JP2014080647A - プラズマ処理装置、ヘテロ膜の形成方法 - Google Patents

プラズマ処理装置、ヘテロ膜の形成方法 Download PDF

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Abstract

【課題】反応性ガスのプラズマで基材を均一に処理してヘテロ膜を形成するプラズマ処理装置、前記ヘテロ膜を有する部材の製造方法を提供する。
【解決手段】プラズマ処理装置は、プロセスガスが流通可能な中空電極4と、中空電極から延びる電気絶縁性中空放電管6と、前記中空電極4に正極性の電圧をパルスの形態で印加する印加手段8と、前記放電管6を収容する真空チャンバー9と、反応性ガスを導入するための導入路10と、チャンバー内に配設され、バイアス印加手段12により負極性のバイアス電圧が印加される基材11と、チャンバーをアースするアース手段13と、真空手段14とを備えている。前記放電管6は、比誘電率が3.5以上を越え、二次電子放電係数γが1以上であり、かつ沿面放電によりプラズマを発生可能な材料で形成されている。この装置は、基材11に窒化膜などを形成するのに有用である。
【選択図】図1

Description

本発明は、沿面放電を利用して反応性ガスのプラズマを発生させて基材を処理し、基材表面に窒化膜などのヘテロ膜を形成するのに有用なプラズマ処理装置(プラズマ発生装置、又はヘテロ膜の形成装置)、前記基材にヘテロ膜を形成する方法(又はヘテロ膜が形成された部材の製造方法)並びにヘテロ膜が形成された部材に関する。
金属の表面処理には、硬質セラミックスをコーティングして表面硬度を高める方法、金属表面を窒化、軟窒化、酸化処理する方法などが知られている。特に窒化処理に関しては、ガス窒化、塩浴窒化、プラズマ窒化などが知られている。これらの窒化処理の中で、環境に対する配慮、処理時間の短縮などの要求からプラズマ窒化が主流になりつつある。例えば、高速度鋼などで構成された工具や金型などの表面硬化としてプラズマ窒化処理が行われている。
しかし、この窒化処理では、硬度は高いものの脆い白層と称される窒化鉄(Fe2−3N)が表面に生成するため、白層部分を除去する必要がある。さらに、多くのプラズマ処理は、低圧(1〜10Torr)の真空中に窒素、水素などのガスを導入してチャンバー内壁を正電極、基材を負電極とし、電極間に数100Vの直流電圧を印加しグロー放電を起こし、窒素イオン(プラスイオン)を発生させて基材に衝突させて表面に窒化鉄を形成させ、窒素原子を内部に拡散させて窒化層を形成させている。しかし、この方法では、前記白層とその除去の必要性に加えて、基材へのイオンの衝突により基材温度が上昇するため、温度制御が難しく、基材のエッジ部分に電界が集中しアーク放電を起こしやすく、処理基材表面に稲妻状の傷(アーキング)が生成することがある。また、基材のエッジ部への電界集中(エッジ効果)によって過剰にイオンが集中し、不均一に窒化される。さらには、マイナス電位を印加した基材間の隙間が狭いと、電子がその隙間で反発しながらエネルギーが高まるホローカソード効果により、基材に傷が発生したりする。
特に、鉄基材を窒化処理して工具を製造する場合、白層を除去する工程では、エンドミルなどの鋭角に加工された刃先が、白層の除去とともに窒化層も同時に研磨されてしまい、刃先形状の変化に伴って当初の切削効果が得られなくなる。このような問題に対して、窒素ガス量を減らして水素ガスを多くして白層の生成を抑制することが検討されている。また、ラジカル窒化と称される方法により、白層などの生成を抑制している。しかし、このラジカル窒化法では、ガスとしてアンモニアを使用するため、有毒ガスの対応が必要となり、しかも窒化に時間を要する。
これらのことから、窒化処理においては、有毒ガスなどを使用せず又は発生させず、しかも白層が生成しない装置及び方法、窒化処理後の後処理を必要とせず、短時間で処理可能な装置及び方法が要望されている。
なお、プラズマ・電子ビームをターゲットに照射してアブレーションさせ、対向する基板上に薄膜を堆積させるPPD(Pulsed Plasma Deposition(以下、PPDと称する場合がある))法が知られており、アブレーションのため、沿面放電型プラズマ・電子ビーム発生装置が開発されている。この沿面放電技術を基材のプラズマ窒化(イオン窒化)へ応用しても、電子ビームの発生及びプラズマの発生には高電圧が必要であり、プラズマも局所的なローカルプラズマとして発生し、真空容器(チャンバー)全体を、例えば、窒素プラズマで満たすことができない。真空容器(チャンバー)内を窒素プラズマで満たすには、高電圧発生装置(電源)と、この電源に接続された多数のプラズマガンとが必要となり、安全性や取扱い性が十分でない。
なお、「高速窒化処理による金属表面硬化層の開発(第1報)」(山田ら、岐阜県機械材料研究所研究報告 No.3, pp28-31 (2010))(非特許文献1)には、電子ビームでの窒化では、電子ビーム出力が低いほど、窒化層が形成されやすかったこと、高温状態での窒化では窒化層が形成されにくいことが報告されている。
岐阜県機械材料研究所研究報告 No.3, pp28-31 (2010)
従って、本発明の目的は、反応性ガスのプラズマで基材を均一に処理できるプラズマ処理装置、及びこの装置を用いたヘテロ膜を有する部材の製造方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、真空チャンバー内に反応性ガスのプラズマを満たし、基材表面を有効に処理できるプラズマ処理装置、及びこの装置を用いたヘテロ膜を有する部材の製造方法を提供することにある。
本発明のさらに他の目的は、窒化処理などの処理後の後処理を必要とせず、短時間で基材を処理可能なプラズマ処理装置、及びこの装置を用いたヘテロ膜を有する部材の製造方法を提供することにある。
本発明の別の目的は、有毒ガスなどを使用せず又は発生させることなく、白層の生成を抑制でき、効率よく金属基材を窒化して窒化膜を形成できるプラズマ処理装置、及びこの装置を用いたヘテロ膜を有する部材の製造方法(ヘテロ膜の形成方法)を提供することにある。
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、接地してアースされた真空チャンバー内での真空下、プロセスガスが流通可能であり、かつ正極性の電圧をパルスの形態で印加可能な中空電極と、この中空電極から延び(例えば、中空電極の底面で接して延び)、かつ電気絶縁材料で形成した電気絶縁性中空放電管とで、中空電極(導体)/電気絶縁性放電管(絶縁体)/真空の3重点(トリプルジャンクション)を形成した状態で、真空チャンバー内に配設された基材に、前記中空電極とは逆の極性(負極性)のバイアス電圧を印加し、中空電極へ高電圧(正極性)を付与すると、トリプルジャンクションへの電界集中により沿面放電が起こり、電子が放出され、プロセスガスの絶縁破壊により放電管内で、続いて連続的にプロセスガスのプラズマ化が起こり、真空チャンバー内に導入された反応性ガスを容易にプラズマ化してイオンと電子とに電離でき、負極性電圧を印加された前記基材表面に、イオン化した反応性ガスの吸引により反応性ガスによるヘテロ膜を均一かつ効率よく形成できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明のプラズマ処理装置は、プロセスガスが流通可能であり、かつパルス化した電圧を印加可能な中空電極と、この中空電極から延びる(又は中空電極の底面で接して延びる)電気絶縁性中空放電管と、この絶縁性中空放電管を収容するための真空チャンバーと、この真空チャンバー内に反応性ガスを導入するための導入路と、前記真空チャンバー内に配設され、かつ発生した反応性ガスのプラズマで処理するための基材と、前記真空チャンバー内のガスを排気するための真空手段を備えている。このような装置は、前記中空電極に正極性の電圧をパルスの形態で印加するための電圧印加手段と、接地してアースした真空チャンバーとを備えており、前記電気絶縁性中空放電管が、沿面放電(特に3重点(トリプルジャンクション))を起点とする沿面放電)によりプラズマを発生可能な材料で形成されている。なお、前記中空電極とは逆の極性(負極性)のバイアス電圧を基材に印加するためのバイアス印加手段を備えていてもよい。
なお、中空電極は、電荷を充電するためのコンデンサを備えていてもよい。また、電気絶縁性中空放電管は、3重点(トリプルジャンクション)を基点として沿面放電によりプラズマを発生可能であればよく、誘電分極性の高い材料、例えば、下記(1)〜(3)のいずれかの材料で構成された筒状中空成形体であってもよい。
(1)比誘電率が3.5以上を越え、二次電子放電係数γが1以上であるセラミックス又はガラス;
(2)比誘電率が9を超え、二次電子放電係数γが3以上であるセラミックス又はガラス;
(3)比誘電率が9.5以上、二次電子放電係数γが5以上のセラミックス
なお、絶縁性中空放電管を、絶縁体であり、比誘電率が大きく、真空下又は減圧下で沿面放電によりプラズマを発生可能な材料(セラミックスなどの無機材料)で形成すると、沿面放電によりプラズマが発生し、低電圧でプラズマを良好に生成できる。沿面放電の過程において放電管材質の誘電率が高いと、管壁表面の帯電状態により2次電子の発生が増加する。すなわち、誘電率が大きいと残留電荷が大きくなるためと考えられ、残留電荷の帯電電荷密度は、次式に従って減衰する。
Q(t)=Qexp(−t/τ)
(式中、Qは帯電電荷密度、Qは初期帯電電荷密度、tは時間、τは減衰時定数を示す)
減衰時定数τは、絶縁物の誘電率と導電率(抵抗率)により決定される。すなわち、減衰時定数τが絶縁物の誘電率εと抵抗率ρとの積τ=ερで近似されることから、誘電率及び抵抗率の値が大きいほど、表面の帯電電荷の減衰時間が長くなり、大きな残留電荷により沿面放電が強く起こると考えられる。そこで、放電管材質の選定の基準として、比誘電率と抵抗率との積が3.5x10を越える材料を用いて絶縁性中空放電管を形成するのが望ましい。絶縁性中空放電管は、セラミックス又はガラスで構成された筒状中空成形体であってもよい。絶縁性中空放電管は、通常、セラミックスで構成できる。
なお、中空電極(筒状電極)はコンデンサを備えていてもよい。また、前記筒状中空電極に電圧を付与してプラズマを生成するため、本発明の処理装置では、電圧をパルスの形態で(パルス化した電圧を)付与するためのパルス発生機構を電源ユニット内に備えている。前記基材は、プラズマ処理(反応性プラズマ処理)に供される種々の基材(特に無機基材)、例えば、金属又はセラミックスで形成された基材であってもよく、反応性ガスは、例えば、水素、酸素、窒素、硫黄、ケイ素、及びホウ素から選択された少なくとも一種の元素を含むガスであってもよい。本発明の処理装置は、真空チャンバー内で発生した反応性ガスのプラズマで処理して基材表面にヘテロ膜を形成するのに有効である。例えば、少なくとも窒素を含む反応性ガスを用い、真空チャンバー内で発生した窒素プラズマで処理して金属又はセラミックス基材の表面に窒化膜を形成するに有効である。このような処理をするための装置は、中空電極に正極性の電圧をパルスの形態で(パルス化した電圧を)印加するための電圧印加手段と、基材に負極性のバイアス電圧を印加するためのバイアス印加手段とを備え、反応性ガスは、窒素及び水素を含んでいてもよい。さらに、必要であれば、真空チャンバー内に複数の絶縁性中空放電管を収容し、真空チャンバー内を反応性プラズマで満たしてもよい。
本発明は、真空下、プロセスガスが流通可能な中空電極に電圧を印加し、前記中空電極から延びる(例えば、底面で接して気密に延びる)電気絶縁性中空放電管内でプロセスガスをプラズマ化して、接地された真空チャンバー内に導入された反応性ガスをプラズマ化し、前記真空チャンバー内に配設された基材とプラズマとを接触させ、前記基材表面がプラズマ処理された部材の製造方法(又はプラズマ処理膜の形成方法)も包含する。この製造方法では、前記中空電極に正極性の前記電圧をパルスの形態で印加し、前記基材に前記中空電極とは逆の極性(負極性)のバイアス電圧を印加し、前記絶縁性中空放電管を、沿面放電によりプラズマを発生可能な材料で形成することにより、電気絶縁性中空放電管内で沿面放電によりプロセスガスをプラズマ化し、真空チャンバー内で、前記基材の表面に反応性ガスのプラズマによりヘテロ膜を形成する。
この方法では、絶縁性中空放電管を、比誘電率が9を超え、二次電子放電係数γが3以上であるセラミックスで形成し、基材に硬質ヘテロ膜を形成してもよい。
本発明は、さらに、前記方法で基材の表面にヘテロ膜が形成された部材も包含する。この部材は、金属又はセラミックスで構成され、切削刃を形成する基材と、窒素及び水素を含む反応性ガスとを用い、前記方法で基材の表面に窒化膜が形成された切削刃であってもよい。
なお、本明細書において、「反応性ガス」には、真空チャンバー内でガス状であり、基材との反応性プラズマを生成する無機又は有機成分が含まれる。また、「プラズマ処理装置」は、基材表面を処理するための表面処理装置、プラズマCVD装置、窒素ラジカルおよび窒素イオン、水素ラジカルなどのCVD反応を促進する反応種(CVD反応を促進する反応種など)の生成装置、反応性プラズマにより基材表面にコーティング膜を形成する表面コーティング膜生成装置なども包含する。「ヘテロ膜」とは、基材の表面に形成され、かつ基材の素地の組成とは異なる膜を意味する。
本発明では、放電管で沿面放電させて一方の極性に帯電した反応性ガスおよび中性のラジカルを含むプラズマを生成させ、他方の極性のバイアスが印加された基材と接触させるため、反応性ガスのプラズマで基材を均一に処理できる。また、真空チャンバー内に反応性ガスのプラズマを満たし、基材表面を有効に処理でき、基材の表面にヘテロ膜を形成できる。さらに、短時間で基材を処理可能であり、反応性ガスとして窒素源を用いると、窒化処理などの処理後の白層を除去するための表面研磨などの後処理を必要とせず、ヘテロ膜を均一に形成できる。さらには、反応性ガスとして安全性の高いガスを利用でき、有毒ガスなどを使用せず又は発生させることがない。また、白層の生成を抑制でき、効率よく金属基材に窒化膜を形成できる。
図1は本発明のプラズマ処理装置又はヘテロ膜形成装置の概略図である。 図2は実験例1での放電管の材質と放電電流との関係を示すグラフである。 図3は実験例2でのバイアス印加電圧と窒化膜の硬度との関係を示すグラフである。 図4は実験例3でのN2+イオン発光強度と窒化膜の硬度との関係を示すグラフである。 図5は実験例4での水素ガス含有量とN2+イオン発光強度[a.u.]との関係を示すグラフである。 図6は実験例5での印加電圧と放電圧力とN2+イオン発光強度[a.u.]との関係を示すグラフである。 図7は実験例6でのチャンバー内の温度と窒化膜の硬度との関係を示すグラフである。 図8は実験例7での窒化膜のX線回析スペクトルである。 図9は実験例7での窒化膜のX線光電子分光スペクトルである。 図10は実験例8でのプラズマ中の水素ラジカルを示す分光強度スペクトルである。 図11は実験例9でのタングステン金属表面の窒化膜のX線光電子分光スペクトルである。
以下に、図面を参照しつつ本発明を詳細に説明する。図1は本発明のプラズマ処理装置又はヘテロ膜形成装置の概略図である。
前記プラズマ処理装置は、プラズマ発生ガン1と、このガンで発生したプラズマを満たす真空チャンバー9と、この真空チャンバー内に配設され、プラズマ処理される基材11とを備えている。
前記プラズマ発生ガン1は、アルゴンガスなどのプロセスガスが導入可能なチューブ状又は管状予備室2と、この予備室2の先端部(又は下流域)に気密に装着され、高電圧がパルス状に印加可能な中空電極(筒状電極)4と、中空電極4に装着され、印加された電圧の電荷を充電可能なコンデンサ5と、前記中空電極4に底面で接して気密に延びる電気絶縁性中空放電管6と、この放電管をカバーして延びる中空保護管(石英製保護管など)7と、前記コンデンサ5を介して前記中空電極4に正極性の電圧を印加するための高電圧発生ユニット(電圧印加手段)8とを備えている。なお、コンデンサ5はアース線3により真空チャンバー9にアースされている。高電圧を中空電極4にパルスの形態で付与するため、高電圧発生ユニット(電圧印加手段)8は、矩形波生成手段(図示せず)を内部に備えている。中空電極4はアノード電極を形成する。前記中空電極4は、予備室2の先端部(又は下流域)及び放電管6の基部(底部又は上流域)に気密に装着されている。
前記予備室2の上流端のガス導入口2aには、アルゴンガスなどのプロセスガスを導入可能なラインが接続され、ガスの流量がバルブで調整されている。また、予備室2の下流端と放電管6との間には、予備室2及び放電管6よりも流路径が小さな絞り部が介在することなく、中空電極4の下流端の流路は湾曲又は傾斜して狭まって、スムースに細長い中空放電管6と接続されている。
中空電極(筒状電極)4は、ガス導入側の内径が大きく、放電管6の入口側に放電管6の内径と同じサイズかそれよりも小さいサイズの貫通孔が形成された先細状に形成されている。より詳細には、円筒状に形成された予備室2の下流域(又は下流部)の流路は、中空電極4に気密に接続されているとともに、中空電極4は、予備室2の下流域の円錐状の形態に対応して、下流方向に向かって円錐状に狭まっており、予備室2の下流域を包囲している。すなわち、前記予備室2の下流域(傾斜部)を中空電極中空筒体4が包囲している。また、中空電極4の下流域は放電管6の基部(上流域又はプラズマ導入域)3aの周囲を包囲している。
そして、電圧印加手段8により正極性の高電圧を中空電極4に印加すると、コンデンサ5に一旦充電した後、所定の充電圧に達すると、コンデンサー5からの放電が起こり3重点(トリプルジャンクション)を基点として絶縁性放電管6内で一気に沿面放電が生じ、放電管6内では真空下又は減圧下でプロセスガスが絶縁破壊(電離)してプラスに帯電したイオンおよび電子で構成されたプラズマを生成する。また、プロセスガスのプラズマ(電子及びイオン)は、放電管6の先端からが導出して、反応ガスを電離して反応性ガスのプラズマをチャンバー9内に拡散できる。
なお、放電の初期過程は、放電管内壁に沿った沿面放電として生じることが知られている。放電管6は、中空電極(アノード電極)4と接する状態で配置されており、中空電極(アノード電極)4に高電圧が印加されると、電極(導体)4/放電管6(絶縁誘電体))/真空の3点が接する点、すなわち3重点(Triple Junction)での電界のひずみと電界集中により部分放電が生じる。電子が電界にそって加速され、放電管6に向かう途中で絶縁体(放電管6壁)に衝突し、2次電子と放電管6壁に吸着された気体分子を放出し、電子の数はなだれのように増倍し、負電荷が残存する放電管6壁の表面から空間に向う電界によって、電子はますます放電管6壁を衝撃し、2次電子と気体分子の放出を助長する。これらの2次電子は表面から脱離した気体分子やプロセスガスであるアルゴン分子と衝突し、電離し、管壁でプラズマが生成すると考えられている。この過程が放電管内壁に沿って放電する沿面放電過程となる。このような過程で、放電管6の材質の誘電率及び/又は二次電子放出係数γが高いと、管壁表面の帯電状態により2次電子の発生が増加し、低電圧で高エネルギー(高い放電電流)のプラズマを生成できる。すなわち、誘電率及び/又は二次電子放出係数γが大きいと、その分、残留電荷が大きくなり、2次電子の発生が増加すると推察される。一般に沿面放電において、誘電率の高い絶縁体を用いると、印加電圧の低下が認められることから、Paschen’s lawにより印加電圧を一定とした場合、放電圧力が低下する。
絶縁性中空放電管6は、中空円筒状の形態を有しており、比誘電率が3.5を越える電気絶縁性のセラミックス(特に、二次電子放出係数γの高いセラミックス)、例えば、アルミナ、ジルコニア、チタニア、マグネシア、窒化ケイ素、窒化アルミニウム(特に、ジルコニア、チタニア、マグネシア、窒化ケイ素、窒化アルミニウム)などで形成されている。このような絶縁性中空放電管6を利用すると、沿面放電により効率よくプラズマが発生する。より詳細には、放電管6が高い比誘電率及び/又は二次電子放出係数γのセラミックスで形成されているため、管壁表面の帯電状態により二次電子の発生が増加するためか、電流値を大きくでき、プラズマの運動エネルギーを大きくできる。なお、この例では、内径2.5〜15mm(例えば、10mm)程度の放電管6を用いている。
なお、印加電圧は、圧力に応じて、放電管6内でガスをプラズマ化可能な範囲で選択でき、通常、1〜10kV程度である。電圧印加手段によるプラズマの生成について、印加電圧が高くなるにつれて、プラズマ化する圧力が低下する傾向を示す。この傾向はパッシェンの法則そのままといえる。パッシェンの法則の極小値左側の曲線の傾向である。
さらに、電圧はパルスの形態で中空電極6に付与される。電圧パルスを付与するためには、矩形波を形成して付与すればよい。
なお、放電管6には、絶縁ディスクと金属ディスクとの積層体で構成され、電子及びプラズマビームを集中させるための再集中手段を装着する必要はない。
さらに、前記プラズマ処理装置は、前記絶縁性中空放電管6及び保護管7が内部に侵入した形態で前記絶縁性中空放電管6を収容するための真空チャンバー9と、この真空チャンバー内に反応性ガス(例えば、窒素及び水素ガス)を導入するための導入路10と、この真空チャンバー9内に配設された基材(例えば、鋼などの鉄基材)11と、この基材に負極性のバイアス電圧を印するためのバイアス印加手段12と、接地してアースするための接地又はアース手段13を備えた前記真空チャンバー9と、前記真空チャンバー9内のガスを排気するための真空ポンプ(真空手段)14とを備えている。なお、バイアス印加手段12も印加の極性とは反対側の端子が接地してアースされている。
このように、中空電極4と絶縁性中空放電管6とを備えた装置において、放電管6を比誘電率及び/又は二次電子放電係数γの高い材料で形成すると、放電圧力を低下できるとともに、低電圧であっても放電電流を増加できるため、プラズマの電子の平均自由行程を長くでき、高密度及び高エネルギーのプラズマを放電管6から発生でき、1つのプラズマ発生ガン1で反応性ガスをプラズマ化(又はイオン化)して真空チャンバー9内に満たすことができる。また、中空電極4に正極性の電圧を印加し、基材11に負極性のバイアスを印加し、接地された真空チャンバー9内で、正極(プラス)に帯電(又はイオン化)した反応性ガスのプラズマを、負極(マイナス)に帯電した基材11に電気的に吸引して基材11を短時間で効率よく均一にプラズマ処理でき、基材11の表面にヘテロ膜を形成できる。基材11として鋼などの鉄基材を用い、反応性ガスとして窒素源を用いると、窒化処理後の生成した白層などの研磨、除去などの後処理を必要とせず、鉄基材11の表面に窒化鉄膜(ヘテロ膜)を均一に形成できる。さらに、反応性ガスとして安全性の高い窒素ガス及び水素ガスを利用でき、有毒ガスを発生させることもない。さらには、金属基材11に窒化膜を形成しても、白層の生成を抑制でき、効率よく金属基材11を窒化して窒化膜を形成できる。また、基材11の温度を高めることなく、種々の薄膜を形成できる。
なお、プラズマ処理装置は、ガス(プロセスガス)が導入又は流通可能な中空電極と、この中空電極に装着された電気絶縁性中空放電管と、この中空電極に正極性の電圧をパルスの形態で印加するための電圧印加手段と、真空チャンバーと、前記真空チャンバー内に配設可能な基材(反応性ガスのプラズマで処理するための基材)と、この基材に前記中空電極とは逆の極性(負極性)のバイアス電圧を印加するためのバイアス印加手段と、真空チャンバー内に反応性ガスを導入可能な導入路と、接地された真空チャンバーを真空にするための真空手段とを備えていればよく、予備室は必ずしも必要ではない。プラズマ発生ガン(プラズマ発生ユニット)は、予備室を備えていてもよく、中空電極と、絶縁性中空放電管と、前記電圧印加手段とで構成できる。真空チャンバーは前記絶縁性中空放電管の少なくとも先端部を収容する。
前記中空電極には、ガス導入ラインと流量制御弁とを備えてガス導入ユニットにより、ガスが導入可能である。中空電極(又は予備室)は、プロセスガスが流通又は導入可能であればよい。ガスとしては、慣用の成分、例えば、ヘリウム、ネオン、アルゴン、キセノンなどの不活性ガスなどの種々のガスが利用できる。ガスはこれらの成分の混合ガスであってもよい。通常、不活性ガスが利用できる。
予備室を備えた装置では、中空電極は、予備室と放電管との間に介在しており、予備室の下流域(又は下流部)に取り付けられている。また、中空電極は、円筒状、角柱状などの中空体であってもよく、中空電極(筒状電極)(又はアノードが装着される予備室の下流域)の内径は、下流方向に向かって同じ径であってもよく狭まっていてもよく、例えば、円錐状、湾曲状若しくは角錐状に狭まっていてもよい。また、中空電極は、予備室の少なくとも下流域(又は傾斜部)を包囲すればよく、予備室の下流域から放電管の上流域に跨って包囲していてもよい。なお、予備室の下流域(さらに、必要であれば放電管の上流域)の形態は、通常、中空電極の中空部の形状に対応している。
なお、中空電極(電極)には、反応性ガスの種類などに応じて、正極性又は負極性のいずれの極性の電圧を印加することも考えられるが、中空電極(電極)に印加する高電圧の極性によってプラズマの発生状態が異なる。例えば、中空電極(電極)に負極性の高電圧を印加してプラズマを発生させると、プラズマ発生ガンの前面にビーム状に伸びるプラズマが発生する場合がある。すなわち、ローカルプラズマの発生が認められる。そのため、真空チャンバー全体をプラズマ化するためには、複数のプラズマ発生ガンを並べる必要がある。オシロスコープで観察すると、中空電極(電極)に負極性の電位を与えると、殆ど電流が流れず、放電管に電荷がチャージし、そのチャージ電荷を放出する逆放電が生じ、プラズマが広く発生していることが判明した。このような観察から、逆放電を利用することなく、初めから中空電極(電極)に正電位を与えることが有利であること、特に、中空電極(電極)に印加する電圧の極性を正(プラス)電位とすると、一台のプラズマ発生ガンでチャンバーの内部全体をプラズマ化できることが判明した。中空電極(電極)を正極性にすることにより、チャンバー内壁全体が負極性のアース電位(中空電極(電極)の正電位に対して)となり、プラズマ中に存在するプラスイオンがチャンバー内壁に向かって流れやすくなり、プラスイオンがチャンバー内全体に広がったものと考えられる。そのため、中空電極(電極)を正極性化してアノード電極とすることにより、例えば、窒素ガスを反応性ガスとして利用すると、N2+イオン発光強度を基準としてプラスイオンが多数発生し、印加電圧も低下できる。
なお、中空電極(電極)には、電圧印加手段により高電圧が印加され、プラズマを生成させる。印加電圧は、中空電極内でガスをプラズマ化可能な範囲で選択でき、例えば、プラズマ処理の種類に応じて1〜100kV(例えば、2〜50kV)程度の範囲から選択でき、例えば、窒化処理では、3〜10kV、好ましくは5〜8kV程度であってもよい。
パルス化して高電圧を印加することにより、アーキングを生じることなく安定にプラズマを制御できる。例えば、電圧とパルス周波数との組み合わせによりプラズマのエネルギーを制御でき、高電圧ではパルス周波数を小さくし、低電圧ではパルス周波数を大きくしてもよい。また、短時間で基材へイオンが集中するため、基材のイオン衝撃による温度上昇を抑制でき、外部加熱により温度管理することにより、均一な温度で基材をプラズマ処理(窒化又は蒸着など)が可能である。パルス周波数は、例えば、100〜400Hz程度の範囲から選択でき、好ましくは200〜300Hz(例えば、280〜300Hz)程度であってもよい。
なお、必要によりトリガーにより放電を制御してもよい。すなわち、放電をパルス化するためのトリガー方式は、絶えずコンデンサーに充電して、トリガーの放電による電子の供給が放電の引き金となって、コンデンサーに蓄えられた電位を放電してプラズマを発生させる。しかし、トリガー方式では、トリガー用電源が必要となることに加えて、最適放電圧力でなくてもプラズマ化できるものの、圧力制御をしないと連続放電(アーキング現象)が生じやすい。そのため、設定圧力に対して最適電圧を印加して安定な放電が自然に起こり、プラズマを生成するのが好ましい。本発明では、コンデンサーに蓄えられる電位の充電・放電をパルス制御して、最適圧力で自然に放電させ、プラズマを生成させる。この放電方式は自己放電(Self-discharge)と称される。この自己放電方式では、放電した時にコンデンサーに貯められた全ての電荷が放出され、設定時間後まで充電しないため、アーク放電のように連続的な放電が生じることなく、自己放電および充電放電時間を容易に制御でき、安定にプラズマを生成できる。
絶縁性中空放電管は前記中空電極から延びており、通常、中空電極に底面で接して気密に延びており、筒状中空成形体の形態を有している。放電管の内径は、例えば、μm〜mmオーダーから選択でき、通常、5〜15mm、好ましくは7〜12mm程度であってもよい。
なお、放電管の長さは、例えば、0.5〜50mm(好ましくは1〜30mm、さらに好ましくは2〜20mm)程度の範囲から選択できる。より具体的には、マグネシアで調製した放電管の長さは、例えば、1〜20mm(例えば、1〜15mm)、好ましくは1〜10mm(例えば、2〜8mm)、さらに好ましくは1〜5mm(例えば、2〜4mm)程度であってもよい。なお、放電管の長さは中空電極(電極)から延出する長さを意味する。
絶縁性中空放電管の比誘電率及び/又は二次電子放出係数γを大きくすると、管内壁での帯電の減衰時間が長くなるため、残留電荷が大きくなり沿面放電が強く生じ、放電電圧を低下させる。放電電圧は、通常、1kV以上であり、例えば、放電電圧2〜8kV(好ましくは3〜6kV、さらに好ましくは4〜6kV)程度であってもよい。なお、放電電圧と放電圧力との関係は、通常、パッシェン則(Paschen's law)に従っている。
前記絶縁性中空放電管は、沿面放電によりプラズマを発生可能であればよく、沿面放電を生じさせ、放電圧力を低下しつつ放電電流を大きくするため、3.5を超える比誘電率、例えば、誘電率が3.5を越え150以下(例えば、5〜100)、好ましくは7〜50(例えば、8〜25)、さらに好ましくは8〜15(例えば、8〜13)程度の材料で形成してもよく、比誘電率が9を超える材料(例えば、比誘電率が9.5以上の材料)で形成してもよい。なお、直流パルスの電圧を印加するため、上記比誘電率は周波数に依存しない。また、絶縁性中空放電管は、電気絶縁性であり、電気抵抗率10Ωcm以上(例えば、1010〜1018Ωcm、好ましくは1011〜1017Ωcm、さらに好ましくは1012〜1016Ωcm程度)の材料で形成されている。
さらに、絶縁性中空放電管は、沿面放電を生じさせるために有効に作用する放電管の帯電を維持するために表面帯電が大きい方が沿面放電に有利である。そのため、絶縁性中空放電管は、表面帯電密度式 Q(t)=Qexp(−t/τ)
(式中、Qは帯電電荷密度、Qは初期帯電電荷密度、tは時間を示し、τは減衰時定数を示す)
において、減衰時定数τの大きな材料で形成されている。減衰時定数τは、絶縁物の誘電率εと導電率(抵抗率)ρとの積τ=ε・ρで近似され、誘電率、抵抗率が大きな絶縁物である程、表面が帯電して減衰するまでに時間がかかり、残留電荷が大きくなり沿面放電が強く起こる。放電管材質の選定基準として比誘電率と抵抗率との積τが、例えば、1×1012〜1×1017Ωcm(例えば、5×1012〜5×1016Ωcm)、好ましくは1×1013〜1×1016Ωcm、さらに好ましくは5×1013〜5×1015Ωcm程度の絶縁体を使用する場合が多い。
また、沿面放電を安定かつ効率よく生成させるため、放電管を形成する絶縁材料の二次電子放出係数γは、1以上(例えば、1.5〜20)、好ましくは2〜15(例えば、2.5〜12)、さらに好ましくは3以上(例えば、3〜10)、特に4〜8(例えば、5〜8)程度であってもよく、5以上(例えば、5〜10)であってもよい。二次電子放出係数γの大きな絶縁材料で放電管を形成すると、絶縁体表面に電子が衝突することにより、電子が誘引され、二次電子の放出を増大できる。二次電子放出係数γは「電子・イオンビームハンドブック」((株)日刊工業新聞社、1986年9月発行)を参照でき、特許文献に記載の値も参照できる。
さらに、放電管の消耗を低減するため、放電管は高融点、例えば、用途に応じて、融点1500〜3300℃(例えば、1750〜3200℃)、好ましくは1800〜3100℃(例えば、2000〜2950℃)、さらに好ましくは2100〜3000℃(例えば、2300〜2900℃)程度の材料で形成するのが好ましい。
より具体的には、絶縁性中空放電管は、セラミックス又はガラスで構成又は形成されている。セラミックス及びガラスとしては、例えば、酸化物セラミックス(石英又はシリカ、アルミナ、シリカ・アルミナ、イットリア、ジルコニア、マグネシア、チタニア、ムライト、ベリリア、又はこれらの複合酸化物など)、非酸化物セラミックス(窒化ホウ素、窒化炭素、窒化ケイ素、サイアロン、窒化アルミニウム、窒化チタン、窒化ジルコニウムなどの窒化物;ホウ化チタン、ホウ化ジルコニウムなどのホウ化物)などが例できる。好ましいセラミックスは、高融点で比誘電率及び/又は二次電子放出係数γの高いセラミックス、例えば、酸化物セラミックス(アルミナ、ジルコニア、ベリリア、マグネシア、チタニア、又はこれらの金属酸化物を含む複合酸化物など)、金属窒化物(窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化チタンなど)、金属ホウ化物(ホウ化チタン、ホウ化ジルコニウム、又はこれらの金属酸化物を含む複合酸化物など)などである。特に、融点、比誘電率及び/又は二次電子放出係数γの高いセラミックス、例えば、酸化物セラミックス(ジルコニア、ベリリア、マグネシア、又はこれらの金属酸化物を含む複合酸化物など)、金属窒化物(窒化アルミニウムなど)などが好ましい。特に、低電圧で高密度及び高エネルギー(高い放電電流)のプラズマを生成できるマグネシアが好ましい。
なお、保護管は必ずしも必要ではない。保護管は、放電管からのプラズマが放出可能な形態で放電管を保護できればよく、通常、中空筒状の形態で、放電管の先端部よりも真空チャンバー内に延びている。
なお、真空チャンバーの温度により、プラズマ処理効率(例えば、窒化膜の硬度)が変動する場合がある。真空チャンバー内の温度は、プラズマ処理の種類に応じて、100〜1000℃、好ましくは200〜800℃、さらに好ましくは300〜700℃程度の範囲から選択できる。高速度鋼の窒化処理において、硬度1050Hv以上の窒化膜を形成するためには、真空チャンバーの温度は、例えば、470〜560℃、好ましくは480〜550、さらに好ましくは490〜530℃程度であってもよい。
真空チャンバーの圧力もプラズマ処理の種類に応じて、0.01〜50Pa、好ましくは0.1〜20Pa、さらに好ましくは1〜10Pa程度の範囲から選択できる。鉄系基材(例えば、高速度鋼)の窒化処理において、N2+イオンが多量発生する圧力領域(安定して窒化処理できる圧力範囲)が存在する。例えば、1500以上のN2+イオンの分光強度[a.u.]を示す圧力は、例えば、1〜10Pa(例えば、2〜7Pa)、好ましくは3〜6Pa(例えば、3〜5Pa)程度である。N2+イオン発光強度は窒化膜の硬度に影響を及ぼし、例えば、硬度900Hv以上の窒化膜を形成するためには、N2+イオン発光強度[a.u.]は、例えば、2000〜3500、好ましくは2200〜3300、さらに好ましくは2300〜3000程度である。
さらに、本発明では、1つのプラズマ発生ガンによりチャンバー内にプラズマを充満できる。そのため、プラズマ処理装置は、真空チャンバー当たり少なくとも1つのプラズマ発生ガンを備えていればよく、必要により複数のプラズマ発生ガンを備えていてもよい。例えば、放電管による放電容量、チャンバーの容量などによっては、1つのプラズマ発生ガンを真空チャンバーの最上部に配置し、上部、中央部、及び下部のそれぞれの発光強度(イオン強度)を測定すると、プラズマ発生ガンから遠ざかるにつれて発光強度(イオン強度)が低下する場合がある。例えば、容積の大きなチャンバーでは、プラズマ発生ガンの近傍と下部とでイオン強度に10〜20%の差が生じ、上部と下部とでイオン強度に5〜15%の差が生じる場合がある。このような場合、複数のプラズマ発生ガンを真空チャンバーの適所に配置すると、チャンバー内のイオン発光強度を均一化できる。複数のプラズマ発生ガンは、例えば、真空チャンバーの下部、上部及び下部、両側部などに、縦方向又は横方向に位置をずらして配置してもよく、対向して配置してもよい。
真空チャンバーはアース手段により接地してアースされる。真空チャンバー内に導入される反応性ガスの種類は真空チャンバー内で気化可能であれば特に制限されず、気体状に限らず、加熱により気化が可能な液体であってもよい。反応性ガスは、通常、水素、酸素、窒素、硫黄、ケイ素、及びホウ素から選択された少なくとも一種の元素を含むガスである場合が多い。反応性ガスとしては、例えば、窒素;水素;炭化水素(メタン、エタン、プロパンなどの脂肪族炭化水素(アルカン類)ガス、シクロヘキサンなどの脂環族炭化水素ガス、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素(アレーン類)ガスなど);酸素、空気;一酸化炭素、二酸化炭素、二酸化窒素、二酸化硫黄;アンモニア;アミン類(メチルアミン、トリメチルアミンなど);シラン(ハロシラン、メチルシランなど);ボロンなどが例示できる。これらの反応性ガスは単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
これらの反応性ガスは、プラズマ化(ラジカル化、イオン化)して活性な反応種を形成する。例えば、窒素による窒素プラズマ(又は窒素イオンプラズマ、窒素ラジカルプラズマ)、水素による水素プラズマ(Hα、Hβで代表される水素ラジカルプラズマ)、炭化水素による炭素化のための炭素プラズマ、シランガスによるシリコンプラズマなどを形成できる。そのため、プラズマCVD装置としても利用できる。
窒化膜を形成する場合、好ましい反応性ガスは少なくとも窒素を含み、窒素及び水素を含む場合が多い。なお、窒化処理では、窒素に対して水素の割合を90〜50容積%程度とするのが一般的であり、多くの水素により窒素分子の電離が促進されるとされている。しかし、多量の水素は、逆に窒素の割合を低減し、窒素イオンの存在割合を低下させ、窒化反応時間が長くなる。これに対して、沿面放電を利用する本発明では、水素の割合が小さい方が窒素分子の電離が促進されるようである。窒素ガスと水素ガスとの割合(温度20℃での容積割合)は、前者/後者=50/50〜100/0、好ましくは55/45〜99/1、さらに好ましくは60/40〜98/2(例えば、70/30〜95/5)程度である。なお、水素の含有量の下限値は、理論的には0%であってもよいが、チャンバー内に存在する他の成分による悪影響(例えば、酸素による基材の酸化など)を低減するため、このような悪影響を回避するための少なくとも最少量(又は有効量)の水素ガスを含む場合が多い。
なお、反応性ガスは、真空チャンバー内に導入できればよく、プロセスガスともに予備室のガス導入口(又は導入路)2aから導入してもよいが、中空電極中空筒体及び放電管との反応を抑制するため、真空チャンバーの適所に形成した導入路10から導入するのが好ましい。
前記真空チャンバー内に配設された基材の種類はプラズマ処理可能であれば特に制限されず、例えば、プラスチック、金属、セラミックスなどであってもよい。基材は、通常、無機基材(例えば、金属又はセラミックス)である。金属としては、例えば、鉄(Fe)、クロム(Cr)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、シリコン(Si)、アルミニウム(Al)、タングステン(W)、銅などが例示でき、金属は合金(ステンレススチール、鋼など)であってもよい。セラミックスとしては、酸化物セラミックス及び非酸化物セラミックス、例えば、石英などのガラス、アルミナ、チタニア、ジルコニアなどの酸化物セラミックス、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化チタン、炭化タングステン、窒化ホウ素などの窒化物、炭化ケイ素、炭化アルミニウムなどの炭化物;ホウ化チタン、ホウ化ジルコニウムなどのホウ化物などが例示できる。基材は、ドリル刃、切削刃などの加工工具であってもよい。本発明では、鉄系基材も含め、タングステンなどの他の金属種の表面処理に適している。
前記基材には、必要により、バイアス印加手段により、前記中空電極とは逆の極性(負極性)のバイアス電圧が印加される。すなわち、前記中空電極に正極性の電圧を印加し、基材には負極性のバイアス電圧が印加される。基材に負のバイアス電位を印加することにより、プラズマ中の正イオン(窒化プラズマの場合、N、N2+などの正イオン)を基材へ吸引でき、プラズマ処理効果を高めることができる。さらに、中空電極に正極性の高電圧を印加すると、基材が浮遊電位としてプラス帯電(チャージ)する可能性があるため、このプラス帯電を相殺できるマイナスのバイアス電位を基材に印加するのが重要である。例えば、バイアス電圧を印加しない場合、基材の浮遊電位は約+25V程度であり、浮遊電位を相殺するには、バイアス電位として−25V以上が必要である。また、プラズマ処理(例えば、高速度鋼の窒化処理)によっては、バイアス電位により基材(高速度鋼)の硬度が変化する場合がある。そのため、1000Hv以上の硬度とするには、バイアス電位の下限値は、−250V程度であることが実験により確かめられた。窒化処理において、バイアス電位は、−250V〜−25V(例えば、−200V〜−50V)、好ましくは−150V〜−50V(例えば、−120V〜−60V)程度であってもよい。
なお、バイアス電位の印加は、正イオンと基材表面との反応を期待する場合には有用であり、プラズマCVDなどのように、チャンバー内の気相で反応させる場合は、基材のバイアス電位を印加する必要がない。なお、プラズマCVDであっても基材表面で反応させる場合、バイアス電位の印加は有用である。
本発明では、真空チャンバー内で発生した反応性ガスのプラズマで基材を処理して(又はプラズマと基材とを接触させて)基材表面にヘテロ膜(例えば、硬質ヘテロ膜)を形成できる。例えば、真空チャンバー内で発生した窒素プラズマで処理して金属又はセラミックス基材の表面に窒化膜(硬質ヘテロ膜)を形成できる。なお、ヘテロ膜(窒化膜)の生成は、XRD分析、XPS分析により確認でき、本発明では、窒化処理しても「白層」と称されるFe2−3N化合物が生成しない。また、窒化膜の形成により硬度も向上する。しかも、この硬度は、N2+イオン発光強度と関係しているとともに、温度によってもコントロールできる。そのため、反応性ガスのプラズマの生成条件(印加電圧、バイアス印加電圧、反応性ガスの組成、温度など)により、窒化膜による硬度を精度よくコントロールできる。
本発明は、基材の表面にヘテロ膜が形成された部材、例えば、工具なども包含する。窒化膜を形成する場合、切削刃を形成する基材を金属又はセラミックスで構成し、窒素及び水素を含む反応性ガスを用い、基材の表面に窒化膜が形成された切削刃を得てもよい。
また、反応性ガスのプラズマだけでなく、イオン化又はラジカル化した反応性ガスのプラズマも生成できる。例えば、窒素ガスを用いると、Nイオン、N2+イオンなどを生成でき、水素ガスを用いると、水素ラジカル(Hα、Hβなど)を生成でき、基材と反応させることができる。そのため、基材表面に反応性ガスとのヘテロ膜を形成できる。
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
実験例1
図1に示す装置を用いた。この装置において、中空電極にパルス化した高電圧を印加したときに放電によって発生する電流値を測定し、放電管の材質による電流値の相違を調べた。同一電圧の印加で発生する電流値が大きい方が2次電子の発生が多く、沿面放電で使用するのに適した放電管を構成する材料となる。沿面放電の原理から正極性、負極性共に2次電子放出係数の大きい材料であれば電流値が大きくなることから、この実験では、負極性の高電圧を用いた。高電圧をパルスで中空電極に印加し、放電の繰り返し数(パルス)を4Hzとした。プロセスガスとしてアルゴン(純度99.999%)、反応性ガスとして窒素ガス及び水素ガス(窒素/水素=97.5/2.5(v/v%))を用い、放電管(内径φ3mm、外径φ6mm、長さ158mm)として、石英(SiO)製放電管とアルミナ(Al)製放電管とマグネシア(MgO)製放電管とをチャンバーの上部中央に設置した。チャンバーの真空到達度は5x10−4Paであった。中空電極に負極性の電圧3〜16kVを印加し、チャンバーをアースし、発生したプラズマでの印加電圧と放電電流との関係を調べた。
結果を図2に示す。図2に示すように、実験した範囲において、マグネシアを放電管に用いたとき大きな放電電流が得られたことから、マグネシアでは2次電子発生が多く沿面放電に適した材質であることが分かる。
実験例2
実験例1において、沿面放電に用いる最適な放電管材料として選ばれるマグネシア(MgO)製放電管(内径φ10mm、外径φ15mm、長さ3mm。但し、中空電極に埋設固定される部分の長さが20mmであり、中空電極の先端から突出した部分の長さが3mmである)を用い、中空電極にパルス300Hzで正極性の電圧5kVを印加し、基材(高速度鋼 SKH51、20mmX20mmX5mm)にバイアス電圧0〜−250Vを印加し、温度500℃、窒化時間4時間として試験したところ、図3に示す結果を得た。
図3からバイアス印加電圧により窒化膜の硬度が変化し、1000Hv以上の硬度とするためには、バイアス印加電圧−25V〜−250V程度が適している。なお、基材の浮遊電位を0V以下にするためには、バイアス印加電圧−25V以下が必要であり、バイアス電圧−25V以下で基材を負極性に帯電できた。
実験例3
中空電極にパルス300Hzで正極性の電圧3〜6kVを印加し、発生したプラズマ中のN2+イオン発光強度を測定するとともに、基材硬度を測定し、両者の関係を求めた。基材にはバイアス電圧−120V(一定)を印加するとともに、温度500℃、窒化時間4時間とした。図4に示すように、硬度900Hv以上とするためには、N2+イオン発光強度[a.u.]が2000以上(上限が明確ではないものの、図4からすると、2000〜3500程度)とする必要があるようである。
実験例4
中空電極にパルス300Hzで正極性の電圧5kVを印加し、基材にバイアス電圧−120Vを印加するとともに、反応性ガスとしての窒素ガスと水素ガスとの割合を変える以外、実験例2と同様にして、水素ガス含有量とN2+イオン発光強度[a.u.]との関係を調べたところ、図5に示す結果を得た。図5から、N2+イオン発光強度[a.u.]を2000以上とするためには、水素ガス含有量を0〜40(vol%)程度とする必要がある。
実験例5
中空電極にパルス300Hzで正極性の電圧3〜5kVを印加するとともに、それぞれの印加電圧に応じて安定に放電する圧力に調整し、その時発生するプラズマ中のN2+イオン発光強度を測定した。基材にバイアス電圧−120Vを印加するとともに、実験例2と同様にしてN2+イオン発光強度[a.u.]との関係を調べたところ、図6に示す結果を得た。図6から高い発光強度[a.u.]を得るためには3.5〜5Pa程度が適しており、印加電圧が大きくなるにつれて、発光強度[a.u.]も大きくなる。
実験例6
中空電極にパルス300Hzで正極性の電圧5kVを印加し、基材にバイアス電圧−120Vを印加するとともに、チャンバー内部をヒーターにより加熱してチャンバー内の温度を代える以外、実験例2と同様にして、チャンバー内の温度と窒化膜の硬度との関係を調べた。図7に示されるように、硬度1000Hv以上の窒化膜を得るためには、465〜560℃程度が適しており、温度490〜530℃程度の範囲に硬度のピークがみられる。
実験例7
中空電極にパルス300Hzで正極性の電圧5kVを印加し、基材にバイアス電圧−120Vを印加する以外、実験例2と同様にして窒化膜を形成し、生成した窒化膜をXRD(X線回析)、XPS(X線光電子分光)により分析した。なお、対照として、高速度鉄鋼SKH51を用いた。結果を図8(X線回析スペクトル)及び図9(X線光電子分光スペクトル)に示す。図8及び図9から、白層(FenN化合物)は認められなかった。
実験例8
加する以外、実験例2反応ガスとして水素ガスを用いて、中空電極にパルス300Hzで正極性の電圧5kVを印加し、基材にバイアス電圧−120Vを印と同様にしてプラズマを生成させ、プラズマ中の水素ラジカルの分光強度スペクトルを測定した(測定装置など)。図10に示すように、水素ラジカル(Hα、Hβ)の発光が認められ、プラズマCVDに利用できることが示された。
実験例9
中空電極にパルス300Hzで正極性の電圧5kVを印加し、基材にバイアス電圧−120Vを印加し、基材をタングステンとする以外、実験例2と同様にして窒化処理し、XPS(X線光電子分光)により分析した。図11に示されるように、窒化タングステンのピークが認められ、鉄系基材だけでなく、タングステン基材も窒化できる。タングステン金属は、空気中の酸素と反応して表面に酸化タングステンを生成しやすく、本実験でも分析の結果、酸化タングステンのピークが認められた。しかし、窒化された窒化タングステンの表面の分析により酸化タングステンのピークが検出されていない。このことは、本発明では、窒化に伴って表面の酸化膜がN2+イオンによりエッチングされた効果によると思われる。
本発明は、鉄系基材などの基材の表面処理に利用でき、硬質膜(窒化膜など)を形成するのに有用である。
1…プラズマ発生ガン
2…予備室
2a…ガス導入口
4…中空電極
5…コンデンサ
6…放電管
8…電圧印加手段
9…真空チャンバー
10…導入路
11…基材
12…バイアス印加手段
13…アース手段
14…真空手段

Claims (13)

  1. プロセスガスが流通可能であり、かつパルス化した電圧を印加可能な中空電極と、この中空電極から延びる電気絶縁性中空放電管と、この電気絶縁性中空放電管を収容するための真空チャンバーと、この真空チャンバー内に反応性ガスを導入するための導入路と、前記真空チャンバー内に配設され、かつ発生した反応性ガスのプラズマで処理するための基材と、前記真空チャンバー内のガスを排気するための真空手段とを備えた装置であって、前記中空電極に正極性の前記電圧をパルスの形態で印加するための電圧印加手段と、接地された真空チャンバーを備え、前記絶縁性中空放電管が、沿面放電によりプラズマを発生可能な材料で形成されているプラズマ処理装置。
  2. 基材に中空電極とは逆の極性(負極性)のバイアス電圧を印加するためのバイアス印加手段を備えている請求項1記載のプラズマ処理装置。
  3. 電気絶縁性中空放電管が、下記(1)〜(3)のいずれかの材料で構成された筒状中空成形体である請求項1又は2に記載のプラズマ処理装置。
    (1)比誘電率が3.5以上を越え、二次電子放電係数γが1以上であるセラミックス又はガラス;
    (2)比誘電率が9を超え、二次電子放電係数γが3以上であるセラミックス又はガラス;
    (3)比誘電率が9.5以上、二次電子放電係数γが5以上のセラミックス
  4. 中空電極がコンデンサを備えている請求項1〜3のいずれかに記載のプラズマ処理装置。
  5. 基材が金属又はセラミックスであり、反応性ガスが、水素、酸素、窒素、硫黄、ケイ素、及びホウ素から選択された少なくとも一種の元素を含むガスである請求項1〜4のいずれかに記載のプラズマ処理装置。
  6. 真空チャンバー内で発生した反応性ガスのプラズマで処理して基材表面にヘテロ膜を形成する請求項1〜5のいずれかに記載のプラズマ処理装置。
  7. 反応性ガスが少なくとも窒素を含み、真空チャンバー内で発生した窒素プラズマで処理して金属又はセラミックス基材の表面に窒化膜を形成する請求項1〜6のいずれかに記載のプラズマ処理装置。
  8. 中空電極に正極性の電圧を印加するための電圧印加手段と、基材に負極性のバイアス電圧を印加するためのバイアス印加手段とを備え、反応性ガスが、窒素及び水素を含む請求項1〜7のいずれかに記載のプラズマ処理装置。
  9. 真空下、プロセスガスが流通可能な中空電極に電圧を印加し、前記中空電極から延びる電気絶縁性中空放電管内でプロセスガスをプラズマ化して、接地された真空チャンバー内に導入された反応性ガスをプラズマ化し、前記真空チャンバー内に配設された基材とプラズマとを接触させ、前記基材表面がプラズマ処理された部材を製造する方法であって、前記中空電極に正極性の前記電圧をパルスの形態で印加し、前記絶縁性中空放電管を、沿面放電によりプラズマを発生可能な材料で形成し、真空チャンバー内で、前記基材の表面に反応性ガスのプラズマによるヘテロ膜を形成し、部材を製造する方法。
  10. 基材に中空電極とは逆の極性のバイアス電圧を印加する請求項9記載の方法。
  11. 絶縁性中空放電管を、比誘電率が9を超え、二次電子放電係数γが3以上であるセラミックスで形成し、基材に硬質ヘテロ膜を形成する請求項9又は10記載の方法。
  12. 請求項9〜11のいずれかに記載の方法で表面にヘテロ膜が形成された基材。
  13. 金属又はセラミックスで構成され、切削刃を形成する基材と、窒素及び水素を含む反応性ガスとを用い、請求項9〜11のいずれかに記載の方法で表面に窒化膜が形成された切削刃。
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