以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しつつ説明する。本発明は、追尾処理装置として広く適用することができる。尚、以下では、図中同一または相当部分には、同一符号を付してその説明は繰り返さない。
図1は、本発明の実施形態に係る追尾処理装置3を含む、レーダ装置1のブロック図である。本実施形態のレーダ装置1は、漁船等の船舶に備えられる舶用レーダである。以下では、レーダ装置1が備えられている船舶を「自船」という。レーダ装置1は、主に他船等の物標の探知に用いられる。レーダ装置1は、1つ又は複数の物標のなかから、追尾対象として選択された物標を、追尾物標として特定するように構成されている。また、レーダ装置1は、当該追尾物標の平滑位置(推定位置)、及び平滑速度(推定速度ベクトル)を算出するように構成されている。
図1に示すように、レーダ装置1は、アンテナユニット(受信装置)2と、追尾処理装置3と、表示器4と、を備えている。
アンテナユニット2は、アンテナ5と、受信部6と、A/D変換部7と、を含んでいる。
アンテナ5は、指向性の強いパルス状電波を送信(放射)可能なレーダアンテナである。また、アンテナ5は、物標からのエコー信号(反射波)を受信するように構成されている。即ち、アンテナ5は、物標を特定するエコー信号を受信するように構成されている。レーダ装置1は、パルス状電波を送信してからエコー信号を受信するまでの時間を測定する。これにより、レーダ装置1は、物標までの距離rを検出することができる。自船と物標とが向かい合う方向は、距離方向として定義される。
アンテナ5は、水平面上で360°回転可能に構成されており、鉛直軸線回りを回転する。アンテナ5は、パルス状電波の送信方向を変えながら(アンテナ5の回転角度を変えながら)、電波の送受信を繰り返し行うように構成されている。以上の構成で、レーダ装置1は、自船周囲の平面上の物標を、360°にわたり探知することができる。
なお、以下の説明では、パルス状電波を送信してから次のパルス状電波を送信するまでの動作を「スイープ」という。また、電波の送受信を行いながらアンテナを360°回転させる動作を「スキャン」と呼ぶ。また、以下では、あるスキャンのことを、「nスキャン」という。
受信部6は、アンテナ5で受信したエコー信号を検波して増幅する。エコー信号は、アンテナ5で受信された信号のうち、アンテナ5からの送信信号に対する、物標での反射波である。受信部6は、増幅したエコー信号を、A/D変換部7へ出力する。A/D変換部7は、アナログ形式のエコー信号をサンプリングし、複数ビットからなるデジタルデータ(エコーデータ)に変換する。ここで、上記エコーデータの値は、アンテナ5が受信したエコー信号の強度(信号レベル)を特定するデータを含んでいる。A/D変換部7は、エコーデータを、追尾処理装置3の信号処理部11へ出力する。
追尾処理装置3は、追尾物標を観測して得られた観測値としての観測位置に、追尾フィルタ処理を施すことで、追尾物標を追尾する。追尾処理装置3は、CPU、RAM及びROM(図示せず)等を含むハードウェアを用いて構成されている。また、追尾処理装置3は、ROMに記憶された追尾処理プログラムを含むソフトウェアを用いて構成されている。
上記追尾処理プログラムは、本発明の一実施形態における追尾処理方法を、追尾処理装置3に実行させるためのプログラムである。このプログラムは、外部からインストールできる。このインストールされるプログラムは、例えば、記録媒体に格納された状態で流通する。上記ハードウェアとソフトウェアとは、協働して動作するように構成されている。これにより、追尾処理装置3を、後述する信号処理部11、エコー検出部12、及び追尾処理部13等として機能させることができる。
追尾処理装置3は、信号処理部11と、エコー検出部12と、追尾処理部13と、を含んでいる。
信号処理部11は、フィルタ処理等を施すことにより、エコーデータに含まれる干渉成分と、不要な波形データと、を除去する。信号処理部11は、処理したエコーデータを、エコー検出部12へ出力する。
エコー検出部12は、物標エコー像の検出と、物標エコー像における追尾代表点の座標の検出と、を行うように構成されている。具体的には、エコー検出部12は、1スイープの間にサンプリングされたエコーデータを、先頭アドレスから順に受信するように構成されている。従って、エコー検出部12は、信号処理部11からエコーデータを読み出すときの読出しアドレスに基づいて、当該エコーデータに対応する位置までの距離rを求めることができる。
また、アンテナ5からは、当該アンテナ5の回転角度を示すデータが出力されている。以上の構成で、エコー検出部12は、エコーデータを読み出す際には、当該エコーデータに対応する位置を、距離rと、アンテナ5の回転角度θとの極座標で取得することができる。
また、エコー検出部12は、エコーデータに対応する位置にエコー源が存在するか否かを検出するように構成されている。エコー検出部12は、例えば、エコーデータに対応する位置の信号レベルを判別する。エコー検出部12は、信号レベルが所定のしきいレベル以上である位置には、物標が存在していると判別する。エコー検出部12は、1スキャン時間毎に、上記の判別処理を行う。
次いで、エコー検出部12は、物標が存在している範囲を検出する。エコー検出部12は、例えば、信号レベルが上記しきいレベル以上である一まとまりの領域を、物標のエコー像が存在している領域として検出する。次に、エコー検出部12は、エコーデータを用いて、物標エコー像の追尾代表点を検出する。追尾代表点は、物標エコー像のうち、追尾処理の際に用いられる代表点である。次に、自船と、物標エコー像との関係を説明する。
図2は、自船100と、物標エコー像120との関係を説明するための模式的な平面図である。図2では、物標エコー像120は、矩形の像として例示されている。図1及び図2に示すように、極座標系では、観測原点Oからの直線距離が、距離rとして示され、観測原点O周りの角度が、アンテナ5の回転角度θとして示される。観測原点Oは、自船100のアンテナ5の位置である。エコー検出部12は、物標エコー像120の追尾代表点Pの抽出に際しては、観測原点Oを中心とする、リング状部分の一部形状の像110を用いる。この像110は、第1直線111、第2直線112、第1円弧113、及び第2円弧114によって囲まれた領域の像である。
第1直線111は、物標エコー像120の前縁120aのうち観測原点Oに最も近い点と、観測原点Oとを通る直線である。第2直線112は、物標エコー像120の後縁120bのうち観測原点Oに最も近い点と、観測原点Oとを通る直線である。第1円弧113は、物標エコー像120のうち観測原点Oから最も近い部分120cを通る円弧であり、当該円の曲率中心点は、観測原点Oである。第2円弧114は、物標エコー像120のうち観測原点Oから最も遠い部分120dを通る円弧であり、第1円弧113と同心である。第1円弧113及び第2円弧114は、それぞれ、第1直線111と第2直線112との間に延びている。
エコー検出部12は、例えば、像110の中心点を、物標エコー像120の追尾代表点Pとして検出するように構成されている。尚、エコー検出部12は、像110の最前縁点としての、部分120cを、追尾代表点Pとして検出してもよい。部分120cは、観測原点Oに最も近い点である。
複数の物標が検出されている場合、エコー検出部12は、各物標について、上記の処理を行う。これにより、物標エコー像120が、複数検出される。エコー検出部12で検出された複数の物標エコー像120の一例を、図3に示している。
図3は、エコー検出部12で検出された、複数の物標エコー像120を示す模式的な平面図であり、各物標エコー像120を上方から見た状態を示している。図3では、X−Y座標系を示している。図3では、X軸方向は、東西方向を示しており、Y軸方向は、南北方向を示している。
図3では、一例として、nスキャン時点における、4つの物標エコー像120(121,122,123,124)を示している。物標エコー像121,122,123,124を総称して説明する場合に、「物標エコー像120」ということがある。各物標エコー像120は、例えば、船舶のエコー像である。エコー検出部12は、例えば、追尾代表点Pとして、物標エコー像121の追尾代表点P1(n)と、物標エコー像122の追尾代表点P2(n)と、物標エコー像123の追尾代表点P3(n)と、物標エコー像124の追尾代表点P4(n)と、を検出する。以下では、物標エコー像121によって特定される物標が、追尾物標201である場合を例に説明する。物標エコー像121の追尾代表点P1(n)は、追尾物標201の追尾代表点でもある。
図1及び図3に示すように、エコー検出部12は、各物標エコー像120の追尾代表点Pの座標データを、追尾処理部13へ出力する。追尾処理部13は、追尾物標201の追尾代表点P1の平滑速度V1(n)を算出するように構成されている。
追尾処理部13は、捕捉処理部14と、運動推定部15と、を有している。
捕捉処理部14は、追尾物標201の追尾代表点P1(n)の観測位置x1o(n)を補足するように構成されている。捕捉処理部14は、選別部16と、関連付け部17と、を有している。
選別部16は、エコー選別処理を行うように構成されている。具体的には、選別部16は、nスキャン時点(最新のスキャン時点)において、観測位置x1o(n)が存在すると推定される領域を特定する。
具体的には、選別部16は、追尾物標201について、運動推定部15で算出された予測位置x1p(n)の座標データを、参照する。即ち、選別部16は、nスキャン時点において、追尾代表点Pが存在していると推定される予測位置x1p(n)の座標データを、取得する。選別部16は、当該予測位置x1p(n)を中心とする、選別領域S1(n)を設定する。この選別領域S1(n)は、例えば、上記予測位置x1p(n)を中心とする、円状の領域である。関連付け部17は、この選別領域S1(n)内を、検索する。
関連付け部17は、上記選別領域S1(n)内に存在する1つ又は複数の物標エコー像の追尾代表点Pのなかから、追尾物標201の観測位置x1o(n)を特定する。例えば、関連付け部17は、上記予測位置x1p(n)に最も近い追尾代表点Pを、追尾物標201の観測位置x1o(n)であると判定する。関連付け部17は、当該観測位置x1o(n)の座標データを、運動推定部15へ出力する。
図4は、運動推定部15が行う追尾フィルタ処理を説明するための模式図である。図4は、直交座標系としての、X−Y座標系を示している。この座標系のX軸方向は、東西方向を示しており、Y軸方向は、南北方向を示している。また、図4では、追尾物標201の追尾代表点P1の平滑位置の航跡RT1を示している。
図1〜図4に示すように、運動推定部15は、X−Y座標系において、追尾物標201の追尾処理を行うように構成されている。本実施形態では、運動推定部15は、地球の表面に対する向きが一定である座標系を用いて、追尾物標201の追尾処理を行う。
運動推定部15は、追尾フィルタ部(受付部)18と、ゲイン選択部19と、ゲインメモリ20と、を有している。
追尾フィルタ部18は、後述する観測誤差obeの影響を平滑化するために設けられている。本実施形態では、追尾フィルタ部18は、追尾フィルタ処理として、α−βフィルタ処理を行う。追尾フィルタ部18は、追尾物標201の予測位置x1p(n)と、平滑位置x1s(n)と、平滑速度V1(n)と、を算出するように構成されている。
具体的には、追尾フィルタ部18は、下記式(1)、(2)、(3)を演算する。
予測位置x1p(n)=x1s(n−1)+T×V1(n−1)・・・・・(1)
平滑位置x1s(n)=x1p(n)+α{x1o(n)−x1p(n)}
・・・・・(2)
平滑速度V1(n)=V1(n−1)+(β/T){x1o(n)−x1p(n)}・・・・・(3)
尚、平滑位置x1s(n)は、nスキャン時点における、予測位置x1p(n)と、観測位置x1o(n)とに関連付けられた位置を示す。平滑位置x1s(n)は、nスキャン時点において、追尾物標201の追尾代表点P1が到達していると推定される位置を示す。また、平滑速度V1(n)は、nスキャン時点における、追尾代表点P1の推定速度を示している。
また、Tは、追尾フィルタ部18が前回の平滑処理を行ってから上記の平滑処理を行うまでに経過した時間であり、1スキャンに要する時間に相当する。また、αは、平滑位置を算出するために用いられるゲインである。βは、平滑速度を算出するために用いられるゲインである。
ゲインαは、X軸方向の成分αx、及びY軸方向の成分αyを有している。ゲインαは、ゲインα(αx,αy)としても表現できる。成分αxは、上記式(2)において、X軸方向の成分を算出する際に用いられる。成分αyは、上記式(2)において、Y軸方向の成分を算出する際に用いられる。
また、ゲインβは、X軸方向の成分βx、及びY軸方向の成分βyを有している。ゲインβは、ゲインβ(βx,βy)としても表現できる。成分βxは、上記式(3)において、X軸方向の成分を算出する際に用いられる。また、成分βyは、上記式(3)において、Y軸方向の成分を算出する際に用いられる。
平滑位置x1s(n)は、予測位置x1p(n)と、観測位置x1o(n)と、を結ぶ線分LS1上に位置する。
上記の構成によると、ゲインαが小さいほど、平滑位置x1s(n)は、予測位置x1p(n)に近くなる。また、ゲインβが小さいほど、平滑速度V1(n)の変化量は、小さくなる。このため、運動推定部15での算出結果は、平滑化された度合いが大きくなり、追尾物標201の観測誤差に起因するばらつき量が小さくなる。但し、追尾物標201の追尾代表点P1の変針運動を、運動推定部15の演算結果に反映させる際の応答は、ゲインα,βが小さいほど、遅くなる。
一方、ゲインαが大きいほど、平滑位置x1s(n)は、観測位置x1o(n)に近くなる。また、ゲインβが大きいほど、平滑速度V1(n)を平滑化する度合いは、小さくなる。このため、運動推定部15は、追尾物標201の追尾代表点P1の変針運動を、追尾フィルタ処理において、応答性よく反映できる。このため、運動推定部15は、追尾物標201の変針運動に対する追従性を高めることができる。尚、変針運動とは、追尾物標201の向きを変える運動をいう。但し、ゲインα,βが大きいほど、平滑位置xs(n)及び平滑速度V1(n)について、スキャン時点毎の変動量が大きくなってしまう。
上記した、予測位置x1p(n)を中心として、誤差圏ez1が存在する。誤差圏ez1は、予測位置x1p(n)に関する誤差の範囲である。また、観測位置x1o(n)を中心として、誤差圏ez2が存在する。誤差圏ez2は、観測位置x1o(n)に関する誤差の範囲である。また、平滑位置x1s(n−1)を中心として、誤差圏ez3が存在する。誤差圏ez3は、平滑位置x1s(n−1)に関する誤差の範囲である。ゲインα,βは、これらの誤差圏ez1,ez2,ez3の影響を、より小さくできるように、設定される。
本実施形態では、ゲインα,βは、ゲインメモリ20に格納されている。ゲイン選択部19は、ゲインメモリ20に格納されている複数のゲインα,βを参照し、これらのなかから、1つのゲインα,βを選択する。
より具体的には、ゲイン選択部19は、観測位置x1o(n)を参照する。そして、ゲイン選択部19は、観測原点Oに対する観測位置x1o(n)に応じて、ゲインメモリ20に格納されている複数のゲインα,βのなかから、適切なゲインα,βを設定する。ゲインメモリ20に格納されているゲインα,βの詳細は、後述する。
追尾フィルタ部18は、上記予測位置x1p(n)の座標データを、選別部16へ出力する。選別部16では、当該データは、(n+1)スキャン時点における選別処理に用いられる。また、追尾フィルタ部18は、平滑位置x1s(n)、及び平滑速度V1(n)を特定するデータを、表示器4へ出力する。
表示器4は、例えばカラー表示可能な液晶ディスプレイである。表示器4は、追尾フィルタ部18からのデータを読込み、当該データによって特定される画像を表示するように構成されている。これにより、液晶ディスプレイ等の表示器4には、物標の平滑位置x1s(n)、及び平滑速度V1(n)を示す画像が表示される。以上が、レーダ装置1の概略構成である。
[ゲインの詳細]
次に、ゲインα,βの詳細を説明する。本実施形態では、ゲインα,βは、ゲインメモリ20に格納されている複数のゲインα,βのなかから、ゲイン選択部19によって選択される。図5は、ゲインα,βを割り当てるためのマップを示す図である。図6は、マップの一部を拡大して示す図である。
図4〜図6に示すように、ゲインα,βは、直交座標系としてのX−Y座標系において、規則的に設定されている。X−Y座標系の原点は、観測原点Oである。X−Y座標系は、自船100の向きには影響されない。即ち、X−Y座標系の座標軸は、地球の表面に対する向きが一定である。換言すれば、自船100の向きに拘わらず、X−Y座標系のX軸方向は、東西方向であり、且つY軸方向は、南北方向である。
X−Y座標系において、複数の格子状領域30が規定されている。各格子状領域30は、X軸方向と平行な方向に延びる2本の直線と、Y軸方向と平行な方向に延びる2本の直線と、で囲まれた矩形状の領域である。これらの格子状領域30は、行列状に整列されている。
格子状領域30毎に、ゲインα(αx,αy)と、ゲインβ(βx,βy)と、が設定されている。格子状領域30内では、ゲインα,βの値は、一定である。
本実施形態では、ゲインα,βは、格子状領域30毎に応じて、異なるように設定されている。即ち、ゲインα,βは、観測原点Oからの位置に応じて、複数設定されている。このような設定がされているのは、観測原点Oと観測位置x1o(n)との相対位置によって、観測位置x1o(n)の誤差が異なることに起因する。この場合の誤差とは、追尾代表点P1の真の位置x1t(n)と、観測位置x1o(n)との差をいう。格子状領域30は、誤差の特性が一定であるとみなせる領域毎に、設定されている。
次に、観測位置x1oに誤差が生じる理由を説明する。図7は、観測位置x1oに誤差が生じる理由を説明するための、模式図である。図7は、X−Y座標系を示している。図1、図4、及び図7を参照して、アンテナ5を用いて観測された観測位置x1oは、追尾代表点P1の真の位置x1tを中心として、誤差範囲ea内に存在することとなる。観測原点Oから真の位置x1tまでの距離が遠くなるほど、誤差範囲eaは、大きくなる。
例えば、追尾代表点P1の真の位置x1tがY軸上に位置している場合を考える。この場合において、追尾代表点P1の真の位置x1t1,x1t2,x1t3,x1t4は、観測原点Oから順次離隔して配置された点である。各真の位置x1t1,x1t2,x1t3,x1t4を基準として、略楕円状の誤差範囲ea1,ea2,ea3,ea4が存在する。誤差範囲ea1,ea2,ea3,ea4の長軸の長さとしての全長W1,W1,W3,W4は、W1<W2<W3<W4である。
また、例えば、各真の位置x1t1,x1t2,x1t3,x1t4が、Y軸からθ°傾斜した直線上に位置している場合を考える。この場合においても、各真の位置x1tθ1,x1tθ2,x1tθ3,x1tθ4を中心として、誤差範囲eaθ1,eaθ2,eaθ3,eaθ4が存在する。誤差範囲eaθ1,eaθ2,ea3,eaθ4は、それぞれ、アンテナ5の回転方向にθ°、誤差範囲ea1,ea2,ea3,ea4を回転させた形状と一致する。誤差範囲eaθ1,eaθ2,eaθ3,eaθ4の全長Wθ1,Wθ2,Wθ3,Wθ4は、Wθ1<Wθ2<Wθ3<Wθ4である。θ=90°の場合、各真の位置x1tθ1,x1tθ2,x1tθ3,x1tθ4は、X軸上に位置する。
このように、観測原点Oから遠いほど、誤差範囲eaは、アンテナ5の回転方向に拡がる。このため、観測原点Oからの位置に応じた観測誤差eaを考慮された態様で、ゲインα,βを設定されることが、好ましい。これにより、観測原点Oからの観測位置x1oに拘わらず、追尾物標201を、より正確に追尾できる。
X軸方向における誤差範囲eaの長さ(横幅)は、観測原点OからY軸方向に沿って遠ざかるほど、大きくなる。また、Y軸方向における誤差範囲eaの長さ(縦の長さ)は、観測原点OからX軸方向に沿って遠ざかるほど、大きくなる。ゲインα,βは、このような、誤差範囲eaの分布に合わせて設定されることが、好ましい。このため、本実施形態では、前述したように、ゲインα,βは、X−Y座標上に設定された格子状領域30毎に設定されている。
尚、誤差範囲eaが生じる主な原因は、観測誤差obeである。観測誤差obeは、アンテナ誤差obe1と、量子化誤差obe2(サンプリング誤差)と、を含んでいる。
アンテナ誤差obe1は、鉛直軸線回りに回転するアンテナ5によって、追尾物標201のエコー信号を観測する場合の、アンテナ5に起因する誤差である。より具体的には、アンテナ誤差obe1は、アンテナ5の回転方向において、アンテナ5がぶれることで発生する。
量子化誤差obe2は、追尾物標201からのエコー信号を、エコー検出部12において、デジタル信号に変換して追尾代表点P1(n)を得る際の、量子化処理に起因する誤差である。即ち、量子化誤差obe2は、連続信号であるエコー信号をサンプリングすることで離散信号に変換する際に生じる誤差をいう。
図1、図5及び図6に示すように、格子状領域30として、小領域31と、大領域32と、が設けられている。尚、図5及び図6では、図示の簡略化のため、格子状領域30,小領域31及び大領域32のうちの一部にのみ、符号を付している。
小領域31は、観測位置x1o(n)が観測原点Oの近傍である場合における、追尾フィルタ処理に用いられるゲインα,βを規定している。小領域31は、観測原点Oの近傍に設定されている。小領域31は、例えば、観測原点Oから約1海里までの範囲に亘って、複数設定されている。小領域31毎に、ゲインα,βが設定されている。小領域31の面積は、大領域32の面積よりも小さい。小領域31の1辺は、例えば、数百m程度に設定されている。小領域31から観測原点Oまでの距離は、大領域32から観測原点Oまでの距離よりも小さく設定されている。複数の小領域31を取り囲むようにして、大領域32が設定されている。
大領域32は、観測位置x1o(n)が観測原点Oの遠方である場合における、ゲインα,βを規定している。大領域32毎に、ゲインα,βが設定されている。大領域32の1辺は、例えば、1海里(1852m)に設定されている。
ゲイン選択部19は、観測位置x1o(n)が位置している格子状領域30におけるゲインα,βを、ゲインメモリ20から読み出す。ゲイン選択部19は、このゲインα,βを、追尾フィルタ部18へ出力する。これにより、追尾フィルタ部18は、上記のゲインα,βを用いた、追尾処理を行うことができる。
[追尾処理プログラム]
本実施形態に係る追尾処理プログラムは、コンピュータに、追尾処理装置3の処理を実行させるプログラムであればよい。このプログラムをコンピュータにインストールし、実行することによって、本実施形態における追尾処理装置3と、追尾処理方法と、を実現することができる。この場合、コンピュータのCPU(Central Processing Unit)は、信号処理部11、エコー検出部12、及び追尾処理部13として機能し、処理を行う。なお、追尾処理装置3は、このように、ソフトウェアとハードウェアとの協働によって実現されてもよいし、ハードウェアによって実現されてもよい。
[ゲイン設定装置]
次に、ゲインメモリ20に格納されるゲインα,βを設定するための構成を説明する。本実施形態では、ゲインα,βは、追尾処理装置3の製造時点で、ゲインメモリ20に格納される。
図8は、ゲイン設定装置40の構成を示すブロック図である。図1、図6及び図8に示すように、ゲイン設定装置40は、格子状領域30毎に、ゲインα,βを設定するために設けられている。本実施形態では、ゲイン設定装置40は、レーダ装置1とは独立して設けられている。尚、ゲイン設定装置40は、レーダ装置1に組み込まれていてもよい。ゲイン設定装置40は、CPU、RAM及びROM(図示せず)等を含むハードウェアを用いて構成されている。また、ゲイン設定装置40は、ROMに記憶されたゲイン設定プログラムを含むソフトウェアを用いて構成されている。
図8に示すように、ゲイン設定装置40は、領域選択部41と、運動シナリオ設定部42と、仮想観測誤差設定部43と、加算器44と、評価用追尾フィルタ部45と、ゲイン候補設定部46と、評価値算出部47と、ゲイン決定部48と、を有している。
領域選択部41は、複数の格子状領域30のなかから、ゲインα,βを設定するための格子状領域30を択一的に選択するように構成されている。
運動シナリオ設定部42は、追尾物標201の運動を模した運動シナリオscを設定するために設けられている。運動シナリオ設定部42は、複数の運動シナリオsc(sc1,sc2,sc3)を格納しており、これらの運動シナリオscを、択一的に設定するように構成されている。
図9、図10、及び図11は、それぞれ、運動シナリオsc1,sc2,sc3を示す図である。図8〜図11を参照し、各運動シナリオsc1,sc2,sc3は、時刻k=0から、時刻k=Kまでの間に、仮想物標202が移動した軌跡を示している。仮想物標202は、追尾物標201を模した仮想的な物標であり、点として規定されている。各シナリオsc1,sc2,sc3は、追尾処理装置3の設計者等によって設定される。
運動シナリオsc1の軌跡としての基準軌跡tr(tr1)は、領域選択部41で選択された格子状領域30の中心点sp(図6参照)を基準として、設定されている。本実施形態では、仮想物標202が、中心点spの周囲を、平面視で矩形状を描くように進行するように、基準軌跡tr1が設定されている。
運動シナリオsc1は、仮想物標202の直線運動と、旋回運動(変針運動)と、を含むシナリオである。この運動シナリオsc1は、仮想物標202の移動速度と、移動方向と、変針速度と、変針割合と、を規定している。
運動シナリオsc1は、仮想物標202が、時速10ノット程度の速度で進行している状態を示している。基準軌跡tr1は、単位時間Tc毎の、仮想物標202の位置を繋いだ軌跡である。換言すれば、基準軌跡tr1は、時刻k=0,1,2,…,K−1,Kまでの各時刻における、仮想物標202の位置を繋いだ軌跡である。尚、Kは、例えば、数百程度の値である。また、この場合の単位時間Tcは、レーダ装置1における、1スキャンに要する時間に相当する。
基準軌跡tr1は、直線部分tr11,tr12,tr13,tr14と、旋回部分tr15,tr16,tr17と、を含んでいる。
直線部分tr11,tr12,tr13,tr14は、それぞれ、仮想物標202が直進している状態の軌跡である。本実施形態では、直線部分tr11,tr12,tr13,tr14は、軌跡tr1の大部分を占めている。
直線部分tr11は、仮想物標202が、中心点spの南西から、中心点spの南東へ向かう運動を示している。直線部分tr12は、仮想物標202が、中心点spの南東から、中心点spの北東へ向かう運動を示している。直線部分tr13は、仮想物標202が、中心点spの北東から、中心点spの北西へ向かう運動を示している。直線部分tr14は、仮想物標202が、中心点spの北西から、中心点spの南西へ向かう運動を示している。
旋回部分tr15,tr16,tr17は、仮想物標202が旋回している状態の軌跡である。本実施形態では、旋回部分tr15,tr16,tr17は、軌跡tr1の一部を占めている。軌跡tr1における、旋回部分tr15,tr16,tr17の割合によって、決定されるゲインα,βの値が、異なる。軌跡tr1における、旋回部分tr15,tr16,tr17の割合が多いほど、ゲインα,βは、大きくなる。即ち、追尾処理装置3において、追尾物標201の運動変化に対する、追尾フィルタ処理の変動の応答性が、高くなる。しかしながら、過度に大きいゲインα,βでは、追尾フィルタ処理における平滑化効果が小さくなる結果、追尾物標201の直線運動時の追尾誤差が大きくなる傾向にある。一般的に、船舶の運動は、主に直進運動である。よって、本実施形態では、軌跡tr1における旋回部分tr15,tr16,tr17の割合は、比較的小さく設定されている。
旋回部分tr15は、直線部分tr11,tr12同士を接続するように設定されている。旋回部分tr16は、直線部分tr12,tr13同士を接続するように設定されている。旋回部分tr17は、直線部分tr13,tr14同士を接続するように設定されている。各旋回部分tr15,tr16,tr17における、仮想物標202の変針速度は、互いに同じであり、一定の旋回速度(deg/秒)に設定されている。尚、変針速度が大きいほど、算出されるゲインα,βは、大きくなる傾向にある。即ち、仮想物標202の変針速度が大きいほど、算出されるゲインα,βは、追尾物標201の運動変化に迅速に対応する値となる傾向にある。上記の運動シナリオsc1と同様にして、運動シナリオsc2,sc3が、それぞれ設定されている。
運動シナリオsc2の基準軌跡tr2は、運動シナリオsc1の基準軌跡tr1を、中心点spの回りに、所定の第1角度d1だけ回転させることで得られる。したがって、運動シナリオsc2についての詳細な説明は、省略する。運動シナリオsc3の基準軌跡tr3は、運動シナリオsc1の基準軌跡tr1を、中心点spの回りに、所定の第2角度d2だけ回転させることで得られる。したがって、運動シナリオsc3についての詳細な説明は、省略する。尚、第2角度d2>第1角度d1である。このように、複数の運動シナリオsc1,sc2,sc3において、互いの基準軌跡tr1,tr2,tr3の形状は、同一に設定され、且つ、互いの基準軌跡tr1,tr2,tr3の向きは、異ならされている。
このように、中心点spの回りの向きの異なる、複数の基準軌跡tr1,tr2,tr3を用いることで、仮想物標202の移動角度に偏りが生じないようにしている。
運動シナリオ設定部42で設定された運動シナリオsc1,sc2,sc3は、択一的に、加算器44へ出力される。また、加算器44は、仮想観測誤差設定部43で設定された、仮想観測誤差vobeのデータを、受け入れる。
仮想観測誤差設定部43は、格子状領域30の位置に応じた仮想観測誤差vobeを設定するように構成されている。仮想観測誤差vobeは、観測誤差obeに相当する。仮想観測誤差vobeは、誤差範囲ea(図7参照)に応じた大きさに設定される。仮想観測誤差vobeは、仮想アンテナ誤差vobe1と、仮想量子化誤差vobe2と、を含んでいる。
図12は、仮想アンテナ誤差vobe1を説明するためのグラフ図である。図1及び図12を参照して、アンテナ5が、観測原点Oから遠ざかる方向(距離方向)に向けて、パルス状電波を発生した後に、エコー信号を受信する場合を考える。この場合、アンテナ5で受信されたエコー信号についての、アンテナ5の回転方向における誤差が、アンテナ誤差obe1である。このアンテナ誤差obe1に相当する誤差として、仮想アンテナ誤差vobe1が設定される。仮想アンテナ誤差vobe1の値と、当該値が生じる確率は、図12のグラフで示される。図12のグラフは、ガウス関数である。即ち、本実施形態では、アンテナ誤差obe1に相当する仮想アンテナ誤差vobe1として、ガウス雑音が採用されている。
図12のグラフの横軸は、仮想アンテナ誤差vobe1を示しており、縦軸は、確率を示している。図12のグラフから明らかなように、仮想アンテナ誤差vobe1の値が大きくなるほど、当該値の発生確率は、低くなっている。また、仮想アンテナ誤差vobe1は、−2σ<vobe1<2σの範囲に設定されている。尚、σは、図12のグラフにおける標準偏差である。仮想アンテナ誤差vobe1を、上記の範囲に限定しているのは、現実に生じ得ない、大きな仮想アンテナ誤差vobe1が設定されることを防止するためである。次に、仮想量子化誤差vobe2について、説明する。
図1を参照して、仮想量子化誤差vobe2は、量子化誤差obe2に相当する。量子化誤差obe2は、連続信号であるエコー信号が、信号処理部11でのサンプリングによって、時間的に離散したエコーデータに変換されることで生じる誤差をいう。量子化誤差obe2は、サンプリング周波数と、方位分解能によって決まる。量子化誤差obe2の発生確率は、観測原点Oからの任意の位置で、一様であると考えられる。量子化誤差obe2として、距離方向の量子化誤差、及び、アンテナ5の回転方向の量子化誤差が挙げられる。
距離方向の量子化誤差とは、観測原点Oから遠ざかる方向(距離方向)における、量子化に起因する誤差である。距離方向の量子化誤差は、例えば、±数m程度の一様乱数で設定される。アンテナ5の回転方向の量子化誤差は、アンテナ5の回転方向における、量子化に起因する誤差である。アンテナ5の回転方向の量子化誤差は、例えば、(ゼロに近い)±数deg程度の一様乱数で設定される。
以上より、仮想観測誤差vobeは、観測原点Oから遠ざかるに従い、大きくなるように設定される。図8に示すように、仮想観測誤差設定部43は、仮想観測誤差vobeのデータを、加算器44へ出力する。
加算器44は、運動シナリオ設定部42で設定された運動シナリオscの軌跡trに、仮想観測誤差vobeを加算する。これにより、加算器44は、仮想観測誤差vobeを含む追尾用軌跡ttrを、生成する。
図13は、基準軌跡trと、追尾用軌跡ttrと、を示す図である。図13では、運動シナリオsc3の基準軌跡tr3と、追尾用軌跡ttr3と、を例示している。図8及び図13に示すように、追尾用軌跡ttrは、仮想物標202が蛇行状に進行する軌跡として設定されている。この場合、追尾用軌跡ttrは、仮想観測誤差vobeに起因して、東西方向に比較的大きな誤差を有し、南北方向に比較的小さな誤差を有している。尚、この場合の誤差とは、基準軌跡tr(tr3)からの、追尾用軌跡ttrのずれをいう。加算器44は、追尾用軌跡ttr(ttr3)のデータを、評価用追尾フィルタ部45へ出力する。
評価用追尾フィルタ部45は、追尾用軌跡ttrで特定される位置を、仮想物標202の観測位置x2o(k)として用いることで、追尾処理を行うように構成されている。評価用追尾フィルタ部45は、追尾フィルタ部18(図1参照)と同様に、α−βフィルタ処理を行う。評価用追尾フィルタ部45は、仮想物標202の予測位置x2p(k)と、平滑位置x2s(k)と、平滑速度V2(k)と、を算出するように構成されている。
具体的には、評価用追尾フィルタ部45は、下記式(4)、(5)、(6)を演算する。
予測位置x2p(k)=x2s(k−1)+Tc×V2(k−1)・・・・・(4)
平滑位置x2s(k)=x2p(k)+αc{x2o(k)−x2p(k)}
・・・・・(5)
平滑速度V2(k)=V2(k−1)+(βc/Tc){x2o(k)−x2p(k)}・・・・・(6)
尚、Tcは、評価用追尾フィルタ部45の平滑処理を行ってから、次の平滑処理を行うまでに経過した時間である。αcは、平滑位置x2s(k)を算出するために用いられる、ゲイン候補である。βcは、平滑速度V2(k)を算出するために用いられる、ゲイン候補である。ゲイン候補αc,βcは、ゲインα,βの候補として用いられる。
ゲイン候補αcは、X軸方向成分αcx、及びY軸方向成分αcyを有している。ゲイン候補αcは、ゲイン候補αc(αcx,αcy)としても表現できる。成分αcxは、上記式(5)において、X軸方向の成分を算出する際に用いられる。成分αcyは、上記式(5)において、Y軸方向の成分を算出する際に用いられる。
また、ゲイン候補βcは、X軸方向成分βcx、及びY軸方向成分βcyを有している。ゲイン候補βcは、ゲイン候補βc(βcx,βcy)としても表現できる。成分βcxは、上記式(6)において、X軸方向の成分を算出する際に用いられる。また、成分βcyは、上記式(6)において、Y軸方向の成分を算出する際に用いられる。
ゲイン候補αc、βcは、ゲイン候補設定部46によって、設定される。ゲイン候補設定部46は、ゲイン候補αc、βcの値を、適宜設定する。ゲイン候補設定部46は、ゲイン候補αc、βcの設定値を、評価用追尾フィルタ部45へ出力する。
評価用追尾フィルタ部45は、平滑位置x2s(k)のデータと、平滑速度V2(k)のデータとを、評価値算出部47へ出力する。
評価値算出部47は、平滑位置x2s(k)と、基準軌跡trで特定される仮想物標202の真の位置x2t(k)と、の差に基づいて、評価値E1を算出する。また、評価値算出部47は、平滑速度V2(k)と、運動シナリオscで規定されている速度V2tとの差に基づいて、評価値E2を算出する。尚、評価値E1,E2は、最小平均二乗誤差から得られる値である。
ゲイン決定部48は、運動シナリオsc1,sc2,sc3に基づいて、格子状領域30毎に、ゲインα,βを設定する。ゲイン決定部48は、算出された評価値E1を基に、ゲイン候補αcを、ゲインαとして決定してよいか否を、判定する。また、ゲイン決定部48は、算出された評価値E2を基に、ゲイン候補βcを、ゲインαとして決定してよいか否を、判定する。
[ゲイン設定装置の動作]
次に、ゲイン設定装置40における処理の流れの一例について説明する。図14は、ゲイン設定装置40による、一の格子状領域30に対する、ゲインα,βの設定の流れを説明するための、フローチャートである。ゲイン設定装置40は、以下に示すフローチャートの各ステップを、図示しないメモリから読み出して実行する。このプログラムは、外部からインストールできる。このインストールされるプログラムは、例えば記録媒体に格納された状態で流通する。
以下では、図14に加え、図8〜13を適宜参照しながら説明する。ゲイン設定装置40の領域選択部41は、まず、1つの格子状領域30を選択する(ステップS101)。次に、ゲイン候補設定部46は、ゲインα,βの候補としてのゲイン候補αc,βcを設定する(ステップS102)。ゲイン候補αc,βcは、適宜設定される。
次に、運動シナリオ設定部42は、運動シナリオscを設定する(ステップS103)。運動シナリオ設定部42は、最初に、運動シナリオsc1を設定する。次に、仮想観測誤差設定部43は、仮想観測誤差vobeを設定する(ステップS104)。より具体的には、仮想観測誤差設定部43は、格子状領域30の位置に応じた、仮想観測誤差vobeを設定する。次に、加算器44は、設定された運動シナリオscに、仮想観測誤差vobeを加算する。これにより、基準軌跡trに観測誤差obeが混入された軌跡としての、追尾用軌跡ttrが設定される(ステップS105)。
その後、評価用追尾フィルタ部45は、追尾用軌跡ttr(運動シナリオsc)を用いて、追尾フィルタ処理を行う(ステップS106)。即ち、評価用追尾フィルタ部45は、ゲイン候補αc,βcを用いて、仮想物標202を追尾する。
尚、kの初期値は、ゼロであり、運動シナリオscが変更される毎に、k=0にリセットされる。この追尾フィルタ処理の際、評価用追尾フィルタ部45は、ステップS102で設定されたゲイン候補αc,βcを用いて、前述の式(4)〜(6)を演算する。
次に、評価値算出部47は、仮想物標202の平滑位置x2s(k)と、仮想物標201の真の位置x2t(k)と、を参照する。真の位置x2t(k)は、時刻k時点における基準軌跡tr上の位置である。次に、評価値算出部47は、誤差{x2t(k)−x2s(k)}の自乗を、算出する(ステップS107)。また、評価値算出部47は、仮想物標202の平滑速度V2(k)と、仮想物標202の真の速度V2tと、を参照する。真の速度V2tは、運動シナリオscに規定されている。次に、評価値算出部47は、誤差{V2t−V2(k)}の自乗を、算出する(ステップS107)。
次に、追尾フィルタ部18は、k=Kに達したか否かを判定する(ステップS108)。k<Kである場合(ステップS108でNO)、評価用追尾フィルタ部45は、kをインクリメントする(ステップS109)。その後、評価用追尾フィルタ部45及び評価値算出部47は、ステップS106,S107の処理を再び行う。
一方、k=Kである場合(ステップS108でYES)、評価値算出部47は、選択されている運動シナリオscについての、予備評価値PE(PE1,PE2)を算出する(ステップS109)。具体的には、評価値算出部47は、K個ぶんの、{x2t(k)−x2s(k)}2の平均値を、予備評価値PE1として算出する。また、評価値算出部47は、K個ぶんの、{V2t−V2(k)}2の平均値を、予備評価値PE2として算出する。
複数の運動シナリオsc1,sc2,sc3の全てについて、予備評価値PE1,PE2が算出されていない場合(ステップS110でNO)、再び、ステップS103〜S110の処理が行われる。この場合、ステップS103において、運動シナリオ設定部42は、未だ設定されていないシナリオ(運動シナリオsc2又はsc3)を設定する。
一方、複数の運動シナリオsc1,sc2,sc3の全てについて、予備評価値PE1,PE2が算出されている場合(ステップS110でYES)、評価値算出部47は、評価値E1を算出する(ステップS111)。具体的には、評価値算出部47は、各運動シナリオsc1,sc2,sc3についての予備評価値PE1の平均値を、評価値E1として算出する。また、評価値算出部47は、評価値E2を算出する(ステップS111)。具体的には、評価値算出部47は、各運動シナリオsc1,sc2,sc3についての予備評価値PE2の平均値を、評価値E2として算出する。
次に、ゲイン決定部48は、算出された評価値E1,E2が、最小値であるか否かを判定する(ステップS112)。この場合の最小値とは、ゲイン候補αc,βcをどのように変更しても、評価値E1,E2をそれ以上小さくすることはできない場合の、評価値E1,E2の値をいう。ゲイン決定部48は、例えば、最急降下法(Steepest descent method)を用いて、最小となる評価値E1,E2を探索する。この場合、ゲイン決定部48は、ゲイン候補の成分(αcx,αcy,βcx,βcy)のそれぞれを引数として、最急降下法の演算を行う。最急降下法を用いることで、評価値E1,E2の最小値を、より迅速に算出できる。
ゲイン決定部48において、算出された評価値E1,E2が、最小値ではないと判定された場合(ステップS112でNO)、ステップS102〜S112の処理が、再び行われる。この場合、ステップS102では、ステップS112で行われた、最急降下法による演算結果を踏まえて、ゲイン候補αc,βcが再度設定される。
一方、ゲイン決定部48において、算出された評価値E1,E2が、最小値であると判定された場合(ステップS112でYES)、ゲイン決定部48は、当該評価値E1,E2の算出に用いられたゲイン候補αc,βcを、ゲインα,βとして決定する(ステップS113)。
ゲイン設定装置40は、上記した、ゲインα,βの設定の処理フローを、全ての格子状領域30について、それぞれ、行う。その結果、ゲイン設定装置40は、各格子状領域30におけるゲインα,βを、設定する。次に、上記の処理フローに従って設定されたゲインα,βについて、説明する。
図15は、ゲインαのX軸方向成分αxの分布の一例を示す図である。尚、図15では、X−Y座標系の第1象限〜第4象限のうちの、第1象限のみを示している。第2象限〜第4象限のそれぞれにおける、成分αxの分布は、第1象限における成分αxの分布と、略対称であるので、説明を省略する。
図15は、成分αxが同じである領域を、1まとまりのハッチングで示している。本実施形態では、図15に示すように、小領域31において、3種類の成分αx(αx1,αx2,αx3)が設定されている。成分αx1は、X軸線に最も近い小領域31に設定されている。成分αx1は、X軸方向に並ぶ各小領域31に設定されている。成分αx2は、X軸線から2番目及び3番目の小領域31に設定されている。成分αx2は、X軸方向に並ぶ各小領域31に設定されている。成分αx3は、X軸線から4番目及び5番目の小領域31に設定されている。成分αx3は、X軸方向に並ぶ各小領域31に設定されている。成分αx1,αx2,αx3は、互いに異なる値に設定されている。
小領域31では、成分αxは、Y軸方向の位置に応じて、αx1,αx2,αx3と、段階的に変化している。成分αx2が設定されている面積は、成分α1が設定されている面積よりも、大きい。また、成分αx3が設定されている面積は、成分α1が設定されている面積よりも、大きい。
また、大領域32において、3種類の成分αx(αx4,αx5,αx6)が設定されている。成分αx4は、X軸線に最も近い大領域32に設定されている。成分αx4は、X軸方向に並ぶ各大領域32に設定されている。成分αx5は、X軸線から2番目及び3番目の大領域32に設定されている。成分αx5は、X軸方向に並ぶ各大領域32に設定されている。成分αx6は、X軸線から4番目〜6番目の大領域32に設定されている。成分αx6は、X軸方向に並ぶ各大領域32に設定されている。成分αx4,αx5,αx6は、互いに異なる値に設定されている。
大領域32では、成分αxは、Y軸方向の位置に応じて、αx4,αx5,αx6と、段階的に変化している。成分αx5が設定されている面積は、成分α4が設定されている面積よりも、大きい。また、成分αx6が設定されている面積は、成分α5が設定されている面積よりも、大きい。
図16は、ゲインαのY軸方向成分αyの分布の一例を示す図である。尚、図16では、X−Y座標系の第1象限〜第4象限のうちの、第1象限のみを示している。第2象限〜第4象限のそれぞれにおける、成分αyの分布は、第1象限における成分αyの分布と、略対称であるので、説明を省略する。
図16は、成分αyが同じである領域を、1まとまりのハッチングで示している。本実施形態では、図16に示すように、小領域31において、3種類の成分αy(αy1,αy2,αy3)が設定されている。成分αy1は、Y軸線に最も近い小領域31に設定されている。成分αy1は、Y軸方向に並ぶ各小領域31に設定されている。成分αy2は、Y軸線から2番目及び3番目の小領域31に設定されている。成分αy2は、Y軸方向に並ぶ各小領域31に設定されている。成分αy3は、Y軸線から4番目及び5番目の小領域31に設定されている。成分αy3は、Y軸方向に並ぶ各小領域31に設定されている。成分αy1,αy2,αy3は、互いに異なる値に設定されている。
小領域31では、成分αyは、X軸方向の位置に応じて、αy1,αy2,αy3と、段階的に変化している。成分αy2が設定されている面積は、成分αy1が設定されている面積よりも、大きい。また、成分αy3が設定されている面積は、成分α1が設定されている面積よりも、大きい。
また、大領域32において、3種類の成分αy(αy4,αy5,αy6)が設定されている。成分αy4は、Y軸線に最も近い大領域32に設定されている。成分αy4は、Y軸方向に並ぶ各大領域32に設定されている。成分αy5は、Y軸線から2番目及び3番目の大領域32に設定されている。成分αy5は、Y軸方向に並ぶ各大領域32に設定されている。成分αy6は、Y軸線から4番目〜6番目の大領域32に設定されている。成分αy6は、Y軸方向に並ぶ各大領域32に設定されている。成分αy4,αy5,αy6は、互いに異なる値に設定されている。
大領域32では、成分αyは、X軸方向の位置に応じて、αy4,αy5,αy6と、段階的に変化している。成分αy5が設定されている面積は、成分αy4が設定されている面積よりも、大きい。また、成分αy6が設定されている面積は、成分αy5が設定されている面積よりも、大きい。
図17は、ゲインβのX軸方向成分βxの分布の一例を示す図である。尚、図17では、X−Y座標系の第1象限〜第4象限のうちの、第1象限のみを示している。第2象限〜第4象限のそれぞれにおける、成分βxの分布は、第1象限における成分βxの分布と、略対称であるので、説明を省略する。
図17は、成分βxが同じである領域を、1まとまりのハッチングで示している。本実施形態では、図17に示すように、小領域31において、3種類の成分βx(βx1,βx2,βx3)が設定されている。また、大領域32において、3種類の成分βx(βx4,βx5,βx6)が設定されている。これらの成分βx1〜βx6の分布は、それぞれ、図15に示す成分αx1〜αx6の分布と同様であるので、詳細な説明は、省略する。
図18は、ゲインβのY軸方向成分βyの分布の一例を示す図である。尚、図18では、X−Y座標系の第1象限〜第4象限のうちの、第1象限のみを示している。第2象限〜第4象限のそれぞれにおける、成分βyの分布は、第1象限における成分βyの分布と、略対称であるので、説明を省略する。
図18は、成分βyが同じである領域を、1まとまりのハッチングで示している。本実施形態では、図18に示すように、小領域31において、3種類の成分βy(βy1,βy2,βy3)が設定されている。また、大領域32において、3種類の成分βx(βy4,βy5,βy6)が設定されている。これらの成分βy1〜βy6の分布は、それぞれ、図16に示す成分αyx1〜αyx6の分布と同様であるので、詳細な説明は、省略する。
各格子状領域30について、ゲイン設定装置40によって設定されたゲインα,βは、追尾処理装置3のゲインメモリ20に格納される。
[ゲイン設定プログラム]
本実施形態に係るゲイン設定プログラムは、コンピュータに、図8に示すゲイン設定装置40の処理を実行させるプログラムであればよい。このプログラムをコンピュータにインストールし、実行することによって、本実施形態におけるゲイン設定装置40と、ゲイン設定方法と、を実現することができる。この場合、コンピュータのCPU(Central Processing Unit)は、領域選択部41、運動シナリオ設定部42、仮想観測誤差設定部43、加算器44、評価用追尾フィルタ部45、ゲイン候補設定部46、評価値算出部47、及びゲイン決定部48として機能し、処理を行う。なお、ゲイン設定装置40は、このようにソフトウェアとハードウェアとの協働によって実現されてもよいし、ハードウェアによって実現されてもよい。
以上説明したように、ゲイン設定装置40によると、ゲインα,βを作成するための運動シナリオscは、仮想物標202の旋回運動を含んでいる。即ち、ゲイン設定装置40は、旋回運動を含む、追尾物標201の現実の運動を、運動シナリオscによって、より正確に捉えた上で、ゲインα,βを設定できる。したがって、ゲイン設定装置40は、追尾物標201をより正確に追尾するためのゲインα,βを、設定することができる。
また、ゲイン設定装置40は、追尾処理装置3におけるα−βフィルタ処理に用いられるゲインα,βを、設定する。例えば、カルマンフィルタ処理に用いるゲインの設定については、仮想物標の運動を、実際の物標の運動と厳密に一致させる必要がある。これに対して、α−βフィルタ処理に用いられるゲインα,βの設定については、仮想物標202の運動を、実際の追尾物標201の運動と厳密に一致させる必要が無い。したがって、α−βフィルタ処理に用いるゲインα,βの設定に際して、追尾処理装置3の設計者は、運動シナリオscを、より容易に設定できる。
また、ゲイン設定装置40によると、ゲイン決定部48は、評価値E1,E2に基づいて、複数のゲイン候補αc,βcのなかから、ゲインα,βを決定する。このような構成であれば、仮想物標202の運動を、数式でモデル化することなく、ゲイン設定の基準となる評価値E1,E2を算出できる。よって、数式で表現することが困難な運動シナリオscであっても、ゲイン決定部48は、容易に、当該運動シナリオscに基づいて、ゲインα,βを決定できる。また、ゲイン決定部48は、評価値E1,E2を評価するという、簡易な構成で、ゲイン候補αc,βcがゲインα,βとして適切か否かを、評価できる。よって、ゲインα,βの設定の手間を、少なくできる。
また、ゲイン設定装置40によると、ゲイン決定部48は、評価値E1,E2が最小であると判定された場合のゲイン候補αc,βcを、ゲインα,βとして決定する。この構成によると、評価値E1,E2が最小である場合のゲイン候補αc,βcを用いた追尾処理結果は、仮想物標202を、十分に正確に追尾できることを示している。したがって、この場合のゲイン候補αc,βcを、ゲインα,βとして設定することで、追尾処理装置3は、追尾物標201の運動を、より正確に追尾できる。
また、ゲイン設定装置40によると、評価値E1は、仮想物標202の平滑位置x2s(k)と、真の位置x2t(k)と、の間の誤差{x2t(k)−x2s(k)}に基づいて得られる。このような構成であれば、ゲイン設定装置40は、より正確な追尾処理を実現できるゲインα,βを、追尾処理装置3へ提供することができる。
また、ゲイン設定装置40によると、追尾用軌跡ttrは、基準軌跡tr1に、仮想観測誤差vobeが混入された軌跡である。この構成によると、ゲイン設定装置40は、追尾物標201の観測位置x1o(n)に実際に含まれる観測誤差obeを考慮した態様で、ゲインα,βを設定できる。これにより、追尾処理装置3のゲイン選択部19は、追尾物標201の追尾に適したゲインα,βを、選択できる。
また、ゲイン設定装置40によると、仮想観測誤差vobeは、仮想アンテナ誤差vobe1を含んでいる。この仮想アンテナ誤差vobe1は、鉛直軸線回りに回転するアンテナ5によって追尾物標201を観測する場合の、アンテナ誤差obe1に相当する。このアンテナ誤差obe1は、観測誤差obe中に占める割合が多い傾向にある。したがって、このアンテナ誤差obe1を模した仮想アンテナ誤差vobe1を、仮想観測誤差vobeに含めておくことで、ゲイン設定装置40は、追尾物標201の追尾にとって、より適切なゲインα,βを、設定できる。
また、ゲイン設定装置40によると、仮想観測誤差vobeは、仮想量子化誤差obe2を含んでいる。この仮想量子化誤差vobe2は、追尾物標201からのエコー信号をデジタル信号に変換して観測位置x1o(n)を得る際の、量子化処理に起因する量子化誤差obe2に相当する。この構成によると、追尾物標201のエコー信号をデジタル信号(離散信号)に変換する際に生じる誤差を考慮した状態で、ゲインα,βを設定できる。これにより、ゲイン設定装置40は、追尾物標201の追尾にとって、より適切なゲインα,βを、設定できる。
また、ゲイン設定装置40によると、ゲイン決定部48は、複数の運動シナリオsc1,sc2,sc3に基づいて、ゲインα,βを決定する。このような構成であれば、ゲイン設定装置40は、種々の態様で移動する追尾物標201を、より正確に追尾するためのゲインα,βを、設定できる。
また、ゲイン設定装置40によると、複数の運動シナリオsc1,sc2,sc3において、各基準軌跡tr1,tr2,tr3の形状は互いに同一に設定され、且つ、基準軌跡tr1,tr2,tr3の向きは、互いに異ならされている。このような構成によると、ゲイン決定部48は、追尾物標201の種々の進行方向を考慮した態様で、ゲインα,βを設定できる。
また、本実施形態で説明したように、観測原点Oからの位置に応じて、観測誤差obeは、異なる。例えば、観測位置x1o(n)が、観測原点Oから比較的近ければ、観測位置x1o(n)に含まれる観測誤差obeは、比較的小さい。一方、観測位置x1o(n)が、観測原点Oから比較的遠ければ、観測位置x1o(n)に含まれる観測誤差obeは、比較的大きくなる。これは、観測原点Oから遠いほど、アンテナ誤差obe1の影響によって、正確な観測位置x1o(n)を得ることが、より難しくなることに起因している。そこで、観測原点Oからの位置に応じて、ゲインα,βを複数設定することで、上記の観測誤差obeに応じたゲインα,βを設定できる。その結果、追尾処理装置3のゲイン選択部19は、追尾物標201の観測位置x1o(n)に応じた適切なゲインα,βを、選択できる。
また、ゲイン設定装置40によると、ゲイン決定部48は、格子状領域30毎に、ゲインα,βを決定する。このように、格子状領域30毎にゲインα,βを設定することで、ゲイン決定部48は、観測原点Oからの位置に応じた、適切なゲインα,βを、設定できる。
また、ゲイン設定装置40によると、複数の格子状領域30は、それぞれ、観測原点Oを原点とする、直交座標系で規定されている。この構成によると、ゲイン設定装置40は、追尾物標201をより正確に追尾するためのゲインα,βを、設定できる。この理由について、ゲインα,βを規定する領域を、図19に示す極座標系である、R−θ座標系で規定した場合との対比で説明する。このR−θ座標系の原点は、観測原点OVである。また、R−θ座標系における各領域30Vについては、観測原点OVからの距離が、距離rVで規定されており、且つ、観測原点OV回りの角度が、角度θVで規定されている。領域30Vは、観測原点OVから遠ざかる方向としての距離方向においては、一定の間隔毎で区切られている。また、領域30Vは、観測原点OV回りの一定の角度毎に、区切られている。この構成により、各領域30Vの形状は、扇形又はリングの一部形状となる。このような扇形の領域30Vでは、観測原点OVから遠いほど、各領域30Vの面積は、大きくなってしまう。即ち、観測原点OVから遠い領域ほど、ゲイン設定に関する分解能が低くなってしまう。
これに対して、ゲイン設定装置40によると、各格子状領域30の大領域32の形状は、一定の大きさとなる。即ち、観測原点Oから遠い領域であっても、ゲイン設定に関する分解能が低くなってしまうことがない。その結果、追尾処理装置3は、観測原点Oから遠い領域で観測された追尾物標201について、適切なゲインα,βを設定することができる。よって、追尾処理装置3は、追尾物標201を、より正確に追尾できる。また、観測原点Oの近傍の領域については、アンテナ誤差obeは小さい。よって、観測原点Oの近傍の追尾物標201についても、追尾処理装置3は、正確に追尾できる。このように、追尾処理装置3は、追尾物標201が観測原点Oの近傍に存在している場合と、観測原点Oの遠方に存在している場合の、何れの場合についても、当該追尾物標201を、より正確に追尾できる。
また、ゲイン設定装置40によると、観測原点Oを中心とするX−Y座標系は、地球の表面に対する向きが一定である。このような構成によると、観測原点O(自船100)と追尾物標201との相対移動に影響されることなく、追尾物標201をより正確に追尾できるゲインα,βを、ゲイン設定装置40によって設定できる。
ここで、仮に、X−Y座標系の向きが、自船100の向きに応じて変更される場合を考える。この場合、X−Y座標系で見ると、自船100の旋回運動等、自船100と追尾物標201との相対移動に起因して、追尾物標201に、みかけの運動が生じてしまう。このため、このみかけの運動に起因して、追尾処理装置3のゲイン選択部19で選択されるゲインα,βが、本来選択されるべき適切なゲインα,βと異なってしまう。その結果、追尾物標201を正確に追尾できないおそれがある。
これに対し、ゲイン設定装置40によると、地球の表面に対するX−Y座標系の向きは、自船100の向きに拘わらず、一定である。このため、X−Y座標系から見た場合に、自船100と追尾物標201との相対移動に起因して、追尾物標201に、みかけの運動が生じることを防止できる。その結果、追尾処理装置3のゲイン選択部19は、みかけの運動の影響を受けること無く、追尾物標201の追尾に適したゲインα,βを設定できる。したがって、追尾処理装置3は、追尾物標201を、より正確に追尾できる。
また、ゲイン設定装置40によると、複数の格子状領域30として、小領域31と、この小領域31の範囲よりも広い範囲を有する大領域32と、が設定されている。そして、小領域31から観測原点Oまでの距離は、大領域32から観測原点Oまでの距離よりも小さい。X−Y座標系においては、観測原点Oの近傍では、追尾物標201が単位距離だけ移動した場合の、観測原点Oに対する追尾物標201の位置の変化率は、比較的大きい。したがって、観測原点Oの近傍における追尾物標201の運動に対しては、小領域31を設定することで、ゲインα,βをきめ細かく設定している。これにより、観測原点Oの近傍の追尾物標201を、より正確に追尾できる。
以上の次第で、追尾処理装置3の追尾フィルタ部18は、運動シナリオscに基づいて決定された複数のゲインα,βのなかから選択された、適切なゲインα,βを用いる。これにより、追尾フィルタ部18は、追尾物標201をより正確に追尾できるゲインα,βを用いて、追尾物標201の平滑位置x1s(n)、及び平滑速度V1(n)を、より正確に算出できる。即ち、追尾処理装置3は、追尾物標201を、より正確に追尾できる。
以上、本発明の実施形態について説明したけれども、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能である。例えば、次のように変更して実施してもよい。
(1)上述の実施形態では、ゲインα,βは、それぞれ、1つの格子状領域30内では一定である構成を例に説明した。しかしながら、この通りでなくてもよい。例えば、ゲインα,βは、それぞれ、1つの格子状領域30内においても、観測位置x1o(n)に応じて、変化するように設定されてもよい。
図20及び図21は、本発明の変形例における、追尾処理装置3のゲイン選択部19での処理を説明するための、模式図である。図20は、複数の格子状領域30のそれぞれに、ゲインα,βが設定されている状態を示している。図21及び図22に示すように、この変形例では、各格子状領域30の中心点spに、それぞれ、ゲインα,βが設定されている。このように、ゲインα,βは、X−Y座標系において、互いに離隔した位置に配置されている。
図21に示すように、観測位置x1o(n)が、予めゲインα,βの設定されていない位置である場合、ゲイン選択部19は、線形補間処理によって、当該観測位置x1o(n)のゲインα,βを設定する。具体的には、ゲイン選択部19は、観測位置x1o(n)に近い、4つの中心点spでのゲインα,βを抽出する。本変形例では、これらのゲインとして、ゲイン(α1,β1),(α2,β2),(α3,β3),(α4,β4)が、例示されている。
ゲイン選択部19は、まず、X軸方向に並ぶ2つのゲイン(α1,β1),(α2,β2)について、1次元の線形補間により、第1の補正ゲインα5,β5を得る。第1の補正ゲインα5,β5が設定される位置は、2つのゲイン(α1,β1),(α2,β2)が設定されている位置を結んだ線分LS11上の位置であり、且つ、観測位置x1o(n)とはX軸方向の位置が同じである。
また、ゲイン選択部19は、X軸方向に並ぶ2つのゲイン(α3,β3),(α4,β4)について、1次元の線形補間により、第2の補正ゲインα6,β6を得る。第2の補正ゲインα6,β6が設定される位置は、2つのゲイン(α3,β3),(α4,β4)が設定されている位置を結んだ線分LS12上の位置であり、且つ、観測位置x1o(n)とはX軸方向の位置が同じである。
次に、ゲイン選択部19は、第2の補正ゲインα5,β5と、第3の補正ゲインα6,β6について、1次元の線形補間により、第3の補正ゲインα7,β7を得る。第3の補正ゲインα7,β7が設定される位置は、2つの補正ゲイン(α5,β5),(α6,β6)が算出された位置を結んだ線分LS13上の位置であり、且つ、観測位置x1o(n)と一致している。即ち、第3の補正ゲインα7,β7は、観測位置x1o(n)でのゲインとして設定される。
この変形例にかかる追尾処理装置3によると、各ゲインα,βは、X−Y座標系において、互いに離隔した位置に設定されている。そして、ゲインα,βが予め設定されている位置以外の位置に観測位置x1o(n)が存在している場合、ゲイン選択部19は、当該観測位置x1o(n)の近傍の複数のゲイン(α1,β1),(α2,β2),(α3,β3),(α4,β4)を用いた線形補間処理を行う。これにより、ゲイン選択部19は、観測位置x1o(n)でのゲインα7,β7を算出する。
このような変形例によると、ゲインα,βを、観測位置x1o(n)に応じて、より細かく設定することができる。これにより、追尾フィルタ部18は、追尾物標201を、より正確に追尾できる。また、隣接する格子状領域30,30の境界近傍において、観測位置x1o(n)の僅かな違いによって、ゲインα,βが急激に変化することを、抑制できる。
(2)また、ゲイン設定装置は、運動シナリオに基づいて、ゲインを決定できる形態であればよい。したがって、ゲイン設定装置は、少なくとも運動シナリオ設定部と、ゲイン決定部と、を有していればよい。
(3)また、上述の実施形態では、追尾処理装置は、α−βフィルタ処理によって、追尾物標を追尾する形態を例に説明した。しかしながら、この通りでなくてもよい。例えば、追尾処理装置は、カルマンフィルタ処理によって、追尾物標を追尾してもよい。この場合、追尾物標の運動を、より正確に追尾することもできる。このようなカルマンフィルタ処理に適したゲインを、ゲイン設定装置は、カルマンフィルタ処理を用いて設定できる。
(4)また、上述の実施形態では、ゲイン設定装置において、3つの運動シナリオに基づいて、ゲインが決定される形態を例に説明した。しかしながら、この通りでなくてもよい。例えば、ゲイン設定装置は、1つ、2つ、又は4つ以上の運動シナリオに基づいて、ゲインを決定してもよい。
(5)また、上述の実施形態では、ゲイン設定装置は、ゲインを、追尾物標の観測位置に応じて、複数設定する形態を例に説明した。しかしながら、この通りでなくてもよい。例えば、ゲイン設定装置は、ゲインα,βのそれぞれについて、1種類のみ設定してもよい。
(6)また、上述の実施形態では、格子状領域として小領域を設ける形態を例に説明した。しかしながら、この通りでなくてもよい。例えば、格子状領域の全てが、大領域であってもよい。
(7)また、上述の実施形態では、追尾処理装置が、レーダ装置に適用された形態を例に説明した。しかしながら、この通りでなくてもよい。例えば、追尾処理装置は、水中を探知するためのソナー装置に適用されてもよい。
(8)また、上述の実施形態では、追尾処理装置が、船舶用の追尾処理装置である形態を例に説明した。しかしながら、本発明は、船舶用の追尾処理装置に限らず、航空機等の、他の物標を追尾するための追尾処理装置として、適用できる。
[実施例、及び比較例の作製]
実施例、及び比較例を作製した。実施例は、図1に示す追尾処理装置3である。比較例は、ゲインα,βを一定の値として設定している点以外は、追尾処理装置3と同じ構成である。
[試験条件]
図22に示すように、軌跡treに沿って進行している物標を、図1に示すアンテナユニット2によって、観測した。軌跡treは、物標が平面視で矩形上に移動する状態を示している。実施例のエコー検出部12、及び比較例のエコー検出部12は、このアンテナユニット2で得られたエコー信号に基づいて、単位時間毎の観測位置xo(n)を、検出した。各時間の観測位置xo(n)は、実施例及び比較例において、同一である。
実施例の追尾フィルタ部18は、観測位置xo(n)に応じたゲインα,βを用いて、平滑位置xgs(n)を算出した。一方、比較例の追尾フィルタ部は、観測位置xo(n)に拘わらず、一定のゲインα,βを用いて、平滑位置xbs(n)を算出した。
結果を、図23〜図26に示す。図23は、比較例で算出された平滑位置xbs(n)と、物標の軌跡treと、を示す図である。図24は、図23の一部を拡大した図である。図25は、実施例で算出された平滑位置xgs(n)と、物標の軌跡treと、を示す図である。図26は、図25の一部を拡大した図である。尚、図23〜図26において、軌跡treは、破線で示しており、平滑位置xbs(n),xgs(n)は、実線で示している。
図23及び図24に示すように、比較例では、軌跡treのうち物標の変針運動を示す部分に対する、平滑位置xbs(n)は、軌跡treから大きく外れている。このため、物標が変針運動から、直進運動へ移行した後でも、平滑位置xbs(n)は、軌跡treから大きくずれた状態が永く続いている。
一方、図25及び図26に示すように、実施例では、軌跡treのうち物標の変針運動を示す部分と、平滑位置xgs(n)とのずれ量z1は、極めて小さい。このずれ量z1は、比較例における、物標の変針運動を示す部分と、平滑位置xbs(n)とのずれ量z2の1/4程度に過ぎない。また、軌跡treのうち物標の直進運動を示す部分と、平滑位置xgs(n)とのずれ量も極めて小さい。
上記のように、実施例は、軌跡treからの平滑位置xgs(n)のずれ量を、極めて小さくできる。以上より、実施例が、物標を極めて正確に追尾できることを、実証できた。