本発明は、例えば刈払機のような小型作業機の駆動源として用いられる層状掃気型の2サイクルエンジンに関するものである。
従来、掃気行程において先導掃気用の空気を掃気通路の先端部分に一旦導入したのち燃焼室内に供給する空気掃気型の2サイクルエンジンが知られている(特許文献1参照)。このエンジンでは、アイドリング時に、安定した回転を得るために、空気通路の弁体を全閉とし、混合気通路からの混合気のみをクランク室内に導入して、アイドリングに最適な濃度の混合気を掃気通路から燃焼室内に供給している。
しかしながら、前記のエンジンでは、アイドリング状態からスロットルバルブを一気に全開状態として急加速する操作を行うと、混合気通路だけでなく空気通路も急激に開放される。その際、混合気は混合気通路からクランク室内および掃気通路を経由して燃焼室内に入るのに対し、空気はクランク室内を経ずに掃気通路から燃焼室に入る。しかも、空気通路はアイドリング時に空になっているので、空気通路から掃気通路を経て多量の空気が急激に燃焼室内に入る。その結果、多量の空気が混合気よりも早く燃焼室内に流入するので、混合気が薄められて一瞬過薄となる。したがって、アイドリング状態から急加速への移行を開始した時点では、急加速に必要な十分な濃度の混合気が燃焼室内に供給されないこととなり、加速不良やエンジンの回転停止が発生し易い場合がある。
そこで、アイドリング時の混合気を予め濃く設定しておくことが考えられるが、そのようにすると、スロットルバルブのアイドリング開度が大きくなり、これに応じて空気用弁体も開いてしまい、多量の空気が燃焼室に入ることで燃焼が不安定となって、回転が変動する。また、リフトアップ式の始動操作機構を有する場合、アイドリング開度が大きくなる分だけ始動時のリフト量が減少するから、始動時の混合気が十分に濃くならないので、始動性が低下する。
また、スロットルバルブを中開度で運転する場合、スロットルバルブの空気通路孔に対して、その下流の空気通路の通路断面積が大きいために、空気通路の内部に空気が流動しない流路領域が生じて、スロットルバルブの空気通路孔から空気通路に流入した直後の空気に乱流が発生し易く、この乱流に起因して空気の流れが不安定となり、エンジン回転が不安定となることがある。
本発明は、簡単な構成としながらも、アイドリング時から急加速への移行を安定に行える層状掃気型2サイクルエンジンを提供することを目的とする。
上記目的を達成するために、本発明に係る層状掃気型2サイクルエンジンは、掃気通路から燃焼室へ混合気と空気を導入する層状掃気型2サイクルエンジンであって、前記空気を前記掃気通路に供給する空気通路および前記混合気を前記掃気通路に供給する混合気通路の開度を調整する弁体と、前記空気通路における空気の逆流を防止する逆止弁と、前記逆止弁の上流側における前記空気通路に突出して空気が前記弁体から前記掃気通路に達する時間を遅延させる遅延部材とを備えている。
この層状掃気型2サイクルエンジンによれば、アイドリング状態から急加速する操作を行った場合、アイドリング時に空になっている空気通路内に弁体から多量の空気が流入するが、この空気は、空気通路における逆止弁の上流側の箇所に突出する遅延部材により、流動方向が変更されることによって流動速度が減速されるとともに、弁体から掃気通路までの空気通路の通路長さが長くなる。そのため、空気通路を通った空気が掃気通路内に流入するタイミングが遅れて、混合気通路からクランク室を経由して掃気通路内に混合気が流入する時点に近づくことになる。これにより、掃気通路から燃焼室に入る混合気が空気によって過剰に薄められて加速不良やエンジンの回転停止が発生するのが防止され、円滑に急加速することができる。この急加速性の向上効果を、空気空路内に遅延部材を設けるのみの簡単な構成によって達成することができる。
本発明において、前記遅延部材は前記空気通路の流れ方向つまり軸心方向にほぼ直交する面に沿って延びる立壁である。これにより、空気通路内の空気は、流れ方向にほぼ直交する面に沿って延びる立壁を乗り越えるように流動方向が変更されるので、空気の流れを効果的に減速して遅延させることができる。
前記立壁は前記弁体と前記逆止弁との中間位置よりも前記逆止弁寄りの位置に設けられていることが好ましい。前記立壁は空気流を乱して流動抵抗を増大させるので、下流の逆止弁に近づけて配置することにより、流動抵抗の増大を抑制できる。
前記空気通路における前記立壁の突出端部と対向する部位に、空気の流路の一部分を形成する凹所が形成されていることが好ましい。これにより、空気通路内の空気は立壁の突出端部を乗り越えながら流動して流動方向が変更されるが、立壁の突出端部とこれに対向する凹所との間に、流動方向を変更された空気を円滑に流動させるための流路を確保して、流動抵抗の増大を抑制できる。
空気通路の前記凹所は横断面形状がほぼ四角形であり、前記立壁の存在する部位での通路面積が前記立壁の直近の上流側の通路面積とほぼ同一の面積に設定されていることが好ましい。このような通路面積の設定により、立壁による流動抵抗の増大が抑制される。また、凹所をほぼ四角形状にすることで、所要の通路面積を有する流路の高さおよび幅を、円形の形状とする場合に比較して小さくすることができるので、凹所を空気通路周りの限られたスペースに容易に形成できる。
前記逆止弁がリードバルブである場合、前記立壁は、前記空気通路の横断面における前記リードバルブの先端部寄りに配置されていることが好ましい。これにより、立壁は、リードバルブにおける最も大きな開弁圧力が作用する先端部に空気が当たるのを阻止するような位置に配置されるので、空気通路を流動する空気によって逆止弁が開かれるタイミングが遅れるから、空気が掃気通路に達する時間をより一層遅延させることができる。
本発明において、前記弁体が円柱に径方向の通路孔が形成されたロータリー弁であり、前記遅延部材は、前記ロータリー弁の軸心と平行に延びる前縁を有し、前記空気通路の流れ方向に延びる仕切り板とすることもできる。これにより、ロータリー弁を全開したとき、仕切り板の前縁に空気が当たって流速が低下するので、やはり掃気通路に流入するタイミングが遅れて、円滑な急加速が可能となる。
また、ロータリー弁は、その空気通路孔が下流の空気通路に対し、周方向に除々に大きく開口するよう開弁するので、仕切り板がない場合、中開度までは空気通路孔の下流で空気通路が急激に拡大するから、この部分に強い乱流が発生しようとする。このとき、前記仕切り板により、中開度(中負荷)までは、空気通路孔が仕切り板により仕切られた一方側の通路領域にのみ連通するので、実質的に空気通路の急激な拡大が抑制される。その結果、ロータリー弁の空気通路孔から空気通路に流入した後の空気に強い乱流が発生して回転変動を引き起こすのを防止でき、この点からもエンジン回転の安定性が向上する。
前記仕切り板は、前記ロータリー弁の出口から、この出口と前記逆止弁との中間位置よりも下流まで延びていることが好ましい。これにより、空気通路における仕切り板により仕切られた一方または両方の通路領域に流入した空気が、通路領域内で整流されながら逆止弁の近傍まで流動するので、空気の乱流の発生を一層確実に防止することができる。
前記仕切り板と円柱状の保持部材とからなる仕切りユニットが前記空気通路にほぼ同心状に嵌合されており、前記仕切り板は、前記保持部材と一体形成されて、この保持部材の中空部を横断している構成とすることが好ましい。一般に、空気通路および混合気通路は、温度の高いシリンダから気化器への断熱を目的としたスペーサとして機能するインシュレータに設けられ、このインシュレータは、高い断熱効果を得られる素材、例えばフェノール樹脂により形成されるが、フェノール樹脂は、脆いことから、仕切り板を一体形成するのが困難である。これに対し、仕切り板と保持部材とからなる仕切りユニットを別途設けることで、仕切りユニットを成形性に優れたナイロンのような樹脂で形成することができ、この仕切りユニットを空気通路に嵌合することで、仕切り板を空気通路に容易、かつ強固に取り付けることができる。
本発明において、前記立壁と、この立壁よりも上流側に設けられた前記仕切り板とを備えていることが好ましい。これにより、立壁と仕切り板とにより急加速性の向上を図ることができるとともに、仕切り板により中開度運転時のエンジン回転の安定性の向上を図ることができる。
本発明の層状掃気型2サイクルエンジンによれば、アイドリング状態から急加速する操作を行った場合、弁体を通って空気通路内に流入する多量の空気は、空気通路に設けた遅延部材によって遅延されて掃気通路に達するので、混合気が空気によって過剰に薄められるのが防止され、円滑に急加速することができる。しかも、空気通路内に遅延部材を設けるだけであるから、構造が簡単で、製造が容易である。
本発明の第1実施形態に係る層状掃気型2サイクルエンジンを示す正面断面図である。
図1の要部の一部破断面した拡大図である。
同上のエンジンにおける仕切りユニットを示し、(a)は斜視図、(b)は平面図、(c)は左側面図、(d)は一部破断した正面図である。
同上のエンジンにおけるインシュレータを示し、(a)は正面断面図、(b)は左側面図、(c)は右側面図である。
同上のエンジンの吸気系のアイドリング状態を示す平面断面図である。
同上のエンジンの吸気系の中開度運転状態を示す平面断面図である。
同上のエンジンの吸気系の全開運転状態を示す平面断面図である。
本発明の第2実施形態に係る層状掃気型2サイクルエンジンにおける要部の平面断面図である。
同第2実施形態に係る層状掃気型2サイクルエンジンにおける仕切りユニットを示す平面断面図である。
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は本発明の一実施形態に係る層状掃気型の2サイクルエンジンを示す正面断面図である。この2サイクルエンジンは、内部に燃焼室1aを形成したシリンダブロック1がクランクケース2の上部に連結されて、エンジン本体Eが構成されている。シリンダブロック1の一側部(左側)には、吸気系を構成する気化器3とエアクリーナ4とが接続され、他側部(右側)には排気系を構成するマフラー8が接続されており、クランクケース2の下部には燃料タンク9が取り付けられている。前記シリンダブロック1の内部のシリンダボア1bには、その軸心Cの方向(この例では上下方向)に往復動するピストン10が嵌合されている。前記クランクケース2には、軸受11を介してクランク軸12が支持されている。このクランク軸12の軸心CXとは偏位した位置に中空状のクランクピン13が設けられ、このクランクピン13と前記ピストン10に設けた中空状のピストンピン14との間が、コンロッド20により連結されている。クランク軸12にはクランクウエブ17が設けられ、シリンダブロック1の上部には点火プラグ18が設けられている。
前記シリンダブロック1と気化器3との間には、温度の高いシリンダブロック1からの断熱を目的として、スペーサとなるインシュレータ22が設けられている。このインシュレータ22内には、上部側に空気通路23の下流部分が形成され、下部側にこの空気通路2とほぼ平行に混合気通路24の下流部分が形成されている。前記気化器3は、空気通路23と混合気通路24の両方の通路面積を、単一のロータリー弁(回転弁)28によって調節する。ロータリー弁28は、空気用弁体50と混合気用弁体51とを一体形成したものであり、ロータリー弁28を径方向に貫通する円形孔からなる空気通路孔50aと混合気通路孔51aとを有している。
気化器3のボディ45には、掃気用空気Aをエンジン本体Eに供給するための気化器空気通路48と、混合気Mをエンジン本体Eへ供給するための気化器混合気通路49とが、互いにほぼ平行な配置で貫通して設けられている。また、図2に示すように、ボディ45に、両通路48,49に対しほぼ直交して貫通する単一のロータリー弁28が回動自在に支持されている。このロータリー弁28により形成された空気用弁体50および混合気用弁体51は、空気通路孔50aおよび混合気通路孔51aとほぼ直交する上下方向の軸心C3の回りに回動して、両通路48,49の開度調整を行う。前記気化器空気通路48と空気通路孔50aとが空気通路23の上流部分を形成し、前記気化器混合気通路49と混合気通路孔51aとが混合気通路24の上流部分を形成している。
さらに、前記シリンダブロック1の周壁には、その内周面に開口する排気口29aを有する排気通路29が形成され、この排気通路29からの排気(燃焼ガス)は、前記マフラー8を経て外部に排出される。
前記シリンダブロック1とクランクケース2の内部には、ピストン10を挟んだ上方の燃焼室1aと下方のクランク室2aとを直接連通させる第1および第2の掃気通路30,31が設けられている。両掃気通路30,31はそれぞれ、上端の第1および第2の掃気口30a,31aがシリンダブロック1の内周面に開口し、下端の流入口30b,31bがクランクケース2の上部の内周面に開口している。第2の掃気通路31は、第1の掃気通路30よりも排気口29a寄りに形成されている。第1の掃気通路30の上端の第1の掃気口30aおよび第2の掃気通路31の上端の第2の掃気口31aは、これらの上端が排気口29aの上端よりも低い位置に設定されている。これにより、ピストン10が下降する掃気行程において、排気口29aが両掃気口30a,31aよりも先に開いて、燃焼室1A内の燃焼ガスを排気通路29に排出し始めるようになっている。インシュレータ22の空気通路23は、シリンダブロック1に設けた空気導入通路40を介して第1および第2の掃気通路30,31の上部に連通している。
図5の平面断面図に示すように、前記インシュレータ22における空気通路23の下流側出口には、吸気行程時にクランク室2a(図1)の負圧を受けて空気導入通路40が負圧になったときに、空気通路23を閉じるリードバルブ41が取り付けられている。また、空気導入通路40と第1および第2の掃気通路30,31とは、各掃気通路30,31の上部の径方向外側に設けた第1および第2の空気導入口42,43を介して連通している。リードバルブ41には、リードバルブ41の開放位置を規制するストッパ44が装着されている。図6に示すように、空気通路23からの掃気用の空気Aは、前記リードバルブ41の開放によって、空気導入通路40からそれぞれ第1および第2空気導入口42,43を経て第1および第2の掃気通路30,31内の上部に導入される。
図5に示す空気通路23および排気通路29はそれぞれ真直であって、シリンダ軸心C(図1)方向から見てほぼ同一線上にあり、第1および第2の掃気通路30,31は、空気通路23の軸心C1または排気通路29の軸心C2を中心にしてほぼ対称に各一対設けられている。第1および第2の掃気通路30,31の間は、ほぼ上下方向に延びる隔壁32により仕切られている。第1および第2の掃気通路30,31のシリンダブロック内径側はそれぞれ第1および第2の掃気通路壁35,36により覆われている。
図1に示すインシュレータ22の空気通路23からの空気Aは、ピストン10が上昇する吸気行程時に、クランク室2a内の負圧を受けてリードバルブ41が開放され、シリンダブロック1の空気導入通路40を通って第1および第2の掃気通路30,31内にそれぞれ一旦導入される。一方、混合気通路24からの混合気Mは、吸気行程においてピストン10が上昇したときに、クランク室2a内の負圧を受けて、シリンダブロック1内の内周面に設けた混合気口33からクランク室2a内に直接導入される。
吸気行程において空気通路23から空気導入通路40を経て第1および第2の掃気通路30,31の上部にそれぞれ導入されている空気Aは、ピストン10が下降する掃気行程において、第1および第2の掃気口30a,31aから燃焼室1a内に向かって斜め上方に噴出される。続いて、クランク室2aを経て第1および第2の掃気通路30,31内の下部にそれぞれ導入されている混合気Mが、上部の空気を押し上げながら、第1および第2の掃気口30a,31aから燃焼室1a内に向かって斜め上方に噴出される。このように、掃気行程では、燃焼室1a内に空気Aに続いて混合気Mが層状に噴出されることにより、先に燃焼室1a内に噴射された空気Aによって燃焼ガスが排気通路29に押し出されたのちに、混合気Mが燃焼室1a内に噴出されるので、混合気Mが排気通路29から外部へ漏出する吹き抜けが効果的に抑制される。
また、図2に示す気化器3のボディ45には、混合気用弁体51の底部を軸心C3と同軸に貫通して混合気通路孔51aの内部に突入する燃料(ガソリン)のメインノズル54が設けられており、このメインノズル54の周壁の一部に燃料噴射口(図示せず)が形成されている。一方、メインノズル54と同軸に、気化器3の上端部に上下動自在に支持されて空気用通路孔50aを貫通して混合気通路孔51aまで延びるニードル弁58が配置されており、このニードル弁58の下端部がメインノズル54内に嵌入されている。ボディ45の下部には、図示しないダイヤフラムを内蔵した燃料貯留体59が連結されており、この燃料貯留体59からメインノズル54に燃料が送出される。
ロータリー弁28は、周知のスロットルレバー(図示せず)が手動操作されたときに回動して、気化器空気通路48および気化器混合気通路49が大きな開度に調整され、これと同時にニードル弁58が上昇して、メインノズル54の燃料噴射口の開口面積が増大し、多くの燃料が気化器混合気通路49に供給される。こうして、エンジンは、スロットルレバーの操作に応じて回転が制御される。
エンジン始動時には、気化器3の上部に設けたリフトアップレバー57を手動で90°回転させることにより、ニードル弁48を上昇させ、メインノズル54からの燃料供給量を増大させて、始動を容易にする。
つぎに、第1実施形態の要旨とする構成について説明する。インシュレータ22の空気通路23におけるリードバルブ41に上流側の箇所に、空気通路23に突出する立壁60が設けられている。この立壁60は、空気通路23内を流動する空気Aが両掃気通路30,31に達する時間を遅延させる遅延部材として作用するもので、リードバルブ41の上流側の近傍箇所で、かつ空気通路23の横断面におけるリードバルブ41の先端部41a寄りの箇所に配置されて、空気通路23内の空気Aの流れ方向とほぼ直交する面、つまり空気通路14の軸心C1に対してほぼ直交する面に沿って、後述するように、空気通路23の通路高さのほぼ1/2の高さまで延びている。空気通路23における立壁60の突出端部に対向する部位に、空気Aの流路の一部分を形成する凹所61が形成されており、この凹所61の詳細については後述する。
前記空気通路23における立壁60の上流側箇所には、空気通路23に連通する気化器空気通路48の通路径よりも僅かに大きな内径を有する円筒状の保持部材64が、嵌合され、保持部材64の中空部が、気化器空気通路48よりも僅かに大きな通路面積を持つ空気通路23となる。この保持部材64の中空部に仕切り板63が設けられており、仕切り板63は、短冊状であって、その短冊状の幅方向(図2の上下方向)がロータリー弁28の軸心C3と平行に延び、かつ短冊状の長さ方向が空気通路23内の空気Aの流れ方向に延びている。保持部材64と仕切り板63とは仕切りユニット62として一体形成されている。仕切り板63によって狭くなる通路面積分だけ保持部材64の内径が気化器空気通路48よりも大きくなっており、これにより、空気通路23の通路面積を、仕切り板63のない従来の場合と同一にしている。
図3(a)〜(d)は前記仕切りユニット62の斜視図、平面図、左側面図および一部破断した正面図をそれぞれを示す。図3(c)において、仕切りユニット62は、円筒状の保持部材64の中空部がねじれのない平坦な仕切り板63により、対称な半円形状を有する同一通路面積(横断面積)の二つの通路領域23a,23bに区分されている。仕切り板63は、保持部材64の全長にわたって延びる本体63aに、この本体63aよりも僅かに小さな幅(図3の上下方向の寸法)を有し、本体63aから上流側に延びて、気化器空気通路48(図2)に嵌入できる幅を有する仕切り突片63bが一体に形成されている。また、保持部材64の上流端部の外面には、仕切り板63と直交する径方向で対向する2箇所に、位置決め突起69が一体形成されている。この仕切りユニット62はナイロンを素材とした一体成形品である。
図4(a)〜(c)は前記インシュレータ22の正面断面図、左側面図および右側面図をそれぞれ示す。図4(a)に示すように、このインシュレータ22には、二点鎖線で示す仕切りユニット62の円筒状の保持部材64の厚み分と、仕切り板63の横断面積相当分とだけ、既存のインシュレータの空気通路に対して通路の径を拡大した通路拡張部70が形成されている。この通路拡張部70にほぼ同心状に、仕切りユニット62の保持部材64が嵌合されることにより、保持部材64の中空部と仕切りユニット62によって、既存の空気通路と同一通路面積を有する空気通路23が形成されている。
通路拡張部70の空気の流れ方向の下流端(図4(a)の右端)における上半部に、円筒状の保持部材64の内径と同一の内径を有する半円形状の段部71が設けられている。この段部71は、通路拡張部70に嵌入される仕切りユニット62の保持部材64の下流端面64aに当接して、保持部材64の上流端面64bがインシュレータ22における気化器3との合わせ面22aと面一となるように、保持部材64を位置決めしている。
また、インシュレータ22における通路拡張部70から空気Aの流れ方向の下流側は、前記段部71に連なる通路の下半部が、段部71と同一内径で立壁60まで延びている。これにより、前記通路下半部に、仕切りユニット62の保持部材64の中空部からなる空気通路23と同一径の空気流路が設けられており、この空気流路におけるリードバルブ41の近傍箇所に、前記立壁60が一体形成されている。この立壁60は、前述のように、リードバルブ41の先端部41a寄りの配置で、空気通路23の空気Aの流れ方向つまり軸心C4に対してほぼ直交する面に沿って延びている。
さらに、インシュレータ22には、立壁60の突出端部60aと対向する通路上半部における段部71から下流端までの箇所に、前記凹所61が形成されている。この凹所61は、図4(c)に横平行線で示すように、横断面形状がほぼ四角形状に形成されて、立壁60が存在する部位での通路面積S1が、縦平行線により図示した、立壁60の直近の上流側の通路面積、つまり段部71の内周面およびその上流側の保持部材64の中空部により形成された空気通路23の面積S2とほぼ同一に設定されている。
図4(b)に示すように、インシュレータ22の上流端部における通路拡張部70の水平な径方向に相対向する2箇所に、一対の凹部72が形成されており、この凹部72に、図3の仕切りユニット62の一対の位置決め突起69が嵌まり込む。図4(a)に示すように、凹部72は、仕切りユニット62の保持部材64が通路拡張部70に嵌合されたときに、位置決め突起69を介して保持部材64を回り止めする。
こうして仕切りユニット62が取り付けられたインシュレータ22に、図5に示す気化器3およびエアクリーナ4が取り付けられる。すなわち、インシュレータ22に嵌合された仕切りユニット62の仕切り突片63bを気化器空気通路48に進入させ、合わせ面22aを気化器3の下流端面に重ね合わせ、さらに気化器3の上流端面にエアクリーナ4を重ね合わせた状態で、エアクリーナ4および気化器3の各々の挿通孔73,74に挿通したボルト78を、インシュレータ22の一対のねじ孔79にねじ込むことにより、インシュレータ22に気化器3およびエアクリーナ4を固定して、吸気系アッセンブリを形成する。このとき、仕切りユニット62は、保持部材64の上流端面64bが気化器3の下流端面に当接して、インシュレータ22からの抜け止めがなされる。
また、インシュレータ22は、その下端部に設けた突片80がシリンダブロック1内に進入して、空気導入通路40の上流側の一部分を形成しており、この状態で、図4(b)に示す四つの取付孔81に挿通したボルト(図示せず)をシリンダブロック1のねじ孔(図示せず)にねじ込むことにより、シリンダブロック1に固着される。
前記インシュレータ22は、高い断熱効果が得られる素材、例えばフェノール樹脂などにより形成されるが、フェノール樹脂は硬くて脆いことから、図2に示す薄い仕切り板63を一体形成するのが困難である。これに対し、前記2サイクルエンジンでは、加工が容易で堅牢な素材であるナイロンにより、仕切り板63および保持部材64からなる仕切りユニット62を型成形している。この仕切りユニット62をインシュレータ22の通路拡張部70に嵌合することで、仕切り板63を保持部材64の中空部からなる空気通路23内に容易、かつ強固に取り付けることができる。また、この実施形態では、既存のエンジンに対して、インシュレータに通路拡張部70、立壁60および凹所61を設ける改造を施し、一体成形した別部材の仕切りユニット62をインシュレータ22に嵌合するだけの簡単な構成としながらも、以下に説明するような急加速性の向上と中開度運転時の回転の安定性とを共に達成できる。
アイドリング時には、図1の混合気用弁体51が所要開度に開かれてアイドリングに最適な濃度の混合気Mが混合気通路24から掃気通路30,31を通って燃焼室1a内に供給される一方で、図5に示すように、空気用弁体50は空気通路23を全閉状態に保持し、空気通路23を通って流入する空気量の変動によるエンジン回転の変動を抑制する。これにより、安定した回転のアイドリングを行うことができる。
このアイドリング状態から急加速する操作を行うと、図7に示すように、空気用弁体50が空気通路23を全開して、アイドリング時に空になっている空気通路23内に空気用弁体50の空気通路孔50aから多量の空気Aが流入するが、この空気Aは、図2に示すように、空気通路23の軸心C1にほぼ直交する面に沿って延びた立壁60を乗り越えるように流動方向が上方へ変更されることによって流動速度が減速されるとともに、立壁60の存在によって空気用弁体50から掃気通路30,31までの流路が長くなる。これにより、空気通路23を通った空気Aが掃気通路30,31内に流入するタイミングが遅れて、混合気通路24からクランク室2aを経由して掃気通路30,31内に混合気Mが流入する時点に近づく。
その結果、掃気通路30,31から燃焼室1aに入る混合気Mが空気Aによって過剰に薄められて加速不良やエンジンの回転停止が発生する可能性が低くなり、円滑に急加速することができる。また、立壁60は空気流を乱して流動抵抗を増大させるが、立壁60をロータリー弁28とリードバルブ41との中間位置よりも下流のリードバルブ41に近づけて配置しているので、流動抵抗の増大が極力抑制される。
また、立壁60は、図1に示すリードバルブ41の近傍箇所で、かつ空気通路23の横断面におけるリードバルブ41の先端部41a寄りに配置されていることから、リードバルブ41における最も大きな開弁圧力が作用する先端部41aに空気Aが直接当たるのを阻止するので、流動する空気Aによってリードバルブ41が開かれるタイミングが遅れるから、これによっても空気通路23を流動する空気Aが掃気通路30,31に達する時間を一層遅延させることができる。
さらに、図3(a)に示す仕切り板63の本体63aおよび仕切り突片63bは、図2の空気通路23の流れ方向に延び、かつ、各々の前縁がロータリー弁28の軸心C3と平行に延びているので、ロータリー弁28を全開したとき、仕切り板63の仕切り突片63bの前縁に空気Aが当たって流速が低下する。これによっても、空気Aが掃気通路30,31に流入するタイミングが遅れる。
さらに、立壁41の存在する部位での通路面積がほぼ四角形状の凹所61によって立壁60の直近の上流側の空気空路23の通路面積とほぼ同一に設定されているから、立壁60の部位での通路面積の減少による流動抵抗の増大が抑制される。その結果、立壁60と凹所61とによって空気Aの流動方向を変更して減速しているにもかかわらず、所要量の空気Aを掃気通路30,31から燃焼室1aに円滑に供給して安定した回転を行わせることができる。また、このように通路面積を設定することによって、立壁60による流動抵抗の増大が抑制されるが、その際、図4(c)に示すように、凹所61をほぼ四角形状とすることにより、所要の通路面積を有する流路の高さおよび幅を、円形の形状とする場合に比較して小さくすることができるので、凹所61を空気通路23周りの限られたスペースに容易に設けることができる。
スロットルをアイドリング状態から除々に開いていく場合、図6に示すように、空気用弁体50の空気通路孔50aが、その下流側の空気通路23に対し、周方向に除々に大きく開口して連通していく。したがって、仕切り板63がない場合、弁体50の中開度までは空気通路孔50aの下流で空気通路23が急激に拡大するから、この部分に強い乱流が発生しようとする。このとき、仕切り板63により、中開度(中負荷)までは、空気通路孔50aが仕切り板63により仕切られた一方の通路領域23aにのみ連通するので、実質的に空気通路23の急激な拡大が抑制される。その結果、ロータリー弁28の空気通路孔50aから空気通路23の一方の通路領域23aに流入した後の空気Aに強い乱流が発生して回転変動を引き起こすのを防止でき、回転の安定性が向上する。
弁体50が中開度になったとき、空気用弁体50の空気通路孔50aの出口面積が、仕切り板83で仕切られた空気通路23の一方の通路領域23aの開口面積とほぼ同じになるから、空気通路23の一方の通路領域23aにおける空気Aが殆ど流れない部分または流動分布の大きな不均一が生じない。その結果、空気通路23の一方の通路領域23aに流入した空気Aは、十分整流されて乱流が発生しない。
空気用弁体50の全開状態では、図7に示すように、空気通路孔50aの出口開口の全体が、その下流側の空気通路23に連通し、空気通路孔50aの出口と空気通路23の間で急激な通路面積の拡大が生じないので、空気Aが仕切り板63で仕切られた一方の通路領域23aと他方の通路領域23bの両方に円滑に流れて、空気通路23内で強い乱流を発生させない。
上述した急加速性の効果を得るためには、図4(a)に示すように、立壁60の高さhが、空気通路23の通路高さ(円形通路の場合、通路直径)Hの0.3〜0.5倍に設定するのが好ましい。また、上述した中開度以下の回転の安定性の向上を得るためには、仕切り板63を長くして、仕切り板63の上流端縁63cを空気用弁体50の空気通路孔50a出口に合致させるように近接し、かつ下流端縁63dを、空気通路孔50aの出口、つまりインシュレータ22内の空気通路23の入口とリードバルブ41との距離Lの中点Pよりもリードバルブ41寄りに配置することが好ましい。
図8は、本発明の第2実施形態の要部の平面断面図を示し、大型の2サイクルエンジンに好適に適用できる。すなわち、供給する空気Aの流動量が多い場合、仕切りユニット81を、二つの互いに平行な仕切り板82,83が円筒状の保持部材84の中空部に一体形成された構成とする。これにより、実線で示すように、空気用弁体50の空気通路孔50aの開口面積が小さい低開度の場合には、空気通路孔50aの出口に最も近い第1仕切り板82で仕切られた第1流路領域23cのみに空気Aを流動させる。二点鎖線で示すように、空気用弁体50が中開度の場合、空気通路孔50aの出口の端縁が第2仕切り板83に対向するので、空気Aが、第1流路領域23cに加えて、第1仕切り板82と第2仕切り板83との間の第2流路領域23dにも流入する。これにより、空気Aの流動量の多い大型の2サイクルエンジンにおいて、中開度以下での運転時に、空気通路23内での空気Aの乱流発生を防止して、回転の安定性を向上させることができる。
図9は、本発明の第3実施形態に用いる仕切りユニット88を示す。この仕切りユニット88は、仕切り板89の前縁89cがロータリー弁28の軸心C3と平行に延びる形状を有し、前縁89cから後縁89dまでの全長またはその一部分にわたって、仕切り板89の軸心回り、すなわち保持部材64の軸心回りにねじられた形状になっている。この仕切りユニット88は、第1実施形態の場合と同様に、中開度以下で仕切り板89によって空気Aを整流して乱流発生を防止することができるうえに、アイドリング時から急加速する場合には、ねじられた形状の仕切り板89に沿って空気Aが流れることにより、空気Aの流速をさらに減速させて、急加速性を向上させることができる。図8の第2実施形態における第1および第2仕切り板82,83にも、同様なねじりを付加することができる。
本発明は、以上の実施形態で示した内容に限定されるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で、種々の追加、変更または削除が可能であり、そのようなものも本発明の範囲内に含まれる。
1a 燃焼室
23 空気通路
24 混合気通路
28 ロータリー弁
30,31 掃気通路
41 リードバルブ(逆止弁)
50 空気用弁体
51 混合気用弁体
60 立壁(遅延部材)
60a 立壁の突出端部
61 凹所
62,81,88 仕切りユニット
63,82,83,89 仕切り板(遅延部材)
64 保持部材
A 空気
M 混合気
本発明は、例えば刈払機のような小型作業機の駆動源として用いられる層状掃気型の2サイクルエンジンに関するものである。
従来、掃気行程において先導掃気用の空気を掃気通路の先端部分に一旦導入したのち燃焼室内に供給する空気掃気型の2サイクルエンジンが知られている(特許文献1参照)。このエンジンでは、アイドリング時に、安定した回転を得るために、空気通路の弁体を全閉とし、混合気通路からの混合気のみをクランク室内に導入して、アイドリングに最適な濃度の混合気を掃気通路から燃焼室内に供給している。
しかしながら、前記のエンジンでは、アイドリング状態からスロットルバルブを一気に全開状態として急加速する操作を行うと、混合気通路だけでなく空気通路も急激に開放される。その際、混合気は混合気通路からクランク室内および掃気通路を経由して燃焼室内に入るのに対し、空気はクランク室内を経ずに掃気通路から燃焼室に入る。しかも、空気通路はアイドリング時に空になっているので、空気通路から掃気通路を経て多量の空気が急激に燃焼室内に入る。その結果、多量の空気が混合気よりも早く燃焼室内に流入するので、混合気が薄められて一瞬過薄となる。したがって、アイドリング状態から急加速への移行を開始した時点では、急加速に必要な十分な濃度の混合気が燃焼室内に供給されないこととなり、加速不良やエンジンの回転停止が発生し易い場合がある。
そこで、アイドリング時の混合気を予め濃く設定しておくことが考えられるが、そのようにすると、スロットルバルブのアイドリング開度が大きくなり、これに応じて空気用弁体も開いてしまい、多量の空気が燃焼室に入ることで燃焼が不安定となって、回転が変動する。また、リフトアップ式の始動操作機構を有する場合、アイドリング開度が大きくなる分だけ始動時のリフト量が減少するから、始動時の混合気が十分に濃くならないので、始動性が低下する。
また、スロットルバルブを中開度で運転する場合、スロットルバルブの空気通路孔に対して、その下流の空気通路の通路断面積が大きいために、空気通路の内部に空気が流動しない流路領域が生じて、スロットルバルブの空気通路孔から空気通路に流入した直後の空気に乱流が発生し易く、この乱流に起因して空気の流れが不安定となり、エンジン回転が不安定となることがある。
本発明は、簡単な構成としながらも、アイドリング時から急加速への移行を安定に行える層状掃気型2サイクルエンジンを提供することを目的とする。
上記目的を達成するために、本発明に係る層状掃気型2サイクルエンジンは、掃気通路から燃焼室へ混合気と空気を導入する層状掃気型2サイクルエンジンであって、前記空気を前記掃気通路に供給する空気通路および前記混合気を前記掃気通路に供給する混合気通路の開度を調整する弁体と、前記空気通路における空気の逆流を防止する逆止弁と、前記逆止弁の上流側における前記空気通路に突出して空気が前記弁体から前記掃気通路に達する時間を遅延させる遅延部材とを備え、前記弁体は円柱に径方向の通路孔が形成されたロータリー弁であり、前記遅延部材は、前記ロータリー弁の軸心と平行に延びる前縁を有し、前記空気通路の流れ方向に延びる仕切り板である。
この層状掃気型2サイクルエンジンによれば、アイドリング状態から急加速する操作を行った場合、アイドリング時に空になっている空気通路内に弁体から多量の空気が流入するが、この空気は、空気通路における逆止弁の上流側の箇所に突出する遅延部材により、流動方向が変更されることによって流動速度が減速されるとともに、弁体から掃気通路までの空気通路の通路長さが長くなる。そのため、空気通路を通った空気が掃気通路内に流入するタイミングが遅れて、混合気通路からクランク室を経由して掃気通路内に混合気が流入する時点に近づくことになる。これにより、掃気通路から燃焼室に入る混合気が空気によって過剰に薄められて加速不良やエンジンの回転停止が発生するのが防止され、円滑に急加速することができる。この急加速性の向上効果を、空気空路内に遅延部材を設けるのみの簡単な構成によって達成することができる。さらに、ロータリー弁を全開したとき、仕切り板の前縁に空気が当たって流速が低下するので、やはり掃気通路に流入するタイミングが遅れて、円滑な急加速が可能となる。
また、ロータリー弁は、その空気通路孔が下流の空気通路に対し、周方向に除々に大きく開口するよう開弁するので、仕切り板がない場合、中開度までは空気通路孔の下流で空気通路が急激に拡大するから、この部分に強い乱流が発生しようとする。このとき、前記仕切り板により、中開度(中負荷)までは、空気通路孔が仕切り板により仕切られた一方側の通路領域にのみ連通するので、実質的に空気通路の急激な拡大が抑制される。その結果、ロータリー弁の空気通路孔から空気通路に流入した後の空気に強い乱流が発生して回転変動を引き起こすのを防止でき、この点からもエンジン回転の安定性が向上する。
前記仕切り板は、前記ロータリー弁の出口から、この出口と前記逆止弁との中間位置よりも下流まで延びていることが好ましい。これにより、空気通路における仕切り板により仕切られた一方または両方の通路領域に流入した空気が、通路領域内で整流されながら逆止弁の近傍まで流動するので、空気の乱流の発生を一層確実に防止することができる。
前記仕切り板と円柱状の保持部材とからなる仕切りユニットが前記空気通路にほぼ同心状に嵌合されており、前記仕切り板は、前記保持部材と一体形成されて、この保持部材の中空部を横断している構成とすることが好ましい。一般に、空気通路および混合気通路は、温度の高いシリンダから気化器への断熱を目的としたスペーサとして機能するインシュレータに設けられ、このインシュレータは、高い断熱効果を得られる素材、例えばフェノール樹脂により形成されるが、フェノール樹脂は、脆いことから、仕切り板を一体形成するのが困難である。これに対し、仕切り板と保持部材とからなる仕切りユニットを別途設けることで、仕切りユニットを成形性に優れたナイロンのような樹脂で形成することができ、この仕切りユニットを空気通路に嵌合することで、仕切り板を空気通路に容易、かつ強固に取り付けることができる。
本発明の層状掃気型2サイクルエンジンによれば、アイドリング状態から急加速する操作を行った場合、弁体を通って空気通路内に流入する多量の空気は、空気通路に設けた遅延部材によって遅延されて掃気通路に達するので、混合気が空気によって過剰に薄められるのが防止され、円滑に急加速することができる。しかも、空気通路内に遅延部材を設けるだけであるから、構造が簡単で、製造が容易である。
本発明の第1実施形態に係る層状掃気型2サイクルエンジンを示す正面断面図である。
図1の要部の一部破断面した拡大図である。
同上のエンジンにおける仕切りユニットを示し、(a)は斜視図、(b)は平面図、(c)は左側面図、(d)は一部破断した正面図である。
同上のエンジンにおけるインシュレータを示し、(a)は正面断面図、(b)は左側面図、(c)は右側面図である。
同上のエンジンの吸気系のアイドリング状態を示す平面断面図である。
同上のエンジンの吸気系の中開度運転状態を示す平面断面図である。
同上のエンジンの吸気系の全開運転状態を示す平面断面図である。
本発明の第2実施形態に係る層状掃気型2サイクルエンジンにおける要部の平面断面図である。
同第2実施形態に係る層状掃気型2サイクルエンジンにおける仕切りユニットを示す平面断面図である。
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は本発明の一実施形態に係る層状掃気型の2サイクルエンジンを示す正面断面図である。この2サイクルエンジンは、内部に燃焼室1aを形成したシリンダブロック1がクランクケース2の上部に連結されて、エンジン本体Eが構成されている。シリンダブロック1の一側部(左側)には、吸気系を構成する気化器3とエアクリーナ4とが接続され、他側部(右側)には排気系を構成するマフラー8が接続されており、クランクケース2の下部には燃料タンク9が取り付けられている。前記シリンダブロック1の内部のシリンダボア1bには、その軸心Cの方向(この例では上下方向)に往復動するピストン10が嵌合されている。前記クランクケース2には、軸受11を介してクランク軸12が支持されている。このクランク軸12の軸心CXとは偏位した位置に中空状のクランクピン13が設けられ、このクランクピン13と前記ピストン10に設けた中空状のピストンピン14との間が、コンロッド20により連結されている。クランク軸12にはクランクウエブ17が設けられ、シリンダブロック1の上部には点火プラグ18が設けられている。
前記シリンダブロック1と気化器3との間には、温度の高いシリンダブロック1からの断熱を目的として、スペーサとなるインシュレータ22が設けられている。このインシュレータ22内には、上部側に空気通路23の下流部分が形成され、下部側にこの空気通路2とほぼ平行に混合気通路24の下流部分が形成されている。前記気化器3は、空気通路23と混合気通路24の両方の通路面積を、単一のロータリー弁(回転弁)28によって調節する。ロータリー弁28は、空気用弁体50と混合気用弁体51とを一体形成したものであり、ロータリー弁28を径方向に貫通する円形孔からなる空気通路孔50aと混合気通路孔51aとを有している。
気化器3のボディ45には、掃気用空気Aをエンジン本体Eに供給するための気化器空気通路48と、混合気Mをエンジン本体Eへ供給するための気化器混合気通路49とが、互いにほぼ平行な配置で貫通して設けられている。また、図2に示すように、ボディ45に、両通路48,49に対しほぼ直交して貫通する単一のロータリー弁28が回動自在に支持されている。このロータリー弁28により形成された空気用弁体50および混合気用弁体51は、空気通路孔50aおよび混合気通路孔51aとほぼ直交する上下方向の軸心C3の回りに回動して、両通路48,49の開度調整を行う。前記気化器空気通路48と空気通路孔50aとが空気通路23の上流部分を形成し、前記気化器混合気通路49と混合気通路孔51aとが混合気通路24の上流部分を形成している。
さらに、前記シリンダブロック1の周壁には、その内周面に開口する排気口29aを有する排気通路29が形成され、この排気通路29からの排気(燃焼ガス)は、前記マフラー8を経て外部に排出される。
前記シリンダブロック1とクランクケース2の内部には、ピストン10を挟んだ上方の燃焼室1aと下方のクランク室2aとを直接連通させる第1および第2の掃気通路30,31が設けられている。両掃気通路30,31はそれぞれ、上端の第1および第2の掃気口30a,31aがシリンダブロック1の内周面に開口し、下端の流入口30b,31bがクランクケース2の上部の内周面に開口している。第2の掃気通路31は、第1の掃気通路30よりも排気口29a寄りに形成されている。第1の掃気通路30の上端の第1の掃気口30aおよび第2の掃気通路31の上端の第2の掃気口31aは、これらの上端が排気口29aの上端よりも低い位置に設定されている。これにより、ピストン10が下降する掃気行程において、排気口29aが両掃気口30a,31aよりも先に開いて、燃焼室1A内の燃焼ガスを排気通路29に排出し始めるようになっている。インシュレータ22の空気通路23は、シリンダブロック1に設けた空気導入通路40を介して第1および第2の掃気通路30,31の上部に連通している。
図5の平面断面図に示すように、前記インシュレータ22における空気通路23の下流側出口には、吸気行程時にクランク室2a(図1)の負圧を受けて空気導入通路40が負圧になったときに、空気通路23を閉じるリードバルブ41が取り付けられている。また、空気導入通路40と第1および第2の掃気通路30,31とは、各掃気通路30,31の上部の径方向外側に設けた第1および第2の空気導入口42,43を介して連通している。リードバルブ41には、リードバルブ41の開放位置を規制するストッパ44が装着されている。図6に示すように、空気通路23からの掃気用の空気Aは、前記リードバルブ41の開放によって、空気導入通路40からそれぞれ第1および第2空気導入口42,43を経て第1および第2の掃気通路30,31内の上部に導入される。
図5に示す空気通路23および排気通路29はそれぞれ真直であって、シリンダ軸心C(図1)方向から見てほぼ同一線上にあり、第1および第2の掃気通路30,31は、空気通路23の軸心C1または排気通路29の軸心C2を中心にしてほぼ対称に各一対設けられている。第1および第2の掃気通路30,31の間は、ほぼ上下方向に延びる隔壁32により仕切られている。第1および第2の掃気通路30,31のシリンダブロック内径側はそれぞれ第1および第2の掃気通路壁35,36により覆われている。
図1に示すインシュレータ22の空気通路23からの空気Aは、ピストン10が上昇する吸気行程時に、クランク室2a内の負圧を受けてリードバルブ41が開放され、シリンダブロック1の空気導入通路40を通って第1および第2の掃気通路30,31内にそれぞれ一旦導入される。一方、混合気通路24からの混合気Mは、吸気行程においてピストン10が上昇したときに、クランク室2a内の負圧を受けて、シリンダブロック1内の内周面に設けた混合気口33からクランク室2a内に直接導入される。
吸気行程において空気通路23から空気導入通路40を経て第1および第2の掃気通路30,31の上部にそれぞれ導入されている空気Aは、ピストン10が下降する掃気行程において、第1および第2の掃気口30a,31aから燃焼室1a内に向かって斜め上方に噴出される。続いて、クランク室2aを経て第1および第2の掃気通路30,31内の下部にそれぞれ導入されている混合気Mが、上部の空気を押し上げながら、第1および第2の掃気口30a,31aから燃焼室1a内に向かって斜め上方に噴出される。このように、掃気行程では、燃焼室1a内に空気Aに続いて混合気Mが層状に噴出されることにより、先に燃焼室1a内に噴射された空気Aによって燃焼ガスが排気通路29に押し出されたのちに、混合気Mが燃焼室1a内に噴出されるので、混合気Mが排気通路29から外部へ漏出する吹き抜けが効果的に抑制される。
また、図2に示す気化器3のボディ45には、混合気用弁体51の底部を軸心C3と同軸に貫通して混合気通路孔51aの内部に突入する燃料(ガソリン)のメインノズル54が設けられており、このメインノズル54の周壁の一部に燃料噴射口(図示せず)が形成されている。一方、メインノズル54と同軸に、気化器3の上端部に上下動自在に支持されて空気用通路孔50aを貫通して混合気通路孔51aまで延びるニードル弁58が配置されており、このニードル弁58の下端部がメインノズル54内に嵌入されている。ボディ45の下部には、図示しないダイヤフラムを内蔵した燃料貯留体59が連結されており、この燃料貯留体59からメインノズル54に燃料が送出される。
ロータリー弁28は、周知のスロットルレバー(図示せず)が手動操作されたときに回動して、気化器空気通路48および気化器混合気通路49が大きな開度に調整され、これと同時にニードル弁58が上昇して、メインノズル54の燃料噴射口の開口面積が増大し、多くの燃料が気化器混合気通路49に供給される。こうして、エンジンは、スロットルレバーの操作に応じて回転が制御される。
エンジン始動時には、気化器3の上部に設けたリフトアップレバー57を手動で90°回転させることにより、ニードル弁48を上昇させ、メインノズル54からの燃料供給量を増大させて、始動を容易にする。
つぎに、第1実施形態の要旨とする構成について説明する。インシュレータ22の空気通路23におけるリードバルブ41に上流側の箇所に、空気通路23に突出する立壁60が設けられている。この立壁60は、空気通路23内を流動する空気Aが両掃気通路30,31に達する時間を遅延させる遅延部材として作用するもので、リードバルブ41の上流側の近傍箇所で、かつ空気通路23の横断面におけるリードバルブ41の先端部41a寄りの箇所に配置されて、空気通路23内の空気Aの流れ方向とほぼ直交する面、つまり空気通路14の軸心C1に対してほぼ直交する面に沿って、後述するように、空気通路23の通路高さのほぼ1/2の高さまで延びている。空気通路23における立壁60の突出端部に対向する部位に、空気Aの流路の一部分を形成する凹所61が形成されており、この凹所61の詳細については後述する。
前記空気通路23における立壁60の上流側箇所には、空気通路23に連通する気化器空気通路48の通路径よりも僅かに大きな内径を有する円筒状の保持部材64が、嵌合され、保持部材64の中空部が、気化器空気通路48よりも僅かに大きな通路面積を持つ空気通路23となる。この保持部材64の中空部に仕切り板63が設けられており、仕切り板63は、短冊状であって、その短冊状の幅方向(図2の上下方向)がロータリー弁28の軸心C3と平行に延び、かつ短冊状の長さ方向が空気通路23内の空気Aの流れ方向に延びている。保持部材64と仕切り板63とは仕切りユニット62として一体形成されている。仕切り板63によって狭くなる通路面積分だけ保持部材64の内径が気化器空気通路48よりも大きくなっており、これにより、空気通路23の通路面積を、仕切り板63のない従来の場合と同一にしている。
図3(a)〜(d)は前記仕切りユニット62の斜視図、平面図、左側面図および一部破断した正面図をそれぞれを示す。図3(c)において、仕切りユニット62は、円筒状の保持部材64の中空部がねじれのない平坦な仕切り板63により、対称な半円形状を有する同一通路面積(横断面積)の二つの通路領域23a,23bに区分されている。仕切り板63は、保持部材64の全長にわたって延びる本体63aに、この本体63aよりも僅かに小さな幅(図3の上下方向の寸法)を有し、本体63aから上流側に延びて、気化器空気通路48(図2)に嵌入できる幅を有する仕切り突片63bが一体に形成されている。また、保持部材64の上流端部の外面には、仕切り板63と直交する径方向で対向する2箇所に、位置決め突起69が一体形成されている。この仕切りユニット62はナイロンを素材とした一体成形品である。
図4(a)〜(c)は前記インシュレータ22の正面断面図、左側面図および右側面図をそれぞれ示す。図4(a)に示すように、このインシュレータ22には、二点鎖線で示す仕切りユニット62の円筒状の保持部材64の厚み分と、仕切り板63の横断面積相当分とだけ、既存のインシュレータの空気通路に対して通路の径を拡大した通路拡張部70が形成されている。この通路拡張部70にほぼ同心状に、仕切りユニット62の保持部材64が嵌合されることにより、保持部材64の中空部と仕切りユニット62によって、既存の空気通路と同一通路面積を有する空気通路23が形成されている。
通路拡張部70の空気の流れ方向の下流端(図4(a)の右端)における上半部に、円筒状の保持部材64の内径と同一の内径を有する半円形状の段部71が設けられている。この段部71は、通路拡張部70に嵌入される仕切りユニット62の保持部材64の下流端面64aに当接して、保持部材64の上流端面64bがインシュレータ22における気化器3との合わせ面22aと面一となるように、保持部材64を位置決めしている。
また、インシュレータ22における通路拡張部70から空気Aの流れ方向の下流側は、前記段部71に連なる通路の下半部が、段部71と同一内径で立壁60まで延びている。これにより、前記通路下半部に、仕切りユニット62の保持部材64の中空部からなる空気通路23と同一径の空気流路が設けられており、この空気流路におけるリードバルブ41の近傍箇所に、前記立壁60が一体形成されている。この立壁60は、前述のように、リードバルブ41の先端部41a寄りの配置で、空気通路23の空気Aの流れ方向つまり軸心C4に対してほぼ直交する面に沿って延びている。
さらに、インシュレータ22には、立壁60の突出端部60aと対向する通路上半部における段部71から下流端までの箇所に、前記凹所61が形成されている。この凹所61は、図4(c)に横平行線で示すように、横断面形状がほぼ四角形状に形成されて、立壁60が存在する部位での通路面積S1が、縦平行線により図示した、立壁60の直近の上流側の通路面積、つまり段部71の内周面およびその上流側の保持部材64の中空部により形成された空気通路23の面積S2とほぼ同一に設定されている。
図4(b)に示すように、インシュレータ22の上流端部における通路拡張部70の水平な径方向に相対向する2箇所に、一対の凹部72が形成されており、この凹部72に、図3の仕切りユニット62の一対の位置決め突起69が嵌まり込む。図4(a)に示すように、凹部72は、仕切りユニット62の保持部材64が通路拡張部70に嵌合されたときに、位置決め突起69を介して保持部材64を回り止めする。
こうして仕切りユニット62が取り付けられたインシュレータ22に、図5に示す気化器3およびエアクリーナ4が取り付けられる。すなわち、インシュレータ22に嵌合された仕切りユニット62の仕切り突片63bを気化器空気通路48に進入させ、合わせ面22aを気化器3の下流端面に重ね合わせ、さらに気化器3の上流端面にエアクリーナ4を重ね合わせた状態で、エアクリーナ4および気化器3の各々の挿通孔73,74に挿通したボルト78を、インシュレータ22の一対のねじ孔79にねじ込むことにより、インシュレータ22に気化器3およびエアクリーナ4を固定して、吸気系アッセンブリを形成する。このとき、仕切りユニット62は、保持部材64の上流端面64bが気化器3の下流端面に当接して、インシュレータ22からの抜け止めがなされる。
また、インシュレータ22は、その下端部に設けた突片80がシリンダブロック1内に進入して、空気導入通路40の上流側の一部分を形成しており、この状態で、図4(b)に示す四つの取付孔81に挿通したボルト(図示せず)をシリンダブロック1のねじ孔(図示せず)にねじ込むことにより、シリンダブロック1に固着される。
前記インシュレータ22は、高い断熱効果が得られる素材、例えばフェノール樹脂などにより形成されるが、フェノール樹脂は硬くて脆いことから、図2に示す薄い仕切り板63を一体形成するのが困難である。これに対し、前記2サイクルエンジンでは、加工が容易で堅牢な素材であるナイロンにより、仕切り板63および保持部材64からなる仕切りユニット62を型成形している。この仕切りユニット62をインシュレータ22の通路拡張部70に嵌合することで、仕切り板63を保持部材64の中空部からなる空気通路23内に容易、かつ強固に取り付けることができる。また、この実施形態では、既存のエンジンに対して、インシュレータに通路拡張部70、立壁60および凹所61を設ける改造を施し、一体成形した別部材の仕切りユニット62をインシュレータ22に嵌合するだけの簡単な構成としながらも、以下に説明するような急加速性の向上と中開度運転時の回転の安定性とを共に達成できる。
アイドリング時には、図1の混合気用弁体51が所要開度に開かれてアイドリングに最適な濃度の混合気Mが混合気通路24から掃気通路30,31を通って燃焼室1a内に供給される一方で、図5に示すように、空気用弁体50は空気通路23を全閉状態に保持し、空気通路23を通って流入する空気量の変動によるエンジン回転の変動を抑制する。これにより、安定した回転のアイドリングを行うことができる。
このアイドリング状態から急加速する操作を行うと、図7に示すように、空気用弁体50が空気通路23を全開して、アイドリング時に空になっている空気通路23内に空気用弁体50の空気通路孔50aから多量の空気Aが流入するが、この空気Aは、図2に示すように、空気通路23の軸心C1にほぼ直交する面に沿って延びた立壁60を乗り越えるように流動方向が上方へ変更されることによって流動速度が減速されるとともに、立壁60の存在によって空気用弁体50から掃気通路30,31までの流路が長くなる。これにより、空気通路23を通った空気Aが掃気通路30,31内に流入するタイミングが遅れて、混合気通路24からクランク室2aを経由して掃気通路30,31内に混合気Mが流入する時点に近づく。
その結果、掃気通路30,31から燃焼室1aに入る混合気Mが空気Aによって過剰に薄められて加速不良やエンジンの回転停止が発生する可能性が低くなり、円滑に急加速することができる。また、立壁60は空気流を乱して流動抵抗を増大させるが、立壁60をロータリー弁28とリードバルブ41との中間位置よりも下流のリードバルブ41に近づけて配置しているので、流動抵抗の増大が極力抑制される。
また、立壁60は、図1に示すリードバルブ41の近傍箇所で、かつ空気通路23の横断面におけるリードバルブ41の先端部41a寄りに配置されていることから、リードバルブ41における最も大きな開弁圧力が作用する先端部41aに空気Aが直接当たるのを阻止するので、流動する空気Aによってリードバルブ41が開かれるタイミングが遅れるから、これによっても空気通路23を流動する空気Aが掃気通路30,31に達する時間を一層遅延させることができる。
さらに、図3(a)に示す仕切り板63の本体63aおよび仕切り突片63bは、図2の空気通路23の流れ方向に延び、かつ、各々の前縁がロータリー弁28の軸心C3と平行に延びているので、ロータリー弁28を全開したとき、仕切り板63の仕切り突片63bの前縁に空気Aが当たって流速が低下する。これによっても、空気Aが掃気通路30,31に流入するタイミングが遅れる。
さらに、立壁41の存在する部位での通路面積がほぼ四角形状の凹所61によって立壁60の直近の上流側の空気空路23の通路面積とほぼ同一に設定されているから、立壁60の部位での通路面積の減少による流動抵抗の増大が抑制される。その結果、立壁60と凹所61とによって空気Aの流動方向を変更して減速しているにもかかわらず、所要量の空気Aを掃気通路30,31から燃焼室1aに円滑に供給して安定した回転を行わせることができる。また、このように通路面積を設定することによって、立壁60による流動抵抗の増大が抑制されるが、その際、図4(c)に示すように、凹所61をほぼ四角形状とすることにより、所要の通路面積を有する流路の高さおよび幅を、円形の形状とする場合に比較して小さくすることができるので、凹所61を空気通路23周りの限られたスペースに容易に設けることができる。
スロットルをアイドリング状態から除々に開いていく場合、図6に示すように、空気用弁体50の空気通路孔50aが、その下流側の空気通路23に対し、周方向に除々に大きく開口して連通していく。したがって、仕切り板63がない場合、弁体50の中開度までは空気通路孔50aの下流で空気通路23が急激に拡大するから、この部分に強い乱流が発生しようとする。このとき、仕切り板63により、中開度(中負荷)までは、空気通路孔50aが仕切り板63により仕切られた一方の通路領域23aにのみ連通するので、実質的に空気通路23の急激な拡大が抑制される。その結果、ロータリー弁28の空気通路孔50aから空気通路23の一方の通路領域23aに流入した後の空気Aに強い乱流が発生して回転変動を引き起こすのを防止でき、回転の安定性が向上する。
弁体50が中開度になったとき、空気用弁体50の空気通路孔50aの出口面積が、仕切り板83で仕切られた空気通路23の一方の通路領域23aの開口面積とほぼ同じになるから、空気通路23の一方の通路領域23aにおける空気Aが殆ど流れない部分または流動分布の大きな不均一が生じない。その結果、空気通路23の一方の通路領域23aに流入した空気Aは、十分整流されて乱流が発生しない。
空気用弁体50の全開状態では、図7に示すように、空気通路孔50aの出口開口の全体が、その下流側の空気通路23に連通し、空気通路孔50aの出口と空気通路23の間で急激な通路面積の拡大が生じないので、空気Aが仕切り板63で仕切られた一方の通路領域23aと他方の通路領域23bの両方に円滑に流れて、空気通路23内で強い乱流を発生させない。
上述した急加速性の効果を得るためには、図4(a)に示すように、立壁60の高さhが、空気通路23の通路高さ(円形通路の場合、通路直径)Hの0.3〜0.5倍に設定するのが好ましい。また、上述した中開度以下の回転の安定性の向上を得るためには、仕切り板63を長くして、仕切り板63の上流端縁63cを空気用弁体50の空気通路孔50a出口に合致させるように近接し、かつ下流端縁63dを、空気通路孔50aの出口、つまりインシュレータ22内の空気通路23の入口とリードバルブ41との距離Lの中点Pよりもリードバルブ41寄りに配置することが好ましい。
図8は、本発明の第2実施形態の要部の平面断面図を示し、大型の2サイクルエンジンに好適に適用できる。すなわち、供給する空気Aの流動量が多い場合、仕切りユニット81を、二つの互いに平行な仕切り板82,83が円筒状の保持部材84の中空部に一体形成された構成とする。これにより、実線で示すように、空気用弁体50の空気通路孔50aの開口面積が小さい低開度の場合には、空気通路孔50aの出口に最も近い第1仕切り板82で仕切られた第1流路領域23cのみに空気Aを流動させる。二点鎖線で示すように、空気用弁体50が中開度の場合、空気通路孔50aの出口の端縁が第2仕切り板83に対向するので、空気Aが、第1流路領域23cに加えて、第1仕切り板82と第2仕切り板83との間の第2流路領域23dにも流入する。これにより、空気Aの流動量の多い大型の2サイクルエンジンにおいて、中開度以下での運転時に、空気通路23内での空気Aの乱流発生を防止して、回転の安定性を向上させることができる。
図9は、本発明の第3実施形態に用いる仕切りユニット88を示す。この仕切りユニット88は、仕切り板89の前縁89cがロータリー弁28の軸心C3と平行に延びる形状を有し、前縁89cから後縁89dまでの全長またはその一部分にわたって、仕切り板89の軸心回り、すなわち保持部材64の軸心回りにねじられた形状になっている。この仕切りユニット88は、第1実施形態の場合と同様に、中開度以下で仕切り板89によって空気Aを整流して乱流発生を防止することができるうえに、アイドリング時から急加速する場合には、ねじられた形状の仕切り板89に沿って空気Aが流れることにより、空気Aの流速をさらに減速させて、急加速性を向上させることができる。図8の第2実施形態における第1および第2仕切り板82,83にも、同様なねじりを付加することができる。
本発明は、以上の実施形態で示した内容に限定されるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で、種々の追加、変更または削除が可能であり、そのようなものも本発明の範囲内に含まれる。
1a 燃焼室
23 空気通路
24 混合気通路
28 ロータリー弁
30,31 掃気通路
41 リードバルブ(逆止弁)
50 空気用弁体
51 混合気用弁体
60 立壁(遅延部材)
60a 立壁の突出端部
61 凹所
62,81,88 仕切りユニット
63,82,83,89 仕切り板(遅延部材)
64 保持部材
A 空気
M 混合気