の結果と、第2乗算の結果とを加算する(第3演算)。この加算結果が、nスキャン時点における、表示用推定速度ベクトルV2(n)である。
尚、第2フィルタ係数C2の範囲は、0<C2<1であり、フィルタ係数C2,(1−C2)の総和は1である。本実施形態では、第2フィルタ係数C2の下限値C2min=0.01に設定される。また、本実施形態では、第2フィルタ係数C2の上限値C2max=0.95に設定される。
速度ベクトル平滑処理部20で上記の処理が行われる結果、第2フィルタ係数C2が小さいほど、表示用推定速度ベクトルV2(n)は、nスキャン時点で算出された推定速度ベクトルV1(n)の影響を受け難い。このため、表示用推定速度ベクトルV2(n)は、平滑化された度合いが大きくなり、経時変化に伴う変動が小さくされる。一方で、追尾物標200の追尾代表点P1の変針運動を表示用推定速度ベクトルV2(n)に反映させる際の応答性は、第2フィルタ係数C2が小さいほど、低下する。
一方、第2フィルタ係数C2が大きいほど、表示用推定速度ベクトルV2(n)は、推定速度ベクトルV1(n)の変針運動について、より多く考慮された値となる。このため、表示用推定速度ベクトルV2(n)は、追尾物標200の運動状態を、より正確に表す値となる。しかしながら、この場合、表示器4に表示される表示用推定速度ベクトルV2(n)について、スキャン時点毎の変動量が大きくされる。本実施形態では、前述したように、速度ベクトル平滑処理部20は、マニューバ検出部19で判定された変針確度Acc(n)に応じて、第2フィルタ係数C2を変更可能に構成されている。
具体的には、本実施形態では、マニューバ検出部19によって、追尾物標200の直進運動が検出された場合、速度ベクトル平滑処理部20は、第2フィルタ係数C2を、ゼロに近い比較的小さな値C2min(直進時第2フィルタ係数)に設定する。一方、マニューバ検出部19によって、追尾物標200の変針運動が検出された場合、速度ベクトル平滑処理部20は、第2フィルタ係数C2を、C2minよりも大きい値に設定する。速度ベクトル平滑処理部20における、より詳細な処理は、後述する。
速度ベクトル平滑処理部20は、算出した表示用推定速度ベクトルV2(n)のデータを、表示器4へ出力する。
表示器4は、例えばカラー表示可能な液晶ディスプレイである。表示器4は、推定速度ベクトルデータ生成部14からのデータを読込み、当該データによって特定される画像を表示するように構成されている。これにより、液晶ディスプレイ等の表示器4には、物標の表示用推定速度ベクトルV2(n)を示す画像が表示される。レーダ装置1のオペレータは、表示器4に表示されたレーダ映像を確認することにより、追尾物標200の進行方向及び進行速度を確認することができる。
次に、追尾処理装置3における処理の流れの一例を説明する。具体的には、(1)運動推定部16での処理の流れの一例と、(2)マニューバ検出部19での処理の流れの一例と、(3)速度ベクトル平滑処理部20での処理の流れの一例とを、順に説明する。尚、これら(1),(2),(3)の処理は、各スキャン時点において行われ、且つ、複数のスキャン時点において、繰り返し行われる。
まず、(1)運動推定部16での処理の流れの一例を説明する。図6は、運動推定部16での処理の流れの一例を説明するためのフローチャートである。追尾処理装置3は、以下に示すフローチャートの各ステップを図示しないメモリから読み出して実行する。このプログラムは、外部からインストールできる。このインストールされるプログラムは、例えば記録媒体に格納された状態で流通する。
以下では、図6に加えて、適宜、図1〜図5を参照しつつ説明する。まず、運動推定部16は、第1フィルタ係数C1を設定し、その後、当該第1フィルタ係数C1を用いて、追尾フィルタ処理を行う(ステップS101)。第1フィルタ係数C1は、nスキャン時点で算出された予測位置P1e(n)に基づいて、追尾処理装置3のメモリから読み出される。尚、第1フィルタ係数C1は、(n−1)スキャン時点で算出された予測位置P1e(n−1)に基づいて、追尾処理装置3のメモリから読み出されてもよい。また、第1フィルタ係数C1は、一定の値であってもよい。
次に、運動推定部16は、追尾フィルタ処理の結果を特定するデータを、選別部17、及び表示用推定速度ベクトルデータ生成部14へ出力する(ステップS102)。
次に、(2)マニューバ検出部19での処理の流れの一例を説明する。図7は、マニューバ検出部19での処理の流れの一例を説明するためのフローチャートである。まず、マニューバ検出部19は、平滑位置P1s(n−1)を特定する座標データと、推定速度ベクトルV1(n−1)を特定するデータとを、運動推定部16から読み出す(ステップS201)。次に、マニューバ検出部19は、nスキャン時点における、追尾代表点P1の観測位置P1d(n)のデータを、運動推定部16から読み出す(ステップS202)。
次に、マニューバ検出部19は、推定速度ベクトルV1(n−1)と、観測位置P1d(n)との関係に基づいて、追尾物標200の変針の有無を判定する。具体的には、マニューバ検出部19は、外積計算を行う(ステップS203)。この場合、まず、マニューバ検出部19は、ベクトルV3(n)を算出する。ベクトルV3(n)の始点は、平滑位置P1s(n−1)であり、且つ、推定速度ベクトルV1(n−1)の始点である。ベクトルV3(n)の終点は、観測位置P1d(n)である。次に、マニューバ検出部19は、ベクトルV3(n)と、推定速度ベクトルV1(n−1)との外積を算出する。
次いで、マニューバ検出部19は、追尾代表点Pの変針方向を判定する(ステップS204)。具体的には、マニューバ検出部19は、外積の計算結果が正の値であるか、負の値であるかを判定する。例えば、外積の計算結果が正の値である場合(ステップS204でYES)、追尾物標200の観測位置P1d(n)は、推定速度ベクトルV1(n−1)に対して左側に位置していることとなる。この場合、マニューバ検出部19は、変数ε=1に設定する(ステップS205)。
一方、外積の計算結果が負の値である場合(ステップS204でNO)、追尾物標200の観測位置P1d(n)は、図5に示すように、推定速度ベクトルV1(n−1)の右側に位置していることとなる。この場合、マニューバ検出部19は、変数ε=−1に設定する(ステップS206)。
尚、前述したように、観測位置P1d(n)には、誤差が生じる。この誤差等が存在する結果、追尾物標200が変針運動していない場合であっても、観測位置P1d(n)は、推定速度ベクトルV1(n−1)上に存在する可能性が低い。したがって、上記外積の計算結果がゼロの場合は、考慮しなくても実質的に問題はない。但し、上記外積計算の結果がゼロの場合、マニューバ検出部19は、変数εを、1又は−1に設定してもよい。
次に、マニューバ検出部19は、変針方向に変化が生じているか否かを判定する(ステップS207)。具体的には、マニューバ検出部19は、(n−1)スキャン時点におけるステップS205又はステップS206で設定した変数εと、nスキャン時点におけるステップS205又はステップS206で設定した変数εとを、比較する。
連続した2つの上記スキャン時点における変数εが同じである場合(ステップS207でYES)、即ち、変数εの符号に変化が無い場合、マニューバ検出部19は、追尾物標200が変針しており、且つ、変針方向に変化が無いと判定する。この場合、マニューバ検出部19は、変針状態に応じた変針確度Acc(n)を設定する(ステップS208)。尚、変針確度Acc(n)は、追尾代表点P1が変針している確度を特定するための変数である。本実施形態では、マニューバ検出部19は、−1≦Acc(n)≦1の範囲に設定する。
この場合、マニューバ検出部19は、変針方向に変化が無いと判定された回数が多いほど、変針確度Acc(n)の絶対値が大きくなるように、変針確度Acc(n)を設定する。本実施形態では、マニューバ検出部19は、変針確度Acc(n)を、巡回式フィルタによって算出する。この巡回式フィルタは、(n−1)スキャン時点において算出された変針確度Acc(n−1)と、nスキャン時点において設定された変数εとを、所定の係数γを用いて重み付け加算する。係数γは、第1フィルタ係数C1、第2フィルタ係数C2の何れに対しても独立して設定されている。
マニューバ検出部19での巡回式フィルタの処理の一例を説明すると、マニューバ検出部19は、まず、(n−1)スキャン時点で算出された変針確度Acc(n−1)と、係数γとを、乗じる(第1乗算)。また、速度ベクトル平滑処理部20は、nスキャン時点で設定された変数εと、係数γに関連する係数(1−γ)とを乗じる(第2乗算)。次いで、マニューバ検出部19は、第1乗算の演算結果と、第2乗算の演算結果とを加算する(第3演算)。この加算結果が、nスキャン時点における、追尾物標200の変針確度Acc(n)である。
尚、係数γの範囲は(0<γ<1)であり、係数γ,(1−γ)の総和は1である。マニューバ検出部19は、変針確度Acc(n)の算出結果の絶対値が1を超えている場合、当該絶対値を、1に設定する。
次いで、マニューバ検出部19は、変針確度Acc(n)を特定するデータを、速度ベクトル平滑処理部20へ出力する(ステップS209)。
一方、(n−1)スキャン時点において設定された変数εと、nスキャン時点において設定された変数εとが異なっている場合、即ち、εの符号が異なっている場合(ステップS207でNO)、マニューバ検出部19は、nスキャン時点において追尾物標200が直進運動していると判定する。この場合、観測位置P1d(n−1),P1d(n)の観測誤差等に起因して、観測位置P1dが、対応する推定速度ベクトルV1に対して、左右に交互に現れることとなる。
この場合(ステップS207でNO)、マニューバ検出部19は、変針確度Acc(n)を、ゼロに設定する(ステップS210)。次いで、マニューバ検出部19は、変針確度Acc(n)を特定するデータを、速度ベクトル平滑処理部20へ出力する(ステップS209)。
次に、(3)速度ベクトル平滑処理部20での処理の流れの一例を説明する。図8は、速度ベクトル平滑処理部20での処理の流れの一例を説明するためのフローチャートである。まず、速度ベクトル平滑処理部20は、変針確度Acc(n)を特定するデータと、推定速度ベクトルV1(n)を特定するデータとを、マニューバ検出部19から読み出す(ステップS301)。
次に、速度ベクトル平滑処理部20は、変針確度Acc(n)に応じて、第2フィルタ係数C2を設定する(ステップS302)。第2フィルタ係数C2は、変針確度Acc(n)の絶対値が大きいほど、大きくなるように設定される。より具体的には、変針確度Acc(n)≠ゼロである場合には、速度ベクトル平滑処理部20は、第2フィルタ係数C2を、変針確度Acc(n)の絶対値と同じ値に設定する(ステップS302)。但し、変針確度Acc(n)が、第2フィルタ係数C2maxを超えている場合、速度ベクトル平滑処理部20は、第2フィルタ係数C2=C2maxに設定する。一方、変針確度Acc(n)=ゼロである場合、速度ベクトル平滑処理部20は、第2フィルタ係数C2を、第2フィルタ係数C2の最低値C2minに設定する(ステップS302)。
次いで、速度ベクトル平滑処理部20は、速度ベクトル平滑処理を行うことで、表示用推定速度ベクトルV2(n)を算出する(ステップS303)。即ち、速度ベクトル平滑処理部20は、nスキャン時点において設定された第2フィルタ係数C2と、第2フィルタ係数C2に関連する係数(1−C2)と、推定速度ベクトルV1(n)のデータと、表示用推定速度ベクトルV2(n−1)のデータと、を用いて、速度ベクトル平滑処理を施す。これにより、表示用推定速度ベクトルV2(n)が算出される(ステップS303)。
速度ベクトル平滑処理部20は、表示用推定速度ベクトルV2(n)を特定するデータを、表示器4へ出力する(ステップS304)。これにより、表示器4には、追尾物標200の表示用推定速度ベクトルV2(n)が、表示される。
以上説明したように、追尾処理装置3によると、推定速度ベクトルV1(n)の算出に用いられる第1フィルタ係数C1と、表示用推定速度ベクトルV2(n)の算出に用いられる第2フィルタ係数C2とは、互いに独立して設定される。これにより、追尾物標200の運動に対する応答性が高い態様で、推定速度ベクトルV1(n)を、より正確に算出できる。更に、表示器4において、表示用推定速度ベクトルV2(n)が不安定な態様で表示されることを抑制できる。このように、推定速度ベクトルV1(n)の算出に要求される条件と、表示用推定速度ベクトルV2(n)の算出に要求される条件が相反していていても、双方の条件を満たすことができる。
また、追尾処理装置3によると、速度ベクトル平滑処理部20は、運動推定部16で算出された推定速度ベクトルV1(n)を用いて、表示用推定速度ベクトルV2(n)を算出する。このため、計算負荷の高い演算(追尾フィルタ処理)を、表示用ベクトルデータ生成部14で行う必要が無い。よって、追尾処理装置3における計算負荷は、小さくて済む。
以上より、追尾物標200の推定速度ベクトルV1(n)を、より正確に算出することができ、且つ表示用推定速度ベクトルV2(n)を安定した態様で表示させることができ、且つ、計算負荷が小さくて済む、追尾処理装置3を実現できる。
また、追尾処理装置3によると、第1フィルタ係数C1は、推定位置P1e(n−1)を特定するデータに、観測位置P1d(n)を特定するデータを関連付ける度合いを決定する値である。これにより、推定速度ベクトルV1(n)の算出の際に、nスキャン時点での観測結果を反映させる度合いを、第1フィルタ係数C1の設定によって、容易に決定できる。
また、追尾処理装置3によると、速度ベクトル平滑処理部20は、追尾物標200の変針の有無に応じて、第2フィルタ係数C2を変更可能に構成されている。これにより、速度ベクトル平滑処理部20は、追尾物標200の運動状態に応じて、適切な第2フィルタ係数C2を設定することができる。
また、追尾処理装置3によると、第2フィルタ係数C2は、(n−1)スキャン時点で算出された表示用推定速度ベクトルV2(n−1)を特定するデータに、nスキャン時点で算出された推定速度ベクトルV1(n)を特定するデータを関連付ける度合いを決定する値である。このような構成とすることにより、第2フィルタ係数C2が小さくなるに従い、表示用推定速度ベクトルV2(n)は、過去の表示用推定速度ベクトルV2(n−1)の影響を強く受けることとなる。その結果、表示用推定速度ベクトルV2(n)は、推定速度ベクトルV1(n)の影響を受け難い。よって、表示用推定速度ベクトルV2(n)は、不要な変動が抑制された態様で、表示器4に表示される。一方、第2フィルタ係数C2が大きくなるに従い、表示用推定速度ベクトルV2(n)は、nスキャン時点で算出された推定速度ベクトルV1(n)の影響を強く受けることとなる。よって、推定速度ベクトルV1(n)の算出結果を、表示用推定速度ベクトルV2(n)において、より多く反映させることができる。その結果、追尾物標200の運動の変化に対して、表示用推定速度ベクトルV2(n)を、より応答性のよい値にできる。
より具体的には、速度ベクトル平滑処理部20は、追尾物標200の変針が検出されていない場合の第2フィルタ係数C2を、追尾物標200の変針が検出された場合の第2フィルタ係数C2よりも小さく設定する。これにより、追尾物標200が直進運動をしている場合、即ち、表示用推定速度ベクトルV2(n)を変動させる必要がない場合には、表示用推定速度ベクトルV2(n)の不要な変動を抑制できる。一方、追尾物標200が変針運動をしている場合には、推定速度ベクトルV2(n)を、上記の変針運動に合わせて、応答性よく変動させることができる。
また、追尾処理装置3によると、マニューバ検出部19は、推定速度ベクトルV1(n−1)と、観測位置P1d(n)との関係に基づいて、追尾物標200が変針しているか否かを判定する。このような簡易な構成により、追尾物標200の変針の検出における計算負荷を、小さくすることができる。
より具体的には、運動推定部16は、連続する(n−1)スキャン時点及びnスキャン時点のそれぞれにおいて、ベクトルV3と、推定速度ベクトルV1との外積を算出する。そして、マニューバ検出部19は、連続する複数の上記スキャン時点において、外積の算出結果の符号が異なっている場合、追尾物標200は直進していると判定する。このように、外積計算を用いた簡易な判定により、追尾物標200が直進運動していることを判定できる。
また、マニューバ検出部19は、連続する上記複数の時点において、外積の算出結果の符号が同じである場合、追尾物標200は変針していると判定する。このように、外積計算を用いた簡易な判定により、追尾物標200が変針運動していることを判定できる。
また、追尾処理装置3によると、速度ベクトル平滑処理部20は、追尾物標200の変針確度Acc(n)に応じて、第2フィルタ係数C2を設定する。このように、追尾物標200の変針確度Acc(n)に合わせて、表示用推定速度ベクトルV2(n)を算出することができる。
より具体的には、変針確度Acc(n)が大きいほど、nスキャン時点での第2フィルタ係数C2を大きくしている。即ち、追尾物標200について、変針運動の継続時間が長いほど、第2フィルタ係数C2を大きくしている。これにより、追尾物標200の変針運動がより多く考慮された、正確な表示用推定速度ベクトルV2(n)を算出できる。この場合、表示用推定速度ベクトルV2(n)と、推定速度ベクトルV1(n)とは、より近い値となる。一方、変針確度Acc(n)がゼロの場合には、第2フィルタ係数C2は、設定上の最小値C2minに設定される。即ち、追尾物標200が直進運動している場合には、第2フィルタ係数C2を設定上の最小値としている。これにより、追尾物標200の直進運動がより多く考慮された態様で、表示用推定速度ベクトルV2(n)を正確に算出できる。
ここで、例えば、追尾代表点の観測位置と、予測位置との誤差が所定のしきい値以上である場合に、追尾物標が変針運動していると判定する構成が考えられる。しかしながら、このような構成では、アンテナに、ぶれ運動(揺れ)が生じている場合、又は、自船が時化の環境下にある場合等に、上記の誤差が大きくなってしまう。このため、追尾物標の変針を高い精度で検出することが難しい。
これに対し、追尾処理装置3によると、上記の外積計算に基づいて、変針確度Acc(n)を算出している。そして、変針確度Acc(n)に基づいて、第2フィルタ係数C2を設定している。このような構成によると、アンテナ5にぶれが生じている場合、又は、自船100が時化の環境下にある場合等でも、追尾物標200の変針を、高い精度で検出することが可能となる。その結果、悪天候下でも、速度ベクトル平滑処理部20は、表示用推定速度ベクトルV2(n)を、より正確に算出することができる。
また、例えば、前述の特許文献1,2に記載の追尾装置では、第1運動推定手段におけるフィルタ係数と、第2運動推定手段におけるフィルタ係数は、それぞれ、固定されている。このため、追尾装置において設定できるフィルタ係数は、2種類に限られる。その結果、極端に大きな変針速度で追尾物標が変針した場合には、当該追尾物標の運動を応答性よく追尾することができない。また、追尾物標の観測に関して、予想以上の観測誤差が生じた場合に、当該観測誤差を低減する処理に限界がある。また、第1運動推定手段のフィルタ係数と、第2運動推定手段のフィルタ係数との間の最適な関係を設定することは、容易ではない。即ち、フィルタ係数の最適な設定のための作業が複雑になってしまう。
これに対し、追尾処理装置3によると、第1フィルタ係数C1及び第2フィルタ係数C2は、それぞれ、広い範囲で自由に変更可能に設定されている。したがって、これらのフィルタ係数C1,C2の設定の自由度が高い。したがって、追尾処理装置3によると、上記特許文献1,2に記載の追尾装置に関する不具合が生じずに済む。
以上、本発明の実施形態について説明したけれども、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能である。例えば、次のように変更して実施してもよい。
(1)上述の実施形態では、マニューバ検出部が、追尾物標の変針運動を検出する構成を例に説明した。しかしながら、この通りでなくてもよい。例えば、マニューバ検出部は、直進運動している追尾物標の速度変化(変速)の有無を検出してもよい。この場合、マニューバ検出部は、推定速度ベクトルと直交し、且つ、当該推定速度ベクトルの先端を始点とするベクトル(直交ベクトル)を算出する。また、マニューバ検出部は、直交ベクトルの原点と、追尾物標の観測位置とを通るベクトルを算出し、当該ベクトルと、上記直交ベクトルとの外積を算出する。この外積の符号を判定することにより、追尾物標の変速の有無を判定することができる。
(2)また、表示用推定速度ベクトルV2(n)の算出の際には、表示用推定速度ベクトルV2(n)について、X方向成分と、Y方向成分とに分けて、速度ベクトル平滑処理を行ってもよい。また、表示用推定速度ベクトルV2(n)について、方位成分と、速度成分とに分けて、速度ベクトル平滑処理を行ってもよい。
(3)また、上述の実施形態において、アンテナ角度の方向における観測誤差について、より具体的な配慮をした構成を採用してもよい。
(4)上述の実施形態では、物標エコー像についての中心点を追尾代表点として用いる形態を例に説明した。しかしながら、この通りでなくてもよい。例えば、物標エコー像のうち、自船に対して最も近い点である最前縁点等を、追尾代表点として用いてもよい。
(5)上述の実施形態では、(n−1)スキャン時点と、nスキャン時点とにおいて、変数εの符号が異なっている場合(ステップS207でNO)、マニューバ検出部19は、変針確度Acc(n)を、一律にゼロに設定する形態を例に説明した。しかしながら、この通りでなくてもよい。例えば、この場合において、変針確度Acc(n)は、ステップS207でNOと判定される毎に、徐々にゼロに近くなるように構成されていてもよい。
(6)上述の実施形態では、第1フィルタ係数C1は、予測位置P1e(n)又は予測位置P1e(n−1)に基づいて設定される形態と、一定値である形態と、を例に説明した。しかしながら、この通りでなくてもよい。
例えば、運動推定部16は、アンテナ5の位置と追尾物標200の位置との相対位置に変化が無い場合に、第1フィルタ係数C1を変化させないように構成されていてもよい。これにより、運動推定部16は、推定速度ベクトルV1(n)を、より安定した態様で算出することができる。その結果、運動推定部16は、推定速度ベクトルV1(n)を、より正確に算出することができる。
この場合において、運動推定部16は、アンテナ5の位置と、追尾物標200の位置と、の相対位置の変化に応じて、第1フィルタ係数C1を変更可能に構成されていてもよい。これにより、運動推定部16は、追尾物標200の推定速度ベクトルV1(n)の算出に適した第1フィルタ係数C1を設定できる。その結果、運動推定部16は、追尾物標200の推定速度ベクトルV1(n)を、追尾物標200の運動に対して応答性よく算出することが可能となる。また、運動推定部16は、推定速度ベクトルV1(n)の誤差が小さくなるように推定速度ベクトルV1(n)を算出することが可能となる。
(7)上述の実施形態では、表示用ベクトルデータ生成部が、マニューバ検出部を有する形態を例に説明した。しかしながら、この通りでなくてもよい。マニューバ検出部は、省略されていてもよい。この場合、速度ベクトル平滑処理部は、追尾物標の変針運動とは無関係に、表示用推定速度ベクトルを算出することができる。よって、追尾処理装置における演算量を、より少なくできる。
(8)上述の実施形態では、追尾処理装置が、船舶用の追尾処理装置である形態を例に説明した。しかしながら、本発明は、船舶用の追尾処理装置に限らず、他の物標用の追尾処理装置として適用することができる。