(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態について説明する。なお、以下では、車両前後方向を「前後方向」という。
図1に示すように、車両フロア2には、第1レールとしてのロアレール3が前後方向に延在する態様で固定されるとともに、該ロアレール3には、第2レールとしてのアッパレール4がロアレール3に対し前後方向に相対移動可能に装着されている。つまり、本実施形態では、ロアレール3及びアッパレール4の長手方向(相対移動方向)は前後方向に一致している。
なお、ロアレール3及びアッパレール4は、幅方向(図1において紙面に直交する方向)でそれぞれ対をなして配設されており、ここでは前方に向かって左側に配置されたものを示している。そして、両アッパレール4には、乗員の着座部を形成するシート5が固定・支持されている。ロアレール3及びアッパレール4の相対移動は基本的に係止状態にあって、該係止状態を解除するための解除ハンドル6が設けられている。
図2に示すように、ロアレール3は、板材からなり、幅方向両側で上下方向に延びる一対の側壁部11及びこれら側壁部11の基端(下端)間を連結する底壁部12を有する。そして、各側壁部11の先端(上端)には、幅方向内側に張り出して更に側壁部11の基端側に折り返されたフランジ13が連続形成されている。
なお、ロアレール3の各フランジ13の長手方向中間部には、当該方向に所定の間隔をもってその先端(下端)から上向きに複数の切り欠き13aが形成されるとともに、各隣り合う切り欠き13a間に四角歯状の係止爪13bが形成されている。従って、複数の係止爪13bは、前記所定の間隔をもってロアレール3の長手方向に並設されている。
一方、アッパレール4は、板材からなり、図3(a)(b)に併せ示すように、ロアレール3の両フランジ13間で上下方向に延びる一対の内側フランジ14及びこれら内側フランジ14のロアレール3から離隔する基端(上端)間を連結する蓋壁部15を有する。そして、各内側フランジ14の先端(下端)には、幅方向外側に張り出して更に側壁部11及びフランジ13に包囲されるように折り返された外側フランジ16が連続形成されている。
つまり、ロアレール3及びアッパレール4は、開口側が互いに突き合わされたU字状のレール断面をそれぞれ有しており、主としてフランジ13及び外側フランジ16との係合によって上下方向に抜け止めされている。これらロアレール3及びアッパレール4により形成されるレール断面は、矩形状をなすいわゆる箱形である。ロアレール3は、アッパレール4と協働して空間Sを形成する。
なお、各外側フランジ16の下端部及びこれに対向する側壁部11の下端部間、並びに各外側フランジ16の上端部及びこれに対向する側壁部11の上端部間には、複数の球体状のボール20aが介設されている。各外側フランジ16の上端部は、ボール20aの外形に合わせて、上方に向かうに従い幅方向内側に向かうように円弧状に曲成されたガイド部16aを形成する。
図2に示すように、各ボール20aは、前後方向(レール長手方向)に延在する樹脂製のホルダ20bに装着される。各ホルダ20bに装着されるボール20aは、ホルダ20bの前端部に配置された一対及び後端部に配置された一対の合計4個である。アッパレール4は、ロアレール3との間で各ボール20aを転動させる態様で、該ロアレール3に対し長手方向(前後方向)に摺動自在に支持されている。
アッパレール4の両内側フランジ14には、それらの長手方向中間部において略四角形の内側開口14aがそれぞれ形成されるとともに、アッパレール4の両外側フランジ16の上端部(ガイド部16a)には、それらの長手方向における内側開口14aの位置に合わせて略四角形の外側開口16bがそれぞれ形成されている。これら内側開口14a及び外側開口16bは、幅方向に連通している。特に、外側開口16bは、上方にも開いた切り欠きとなっている。
アッパレール4の蓋壁部15には、内側開口14a等よりも前側の部位においてブラケット17が取着される。このブラケット17は、アッパレール4の両内側フランジ14間で上下方向に延びる一対の支持壁部18及びこれら支持壁部18のロアレール3から離隔する基端(上端)間を連結する天板部19を有する。ブラケット17は、両支持壁部18がアッパレール4の両内側フランジ14に幅方向に挟まれた状態で、天板部19においてアッパレール4の蓋壁部15に締結される。なお、両支持壁部18の前端部下部には、幅方向に連通する互いに同心の円形の軸取付孔18aがそれぞれ形成されている。
図3(b)に示すように、ブラケット17の両支持壁部18には、軸取付孔18aに両端部の挿入・固着された円柱状の支持軸22が支持されている。この支持軸22の中心線が幅方向に延びることはいうまでもない。そして、アッパレール4内には、両支持壁部18の幅方向内側で、支持軸22によりロック部材としてのロックレバー30が回動自在に連結されている。
すなわち、図2に示すように、ロックレバー30は、前後方向に延在する板材からなる柄部31を備える。この柄部31は、その長手方向に延在する一対の縦壁部32が幅方向に並設される態様で立設されている。これら両縦壁部32間の幅方向の距離は、ブラケット17の両支持壁部18間の幅方向の距離よりも小さく設定されている。そして、両縦壁部32は、各々の前端部において前後方向に並設された複数(3つ)の接続壁33により上端縁間が幅方向に接続されるとともに、各々の後端部において天板部34により上端縁間が幅方向に接続されている。
図4(a)(b)に示すように、両縦壁部32には、支持軸22(軸取付孔18a)と同等の高さ位置で前後方向に延在する長穴としての長孔35がそれぞれ形成されている。この長孔35の短手方向(上下方向)の開口幅は、支持軸22の直径と同等に設定されている。両長孔35には、柄部31の両縦壁部32がブラケット17の両支持壁部18に幅方向に挟まれた状態で、両軸取付孔18aに両端部の固着される支持軸22が挿通される。これにより、柄部31は、長孔35の範囲で前後方向の移動が許容された状態でアッパレール4(ブラケット17)に対して上下方向に回動自在に連結されている。
なお、図2に示すように、柄部31は、両縦壁部32の前端から車両前方にそれぞれ延出する一対の差し込み形状部36,37を有する。これら差し込み形状部36,37は、縦壁部32前端よりも下方に縮小されるとともに、2枚重ねになるように互いの対向する幅方向に近付いて、ハンドル差し込み部38を形成する。
各縦壁部32には、後端部において下端から下向きに一対の嵌合片32aが前後方向に間隔をあけて突設されている。一方、ロックレバー30は、両内側開口14a及び外側開口16bを貫通する態様で前後方向及び幅方向に広がる平板部としてのロックプレート39を備える。このロックプレート39には、各嵌合片32aに対向して上下方向に開口するスリット状の嵌合孔39aが合計4個形成されている。ロックプレート39は、各嵌合孔39aに該当の嵌合片32aを嵌入・固着することで柄部31に固定される。
また、ロックプレート39には、嵌合片32aよりも幅方向外側で前後方向に並設された複数(3個)の係止部としての係止孔39bが前記所定の間隔をもって形成されている。図3(a)に併せ示すように、各係止孔39bは、フランジ13に対向して上下方向に開口しており、ロアレール3の長手方向で隣り合う複数(3個)の係止爪13bと合致可能な位置に配置されている。
そして、図3(a)に実線で示すように、ロックプレート39が上昇するようにロックレバー30が支持軸22周りに回動するとき、各係止孔39bに対応する係止爪13bを嵌入可能となっている。各係止孔39bに対応する係止爪13bを嵌入するとき、ロアレール3及びアッパレール4の相対移動が係止される。一方、図3(a)に2点鎖線で示すように、ロックプレート39が下降するようにロックレバー30が支持軸22周りに回動するとき、各係止孔39bが対応する係止爪13bから外れるように設定されている。このとき、ロアレール3及びアッパレール4の相対移動の係止が解除される。
なお、ロックプレート39の幅方向の寸法は、アッパレール4の両ガイド部16a間の幅方向の距離よりも大きく、且つ、ガイド部16aよりも下方の両外側フランジ16間の幅方向の距離よりも小さく設定されている。従って、ロックプレート39は、ロアレール3及びアッパレール4の相対移動の係止状態で外側開口16bを幅方向に貫通するものの、前記相対移動係止の解除状態で外側フランジ16と干渉することはない。
また、ロックプレート39の幅方向両縁部は、幅方向外側に向かうに従い上方に向かう傾斜部39cを形成する。これは、ロックレバー30によるロアレール3及びアッパレール4の相対移動の係止状態において、仮にロックプレート39が外側フランジ16のガイド部16aに当接したとしても、前述の態様で曲成されたガイド部16aにロックプレート39をより直角に近い状態で交差させるためである。これにより、ロックプレート39(傾斜部39c)及びガイド部16aの当接に伴う互いのせん断方向の係合がより堅固となる。
図5(a)に示すように、ロックプレート39の前端には、幅方向に縮幅されて車両前方に突出する四角形の規制突部39dが設けられている。ロックプレート39は、規制突部39dがアッパレール4の両縦壁部32間に挟入されることでアッパレール4との幅方向の隙間が詰められて該アッパレール4に対する幅方向の移動(がたつき)が規制される。特に、ロックプレート39は、仮にアッパレール4に対して車両後方にずれたとしても、規制突部39dの突出長の範囲でアッパレール4に対する幅方向の移動が規制される。
図2に示すように、アッパレール4内には、付勢部材及び支持軸付勢部材としての1本の線材からなるロックスプリング50が配置される。このロックスプリング50は、平面視において後側に開口する略コ字状に成形されており、左右対称で前後方向に延在する一対の延設部51を有するとともに、これら両延設部51の拡開された前端部の前端間を幅方向に接続する接続部52を有する。図4(a)(b)に併せ示すように、ロックスプリング50は、各延設部51の長手方向中間部を上方に湾出してなる規制部としての楔部53を有するとともに、各延設部51の後端部を上方に屈曲してなるレバー側係止端部54を有する。また、両延設部51の拡開された前端部は、接続部52と共に全体として略五角形をなしてレール側係止端部55を形成する。
ロックスプリング50は、支持軸22よりも前側で柄部31の隣り合う接続壁33間から上方にレール側係止端部55を突出させる態様で概ね柄部31内に配置されている。そして、ロックスプリング50は、支持軸22の上方から該支持軸22を両楔部53に挟入し、ロックプレート39の下方から該ロックプレート39に両レバー側係止端部54を挿通・固定し、レール側係止端部55をアッパレール4の蓋壁部15下面に当接させることで、アッパレール4等に支持されている。このとき、ロックスプリング50は、両延設部51の後端部においてロックプレート39が上昇する側、即ち各係止孔39bに対応する係止爪13bが嵌入する側にロックレバー30を回動付勢する。また、ロックスプリング50は、その反力で両楔部53において支持軸22を下方に、即ち長孔35の長手方向に交差する方向に付勢することで長孔35内での支持軸22の前後方向の移動を係止する。
つまり、長孔35内での支持軸22の前後方向の位置は、ロックスプリング50の両楔部53によって付勢・保持されている。本実施形態では、支持軸22は、長孔35の前後方向中央部に付勢・保持されている。ただし、前後方向に加わる荷重が所定値を超えると、支持軸22は、楔部53を弾性変形させつつ、長孔35を前後方向に移動する。
なお、図5(b)に示すように、内側開口14aにおける内側フランジ14の後端面14b及び前端面14cは、支持軸22(軸取付孔18a)を中心とする円弧状に成形されている。従って、ロックプレート39及び後端面14bの前後方向の隙間a1、並びにロックプレート39及び前端面14cの前後方向の隙間a2は、ロックレバー30の回動位置に関わらず一定となっている。本実施形態では、隙間a1,a2は、互いに同等の隙間aに設定されている。
また、ロアレール3及びアッパレール4の相対移動の係止状態で、ロックプレート39及び外側開口16bにおける外側フランジ16の後端面16cの前後方向の隙間b1、並びにロックプレート39及び外側開口16bにおける外側フランジ16の前端面16dの前後方向の隙間b2は、互いに同等の隙間bに設定されている。この隙間bは、隙間aよりも大きく、且つ、長孔35の前後方向中央部からの支持軸22の移動可能距離rよりも小さく設定されている。つまり、例えば車両衝突などに伴う前後方向の荷重によってアッパレール4及びロックレバー30(ロックプレート39)が前後方向に相対移動した際、仮にロックプレート39が内側開口14aの後端面14b又は前端面14cに当接したとしても外側開口16bの後端面16c又は前端面16dに当接することはない。あるいは、ロックプレート39が外側開口16bの後端面16c又は前端面16dに当接したとしても支持軸22が長孔35の終端に到達することはない。換言すれば、支持軸22は、ロックプレート39が外側開口16bの後端面16c又は前端面16dに当接したとしても、ロックスプリング50(楔部53)を弾性変形させつつ長孔35の範囲で前後方向に移動することになる。
図2に示すように、解除ハンドル6は、筒材を曲げ成形してなり、両アッパレール4の前側でこれらを幅方向に橋渡しするように成形されている。解除ハンドル6の後方に延出する先端部61は、幅方向に縮幅された扁平円筒形状を呈しており、ハンドル差し込み部38の幅方向の寸法よりも大きい幅方向の内径及びアッパレール4の両内側フランジ14間の幅方向の距離よりも小さい幅方向の外径を有する。先端部61は、アッパレール4の前側開口端から該アッパレール4内に挿入され、ハンドル差し込み部38が挿入されることでロックレバー30に連結される。従って、先端部61は、基本的に支持軸22周りにロックレバー30と一体回転する。なお、先端部61の下部には、幅方向に延在するスリット状の支持溝62が形成されている。
アッパレール4内には、1本の線材からなるハンドルスプリング65が配置される。このハンドルスプリング65は、平面視において後側に開口する略コ字状に成形されており、左右対称で前後方向に延在する一対の延設部66を有するとともに、これら両延設部66の前端間を幅方向に接続する接続部67を有する。
図4(a)に示すように、ハンドルスプリング65は、ハンドル差し込み部38の挿入された先端部61(解除ハンドル6)の支持溝62に接続部67が嵌入され、支持軸22よりも車両後方でロックレバー30(柄部31)の接続壁33下面に両延設部66の後端部が当接されている。そして、先端部61は、支持溝62においてハンドルスプリング65により上昇するように付勢される。なお、レール側係止端部55よりも下方に配置されるハンドルスプリング65は、該当の接続壁33下面に向かって接続部67から車両後上方に延びる両延設部66がレール側係止端部55の後方で両延設部51を跨ぐことでロックスプリング50との干渉が回避されている。
先端部61は、これに挿入されたハンドル差し込み部38の前端部が支持溝62(即ちハンドルスプリング65による先端部61の付勢位置)の車両前方で上下方向に揺動自在に支持され、支持溝62においてハンドルスプリング65により上方に付勢されることで、その姿勢が制御されている。
そして、先端部61の前端が持ち上がると、該先端部61と共にロックレバー30がロックスプリング50の付勢力に抗して支持軸22周りにロックプレート39が下降する側、即ち各係止孔39bが対応する係止爪13bから外れる側に回動する。
ここで、解除ハンドル6の操作力が解放されているものとする。このとき、ロックスプリング50の付勢力により、先端部61(解除ハンドル6)と共にロックレバー30が支持軸22周りにロックプレート39が上昇する側、即ち各係止孔39bが対応する係止爪13bに嵌入する側に回動されることで、前述の態様でロアレール3及びアッパレール4の相対移動が係止される。そして、アッパレール4に支持されるシート5の前後方向の位置が保持される。
その後、解除ハンドル6がその前端を持ち上げるように操作されたとする。このとき、ロックスプリング50の付勢力に抗して、先端部61(解除ハンドル6)と共にロックレバー30が支持軸22周りにロックプレート39が下降する側、即ち各係止孔39bが対応する係止爪13bから外れる側に回動されることで、前述の態様でロアレール3及びアッパレール4の相対移動の係止が解除される。そして、アッパレール4に支持されるシート5の前後方向の位置調整が可能になる。
次に、本実施形態の動作について説明する。
図5(a)(b)に示すロアレール3及びアッパレール4の相対移動の係止状態において、ロックプレート39と外側フランジ16の後端面16c又は前端面16dとの前後方向の隙間bは、ロックプレート39と内側フランジ14の後端面14b又は前端面14cとの前後方向の隙間aよりも大きく設定されている。また、この隙間bは、長孔35の前後方向中央部からの支持軸22の移動可能距離rよりも小さく設定されている。
この状態において、例えば車両前突等に伴いシート5に対し車両前方への荷重が入力されたとする。このとき、シート5と共にアッパレール4が車両前方に移動しようとすることで、相対的にロックレバー30がアッパレール4に対して車両後方に移動しようとする。同時に、ロアレール3も、アッパレール4等に対して車両後方に移動しようとする。
ただし、このときの前後方向の荷重が所定値Fを下回っていれば、両楔部53による付勢力がこれら楔部53に対する前後方向の荷重に勝ることで、楔作用によって支持軸22の前後方向の移動(がたつき)が抑えられる。一方、このときの前後方向の荷重が所定値Fを上回ると、両楔部53による付勢力がこれら楔部53に対する前後方向の荷重に負けることで、ロックレバー30は、支持軸22が両楔部53を乗り上げるようにこれら両楔部53を弾性変形させつつ支持軸22に長孔35を摺動させて、車両後方に移動し始める。
そして、前後方向の荷重が更に増加すると、図6(a)(b)に示すように、車両後方に移動したロックレバー30のロックプレート39が隙間aを埋めて両後端面14bに当接する。これにより、両後端面14bにおいてロックレバー30からの当座の荷重が受けられる。
この状態で、前後方向の荷重が更に増加すると、ロックプレート39が両後端面14bを破断してそれらにめり込み始める。これにより、ロックレバー30の上下方向の回動が規制される。従って、この段階で仮に係止爪13bが車両前方に傾斜するように変形して係止孔39bとの接触角が大きくなったとしても、ロックレバー30の回動が規制されていることで、係止孔39bが係止爪13bから離脱しにくくなる。
そして、前後方向の荷重が更に増加すると、図7(a)(b)に示すように、両後端面14bにめり込んだロックプレート39が隙間bを埋めて両後端面16cにも当接する。これにより、両後端面16cにおいてもロックレバー30からの荷重が受けられる。つまり、ロックレバー30は、ロックプレート39がめり込む両後端面14bで上下方向の回動が規制された状態で、両内側フランジ14及び両外側フランジ16の協働で荷重が受けられる。そして、両内側フランジ14及び両外側フランジ16により荷重分担がなされることで、両後端面14bの破断進行が中断されて係止爪13bの曲げ破壊(せん断)が抑えられる。なお、この状態では、長孔35の前端が支持軸22に近付くものの、該支持軸22には未着となる。換言すれば、少なくともこの状態までは、支持軸22は、相対的に長孔35を前後方向に移動するのみで、入力された荷重で変形したり長孔35から外れたりすることはない。
そして、前後方向の荷重が更に増加し、図7(a)(b)から図8(a)(b)への変化で示すように、アッパレール4等に対するロアレール3の車両後方への移動に伴い仮に係止爪13bが車両前方に傾斜するように変形して係止孔39bとの接触角が大きくなったとしても、ロックレバー30の回動が規制されていることで、係止孔39bが係止爪13bから離脱しにくくなる。そして、前後方向の荷重が更に増加したときには、係止孔39bに嵌入する現状の係止爪13bが曲げ破壊(せん断)・除去されつつ、相対的なアッパレール4の車両前方への移動に伴って当該方向に控える次の係止爪13bがロックプレート39に当接されて、当該方向の移動の抵抗となる。そして、前後方向の荷重が更に増加したときには、当該係止爪13bの曲げ破壊及び車両前方に控える次の係止爪13bとの当接が繰り返される。従って、相対的なアッパレール4の車両前方への移動抵抗が途絶えることはなく、当該方向の移動を抑えつつ、車両前突等に伴う入力エネルギーが吸収される。
なお、車両後突等に伴いシート5に対し車両後方への荷重が入力された場合については、前後の関係を入れ替えることを除きその動作は同様である。
次に、アッパレール4に対するロアレール3の前後方向の移動量と当該方向に入力される荷重との関係について説明する。
図9に示すように、ロックプレート39が両後端面14b(又は前端面14c)にめり込んで、更に係止孔39bに嵌入する現状の係止爪13bが曲げ破壊され始めるまでの間は、ロアレール3の移動量の増加に伴って荷重が増加し続ける。つまり、ロアレール3の移動量が増加するほど該ロアレール3が移動しにくくなる。そして、係止孔39bに嵌入する現状の係止爪13bが曲げ破壊されると、ロアレール3の移動量の増加に対する荷重が急減する。その後、車両前方に控える次の係止爪13bへのロックプレート39の当接及び当該係止孔39bの曲げ破壊が繰り返されることで、ロアレール3の移動量の更なる増加に伴って荷重が周期的に増減する。つまり、ロアレール3が一旦移動しやすくなったとしても、その後はロアレール3の移動が抑えられる。
次に、支持軸22が長孔35に対して車両前方に移動し始めるときの所定値Fについて説明する。
図10に示すように、ロックスプリング50の両楔部53が支持軸22を下方に付勢する際の付勢力をWとし、支持軸22に圧接する両楔部53の頂角の1/2をθとする。また、支持軸22及び両楔部53間の摩擦係数をμとする。そして、支持軸22に入力される前後方向の荷重が所定値Fのときに、支持軸22が両楔部53を乗り越えて前後方向の移動を開始するものとする。
この場合、両楔部53には、それらの楔作用によって、上方に「F・tanθ」の力が加わる。また、支持軸22との接触部における法線方向成分が「F/cosθ」であることで、該接触部における摩擦力は「μ・F/cosθ」となって、その下方に向かう分力成分は「μ・F」となる。つまり、摩擦力は、両楔部53の外れを防ぐ方向に作用する。
従って、支持軸22が長孔35に対して前後方向に移動し始めるためには以下の関係を満足すればよい。
F・tanθ−μ・F>W
この関係から明らかなように、θが小さいほど、μが大きいほど外れにくくなる。つまり、本実施形態では、両楔部53の付勢力W(弾性係数、組付状態での弾性変形量など)や頂角(θ)、支持軸22及び両楔部53の接触部の摩擦係数μ(使用する摩擦材、端面処理など)を調整することで、支持軸22を前後方向に移動させる際の狙いとする荷重(所定値F)を調整することができる。
以上詳述したように、本実施形態によれば、以下に示す効果が得られるようになる。
(1)本実施形態では、支持軸22によりアッパレール4に回動自在に連結されるロックレバー30は、長孔35の範囲で前後方向の移動が可能である。そして、前後方向に加わる荷重が所定値Fを下回るのであれば、ロックスプリング50に付勢される支持軸22は両楔部53により長孔35における前後方向の移動が規制される。そして、ロックレバー30は、アッパレール4に対する前後方向の移動が規制される。このように、支持軸22の精度を徒に厳しくすることなく、アッパレール4及びロックレバー30の前後方向におけるがたつき、ひいてはロアレール3及びアッパレール4の前後方向におけるがたつきを抑えることができる。そして、シート5の前後方向におけるがたつき(又は振動)を抑えることができる。
一方、ロックレバー30による前記相対移動の係止状態で、例えば車両衝突等で前後方向に加わる荷重が所定値Fを上回ると、ロックスプリング50を弾性変形させつつ両楔部53による長孔35における支持軸22の前後方向の移動規制が解除され、アッパレール4と共に支持軸22が長孔35を前後方向に移動する。これにより、ロックプレート39が内側フランジ14(後端面14b又は前端面14c)に接触して荷重を受ける。従って、内側フランジ14により当該荷重を十分に支えることができれば、支持軸22が長孔35を移動した分、支持軸22の変形を僅少又は皆無にできる。そして、ロックレバー30による前記相対移動の係止をより安定化させることができる。
(2)本実施形態では、ロックスプリング50に付勢される支持軸22を、極めて簡易な構造である両楔部53を利用して長孔35における前後方向の移動を規制することができる。また、長孔35における支持軸22の前後方向の移動規制力を、両楔部53の頂角、支持軸22及び両楔部53間の摩擦係数、ロックスプリング50の付勢力などの調整によって簡易に変更することができる。
(3)本実施形態では、ロックレバー30による前記相対移動の係止状態では、外側開口16bにおける両外側フランジ16及びロックプレート39の隙間bを、長孔35における支持軸22の移動可能距離rよりも小さく設定した。従って、例えば車両衝突等に伴い前後方向に加わる荷重が所定値Fを上回ったとしても、少なくともロックプレート39が外側フランジ16(後端面16c又は前端面16d)に接触して荷重を受けるまでの間は、長孔35の範囲で支持軸22の移動が許容される。従って、外側フランジ16(及び内側フランジ14)により当該荷重を十分に支えることができれば、支持軸22は長孔35を移動するのみでその変形が皆無となり、ロックレバー30による前記相対移動の係止をいっそう安定化させることができる。
(4)本実施形態では、両楔部53をロックスプリング50に形成することで、アッパレール4(ブラケット17)又はロックレバー30の構造を変更することなく長孔35における支持軸22の前後方向の移動を規制することができる。
(5)本実施形態では、ロックレバー30による前記相対移動の係止状態で、例えば車両衝突等で前後方向の大荷重が入力され、これに伴う変形によってロックレバー30及びアッパレール4が前後方向の一方向に変位すると、ロックプレート39と隙間(a)の小さい方の内側フランジ14(後端面14b又は前端面14c)とが接触して荷重を受ける。そして、前後方向の荷重が更に増加すると、ロックプレート39が両内側フランジ14を破断してこれら両内側フランジ14にめり込む。これにより、ロックレバー30の回動が規制される。そして、前後方向の荷重が更に増加すると、ロックプレート39と隙間(b)の大きい方の外側フランジ16(後端面16c又は前端面16d)とが接触して両内側フランジ14と協働で荷重を受ける。従って、仮に係止爪13bが前後方向の逆方向に傾斜するように変形して係止爪13bとの接触角が大きくなったとしても、ロックレバー30の回動が規制されていることでロアレール3及びアッパレール4の相対移動を抑えることができる。
(6)本実施形態では、外側フランジ16は、ガイド部16aにおいて先端側に向かうに従い幅方向内側に向かうものの、ロックプレート39の幅方向縁部は、傾斜部39cにおいて幅方向外側に向かうに従い前記先端側に向かう。従って、前記相対移動の係止状態において、仮にロックプレート39が外側フランジ16のガイド部16aに当接した際には、該ガイド部16aにロックプレート39をより直角に近い状態で交差させることができる。これにより、ロックプレート39(傾斜部39c)及び16aの当接に伴う互いのせん断方向の係合をより堅固にすることができる。
また、傾斜部39cは、ロックプレート39の幅方向両縁部のみに形成されており、両内側フランジ14と交差する角度に影響を及ぼすことはない。このため、両内側フランジ14にロックプレート39をより直角に近い状態で交差させることができ、ロックプレート39及び両内側フランジ14の当接に伴う互いのせん断方向の係合を依然として堅固にすることができる。
さらに、外側フランジ16の上端部にガイド部16aを形成するとともに、該ガイド部16aに外側開口16bを形成してこれにロックプレート39を幅方向に挿通した。これにより、ロックプレート39の支持軸22周りの回動軌跡をガイド部16aの下方で開放することができる。そして、ロックプレート39と外側フランジ16との干渉を抑制することができ、あるいはロックプレート39の上下方向の移動量(ロックレバー30のストローク)を増大することができる。
(7)本実施形態では、ロックプレート39は、規制突部39dによりアッパレール4に対するその幅方向の移動が規制されることで、ロックレバー30の回動に伴う係止孔39b及び係止爪13bの嵌脱動作をより安定化することができる。特に、規制突部39dは、ロックレバー30の回動中心から離れたロックプレート39(係止爪13bとの係合位置)に設けられていることで、例えば当該回動中心(支持軸22)の近傍に設ける場合のように、幅方向の移動規制の僅かなずれがロックプレート39において拡大されてしまうこともない。
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態について説明する。なお、第2の実施形態は、ロックスプリングに代えてロックレバーの長孔に楔部を設けたことが前記第1の実施形態と主に異なる構成であるため、同様の部分についてはその詳細な説明は省略する。
図11及び図12に示すように、本実施形態のアッパレール111も、板材からなり、ロアレール3の両フランジ13間で上下方向に延びる一対の内側フランジ112及びこれら内側フランジ112のロアレール3から離隔する基端(上端)間を連結する蓋壁部113を有する。そして、各内側フランジ112の先端(下端)には、幅方向外側に張り出して更に側壁部11及びフランジ13に包囲されるように折り返された外側フランジ114が連続形成されている。
両内側フランジ112には、前記内側開口14aの車両前方で幅方向に連通する互いに同心の円形の軸取付孔112aがそれぞれ形成されている。そして、両内側フランジ112には、軸取付孔112aに両端部の挿入・固着された円柱状の支持軸116が支持されている。この支持軸116の中心線が幅方向に延びることはいうまでもない。
同様に、両内側フランジ112には、内側開口14aの車両後方で幅方向に連通する互いに同心の円形の軸取付孔112bがそれぞれ形成されている。そして、両内側フランジ112には、軸取付孔112bに両端部の挿入・固着された円柱状のスプリング支持軸117が支持されている。
そして、アッパレール111内には、両内側フランジ112の幅方向内側で、支持軸116によりロック部材としてのロックレバー120が回動自在に連結されている。すなわち、ロックレバー120は、前後方向に延在する板材からなり、その長手方向に延在する一対の縦壁部121が幅方向に並設される態様で立設されている。これら両縦壁部121間の幅方向の距離は、アッパレール111の両内側フランジ112間の幅方向の距離よりも小さく設定されている。そして、両縦壁部121は、各々の長手方向中間部において接続壁122により上端縁間が幅方向に接続されるとともに、各々の後端部において天板部123により上端縁間が幅方向に接続されている。なお、天板部123には、上下方向に連通する四角形のスプリング保持孔123aが形成されている。
また、両縦壁部121の長手方向中間部には、支持軸116(軸取付孔112a)と同等の高さ位置で前後方向に延在する長穴としての長孔124がそれぞれ形成されている。図13(a)(b)に併せ示すように、各長孔124は、その長手方向中央部から下方に延びる規制部としての楔部124aを有して略T字形状を呈する。両長孔124には、ロックレバー120の両縦壁部121がアッパレール111の両内側フランジ112に幅方向に挟まれた状態で、両軸取付孔112aに両端部の固着される支持軸116が楔部124aに挟入・配置されるように挿通される。これにより、ロックレバー120は、楔部124aを乗り上げることを前提に、長孔124の範囲で前後方向の移動が許容された状態でアッパレール111に対して上下方向に回動自在に連結されている。
図11に示すように、ロックレバー120は、両縦壁部121の後端部の下端縁から互いに離隔する幅方向外側にそれぞれ突設された一対のフランジ状の平板部125を有する。各平板部125は、該当する内側フランジ112の内側開口14a及び外側フランジ114の外側開口16bにそれぞれ幅方向に貫通されている。そして、各平板部125には、前後方向に並設された複数(3個)の係止部としての係止孔125aが前記所定の間隔をもって形成されている。各係止孔125aは、ロアレール3のフランジ13に対向して上下方向に開口しており、ロアレール3の長手方向で隣り合う複数(3個)の係止爪13bと合致可能な位置に配置されている。
そして、両平板部125が上昇するようにロックレバー120が支持軸116周りに回動するとき、各係止孔125aに対応する係止爪13bを嵌入可能となっている。各係止孔125aに対応する係止爪13bを嵌入するとき、ロアレール3及びアッパレール111の相対移動が係止される。一方、両平板部125が下降するようにロックレバー120が支持軸116周りに回動するとき、各係止孔125aが対応する係止爪13bから外れるように設定されている。このとき、ロアレール3及びアッパレール111の相対移動の係止が解除される。
なお、両平板部125間の幅方向の距離は、アッパレール111の両ガイド部16a間の幅方向の距離よりも大きく、且つ、ガイド部16aよりも下方の両外側フランジ114間の幅方向の距離よりも小さく設定されている。従って、両平板部125は、ロアレール3及びアッパレール111の相対移動の係止状態で外側開口16bを幅方向に貫通するものの、前記相対移動係止の解除状態で外側フランジ114と干渉することはない。
アッパレール111内には、両内側フランジ112の幅方向内側で、スプリング支持軸117により付勢部材としての1本の線材からなるロックスプリング130が支持される。このロックスプリング130は、平面視において後側に開口する略コ字状に成形されており、左右対称で前後方向に延在する一対の延設部131を有するとともに、これら両延設部131の前端間を幅方向に接続する円弧状の接続部132を有する。また、各延設部131は、長手方向中間部で後方に向かって時計回りに巻回してなるコイル部133を有する。
図13(a)に示すように、ロックスプリング130は、スプリング支持軸117周りに両コイル部133が巻回されることでアッパレール111に支持されている。また、ロックスプリング130は、両コイル部133から車両後方に延出する両延設部131の後端部でアッパレール111の蓋壁部113下面にそれぞれ弾性的に接触するとともに、両コイル部133から車両前方に延出する両延設部131の前端部と共にロックレバー120内に進入した接続部132で天板部123下面に弾性的に接触する。そして、ロックスプリング130は、接続部132において、ロックレバー120の両平板部125が上昇する側、即ち各係止孔125aに該当の係止爪13bが嵌入する側にロックレバー120を回動付勢する。
図11に示すように、アッパレール111内には、支持軸付勢部材としての1本の線材からなるハンドルスプリング135が配置される。このハンドルスプリング135は、平面視において後側に開口する略コ字状に成形されており、左右対称で前後方向に延在する一対の延設部136を有するとともに、これら両延設部66の拡開された前端部の前端間を幅方向に接続する接続部137を有する。なお、両延設部136の後端部には、上方に湾出する固定部138がそれぞれ形成されている。
図13(a)に示すように、ハンドルスプリング135は、支持軸116の上側で前後方向に延びており、天板部123のスプリング保持孔123aに両固定部138が嵌入・保持され、ハンドル差し込み部38の挿入された先端部61(解除ハンドル6)の支持溝62に接続部137が嵌入されている。そして、ハンドルスプリング135は、接続部137において先端部61(支持溝62)が上昇するように付勢する。
先端部61は、これに挿入されたハンドル差し込み部38の前端部が支持溝62(即ちハンドルスプリング135による先端部61の付勢位置)の車両前方で上下方向に揺動自在に支持され、支持溝62においてハンドルスプリング135により上方に付勢されることで、その姿勢が制御されている。
そして、先端部61の前端が持ち上がると、該先端部61と共にロックレバー120がロックスプリング130の付勢力に抗して支持軸116周りに両平板部125が下降する側、即ち各係止孔125aが対応する係止爪13bから外れる側に回動する。
ここで、解除ハンドル6の操作力が解放されているものとする。このとき、ロックスプリング130の付勢力により、先端部61(解除ハンドル6)と共にロックレバー120が支持軸116周りに両平板部125が上昇する側、即ち各係止孔125aが対応する係止爪13bに嵌入する側に回動されることで、前述の態様でロアレール3及びアッパレール111の相対移動が係止される。そして、アッパレール111に支持されるシート5の前後方向の位置が保持される。
その後、解除ハンドル6がその前端を持ち上げるように操作されたとする。このとき、ロックスプリング130の付勢力に抗して、先端部61(解除ハンドル6)と共にロックレバー120が支持軸116周りに両平板部125が下降する側、即ち各係止孔125aが対応する係止爪13bから外れる側に回動されることで、前述の態様でロアレール3及びアッパレール111の相対移動の係止が解除される。そして、アッパレール111に支持されるシート5の前後方向の位置調整が可能になる。
なお、ハンドルスプリング135は、接続部137において先端部61(支持溝62)が上昇するように付勢する際、その反力で支持軸116を下方に、即ち長孔124の長手方向に交差する方向に付勢する。これにより、楔部124a(長孔124の前後方向中央部)に配置された支持軸116の前後方向の移動が係止される。つまり、楔部124aに挟入・配置された支持軸116の前後方向の位置は、ハンドルスプリング135によって付勢・保持されている。ただし、前後方向に加わる荷重が所定値を超えると、支持軸116は、ハンドルスプリング135を弾性変形させつつ楔部124aを乗り上げて、長孔124を前後方向に移動する。
図14(a)に示すように、平板部125及び後端面14bの前後方向の隙間a11、並びに平板部125及び前端面14cの前後方向の隙間a12は、互いに同等の隙間aに設定されている。また、ロアレール3及びアッパレール111の相対移動の係止状態で、平板部125及び外側開口16bにおける外側フランジ114の後端面16cの前後方向の隙間b11、並びに平板部125及び外側開口16bにおける外側フランジ114の前端面16dの前後方向の隙間b12は、互いに同等の隙間bに設定されている。この隙間bは、隙間aよりも大きく、且つ、楔部124aからの支持軸116の移動可能距離r1よりも小さく設定されている。つまり、例えば車両衝突などに伴う前後方向の荷重によってアッパレール111及びロックレバー120(平板部125)が前後方向に相対移動した際、仮に平板部125が内側開口14aの後端面14b又は前端面14cに当接したとしても外側開口16bの後端面16c又は前端面16dに当接することはない。あるいは、平板部125が外側開口16bの後端面16c又は前端面16dに当接したとしても支持軸116が長孔124の終端に到達することはない。換言すれば、支持軸116は、平板部125が外側開口16bの後端面16c又は前端面16dに当接したとしても、ハンドルスプリング135を弾性変形させつつ長孔124の範囲で前後方向に移動することになる。
次に、本実施形態の動作について説明する。
図14(a)に示すロアレール3及びアッパレール111の相対移動の係止状態において、例えば車両前突等に伴いシート5に対し車両前方への荷重が入力されたとする。このとき、シート5と共にアッパレール111が車両前方に移動しようとすることで、相対的にロックレバー120がアッパレール111に対して車両後方に移動しようとする。同時に、ロアレール3も、アッパレール111等に対して車両後方に移動しようとする。
ただし、このときの前後方向の荷重が所定値Fを下回っていれば、ハンドルスプリング135による付勢力が両楔部124aに対する前後方向の荷重に勝ることで、楔作用によって支持軸116の前後方向の移動(がたつき)が抑えられる。一方、このときの前後方向の荷重が所定値Fを上回ると、ハンドルスプリング135による付勢力がこれら両楔部124aに対する前後方向の荷重に負けることで、ロックレバー120は、支持軸116が両楔部124aを乗り上げるようにハンドルスプリング135を弾性変形させつつ支持軸116に長孔124を摺動させて、車両後方に移動し始める。
そして、前後方向の荷重が更に増加すると、図14(b)に示すように、車両後方に移動したロックレバー120の両平板部125が隙間aを埋めて両後端面14bに当接する。これにより、両後端面14bにおいてロックレバー120からの当座の荷重が受けられる。
この状態で、前後方向の荷重が更に増加すると、両平板部125が両後端面14bを破断してそれらにめり込み始める。これにより、ロックレバー120の上下方向の回動が規制される。従って、この段階で仮に係止爪13bが車両前方に傾斜するように変形して係止孔125aとの接触角が大きくなったとしても、ロックレバー120の回動が規制されていることで、係止孔125aが係止爪13bから離脱しにくくなる。
そして、前後方向の荷重が更に増加すると、図14(c)に示すように、両後端面14bにめり込んだ両平板部125が隙間bを埋めて両後端面16cにも当接する。これにより、両後端面16cにおいてもロックレバー120からの荷重が受けられる。つまり、ロックレバー120は、両平板部125がめり込む両後端面14bで上下方向の回動が規制された状態で、両内側フランジ112及び両外側フランジ114の協働で荷重が受けられる。そして、両内側フランジ112及び両外側フランジ114により荷重分担がなされることで、両後端面14bの破断進行が中断されて係止爪13bの曲げ破壊(せん断)が抑えられる。なお、この状態では、長孔124の前端が支持軸116に近付くものの、該支持軸116には未着となる。換言すれば、少なくともこの状態までは、支持軸116は、両楔部124aを乗り越えつつ相対的に長孔124を前後方向に移動するのみで、入力された荷重で変形したり長孔124から外れたりすることはない。
そして、前後方向の荷重が更に増加し、図14(c)から図14(d)への変化で示すように、アッパレール111等に対するロアレール3の車両後方への移動に伴い仮に係止爪13bが車両前方に傾斜するように変形して係止孔125aとの接触角が大きくなったとしても、ロックレバー120の回動が規制されていることで、係止孔125aが係止爪13bから離脱しにくくなる。そして、前後方向の荷重が更に増加したときには、係止孔125aに嵌入する現状の係止爪13bが曲げ破壊(せん断)・除去されつつ、相対的なアッパレール111の車両前方への移動に伴って当該方向に控える次の係止爪13bが両平板部125に当接されて、当該方向の移動の抵抗となる。そして、前後方向の荷重が更に増加したときには、当該係止爪13bの曲げ破壊及び車両前方に控える次の係止爪13bとの当接が繰り返される。従って、相対的なアッパレール111の車両前方への移動抵抗が途絶えることはなく、当該方向の移動を抑えつつ、車両前突等に伴う入力エネルギーが吸収される。
なお、車両後突等に伴いシート5に対し車両後方への荷重が入力された場合については、前後の関係を入れ替えることを除きその動作は同様である。また、支持軸116が長孔124に対して前後方向に移動し始めるときの所定値Fについても、その考え方は前記第1の実施形態と同様である。
以上詳述したように、本実施形態によれば、前記第1の実施形態における(1)〜(3)(5)の効果に加えて以下に示す効果が得られるようになる。
(1)本実施形態では、楔部124aを長孔124に形成することで、楔部124aの形状をより高精度に成形することができる。
(第3の実施形態)
本発明の第3の実施形態について説明する。なお、第3の実施形態は、ロックレバーに代えてアッパレール側(ブラケット)に楔部の設けられた長穴を形成したことが前記第1及び第2の実施形態と主に異なる構成であるため、同様の部分についてはその詳細な説明は省略する。
図15に示すように、内側開口14a等よりも前側の部位においてアッパレール4の蓋壁部15に取着されるブラケット140は、アッパレール4の両内側フランジ14間で上下方向に延びる一対の支持壁部141及びこれら支持壁部141のロアレール3から離隔する基端(上端)間を連結する天板部142を有する。ブラケット140は、両支持壁部141がアッパレール4の両内側フランジ14に幅方向に挟まれた状態で、天板部142においてアッパレール4の蓋壁部15に締結される。
両支持壁部141の前端部下部には、前後方向に延在する長穴としての長孔143がそれぞれ形成されている。図17(a)(b)に併せ示すように、各長孔143は、その長手方向中央部から下方に延びる規制部としての楔部143aを有して略T字形状を呈する。そして、両内側フランジ112には、楔部143aに挟入・配置されるように両端部が両長孔143に遊挿された円柱状の支持軸146が支持されている。支持軸146の直径は、長孔143の短手方向(上下方向)の開口幅と同等に設定されている。この支持軸146の中心線が幅方向に延びることはいうまでもない。
図15に示すように、アッパレール4内には、両支持壁部141の幅方向内側で、支持軸146によりロックレバー30の柄部150が回動自在に連結されている。すなわち、柄部150は、前後方向に延在する板材からなり、その長手方向に延在する一対の縦壁部151が幅方向に並設される態様で立設されている。これら両縦壁部151間の幅方向の距離は、ブラケット140の両支持壁部141間の幅方向の距離よりも小さく設定されている。
そして、両縦壁部151の長手方向中間部には、支持軸146(長孔143)と同等の高さ位置で幅方向に連通する互いに同心の円形の軸取付孔152がそれぞれ形成されている。図16に併せ示すように、両軸取付孔152には、柄部150の両縦壁部151がブラケット140の両支持壁部141に幅方向に挟まれた状態で、両長孔143に両端部の遊挿される支持軸146が挿通・固着される。これにより、柄部150(ロックレバー30)は、楔部143aを乗り上げることを前提に、長孔143の範囲で前後方向の移動が許容された状態でアッパレール4に対して上下方向に回動自在に連結されている。
図15に示すように、アッパレール4内には、付勢部材及び支持軸付勢部材としての1本の線材からなるロックスプリング160が配置される。このロックスプリング160は、平面視において後側に開口する略コ字状に成形されており、左右対称で前後方向に延在する一対の延設部161を有するとともに、これら両延設部161の拡開された前端部の前端間を幅方向に接続する接続部162を有する。また、ロックスプリング160は、各延設部161の後端部を上方に湾出してなるレバー側係止端部163を有する。さらに、両延設部161の拡開された前端部は、接続部162と共に全体として略五角形をなしてレール側係止端部164を形成する。
図17(a)(b)に併せ示すように、ロックスプリング160は、支持軸146の上側で前後方向に延びており、支持軸146よりも前側で柄部150の隣り合う接続壁33間から上方にレール側係止端部164を突出させる態様で概ね柄部150内に配置されている。そして、ロックスプリング160は、支持軸146の上方から該支持軸146に弾性的に接触し、両レバー側係止端部163においてロックプレート39の下方から該ロックプレート39に弾性的に接触し、レール側係止端部164においてアッパレール4の蓋壁部15下面に弾性的に接触することで、アッパレール4等に支持されている。このとき、ロックスプリング160は、両延設部161の後端部においてロックプレート39が上昇する側、即ち各係止孔39bに対応する係止爪13bが嵌入する側に柄部150(ロックレバー30)を回動付勢する。また、ロックスプリング160は、その反力で支持軸146を下方に、即ち長孔143の長手方向に交差する方向に付勢することで長孔143内での支持軸146の前後方向の移動を係止する。これにより、楔部143a(長孔143の前後方向中央部)に配置された支持軸146の前後方向の移動が係止される。つまり、楔部143aに挟入・配置された支持軸146の前後方向の位置は、ロックスプリング160によって付勢・保持されている。ただし、前後方向に加わる荷重が所定値を超えると、支持軸146は、ロックスプリング160を弾性変形させつつ楔部143aを乗り上げて、長孔124を前後方向に移動する。
なお、ロックプレート39と内側フランジ14の後端面14b又は前端面14cとの前後方向の隙間(a)、ロックプレート39と外側フランジ16の後端面16c又は前端面16dとの前後方向の隙間(b)、楔部143aからの支持軸146の移動可能距離の関係は、前記第1の実施形態と同様である。従って、車両衝突(前突又は後突)等における動作も前記第1の実施形態と同様であり、その説明を割愛する。また、支持軸146が長孔143に対して前後方向に移動し始めるときの所定値Fについても、その考え方は前記第1の実施形態と同様である。
以上詳述したように、本実施形態によれば、前記第1の実施形態における(1)〜(3)、(5)〜(7)の効果及び前記第2の実施形態における(1)の効果が得られるようになる。
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・前記第1の実施形態において、ブラケット17を割愛してアッパレール4に直に支持軸22を固着してもよい。
・前記第1の実施形態において、ブラケット17(又はアッパレール4)及びロックレバー30と、支持軸22及び長孔35との配置関係は逆であってもよい。この場合、ブラケット17(又はアッパレール4)には、長孔35に代えて幅方向に非連通の溝状の長穴を採用してもよい。
・前記第1の実施形態においては、ロックスプリング50に楔部53を設けたが、これに代えて、若しくはこれに加えて長孔35に楔部を設けてもよい。
・前記第1の実施形態においては、ロックスプリング50の一部(楔部53)を利用して支持軸22を付勢したが、該ロックスプリング50とは別設の支持軸付勢部材(例えば線細工ばねや板ばねなど)にて支持軸22を付勢してもよい。
・前記第1の実施形態においては、支持軸付勢部材(楔部53)により支持軸22を下方に付勢したが、長孔35の延在方向(相対移動方向)に交差するのであれば、その付勢方向は任意である。
・前記第1の実施形態において、隙間a1,a2は互いに異なっていてもよい。同様に、隙間b1,b2は互いに異なっていてもよい。
・前記第1の実施形態において、隙間a1,b1及び隙間a2,b2の一方又は両方は、同等若しくは大小関係が逆転していてもよい。
・前記第1及び第3の実施形態において、柄部31,150及びロックプレート39の一体形成されたロックレバーであってもよい。
・前記第2の実施形態において、適宜のブラケットを介してアッパレール111に間接的に支持軸116を固着してもよい。
・前記第2の実施形態において、アッパレール111及びロックレバー120と、支持軸116及び長孔124との配置関係は逆であってもよい。この場合、アッパレール111には、長孔124に代えて幅方向に非連通の溝状の長穴を採用してもよい。
・前記第2の実施形態においては、長孔124に楔部124aを設けたが、これに代えて、若しくはこれに加えてハンドルスプリング135に楔部を設けてもよい。
・前記第2の実施形態においては、ハンドルスプリング135の一部を利用して支持軸116を付勢したが、該ハンドルスプリング135とは別設の支持軸付勢部材(例えば線細工ばねや板ばねなど)にて支持軸116を付勢してもよい。
・前記第2の実施形態においては、支持軸付勢部材(ハンドルスプリング135)により支持軸116を下方に付勢したが、長孔124の延在方向(相対移動方向)に交差するのであれば、その付勢方向は任意である。
・前記第2の実施形態において、隙間a11,a12は互いに異なっていてもよい。同様に、隙間b11,b12は互いに異なっていてもよい。
・前記第2の実施形態において、隙間a11,b11及び隙間a12,b12の一方又は両方は、同等若しくは大小関係が逆転していてもよい。
・前記第2の実施形態において、別設の平板部を固定したロックレバーであってもよい。
・前記第3の実施形態において、ブラケット140を割愛してアッパレール4に直に支持軸146を支持してもよい。
・前記第3の実施形態において、ブラケット140(又はアッパレール4)及びロックレバー30と、支持軸146及び長孔143との配置関係は逆であってもよい。
・前記第3の実施形態においては、ブラケット140に楔部53を設けたが、これに代えて、若しくはこれに加えてロックスプリング160に楔部を設けてもよい。
・前記第3の実施形態においては、ロックスプリング160の一部を利用して支持軸146を付勢したが、該ロックスプリング160とは別設の支持軸付勢部材(例えば線細工ばねや板ばねなど)にて支持軸146を付勢してもよい。
・前記第3の実施形態においては、支持軸付勢部材(ロックスプリング160)により支持軸146を下方に付勢したが、長孔143の延在方向(相対移動方向)に交差するのであれば、その付勢方向は任意である。
・前記各実施形態において、係止爪13bが前後方向に傾斜するように変形し始めるタイミングは、平板部が内側フランジ(後端面14b又は前端面14c)にめり込み始めるタイミングであってもよいし、平板部が外側フランジ(後端面16c又は前端面16d)に当接するタイミングであってもよいし、それらの中間のタイミングであってもよい。
・前記各実施形態において、ロックプレート39の係止孔39bに代えて、幅方向に開いた係止溝を採用してもよい。つまり、櫛歯状のロックプレートであってもよい。
・前記各実施形態において、ロアレール3及びアッパレールの相対移動の係止状態で、両外側開口16bにおける外側フランジ(後端面16c又は前端面16d)及び平板部の隙間bを、長孔における支持軸の移動可能距離rと同等、若しくはこれよりも大きく設定してもよい。
・前記各実施形態において、アッパレールの外側フランジにガイド部16aを形成しなくてもよい。この場合、ロックレバー(平板部)の回動範囲の全体に亘って平板部が幅方向に貫通可能な外側開口とすればよい。この外側開口は、上方に開いた切り欠きであってもよいし、閉じた開口(孔)であってもよい。また、平板部の幅方向両縁部に傾斜部(39c)を形成する必要はない。
・前記各実施形態において、支持軸は、長孔の長手方向中央部に配置されていなくてもよい。例えば支持軸は、長孔を車両後方にのみ移動可能なようにその前端に当接又は近接していてもよいし、長孔を車両前方にのみ移動可能なようにその後端に当接又は近接していてもよい。
・前記各実施形態において、隙間aは略零であってもよい。ただし、隙間aとして一定量を設定する方が組付け時のばらつき吸収により好ましい。
・前記各実施形態において、ロックスプリングとして、1本の延設部51,131,161のみの形状を採用してもよい。あるいは、ロックスプリングとして、互いに独立した複数本からなる延設部51,131,161を採用してもよい。
・前記各実施形態において、ロックスプリングとして、コイルばねや板ばねなどを採用してもよい。
・前記各実施形態において、ハンドルスプリングとして、1本の延設部66,136のみの形状を採用してもよい。あるいは、ハンドルスプリングとして、互いに独立した複数本からなる延設部66,136を採用してもよい。
・前記各実施形態において、ハンドルスプリングとして、コイルばねや板ばねなどを採用してもよい。
・前記各実施形態において、ロアレール3は、複数枚の板材を溶接などで結合した構造であってもよい。また、ロアレール3の断面形状は一例であって、係止爪を有する一対のフランジを有するのであればよい。
・前記各実施形態において、アッパレールは、複数枚の板材を溶接などで結合した構造であってもよい。また、アッパレールの断面形状は一例であって、内側開口の形成された一対の内側フランジ及び外側開口の形成された一対の外側フランジを有するのであればよい。
・前記各実施形態において、ロアレール及びアッパレールと、車両フロア2及びシート5の固定関係(即ち上下の配置関係)は逆であってもよい。この場合、車両フロア2側に設置されるロックレバーの解除操作は、例えばケーブルなどを通じて適宜の操作部材から行ってもよい。
・前記各実施形態において、ロアレール及びアッパレール(車両用シートスライド装置)は、シート5に対し各1本ずつ配設される構成であってもよいし、各3本以上ずつ配設される構成であってもよい。
・前記各実施形態において、ロアレール及びアッパレールの相対移動方向は、例えば車両幅方向であってもよい。この場合、車両側突時の相対移動の抑制に効果的である。