JP2014058466A - ゼラチン粒子およびその用途、ならびに生理活性物質投与用デバイス - Google Patents

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Abstract

【課題】 本発明は多孔質でない中実球状で特定の体積膨潤率を有するゼラチン粒子、およびこのゼラチン粒子に生理活性物質を溶解保持してなるゼラチン粒子、ならびに注射器内に生理食塩水と共に生理活性物質を溶解含浸保持したゼラチン粒子を分散させて使用するデバイスを提供するものである。
【解決手段】 中実球状で円形度0.8以上であり、乾燥粒径25〜600μmの熱架橋されたゼラチン粒子であって、生理食塩水中に浸漬した場合の平均体積膨潤率が、乾燥粒子の平均体積の200〜2000%であることを特徴とする。血管塞栓用途や生理活性物質徐放用途に用いることができる。
【選択図】 図2

Description

本発明は、ゼラチン粒子および生理活性物質徐放用ゼラチン粒子、ならびに生理活性物質投与用デバイスに関し、詳しくは多孔質でない中実球状で特定の体積膨潤率を有するゼラチン粒子、およびこのゼラチン粒子に生理活性物質を溶解保持してなるゼラチン粒子、ならびに注射器内に生理食塩水と共に生理活性物質を溶解含浸保持したゼラチン粒子を分散させたデバイスに関するものである。
ゼラチンは、コラーゲンを熱処理して抽出したタンパク質であって、ゲル化剤としてゼリーなどの食品や、医薬品などに用いられたり、接着剤やフィルムなどの工業用途に用いられるなど様々な分野で利用されてきた身近な材料である。これらの各種用途のうち、医療用途に使用されている精製度の高いゼラチンやコラーゲンは、肝臓癌用の塞栓材料や止血用スポンジ材、経口投与用のカプセル材などの製品に幅広く利用されている。
例えば、特許文献1には生体適合性物質としてのゼラチンを水不溶化して多孔性粒子にした発明が開示されており、塞栓治療用や医薬製剤用担体として有用であるとの記載がある。この多孔性粒子は多孔部分に生理食塩水や医薬品等の溶液を含浸液として含浸するので、含浸前後での粒子径の変動が少なく、例えば塞栓材料として使用した場合、多孔性粒子なので血管内で小さい応力でも変形が容易であり、種々の血管径に対応できるというものである。しかし、多孔度の調整が難しいので、粒子単位での含浸量を均一化しがたいという問題がある。
また、特許文献2には架橋ゼラチンの多孔質または実質の粒状品が開示されており、塞栓用途に有用であるとの記載がある。このゼラチン粒状品は熱架橋することによって、生理食塩水中での溶解時間を240時間以下にコントロールして、血管内での塞栓時間を制御しようとするものであるが、粒状品の生理食塩水中での膨潤性などについて一切検討されていないものである。
さらに、特許文献3には球状架橋ゼラチン粒子を用いた血管塞栓剤についての開示があり、乾燥粒径と生理食塩水中での膨潤体積が記載されている。しかしながら、ここで開示されている球状架橋ゼラチンは、グルタルアルデヒドに代表される脂肪族系ジアールなどを架橋剤にして化学架橋を施した粒子であるので、膨潤体積が5〜100ml/gのように極めて大きく膨潤するものである。このように大きく膨潤するものでは、膨潤粒子の機械的強度が低下しすぎてしまい、保形性(機械的強度や形状保持性)の点で問題が生じる可能性がある。また、架橋剤を用いて架橋処理したゼラチン粒子を生体内に投与する場合には、ゼラチン粒子に残存する架橋剤の毒性等も考慮する必要が生じ、用いることができる架橋剤に制限がある。
特許第3879018号公報 特開2010−83788号公報 特開昭60−222045号公報
ゼラチンやコラーゲンからなる粒子の場合、多孔質形状であると生理食塩水等の含浸液を吸収しても多孔部(空隙部)に多くの含浸液が吸収されるので、その粒子径はほとんど変化せず、また含浸液の保持量は多い。但し、多孔質粒子の場合は含浸液を吸収してもその粒子形状(粒子径など)を保っているが、外部から応力がかかるによって容易に変形したり、潰れたりする。
また、ゼラチン粒子を生体内に投与する場合には、通常、生理食塩水などの分散液にゼラチン粒子を投入し、懸濁させた状態で用いる。この場合、懸濁性や体内投与性に有利な形状として粒子状であり、かつ生理活性物質等の均一吸収性、投与時の生理活性物質の徐放性、さらには体内での粒子の均一分解性の点からは、不定形状の粒子ではなく、円形度を意識した球状から略球状の形状の粒子を用いることが好ましいと判断した。
以上の点から、多孔質形状ではなく中実形状であって、含浸液の保持性および膨潤時であっても保形性の優れたゼラチン粒子を得るべく、膨潤性についての検討を重ねた。
その結果、粒子の膨潤は、乾燥粒子の同心円状に進んで行き、平衡状態である一定の粒子径まで膨潤する。その時の膨潤率は、乾燥粒子の粒子径、架橋条件、さらには含浸液の成分や溶質濃度によって変化し、通常用いられる生理食塩水中での膨潤率を制御するには、ゼラチン粒子を熱架橋する際の条件である架橋温度や架橋時間、真空度を制御することが重要であることが判明した。
本発明者らは、上記の従来技術における課題を解決するために、まず粒子を形成する主成分として生体適合性や生体内分解性に優れたゼラチンに着目し、血管塞栓用や生理活性物質徐放用に最適なゼラチン粒子を得るべく検討を行った。その結果、多孔質形状ではなく中実形状であって、しかも略真球に近い熱架橋したゼラチン粒子の平均体積膨潤率を特定範囲に制御することで、上記各種課題を解決するゼラチン粒子を得ることができることを見い出し、本発明を完成するに至った。
本発明は、中実球状で円形度0.8以上であり、乾燥粒径25〜600μmの熱架橋されたゼラチン粒子であって、23℃の生理食塩水に浸漬した場合の平均体積膨潤率が、乾燥粒子の平均体積の200〜2000%であることを特徴とするゼラチン粒子を提供するものである。
特に、本発明のゼラチン粒子は血管塞栓用途や、生理活性物質を溶解、保持して生理活性物質を徐放する用途や、注射器内に生理食塩水と共に生理活性物質徐放用ゼラチン粒子を分散、充填して使用する生体内投与用のデバイスとして用いることが好ましい。
本発明のゼラチン粒子は、多孔質形状のような不定形状ではなく、円形度が0.8以上の中実球状であるので、生理食塩水等に含浸液を吸収して膨潤しても、保形性に優れたものである。つまり、保形性に優れるので、膨潤後の粒子に外部応力が加わっても含浸液の保持性に優れるだけでなく、粒子が砕けることがなく、生体内、特に血管内に投与した場合、砕けて小片化したゼラチン粒子が目的とする部位以外の部位へ流出するというリスクを防止することができる。
また、本発明のゼラチン粒子は生体適合性に優れると共に、架橋剤を用いずに熱架橋しているので安全性が高いだけでなく生体内分解性に優れ、一時的な血管塞栓用途に用いるだけでなく、各種生理活性物質を含浸させることができ、ドラッグデリバリーシステム(DDS)の担体や生体内足場材として生体内に投与することが可能である。さらに、生理食塩水に浸漬した際の平均体積膨潤率を特定の範囲に設定し、平衡膨潤時の粒子径を一定にすることができるので、ゼラチン粒子単位で生理活性物質の吸着量や徐放性を制御することができる。
実施例1品のゼラチン粒子の乾燥時のマイクロスコープ画像を示す。 実施例1品のゼラチン粒子を生理食塩水中に浸漬して膨潤した後のマイクロスコープ画像を示す。 比較例1品のゼラチン粒子の乾燥時のマイクロスコープ画像を示す。 比較例1品のゼラチン粒子を生理食塩水中に浸漬して膨潤した後のマイクロスコープ画像を示す。 実施例1〜16について、乾燥粒子の粒径と加熱温度、および平均体積膨潤率との関係を示すグラフである。 実施例1品と比較例1品について、カテーテル通過後のゼラチン粒子の状態を示すマイクロスコープ画像である。 実施例1品のゼラチン粒子の膨潤粒子にてイヌ肝臓の血管を塞栓した状態を示すマイクロスコープ画像である。
本発明にて用いるゼラチンは、その種類(由来)は特に限定されない。例えば、牛骨由来、牛皮由来、豚骨由来、豚皮由来などのゼラチンを用いることができる。
本発明のゼラチン粒子は、多孔質状ではなく中実状のものであって、球状もしくは略球状の粒子である。粒子が多孔質形状であると、血管塞栓用途では充分な機械的強度を保つことができず、外部応力を受けた際に、形状変形を起して効率よく血管を塞栓することができない可能性がある。また、徐放製剤用基材としてゼラチン粒子を用いる場合は、生理活性物質が脱落してしまい、生理活性物質の保持が不充分となって、所定量の生理活性物質を目的部位に送達することが困難となる傾向を示すので、本発明のゼラチン粒子を血管塞栓や徐放性基材の用途などに用いる場合には、孔部を有さない中実状にすることが必要なのである。
例えば、本発明のゼラチン粒子を塞栓治療用途に用いた場合は、血管の塞栓部位の内径に応じた粒径の中実状のゼラチン粒子とすることによって、目的箇所の塞栓を確実に行えると共に、球形状であるために血管内壁の損傷も防ぐことができるので、患者に対する痛みも軽減することができるのである。さらに、中実球形状のゼラチン粒子の場合は、ゼラチン粒子の外周部分から徐々に溶解していくが、多孔質形状のゼラチン粒子の場合には、塞栓した血管内での溶解・分解に際して、ゼラチン粒子の一部が分離脱落して微小粒子となる場合があり、それらの微小粒子が血流に運ばれて目的部位以外の血管を塞栓する恐れがある。一方、中実球形状のゼラチン粒子の場合にはそのような問題が発生する可能性が少ないという利点がある。
また、形状が不定形状であると、生理活性物質を含浸する場合、均一な含浸性を確保できなかったり、ゼラチン粒子が徐々に溶解している際に、含浸する生理活性物質の経時的放出量にバラツキを生じるなどの不具合を生じる恐れがある。そこで、本発明のような球状粒子にすると粒子単位での表面積が略一定となるので、生理活性物質の均一含浸性や目的部位での均一な徐放性を確保できるので好ましい。本発明における球状や略球状とは、粒子を投影した時に生じる円の円形度が0.8以上、好ましくは円形度0.8以上の粒子が、粒子全体の70重量%以上、特に好ましくは80重量%以上含有する粒子である。円形度が0.8に満たない粒子の場合は、凝集粒子や付着粒子が多くなって不定形状となっている可能性が高いので使用するには好ましくない。なお、本発明における円形度とは、上記のように粒子を投影した後に二値化画像処理して得られる値であって、粒子を投影した際の円の面積(S)と周囲長(L)により、4πS/Lの式にて得られ、真円に近いほど1に近づく値を意味するものである。
なお、上記ゼラチン粒子は乾燥時の粒径が25〜600μm、好ましくは40〜250μmであることが、生体内に投与する際の治療手技の点から望ましい。25μmに満たない粒径の場合は、生体内に投与された場合、場合によっては目的部位でない末梢血流に至って血栓となる恐れもあるので好ましくなく、また、600μmを超える粒径の粒子の場合は、生体内への投与時に使用する注射針やマイクロカテーテルの径を粒子径に合わせるなどの考慮が必要となると共に、侵襲度が高まり患者への負担になる可能性もあるので好ましくない。本発明のゼラチン粒子は上記粒径範囲のものであれば各種用途に使用することができるが、例えば、シリンジやカテーテルなどを通過させる用途の場合には、カテーテルやシリンジの内径、投与部位などを考慮すると、用いるゼラチン粒子の粒度分布を狭くするために、作製したゼラチン粒子を各種サイズに篩分けして用いることが好ましい。具体的には血管塞栓用粒子の場合には、25〜63μm、75〜150μm、212〜300μm、425〜600μmなどの範囲のサイズに種類分けしておくことが実用的である。
さらに、本発明のゼラチン粒子は水系溶媒に対して不溶性にするために架橋処理を施したものであり、一般的に用いられている架橋剤による架橋ではなく、加熱処理による熱架橋を施したものである。即ち、架橋剤による架橋処理の場合、ゼラチン粒子に架橋剤反応物(残渣)が結合するので、ゼラチン粒子を生体内に用いる場合には毒性等の検討も慎重に行わなければならず、使用できる架橋剤にも制限が生じる。しかしながら、加熱処理によって熱架橋した場合は、上記のような懸念はなく、また、架橋剤による架橋処理よりもマイルドな架橋処理になり、架橋度の制御も容易となる。従って、本発明のような熱架橋処理したゼラチン粒子の場合には、生理食塩水などの水系溶媒に浸漬した際の膨潤度の調整や完全溶解するまでの時間の制御も容易となる。
本発明において熱架橋処理は、W/O分散法や、マイクロリアクター法、スプレードライ法、噴霧凍結乾燥法、粉砕法などの公知の造粒法によって得られたゼラチン粒子を一旦、送風乾燥や自然乾燥、真空乾燥、凍結乾燥などの乾燥手段を用いて乾燥させ、その後、100〜200℃、好ましくは120〜180℃の温度範囲で、2〜48時間、好ましくは2〜8時間、加熱乾燥することによってゼラチン粒子を熱架橋することができるのである。但し、静置条件下での加熱乾燥の場合は、130〜170℃±5℃の温度範囲で、4〜5時間程度の加熱処理を行うことが好ましい。このとき、常圧下で乾燥させてもよいが、本来水溶性であるゼラチンは、大気中の酸素や水分などに影響を受けやすいので、再現性よく均一な熱架橋を行うためには、真空下での加熱処理が好ましい。なお、本発明における真空下とは、絶対真空(0kPa)を基準に、通常の真空乾燥機で達成できる10kPa以下の圧力状態(真空度)を意味するものである。
以下に、造粒法の一例としてのW/O分散法を用いた本発明のゼラチン粒子の製造方法について、具体的に説明する。ゼラチン粒子製造の概略としては、ゼラチン水溶液を油脂中に分散し、ゼラチン水溶液の液滴を形成する液滴形成工程と、ゼラチン水溶液の液滴を冷却してゲル化させるゲル化工程と、脱水工程、洗浄工程、乾燥工程、および架橋工程を含むものである。
まず、液滴形成工程にてゼラチン水溶液の液滴を形成する。具体的には、ゼラチンを約0℃の水中に投入し、攪拌機や振盪機などを用いてゼラチンを水中に均一に溶解させてゼラチン水溶液を調製する。このときの水温を40〜60℃程度に加温することによって短時間でゼラチンを溶解することができるので好ましい。このようにして得られたゼラチン水溶液のゼラチン濃度は、形成する液滴の粘度を調整して種々の粒径で粒度分布の狭いゼラチン粒子を得やすくするために、2〜20重量%、好ましくは5〜15重量%の範囲に設定する。
液滴形成工程では、上記のように調製したゼラチン水溶液を油脂中に分散させて液滴を形成させる。例えば、攪拌翼を備えたフラスコ中に過剰量の油脂を投入、攪拌しながら上記のように調製したゼラチン水溶液を投入し、任意の時間攪拌して油脂中にゼラチン水溶液を液滴状態で均一分散させる。このときの油脂の温度を0〜60℃に加温することによって油脂の凝固を防ぎながらゼラチンを均一に分散でき、しかもゼラチンの変性を防ぐことができて好ましい。
ゼラチン水溶液を投入する油脂としては、ゼラチン水溶液の液滴を作成するにはゼラチン水溶液と相溶性の乏しい油脂を用いる必要があり、例えば動物油、植物油、鉱物油、シリコーン油、脂肪酸、脂肪酸エステル、および有機溶剤からなる群から選ばれる少なくとも一種類を用いることができる。これらのうち、好ましくは、トリカプリル酸グリセリドやオリーブオイル、イソステアリン酸イソセチル、2−エチルヘキサン酸セチルなどを用いることが人体に対する無毒性の点から望ましいものである。
上記液滴形成工程に続いてゲル化工程を行う。ゲル化工程ではゼラチン水溶液の液滴を冷却することでゼラチン液滴をゲル化させる。ここでゲル化とは、ゲル化したゼラチン液滴を油脂中から濾別して取り出した場合に、液滴の球形状を保持できる程度の流動性のない状態を意味する。ゲル化工程での冷却操作によって液滴中のゼラチンをゲル化させるには、液滴が分散している油脂を冷却すればよい。例えば、フラスコ内にて油脂中に分散したゼラチン液滴を形成させている場合には、フラスコを冷却水中に浸漬し、フラスコ外壁を通じて内部の油脂およびゼラチン液滴を冷却すればよい。冷却温度の設定は、確実なゲル化のためには、0〜3℃の温度範囲に設定することが好ましい。つまり、ゼラチンの液滴をこの温度範囲内に冷却することによって、液滴中の水が凝固せず、しかもゲル化したゼラチン液滴の機械的強度が向上する。その結果、後述する脱水工程や洗浄工程でのゼラチン粒子の変形が少なくなり、後工程である洗浄工程で表面上の油脂分が洗浄されやすくなるのである。
上記ゲル化工程での冷却時間は、0〜3℃の設定温度に達してから、15〜90分間、好ましくは30〜60分間程度にする。冷却時間が短すぎると、ゼラチン液滴のゲル化が不充分となる傾向を示す。一方、長すぎる場合はゲル化が充分に進んでいるので、時間の無駄となり製造効率が悪くなる傾向を示す。
なお、上記のゲル化工程にて用いる油脂は、その種類によっては冷却操作による温度低下によって油脂が凝固したり、油脂粘度が上昇したりする恐れがあるので、その場合には凝固点が低く、溶液粘度も低い脱水溶剤を添加することでこれらの問題を防ぐことができるので好ましい。
上記のようにしてゼラチン液滴を冷却操作によってゲル化させた後、脱水工程にて液滴中の水分を除去する。具体的にはゲル化したゼラチン粒子が溶解しないように、脱水工程ではゼラチンのゲル化温度以下(具体的には、15℃以下)に冷却しながら脱水溶剤を投入し、ゲル化したゼラチン粒子内の水分と置換することによって脱水処理を行う。完全な水分の除去は後述する乾燥工程にて行うが、脱水工程ではゲル化した液滴から水分を脱水溶剤に置換させることを目的としており、通常、脱水工程は15分以上行うことが好ましい。脱水工程にてゼラチン粒子中の水分を脱水溶剤と置換して水分を除去することによって、後述する架橋工程にて均一な粒子内架橋を施すことができ、得られるゼラチン粒子同士の凝集を防止できるのである。
脱水工程では、上記のように液滴内の水分と脱水溶剤とを置換することによって脱水する必要があるので、用いる脱水溶剤としては、水に対する溶解度が少なくとも10重量%、好ましくは30重量%以上の溶解度を有する親水性溶剤を用いることが望ましい。具体的な脱水溶剤としては、例えばアセトン、イソプロピルアルコール、エチルアルコール、メチルアルコール、およびテトラヒドロフランなどを一種もしくは二種以上を併用することができる。これらの脱水溶剤のうち、水との置換容易性の点からは、アセトンやイソプロピルアルコール、テトラヒドロフランなどの比較的自由に水と混ざり合うような親水性有機溶剤を用いることがよい。
次に、上記した脱水工程に続いて洗浄工程を行う。冷却ゲル化したゼラチン粒子には脱水工程で水分と置換された脱水溶剤が含有されているが、洗浄工程を経ることによって、ゼラチン粒子表面に付着する油脂などを除去することができる。洗浄工程に用いる洗浄溶剤としては、具体的にはゲル化したゼラチン粒子が溶解しない有機溶剤を用いることが好ましく、脱水溶剤と同様、ゼラチンのゲル化温度以下に冷却しながら洗浄溶剤を投入する。なお、洗浄操作を行うに際して、濾過や遠心分離などの方法を併用しながら、複数回の洗浄を繰り返すことが好ましい。例えば、約2〜15g程度のゼラチン粒子を洗浄する場合は、約200〜300mlの洗浄溶剤を用いて15〜30分間洗浄する操作を、4〜6サイクル程度繰り返すことで完全な洗浄が達成される。
具体的な洗浄溶剤としては、上記した脱水溶剤と同様の溶剤を用いることができるが、ゼラチン粒子の脱水をより確実にするという点からは、アセトンなどのケトン系溶剤、イソプロピルアルコールのようなアルコール系溶剤、テトラヒドロフランを用いることが好ましい。
上記のように脱水工程、洗浄工程を経て得られるゼラチン粒子に対して、粒子表面に付着している余分な脱水溶剤や洗浄溶剤を除去すると共に、完全に水分を除去するために、乾燥工程を行う。乾燥工程に用いる乾燥手段としては、例えば通風乾燥、減圧乾燥(真空乾燥含む)、凍結乾燥などの一般的な乾燥手段を用いることができる。なお、減圧乾燥を行う場合には、加熱によるゼラチンの架橋が生じないようにするために、5〜25℃程度の温度で、6〜12時間程度の乾燥を行うことが好ましい。
乾燥工程にて脱水乾燥されたゼラチン粒子は、架橋工程にてゼラチン粒子を架橋させる。例えば、塞栓治療用途のようにゼラチン粒子を体内に導入する場合には、人体に対して無害な粒子にすることが必要であるので、架橋剤などの外部架橋剤を用いた架橋手段を採用することは好ましくなく、加熱による架橋を施す必要がある。加熱架橋する場合は、例えば80〜250℃、好ましくは130〜170℃で、0.5〜120時間、好ましくは3〜24時間加熱することでゼラチン粒子を架橋することができる。なお、加熱温度や加熱時間を調整することによってゼラチン粒子の架橋の程度を調整できるので、水溶液内や血管内で完全に溶解するまでの時間(生分解時間など)を調整することができる。
つまり、本発明のゼラチン粒子を塞栓治療用途に用いて血管を塞栓した場合、ゼラチン粒子が生分解して血流を再開通させるまでの時間を調整する、即ち、塞栓時間を調整することができるのである。具体的には、肝癌などの腫瘍を壊死させるためには、2〜3日間の血管塞栓で充分なので、血流が再疎通するまでの塞栓期間、つまりゼラチン粒子の生分解するまでの期間は、3〜7日間程度とすることが塞栓部位の臓器や正常細胞へのダメージが少なくなり好ましい。通常、3〜7日間程度の塞栓期間に設定する場合、架橋工程での加熱条件としては、100〜180℃で1〜24時間とすることが好ましい。なお、架橋工程では加熱操作を行うので、ゼラチン粒子が酸化変性する恐れがあるので、通常は、減圧下や不活性ガス雰囲気下で架橋工程を行うことが好ましい。
本発明のゼラチン粒子は、上記したような血管塞栓用途に用いた場合には、例えば、大腿部動脈等からカテーテルを塞栓治療予定部位まで造影剤を投与しながら挿入し、その後、任意形状のゼラチン粒子を生理食塩水中に分散、平衡膨潤させたゼラチン粒子の分散液をカテーテル内に注入し、目的とする塞栓治療部位にゼラチン粒子を送り込んで塞栓を行うことができる。
また、本発明のゼラチン粒子は、生理活性物質を内部に含浸、保持するようにして、生理活性物質徐放用途に用いることもできる。この場合、例えば、注射器内に生理活性物質と共に、生理活性物質徐放用ゼラチン粒子を分散、充填して使用するための生理活性物質投与用デバイスとすることができる。
なお、本発明における上記生理活性物質投与用デバイスは、使用時の状態でのデバイスである。例えば、予め注射器内にゼラチン粒子だけを充填しておき、使用に際して生理食塩水を注射器内に吸入してゼラチン粒子を分散させる場合や、バイヤル内にゼラチン粒子を充填しておき、使用に際して生理食塩水を投入してゼラチン粒子を分散させ、これを注射器内に吸入する場合などの態様、いわゆる用時調製によって得られる生理活性物質投与用デバイスも含むものである。
本発明のゼラチン粒子に保持させる生理活性物質としては、各種疾患治療用の薬物の他、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)や肝細胞増殖因子(HGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)などの各種増殖因子、インターフェロンやインターロイキンなどに代表されるサイトカインなどが挙げられる。これらのうち、例えば、bFGFなどを保持したゼラチン粒子は、下肢虚血疾患治療用に用いることができる。
以上のようにして得られる本発明のゼラチン粒子は、23℃の生理食塩水中に浸漬した場合に、乾燥粒子の平均体積の200〜2000%、好ましくは400〜800%の平均体積膨潤率を有するものである。生理食塩水中での膨潤は、乾燥粒子の同心円状に拡大し、200〜600%の平均体積膨潤率の範囲で平衡状態になるものである。平均体積膨潤率が小さすぎる、即ち生理食塩水中での膨潤が少なすぎると、含浸液や生理活性物質の内部保持が困難となるだけでなく、充分に弾力性のあるゲル状粒子とはならず、治療する際の手技においても医療機器との併用性への障害となる傾向を示して好ましくない。一方、平均体積膨潤率が大きすぎる、即ち、生理食塩水中で激しく膨潤すると、膨潤粒子としての機械的強度が低下してしまうので、治療手技中の粒子崩壊や生体内に投与されてからの粒子崩壊につながり、目的とする血管塞栓性や徐放性基材としての性能が得られない恐れがあると共に、血流中に崩壊した微小片が混入して目的部位以外の箇所で血栓となる可能性もある。
以下、本発明について、実施例を挙げてさらに具体的に説明する。なお、本発明は実施例の記載によって限定されるものではない。
<実施例1〜16>
ゼラチンを分散させるための油脂として中鎖脂肪酸グリセリドを用い、10℃下でゼラチン水溶液(豚皮由来、濃度5重量%)を滴下、分散させて、ゼラチン粒子を作製した。次に、攪拌しながら冷却(0℃)してゼラチン粒子を充分にゲル化し、次いで、溶媒としてアセトンを加えて、ゼラチン粒子中の水と置換させた。
次に、洗浄溶媒としてのアセトンにてゼラチン粒子を洗浄後、乾燥させて中実球状の乾燥ゼラチン粒子を得た。得られたゼラチン粒子を金網ふるいによって、425〜600μm、212〜300μm、75〜150μm、25〜63μmの4種類の粒径のゼラチン粒子に分別回収した。分別回収した4種類のゼラチン粒子を真空状態(5kPa)下で、静置状態にて所定の温度で4〜5時間加熱処理を施して、本発明のゼラチン粒子(円形度0.9)を得た。
作製した実施例品の加熱温度条件は、以下の通りである。
実施例1:粒径425〜600μm、加熱温度150℃(±5℃)
実施例2:粒径212〜300μm、加熱温度150℃(±5℃)
実施例3:粒径75〜150μm、加熱温度150℃(±5℃)
実施例4:粒径25〜63μm、加熱温度150℃(±5℃)
実施例5:粒径425〜600μm、加熱温度130℃(±5℃)
実施例6:粒径212〜300μm、加熱温度130℃(±5℃)
実施例7:粒径75〜150μm、加熱温度130℃(±5℃)
実施例8:粒径25〜63μm、加熱温度130℃(±5℃)
実施例9:粒径425〜600μm、加熱温度140℃(±5℃)
実施例10:粒径212〜300μm、加熱温度140℃(±5℃)
実施例11:粒径75〜150μm、加熱温度140℃(±5℃)
実施例12:粒径25〜63μm、加熱温度140℃(±5℃)
実施例13:粒径425〜600μm、加熱温度170℃(±5℃)
実施例14:粒径212〜300μm、加熱温度170℃(±5℃)
実施例15:粒径75〜150μm、加熱温度170℃(±5℃)
実施例16:粒径25〜63μm、加熱温度170℃(±5℃)
<比較例1>
比較例品として、市販の多孔質ゼラチン粒子(商品名ジェルパート、日本化薬社製、粒径約1mm)を用いた。
上記各実施例および比較例にて得られたゼラチン粒子について、生理食塩水中に浸漬した場合の平均体積膨潤率を以下のようにして測定した。
乾燥状態の各ゼラチン粒子の粒径、および23℃の生理食塩水中に30分間浸漬した後の粒径を、マイクロスコープ(機種:VHX−500、キーエンス社製、レンズ:VH−Z100)を用いて観察した。なお、マイクロスコープでの観察時の倍率は、乾燥粒子の粒径が425〜600μmのものと比較例品(粒径約1mm)は100倍、粒径212〜300μmのものは200倍、粒径75〜150μmのものは300倍、粒径25〜63μmのものは700倍とした。観察は1サンプル当たり300個(n=300)測定し、下記式にて平均体積膨潤率を算出し、結果を表1に示した。
Figure 2014058466
なお、図1〜図4には、実施例1品および比較例1品のゼラチン粒子の乾燥時のマイクロスコープ画像(図1、図3)と、生理食塩水中に浸漬して膨潤した後のマイクロスコープ画像(図2、図4)を示した。
Figure 2014058466
表1の結果から明らかなように、本願実施例品は中実球状であるので、生理食塩水中に浸漬した場合、ゼラチン粒子が膨潤するものであるが、多孔質不定形状の比較例品は生理食塩水中に浸漬してもほとんど膨潤しないものであった。
さらに、加熱温度を変えてゼラチン粒子の架橋度合いを相違させた前記実施例1〜16について、乾燥粒子の粒径と加熱温度、および平均体積膨潤率との関係を図5にまとめた。図5から明らかなように、各粒径に関わらず加熱温度が高くなると共に架橋度合いが高くなるので、平均体積膨潤率が低くなる傾向を示すことが確認できた。なお、実施例品は体積膨潤率を200〜2000%の範囲で制御できるものであった。
また、平均体積膨潤率を200%未満にしたゼラチン粒子を得るために、加熱温度を180℃以上にして架橋度合いを高めたが、ゼラチン粒子の黄変が激しくなり、塞栓用途や生理活性物質徐放用途に適しないものであった。一方、平均体積膨潤率が2000%を超えるゼラチン粒子を得るために、加熱温度を130℃未満にして架橋度合いを低くしたが、膨潤したゼラチン粒子は生理食塩水中で粒子の輪郭の判別ができないほど膨潤してしまい、粒子の機械的強度も低下して使用に耐えられるような粒子にはならなかった。
次に、本願発明のゼラチン粒子を生理食塩水中に浸漬して膨潤させたのちのカテーテル通過性を調べて形状保持性(生理食塩水保持性)を評価した。
ゼラチン粒子作製後に425〜600μmに篩分けした実施例1品、実施例5品、実施例9品、実施例13品および比較例1品について、各乾燥ゼラチン粒子を23℃の生理食塩水中に30分間浸漬して膨潤させたのち、膨潤したゼラチン粒子をシリンジに吸い取り、三方活栓と空シリンジにて20回ポンピング操作を行い、そののちカテーテル(製品名:プログレート、テルモ社製、2.3Fr.110cm、出口径0.57mmφ)に流した。
上記のようにしてカテーテル内を膨潤ゼラチン粒子が通過している状態をマイクロスコープにて観察し、カテーテル通過前の粒径に対して、カテーテル通過後の粒径の体積変化率が、80%以上を○判定、50%以上80%未満を△判定、50%未満を×判定として、生理食塩水保持性(形状保持性)を判定し、その結果を表2に記載した。また、実施例1品と比較例1品についてカテーテル通過後のゼラチン粒子の状態を図6に示した。
図6から明らかなように、カテーテル通過前のポンピング操作によって、実施例1品は粒径や粒子形状に変化が見られなかったのに対し、比較例1品では膨潤ゼラチン粒子の崩壊片の存在が多く観察された。
Figure 2014058466
次に、実施例1にて作製したゼラチン粒子の膨潤粒子を用いて、イヌ肝臓への塞栓試験を行い、塞栓部位の血管壁に追従して塞栓されるか否かをマイクロスコープを用いて観察した。図7に血管への塞栓48時間後の画像を示した。
図7の画像中央部が塞栓しているゼラチン粒子であり、本発明のゼラチン粒子は塞栓部位の血管壁に追従できる柔軟性を有するものであることが確認できた。
以上の結果から明らかなように、本発明のゼラチン粒子は、水系含浸液としての生理食塩水にて膨潤性を呈するものであって、ポンピング処理を行っても膨潤粒子の保形性が良好であり、また、柔軟性も有するものであることが明らかであった。

Claims (6)

  1. 中実球状で円形度0.8以上であり、乾燥粒径25〜600μmの熱架橋されたゼラチン粒子であって、23℃の生理食塩水に浸漬した場合の平均体積膨潤率が、乾燥粒子の平均体積の200〜2000%であることを特徴とするゼラチン粒子。
  2. ゼラチン粒子が、乾燥粒子を真空下での加熱処理にて熱架橋されている請求項1記載のゼラチン粒子。
  3. 請求項1または2記載のゼラチン粒子を、含浸液によって平衡膨潤させてなるゼラチン粒子。
  4. ゼラチン粒子が、血管塞栓用ゼラチン粒子である請求項1記載のゼラチン粒子。
  5. 請求項1記載のゼラチン粒子に生理活性物質を溶解、保持してなる生理活性物質徐放用ゼラチン粒子。
  6. 注射器内に生理食塩水と共に、請求項5記載の生理活性物質徐放用ゼラチン粒子を分散、充填して使用することを特徴とする生理活性物質投与用デバイス。
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