原子間力顕微鏡(AFM)などの走査プローブ顕微鏡(SPM)は、先端を有するプローブを通常採用する装置であって、原子の大きさまで表面を特徴付けるために小さい力により先端を試料の表面と相互作用させる装置である。通常、プローブは、試料の特徴の変化を検出するために試料の表面に導入される。先端と試料間の相対的走査運動を与えることにより、表面特性データを試料の特定領域全体にわたって捕捉することができ、試料の対応するマップを生成することができる。
典型的なAFMシステムを図1に概略的に示す。AFM10は、カンチレバー(片持ち梁)15を有するプローブ12を含むプローブ装置12を採用する。走査器24は、プローブ−試料相互作用が測定される一方でプローブ12と試料22間の相対運動を生成する。このようにして、試料の像または他の測定結果を得ることができる。走査器24は通常、3つの互いに直交する方向(XYZ)の運動を通常生成する1つまたは複数のアクチュエータを含む。しばしば、走査器24は、試料またはプローブのいずれかをすべての3軸方向に動かす1つまたは複数のアクチュエータ(例えば、圧電チューブアクチュエータ)を含む単一の一体化ユニットである。代案として、走査器は多くの個別アクチュエータの概念的または物理的組み合わせでもよい。いくつかのAFMは、走査器を多くの部品(例えば試料を動かすXYアクチュエータとプローブを動かす別個のZアクチュエータ)に分離する。したがってこの計測器は、Hansmaらの特許文献1、Elingsらの特許文献2、Elingsらの特許文献3に記載のように、試料のトポグラフィまたはいくつかの他の特性を測定する一方でプローブと試料間の相対運動を生成することができる。
特に、走査器24はしばしば、測定プローブと試料表面間の相対運動を生成するために使用される圧電スタック(本明細書ではしばしば「ピエゾスタック」と呼ぶ)または圧電チューブを含む。ピエゾスタックは、上記スタック上に配置された電極に印可される電圧に基づき、1つまたは複数の方向に動く装置である。ピエゾスタックはしばしば、ピエゾスタックの動きを誘導、制約、および/または増幅するように機能する機械的湾曲部と組み合わせて使用される。加えて、湾曲部は、2007年3月16日出願の特許文献4、表題「高速走査SPM走査器とそれを操作する方法(Fast−Scanning SPM Scanner and Method of Operating Same)」に記載のように、1つまたは複数の軸方向のアクチュエータの剛性を増加するために使用される。アクチュエータは、プローブ、試料、またはその両方に接続され得る。最も典型的には、アクチュエータアセンブリは、プローブまたは試料を水平面すなわちXY平面において駆動するXYアクチュエータとプローブまたは試料を垂直すなわちZ方向に動かすZアクチュエータの形式で提供される。
通常の構成では、プローブ17はしばしば、カンチレバー15の共振周波数においてまたはその近傍で振動するようにプローブ12を駆動するために使用される揺動形アクチュエータまたは駆動装置16に結合される。代替配置では、カンチレバー15の偏向、ねじれ、または他の特徴を測定する。プローブ17は、一般的に一体型先端17を備えた微細加工済みカンチレバーである。
一般的には、アクチュエータ16(または代替として走査器24)にプローブ12を駆動させてプローブ12を振動させるためにSPM制御装置20の制御下で電子信号がAC信号源18から印加される。プローブ−試料相互作用は通常、制御装置20によりフィードバックを介し制御される。特に、アクチュエータ16は走査器24とプローブ12に結合され得るが、自己駆動型カンチレバー/プローブの一部としてプローブ12のカンチレバー15と一体的に形成され得る。
しばしば、選択されたプローブ12は、試料特性が上述のようにプローブ12の振動の1つまたは複数の特徴の変化を検出することにより監視されるので、振動され、試料22に接触させられる。この点に関して、偏向検出装置25が通常、次に四象限光検出器(quadrant photodetector)などの検出器26方向に反射されるビームをプローブ12の裏側方向に向けるために採用される。偏向検出器はしばしば、Hansmaらの特許文献1に記載されるような光てこシステムであるが、歪みゲージ、容量センサ等などの他のいくつか偏向検出器であり得る。装置25の感知用光源は通常はレーザであり、しばしば可視または赤外線レーザダイオードである。感知用光ビームはまた、他の光源、例えば、He−Neまたは他のレーザ源、超ルミネセンスダイオード(SLD:superluminescent diode)、LED、光ファイバ、または小さな点に集束することができる任意の他の光源により生成することができる。ビームが検出器26を横切ると、(例えばプローブ12のRMS偏向を判断するために)適切な信号が信号処理ブロック28により処理される。次に、相互作用信号(例えば偏向)は、プローブ12の振動の変化を判断するために信号を処理する制御装置20に送信される。一般的には、制御装置20は、ブロック30において誤差を判断し、次に、先端と試料との間の比較的一定な相互作用(またはカンチレバー15の偏向)を維持するために、通常はプローブ12の振動に特有の設定点を維持するために、制御信号を生成する(例えば、PI利得制御ブロック32を使用して)。制御信号は通常、例えば走査器24を駆動する前に高電圧増幅器34により増幅される。例えば、制御装置20はしばしば、先端と試料との間のほぼ一定の力を保証するために振動振幅を設定点値Asに維持するように使用される。代替案として、設定点位相または周波数が使用され得る。制御装置20はまた、その制御努力が設定点により定義されるある目標値を維持することであるフィードバックと通常呼ばれる。
制御装置から収集データを受信するとともに、点選択、曲線近似、距離決定演算などのデータ操作動作を行うために走査中に取得されたデータを操作するワークステーション40がまた、制御装置20内、および/または別個の制御装置内、または接続型またはスタンドアロン制御装置のシステム内に設けられる。ワークステーションは、メモリ内にその結果の情報を格納し、それを追加の計算に使用し、および/またはそれを好適なモニタ上に表示し、および/またはそれを別のコンピュータまたは装置に有線または無線により送信することができる。メモリは、例えばコンピュータRAM、ハードディスク、ネットワーク記憶装置、フラッシュ駆動装置、またはCD ROMに限定されないがこれらを含む任意のコンピュータ可読データ格納媒体を含み得る。
AFMは、接触モードと振動モードを含む様々なモードで動作するように設計され得る。この動作は、試料がその表面全体にわたって走査されるとプローブアセンブリのカンチレバーの偏向に応じて試料の表面に対し相対的に垂直方向に試料および/またはプローブアセンブリを上下に動かすことにより達成される。走査は通常、試料の表面に少なくともほぼ平行「x−y」面において発生し、上下移動はx−y面に垂直な「z」方向に発生する。多くの試料は平坦面から逸脱する粗さ、湾曲、傾斜を有するので用語「ほぼ平行」を使用するということに留意されたい。このようにして、この垂直運動に関連するデータが格納され、次に、測定中の試料特性(例えば表面トポグラフィ)に対応する試料表面の像を構成するためにこれを使用することができる。TappingMode(商標)AFM(TappingMode(商標)は本譲受人の商標である)として知られたAFM動作の1つの実用的モードでは、先端はプローブの付随カンチレバーの共振周波数またはその高調波でまたはその近傍で振動する。フィードバックループは、通常は先端−試料離隔距離を制御することにより「トラッキング力」(すなわち先端/試料相互作用から生じる力)を最小限にするためにこの振動の振幅を一定に維持しようとする。代替フィードバック配置では位相または振動周波数を一定に維持する。接触モードと同様に、これらのフィードバック信号は次に収集され、格納され、試料を特徴付けるデータとして使用される。
その動作モードにかかわらず、AFMは、圧電走査器、光てこ偏向検出器、フォトリソグラフィ技術を使用して製作される非常に小さなカンチレバーを使用することにより、大気、液体、または真空中の様々な絶縁または導電性面上で原子レベルまでの解像度を得ることができる。それらの解像度と汎用性のために、AFMは半導体製造から生物学的研究までの範囲の多くの多様な分野において重要な測定装置である。なお、「SPM」および特定タイプのSPMの頭文字は、顕微鏡装置または関連技術(例えば「原子間力顕微鏡」)のいずれかを参照するために本明細書では使用され得る。
ほとんどの測定装置と同様に、AFMはしばしば、解像度と捕捉速度とのトレードオフが必要である。すなわち、いくつかの現在利用可能なAFMはサブオングストローム解像度で表面を走査することができる。これらの走査器は、比較的小さい試料領域だけを走査することができ、しかも比較的低い走査速度だけで走査することができる。従来の市販のAFMは通常、高解像度(例えば512×512画素)および低トラッキング力で数マイクロメートルの領域をカバーするのに通常数分かかる全走査時間を必要とする。AFM走査速度の実用限界は、先端および/または試料を損傷しないまたは最小限損傷を引き起こすのに十分に低いトラッキング力を維持する一方でAFMを走査できる最大速度の結果である。SPMが小さい試料と小さい走査サイズに対し高解像度の映像走査速度を実現したこの領域では大きな進歩が遂げられてきた。
それにもかかわらず、TappingMode AFMと接触モードの両方を含む公知の動作モードに関連する現在の限界を考えれば、改善が望まれている。再び、接触モードでは、先端の横方向走査は、両者に損害を与える可能性のある先端と試料間に大きな力を生成する。生体試料とポリマーなどの軟質試料を撮像する際、表面が破壊される可能性があり、測定を役立たなくするまたは少なくともひどく歪め、これにより解像度を著しく損なう。なお、「撮像」は、通常は試料とプローブ間の相対的走査運動を起こし試料とプローブをそれに応じて相互作用させることにより試料表面の複数点においてSPMデータを得ることを示すために本明細書では使用される。
TappingMode AFMは、比較的低い力の技術であり、特に繊細な試料の試料表面をマッピングするために最も広く使用されるAFM動作のモードである。試料に対する先端の典型的な力は約数nN〜数十nNである。再び、先端を引きずるのではなく先端を振動させることにより、せん断力が最小限にされる。そのような訳で、TappingMode AFMは、試料表面に作用する垂直力を制御することが難しいという欠点に悩まされる。ユーザは通常、先端−試料相互作用力を最小限にして試料プロフィールの最良の再生を得るために、プローブの自由大気偏向/振幅からの単に小さな変動である設定点を選択しようとする。特に軟質試料に対するジレンマは、撮像力が余りに低ければ、先端が試料を正しく追跡(すなわち、走査中に試料との相互作用を維持)しなく、一方余りに高ければ、試料の損傷/変形が、表面トポグラフィを正確に反映しない像をもたらし得るということである。全体として、この力をより良く制御できればできるほど(すなわち、この力をより小さく維持できればできるほど)、試料および/または先端損傷の可能性はより少なくなり、こうして解像度を改善することができる。
これらのモードのそれぞれにおける先端−試料力の精査は、それぞれの限界を理解する上での手掛かりとなる。プローブがTappingMode AFMまたはJumping Mode(商標)を介し表面と相互作用すると(例えば、その全体を参照により本明細書に援用する特許文献5、特許文献6、特許文献7参照)、先端は表面に周期的に接触する。図2Aに、先端運動の一周期「T」内の物理的過程を示す。図2Aに、試料表面位置を参照して先端軌跡を示す。図2Bに、様々な位置における先端軌跡の同じ時間における対応する相互作用力を示す。ピーク位置Amaxでは、先端は試料表面から最も遠く、試料と相互作用していない。先端が水平軸の下方(零先端−試料離隔距離)へ進み続けると、先端は近接場(near−field)ファンデルワールス力Fa_vdwを発生し、これにより先端がファンデルワールス引力により試料に急接触する(snap into contact)ようにさせる。試料と接触した後、先端は時間区域δΤの間反発相互作用状態のままである。この時間の間、先端は試料と連続的に接触している。零未満の位置は、「先端が試料を変形しその位置が試料表面より下に現れるようにさせる」ことを表す。
先端がδΤ後に表面から離れると、引力は毛細管メニスカスを成長させ、このメニスカスが崩れ去る直前に最大付着力Fa_maxを示す。次に、先端は非相互作用領域に入り、最大離脱位置まで進み続ける。
相互作用自由区域内では、プローブが表面からさらに遠くなると、相互作用力は図2Bに示すように零または十分に零近傍となり基準線を形成する。図2Bでは、水平軸より上の力は反発的であり、一方水平軸より下のそれらの点は正味引力または付着力を表す。最大斥力Fr_maxは通常、試料表面への最低または最小の先端位置または離隔距離に対応する。
TappingMode(商標)AFMとJumpingMode(商標)AFMにおいて開示された従来の公知のモードでは、先端振動振幅の振幅AmaxまたはRMSはフィードバック制御パラメータとして使用される。このようなフィードバック制御装置の例を図1に示す。
利得制御フィードバックループ、位置決めアクチュエータ、カンチレバー応答検出部品(例えば四象限光検出器)を使用して通常は実施される従来の制御では、AFMは、先端−表面相互作用の指標としてカンチレバー(すなわちプローブ)運動に対応する検出されたプローブ偏向またはRMS信号を使用し、これを一定にまたはRMS偏向に維持するためにフィードバックループを利用する。
さらに、従来のAFMの主要な制限は、高解像度撮像と同時に定量的機械的特性情報を捕捉する能力の無さである。AFMは、主としてトポグラフィック撮像に焦点を当てられてきた。弾力性、可塑性、付着仕事量を含む定量的機械的マッピングを実現する際の進歩はほとんど遂げられていない。
さらに、TappingMode(商標)制御は、フィードバックを利用して先端−表面相互作用を制御するために、測定された偏向信号の振幅または位相を使用する。特に、振幅と位相の両方は、少なくとも1サイクルの相互作用を使用したプローブ/先端振動の平均特性である。より具体的には、平均値は、先端軌跡(図2)内のすべての位置において発生するプローブ/試料相互作用に関係する。そのため、制御フィードバックがほぼ瞬間的な先端−試料相互作用に基づく可能性は無い。なお、本明細書の瞬間的相互作用は図2Bの相互作用の任意の点(例えば2マイクロ秒内の)を指す(以下にさらに論述される)。
加えて、TappingMode(商標)AFMはプローブが試料と断続的に接触するときに発生するスティックイン(stick−in)条件として知られたものを克服するために生成されたということに留意することが重要である。プローブが試料に接触すると、毛細管力が先端を捕らえ、先端が解放されるのを妨げる傾向がある。TappingModeのプローブ振動の振幅は零まで低下し、これによりフィードバック発振を引き起こすことになる。この問題は、約10nmピークトゥピークより高い振動振幅でTappingMode AFMを動作させる一方で40N/mの公称値を有する一定の剛性(通常10N/m(ニュートン/メートル)〜60N/m)を有するプローブを使用することによりTappingModeを使用する際に克服された。これらの条件下で、プローブが表面に接触すると、タッピングプローブの運動エネルギーは毛細管力を克服するために十分な静的弾性エネルギーに変換され、各サイクル内の安定した振幅を保証する。このモードの1つの欠点は、プローブ内に蓄積された運動エネルギーがまた、片持ちばね定数に比例するということである。1N/mなどより低いばね定数片持ちばねを採用する際、カンチレバーはそれ自身の共振振動エネルギーを利用して毛細管付着力を克服することができないので、多くの材料を測定する際にTappingModeは不可能である。したがって、ほとんどのTappingMode応用は、当該技術領域で一般的に知られている堅いカンチレバーをレバーとして使用するときだけ可能である。
パルスフォースモード(pulsed−force mode)すなわちPFMとして知られたSPMを動作させる代替モードでは(例えば特許文献8、特許文献9参照)、プローブの振動の振幅が調節されるので、先端は各サイクル中接触したりしなかったりする。このモードでは、制御は先端−試料相互作用力を監視することにより実現される。これは力曲線に関連する特性に基づき動作し、別の一般的測定が、特定の位置における材料特性を測定するためにAFM場においてなされる。力測定は、一般的なものであり、力−体積像(force−volume image)として知られたものを生成するために試料全体にわたってマッピングされることができる。
PFMでは、力−距離曲線の形状を解析することにより、そして先端と試料間に働く力を制御するためにデータを使用することにより、捕捉されるデータ量はSPM動作の他のモードに比べて低減される。重要なのは、PFMは通常、結合誘発偏向だけでなく付着誘発偏向も実質的に越えるFr_i(以下に検討される)すなわちピークパルス力で動作する必要がある。その結果、高い斥力が制御基準として必要である。このような高フォースは試料または先端を損傷し、したがって高解像度画像の捕捉を妨げる可能性がある。さらに、PFMは、特に動作速度および解像度制限に関し、他の制限を有し、したがって軟質試料を撮像するために実施されてきたがすべてのタイプのAFM撮像応用に広くは採用されていない。加えて、カンチレバープローブが試料と相互作用していないときですら流体中の粘性力は大きな偏向を生成するので、流体環境における撮像はPFMにさらなる挑戦を提示する。
より具体的に、標準的PFM AFMにおいて撮像速度が制限される主な理由を図2Cに示す。図2Cは先端−試料相互作用力対時間のグラフである。相互作用力は点「A」において急接触する(snap−to−contact)としてプロットされる。(先端上の試料の)斥力は「B」において始まる。ピーク斥力は、付着力が先端をほぼ点「D」(先端が試料から解放される点)まで引っ張るのでほぼ点「C」で発生する。点Eは、カンチレバープローブが試料から離れるときの偏向ピークを表す。点Cと点E自体は両方とも偏向信号内のピークとして示される。先端−試料相互作用を正しくフィードバック制御することを保証するために、Cの値はEを越えなければならない。PFMにおけるさらに別の制約では、走査を続けるために必要とされる基準線力を決定できる前に、特定のリングダウン(ringdown)期間(その共振周波数におけるプローブ振動のサイクル)が必要である。これは、変調周波数したがって走査速度を制限する「リングダウン」(TappingModeにおけるものと同様な自由減衰過程)にカンチレバーが入るのを待つことである。より詳細には、変調周波数はプローブ共振周波数より著しく低い(例えば、プローブ共振周波数より5分の1以上低い)。
上記課題に加えて、比較的複雑でかつ汎用性のあるAFMの設定と動作は、特に初心者AFMオペレータおよび/または複雑な計測学的装置に精通しない科学者または技術者には時間がかかり厄介である可能性がある。例えば、設定および動作パラメータ値は通常、数ある中でも、硬いか柔らかいか、導電性か非導電性か、有機か、性質が合成的か生物学的かを含む試料物質のタイプなどの要因に依存する。
走査型電子顕微鏡法(SEM)等の他の測定技術では、試料を計測器に容易に搭載することができ、良好な像を少ないユーザトレーニングまたは専門知識で得ることができる。しかし、多次元トポグラフィと機械的特性(弾力性等)を含む広範囲の測定を行う能力を考えれば、AFMはしばしば、好ましい技術である。それにもかかわらず、AFMはほとんどの場合、ツールと行われる測定とに関する専門知識を必要とする。この点に関して、ユーザは対象の位置を捜し出し、プローブの先端を試料に導入する(試料またはプローブのいずれかを動かすことにより)必要がある。次に、測定走査が開始されると、通常は、安定したフィードバックループを維持することにより先端が試料を追跡することをユーザは確実にする必要がある。
さらに、測定がなされた後は、取得されたデータを解釈することがしばしば挑戦である。通常、これらは、ほとんどの場合は物理学者または電子工学技術者の知識と経験を必要とする時間がかかるタスクでありがちであり、人間の判断に依存することに伴う制限を有する。重要なのは、AFMは広範な適用性の可能性を有するので、AFMが専門家の実行する能力にそれほど依存しなければ有利だろう。例えば、試料のマップを含む無比の材料特性測定結果を得る能力を考えれば、生物学者と物性専門家は使用が容易であればAFMを広く採用するであろう。この点に関して、AFMおよび/またはその操作方法が、a)測定を行い測定の準備をしながらフィードバック安定性を維持することと、b)得られたデータを解釈すること、の両方に伴う挑戦を最小にするまたは無くすことができれば、使用しやすさの助けとなるであろう。
これらの課題に取り組むために、AFMにより提示される基本的挑戦とその現時点で好ましい動作モードとについて考察した。初めに、公知のAFMモードの安定性を維持することに関しては、制御装置調節が極めて重要である。最近の市販システムの多くでは、ユーザは設定点と利得(I(積分)とP(比例))の両方を制御しなければならない。設定点に関し、制御はモードに依存する。接触モードでは、計測器は、先端と試料間の接触力を一定に維持しようとするが、これは比較的簡単である。しかし、AFM動作の最も広く使用されるモード(上述の振動モードまたはTappingMode AFM)では、設定点(タッピング振幅または位相)を制御することは、そもそも設定点と先端−試料力間の簡単な関連性は存在しないので複雑である。同じ設定点変化が高い先端−試料相互作用力または低い先端−試料相互作用力のいずれかを示す可能性があり、カンチレバー動力学(基本共振周波数等)は大きく影響される(変化する環境(例えば、流体v。大気)内で撮像することに関する影響を含む)。
安定かつ最適なフィードバックはまた、適切な利得を適用する必要がある。一般的には、フィードバックは高利得下で不安定になり、低利得下では追跡能力を低下させる。P利得とI利得は、ユーザが通常、フィードバックが安定なままであるとともにまた十分な追跡能力を提供することを確実にするために試行錯誤を採用することで、調節される。しかし、TappingMode AFMでは、フィードバック動特性は設定点により著しく影響を受ける、すなわち、同じ利得は異なる振幅設定点下では異なるフィードバック安定性を示し得る。利得が独立に作用しないので、利得最適化の過程は特に複雑である。
安定したフィードバックはまた、設定点からの振動の偏差が検出されたときに適切な利得を適用する必要がある。利得は、振動を設定点に戻すように調節されなければならない。P利得とI利得は、ユーザが通常、フィードバックが安定したままであることを確実にするために試行錯誤を採用することにより、調節される。利得が独立に作用しないので、挑戦は特に複雑である。
余り専門的でないユーザ関与でもって安定したフィードバックを維持するAFMシステムを計測分野において有したいという願望に応じて、いくつかの解決策が提案されてきた。それにもかかわらず、それぞれは重大な制限を有する。
非特許文献1だけでなく非特許文献2では、高次またはモデルベース制御装置が標準的P/I制御装置に代わって採用される。このような制御装置は設計するのが難しく、本質的に不完全である。重要なことには、このような制御装置は、動作に先立ってシステム動特性に関係する情報を必要とする。これらは接触モードでAFMを動作させる際に有効である可能性があるが、これらは通常、上に示唆されたようにシステム動特性が変化する設定点に伴って変化するということ考えればAFMがタッピングモードで操作されるときに動作するのが困難である。
AstromとHagglundでは、標準的P/I制御装置が採用されるが安定動作に必要な調整は自動化される。AstromとHagglundは、位相および振幅マージンに関する仕様を使用する単純な調整器を採用する。この手法では、目標システムは遅い時間応答を有する最も典型的な大きな工場である。具体的には、応答の時間スケールは通常、数分から数時間である。この特徴は本質的に、応答時間がミリ秒でかつ応答のQが高い(低エネルギー散逸)AFMシステムと正反対である。換言すれば、AstromとHagglundにより教示されるような制御装置の自動調整(遅い返答時間を有する単純な調整器を使用する)は、ほとんどのAFM応用ではうまく働かないであろう。
ライスらにおいて開示された別のシステム(特許文献10)では、システムは不安定性の徴候を検出するように働き、次に補正を行う。しかし、不安定性の徴候と制御不安定性(すなわち測定過程を停止し再開することを必要とする大きさの不安定性)からの脱出との間の期間が非常に短いので、測定過程を停止しなければならなくなる前に制御を実施するのは難しい。当該技術において理解されるように、ヒステリシスは、システムが十分に速く応答することができないとき主責任がある。さらに、この解決策では、システムは測定された振動に基づき判断を行う。許容可能な雑音振幅が規定されているので、その振幅を越えればシステムが利得を調節する。1つの主課題は、特にタッピングモードでAFMを操作する際とある種の試料を測定する際に雑音振幅が非常に複雑であるということに関する。タッピングモードAFMでは、振動は先端と試料間の相互作用力の非線形表現である。そのため、例えば、タッピング振幅を制御することにより先端−試料相互作用力の間接制御を実現する。相互作用力のこの間接制御は、ピエゾアクチュエータ自体とAFMの機械部品からのものを含む振動高調波とシステム振動等の変数の影響を受けやすい。特に変化する環境において撮像が発生し得る際に、ロバスト制御アルゴリズムを開発することを極めて困難にするのはこれらのタッピングモード動力学である。
その結果、このシステムは判断を行うためにユーザ入力を必要としないが、測定された振動を解読しシステムがまさに不安定になろうとするときに制御を修正する能力は制限される。再び、タッピングモードAFMでは、システム動特性は、不安定性に対処することができる制御アルゴリズムを開発する能力を著しく複雑にする設定点(例えば振幅または位相)と利得の両方に依存する。
要するに、利得を自動的に調節するために過去の試みがAFMに関しなされてきたが、この方法はまた、特に有効であると証明されていない。公知の方法は、設定点、アクチュエータヒステリシス、先端形状などの試料トポグラフィと動作パラメータの両方を処理し得なく、これにより、利得調節を通して安定性を維持するためのいかなる試みにも予測不能でかつ不利な影響を与える可能性がある。その結果、自動利得調節は概して無効である。
再び、これは、AFM動作中に調節を必要とする可能性があるものと共にAFM設定および動作の際に考慮されなければならない多くの走査パラメータとを考えると、驚くべきことではない。例えば、ユーザは、設定点、走査速度、比例利得、積分利得、駆動周波数、駆動振幅、他のパラメータなどの走査制御パラメータを調節する必要があり得る。高度の注意、相当な経験、時には少しの運が無いと、先端、カンチレバー、または試料損傷が発生する可能性があり、貧弱なまたは使用できない結果を得る可能性がある。すべてがうまく動作するように見える場合でも、動作上の非効率性が非常に大きくなる可能性があるので、走査時間は最適からかけ離れる。これは半導体産業などの高スループット応用では特に問題である。
今のところ、いくつかの手動選択された制御パラメータの任意の1つの値がその最適条件の合理的な範囲にまたはその中に無ければ、貧弱な性能と許容できないデータが恐らく生じることになる。加えて、いくつかのAFMパラメータ間に存在する比較的複雑な相互依存性はしばしば、最も経験豊かなAFMオペレータに対しても設定を試行錯誤手順にする。
AFM設定を行う際に、いくつかの制御パラメータの値は、異なる動作モードのフィードバックループ利得とこのような利得の設定が必要な他の場合のフィードバックループ利得と共に設定されなければならない。設定は、走査サイズ、ライン当たりの画素、走査線の数、走査速度、先端走査速度、デジタルアナログ(D/A)分解能、Z中心位置(すなわちZ中心電圧またはZピエゾ動作範囲の中心)、先端摩耗制御、試料損傷最小化などのパラメータを考慮し構成しなければならない。
AFMがTappingMode(商標)などの振動モードで動作するように設定されると、設定は振動に関連する振幅と設定点を選択するステップを含まなければならない。さらに、積分利得(I利得)と比例利得(P−利得)の初期値もまた手動で設定される。利得値を選択するステップは、利得値が通常、採用されている振動モードの特性、試料トポグラフィ、硬度、および/または粗さ、または試料および試料が置かれる媒体の任意の他の機械的特性などの要因、および他の要因に依存するので、手の込んだものになる可能性がある。例えば、利得が余りに低く設定される場合、システム応答は比較的遅くなる傾向があり、これにより先端が試料表面を追跡しない可能性がある。利得が余りに高く設定される場合、フィードバックループは発振または逆動作し始める可能性があり、これにより生成中の試料像にかなりの雑音を望ましくないほど加える可能性がある。
加えて、利得設定は当初素晴らしいかもしれないが、後でトポグラフィなどのいくつかの他の要因が変化すると結局不適となる。例えば、試料が比較的粗い場合、利得は通常、フィードバック発振雑音のいかなる増加も許容できるような高い特徴トポグラフィを撮像するために、より高く設定されなければならない。試料が比較的滑らかまたは平坦な場合、利得は雑音を最小にするために低く設定されなければならない。雑音を低利得で低く維持することにより、平坦領域のより良い解像度が達成され、これによりAFMにより細かい詳細をよりうまく撮像できるようにする。しかし、当該分野において理解されるように、過剰雑音は試料のより平坦な領域に沿った撮像に悪影響を与える可能性があり、当初高利得に設定することにより、試料が平らになると最終的に高過ぎることになる。逆に、初期の低利得設定はしばしば、試料のより高度な特徴の撮像を妨げ、このようなより高度な特徴が歪んだまたは紛失した像を生成する。
これらの設定考慮点は、最も高い使用可能利得が通常カンチレバー動力学に依存するので、TappingMode(商標)で動作する際にさらに問題となる。カンチレバー動力学は、自由空間タッピング振幅と設定点の関数であり、したがって利得の調整は特に初心者ユーザにとって非常に困難である。実際、カンチレバー動力学とZアクチュエータ応答速度などの要因は、初期設定点と利得を設定する際にこのような困難を生ずる可能性があり、オペレータはしばしば試料像が良好に見え始めるまで試行錯誤に頼る。
残念ながら、2つの要因は互いに影響を及ぼし合うので、試行錯誤が長い間続く可能性がある。例えば、設定点が下げられると利得をより高く設定することができ、またその逆も正しい。しかし、より低い利得はより低い設定点を使用できるようにし、通常、カンチレバー応答を増加させる一方で、誤差発生率も増加させ、走査中に生成される像を望ましくないほどぼかすまたはそうでなければ歪める可能性がある。
結局、頻繁に発生することは、オペレータがいくつかの初期パラメータ値、利得、設定点を設定し、次にフィードバック発振が生じるまでそれぞれの値を一つずつ手動で調節し、次に元に引き返すことである。この過程は経験豊かなAFMオペレータには合理的にうまく働き得るが、非効率的であり、時間がかかり、かつほとんどの場合最適ではない。加えて、この過程は、AFM撮像の力学的性質に対処することには役立たなく、しばしば、オペレータが動作中にいくつかの設定をオンザフライで変更する、または画像等を観察し、不十分に撮像された試料の部分に戻って調節されたパラメータ値により再走査する、のいずれかを必要とする。再度、この過程は極めて遅い可能性がある。
その結果、走査型プローブ顕微鏡の分野は、好ましくは使用しやすいだけでなく速い撮像速度も維持する一方で先端−試料相互作用により生成された力を最小限にすることができる幅広い試料の撮像と機械的特性測定のための「全自動(point and shoot)」解決策と呼び得るものを必要としている。
さらに、出力が平均化されしたがっていくつかの物理的特性測定を不可能にする(または最低限でも、非常に狭い相互作用領域において先端が動作できるようにするために小さなタッピング振幅と平坦な試料だけを極めて限定して使用する)タッピングモードを含む一般的なAFMモードの制限を考えると、広範囲の試料にわたって様々な物理的特性を測定する能力を提供できる解決策が望まれた。
好適な実施形態は、極低フォースでしかも走査速度を損なうことなく先端−試料離隔距離を制御するためにプローブ(先端)と試料間の相互作用力が監視され利用されるAFM動作のピークフォースタッピング(PFT)モードに向けられる。本明細書に記載の技術は、プローブ先端−試料力を低く維持することにより高解像度を提供し、試料表面の基本的に実時間の特性マッピングを実現する。好適な実施形態は本質的に安定であり、したがって高い完全性データ(改善された分解能)を捕捉する能力を維持する一方で長期的な力制御を容易にする。さらに、従来のTappingMode(商標)AFMとは異なり調整が必要無いので、AFM設定は他のAFMモードによるよりも速くかつより簡単である。PFTモードを駆動する重要な概念がグラフィック的に示され、本明細書で論述される。
実際には、瞬間的相互作用力を利用するAFM制御を実施することができる前に解決すべき3つの主要な課題があった。これらの課題は、1)結合による偏向バックグラウンドの適応化、2)基準線の決定、および3)本明細書で定義される瞬間的力の決定であった。
図2Aでは、プローブを試料に近付けそれから離す(例えば、プローブ−試料離隔距離を周期的に変調する駆動装置を使用して)変調のサイクルが期間Tにより表される。零位置(水平軸)は表面を表し、垂直軸は離隔距離である。プローブ−試料離隔距離が水平基準線を横切ると、先端は領域δΤ(先端−試料接触のウィンドウ)により表されるように試料と直接接触する。この領域に対応する相互作用力が図2Bにプロットされる。
図2Aおよび図2Bにおいて、Amaxは試料からの先端頂点の最大距離間隔、Fa_vdwはファンデルワールス付着力、Fa_maxは、先端と試料表面間の毛細管相互作用と付着仕事量による最大付着力である。斥力と付着力の両方は、図2Bに示すように基準線に対し計算される。本明細書で参照する力は、通常はピラミッド状である先端全体に働く力の合計であるということに注意すべきである。実際には、最頂点部は、力の合計が引力状態である間反発区域に入る可能性がある。この場合、フィードバックは依然として、たとえこの時点の力の合計が引力であっても、フィードバックのために所定の同期位置(以下に検討されるように定義された)における頂点反発相互作用力を利用することができる。これは、最頂点の原子と試料の原子または分子との間のパウリおよびイオン斥力から生じる頂点反発相互作用により制御が決定されるので、最も高い撮像分解能でもって最小相互作用力により動作するという利点を提供する。
カンチレバー偏向と先端−試料相互作用力とを区別することが重要である。先端−試料相互作用力を測定するためにカンチレバー偏向が利用されるが、すべての偏向が先端−試料相互作用力を表すとは限らない、すなわち、寄生力がカンチレバー偏向に寄与する。例えば、図2Cに示すように、カンチレバー偏向は時間の関数としてプロットされ、同図は実際の偏向データを表す。点「D」後の振動は、時間と共に減衰するカンチレバー自由共振による。この共振偏向は先端−表面相互作用により引き起こされなく、寄生的偏向寄与(通常、寄生的カンチレバーまたはプローブ運動に対応する)であると考えられる。点Eは、先端が試料と相互作用していない偏向の極大点を表す。データの「平らな」部分はまた、先端が試料と相互作用していないときに、通常は寄生力の機械的結合により引き起こされる偏向のより遅い変動を有する可能性がある。このような結合は、変調アクチュエータ自体による、および/または空気または流体からの制動力によるカンチレバー応答による可能性がある。これはまたレーザ干渉から生じる可能性がある。これらの寄生的影響はさらに、これに続く図に示される。
公知の力制御システムでは、制御は期間内に発生する最大力に基づく。したがって、斥力は、寄生力と区別されるとともに時系列的にフィードバックループにより使用される真の先端−試料相互作用の偏向に対する寄生的寄与のいかなるものより高くなければならない。この力区別要件は、先端および/または試料を損傷する可能性があるであろう比較的高い撮像力を必要とし、これによりシステムが高解像度を実現するのを妨げていた。
好適な実施形態では、RMSまたは一定の偏向は図3に従って決定される瞬間的相互作用力Fr_jで置換され、制御装置設定点は次式で表される。
δFr=Fr_j−Fbaseiine (式1)
Fbaseiineは、プローブが試料と接触していないときの相互作用力である。これは零でなければならない。AFMでは、力は通常、カンチレバー偏向により表される。この場合、Fbaseiineは先端が表面と相互作用していないときのカンチレバー偏向に対応する。Fr_jは、先端が表面と密着接触状態における相互作用力である。領域δΤ(図2A−2B)が斥力とその最大Fr_maxとに一致するように、各駆動期間の開始時刻をそろえるために同期アルゴリズムが使用される。期間の開始からFr_maxの発生までの時間は、高精度に決定および制御できる同期時間である(以下にさらに説明される)。同期時間距離(同期距離:Sync Distance)は、偏向応答と変調駆動信号間の位相遅れを測定することにより決定することができる。同期距離が決定されると(プローブがxy方向で静止していると)、同じ同期距離がすべてのxyラスタ走査位置全体にわたって使用される。撮像中、フィードバックは、Fr_iの値が同期距離により決定される間Fr_jをほぼ一定に維持するように動作する。同期距離はまた、変調期間の開始から相互作用の瞬間までの距離として一般化することができるということに留意されたい。
同期する距離すなわち同期距離は精密に制御することができる。例えば、先端振動周期Tが100μsならば、同期する距離が48μsであると、48番目のμsで発生する相互作用力がフィードバック制御パラメータとして使用されることになる。フィードバックループは、期間の開始から48番目のμsにおいて瞬間的相互作用力Fr_j(i=48μs)を維持しようとする。より一般的な応用では、相互作用領域δΤ内の相互作用力の任意の点をフィードバックに使用することができる。δΤはまた、Fa_vdwの領域(ファンデルワールス引力領域)とFa_maxの領域(毛細管付着領域)とを含むように図2Bの印の付いた領域を越えて拡大することができる。毛細管付着領域はまた、官能化プローブにより誘発される結合力と試料上の特定の結合とによる付着相互作用になる可能性がある。
基準線の正確な測定を実現するために、先端が試料と相互作用していないときの多くの偏向データ点が収集され、平均基準線レベルを生成するために使用される。再び、非相互作用領域(最大離隔距離/最も高い距離)は、この領域がピーク力位置後の変調期間の約半サイクルでなければならないので、同期距離により決定することができる。同期距離はまた、フィードバック力動作点を決定し、実際の力はδFrにより測定され、δFrは負または正のいずれかである可能性がある。
偏向信号に対する(例えば、熱的)ドリフトの悪影響により、対応する力Fr_jは時間とともに変化し得る。相対的力δFr(基準線決定に対する)は先端−表面相互作用のより正確な反映であるので、これがFr_jの代わりにフィードバック制御に使用されることが好ましい。この相対値は、カンチレバー偏向に対するシステムドリフトによる悪影響を取り除く。
δFrはまた、フィードバックループによる制御可能な力を表すので、δFrは、先端が試料全体にわたって走査する期間中様々な位置において一定のままである。
図4A〜4Cでは、試料表面と相互作用する際のカンチレバー応答は、先端−表面相互作用力とバックグラウンド結合との混合である。このような応答が「オリジナル」として図4Aに概略的に提示されている。実際の先端−試料相互作用力は、Fr_j部分(図4Cに示される)においてだけ存在するが、寄生的カンチレバーまたはプローブ運動のバックグラウンド内に埋もれている。オリジナルデータ(例えば相互作用力と寄生力の両方によるものを含むプローブ運動)からバックグラウンドを減じることにより、相互作用力の大きさを得ることができる。図4Bのように示されたバックグラウンドは、AFMシステムからの共振の機械的結合、および/または空気と流体などのその環境媒体に対するカンチレバー応答により引き起される可能性がある。バックグラウンドはまた、カンチレバーが試料に対して移動するとレーザ干渉により誘発される可能性がある。バックグラウンドの一般的な特徴は、先端が試料と相互作用していないときでも、周期的変化を表すカンチレバー偏向が先端軌跡と同様であるということである。成功したバックグラウンド実験データの減算を図5A〜5Cに示す。
より具体的には、図5Aは、元のプローブ偏向対時間の概略図を示す。既に述べたように、プローブの偏向は、先端−試料相互作用を制御するために使用され得る寄生源により大きく影響を受ける。示されるように、本明細書では例えば「流体力学的バックグラウンド」またはより一般的な用語では寄生力と呼ぶこれらの周期的寄生的偏向は、低周波信号により表される。これらの寄生力(流体力学的力、流体抵抗と空気、オフ軸運動、レーザ干渉、プローブが試料と相互作用していないときに発生する任意の他の周期的運動を含む)によるプローブ偏向への寄与は大きい。好適な実施形態において制御信号として使用されるべき実際の先端−試料相互作用力は寄生的バックグラウンド信号(図5B)上に重畳されるので、実際の先端−試料相互作用力を検出することは挑戦となる可能性がある。別の言い方をすれば、最小制御可能フォースは、プローブ偏向へのバックグラウンド寄与(約1000マイクロニュートン未満〜10ピコニュートン未満の範囲の最小制御可能ForceOLDとして図5Aに示す)により決定される。特に、いつものことであるが、偏向への寄生力寄与と先端−試料相互作用力による偏向への寄与との両方に比べて低い振幅を有する雑音信号「N」が存在する。
図5Bと図5Cとを参照をすると、本発明の好適な実施形態に対する1つの重要な概念は、既に述べたように、偏向信号からの寄生的バックグラウンド信号(図5B)の減算であり、これにより最小制御可能フォースを低くする。バックグラウンド信号は、プローブが試料と相互作用しない(すなわち寄生力だけが、検出されたプローブの偏向に寄与する)ように、先端−試料離隔距離を制御距離まで十分に増加させることにより決定される。制御距離は通常、100nm(これより短い可能性があるが)を越え、理想的には長距離相互作用力がプローブ偏向に寄与しない距離である。図5Cに示すように、寄生的バックグラウンドを減じた後の偏向への先端−試料相互作用力寄与は、先端−試料相互作用に関連する明確なピークを有する偏向信号を描写する。特に、非周期的雑音は常に存在し、この場合、図5Cに示すような最小制御可能フォース(最小制御可能ForceNEW)を決定することになる。0.01N/mのばね定数と100μmのカンチレバー長を有する非常に柔らかいカンチレバーに関しては、この力は約1pNである可能性がある。
寄生的バックグラウンドの減算を行う際に採用可能な最小制御可能フォースは著しく(例えば3桁の大きさ分)小さくされ、プローブ−試料相互作用力がpN範囲まで低減されるように好適な実施形態が先端−試料離隔距離を制御できるようにするということが明らかになる。この減算がハードウェアで実現され得るやり方については図10に関して以下にさらに説明される。
全体として、それは主には、このような低フォースを検出してこのような力をSPMフィードバックループにおける制御パラメータとして利用する能力であって、本発明に従って動作するSPMが本明細書では「瞬間的力制御」と呼ばれるものを利用して試料を撮像できるようにする能力である。実時間力検出を利用する瞬間的力制御は、改善された制御を提示し、したがって画像解像度を改良し、試料損傷の機会を最小限にする。この文脈では、実時間または瞬間的力検出は、基本的に、例えば図3に示された変化する力の各点が好適な実施形態により検出され、SPM動作を瞬間的に制御するために使用されることができる、ということを示唆する。換言すれば、プローブと試料間の相互作用の各サイクル中[または両者間の離隔距離の変調(すなわち、力曲線変調)の各サイクル中]のプローブ−試料相互作用によるプローブに作用する変化する力が検出され、実時間で試料を撮像するためにAFMにより利用され得る。この瞬間的力制御は、プローブ−試料離隔距離の変調の1サイクルであろう期間内の任意の相互作用点においてAFM制御を与えるために利用される。制御はいかなるサイクルの変調の完了にも先立って(次の接近に先立って)与えられるので、フィードバック遅延は著しく低減される。これについては図12A、12B、12Cに関連してさらに示される。
ピークフォースタッピング制御におけるさらに別の利点は、カンチレバー共振周波数の近傍でピークフォースタッピング制御を動作させる必要が無いことである。このような動作は、過渡的共振応答によるカンチレバー遅延をほぼ無くすことができ、瞬間相互作用制御を可能にする。
次に図6を参照すると、好適な実施形態はまた、AFMが、零力点を素早く抽出するために力曲線の基準線平均化を行うことにより高速度で動作できるようにし、システムが、プローブを少ない時間遅延で試料と相互作用させるようにすることができる。図2Cにより表された従来技術とは対照的に、AFMの変調周波数は、システムが撮像システムを安定させるためにプローブ「リングダウン」が完了する(先端が試料表面から飛び離れた後、プローブ振動が約1/eまで減衰する)まで待ってプローブ−試料相互作用を再設定するという必要要件により制限されない。リングダウンに必要な時間は、Q/fに比例するカンチレバー動力学により決定される。ここでQはカンチレバーの品質係数であり、fはカンチレバー共振周波数である。従来から使用されるカンチレバーが安定するには通常数十ミリ秒かかる。好適な実施形態では、図6に示すように、リングダウンすると、カンチレバー共振周波数の数サイクルは、零力点(すなわち休止時基準線位置)をほぼ実時間で決定するために平均化され、システムが、図2Cに示されたシステムよりはるかに早くプローブを試料と相互作用させるようにできるようにする。実際、リングダウン後のカンチレバー共振周波数の1サイクルでも平均化することにより、零点(基準線)の頑強な推定を実現することができる。その結果、変調周波数を、システム安定性を妥協することなく著しく増加することができる。さらに、当然、より速く動作するという付加的利点がシステム内の雑音の影響を低減する。
非常に敏感な力検出を伴う測定については、非常に柔らかいカンチレバー(ばね定数0.01N/m〜0.3N/m)が通常使用される。これらのカンチレバーはより低い共振周波数と非常に長いリングダウン時間を有する。より重要なことには、付着誘発振動(接触からの急な抜け出し(snap out of contact))は図6Cに示すようにはるかに強い。図6Cでは、柔らかいカンチレバーの偏向応答が時間の関数としてプロットされる。先端軌跡も位置基準としてプロットされる(図6B)。図から分かるように、カンチレバーの寄生振動は相互作用力をはるかに上回り、制御を基本的に不可能にする。本発明の以前は、ユーザは、安定した制御を有するために、Fr_jがフィードバックの唯一の最大値になるように振動が消えるのに十分長く待たなければならなかったであろう。カンチレバーがより敏感になるので、リングダウンを待つことで禁止的な時間がかかるようになる。本発明の好適な実施形態は、プローブと試料間の最近接位置への同期的位置合わせにより相互作用区域と非相互作用区域を分離することにより基準線を決定する。「相互作用区域」に対応する領域は、同期マーカー(各サイクルの始めの基準トリガ信号)を介しロックされる。この領域内のいかなる偏向点も定常状態相互作用制御のフィードバックパラメータとして使用することができる。相互作用区域外のすべての偏向データは一定値に平均化され、図3におけるδFrを計算するための基準線として使用される。基準線検出と同期制御の組み合わせにより、相対的力δFrを瞬間的に正確に決定し制御することができる。このような制御により、図6Cに示すようにFr_iを寄生偏向よりずっと下にすることができる。
定常状態は再び、一定の最大力または一定の最小力、またはプローブ/試料相対運動の各サイクル内の相互作用力カーブ形状の特徴の組み合わせを意味する。
本技術の別の主要な利点は高振幅振動データにより基準線を決定する能力である。カンチレバーの共振周波数は知られているので、別の実施形態では、平均値は、カンチレバー共振周波数のサイクルの整数倍を解析することにより非相互作用区域内において決定することができる。整数サイクル平均化は振動偏向データを効果的に取り除くことができ、一定な基準線を生成する。
特に、カンチレバー共振周波数はまた、周波数掃引と熱的調整などの公知の技術により判断することができる。
次に図7と図8Aと8Bを参照すると、好適な実施形態はまた、本明細書では「ゲートされた平均斥力制御(gated average repulsive force control)」と呼ぶものを採用する。図7に、AFM動作時の一系列の相互作用期間を含むプローブ偏向を概略的に示す。制御パラメータとして力を利用する従来の制御技術は、先端−試料相互作用の全サイクルにわたって力の合計を平均化し、力設定点との比較のためのRMS値を生成する。当該技術において理解されるように、力曲線により示される力は複雑である。斥力と引力の両方は上述のように1サイクル中にプローブ先端に働く。例えば、斥力を打ち消す傾向がある引力部分(図2CのC〜D)を含むことにより、力感度と撮像解像度はほとんどの場合低下する。
図8Aと図8Bを参照すると、ゲートされた平均斥力制御が示される。この実施形態では、図8Bに示すようなシステム同期信号が、力曲線の引力部分を除くことにより、力曲線(偏向曲線の影を付けた部分「A」により示される)の斥力部分(図2CのB〜C)を「ゲートする」ために使用される。力曲線の斥力部分に基づき先端−試料離隔距離を制御することにより、力感度と撮像解像度は曲線の引力部分の悪影響を低減することに起因して増加される(すなわち、引力相互作用力は、長距離相互作用力したがってより大きな領域にわたる感知相互作用であり、より低い解像度をもたらす)。さらに、ゲートはゲートされた平均化を行う際の雑音を除くように動作する。また、同期信号は、斥力領域だけが利用されるように時間調節される。このような動作は、図3に関連して示され説明されたように所定の同期位置においてゲートを使用することにより保証される。
上記議論をさらに進めると、図9Aと9Bに示すように、同期平均化はまた、信号対雑音比をさらに改良ししたがってほぼ零力点における制御を最終的に提供するために採用することができる。他の先端−試料偏向例示と同様な図9Aは、先端が試料と相互作用するときのプローブの偏向の数サイクルを示す。既に述べたように、雑音信号はこれらのタイプのSPM/AFM測定を行う際に常に存在する。偏向信号と図9Bに示されるものなどの対応する同期信号とを組み合わせることにより、偏向の同期平均化は行われる。その結果、雑音の影響は次式に従って著しく低減される。
ここでDjは第i番目のサイクルのデータを表す。√Nの係数だけ改良された信号対雑音比を有し、これにより最小制御可能フォースを低減した(狭いロックイン帯域幅を利用することができる)平均信号を、図9Cに示す。
次に図10を参照すると、PFTモードで動作可能なAFM100は、プローブホルダ108に搭載されるとともに先端106を支持するカンチレバー104を有するプローブ102を含む。この場合、先端−試料離隔距離は、これによりプローブホルダ108に結合されたアクチュエータ112(例えばXYZ圧電チューブ)により変調される。しかし、好適な実施形態は試料をZ軸方向に動かすことにより先端−試料離隔距離を変調するようなAFM計測器に適用可能であるということを理解すべきである。
動作中、プローブ偏向は、光ビーム「L」をプローブの裏側から四象限光検出器などの検出器114に向かって反射させることにより測定される。次に、偏向信号はアナログ−デジタル変換器103に送信される。AFMを高速度で動作させる一方で低い先端−試料力を維持するためにデジタル化信号が使用される。
図10に示す実施形態では、先端−試料相互作用の無いプローブ偏向はバックグラウンド生成器105に送信される。バックグラウンド生成器は、先端と試料が相互作用していないときにバックグラウンド信号に対応する周期的波形を生成することになる。この波形は、その振幅と位相がロックイン増幅器により決定され、その入力がバックグラウンド信号であるDDS(直接デジタル合成((Direct Digital Synthesis)機能生成器)により生成することができる。この波形はまた、同期信号の助けを借りて多くのサイクルのバックグラウンドを同期的に平均化することにより生成することができる。比較器回路120は、寄生的バックグラウンド(図4Cと図5C)と無関係の先端−試料相互作用力を表す信号を生成するようにバックグラウンド信号を減じることにより全偏向信号を処理する。(なお、アナログまたはデジタル回路について説明し得るが、本動作は任意の従来のアナログまたはデジタル回路において行われ得るということが理解される。但し、好適な実施形態は本発明を実施するためにFPGAアーキテクチャを利用する)。この信号は次に、カンチレバーの処理されたリングダウン振動を所定数のサイクルに制限するために、減算後偏向誤差を処理するデジタルフィルタ122に通される。フィルタ処理済み信号は、信号対雑音比をさらに向上するために同期平均化回路123に送信される。同期の助けを借りて非相互作用領域内のデータを平均化することにより、基準線は基準線平均化回路124により決定される。比較器回路125は、カンチレバーDCドリフトの無い先端−試料相互作用力を表す信号を生成するように基準線信号を減じることにより全偏向信号を処理する。この信号はさらに力検出器126に送信される。
同期距離計算機135は、偏向と、時間遅延の形式で駆動および同期制御を提供するZ変調DDS(ブロック127)と、の間の位相ずれを判断する。ピーク力または斥力ゲート位置生成器129は、同期マーカと同期時間距離の助けを借りて力検出器126のタイミング信号を生成する。力検出器126は、反発ピーク力または図8Aに示されたゲートされた領域内の平均斥力のいずれかを特定することにより加算回路125の出力を解析する。また、力検出器126をこのように動作させることにより、力曲線の選択された部分(例えば斥力領域)に力制御をトリガでき、試料と先端間の引力の影響を低減することにより高感度を実現する。さらに、信号対雑音比は検出器126のゲートから雑音を除くことにより改良される。ゲートされた斥力は次に、適切な設定点と比較され(ブロック128)、誤差信号が生成され、制御ブロック(例えばPI制御装置130)に送信される。次に、制御信号はアナログに変換され(変換器132)、同期信号が変換器136によりアナログに変換された後にブロック127からの同期信号と組み合わせるために加算回路134に送信される。次に、加算回路134の出力は、先端と試料間のほぼ安定状態の相互作用を維持するようにz位置(この場合は、プローブ)を駆動するためのZピエゾ112に印加される。対応する動作方法については、図13に関連して以下にさらに詳細に説明される。
図11を参照すると、PFTモードに従ってAFMを動作させる方法300が示される。設定および初期化ブロック302(調整は必要無い)後、プローブは振動状態に駆動され、試料に係合(エンゲージ)される。好ましくは、ブロック304では、プローブと試料間の相対的XY運動(走査)が開始される。
次に、プローブの運動が検出される。具体的には、プローブ偏向が検出され、さらなる処理のために変換器に送信される。ブロック306では、本方法は次に、ロックイン増幅またはより好適には偏向の同期平均いずれかを利用することにより好ましくは流体力学的バックグラウンド減算を行って、上述のようにプローブ−試料相互作用を取り出すように動作する。ブロック308において出力をフィルタ処理した(例えば処理すべき特定サイクル数のリングダウンを選択した)後、本方法は、ブロック310において、好ましくは力曲線の反発領域を利用して力を検出(ピーク力検出/ゲートされた平均化)する。ブロック312では、次に、力は、ユーザの所望の相互作用力に従って設定された設定点力と比較される。ブロック316において、Zアクチュエータは先端−試料離隔距離を調節し設定点力を維持するように制御信号に応答する。ここでは、制御信号は試料の像を生成するために使用される。
図12A〜図12Cを参照すると、瞬間的力フィードバックを提供する好適な実施形態の能力の図解が示される。図12Aでは、いくつかの概略の力対時間曲線が異なるピーク斥力と共に示される。特に、相互作用QとSは設定点により定義された閾値力を越え、一方相互作用Rは設定点未満のピーク斥力を示す。フィードバック誤差が、従来技術の力フィードバックシステムの図12Bに示すように図示される。より詳細には、斥力が設定点を越えると、最初の相互作用に対しXにおいてピーク斥力をマッピングする前に遅延「d」が示される。これは、斥力が設定点を越え始めた点後しばらくしてフィードバック誤差が設定されないSと標記された相互作用に関し同様である。
それと反対に、図12Cに示すように、好ましくは同期平均化と組み合わせて、寄生バックグラウンド減算、基準線平均化とゲートされた平均、斥力制御を含む上に論述されたPFTモードの特徴に起因するより少ないフィードバック遅延を所与として、設定点より大きな任意の力に対する応答はほぼ瞬間的に検出される。設定点より上の力を素早く特定することができることにより、先端−試料相互作用に対応する力を最小限にすることができ、これにより、高速度および高解像度でのAFM動作という意味で著しい利点を提供する。これは、試料表面変化が応答時間および/または解像度を制限する可能性がある粗い試料に特に当てはまる。
アルゴリズム
バックグラウンドの正確な減算を保証するために、図13と図14に示すような2つの方式が開発された。
図13には、カンチレバー偏向バックグラウンド(偏向に対する寄生的寄与)の減算のアルゴリズム400が示される。ブロック402と404は、設定時のユーザ選択に従って、表面上に反発インパルス相互作用が存在しないように先端が試料から十分に遠くにある(例えば30nm)ことを保証する。ブロック406はいくつかの下位ステップを含む。AFMシステムは、複数のサイクルの間カンチレバー偏向データをサンプリングし、それぞれが期間Tを有する複数セグメントにデータをデジタル化する。AFM方法は、データの各セグメントを期間Tの開始に合わせ、次に、データを平均化する。次に、方法400は期間T中のバックグラウンドとして平均セグメントデータを使用する。ブロック408は、例えばFPGAプロセッサを使用することにより、各期間Tの測定データから、ブロック406から得られたバックグラウンドを減じるように動作する。ブロック408はフィードバックのためにバックグラウンド補正データを使用する。
図14には、バックグラウンド偏向を減じるための別のアルゴリズム500が示される。持ち上げ高さを計算するブロック502と先端をzフィードバックオフで持ち上げるブロック504は、先端が試料と相互作用しないことを保証するために使用される。ブロック506は、カンチレバープローブを動かす駆動信号を基準として、カンチレバー偏向データをロックイン入力として、ロックイン増幅器を使用する。ブロック508では、ロックインから得られた振幅と位相データが正弦波信号を構築するために使用され、この信号は調節され、偏向が一定(雑音限界内)になるまで、偏向データを減じるために使用される。実時間減算はブロック510において行われる。十分な減算が達成される(先端が表面と相互作用していないときの一定の偏向を利用して判断される)と、AFMはブロック512においてバックグラウンド補正データをフィードバックのために使用することができる。
図13と図14に従って計算されたバックグラウンドは、プローブが試料表面に近づくにつれ大きく変化する。このような変動は試料表面距離に対するプローブの関数として流体力学的力により引き起こされる。このような変動はまた、プローブが試料と実際に相互作用する前の試料に対するプローブの密接度の指標として役立つ可能性がある。この知識により、電動式係合(motorized engaging)は、予め定義されたバックグラウンド値に達するまで高速で進行することができ、次に、遅い係合ステップを行うことができる。
バックグラウンド減算はまた、図15と図16に示すように、プローブと試料表面との係合中に実行されることが好ましい。
2つの係合方法間の差異は、試料表面を検出するためにプローブを試料に向かって駆動するためだけに、図15の「通常の」係合600がステップモータを使用するというである。但し、図16は、本方法700が試料表面を探索する時に各モータステップにおいてZピエゾによりプローブを動かす「ソーイング」係合を示す。最初に図15を参照すると、方法600は最初にブロック602に進み、モータは例えば0.1mm〜約3マイクロメートルの固定ステップに従って先端−試料離隔距離を低減する。フィードバック制御をオンにした(本技術による力検出)状態で、フィードバックループは先端を動かす(この場合ブロック604では試料の方へ)ためにアクチュエータを制御する。ブロック606では、本アルゴリズムは、表面が検出されたかどうか(すなわち、閾値設定点力に到達したかどうか)を判断する。そうでなければ、図5に関連して上述したようなバックグラウンド減算が、ブロック602においてモータをさらにステップさせることに先立って行われる。そうならば、フィードバックは解放されて、持ち上げ高さは、ピーク力と最大負付着力位置との間のz移動量を計算し一定のマージン(例えば10nm)を加えることにより計算され、ブロック610において先端を上昇することができる(例えば衝突の機会を最小限にするために)。その後、ブロック612ではバックグラウンド減算が行われ、ブロック614において本技術によるフィードバック制御が再び開始される。
図16では、ブロック708、712、714、716が図15のアルゴリズム600のブロック606、610、612、614に直接対応する。但し、表面を検出する前に、当該技術領域で公知のソーイング係合が、ブロック704においてモータをステップダウンさせる前にブロック702において先端を持ち上げるために採用される。この場合、その揚力はモータステップの1.5倍である。揚力の量は試料等のタイプに基づきユーザ選択され得る。その後、ブロック706において、本技術に従って力を検出するためにフィードバックはオンにされる。表面が検出されなければ、アルゴリズム700はブロック702において別の持ち上げを行う前にブロック710においてバックグラウンド減算(ブロック608と同様な)を行う。表面が検出されると、ブロック716においてSPMは試料を撮像することができる。
図17は、先端−試料相互作用の実際の状況を示し、図6に関連した上記論述に補足的論述を与える。実際の先端−試料相互作用は同期距離マーカの近傍でだけ発生する。相互作用自由領域では、付着力の中断によるカンチレバーの残留自励振動が存在する(別名、リングダウン)。このような振動は基準線変動を引き起こし、図3に示すδFrと同じ変動をもたらす。このような変動は制御装置雑音になる。基準線変動を最小限にするために、「基準線平均」領域内のデータのように印の付いたデータは平均され、破線により表される単一定数になる。この定数データは、各フィードバックサイクル内のδFrを計算する際の基準線として使用される。「基準線平均」の領域はデータ品質に応じて変化する可能性がある。これは、ほぼ同期距離で発生する実際の先端−試料相互作用を平均化することを避けるために同期距離より短い必要がある。
瞬間的相互作用力は、Fr_iが同期距離における瞬時値である可能性がある式(1)により計算される力δFrを使用することにより決定することができる。図18に示すように、それはまた、ゲートされた平均を通して決定される値である可能性がある(また図7と図8A/8Bを参照)。ゲート平均方式は時間区域δt内の偏向値を使用し、この時間区域内のすべてのデータ点を平均化する。そうすることで信号対雑音比を大幅に改良することができる。Fr_iはフィードバック制御における設定点として機能する。これは、負のδFrを生じる値から高い正のδFrを生じる値まで変化する可能性がある。δFrの高い正の数は、試料とのより強い反発相互作用を意味する。
図19に、ピークフォースタッピング(PFT)撮像に使用される瞬間的力制御の手順800を示す。ブロック802において、アクチュエータはプローブまたは試料を振動させ、0.1nm〜3μmの範囲のピークトゥピーク振幅を有する相対運動を生成する。この時点で、先端は、試料から比較的遠く離れており、ブロック804と806において基準線とバックグラウンドを決定することができる。バックグラウンドが決定されると、バックグラウンドはまた、最小検知可能フォースができるだけ小さいことを保証するために、ブロック806において、検出された偏向から減算される。図15と図16において詳述されたように、ブロック808は係合によりプローブと試料を相互作用させるように動作する。試料がプローブと相互作用すると、ブロック810において、期間T内の偏向データは、同期距離(図18)、瞬間的力Fr_i、相対的力δFrを解析するためにサンプリングされデジタル化される。基準線とバックグラウンドは、このブロックにおいて図14に従って再検査されることができる。
次に、ブロック812において、δFrとFr_iを事前設定値に維持するためにフィードバックが利用される。XY走査器もまた使用可能にされ(ブロック814)、試料に対してプローブを再配置し、例えば弾性、付着、エネルギー散逸を示す1つまたは複数の機械的像だけでなくトポグラフィック像も最終的に生成する。
図20では、図20Aの測定時間分解曲線(measurement time resolved curve)は図20Bの実空間データに変換される。より詳細には、図20Aは、一変調期間内の時間の関数としての相互作用力のプロットである。図20Bは、一変調期間内の先端−試料距離の関数としての相互作用力である。材料の弾性特性は、例えばOliver−Pharrモデルまたは別の機械的接触モデル(Oliver W C and Pharr G M 2004「計装化インデンテーションによる硬さと弾性率の測定(Measurement of Hardness and Elastic Modulus by Instrumented Indentation)」とJ.Mater.Res.19 2004年3月20日「方法論に対する理解と精密化の進歩Advances in Understanding and Refinements to Methodology)」を参照)を使用して、傾斜の上部(図20BのセグメントDE参照。セグメントCDEは短距離反発相互作用を示す)を使用することにより従来通りに計算することができる。ファンデルワールス引力は接近曲線(図20Aと図20BのセグメントBC)から決定することができ、一方先端が試料から離れるときに発生する毛細管付着も計算することができる(例えばStifterらの「走査型力顕微鏡における毛細管およびファンデルワールス力の距離依存性の理論的研究」、フィジカルレビューB、第62巻、第20番、2000年11月15日(“Theoretical Investigation of the Distance Dependence of Capillary and Van der Waals forces in Scanning Force Microscopy”,Stifter et al.,Physical Review B,Vol.62 No.20,11/15/2000)参照、)。先端をxy面内で動かし、これらの測定を繰り返すことにより、弾性、ファンデルワールス付着、毛細管付着(セグメントEFは引力と毛細管力に対応する)などの試料特性を全試料表面またはその一部に対し撮像することができる。さらに、接近曲線と回復(逸脱)曲線(retrieving(departing)curve)との差から、試料の硬度も撮像することができる。
図20Bは、2つのタイプのデータ、すなわち直接測定データと派生データを表す。直接測定データは、各サイクル内で瞬間的に決定される相互作用力などのパラメータである。派生データは、曲線の任意の部分からの各相互作用サイクル内の計算データである。このようなデータは、図20Bの点Cから点Dへの侵入深さにより計算される変形である可能性がある。別の例は、接近曲線(BCD)と離脱曲線(EFG)において囲まれた領域により定義される損失エネルギーである。さらに別の例は、図20BのBとFとの差によって計算される付着力である。派生データの任意のものをフィードバック制御パラメータとして使用することができる。例えば、変形がフィードバックパラメータとして選択されると、図1の制御ループは、一定のピーク力の代わりに一定の変形に基づき像を生成することになる。任意の他の派生データが、フィードバックループにおいて同じ目的を果たすことができる。
瞬間的力制御型撮像の重要な1つの応用は深い溝測定にある。TappingMode(商標)AFMが深い溝(約3:1以上のアスペクト比、撮像するのが最も困難な溝はサブ100nm幅(通常は、10nm〜100nm)を有する)を撮像するために使用されると、側壁における強い引力が振幅変化を引き起こす可能性があり、誤った溝深さを測定することになる。フィードバックとして直接斥力を利用することにより、フィードバックは、先端が試料に接触しているときだけz変化に応答する。その結果、力制御フィードバックは、TappingMode(商標)AFMよりさらに確実に深い溝を測定することができる。図21Aと図21Bは、この測定の実証を与える。測定は同じ試料位置において同じプローブと試料を使用する。瞬間的力制御フィードバックループは、溝の底に達する先端により実際の溝深さ測定結果を与えることができた(図21B)。一方、TappingMode(商標)AFMは、先端を早まって動かしたので、はるかに浅い深さ測定結果を生じ、溝の底は測定されなかった(図21A)。
図22A/22Bと図23A/23Bを最後に参照して、本発明の追加機能について説明する。図22Aと図22Bでは、AFMは、先端−試料相互作用が常に斥力区域(小さな振幅斥力モード)内に(すなわち、表面から数ナノメートル離れて)留まることを確実にするに十分な小さな(例えばサブナノメートル)振幅においてZを変調するように操作される。これは、ピークトゥピーク力差(ピークトゥピークZ変調に対応するFa−Fb)またはロックイン増幅器の振幅出力のいずれかをフィードバックとして使用することにより達成される。フィードバックパラメータは、振幅が十分に小さければ(この場合、力勾配は線形である)、斥力勾配に比例する。この場合、フィードバックは、短距離化学結合力(原子分解能に対応する力)にだけ敏感である。その結果、本技術は高解像度撮像に理想的である。
図23Aと図23Bには、図22A/22Bに示されたものと同様な配置が示されるが、力曲線の引力部分が採用される(小さな振幅引力モード)。この場合、システムは、先端−試料相互作用が引力区域に常に留まることを確実にするのに十分に小さい振幅でZを変調する。また、力勾配が線形となるように振幅が十分に小さければフィードバックパラメータは引力勾配に比例するということを所与として、単純なピークトゥピーク力差(Fa−Fb)またはロックイン増幅器の振幅出力のいずれかをフィードバックとして使用することができる。この技術は、先端が試料と接触しないので試料に対する破壊性が最も小さい。小さな振幅斥力モードと比較して、フィードバック極性は反転される。
利点−PFTモード
要するに、PFTモードAFM動作の利点は多い。本質的に安定な長期力制御を仮定すると、TappingMode(商標)速度で、ドリフトの無い試料撮像を高さ、剛性、付着、弾性および可塑性機械的特性測定と同時に実現することができる。本技術はDCドリフトにより影響を受けない(PFTモードはそれ自体の基準を数100マイクロ秒毎に生成する)ので、安定動作は専門オペレータ無しでも損なわれない。これにより、SPMが、像完全性を実質的に損なうことなく、何時間さらには何日もの間(大きな試料・長時間)実行できるようにする。結晶成長とポリマー相転移監視のように数分または数時間かかる可能性があるインプロセス測定に特に役立つ。特に、ピークフォースタッピング像は、2kHzを超える動作帯域幅で生成することができる。そもそもカンチレバー動力学が速度を制御する(例えば、カンチレバー動力学が安定し、共振に戻るのに少なくとも数ミリ秒かかる(振幅誤差が大きければ大きいほどより遅くなる))ので、タッピングモード帯域幅は約1kHzである。開示された実施形態はまた、弾性、付着、エネルギー散逸等を独立に測定するので位相解釈問題を無くすことができる。これらすべての係数は、カンチレバー振動の位相に寄与する。
さらに、PFTモードは、一旦プローブが試料から離れるとカンチレバーリングダウンの完了を待つ必要が無いので、カンチレバー動力学に対する感度は低い。これは、真空中の高速度撮像を可能にし、またカンチレバー選択肢内の任意の選択を可能にする。この差は数桁にわたる相互作用力のマッピングを可能にし、一方、アーティファクトの無い細胞像を生成するために斥力解像度を使用することができる。
PFTモードがプローブの共振周波数で動作する必要が無いということは、流体中で撮像する際に大きな利点がある。流体中の様々な寄生結合力により、カンチレバー調整は流体像を得る際の重要な課題である。PFTモードは、カンチレバーを調整する(基準線平均化、バックグラウンド減算等)必要性を完全に取り除く。さらに、力制御の範囲と、はるかに広いばね定数範囲(通常、TappingMode AFMだけに対しては0.3N/mより大きい範囲、一方PFTモードは0.01N/m程度の低いばね定数を有するカンチレバーを使用することができる)を有するカンチレバーを使用する能力は、生体試料撮像のためのさらに大きな余裕を撮像制御に与える。
再び、これは、PFTモードが、毛細管付着力を克服するために、カンチレバー内に蓄積された振動エネルギーに依存しないということによる。本技術は外部駆動要素(フィードバック回路の、好ましくはピーク力をトリガする)を利用するので、毛細管力を克服するための機構は、カンチレバー自体の静的弾性エネルギー(振動するプローブの運動エネルギーにより供給される)が、毛細管力を克服する際に先端を試料から引き離すTappingModeのものよりはるかに強力である。その結果、毛細管層の存在下で安定に動作するための片持ちばね定数に対する制限は事実上無い。したがって、PFTモードは、少なくとも0.01N/m程度の低いばね定数を有するカンチレバーを使用することにより安定したタッピング制御動作を可能にする。
ピークフォースタッピング制御のさらに別の利点は、AFM動作の一モードにおいて0.01N/m〜1000N/mのカンチレバーを使用する能力である。それは、弾性係数10kPa〜100GPaにわたる単一計測器上の最も広い範囲の材料の高分解能機械的特性マッピングを可能にする。
加えて、ほぼ瞬間的な力フィードバックを考えれば、先端衝突は事実上無くせる。また、偏向は流体力学的に補正されるので、調整は通常必要が無く、したがって、事実上任意のユーザにより、速い準備と設定がなされる。
既存のAFM動作のモードと比較すると、低平均追跡力と組み合わせたPFTモードにより提供される低フォース高速撮像と、先端への横力の事実上の削除は、多種多様の試料にわたる高速度撮像において著しい進歩を与える。例えば、流体中の狭いDNA(例えば2nm幅DNA)試料だけでなく単一分子弾性も測定することができる。比較すると、流体中のDNAを撮像する際、TappingMode AFMは少なくとも2nm低い解像度を有する。さらに、TappingMode AFMは特性定量化能力を有しなく主として相対的機械的特性測定(例えば位相画像内のコントラストを見ることにより)を行うことができるだけであるので、流体中のDNA剛性を測定することはTappingMode AFMでは挑戦的である。本技術により、分子レベルまでの特性測定を実現することができる。
結局、PFTモードは、先端および/または試料を損傷することなく、TappingMode AFMで捕捉されるものと同程度に良好なデータまたはそれより良好なデータ(解像度(例えば、横方向に100nm未満、より好適には約1nm未満)等)を捕捉することができる。本技術は、他の公知の力フィードバック技術を上回る著しい速度改善を提供し、小さなレバーを利用する必要無くそのようにする。実際には、かなり大きなレバー(>60μm長)を、レバー応答が所謂小さなカンチレバー(>10kHz)を使用する際に実現可能なものをはるかに上回る帯域幅を有するように、PFTモードにおいてサブ共振で動作させることができる。
当然、この好適な実施形態の追加の利点は、像が通常のTappingMode AFM像を上回る情報を提供するように、力曲線がすべての画素に関し生成されるということである。すべての画素により、ユーザは、剛性、付着、弾性、可塑性等に関する定量的情報を得ることができる。また、基準線先端−試料離隔距離はすべての画素について再度零にされるので、ドリフトは生産性と像信頼性において大きな改善が達成されるように最小限にされる。
概説すると、本PFTモードは、実時間特性マッピング(すなわち瞬間的力制御)を使用することにより非常に高い分解能を提供するように、極低フォース撮像を実現する。力制御は、ユーザの最小限の介入または介入無しで試料を撮像するのに十分に長い期間にわたって、本質的に安定である(本質的にドリフトが無い)。本システムは、調整(基準線平均化と流体力学的バックグラウンド補正)が必要無いので、より速くかつより単純な設定を可能にする。さらに、力に関する精密な制御が先端衝突を基本的に無くし、一方本技術/システムはまた試料表面上の横力を本質的に無くす。本システムはまた、一旦プローブが試料から離れると、プローブと試料とを相互作用させる前にプローブのリングダウンを待つ必要が無いことにより、カンチレバー動力学に対する感度が低い。論述されたように、TappingMode AFM速度(>2kHz)で高さ、剛性、付着、弾性、可塑性の同時測定結果を得るために、広範囲のカンチレバーがユーザに利用可能である。本SPMは、これらの特徴により流体中の2nm幅DNAなどの試料を撮像し、また単一の分子弾性などの機械的特性測定を改善することができる。
PFTモード−使いやすさ
本発明の好適な実施形態は、初心者によるAFMの使用を専門的ユーザのものとほぼ同等にするのを促進するためにPFTモードを使用する。例えば先端が試料と相互作用する(先端−試料力に対する複雑な関係を表す)ときにプローブ振動の設定点振幅または位相からの偏差に基づき先端−試料相互作用を制御することにより動作するTappingMode AFMとは対照的に、PFTモードは振動モードにおけるプローブ変調のサイクルに沿った各点における先端−試料相互作用力に基づき制御先端−試料相互作用を制御する。相互作用力のこの直接制御は制御を単純化し、好適な実施形態が、振動高調波とシステム振動を含む変数を複雑にする影響を最小限にし、したがって安定性を維持できるようにする。
図24Aに、立ち上り領域1004と立ち下り領域1006を含む試料プロフィール(高さ)1002の概略グラフ1000を示す。このプロフィール1002上に重畳されるのはAFMにより得られる追跡信号または画像1008である。走査が示された方向に続くと、安定したフィードバックが維持される。安定したフィードバックは、自励する(すなわち、入力にかかわらず振動出力を生成する)傾向が無いフィードバックループを指す。しかし、点「X」において、フィードバックは不安定になり始め、像はより雑音があるように見え始める。フィードバック利得を低減することにより、不安定なフィードバックはより安定になり得る(撮像速度低減等という代償を払って)。図24Bは重畳追跡信号1008に対応する誤差信号である。重要なことには、不安定なフィードバックの高さ信号と誤差信号の両方は、安定したフィードバックのものより雑音があるように見える。この現象は、以下に述べられる本発明の自動利得スケジューリング装置と方法において利用されることになる。
図25に、フィードバック高さまたは誤差信号の振幅スペクトルのプロットを使用することにより、好適な実施形態により使用されるフィードバック不安定性検出を概念的に示す。信号スペクトルは安定したフィードバック1010と不安定なフィードバック1012の両方に対して示される。フィードバック不安定性は、いくつかの基準の1つまたは複数に基づき定量的に測定することができる。これらの基準は、例えば特定の周波数(f0)におけるスペクトル振幅を含む。周波数f0は、システム識別子を利用することにより、またはフィードバックが不安定なときのフィードバック信号のスペクトルを観察することから決定される。加えて、不安定性は、RMS誤差または標準偏差を計算することにより定量的に測定することができる(以下の図27と図28と記載を参照)。
図26(a)−(d)を参照すると、先端が試料との接触を失うとき(「パラシュート降下(parachuting)」として知られる)の先端−試料力の図解が示される。図24Aと同様に、図26(a)に、試料プロフィール1022とその上に重畳されたAFM追跡(高さ)信号1024とを示す概略図1020を示す。この場合、「A」印の付いた領域では、先端は、画像走査中に試料表面との接触を失い、制御システムが先端を試料表面に戻そうとする(通常、プローブまたは試料のいずれかをZ方向に動かす)と、パラシュート降下する。図26(b)は、下方向傾斜面(例えば図26(a)では1026)上では誤差信号(測定された先端−試料相互作用力と設定点との差)が負になり、制御システムに先端と試料を接触状態に戻すようにさせることを示す。平坦領域(1032)では、誤差は零であるので、先端は補正無しに表面を追跡している。上方向傾斜面(1030)上では、誤差は正であり、制御システムは、この情報を利用して、振動を設定点に戻そうとする(通常、先端−試料離隔距離を増加させることにより)。しかし、パラシュート降下領域「A」(試料の下方向傾斜部1028に対応する)では、誤差は最初に下方向傾斜部を示すが、次に、先端は先端−試料相互作用力が零になると表面の追跡をやめる(図26(c)を参照)。
先端−試料相互作用力データのズームを示す図26(d)は、先端−試料相互作用の領域に対応する力曲線を示す(ここではフィードバック補正が必要である)。ここで、力は、引力領域(接触力−ファンデルワールス力)と、先端が表面と相互作用しその振動サイクルを続けるときの反発領域と、先端が表面から引き離れようとするときの付着領域と、次に離れた点と、により特徴付けられる。例えばTappingModeを越えるPFTモードの1つの利点は、既に詳細に論述されたように(変調の別のサイクルを駆動する前にリングダウンを待つこと無しに)表面を追跡するために相互作用力曲線上のすべての点が制御装置により利用できるということである。パラシュート降下する先端の場合、パラシュート降下は、以下の基準、すなわち、フィードバック誤差信号の特定の周波数(または周波数群)における標準偏差および/またはスペクトル振幅が閾値未満である、フィードバック誤差信号が閾値未満である、および/または一振動周期内のピーク力/付着力またはピークトゥピーク力が閾値未満であるの内の1つまたは複数によって、現時点で好適な実施形態において検出することができる。
AFMを動作させるのに必要なスキルを最小限にするようにPFTモードで動作可能なAFM1100を図27に概略的に示す。AFM1100は、先端1106を支持するカンチレバー1104を含むプローブ1002を含む。プローブ1102は、この場合プローブ1102の先端1106を「Z」軸(試料表面に直交)方向に動かすことができる圧電アクチュエータなどのアクチュエータ1110に結合されるプローブホルダ1108に搭載される。プローブ1102が試料と相互作用すると、その偏向は、カンチレバー1104の裏側方向に光線「L」を向ける光源1114(例えばレーザ)を含む偏向検出方式1112により監視される。カンチレバー1104は、偏向を示す信号をADC1118に向かって送信する検出器1116(例えば四象限光検出器)に向かってビーム「L」を反射する。アナログ偏向信号がADCブロック1118によりデジタルに変換された後、その結果の信号はPFTモード力検出ブロック1120に送信される。(点毎に先端−試料相互作用力を抽出すための上記の装置と方法に従って決定された)結果の力信号は比較回路1122に送信される。好ましくは、ピーク力は力設定点と比較され、誤差信号がPI制御装置1124に送信される。PI制御装置1124は、先端−試料離隔距離を制御するためにZ圧電アクチュエータに適用されるZ走査DAC(D−A変換器)に送信される制御信号を出力するので、力設定点が維持される。
安定性を促進し専門的ユーザの必要性を最小限にするために、利得は利得制御回路1123を使用して自動的に調整される。Zピエゾ1110を制御するために使用されるPI制御装置1124からの制御信号はまた、好ましくはピーク力(ブロック1120を参照)に対応する位置において高さデータを再サンプリングするブロック1128に送信される。次に、高さデータ内に振動があるかどうか(すなわち、不安定性の徴候があるかどうか)を判断するために振動検出アルゴリズム1130が採用される。システムがまさに振動するところであり不安定になれば、高周波雑音が検出されることになる。アルゴリズム1130が雑音の量を判断するやり方は、図28に関連して以下にさらに詳細に説明される。振動検出アルゴリズム1130は、不安定性(この章では単に「雑音」と略す)の大きさを示す信号を出力する。このような不安定性はそれ自体雑音のように表れ、フィードバックループにより引き起こされる。しかし、これは、フィードバックがオンしていないときのシステムの他の部分内の雑音と混同されてはならない。この雑音信号は加算回路1132において雑音耐性マージンと比較される。雑音耐性マージンは、製品に伴う所定のパラメータであり、試料依存では無く、調節することができる。回路1132の誤差出力が所定のマージンを越えれば、利得制御装置1134は、1130からの不安定性信号の大きさが雑音耐性マージン未満になるまで、例えばI利得とP利得を小さなステップ(例えば5%の各繰り返し)で低減することにより制御装置1124の利得を調節するための適切な利得制御信号を決定する。要するに、各撮像位置において、利得はシステム安定性を保証するように最適化され得る。
動作中、DAC1126により出力され利得制御回路1123により最適化されるZ走査制御信号は、加算回路1139においてZオフセットDAC1136(以下にさらに説明される)の出力とZ変調DDS(直接デジタルシンセサイザ:direct digital synthesizer)1138により提供されるPFTモードの振動駆動とにより合成される。この自動利得スケジューリングがアクティブであることにより、AFM動作中の利得の専門的ユーザ調整の必要性は無くなる。
フィードバック利得の自動調節における重大な要素の1つは、不安定性徴候を迅速かつ正確に判断する能力である。この判断はしばしば、利得制御装置内の不安定性誘発雑音と誤解され得る未知のトポグラフィにより複雑にされる。図28を参照すると、図27の振動検出ブロック1130を実施するためのアルゴリズム1140がさらに詳細に説明される。高さ情報は、高さが任意のAFMシステム上で校正されるので、不安定性振動のレベルを決定するために使用される。雑音耐性マージンは不安定性誘発雑音の許容大きさとして定義される。このマージンが高さ信号を使用することにより検出されると、このようなマージンはフィードバック系において許容される雑音の絶対値を与える。例えば、雑音耐性マージンが1nmであれば、1146または1148からのいかなる不安定性出力もこの範囲内であれば許容可能であると考えられる。100nm(範囲)の試料高さについては、このようなマージンは像中の100の信号対雑音比に対応する。しかし、1nm未満の波形部を有する平坦な試料については、雑音耐性マージンは試料高さ信号より大きくなる。このような状況では、雑音耐性マージンは適度に良好な像(S/N比=10)を得るために0.1nmまで低減されなければならない。このマージンは、試料粗さに基づき自己調節することができる。AFM動作中に得られる高さデータは試料トポロジーとシステム振動の両方を反映する。通常、アルゴリズム1140は、雑音が不安定性の徴候を示すのに十分大きいかどうかを判断するために試料トポロジーをフィルタで除去するように動作する。走査中試料トポロジーは通常隣接ピクセル同士間で大きな変化を有しないということを知ることが重要である。例えば3つの隣接点間の高差を計算することにより、試料トポロジーの大部分はフィルタで除去することができる。この再サンプリングされた高さデータ(1131)を図29に概略的に示す。「q」、「r」、「s」などの3点がアルゴリズムにおいて解析されることが好ましいが、より多くの点が使用され得る。
この点に関して、図28を再度参照すると、PI制御装置1124(図27)により出力される高さ制御信号はブロック1142において再サンプリングされる。この文脈における再サンプリングは、好ましくは少なくとも3つの隣接する力曲線のピーク力位置において高さデータ点を抽出することを意味する。ブロック1144では、選択された数のデータ点または画素間の高さの差が決定される。例えば、3点が選択されれば、計算は次式のようになる、
H Diff(i)=(H(i−l)+H(i+1)−2*H(i))/2 (式3)
試料トポロジーを理想的には反映しない(反映すべきではない)この差の絶対値|HDiff(i)|はブロック1146において得られる。このステップは本質的に振動検出器のように動作する。次に、ブロック1148では、移動平均が決定され得る。移動平均の決定は、高差計算に使用される所与の試料においてトポロジーがフィルタで除去さないように、トポロジーの著しい変化を呈する試料に対してだけ必要である。このような試料の例としては、鋭い段差を有する珪素格子が挙げられる。このような場合、トポロジーの急速な変化は通常、短命である。したがって、高差の移動平均を決定する(比較的長い期間にわたって計算される)ことにより、このようなスパイクは振動解析からフィルタ処理されなければならない。より詳細には、スパイクの振幅と移動平均データとを比較することにより、スパイクはフィルタで除去される。問題の振動雑音は通常、トポロジー変化よりはるかに長く続くので、関連する振幅データは以前の移動平均データと同様である傾向がある。
ブロック1149において方法1140を続けると、ブロック1136において得られた差の絶対値が移動平均の数倍(例えば、ブロック1148において計算された移動平均値の4倍)未満であれば、振動検出アルゴリズム1140の出力は|HDiff(i)|である。差の絶対値が上記数倍より大きければ、アルゴリズム1140の出力は移動平均値である。次に、この量のRMS値がブロック1150において決定される。加算回路1152(図27に関連して上述した)により「雑音耐性マージン」と比較されるのはこの値である。最後にブロック1154において、利得制御フィードバック(利得を増加/低減する)が決定され回路1132の誤差出力に基づきPI制御装置1124へ送信される。利得は1130の出力が雑音耐性マージンより低ければ増加される。利得は1130の出力が雑音耐性マージンより高ければ低減される。
PFTモードを使用するAFM動作の特定の実施を図30に示す。PFTモードを活用し本計測器をユーザーフレンドリにするため、上述の自動利得スケジューリング制御(本明細書ではまた「オートパイロット」すなわち「AFMを自動操縦する」と呼ばれる)は次のように実施される。ユーザは、ブロック1500において走査を開始し、次にブロック1502において所望の走査サイズを定義する。次にブロック1504において係合手順が開始され、先端と試料を接触させる。次に、ブロック1506においてAFMシステムは「オートパイロット」がオンかどうかを判断する。そうでなければ、この手順は完了し(ブロック1530)、AFMは自動利得制御無しにオペレータ制御フィードバックを利用して動作する(ある専門的ユーザはそれらの測定結果を監視するとともに手動利得および設定点調節することを好むかもしれない)。オートパイロットがオンであれば、ブロック1508において動作パラメータは工場定義デフォルト値によって初期化され、ブロック1510においてDSPが同様に初期化される。ブロック1512は、オートパイロット機能がDSPにおいて実施されるということを示す。
パラメータが初期化されると、ブロック1514において走査サイズは小さな値に設定される。小さな走査(例えば10nm)は、設定点基準を提供するための初期ピーク力設定点および利得を決定するために低利得で行われる。すべてのAFM撮像について、ピーク先端−試料相互作用力を最小限にすることは通常、先端寿命と試料完全性の改善につながる。システムは、システム内の基本雑音の知識に基づき最小設定点を決定することができる。例えば、先端が試料と相互作用していないときに力検出雑音が100pNであれば、設定点を300pNに設定してシステム制御に十分なS/N比範囲を可能にし得る。ブロック1516では係合が検証され、ブロック1518ではシステムは係合を最適化しようとして初期利得および設定点を修正する。最適化は、
1.相互作用が無いように先端を持ち上げることによりシステムバックグラウンド雑音を決定するステップと、
2.ステップ1で決定されたピーク雑音バックグラウンドより通常3倍高い設定点を決定するステップと、
3.雑音が雑音耐性マージンとほぼ等しくなるまで利得を増加する(例えば所定のステップで反復的に)ステップと、を含む反復処理である。
ブロック1520において利得と力設定点が小さな走査サイズにおいて決定されると、ブロック1522においてシステムはユーザ入力走査サイズに戻して、試料データを捕捉するためにAFM動作を開始する。
ブロック1524において、システムはアルゴリズムが利得または設定点を調節しているかどうかを判断する。利得または設定点のいずれかがアルゴリズムにより調節されていなければ、ブロック1526においてデフォルト利得/設定点値に戻される。次に、ブロック1528においてシステムは監視するループ(監視モード)に入る。監視モードは振動が閾値を越えるかどうかを判断する。そうならば、利得を調節(低減)することができる。そうでなければ、より良い追跡のために利得を増加することができる。監視モードはまた、パラシュート降下事象を検出するように動作する。パラシュート降下事象が上述のように検出されれば、設定点は最適性能を目的として増加され得る。設定点増加は、好ましくは時間毎5%増分だけ(および、上に概説されたステップ1〜3を随意的に検証することにより)実施される。上記は、ユーザ定義試料走査サイズの走査が完了するまで続く。
要するに、上記フィードバック制御はプローブ振動/先端−試料相互作用の各変調期間中ほぼ同一のピーク相互作用力を維持することができる。本方法は、雑音バックグラウンドに基づきピーク相互作用力に関連する設定点を自動的に決定し、不安定性の振動の大きさに従ってフィードバック利得を自動的に決定する。そうすることにより、AFMは、データ収集中にシステム調節を行うことなく初心者が使用することができる。
走査速度はまた、PFTモードを使用することにより、最適化のために自動的に調節され得る。図31を参照すると、走査制御アルゴリズム1600のフローチャートが示される。この場合、ブロック1602において、AFMは先端−試料相互作用の各サイクル中のピーク力の連続監視を含むPFTモードで動作している。ブロック1604において、方法1600はピーク力が事前設定閾値より大きいかどうかを判断する。例えば、閾値は8ボルトを越える測定に対応し得る。そうならば、ブロック1608において、走査速度調節信号は走査を適正量だけ遅くするために走査器に送信される。そうでなければ、本方法は次に、ブロック1606において、バックグラウンド変化が特定の閾値(例えば0.25ボルト)より大きいかどうかを判断する。そうならば、ブロック1608において走査速度は低減される。そうでなければ、ブロック1610において現在の走査速度が維持される。この最適走査速度制御は、PFTモードで動作する際にすべての画素において最適化されることができる。したがって、PFTモードは、捕捉する高品質像間の理想的なバランスを最短捕捉時間量内に与える。ブロック1606をさらに説明するために、一例として図32Aと図32Bを参照すると、図32Aは先端−試料相互作用力のサイクルの両側の平坦なバックグラウンド領域を示す。図32Bでは、バックグラウンドは試料トポグラフィの変化により影響を受け、先端は表面を追跡することができないので試料中に差し込まれ得る。この場合、このバックグラウンド変化は特定され、走査を遅くするために使用される。
PFTモードはまた、自動Zリミット制御を可能にし、このAFMの使いやすさをさらに促進する。ZリミットパラメータはZピエゾアクチュエータのダイナミックレンジを定義する。プローブはこの範囲の中心にあることが好ましい。ZリミットはZ方向における画像解像度に影響を与え、試料依存である。例えば、試料が平坦であれば、雑音振幅はピーク分解能と同等であり、したがって雑音が捕捉像内に現れる可能性を最小限にするために分解能は低減されなければならない。従来、これは、試料が平坦かどうかを判断することによりユーザにより手動で行われた。PFTモードでは、Zリミットパラメータの制御は自動である。この点について、図33を参照すると、ブロック1702において方法1700がPFTモードで動作を開始した(Zリミットが、試料表面の粗さを知ることなく「フル」(全走査範囲)に設定された)後、ブロック1704において、方法1700は、ユーザにより定義された走査領域に対応する試料表面の1つの完全なフレームを捕捉する。次にブロック1706において、フレームのRMS高さが計算される。ブロック1708において決定されるようにRMS高さが閾値未満(例えば10nm)であれば、ブロック1710においてZリミットが調節される。例えば、閾値を満足する平坦な試料に関しては、Zリミットは特定の値、例えば2マイクロメートルまで減らされ得、フレームは再走査される。これは、ユーザが画像に満足して次に進むまで繰り返し行われ得る。好ましくは、調節済みZリミットはユーザが走査領域を変更するまで維持される。
自動化に加えて、PFTモードは、試料のすべての走査位置(例えば画素)において高品質撮像を保証し試料の機械的特性測定結果を得る能力を最大化するのに役立つ。例えば、PFTモードは、先端半径監視を行うために使用することができる。高品質像を得ることに対する1つの大きな問題は、鋭いプローブ先端がいつ損なわれたかをユーザが検知する困難さである。先端は汚染される(流体中で撮像する、油状の試料を撮像する等)ことにより損なわれ得、または、物理的構造は例えば摩耗(鈍い先端)により撮像中に損なわれ得る。損なわれた先端は、試料位置において得られる力曲線を精査することにより特定することができる。図34は、先端健全性を示す力曲線の部分を示す。図34において、概略グラフ1801は先端軌跡を表す。この軌跡は、正弦波信号と走査器制御信号を使用して定義される任意形状との一部である可能性がある。試料近くの位置において、ファンデルワールス引力が概略グラフ1802中のセグメントA−Bとしてプロットされる。ここで1802−1は非相互作用零力基準線を表す。このセグメントの傾斜は先端半径を利用して決定される。先端半径が大きくなると点Aをファンデルワールス力の早い徴候に対応して左に移動することになる。セグメントA−Bを解析することにより、先端半径を推定し、先端が依然として鋭いかどうかに関する判断を行うことができる。具体的には、領域A−Bの傾斜は先端が損なわれたかどうかの指標となる(破線は先端が損なわれているときの応答を模式的に示す)。PFTモードでは1つまたは複数の力曲線があらゆる画素において生成されるので、先端力監視は、走査と共にほぼ瞬間的に発生することができる。したがって、先端が損なわれているかどうかを特定しようとするために撮像に割り込み、試験力曲線を得るのではなく、PFTモードで動作するAFMは、すべての走査位置においてこのような条件を自動的に特定することができる(例えば数100マイクロ秒毎に)。特定されれば、走査は中断され、ユーザに通知することができ、これによりさらに無用なデータの捕捉を防ぎ、損なわれた先端をユーザが交換できるようにする。
先端が損なわれているかどうかの指標は汚染である。このような汚染は、図34の概略プロット1803における、付着仕事量として知られた陰影領域「w」を解析することにより決定される。先端が水または別の物質により汚染されれば付着仕事量はより高くなり、先端が表面から退避するときにメニスカスを形成し得る。より大きな付着仕事量はより重い汚染を表す。力曲線は各画素において捕捉されるので、汚染に関係する先端が損なわれているかどうかも連続的に監視することができる。
先端がポリ(エチレングリコール)(PEG:Poly(ethylene glycol)または樹枝状結晶などの特定の化学的結合により官能化されれば、付着仕事量が意図的に導入される。この場合、特定の相互作用を呈する試料と先端が相互作用すると、官能化付着だけが分子部位において大きな付着仕事量を生成し、例えばポリ(エチレングリコール)(PEG)または樹枝状結晶との付着を生じる。この相互作用を監視することにより、付着マップは化学的または生化学的認識マップとなり得る。
図34の概略グラフ1802内の接触点Dと同期される電気的、光学的、磁気的、または熱的摂動または励起も印加することができる。電流、電圧、熱的特性、磁気応答、または光分光学応答の同期検出は、点Dが近接試料相互作用(または近接場相互作用)における制御を表すので、大きな信号対雑音改善を実現することができる。
利点−PFTモードと使いやすさ
要するに、PFTモードは、AFMが非専門的ユーザにより操作されることを可能にするいくつかの操作優位性を提供する。使いやすさを考慮する際、専門的ユーザの必要性を最小限にするためにいくつかの撮像要素を考慮しなければならない。最初に、フィードバックの安定性が維持されなければならなく、上記自動利得調整/スケジューリングがPFTモードにより有効になった状態で、安定性は利得を手動で調節するために専門家無しに達成される。次に、高品質像を得るために、AFMは試料表面を追跡しなければならない。制御を瞬間的先端−試料相互作用力に基づかせることにより、最小誤差を有する最適追跡のための設定点力を選択することができる。また、上述のように、走査速度と自動Zリミット制御はまた、撮像速度または高品質像を得る能力を損なうことなく、AFMを動作させる際の専門家の必要性を最小限にするように働く。
TappingModeなどのAFM動作の公知の振動モードとは対照的に、PFTモードは全く異なる動力学的方式で動作する。振動モード設定点は、相互作用と、先端と試料間の力と、の非常に複雑な関係を有するパラメータ(通常は、振動の振幅または位相)である。本明細書において論述されたように、PFTモードは、先端が試料表面と相互作用しそのフィードバック方式において対応する力情報を使用するので、先端振動の各点を考慮する。これにより、好適な実施形態がユーザ制御型フィードバック無しに、そして撮像中に必要とされるユーザ調節無しに動作できるようにする(誤差信号の自動最小化)。PFTモードはまた、調整(単純な事前撮像手順だけを必要とする、図30)を伴う試料との断続的な接触(およびその暗黙の利点)を提供し、調整の無い設定を可能にする。その結果、初心者は、調整を行う必要無しに一定の解像度(例えば1nN)以下でかつ一定の速度(例えば1/2Hz、256画素)以上で撮像することができる。
さらに、すべての画素における力曲線を提供することにより、ユーザは合理的な速度と一定の解像度で確定的データ(例えば付着)を得ることができ、撮像中にそうすることができる。これはすべて、先端と試料間の単一相互作用(線形伝達関数を表し、公知の振動モードと全く対照的)に基づく応答を可能にする力(先端−試料)に直接フィードバックすることにより可能になる。
特に、すべての上記概念は、計測器が電流に関しフィードバックする電気的状況(例えばSTM)においても同様に採用することができる。
また、フィードバックの複雑な特性のために、従来の振動モード中に得られるデータは通常、複雑な間接的解釈を必要とする。PFTモードがタッピング「エンベロープ」ベースというよりむしろ力曲線ベースであるということを考えれば、PFTモードはデータの直接解釈を可能にする。
PFTモードで動作する別の利点は、いくつかの試料をより効果的に撮像する能力を含む。例えば、半導体応用では、狭い溝を確実に撮像するAFMの能力の無さによりしばしば、ユーザはこのような測定をするために、AFM以外の計測学的機器を選択したくなる。しかし、PFTモードでは、先端と試料間の減衰(例えばスクイーズ膜減衰)は存在しなく、したがって高アスペクト比試料特徴の確実な測定を可能にする。
加えて、PFTモードは制御パラメータドリフトの影響を受けにくい。例えば、TappingMode AFM自由空間振幅は撮像中変化し先端/試料力の変化を引き起こし、先端/試料相互作用の損失を生じ得る。このようなドリフトは、TappingMode AFMが長時間の安定撮像を行うのを妨げる。PFTモードにより、ユーザは1時間を越える間(夜通しを含む)撮像することができ、これに対し従来の振動AFMモードを使用すれば1時間未満である。
全体として、PFTモードでは、環境条件に対するカンチレバー応答の減結合がある。真空(流体)および大気中の撮像は設定に影響を与えることなく遂行することができ、したがって計測器を非常に使いやすくする。振動周波数はいかなるカンチレバー共振とも無関係に設定することができ、流体中の使用を著しく単純化する。具体的には、公知の断続的接触モードは共振における動作を必要とするが、PFTモードはサブ共振で動作することが好ましい。これは再び、極端に小さな瞬間的(平均ではない)力(約1μΝ〜1pN)に基づき制御する能力による。その結果、AFMはまた、カンチレバーQがサブ共振において無関係である(伝達関数は共振時のカンチレバーに蓄積されたエネルギーと無関係である)ということ考えれば、フィードバックをより速く実行することができる。最後に、上に論述したように、PFTモードはまた、サブ1〜10N/mばね定数を有するカンチレバーの使用を可能にする。
図35(a)−(d)を参照すると、試料のPFTモードを使用して試料の物理的特性測定を行う代替方法を示す一連のプロットが示される。要するに、プロットは、ピークフォースタッピングモードに関連するプローブ−試料相互作用とほぼ同時のゲートされた物理的測定を説明する。垂直線p1〜p5は、PFTモードのプローブ−試料相互作用の一周期中に経験されたプローブ−試料力を示す図35(b)に定義された各物理的事象のタイムスタンプをマーキングする。すべてのデータは、時刻「0」から周期Tの終わりTまでの先端と試料間のピーク力相互作用の一周期間プロットされる。線p1は、プローブが先端−試料相互作用に近づく時刻であって、その零基準線1からの点Bにおける相互作用力曲線の偏差により検出された時刻を表す。線p2は、力曲線における一次導関数の極性が変化するB’における相互作用力の遷移を表す。B’は、最小点または一次導関数遷移領域の近傍の任意の点である可能性がある。線p3は、一次力導関数の極性が再び変化する極大を示すピーク力点Cを表す。線p4は点Eにおける別の一次導関数極性変化を表す。点Eは、最小点または一次導関数遷移領域の近傍の任意の点である可能性がある。点E’では、p5線は、相互作用力が水平方向零力線1(点F)に近づくときの近接近傍相互作用力の減少を表す。
図35(b)における相互作用力測定はカンチレバープローブ偏向を監視することにより行われる。図35(a)のプローブ表面位置決め制御は、カンチレバープローブを試料に対して動かすアクチュエータにより行われる。試料に対する先端の軌跡は、図35(a)に示すよう正弦波、または当該技術において理解されるようにp1からp5までの任意の時間セグメントを意図的に増加または低減する任意の形状である可能性がある。ユーザは例えばデューティサイクルを増加または低減するためにそうしたいかもしれない。p2〜p4を変化させる同じ変調周波数は熱的検討のためには増加し、粘性−弾性検討のためには、p2−p4を例えば1%のデューティサイクルから50%のデューティサイクルに変化させる。粘性−弾性影響の依存性を検討するために、粘性−弾性検討のための短いデューティサイクルが使用されるだろう。p1〜p2(非接触時間、光学測定)中は長いデューティサイクルが好ましいかもしれない。
温度測定はデューティサイクルp2〜p4を可能な限り増加し、次に、より長い期間の間信号を積分することができる。
p1とp2間の時間区域は例えば、検知可能な負力(ヴァンデルワールス)引力により試料と先端が相互作用している近傍相互作用区域である。他の例としては電気的または磁気的力が挙げられる。この領域は長距離相互作用力を表し、通常負力(すなわち引力)を示す。同じ近接干渉領域は、最小相互作用力がプローブの先端におけるファンデルワールス力(または電気的または磁気的力)と毛細管相互作用の両方を含むp4とp5間で再び発生する。この領域はまた、大抵の場合、負(引力)を示す。
線p2とp3間の時間区域は接触相互作用領域である。この時間は、2つの転移温度B’とE間で発生する相互作用力を特定することにより測定される。接触領域は通常、点B’とCの間で見られるようなより大きい正の値までの相互作用力の上昇が伴われる。点Cで、Z制御はプローブを退避させ始める。しかし、プローブは、プローブの先端が接触および毛細管相互作用から抜け出す点Eまで試料に接触したままである。
次に図35(c)を参照すると、機械的力以外の物理的相互作用が先端と試料間に印加される。このような相互作用は先端と試料との間のゲートされた電圧である可能性がある。これはまた、磁気的相互作用などの任意の他の外部印加相互作用場である可能性がある。図35(d)では、先端と試料との間の電流などのプローブ物理的応答が測定され、この場合線p2とp4間のゲート領域においてだけ測定される。ゲートされた測定は、図35(a)のプローブ位置制御と図35(b)に示される力検出とに同期される(上述のように)。ゲートされた領域内のもの以外の信号は寄生雑音と考えられ、信号処理を通して減じることができる。このような信号処理は、線p1とp5間の領域外のすべての無効な(例えば、電圧印可時電流無し、物理的応答無し、無接触)物理的応答データを平均化する形式であり得、これは各測定期間中に減じられるバックグラウンド寄生信号として使用することができる。このシステムを示すブロック回路線図を図39に示す。
代替実施形態では、物理的励起信号は試料またはプローブに加わる熱である可能性があり、ゲートされた物理的応答は、p2とp4間のゲートされた時間区域内の温度変化である可能性がある。図35(c)の熱または熱励起の応用は、例えば熱的測定を行うように選択された熱量を生成するためにプローブまたは試料中に発熱体を埋め込めるようにし同発熱体に電流を流すことにより実現できる。このシステムを示すブロック回路線図を図40に示す。
さらに別の実施形態では、図35(c)の励起信号は電磁波である可能性があり、図35(d)の検知信号はp2とp4間のゲートされた時間区域内のインピーダンスの変化である可能性がある。マイクロ波などの電磁波の応用は試料またはプローブに導波管を適用することにより実現できる。代替として、図35(c)の励起信号は光学的励起である可能性があり、35(d)の検知信号はp2とp4間のゲートされた時間区域内の光分光学応答の変化である可能性がある。マイクロ波などの電磁波の応用は試料またはプローブに導波管を適用することにより実現できる。さらに別の実施形態では、図35(c)の励起信号は電圧信号である可能性があり、図35(d)の検知信号はp2とp4間のゲートされた時間区域内の電気抵抗の変化である可能性がある。電圧の応用は、試料の一部を導電性にするおよび試料に電気的に接続されるプローブの一部を導電性にすることより実現できる。さらに、別の実施形態では、図35(c)の励起信号は磁力である可能性があり、図35(d)の検知信号はp2とp4間のゲートされた時間区域内の磁気応答の変化である可能性がある。磁力の応用は永久磁石または誘導磁石の一部を含む先端を使用することにより実現でき、電気的測定の変化はp2〜p4時間区域内の電流、電圧、または抵抗である可能性がある。これらの代替案では、PFTモードの付加的有用性を考えると、一連の試料特性がいかなる従来のAFM技術とも異なり監視され撮像され得る。励起の異なる形式を使用するこれらの代替システムを示すブロック回路線図を図41に示す。
特に、最良の信号対雑音比は通常、測定電流のゲートされた平均を使用して実現できる。但し、1サイクル内のピーク電流または平均電流を使用することができる。
図36(a)〜(d)を参照すると、図35(a)〜(d)に対応する上記説明は図35(c)と図36(c)以外にも当てはまる。この場合、励起信号は、物理的応答測定だけがゲートされた時間区域内に発生している間、一定のままである。例えば、恒常的励起は試料を過熱または燃焼する可能性があるので、必要に応じて励起するだけである。図37(a)〜(d)では、ゲートされた領域は、ユーザが行っている物理的特性測定のタイプに基づきp1とp2間の時刻に変更される。図37(c)の励起は、ゲート機能ではなく一定である(図36のように)可能性があるということに留意されたい。図38(a)〜(d)では、ゲートされた応答はp3とp4間の時間区域内で発生する。時には、ユーザにとって最も興味ある領域は接触時間領域の前後にある。接触前に、準接触領域内に、光学的、電気的、および磁気的特性に関連する興味あるデータを見出すことができる。機械的特性測定は通常、接触領域内で行われる。接触後、例えば第2番目最小値後、メニスカスは形成し得、付着などの特性は相互作用に基づき決定することができる。
本発明者らにより考えられた本発明を行う最良のモードが上に開示されたが、上記発明の実施はそれに制限されない。本発明の特徴の様々な追加、修正、再構成が、根底にある発明概念の精神と範囲から逸脱すること無くなされ得ることは明白だろう。