以下、本発明の一実施形態に係る車両のブレーキ装置について図面を用いて説明する。図1は、本実施形態に係る車両のブレーキ装置の概略システム構成図である。車両のブレーキ装置は、ブレーキペダル10と、マスタシリンダユニット20と、動力液圧発生装置30と、ブレーキユニット40と、液圧制御弁装置50と、ブレーキ制御を司るブレーキECU100とを含んで構成される。
マスタシリンダユニット20は、マスタシリンダ21とリザーバ22とを備えている。マスタシリンダ21は、加圧ピストン21a,21bを備えたタンデム式であり、ブレーキペダル10の踏み込み操作に伴って入力されるペダル踏力に対して、それぞれ、所定の倍力比を有するマスタシリンダ圧Pmc_FR,Pmc_FLを発生する。マスタシリンダ21の上部には、作動液(ブレーキフルード)を貯留するリザーバ22が設けられている。これにより、マスタシリンダ21においては、ブレーキペダル10の踏み込み操作が解除されて加圧ピストン21a,21bが後退しているときに、加圧ピストン21a,21bによって形成される加圧室21a1,21b1がリザーバ22と連通するようになっている。尚、加圧室21a1,21b1は、それぞれ、後述するマスタ圧配管11,12を介して液圧制御弁装置50と連通するようになっている。
動力液圧発生装置30は、動力式液圧源(パワーサプライ)であって、加圧手段としての加圧ポンプ31とアキュムレータ32とを備えている。加圧ポンプ31は、その吸入口がリザーバ22に接続され、吐出口がアキュムレータ32に接続され、モータ33を駆動することにより作動液を加圧する。アキュムレータ32は、加圧ポンプ31により加圧された作動液の圧力エネルギーを窒素等の封入ガスの圧力エネルギーに変換して蓄える。又、アキュムレータ32は、マスタシリンダユニット20に設けられたリリーフバルブ23に接続されている。リリーフバルブ23は、作動液の圧力が所定の圧力以上に高まった場合に開弁し、作動液をリザーバ22に戻す。尚、本実施形態においては、動力液圧発生装置30が加圧ポンプ31及びモータ33とアキュムレータ32とを備えるように実施する。しかし、動力液圧発生装置30がアキュムレータ32を備えない場合等では、加圧ポンプ31以外の他の加圧手段として、例えば、モータにより駆動するシリンダ加圧装置等を採用して実施することが可能である。
ブレーキユニット40は、図1に示すように、車両の各車輪にそれぞれ設けられるブレーキユニット40FR,40FL,40RR,40RLからなる。尚、以下の説明においては、車輪ごとに設けられる構成についてその符号の末尾に、右前輪についてはFR、左前輪についてはFL、右後輪についてはRR,左後輪についてはRLを付すものとするが、特に車輪位置を特定する必要がない場合には、末尾の符号を省略する。各車輪にそれぞれ設けられるブレーキユニット40FR,40FL,40RR,40RLは、ブレーキロータ41FR,41FL,41RR,41RLとブレーキキャリパ内に内蔵されたホイールシリンダ42FR,42FL,42RR,42RLとを備える。ここで、ブレーキユニット40は、4輪ともディスクブレーキ式に限定されるものではなく、例えば、4輪ともドラムブレーキ式であってもよいし、前輪がディスクブレーキ式、後輪がドラムブレーキ式等のように任意に組み合わせたものであってもよい。
ホイールシリンダ42FR,42FL,42RR,42RLは、液圧制御弁装置50に接続されて、同装置50を介して供給される作動液の液圧が伝達されるようになっている。そして、液圧制御弁装置50を介して伝達される(供給される)液圧により、車輪と共に回転するブレーキロータ41FR,41FL,41RR,41RLにブレーキパッドを押し付けて車輪に制動力を付与する。
本実施形態における車両のブレーキ装置は、液圧制御弁装置50を介してホイールシリンダ42に作動液の液圧を付与する液圧源として、ドライバによるブレーキペダル10を介して入力されるペダル踏力を利用して液圧を付与するマスタシリンダユニット20のマスタシリンダ21(又は、後述する増圧機構80)と、このマスタシリンダ21とは独立して液圧を付与する動力液圧発生装置30とを備える。そして、車両のブレーキ装置においては、マスタシリンダ21(より詳しくは、加圧室21a1,21b1)及び動力液圧発生装置30(より詳しくは、少なくともアキュムレータ32)が、それぞれ、マスタ圧配管11,12及びアキュムレータ圧配管13を介して液圧制御弁装置50に接続される。又、マスタシリンダユニット20のリザーバ22は、リザーバ配管14を介して液圧制御弁装置50に接続される。尚、以下の説明において、マスタ圧配管12については、後述する増圧機構80よりも上流側(入力側)をマスタ圧配管12aと称呼し、増圧機構80よりも下流側(出力側)をマスタ圧配管12bと称呼して区別する。
弁機構を有する液圧制御弁装置50は、各ホイールシリンダ42FR,42FL,42RR,42RLに接続される4つの個別流路51FR,51FL,51RR,51RLと、個別流路51FR,51FL,51RR,51RLを連通する主流路52と、個別流路51FR,51FLとマスタ圧配管11,12(12b)とを接続するマスタ圧流路53,54と、主流路52とアキュムレータ圧配管13とを接続するアキュムレータ圧流路55とを備えている。ここで、マスタ圧流路53,54、及び、アキュムレータ圧流路55は、それぞれ、主流路52に対して並列に接続される。
各個別流路51FR,51FL,51RR,51RLには、それぞれ、弁機構を構成する保持弁61FR,61FL,61RR,61RLが設けられる。左前輪側のブレーキユニット40FL及び右後輪側のブレーキユニット40RRに設けられた保持弁61FL,61RRは、ソレノイドの非通電時にスプリングの付勢力により開弁状態を維持し、ソレノイドへの通電中においてのみ閉弁状態となる常開の電磁開閉弁である。一方、右前輪側のブレーキユニット40FR及び左後輪側のブレーキユニット40RLに設けられた保持弁61FR,61RLは、ソレノイドの非通電時にスプリングの付勢力により閉弁状態を維持し、ソレノイドへの通電中においてのみ開弁状態となる常閉の電磁開閉弁である。ここで、特に、車両の前輪側に設けられる保持弁61FRについては、規定の制御電流(後述する補償電流)の供給を受けてソレノイドが発生させる電磁力により、開弁状態が保証されるようになっている。
このように、各保持弁61は、開弁状態では主流路52と各ホイールシリンダ42との間の作動液の連通を許可し、閉弁状態では主流路52と各ホイールシリンダ42との間の作動液の連通を禁止するものである。これにより、各保持弁61は、閉弁状態において作動液を主流路52から個別流路51を介して各ホイールシリンダ42に流すことによってホイールシリンダ圧Pwcを増加させる(増圧する)。一方、各保持弁61は、閉弁状態において主流路52から個別流路51を介した各ホイールシリンダ42への作動液の流通を遮断するとともに各ホイールシリンダ42から個別流路51を介した主流路52への作動液の流通を遮断することによって、ホイールシリンダ圧Pwcを維持させる(保圧する)。
ここで、左右前輪側のブレーキユニット40FR,40FLに設けられた保持弁61FR,61FL、左右後輪側のブレーキユニット40RR,40RLに設けられた保持弁61RR,61RLにおいて、一方が常開の電磁開閉弁とされ、他方が常閉の電磁開閉弁とされる。すなわち、前後の対角位置にある一方の2つの車輪に対応するブレーキユニット40FLとブレーキユニット40RRに設けられる保持弁61FL,61RRが常開の電磁開閉弁とされ、前後の対角位置にある他方の2つの車輪に対応するブレーキユニット40FRとブレーキユニット40RLに設けられる保持弁61FR,61RLが常閉の電磁開閉弁とされる。従って、本実施形態における車両のブレーキ装置は、所謂、クロス系統を形成するものである。
又、各個別流路51FR,51FL,51RR,51RLには、それぞれ、減圧用個別流路56FR,56FL,56RR,56RLが接続される。各減圧用個別流路56は、リザーバ流路57に接続される。リザーバ流路57は、リザーバ配管14を介してリザーバ22に接続される。各減圧用個別流路56FR,56FL,56RR,56RLには、その途中部分に、それぞれ、弁機構を構成する減圧弁62FR,62FL,62RR,62RLが設けられている。減圧弁62FR,62FL,62RRは、ソレノイドの非通電時にスプリングの付勢力により開弁状態を維持し、ソレノイドへの通電中においてのみ開弁状態となる常閉の電磁開閉弁である。減圧弁62RLは、ソレノイドの非通電時にスプリングの付勢力により開弁状態を維持し、ソレノイドへの通電中においてのみ閉弁状態となる常開の電磁開閉弁である。各減圧弁62は、開弁状態において作動液をホイールシリンダ42から減圧用個別流路56を介してリザーバ流路57に流すことによってホイールシリンダ圧Pwcを低下させる(減圧する)。
マスタ圧流路53,54には、それぞれ、その途中部分にマスタカット弁63,64が設けられる。マスタカット弁63,64は、ソレノイドの非通電時にスプリングの付勢力により開弁状態を維持し、ソレノイドへの通電中においてのみ閉弁状態となる常開の電磁開閉弁である。このようにマスタカット弁63,64を設けることにより、マスタカット弁63,64が閉弁状態にあるときには、マスタシリンダ21(及び増圧機構80)とホイールシリンダ42FR,42FLとの間の接続が遮断されることによって作動液の流通が禁止され、マスタカット弁63,64が開弁状態にあるときには、マスタシリンダ21(及び増圧機構80)とホイールシリンダ42FR,42FLとが接続されることによって作動液の流通が許容される。
アキュムレータ圧流路55には、その途中部分に増圧リニア制御弁65Aが設けられる。又、アキュムレータ圧流路55が接続される主流路52とリザーバ流路57との間には、減圧リニア制御弁65Bが設けられる。増圧リニア制御弁65A及び減圧リニア制御弁65Bは、ソレノイドの非通電時にスプリングの付勢力により閉弁状態を維持し、ソレノイドへの通電量(電流値)の増加に伴って弁開度を増加させる常閉の電磁リニア制御弁である。増圧リニア制御弁65A及び減圧リニア制御弁65Bは、その詳細な説明を省略するが、内蔵されたスプリングが弁体を閉弁方向に付勢するばね力と、相対的に高圧の作動液が流通する一次側(入口側)及び相対的に低圧の作動液が流通する二次側(出口側)の差圧によって弁体が開弁方向に付勢される差圧力との差分として表される閉弁力により閉弁状態を維持する。
一方、増圧リニア制御弁65A及び減圧リニア制御弁65Bは、ソレノイドへの通電により発生する弁体を開弁させる方向に作用する電磁吸引力が上記閉弁力を上回った場合、すなわち、電磁吸引力>閉弁力(=ばね力−差圧力)を満たす場合には、弁体に作用する力のバランスに応じた開度で開弁する。従って、増圧リニア制御弁65A及び減圧リニア制御弁65Bは、ソレノイドへの通電量(電流値)を制御することにより、差圧力すなわち一次側(入口側)と二次側(出口側)との差圧に応じた開度を調整することができる。尚、以下の説明においては、増圧リニア制御弁65A及び減圧リニア制御弁65Bの両者について区別する必要がない場合には、単に、リニア制御弁65とも称呼する。
又、本実施形態における車両のブレーキ装置には、液圧制御弁装置50のマスタ圧流路54に接続されるマスタ圧配管12(より詳しくは、マスタ圧配管12a)に対して、ストロークシミュレータ70が設けられている。ストロークシミュレータ70は、ピストン70a及びスプリング70bを備えており、ドライバによるブレーキペダル10のブレーキ操作量に応じた量の作動液を内部に導入する。そして、ストロークシミュレータ70は、作動液を内部に導入することに合わせてピストン70aをスプリング70bに付勢力に抗して変位させることにより、ドライバによるブレーキペダル10のストローク操作を可能とするとともに、ブレーキ操作量に応じた反力を発生させてドライバのブレーキ操作フィーリングを良好にするものである。このストロークシミュレータ70は、シミュレータ流路71及びシミュレータカット弁72を介してマスタ圧配管12(マスタ圧配管12a)に接続される。尚、この場合、ストロークシミュレータ70をマスタ圧配管11に接続して実施可能であることは言うまでもない。
又、本実施形態における車両のブレーキ装置には、マスタシリンダ21の加圧室21b1から出力されるマスタシリンダ圧Pmc_FLを増圧(サーボ)してホイールシリンダ42FLに供給する増圧機構80が設けられている。ここで、増圧機構80を説明しておく。尚、増圧機構80については、後述するような機械的な動作によってマスタシリンダ圧Pmc_FLを増圧(サーボ)することができる構造であれば、いかなるものであっても採用可能である。又、以下においては、マスタ圧配管12に増圧機構80を設ける場合を例示して説明するが、マスタ圧配管11に増圧機構80を設けるように実施可能であることは言うまでもない。
増圧機構80は、図2に示すように、ハウジング81と、ハウジング81に液密かつ摺動可能に嵌合された段付きピストン82をと含み、段付きピストン82の大径側に大径側室83が設けられ、小径側に小径側室84が設けられる。小径側室84は、動力液圧発生装置30のアキュムレータ32に接続された高圧室85と、高圧供給弁86及び弁座87を介して、連通可能とされている。高圧供給弁86は、図2に示すように、高圧室85内にて、スプリングの付勢力によって弁座87に押し付けられており、常閉弁である。
又、小径側室84には、高圧供給弁86に対向して開弁部材88が設けられ、開弁部材88と段付きピストン82との間にスプリングが配置される。このスプリングの付勢力は、開弁部材88を段付きピストン82から離間させる向きに作用する。又、図2に示すように、段付きピストン82の段部とハウジング81との間には、リターンスプリングが設けられ、段付きピストン82を後退方向に付勢する。尚、段付きピストン82とハウジング81との間には図示しないストッパが設けられて、段付きピストン82の前進端位置を規制するようになっている。
更に、段付きピストン82には、大径側室83と小径側室84とを連通させる連通路89が形成される。連通路89は、少なくとも段付きピストン82の後退端位置において、図2に示すように開弁部材88から離間した状態で大径側室83と小径側室84とを連通させ、段付きピストン82が前進して開弁部材88に当接すると遮断される。このように構成されることにより、増圧機構80は、メカ式増圧器(メカ弁)として作動する。
尚、図1及び図2に示すように、高圧室85と動力液圧発生装置30とは高圧供給通路15によって接続され、高圧供給通路15には、増圧機構カット弁90とともに動力液圧発生装置30から高圧室85への作動液の流れを許容し、逆向きの流れを阻止する逆止弁が設けられる。増圧機構カット弁90は、ソレノイドの非通電時にスプリングの付勢力により開弁状態を維持し、ソレノイドへの通電中においてのみ閉弁状態となる常開の電磁開閉弁である。
このように、増圧機構カット弁90が設けられることにより、ソレノイドへの通電により閉弁状態では動力液圧発生装置30(より詳しくは、加圧ポンプ31又はアキュムレータ32)と高圧室85との間の液圧の伝達、すなわち、作動液の流通が遮断される。従って、仮に、シール性の異常等により増圧機構80に液漏れが生じた場合であっても、増圧機構カット弁90を閉弁状態に維持することにより、アキュムレータ32から高圧の作動液が増圧機構80及びマスタ圧配管12aを介してマスタシリンダ21に逆流することを確実に防止することができる。又、高圧供給通路15を介したアキュムレータ32と増圧機構80の高圧室85との連通(接続)が遮断されるため、仮に、シール性の異常等により増圧機構80に液漏れが生じた場合であっても、アキュムレータ32における液圧(後述するアキュムレータ圧Paccに相当)の低下(消費)を確実に防止することができる。
又、高圧供給通路15に逆止弁を設けることにより、動力液圧発生装置30(より詳しくは、アキュムレータ32)の液圧が高圧室85の液圧よりも高い場合には動力液圧発生装置30から高圧室85への作動液の流れを許容するが、動力液圧発生装置30の液圧が高圧室85の液圧以下の場合には閉弁状態にあり、双方向の流れを禁止する。従って、増圧機構カット弁90が開弁状態にあるときに、仮に、動力液圧発生装置30に液漏れが生じても、高圧室85から動力液圧発生装置30への作動液の逆流を阻止することができ、小径側室84の液圧の低下を防止することができる。
又、マスタ圧配管12aと増圧機構80の大径側室83とはパイロット通路16によって接続されるとともに、パイロット通路16と増圧機構80の出力側(すなわち、小径側室84に連通するマスタ圧配管12b)との間には、増圧機構80をバイパスして接続するバイパス通路17が設けられる。そして、バイパス通路17にはパイロット通路16(マスタ圧配管12a)から増圧機構80の出力側であるマスタ圧配管12bへの作動液の流れを許容し、逆向きの流れを阻止する逆止弁が設けられる。更に、段付きピストン82の段部とハウジング81とによって形成される空間とリザーバ22に連通するリザーバ配管14との間には、リザーバ通路18が設けられる。
具体的に増圧機構80の機械的な動作を簡単に説明しておくと、増圧機構80において、大径側室83にマスタシリンダ21からマスタ圧配管12a及びパイロット通路16を介して作動液(マスタシリンダ圧Pmc_FL)が供給されると、作動液は、連通路89を経て小径側室84に供給される。そして、作動液(マスタシリンダ圧Pmc_FL)の供給に伴って段付きピストン82に作用する前進方向の力(大径側室83に作用するマスタシリンダ圧Pmc_FLによる前進力)がリターンスプリングの付勢力よりも大きくなると、段付きピストン82は前進する。これにより、段付きピストン82が開弁部材88に当接して連通路89が遮断されると、段付きピストン82の前進に伴って小径側室84の液圧が増加し、増圧された作動液(すなわち、サーボ圧)がマスタ圧配管12bを介して液圧制御弁装置50のマスタ圧流路53に出力される。
更に、開弁部材88の前進により高圧供給弁86が開弁状態に切り替えられると、高圧室85から高圧の作動液が小径側室84に供給され、小径側室84の液圧がより高くなる。この場合、増圧機構カット弁90が開弁状態とされていて、動力液圧発生装置30のアキュムレータ32に蓄えられた作動液の液圧(アキュムレータ圧Pacc)が高圧室85内の液圧よりも高い場合には、アキュムレータ32の液圧(アキュムレータ圧Pacc)が高圧供給通路15の逆止弁を経て高圧室85に供給され、小径側室84に供給される。そして、段付きピストン82においては、大径側室83の液圧すなわちマスタシリンダ圧Pmc_FLが、大径側に作用する力(マスタシリンダ圧Pmc_FL×受圧面積)と小径側に作用する力(サーボ圧×受圧面積)とが釣り合う大きさに調整されて出力される。従って、増圧機構80はメカ式の倍力機構であるとも言える。
一方、増圧機構カット弁90が開弁状態にされていて、アキュムレータ32の液圧(アキュムレータ圧Pacc)が高圧室85の液圧以下である場合には、高圧供給通路15に設けられた逆止弁により、アキュムレータ32と高圧室85との間の作動液の流れが阻止されるため、段付きピストン82がそれ以上前進できなくなる。又、段付きピストン82はストッパに当接することによっても前進できなくなることもある。この状態で、マスタシリンダ21から供給されるマスタシリンダ圧Pmc_FLが上昇して小径側室84の液圧よりも高くなると、バイパス通路17及び逆止弁を経てマスタシリンダ圧Pmc_FLがマスタ圧配管12bに供給される。
動力液圧発生装置30及び液圧制御弁装置50は、制御手段としてのブレーキECU100により駆動制御される。ブレーキECU100は、CPU、ROM、RAM等からなるマイクロコンピュータを主要構成部品とするものであり、電磁弁駆動回路100aに加えて、ポンプ駆動回路、各種のセンサ信号を入力するインターフェース、通信インターフェース等を備えている。液圧制御弁装置50に設けられた各電磁開閉弁61〜64,72,90及びリニア制御弁65は、電磁弁駆動回路100aを介して全てブレーキECU100に接続され、ブレーキECU100から出力されるソレノイド駆動信号(電流)により開閉状態及び開度(リニア制御弁65の場合)が制御される。ここで、電磁弁駆動回路100aには、特に、保持弁61FRに供給される電流を検出するための電流検出回路100a1すなわち電流モニタ回路が設けられ、この電流モニタ回路によって検出された電流値を表す検出信号がブレーキECU100に出力されるようになっている。又、動力液圧発生装置30に設けられたモータ33は、ポンプ駆動回路を介してブレーキECU100に接続され、ブレーキECU100から出力されるモータ駆動信号により駆動制御される。
液圧制御弁装置50には、アキュムレータ圧センサ101、マスタシリンダ圧センサ102,103、制御圧センサ104が設けられる。アキュムレータ圧センサ101は、増圧リニア制御弁65Aよりも動力液圧発生装置30側(上流側)のアキュムレータ圧流路55における作動液の液圧、すなわち、アキュムレータ圧流路55はアキュムレータ圧配管13を介してアキュムレータ32と連通しているためアキュムレータ圧Paccを検出する。アキュムレータ圧センサ101は、検出したアキュムレータ圧Paccを表す信号をブレーキECU100に出力する。これにより、ブレーキECU100は、アキュムレータ圧Paccを所定の周期で読み込み、アキュムレータ圧Paccが予め設定された最低設定圧を下回る場合にはモータ33を駆動して加圧ポンプ31により作動液を加圧し、常にアキュムレータ圧Paccが設定圧力範囲内に維持されるように制御する。
マスタシリンダ圧センサ102は、マスタカット弁63よりもマスタシリンダ21側(上流側)のマスタ圧流路53における作動液の液圧、すなわち、マスタ圧流路53はマスタ圧配管11を介して加圧室21a1と連通しているためマスタシリンダ圧Pmc_FRを検出する。マスタシリンダ圧センサ103は、マスタカット弁64よりもマスタシリンダ21側(上流側)のマスタ圧流路54における作動液の液圧、すなわち、マスタ圧流路54はマスタ圧配管12を介して加圧室21b1と連通しているためマスタシリンダ圧Pmc_FLを検出する。マスタシリンダ圧センサ102,103は、検出したマスタシリンダ圧Pmc_FR,Pmc_FLを表す信号をブレーキECU100に出力する。
上流側液圧検出手段としての制御圧センサ104は、各ホイールシリンダ42よりも上流側である主流路52における作動液の液圧(すなわち、上流側に伝達された液圧であり、以下、「上流側液圧」とも称呼する。)を制御圧Pxとして検出する。そして、制御圧センサ104は、検出した制御圧Pxを表す信号をブレーキECU100に出力する。
又、ブレーキECU100には、ブレーキペダル10に設けられたストロークセンサ105が接続される。ストロークセンサ105は、ドライバによるブレーキペダル10の踏み込み量(操作量)であるペダルストロークSmを表す信号をブレーキECU100に出力する。又、ブレーキECU100には、車輪速センサ106が接続される。車輪速センサ106は、左右前後輪の回転速度である車輪速Vxi(i=FR,FL,RR,RL)を検出し、検出した車輪速Vxi(i=FR,FL,RR,RL)を表す信号をブレーキECU100に出力する。更に、ブレーキECU100には、車輪の回転状態の差によって車両に発生する挙動変化に関連する物理量を検出する挙動変化量検出センサ107が接続される。挙動変化量検出センサ107は、車両の挙動変化に関連する物理量として、具体的に、ヨーレートγ及び加速度Gを検出し、検出した物理量を表す信号をブレーキECU100に出力する。
次に、ブレーキECU100が実行するブレーキ制御について説明する。ブレーキECU100は、動力液圧発生装置30から出力される液圧(より詳しくは、アキュムレータ圧Pacc)をリニア制御弁65により調圧し、主流路52を介して各ホイールシリンダ42に伝達するリニア制御モード(4Sモード)と、ドライバによるブレーキペダル10に対するペダル踏力に応じてマスタシリンダ21にて発生したマスタシリンダ圧Pmc_FR,Pmc_FLを左右前輪側のホイールシリンダ42FR,42FLに伝達する、或いは、リニア制御弁65により調圧したアキュムレータ圧Paccを左右後輪側のホイールシリンダ42RR,42RLに伝達するバックアップモード(2Sモード)の2つの制御モードによりブレーキ制御を選択的に実行する。
まず、リニア制御モードにおいては、図3に示すように、ブレーキECU100は、常開のマスタカット弁63,64をソレノイドへの通電により閉弁状態に維持するとともに、シミュレータカット弁72をソレノイドへの通電により開弁状態に維持する。又、本実施形態におけるリニア制御モードにおいては、ブレーキECU100は、常開の増圧機構カット弁90をソレノイドへの通電により閉弁状態に維持する。
又、リニア制御モードにおいては、ブレーキECU100は、増圧リニア制御弁65A及び減圧リニア制御弁65Bのソレノイドへの通電量(電流値)を制御し、通電量に応じた開度に制御する。又、ブレーキECU100は、常開の保持弁61FL,61RRを開弁状態に維持するとともに、常閉の保持弁61FR,61RLをソレノイドへの通電により開弁状態に維持する。ここで、特に、常閉の保持弁61FRについては、ブレーキECU100は、後に詳述する開弁制御に従って、保持弁61FRを開弁状態に移行させる場合もある。更に、ブレーキECU100は、常閉の減圧弁62FR,62FL、62RRを閉弁状態に維持するとともに常開の減圧弁62RLをソレノイドへの通電により閉弁状態に維持する。
このように液圧制御弁装置50を構成する各電磁弁(電磁開閉弁)の開弁状態又は閉弁状態が制御されることにより、リニア制御モードにおいては、マスタカット弁63,64が共に閉弁状態に維持されるため、マスタシリンダ21から出力されるマスタシリンダ圧Pmc_FR,Pmc_FLは、ホイールシリンダ42FR,42FLに伝達されない。又、増圧機構カット弁90が閉弁状態に維持されるため、動力液圧発生装置30の加圧ポンプ31又はアキュムレータ32から出力されるアキュムレータ圧Paccは、増圧機構80に伝達されない。従って、リニア制御モードにおいては、増圧機構80の高圧室85から小径側室84、連通路89、大径側室83、パイロット通路16及びマスタ圧配管12(12a)を介して、高圧のアキュムレータ圧Paccがマスタシリンダ21に伝達することが防止される。
一方、増圧リニア制御弁65A及び減圧リニア制御弁65Bがソレノイドの通電制御状態にあるため、保持弁61よりも上流側にて動力液圧発生装置30から出力される高圧のアキュムレータ圧Paccが増圧リニア制御弁65A及び減圧リニア制御弁65Bによって上流側液圧すなわち制御圧Pxとして調圧されて、保持弁61よりも下流側の4輪のホイールシリンダ42に伝達される。この場合、保持弁61が開弁状態に維持されるとともに減圧弁62が閉弁状態に維持されるため、各ホイールシリンダ42のホイールシリンダ圧Pwcは、主流路52における制御圧Pxで全て同じ値となる。
ところで、本実施形態の車両のブレーキ装置が設けられる車両は、例えば、バッテリ電源により駆動される走行用モータを備えた電気自動車(EV)や、走行用モータに加えて内燃機関をも備えたハイブリッド車両(HV)、ハイブリッド車両(HV)に対して更に外部電源を用いてバッテリを充電可能なプラグインハイブリッド車両(PHV)とすることができる。このような車両においては、車輪の回転エネルギーを走行用モータが電気エネルギーに変換することによって発電し、この発電電力をバッテリに回生させることによって制動力を得る回生制動を行うことが可能である。このような回生制動を行う場合には、車両を制動させるために必要な総制動力から回生による制動力分を除いた制動力を車両のブレーキ装置で発生させることにより、回生制動と液圧制動とを併用したブレーキ回生協調制御を行うことができる。
具体的には、ブレーキECU100は、制動要求を受けてブレーキ回生協調制御を開始する。制動要求は、例えば、ドライバがブレーキペダル10を踏み込み操作(以下、単に「ブレーキ操作」とも称呼する。)した場合や、自動ブレーキを作動させる要求がある場合等、車両に制動力を付与すべきときに発生する。ここで、自動ブレーキは、トラクション制御や、ビークルスタビリティー制御、車間距離制御、衝突回避制御等において作動させる場合があり、これらの制御開始条件が満たされた場合に制動要求が発生する。
ブレーキECU100は、制動要求を受けると、ブレーキ操作量として、マスタシリンダ圧センサ102により検出されるマスタシリンダ圧Pmc_FR、マスタシリンダ圧センサ103により検出されるマスタシリンダ圧Pmc_FL及びストロークセンサ105により検出されるペダルストロークSmのうちの少なくとも一つを取得し、マスタシリンダ圧Pmc_FR、マスタシリンダ圧Pmc_FL及び/又はペダルストロークSmの増大に伴って増大する目標制動力を演算する。尚、ブレーキ操作量については、マスタシリンダ圧Pmc_FR、マスタシリンダ圧Pmc_FL及び/又はペダルストロークSmを取得することに代えて、例えば、ブレーキペダル10に対するペダル踏力を検出する踏力センサを設けて、ペダル踏力に基づいて目標制動力を演算するように実施することも可能である。
ブレーキECU100は、演算した目標制動力を表す情報をハイブリッドECU(図示省略)に送信する。ハイブリッドECUは、目標制動力のうち、電力回生により発生させた制動力を演算して、その演算結果である回生制動力を表す情報をブレーキECU100に送信する。これにより、ブレーキECU100は、目標制動力から回生制動力を減算することによってブレーキユニット40で発生させるべき制動力である目標液圧制動力を演算する。ここで、ハイブリッドECUで行う電力回生により発生する回生制動力は、モータの回転速度により変化するためではなく、バッテリの充電状態(所謂、SOC:State Of Charge)に依存する回生電力制御によっても変化する。従って、目標制動力から回生制動力を減算することにより、適切な目標液圧制動力を演算することができる。
そして、ブレーキECU100は、演算した目標液圧制動力に基づいて、この目標液圧制動力に対応した各ホイールシリンダ42の目標液圧を演算し、制御圧Px(すなわち、ホイールシリンダ圧Pwc)が目標液圧と等しくなるように、フィードバック制御によりソレノイド駆動信号を供給して増圧リニア制御弁65A及び減圧リニア制御弁65Bの駆動電流を制御する。すなわち、ブレーキECU100は、制御圧センサ104によって検出された制御圧Pxが目標液圧に追従するように、増圧リニア制御弁65A及び減圧リニア制御弁65Bのソレノイドへの通電量(電流値)を制御する。
これにより、リニア制御モードにおいては、作動液が動力液圧発生装置30から増圧リニア制御弁65A及び主流路52を介して各ホイールシリンダ42に供給され、ホイールシリンダ圧Pwcが増加して車輪に制動力を発生させる。又、リニア制御モードにおいては、ホイールシリンダ42から作動液が、例えば、主流路52及び減圧リニア制御弁65Bを経てリザーバ流路57に排出されることにより、ホイールシリンダ圧Pwcが低下して車輪に発生する制動力を適切に調整することができる。
そして、例えば、ドライバによるブレーキ操作が解除されると、液圧制御弁装置50を構成する全ての電磁弁(電磁開閉弁)のソレノイドへの通電が遮断されることにより、全ての電磁弁(電磁開閉弁)は図1に示した原位置に戻される。このように、全ての電磁弁(電磁開閉弁)が原位置に戻されることにより、右前輪のホイールシリンダ42FRの液圧(作動液)は開弁状態にあるマスタカット弁63及びマスタ圧配管11を経てマスタシリンダ21及びリザーバ22に戻される。左前輪のホイールシリンダ42FLの液圧(作動液)は開弁状態にあるマスタカット弁64、増圧機構80の連通路89、パイロット通路16及びマスタ圧配管12(12a)を経てマスタシリンダ21及びリザーバ22に戻される。
右後輪のホイールシリンダ42RRの液圧(作動液)は、開弁状態にある保持弁61RR、主流路52、開弁状態にある保持弁61FL、開弁状態にあるマスタカット弁64、増圧機構80の連通路89、パイロット通路16及びマスタ圧配管12(12a)を経てマスタシリンダ21及びリザーバ22に戻される。左後輪のホイールシリンダ42RLの液圧(作動液)は、開弁状態にある減圧弁62RL及びリザーバ流路57を経てリザーバ22に戻される。
ここで、ホイールシリンダ42RLについては、後述する制御系(電気系)の異常発生時に、マスタシリンダ21や増圧機構80の作動液が供給されないようにするために、保持弁61RLが常閉の電磁開閉弁とされている。このため、ブレーキ操作が解除されたときには、ホイールシリンダ42RLは主流路52から遮断され、増圧機構80を経て、マスタシリンダ21に作動液を戻すことができない。これに対し、減圧弁62RLが常開の電磁開閉弁とされているため、減圧弁62RLを経てホイールシリンダ42RLの作動液をリザーバ22に戻すことができる。又、減圧弁が常開の電磁開閉弁である場合には、閉弁状態を維持するためにリニア制御モードにおいてソレノイドに電流を供給し続けなければならず、消費電力が増大するという問題が発生する。しかし、本実施形態においては、常開の減圧弁は減圧弁62RLの1つであるため、消費電力の増大を抑制することができる。
尚、本発明は、ブレーキ回生協調制御を行うことを必須とするものではないため、回生制動力を発生させない車両においても適用可能であることは言うまでもない。この場合には、ブレーキ操作量に基づいて目標液圧を直接演算すれば良い。目標液圧は、例えば、マップや計算式等を使って、ブレーキ操作量が大きくなるほど大きな値に設定される。
続いて、バックアップモードを例示的に説明する。車両のブレーキ装置においては、ブレーキECU100が所定のイニシャルチェックを実行するようになっており、このイニシャルチェックによって、例えば、ブレーキECU100自体の作動異常や各電磁弁(各電磁開閉弁)の断線等といった制御系(電気系)に異常が検出された場合、或いは、作動液の液漏れの可能性が検出された場合、ブレーキECU100はバックアップモードによって車両のブレーキECU100を作動させて車輪に制動力を発生させる。
まず、制御系(電気系)に異常が検出されたときには、ブレーキECU100は、全ての電磁弁(電磁開閉弁)に対する通電を遮断して、全ての電磁弁(電磁開閉弁)を図1に示す原位置に戻す。これにより、増圧リニア制御弁65A及び減圧リニア制御弁65Bは、ソレノイドへの通電が遮断されることによって閉弁状態とされて動力液圧発生装置30が主流路52を介して各ホイールシリンダ42から遮断される。又、増圧機構カット弁90が開弁状態とされるため、増圧機構80はアキュムレータ32と連通する。又、保持弁61FRと保持弁61RLは閉弁状態となり、保持弁61FLと保持弁61RRは開弁状態となる。このため、左前輪のホイールシリンダ42FLと右後輪のホイールシリンダ42RRとが主流路52を介して連通し、右前輪のホイールシリンダ42FRと左後輪のホイールシリンダ42RLとは主流路52に対して遮断される。
この状態において、ドライバによってブレーキペダル10のブレーキ操作がなされると、マスタシリンダ21の加圧室21a1,21b1内の作動液が加圧される。これにより、加圧室21a1の液圧(マスタシリンダ圧Pmc_FR)は、マスタ圧配管11、マスタ圧流路53及び開弁状態にあるマスタカット弁63を介して右前輪のホイールシリンダ42FRに供給され、ブレーキユニット40FRを良好に作動させることができる。
一方、加圧室21b1の液圧(マスタシリンダ圧Pmc_FL)は、マスタ圧配管12(12a)及びパイロット通路16を介して増圧機構80に供給され、増圧機構80が作動を開始する。すなわち、増圧機構80においては、段付きピストン82が前進し、小径側室84と大径側室83との連通路89を介した連通が開弁部材88によって遮断され、小径側室84内の液圧が増加する。又、開弁部材88が前進して高圧供給弁86が開弁状態になると、開弁状態にある増圧機構カット弁90を介してアキュムレータ32から高圧室85内に高圧の作動液が供給され、小径側室84にアキュムレータ圧Paccが伝達される。
これにより、小径側室84の液圧(サーボ圧)は、マスタシリンダ圧Pmc_FLよりも高くされ、マスタ圧配管12(12b)、マスタ圧流路54及び開弁状態にあるマスタカット弁64を介して左後輪のホイールシリンダ42FLに供給されるとともに、保持弁61FL、主流路52及び保持弁61RRを介して右後輪のホイールシリンダ42RRに供給される。従って、マスタシリンダ圧Pmc_FLよりも高いサーボ圧が左前輪のホイールシリンダ42FL及び右後輪のホイールシリンダ42RRに供給されることにより、ブレーキユニット40FL及びブレーキユニット40RRを良好に作動させることができる。
又、この状態においては、動力液圧発生装置30の加圧ポンプ31は停止状態であるため、アキュムレータ32の液圧(アキュムレータ圧Pacc)は徐々に低下する。このため、アキュムレータ圧Paccが高圧室85の液圧以下になると、高圧供給通路15に設けられた逆止弁によって高圧室85からアキュムレータ32への作動液の流れが阻止されるために段付きピストン82の前進が阻止され、小径側室84の液圧はそれ以上高くなることがなくて増圧機構80は倍力機能を発揮できなくなる。そして、ドライバのブレーキペダル10に対するペダル踏力によってマスタシリンダ21の加圧室21b1の液圧(マスタシリンダ圧Pmc_FL)が小径側室84の液圧よりも高くなると、マスタシリンダ圧Pmc_FLが、バイパス通路17、マスタ圧配管12b、マスタ圧流路54、マスタカット弁64、保持弁61FL、主流路52及び保持弁61RRを介して左前輪のホイールシリンダ42FLと右後輪のホイールシリンダ42RRに供給される。
このように、本実施形態においては、互いに対角位置にある2つの車輪(左前輪と右後輪)のホイールシリンダ42FL,42RRに対して選択的にサーボ圧(又はマスタシリンダ圧Pmc_FL)を供給する。これにより、車両にヨー(ヨーモーメント)を生じにくくして、2つのブレーキユニット40FL,40RRを良好に作動させることができる。尚、右前輪のホイールシリンダ42FRには、上述したように、開弁状態にあるマスタカット弁63を介してマスタシリンダ21の加圧室21a1から液圧(マスタシリンダ圧Pmc_FR)が供給される。
従って、本実施形態においては、制御系(電気系)の異常時には、3輪のホイールシリンダ42FR,42FL,42RRにマスタシリンダ21の液圧(マスタシリンダ圧Pmc_FR,Pmc_FL)又は増圧機構80を介した液圧(サーボ圧)が供給されることにより、2輪のホイールシリンダに液圧が供給される場合に比して、車両全体として制動力を大きくすることができる。そして、増圧機構80が作動している間は、左前輪のホイールシリンダ42FLと右後輪のホイールシリンダ42RRに対し、マスタシリンダ圧Pmc_FLとほぼ等しいマスタシリンダ圧Pmc_FRに比してより大きなサーボ圧が供給されるため、より一層、ヨー(ヨーモーメント)を生じにくくすることができる。
次に、液漏れの可能性が検出された場合のバックアップモードを説明する。ブレーキECU100は、リニア制御モードにおいて、例えば、アキュムレータ圧センサ101や制御圧センサ104によって検出されたアキュムレータ圧Paccや制御圧Px(ホイールシリンダ圧Pwcに相当)の変化(低下)等に基づいて車両のブレーキ装置に液漏れの可能性を検出したときには、原則として、図4に示すように各電磁開閉弁を開閉動作させる。すなわち、ブレーキECU100は、左右前輪の保持弁61FR,61FLを閉弁状態とし、左右後輪の保持弁61RR,61RLを開弁状態とし、マスタカット弁63,64を開弁状態とする。又、ブレーキECU100は、シミュレータカット弁72を閉弁状態とするとともに増圧機構カット弁90を閉弁状態に維持し、全ての減圧弁62を閉弁状態とする。
これにより、左右後輪のホイールシリンダ42RR及びホイールシリンダ42RLは、保持弁61RR,61RL、主流路52、増圧リニア制御弁65A、アキュムレータ圧流路55及びアキュムレータ圧配管13を介して動力液圧発生装置30の加圧ポンプ31及び/又はアキュムレータ32と連通する。このため、ホイールシリンダ42RR,42RLにおいては、高圧のアキュムレータ圧Paccが増圧リニア制御弁65A及び減圧リニア制御弁65Bによって制御圧Pxに調圧されて、ホイールシリンダ42RR,42RLに伝達される。
一方、右前輪のホイールシリンダ42FRは、マスタカット弁63、マスタ圧流路53及びマスタ圧配管11を介してマスタシリンダ21の加圧室21a1と連通し、液圧がマスタシリンダ圧Pmc_FLとされる。すなわち、この状況においては、閉弁状態とされた保持弁61FRによって、マスタシリンダ21の加圧室21a1から直接的にホイールシリンダ42FRに伝達された作動液(言い換えれば、マスタシリンダ圧Pmc_FR)が上流側の主流路52に伝達することが禁止(遮断)される。又、左前輪のホイールシリンダ42FLは、マスタカット弁64、マスタ圧流路54、マスタ圧配管12b、増圧機構80、パイロット通路16及びマスタ圧配管12aを介してマスタシリンダ21の加圧室21b1と連通し、液圧がマスタシリンダ圧Pmc_FL(又は、増圧機構80の作動によるサーボ圧)とされる。すなわち、この状況においては、閉弁状態とされた保持弁61FLによって、マスタシリンダ21の加圧室21b1から直接的にホイールシリンダ42FLに伝達された作動液(言い換えれば、マスタシリンダ圧Pmc_FL)が上流側の主流路52に伝達することが禁止(遮断)される。
このように、車両のブレーキ装置に液漏れの可能性が検出されると、左右前輪の保持弁61FR,61FLが閉弁状態(遮断状態)、すなわち、ホイールシリンダ42FR,42FLと主流路52との連通が遮断される。このため、主流路52を介した左右前輪のホイールシリンダ42FRとホイールシリンダ42FLとの連通が遮断されるとともに、主流路52を介して左右前輪のホイールシリンダ42FR,42FLと左右後輪のホイールシリンダ42RR,42RLとの連通が遮断される。従って、車両のブレーキ装置に液漏れの可能性が検出されると、前輪と後輪とのホイールシリンダ42同士が互いに遮断されるとともに前輪側において左前輪と右前輪のホイールシリンダ42同士が遮断されて、左前輪、右前輪及び左右後輪の3つのブレーキ系統が互いに独立することになる。その結果、これらの3つのブレーキ系統のうちのいずれかに液漏れが実際に生じた場合であっても、他のブレーキ系統に影響が及ばないようになっている。
ところで、本実施形態における車両のブレーキ装置においては、ブレーキECU100は、制動力の付与された車輪の状況としての回転状態に基づき、制動時における車両の挙動が不安定になっていて、車輪の前後方向のスリップが過大となることを抑制する周知のアンチスキッド制御(アンチロック制御)の実施が必要であるときには、同アンチスキッド制御(アンチロック制御)に従って保持弁61及び減圧弁62のそれぞれのソレノイドへの通電を制御し、保持弁61及び減圧弁62を開弁状態又は閉弁状態とする。すなわち、ブレーキECU100は、アンチスキッド制御(アンチロック制御)によってホイールシリンダ42のホイールシリンダ圧Pwcに要求される変化、詳しくは、ホイールシリンダ圧Pwcの増圧、保圧、減圧に合わせて、保持弁61及び減圧弁62を開弁状態又は閉弁状態に制御する。以下、このことを具体的に説明する。
本実施形態におけるブレーキECU100は、車輪速センサ106により検出される各車輪の車輪速Vxi(i=FR,FL,RR,RL)を入力する。そして、ブレーキECU100は、例えば、取得した各車輪速Vxi(i=FR,FL,RR,RL)のうちの少なくとも常閉の保持弁61FRの設けられる右前輪を除く3輪の車輪速Vxi(i=FL,RR,RL)を用いて推定車体速度Vbを推定するとともに、推定車体速度Vbと右前輪を除く3輪の車輪速Vxi(i=FL,RR,RL)との偏差として車輪の前後方向のスリップ状態を表すスリップ状態量としてのスリップ率Si(i=FL,RR,RL)を演算する。ここで、推定車体速度Vb及びスリップ率Si(i=FL,RR,RL)の演算については、従来から広く採用されている周知の演算方法を採用することができるため、以下簡単に説明しておく。
推定車体速度Vbについては、右前輪を除く3輪の車輪速Vxi(i=FL,RR,RL)のうち、ブレーキECU100は実際の車体速度に最も近いと考えられる値をまずは推定車体速度Vxbとして選択する。次に、ブレーキECU100は、前回演算した車体推定速度Vbfに対して、推定車体速度の増加率を抑制するための正の定数α1を減じた推定車体速度Vbn1及び推定車体速度の低下率を抑制するための正の定数α2を加えた推定車体速度Vbn2を演算する。そして、ブレーキECU100は、選択した車体速度Vxb、演算した推定車体速度Vbn1及び演算した推定車体速度Vbn2のうちの中間の値を今回の推定車体速度Vbとして推定(決定)する。
右前輪を除く3輪のスリップ率Si(i=FL,RR,RL)については、ブレーキECU100は、前記推定(決定)した推定車体速度Vbから3輪の車輪速Vxi(i=FL,RR,RL)をそれぞれ減ずる。そして、ブレーキECU100は、この減じて演算した値を推定車体速度Vbで除することによって、右前輪を除く3輪のそれぞれのスリップ率Si(i=FL,RR,RL)を推定して演算する。尚、以下の説明においては、理解を容易とするために、3輪のスリップ率Si(i=FL,RR,RL)を単に車輪のスリップ率Sとも称呼する。
そして、ブレーキECU100は、演算したスリップ率Sが所定のスリップ率Ss以上であるときや、演算した各車輪間のスリップ率Sの差分値が所定の値以上であるときには、車輪の前後方向のスリップが過大であって車両の挙動が不安定になっているために、アンチスキッド制御(アンチロック制御)の実施が必要であると判定する。一方、ブレーキECU100は、演算したスリップ率Sが所定のスリップ率Ss未満であるときや、演算した各車輪間のスリップ率Sの差分値が所定の値未満であるときには、車両の挙動が不安定になっていないため、アンチスキッド制御(アンチロック制御)の実施が不要であると判定する。
ところで、アンチスキッド制御(アンチロック制御)では、例えば、車輪のスリップ率Sが所定のスリップ率Ssとなる制動力に対応するホイールシリンダ42のホイールシリンダ圧Pwc以下にて、ホイールシリンダ圧Pwcを増圧制御により増圧したり、減圧制御により減圧したり、或いは、保圧制御により保圧したりする。このようなアンチスキッド制御(アンチロック制御)を実施することにより、不安定な車両の挙動を安定させる、或いは、車両の挙動が更に不安定にならないようにするためには、保持弁61を閉弁状態から開弁状態に確実に移行させる必要がある。この場合、常開の保持弁61FL,61RRについてはスプリングの付勢力によって開弁状態にある可能性が高いため、アンチスキッド制御(アンチロック制御)に従ってホイールシリンダ圧Pwcを制御することができる。しかし、常閉の保持弁61FR,61RL、特に、制動時における車両の挙動を安定させるために重要な前輪側の保持弁61FRについてはソレノイドへの通電により閉弁状態から開弁状態に移行させる必要がある。この場合、例えば、長期に渡り閉弁状態を維持したとき等に発生しやすいソレノイドピンの固着に抗してソレノイドを作動させて、保持弁61FRを閉弁状態から開弁状態に確実に移行させ、アンチスキッド制御(アンチロック制御)に従ってホイールシリンダ圧Pwcを制御することが必要となる。
ここで、ブレーキECU100は、電磁弁駆動回路100aに設けられた電流検出回路100a1を介して、保持弁61FRに流れた電流を取得している。これにより、ブレーキECU100は、取得した電流を監視(モニタ)することによって、常閉の保持弁61FRがソレノイドへの通電に伴って閉弁状態から開弁状態に移行しているか否かを判定することができる。尚、以下、ブレーキECU100が取得した電流をモニタすることを、「電流モニタ」と称呼する。
具体的に、電流モニタが正常である場合には、図5に示すように、ブレーキECU100は、例えば、周知のPWM(Pulse Width Modulation)制御に従い、電磁弁駆動回路100aを介して、保持弁61FRのソレノイドに電流を供給する。このとき、ブレーキECU100は、保持弁61FRを閉弁状態から開弁状態に移行させるための電流である開弁電流をフィードフォワードにより所定の間隔で断続的にソレノイドに供給する。これにより、保持弁61FRは、開弁電流が断続的に供給されるごとに、閉弁状態にあるときには開弁状態に移行し、既に開弁状態にあるときには確実に開弁状態を維持する。又、ブレーキECU100は、閉弁状態から開弁状態に移行した保持弁61FRを開弁状態に維持するための電流であり、開弁電流よりも小さな維持電流をフィードバックにより継続的にソレノイドに供給する。これにより、保持弁61FRは、維持電流が継続的に供給されていれば、開弁状態を維持する。
従って、電流モニタが正常である場合には、図5に示すように、ブレーキECU100による開弁制御に従って、常閉の保持弁61FRが閉弁状態から開弁状態に移行されている。このため、アンチスキッド制御(アンチロック制御)に従い、例えば、リニア制御弁65を利用して主流路52における制御圧Pxを増圧させると、この増圧された制御圧Pxが保持弁61FRを介してホイールシリンダ42FRに伝達されて、ホイールシリンダ42FRにおけるホイールシリンダ圧Pwcを適切に増圧することができる。
又、常閉の保持弁61FRが開弁状態に移行されていれば、アンチスキッド制御(アンチロック制御)に従い、リニア制御弁65を利用して主流路52における制御圧Pxを一定に保圧させると、この保圧された制御圧Pxが保持弁61FRを介してホイールシリンダ42FRに伝達されて、ホイールシリンダ42FRにおけるホイールシリンダ圧Pwcを適切に保圧することができる。更に、常閉の保持弁61FRが開弁状態に移行されていれば、アンチスキッド制御(アンチロック制御)に従い、リニア制御弁65を利用して主流路52における制御圧Pxを減圧させると、この減圧された制御圧Pxまで保持弁61FRを介してホイールシリンダ42FRから主流路52に液圧が伝達されて、ホイールシリンダ42FRにおけるホイールシリンダ圧Pwcを適切に減圧することができる。ここで、アンチスキッド制御(アンチロック制御)の実施中において、保持弁61FRが開弁状態に維持されることにより、上流側の制御圧Pxが下流側のホイールシリンダ42FRにおけるホイールシリンダ圧Pwcに伝達するための時間分だけ若干遅れるものの、制御圧Pxとホイールシリンダ圧Pwcはほぼ等しくなる。
一方、電流モニタが異常である場合には、ブレーキECU100は、保持弁61FRがソレノイドへの通電、すなわち、フィードフォワードにより供給する開弁電流及びフィードバックにより供給する維持電流により、確実に閉弁状態から開弁状態に移行しているか否かを把握することが不能となる。従って、ブレーキECU100は、電流モニタ異常時には、図6に示すように、PWM制御における電流モニタ異常時のデューティ波形に従い、保持弁61FRを閉弁状態から開弁状態に移行させるため電流であって維持電流よりも大きく設定された補償電流をフィードフォワードにより所定の間隔で断続的にソレノイドに供給する。この場合、補償電流としては、所定時間だけ開弁電流よりも大きく増加させて設定されることがより好ましい。ここで、所定時間としては、例えば、保持弁61FRに内蔵されたソレノイド(コイル)の温度や挙動変化量検出センサ107によって検出された物理量(ヨーレートγ、加速度G等)を用いた関数に従って可変の時間として設定することができ、或いは、予め設定された一定の時間として設定することができる。
そして、この電流モニタ異常時においては、ブレーキECU100は、図6に示すように、保持弁61FRのソレノイドに対してフィードバックによる維持電流を供給しない。これにより、保持弁61FRは、補償電流が断続的に供給されるごとに、閉弁状態から開弁状態に確実に移行し、補償電流の供給が遮断されるとスプリングの付勢力によって開弁状態から閉弁状態に移行する。
従って、電流モニタが異常である場合であっても、図6に示すように、ブレーキECU100による開弁制御に従って、常閉の保持弁61FRが断続的に閉弁状態から開弁状態に移行される。このため、アンチスキッド制御(アンチロック制御)に従い、例えば、リニア制御弁65を利用して主流路52における制御圧Pxを増圧させると、この増圧された制御圧Pxが断続的に開弁される保持弁61FRを介してホイールシリンダ42FRに伝達されて、ホイールシリンダ42FRにおけるホイールシリンダ圧Pwcを階段状に増圧することができる。又、アンチスキッド制御(アンチロック制御)に従い、リニア制御弁65を利用して主流路52における制御圧Pxを一定に保圧させると、この保圧された制御圧Pxが開弁された保持弁61FRを介してホイールシリンダ42FRに伝達され、保持弁61FRが閉弁されることによりホイールシリンダ42FRにおけるホイールシリンダ圧Pwcを適切に保圧することができる。更に、アンチスキッド制御(アンチロック制御)に従い、リニア制御弁65を利用して主流路52における制御圧Pxを減圧させると、開弁された保持弁61FRを介してホイールシリンダ42FRから主流路52に液圧が伝達されて、ホイールシリンダ42FRにおけるホイールシリンダ圧Pwcを階段状に減圧することができる。これにより、電流モニタによらず、言い換えれば、常閉の保持弁61FRが作動しているか否かを確認することなく、ブレーキECU100は、確実にかつ速やかに保持弁61FRを閉弁状態から開弁状態に移行させることができる。
以上の説明からも理解できるように、上記実施形態によれば、電流モニタに異常が発生した状況において、車両の挙動が不安定になり、アンチスキッド制御(アンチロック制御)の実施が必要な状況であるときには、開弁状態に移行することが保証される補償電流を常閉の保持弁61FRに供給することができる。これにより、前輪側に設けられる常閉の保持弁61FRを確実に閉弁状態から開弁状態に移行させることができ、ホイールシリンダ42FRにおけるホイールシリンダ圧Pwcを適切に増圧、保圧及び減圧制御することができる。従って、車両の挙動を安定化させたり、或いは、車両の挙動が更に不安定になることを効果的に防止することができる。
<第1変形例>
上記実施形態においては、ブレーキECU100は、車両の挙動が不安定になっている状況下で、電流モニタに異常が発生したときに、常閉の保持弁61FRに対して補償電流を供給するように実施した。
この場合、ブレーキECU100は、電流モニタの正常又は異常に関わらず、少なくとも、車両の挙動が不安定になっている状況下であれば、常閉の保持弁61FRに対して補償電流を供給するように実施することも可能である。又、ブレーキECU100は、例えば、電流モニタに基づいて常閉の保持弁61FRの作動に異常(具体的には、固着等)が発生しているか否かを判定するものの、車両の挙動が不安定になっている状況下であり、アンチスキッド制御(アンチロック制御)やビークルスタビリティー制御が実施されるときには、常閉の保持弁61FRの作動に異常が発生していなくても、補償電流を供給するように実施することも可能である。従って、この第1変形例によれば、少なくとも車両の挙動が不安定になっている状況下では、常閉の保持弁61FRを常に閉弁状態から開弁状態に移行させることができるため、上記実施形態と同等の効果が期待できる。
<第2変形例>
上記実施形態及び第1変形例においては、ブレーキECU100が、車輪の状況として、車輪速センサ106から取得した車輪の回転状態を表す車輪速Vxi(i=FR,FL,RR,RL)を入力するように実施した。そして、ブレーキECU100は、この入力した車輪速Vxi(i=FR,FL,RR,RL)のうちの常閉の保持弁61FRが設けられた右前輪を除く3輪の車輪速Vxi(i=FL,RR,RL)を用いてスリップ率Si(i=FL,RR,RL)を演算し、車両の挙動が不安定になっているか否かを判定するように実施した。この場合、車輪の状況、より詳しくは、車輪の回転状態が変化することによって発生する車両の挙動変化を直接的に入力するように実施することも可能である。
すなわち、この場合には、ブレーキECU100は、挙動変化量検出センサ107から車両の挙動変化を表すヨーレートγ及び加速度Gを入力する。そして、ブレーキECU100は、入力したヨーレートγを用いて車両のヨー変化を検出し、又、加速度Gを用いて加速度変化を検出することによって車両の挙動を把握し、例えば、予め設定された所定のヨーレートγo又は、所定の加速度Goと比較することによって車両の挙動が不安定になっているか否かを判定することができる。そして、この場合、ブレーキECU100は、例えば、周知のビークルスタビリティー制御に従って各車輪に付与する制動力を決定し、この制動力を実現するためのホイールシリンダ圧Pwcを決定する。
このとき、ブレーキECU100は、例えば、上述した実施形態と同様に、電流モニタが正常であるときには常閉の保持弁61FRに対して開弁電流及び維持電流を供給することによって保持弁61FRを確実に開弁状態に移行させ、調整された制御圧Pxをホイールシリンダ42FRに伝達してホイールシリンダ圧Pwcを制御することができる。又、ブレーキECU100は、上述したように、電流モニタに異常が発生したときには常閉の保持弁61FRに対して補償電流のみを供給することによって保持弁61FRを断続的に確実に開弁状態に移行させ、調整された制御圧Pxをホイールシリンダ42FRに伝達してホイールシリンダ圧Pwcを制御することができる。従って、この第2変形例においても、上記実施形態と同様の効果が得られる。
<第3変形例>
上記実施形態及び第1,2変形例においては、ブレーキECU100が、少なくとも車両の挙動が不安定になっている状況下で、補償電流をPWM制御におけるデューティ波形に従って断続的に供給するように実施した。すなわち、上記実施形態及び第1,2変形例においては、ブレーキECU100が、上流側の制御圧Pxの変化に関係なく、常閉の保持弁61FRを開弁状態に移行させるために補償電流を供給するように実施した。
これに対して、ドライバによるブレーキ操作に応じて車輪に付与される制動力の大きさに対応して決定される制御圧Pxの目標液圧の値、又は、制御圧センサ104によって検出される制御圧Pxの検出値と、予め設定された所定値Poとを比較し、図6に示すように、制御圧Pxの目標液圧の値や制御圧Pxの検出値が所定値Po以上変化するごとに、ブレーキECU100が常閉の保持弁61FRに補償電流を供給するように実施することも可能である。この第3変形例によれば、上流側の制御圧Pxの変化に合わせて補償電流を供給して常閉の保持弁61FRを開弁状態に移行させることができる。
このため、例えば、ドライバがブレーキペダル10に対するブレーキ操作を解除することに伴って制御圧Pxの目標液圧の値又は制御圧Pxの検出値が所定値Po以上低下するごとに、ブレーキECU100は、常閉の保持弁16FRに補償電流を供給することができる。これにより、常閉の保持弁16FRを確実に閉弁状態から開弁状態に移行させることができ、主流路52及び減圧リニア制御弁65Bを介してホイールシリンダ42FRのホイールシリンダ圧Pwcを確実に減圧させることができる。従って、ドライバが車両の制動に伴って、所謂、引っ掛かり感を覚えることがなく、極めて良好なブレーキフィーリングを得ることができる。
本発明の実施にあたっては、上記実施形態及び各変形例に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
例えば、上記実施形態及び各変形例ににおいては、車両の前輪側に設けられる常閉の保持弁61FRに対して補償電流を供給して確実に閉弁状態から開弁状態に移行するように実施した。この場合、車両の後輪側に設けられる常閉の保持弁61RLに対しても同様に補償電流を供給して確実に閉弁状態から開弁状態に移行するように実施可能であることは言うまでもない。
又、上記実施形態及び各変形例においては、常閉の保持弁61FRに対して補償電流を供給するように実施したが、例えば、常開の保持弁61FL,61RRに対して、開弁状態から閉弁状態への移行を保証する補償電流を供給して確実に開弁状態から閉弁状態に移行するように実施することも可能である。更に、上記実施形態及び各変形例においては、常閉の保持弁61FRに対して補償電流を供給するように実施したが、例えば、保持弁61と同様に構成される電磁開閉弁である減圧弁62に対して補償電流を供給することも可能である。
これらの場合には、例えば、アンチスキッド制御(アンチロック制御)やビークルスタビリティー制御における増圧制御に従って保持弁61が開弁状態とされるとともに減圧弁62が閉弁状態に維持される場合や、減圧制御に従って保持弁61が閉弁状態にされるとともに減圧弁62が開弁状態とされる場合、保圧制御に従って保持弁61が閉弁状態とされるとともに減圧弁62が閉弁状態とされる場合を確実に実現することができる。これにより、例えば、アンチスキッド制御(アンチロック制御)やビークルスタビリティー制御に伴い、保持弁61及び減圧弁62を確実に開閉状態に移行させることができ、接続されたホイールシリンダ42のホイールシリンダ圧Pwcを適切に制御することができる。
又、上記実施形態及び各変形例においては、増圧機構80から出力されるサーボ圧をホイールシリンダ42FLに直接的に伝達するように実施した。この場合、増圧機構80からマスタシリンダ21に対してサーボ圧を伝達するように実施することも可能である。この場合、具体的には、マスタシリンダ21にハイドロブースタを設けておき、このハイドロブースタに対して増圧機構80からサーボ圧を供給する。これにより、マスタシリンダ21を介してサーボ圧相当の液圧を、例えば、ホイールシリンダ42FLに伝達することが可能となり、上記実施形態及び各変形例と同様の効果が期待できる。
又、上記実施形態及び各変形例においては、リニア制御弁65として、増圧リニア制御弁65A及び減圧リニア制御弁65Bを備える車両のブレーキ装置を採用して実施した。この場合、減圧リニア制御弁65Bを省略して、増圧リニア制御弁65Aのみを備える車両のブレーキ装置を採用して実施することも可能である。又、上記実施形態及び各変形例においては増圧機構80及び増圧機構カット弁90を備える車両のブレーキ装置を採用して実施した。この場合、増圧機構80及び増圧機構カット弁90を備えない車両のブレーキ装置を採用して実施することも可能である。これらの場合であっても、上記実施形態及び各変形例と同様の効果が得られる。
更に、上記実施形態及び各変形例において、上述したイニシャルチェックの実行に際しては、各電磁開閉弁の切替動作に伴う作動音が発生する可能性がある。このため、例えば、車両がHVやPHVである場合には、内燃機関の回転数が所定回転数以上であるときにイニシャルチェックを実行したり、車両がEVである場合には、オーディオ装置の音量が所定音量以上であるときにイニシャルチェックを実行するようにすることができる。これにより、イニシャルチェックに伴って発生する作動音を内燃機関から発せられる音に紛れ込ませたり、オーディオ装置から発せられる音に紛れ込ますことができて、ドライバや乗員によって作動音が知覚されにくくすることができる。