本発明の歯科用硬化性組成物は、(A)芳香族系ラジカル重合性単量体、(B)脂肪族系ラジカル重合性単量体、(C)樹枝状ポリマー、(D)重合開始剤を含んでいる。そして、該(C)樹枝状ポリマーは、(A)芳香族系ラジカル重合性単量体および(B)脂肪族系ラジカル重合性単量体の合計量100質量部に対して5〜50質量部の多さで配合されている。これにより、硬化時の重合収縮を高度に抑制できる。その理由は、以下の通りであると考えられる。
まず、樹枝状ポリマーは、紐状の一般的なポリマーと異なり、球状に近い形状を有している。このため、溶液にポリマーを溶解させた場合、一般的なポリマーと比べて、樹枝状ポリマーの方が粘度の上昇が小さい。それゆえ、歯科用硬化性組成物の構成材料として樹枝状ポリマーを用いる場合、フィラーの充填率や歯科用硬化性組成物の操作性を大きく変化させることなく、歯科用硬化性組成物中に、多量の樹枝状ポリマーを添加することができる。すなわち、歯科用硬化性組成物中の構成成分として、樹枝状ポリマーの配合割合を相対的に大きくし、その代わりに、重合性単量体の配合割合を相対的に小さくすることが極めて容易であり、これにより硬化時の重合収縮が低減できる。
また、斯様な樹枝状ポリマーは、前記硬化体中に親和性良く微分散する粒子ではあるものの、充填材のような硬質粒子ではなく、これ自体が配合された樹脂の機械的強度を大きく高める成分ではない。しかしながら、本発明では、ラジカル重合性単量体成分として、(A)芳香族系と(B)脂肪族系の質量比55/45〜85/15の混合物を用いることにより、硬化体の機械的強度を大きく高めている。
以下、本発明の硬化性組成物を構成する各成分について説明する。
(A)芳香族系ラジカル重合性単量体
芳香族系ラジカル重合性単量体は、芳香環を分子内に一つ以上有するラジカル重合性単量体であれば特に制限無く利用できる。ビニル基、スチリル基、アリル基等のラジカル重合性基を有するものであっても良いが、硬化体の機械的強度を高める効果がより優れることの他、生体安全性の面から、(メタ)アクリレート系ラジカル重合性単量体であるのが好ましい。また、重合性の高さや硬化体の機械的強度の面から、二官能〜四官能のものがより好ましい。
分子中に存在する芳香環は、ベンゼン環の他、ナフタレン環、アントラセン環のような縮合多環であっても良い。こうした芳香環の数は、機械的強度の面から、2つ以上が好ましい。芳香環の数が多すぎると、樹枝状ポリマーの分散性が低下する虞があるため、重合性単量体分子中に存在する芳香環の数は10個以下が好ましく、4個以下がより好ましい。機械的強度および樹枝状ポリマーの分散性を総合的に考慮すると、分子中に存在する芳香環の数は2つが最も好ましい。
また、こうした芳香環とラジカル重合性基とは2価の脂肪族炭化水素基により繋がるのが普通であり、この2価の脂肪族炭化水素基は直鎖状でも分岐鎖状であっても良い。また、こうした2価の脂肪族炭化水素基は、鎖中に鎖中にエーテル結合、エステル結合、ウレタン結合などが介在したものであっても良い。
さらには、機械的強度の面から、芳香族系ラジカル重合性単量体はビスフェノールA骨格を有していることが好ましく、より好ましくは一般式(IV)で示される化合物である。
式中、RaおよびRbは、鎖中にエーテル結合が介在していても良いアルキレン基である。こうしたアルキレン基は、オキシアルキル基、水酸基、およびハロゲノ基などの置換基を有していても良い。RaおよびRbは、それぞれ主鎖の原子数が3〜15、またはRaとRbの主鎖の原子数の和が6〜30であることが好ましく、それぞれの主鎖の原子数が3〜10、またはRaとRbの原子数の和が6〜20であることがさらに好ましく、それぞれの主鎖の原子数が3〜6、またはRaとRbの主鎖の原子数の和が6〜12であることが最も好ましい。
RaおよびRbの主鎖が長すぎる場合には、ラジカル重合性単量体の粘度が極端に高くなり、ペーストが扱いにくいものとなると共に、歯科用硬化性組成物の硬化体において機械的強度の低下を招く。他方、RaおよびRbの主鎖が短すぎる場合には、歯科用硬化性組成物の重合収縮が大きくなる。RcおよびRdは、水素原子もしくはメチル基である。
このような一般式(IV)で示される芳香族系ラジカル重合性単量体の具体例としては、2,2−ビス(メタクリロイルオキシフェニル)プロパン、2,2−ビス[4−(3−メタクリロイルオキシ)−2−ヒドロキシプロポキシフェニル]プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシテトラエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシペンタエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシジプロポキシフェニル)プロパン、2(4−メタクリロイルオキシジエトキシフェニル)−2(4−メタクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2(4−メタクリロイルオキシジプロポキシフェニル)−2−(4−メタクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシプロポキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシイソプロポキシフェニル)プロパン及びこれらのメタクリレートに対応するアクリレート;2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート等のメタクリレートあるいはこれらメタクリレートに対応するアクリレートのような−OH基を有するビニルモノマーと、ジイソシアネートメチルベンゼン、4,4‘−ジフェニルメタンジイソシアネートのような芳香族基を有するジイソシアネート化合物との付加から得られるジアダクト等が挙げられる。
これら芳香環を有する重合性単量体は、必要に応じて複数の種類のものを併用しても良い。
(B)脂肪族系ラジカル重合性単量体
脂肪族系ラジカル重合性単量体は、ラジカル重合性基を有する脂肪族炭化水素化合物からなる公知のものが何ら制限無く利用できる。ビニル基、アリル基等のラジカル重合性基を有するものであっても良いが、前記芳香族系ラジカル重合性単量体と同様に硬化体の機械的強度を高める効果がより優れること、および生体安全性の面から、(メタ)アクリレート系ラジカル重合性単量体であるが好ましい。また、重合性の高さや硬化体の機械的強度の面から、二官能〜四官能のものがより好ましい。
脂肪族系ラジカル重合性単量体の主鎖の長さが長すぎる場合にも、重合性単量体の粘度は高めになり、歯科用硬化性組成物の硬化体において機械的強度が低下傾向になる。他方主鎖の長さが短すぎる場合には、歯科用硬化性組成物の重合収縮が大きくなる。これらの観点から、脂肪族系ラジカル重合性単量体の主鎖の原子数は、9〜50であることが好ましく、より好ましくは12〜30である。
また、脂肪族系ラジカル重合性単量体を形成する脂肪族炭化水素基は鎖中にエーテル結合、エステル結合、ウレタン結合などが介在したものであっても良い。さらに、脂肪族炭化水素基は、直鎖状でも分岐鎖状であっても良いが、樹枝状ポリマーの分散を容易にする観点から直鎖状であるのがより好ましい。また、脂肪族系ラジカル重合性単量体は、オキシアルキル基、水酸基およびハロゲノ基などの官能基を置換基として有していても良い。
好適に使用される脂肪族系ラジカル重合性単量体としては、一般式(V)で示される化合物が特に好ましい。
式中、Reは、鎖中にエーテル結合、エステル結合、またはウレタン結合が介在していても良いアルキレン基である。こうしたアルキレン基は、オキシアルキル基、水酸基およびハロゲノ基などの置換基を有していても良い。上記アルキレン基は、側鎖(分岐鎖部分および置換基部分)が大きすぎる場合には樹枝状ポリマーの分散を阻害するため、側鎖を有する場合において、その長さは主鎖から3原子以下であることが好ましい。RfおよびRgは、水素原子もしくはメチル基である。
このような一般式(IV)で示される脂肪族系ラジカル重合性単量体の具体例としては、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、1,3−ブタンジオールジメタクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、1,9−ノナンジオールジメタクリレート、1,10−デカンジオールジメタクリレートおよびこれらのメタクリレートに対応するアクリレート;2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート等のメタクリレートあるいはこれらのメタクリレートに対応するアクリレートのような−OH基を有するビニルモノマーと、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ジイソシアネートメチルシクロヘキサン、イソフォロンジイソシアネート、メチレンビス(4−シクロヘキシルイソシアネート)のようなジイソシアネート化合物との付加体から得られるジアダクト、例えば、1,6−ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)−2,2−4−トリメチルヘキサン;1,2−ビス(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)エチル等が挙げられる。
これら脂肪族系ラジカル重合性単量体は、必要に応じて複数の種類のものを併用しても良い。
また、水素結合を形成することにより、歯科用硬化性組成物のポリマー層を強化できることから、ウレタン結合を有する脂肪族系ラジカル重合性単量体、例えば、1,6 ービス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ) 2,2,4 ートリメチルヘキサン等を、脂肪族系ラジカル重合性単量体の少なくとも一部、好適には30〜70%含有させることも好ましい。
さらに、必要に応じて、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、イソプロピル
メタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレ
ート、グリシジルメタクリレート等のメタクリレート、及びこれらのメタクリレートに対
応するアクリレート等の単官能の(メタ)アクリレート系単量体を用いるのも良好である。
本発明の最大の特徴は、上記(A)芳香族系ラジカル重合性単量体と(B)脂肪族系ラジカル重合性単量体の配合割合である。すなわち、(A)芳香族系ラジカル重合性単量体と(B)脂肪族系ラジカル重合性単量体の質量比は55/45〜85/15とすることが必要であり、より好ましくは55/45〜75/25であり、最も好ましくは60/40〜67/37である。
芳香族系ラジカル重合性単量体の硬化体は、一般的に、脂肪族系ラジカル重合性単量体の硬化体に比較して機械的強度に優れる。そのため、その質量比が上記下限値以上であることにより、樹脂相の機械的強度が向上し、歯科用硬化性組成物に、樹枝状ポリマーが多量に配合されていても硬化体の機械的強度を十分に高める効果が発揮される。他方、芳香族系ラジカル重合性単量体は高粘度のものが多く、また、芳香環部分はその構造が大きさから、樹枝状ポリマーの分散を妨げる作用もあり、これらから歯科用硬化性組成物の硬化体の機械的強度を十分に高いものにする観点からは、該芳香族系ラジカル重合性単量体の質量比は上記上限値以下にすることが必要になる。
(C)樹枝状ポリマー
本発明の歯科用硬化性組成物に用いられる樹枝状ポリマーとしては、デンドリマー、リニア−デンドリティックポリマー、デンドリグラフトポリマー、ハイパーブランチポリマー、スターハイパーブランチポリマー、ハイパーグラフトポリマー等が挙げられる。この中でも前半の3種は分岐度が1であり、欠陥の無い構造を有しているのに対し、後半の3種は欠陥を含んでいても良いランダムな分岐構造を有している。
デンドリマーの分岐構造は、多官能基を有するモノマーを一段階ずつ化学反応させることで形成される。デンドリマーの合成法には、中心から外に向かって合成するDivergent法と外から中心に向かって行うConvergent法とを挙げることが出来る。デンドリマーの例としては、アミドアミン系デンドリマー(米国特許第4,507,466号明細書ほか)、フェニルエーテル系デンドリマー(米国特許第5,041,516号明細書ほか)が挙げられる。アミドアミン系デンドリマーについては、末端アミノ基とカルボン酸メチルエステル基とを持つデンドリマーが、Aldrich社より「StarburstTM(PAMAM)」として市販されている。また、そのアミドアミン系デンドリマーの末端アミノ基を、種々のアクリル酸誘導体およびメタクリル酸誘導体と反応させることで合成された、対応する末端をもったアミドアミン系デンドリマーを使用することもできる。
また、フェニルエーテル系デンドリマーについては、Journal of American Chemistry 112巻(1990年、7638〜 7647頁))に種々のものが記載されている。フェニルエーテル系デンドリマーについても、末端ベンジルエーテル結合の代わりに、末端を種々の化学構造を持つもので置換したものを使用することができる。
ハイパーブランチポリマーは、多段階合成反応を精密に制御し分岐構造を形成させるデンドリマーとは異なり、一般に一段階重合法により得られる合成高分子である。一段階で大きな分子を合成するため、分子量分布や分岐不十分単位が存在するが、前記デンドリマーと比べると、製造が容易であり製造コストが安価であるという大きなメリットがある。また、合成条件を適宜選択すれば分岐度も制御でき、用途に応じた分子設計も実施できる。ハイパーブランチポリマーは、1分子内に、分岐部分に相当する2つ以上の第一反応点と、接続部分に相当し、第一反応点とは異なる種類のただ1つの第二反応点とを持つモノマーを用いて、1段階の合成プロセスを経て合成される(Macromolecules、29巻(1996)、3831− 3838頁)。
このような合成プロセスとしては、例えば、1分子中に2種の官能基を持つABx型モノマーの自己縮合法、A2型モノマーとB3型モノマーとを重縮合する方法などが知られている(デンドリティック高分子−多分岐構造が拡げる高機能化の世界、株式会社エヌ・ティー・エス(2005))。そして、これら方法により一気に分岐構造を形成する。なお、上記に説明した合成方法の説明において、大文字のアルファベットで示す“A”と“B”とは、互に異なる官能基を示し、“A”および“B”に組み合わせて示されるアラビア数字は、1分子内の官能基の数を示す。
また、重合開始可能な官能基とビニル基とを1分子内に有する化合物の重合によってハイパーブランチポリマーを得る方法として、自己縮合性ビニル重合法(SCVP法)が知られている(Science、269、1080(1995))。また、多量の開始剤を用いて複数の重合性基を有する分子を重合させることにより、開始剤断片が生成重合体中に取り込まれたハイパーブランチポリマーを合成する方法として開始剤断片組込ラジカル重合法(IFIRP)が知られている(J.Polymer.Sci.:PartA:Polym.Chem.、42,3038(2003))。
ハイパーブランチポリマーの構造は、用いるABx型モノマーや得られたポリマーの表面官能基の化学修飾よって様々な構造を有する。ハイパーブランチポリマーとしては、骨格構造の分類上の観点から、ハイパーブランチポリカーボネート、ハイパーブランチポリエーテル、ハイパーブランチポリエステル、ハイパーブランチポリフェニレン、ハイパーブランチポリアミド、ハイパーブランチポリイミド、ハイパーブランチポリアミドイミド、ハイパーブランチポリシロキサン、ハイパーブランチポリカルボシラン等が挙げられる。また、それらハイパーブランチポリマーが有する末端基としては、アルキル基、フェニル基、ヘテロ環状基、(メタ)アクリル基、アリル基、スチリル基、ヒドロキシル基、アミノ基、イミノ基、カルボキシル基、ハロゲノ基、エポキシ基、チオール基、シリル基等が挙げられる。またこれら末端基をさらに化学修飾することにより、目的に応じた官能基をハイパーブランチポリマー表面に付与することも可能である。
本発明の歯科用硬化性組成物では、これら樹枝状ポリマーのうち1種のみを単独で用いてもよいし、2種類以上の樹枝状ポリマーを組み合わせて用いてもよい。上記に挙げた樹枝状ポリマーのうち、デンドリマーまたはハイパーブランチポリマーを特に好適に用いることができる。
樹枝状ポリマーは、分子間の絡み合いが少なく微粒子的挙動を示すので、樹枝状ポリマーが配合される歯科用硬化性組成物の粘度を高めることなく、高い親和性で微分散させることができる。このため、歯科用硬化性組成物に樹枝状ポリマーを一定量配合させると、硬化時の重合収縮が大きく低減できる。また、樹枝状ポリマーの分子量は、特に限定されるものではないが、GPC(Gel Permeation Chromatography)法による測定で、重量平均分子量が5000以上であることが好ましく、10000以上であることがより好ましく、15000以上であることが最も好ましい。また、重量平均分子量の上限は特に限定されるものではないが、大きすぎる場合には、樹枝状ポリマーの配合量を大きく変化させた場合に、歯科用硬化性組成物の操作性が低下する場合がある。このため、重量平均分子量は、実用上200000以下であることが好ましく、100000以下であることがより好ましく、80000以下であることが最も好ましい。
また、分子量を上記範囲内とした場合、動的光散乱法にて測定したテトラヒドロフラン(THF)中での流体力学的平均直径が1nm〜40nm前後程度の球状の樹枝状ポリマーを得ることができる。なお、流体力学的平均直径は、3nm〜20nmの範囲内が好ましく、5nm〜15nmの範囲内がより好ましい。
歯科用硬化性組成物に含まれる樹枝状ポリマーの配合量は、特に限定されないが、(A)芳香族系ラジカル重合性単量体および(B)脂肪族系ラジカル重合性単量体の合計量100質量部に対して、5〜50質量部とすることが必要であり、8質量部〜40質量部とすることがより好ましく、8質量部〜30質量部とすることが最も好ましい。樹枝状ポリマーの配合量を5質量部以上とすることにより、歯科用硬化性組成物を硬化させる際の重合収縮率をより小さくすることが容易となる。また、樹枝状ポリマーの配合量を50質量部以下とすることにより、操作性の劣化を防ぐと共に、硬化物の機械的強度を確保することが容易となる。
本発明の歯科用硬化性組成物に用いられる樹枝状ポリマーとしては、上記に説明した各種の樹枝状ポリマーが利用できるが、3分岐した分岐部分および4分岐した分岐部分から選択される少なくとも1種の分岐部分と、分岐部分同士を接続する接続部分とを含む網目状構造(網目状の多分岐構造)を有していることが好ましい。このような網目状構造を有する樹枝状ポリマーとしては、代表的には、ハイパーブランチポリマーが挙げられる。なお、網目状構造中の分岐がより発達して形成されているほど、網目状構造を構成する分子鎖の動きが制限されて、分子鎖同士の絡み合いが少なくなるため、歯科用硬化性組成物に対する樹枝状ポリマーの配合割合を増やしても粘度の増加を抑制することがより容易になる。
また、網目状構造の末端部分は、反応性の不飽和結合を有する基や、アミノ基、ヒドロキシル基などの反応性官能基を有していてもよく、反応性官能基を実質的に有していなくてもよい。なお、反応性官能基を実質的に有さない場合には、網目状構造の末端部分は、アルキル基などの非反応性官能基で占められることになる。ここで、「反応性官能基を実質的に有さない」とは、網目状構造の末端部分に反応性官能基を全く有さない場合のみならず、網目状構造を有する樹枝状ポリマーの合成時の副反応あるいは反応系中の不純物等に起因して、網目状構造の末端部分に、僅かながら反応性官能基が導入される場合も意味する。
歯科用硬化性組成物が硬化した後の硬化物中に反応性官能基が残留している場合、硬化物が口腔内環境において飲食物に曝されたり、自然光や室内光に曝されると、硬化物中に残留する反応性官能基が飲食物や、自然光、室内光と反応して、硬化物が着色したり変色したりし易くなる。しかしながら、網目状構造の末端部分が反応性官能基を実質的に有していない場合には、このような硬化物の着色や変色の発生を抑制することが極めて容易である。
なお、網目状構造の内部部分も反応性官能基を有していてもよい。しかしながら、網目状構造の内部部分に位置する反応性官能基は、末端部分に位置する反応性官能基と同様に着色や変色を招く可能性が高いため、網目状構造の内部部分は反応性官能基を実質的に有していないことが好ましい。
ハイパーブランチポリマーを構成する網目状構造において、分岐部分の分岐数は、3分岐または4分岐が一般的である。3分岐した分岐部分(3分岐部分)は、窒素原子、3価の環状炭化水素基または3価の複素環基により形成されているのが好ましく、4分岐した分岐部分(4分岐部分)は、炭素原子、ケイ素原子、4価の環状炭化水素基または4価の複素環基により形成されているのが好ましい。なお、(3価または4価)の環状炭化水素基としては、大別すると、(3価または4価の)のベンゼン環などに例示される芳香族炭化水素基、および、(3価または4価の)シクロヘキサン環などに例示される脂環炭化水素基が挙げられる。また、(3価または4価の)複素環基としては、公知の複素環基が利用できる。なお、3価の複素環基としては、たとえば、下記構造式1に示すものを挙げることもできる。
また、分岐部分同士を接続する接続部分は、下記構造式群Xから選択されるいずれか1種の2価の基または原子であるのが好ましい。ここで、構造式群X中、R11は、芳香族炭化水素基または炭素数40以下のアルキレン基であり、nは、1〜9の範囲から選択される整数である。なお、1つの分岐部分に結合する複数の接続部分は、いずれか2つ以上が同一であってもよく、1つの分岐部分に結合する全ての接続部分が互に異なっていてもよい。
また、こうした網目状構造の末端部分の一般例としては、水素原子、ハロゲン原子(−F、−Cl、−Br、もしくは、−I)、スチリル基、エポキシ基、グリシジル基、下記構造式群Zから選択されるいずれか1種の1価の基、後述する一般式(IIA)に示す1価の基、後述する一般式(IIB)に示す1価の基、1価の環状炭化水素基、または、1価の複素環基などが挙げられる。ここで、末端部分のうち、水素原子およびハロゲン原子を除いた基については、さらに化学修飾されたものでもよい。また、1価の環状炭化水素基および1価の複素環基は、環に結合する水素原子が、ハロゲン原子、カルボキシル基、アミノ基、水酸基、1価のカルボン酸エステルで置換されていてもよい。また、1価の環状炭化水素基としては、大別すると、1価のベンゼン環などに例示される芳香族炭化水素基、および、1価のシクロヘキサン環などに例示される脂環炭化水素基が挙げられる。
なお、構造式群Z中、R12は、1価の芳香族炭化水素基または炭素数40以下のアルキル基であり、R13は、2価の芳香族炭化水素基または炭素数40以下のアルキレン基である。また、構造式群Z中に示される基において、R12およびR13の双方を含む場合、価数を除いて両者の構造は同一であっても互いに異なっていてもよい。
本発明の歯科用硬化性組成物において、好適に使用できる樹枝状ポリマーの具体例としては、下記一般式(i)に示される単位構造が互いに結合して形成された網目状構造を有する樹枝状ポリマーが挙げられる。
ここで、一般式(i)中、Aは、CとR1とを結合する単結合(すなわち、CとR1とが単にσ結合で結合している状態)、>C=O、−O−、−COO−、または、−COO−CH2−であり、R1は、2価の飽和脂肪族炭化水素基、または、2価の芳香族炭化水素基であり、R2は、水素原子、または、メチル基であり、Yは、下記一般式(iia)で示される基、または、下記一般式(iib)で示される基である。末端部分を除いた網目状構造が、一般式(i)に示される単位構造から構成される場合、網目状構造を構成する一般式(i)に示される単位構造は、実質的に1種類のみから構成されていてもよく、2種類以上から構成されていてもよい。
なお、下記一般式(iia)で示される基、および、下記一般式(iib)で示される基において、aは0または1である。ここで、一般式(i)に示される単位構造は、Yが一般式(iia)で示される基の場合には4個の結合手を有する単位構造になり、Yが一般式(iib)で示される基の場合には3個の結合手を有する単位構造になる。ハイパーブランチポリマーの歯科用硬化性組成物に対する配合割合を増やした際に粘度の増加を抑制し易いという観点から、Yは一般式(iia)で示される基であるのが好ましい。
また、一般式(i)に示される単位構造により形成された網目状構造の末端部分としては、既述した末端部分の一般例として例示した各種の原子あるいは各種の基が挙げられる。
一般式(i)に示される単位構造を構成するR1は、2価の飽和脂肪族炭化水素基、または、2価の芳香族炭化水素基である。ここで、2価の飽和脂肪族炭化水素基は、鎖状または環状のいずれであってもよい。また、炭素数は特に限定されないが、1〜5の範囲内が好ましく、1〜2の範囲内がより好ましい。炭素数を5以下とすることにより、R1として示される分子鎖部分が短くなるため、歯科用硬化性組成物を構成するラジカル重合性単量体と、ハイパーブランチポリマーとの絡みあいをより一層抑制し、液状またはペースト状の歯科用硬化性組成物の粘度が増大するのをより一層抑制できる。2価の鎖状飽和脂肪族炭化水素基としては、たとえば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基などが挙げられる。また、2価の環状飽和脂肪族炭化水素基としては、シクロプロピレン基、シクロブチレン基などが挙げられる。
また、2価の芳香族炭化水素基としては、ベンゼン環を1つ含む単環状、ベンゼン環を2つ以上含みかつ縮環構造を有するもの、あるいは、ベンゼン環を2つ以上含みかつ縮環構造を有さないもの、のいずれであってもよい。2価の芳香族炭化水素基に含まれるベンゼン環の数は、特に限定されないが、1〜2の範囲内が好ましく、ベンゼン環の数は1であることが特に好ましい(言い換えれば2価の芳香族炭化水素基が、フェニレン基であることが特に好ましい)。ベンゼン環の数を2以下とすることにより歯科用硬化性組成物を構成するラジカル重合性単量体と、ハイパーブランチポリマーとの絡みあいをより一層抑制し、歯科用硬化性組成物の粘度が増大するのをより一層抑制できる。2価の芳香族炭化水素基としては、たとえば、上述したフェニレン基以外にも、ナフチレン基やビフェニレン基などを例示できる。
なお、以上に例示したR1の中でも、特にフェニレン基が好ましい。フェニレン基は、歯科用硬化性組成物中に添加されるハイパーブランチポリマーの配合量を大きく変化させても、歯科用硬化性組成物を用いて歯科治療を行う際の操作性や、硬化物の機械的物性への悪影響が少ない。このため、操作性や機械的物性に縛られずに、歯科用硬化性組成物の組成設計を行い易くなる。また、R1としてフェニレン基を用いた場合、歯科用硬化性組成物を硬化させた硬化物の機械的強度を向上させることができる。
上記一般式(i)に示される単位構造により形成された網目状構造を有するハイパーブランチポリマーの中でも、特に、好適なものを示せば、下記一般式(I)に示される単位構造と、下記一般式(IIA)に示される単位構造および下記一般式(IIB)に示される単位構造から選択される少なくとも一方の単位構造と、を含むハイパーブランチポリマーが挙げられる。ここで、一般式(I)に示される単位構造は、網目状構造自体を構成する4個の結合手を有する単位構造であり、一般式(IIA)および一般式(IIB)に示す単位構造は、網目状構造の末端部分(末端基)を構成する単位構造である。以下の説明において、これらの単位構造から構成された網目状構造を有するハイパーブランチポリマーのみを指し示す場合には、「ハイパーブランチポリマーA」と称す。
ここで、一般式(I)中、A、R1およびR2は、前記した一般式(i)に示すA、R1およびR2と同様である。
また、一般式(IIA)および一般式(IIB)中、R3、R4、R5は、水素原子、主鎖を構成する炭素原子の数が1個〜5個のアルキル基、主鎖を構成する炭素原子の数が1個〜5個のアルコキシカルボニル基、アリール基、または、シアノ基である。また、一般式(IIB)中、R6は、主鎖を構成する炭素原子の数が4個〜10個のアルキレン基である。
上記一般式(IIA)および一般式(IIB)を構成するR3、R4、R5は、特に、主鎖を構成する炭素原子の数が1個〜5個のアルキル基、主鎖を構成する炭素原子の数が1個〜5個のアルコキシカルボニル基、または、シアノ基であるのがより好ましい。アルキル基としては、たとえば、メチル基、エチル基、プロピル基などが挙げられ、アルコキシカルボニル基としては、たとえば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基などが挙げられ、アリール基としては、たとえば、フェニル基が挙げられる。なお、アルキル基およびアルコキシカルボニル基については、主鎖を構成する炭素原子の数を5個以下、特に、メチル基またはメトキシカルボニル基とすることにより、主鎖が短くなるため、歯科用硬化性組成物を構成するラジカル重合性単量体と、ハイパーブランチポリマーAとの絡みあいをより一層抑制し、歯科用硬化性組成物の粘度が増大するのをより一層抑制できる。
また、アルキル基、アルコキシカルボニル基およびアリール基の水素原子の一部を置換基で置換してもよい。当該置換基としては、着色・変色を招く構造・基(反応性の不飽和結合や、アミノ基、ヒドロキシル基など)を含むものでなければ特に限定されないが、たとえば、メチル基などの炭素数1個〜3個のアルキル基、メトキシ基などの炭素数1個〜3個のアルコキシル基などを挙げることができる。なお、アルキル基およびアルコキシル基については、炭素数を3個以下、特に、メチル基またはメトキシ基とすることにより、置換基により構成される側鎖が短くなるため、歯科用硬化性組成物を構成するラジカル重合性単量体と、ハイパーブランチポリマーAとの絡みあいをより一層抑制し、歯科用硬化性組成物の粘度が増大するのをより一層抑制できる。
一般式(IIB)を構成するR6は、主鎖を構成する炭素原子の数が4個〜10個のアルキレン基である。アルキレン基としては、たとえば、ブチレン基、ペンチレン基、ノニレン基などが挙げられる。また、アルキレン基の水素原子の一部を置換基で置換してもよい。当該置換基としては、着色・変色を招く構造・基(反応性の不飽和結合や、アミノ基、ヒドロキシル基など)を含むものでなければ特に限定されないが、たとえば、メチル基などの炭素数1個〜3個のアルキル基、メトキシ基などの炭素数1個〜3個のアルコキシル基などを挙げることができる。なお、アルキレン基の主鎖を構成する炭素原子の数を4個以上とすることにより、R6とR6の両端と結合する炭素原子とから構成される環の歪を抑制できる。このため、環が歪んで不安定化することによって周囲の物質と反応することにより、着色を招く可能性を抑制できる。
また、アルキレン基の主鎖を構成する炭素原子の数を10個以下とすることで主鎖が短くなり、あるいは、置換基として選択されるアルキル基およびアルコキシル基の炭素数を3個以下、特に、メチル基またはメトキシ基としたりすることにより、置換基により構成される側鎖が短くなるため、歯科用硬化性組成物を構成するラジカル重合性単量体と、ハイパーブランチポリマーAとの絡みあいをより一層抑制し、歯科用硬化性組成物の粘度が増大するのをより一層抑制できる。なお、環の歪の抑制と粘度の抑制の両立の観点からは、アルキレン基はペンチレン基が特に好ましい。
なお、一般式(I)で示される第一の単位構造の4個の結合手には、一般式(I)で示される第一の単位構造、または、一般式(IIA)および一般式(IIB)で示される2種類の単位構造から選択される第二の単位構造が結合することができる。また、ハイパーブランチポリマーAが一般式(I)、一般式(IIA)および一般式(IIB)以外のその他の単位構造(第三の単位構造)を含む場合は、4個の結合手には、第三の単位構造も結合することができる。
ここで、4個の結合手の少なくともいずれか1個の結合手を介して、第一の単位構造同士が結合することにより網目状構造が形成される。また、網目状構造を分断する末端基である第二の単位構造は、第一の単位構造の4個の結合手のうち、最大で3個の結合手に結合することができる。ここで、ハイパーブランチポリマーAに含まれる第一の単位構造と第二の単位構造との含有比(モル比)は、特に限定されないが、3:7〜7:3の範囲内とすることが好ましく、4:6〜6:4の範囲内とすることがより好ましい。モル比を上記範囲内とすることにより、適度な分岐を持つ網目状構造が形成できると共に、ハイパーブランチポリマーAを溶媒に分散させた溶液の粘度の著しい増加も抑制することができる。
なお、ハイパーブランチポリマーAに、2個以上の結合手を有する第三の単位構造も含まれる場合、第一の単位構造および第二の単位構造に対する第三の単位構造の含有割合にも依存するものの、第一の単位構造と第二の単位構造との含有比(モル比)は、網目状構造が形成できる範囲で、たとえば、1:9〜7:3の範囲内から選択することが好まく、2:8〜7:3の範囲内から選択することがより好ましい。なお、この場合も、第一の単位構造と第二の単位構造との含有比(モル比)は、3:7〜7:3の範囲内とすることがさらに好ましく、4:6〜6:4の範囲内とすることが特に好ましい。
上述のような、一般式(I)に示す単位構造と、一般式(IIA)に示す単位構造および一般式(IIB)に示す単位構造から選択される少なくとも一方の単位構造と、を含むハイパーブランチポリマーAは、分子内に反応性の不飽和結合や、アミノ基、ヒドロキシル基などの反応性の官能基を含まない。また、ラジカル重合性単量体は、重合反応により反応性の官能基を消失する。このため、ハイパーブランチポリマーAを用いた本実施形態の歯科用硬化性組成物は、硬化させた後に口腔内環境において飲食物に曝されたり、自然光や室内光に曝されたりしても、着色や変色が生じ難い。
また、一般式(I)に示す単位構造と、一般式(IIA)に示す単位構造および一般式(IIB)に示す単位構造から選択される少なくとも一方の単位構造と、を含むハイパーブランチポリマーAは、一般式(IIA)および(IIB)に示す単位構造を基本とした網目状構造を有する。すなわち、枝分かれした分子鎖の両末端の動きは非常に制約されている。このため、隣接する枝部分同士が絡み合うことは非常に困難であり、歯科用硬化性組成物の粘度上昇が生じ難い。
なお、本実施形態の歯科用接着性組成物に好適に用いられるハイパーブランチポリマーAには、第三の単位構造として、下記一般式(IIIA)に示される単位構造、下記一般式(IIIB)に示される単位構造、下記一般式(IIIC)に示される単位構造、および、下記一般式(IIID)に示される単位構造から選択される少なくともいずれか1種の単位構造が含まれていてもよい。なお、下記一般式(IIIA)および下記一般式(IIID)に示される第三の単位構造は、ハイパーブランチポリマーAを合成する際の不純成分として、ハイパーブランチポリマーAに含まれることがある。
ここで、一般式(IIIA)、一般式(IIIB)、一般式(IIIC)および一般式(IIID)中、A、R1およびR2は、一般式(i)に示すA、R1およびR2と同様である。また、一般式(IIIB)中、R7は、1価の飽和脂肪族炭化水素基、または、1価の芳香族炭化水素基であり、一般式(IIIC)中、R8は、4価の飽和脂肪族炭化水素基、または、4価の芳香族炭化水素基であり、一般式(IIID)中、Bは、−COO−CH=である。
また、一般式(IIIA)および一般式(IIID)に示される第三の単位構造は、反応性の不飽和結合を含むため、硬化物の着色や変色を促進し易い。このため、ハイパーブランチポリマーが、一般式(I)に示す第一の単位構造、ならびに、一般式(IIA)に示す単位構造および一般式(IIB)に示す単位構造から選択される第二の単位構造に加えて、一般式(IIIA)および(IIID)に示す第三の単位構造も含む場合、全単位構造に占める一般式(VA)および(VD)で示される第三の単位構造の割合は、20モル%以下であることが好ましく、10モル%以下であることがより好ましく、5モル%以下であることがさらに好ましい。
また、一般式(IIIA)および一般式(IIIB)および一般式(IIID)に例示されるような結合手を2個有する第三の単位構造と、一般式(I)に示される第一の単位構造との比率は、6:4〜0:10の範囲内が好ましく、4:6〜0:10の範囲内がより好ましく、0:10が最も好ましい。結合手を2つ有する第三の単位構造と、一般式(I)に示される第一の単位構造との比率を上記範囲内とすることにより、適度な分岐を持つ網目状構造が形成できると共に、ハイパーブランチポリマーAを配合させた歯科用硬化性組成物の粘度の著しい増加も抑制することができる。
一般式(IIIB)に示す第三の単位構造を構成するR7および一般式(IIIC)に示す第三の単位構造を構成するR8は、価数が異なる以外は、R1と同様の構造を有するものが利用できる。
なお、一般式(IIA)および一般式(IIB)で示される第二の単位構造は、本実施形態の歯科用硬化性組成物に用いられるハイパーブランチポリマーAの合成過程において用いられる原料成分(たとえば、モノマー、重合開始剤、末端基の修飾剤など)に由来する構造である。当該原料成分としては特に限定されないが、たとえば、公知の重合開始剤が挙げられ、好ましくは、国際公開第2010/126140号に開示されるアゾ系重合開始剤が挙げられる。ただし、本実施形態の歯科用硬化性組成物において、上記に列挙した原料成分、重合開始剤あるいはアゾ系重合開始剤のうち、ハイパーブランチポリマーAを合成し終えた後において、一般式(IIA)および/または一般式(IIB)に示す構造を取りうるものを採用することが好ましい。このため、本実施形態の歯科用硬化性組成物は、着色や変色が生じ難い。
一般式(IIA)で示される第二の単位構造の具体例としては、たとえば、下記構造式A〜構造式Kが挙げられ、一般式(IIB)で示される第二の単位構造の具体例としては、下記構造式L〜構造式Mが挙げられる。これら構造式A〜構造式Mに示される第二の単位構造は、ハイパーブランチポリマーAの入手容易性という点で特に好適である。
以上に説明したような分子構造を有するハイパーブランチポリマーAとしては、たとえば、下記(1)〜(6)に示すものが挙げられる。
(1)T.Hirano et al.,J.Appl.Polym.Sci.,2006,100,664−670に開示されたハイパーブランチポリマー(A:CとR1とを結合する単結合、R1:フェニレン基、R2:水素原子、R3:−CH3、R4:−CH3、R5:−COOCH3)。なお、実質同一の分子構造を有する市販のハイパーブランチポリマーとして、HYPERTECH(登録商標)/HA−DVB−500(日産化学工業株式会社製、GPC法による分子量:48000、流体力学的平均直径11.7nm(in THF))が挙げられる。
(2)T.Hirano et al.,Macromol.Chem.Phys.,205,206,860−868に開示されたハイパーブランチポリマー(A:−COO−、R1:−(CH2)2−、R2:−CH3、R3:−CH3、R4:−CH3、R5:−COOCH3)。なお、実質同一の分子構造を有する市販のハイパーブランチポリマーとして、日産化学工業株式会社製のHYPERTECH(登録商標);HA−DMA−200(GPC法による分子量22000、流体力学的平均直径5.2nm(in THF))、HA−DMA−50(試供サンプル品、GPC法による分子量4000)、および、HA−DMA−700(試供サンプル品、GPC法による分子量67000)が挙げられる。
(3)T.Sato et al.,Macromolecules,2005,38,1627−1632に開示されたハイパーブランチポリマー(A:−COO−、R1:−(CH2)4−、R2:−H、R3:−CH3、R4:−CH3、R5:−COOCH3)。
(4)T.Sato et al.,Macromole.Mater.Eng.,2006,291,162−172に開示されたハイパーブランチポリマー。なお、このハイパーブランチポリマーは、一般式(IIIB)で示す第三の単位構造も含む。ここで、一般式(I)に示す第一の単位構造はA:CとR1とを結合する単結合、R1:フェニレン基、R2:−Hであり、一般式(IIIB)で示す第三の単位構造はA:−COO−、R7:エチル基、R2:−Hである。また、一般式(IIA)に示す第二の単位構造はR3:−CH3、R4:−CH3、R5:−COOCH3である。
(5)T.Sato et al.,Polym.Int.2004,53,1138−1144に開示されたハイパーブランチポリマー。なお、このハイパーブランチポリマーは、一般式(IIIB)で示す第三の単位構造も含む。ここで、一般式(I)に示す第一の単位構造はA:−COO−、R1:−(CH2)4−、R2:−Hであり、一般式(IIIB)で示す第三の単位構造はA:−O−、R7:2−メチルプロピル基、R2:−Hである。また、一般式(IIA)に示す第二の単位構造はR3:−CH3、R4:−CH3、R5:−CNである。
(6)T.Sato et al.,J.Appl.Polym.Sci.2006,102,408に開示されたハイパーブランチポリマー。なお、このハイパーブランチポリマーは、一般式(VD)で示す第三の単位構造も含む。ここで、一般式(I)に示す第一の単位構造はA:−COO−CH2−、R1:フェニレン基(2個の結合手はオルト位)、R2:−Hであり、一般式(IIID)で示す第三の単位構造はA:−COO−CH2−、B:−COO−CH=、R1:フェニレン基(2個の結合手はオルト位)、R2:−Hである。また、一般式(IIA)に示す第二の単位構造はR3:−CH3、R4:−CH3、R5:−COOCH3である。
また、現時点において、ハイパーブランチポリマーAを含む各種の市販のハイパーブランチポリマーとしては、上述した日産化学工業株式会社の「HYPERTECH」(登録商標)シリーズの他にも、DSM社の「Hybrane」(登録商標)、Perstop社の「Boltorn」(登録商標)などが挙げられる。なお、「HYPERTECH」、「Hybrane」、「Boltorn」は分子量、粘度、末端基の異なるグレードが販売されている。ここで、HYPERTECHシリーズについては、ハイパーブランチポリマーA以外の、一般式(i)に示される単位構造により形成された網目状構造を有するハイパーブランチポリマーとして、HPS−200(Yが一般式(iib)で示される基であり、3個の結合手を有する単位構造により網目状構造が形成されている)等も存在する。
(D)充填材
本発明の歯科用硬化性組成物は、充填材が配合されていることにより、歯科用硬化性組成物の重合収縮の抑制効果をより大きく出来ると共に、操作性を改善したり、機械的強度を向上したりすることができる。こうした充填材としては、無機フィラー、有機フィラー、および有機―無機複合フィラーから選択される1種以上を適宜用いることができる。ラジカル重合性単量体との相溶性が悪い無機フィラーが多量に配合されている組成では、さらに、樹枝状ポリマーが多量に配合されていると、その機械的強度の向上効果が十分に発揮できなくなり易い。したがって、こうした組成では、該ラジカル重合性単量体として芳香族系のものを特定の質量比で併用する本発明の効果がより顕著に発揮されるため特に好ましい。
本発明において好適に使用される無機フィラーとしては、例えば、周期律第I、II、III、IV族、遷移金属およびそれらの酸化物、フッ化物、炭酸塩、硫酸塩、珪酸塩、水酸化物、塩化物、亜硫酸塩、燐酸塩、およびこれらの混合物、複合塩等が挙げられる。より具体的には、非晶質シリカ、石英、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化バリウム、酸化イットリウム、酸化ランタン、酸化イッテルビウム等の無機酸化物、シリカ−ジルコニア、シリカ−チタニア、シリカ−チタニア−酸化バリウム、シリカ−チタニア−ジルコニア、ホウ珪酸ガラス、アルミノシリケートガラス、フルオロアルミノシリケートガラス等の複合酸化物、フッ化バリウム、フッ化ストロンチウム、フッ化イットリウム、フッ化ランタン、フッ化イッテルビウム等の無機フッ化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウム等の無機炭酸塩、硫酸マグネシウム、硫酸バリウム等の無機硫酸塩等が挙げられる。
有機フィラーとしては、例えば、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリエチル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート・エチル(メタ)アクリレート共重合体、メチル(メタ)アクリレート・ブチル(メタ)アクリレート共重合体、若しくはメチル(メタ)アクリレート・スチレン共重合体等の非架橋性ポリマー、またはメチル(メタ)アクリレート・エチレングリコールジ(メタ)アクリレート共重合体、メチル(メタ)アクリレート・トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート共重合体、若しくは(メタ)アクリル酸メチルとブタジエン系単量体との共重合体等の架橋性ポリマーが使用できる。
有機―無機複合フィラーは、例えば重合性単量体及び無機フィラーを含む重合硬化性組成物を硬化させて得た硬化体を粉砕することや、無機フィラー凝集粒子の一次粒子同士の凝集間隙に重合性単量体を侵入させた後に重合性単量体を重合させることによって製造することができる。
有機―無機複合フィラーの原料フィラー(以下、「複合フィラー原料フィラー」と略する)としては、歯科用複合修復材として使用可能な公知のフィラーがなんら制限なく使用可能である。好適に使用できる複合フィラー原料フィラーの例としては、フィラーの項の無機フィラーとして例示したものが挙げられる。これら重合性単量体は、単独で使用しても、異なる種類のものを混合して用いてもよい。
また、有機―無機複合フィラーの原料重合性組成物(以下、「複合フィラー原料モノマー」と略する)についても歯科用複合修復材として使用可能な公知の重合性単量体がなんら制限なく使用可能である。好適に使用できる複合フィラー原料モノマーの例としては芳香族系ラジカル重合性単量体および脂肪族系ラジカル重合性単量体の説明で例示したものが挙げられる。これら重合性単量体は、単独で使用しても、異なる種類のものを混合して用いてもよい。
複合フィラーは、重合開始剤を用いて、その成分である前記複合フィラー原料モノマーを重合させることにより硬化されるが、重合開始剤としては、公知の重合開始剤が特に制限なく用いられる。一般に、重合開始剤は重合性単量体の重合手段によって異なる種類のものが使用される。重合手段には、紫外線、可視光線等の光エネルギーによるもの、過酸化物と促進剤との化学反応によるもの、加熱によるもの等があり、採用する重合手段に応じて下記に示す各種重合開始剤の中から適した重合開始剤を適宜選定すればよいが、より黄色度の低い硬化体を得ることができるという観点から、熱重合開始剤を用いるのが好適である。重合開始剤の例としては重合開始剤の項で例示したものが挙げられる。これら重合開始剤は単独で用いることもあるが、2種以上を混合して使用してもよい。重合開始剤の添加量は目的に応じて選択すればよいが、複合フィラー原料モノマー100重量部に対して通常0.01〜10重量部の割合であり、より好ましくは0.1〜5重量部の割合で使用される。
また、複合フィラー原料モノマーの重合に際しては、本発明の効果を阻害しない範囲で、重合前に公知の添加剤を配合することもできる。かかる添加剤としては、顔料、紫外線吸収剤、蛍光顔料等が挙げられる。
また、該複合フィラーは、無機フィラーや重合性単量体などと混合するに先立ち、洗浄、脱色、及び表面処理を行ってもよい。脱色は一般的には、適切な溶媒に有機無機複合フィラーを分散させ、過酸化物を溶解撹拌、場合によっては加熱することで行われ、過酸化物としては公知の過酸化物が好適に使用できる。
充填材は、シランカップリング剤に代表される表面処理剤で疎水化処理することにより、重合性単量体との親和性、重合性単量体への分散性、硬化体の機械的強度及び耐水性を向上できる。シランカップリング材の例としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン等が挙げられる。
上述した充填材の屈折率は、特に限定されない。一般的な歯科用途には、25℃における屈折率が1.4〜1.7の範囲のものが好適に用いられる。また、形状あるいは粒子径についても、特に制限はない。形状あるいは粒子径を適宜選択して使用されるが、平均粒子径は通常0.001〜100μmである。さらには、無機フィラーの場合は0.001〜20μm、特に0.01〜10μmが好ましく、有機フィラーの場合には0.1μm〜10μm、特に0.1μm〜1μmが好ましく、有機―無機複合フィラーの場合には1μm〜100μm、特に5μm〜50μmが好ましい。また、上述した充填材の中でも、特に、球状の充填材を用いると、得られる硬化体の表面滑沢性が増し、優れた修復材料となり得るので好ましい。
これらの充填材の配合量は、歯科用充填修復材に求められる、硬化体の強度や重合収縮の小ささの他、重合性単量体と混合した時の粘度(操作性)や硬化体の機械的物性を考慮して適宜決定すればよいが、一般的には、(A)芳香族系ラジカル重合性単量体および(B)脂肪族系ラジカル重合性単量体の合計量100質量部に対して150〜1500質量部の範囲で用いられる。特に、本発明が目的とする、歯科用硬化性組成物に、樹枝状ポリマーを配合した場合において、充填材の配合で高められるべき機械的強度が十分に発揮されない問題は、前記したように充填材がより多量に配合されている場合に顕著であるため、充填材の配合量は、180〜600質量部が好ましい。
(E)重合開始剤
重合開始剤としては、歯科用材料として用いられる公知のものが何ら制限なく使用でき、歯科用硬化性組成物を口腔内で扱う際の取り扱いやすさの点から、光重合開始剤が好ましい。代表的な光重合開始剤としては、α−ジケトン類及び第三級アミン類の組み合わせ,アシルホスフィンオキサイド及び第三級アミン類の組み合わせ、チオキサントン類及び第三級アミン類の組み合わせ,α−アミノアセトフェノン類及び第三級アミン類の組み合わせ,アリールボレート類及び光酸発生剤類の組み合わせ等の光重合開始剤が挙げられる。
上記各種光重合開始剤に好適に使用される各種化合物を例示すると、α−ジケトン類としては、カンファーキノン、ベンジル、α−ナフチル、アセトナフテン、ナフトキノン、p,p'−ジメトキシベンジル、p,p'−ジクロロベンジルアセチル、1,2−フェナントレンキノン、1,4−フェナントレンキノン、3,4−フェナントレンキノン、9,10−フェナントレンキノン等が挙げられる。
三級アミンとしては、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、N,N−ジ−n−ブチルアニリン、N,N−ジベンジルアニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジエチル−p−トルイジン、N,N−ジメチル−m−トルイジン、p−ブロモ−N,N−ジメチルアニリン、m−クロロ−N,N−ジメチルアニリン、p−ジメチルアミノベンズアルデヒド、p−ジメチルアミノアセトフェノン、p−ジメチルアミノ安息香酸、p−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、p−ジメチルアミノ安息香酸アミルエステル、N,N−ジメチルアンスラニリックアシッドメチルエステル、N,N−ジヒドロキシエチルアニリン、N,N−ジヒドロキシエチル−p−トルイジン、p−ジメチルアミノフェネチルアルコール、p−ジメチルアミノスチルベン、N,N−ジメチル−3,5−キシリジン、4−ジメチルアミノピリジン、N,N−ジメチル−α−ナフチルアミン、N,N−ジメチル−β−ナフチルアミン、トリブチルアミン、トリプロピルアミン、トリエチルアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、N,N−ジメチルヘキシルアミン、N,N−ジメチルドデシルアミン、N,N−ジメチルステアリルアミン、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルメタクリレート、2,2'−(n−ブチルイミノ)ジエタノール等が挙げられる。これらは、単独又は2種以上を配合して使用することができる。
アシルホスフィンオキサイド類としては、ベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,6−ジメトキシベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,6−ジクロロベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,3,5,6−テトラメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド等が挙げられる。
チオキサントン類としては、2−クロロチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン等が挙げられる。
α−アミノアセトフェノン類としては、2−ベンジル−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、2−ベンジル−ジエチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、2−ベンジル−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−プロパノン−1、2−ベンジル−ジエチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−プロパノン−1、2−ベンジル−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ペンタノン−1、2−ベンジル−ジエチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ペンタノン−1等が挙げられる。
上記光重合開始剤は単独で用いても、2種類以上のものを混合して用いても良い。
その他、本発明の歯科用硬化性組成物には、歯牙の色調に合わせるために、顔料、蛍光顔料、染料、紫外線に対する変色防止のために紫外線吸収剤を添加してもよいし、その他、充填修復材の成分として公知の添加剤を、本発明の効果に影響のない範囲で配合しても良い。
本発明において、上記各成分を混合して歯科用硬化性組成物とする方法は、特に制限はなく歯科用材料の公知の製造方法に従えば良い。例えば、赤色光下に、配合される全成分を秤取り、均一になるまでよく混合しても良い。得られる歯科用硬化性組成物において、硬化時の重合収縮をより小さくし、さらに、硬化体の機械的強度もより高いものにするためには、(C)樹枝状ポリマーは(D)充填材よりも先にラジカル重合性単量体成分((A)芳香族系ラジカル重合性単量体および(B)脂肪族系ラジカル重合性単量体)と混合するのが好ましい。それにより、(C)樹枝状ポリマーの微分散性より向上し、引いては後の(D)充填材の分散性も向上し、上記本発明の効果がより顕著に発揮されるようになる。すなわち、本発明において得に好ましい歯科用硬化性組成物の製造方法は、A)芳香族系ラジカル重合性単量体および(B)脂肪族系ラジカル重合性単量体が質量比55/45〜85/15で混合してなるラジカル重合性単量体成分100質量部と(C)樹枝状ポリマーとを5〜50質量部とを混合し、次いで、(D)充填材の150〜1500質量部を混合し、係る製造の過程のいずれかの箇所で(E)重合開始剤を混合する方法である。この製造方法において、重合開始剤は、上記製造過程のいずれかの箇所で配合すれば良く、先の、樹枝状ポリマーのラジカル重合性単量体成分との混合工程でも良く、後の該ラジカル重合性単量体成分と樹枝状ポリマーの混合物に対する充填材の混合工程でも良く、これらとは別工程としてでも良い。
ラジカル重合性耐単量体と樹枝状ポリマーの混合は、マグネチックスターラー、メカニカルスターラー、プロペラ式攪拌機等の通常の攪拌装置を用いて行なえば良い。混合温度は、通常20〜70℃であり、混合時間は、樹枝状ポリマーの種類により異なるが、30分〜5000分が好ましく、300分〜1800分がより好ましい。ラジカル重合性単量体および樹枝状ポリマーの混合物と充填材の混合は、ディゾルバー、バタフライミキサー、ポニーミキサー等の公知の混合装置を用いれば良いが、好ましくは、遊星運動により混合する混合装置、例えばプラネタリーミキサーを用いて行なえば良い。混合温度は、通常20〜70℃であり、混合時間は、120〜1500分が好ましく、240〜480分がより好ましい。
以下に本発明を実施例を挙げてより詳細に説明するが、本発明は以下に示す実施例のみに限定されるものではない。
実施例および比較例で使用した化合物の略称は以下の通りである。
[芳香族系ラジカル重合性単量体]
・D−2.6E:2,2−ビス(4−(メタクリロイルオキシエトキシ)フェニル)プロパン
・bis−GMA:2,2−ビス(4−(2−ヒドロキシ−3−メタクリロイルオキシプロポキシ)フェニル)プロパン
[脂肪族系ラジカル重合性単量体]
・3G:トリエチレングリコールジメタクリレート
・ND:1,9−ノナンジオールジメタクリレート
・UDMA:1,6−ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)2,2,4−トリメチルヘキサン
[光重合開始剤]
・CQ:カンファーキノン
[第三級アミン化合物]
・DMBE:p−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル
[添加剤]
・HQME:ヒドロキノンモノメチルエーテル
・BHT:2,5−ジ−t−ブチル−p−クレゾール
[フィラー]
・0.4Si−Zr:球状シリカ−ジルコニア、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン表面処理物(平均粒径:0.4μm)
・0.08Si−Zr:球状シリカ−ジルコニア、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン表面処理物(平均粒径:0.08μm)
[ハイパーブランチポリマー]
・HA−DMA−200:
日産化学工業株式会社、GPC法による分子量:22000、流体力学的平均直径:5.2nm(in THF)
・HA−DVB−500:
日産化学工業株式会社、GPC法による分子量:48000、流体力学的平均直径:11.7nm(in THF)
・HPS−200:
日産化学工業株式会社、GPC法による分子量:23000、流体力学的平均直径7.5nm(in THF)
・PEI:
Poly(ethylenimide)、Polysciences社製、GPC法による質量平均分子量:10000
表1及び表2に各実施例および各比較例の歯科用充填修復材の組成を示した。
なお、表1中に示すフィラー組成物は以下に示す組成物である。
<フィラー組成物>
・0.4Si−Zr70質量部
・0.08Si−Zr30質量部
また、表1のすべての歯科用充填修復材に、以下の添加剤が含まれている。
<添加剤>
・CQ:0.2質量部
・DMBE:0.35
・HQME:0.15質量部
・BHT:0.02質量部
また、表1および表2中に示す各成分の混合は、以下の方法により行なった。なお、比較例
<製法1>
先ず、芳香族系ラジカル重合性単量体および脂肪族系ラジカル重合性単量体と樹枝状ポリマーとを混ぜ、55℃にて24時間メカニカルスターラーにて攪拌した。次に、得られた混合物に添加剤を混合し、メカニカルスターラーにて25℃にて300分間攪拌し溶解させた。その後、赤色光下、45℃にて、プラネタリーミキサーを用いて、この混合物とフィラー組成物とを7時間混合し、目視下では均一な組成物からなる歯科用充填修復材を得た。
<製法2>
先ず、芳香族系ラジカル重合性単量体および脂肪族系ラジカル重合性単量体に添加剤を配合しメカニカルスターラーにて25℃にて300分間攪拌し溶解させた。その後、赤色光下、45℃にて、プラネタリーミキサーを用いて、得られた混合物と樹枝状ポリマーおよびフィラー組成物とを7時間混合し、目視下では均一な組成物からなる歯科用充填修復材を得た。なお、比較例5および7は、上記添加剤を溶解させた芳香族系ラジカル重合性単量体および脂肪族系ラジカル重合性単量体に、フィラー組成物のみを混合する態様で実施した。
実施例1〜20、比較例1〜7
各実施例および比較例の歯科用充填修復材について、曲げ強さおよび重合収縮率を測定した。結果を表2に示した。また、実施例3,4,11〜16の歯科用充填修復材については、耐着色性試験および耐光性試験も併せて測定し、結果を表3に示した。
評価結果について、同一のフィラー組成物および同量の樹枝状ポリマーを用いた実施例および比較例の間で比較した場合、以下のことが判った。芳香族系ラジカル重合性単量体が全重合性単量体に占める割合が55%〜85%の範囲に含まれる実施例1〜22の曲げ強さは95MPa以上であった。一方で、芳香族系ラジカル重合性単量体が全重合性単量体に占める割合が55%〜85%の範囲に含まれない比較例1〜4、6、7の曲げ強さは、すべて95MPa以下であった。樹枝状ポリマーを用いていない比較例5は、曲げ強さは高い値であったが、樹枝状ポリマーを添加した実施例4と比較して重合収縮率が大きかった。
組成が同一であり調製方法が異なる実施例3、4と実施例17、18を比較すると、充填材とラジカル重合性単量体成分(芳香族系ラジカル重合性単量体および脂肪族系ラジカル重合性単量体)を混合するより前に、該ラジカル重合性単量体成分と樹枝状ポリマーとを混合した実施例3、4は、ラジカル重合性単量体成分と樹枝状ポリマーおよび充填材とをまとめて混合した実施例17、18と比較して高い曲げ強さを示した。
ハイパーブランチポリマー以外の成分が同一である実施例3、11、13、15および実施例4、12、14、16についてそれぞれ比較を行うと、ハイパーブランチポリマーAに該当する樹枝状ポリマーを添加した実施例3、4、11、12は、ハイパーブランチポリマーAに該当しない樹枝状ポリマーを添加した実施例13〜16に比べて、耐着色性および耐光性の点で優れていた。これは、実施例13〜16にて添加した樹枝状ポリマーは、反応性不飽和結合やアミノ基を有しており、これらの構造・基が着色・変色の原因となったのに対して、ハイパーブランチポリマーAにはこれらの構造・基が実質的に含まれていないため、良好な耐着色性、耐光性を示したものと推定される。
なお、表3、表4に示す、曲げ強さ、重合収縮率、耐着色性試験、耐光性試験の測定方法は以下の通りである。
[曲げ強さ]
曲げ強さ測定は以下の手順で実施した。まず、ステンレス製型枠に歯科用充填修復材を充填し、ステンレス製型枠の表裏面の開口部に露出している歯科用充填修復材の両面を各々ポリプロピレンフィルムで圧接した。この状態で、歯科用光照射器(トクソーパワーライト、株式会社トクヤマデンタル製;光出力密度700mW/cm2)を用いて表面および裏面側から各々光照射を行った。光照射は、片面について、1回当たり10秒間実施し、歯科用充填修復材全体に光が照射されるように照射位置を変えて合計5回実施した。また、光照射は、歯科用光照射器をポリプロピレンフィルムに密着させて実施した。これにより、硬化体を得た。次に、硬化体を、37℃の水中にて一晩保存した後、さらに#1500の耐水研磨紙にて研磨することで、角柱状の試験片(2mm×2mm×25mm)を得た。その後、試料片を試験機(島津製作所製、オートグラフAG5000D)に装着し、支点間距離20mm、クロスヘッドスピード1mm/分で3点曲げ破壊強度を測定した。そして、試験片5個について測定して得られた値の平均値を曲げ強さとした。
[重合収縮率]
直径3mmの貫通孔が形成された、厚み7mmのステンレス鋼(SUS)製割型に、直径3mm弱、高さ4mmのSUS製プランジャーを若干の遊嵌状態で填入して、貫通孔の一方の開口を閉塞し、孔の深さを3mmに調整した。次に、この孔内に歯科用充填修復材を充填した後、孔の上端をポリプロピレンフィルムで圧接した。次に、ガラス製台のガラス天板の中央下方に、歯科用照射器(トクソーパワーライト、株式会社トクヤマデンタル製;光出力密度700mW/cm2)を備え付けた。このガラス製台のガラス天板の中央上面に、上記SUS製割型を、そのポリプロピレンフィルムが貼り付けられた面を下に向けた状態で載せた。そして、更にSUS製プランジャーの上面に微小な針の動きを計測できる短針を接触させた。この状態で、歯科用照射器によって歯科用充填修復材を重合硬化させ、照射開始より3分後の収縮率[%]を、短針の上下方向の移動距雛から算出した。
[耐着色性試験]
直径8mmの貫通孔を有する厚さ3mmのポリアセタール製型に歯科用充填修復材を填入した後、貫通孔の両端をポリプロピレンフィルムで圧接した。次に、歯科用光照射器(トクソーパワーライト、株式会社トクヤマデンタル製;光出力密度700mW/cm2)にて10秒間光照射を行い、硬化体(試験片)を作製した。得られた試験片についてはその表面のバフ研磨を行った。その後、表面が研磨処理された試験片を、濃度が7.4質量%のコーヒー水溶液100ml中に、80℃で24時間浸漬した。浸漬後、水洗、乾燥した試験片の着色度合を、目視にて観察した。この際、同一のマトリックス組成物および同一のフィラー組成物を用いて作製されたサンプル間において、ハイパーブランチポリマーを含まない歯科用充填修復材を基準サンプルとして、着色度合を相対評価した。評価基準は以下の通りである。
A:評価したサンプルの着色度合が、基準サンプルの着色度合とほぼ同程度である。
B:評価したサンプルの着色度合が、基準サンプルの着色度合と比べて、極僅かに悪い。
C:評価したサンプルの着色度合が、基準サンプルの着色度合と比べて、少し悪い。
D:評価したサンプルの着色度合が、基準サンプルの着色度合と比べて、非常に悪い(C評価より悪いがE評価よりは良好である)。
E:評価したサンプルの着色度合が、基準サンプルの着色度合と比べて、著しく悪い。
[耐光性試験]
直径15mmの貫通孔を有する厚さ1mmのポリアセタール製型に歯科用充填修復材を填入した後、貫通孔の両端をポリプロピレンフィルムで圧接した。次に、歯科用光照射器(トクソーパワーライト、株式会社トクヤマデンタル製;光出力密度700mW/cm2)にて、貫通孔内に充填された円形状の歯科用充填修復材全体に光が照射されるように、円内5箇所(円の中央部および円周近傍を円周方向に90度毎の位置)を各10秒ずつ光照射した。これにより、円板状の硬化体(試験片)を得た。次に、得られた試験片の半分をアルミ箔で覆い、キセノンウェザーメーター(スガ試験機社製、光強度40W/m2)にて擬似太陽光に延べ4時間曝露した。その後、アルミ箔で覆った部分(未露光部)および擬似太陽光に曝露した部分(露光部)の色調を目視にて観察した。評価基準は以下の通りである。
○:未露光部の色調と露光部の色調とはほぼ同等か僅かな違いしか認められない程度である。
×:未露光部に対して露光部が有意に変色し、両者の色調に明確な違いが認められる。