JP2014014262A - 積層型高分子アクチュエータ及びその製造方法 - Google Patents

積層型高分子アクチュエータ及びその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】従来の屈曲型アクチュエータより格段に小型であって、かつ従来の屈曲型アクチュエータと同等又はそれ以上の屈曲変位を実現する積層型高分子アクチュエータを提供する。
【解決手段】基板12表面をプラズマイオンで処理し、プラズマイオン処理された基板面上に導電性高分子溶液を塗布し、基板上に導電性高分子厚膜11を形成する。バーコート法により、ウェット膜厚を100μm以上で導電性高分子溶液を塗布し、導電性高分子厚膜を基板上に積層する。
【選択図】図10

Description

本発明は、外部刺激により屈曲する高分子アクチュエータ、及びその製造方法に関し、特に基板に高分子フィルムを積層化することにより数ボルト以下の低電圧で大きな屈曲動作を行う積層型高分子アクチュエータ、及びその製造方法に関する。
外部刺激による高分子フィルム又は繊維の変形を用いた高分子アクチュエータは、本発明の発明者である奥崎秀典氏等により、下記の特許文献1から3に開示されている。下記の特許文献1から3においては、高分子フィルム又は繊維を用い、電気刺激による水分子の吸脱着によって、気体中でPEDOT/PSSの高分子フィルム又は繊維を伸縮又は屈曲せしめる方法が開示されている。
これらの特許で開示されている高分子フィルム又は繊維の伸縮率は、特許文献1の図3又は図4、あるいは特許文献2の図4、図5から、概ね1.5%〜2%程度である。一方、特許文献3に開示される高分子フィルムは最大で4%以上もの伸縮率を示す。しかし、4%以上の伸縮率を実現するためには、高分子フィルムを湿度及び温度が調整された環境下に設けなければならない。そのため、高分子フィルムを設ける環境(雰囲気)条件によって、高分子アクチュエータの動作が安定しないという問題がある。また、これらの特許文献が開示する高分子アクチュエータは、高分子フィルムそのものが変形することにより動作する、いわゆる直動型高分子アクチュエータである。かかる直動型高分子アクチュエータの場合、その力学的強度は高分子フィルム自身の強度となる。そのため、大きな力学的強度を実現することは極めて難しいという問題がある。
一方、屈曲挙動を示す屈曲型アクチュエータとしては、例えば下記特許文献4に示すような、圧電素子を利用した圧電アクチュエータがある。圧電アクチュエータとは、電界を加えることによって歪みが発生する圧電材料の性質を利用したアクチュエータで、これには、例えばチタン酸ジルコン酸鉛系やチタン酸鉛系に代表される圧電セラミックスにより構成される圧電素子が用いられている。
しかし、圧電アクチュエータには、駆動電力が100V以上の高電圧が必要であり、一方において、その変位量は10μメートル以下と極めて小さいという問題がある。また、圧電セラミックス層と内部電極層との積層体を用いるため、アクチュエータが大型化するという問題がある。
特許第3131180号公報 特許第3102773号公報 国際公開第2008−114810パンフレット 特開2003−338643号公報
上述したように、高分子アクチュエータにおいて、直動型高分子アクチュエータはアクチュエータを構成する高分子フィルムそのものが変形することにより動作する。そのため、直動型高分子アクチュエータの力学的強度は、高分子フィルム自身の強度となり、大きな力学的強度を実現することは極めて難しい。また、圧電素子を利用した屈曲型アクチュエータには、高電圧の駆動電圧が必要であるにも関わらず、その屈曲変位量が極めて小さいという問題がある。また、アクチュエータが大型化するという問題もある。
そこで本発明の課題は、従来の屈曲型アクチュエータより格段に小型であって、かつ従来の屈曲型アクチュエータと同等又はそれ以上の屈曲変位を実現する積層型高分子アクチュエータを提供することにある。また、屈曲に必要となる消費電力も従来に比較し格段に少なく、直動型アクチュエータに比較して、極めて大きな力学的強度を有する積層型高分子アクチュエータを提供することにある。
本発明は、外部刺激により伸縮する再溶解高分子厚膜が基板上に積層された積層型高分子アクチュエータであって、プラズマイオン処理が施された前記基板の表面上に界面活性剤を含む再溶解高分子厚膜が1μm以上の膜厚で密着して形成されていることを特徴とする。
界面活性剤の添加により、導電性高分子溶液の濡れ性が向上するためである。界面活性剤としてドデシルベンゼンスルホン酸を用いることが可能である。
再溶解高分子厚膜が形成されている基板の反対側の面(裏面)及び/又は再溶解高分子厚膜が形成されている面に金属による電極パターンの被膜が形成されていることを特徴とする。
基板表面をプラズマイオンで処理し、プラズマイオン処理された基板面上に界面活性剤を含む導電性高分子溶液を塗布し、基板上に導電性高分子厚膜を形成することを特徴とする。
バーコート法により、前記基板面上に前記導電性高分子溶液を塗布することは好適である。また、前記導電性高分子溶液を、ウェット膜厚が100μm以上でバーコート法により前記基板面上に塗布することは好ましい。
前記導電性高分子溶液が、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリ(4−スチレンスルホン酸)溶液であることは好ましい。また、前記ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリ(4−スチレンスルホン酸)溶液に、エチレングリコールが1%から20%の範囲内で添加されていることは好ましい。エチレングリコールの添加により、導電性が向上するためである。
この発明によれば、従来の屈曲型アクチュエータより格段に小型であって、従来の屈曲型アクチュエータと同等又はそれ以上の屈曲変位を実現する積層型高分子アクチュエータの提供が可能となる。また、従来の屈曲型アクチュエータに比べ、屈曲に必要となる消費電力も格段に少なく、かつ直動型アクチュエータに比較して、極めて大きな力学的強度を有するという特有の効果を奏する。
積層型高分子アクチュエータの作製工程を示したフローチャート。 PEDOT及びPSSの構造式。 積層型高分子アクチュエータの一実施例を示した図。 高分子(PEDOT/PSS)膜の電気収縮のメカニズムを示した図。 濃度の異なる高分子(PEDOT/PSS)溶液によるバーコートの結果を示した図。 EG濃度に対する高分子(PEDOT/PSS)膜のシート抵抗を示したグラフ。 DBS濃度に対する高分子(PEDOT/PSS)膜のシート抵抗を示したグラフ。 ウェット膜厚と乾燥膜厚との関係を示したグラフ。 高分子(PEDOT/PSS)膜の乾燥膜厚に対するシート抵抗を示したグラフ。 積層型高分子アクチュエータの他の実施例を示した図。 積層型高分子アクチュエータの電流特性と屈曲挙動を示したグラフ。 積層型高分子アクチュエータモデルを示した図。
本発明は、最も原理的に表現すれば、基板上に高分子膜を形成することにより、低電圧であっても繰り返し安定して屈曲する高分子アクチュエータを提供できることを見出したものである。
ここで高分子とは、中性高分子、高分子電解質、導電性高分子をいう。中性高分子としては、セルロース、セロファン、ナイロン、ポリビニルアルコール、ビニロン、ポリオキシメチレン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルフェノール、ポリ2-ヒドロキシエチルメタクリレートおよびこれらの誘導体から選択される少なくとも1つが挙げられる。
高分子電解質としては、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸などのポリカルボン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリ2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、ナフィオンなどのポリスルホン酸、ポリアリルアミン、ポリジメチルプロピルアクリルアミドなどポリアミンとその四級化塩およびこれらの誘導体から選択される少なくとも1つが挙げられる。
導電性高分子としては、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリジアセチレン、ポリフェニレン、ポリフラン、ポリセレノフェン、ポリテルロフェン、ポリイソチアナフテン、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンビニレン、ポリチエニレンビニレン、ポリナフタレン、ポリアントラセン、ポリピレン、ポリアズレン、ポリフルオレン、ポリピリジン、ポリキノリン、ポリキノキサリン、ポリエチレンジオキシチオフェンおよびこれらの誘導体から選択された少なくとも1つが挙げられる。
高分子膜は、導電性高分子に、キャスト法、バーコート法、スピンコート法、スプレー法、電解重合法、化学的酸化重合法、溶融紡糸法、湿式紡糸法、固相押出法、エレクトロスピニング法から選択された少なくとも1つの手法を適用することで作製することができる。
また、これら高分子の吸湿性や電気伝導度を上げるために、ドーパントをドープすることは好適である。ドーパントとしては、例えば、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸、ヨウ素、臭素、フッ化ヒ素、過塩素酸、テトラフルオロホウ酸、ヘキサフルオロリン酸、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルスルホン酸、パーフルオロスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸イミド、シュウ酸、酢酸、マレイン酸、フタル酸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸及びこれらの誘導体、カーボンブラック、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、エチレングリコール、フラーレン等の炭素系添加物、鉄、銅、金、銀等の金属から選択された少なくとも1つが挙げられる。中でも、高い電気伝導度と安定性、再現性に優れている、ポリ(4−スチレンスルホン酸)をドープしたポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)のキャストフィルムが好適である。
外部刺激による高分子フィルムの分子吸脱着法としては、ニクロム線やトーチ、バーナー、赤外線照射やレーザ照射、マイクロ波照射による加熱、真空ポンプやアスピレーターによる減圧、直流波や交流波、三角波、矩形波およびパルス波などの電圧印加によるジュール加熱から選択される少なくとも1つが挙げられる。中でも、簡便であり制御性に優れた直流電圧が好ましい。
基板としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ナイロン、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソブチレン、ポリイソプレン、ポリブタジエン、ポリブテン、ポリペンテン、ポリジメチルシロキサン、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルホルマール、ポリスチレン、ポリエチレンオキシド、ポリオキシメチレン、ポリスチレンスルホン酸、ポリイミド、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸ステアリル、ポリメタクリル酸ステアリル、ポリアクリル酸ブチル、ポリメタクリル酸ブチル、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリルアミド、ポリアクリルアミドメチルプロパンスルホン酸、ポリイソプロピルアクリルアミド、芳香族ポリアミド、ポリジメチルアミノプロピルアクリルアミド、ポリ塩化トリメチルアンモニウムプロピルアクリルアミド、ポリヒドロキシアクリレート、ポリヒドロキシメタクリレート、ナフィオン、フレミオン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン、ポリ乳酸、ポリグルタミン酸、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリビニルアルコール、ポリアスパラギン酸、でんぷん、セルロース、ニトロセルロース、トリアセチルセルロース、キトサン、ポリヒドロキシメチルセルロース、ポリヒドロキシエチルセルロース、フェノール樹脂、シリコーンゴム、メラミン樹脂、エポキシ樹脂等から選択された少なくとも一つが挙げられる。
図1は、本発明の積層型高分子アクチュエータの作製工程を示すフローチャートである。まず、高濃度の高分子(PEDOT/PSS)溶液を作製する(ステップS1)。高濃度の高分子(PEDOT/PSS)溶液は、高分子(PEDOT/PSS)溶液を真空凍結乾燥することにより固形成分を抽出し(ステップS2)、凍結乾燥した高分子(PEDOT/PSS)固体を水に再溶解し、所定の濃度に調整して(ステップS3)作製する。
別途、高分子(PEDOT/PSS)溶液を塗布する基板を作製する(ステップS1’)。基板は、基板表面に親水化処理を施し(ステップS2’)作製する。親水化処理には、基板表面にプラズマイオンを照射する方法を用いる。基板表面を親水化処理することで、基板に対し均一の膜厚の高分子(PEDOT/PSS)膜を得ることができる。
なお、基板の作製(ステップS1’)は、高分子(PEDOT/PSS)溶液の調整・作製(ステップS1〜ステップS3)とは別途処理しておくことが好ましいが、PEDOT/PSS溶液の凍結乾燥(ステップS2)と同時並行して処理してもよい。
次に、親水化処理を施した基板表面上に、高濃度の再溶解高分子(PEDOT/PSS)溶液をバーコート法によって積層化し(ステップS4)、基板に高分子(PEDOT/PSS)膜が積層化した二層構造の複合素子を作製する。次に、これを特定の大きさのアクチュエータとしてレーザで切り出す(ステップS5)。切り出したアクチュエータの基板裏側又は両端に金(Au)をスパッタして電極パターンを作製し(ステップS6)、積層型高分子アクチュエータを作製する(ステップS7)。
以下、実施例について詳細に説明する。以下の実施例においては、高分子膜の材料として、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリ(4−スチレンスルホン酸)(以下、PEDOT/PSS)を用いたが、本発明はこれに限定されるものではない。また、本実施例では、高分子膜(一定以上の膜厚のものを厚膜と称する)と高分子フィルムとをほぼ同義で使用しているが、基本的には、基板上に形成されたものを高分子膜、基板上に積層されていない単体のものを高分子フィルムと称する。本実施例で用いたPEDOT/PSSの構造を図2に示す。図2(a)はPEDOTの構造式であり、図2(b)はPSSの構造式である。
[キャスト法による高分子フィルムの作製]
1wt%のPEDOT/PSS溶液にエチレングリコール(以下、EG)3wt%を加え、マグネティックスターラーで均一に混ざるまで攪拌した。均一に混ざった混合溶液をピペットで取り、気泡を生じさせないように静かにテフロン(登録商標)シャーレに移した。PEDOT/PSSの溶媒である水と、加えたEGを蒸発させるため、乾燥と熱処理を行い、高分子(PEDOT/PSS)キャストフィルムを作製した。
より具体的には、乾燥オーブンを用い、60℃、6時間の乾燥を行い、次いで、真空オーブンを用い、真空中160℃、1時間の熱処理を行った。なお、EGを添加することにより、電気伝導度を数ジーメンス(S)/cmから100S/cm以上に上昇させることができる。
[キャスト法による積層型高分子アクチュエータの作製]
図3は、積層型高分子アクチュエータの一実施例を示した図である。この積層型高分子アクチュエータ1は、上記キャスト法により作製した高分子(PEDOT/PSS)フィルム11と基板12とを接着剤により積層化することにより作製した。
基板12として、ポリエチレンテレフタレート(PET)、膜厚100μmのフィルムを用いた。この実施例で作製した積層型高分子アクチュエータ1は、PETフィルム(基板12)と高分子(PEDOT/PSS)フィルム11(膜厚14μm)とをプラスチック用接着剤で張り合わせた二層構造である。このようにして作製した積層型高分子アクチュエータ1の高分子(PEDOT/PSS)フィルム11と基板12とは、強固に密着し容易に剥離しないことを確認した。
[屈曲動作の確認]
図4は、キャスト法により作製した高分子(PEDOT/PSS)フィルム11の電圧の印加・切断による体積変動を模式的に示した図である。キャスト法により作製した高分子(PEDOT/PSS)フィルム11は、電圧の印加及び切断により収縮・伸張する。すなわち、高分子(PEDOT/PSS)フィルム11は、電圧の印加で発生したジュール熱により、高分子(PEDOT/PSS)フィルム11の内部に存在する水分子7を脱着して収縮する。
一方、電圧を切ることで、PSS6は大気中に存在する水分子7を再吸着する。その結果、高分子(PEDOT/PSS)フィルム11は、元の長さまで伸長する。このような高分子(PEDOT/PSS)フィルム11の特性を利用し、上述の方法で作製した積層型高分子アクチュエータ1の屈曲動作について検証した。
まず、積層型高分子アクチュエータ1の上端の各片面を正負の極性となる金属電極を有するクリップで挟み、金属電極と接続された配線に電圧を印加することで積層型高分子アクチュエータ1に電流を流した。そして、そのときの積層型高分子アクチュエータ1の末端の変位をレーザ変位計で読み取り、その屈曲動作を確認した。その結果、積層型高分子アクチュエータ1は、数ボルトの電圧を印加することで屈曲動作を示すことを確認した。
しかし、上述した接着剤により積層化する方法により作製した積層型高分子アクチュエータ1は、電圧応答の繰り返しにより屈曲動作の変位量が減少することが判明した。これは、積層型高分子アクチュエータ1の高分子(PEDOT/PSS)フィルム11が、収縮により、基板12から次第にずれるためであった。従って、より安定して動作する積層型高分子アクチュエータ1の作製には、高分子(PEDOT/PSS)フィルム11と基板12との密着性の向上が必要であることが判明した。
そこで、接着剤を用いず、高分子(PEDOT/PSS)溶液を直接プラスチック基板(基板厚:100μm)へ、スピンコート法とバーコート法により塗布することについて検討した。
スピンコート法により、ナノメートルオーダーの均一な高分子(PEDOT/PSS)膜を基板上に得ることができた。しかし、この方法により作製した積層型高分子アクチュエータは屈曲動作を示さなかった。これは、基板上に形成したナノメートルオーダーの高分子(PEDOT/PSS)膜では、厚さ100μmの基板を屈曲させることができるだけの応力を発生しないためであった。スピンコート法でも、プラスチック基板を薄くすることで屈曲動作を示すものが作製できるが、一方において積層型高分子アクチュエータの力学特性や操作性の低下が問題となる。そこで、スピンコート法よりも厚膜が形成できるバーコート法を用いた積層型高分子アクチュエータの作製について検討した。
マイクロメートルオーダーの膜厚の高分子(PEDOT/PSS)膜を作製するため、ウェット状態の膜厚(以下、ウェット膜厚)が100μmになるよう、PET基板上にバーコート法により高分子(PEDOT/PSS)溶液を塗布した。高分子(PEDOT/PSS)溶液には電気伝導度を上昇させるため、実施例1と同様にEGを3wt%添加した。
また、均一な高分子(PEDOT/PSS)溶液のバーコートを行うため、プラズマイオンボンバードを用いて、基板に予めプラズマイオン処理を行う条件を検討した。プラズマイオン処理により、基板表面が親水化され、基板と高分子(PEDOT/PSS)膜との密着性が向上するからである。さらに、バーコートする高分子(PEDOT/PSS)溶液中に、界面活性剤であるドデシルベンゼンスルホン酸(以下、DBS)の添加も検討した。DBSにより、高分子(PEDOT/PSS)溶液の濡れ性を向上させることができるからである。
検討条件を表1にまとめる。高分子(PEDOT/PSS)厚膜を形成することができたが、いずれの条件においても、基板上に完全に均一な高分子(PEDOT/PSS)膜を作製することができなかった。
[バーコート法による高分子(PEDOT/PSS)膜の作製2]
基板全体に均一な高分子(PEDOT/PSS)膜が形成されない原因として、高分子(PEDOT/PSS)溶液の濃度が1wt%と低く、そのため基板に密着するだけの粘度が不足していることが原因と考えた。そこで、1μm以上の均一な高分子(PEDOT/PSS)厚膜を基板上に形成させるための条件について検討した。
基板表面を親水化するため、プラスチックのイオンエッチングが可能なハードイオンボンバードにより、2分間のプラズマイオン処理を施した。また、高分子(PEDOT/PSS)溶液には、DBSを0.01wt%、EGを3wt%添加し、その混合溶液を80℃のホットプレート上にて1時間濃縮したものを、ウェット膜厚100μmでバーコートにより塗布した。
その結果、80mm四方のPET基板上に、均一に2μm程度の高分子(PEDOT/PSS)膜を作製することができた。すなわち、均一な高分子(PEDOT/PSS)膜を作成するには、ウェット膜厚と高分子(PEDOT/PSS)溶液の粘度(濃度)を規定することが重要であることが判明した。
以上により、高分子(PEDOT/PSS)厚膜を形成するには、より濃度の高い高分子(PEDOT/PSS)溶液が必要であるとの結論に至った。そこで、バーコート法により高分子(PEDOT/PSS)厚膜を形成する最適な濃度条件を次の実験により見出した。
[実験1:真空凍結乾燥法による高分子(PEDOT/PSS)固形成分の抽出]
高分子(PEDOT/PSS)溶液を一度固体とし、それを再溶解させることで、高分子(PEDOT/PSS)溶液の濃度を自在に規定することができる。そこで、高分子(PEDOT/PSS)溶液から固体を抽出するため真空凍結乾燥法を用い、高分子(PEDOT/PSS)固体成分の抽出を行った。
ここで、真空凍結乾燥法とは、一般にフリーズドライと呼ばれる方法で、凍結した試料を減圧し真空状態で水分を昇華させ乾燥させる方法である。この方法は、氷のまま水が昇華除去されるため多孔質体となり、復元性や溶解性が良い。高分子(PEDOT/PSS)溶液の真空凍結乾燥は、真空凍結乾燥機を用い、真空状態(100Pa)下、−45℃の凍結条件で約2日間行った。その結果、高分子(PEDOT/PSS)溶液100gから約1gの黒色でスポンジ状の多孔質体の固体成分を得た。
[凍結乾燥物の確認]
凍結乾燥させた高分子(PEDOT/PSS)固形成分の性状を確認するため、以下の検討を行った。まず、高分子(PEDOT/PSS)固形成分を溶媒である水に再溶解させたところ、沈殿や凝集することなく再溶解し、高分子(PEDOT/PSS)溶液の状態に回復した。次に、再溶解した1wt%の高分子(PEDOT/PSS)溶液からキャスト法により高分子(PEDOT/PSS)フィルムを作製し、抵抗率計を用いて電気伝導度を測定した。その結果、電気的な劣化は無い事が確認された。
また、電気収縮挙動についても測定を行った。まず、高分子(PEDOT/PSS)フィルムを切り出し、金メッキを施したチャックに挟み固定した。次いで、直流安定化電源を用いてチャック間に直流電流を印加し、伸縮挙動を変位センサーで測定した。
電気収縮挙動の測定においては、環境を一定に保つため、恒温恒湿槽を用い、25℃、周囲湿度50%RHの一定環境下で測定を行った。その結果、再溶解した高分子(PEDOT/PSS)溶液から作製した高分子フィルムの収縮率の低下はないことを確認した。
以上より、凍結乾燥により得られた高分子(PEDOT/PSS)固形成分を再溶解することで、所望の濃度の高分子(PEDOT/PSS)溶液を作製でき、また凍結乾燥、再溶解により得られた高分子(PEDOT/PSS)溶液は、凍結乾燥前の高分子(PEDOT/PSS)溶液と同様に扱うことができることが判明した。
[実験2:高分子(PEDOT/PSS)再溶解濃度の最適化]
できるだけ厚い高分子(PEDOT/PSS)膜をバーコート法により、基板上に形成するには、高分子(PEDOT/PSS)溶液の濃度が高い方が好適である。一方、均一な高分子(PEDOT/PSS)膜を得るには、高分子(PEDOT/PSS)溶液が凝集しないことが必要である。そこで、凍結乾燥により得られた高分子(PEDOT/PSS)固形成分の水への可溶性濃度について検討した。
まず、数種類の濃度(1.5wt%,2wt%,2.5wt%,3wt%,3.5wt%,4wt%,及び5wt%)の再溶解高分子(PEDOT/PSS)溶液を作製し、その溶解性を視覚的に確認した。その結果、3.5wt%以下の再溶解高分子(PEDOT/PSS)溶液までは、水に可溶化するが、4wt%以上の濃度では半固体状のものが残ることが判明した。
次に、水への溶解が確認された1.5〜3.5wt%までの再溶解高分子(PEDOT/PSS)溶液を、ウェット膜厚100μmでPET基板(サイズ80mm×80mm,膜厚38μm)上にバーコート法により塗布した。検討条件を表2にまとめる。PET基板表面には、支持膜などデリケートな試料の親水化に用いられるソフトイオンボンバード(以下、Soft)により、2分間のプラズマイオン処理を施した。また、再溶解高分子(PEDOT/PSS)溶液中への、EGおよびDBSの添加はしていない。
図5は、上記の条件でバーコートを行った結果を示した図である。再溶解高分子(PEDOT/PSS)溶液濃度が高くなる程バーコートの均一性は向上し、形成される膜厚も厚くなることが判明した。しかし、再溶解高分子(PEDOT/PSS)溶液濃度が最も高い3.5wt%の条件では、バーの筋が残ってしまった。一方、再溶解高分子(PEDOT/PSS)溶液濃度が3wt%のものは形成される膜厚が最も均一であり、約4μmの膜厚の高分子(PEDOT/PSS)膜を形成することができた。
[実験3:電気伝導度の最適化]
上記の条件で作製した再溶解高分子(PEDOT/PSS)膜の電気伝導度は、およそ数S/cmと考えられる。しかし、数mm以上の屈曲挙動を有する積層型高分子アクチュエータを、数ボルトという低電圧で駆動させるには、高分子(PEDOT/PSS)膜の電気伝導度をより高くする必要がある。
発明者らは、キャスト法により高分子(PEDOT/PSS)フィルムを作製する際に、高分子(PEDOT/PSS)溶液にエチレングリコール(EG)を添加することで、電気伝導度を100S/cm以上に上昇できるという知見を得ている。そこで最適化した3wt%の再溶解高分子(PEDOT/PSS)溶液に、数種類の濃度(0,1,5,10,15,20,25wt%)のEGを添加した混合溶液をバーコート法により基板上に塗布し、高分子(PEDOT/PSS)膜を形成した。
図6は、形成された高分子(PEDOT/PSS)膜のシート抵抗の測定結果を示したグラフである。横軸がEGの濃度(wt%)であり、縦軸がシート抵抗(Ω/sq)である。EG未添加(0wt%)の高分子(PEDOT/PSS)膜のシート抵抗は1877Ω/sq、EG1wt%添加の高分子(PEDOT/PSS)膜のシート抵抗は1800Ω/sqと高いシート抵抗を示した。一方、EG濃度の増加によりシート抵抗は減少し、EG濃度が15wt%の条件においてシート抵抗は最も低く、32Ω/sqであった。
以上より、バーコート法により塗布する高分子(PEDOT/PSS)溶液として、濃度3wt%の再溶解高分子(PEDOT/PSS)溶液に、15wt%のEG溶液を添加した混合液が好適であることが判明した。
[実験4:親水化条件の再検討]
さらに均一な高分子(PEDOT/PSS)厚膜を形成するため、親水化条件について検討を行った。具体的には、濃度3wt%の再溶解高分子(PEDOT/PSS)溶液に15wt%のEGを加えた混合溶液に、数種類の濃度(0wt%,0.01wt%,0.1wt%,1wt%)のDBSを添加した溶液を作製した。作製した混合溶液を、バーコート法により基板に塗布し、形成された高分子(PEDOT/PSS)膜の性状を解析し、DBSの最適濃度条件を検討した。
また、前記高分子(PEDOT/PSS)溶液を塗布する基板についても、プラズマイオン処理(Soft,2分)を施したものと、未処理のものと2種類の基板を用い、基板へのプラズマイオン処理の要否についても検討した。なお、実験に用いた基板は、PET(サイズ80mm×80mm,膜厚38μm)である。
プラズマイオン処理をせず、かつDBS無添加の場合では、基板に対し高分子(PEDOT/PSS)溶液がはじかれ、均一な膜は形成されなかった。一方、プラズマイオン処理を施さない条件であっても、DBSが0.01wt%でも添加された条件では、均一な高分子(PEDOT/PSS)膜の形成を確認できた。また、プラズマイオン処理すると、DBSの有無に関わらず均一な高分子(PEDOT/PSS)膜の形成が確認できた。
図7は、上記の条件で形成された高分子(PEDOT/PSS)膜のDBS濃度とシート抵抗の関係を示したグラフである。図7に示す通り、シート抵抗はプラズマイオン処理の有無には依存せず、DBS濃度に依存し、0.1wt%以上の高濃度になるほどシート抵抗が上昇する傾向が判明した。
上記親水化条件とシート抵抗の結果を表3に表す。プラズマイオン処理を行わない条件であって、DBS無添加の場合は、均一な膜が形成されない。一方、プラズマイオン処理を行わない条件であっても、DBSが添加されている場合は、均一な高分子(PEDOT/PSS)膜を形成できる。しかし、0.1wt%以上の濃度のDBSでは、シート抵抗が上昇する。従って、プラズマイオン処理を行わない場合は、高い電気伝導度でかつ均一な高分子(PEDOT/PSS)膜を形成することは難しいことが判明した。
一方、基板にプラズマイオン処理を施すと、DBS無添加の場合であっても均一な高分子(PEDOT/PSS)膜が形成できる。また、プラズマイオンの処理の有無に関係なく、シート抵抗はDBS濃度に依存して高くなる。従って、均一で高い電気伝導度を有する高分子(PEDOT/PSS)膜を形成するには、プラズマイオン処理を施し、DBSを添加しないことが好ましいことが判明した。
[実験5:乾燥膜厚の制御]
上記の条件で、最適化した基板と高分子(PEDOT/PSS)溶液を用い、ウェット膜厚を変え、それを乾燥させた厚膜(乾燥厚膜)の膜厚との関係について検討した。基板に高分子(PEDOT/PSS)溶液を塗布する際のバーにはガラス棒を用い、シムテープをスペーサとして基板と任意のギャップを設け、バーコートを行った。なお、基板はPET(サイズ80mm×80mm,膜厚38μm)であり、これにプラズマイオン処理(Soft,2分)を施した。また、バーコートに用いた高分子溶液は、3wt%の再溶解高分子(PEDOT/PSS)溶液に、15wt%のEGを加えた混合溶液であり、DBSは添加しなかった。
図8は、上記の条件におけるウェット膜厚と乾燥膜厚との関係を示したグラフである。いずれのウェット膜厚においても,均一な高分子(PEDOT/PSS)膜の乾燥厚膜が形成できた。膜厚の測定には、マイクロメータを用い、それぞれの中心付近5点を測定し、その平均膜厚を高分子(PEDOT/PSS)膜の乾燥膜厚とした。図8に示す通り、ウェット膜厚を厚くすることで、数〜十μm以上の高分子(PEDOT/PSS)膜が得られた。このことから、高分子(PEDOT/PSS)膜の乾燥膜厚はウェット膜厚に比例し厚くなる事が判明した。
図9は、形成した高分子(PEDOT/PSS)膜の乾燥膜厚に対するシート抵抗の測定結果を示したグラフである。図9に示す通り、高分子(PEDOT/PSS)膜が薄い(2μm)ほどシート抵抗が高く(20Ω/sq以上)、高分子(PEDOT/PSS)膜が厚い(6μm以上)ほどシート抵抗が低い(5Ω/sq以下)ことがわかる。すなわち、シート抵抗は高分子(PEDOT/PSS)膜の厚さに反比例することが判明した。
以上の結果より、シムテープの厚さを規定ギャップとし、バーとのスペーサに用いることで、数〜10μm以上の所望の高分子(PEDOT/PSS)膜形成できることが判明した。
[積層型高分子アクチュエータの作製]
図10は、積層型高分子アクチュエータの他の実施例を示した図である。この実施例で作製した積層型高分子アクチュエータ2は、バーコート法で作製した高分子(PEDOT/PSS)膜11、基板12および電極23とから構成される。
積層型高分子アクチュエータ2の作製工程を図1のフローチャートに基づき説明する。まず、濃度3wt%の再溶解高分子(PEDOT/PSS)溶液に15wt%のEGを添加した高分子(PEDOT/PSS)溶液を作製する(図1、ステップS1〜ステップS3)。基板12には、PET(80mm×80mm,膜厚50μm)を用い、その表面にプラズマイオン処理(Soft、2分)を施した(図1、ステップS2’)。高分子(PEDOT/PSS)溶液をバーコート法により基板12上に塗布し(図1、ステップS4)、高分子(PEDOT/PSS)膜11と基板12の二層構造の複合素子を作製した。このとき、形成された高分子(PEDOT/PSS)膜厚はおよそ4μm、シート抵抗は8.7Ω/sqであった。
上述の通り作製した二層構造の複合素子を、レーザーマーカにより、有効長10mm、幅1mmのアクチュエータとして切り出した(図1、ステップS5)。次いで、マグネトロンスパッタにより、アクチュエータの裏面と両端に金(Au)の電極パターンを形成し(図1、ステップ6)、積層型高分子アクチュエータ2を作製した。
[積層型高分子アクチュエータの動作確認]
図11は、積層型高分子アクチュエータ2の電流特性(a)と屈曲挙動(b)を示したグラフである。積層型高分子アクチュエータ2には、金属電極23がスパッタされており、金属電極23と接続された配線に電圧を印加することができる。積層型高分子アクチュエータ2に電圧を印加し、そのときの積層型高分子アクチュエータ2の末端の変位をレーザ変位計で読みとり、その屈曲挙動を確認した。
図11に示す特性の測定にあたっては、恒温恒湿槽内を25℃,50%RHに制御し、積層型高分子アクチュエータ2の変位量を測定した。1Vの電圧印加と同時に約6mAの電流が流れ(図11(a))、積層型高分子アクチュエータ2は高分子(PEDOT/PSS)膜11側に屈曲した(図11(b))。これは高分子(PEDOT/PSS)膜11に電流が流れ、ジュール加熱によって吸着していた水分子が脱着し、高分子(PEDOT/PSS)膜11が収縮したことに起因する。一方、電圧を切ると元の状態に戻るが、これは水分子が高分子(PEDOT/PSS)膜11に再吸着したためである。
また、印加電圧が2Vの時に約1mm、3Vの時に2mm以上の積層型高分子アクチュエータ2の先端の変位が確認できた(図11(b))。その際、実施例1において問題となった電圧印加の繰り返しによる高分子(PEDOT/PSS)膜11と基板12とのずれは生じなかった。
[積層型高分子アクチュエータの駆動モデル]
図12は積層型高分子(PEDOT/PSS)アクチュエータのモデルを示した図である。図12(a)は電圧を印加していない状態、図12(b)は電圧の印加により積層型高分子アクチュエータが屈曲した状態を示した図である。数1及び数2は、2つの材料の熱膨張係数の違いにより屈曲する一般的なバイモルフ構造アクチュエータの理論式である。
図12を参照し、数1及び数2に示す数式を用いて、以下、積層型高分子アクチュエータの駆動メカニズムについて説明する。
数1において、(αa−αb)ΔTはバイモルフ構造アクチュエータを構成する材料aと材料bのある温度における熱膨張値の差を示す。ここで、積層型高分子(PEDOT/PSS)アクチュエータの屈曲メカニズムはジュール熱の発生による水分子の脱着により、PEDOT/PSSが収縮するためと考えられている(図4を参照)。
図12に示す高分子(PEDOT/PSS)アクチュエータの収縮率γは温度に比例するためγ×10−2=αΔT(αは比例係数)と示すことができる。従って、数3、数4に示す数式のように積層型高分子アクチュエータのモデル式を立てることができる。
y:先端の変位
ρ:曲率
l:バイモルフの長さ
ΔT:上昇温度
ta:材料aの厚み
Ea:材料aのヤング率
αa:材料aの線膨張係数
tb:材料bの厚み
Eb:材料bのヤング率
αb:材料bの線膨張係数
y:先端の変位
ρ:曲率
l:複合素子の長さ
γ:PEDOT/PSSの収縮率
ta:PEDOT/PSSの厚み
Ea:PEDOT/PSSのヤング率
tb:材料bの厚み
Eb:材料bのヤング率
図12(b)は、上述した通り、積層型高分子(PEDOT/PSS)アクチュエータに実際に電圧を印加した場合の屈曲状態を示しているが、この場合、積層型高分子アクチュエータは材料aである高分子(PEDOT/PSS)膜側に屈曲する。この現象は、熱膨張で駆動する一般的なバイモルフ構造アクチュエータのメカニズムとは異なり、このアクチュエータが高分子(PEDOT/PSS)膜の収縮で駆動することを示している。
図11において、3Vの電圧を印加した時の先端の変位量から、数3、数4に示す数式を用いて複合素子の曲率ρを求め、高分子(PEDOT/PSS)アクチュエータの収縮率γを求めると、その値は1.9%であった。なお、このときの先端の変位yは2.2mm、高分子(PEDOT/PSS)膜の厚みtaは4μm、基板の厚みtbは50μm、高分子(PEDOT/PSS)膜のヤング率Eaは4GPa、基板のヤング率Ebは1GPaであった。
発明者らは、上述した通り高分子(PEDOT/PSS)膜が空気中でジュール熱により水分子を脱着し収縮する現象を見出し、短冊状フィルムの直動方向の収縮挙動を測定している。その時の高分子(PEDOT/PSS)膜の最大の収縮率は2.4%であった。
一方、数3、数4に示す数式から算出した高分子(PEDOT/PSS)アクチュエータの収縮率γは1.9%であり、水分子を吸脱着して駆動する高分子(PEDOT/PSS)膜の収縮率(2.4%)に近い値を示した。また、積層型高分子アクチュエータの屈曲する方向は高分子(PEDOT/PSS)膜側であった。従って、積層型高分子アクチュエータは、高分子(PEDOT/PSS)膜の場合と同様のメカニズムで駆動すると考えられる。
[積層型高分子アクチュエータの特長]
本研究で開発した高分子(PEDOT/PSS)膜と基材とを積層化した積層型高分子アクチュエータは、一般的なバイモルフ構造のアクチュエータとは異なるメカニズムで駆動することを特長とする。
屈曲型アクチュエータの代表例である圧電素子を材料としたアクチュエータは駆動に100V以上の高電圧を必要とし、その変位量はマイクロメートルオーダー以下と非常に小さい。これに対して本研究で開発した積層型高分子(PEDOT/PSS)アクチュエータは、5V以下という低電圧でミリメートルオーダーの変位量を発生させることができるという特長を有する。
表4は、直動型高分子アクチュエータと、本発明の積層型高分子アクチュエータとを比較したものである。ここでは、25℃,50%RHの環境で各アクチュエータに1mmの変位を発生させた条件で比較を行った。その結果、アクチュエータサイズについては、積層型では直動型の5分の1以下に小型化できる事がわかった。これは、テコの機構により変位が拡大されているためと考えられる。
消費電力については、直動型に対して10分の1近くに抑えられており、省電力化が実現された。また、積層型高分子アクチュエータでは力学強度も向上していた。直動型の力学強度は、高分子(PEDOT/PSS)膜自身の強度に依存する。一方、積層型では高分子(PEDOT/PSS)膜が基板と積層化されたため、強度が大きく向上したと考えられる。さらに、電圧を切った際の応答速度が、直動型に比べ5倍近く高速化した。これは水分子の吸着速度が向上したためと考えられる。
以上より、基板との積層化が実現したことで、従来フィルムの強度の観点から難しかった数マイクロメートルの高分子(PEDOT/PSS)膜のアクチュエータ化が可能になった。また、高分子(PEDOT/PSS)膜を薄膜化すれば、高速応答化が期待できる。これは、積層型高分子アクチュエータの駆動メカニズムが水分子の拡散に起因するためである。
本発明によれば、高分子膜(フィルム)の収縮を利用した積層型高分子アクチュエータを作製することができ、かかる積層型高分子アクチュエータは、モータ、ソレノイドの代替、スイッチ、バルブ、ポンプ等の電子・機械分野、レンズ駆動やミラー駆動、カメラのオートフォーカス等の光学機器分野、ガイドワイヤーや内視鏡等の医療分野、生体模倣デバイスやロボットの指駆動等の玩具・ロボット分野、点字ディスプレイやパワーアシスト等の電子工学素子として介護・福祉分野をはじめ様々な分野に応用することができる。
1,2 積層型高分子アクチュエータ
11 高分子(PEDOT/PSS)膜(フィルム)
12 基板
5 ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)
6 ポリ(4−スチレンスルホン酸)(PSS)
7 水分子
23 電極

Claims (7)

  1. 外部刺激により伸縮する再溶解高分子厚膜が基板上に積層された積層型高分子アクチュエータであって、
    プラズマイオン処理が施された前記基板の表面上に界面活性剤を含む前記再溶解高分子厚膜が1μm以上の膜厚で密着して形成されていることを特徴とする積層型高分子アクチュエータ。
  2. 前記再溶解高分子厚膜が形成されている前記基板の反対側の面(裏面)及び/又は前記再溶解高分子厚膜が形成されている面に金属による電極パターンの被膜が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の積層型高分子アクチュエータ。
  3. 基板表面をプラズマイオンで処理し、
    前記プラズマイオン処理された基板面上に界面活性剤を含む導電性高分子溶液を塗布し、
    前記基板上に導電性高分子厚膜を形成することを特徴とする積層型高分子アクチュエータの製造方法。
  4. バーコート法により、前記基板面上に前記導電性高分子溶液を塗布することを特徴とする請求項3に記載の積層型高分子アクチュエータの製造方法。
  5. 前記導電性高分子溶液を、ウェット膜厚が100μm以上でバーコート法により前記基板面上に塗布することを特徴とする請求項4に記載の積層型高分子アクチュエータの製造方法。
  6. 前記導電性高分子溶液が、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリ(4−スチレンスルホン酸)溶液であることを特徴とする請求項3に記載の積層型高分子アクチュエータの製造方法。
  7. 前記ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリ(4−スチレンスルホン酸)溶液に、エチレングリコールが1%から20%の範囲内で添加されていることを特徴とする請求項6に記載の積層型高分子アクチュエータの製造方法。
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