以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しつつ説明する。本発明は、追尾対象として選択された物標を追尾する、追尾処理装置、レーダ装置、および、追尾処理方法として広く適用することができる。以下では、追尾対象として設定された物標を「追尾物標」という。また、以下では、図中同一または相当部分には、同一符号を付してその説明は繰り返さない。
図1は、本発明の実施形態に係る追尾処理装置3を含む、レーダ装置1のブロック図である。本実施形態のレーダ装置1は、たとえば、漁船等の船舶に備えられる舶用レーダである。レーダ装置1は、主に他船等の物標の探知に用いられる。また、レーダ装置1は、追尾物標として選択された物標を追尾することが可能に構成されている。レーダ装置1は、複数の追尾物標を、同時に追尾可能に構成されている。レーダ装置1は、追尾物標の運動状態を推定するように構成されている。本実施形態では、レーダ装置1は、上記運動状態として、追尾物標の推定速度ベクトルを算出する。推定速度ベクトルとは、追尾物標について推定される、進行方向および進行速度を示すベクトルである。レーダ装置1は、追尾物標の推定速度ベクトルを、画面に表示する。尚、以下では、レーダ装置1が備えられている船舶を「自船」という。
図1に示すように、レーダ装置1は、アンテナユニット2と、追尾処理装置3と、表示器4と、を備えている。
アンテナユニット2は、アンテナ5と、受信部6と、A/D変換部7と、を含んでいる。
アンテナ5は、指向性の強いパルス状電波を送信可能なレーダアンテナである。また、アンテナ5は、物標からの反射波であるエコー信号を受信するように構成されている。即ち、物標のエコー信号は、アンテナ5からの送信信号に対する、物標での反射波である。レーダ装置1は、パルス状電波を送信してからエコー信号を受信するまでの時間を測定する。これにより、レーダ装置1は、物標までの距離rを検出することができる。アンテナ5は、水平面上で360°回転可能に構成されている。アンテナ5は、パルス状電波の送信方向を変えながら(アンテナ角度を変えながら)、電波の送受信を繰り返し行うように構成されている。以上の構成で、レーダ装置1は、自船周囲の平面上の物標を、360°にわたり探知することができる。
なお、以下の説明では、パルス状電波を送信してから次のパルス状電波を送信するまでの動作を「スイープ」という。また、電波の送受信を行いながらアンテナを360°回転させる動作を「スキャン」と呼ぶ。以下では、あるスキャンのことを、「nスキャン」といい、nスキャンから1個前のスキャンのことを、「n−1スキャン」という。同様に、nスキャンからm個前のスキャンのことを、「n−mスキャン」という。尚、n、mは、何れも自然数である。また、以下では、動作について特に説明なき場合、nスキャン時点におけるレーダ装置1の動作を説明する。
受信部6は、アンテナ5で受信したエコー信号を検波して増幅する。受信部6は、増幅したエコー信号を、A/D変換部7へ出力する。A/D変換部7は、アナログ形式のエコー信号をサンプリングし、複数ビットからなるデジタルデータ(エコーデータ)に変換する。ここで、上記エコーデータは、アンテナ5が受信したエコー信号の強度(信号レベル)を特定するデータを含んでいる。A/D変換部7は、エコーデータを、追尾処理装置3へ出力する。
追尾処理装置3は、複数の物標の中から選択された物標を、追尾物標として特定し、且つ、当該追尾物標の追尾処理を行うように構成されている。より具体的には、追尾処理装置3は、追尾物標の推定速度ベクトル、追尾物標の推定位置、および、平滑位置等を算出するように構成されている。
追尾処理装置3は、CPU、RAMおよびROM(図示せず)等を含むハードウェアを用いて構成されている。また、追尾処理装置3は、ROMに記憶された追尾処理プログラムを含む、ソフトウェアを用いて構成されている。
上記追尾処理プログラムは、本発明に係る追尾処理方法を、追尾処理装置3に実行させるためのプログラムである。上記ハードウェアとソフトウェアとは、協働して動作するように構成されている。これにより、追尾処理装置3を、信号処理部9、エコー検出部10、および追尾処理部11等として機能させることができる。追尾処理装置3は、1スキャン毎に、以下に説明する処理を行うように構成されている。
追尾処理装置3は、信号処理部9と、エコー検出部(検出部)10と、追尾処理部11と、を有している。
信号処理部9は、フィルタ処理等を施すことにより、エコーデータに含まれる干渉成分と、不要な波形データと、を除去するように構成されている。信号処理部9は、処理したエコーデータを、エコー検出部10へ出力する。
エコー検出部10は、物標エコー像の検出と、物標エコー像に関するエコーデータの特徴情報の検出とを、行うように構成されている。即ち、エコー検出部10は、物標エコー像検出部と、特徴情報抽出部と、を含んでいる。信号処理部9およびエコー検出部10によって、物標の特徴情報を検出するための検出部が、構成されている。
エコー検出部10は、信号処理部9からエコーデータを読み出すときの読出しアドレスに基づいて、自船から当該エコーデータに対応する位置までの距離rを求める。また、アンテナ5からエコー検出部10へは、当該アンテナ5が現在どの方向を向いているか(アンテナ角度θ)を示すデータが出力されている。以上の構成で、エコー検出部10は、エコーデータを読み出す際には、当該エコーデータに対応する位置を、距離rとアンテナ角度θとの極座標で取得することができる。
エコー検出部10は、エコーデータに対応する位置に物標が存在するか否かを検出するように構成されている。エコー検出部10は、たとえば、エコーデータに対応する位置の信号レベル、即ち、信号強度を判別する。エコー検出部10は、信号レベルが所定のしきいレベル値以上である位置には、物標が存在していると判別する。
次いで、エコー検出部10は、物標が存在している範囲を検出する。エコー検出部10は、たとえば、物標が存在している一まとまりの領域を、物標エコー像が存在している領域として検出する。このようにして、エコー検出部10は、エコーデータを基に、物標エコー像を検出する。この物標エコー像の外郭形状は、物標の外郭形状と略合致する。但し、エコーデータに含まれるノイズ等に起因して、この物標エコー像の外郭形状と、物標の外郭形状とは、わずかに異なる。次に、エコー検出部10は、エコーデータを用いて、物標エコー像に関連する特徴情報を抽出する。
図2は、自船100と、物標エコー像120との関係を説明するための模式的な平面図である。図2では、物標エコー像120は、矩形の像として例示されている。また、図2では、物標エコー像120によって特定される物標130が示されている。図2では、物標130の外郭形状は、物標エコー像120と合致した状態で表示されている。
図1および図2に示すように、極座標系では、自船100の位置としての自船位置M1を基準として、自船位置M1からの直線距離が、距離rとして示され、自船位置M1周りの角度が、角度θとして示される。本実施形態では、自船位置M1は、アンテナ5の位置に相当する。エコー検出部10は、物標エコー像120の代表点Pの抽出に際しては、自船位置M1を中心とする、リング状部分の一部形状の像110を用いる。この像110は、第1直線111、第2直線112、第1円弧113、および第2円弧114によって囲まれた領域の像である。
第1直線111は、物標エコー像120の後縁120aのうち自船位置M1に最も近い点と、自船位置M1と、を通る直線である。第2直線112は、物標エコー像120の前縁120bのうち自船位置M1に最も近い点と、自船位置M1と、を通る直線である。第1円弧113は、物標エコー像120のうち自船位置M1から最も近い部分120cを通る円弧である。第1円弧113の曲率中心点は、自船位置M1である。第2円弧114は、物標エコー像120のうち自船位置M1から最も遠い部分120dを通る円弧である。第2円弧114は、第1円弧113と同心である。
図3は、物標エコー像120(物標130)に関して抽出されるデータを説明するためのデータ一覧表である。図1〜図3に示すように、本実施形態では、信号処理部9およびエコー検出部10は、協働して、物標エコー像120(物標130)について、下記8個のデータを、特徴情報データとして抽出する。即ち、エコー検出部10は、エコーデータ、および物標エコー像120の画像データを基に、1つの物標エコー像120毎に、下記8個のテキストデータを抽出する。本実施形態では、8個のテキストデータとは、距離rpのデータ202と、終了角度θeのデータ203と、角度幅θwのデータ204と、最前縁距離rnのデータ205と、最後縁距離rfのデータ206と、面積arのデータ207と、代表点Pの座標データ208と、時刻tmのデータ209と、である。
距離rpは、自船位置M1から物標エコー像120の代表点Pまでの直線距離である。本実施形態では、代表点Pは、物標エコー像120の図心点である。終了角度θeは、物標エコー像120の検出が終わった時点における、前述のアンテナ角度θである。角度幅θwは、物標エコー像120について、自船位置M1回りの角度方向の幅である。角度幅θwは、第1直線111と第2直線112とがなす角度でもある。最前縁距離rnは、物標エコー像120の部分120cと、自船位置M1との距離である。最後縁距離rfは、物標エコー像120の部分120dと、自船位置M1との距離である。時刻tmは、物標エコー像120を検出した時点の時刻である。これら8個の特徴情報は、何れも、数値によって表される情報である。
エコー検出部10で検出された複数の物標エコー像120の一例を、図4に示している。図4は、エコー検出部10で検出された、物標エコー像120を示す模式的な平面図である。図4では、一例として、nスキャン時点における4つの物標エコー像120(121,122,123,124)を示している。図4では、物標エコー像120(121,122,123,124)の形状は、それぞれ、物標130(131,132,133,134)の形状と合致している。
物標エコー像121によって特定される物標131,物標エコー像122によって特定される物標132,および物標エコー像123によって特定される物標133は、たとえば、小型船舶である。物標エコー像124によって特定される物標134は、たとえば、大型船舶である。エコー検出部10は、nスキャン時点において、代表点Pとして、物標エコー像121の代表点P1(n)と、物標エコー像122の代表点P2(n)と、物標エコー像123の代表点P3(n)と、物標エコー像124の代表点P4(n)と、を検出している。以下では、物標131が、追尾物標140である場合を例に説明する。
図1〜図4に示すように、エコー検出部10は、各物標エコー像120についての特徴情報データ202〜209を、追尾処理部11へ出力する。
追尾処理部11は、複数の物標120のなかから、追尾物標140を特定し、且つ、当該追尾物標140の追尾処理を行うように構成されている。追尾物標140は、たとえば、表示器4に表示された、複数の物標130を示すシンボル等を基に、オペレータによって選択される。オペレータによる、追尾物標140の選択指令は、たとえば、オペレータが操作装置(図示せず)を操作することにより、発せられる。本実施形態では、追尾処理部11は、特に説明無き限り、X−Y座標系を基準に、処理を行うように構成されている。
追尾処理部11は、nスキャン時点(最新のスキャン時点)における、追尾物標140の推定速度ベクトルV1(n)を算出するように構成されている。また、追尾処理部11は、推定速度ベクトルV1(n)を表示器4に表示させるように、構成されている。
追尾処理部11は、特徴情報メモリ12と、選別部13と、関連付け部(尤度判定部)14と、運動推定部15と、を有している。
特徴情報メモリ12は、信号処理部9、エコー検出部10、および、運動推定部15から出力されたデータを蓄積するように構成されている。また、特徴情報メモリ12は、後述する関数f1,f2に関連するデータを蓄積するように構成されている。また、特徴情報メモリ12は、後述する領域尤度ALhに関するデータを記憶している。特徴情報メモリ12は、(n−T)スキャン時点から、nスキャン時点までの各時点における、全ての物標エコー像120について、特徴情報データ202〜209を蓄積している。尚、定数Tは、予め設定されている値であり、たとえば、数十程度である。
選別部13は、選別領域S1(n)を設定するように構成されている。選別領域S1(n)は、nスキャン時点における、追尾物標140の代表点(追尾代表点)PR(n)を選別するための領域である。選別部13は、エコー検出部10、関連付け部14、および運動推定部15に接続されている。
選別部13は、エコー検出部10から、nスキャン時点における、各物標エコー像120の代表点P(P1(n)〜P4(n))の座標データを受け付ける。また、選別部13は、(n−1)スキャン時点を算出基準時点とする、追尾物標140の推定速度ベクトルV1(n−1)のデータを、受け付ける。本実施形態では、選別部13は、運動推定部15から、上記推定速度ベクトルV1(n−1)のデータを受け付ける。推定速度ベクトルV1(n−1)は、(n−1)スキャン時点において推定された、追尾物標140の代表点PR(n)の運動ベクトルである。
次に、選別部13は、追尾物標140の推定位置PRe(n−1)を検出する。この推定位置PRe(n−1)は、推定速度ベクトルV1(n−1)によって特定される位置であり、推定速度ベクトルV1(n−1)の終点である。推定位置PRe(n−1)は、nスキャン時点において、追尾物標140の代表点PR(n)が到達すると推定される位置である。選別部13は、この推定位置PRe(n−1)を中心にして、所定の半径を有する選別領域S1(n)を設定する。図4は、選別領域S1内に、物標エコー像121,122の代表点P1(n),P2(n)が含まれた状態を例示している。選別部13は、代表点P1(n),P2(n)のそれぞれについて、座標データ208を、関連付け部14へ出力する。
関連付け部14は、推定位置PRe(n−1)と、nスキャン時点における追尾物標140の代表点PR(n)と、を関連付ける処理を行う。本実施形態では、関連付け部14は、選別領域S1(n)内の代表点P1(n),P2(n)のそれぞれについて、追尾物標140の代表点PR(n)に該当する結合尤度Lh100,Lh200を算出する。関連付け部14は、この結合尤度Lh100,Lh200に基づいて、nスキャン時点における追尾物標140の代表点PR(n)を特定する。
関連付け部14は、関数更新部21と、尤度算出部22と、尤度比較部23と、を有している。
関数更新部21は、関連付け処理に用いる関数を更新するように構成されている。この関数として、本実施形態では、確率密度関数(ガウス関数、正規分布関数)等が用いられる。本実施形態において、確率密度関数は、平均、および分散を有する関数である。本実施形態では、確率密度関数は、過去の追尾結果を基に更新される。
本実施形態では、確率密度関数に用いられる特徴情報として、代表点PR(n)の位置情報と、面積arの情報と、が挙げられる。なお、確率密度関数に用いられる特徴情報として、代表点PR(n)の位置情報以外の情報は、無くてもよい。本実施形態では、1つの確率密度関数pdfが設定されている。
確率密度関数pdfは、代表点PRの位置の次元の関数f1と、面積arの次元の関数f2と、によって特定される関数である。関数f1,f2は、それぞれ、確率密度関数であり、確率密度関数pdfは、多次元の確率密度関数である。関数更新部21は、関数f1,f2を更新することで、確率密度関数pdfを更新する。尚、以下では、各上記関数f1,f2を総称していう場合に、単に関数fという場合がある。
以下では、関数更新部21における、確率密度関数pdfを更新する処理の流れの一例を説明する。図5は、関数更新部21における、確率密度関数pdfの更新についての処理の流れの一例を説明するためのフローチャートである。追尾処理装置3は、以下に示すフローチャートの各ステップを、図示しないメモリから読み出して実行する。このプログラムは、外部からインストールできる。このインストールされるプログラムは、たとえば記録媒体に格納された状態で流通する。追尾処理装置3での処理は、各スキャン時点毎に行われる。また、本実施形態では、フローチャートについて説明する場合には、フローチャート以外の図面についても、適宜参照する。
本実施形態では、関数更新部21は、最尤推定処理を行う。具体的には、図5に示すように、関数更新部21は、確率密度関数pdfを更新するための特徴情報を選択する(ステップS101)。関数更新部21は、たとえば、まず、代表点PRの位置情報を選択する。即ち、関数更新部21は、代表点PRの位置に関する関数f1を更新する。
図6は、代表点PRについて、関数更新部21で更新される関数f1の一例を示すグラフ図である。関数f1は、平均μ11,μ12、および分散σ112,σ122を有している。本実施形態において、平均は、各関数fにおける推定値に相当する。即ち、本実施形態の各関数fにおいて、平均の値として用いられる値は、対応する特徴情報について、尤度Lhが算出される前に予め推定された値である。図6のグラフのx軸は、x座標を示しており、y軸は、y座標を示している。また、図6のグラフの縦軸(z軸)は、尤度Lhを示している。
関数更新部21は、関数f1における平均μ11,μ12を算出する(ステップS102)。具体的には、関数更新部21は、追尾物標140の代表点PR(n−1)について、x座標の平均μ11、およびy座標の平均μ12を算出する。
本実施形態では、平均μ11は、下記式(1)によって算出される。
尚、Δdx
iは、任意のiスキャン時点における、代表点PR(i)のx座標の予測誤差である。より具体的には、Δdx
iは、iスキャン時点における、代表点PR(i)のx座標の(観測値−予測値)である。この場合の観測値とは、iスキャン時点でエコー検出部10によって検出された、代表点PR(i)のx座標である。また、予測値とは、(i−1)スキャン時点において運動推定部15で予測された、代表点PR(i)のx座標である。したがって、平均μ11は、(n−T)スキャン時点から(n−1)スキャン時点までの各スキャン時点における、代表点PRのx座標の予測誤差を平均した値である。
平均μ12は、平均μ11と同様にして算出される。即ち、平均μ12は、(n−T)スキャン時点から(n−1)スキャン時点までの各スキャン時点における、代表点PRのy座標の予測誤差を平均した値である。
次に、関数更新部21は、関数f1の分散σ112,σ122を算出する(ステップS103)。即ち、関数更新部21は、関数f1のx軸方向についての分散σ112と、y軸方向についての分散σ122と、を算出する。
本実施形態では、分散σ11
2は、下記式(2)によって算出される。
分散σ122は、平均μ11と同様にして算出される。即ち、分散σ122は、式(2)のΔdxiをΔdyiに置き換え、且つ、μ11をμ12に置き換えた式によって算出される。このように、関数更新部21は、平均μ11,μ12、および分散σ112,σ122を算出する。関数更新部21は、平均μ11,μ12、および分散σ112,σ122を算出することで、関数f1を更新する。
次に、関数更新部21は、関数f1,f2の全てが更新されたか否かを判定する(ステップS104)。この場合、関数f2は、未だ更新されていない(ステップS104でNO)。よって、関数更新部21は、ステップS101〜S104の処理を繰り返す。
具体的には、関数更新部21は、確率密度関数pdfを更新するための特徴情報を選択する(ステップS101)。この場合、関数更新部21は、特徴情報として、面積arの情報を選択する。即ち、関数更新部21は、関数f2を更新する。
図7は、nスキャン時点における追尾物標140の面積arについて、関数更新部21で更新される関数f2の一例を示すグラフ図である。図7に示すように、関数f2は、平均μ2、分散σ22を有している。図7のグラフの横軸は、面積arを示している。図7のグラフの縦軸は、尤度Lhを示している。
関数更新部21は、関数f2における平均μ2を算出する(ステップS102)。平均μ2は、関数更新部21によって、たとえば、以下のようにして算出される。即ち、関数更新部21は、まず、特徴情報メモリ12を参照する。これにより、関数更新部21は、(n−1)スキャン時点から、(n−T)スキャン時点までの各スキャン時点について、追尾物標140として設定された物標131における面積arのデータ207を参照する。そして、関数更新部21は、(n−1)スキャン時点から、(n−T)スキャン時点までの間における、上記面積arの平均値を算出する。関数更新部21は、この平均値を、平均μ2として設定する。尚、関数更新部21は、(n−1)スキャン時点での追尾物標(物標131)についての面積arを、平均μ2として設定してもよい。
次に、関数更新部21は、関数f2の分散σ22を算出する(ステップS103)。関数更新部21は、たとえば、最尤推定処理を行う。これにより、関数更新部21は、関数f2の分散σ22を算出する。このように、関数更新部21は、平均μ2および分散σ22を算出することで、関数f2を更新する。
次に、関数更新部21は、関数f1,f2の全てが更新されたか否かを判定する(ステップS104)。この場合、関数f1,f2の全てが更新されている(ステップS104でYES)。よって、関数更新部21は、関数f1,f2によって特定される確率密度関数pdfのデータを、尤度算出部22へ出力し(ステップS105)、処理を終了する。
上記の構成により、関数f1,f2は、それぞれ、独立して更新される。また、関数f1,f2は、それぞれ、固定された関数ではなく、各スキャン時点毎に変化する関数である。
また、尤度算出部22は、追尾物標140が位置し得る領域としての到達予測領域EAに基づいて、所定の領域尤度ALhを算出するように構成されている。領域尤度ALhは、物標130について、到達予測領域EAに存在するか否か基づいて設定される尤度である。関連付け部14は、追尾物標140についての予め設定された運動モデルに基づいて、選別領域S1(n)内の物標131,132の何れが追尾物標140であるかを特定するための領域尤度ALh(ALh1,ALh2)を算出する。そして、関連付け部14は、算出した領域尤度ALh1,ALh2に基づいて、複数の物標131,132のなかから追尾物標140を特定するように構成されている。
図8は、到達予測領域EAについて説明するための模式図である。図1、図4および図8を参照して、領域尤度ALhを設定するための到達予測領域EA(運動モデル)は、追尾物標140である船舶が所定の条件下で運動したと仮定した場合において、当該船舶が到達し得る領域を特定している。より具体的には、到達予測領域EAは、追尾物標140である船舶が位置し得る領域を特定するデータを含んでいる。到達予測領域EAを特定するデータは、特徴情報メモリ12に格納されている。
本実施形態では、到達予測領域EAは、右舷側到達予測領域EARと、左舷側到達予測領域EALと、を含んでいる。到達予測領域EAの形状は、右舷側到達予測領域EARと左舷側到達予測領域EALとを、推定速度ベクトルV1(n−1)を境にして繋ぎ合わせた形状に相当する。なお、図8では、右舷側到達予測領域EARと左舷側到達予測領域EALとを分離して表示している。右舷側到達予測領域EARは、追尾物標140が所定の平均速度Vav(本実施形態では、5kn)で、右舷側に所定の旋回角度範囲θb内で所定時間運動したときに、追尾物標140が位置し得る領域である。「右舷側に所定の旋回角度範囲θb」とは、たとえば、追尾物標140が直進する(旋回角度=ゼロ)状態と、所定の想定上での最大平均旋回角度(たとえば、5deg/sec)との間の旋回角度範囲をいう。右舷側到達予測領域EARは、平面視において、略扇形の領域である。
右舷側到達予測領域EARと、左舷側到達予測領域EALは、推定速度ベクトルV1(n−1)を基準として、線対称な形状の領域である。したがって、右舷側到達予測領域EARおよび左舷側到達予測領域EALの何れか一方のみを特徴情報メモリ12に記憶しておき、他方については、尤度算出部22において、一方の領域に基づいて演算によって設定されてもよい。また、右舷側到達予測領域EARおよび左舷側到達予測領域EALの双方が特徴情報メモリ12に記憶されてもよい。尤度算出部22は、右舷側到達予測領域EARと左舷側到達予測領域EALとを、推定速度ベクトルV1(n−1)を境界としてつなぎ合わせた領域を、到達予測領域EAとして設定する。
到達予測領域EAは、たとえば、時間別に複数設定されている。本実施形態では、到達予測領域EAは、直近の時点((n−1)スキャン時点)から現在の時点(nスキャン時点)までの間における追尾物標140の到達予測領域を、所定時間毎に設定することで得られる領域である。
より具体的には、時間別に、到達予測領域EA(EA2〜EA13)が設定されている。なお、到達予測領域EA2〜EA13を総称していう場合、単に到達予測領域EAという。図9は、到達予測領域EAの一例(EA2,EA5,EA10)を示す図である。図1、図4、図8および図9を参照して、到達予測領域EA2は、追尾物標140が所定の平均速度Vavで、右舷側または左舷側に所定の旋回角度範囲θb内で2秒間運動したときに、追尾物標140が位置し得る領域である。到達予測領域EA2は、平面視において、扇形の領域である。
同様に、到達予測領域EA3〜EA13は、それぞれ、追尾物標140が所定の平均速度Vavで、右舷側または左舷側に所定の旋回角度範囲θb内で3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13秒間運動したときに、追尾物標140が位置し得る領域である。なお、到達予測領域EAは、アンテナ5が1回転する時間単位(スキャン時間単位)毎に設定されていてもよい。
上記のように、到達予測領域EAは、追尾物標140を特定する時間間隔が大きくなるに従い、大きくなるように設定されている。
尤度算出部22は、到達予測領域EAのデータと、(n−1)スキャン時点を算出基準時点とする、平滑位置PRs(n−1)のデータと、追尾物標140の推定速度ベクトルV1(n−1)のデータと、を受け付ける。平滑位置PRs(n−1)は、(n−2)スキャン時点において推定された追尾物標140の推定位置PRe(n−2)(速度ベクトルV(n−2)の終点)と、(n−1)スキャン時点で検出された、追尾物標140の代表点P1(n−1)との間の位置(平滑位置)である。
図10は、到達予測領域EAの設定について説明するための模式図である。図1、図4および図10を参照して、本実施形態では、追尾処理装置3は、予め図示しない操作部によってオペレータによって設定された時間間隔で、定期的に追尾処理を行う。以下では、一例として、5秒毎に追尾処理が行われる場合を例に説明する。すなわち、到達予測領域EA5が設定される。
このとき、尤度算出部22は、平滑位置PRs(n−1)を起点とする推定速度ベクトルV1(n−1)を設定するとともに、平滑位置PRs(n−1)を原点とする、到達予測領域EA5を設定する。
なお、平滑位置PRs(n−1)、および、推定速度ベクトルV1(n−1)のそれぞれを特定するデータは、運動推定部15から出力される。推定速度ベクトルV1(n−1)の算出についての詳細は、後述する。
そして、尤度算出部22は、到達予測領域EA(本実施形態では、到達予測領域EA5)内に、追尾物標140が到達するとの想定に基づいて、領域尤度ALhを設定する。具体的には、選別領域S1(n)内の代表点P(n)が到達予測領域EA内に位置している場合、尤度算出部22は、当該代表点P(n)についての領域尤度ALh=1に設定する。一方、選別領域S1(n)内の代表点P(n)が到達予測領域EA内に位置していない場合、尤度算出部22は、当該代表点P(n)についての領域尤度ALh=ゼロに設定する。
本実施形態では、選別領域S1(n)内の代表点P1(n)は、到達予測領域EA内に位置している。よって、尤度算出部22は、当該代表点P1(n)についての領域尤度ALh1=1に設定する。一方、選別領域S1(n)内の代表点P2(n)は、到達予測領域EA内に位置しておらず、到達予測領域EA外に位置している。よって、尤度算出部22は、当該代表点P2(n)についての領域尤度ALh2=ゼロに設定する。
このように、代表点P(n)が到達予測領域EA内に位置している場合の当該代表点P(n)についての領域尤度ALhは、代表点P(n)が到達予測領域EA内に位置していない場合の当該代表点P(n)についての領域尤度ALhよりも高く設定されている。
尤度算出部22は、選別領域S1(n)内の代表点P1(n),P2(n)のそれぞれについて、領域尤度ALh(ALh1,ALh2)を算出する。本実施形態では、ALh1=1,ALh2=0である。 そして、尤度算出部22は、算出した領域尤度ALh1,ALh2を、尤度比較部23に出力する。
尤度算出部22および尤度比較部23は、設定された確率密度関数pdfおよび領域尤度ALhを基に、選別領域S1(n)内の物標131,132の何れが追尾物標140であるかの判定処理を行う。以下では、尤度算出部22および尤度比較部23における処理の流れの一例を説明する。図11は、尤度算出部22および尤度比較部23における処理の流れの一例を説明するためのフローチャートである。
図11に示すフローチャートでは、尤度算出部22は、選別領域S1(n)の物標131,132毎に、追尾物標140に該当する尤度としての結合尤度Lh100,200を算出する。結合尤度Lh100は、尤度Lh11,Lh12および領域尤度ALh1の積である。結合尤度Lh200は、尤度Lh21,Lh22および領域尤度ALh2の積である。尤度比較部23は、結合尤度Lh100,200に基づいて、物標131,132のなかから、追尾物標140を特定する。
具体的には、尤度算出部22は、まず、尤度算出が行われる物標130を選択する(ステップS201)。本実施形態では、尤度算出部22は、選別領域S1(n)内の物標130(131,132)のうちの、物標131を選択する。次に、尤度算出部22は、確率密度関数pdfの関数f1,f2のなかから1つを選択する(ステップS202)。
この場合、尤度算出部22は、まず、関数f1を選択する。次に、尤度算出部22は、物標131の代表点P1(n)について、尤度Lh11を算出する(ステップS203)。具体的には、尤度算出部22は、関数f1のデータと、物標131の代表点P1(n)の座標データ208と、を参照する。そして、(n−1)スキャン時点で推定された、代表点PR(n)の予測値のx座標と、代表点P1(n)のx座標との差を、独立変数として、関数f1(図6参照)のx座標に代入する。また、(n−1)スキャン時点で推定された、代表点PR(n)の予測値のy座標と、代表点P1(n)のy座標との差を、独立変数として、関数f1(図6参照)のy座標に代入する。これにより、関数f1における従属変数が、尤度Lh11として算出される。即ち、物標131の代表点P1(n)について、追尾物標140の代表点PR(n)に該当する尤度Lh11が、算出される。
次に、尤度算出部22は、物標131に関する尤度Lh11、Lh12の全てが算出されたか否かを判定する(ステップS204)。この場合、尤度Lh12は、未だ算出されていない(ステップS204でNO)。よって、尤度算出部22は、ステップS202〜S204の処理を繰り返す。
具体的には、尤度算出部22は、確率密度関数pdfの関数f1,f2のなかから1つを選択する(ステップS202)。この場合、尤度算出部22は、関数f2を選択する。次に、尤度算出部22は、物標131の面積arについて、追尾物標140の面積arに該当する尤度としての尤度Lh12を算出する(ステップS203)。具体的には、尤度算出部22は、関数f2のデータと、物標131の面積arのデータ207と、を参照する。そして、尤度算出部22は、nスキャン時点における物標131の面積arを、独立変数として、関数f2に代入する(図7参照)。これにより、関数f2における従属変数が、尤度Lh12として算出される。
尚、図11に示すフローチャートでは、尤度算出部22は、各上記尤度Lh(Lh11,Lh12)を、個別に算出している。しかしながら、尤度算出部22は、行列計算により、各上記尤度Lh(Lh11,Lh12)を一括して算出してもよい。
次に、尤度算出部22は、尤度Lh11,Lh12の全てが算出されたか否かを判定する(ステップS204)。この場合、尤度Lh11,Lh12が算出されている(ステップS204でYES)ので、尤度算出部22は、領域尤度ALh1を算出する。(ステップS205)。領域尤度ALh1は、前述したように、1である。
次に、尤度算出部22は、物標131についての結合尤度Lh=尤度Lh11×Lh12×領域尤度ALhを、算出する(ステップS206)。
次に、尤度算出部22は、選別領域S1(n)内の全ての物標130(131,132)について、結合尤度が算出されているか否かを判定する(ステップS207)。この場合、物標132についての結合尤度Lh200は、算出されていない(ステップS207でNO)。
したがって、尤度算出部22は、ステップS201〜S206の処理を繰り返す。即ち、尤度算出部22は、物標131についての尤度Lh11,Lh12および領域尤度ALh1の算出処理と同様の処理を行う。これにより、尤度算出部22は、物標132についての尤度Lh21,Lh22および領域尤度ALh2を算出する。尚、尤度Lh21,Lh22および領域尤度ALh2は、それぞれ、尤度Lh11,Lh12および領域尤度ALh1と同様にして算出される。次いで、尤度算出部22は、尤度Lh21,Lh22および領域尤度ALh2を乗算することで、結合尤度Lh200を算出する(ステップS206)。
尤度算出部22が、選別領域S1(n)内の全ての物標131,132について、結合尤度Lh100,Lh200を算出した場合(ステップS207でYES)、尤度比較部23は、ステップS208の処理を行う。即ち、尤度比較部23は、結合尤度Lh100,Lh200を用いて、追尾物標140を特定する(ステップS207)。本実施形態では、尤度比較部23は、結合尤度Lh100,Lh200のうち、最も高い値を有する結合尤度Lh100を選択する。そして、尤度比較部23は、結合尤度Lh100を有する物標131の代表点P1(n)を、追尾物標140の代表点PR(n)として設定する。
より具体的には、本実施形態では、図10に示されているように、追尾物標140の代表点PR(n)の推定位置PRe(n−1)と、物標エコー像121の代表点P1(n)の位置とは、距離D1だけ離隔している。また、推定位置PRe(n−1)と、物標132に関する物標エコー像122の代表点P2(n)の位置とは、距離D2だけ離隔している。nスキャン時点では、距離D1は、距離D2よりも大きい。即ち、図6および図10に示すように、尤度Lh11<Lh21である。
また、図7に示すように、nスキャン時点において、物標131の面積arと、面積arの平均μ2とは、Δar1だけ異なっている。また、nスキャン時点において、物標132の面積arと、面積arの平均μ2とは、Δar2だけ異なっている。そして、Δar1>Δar2である。即ち、Lh12<Lh22である。
したがって、尤度Lh11,Lh21と尤度Lh21,Lh22に基づけば、物標132が追尾物標140と判定される。しかしながら、本実施形態では、物標131が到達予測領域EA内に位置しており、当該物標131についての領域尤度ALh=1である。一方、本実施形態では、物標132は、到達予測領域EA内に位置しておらず、当該物標132についての領域尤度ALh=0である。
したがって、物標131についての結合尤度Lh100は、物標132についての結合尤度Lh200(=ゼロ)よりも大きい(Lh100>Lh200)。この場合、尤度比較部23は、物標131の代表点P1(n)を、nスキャン時点における追尾物標140の代表点PR(n)として特定する。なお、物標131の代表点P1(n)が到達予測領域EAの範囲外の場合、尤度判定部23は、追尾物標140の代表点PR(n)を検出しなかった旨の信号を運動推定部15へ出力する。
次に、運動推定部15について説明する。運動推定部15は、追尾フィルタ処理を行うように構成されている。これにより、運動推定部15は、nスキャン時点における、追尾物標140の推定速度ベクトルV1(n)を算出する。尚、追尾フィルタとして、α−βフィルタ、カルマン・フィルタ等を例示することができる。運動推定部15は、推定速度ベクトルV1(n)を特定するデータを、選別部13、関連付け部14、および、表示器4へ出力する。推定速度ベクトルV1(n)のデータは、(n+1)スキャン時点での追尾フィルタ処理に用いられる。
次に、運動推定部15での処理の一例を説明する。図12は、運動推定部15における処理の流れの一例を説明するためのフローチャートである。図13は、運動推定部15での処理を説明するための模式図であり、nスキャン時点において追尾物標140の代表点PR(n)が検出された場合の処理を示している。図14は、運動推定部15での処理を説明するための模式図であり、nスキャン時点において追尾物標140の代表点PR(n)が検出されなかった場合の処理を示している。
まず、運動推定部15は、(n−1)スキャン時点における、当該運動推定部15での追尾フィルタ処理の結果を特定するデータを、読み出す(ステップS301)。この場合、上記追尾フィルタ処理の結果は、図13および図14にそれぞれ示すように、(n−1)スキャン時点における追尾物標140についての、平滑位置PRs(n−1)の座標と、推定位置PRe(n−1)の座標と、推定速度ベクトルV1(n−1)と、を含んでいる。
次に、運動推定部15は、関連付け部14の尤度比較部23から代表点PR(n)のデータが出力されているか否かを判定する(ステップS302)。代表点PR(n)のデータが出力されている場合(ステップS302でYES)、即ち、nスキャン時点において、追尾物標140の代表点PR(n)が関連付け部14において検出された場合、運動推定部15は、nスキャン時点で観測された代表点PR(n)のデータを用いて、追尾処理を行う(ステップS303〜S304)。
具体的には、運動推定部15は、追尾物標140の代表点PR(n)の座標データを、尤度比較部23部22から読み出す(ステップS303)。その後、運動推定部15は、ステップS301,S303で読み出したデータを用いて、追尾フィルタ処理を行う(ステップS304)。これにより、図13に示すように、運動推定部15は、nスキャン時点における、追尾物標140についての平滑位置PRs(n)と、推定位置PRe(n)と、推定速度ベクトルV1(n)と、を算出する。
運動推定部15は、上記追尾フィルタ処理の結果を特定するデータを、特徴情報メモリ12と、選別部13と、関連付け部14と、表示器4と、に出力する(ステップS305)。
一方、代表点PR(n)のデータが出力されていない場合(ステップS302でNO)、即ち、nスキャン時点において、追尾物標140の代表点PR(n)が関連付け部14において検出されなかった場合(ステップS302でNO)、運動推定部15は、nスキャン時点での代表点PR(n)を用いることなく、追尾処理を行う(ステップS404)。
この場合、図14に示すように、運動推定部15で算出された推定速度ベクトルV1(n)は、推定速度ベクトルV1(n−1)と同じ向きおよび大きさである。また、推定速度ベクトルV1(n)の始点は、推定速度ベクトルV1(n−1)の終点(推定位置PRe(n−1))であり、この終点が平滑位置PRs(n−1)となる。その後、運動推定部15は、ステップS305の処理を行う。以上が、運動推定部15における処理の流れの一例である。
表示器4は、たとえばカラー表示可能な液晶ディスプレイである。表示器4は、各物標エコー像120の画像データを用いて、表示画面に、各物標エコー像120を表示する。また、表示器4は、推定速度ベクトルV1(n)を、画像として表示する。これにより、表示器4の表示画面には、追尾物標140(物標エコー像121)について、推定速度ベクトルV1(n)を示す画像が表示される。レーダ装置1のオペレータは、表示器4に表示されたレーダ映像を確認することにより、追尾物標140の運動状態を確認することができる。
以上説明したように、追尾処理装置3によると、関連付け部14の尤度算出部22は、追尾物標140についての予め設定された運動モデル(到達予測領域EA)に基づいて、領域尤度ALhを算出する。そして、関連付け部14の尤度比較部23は、算出した領域尤度ALh(ALh1,ALh2)に基づいて、複数の物標131,132のなかから追尾物標140を特定する。この構成によると、複数の物標131,132の何れが追尾物標140であるかの判定に際して、関連付け部14は、複数の物標131,132の代表点P1(n),P2(n)について、予め設定された運動モデルに沿った運動状態か否かに基づいて、領域尤度ALh(ALh1,ALh2)を算出する。このため、追尾物標140としての船舶の運動特性として取り得ない物標132を、追尾物標140として誤判定することを抑制できる。よって、追尾フィルタの追従性を下げることで追尾フィルタの安定性を高めることなく、追尾物標140の誤判定を抑制できる。その結果、追尾フィルタの追従性を高くできるので、追尾物標140の旋回運動を、追尾処理装置3でより正確に捉えることができる。以上の次第で、追尾処理装置3によると、複数の物標131,132のなかから、追尾物標140を、より正確に検出することができる。
また、追尾処理装置3によると、関連付け部14は、追尾物標140が位置し得る領域としての到達予測領域EAを用いて、複数の物標131,132の中から追尾物標140を検出する。このように、レーダーエコー画像の情報のみから,適応的に運動モデルを推定する方式に比べ、予め船舶の運動モデルを到達予測領域EAとして設定・保持することにより、追尾物標140の検出に用いる運動モデルをより簡素にできる。よって、追尾処理装置3の処理速度をより高くできる。
また、追尾処理装置3によると、到達予測領域EAは、追尾物標140が所定の平均速度Vavおよび所定の旋回角度範囲θbで運動したときに当該追尾物標140が位置し得る領域として設定されている。この構成によると、関連付け部14は、追尾物標140が現実的に存在し得る領域に絞って、追尾物標140を検出することができる。
また、追尾処理装置3によると、到達予測領域EAは、追尾物標140を繰り返し特定する際の時間間隔が大きくなるに従い、大きくなるように設定されている。この構成によると、到達予測領域EAを、追尾物標140の実際の運動により確実に近づけることができる。
また、追尾処理装置3によると、関連付け部14は、運動推定部15によって予め推定された、追尾物標140の代表点PR(n)の平滑位置PRs(n−1)を原点として、到達予測領域EAを設定する。この構成によると、追尾物標140の処理装置において、到達予測領域EAをより正確に設定できる。
また、追尾処理装置3によると、到達予測領域EAの内側に代表点P1(n)が位置している場合の代表点P1(n)についての領域尤度ALh1は、到達予測領域EAの外側に代表点P2(n)が位置している場合の当該代表点P2(n)についての領域尤度ALh2よりも、高く設定されている。この構成によると、関連付け部14は、到達予測領域EAの内側に代表点P1(n)が位置している場合と到達予測領域EAの外側に代表点P2(n)が位置している場合とにおいて、これらの代表点P1(n),P2(n)をより明確に識別できる。
また、追尾処理装置3によると、尤度算出部22は、到達予測領域EAの外側に位置している場合の代表点P2(n)についての領域尤度ALh2を、ゼロに設定する。この構成によると、関連付け部14は、追尾物標140が存在しているとは考えられにくい領域における物標132の代表点P2(n)について、追尾物標140であると誤判定することをより確実に抑制できる。
以上の次第で、本実施形態によると、複数の物標131,132のなかから、追尾物標140を、より正確に検出することができる、レーダ装置1を実現できる。なお、アンテナユニット2で得られたレーダーエコーには、追尾物標140の運動特性に加え、追尾処理装置3での処理の前処理におけるノイズ除去処理の特性も加わる。このため、従来は、追尾物標140(船舶)の運動特性を正確に考慮した追尾処理を行うことが難しかった。しかしながら、本実施形態によると、関連付け部14が、運動モデルに基づいて結合尤度Lh100,Lh200を算出し、この結合尤度Lh100,Lh200に基づいて追尾物標140の代表点PR(n)を検出する。これにより、従来の構成とは異なり、より正確な追尾処理を行うことができる。
以上、本発明の実施形態について説明したけれども、本発明は上述の実施の形態に限られず、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能である。たとえば、次のように変更して実施してもよい。
(1)たとえば、上述の実施形態では、代表点P1(n),P2(n)が到達予測領域EA内に位置しているか否かによって、領域尤度ALhがゼロか1の二択である形態を例に説明した。しかしながら、この通りでなくてもよい。
上述の実施形態では、直近のスキャン時点(n−1)時点において追尾物標140の代表点PR(n)が検出されたか否かにかかわらず、尤度算出部22は、同じ到達予測領域EAを設定した。しかしながら、この通りでなくてもよい。たとえば、図15に示すように、直近の時点((n−1)スキャン時点)において、追尾物標140の代表点PR(n−1)が検出されているか否かによって、関連付け部14は、到達予測領域EAを変更させてもよい。
より具体的には、関連付け部14は、直近の時点((n−1)スキャン時点)において、追尾物標140の代表点PR(n−1)が検出されている場合、前述の実施形態と同様の到達予測領域EAを設定する。すなわち、関連付け部14は、(n−1)スキャン時点における平滑位置PRs(n−1)を原点とする推定速度ベクトルV1(n−1)と、平滑位置PRs(n−1)を原点とする到達予測領域EAと、を設定する。
一方、関連付け部14は、直近の時点((n−1)スキャン時点)において、追尾物標140の代表点PR(n)が検出されていない場合、到達予測領域EAAを設定する。到達予測領域EAAは、到達予測領域EAのうち、推定速度ベクトルV1(n−1)の延びる方向の先端側領域を、推定速度ベクトルV1(n−1)の延びる方向側に拡張した領域である。すなわち、到達予測領域EAAは、到達予測領域EAに付加領域EA2が付加された領域である。付加領域EA2は、たとえば、平滑位置PRs(n−1)から遠ざかるに従い、推定速度ベクトルV1(n−1)と直交する方向に拡がるように設定されている。
この場合、追尾処理装置3によると、関連付け部14は、定期的(1スキャン時間毎)に追尾物標140の代表点PR(n)を特定するように構成されている。そして、関連付け部14は、直近の時点((n−1)スキャン時点)において追尾物標140の代表点PR(n−1)を特定できなかった場合において、到達予測領域EAを拡張する処理(付加領域EA2を設定する処理)を行うように構成されている。この構成によると、関連付け部14は、直近の時点((n−1)スキャン時点)において、追尾物標140の代表点PR(n)を検出できなかった場合、最新の時点(nスキャン時点)において、より広い範囲を、追尾物標140が存在し得る領域として、設定する。これにより、たとえば、追尾物標140が追尾処理装置3によって想定されている速度よりも速い速度で運動している場合等でも、関連付け部14は、より確実に、追尾物標140の代表点PR(n)を検出できる。
(2)また、上述の実施形態では、到達予測領域EA内に代表点P(n)が存在する場合、当該代表点P(n)についての領域尤度ALhを一律に1に設定する形態を例に説明した。しかしながら、この通りでなくてもよい。たとえば、図16に示すように、関連付け部14は、自船100から追尾物標140までの距離に基づいて、領域尤度ALhを変化させるように構成されていてもよい。また,自船船舶の動揺による追尾対象の観測位置誤差の大きくなる自船から遠方においては,領域尤度ALh2を例えば0.5のように設定するような構成でもよい。すなわち、到達予測領域EA外の代表点P(n)についての領域尤度ALhを、ゼロ以外の値に設定してもよい。
より具体的には、自船100と追尾物標140との距離が所定値以上のとき、関連付け部14は、到達予測領域EAに、付加領域EA3,EA4を付加することで、到達予測領域EABを設定する。付加領域EA3,EA4は、到達予測領域EABの一部である。付加領域EA3は、到達予測領域EAの右舷側および左舷側に到達予測領域EAを拡張する領域として設定されている。
同様に、付加領域EA4は、到達予測領域EAの右舷側および左舷側に到達予測領域EAを拡張する領域として設定されている。なお、自船100と追尾物標140との距離が所定値未満のとき、関連付け部14は、到達予測領域EAに付加領域EA3,EA4を付加しない。
付加領域EA3は、到達予測領域EAと連続する領域である。付加領域EA3は、平滑位置PRs(n−1)の右舷側において、到達予測領域EAの右舷側の端部領域を右舷側に延伸させた形状に相当する領域である。また、付加領域EA3は、平滑位置PRs(n−1)の左舷側において、到達予測領域EAの右舷側の端部領域を右舷側に延伸させた形状に相当する領域である。
付加領域EA4は、付加領域EA3と連続する領域である。付加領域EA4は、平滑位置PRs(n−1)の右舷側において、付加領域EA3の右舷側の端部領域を右舷側に延伸させた形状に相当する領域である。また、付加領域EA4は、平滑位置PRs(n−1)の左舷側において、付加領域EA3の右舷側の端部領域を右舷側に延伸させた形状に相当する領域である。
前述したように、到達予測領域EABは、到達予測領域EAと、付加領域EA3,EA4と、を含んでいる。そして、到達予測領域EAにおける領域尤度ALh=1に設定される。また、付加領域EA3,EA4における領域尤度ALhは、到達予測領域EAにおける領域尤度ALhよりも低い値に設定される。本実施形態では、付加領域EA3における領域尤度ALh=0.5に設定され、付加領域EA4における領域尤度ALh=0.3に設定される。
上記の構成により、関連付け部14は、追尾物標140の代表点PR(n)の推定速度ベクトルV1(n−1)の方向と直交する方向に沿って当該推定速度ベクトルV1(n−1)から遠ざかるに従い、領域尤度ALhを低下する設定を行うように構成されている。すなわち、推定速度ベクトルV1(n−1)に近い到達予測領域EAにおける領域尤度ALhと比べて、推定速度ベクトルV1(n−1)から遠い付加領域EA3での領域尤度ALhが低く設定されている。さらに、推定速度ベクトルV1(n−1)からの距離がより遠い付加領域EA4における領域尤度ALhは、付加領域EA3における領域尤度ALhB1よりもさらに低く設定されている。
この場合の追尾処理装置3によると、レーダ装置1は、自船100(移動体)に搭載されている。そして、関連付け部14は、自船100から追尾物標140の代表点PR(n)までの距離に基づいて、領域尤度ALhを変化させるように構成されている。一般的に、自船100と追尾物標140との距離が大きいと、アンテナ5で検出されたエコー信号に基づく検出誤差が大きくなる傾向にある。そして、自船100から追尾物標140までの距離が遠いと想定される場合、関連付け部14は、観測誤差を考慮して、より広い領域を到達予測領域EAとして設定する。これにより、関連付け部14は、より確実に追尾物標140の代表点PR(n)を検出できる。
また、追尾処理装置3によると、関連付け部14は、追尾物標140の代表点PR(n)の推定速度ベクトルV1(n−1)の方向と直交する方向に沿って当該推定速度ベクトルV1(n−1)から遠ざかるに従い、代表点P(n)の領域尤度ALhを低下する設定を行うように構成されている。この構成によると、関連付け部14は、自船100から追尾物標140までの距離に応じた、アンテナ5を用いた観測誤差をより的確に反映した状態で、追尾物標140の代表点PR(n)を検出することができる。
(3)なお、上記の変形例では、領域尤度ALhを段階的に設定する形態を例に説明した。しかしながら、この通りでなくてもよい。たとえば、推定速度ベクトルV1(n−1)から代表点PR(n)までの距離(推定速度ベクトルV1(n−1)と直交する方向の距離)に応じて値が変化する関数に従って、領域尤度ALhの値が設定されてもよい。
(4)また、上述の実施形態では、追尾処理装置が、船舶用の追尾処理装置である形態を例に説明した。しかしながら、本発明は、船舶用の追尾処理装置に限らず、他の物標用の追尾処理装置として適用することができる。