JP2014088503A - 微細セルロース繊維分散液の製造方法 - Google Patents

微細セルロース繊維分散液の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】微細セルロース繊維とゴム成分とを含有する微細セルロース繊維含有加硫ゴム組成物において、高い破断強度および高い破断伸度を有する微細セルロース繊維含有加硫ゴム組成物を実現し得る微細セルロース繊維分散液を提供する。
【解決手段】N−オキシル化合物を用いて酸化処理されたセルロース繊維とゴム成分とを含有する原料分散液中でセルロース繊維を解繊して、微細セルロース繊維を得る解繊工程を備える微細セルロース繊維分散液の製造方法。N−オキシル化合物を用いて酸化処理されたセルロース繊維とゴム成分とを含有する分散液中で解繊処理を施すことにより、高い破断強度および高い破断伸度を有する微細セルロース繊維含有加硫ゴム組成物を製造することができる。
【選択図】なし

Description

本発明は、微細セルロース繊維分散液の製造方法に関する。詳しくは、ゴム成分の存在下にてセルロース繊維の解繊を行う、微細セルロース繊維分散液の製造方法に関する。
本発明はまた、この微細セルロース繊維分散液の製造方法より得られる微細セルロース繊維分散液と、この微細セルロース繊維分散液を用いて製造される微細セルロース繊維含有ゴム組成物及び該微細セルロース繊維含有ゴム組成物を加硫して得られる、微細セルロース繊維含有加硫ゴム組成物と、この微細セルロース繊維含有加硫ゴム組成物を用いてなるタイヤに関する。
天然に多量に存在するバイオマスであるセルロースは、生合成によって繊維が生成される時点で、ミクロフィブリルと呼ばれるナノファイバーであり、このナノファイバーが繊維方向に集束化してより大きな単位の繊維に成長するという特徴を有する。
こうしてできた繊維の束が乾燥状態となり、主に植物の強靱な構造材として機能している。このようなマクロなセルロース構造材中では、ナノファイバー同士が表面間で主に水素結合を介した結合力によって強く集束しているため、容易にナノファイバーの状態に分散させることは難しい。
この問題を解決する方法の一つとして、特許文献1では汎用的に入手可能な植物系の精製セルロース(木材パルプやリンターパルプ等)を、高圧ホモジナイザーで処理することによりナノファイバー化する技術が開示されている。また、特許文献2には、化学的な処理条件によりセルロースの微細化を行う方法(酸加水分解法)が開示されている。
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、高圧ホモジナイザーによる処理に多大なエネルギーを要し、コスト的に不利である。また、得られる微細化繊維の繊維径も不均一であり、一般的な処理条件下では1μm以上の太い繊維が残ってしまう。また、特許文献2に記載の方法では、セルロース繊維が断裂して短くなってしまうことが知られており、繊維の形状を保ったまま微細化することが困難である。
一方、ゴム組成物において、ゴム成分中に配合される充填剤としてセルロース繊維を含有させることにより、ゴムの物理的特性を向上させることは、従来から知られている(例えば、特許文献3)。特許文献3では、セルロース短繊維の水分散液とゴムラテックスとを撹拌混合し、その混合液から水を除去して得られるゴム/短繊維マスターバッチ、及びその製造方法について提案している。
しかしながら、通常のセルロース繊維はゴムとの相溶性が悪いために、ゴム組成物として配合した場合に、破断強度や破断伸度等の面で十分な補強効果が得られず、この点を改善しなければ、各種用途への実用化は難しいと考えられる。
特開昭56−100801号公報 特表平9−508658号公報 特開2006−206864号公報
本発明は、微細セルロース繊維と加硫ゴム成分とを含有する微細セルロース繊維含有加硫ゴム組成物において、高い破断強度および高い破断伸度を有する微細セルロース繊維含有加硫ゴム組成物を実現し得る微細セルロース繊維分散液を提供することを課題とする。
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、特定の処理を施したセルロース繊維とゴム成分とを含有する分散液中で解繊処理を施すことにより、高い破断強度および高い破断伸度を有する微細セルロース繊維含有加硫ゴム組成物を製造することができることが分かり、本発明に到達した。
即ち、本発明は、微細セルロース繊維とゴム成分とを含有する微細セルロース繊維分散液の製造方法であって、N−オキシル化合物を用いて酸化処理されたセルロース繊維とゴム成分とを含有する原料分散液中でセルロース繊維を解繊して、微細セルロース繊維を得る解繊工程を備えることを特徴とする微細セルロース繊維分散液の製造方法、該製造方法より得られる微細セルロース繊維分散液、該微細セルロース繊維分散液から分散媒を除去して得られる、微細セルロース繊維含有ゴム組成物、該微細セルロース繊維含有ゴム組成物を加硫して得られる、微細セルロース繊維含有加硫ゴム組成物、該微細セルロース繊維含有加硫ゴム組成物を用いてなる、タイヤ、に存する。
本発明によれば、高い破断強度および高い破断伸度を有する微細セルロース繊維含有加硫ゴム組成物を提供することができる。
以下に本発明の微細セルロース繊維分散液およびその製造方法、微細セルロース繊維含有ゴム組成物、微細セルロース繊維含有加硫ゴム組成物、並びにタイヤについて詳述する。
[I.微細セルロース繊維分散液の製造方法]
本発明の微細セルロース繊維分散液の製造方法は、微細セルロース繊維とゴム成分とを含有する微細セルロース繊維分散液の製造方法であって、N−オキシル化合物を用いて酸化処理されたセルロース繊維とゴム成分とを含有する原料分散液中でセルロース繊維を解繊して、微細セルロース繊維を得る解繊工程を備えることを特徴とする。
本発明では、このように、N−オキシル化合物を用いて酸化処理されたセルロース繊維に対して、ゴム成分の存在下にゴム成分と共に解繊処理を施すことにより、得られる微細セルロース繊維含有加硫ゴム組成物の破断強度および破断伸度の向上を図ることができる。
まず、本発明において使用される材料(セルロース繊維、ゴム成分など)について詳述する。
<セルロース繊維>
本発明で使用されるセルロース繊維は、微細セルロース繊維の原料となる材料であり、セルロースを含有する物質(セルロース含有物)またはセルロース含有物の精製等を経たもの(セルロース繊維原料)であればその種類は特に限定はされない。セルロース繊維として、セルロースを使用してもよいし、不純物を一部含むセルロースを使用してもよい。なかでも、本発明で使用されるセルロース繊維は、セルロース含有物から精製を経て不純物を除去されたものであることが好ましい。
(セルロース含有物)
セルロース含有物としては、例えば、針葉樹や広葉樹等の木質、コットンリンターやコットンリント等のコットン、さとうきびや砂糖大根等の絞りかす、亜麻、ラミー、ジュート、ケナフ等の靭皮繊維、サイザル、パイナップル等の葉脈繊維、アバカ、バナナ等の葉柄繊維、ココナツヤシ等の果実繊維、竹等の茎幹繊維などの植物由来原料、バクテリアが産生するバクテリアセルロース、バロニアやシオグサ等の海草やホヤの被嚢等の天然セルロースが挙げられる。これらの天然セルロースは、結晶性が高いので低線膨張率、高弾性率になり好ましい。特に、植物由来原料から得られるセルロース繊維が好ましい。木質を本発明のセルロース繊維として使用する場合は、木材チップや木粉などの状態に切断ないし破砕して用いることが好ましい。この場合、セルロース含有物の切断ないし破砕は、精製処理前、処理の途中、精製処理後のいずれのタイミングで行ってもかまわない。
(精製方法)
本発明においては、必要に応じて上記のセルロース含有物に精製処理を施して(精製工程)、セルロース含有物中のセルロース以外の物質、例えば、リグニンやヘミセルロース、樹脂(ヤニ)などを除去して用いる。
セルロース含有物の精製方法は特に制限されないが、例えば、脱脂処理、脱リグニン処理、脱ヘミセルロース処理などが挙げられる。一例としては、セルロース含有物をベンゼン−エタノールで脱脂処理した後、ワイズ法で脱リグニン処理を行い、アルカリで脱ヘミセルロース処理を行う方法が挙げられる。
また、脱リグニン処理としては、上記ワイズ法の他に、過酢酸を用いる方法(pa法)、過酢酸過硫酸混合物を用いる方法(pxa法)なども利用される。
また、必要に応じて、塩素、オゾン、次亜塩素酸ナトリウム、過酸化水素、二酸化塩素などで漂白処理を行ってもよい。
また、精製方法としては、一般的な化学パルプの製造方法、例えば、クラフトパルプ、サリファイドパルプ、アルカリパルプ、硝酸パルプの製造方法も挙げられる。また、セルロース含有物を蒸解釜で加熱処理して脱リグニン等の処理を行い、更に漂白処理等を行う方法も挙げられる。
精製処理には、分散媒として一般的に水が用いられるが、酸または塩基、その他の処理剤の水溶液であってもよく、この場合には、最終的に水で洗浄処理してもよい。
セルロース含有物の精製処理には、通常、酸または塩基、その他の処理剤を用いるが、その種類は特に限定されない。処理剤としては、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、硫化ナトリウム、硫化マグネシウム、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カルシウム、亜硫酸マグネシウム、亜硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、酸化ナトリウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酢酸、シュウ酸、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カルシウム、亜塩素酸ナトリウム、塩素酸ナトリウム、二酸化塩素、塩素、過塩素酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、過酸化水素、オゾン、ハイドロサルファイト、アントラキノン、ジヒドロジヒドロキシアントラセン、テトラヒドロアントラキノン、アントラヒドロキノン、また、エタノール、メタノール、2−プロパノールなどのアルコール類およびアセトンなどの水溶性有機溶媒などが挙げられる。これらの処理剤は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
また、2種以上の処理剤を用いて、2以上の精製処理を行うこともでき、その場合、異なる処理剤を用いた精製処理間で、水で洗浄処理することが好ましい。
精製処理時の温度、圧力は特に制限はなく、温度は0℃以上100℃以下の範囲で選択されることが好ましく、1気圧を超える加圧下での処理の場合、温度は100℃以上200℃以下とすることが好ましい。
セルロース含有物を精製して得られたセルロース繊維は、通常、含水状態(水分散液)として得られる。セルロース含有物を精製して得られたセルロース繊維を以下セルロース繊維原料ということがある。
セルロース繊維原料としては、広葉樹クラフトパルプ、針葉樹クラフトパルプ、広葉樹亜硫酸パルプ、針葉樹亜硫酸パルプ、広葉樹漂白クラフトパルプ、針葉樹漂白クラフトパルプ、リンターパルプなどを用いてもよい。
(繊維径)
本発明に用いられるセルロース繊維は、上記セルロース含有物を精製処理や、切断、破砕等を行うことにより、下記範囲の大きさとして用いることが好ましい。例えば、セルロース含有物のチップ等の数cm大のものを使用する場合、リファイナーやビーター等の離解機で機械的処理を行い、数mm程度にすることが好ましい。前述の如く、セルロース含有物の切断ないし破砕は、セルロース含有物の精製などの処理を行う場合、その処理前、処理中、処理後のいずれの時期に行ってもよい。例えば、精製処理前であれば衝撃式粉砕機や剪断式粉砕機などを用い、また精製処理中、処理後であればリファイナーなどを用いて行うことができる。
本発明において、解繊処理が施されるセルロース繊維(通常、セルロース繊維原料)の繊維径は特に制限されるものではなく、後述する解繊処理時の解繊効率、および取扱い性の点から、数平均繊維径としては1μm〜1000μmであることが好ましく、5μm〜500μmであることがより好ましい。通常、一般的な精製を経たセルロース繊維原料の平均繊維径は数百μm程度、好ましくは50〜500μm程度である。
なお、数平均繊維径の測定方法は特に限定されず、例えば、走査型電子顕微鏡(以下SEM)や透過型電子顕微鏡(以下TEM)等で観察して、写真の対角線に線を引き、その近傍にある繊維をランダムに12点抽出し、最も太い繊維と最も細い繊維を除去した10点の測定値を平均して求めることができる。
(酸化処理)
本発明において、解繊処理が施されるセルロース繊維は、N−オキシル化合物を用いて酸化処理されたセルロース繊維である。解繊処理を施すセルロース繊維は、上記セルロース含有物であっても、セルロース繊維原料であってもよいが、通常はセルロース繊維原料を用いる。
酸化処理は、セルロース繊維の分散液中、通常は水分散液中で行う。分散液中のセルロース繊維の濃度は0.05〜30重量%程度とすることが好ましい。
この分散液に対し、N−オキシル化合物を添加する。
N−オキシル化合物としては、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシル(TEMPO)またはその誘導体の1種または2種以上を用いることができる。N−オキシル化合物の添加量は、触媒量で十分であり、具体的には、反応溶液であるセルロース繊維の分散液に対して0.1〜10mmol/lの範囲で添加すればよく、好ましくは0.1〜2mmol/lの添加量範囲である。
また、この分散液に、共酸化剤を共存させることが好ましい。共酸化剤としては、具体的には、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸、過ハロゲン酸あるいはこれらの塩、過酸化水素、過有機酸などの1種または2種以上が挙げられる。また、臭化物やヨウ化物を共存させてもよく、例えば、臭化アルカリ金属やヨウ化アルカリ金属などが使用できる。これらの共酸化剤の使用量は、セルロース繊維の分散液に対して、400mmol/l程度以下とすることが好ましい。
酸化反応は、pH5〜12の範囲で行うことが反応効率の点から好ましく、反応温度は常温でもよく、通常は80℃以下で行われる。反応時間は特に規定されるものではないが、酸化反応の程度により決めればよく、通常は数時間以内に完了させる。
この酸化処理により、通常、セルロース繊維のセルロースにカルボキシ基が導入される。導入後のカルボキシ基量は、セルロース繊維の重量に対して通常0.1〜5mmol/gであり、0.2〜2mmol/gが好ましい。
セルロース繊維にN−オキシル化合物による酸化処理を施すことにより、その後の解繊処理における解繊効率が向上し、解繊処理により得られた微細セルロース繊維を用いて高い破断強度および高い破断伸度を有する微細セルロース繊維含有加硫ゴム組成物を得ることができるが、その酸化処理の程度を表すカルボキシ基の導入量が少な過ぎると酸化処理による解繊効率の向上効果を十分に得ることができない。ただし、カルボキシ基の導入量が多過ぎると所望のセルロースナノファイバーを得られなくなるおそれがある。
なお、セルロース繊維の重量に対するカルボキシ基の量(mmol/g)は、例えば、米国TAPPIの「Test Method T237 cm-08(2008):Carboxyl Content of pulp」の方法に従って定量することができる。この時、測定試料とする絶乾セルロース繊維は、加熱乾燥で起こりうる加熱によるセルロースの変質を避けるため、凍結乾燥により得たものを使用する。なお、セルロース繊維中のカルボキシ基量は、後述の化学修飾処理を行うと化学修飾基がセルロースに付加した分、質量が増加するため、乾燥セルロース1g当たりの数値は変わる。従って、本発明に係るセルロース繊維に更に化学修飾処理を行う場合、セルロース繊維のカルボキシ基量は、化学修飾基による置換を行った後の値として求める必要がある。
通常、上記の酸化処理後のセルロース繊維は、水洗やろ過などにより精製処理が施される。
(修飾処理)
本発明に係るセルロース繊維は、酸化処理の他にも、セルロース中の水酸基を他の基で修飾(置換)する修飾処理が施されたものであってもよい。このようなものとしては、具体的には、化学修飾によって誘導化されたもの(化学修飾セルロース繊維)が挙げられ、例えば、セルロース中の水酸基が化学修飾剤と反応して修飾された(置換された)ものである。尚、本発明における化学修飾とは、化学反応により、セルロース中の水酸基が他の基に誘導または置換されることをいう。
化学修飾は、本発明の微細セルロース繊維分散液を得るまでのどの工程において行ってもよいが、化学修飾剤の効率的な反応の観点で、精製処理後のセルロース(セルロース繊維原料)に対して化学修飾処理を施すことが好ましい。
化学修飾によってセルロースの水酸基に導入する置換基(水酸基中の水素原子と置換して導入される基)は特に制限されず、用いるゴム成分との親和性を考慮して、ゴム成分の骨格に近い構造の基等を選択すればよい。例えば、アセチル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、プロピオニル基、プロピオロイル基、ブチリル基、2−ブチリル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、ヘプタノイル基、オクタノイル基、ノナノイル基、デカノイル基、ウンデカノイル基、ドデカノイル基、ミリストイル基、パルミトイル基、ステアロイル基、ピバロイル基等のアシル基、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアノイル基等のイソシアネート基、メチル基、エチル基、プロピル基、2−プロピル基、ブチル基、2−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、ミリスチル基、パルミチル基、ステアリル基等のアルキル基、オキシラン基、オキセタン基、チイラン基、チエタン基等が挙げられる。これらの中では特にアセチル基、アクリロイル基、メタクリロイル基等の炭素数2〜12のアシル基が好ましい。
<ゴム成分>
ゴム成分は天然ゴムと合成ゴムに大別できるが、これらのいずれか一方を単独で用いても、天然ゴムと合成ゴムを混合して用いてもよい。合成ゴムとしては公知のものから目的に応じて選択されるが、ジエン系ゴムが好ましく、スチレン−ブタジエン共重合体(SBR)、ポリイソプレン(IR)、ポリブタジエン(BR)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、およびブチルゴム(IIR)等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
<溶媒>
本発明において、ゴム成分中でセルロース繊維の解繊を行う原料分散液に用いる溶媒(分散媒)としては、ゴム成分が溶解または分散すれば特に限定されないが、例えば、水、アルコール系溶媒などのプロトン性極性溶媒、ケトン系溶媒、グリコールエーテル系溶媒、アミド系溶媒、芳香族系炭化水素、非プロトン性極性溶媒などが挙げられる。好ましくは、水、アミド系溶媒、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒である。これらの溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
なお、本発明で使用される溶媒は、後の工程で溶媒を除去する工程があることから沸点が高すぎないことが好ましい。溶媒の沸点は300℃以下が好ましく、200℃以下が好ましく、180℃以下が更に好ましい。また、取扱い性などの点から、70℃以上が好ましい。
アルコール系溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどが挙げられる。
ケトン系溶媒(ケトン基を有する液体を指す)としては、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、ジイソプロピルケトン、ジ−tert−ブチルケトン、2−ヘプタノン、4−ヘプタノン、2−オクタノン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、シクロヘキシルメチルケトン、アセトフェノン、アセチルアセトン、ジオキサン等が挙げられる。この中でも、好ましくは、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、シクロペンタノン、シクロヘキサノンであり、より好ましくは、メチルエチルケトン(MEK)、シクロヘキサノンである。
グリコールエーテル系溶媒の具体例としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどが挙げられる。
芳香族系炭化水素の具体例としては、ベンゼン、トルエン、キシレンなどが挙げられる。
非プロトン性極性溶剤としては、ジメチルスルフォキシド(DMSO)、ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、アセトアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、2−ピロリドン、N−メチルピロリドンなどが挙げられる。
<微細セルロース繊維分散液の製造手順>
本発明の製造方法における解繊工程は、上記酸化処理を施したセルロース繊維と、ゴム成分とを含有する原料分散液中で、セルロース繊維の解繊処理を行い、微細セルロース繊維を得る工程である。
(原料分散液の製造方法)
原料分散液の製造方法は特に限定されず、使用される各成分を混合することにより調製することができる。通常は、上記酸化処理を施したセルロース繊維を分散した分散液(セルロース繊維分散液)とゴム成分とを混合することにより調製することができる。
セルロース繊維を分散させる分散媒としては、通常水が用いられるが、有機溶媒(分散媒)を利用してもよい。有機溶媒を利用する場合、セルロース繊維の水分散液として得られるセルロース繊維原料を用いる場合には、あらかじめ水分散液中の水を有機溶媒に置換してもよい(溶媒置換工程)。
溶媒を置換する方法は特に限定されないが、セルロース繊維を含有する水分散液から濾過などにより水を除去し、ここに解繊時使用する有機溶媒を添加し、攪拌混合し、再度濾過により有機溶媒を除去する方法が挙げられる。有機溶媒の添加と濾過を繰り返すことで、分散液中の媒体を水から有機溶媒に置換することができる。
なお、使用する有機溶媒が非水溶性の場合、水溶性の有機溶媒に一度置換した後、非水溶性の有機溶媒に置換してもよい。
セルロース繊維分散液と、ゴム成分の混合に際しては、セルロース繊維分散液にゴム成分を直接加えて混合してもよいし、ゴム成分を溶媒に溶解または分散させた液を調製後、該液を加えて混合してもよい。該液に対し、セルロース繊維分散液を加えて混合してもよく、混合順序はいずれでも構わない。また、ゴム成分として、ラテックスのようなエマルジョンを用いてもよい。
尚、ゴム成分を溶解または分散させる溶媒は、上記溶媒置換工程で使用した溶媒と同じであってもよいし、また相溶するものであれば異なっていてもよい。
なお、上記溶媒置換工程においては、分散媒としてゴム成分を含有する溶媒を使用することもでき、この場合、上記混合工程は実施しなくてもよい。
原料分散液中におけるセルロース繊維の含有量は特に限定されないが、得られる微細セルロース繊維分散液の粘度や液安定性が好適なものになるといった取扱い性の点から、原料分散液全量に対して、0.5重量%以上が好ましく、1重量%以上がより好ましく、50重量%以下が好ましく、40重量%以下がより好ましい。
原料分散液中におけるゴム成分の含有量は特に限定されないが、得られる微細セルロース繊維分散液の粘度や液安定性が好適なものになるといった取扱い性の点から、原料分散液全量に対して、2重量%以上が好ましく、2.5重量%以上がより好ましく、95重量%以下が好ましく、80重量%以下がより好ましい。
原料分散液中における分散媒の含有量は特に限定されないが、得られる微細セルロース繊維分散液の粘度や液安定性が好適なものになるといった取扱い性の点から、原料分散液全量に対して、1重量%以上が好ましく、5重量%以上がより好ましく、97.5重量%以下が好ましく、95重量%以下がより好ましい。
原料分散液中においてゴム成分と分散媒との重量比は特に限定さないが、得られる微細セルロース繊維分散液の粘度や液安定性が好適なものになるといった取扱い性の点から、分散媒の含有量は、ゴム成分100重量部に対して、5〜2000重量部が好ましく、25〜1000重量部がより好ましい。
原料分散液中においてセルロース繊維とゴム成分との重量比は特に限定さないが、得られる微細セルロース繊維分散液の粘度や液安定性が好適なものになるといった取扱い性の点から、セルロース繊維の含有量は、セルロース繊維およびゴム成分の合計量(100重量部)に対して、2.5重量部以上が好ましく、3重量部以上がより好ましく、5重量部以上がさらに好ましく、97.5重量部以下が好ましく、97重量部以下がより好ましく、95重量部以下がさらに好ましい。
(解繊方法)
本発明では、上記のように調製した原料分散液中で、セルロース繊維を解繊する。本発明において、解繊とは、繊維を解すことであり、通常は繊維をより小さなサイズにすることができるものである。
解繊工程(解繊処理)の具体的な方法は特に制限されないが、例えば、直径1mm程度のセラミック製ビーズをセルロース繊維濃度0.5〜50重量%、例えば、1重量%程度の原料分散液に入れ、ペイントシェーカーやビーズミル等を用いて振動を与え、セルロース繊維を解繊する方法などが挙げられる。
また、ブレンダータイプの分散機や高速回転するスリットの間に、このような原料分散液を通して剪断力を働かせて解繊する方法(高速回転ホモジナイザー)や、高圧から急に減圧することによって、セルロース繊維間に剪断力を発生させて解繊する方法(高圧ホモジナイザー法)、マスコマイザーXのような対向衝突型の分散機(増幸産業)等を用いる方法などが挙げられる。つまり、ビーズミルによる解繊処理、噴出による解繊(微細化)処理、回転式解繊方法による解繊処理、または超音波処理による解繊処理などが挙げられる。
特に、高速回転ホモジナイザーおよび高圧ホモジナイザーによる処理は、解繊の効率がより向上する。
これらの処理で解繊する場合は、原料分散液中の固形分濃度(セルロース繊維とゴム成分との総量)は特に制限されないが、2.5重量%以上が好ましく、3重量%以上がより好ましく、99重量%以下が好ましく、50重量%以下がより好ましい。この解繊工程に供する原料分散液中の固形分濃度が低過ぎると処理するセルロース量に対して液量が多くなり過ぎ効率が悪くなり、固形分濃度が高過ぎると流動性が悪くなる。
高速回転ホモジナイザーの場合、周速が速い方が、剪断が掛かり、解繊効率が高くなる。周速としては15m/s以上、好ましくは30m/s以上であり、100m/s以下、好ましくは50m/s以下である。なお、周速と回転数には以下の関係が成り立つ。
周速(m/sec)=2×回転羽の半径(m)×π×回転数(rpm)/60
よって、半径15mmの回転羽を用いる場合であれば、回転数としては、例えば、10000rpm以上程度が好ましく、20000rpm以上程度が特に好ましい。なお、回転数の上限は特に制限されないが、装置の性能上の観点から、30000rpm以下程度が好ましい。回転数が5000rpm以下ではセルロース繊維の解繊が不十分になる。
処理時間は、1分以上が好ましく、5分以上がより好ましく、10分以上が特に好ましい。なお、処理時間は生産性の点から、6時間以下が好ましい。剪断により発熱が生じる場合は、液温が50℃を越えない程度に冷却することが好ましい。
また、原料分散液に均一に剪断がかかるように、攪拌または循環することが好ましい。
高圧ホモジナイザーを用いる場合、原料分散液を増圧機で好ましくは30MPa以上、より好ましくは100MPa以上、さらに好ましくは150MPa以上、特に好ましくは220MPa以上に加圧し、細孔直径50μm以上のノズルから噴出させ、圧力差が好ましくは30MPa以上、より好ましくは80MPa以上、さらに好ましくは90MPa以上となるように減圧する。この圧力差で生じるへき開現象により、セルロース繊維を解繊する。
ここで、高圧条件の圧力が低い場合や、高圧から減圧条件への圧力差が小さい場合には、解繊効率が下がり、所望の繊維径とするための繰り返し噴出回数が多く必要となるため好ましくない。
噴出時の高圧条件が高いほど、圧力差により大きなへき開現象でより一層の微細化を図ることができるが、装置仕様の上限として、通常245MPa以下である。
同様に、高圧条件から減圧下への圧力差も大きいことが好ましいが、一般的には、増圧機による加圧条件から大気圧下に噴出することで、圧力差の上限は通常245MPa以下である。
また、原料分散液を噴出させる細孔の細孔直径が大き過ぎる場合にも、十分な解繊効果が得られず、この場合には、噴出処理を繰り返し行っても、所望の繊維径のセルロース繊維が得られないおそれもある。原料分散液を噴出させる細孔の直径は小さければ容易に高圧状態を作り出せるが、過度に小さいと噴出効率が悪くなる。この細孔直径は、50μm以上が好ましく、100μm以上がより好ましく、150μm以上がさらに好ましく、800μm以下が好ましく、500μm以下がより好ましく、350μm以下がさらに好ましい。
原料分散液の噴出は、必要に応じて複数回繰り返すことにより、微細化度を上げて所望の繊維径のセルロース繊維を得ることができる。この繰り返し回数(パス数)は、通常1回以上、好ましくは3回以上で、通常20回以下、好ましくは15回以下である。パス数が多い程、微細化の程度を上げることができるが、過度にパス数が多いとコスト高となるため好ましくない。
噴出時の温度(分散液温度)には特に制限はないが、通常5℃以上100℃以下である。温度が高すぎると装置、具体的には送液ポンプや高圧シール部等の劣化を早める恐れがあるため好ましくない。
なお、噴出ノズルは1本でも2本でもよく、噴出させた原料分散液を噴出先に設けた壁やボール、リングにぶつけてもよい。更にノズルが2本の場合には、噴出先で原料分散液同士を衝突させてもよい。
高圧ホモジナイザーの具体的な装置は特に制限されないが、例えば、ガウリン社製や、スギノマシン社製の「スターバーストシステム」を用いることができる。
なお、このような高圧ホモジナイザーによる処理のみでも、本発明の微細セルロース繊維分散液を得ることは可能であるが、十分な微細化度とするための繰り返し回数が多く処理効率が悪い場合には、1〜5回程度の高圧ホモジナイザー処理後に以下の超音波処理を行って微細化することが好ましい。
超音波処理を行う場合、超音波処理を施す、解繊処理後の原料分散液(以後、適宜、超音波処理用原料分散液と称する)中のセルロース濃度は、液全量に対して、0.5重量%以上が好ましく、1重量%以上がより好ましく、50重量%以下が好ましく、40重量%以下がより好ましい。超音波を照射する超音波処理用原料分散液中のセルロース濃度が低過ぎると非効率であり、高過ぎると粘度が高くなり解繊処理が不均一になる。
本発明では、セルロース繊維のみを含むセルロース繊維分散液ではなく、セルロース繊維とゴム成分とを含有する原料分散液に対して解繊処理を施すことにより、セルロース繊維に対して大きなせん断力が付与され、効率的な解繊処理を行える。
<微細セルロース繊維分散液>
上記解繊工程を経て得られた微細セルロース繊維分散液中には、微細セルロース繊維が均一に分散しており、微細セルロース繊維の凝集や沈降が抑制され、優れた液安定性を有する。
また、以下詳述する微細セルロース繊維含有加硫ゴム組成物中においては、微細セルロース繊維が加硫ゴム成分中に均一に分散し、高弾性率、低発熱性を示す。
微細セルロース繊維分散液中における微細セルロース繊維の含有量は使用される出発原料であるセルロース繊維量によって適宜調製されるが、分散液の安定性の点から、分散液全量に対して、0.5重量%以上が好ましく、1重量%以上がより好ましく、50重量%以下が好ましく、40重量%以下がより好ましく、30重量%以下がさらに好ましい。
なお、微細セルロース繊維分散液中の分散媒、ゴム成分は、上述した原料分散液の各成分の含有量と同じであり、好適な範囲も同じである。
また、微細セルロース繊維とゴム成分との重量比は、上記原料分散液中のセルロース繊維とゴム成分との重量比と同じである。さらに、ゴム成分と分散媒との重量比も、上述の通りである。
微細セルロース繊維分散液中のセルロース繊維量が少ないと補強効果が充分でなく、逆に多いとゴムの加工性が低下する場合がある。
(セルロースI型結晶)
上記解繊工程によって得られる微細セルロース繊維は、セルロースI型結晶構造を有することが好ましい。セルロースI型結晶は、他の結晶構造より結晶弾性率が高いため、高弾性率、高強度、低線膨張係数であり好ましい。
微細セルロース繊維がI型結晶構造であることは、その広角X線回折像測定により得られる回折プロファイルにおいて、2θ=14〜17°付近と2θ=22〜23°付近の二つの位置に典型的なピークをもつことから同定することができる。
(微細セルロース繊維の数平均繊維径)
上記方法によって得られた微細セルロース繊維分散液中の微細セルロース繊維の数平均繊維径は、分散液中の分散媒を乾燥除去した後、SEMやTEM等で観察することにより計測して求めることができる。
本発明により得られる解繊された微細セルロース繊維の数平均繊維径は、得られる微細セルロース繊維含有加硫ゴム組成物がより優れた低線膨張性を示す点より、400nm以下が好ましく、100nm以下であることがより好ましく、50nm以下であることが更に好ましい。尚、この数平均繊維径の下限は通常4nm以上である。
微細セルロース繊維の平均繊維径が上記下限未満の場合は、セルロースのI型結晶が壊れており、繊維自体の強度や弾性率が低下するため、補強効果が得られ難い。また、上記上限を超える場合はゴムとの接触面積が小さくなるため、補強効果が小さくなる。
なお、上記数平均繊維径は、SEMやTEM等で観察して、写真の対角線に線を引き、その近傍にある繊維をランダムに12点抽出し、最も太い繊維と最も細い繊維を除去した10点を測定して、平均した値である。
(乾燥)
得られた微細セルロース繊維分散液を以下に詳述する加硫反応に用いる場合は、通常、加熱処理、減圧処理等を行うことにより、該微細セルロース繊維分散液を乾燥、固化などさせ、分散液中の溶媒(分散媒)を除去して微細セルロース繊維含有ゴム組成物とすることができる。溶媒(分散媒)はその後の工程にあわせ、適当な量を除去すればよい。加熱処理の場合、加熱温度は、溶媒(分散媒)が水である場合には、通常100℃程度であり、分散液に含まれる溶媒(分散媒)の種類により適宜変化させることができる。
<その他添加剤>
本発明の微細セルロース繊維分散液またはこの微細セルロース繊維分散液から溶媒(分散媒)を除去して得られる微細セルロース繊維含有ゴム組成物には、必要に応じて微細セルロース繊維、ゴム成分の他に、従来ゴム工業で使用される他の配合剤を添加してもよい。本発明の微細セルロース繊維分散液またはこの微細セルロース繊維分散液から溶媒(分散媒)を除去して得られる微細セルロース繊維含有ゴム組成物に添加し得るその他の添加剤としては、例えば、他の補強剤としてシリカ粒子やカーボンブラック、繊維などの、無機、有機のフィラー、シランカップリング剤、以下に説明する加硫剤、ステアリン酸、アミン類、酸化亜鉛、酸化マグネシウムなどの加硫促進剤や加硫促進助剤、オイル、硬化レジン、ワックス、老化防止剤などが挙げられる。これらの添加剤は、通常は、解繊処理後の微細セルロース繊維分散液またはこの微細セルロース繊維分散液から溶媒(分散媒)を除去して得られる微細セルロース繊維含有ゴム組成物に添加するが、あらかじめ原料分散液中に添加しておいてもよい。
(加硫剤)
加硫剤としては、有機過酸化物または硫黄系加硫剤を使用することが可能である。有機過酸化物としては従来ゴム工業で使用される各種のものが使用可能であるが、中でも、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゼンおよびジ−t−ブチルパーオキシ−ジイソプロピルベンゼンが好ましい。また、硫黄系加硫剤としては、例えば硫黄、モルホリンジスルフィドなどを使用することができ、中でも硫黄が好ましい。これらの加硫剤は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
本発明の微細セルロース繊維分散液中またはこの微細セルロース繊維分散液から溶媒(分散媒)を除去して得られる微細セルロース繊維含有ゴム組成物中の加硫剤の配合量としては、ゴム成分100重量部に対して硫黄の場合、7.0重量部以下、好ましくは6.0重量部以下である。また、通常0.5重量部以上、好ましくは1.0重量部以上、より好ましくは3.0重量部以上、中でも4.0重量部以上である。
[II.微細セルロース繊維含有加硫ゴム組成物の製造方法]
本発明の微細セルロース繊維含有加硫ゴム組成物は、本発明の微細セルロース繊維分散液の製造方法を経て得られる本発明の微細セルロース繊維分散液から、溶媒(分散媒)を除去して微細セルロース繊維含有ゴム組成物を製造した後、この微細セルロース繊維含有ゴム組成物を加硫して製造される。具体的には、本発明の微細セルロース繊維分散液から溶媒(分散媒)を除去して得られる微細セルロース繊維含有ゴム組成物を加硫反応させ、微細セルロース繊維と加硫ゴム成分とを含有する微細セルロース繊維含有加硫ゴム組成物(以下、本発明の微細セルロース繊維含有加硫ゴム組成物と称することがある。)を得る工程である。なお、本発明の微細セルロース繊維含有加硫ゴム組成物の製造方法は、必要に応じて、該加硫工程の前に、微細セルロース繊維分散液または微細セルロース繊維含有ゴム組成物に、更にゴム成分を添加する添加工程を備えていてもよい。
添加工程を行う場合、この添加工程でのゴム成分の添加は、前述の原料分散液の製造方法におけるセルロース繊維分散液とゴム成分との混合と同様にして行うことができる。
<加硫工程>
加硫工程では、上記の微細セルロース繊維含有ゴム組成物を用いて、微細セルロース繊維と加硫ゴム成分とを含有する微細セルロース繊維含有加硫ゴム組成物を得る。すなわち、微細セルロース繊維含有ゴム組成物を加硫反応させることにより(加硫工程)、微細セルロース繊維と加硫ゴム成分とを含有する微細セルロース繊維含有加硫ゴム組成物を得ることができる。通常の場合、本発明の微細セルロース繊維含有加硫ゴム組成物は、本発明の微細セルロース繊維分散液から、必要に応じて溶媒を除去して微細セルロース繊維含有ゴム組成物とし、更にゴム成分と前述の各種配合剤を、ゴム用混練機等の公知の方法を用いて混合した後、成形し、公知の方法で加硫反応させることにより得られる。
加硫工程に先立つ成形には、各種の方法が可能であり、例えば、微細セルロース繊維分散液を、基板上へ塗布して塗膜状としてもよく、型内に流し込んでもよく、或いは押し出し加工してもよい。この際、必要に応じて、乾燥処理を施して、溶媒を除去してもよい。
例えば、微細セルロース繊維含有加硫ゴム組成物としての本発明のタイヤを例にとると、本発明のタイヤは、本発明の微細セルロース繊維分散液を用いて、従来公知の方法で製造される。すなわち、ゴム成分中に分散した微細セルロース繊維から水分やその他溶媒を除去し、微細セルロース繊維含有ゴム組成物とし、必要に応じて添加剤を加え、混練りして、未加硫状態でタイヤの所望の適用部材の形状に合わせて押し出し加工し、タイヤの他の部材とともにタイヤ成形機上にて通常の方法により成形することにより、未加硫タイヤを形成する。この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧することにより、本発明の微細セルロース繊維含有加硫ゴム組成物を用いるタイヤを得ることができる。かかる本発明のタイヤは、転がり抵抗が小さく、良好な操縦安定性と耐久性を有する。
加硫工程の条件は特に限定されず、ゴム成分を加硫ゴムとできる温度以上であればよい。なかでも、有機溶媒を揮発させて除去できる点から、加熱温度は、60℃以上が好ましく、100℃以上がより好ましい。なお、微細セルロース繊維の分解を抑制する点から、加熱温度は250℃以下が好ましく、200℃以下がより好ましい。加熱時間は、生産性などの点から、5分以上、好ましくは10分以上、更に好ましくは15分以上で、180分以下が好ましい。加熱処理は複数回にわたって、温度・加熱時間を変更して実施してもよい。
<微細セルロース繊維含有加硫ゴム組成物>
(微細セルロース繊維の数平均繊維径)
上記の方法によって得られた微細セルロース繊維含有加硫ゴム組成物中の微細セルロース繊維の数平均繊維径は、微細セルロース繊維含有加硫ゴム組成物を必要に応じて切り出し、SEMやTEM等で観察することにより計測して求めることができる。
本発明の微細セルロース繊維含有加硫ゴム組成物中の微細セルロース繊維の数平均繊維径は、得られる加硫ゴム組成物がより優れた低線膨張性を示す点より、400nm以下が好ましく、100nm以下であることがより好ましく、50nm以下であることが更に好ましい。尚、この数平均繊維径の下限は通常4nm以上である。
微細セルロース繊維含有加硫ゴム組成物中の微細セルロース繊維の平均繊維径が上記下限未満の場合は、セルロースのI型結晶構造が維持できず、繊維自体の強度や弾性率が低下し、補強効果が得られ難い。また、上記上限を超える場合はゴムとの接触面積が小さくなるため、補強効果が小さくなる。
なお、上記微細セルロース繊維の数平均繊維径は、SEMやTEM等で観察して、写真の対角線に線を引き、その近傍にある繊維をランダムに12点抽出し、最も太い繊維と最も細い繊維を除去した10点を測定して、平均した値である。
(微細セルロース繊維の含有量)
微細セルロース繊維含有加硫ゴム組成物中における微細セルロース繊維の含有量は目的に応じて適宜調整されるが、補強の点から、微細セルロース繊維含有加硫ゴム組成物全量に対して、0.5重量%以上が好ましく、1重量%以上がより好ましく、50重量%以下が好ましく、40重量%以下がより好ましく、30重量%以下がさらに好ましい。微細セルロース繊維含有加硫ゴム組成物中の微細セルロース繊維量が少ないと補強効果が充分でなく、逆に多いとゴムの加工性が低下する場合がある。
なお、微細セルロース繊維含有加硫ゴム組成物中に含まれる微細セルロース繊維とゴム成分との重量比は、ゴム成分の添加工程がない場合は、上記原料分散液および微細セルロース繊維分散液におけるセルロース繊維とゴム成分との重量比と同じである。ゴム成分の添加工程がある場合は、原料分散液および微細セルロース繊維分散液におけるセルロース繊維と、これらの分散液中のゴム成分及び後添加されたゴム成分との合計の重量比となるが、その重量比は、前述の如く、微細セルロース繊維とゴム成分との合計を100重量部とした場合、微細セルロース繊維の含有量が2.5重量部以上、特に3重量部以上、とりわけ5重量部以上で、97.5重量部以下、特に97重量部以下、とりわけ95重量部となる量であることが好ましい。
(微細セルロース繊維の分散状態)
このようにして得られる本発明の微細セルロース繊維含有加硫ゴム組成物は、数平均繊維径が4〜400nm、好ましくは4〜100nm、更に好ましくは4〜50nmの微細セルロース繊維が凝集塊を作ることなく加硫ゴム成分中に均一に分散しており、微細セルロース繊維による補強効果によって、高い弾性率が達成されると同時に、セルロース繊維の繊維径が細いためにゴム本来の伸びが阻害されないことから、高い破断伸度が達成されると考えられる。即ち、補強ゴムとして、耐久性及び剛性に優れた特性を示し、タイヤ等のゴム製品に好適に用いることができる。
なお、本発明の微細セルロース繊維含有加硫ゴム組成物における、微細セルロース繊維の分散状態は、SEM等により断面構造を観察することにより確認することができる。
(弾性率)
本発明の微細セルロース繊維含有加硫ゴム組成物の好ましいものは、弾性率が15MPa以上、中でも4MPa以上、10GPa以下である。
なお、弾性率は、微細セルロース繊維含有加硫ゴム組成物より2mm厚のゴムスラブシートを作製し、10×40×2mmの測定用試験片を切り出し、SII社製DMS6100等の粘弾性装置を用いて、温度70℃、初期歪10%、動歪2%、周波数10Hzの条件下で、E*(複素弾性率)を測定することにより求めることができる。
(破断伸度・破断強度)
本発明の微細セルロース繊維含有加硫ゴム組成物の好ましいものは、破断伸度が200%以上、中でも400%以上、10000%以下、好ましくは2000%以下である。
また、本発明の微細セルロース繊維含有加硫ゴム組成物の好ましいものは、破断強度が15MPa以上、中でも20MPa以上、40MPa以下、好ましくは35MPa以下である。
なお、破断伸度および破断強度は、JIS K6251「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム−引張特性の求め方」に従い、測定することができる。
[III.タイヤ]
本発明のタイヤは、上述の本発明の微細セルロース繊維含有加硫ゴム組成物を用いてなるものであり、例えば、乗用車用、トラック用、バス用、重車両用などの空気入りタイヤなどに適用することができる。
以下、実施例および比較例によって、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例により限定されるものではない。
[実施例1]
<原料分散液の調製>
セルロース繊維原料として広葉樹クラフトパルプ(以下LBKPと略する)を用いた。このLBKPのカルボキシ基量は、0.06mmol/gであった。
150g(固形分20%、水分80%、絶乾重量換算で30g)のLBKPを、3gの臭化ナトリウム、0.48gの2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシル(TEMPO)を溶解させたイオン交換水2500mlに分散させた。64.5g/Lの次亜塩素酸ナトリウム水溶液86.5mlを、0.1M塩酸にてpH10に調整し、これを前記イオン交換水に分散させたLBKPに添加して反応を開始した。反応は室温で行った。反応中、pHが低下していったが、随時20g/L水酸化ナトリウム水溶液を添加しながらpHを10に保持した。反応を開始して4時間経過すると、pHが低下しなくなったため、この時点で反応終了とした。反応終了後、イオン交換水で懸濁洗浄し、洗浄水のpHが8以下になるまで懸濁洗浄を繰り返した。ろ紙を用いて減圧ろ過し、固形分濃度20%のTEMPO酸化処理されたセルロース繊維を得た。このTEMPO酸化処理されたセルロース繊維のカルボキシ基量は、1.03mmol/gであった。
このTEMPO酸化処理されたセルロース繊維100g(絶乾重量換算で20g)を採取し、亜塩素酸ナトリウム18g、酢酸60g、イオン交換水700mlを添加し、20g/L水酸化ナトリウム水溶液にてpHを4.5に調整した。室温にて48時間保持して反応させた。反応終了後、イオン交換水で懸濁洗浄し、洗浄水のpHが6以上になるまで懸濁洗浄を繰り返した。ろ紙を用いて減圧ろ過し、固形分濃度20%のセルロース繊維を得た。
天然ゴムラテックス(NR−LATEX、ハイラテック社製、固形分濃度61重量%)100重量部(固形量:7.5g)に対し、セルロース繊維として、上記で得られたTEMPO酸化処理されたセルロース繊維を乾燥重量が5重量部(固形量:0.38g)となるように加え、セルロース繊維濃度が約0.2重量%となるように脱塩水を加えてセルロース繊維−天然ゴム分散液(原料分散液)を調製した。
<微細セルロース繊維分散液の製造>
得られた原料分散液を回転式高速ホモジナイザー(IKA製バッチ式ホモジナイザー)にて11000rpmで、電流値が5Aを超えない範囲で、25分間処理し、セルロース繊維の解繊を行い、微細セルロース繊維が分散した微細セルロース繊維−天然ゴム分散液(微細セルロース繊維分散液)を得た。
この微細セルロース繊維分散液をバットに入れ、110℃のオーブン中にて乾燥固化(溶媒除去)し、微細セルロース繊維含有ゴム組成物を得た。
<微細セルロース繊維含有加硫ゴム組成物の製造>
微細セルロース繊維含有ゴム組成物のゴム成分100重量部に対して、下記の表1に示す配合に従い、微細セルロース繊維含有加硫ゴム組成物を作製した。詳細には、微細セルロース繊維含有ゴム組成物のゴム成分100重量部に対し、ステアリン酸(和光純薬工業社製)3重量部及び酸化亜鉛(1号亜鉛華、浅岡窯業原料社製)3重量部を添加し、140℃で5分間混練した。混練装置は東洋精機社製ラボプラストミルμを使用した。
得られた混練物に、加硫促進剤(N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド、和光純薬工業社製)1重量部と硫黄(5%油処理粉末硫黄、鶴見化学工業社製)2重量部を添加し、80℃で3分間混練した。得られた混練物を160℃で10分間加圧プレス加硫し、厚さ2mmの微細セルロース繊維含有加硫ゴム組成物を得た。
Figure 2014088503
[比較例1]
酸化処理を施したLBKPの代りに、酸化処理を施していないLBKPを用いたこと以外は、実施例1と同様にして微細セルロース繊維分散液および微細セルロース繊維含有加硫ゴム組成物を得た。
[比較例2]
セルロース繊維を用いず、上記の表1に示す配合に従い、実施例1と同様にして、微細セルロース繊維含有加硫ゴム組成物を得た。
[評価試験]
実施例1及び比較例1,2で得られた微細セルロース繊維含有加硫ゴム組成物を、所定のダンベル形状の試験片にし、破断強度と破断伸度を評価し、結果を表2に示した。
なお、評価方法は以下の通りである。
破断強度および破断伸度は、JIS K6251に準じた引張試験(装置はオリエンテック社製STA−1225を使用)により、加硫ゴム組成物の破断強度および破断伸度を測定し、天然ゴムのみの比較例2の値を100とした指数で表示した。指数が大きいほど補強性に優れることを示す。
Figure 2014088503
表2に示す結果から、実施例1の微細セルロース繊維含有加硫ゴム組成物は、酸化処理が施されていないセルロース繊維の原料分散液を解繊処理した比較例1や天然ゴムのみである比較例2と比べ、破断伸度や破断強度においていずれも高い指数を示し、補強性に優れることが分かる。これは、N−オキシル化合物を用いて酸化処理されたセルロース繊維とゴム成分とを含有する原料分散液中でセルロース繊維を解繊することにより、解繊効率が向上し、セルロース繊維が微細になり、加硫ゴム成分中での分散性が格段に向上した結果と考えられる。
本発明によれば、補強性が向上した微細セルロース繊維含有加硫ゴム組成物を製造することができるので、各種タイヤのゴム部材やホース、ベルト、防振シートなどに好適に使用できる。

Claims (6)

  1. 微細セルロース繊維とゴム成分とを含有する微細セルロース繊維分散液の製造方法であって、
    N−オキシル化合物を用いて酸化処理されたセルロース繊維とゴム成分とを含有する原料分散液中でセルロース繊維を解繊して、微細セルロース繊維を得る解繊工程を備えることを特徴とする、微細セルロース繊維分散液の製造方法。
  2. 前記微細セルロース繊維が、数平均繊維径が400nm以下のセルロース繊維である、請求項1に記載の微細セルロース繊維分散液の製造方法。
  3. 請求項1または2に記載の微細セルロース繊維分散液の製造方法により得られる、微細セルロース繊維分散液。
  4. 請求項3に記載の微細セルロース繊維分散液から分散媒を除去して得られる、微細セルロース繊維含有ゴム組成物。
  5. 請求項4に記載の微細セルロース繊維含有ゴム組成物を加硫して得られる、微細セルロース繊維含有加硫ゴム組成物。
  6. 請求項5に記載の微細セルロース繊維含有加硫ゴム組成物を用いてなる、タイヤ。
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