JP2005036055A - ポリベンザゾール複合体およびその製造方法 - Google Patents

ポリベンザゾール複合体およびその製造方法 Download PDF

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宗敦 中村
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史朗 濱本
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Abstract

【課題】機械的強度が高く、耐熱性に優れたポリベンザゾールポリマー多孔膜と他ポリマーとの複合体およびその製造方法を提供する。
【解決手段】ポリベンザゾールポリマーからなる多孔膜を支持体として、該支持体に他ポリマーを複合した複合体であって、ポリベンザゾールポリマーからなる多孔膜が、ポリベンザゾールポリマーを良溶媒に溶解させたポリマー溶液をポリベンザゾールポリマーの良溶媒と基盤との接触角が30°以下となる基盤上に流延し、その後ポリベンザゾールポリマーの貧溶媒と接触させることで凝固されることにより得られることを特徴とするポリベンザゾール複合体およびその製造方法。

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、機械的強度やイオン伝導性に優れる複合膜、特に高分子固体電解質膜およびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、エネルギー効率や環境性に優れた新しい発電技術が注目を集めている。中でも高分子固体電解質膜を使用した固体高分子形燃料電池はエネルギー密度が高く、また、他の方式の燃料電池に比べて運転温度が低いため起動、停止が容易であるなどの特徴を有し、電気自動車や分散発電等の電源装置としての開発が進んできている。また、同じく高分子固体電解質膜を使用し、燃料としてメタノールを直接供給するダイレクトメタノール形燃料電池も携帯機器の電源などの用途に向けた開発が進んでいる。高分子固体電解質膜には通常プロトン伝導性のイオン交換樹脂膜が使用される。高分子固体電解質膜にはプロトン伝導性以外にも、燃料の水素等の透過を防ぐ燃料透過抑止性や機械的強度などの特性が必要である。このような高分子固体電解質膜としては例えば米国デュポン社製ナフィオン(商品名)に代表されるようなスルホン酸基を導入したパーフルオロカーボンスルホン酸ポリマー膜が知られている。
【0003】
固体高分子形燃料電池の高出力化や高効率化のためには高分子固体電解質膜のイオン伝導抵抗を低減させることが有効であり、その方策のひとつとして膜厚の低減が挙げられる。ナフィオンに代表されるような高分子固体電解質膜でも膜厚を低減させる試みが行われている。しかしながら、膜厚を低減させると機械的強度が小さくなり、高分子固体電解質膜と電極をホットプレスで接合させる際などに膜が破損しやすくなったり、膜の寸法の変動により、高分子固体電解質膜に接合した電極がはがれて発電特性が低下したりするなどの問題点を有していた。さらに、膜厚を低減させることで燃料透過抑止性が低下し、起電力の低下や燃料の利用効率の低下を招くなどの問題点を有していた。
【0004】
さらに高分子固体電解質膜は上記に示した燃料電池のイオン交換樹脂膜としての用途だけでなく、アルカリ電解や水からの水素製造のような電解用途、リチウム電池やニッケル水素電池などの種々の電池における電解質用途などの電気化学分野での用途、微小アクチュエータや人工筋肉のような機械的機能材料用途、イオンや分子等の認識・応答機能材料用途、分離・精製機能材料用途など幅広い用途にも適用が可能であり、それぞれの用途においても高分子固体電解質膜の高強度化や薄膜化を達成することでこれまでにない優れた機能を提供することができると考えられる。
【0005】
高分子固体電解質膜の機械的強度を向上させ、寸法変化を抑制する方法として、高分子固体電解質膜に種々の補強材を組み合わせた複合高分子固体電解質膜が提案されている。特許文献1には、延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜の空隙部にイオン交換樹脂であるパーフルオロカーボンスルホン酸ポリマーを含浸し、一体化した複合高分子固体電解質膜が記載されている。しかしながら、これらの複合高分子固体電解質膜は補強材がポリテトラフルオロエチレンでできているため、発電時の熱により補強材が軟化し、クリープによる寸法変化を生じやすく、また補強材にパーフルオロカーボンスルホン酸ポリマーの溶液を含浸して乾燥する際に、補強材の空隙部分の容積がほとんど変化しないために補強材の空隙の内部で析出したパーフルオロカーボンスルホン酸ポリマーが偏在しやすく、空隙が該ポリマーで完全に充填されるためにはイオン交換樹脂溶液の含浸と乾燥のプロセスを複数回繰り返すなどの複雑なプロセスが必要であり、また、空隙が残りやすいために燃料透過抑止性に優れた膜が得られにくいといった問題点を有していた。また、特許文献2にはパーフルオロカーボンスルホン酸ポリマーの膜内に補強材としてフィブリル化されたポリテトラフルオロエチレンが分散された複合高分子固体電解質膜が記載されている。しかしながら、このような複合高分子固体電解質膜は、補強材が不連続な構造のため十分な機械的強度が得られず、膜の変形が抑制できないために電極のはがれが生じるなどの問題点を有していた。
【0006】
ポリベンゾオキサゾール(PBO)やポリベンズイミダゾール(PBI)のようなポリベンザゾールポリマーは高耐熱性、高強度、高弾性率の点で優れることから、ポリベンザゾールポリマー多孔膜は他ポリマーとの複合体を製造する際の補強材料、とりわけ高分子固体電解質膜の補強材料に適していることが期待される。ポリベンザゾールポリマー溶液をフィルム状に成形加工する技術については、アプリケーターを用いた流延法による製膜はよく知られた技術である。流延法により得られたポリベンザゾールポリマーからなる多孔膜においては、基盤に接している側の表面構造と基盤に接していない側の表面構造は異なる。基盤に接している側の表面では緻密構造を形成するのに対して、基盤に接していない側の表面は多孔構造を形成する。このようなポリベンザゾールポリマーからなる多孔膜に他成分ポリマー溶液を含浸し複合膜を得た場合、緻密構造を形成している箇所においては十分に他ポリマー溶液を含浸することができないという問題がある。
【0007】
ポリベンザゾールポリマー溶液を繊維やフィルムに加工する場合、特許文献3および特許文献4に記載されているような高濃度の液晶ドープから成形される。特許文献5にはPBO多孔質膜と種々のイオン交換樹脂を複合化した高分子固体電解質膜が記載されている。しかしながら、これに記載されているような液晶性を示すドープから製膜したPBO溶液膜を直接水浴で凝固する方法で得られるPBO多孔質膜の表面には両面とも開孔部の少ない緻密な層が形成され、他成分ポリマーとしてイオン交換樹脂を複合化させる際にイオン交換樹脂溶液が膜の内部に含浸されにくく、複合膜中のイオン交換樹脂の含有率が低くなり、イオン交換樹脂本来のイオン伝導性などの特性が大幅に低下するといった問題点を有していた。ポリベンザゾールのポリマーネットワークを補強材とする複合体において、このような高濃度の液晶ドープからポリベンザゾールポリマー多孔膜を作るとポリマーネットワークの間隙が小さくなるために、他成分ポリマー溶液の均一含浸が難しくなる。
【0008】
また、特許文献6には光学異方性のポリベンザゾールポリマー溶液を製膜してから吸湿による等方化の過程を経て凝固しポリベンザゾールフィルムを得る方法が開示されているが、これに記載されているような方法で得られるポリベンザゾールフィルムは透明な緻密性の高いフィルムであり、他ポリマー溶液を含浸して複合体を製造する目的には適していなかった。
【0009】
【特許文献1】
特開平8−162132号公報
【特許文献2】
特開2001−35508号公報
【特許文献3】
米国特許第5552221号明細書
【特許文献4】
米国特許第5367042号明細書
【特許文献5】
国際公開第00/22684号パンフレット
【特許文献6】
特開2000−273214号公報
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、機械的強度が高く、他ポリマーと複合化特性に優れた、ポリベンザゾール複合体ならびに、その製造方法を提供するものである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
すなわち本発明は、1.ポリベンザゾールポリマーからなる多孔膜を支持体として、該支持体に他ポリマーを複合した複合体であって、ポリベンザゾールポリマーからなる多孔膜が、ポリベンザゾールポリマーを良溶媒に溶解させたポリマー溶液をポリベンザゾールポリマーの良溶媒と基盤との接触角が30°以下となる基盤上に流延し、その後ポリベンザゾールポリマーの貧溶媒と接触させることで凝固されることにより得られることを特徴とするポリベンザゾール複合体、2.上記他ポリマーがイオン交換樹脂であることを特徴とした請求項第1項記載のポリベンザゾール複合体、3.上記ポリベンザゾールポリマーを良溶媒に溶解させたポリマー溶液がポリマー濃度3重量%以下の等方性溶液であることを特徴とした請求項第1項記載のポリベンザゾール複合体、4.ポリベンザゾールポリマーからなる多孔膜を支持体として、該支持体に他ポリマーを複合した複合体を製造する方法であって、ポリベンザゾールポリマーからなる多孔膜が、ポリベンザゾールポリマーを良溶媒に溶解させたポリマー溶液をポリベンザゾールポリマーの良溶媒と基盤との接触角が30°以下となる基盤上に流延し、その後ポリベンザゾールポリマーの貧溶媒と接触させることで凝固されることにより得られることを特徴とするポリベンザゾール複合体の製造方法、5.上記他ポリマーがイオン交換樹脂であることを特徴とした請求項第4項記載のポリベンザゾール複合体の製造方法、6.上記ポリベンザゾールポリマーを良溶媒に溶解させたポリマー溶液がポリマー濃度3重量%以下の等方性溶液であることを特徴とした請求項第4項記載のポリベンザゾール複合体の製造方法、である。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、本発明のポリベンザゾール複合体およびその製造方法について詳細を説明する。本発明のポリベンザゾールポリマーからなる多孔膜を支持体として、該支持体に他ポリマーを複合した複合体において、ポリベンザゾールポリマーよりなる多孔膜は、等方相を示すポリベンザゾールポリマーの溶液から製膜され、貧溶媒と接触させて凝固することにより得られた膜を洗浄することにより得られる。光学異方性を示すポリベンザゾールポリマー溶液から製膜したポリベンザゾールポリマー膜では他ポリマーを大量に含浸できるような隙間を有する多孔質状のポリベンザゾールポリマー膜が得られないため好ましくない。
【0013】
本発明におけるポリベンザゾール系ポリマーとは、ポリベンゾオキサゾール(PBO)ホモポリマー、ポリベンゾチアゾール(PBT)ホモポリマー及びポリベンズイミダゾール(PBI)ホモポリマー、もしくは、それらPBO、PBT、PBIのランダム、交互あるいはブロック共重合ポリマーをいう。ここでポリベンゾオキサゾール、ポリベンゾチアゾール及びそれらのランダム、交互あるいはブロック共重合ポリマーは、例えば米国特許第4703103号、米国特許4533692号、米国特許第4533724号、米国特許第4533693号、米国特許第4539567号、米国特許第4578432号等に記載されたものである。
【0014】
ポリベンザゾール系ポリマーに含まれる構造単位としては、好ましくはライオトロピック液晶ポリマーから選択される。モノマー単位は構造式(a)〜(n)に記載されているモノマー単位からなり、さらに好ましくは、本質的に構造式(a)〜(f)から選択されたモノマー単位からなる。特に好ましくは、本質的に構造式(a)〜(b)から選択されたモノマー単位からなるPBOポリマー、あるいは構造式(e)〜(f)から選択されたモノマー単位からなるPBIポリマーである。
【0015】
【化1】
Figure 2005036055
【0016】
【化2】
Figure 2005036055
【0017】
前記ポリベンザゾール系ポリマーは、ポリ燐酸溶媒中で縮合重合されポリマーが得られる。ポリマーの重合度は極限粘度で表され、15dL/g以上35dL/g以下、好ましくは20dL/g以上26dL/g以下である。この範囲以下であれば、得られるポリベンザゾールポリマー膜の強度が低く、またこの範囲以上であれば、等方性の溶液が得られるポリベンザゾールポリマー溶液の濃度範囲が限られ、等方性の条件での製膜が困難となるため好ましくない。
【0018】
本発明で用いるポリベンザゾールポリマー溶液は、均一でかつ隙間の大きなポリベンザゾールポリマー多孔膜を得るために等方性条件の組成で製膜することが重要であり、ポリベンザゾールポリマー溶液の好ましい濃度範囲は3%以下、より好ましくは2%以下である。この範囲よりも濃度が高いと隙間の大きなポリベンザゾールポリマー膜が得られないばかりか、ポリベンザゾールポリマーのポリマー組成や重合度によっては溶液が異方性を示すため好ましくない。
【0019】
ポリベンザゾールポリマー溶液の等方性および異方性の確認については、偏光顕微鏡観察で実施する方法が簡便である。ほかに、流体粘度を測定する方法(例えば、H.FISCHER J.A.ODELL A.KELLER M.MURRAYらのJ. Materials Science、第29巻 頁1025)がある。偏光顕微鏡観察では、試料をスライドガラスの間でおよそ50μm以下の厚みに潰して観察する。
【0020】
ポリベンザゾールポリマー溶液の濃度を上記で示したような範囲に調整するには次に示すような方法をとる事ができる。すなわち、重合されたポリベンザゾールポリマー溶液から一旦ポリマー固体を分離し、再度溶媒を加えて溶解することで濃度調整を行なう方法。さらには、ポリ燐酸中で縮合重合されたままのポリマー溶液からポリマー固体を分離することなく、そのポリマー溶液に溶媒を加えて希釈し、濃度調整を行なう方法。さらにはポリマーの重合組成を調整することで上記濃度範囲のポリマー溶液を直接得る方法などである。
【0021】
ポリマー溶液の濃度調整に用いるのに好ましい溶媒としては、メタンスルホン酸、ジメチル硫酸、ポリ燐酸、硫酸、トリフルオロ酢酸などがあげられ、あるいはこれらの溶媒を組み合わせた混合溶媒を用いることもできる。中でも特にメタンスルホン酸、ポリリン酸が好ましい。
【0022】
ポリベンザゾールポリマー溶液は基板上に流延、塗布、吹きつけなど公知の方法で膜を形成することができる。例えば、ガラス棒、バーコーター、ドクターブレード、キャスティング法、スピニング法などで流延することができる。
【0023】
ポリベンザゾールポリマー溶液を基板に流延する場合、基板上のポリベンザゾールポリマー溶液の厚みは、流延可能な厚みであればよく、好ましくは1〜1500μm、さらに好ましくは20〜1000μmの範囲が好ましい。
【0024】
ポリベンザゾールポリマー膜の多孔構造を実現する手段としては、製膜基板上に流延された等方性のポリベンザゾールポリマー溶液を、貧溶媒と接触させて凝固する方法を用いる。貧溶媒はポリマー溶液の溶媒と混和できる溶媒であって、液相状態であっても気相状態であっても良い。さらに、気相状態の貧溶媒による凝固と液相状態の貧溶媒による凝固を組み合わせることも好ましく用いることができる。凝固に用いる貧溶媒としては、水、酸水溶液や無機塩水溶液の他、アルコール類、グリコール類、グリセリンなどの有機溶媒等を利用することができるが、使用するポリベンザゾールポリマー溶液との組み合わせによっては、ポリベンザゾールポリマー膜の表面開孔率や空隙率が小さくなったり、ポリベンザゾールポリマー膜の内部に不連続な空洞ができたりするなどの問題が生じるため、凝固に用いる貧溶媒の選択には特に注意が必要である。本発明における等方性のポリベンザゾールポリマー溶液の凝固においては、水蒸気、メタンスルホン酸水溶液、リン酸水溶液、グリセリン水溶液の他、塩化マグネシウム水溶液などの無機塩水溶液などの中から貧溶媒と凝固条件を選択することによりポリベンザゾールポリマー膜表面および内部の構造、隙間を制御するに至った。特に好ましい凝固の手段は水蒸気と接触させて凝固する方法や、凝固の初期において水蒸気に短時間接触させた後に水に接触させて凝固する方法、メタンスルホン酸水溶液に接触させて凝固する方法などである。
【0025】
このような方法により得られたポリベンザゾールポリマー膜は、基板に接している側の表面構造と基板に接していない側の表面構造には違いが存在する。基板に接している側の表面では緻密構造を形成し、基板に接していない側の表面は多孔構造を形成する。ポリベンザゾールポリマーからなる多孔膜に他成分ポリマー溶液を含浸させた場合、基板に接している側の表面の緻密構造の形成は他成分ポリマー溶液を十分に含浸することができないという問題を引き起こすために好ましくない。
【0026】
この問題に対し、発明者らは製膜基板とポリマー溶媒との関係について鋭意検討を行った結果、製膜する基板とポリマー溶媒との接触角を30°以下、望ましくは25°以下にすることで、基板に接している側の表面においても多孔構造を実現でき、ポリベンザゾールポリマー多孔膜と他ポリマーとの複合体を製造する際において、他ポリマー溶液の含浸が十分に可能である多孔性の優れたポリベンザゾールポリマー多孔膜が製造できることを見出した。すなわち、ポリベンザゾールポリマー溶液を基板上に流延する際には、メタンスルホン酸、ジメチル硫酸、ポリ燐酸、硫酸、トリフルオロ酢酸などといったポリマー溶媒と製膜基板との接触角が30°以下となることを満たすことのできる材質を選択し製膜基板として用いることが重要である。
【0027】
ここで、本発明における接触角の値は、液適法で温度20℃、相対湿度65%RHにおける値であり、以下の方法により測定される。接触角を測定する装置としては協和界面科学社製CA−X型を用いた。液滴は先端部が基板に対して平行となっているポリテトラフルオロエチレン製の注射針をセットしたシリンジにポリマー溶媒を充填し、押し出すことで調整する。液滴の直径が1.8mmになるよう膨らませて停止させ、その状態時に基板を液滴に接触させる。基板を液滴に接触させたら基板を下方面に移動させ液滴を注射針より離し、液滴が注射針より離れた時点で移動を停止させ、その状態から10秒後の液滴の状態において接触角を測定した。この測定を10回実施して、その平均値を接触角の値としている。測定を行う基板については、測定前に有機溶剤や中性洗剤等を用いて十分に洗浄を行った後に蒸留水を用いて超音波洗浄を行った。その後、十分に乾燥を行った後、乾燥雰囲気に保たれたデシケーターの中で保管した。測定は、乾燥雰囲気より取り出して30分以内に終わるように速やかに測定を実施した。
【0028】
製膜基板に用いる材質としては、基板とポリマー溶媒との接触角が30°以下となるものであれば特に限定はなく、例えば、ガラス板、高分子フィルム、ステンレス鋼やハステロイ系合金からなる金属板等を用いることができる。基盤に用いる材質の表面を改質することも有効な方法であり、例えば、表面研磨を施したガラス板、鏡面処理を施した金属板、コロナ処理、プラズマ処理等を施した高分子フィルム等を使用することもできる。
【0029】
上記の手法により得られたポリベンザゾールポリマー多孔膜は、十分に洗浄することが望ましい。洗浄は膜を洗浄液に浸漬することで行なうことができる。特に好ましい洗浄液は水である。水による洗浄は、膜を水中に浸漬したときの洗液のpHが5〜8の範囲になるまで行なうことが好ましく、さらに好ましくはpHが6.5〜7.5の範囲である。
【0030】
上記に述べた特定の濃度範囲のポリベンザゾールポリマー等方性溶液を用い、上記に述べたような方法から選ばれた適当な凝固手段を用いることにより本発明の目的に適した構造を有するポリベンザゾールポリマーよりなる支持体膜が得られる。
【0031】
次に、上述のような方法で得られたポリベンザゾールポリマーよりなる多孔質の該支持体膜に他ポリマーを複合化させ、ポリベンザゾール複合体を得る方法について説明する。該支持体膜は乾燥させずに、他ポリマー溶液に浸漬し、該支持体膜内部の液を他ポリマー溶液に置換してから乾燥させる方法によりポリベンザゾール複合体を得ることができる。支持体膜内部の液が他ポリマー溶液の溶媒組成と異なる場合には、その溶媒組成にあわせてあらかじめ内部の液を置換しておく方法も採られる。
【0032】
本発明の支持体膜は乾燥により空隙内部の液体の体積が減少するのにしたがって空隙構造が収縮し、支持体膜の見かけの体積が大幅に減少するという特徴を有する。該支持体膜の内部に他ポリマー溶液を含浸することなく金属の枠などに固定して面方向の収縮を制限して乾燥させた場合には、収縮は膜厚方向に起こり、該支持体膜の乾燥後の見かけの膜厚は、乾燥前の膜厚の0.5%から10%の範囲である。本発明の支持体膜以外の多孔質支持体膜、例えば、延伸ポリテトラフルオロエチレンポリマー多孔質膜からなる支持体膜ではこのような大幅な収縮は起こらない。
【0033】
該支持体膜のこのような特徴により、該支持体膜の空隙内部の液を他ポリマー溶液に置換してから乾燥させた場合、空隙内部に含浸された該他ポリマー溶液の溶媒が蒸発して、該他ポリマー溶液の体積が減少するにつれて該支持体膜も収縮するので、該支持体膜内部の空隙が析出した他ポリマーによって満たされた緻密な複合膜構造を容易に得ることができる。この複合膜構造により、他ポリマーとしてイオン交換樹脂を用いた場合、本発明の複合イオン交換膜は優れた燃料透過抑止性を示す。本発明の支持体膜以外の多孔質支持体膜、例えば、延伸ポリテトラフルオロエチレンポリマー多孔質膜からなる支持体膜では空隙内部に含浸されたイオン交換樹脂溶液の溶媒が蒸発して該イオン交換樹脂溶液の体積が減少しても、それに伴う支持体膜の収縮が少ないため、乾燥後の複合膜内部にはイオン交換樹脂で満たされていない空隙が多数できるため好ましくない。
【0034】
本発明のポリベンザゾールポリマーからなる多孔膜を支持体として、該支持体に他ポリマーを複合化した複合体において、他ポリマーがイオン交換樹脂の場合、イオン交換樹脂は特に限定されるものではなく、前述のパーフルオロカーボンスルホン酸ポリマー以外にも、例えばポリスチレンスルホン酸、ポリ(トリフルオロスチレン)スルホン酸、ポリビニルホスホン酸、ポリビニルカルボン酸、ポリビニルスルホン酸ポリマーの少なくとも一つのアイオノマー、ポリスルホン、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルホキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリパラフェニレン、ポリフェニルキノキサリン、ポリアリールケトン、ポリエーテルケトン、ポリベンザゾール及びポリアラミドポリマーなどの芳香族ポリマーの少なくとも一つがスルホン化、ホスホン化またはカルボキシル化されたアイオノマー等が適用できる。ここでいうポリスルホンポリマーにはポリエーテルスルホン、ポリアリールスルホン、ポリアリールエーテルスルホン、ポリフェニルスルホン及びポリフェニレンスルホンポリマーの少なくとも一つが含まれる。また、ここでいうポリエーテルケトンポリマーにはポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン−ケトン、ポリエーテルエーテルケトン−ケトンおよびポリエーテルケトンエーテル−ケトンポリマーの少なくとも一つが含まれる。
【0035】
上記のようにして得られる複合イオン交換膜に占めるイオン交換樹脂の含有率は50重量%以上であることが好ましい。さらに好ましくは80重量%以上である。この範囲より小さい含有率の場合、膜の導電抵抗が大きくなったり、膜の保水性が低下したりして、十分な発電性能が得られないため好ましくない。
【0036】
ポリベンザゾール多孔膜に複合化する他ポリマーの溶媒は、ポリベンザゾールポリマー支持体膜を溶解、分解あるいは極端に膨潤させず、かつ複合化させる他ポリマーを溶解できる溶媒の中から選ぶことができる。ただし、他ポリマー溶液を支持体膜に含浸させた後に溶媒を除去して複合化させる他ポリマーを析出させる為、溶媒は加熱や減圧などの手段を用いて蒸発させるなどして除去することができるものであることが好ましい。ここで、本発明のポリベンザゾールポリマー支持体膜は高い耐熱性を有することから、100℃程度の温度からクリープを生じるポリテトラフルオロエチレン製の支持体膜を用いる複合膜の作製では使用できない高沸点の溶媒を含む他ポリマー溶液を使用して複合膜を作製できることも、多くの種類のポリマーが選択できるという観点から優れた特徴である。
【0037】
上記に記述した他ポリマー溶液のポリマー濃度および、ポリマーの分子量は特に限定されるものではないが、ポリマーの種類や得ようとする複合膜の膜厚など等に応じて適宜選択される。
【0038】
本発明の複合体は機械的強度に優れ、ポリベンザゾール多孔膜に含浸する他ポリマーがとりわけイオン交換樹脂の場合においては、高いイオン伝導性を有しながら機械的強度に優れる。その特性を生かして、特に固体高分子形燃料電池の高分子固体電解質膜として利用することができる。
【0039】
【実施例】
以下に本発明の実施例を示すが本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
<走査型電子顕微鏡による構造観察>
走査型電子顕微鏡(SEM)による構造観察は以下の方法で行った。まず、水洗した支持体膜内部の水をエタノールに置換、さらに酢酸イソアミルに十分置換した後、日立製臨界点乾燥装置(HCP−1)を用いて、CO2臨界点乾燥を施した。このようにして臨界点乾燥した膜に厚さ150オングストロームの白金コートを施し、日立製SEM(S−800)を用いて加速電圧10kV、試料傾斜角度30度で観察を行った。
【0040】
<極限粘度>
メタンスルホン酸を溶媒として、0.5g/Lの濃度に調整したポリマー溶液の粘度をウベローデ型粘度計を用いて25℃恒温槽中で測定し、算出した。
【0041】
<複合膜のイオン交換樹脂含有率>
複合イオン交換膜のイオン交換樹脂含有率は以下の方法により測定した。110℃で6時間真空乾燥させた複合イオン交換膜の目付けDc[g/m2]を測定し、複合イオン交換膜の作製に用いたのと同じ製造条件の支持体膜をイオン交換樹脂を複合化させずに乾燥させて測定した乾燥支持体膜の目付けDs[g/m2]とから、以下の計算によりイオン交換樹脂含有率を求めた。
イオン交換樹脂含有率[重量%]=(Dc−Ds)/Dc×100
また、複合イオン交換膜のイオン交換樹脂含有率は以下の方法によって測定することもできる。すなわち、複合イオン交換膜を複合イオン交換膜中の支持体膜成分あるいは、イオン交換樹脂成分のいずれかのみを溶解可能な溶剤に浸漬して一方の成分を抽出、除去した後、元の複合イオン交換膜との重量変化を測定することでイオン交換樹脂の含有率を求めることができる。
【0042】
<強度・引張弾性率>
イオン交換膜の強度特性は、気温25℃、相対湿度50%の雰囲気で、オリエンテック社製テンシロンを用いて測定した。試料は幅10mmの短冊状とし、支間長40mm、引っ張り速度20mm/secで測定した応力歪み曲線から算出した。
【0043】
<イオン導電率>
イオン導電率σは次のようにして測定した。自作測定用プローブ(ポリテトラフルオロエチレン製)上で幅10mmの短冊状膜試料の表面に白金線(直径:0.2mm)を押しあて、80℃、相対湿度95%の恒温恒湿槽中に試料を保持し、白金線間の10kHzにおける交流インピーダンスをSOLARTRON社1250FREQUENCY RESPONSE ANALYSERにより測定した。極間距離を10mmから40mmまで10mm間隔で変化させて測定し、極間距離と抵抗測定値をプロットした直線の勾配Dr[Ω/cm]から下記の式により膜と白金線間の接触抵抗をキャンセルして算出した。
σ[S/cm]=1/(膜幅×膜厚[cm]×Dr)
【0044】
<ガス透過率>
イオン交換膜のガス透過率は以下の方法で測定した。イオン交換膜をメッシュ状のステンレス製サポート上に置き、ホルダーに固定した後、イオン交換膜の一方の面に室温にて水蒸気で飽和したヘリウムガスをゲージ圧が0.09MPaとなるようにして流通させ、イオン交換膜の他方の面に透過してくるヘリウムガスの量を石鹸膜流量計を用いて測定し算出した。
【0045】
<発電特性>
デュポン社製20%ナフィオン(商品名)溶液(品番:SE−20192)に、白金担持カーボン(カーボン:Cabot社製ValcanXC−72、白金担持量:40重量%)を、白金とナフィオンの重量比が2.7:1になるように加え、撹拌して触媒ペーストを調製した。この触媒ペーストを、東レ製カーボンペーパーTGPH−060に白金の付着量が1mg/cm2になるように塗布、乾燥して、電極触媒層付きガス拡散層を作成した。2枚の電極触媒層付きガス拡散層の間に、膜試料を、電極触媒層が膜試料に接するように挟み、ホットプレス法により120℃、2MPaにて3分間加圧、加熱することにより、膜−電極接合体とした。この接合体をElectrochem社製評価用燃料電池セルFC25−02SPに組み込んでセル温度80℃、ガス加湿温度80℃、燃料ガスとして水素300mL/min、酸化ガスとして空気1000mL/minのガス流量において発電特性評価を行った。
【0046】
<実施例1>
ポリ燐酸中にIV=24dL/gのポリパラフェニレンシスベンゾビスオキサゾールポリマーを14重量%含んだドープにメタンスルホン酸を加えて希釈し、ポリパラフェニレンシスベンゾビスオキサゾール濃度1重量%の溶液を調製した。できあがった溶液をスライドガラスに挟み、偏光顕微鏡(ニコン製ECLIPSE E600 POL)を用いてクロスニコル視野で観察することで等方性溶液であることを確認した。この溶液を、40℃に加熱したポリエチレンテレフタレートからなるフィルム上にクリアランス300μmのアプリケータを用いて製膜速度5mm/秒で製膜した。このようにしてポリエチレンテレフタレートからなるフィルム上に製膜したドープ膜をそのまま25℃、相対湿度80%の恒温恒湿槽中に置いて1時間凝固し、生成した膜を洗液がpH7±0.5を示すまで水洗を行って膜を作成した。また、製膜基板としたポリエチレンテレフタレートからなるフィルムとポリパラフェニレンシスベンゾビスオキサゾールポリマーの良溶媒として用いたメタンスルホン酸の接触角を測定した結果、接触角は23.7°であった。得られた膜について、基板に接していない側の表面の走査型電子顕微鏡写真を図1に、基板に接している側の表面の走査型電子顕微鏡写真を図2に示した。図からもわかるように、基板に接している側の表面においても多孔構造を実現でき、多孔性の優れたポリパラフェニレンシスベンゾビスオキサゾールポリマー多孔膜であった。このポリパラフェニレンシスベンゾビスオキサゾールマー多孔膜を支持体とし、支持体膜を水中でステンレス製のフレームに固定し、支持体膜の内部の水をイオン交換樹脂溶液であるデュポン社製20%ナフィオン(商品名)溶液(品番:SE−20192)の溶媒組成とほぼ同じ水:エタノール:1−プロパノール=26:26:48(重量比)の混合溶媒で置換した。この支持体膜を20%ナフィオン(商品名)溶液に25℃で15時間浸漬した後溶液から取り出し、膜の内部に含浸および膜表面に付着したナフィオン(商品名)溶液の溶媒を風乾により揮発させ乾燥させた。乾燥させた膜は60℃のオーブン中で1時間予備熱処理して残留した溶媒を除いた後、窒素雰囲気下、150℃で1時間熱処理を行なうことにより実施例1の複合イオン交換膜を調製した。
【0047】
<実施例2>
ポリ燐酸中にIV=23.8dL/gのポリパラフェニレンシスベンゾビスオキサゾールポリマーを14重量%含んだドープにメタンスルホン酸を加えて希釈し、ポリパラフェニレンシスベンゾビスオキサゾール濃度2.5重量%の溶液を調製した。できあがった溶液をスライドガラスに挟み、偏光顕微鏡(ニコン製ECLIPSE E600 POL)を用いてクロスニコル視野で観察することで等方性溶液であることを確認した。この溶液を、70℃に加熱したガラス板上にクリアランス300μmのアプリケータを用いて製膜速度5mm/秒で製膜した。このようにしてガラス板上に製膜したドープ膜をそのまま25℃、相対湿度80%の恒温恒湿槽中に置いて1時間凝固し、生成した膜を洗液がpH7±0.5を示すまで水洗を行って膜を作成した。また、製膜基板としたガラス板とポリパラフェニレンシスベンゾビスオキサゾールポリマーの良溶媒として用いたメタンスルホン酸の接触角を測定した結果、接触角は13.4°であった。得られた膜について、走査型電子顕微鏡を行った結果、基板に接していない側の表面は図1と同様の形態であった。また、基板に接している側の表面は図2と同様の形態であった。このポリパラフェニレンシスベンゾビスオキサゾールポリマー多孔膜を支持体とし、支持体膜を水中でステンレス製のフレームに固定し、支持体膜の内部の水をイオン交換樹脂溶液であるデュポン社製20%ナフィオン(商品名)溶液(品番:SE−20192)の溶媒組成とほぼ同じ水:エタノール:1−プロパノール=26:26:48(重量比)の混合溶媒で置換した。この支持体膜を20%ナフィオン(商品名)溶液に25℃で15時間浸漬した後溶液から取り出し、膜の内部に含浸および膜表面に付着したナフィオン(商品名)溶液の溶媒を風乾により揮発させ乾燥させた。乾燥させた膜は60℃のオーブン中で1時間予備熱処理して残留した溶媒を除いた後、窒素雰囲気下、150℃で1時間熱処理を行なうことにより実施例2の複合イオン交換膜を調製した。
【0048】
<比較例1>
ポリ燐酸中にIV=24.1dL/gのポリパラフェニレンシスベンゾビスオキサゾールポリマーを14重量%含んだドープにメタンスルホン酸を加えて希釈し、ポリパラフェニレンシスベンゾビスオキサゾール濃度1重量%の溶液を調製した。できあがった溶液をスライドガラスに挟み、偏光顕微鏡(ニコン製ECLIPSE E600 POL)を用いてクロスニコル視野で観察することで等方性溶液であることを確認した。この溶液を、40℃に加熱したポリプロピレンからなるフィルム上にクリアランス300μmのアプリケータを用いて製膜速度5mm/秒で製膜した。このようにしてポリプロピレンからなるフィルム上に製膜したドープ膜をそのまま25℃、相対湿度80%の恒温恒湿槽中に置いて1時間凝固し、生成した膜を洗液がpH7±0.5を示すまで水洗を行って膜を作成した。また、製膜基板としたポリプロピレンからなるフィルムとポリパラフェニレンシスベンゾビスオキサゾールポリマーの良溶媒として用いたメタンスルホン酸の接触角を測定した結果、接触角は31.3°であった。得られた膜について、走査型電子顕微鏡を行った結果、基板に接していない側の表面は図1と同様の形態であった。一方、基板に接している側の表面の走査型電子顕微鏡写真を図3に示したが、基板に接している側の表面においては緻密な構造を形成しており、多孔性の優れたポリパラフェニレンシスベンゾビスオキサゾールポリマー多孔膜を製造することはできなかった。このポリパラフェニレンシスベンゾビスオキサゾールポリマー多孔膜を支持体とし、支持体膜を水中でステンレス製のフレームに固定し、支持体膜の内部の水をイオン交換樹脂溶液であるデュポン社製20%ナフィオン(商品名)溶液(品番:SE−20192)の溶媒組成とほぼ同じ水:エタノール:1−プロパノール=26:26:48(重量比)の混合溶媒で置換した。この支持体膜を20%ナフィオン(商品名)溶液に25℃で15時間浸漬した後溶液から取り出し、膜の内部に含浸および膜表面に付着したナフィオン(商品名)溶液の溶媒を風乾により揮発させ乾燥させた。乾燥させた膜は60℃のオーブン中で1時間予備熱処理して残留した溶媒を除いた後、窒素雰囲気下、150℃で1時間熱処理を行なうことにより比較例1の複合イオン交換膜を調製した。
【0049】
<比較例2>
ポリ燐酸中にIV=24dL/gのポリパラフェニレンシスベンゾビスオキサゾールポリマーを6重量%含んだドープを重合した。できあがったドープをスライドガラスに挟み、リンカムホットステージで温調して偏光顕微鏡(ニコン製ECLIPSE E600 POL)を用いクロスニコル視野で観察した。濃度6%溶液では、140℃以下の温度では光学異方性溶液であり、140℃で部分的に異方相が消失して等方相との混相状態になることが確認された。この溶液を、120℃に加熱したガラス板上にクリアランス300μmのアプリケータを用いて製膜速度5mm/秒で製膜した。このようにしてガラス板上に製膜したドープ膜をそのまま25℃、相対湿度80%の恒温恒湿槽中に置いて1時間凝固し、生成した膜を洗液がpH7±0.5を示すまで水洗を行って膜を作成した。また、基板としたガラス板とポリパラフェニレンシスベンゾビスオキサゾールポリマーの良溶媒として用いたポリリン酸の接触角を測定した結果、接触角は26.3°であった。得られた膜について、走査型電子顕微鏡を行った結果、基板に接していない側の表面およびは基板に接している側の表面は共に図3と同様な緻密な構造を形成しており、多孔性の優れたポリパラフェニレンシスベンゾビスオキサゾールポリマー多孔膜を製造することはできなかった。このポリパラフェニレンシスベンゾビスオキサゾールポリマー膜を支持体とし、支持体膜を水中でステンレス製のフレームに固定し、支持体膜の内部の水をイオン交換樹脂溶液であるデュポン社製20%ナフィオン(商品名)溶液(品番:SE−20192)の溶媒組成とほぼ同じ水:エタノール:1−プロパノール=26:26:48(重量比)の混合溶媒で置換した。この支持体膜を20%ナフィオン(商品名)溶液に25℃で15時間浸漬した後溶液から取り出し、膜の内部に含浸および膜表面に付着したナフィオン(商品名)溶液の溶媒を風乾により揮発させ乾燥させた。乾燥させた膜は60℃のオーブン中で1時間予備熱処理して残留した溶媒を除いた後、窒素雰囲気下、150℃で1時間熱処理を行なうことにより比較例2の複合イオン交換膜を調製した。
【0050】
<比較例3>
市販されているデュポン社製ナフィオン112(商品名)膜を用いた。この膜は実施例1、2および比較例1、2で用いた20%ナフィオン溶液に含まれるナフィオンポリマーと同じパーフルオロカーボンスルホン酸ポリマーからなるプロトン交換膜であり、固体高分子形燃料電池用のプロトン交換膜として広く用いられているものである。
【0051】
実施例1、2、比較例1、2、3、の物性値を表1に示す。
【0052】
【表1】
Figure 2005036055
【0053】
実施例1および2の複合イオン交換膜は、比較例1および2と対比してイオン交換樹脂の含有率が大きく、イオン導電率、発電性能ともに優れており、燃料電池の高分子固体電解質膜として優れた特性を備えていることがわかる。実施例1および2の複合イオン交換膜は比較例3である市販のナフィオン112膜と対比して破断強度ならびに引張弾性率の大きなイオン交換膜であることがわかる。また実施例1および2の複合イオン交換膜は内部に支持体を有するにもかかわらず、支持体を含まない比較例3に比べてイオン導電率、発電性能ともに大幅な低下を起こすことなく、ガス透過率は半分以下の小さい値に抑えられており、燃料電池の高分子固体電解質膜として優れた特性を備えていることがわかる。
【0054】
【発明の効果】
本発明によれば、基板に接している側のポリベンザゾールポリマー膜の表面においても多孔構造の形成が実現でき、多孔性の優れたポリベンザゾールポリマー多孔膜が得られ、このポリベンザゾールポリマー多孔膜を支持体として他ポリマーとの複合体を製造する際においては、他ポリマー溶液を十分に含浸することができる。他ポリマーがイオン交換樹脂の場合においては、機械的強度が高く、イオン伝導性、発電特性、ガスバリヤー性に優れた高分子固体電解質膜を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1の基板に接していない側の表面の走査型電子顕微鏡写真である。
【図2】実施例1の基板に接している側の表面の走査型電子顕微鏡写真である。
【図3】比較例1の基板に接している側の表面の走査型電子顕微鏡写真である。

Claims (6)

  1. ポリベンザゾールポリマーからなる多孔膜を支持体として、該支持体に他ポリマーを複合した複合体であって、ポリベンザゾールポリマーからなる多孔膜が、ポリベンザゾールポリマーを良溶媒に溶解させたポリマー溶液をポリベンザゾールポリマーの良溶媒と基盤との接触角が30°以下となる基盤上に流延し、その後ポリベンザゾールポリマーの貧溶媒と接触させることで凝固されることにより得られることを特徴とするポリベンザゾール複合体。
  2. 他ポリマーがイオン交換樹脂であることを特徴とした請求項1に記載のポリベンザゾール複合体。
  3. ポリベンザゾールポリマーを良溶媒に溶解させたポリマー溶液がポリマー濃度3重量%以下の等方性溶液であることを特徴とした請求項1乃至2いずれかに記載のポリベンザゾール複合体。
  4. ポリベンザゾールポリマーからなる多孔膜を支持体として、該支持体に他ポリマーを複合した複合体を製造する方法であって、ポリベンザゾールポリマーからなる多孔膜が、ポリベンザゾールポリマーを良溶媒に溶解させたポリマー溶液をポリベンザゾールポリマーの良溶媒と基盤との接触角が30°以下となる基盤上に流延し、その後ポリベンザゾールポリマーの貧溶媒と接触させることで凝固されることにより得られることを特徴とするポリベンザゾール複合体の製造方法。
  5. 他ポリマーがイオン交換樹脂であることを特徴とした請求項4に記載のポリベンザゾール複合体の製造方法。
  6. 上記ポリベンザゾールポリマーを良溶媒に溶解させたポリマー溶液がポリマー濃度3重量%以下の等方性溶液であることを特徴とした請求項4乃至5いずれかぜに記載のポリベンザゾール複合体の製造方法。
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Cited By (3)

* Cited by examiner, † Cited by third party
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JP2009518206A (ja) * 2005-12-07 2009-05-07 スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー 強化されたイオン導電性膜
JP2010193534A (ja) * 2009-02-13 2010-09-02 Univ Of Yamanashi 積層型高分子アクチュエータ及びその製造方法
JP2014014262A (ja) * 2013-07-30 2014-01-23 Univ Of Yamanashi 積層型高分子アクチュエータ及びその製造方法

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