本発明は、燃料噴射ノズルを構成するノズル本体において、燃料を噴出させる噴孔に燃料を導くために形成される燃料の経路の構成を工夫することにより、簡単な構造で、ノズル本体の内部で旋回流を生じさせ、噴射燃料の微粒化の促進および燃料噴霧の拡散性の向上を図ろうとするものである。以下、本発明の実施の形態を説明する。
本実施形態の燃料噴射ノズル1は、例えば舶用や自動車用のエンジンに適用され、エンジンにおいて、ディーゼル燃料等の燃料の噴射弁を構成する。すなわち、燃料噴射ノズル1は、例えば、エンジンにおいて、シリンダ内に燃料の燃焼空間を形成する燃焼室に燃料を噴射するように設けられる。また、燃料噴射ノズル1は、例えば、シリンダの中心の1箇所に配置されたり、シリンダの中心位置から偏在した複数箇所に配置されたりして用いられる。
燃料噴射ノズル1は、燃料タンク等からコンプレッサや燃料ポンプ等によって加圧された状態で送られてくる燃料の供給を受け、エンジンの燃焼空間に燃料を噴射する。このため、図1に示すように、燃料噴射ノズル1は、燃料を噴出させる噴孔2と、供給された燃料を噴孔2に導くための燃料の経路である燃料通路3とを有する。
燃料噴射ノズル1は、エンジンにおいて、噴孔2が燃焼空間に臨むような姿勢で設けられ、燃料ポンプ等によって加圧された状態で供給される燃料を、燃料通路3によって噴孔2に導き、噴孔2から噴出させることで、燃料を燃焼空間に噴射する。なお、以下の説明では、燃料噴射ノズル1において、噴孔2が設けられる側(図1における下側)を下側とし、その反対側(図1における上側)を上側とする。
燃料噴射ノズル1により構成される燃料噴射弁は、例えば、コモンレール式の燃料噴射システムを構成する。コモンレール式の燃料噴射システムは、複数の燃料噴射弁と、高圧化した燃料を蓄えるコモンレールとを備え、コモンレールから各燃料噴射弁に均一に燃料を供給するシステムである。
コモンレール式の燃料噴射システムでは、燃料の噴射圧力、噴射時期、噴射量等が、制御装置によって電子的に制御される。このため、燃料噴射ノズル1がコモンレール式の燃料噴射システムの各燃料噴射弁を構成する場合、燃料噴射ノズル1は、その動作等について、制御装置による電子的な制御を受ける。
図1から図5に示すように、本実施形態の燃料噴射ノズル1は、ノズル本体4と、ニードル5とを備える。ノズル本体4は、全体として略円筒状の外形を有する部材である。ニードル5は、全体として略円柱状の外形を有する軸状の部材である。
ニードル5は、ノズル本体4に対して、ノズル本体4の略同軸心となる位置に挿入された状態で、軸方向(上下方向)に相対的に移動可能に設けられる。言い換えると、ニードル5は、ノズル本体4への挿脱方向(上下方向)の移動が許容された状態で、ノズル本体4に挿入される。
図1から図5に示すように、ノズル本体4は、ニードル5を挿入させる孔を形成する案内面6を有する。ノズル本体4は、ニードル5を上下方向(ニードル5の軸方向)に往復摺動可能な状態で収容する。このため、ニードル5の挿入孔を形成する案内面6は、ノズル本体4に挿入されたニードル5が摺動するように、ニードル5の外周面に対応する内周面として形成される。つまり、ニードル5の案内面6に対して摺動する部分の外径寸法と、案内面6の内径寸法とは、互いに略同じ寸法である。案内面6は、ニードル5の軸方向(以下「ニードル軸方向」という。)の移動を案内するとともに、ニードル5をノズル本体4に保持する。
図1および図2に示すように、燃料噴射ノズル1は、ノズル本体4とニードル5により、燃料通路3を開閉する弁部7を構成する。弁部7は、ノズル本体4に対するニードル5の往復動作により開閉する。具体的には次のとおりである。
燃料噴射ノズル1が有する噴孔2は、ノズル本体4の下端部に形成される。本実施形態の燃料噴射ノズル1は、8個の噴孔2を有する。8個の噴孔2は、互いに同じ孔径を有し、ニードル5の軸心線の位置を中心として周方向に等間隔に配置されて設けられる(図4、図5参照)。8個の噴孔2は、ニードル5の軸心の位置を中心として、下側に向けて放射状に燃料を噴出するように形成される。各噴孔2は、ノズル本体4の下側において、燃料通路3をノズル本体4の外部に開口させる。なお、燃料噴射ノズル1が有する複数の噴孔2の孔径については、全ての孔径が同じ孔径である必要はなく、例えば燃焼室の形状等に応じて互いに異なる寸法の孔径であってもよい。
燃料通路3は、ノズル本体4において、噴孔2が形成される側と反対側(上側)の端面4aに開口する。燃料通路3の端面4aに対する開口部が、燃料通路3の入口部3aとなる。したがって、燃料噴射ノズル1に供給される燃料は、入口部3aから流入し、燃料通路3によって噴孔2へと導かれる。
噴孔2と案内面6との間には、燃料溜り部8が設けられている。燃料溜り部8は、燃料通路3の一部を構成する。燃料溜り部8は、内周面9によって空間18を形成する。内周面9により形成される空間18は、案内面6により形成されるニードル5の挿入孔の下端側を開口させるように、ニードル5の挿入孔に対して拡径した部分を有する。燃料溜り部8は、先端通路部10を介して、噴孔2に連通する。つまり、燃料溜り部8と噴孔2との間に、先端通路部10が設けられる。先端通路部10は、弁部7におけるノズル本体4の強度確保等のために設けられるが、その通路長さは特に限定されない。
先端通路部10は、ニードル5と同軸心上に位置する略円筒状の空間を形成する部分であり、噴孔2に対しては拡大空間を形成し、燃料溜り部8に対しては縮径空間を形成する。つまり、先端通路部10の径方向の寸法は、噴孔2の径方向の寸法よりも大きく、燃料溜り部8の径方向の寸法よりも小さい。
先端通路部10の上端側(噴孔2と連通する側と反対側)は、燃料溜り部8に対して開口する。先端通路部10の燃料溜り部8に対する開口部が、ニードル5により閉塞されることで、弁部7が閉じた状態となる。燃料溜り部8と先端通路部10との連通部分が、ニードル5によって閉塞される。このため、燃料溜り部8を形成する内周面9の、先端通路部10側(下側)の部分には、ニードル5が着座する弁座11が設けられている。弁座11は、先端通路部10の燃料溜り部8に対する開口部の周辺部分に形成される。
弁座11は、下側(噴孔2側)にかけて縮径する円錐台状の内周面である座面を形成する。したがって、弁座11は、小径側で先端通路部10を介して噴孔2に連通し、大径側で燃料溜り部8に連通する。弁座11は、その円錐台状の座面の軸心方向が、ニードル5の軸心方向と一致するように設けられる。
弁部7を構成する弁座11に対しては、弁体として機能するニードル5の先端部が着座する。ニードル5は、ノズル本体4に対する挿入方向の先端側の端部に、縮径部12を有する。縮径部12は、ニードル5において、案内面6に対して摺動する部分よりも小径の部分である。ニードル5の先端の縮径部12は、燃料溜り部8に位置する。ニードル5において縮径部12のさらに先端側には、弁座11に対して着座する部分となる着座部13が設けられている。
着座部13は、弁座11により形成される座面に対する着座面を形成する部分であり、ニードル5の先端側にかけて縮径する円錐形状を有する。着座部13の円錐状の外周面が、弁座11の座面に対する着座面となる。これらの構成において、着座部13の着座面が弁座11の座面に接触することで、弁部7が閉じた状態となり、着座部13の着座面が弁座11の座面から離間することで、弁部7が開いた状態となる。
図1は、燃料噴射ノズル1の閉弁状態、つまり弁部7が閉じた状態を示し、図2は、燃料噴射ノズル1の開弁状態、つまり弁部7が開いた状態を示す。弁部7は、上記のとおりニードル5の往復摺動により開閉する。ニードル5は、スプリング等の付勢部材によって、弁部7を閉じる方向、つまり下向きに付勢された状態で設けられる。ニードル5は、付勢部材による付勢力を受けるための形状部分として、着座部13側と反対側(上側)の端部に、突出部14を有する。突出部14は、ニードル5の上端部において、案内面6に対して摺動する部分よりも小径の円柱状の突起部分(縮径部分)として形成された部分である。
一方、ニードル5は、縮径部12において、先端側(下側)にかけて縮径するテーパ面12aを有する。上述したように、縮径部12は、燃料溜り部8に位置し、また、燃料溜り部8は、燃料通路3の一部を構成する。このため、ニードル5は、燃料溜り部8において、テーパ面12aによって、燃料通路3に供給される高圧(例えば800気圧)に維持された燃料の圧力を受けることで、弁部7を開弁させる方向(上向き)の力の作用を受ける。
なお、上述したように燃料噴射ノズル1がコモンレール式の燃料噴射システムに適用される場合、燃料噴射ノズル1のニードル5の動作は、電磁弁やピエゾ素子(圧電素子)等を含む周知の構成によって電子的に制御される。ニードル5は、電子的な制御により、弁部7を開弁させる方向(上向き)の力、または弁部7を閉弁させる方向(下向き)の力の作用を受ける。
ニードル5に作用する上下方向の力の大小関係の変化により、弁部7の開閉動作が行われる。すなわち、ニードル5が突出部14によって付勢部材から受ける力等のニードル5に作用する下向きの力が、ニードル5が燃料溜り部8においてテーパ面12aによって受ける燃料の圧力等のニードル5に作用する上向きの力よりも大きい状態では、ニードル5の先端の着座部13が弁座11に着座し、弁部7が閉じた状態となる(図1参照)。一方、ニードル5に作用する上向きの力が下向きの力よりも大きい状態では、ニードル5の先端の着座部13は弁座11から離れ、弁部7が開いた状態となる(図2参照)。
このような弁部7の開閉動作において、電子的な制御が用いられる場合、電磁弁に対する通電状態やピエゾ素子に対する電圧の印加状態等により、ニードル5に作用する上下方向の力の大小関係が変化させられる。そして、弁部7の開閉のタイミングによって燃料の噴射時期が制御され、弁部7の開弁時間によって燃料の噴射量が制御されながら、弁部7の開閉により、間欠的な燃料の噴射が行われる。
以上のように、本実施形態の燃料噴射ノズル1は、燃料を噴出させる噴孔2および該噴孔2に燃料を導く燃料通路3を有するノズル本体4と、ノズル本体4に挿入される軸状の部材であり、ノズル本体4とともに、ノズル本体4に対する軸方向(上下方向)の往復移動により燃料通路3を開閉する弁部7を構成するニードル5とを備える。なお、燃料噴射ノズル1の動作方式、つまり往復動作するニードル5の駆動方式は、特に限定されるものではない。
また、燃料噴射ノズル1においては、ノズル本体4に、連結ピン15を嵌合させるための穴部4bが形成されている。穴部4bは、ノズル本体4の端面4aに開口するように形成される。連結ピン15は、燃料噴射ノズル1により構成される燃料噴射弁において、ノズル本体4に対して端面4a側に接合される所定の構造体16とノズル本体4とを連結させる。本実施形態では、端面4aに開口する穴部4bは、同じく端面4aに開口する入口部3aと干渉しないように2箇所に設けられており(図4参照)、ノズル本体4は、2本の連結ピン15が用いられて所定の構造体16に連結される。
以下では、燃料噴射ノズル1が備える燃料通路3の構成について、具体的に説明する。図1等に示すように、燃料通路3は、噴孔2に対する燃料の流れの上流側から下流側にかけて設けられる部分として、燃料供給通路部21と、方向変換通路部22と、燃料溜り部8とを有する。
燃料供給通路部21は、ノズル本体4において、案内面6により形成される挿入孔の軸心回りの所定の位置に設けられ、ニードル軸方向に沿って形成される直線状の孔を形成する部分である。つまり、燃料供給通路部21は、ノズル本体4において、軸心位置からずれた位置にて、案内面6により形成される挿入孔と平行に形成される孔部である。燃料供給通路部21は、略円形状となる断面形状を有する。
燃料供給通路部21の上流側(上側)の端部は、ノズル本体4の端面4aにて、燃料通路3の入口部3aとして開口する。一方、燃料供給通路部21の下流側(下側)の端部は、上下方向について、燃料溜り部8の位置まで延びて形成される。燃料供給通路部21の下流側の端部は、ニードル軸方向視で、燃料溜り部8に対して間隔を隔てた位置、つまりニードル5の径方向の外側の位置に臨む。
方向変換通路部22は、燃料供給通路部21と燃料溜り部8との間に設けられ、燃料供給通路部21と燃料溜り部8とを連通させる直線状の孔を形成する部分である。方向変換通路部22は、上記のとおり燃料溜り部8に対して間隔を隔てた位置に臨む燃料供給通路部21の下流側の端部から、燃料溜り部8内に燃料を導く。
図1等に示すように、方向変換通路部22は、ニードル軸方向(上下方向)に対して斜めに形成され、燃料供給通路部21と燃料溜り部8とを連通させる。つまり、方向変換通路部22は、燃料溜り部8に対して、上流側から下流側にかけてニードル5の軸心の位置に近付くように斜め方向に連通する。このため、方向変換通路部22は、燃料供給通路部21の下端部と燃料溜り部8との間において、上側から下側にいくにしたがいノズル本体4の外周側から内側(中心部側)に向かうように斜め直線状に形成される。
したがって、方向変換通路部22は、燃料供給通路部21によってニードル軸方向に沿って送られてきた燃料を、ニードル軸方向に対してノズル本体4の外側から内側にかけて斜め方向に送り、燃料溜り部8に導く。このように、方向変換通路部22は、燃料供給通路部21によってニードル軸方向に沿って流れてきた燃料の流れる方向を、ニードル軸方向に対して斜め方向に変換して、燃料溜り部8に燃料を導く。
また、方向変換通路部22は、燃料溜り部8に対して、ニードル軸方向視で、燃料溜り部8の接線方向に沿うように形成される。つまり、方向変換通路部22は、燃料溜り部8に対して、ニードル軸方向に対して垂直な平面に投影された方向として、燃料溜り部8の接線方向に沿うように形成される。
図5に示すように、燃料溜り部8を形成する内周面9は、ニードル軸方向視で円形状となる内周面部23を有する。そして、方向変換通路部22は、燃料溜り部8に対して、内周面部23によるニードル軸方向視での円形状における接線方向に連通する。つまり、方向変換通路部22は、燃料溜り部8に対して、ニードル軸方向に対して垂直な平面に投影された方向として、内周面部23の円形状における接線方向に連通する。
詳細には、図5に示すように、燃料溜り部8を形成する内周面9の内周面部23は、ニードル軸方向視で、ニードル5の軸心位置O1を中心とする円形状となる。軸心位置O1を中心とする円形状においては、任意の位置にて接線O2を引くことができる。
そこで、直線状の孔を形成する方向変換通路部22は、その直線の方向に相当する通路の方向が、ニードル軸方向視で、軸心位置O1を中心とする円形状における接線O2の方向に沿う方向となるように設けられる。つまり、方向変換通路部22は、その通路の方向が、ニードル軸方向視で、軸心位置O1を中心とする円形状における接線O2の方向に対して平行な方向となるように形成される。言い換えると、ニードル軸方向に対して垂直な平面に投影された方向変換通路部22の通路の方向は、接線O2の方向に沿う方向となる。
また、燃料通路3を構成する燃料溜り部8は、ニードル5の外周面、詳細にはニードル5の縮径部12の部分の外周面とともに、ニードル5の周囲に燃料を保持する空間18を形成する。図1等に示すように、ノズル本体4に挿入された状態のニードル5は、燃料溜り部8の部分に、縮径部12を位置させる。これにより、燃料溜り部8は、内周面9と、縮径部12の外周面とによって、ニードル5の周りに、燃料が溜まる空間18を形成する。燃料溜り部8により形成される空間18は、ニードル軸方向に沿って、下流側に向けて縮径する先細り形状を有する。
以上のような構成の燃料通路3による燃料の流れについて説明する。なお、ここで説明する燃料の流れは、噴孔2から燃料が噴射される際の燃料の流れ、つまり弁部7が開いている状態における燃料の流れである。
燃料噴射ノズル1に対して所定の経路で供給される燃料は、燃料通路3の入口部3aから、燃料供給通路部21内に流入する。燃料供給通路部21内に流入した燃料は、燃料供給通路部21により、ニードル軸方向に沿って下向きに導かれる(図2、矢印X1参照)。
燃料供給通路部21の下端部に達した燃料は、方向変換通路部22に流入することで流れの方向が変換され、方向変換通路部22によって燃料溜り部8に流れ込む。ここで、方向変換通路部22を通過して燃料溜り部8に流れ込む燃料は、方向変換通路部22の通路方向、つまり上述したように燃料溜り部8に対してノズル本体4の外側から内側に斜め方向、かつニードル軸方向視で接線方向に沿う方向流れ込む(図5、矢印X2参照)。
方向変換通路部22から燃料溜り部8に流れ込んだ燃料は、燃料溜り部8において、内周面9に沿って旋回流を生じさせる(図5、矢印X3参照)。つまり、ここで燃料溜り部8内において生じる燃料の旋回流は、ニードル5の軸心回りの旋回流である。
燃料溜り部8内において旋回流を形成する燃料は、弁部7の開弁状態において互いに離間している弁座11とニードル5の着座部13との間の狭い隙間を通って、先端通路部10に流入し、噴孔2から噴出する。このようにして燃料噴射ノズル1から噴射された燃料は、燃焼室において着火することで火炎として広がり、燃焼する。
このように、燃料通路3により噴孔2に導かれる燃料の流れにおいては、噴孔2から噴出する燃料は、燃料が方向変換通路部22から燃料溜り部8に流れ込むことによって生じる旋回流の流れに沿って、旋回しながら噴出する。つまり、燃料溜り部8内において生じた燃料の旋回流は、先端通路部10および噴孔2の内部においても維持され、噴孔2から噴出する燃料を旋回流に沿ってねじれた状態で噴出させる。また、燃料溜り部8内から旋回しながら先端通路部10へ流入した燃料は、先端通路部10から噴孔2への流入時の急激な流路面積の変化により噴孔2内で生じるキャビテーションを促進・発達させる効果を奏する。
以上のような構成を備える本実施形態の燃料噴射ノズル1においては、燃料通路3を構成する燃料供給通路部21が、第1の通路部として機能し、同じく燃料通路3を構成する方向変換通路部22が、第2の通路部として機能する。すなわち、燃料供給通路部21は、燃料通路3において燃料溜り部8よりも上流側に設けられ、ニードル5のノズル本体4に対する挿入方向側(下側)に向けて燃料を導く。また、方向変換通路部22は、燃料溜り部8と燃料供給通路部21との間に設けられ、ニードル軸方向視で、燃料溜り部8に対して、ニードル5の径方向からずれた方向に連通する。
以上のような燃料噴射ノズル1によれば、簡単な構造により、低いコストで、ノズル本体4の内部で旋回流を生じさせることができ、噴射燃料の微粒化を促進することができ、燃料の燃焼性および排気特性の改善に貢献することができる。
具体的には、本実施形態の燃料噴射ノズル1は、噴孔2に対する燃料の供給経路において、燃料をニードル軸方向に導く燃料供給通路部21に加え、燃料供給通路部21から燃料溜り部8に対してニードル軸方向視で接線方向に連通する方向変換通路部22を有する。これにより、燃料噴射ノズル1は、ノズル本体4の内部となる燃料溜り部8において、旋回流を発生させる。このため、本実施形態の燃料噴射ノズル1によれば、例えばニードル5の外周面形状を工夫すること等によってニードル5の形状の複雑化を招くことなく、簡単な構造および低コストを容易に実現することができるとともに、ノズル本体4の内部で旋回流を効果的に発生させることができる。
さらに、本実施形態の燃料噴射ノズル1によれば、噴射した燃料が燃焼した後の燃料の液だれ(後だれ)が防止されるという効果も得られる。このことは、ノズル本体4の内部で生じる旋回流によって、噴孔2における液切れが良くなることに基づくと考えられる。
また、本実施形態の燃料噴射ノズル1では、方向変換通路部22が燃料溜り部8において燃料の旋回流を生じさせ、その旋回流が旋回の勢いを保ったまま先端通路部10に流入し、噴孔2から噴出される。ここで、先端通路部10から噴孔2への燃料の流入時に、急激な流路面積の変化により噴孔2内部でキャビテーションが生じ、先端通路部10内における旋回流によって、噴孔2内部でのキャビテーションの発達が促進される。
この点、従来からの研究により、キャビテーションの発生のメカニズムの詳細は未だ明らかにされていないものの、ノズル本体の内部で発生するキャビテーションが噴射燃料の微粒化に寄与するという報告がなされている。つまり、ノズル本体の内部でキャビテーションが発生することにより、噴射燃料の微粒化が促進されることがわかっている。
したがって、本実施形態の燃料噴射ノズル1によれば、燃料通路3の流路構成によって、噴孔2内部で燃料のキャビテーションの発生が促され、噴射燃料の微粒化が効果的に促進される。結果として、本実施形態の燃料噴射ノズル1によれば、燃料の燃焼性および排気特性が改善される。
本実施形態の燃料噴射ノズル1では、燃料通路3を構成する方向変換通路部22が、ニードル軸方向視で燃料溜り部8に対して接線方向に連通しているが、これに限定されない。つまり、本実施形態では、方向変換通路部22のニードル軸方向視での燃料溜り部8に対する連通方向に関し、ニードル5の径方向からずれた方向として、燃料溜り部8に対する接線方向が採用されているが、これに限定されない。
したがって、方向変換通路部22の燃料溜り部8に対する連通方向について、ニードル軸方向視でのニードル5の径方向からずれた方向は、上述したような効果を得る観点から、ニードル軸方向視での燃料溜り部8に対する接線方向を、ニードル5の径方向からのずれ量が最大となる方向として、燃料溜り部8内において旋回流が生じる程度にニードル5の径方向からずれた方向であればよい。燃料溜り部8内において旋回流を得る観点からは、方向変換通路部22に関し、ニードル軸方向視でのニードル5の径方向からずれた方向についてのずれ量、つまりニードル軸方向視でのニードル5の軸心位置からのずれ量は、上述したように接線方向を規定する円周(図5、軸心位置O1を中心とする円形状)の半径について、半径の1/2以上であることが好ましく、より好ましくは半径の2/3以上であり、さらに好ましくは半径に相当する寸法(図5に示すように接線方向となる寸法)である。
また、ノズル本体4において方向変換通路部22を形成する方向に関しては、本実施形態では、上述したように方向変換通路部22はノズル本体4の外周側から内側(中心部側)に向かうようにニードル軸方向に対して斜め直線状に形成されているが、これに限定されない。したがって、方向変換通路部22は、例えば、ニードル軸方向に対して垂直な平面あるいは略垂直な平面に沿う方向に形成されてもよい。
燃料噴射ノズル1において方向変換通路部22がニードル軸方向に対して垂直な平面に沿う方向に形成された場合の構成は、例えば図6および図7に示すような態様となる。図6および図7に示す構成例においては、燃料通路3を構成する方向変換通路部22は、ニードル軸方向に対して垂直な平面に対して平行に形成されるとともに、燃料溜り部8に対して接線方向に連通している。なお、図6および図7は、それぞれ方向変換通路部22がニードル軸方向に対して斜め直線状に形成された場合の構成における図1および図5に対応する。このように、方向変換通路部22がニードル軸方向に対して垂直な平面に沿う方向に形成された構成によれば、方向変換通路部22を形成するための加工が比較的容易であるという利点が得られる。
ただし、方向変換通路部22を形成する方向については、本実施形態の燃料噴射ノズル1のようにニードル軸方向に対して斜め直線状に形成することが好ましい。上記のとおり方向変換通路部22がニードル軸方向に対して垂直な平面に沿う方向に形成された構成においては、例えば、燃料噴射ノズル1に供給される燃料の圧力の大きさ等によっては、方向変換通路部22の部分においてキャビテーションが発生し、燃料供給通路部21から方向変換通路部22を介する燃料溜り部8への燃料の流れが阻害されることがある。この点、本実施形態のように方向変換通路部22をニードル軸方向に対して斜めに形成することで、燃料溜り部8および先端通路部10における旋回流を保持したままスムーズな流れを得ることができる。
また、方向変換通路部22をニードル軸方向に対して斜めに形成する構成においては、方向変換通路部22の流路方向のニードル軸方向に対する角度が、燃料溜り部8内において生じる旋回流の強さ(旋回速度)に影響する。そこで、図1に示すように、方向変換通路部22の流路方向D1のニードル軸方向D2に対する角度αを調整することにより、燃料溜り部8および先端通路部10において生じる旋回流の強さを制御することが可能となる。つまり、ノズル本体4の作製の過程において方向変換通路部22の流路方向についての角度αを制御することにより、燃料溜り部8および先端通路部10において生じる旋回流の強さの調整が可能となる。方向変換通路部22の流路方向についての角度αの大きさは、例えば35°程度である。
このように、本実施形態の燃料噴射ノズル1は、ノズル本体4において、燃料溜り部8および先端通路部10において所望の強さの旋回流を得るため、ニードル軸方向D2に対する流路方向D1の角度αが調整された方向変換通路部22を有する。すなわち、本実施形態の燃料噴射ノズル1においては、ノズル本体4が有する燃料通路3として燃料供給通路部21と方向変換通路部22と燃料溜り部8とを有する構成において、方向変換通路部22の流路方向D1のニードル軸方向D2に対する角度αが、燃料溜り部8内における旋回流の強さを制御するためのパラメータとして用いられる。なお、上記のとおり方向変換通路部22がニードル軸方向に対して垂直な平面に沿う方向に形成された構成においては、方向変換通路部22の流路方向D1のニードル軸方向D2に対する角度αは90°となる。
また、本実施形態の燃料噴射ノズル1では、燃料通路3を構成する燃料供給通路部21が、ニードル軸方向に沿って、つまりニードル5の挿入孔と平行に形成されているが、これに限定されない。燃料供給通路部21は、ニードル軸方向に平行である必要はなく、ニードル5のノズル本体4に対する挿入方向側(下側)に向けて燃料を導く構成であればよい。
したがって、燃料供給通路部21の方向としては、ニードル軸方向に対して斜め方向であってもよい。ここで、燃料供給通路部21の下流側の端部の位置が、ニードル軸方向視で、燃料溜り部8に対して隔てる間隔が大きいほど、方向変換通路部22の流路長さを確保することが容易となる。
また、本実施形態の燃料噴射ノズル1では、燃料供給通路部21および方向変換通路部22は、いずれも直線状に形成されているが、各通路部の形状は特に限定されない。燃料供給通路部21および方向変換通路部22については、例えば、両通路部の連結部分が曲線状に形成されたり、各通路部が全体としてあるいは部分的に曲線状に形成されたりしてもよい。
さらに、本実施形態の燃料噴射ノズル1では、燃料通路3を構成する燃料供給通路部21および方向変換通路部22が1組設けられているが、複数組の燃料供給通路部21および方向変換通路部22が、燃料溜り部8に連通する構成であってもよい。この場合、複数の方向変換通路部22は、燃料溜り部8に対して、各方向変換通路部22によって燃料溜り部8内で生じる旋回流が互いに相殺されることのないように設けられる。
例えば、2組の燃料供給通路部21および方向変換通路部22が設けられ、各方向変換通路部22が燃料溜り部8に対してニードル軸方向視で接線方向に連通する場合、2つの方向変換通路部22は、ニードル軸方向視で、ニードル5の軸心位置O1(図5参照)を中心として点対称に設けられる。このように、燃料溜り部8に対して、複数組の燃料供給通路部21および方向変換通路部22が連通する構成が採用されることにより、燃料溜り部8および先端通路部10において、旋回流をより効果的に発生させることができる。
また、燃料溜り部8において、ニードル軸方向視で円形状となる内周面部23について、円形状とは、真円形状に限定されるものではなく、一部に円弧状となる部分を含む略円形状も含む趣旨である。すなわち、内周面部23についてのニードル軸方向視での円形状とは、方向変換通路部22が燃料溜り部8に対してニードル軸方向視で接線方向に連通する場合に、その接線方向を規定するための形状であるため、内周面部23についての円形状は、接線方向を規定することができるように、円弧状となる部分を有する略円形状であればよい。
また、燃料溜り部8により形成される空間18ついては、本実施形態の燃料噴射ノズル1のように、ニードル軸方向に沿って、下流側に向けて縮径する先細り形状を有することが好ましい。具体的には、図1等に示すように、燃料溜り部8において内周面9により形成される空間18は、案内面6により形成されるニードル5の挿入孔に対する拡径部分となる上側から、先端通路部10が開口する下側(下流側)にかけて、徐々に縮径する略円錐形状を有する。
このように、燃料溜り部8により形成される空間18が、燃料の噴射側に向けて先細り形状を有することにより、燃料溜り部8から先端通路部10に向かう燃料の流れにおいて渦流が生じやすくなる。これにより、燃料溜り部8内において生じた旋回流の勢いを維持または増幅させることができ、より効果的に旋回流による微粒化を促進することができる。
また、本実施形態の燃料噴射ノズル1は、燃料を噴出させる噴孔2を8個有するが、噴孔2の個数は特に限定されるものではない。したがって、ノズル本体4において、1個の噴孔2が設けられる構成であってもよい。この場合、例えば、図8に示すように、1個の噴孔2は、ノズル本体4の下端において、ニードル5の軸心線上に位置し、ニードル軸方向に沿って貫通するように形成される。また、噴孔2が複数設けられる場合、複数の噴孔2のニードル軸方向の位置は互いに異なっていてもよい。つまり、例えば複数の噴孔2がニードル軸方向について2段に配置される等、複数の噴孔2のニードル軸方向の位置が揃っている必要はない。また、複数の噴孔2の配置に関しては、本実施形態のように等間隔の場合に限定されず、不等間隔の配置であってもよい。したがって、例えば、複数の噴孔2が、ある限られた範囲に偏って配置された構成であってもよい。
さらに、例えば、図9に示すように、複数の噴孔2は、ニードル軸方向視で、円形状となる先端通路部10に対して接線方向に沿って形成されてもよい。図9は、8個の噴孔2が、ニードル軸方向視で、先端通路部10の円周方向に等間隔に、先端通路部10に対して接線方向に沿って形成された場合の例を示している。
次に、燃料噴射ノズル1が有する弁部7の通過面積(通路面積)と噴孔2の通過面積との関係について説明する。燃料噴射ノズル1は、弁部7における燃料通路3の通過面積(以下単に「弁部7の通過面積」という。)が噴孔2の通過面積との比較において大きくなるように構成される。ここで、弁部7の通過面積は、弁部7が開いた状態、即ちニードル5のリフト量が最大の状態における弁座11の座面と着座部13の着座面との間の最小の流路面積である。
詳細には、弁部7の通過面積は、例えば、弁座11の座面と着座部13の着座面との間の流路方向に対して垂直な面の面積として規定される。したがって、弁部7の通過面積は、例えば、図10に示すように、ニードル5の軸心線の位置を通る断面視において、弁座11の座面および着座部13の着座面に対して垂直な直線E1の、ニードル5の軸心線を中心線とする回転軌跡として仮想される、円錐の周面状の面積である。なお、弁座11の座面および着座部13の着座面の傾斜度合いは同一とする。
このような弁部7の通過面積が、噴孔2の通過面積よりも大きくなるように設定される。ここで、噴孔2の通過面積は、噴孔2の孔面積(開口面積)であり、燃料噴射ノズル1が複数の噴孔2を有する場合はその複数の噴孔2の孔面積の合計の面積である。したがって、本実施形態の燃料噴射ノズル1は、上述したように8個の噴孔2を有することから、弁部7の通過面積の比較対象となる噴孔2の通過面積は、8個の噴孔2の孔面積の合計の面積となる。なお、燃料噴射ノズル1が1個の噴孔2を有する構成(例えば図8参照)においては、噴孔2の通過面積は、その1個の噴孔2の孔面積となる。
弁部7の通過面積を確保することは、ノズル本体4内において生じる旋回流の流速の減速を抑制して噴孔2から噴射される燃料について霧化(微粒化)促進させる観点から重要な要素である。そこで、弁部7の通過面積は、噴孔2の通過面積に対して15%以上大きくなるように設定されることが好ましい。つまり、弁部7の通過面積は、噴孔2の通過面積の1.15倍以上であることが好ましい。こうした弁部7の通過面積と噴孔2の通過面積との相対的な大小関係は、弁部7を構成するニードル5の着座部13およびノズル本体4の弁座11の形状、ニードル5のリフト量、噴孔2の数・孔径等をパラメータとして変化する。すなわち、弁部7の通過面積と噴孔2の通過面積との相対的な大小関係について、上記のような好ましい関係が得られるように、弁部7の各部の形状やニードル5のリフト量等のうち、少なくともいずれかのパラメータが調整される。
このように、本実施形態の燃料噴射ノズル1は、好ましい構成として、弁部7が開いた状態での弁部7の通過面積は、噴孔2の通過面積に対して15%以上大きいという構成を採用する。かかる構成によれば、噴孔2から噴射される燃料の霧化促進のために弁部7における流路面積を確保することができ、燃料通路3の弁部7における圧力損失を減ずることができる。これにより、燃料溜り部8内で生じた旋回流について、弁部7において流路が狭まることによる影響を軽減することができ、燃料溜り部8内において生じた旋回流の勢いを維持することができる。
以上のような旋回導入式の燃料噴射弁として構成される本実施形態の燃料噴射ノズル1によれば、燃料噴霧の微粒化を図ることができるとともに、噴孔2を形成するための加工が容易であり、しかも、噴霧について高い拡散性を得ることができ、燃焼効率を向上させることができる。このような効果が得られることについて、本実施形態の燃料噴射ノズル1の比較対象として、従来技術を適用した燃料噴射ノズルを用いて説明する。なお、以下の説明において、「旋回型ノズル」は本実施形態の燃料噴射ノズル1を指し、「標準ノズル」は従来技術を適用した旋回式ではない燃料噴射ノズル31(図11参照)を指す。
ここで、標準ノズルとしての燃料噴射ノズル31の構成について、図11を用いて説明する。なお、標準ノズルの説明においては、便宜上、上述した本実施形態の燃料噴射ノズル1と共通する部分については、同一の符号を用いて説明を省略する。
図11に示すように、標準ノズルとしての燃料噴射ノズル31は、燃料を入口部3aから燃料溜り部8まで導くための燃料の通路として、直線通路部41を有する。直線通路部41は、入口部3aから、燃料溜り部8の周縁部に対して、直線状の孔を形成する部分である。
直線通路部41は、ニードル5の軸心線を通る断面に沿って、入口部3aから、噴孔2側にかけて、ニードル5の軸心位置に近付くように、ニードル軸方向に対して斜め方向に形成される。このように、標準ノズルとしての燃料噴射ノズル31は、上述した実施形態の燃料噴射ノズル1との比較において、燃料供給通路部21および方向変換通路部22の代わりに、入口部3aから燃料溜り部8に対して直接的に燃料を導く1本の直線状の通路である直線通路部41を有する点で、本実施形態の燃料噴射ノズル1と異なる。
このような標準ノズルとの比較において、旋回型ノズルによれば、噴孔2から出た直後から燃料が微粒化され、微粒化が促進されるとともに、噴霧角が大きくなる。ここで、噴霧角とは、噴孔2から燃料が噴射されることにより形成される噴霧の広がり角である。
図12に、実際に燃料噴射ノズルから燃料が噴射している状態の参考写真を示す。図12において、(a)は旋回型ノズルの場合の写真を示し、(b)は標準ノズルの場合の写真を示す。なお、図12(a)、(b)に示す写真は、それぞれ旋回型ノズルおよび標準ノズルがニードル5の軸回りに等間隔に設けられた10個の噴孔2を有する構成例についてのものである。また、図12(a)、(b)の写真に示す燃料の噴射状態は、大気圧中での燃料の噴射状態である。つまり、図12の各写真は、燃料噴射ノズルに対して所定の圧力で供給された燃料が噴孔2から大気圧中に噴射された状態を撮影したものである。
図12(a)、(b)から、旋回型ノズルにおける噴霧角β1は、標準ノズルにおける噴霧角β2と比較して、明らかに大きくなっていることがわかる。このように旋回型ノズルによって噴霧角が大きくなることについては、旋回型ノズルにおいて燃料通路3の構成によっておよび先端通路部10で旋回流が生じることが大きな要因であると考えられる。
このように、旋回型ノズルによれば、標準ノズルとの比較において、噴霧の微粒化が促進され、噴霧角が大きいという利点が得られる。旋回型ノズルにおいては、噴霧角が大きくなることから、噴霧の干渉による燃焼用酸素不足を避けるため、互いに隣り合う噴孔2間の間隔を標準ノズルに対して広げた構成が採用される。
ここで、噴霧の干渉とは、異なる噴孔2から噴射された燃料噴霧の一部同士が重なって存在することであり、噴霧の干渉が生じると、全ての噴孔2からの噴霧全体としての外縁の面積が減ることになり、燃焼用酸素不足が生じる。また、互いに隣り合う噴孔2間の間隔は、例えば、互いに隣り合う噴孔2がニードル軸方向に対して垂直な共通の面上に存在する場合は、その面におけるニードル5の軸心位置を中心とする円弧の角度範囲として規定される。
旋回型ノズルにおいて互いに隣り合う噴孔2間の間隔を広げる程度としては、例えば、旋回型ノズルにおいては、互いに隣り合う噴孔2間の間隔が、標準ノズルとの比較において10〜100%大きく(1.1〜2倍に)設定される。このように、旋回型ノズルによれば、噴霧の微粒化が促進されて噴霧角が大きくなることから、標準ノズルに対して、互いに隣り合う噴孔2間の間隔を拡大することができる。
また、旋回型ノズルによれば、標準ノズルとの比較において、噴孔径(噴孔2の孔径)が同じ場合、噴射率(時間当たりの燃料の噴射量)が低くなる。このため、旋回型ノズルにおいては、噴孔径を標準ノズルに対して大きくした構成が採用される。
旋回型ノズルにおいて噴孔径を大きくする程度としては、例えば、旋回型ノズルにおいては、噴孔径が、標準ノズルとの比較において噴孔2の総面積比で10〜70%大きく設定される。ここで、噴孔2の総面積は、燃料噴射ノズル1が複数の噴孔2を有する場合、その複数の噴孔2の孔面積の合計であり、上述した噴孔2の通過面積に相当する。
このように旋回型ノズルにおいて標準ノズルと比べて噴孔径を大きくすることによっても、噴霧の微粒化効果は維持される。すなわち、旋回型ノズルによれば、先端通路部10において生じる旋回流の作用等によって噴霧の微粒化が促進されることから、噴霧の微粒化を維持したまま、標準ノズルとの比較において噴孔径を大きくすることが可能となる。
ここで、噴孔径についての実験結果例を示す。この実験は、大型2サイクル機関用の燃料噴射ノズルについて行ったものであり、コモンレール式の燃料噴射システムを備える機関による実測値である。図13に示すように、この実験は、標準ノズルおよび旋回型ノズルのそれぞれについて、機関の最大出力に対して50%、75%、100%の負荷試験により、燃料の噴射時間を測定したものである。なお、各負荷試験において、標準ノズルおよび旋回型ノズルの各ノズルにおける噴射圧力は同じかつ一定である。
図13(a)に示す表は、標準ノズルと旋回型ノズルの噴孔径が互いに同じ場合の実験(実験1)による測定結果である。この例では、標準ノズルおよび旋回型ノズルのいずれについても、5個の噴孔2を有し、各噴孔2の孔径は、φ0.875、φ0.900、φ0.825、φ0.750、φ0.600である。
また、図13(b)に示す表は、旋回型ノズルの噴孔径を標準ノズルの噴孔径に対して面積比で35%増加させた場合の実験(実験2)による測定結果である。この例では、標準ノズルは、実験1の場合と同じサイズの5個の噴孔2を有し、旋回型ノズルは、φ0.980、φ1.010、φ0.925、φ0.840、φ0.670の各サイズの5個の噴孔2を有する。
図13(a)の測定結果から、まず、標準ノズルおよび旋回型ノズルのいずれの場合についても、負荷が50%、75%、100%と大きくなるに従い、噴射時間が長くなることがわかる。具体的には、標準ノズルの場合は、50%負荷試験で17.4msec、75%負荷試験で22.3msec、100%負荷試験で24.3msecであり、旋回型ノズルの場合は、50%負荷試験で21.5msec、75%負荷試験で27.6msec、100%負荷試験で31.0msecである。なお、各負荷試験での噴射圧力は、50%負荷試験で650bar(1bar=100kPa)、75%負荷試験で720bar、100%負荷試験で800barである。
図13(a)に示す実験1の測定結果から、標準ノズルと旋回型ノズルの噴孔径が互いに同じである場合、旋回型ノズルの方が噴射時間が長くなる。この測定結果は、上述したように噴孔径が同じ場合に旋回型ノズルの方が標準ノズルよりも噴射率が低くなることを表している。
一方、図13(b)の測定結果では、50%、75%、100%の負荷試験のいずれについても、標準ノズルと旋回型ノズルとで噴射時間が互いに同等程度である。具体的には、標準ノズルの場合は、50%負荷試験で17.5msec、75%負荷試験で21.9msec、100%負荷試験で25.7msecであり、旋回型ノズルの場合は、50%負荷試験で17.7msec、75%負荷試験で21.7msec、100%負荷試験で27.4msecである。すなわち、旋回型ノズルにおいて噴孔径を標準ノズルに対して面積比で35%増加させることにより、噴射時間を標準ノズルと同程度まで延ばすことができ、標準ノズルと同等の噴射率を得ることができる。なお、実験2における各負荷試験での噴射圧力は実験1の場合と同様である。
以上の実験結果からわかるように、旋回型ノズルにおいて標準ノズルと同等の噴射率を得ようとした場合、噴孔径が大きくなる。旋回型ノズルによれば上述したように噴霧の微粒化が促進されることから、旋回型ノズルにおいては噴孔径の面積を大きくしても微粒化効果が維持される。そして、旋回型ノズルにおいて、噴孔径を大きくすることにより、噴霧全体の運動エネルギーを大きくすることができ、噴霧の到達距離を伸ばすことができる。結果として、噴霧についての拡散性を向上させることができるので、噴孔から遠い部分の酸素を燃焼に使うことが可能となり、良好な燃焼効率を得ることができる。
また、旋回型ノズルによれば、上述したように、標準ノズルに対して、噴霧角が大きくなること、および噴孔径を大きくすることができることから、噴孔2の数を減らすことができる。噴孔2の数を減らすことによれば、互いに隣り合う噴孔2間の間隔を拡大することができ、また、噴霧の微粒化が促進されることによる噴霧の貫徹力の低下を補うことができる。
旋回型ノズルにおいて噴孔2の数を減らす程度としては、例えば、旋回型ノズルにおいて、噴孔2の数が標準ノズルとの比較において10〜60%減じた構成が採用される。なお、標準ノズルとの関係において数が減らされる旋回型ノズルにおける噴孔2の噴孔径については、例えば上述したような噴孔径についての実験結果例等に基づいて大きさが設定される。
また、旋回型ノズルによれば、噴孔2の数を減らすことができることから、噴孔2を設けるための加工の手間が少なくなり、コストダウンを図ることができる。さらに、旋回型ノズルによれば、上述したように標準ノズルと比べて噴孔径を大きくすることができることから、各噴孔2を形成するための加工も容易となる。したがって、燃料を微粒化するために噴孔を小さくするという従来の手法が、噴孔として小孔を多数設ける必要があることから噴孔の加工面で不利であることに対し、本実施形態の燃料噴射ノズル1としての旋回型ノズルによれば、噴霧燃料の微粒化を図りながら、標準ノズルに対して噴孔径を大きくすることができ、しかも噴孔2の数を少なくすることができるので、噴孔2の加工を行ううえで有利となる。
以下、本実施形態に係る燃料噴射ノズル1により得られる効果等ついてまとめる。ディーゼルエンジン等のエンジンにおいては、理想の燃料噴射の一形態として、「微粒化された燃料をより短時間内に燃焼室全体に一様に分布させる」ことがあげられる。そこで、本実施形態の燃料噴射ノズル1によれば、燃料溜り部8内で生じる旋回流等により、従来技術に対して、各段に微粒化の促進がなされる。この微粒化効果は、例えば標準ノズルに対して噴孔2の大きさをある程度大きくしても失われることがない。このことは、実験により証明済みである。そして、噴孔2の大きさ(噴孔径)を大きくすることは、噴射率が上がることにつながり、結果として、燃料の分布に関し「より短時間内に」という点について優位にはたらく。
また、燃料噴霧の微粒化が促進されると、噴霧を構成している各液滴が受ける空気抵抗の影響が大きくなり、噴霧の到達距離が短くなる。しかし、本実施形態の燃料噴射ノズル1によれば、噴孔2を大きくすることで、一つの噴孔2から噴射される燃料の噴射エネルギーの総量が大きくなるため、噴霧の到達距離を長くすることができる。このことは、燃料の分布に関し「燃焼室全体に一様に分布させる」という点について優位に働く。なお、燃料を微粒化するために噴孔を小さくするという従来の手法によれば、上記のような液滴に作用する空気抵抗の影響等から、燃料噴霧の微粒化と噴霧の到達距離の延長との両立を図ることは困難である。
また、本実施形態の燃料噴射ノズル1によれば、標準ノズル等との比較において噴霧角が大きい。このため、噴孔2の数を減らすことができ、互いに隣り合う噴孔2間の間隔を広げても噴霧の均一性を確保することができる。また、噴孔2の数を減らすことができることから、噴孔2の面積、つまり噴孔径を大きくすることができ、このことによっても噴霧の均一性を確保することができる。さらに、噴孔2の数が減ることにより、ノズル本体4についての加工の容易性の向上と加工時間の短縮を図ることができることから、噴孔2の数が減ることは、コストダウンにつながる。
また、本実施形態の燃料噴射ノズル1のように弁部7への導入孔である方向変換通路部22をニードル軸方向に対して斜めに形成する構成においては、その斜めの角度に応じて旋回流の旋回速度が変化する。このため、旋回流によって得られる噴霧の微粒化作用に関し、方向変換通路部22の斜めの角度により、噴霧の微粒化のレベルを設定することができる。この点、エンジンの仕様(例えば、出力、回転数、シリンダ径、圧縮圧力、ピストン形状、排ガス中の有害成分排出量など)により、求められる最適な微粒化レベルと噴霧到達距離は異なるが、本実施形態の燃料噴射ノズル1によれば、方向変換通路部22の斜めの角度を、噴孔径や噴孔2の数等とともにエンジンの仕様としてのパラメータに加えることにより、微粒化レベルと噴霧到達距離を精緻に最適化することが可能となる。
本発明は、ディーゼル燃料(バンカー油)やガソリンを含む石油系燃料のほか、バイオディーゼル燃料、アルコール系燃料、その他の合成燃料等の液体燃料の噴射に広く適用可能である。したがって、本発明に係る燃料噴射ノズルは、例えば舶用や自動車用のディーゼルエンジンやガソリンエンジン、あるいは鉄道機関等において、直噴式、副室式等、燃料噴射方式にかかわらず広く適用可能である。本発明は、船舶工学の分野や機械工学の分野、さらには食品加工の分野や塗装の分野等、燃料の噴射が行われる技術分野において広く展開される。