以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。本発明の実施形態は図示の内容を含むがこれのみに限定されるものではない。以下の説明では、各図で示した共通部位について同一符号を付して重複説明を一部省略する。
図1は本発明の一実施形態に係る有機EL装置或いは有機光電変換装置の特徴部を示した説明図である。ここでの有機EL装置は、ディスプレイ、照明等の発光機能を有する装置であり、有機光電変換装置は、受光機能を有する装置である。本発明の実施形態に係る有機EL装置或いは有機光電変換装置は、基板上に少なくとも一つの有機EL素子1A又は有機光電変換素子1Bを備えている。
図1(a)は本発明の第1の実施形態を示している。この実施形態は、有機EL素子1A又は有機光電変換素子1Bが、基板2、金属膜3、保護膜4、透明導電膜5、有機膜6、導電膜7を備えている。また、有機EL素子1Aの発光領域S或いは有機光電変換素子1Bの受光領域S1を画定して隣接する透明導電膜5間を絶縁するために絶縁膜8を備えている。
金属膜3は基板2の上方に直接又は他の層を介して積層されて光半透過性を有する。すなわち、金属膜3は光を一部透過する機能と光を一部反射する機能を共に有する。金属膜3に光半透過性を持たせるためには膜厚を薄くすることが必要になる。例えば、金属膜3の厚さは、光の反射率と透過率の割合が略等しくなるように設定される。一例を上げると金属に銀を用いた場合には、銀の膜厚が約15nmで反射率50%程度、透過率45%程度になる。金属にアルミニウムを用いた場合には、アルミニウムの膜厚が約5nmで反射率50%程度、透過率40%程度になる。
保護膜4は、金属膜3上に積層された光透過性を有する膜であり、薄く成膜された金属膜3を保護する機能を有する。保護膜4は保護機能を確保するためには薄く成膜した金属膜3より膜厚を大きくすることが好ましい。保護膜4の材料は、光透過性を有する導電性膜又は絶縁性膜を形成できる材料であればよく、IZO(Indium Zinc Oxide:インジウム−亜鉛酸化物(In2O3−ZnO))、アモルファスITO(Indium Tin Oxide:スズ添加酸化インジウム(In2O3:Sn))等を用いることができる。保護膜4は、金属膜3と同工程で略同一パターンに形成されるので、同一のエッチング液を使用した場合のエッチングレートが金属膜3に近いものが好ましい。
透明導電膜5は、保護膜4上に積層されて金属膜3と保護膜4の両側面を覆うように形成される。透明導電膜5は有機EL素子1A或いは有機光電変換素子1Bの基板2側の電極(下部電極)を形成するものであり、金属膜3と保護膜4の両側面を覆い且つ保護膜4上を完全に覆うためには、透明導電膜5の膜厚は金属膜3と保護膜4の合計膜厚より大きいことが好ましい。透明導電膜5の材料としては、ITO(Indium Tin Oxide:スズ添加酸化インジウム(In2O3:Sn))、IZO(Indium Zinc Oxide:インジウム−亜鉛酸化物(In2O3−ZnO))、酸化亜鉛(ZnO)等を用いることができる。
有機膜6は、透明導電膜5上に積層された有機材料の層であって発光又は受光機能を有する層を含むものである。有機EL素子1Aの有機膜6としては、正孔注入・輸送層、発光層、電子注入・輸送層等によって構成される。有機膜6の上には光反射性の導電膜7が積層されている。導電膜7にはアルミニウム等を用いることができ、高い反射率を得るために所望の膜厚に成膜される。導電膜7は有機EL素子1A或いは有機光電変換素子1Bの基板2とは逆側の電極(上部電極)を構成している。
有機EL素子1Aは基板2を介して光が放出される発光領域Sを有しており、有機光電変換素子1Bは基板2を介して光を取り込む受光領域S1を有している。そして、金属膜3は発光領域S或いは受光領域S1の全域を占めるように積層されている。金属膜3が発光領域S或いは受光領域S1の全域を占めるように積層されていることで、有機EL素子1Aにおいては一つの発光領域S内から均一な面発光を得ることができ、有機光電変換素子1Bにおいては一つの受光領域S1内から均一な光を取り込むことができる。発光領域S又は受光領域S1は、透明導電膜5の縁部を覆って基板2上に形成される絶縁膜8のパターンによって画定されている。
有機EL素子1Aでは、保護膜4の膜厚と保護膜4上の透明導電膜5の膜厚と有機膜6の膜厚による光学的距離の合計値が有機膜6から発光する光のピーク波長の半波長の整数倍になっている。また、有機光電変換素子1Bでは、保護膜4の膜厚と透明導電膜5の膜厚と有機膜6の膜厚による光学的距離の合計値が受光する光のピーク波長の半波長の整数倍になっている。
ここでの光学的距離の合計値d0とは、図示の距離dが保護膜4の膜厚d1,透明導電膜5の膜厚d2,有機膜6の膜厚d3からなる場合(d=d1+d2+d3)は、各層の屈折率をn1,n2,n3とすると、d0=n1・d1+n2・d2+n3・d3となる。d0=m・λ/2(λ:ピーク波長,m:整数)であるときに光学微小共振(マイクロキャビティ)構造が得られ、有機EL素子1Aとしては特定の波長λの光を強めて外部に取り出すことができ、有機光電変換素子1Bとしては特定の波長λを選択的に受光することができる。
この際、金属膜3上を保護膜4で覆っているので、光半透過性を得るために薄い膜厚に形成された金属膜3を素子形成工程において保護することでき、更には、金属膜3が発光領域S或いは受光領域S1の全域を占めるように積層されているので、金属膜3の光反射性を発光領域S或いは受光領域S1の全域で均一に確保することができ、光学微小共振(マイクロキャビティ)構造を発光領域S或いは受光領域S1の全域で精度良く形成することができる。
有機EL素子1A或いは有機光電変換素子1Bを備える有機EL装置或いは有機光電変換装置の製造方法を以下に説明する。基板2の上方に光半透過性の金属膜3を成膜すると共に金属膜3上に保護膜4を成膜する工程と、金属膜3と保護膜4を同時にパターン形成する工程と、保護膜4上に保護膜4と金属膜3の両側面を覆うように透明導電膜5を成膜して、透明導電膜5のパターン形成を行う工程と、透明導電膜5上に有機膜6を積層する工程と、有機膜6上に光反射性の導電膜7を積層する工程とを有する。そして、有機EL素子1Aは基板2を介して光が放出される発光領域Sを有し、金属膜3は発光領域Sの全域を占めるように積層されている。また、有機光電変換素子1Bは基板2を介して光を取り込む受光領域S1を有し、金属膜3は受光領域S1の全域を占めるように積層されている。
この製造方法では、金属膜3を成膜した後、その上に保護膜4を成膜して、金属膜3と保護膜4を同時にパターン形成する。これによって、金属膜3は以後の工程で常に保護膜4に覆われていることになり、光半透過性を得るために薄膜に形成された金属膜3が以後の工程でダメージを受けることを抑止することができる。金属膜3と保護膜4の両側面を覆うように成膜される透明導電膜5は、そのパターン形成時には透明導電膜5の単一材料層に対してパターン形成がなされることになる。これによって、透明導電膜5は異種金属のエッチング速度の違いによるパターンの乱れが生じることが無く、一工程で所望のエッチングプロファイルを得ることができる。ウエットエッチングによってこのようなパターン形成を実行するためには、金属膜3のエッチングレートは同一のエッチング液を使用した場合における保護膜4のエッチングレートと等しいかそれ以上であり、保護膜4のエッチングレートは透明導電膜5のエッチングレート以上であることが好ましい。
図1(b)は本発明の第2の実施形態を示している。この実施形態は、前述した第1の実施形態(図1(a))と同様に、有機EL素子1A又は有機光電変換素子1Bが、基板2、金属膜3、保護膜4、透明導電膜5、有機膜6、導電膜7を備えている。前述した第1の実施形態と同一部位は同一符号を付して重複説明を省略する。この第2の実施形態は、透明導電膜5が透明導電膜5Aと透明膜5Bを備えていることで第1の実施形態と異なる。図示の例では、透明膜5Bが基板2上に形成され、透明膜5B上に光半透過性の金属膜3が積層され、金属膜3の上に保護膜4が積層され、金属膜3と保護膜4の両側面を覆うように保護膜4上に透明導電膜5Aが積層されている。
ここでは、透明導電膜5Aと透明膜5Bとが合わさって有機EL素子1A又は有機光電変換素子1Bの基板2側の電極(下部電極)を構成していることになり、透明導電膜5Aと透明膜5Bからなる透明導電膜5の内部に金属膜3と保護膜4が形成されている。透明膜5Bは導電性を有していることが好ましく、透明導電膜5Aと透明膜5Bは同じ材料で構成することが好ましい。透明導電膜5Aと透明膜5Bを同じ材料で構成することで、透明導電膜5Aと透明膜5Bを同時にパターン形成する場合のパターンの乱れを抑止できる。
この実施形態においても、有機EL素子1Aにおいては、保護膜4の膜厚と保護膜4上の透明導電膜5の膜厚と有機膜6の膜厚による光学的距離の合計値は、有機膜6から発光する光のピーク波長の半波長の整数倍になっており、有機光電変換素子1Bにおいては、保護膜4の膜厚と保護膜4上の透明導電膜5の膜厚と有機膜6の膜厚による光学的距離の合計値は、受光する光のピーク波長の半波長の整数倍になっている。これによって、第2の実施形態における有機EL素子1A或いは有機光電変換素子1Bは、第1の実施形態と同様の光学微小共振(マイクロキャビティ)構造を具備している。
以下に、本発明の実施形態に係る有機EL装置の一例となる有機ELパネルを具体的に説明する。
図2は本発明の一実施形態に係る有機ELパネルの断面構造を示す説明図である。図2(a)は有機EL素子の断面構造を示しており、図2(b)は複数の有機EL素子を含む有機ELパネルの断面構造を示している。
有機ELパネル100は、基板10上に少なくとも一つの有機EL素子1を形成したものである。有機EL素子1は、基板10側から順次、下部電極11、発光層12Aを有する有機膜12、上部電極13を積層して形成され、下部電極11は光半透過性の金属膜11Bと光透過性の保護膜11Cとを覆う透明導電膜11Aによって構成され、上部電極13は光反射性の導電膜によって構成されている。
下部電極11は、設定された幅W1にパターン形成された透明導電膜11Aを有すると共に、透明導電膜11Aの内部に、全周面が透明導電膜11Aに覆われて透明導電膜11Aの幅より狭い幅W2にパターン形成された金属膜11Bと保護膜11Cが形成されている。
図示の例では、基板10上に直接、下部電極11、有機膜12、上部電極13が積層されているが、機能的な或いは膜厚制御のための他の層を各層間に介在しても良い。基板10が透光性を有し、金属膜11Bが半透光性を有することで基板10側から光を出射させる方式(ボトムエミッション方式)になっている。
図2(a)に示した有機EL素子1は、下部電極11と上部電極13との間に印加された電圧によって発光層12Aから発生した光が金属膜11Bの上面と上部電極13の下面との間で反射を繰り返し、金属膜11Bの上面と上部電極13の下面との間の距離dが必要な条件を満たすときに、光学微小共振(マイクロキャビティ)構造となり、特定波長の光を強めて外部に取り出すことができる。光学微小共振構造を得るためには、金属膜11Bの上面と上部電極13の下面との間の光学的距離d0が、発光層12Aから発生する光のピーク波長の半波長の整数倍であることが必要になる。ここでの光学的距離sとは、図示の距離dが屈折率の異なる複数の層(層厚d1,d2,d3…)からなる場合は、各層の屈折率をn1,n2,n3,…とすると、s=n1・d1+n2・d2+n3・d3+…となる。d0=m・λ/2(λ:ピーク波長,m:整数)であるとき光学微小共振構造が得られる。
ここで、有機EL素子1は、下部電極11における透明導電膜11Aの幅W1と金属膜11B及び保護膜11Cの幅W2の関係がW1>W2となっており、透明導電膜11Aに金属膜11B及び保護膜11Cの全周面が覆われた状態になっている。これによって、下部電極11を最終的にパターニングする際には、透明導電膜11Aの層をパターニングすれば良く、異種金属層をエッチングする場合のエッチング速度の違いによるパターンの乱れなどによって良好なエッチングプロファイルが得られないという不具合が生じない。また、金属膜11Bや保護膜11Cを有していても、下部電極11のパターン形状は透明導電膜11Aのパターニングによって決まるので、高精度のパターン形成を行うことができる。更には、金属膜11Bは一般的にガラス基板との密着性が良くない傾向があるが、本発明の実施形態のように透明導電膜11Aの内部に金属膜11Bを配置することで、下部電極11と基板10との良好な密着性を得ることができる。
下部電極11は、金属膜11B上に積層される保護膜11Cと透明導電膜11Aの厚さを調整することで、前述した光学的距離d0を調整することができる。透明導電膜の厚さを増加又は減少させた場合に、それに応じて透明膜の厚さを減少又は増加させることで、光学的距離d0を調整した場合であって下部電極11の厚さ全体を一定に維持することができ、下部電極11の電気抵抗を変えることなく光学的距離d0の調整を行うことができる。
図2(b)に示すように前述した有機EL素子1を複数備えた有機ELパネル100は、複数の下部電極11間の電気的絶縁性を確保するために絶縁膜14を備えている。一例としては、下部電極11はストライプ状にパターン形成され、下部電極11上の発光領域15を画定する絶縁膜14を備えている。この絶縁膜14は、下部電極11上の長手方向に沿った端部が金属膜11Bの長手方向に沿った端部と重なり幅pで重なるように形成されている。これによると、発光領域15の全域(画素内全域)で金属膜11Bが形成されるので、光学微小共振(マイクロキャビティ)構造を発光領域15の全域で均一に形成することができ、画素内輝度を均一化することができる。
また、金属膜11Bが透明導電膜11A内に存在することで、金属膜11Bが絶縁膜14に接触することがない。これによって、一つの下部電極11の金属膜11Bから分離した金属イオンが絶縁膜14を介して移動して他の下部電極11と繋がってしまう現象(マイグレーション)を未然に防ぐことができる。
図3は、有機ELパネル100の全体構成及び配線構造を示した説明図である。図3(a)は全体的な平面図、図3(b)は封止基板を除いた状態のA−A断面図、図3(c)はB−B断面図を示している。有機ELパネル100は一例として、基板10に封止基板20を貼り合わせた構造を有している。そして、有機ELパネル100は、基板10上には有機EL素子1が形成された発光部100Aと有機EL素子1への電気供給を行う配線電極30が形成された配線部100Bが形成されている。発光部100Aは封止基板20で覆われた範囲内に形成されており、配線部100Bは基板10上の封止基板20で覆われていない領域に形成されている。配線部100B内の配線電極30は、下部電極11への電気供給を行うものと上部電極13への電気供給を行うものとに分けられる。下部電極11への電気供給を行う配線電極30は、下部電極11と連続して形成することができるが、上部電極13への電気供給を行う配線電極30は、基板10上に形成された配線電極30と上部電極13とを上部電極13の形成時又は形成後に接続する。
有機ELパネル100の一例としては、配線電極30は下部電極11と同じ断面構造を有している。すなわち、配線電極30は、設定された幅にパターン形成された透明導電膜30Aを有すると共に、透明導電膜30Aの内部に、全周面が透明導電膜30Aに覆われて透明導電膜30Aの幅より狭い幅にパターン形成された金属膜30Bと保護膜30Cが形成されている。従来の配線電極は透明導電膜上に低電気抵抗の金属層を積層して形成されるが、この有機ELパネル100では、透明導電膜30Aの内部に金属膜30Bを形成することで低電気抵抗化を図っている。これによると、下部電極11のパターン形成工程と配線電極30のパターン形成工程を同工程で行うことができる。従来別々の工程でパターン形成されていた下部電極と配線電極を同工程でパターン形成できるので、工程の簡略化が可能になる。また、下部電極11が配線電極30と同様に低電気抵抗化されているので、有機ELパネル100の駆動電圧を大幅に低下させることができる。
図4は、有機ELパネル100のより具体的な内部構造を示した説明図である。図4(a)が発光部内の平面図、図4(b)がC−C断面図、図4(c)がD−D断面図を示している。前述したように、有機ELパネル100は、金属膜11Bと保護膜11Cを覆う透明導電膜11Aからなる下部電極11がストライプ状にパターン形成され、光透過性の導電膜である上部電極13が下部電極11と交差する方向にストライプ状にパターン形成されている。そして、上部電極13に沿った方向に複数の隔壁31を備え、隔壁31は、複数の下部電極11上を横切るように形成されると共に、金属膜11B上に形成された部分と金属膜11Bの形成されていない所に形成された部分の断面形状が異なるようになっている。
具体的には、図4(b)に示した断面が金属膜11B上に形成された部分の断面であり、図4(c)に示した断面が金属膜11Bの形成されていない所に形成された部分の断面である。図示から明らかなように、隔壁31は、その側部に下向きのテーパ面31aを有し、テーパ面31aの垂直に対するテーパ角度が、金属膜11B上に形成された部分での角度θs(図4(b)参照)よりも金属膜11Bの形成されていない所に形成された部分での角度θd(図4(c)参照)の方が大きい形状になっている。
隔壁31は、上部電極13をストライプ状にパターン形成するために、上部電極13の成膜に先立って形成されるものであり、ストライプ状に形成される個々の上部電極13を確実に分離するために、下向きテーパ面を有する断面形状(例えば、逆台形又はT字状などのオーバーハング形状)にしている。このような隔壁31の断面形状は、フォトリソグラフィ工程における厚さ方向の露光量の違いからくる現像速度の差を利用して側面のテーパ面31aを形成する。この際、金属膜11B上に形成される隔壁31の部分は金属膜11Bでの反射光によって露光量が増えてテーパ角度が小さくなる。
上部電極13を確実に分離するためにはテーパ角度が大きい方が望ましいが、隔壁31の強度を考えると、テーパ角度を小さくして隔壁31の根元幅を大きくした方が望ましい。本発明の実施形態では、隔壁31は、テーパ角度の大きい部分と小さい部分が交互に連なることになるので、適度に上部電極を分離する機能が得られると共に、上部からの圧迫などに対して十分な強度を備えている。
図5は、封止基板を含めた有機ELパネルの全体構造を示した断面図である。前述の説明と共通する部位については同一符号を付して重複説明を一部省略する。有機ELパネル100は、基板10との間に有機EL素子1を封止するための封止空間SSを形成する封止基板20を備える。基板10と封止基板20とは接着剤層21によって貼り合わせられ、接着剤層21の内側に封止空間SSが形成される。
図示の有機ELパネル100では、前述した隔壁31が基板10と封止基板20との間に介在する支持部材になっている。すなわち、封止基板20の内面が隔壁31の上面に当接することで、封止基板20の基板10側への変形を抑止している。隔壁31は、前述したように上からの圧迫に対して十分な強度を備えているので、このような封止基板20の支持構造が有機EL素子1の保護に有効に機能する。
図6は、本発明の実施形態に係る有機ELパネルの製造方法を示した説明図である。本発明の実施形態に係る製造方法は、下部電極11の形成に特徴があり、他の工程は既知の工程を適用できる。すなわち、基板10側から順次、下部電極11、発光層12Aを有する有機膜12、上部電極13を積層して有機EL素子1を形成するに際して、下部電極11を形成する工程は、透明膜11A2を成膜してこの透明膜11A2上に金属膜11B1と保護膜11C1を成膜する工程(図6(a))、金属膜11Bと保護膜11Cを同時にパターン形成する工程(図6(b))と、透明膜11A2と金属膜11B及び保護膜11C上に透明導電膜11A1を成膜する工程(図6(c))と、透明導電膜11A1と透明膜11A2を同時にパターン形成する工程(図6(d),(e))とを有する。
図6(a)に示す工程では、基板上に透明膜11A2を成膜して、更にその上に金属膜11B1と保護膜11C1を成膜する。図6(b)に示す工程では、金属膜11Bと保護膜11Cを同時にエッチング処理して金属膜11Bと保護膜11Cのストライプ状パターンを形成する。図6(a),(b)を併せて、成膜した透明膜11A2上にマスク成膜によって金属膜11Bと保護膜11Cのパターンを形成しても良い。
図6(c)に示す工程では、透明膜11A2の上全面に透明導電膜11A1を成膜する。この際の透明導電膜11A1の膜厚は前述した光学的距離d0の設定を行う上で重要である。
図6(d)に示す工程では、透明導電膜11A1と透明膜11A2とを同時にエッチングして下部電極11のパターンを形成する。下部電極11のパターン幅は金属膜11B及び保護膜11Cのパターン幅より広いので、金属膜11B及び保護膜11Cのパターンに対してそれほど高精度にパターンを合わせる必要がない。そして、ここで同時にエッチング処理するのは同じ材料又は同じ種類の材料であるので、異種金属層の同時エッチング時に生じるエッチング速度の違いに伴うエッチング端面の乱れなどがなく、良好なエッチングプロファイルを得ることができる。
図6(e)に示すように形成された下部電極11は、内部に金属膜11Bと保護膜11Cを備えるものであるが、単一の透明導電膜をエッチング処理して形成されるパターンと同程度に精度の高いパターンが得られる。これによって、その上に有機EL素子1の各層を積層する際の膜厚精度を向上させることができると共に、パターニングされた下部電極11の各パターン間の絶縁性を効果的に高めることができる。
以下に、本発明の実施形態に係る有機ELパネルの構成例を更に具体的に説明する。
基板10は、ガラス、プラスチック、表面に絶縁材料の層が形成された金属など、有機EL素子1を支持することができる基材によって形成される。下部電極11を形成する透明導電膜11Aは、ITO(Indium Tin Oxide),IZO(Indium Zinc Oxide),酸化亜鉛系透明導電膜,SnO2系透明導電膜,二酸化チタン系透明導電膜などの透明金属酸化物を用い、透明導電膜11A内に配置される金属膜11Bは、低電気抵抗金属である銀(Ag)や銀合金,アルミニウム(Al)やアルミニウム合金などを用いることができる。透明導電膜11A1と透明膜11A2は同じ材料であることが好ましいが、同種(金属酸化物材料)の異なる材料であっても良い。透明膜11A2は導電性を有することが好ましいが、光透過性を有していれば必ずしも導電性を有さなくても良い。保護膜11Cは光透過性を有する膜であればよいが、下部電極11の一部を形成するように導電性を有することが好ましい。更には透明導電膜11Aとの密着性を考慮すると透明導電膜11Aと同じ材料で形成することがより好ましい。
透明導電膜11A1,金属膜11B1,保護膜11C1,透明膜11A2の成膜はスパッタリングや蒸着などによって行うことができる。基板10上での金属膜11Bと保護膜11C或いは下部電極11のパターン形成は、フォトリソグラフィ工程などによって行うことができる。発光部100Aに形成される下部電極11と配線部100Bに形成される配線電極30を同じ断面構造で形成することで、下部電極11のパターン形成と同工程で配線電極30を形成することができる。このように形成された下部電極11と配線電極30は共に金属膜11B,30Bを有するので、その両方を低電気抵抗化することできる。これによって、有機EL素子1を低い電圧で駆動して所望の輝度を得ることができる。
絶縁膜14は、パターニングされた下部電極11のそれぞれの絶縁性を確保するために設けられ、ポリイミド樹脂,アクリル系樹脂,酸化シリコン,窒化シリコンなどの材料が用いられる。絶縁膜14の形成は、下部電極11が形成された基板10上の発光部100A全面に成膜した後、下部電極11上に発光領域15の開口を形成するパターニングがなされる。具体的には、下部電極11が形成された基板10にスピンコート法により所定の塗布厚となるように膜を形成し、露光マスクを用いて露光処理,現像処理を施すことにより、発光領域15の開口パターン形状を有する絶縁膜14の層が形成される。この絶縁膜14は、下部電極11のパターン間を埋めると共にその側端部分を一部覆うように形成され、格子状に形成される。これによって、下部電極11上に発光領域15を開口して、その領域が絶縁膜14によって絶縁区画されることになる。
隔壁31は、マスク等を用いることなく上部電極13のパターンを形成するため、或いは隣り合う上部電極13を完全に電気的に絶縁するために、下部電極11と交差する方向にストライプ状に形成される。具体的には、基板10又は絶縁膜14の上に光感光性樹脂等の絶縁材料を、有機EL素子1を形成する有機膜12と上部電極13の膜厚の総和より厚い膜厚にスピンコート法等で塗布形成した後、この光感光性樹脂膜上に下部電極11に交差するストライプ状パターンを有するフォトマスクを介して紫外線等を照射し、層の厚さ方向の露光量の違いから生じる現像速度の差を利用して、側部が下向きのテーパ面31aを有する隔壁31を形成する。
有機膜12は、発光層12Aを含む発光機能層の積層構造を有し、下部電極11と上部電極13の一方を陽極とし他方を陰極とすると、陽極側から順次、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層などが選択的に形成される。有機膜12の成膜は乾式の成膜として真空蒸着法などが用いられ、湿式の成膜としては塗布や各種の印刷法が用いられる。
有機膜12の形成例を以下に説明する。例えば先ず、NPB(N,N-di(naphtalence)-N,N-dipheneyl-benzidene)を正孔輸送層として成膜する。この正孔輸送層は、陽極から注入される正孔を発光層に輸送する機能を有する。この正孔輸送層は、1層だけ積層したものでも2層以上積層したものであってもよい。また正孔輸送層は、単一の材料による成膜ではなく、複数の材料により一つの層を形成しても良く、電荷輸送能力の高いホスト材料に電荷供与(受容)性の高いゲスト材料をドーピングしてもよい。
次に、正孔輸送層の上に発光層を成膜する。一例としては、抵抗加熱蒸着法により、赤(R)、緑(G)、青(B)の発光層を、塗分け用マスクを利用してそれぞれの成膜領域に成膜する。赤(R)としてDCM1(4−(ジシアノメチレン)−2−メチル−6−(4’−ジメチルアミノスチリル)−4H−ピラン)等のスチリル色素等の赤色を発光する有機材料を用いる。緑(G)としてアルミキノリノール錯体(Alq3)等の緑色を発光する有機材料を用いる。青(B)としてジスチリル誘導体、トリアゾール誘導体等の青色を発光する有機材料を用いる。勿論、他の材料でも、ホスト‐ゲスト系の層構成でも良く、発光形態も蛍光発光材料を用いてもりん光発光材料を用いたものであってもよい。
発光層の上に成膜される電子輸送層は、抵抗加熱蒸着法等の各種成膜方法により、例えばアルミキノリノール錯体(Alq3 )等の各種材料を用いて成膜する。電子輸送層は、陰極から注入される電子を発光層に輸送する機能を有する。この電子輸送層は、1層だけ積層したものでも2層以上積層した多層構造を有してもよい。また、電子輸送層は、単一の材料による成膜ではなく、複数の材料により一つの層を形成しても良く、電荷輸送能力の高いホスト材料に電荷供与(受容)性の高いゲスト材料をドーピングして形成してもよい。
有機膜12上に形成される上部電極13は、こちらが陰極の場合には、陽極より仕事関数の小さい(例えば4eV以下)材料(金属,金属酸化物,金属フッ化物,合金等)を用いることができ、具体的には、アルミニウム(Al),インジウム(In),マグネシウム(Mg)等の金属膜、ドープされたポリアニリンやドープされたポリフェニレンビニレン等の非晶質半導体、Cr2O3,NiO,Mn2O5等の酸化物を使用できる。構造としては、金属材料による単層構造、LiO2/Al等の積層構造等が採用できる。
封止基板20は、金属製,ガラス製,プラスチック製等による板状部材又は容器状部材を用いることができる。一例としては、ガラス製の封止基板20にプレス成形,エッチング,ブラスト処理等の加工によって封止用凹部(一段掘り込み、二段掘り込みを問わない)を形成したものを用いることもできるし、或いは平板ガラスを使用してガラス(プラスチックでも良い)製のスペーサにより基板10との間に封止空間SSを形成することもできる。
基板10に封止基板20を貼り合わせる接着剤は、熱硬化型,化学硬化型(2液混合),光(紫外線)硬化型等を使用することができ、材料としてアクリル樹脂,エポキシ樹脂,ポリエステル,ポリオレフィン等を用いることができる。特には、加熱処理を要さず即硬化性の高い紫外線硬化型のエポキシ樹脂製接着剤の使用が好ましい。
基板10に対して封止基板20を貼り合わせて有機EL素子1を封止空間SS内に封止する封止工程は、図5に示した実施形態では、封止基板20の内面を隔壁31の上面に当接させるように両者を貼り合わせる。図4に示したような上部からの圧迫強度の強い隔壁31を用いることで、隔壁31の上部に封止基板20の内面を当接させる構成を採用することで有機ELパネル100の耐加圧性能を高めることができる。
このような本発明の実施形態に係る有機ELパネル100は、光学微小共振(マイクロキャビティ)構造を採用することに加えて、下部電極11と配線電極30の中に金属膜11B,30Bを設けることによる電極及び配線の低電気抵抗化により、低駆動電圧による高輝度発光を可能にしており、これによって低消費電力の有機ELパネルを実現している。また、下部電極11と配線電極30とを同じ断面構造にすることで、同工程で基板10上に下部電極11と配線電極30のパターンを形成することができ、製造工程の簡略化を可能にしている。
そして、下部電極11の構造を、設定された幅W1にパターン形成された透明導電膜11Aを有すると共に、透明導電膜11Aの内部に、全周面が透明導電膜11Aに覆われて透明導電膜11Aの幅より狭い幅W2にパターン形成された金属膜11Bと保護膜11Cが形成されている構造にしているので、異種金属を積層した構造の下部電極11であっても、異種金属層をエッチングする場合のエッチング速度の違いによるパターンの乱れなどがなく、良好なエッチングプロファイルを得ることができる。
更には、光半透過性を有するように膜厚を薄くした金属膜11Bを発光領域15の全域を占めるように形成して、その上に保護膜11Cを積層することで、金属膜11Bを形成した後の素子形成工程で金属膜11Bがダメージを受けるのを抑止することができる。これによって発光領域全域に形成した金属膜11Bの均一な表面を維持することができ、有機EL素子1における光学微小共振(マイクロキャビティ)構造を発光領域全域で精度良く構成することができる。
以上、本発明の実施の形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこれらの実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。上述の各図で示した実施の形態は、その目的及び構成等に特に矛盾や問題がない限り、互いの記載内容を組み合わせることが可能である。また、各図の記載内容はそれぞれ独立した実施形態になり得るものであり、本発明の実施形態は各図を組み合わせた一つの実施形態に限定されるものではない。