JP2013254908A - 量子カスケード半導体レーザ - Google Patents

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順一 橋本
Takashi Kato
隆志 加藤
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Abstract

【課題】水平横方向の導波モードにおける高次モードを抑圧可能な構造を有する量子カスケード半導体レーザを提供する。
【解決手段】量子カスケード半導体レーザ11では、埋め込み領域15の第1半導体層19が、メサ導波路13に接する側部19aと、支持基体主面21aに接する底部19bとを有しており、この第1半導体層19はp型半導体を含む。第2半導体層17は、半絶縁性半導体を備える。埋め込み領域15内の半導体層にはドーパントが添加されているので、浸み出し光成分は、半導体内のドーパントに吸収されて減衰する。これ故に、埋め込み領域15の上記構造は、基本横モードを余り減衰させず、高次横モードを選択的に減衰させる。その結果、電流増加時の高次モード発振を効果的に抑制でき、高電流域まで安定して基本横モードのレーザ発振が可能になる。
【選択図】図1

Description

本発明は、量子カスケード半導体レーザに関する。
特許文献1には量子カスケードレーザ(Quantum Cascade Laser:略称QCL)とその製造方法が記載されている。量子カスケードレーザは電気絶縁層を含み、この電気絶縁層は鉄ドープInP等の半絶縁性半導体からなる。本量子カスケードレーザは、コア層を含む導波路がメサ状にエッチングされ、その両側壁が上記電気絶縁層で埋め込まれた埋め込みヘテロストラクチャー(Buried Heterostructure:略称BH)構造を有す。
特表2003−526214号公報
半導体レーザ、オーム社 Handbook on Physical Properties of Semiconductors,vol.2,III-V Compound Semiconductors, KLUWER ACADEMIC PUBLISHERS Applied Physics Letters, vol. 56, pp. 638-640, 1990 Journal of Crystal Growth, vol.62, pp.198-202, 1983
中赤外波長領域にレーザ発振の可能な量子カスケード半導体レーザは、環境ガス分析、医療診断、産業加工といった技術分野に適用され、この分野は、今後高い成長が期待される。量子カスケード半導体レーザは、例えば中赤外波長の約3〜約20μmの波長領域におけるレーザ光を生成可能である。この波長域の応用分野において、量子カスケード半導体レーザは、現在開発中であり、小型で低コストの光源として期待されている。
特許文献1に示されるように、量子カスケード半導体レーザは、半絶縁性半導体から成る埋め込み層で埋め込まれるメサ導波路を含む。この埋め込み層は、電子に対して高い抵抗を示すので、電流ブロックとして機能する。この埋め込み構造では、電流がメサ導波路に強く閉じ込めされる。
この構造の量子カスケード半導体レーザにおいては、良好な発振を実現するために、メサ導波路(利得領域)に導波光を強く閉じ込める必要がある。これにより、効率よく導波光が増幅される。量子カスケード半導体レーザでは、メサ導波路に導波光を強く閉じ込めるため、そのメサ導波路幅を、発振波長が長くなるにつれて増加する必要がある。そのため、中赤外量子カスケード半導体レーザのメサ導波路幅としては、発振波長と同等の3〜20μm程度が通常用いられ、発振波長が長くなるに従い、メサ幅も増加する。
発明者らの知見によれば、この波長域の量子カスケード半導体レーザでは、その導波光の波長の長さのため、高次モードを抑圧することが必要であると考えている。具体的に説明すると、上記の量子カスケード半導体レーザは、上記のような広いメサ導波路幅を採用するので、水平横方向の導波モードのうち高次横モードがカットオフしにくく、基本モードだけでなく高次モードも利得を得て発振する可能性がある。
本発明は、このような事情を鑑みて為されたものであり、水平横方向の導波モードにおける高次モードを抑圧可能な構造を有する量子カスケード半導体レーザを提供することを目的とする。
本発明に係る量子カスケードレーザは、(a)n型半導体からなる主面を有する支持基体上に設けられ、コア層を含むメサ導波路と、(b)前記メサ導波路を埋め込むように、前記メサ導波路側面上、及び前記支持基体の前記主面上に設けられたp型半導体の第1半導体層とを備える。前記第1半導体層は、前記メサ導波路を埋め込む埋め込み領域を構成する。
この量子カスケード半導体レーザによれば、メサ導波路を伝搬する光の導波モードは、基本モードだけでなく高次モードも潜在的に可能である。高次モードは、基本モードに比べてメサ導波路から横方向に浸み出して、メサ導波路だけでなく埋め込み領域にも広範に分布する。この埋め込み領域は、メサ導波路側面上及び支持基体主面上に設けられて、メサ導波路側面上に設けられた側部と、支持基体主面上に設けられた底部とを有する。この埋め込み領域はp型半導体を含む。
埋め込み領域内の半導体層にはp型ドーパントが添加されているので、上記高次モードの浸み出し光成分は、この半導体層内のp型ドーパントに吸収されて減衰する。これ故に、埋め込み領域の上記構造は、基本モードを余り減衰させず、高次モードを選択的に減衰させることを可能にする。その結果、例えば電流増加時の高次モード発振を抑制することが可能となり、高い電流域まで安定して基本モードのレーザ発振が可能になる。また埋め込み領域と隣接する各n型半導体領域とp型の埋め込み領域との界面に形成されるpn逆バイアス接合障壁により、埋め込み領域はキャリアである電子に対して高抵抗化され、その結果、メサ導波路へ電流狭窄するための電流ブロック層としても機能する。
本発明に係る量子カスケード半導体レーザでは、前記第1半導体層の前記p型半導体は6.0×1016cm−3以上のp型ドーパントを含むことが好ましい。
この量子カスケード半導体レーザによれば、p型半導体が6.0×1016cm−3以上のp型ドーパント濃度を有するとき、光導波路内の基本モードを余り減衰させず、埋め込み領域に浸み出す高次モードを顕著に減衰させることに有効であり、埋め込み領域は、高次モード抑制のための光吸収に寄与する。
本発明に係る量子カスケード半導体レーザは、前記メサ導波路及び前記支持基体の前記主面上に設けられた半絶縁性の第2半導体層を更に備えることができる。前記第2半導体層及び前記第1半導体層は前記埋め込み領域を構成し、前記第2半導体層は、前記メサ導波路の側面と前記第1半導体層との間に設けられた第1部分と、前記支持基体の前記主面と前記第1半導体層との間に設けられた第2部分とを含むことができる。
この量子カスケード半導体レーザによれば、第2半導体層の第1部分がメサ導波路の側面と第1半導体層との間に設けられると共に第2半導体層の第2部分が支持基体主面と第1半導体層との間に設けられるので、第1半導体層による光吸収及び埋め込み領域の高抵抗化に加えて、第2半導体層の半絶縁性が埋め込み領域の高抵抗化の更なる強化に役立つ。このため、埋め込み領域へのキャリアの侵入による漏れ電流の発生がより低減されて、電流はメサ導波路により強く狭窄される。
本発明に係る量子カスケード半導体レーザは、前記第2半導体層及び前記第1半導体層上に設けられた半絶縁性半導体層を更に備えることができる。前記半絶縁性半導体層は前記第2半導体層及び前記第1半導体層と一緒になって前記埋め込み領域を構成し、前記半絶縁性半導体層は前記埋め込み領域の上面を構成し、前記半絶縁性半導体層は前記第2半導体層に接続されていることが好ましい。
この量子カスケード半導体レーザによれば、埋め込み領域のp型半導体領域は、半絶縁性半導体層並びに第2半導体層の第1部分及び第2部分によって、他の導電領域から電気的に分離される。
本発明に係る量子カスケード半導体レーザでは、前記第2半導体層は、前記第1半導体層と異なる半導体材料からなり、前記第2半導体層は、前記第1半導体層より高いバンドギャップを有する半導体材料からなることが好ましい。
この量子カスケード半導体レーザによれば、第2半導体層が第1半導体層と異なる半導体材料からなるので、埋め込み領域の設計の自由度が増す。
また、第2半導体層のバンドギャップが第1半導体層のバンドギャップより高いので、第2半導体層は、メサ導波路を流れる電子に対して第1半導体層より高いエネルギー障壁を提供できる。従って、第2半導体層は、その高いエネルギー障壁に起因して、電子に対してより高抵抗となるため、メサ導波路への電流狭窄強化に有効に寄与する。
本発明に係る量子カスケード半導体レーザは、前記メサ導波路を埋め込むように、前記メサ導波路側面上、及び前記支持基体の前記主面上に設けられた第3半導体層を更に備えることができる。前記第1半導体層は前記第3半導体層と前記メサ導波路側面及び前記支持基体の前記主面との間に設けられ、前記第3半導体層は、前記第1半導体層と異なる材料、または異なる導電型、または異なるドーパント濃度の半導体材料からなり、前記第3半導体層は、前記第1半導体層と一緒になって前記埋め込み領域を構成し、前記第3半導体層は、アンドープ半導体、p型半導体及び半絶縁性半導体の少なくともいずれか一つを含むことができる。
この量子カスケード半導体レーザによれば、埋め込み領域の設計の自由度が増し、また素子特性改善の検討がより容易となる。
本発明に係る量子カスケード半導体レーザでは、前記第3半導体層はアンドープ半導体を含むことが好ましい。この量子カスケード半導体レーザによれば、前記アンドープ半導体は、電子に対する埋め込み領域の高抵抗化に有効に寄与する。
本発明に係る量子カスケード半導体レーザでは、前記第3半導体層は半絶縁性半導体を含むことが好ましい。この量子カスケード半導体レーザによれば、前記半絶縁性半導体は電子に対する埋め込み領域の高抵抗化に有効に寄与する。
本発明に係る量子カスケード半導体レーザでは、前記半絶縁性半導体は、Fe、Ti、Cr、またはCoのうちの何れかの遷移金属がドープされた半導体であることができる。この量子カスケード半導体レーザによれば、第3半導体層の半絶縁性は、上記の遷移金属の添加により提供される。
本発明に係る量子カスケード半導体レーザでは、前記第3半導体層はp型半導体を含むことができる。この量子カスケード半導体レーザによれば、埋め込み領域における光吸収を更に強化できる。
本発明に係る量子カスケード半導体レーザでは、前記第3半導体層のp型半導体は前記第1半導体層のp型ドーパント濃度より低ドープのp型ドーパント濃度を有することが好ましい。この量子カスケード半導体レーザによれば、前記第3半導体層の低ドープのp型半導体は、電子に対する埋め込み領域の高抵抗化に有効に寄与する。
本発明に係る量子カスケード半導体レーザでは、前記第1半導体層の屈折率は前記第3半導体層の屈折率より低いことが好ましい。この量子カスケード半導体レーザによれば、第1半導体層の屈折率が第3半導体層の屈折率より低いので、埋め込み領域と導波路メサとの屈折率差を大きくできる。このため、基本モードが導波路メサ領域中により強く閉じ込められるので、基本モード発振をより安定させることを期待できる。
本発明に係る量子カスケード半導体レーザでは、前記埋め込み領域の前記第1、第2、又は第3半導体層はInP及びAlInAsのいずれか一方であることができる。
この量子カスケード半導体レーザによれば、これらの材料は、基板としてInP基板を用いるとき、基板に格子整合を成して、良好な結晶成長が可能になる。また、これらの材料に遷移金属を添加するとき、遷移金属ドープのInP及びAlInAsは添加量に応じて、電子に対し高い抵抗を示す。また前記第1半導体層に、これらの材料にp型ドーパントを大量に添加するときした、p型高ドープのInP及びAlInAsを用いれば、これらは添加量に応じて高い光吸収性を示して、高次モード抑制のために寄与すると共に、埋め込み領域と隣接する各n型半導体領域と埋め込み領域との界面にpn逆バイアス接合障壁が形成されるため、埋め込み領域は電子に対し高抵抗化される。その結果、メサ導波路へキャリア(電流)を狭窄するための電流ブロック層としても機能する。また、第3半導体層に低いp型ド−パント濃度やアンドープ、または半絶縁性のInP及びAlInAsの半導体層を用いるとき、第3半導体層は電子に対し高い抵抗を示す。このため、埋め込み領域への漏れ電流がより低減され、電流をメサ導波路領域により強く狭窄できる。更に、AlInAsは高いバンドギャップを示すので、これを第2半導体層に用いれば、電子に対し、より高いエネルギー障壁が形成される。その結果、電子に対して埋め込み領域をより高抵抗化できる。従って、埋め込み領域への漏れ電流がより低減され、電流をメサ導波路領域により強く狭窄できる。
これらの半導体層は、電流をメサ導波路領域により強く狭窄することを可能にして、量子カスケード半導体レーザにより良好な発振特性を提供する。また、AlInAsは低屈折率を示すので、例えば、第1半導体層と第3半導体層の2層で埋め込み領域が構成される場合は、これを第1半導体層に用いれば、埋め込み領域と導波路メサ領域との屈折率差が拡大し、その結果、基本モードが導波路メサ中により強く閉じ込められて、より安定な基本モード発振を得ることを期待できる。
本発明に係る量子カスケード半導体レーザでは、前記支持基体は、基板及び該基板上のn型InP半導体層、並びにn型InP基板のいずれか一方であることが好ましい。
中赤外量子カスケード半導体レーザを構成する各半導体材料は、InPに近い格子定数を有するので、支持基体として、基板及び該基板上のn型InP半導体層、或いはn型InP基板を用いれば、支持基体上に量子カスケード半導体レーザを構成する各半導体層を良好に結晶成長できる。
本発明に係る量子カスケード半導体レーザでは、前記コア層は、発光のための複数の発光層と、前記発光層にキャリアを注入するための複数の注入層とを含み、前記発光層及び前記注入層は交互に配列されており、前記発光層及び前記注入層の各々はGaInAs/AlInAsの超格子列を含むことができる。
本発明に係る量子カスケード半導体レーザは、前記埋め込み領域の上面を覆う絶縁膜と、前記絶縁膜上に設けられた電極とを更に備えることができる。前記絶縁膜は、前記メサ導波路の上面に設けられた開口を有し、前記電極は前記絶縁膜の前記開口を介して前記メサ導波路の前記上面に接触を成す。
この量子カスケード半導体レーザによれば、絶縁膜が埋め込み領域の上面を覆うと共に、絶縁膜がメサ導波路の上面に設けられた開口を有するので、この開口を介して、電流がハイメサ構造の導波路に選択的に提供される。
本発明に係る量子カスケード半導体レーザは、前記埋め込み領域の上面及び前記メサ導波路の上面を覆うn型半導体層と、前記n型半導体層の上面上に設けられた絶縁膜と、前記絶縁膜上に設けられた電極とを更に備えることができる。前記絶縁膜は、前記n型半導体層の上面に設けられた開口を有し、前記電極は前記絶縁膜の前記開口を介して前記n型半導体層の前記上面に接触を成すことができる。
この量子カスケード半導体レーザによれば、本構造では、メサ高を低くできることにより、素子特性の改善が得られる。
以上説明したように、本発明によれば、水平横方向の導波モードにおける高次モードを抑圧可能な構造を有する量子カスケード半導体レーザが提供される。
図1は、本実施の形態に係る量子カスケードレーザを模式的に示す図面である。 図2は、半絶縁性の埋め込み領域を有する量子カスケード半導体レーザにおける光学モードを示す図面である。 図3は、量子カスケード半導体レーザのためのコア層の一例を示す図面である。 図4は、量子カスケードレーザのための発光層の材料(典型材料GaInAs)及び埋め込み層の材料(典型材料:InP)の屈折率の波長依存性を計算した結果を示す図面である。 図5は、本実施の形態に係る量子カスケードレーザを模式的に示す図面である。 図6は、本実施の形態に係る構造例を示す図面である。 図7は、本実施の形態に係る構造例を示す図面である。 図8は、本実施の形態に係る構造例を示す図面である。 図9は、本実施の形態に係る構造例を示す図面である。 図10は、本実施の形態に係る構造例を示す図面である。
引き続いて、添付図面を参照しながら、量子カスケード半導体レーザに係る実施の形態を説明する。可能な場合には、同一の部分には同一の符号を付する。
図1は、本実施の形態に係る量子カスケードレーザを模式的に示す図面である。図1の(a)部を参照すると、量子カスケードレーザ11は、メサ導波路13と、メサ導波路13を埋め込む埋め込み領域15とを備える。メサ導波路13及び埋め込み領域15は、支持基体21の主面21a上に設けられている。主面21aはn型半導体からなり、好ましくは支持基体21もn型半導体からなる。第1半導体層19及び第2半導体層17は埋め込み領域15に含まれており、メサ導波路13を埋め込む埋め込み領域を構成する。メサ導波路13は、コア層23を含んでおり、またn型上部クラッド層25を含むことができる。コア層23は支持基体21の主面21aとn型上部クラッド層25との間に設けられる。第1半導体層19は、メサ導波路13の側面13a及び支持基体21の主面21a上に設けられ、p型半導体を備える。第1半導体層19は、メサ導波路13を埋め込む埋め込み領域15を構成する。例えば、埋め込み領域15の全体が第1半導体層19からなることができる。
この量子カスケード半導体レーザ11によれば、メサ導波路13を伝搬する光の導波モードは、基本モードだけでなく高次モードも潜在的に可能である。埋め込み領域15では、高次モードは、基本モードに比べてメサ導波路から横方向に大きく浸み出して、メサ導波路だけでなく埋め込み領域にも広範に分布する。本実施の形態では、埋め込み領域15は、メサ導波路13及び支持基体主面21a上に設けられて、メサ導波路13上に設けられた側部と、支持基体主面21aに設けられた底部とを有する。この埋め込み領域15は、p型ドーパントを含むp型半導体を備える。
埋め込み領域15内の半導体層にはp型ドーパントが添加されているので、埋め込み領域15中の高次モードの浸み出し光成分は、この半導体層内のp型ドーパントに吸収されて減衰する。これ故に、埋め込み領域15の上記構造は、基本モードを余り減衰させず、高次モードを選択的に減衰させることを可能にする。その結果、例えば電流増加時の高次モード発振を効果的に抑制することが可能となり、広い電流範囲において安定して基本モードのレーザ発振が可能になる。
埋め込み領域15がp型半導体を含み、このp型半導体領域がメサ導波路13の側面13a上と、支持基体21の主面21a上とに接するように設けられる。その結果、埋め込み領域15と、これと隣接する各n型半導体領域との界面にpn逆バイアス接合が形成されるため、埋め込み領域15は電子に対し高抵抗化される。その結果、メサ導波路13へキャリア(電流)を狭窄するための電流ブロック層としても機能する。
一実施例では、埋め込み領域15の全体は第1半導体層19からなることができ、この第1半導体層19は、メサ導波路13の側面13aに接する側部19aと、支持基体21の主面21aに接する底部19bとを有することができる。
図2は、特許文献1に記載の、従来の半絶縁性半導体の埋め込み領域を有するBH構造量子カスケード半導体レーザの1構造モデルにおける導波光の水平横モードをビーム伝搬法(BPM:beam propagation method)を用いて計算した結果を示す図面である。図2では、導波モードは基本横モードM0及び一次横モードM1が例示的に示されており、更に高次のモードは省略されている。図2の横軸は、水平横方向の座標を示し、その原点は量子カスケード半導体レーザの素子の中心に位置する。このモデルにおいて、量子カスケード半導体レーザの発振波長は8マイクロメートルであり、メサ幅は発振波長と同程度の7μmと設定した。図2に示されるように、量子カスケード半導体レーザは、その固有の構造に起因して、基本横モードに加えて1次以上の高次モードが発生しうる。量子カスケード半導体レーザにおいて、高次モードが発振すると、この高次モードと基本横モードとの競合が生じる。このため、基本横モード発振が不安定化し、或いは阻害される。このような状況では、量子カスケード半導体レーザの電流−光出力特性において、キンクと呼ばれる電流に対し光出力が非線形に変化する現象が、見られるようになり、また発振波長の変動や雑音の増加といった特性劣化を招き、実用上の障害となるので、モードの競合の発生は望ましくない。
量子カスケード半導体レーザ11によれば、メサ導波路13を伝搬する光の導波モードは、基本横モードM0だけでなく、図2に示されるような高次横モード(例えば1次の高次モードM1)も潜在的に可能である。しかしながら、高次横モードは基本横モードに比べてメサ導波路から水平横方向に大きく浸み出してメサ導波路だけでなく埋め込み領域にも広範に広がって分布する。そこで量子カスケード半導体レーザ11においては、埋め込み領域15中のp型半導体層を光吸収層として機能させることで、埋め込み領域15への浸み出しが小さい基本横モードは余り減衰させず、浸み出しが大きい高次横モードのみを選択的に顕著に減衰させることが可能となる。その結果、高次モードの発生を抑制することが可能となる。
本実施の形態に係る量子カスケード半導体レーザ11では、埋め込み領域15の第1半導体層19が、メサ導波路13に接する側部19aと、支持基体主面21aに接する底部19bとを有しており、この第1半導体層19がp型半導体を備える。
埋め込み領域15内の少なくとも半導体の一部にp型ドーパントが添加されているので、浸み出し光成分は、半導体内のp型ドーパントに吸収されて減衰する。これ故に、埋め込み領域15の上記構造は、埋め込み領域15への浸み出しが小さい基本横モードM0を余り減衰させず、浸み出しが大きい高次横モード(例えばM1)のみを選択的に顕著に減衰させることを可能にする。その結果、例えば電流増加時の高次モード発振を選択的に効果的に低減することが可能となり、低い注入電流域から高い電流注入域の広い範囲で安定して基本横モードのレーザ発振が可能になる。
量子カスケード半導体レーザ11では、支持基体21は、一例の構造は以下のものである。支持基体21は、InP基板及び該InP基板上のn型InP半導体層からなることができ、或いはn型InP基板をそのまま使用することができる。支持基体21がInP基板を含むとき、メサ導波路13がn型上部クラッド層25を含む構造では、n型上部クラッド層25はInP半導体からなることができる。
図3は、量子カスケード半導体レーザのためのコア層の一例を示す図面である。量子カスケード半導体レーザ11では、コア層23は、発光のための複数の発光層31と、この発光層31にキャリアを注入するための複数の注入層33とを含む。これら発光層31及び注入層33は交互に配列されており、発光層31及び注入層33の各々はGaInAs/AlInAsの超格子列を含むことが好ましい。図1に示されるように、量子カスケード半導体レーザ11は、コア層23に隣接して設けられる光閉じ込め層41、43を備えることができる。光閉じ込め層41は、コア層23と上部クラッド層25との間に設けられる。光閉じ込め層43は、コア層23と支持基体21(存在する場合には、下部クラッド層)との間に設けられる。光閉じ込め層は、例えばn型GaInAs又はアンドープGaInAs等からなることができる。
図3に示されるように、コア層23は、発光層31及び注入層33から成る単位構造を含み、この単位構造が数十周期の多段に接続される。発光層31及び注入層33の各々は、数nm厚の薄膜の量子井戸層と、同じく数nm厚の薄膜で量子井戸層よりも高バンドギャップのバリア層とが交互に積層された超格子列からなる。
量子カスケード半導体レーザの発光原理を簡単に説明する。量子カスケード半導体レーザでは、キャリアとしては電子のみが利用され、伝導帯における電子のサブバンド間遷移により発光が生じる。図3に示されるように、超格子構造に起因して、発光層中には上準位と下準位1、2の合計3つのサブバンド準位が形成されている。このコア層に電界を印加すると、その電界によって電子にとって高電位側の発光層1の上準位に電子が注入されて下準位1に遷移する。その際に、両準位間のエネルギ差に対応する波長の発光が生じる。ここで、発光層を構成する量子井戸層とバリア層の材料組成、及び膜厚を適切に選択して上準位と下準位1のエネルギ差を調節する。これによって、波長3〜20μmの中赤外発光を得ることができる。中赤外発光に最適な材料として、量子井戸層にはGaInAsが適用され、バリア層にはAlInAsが適用される。これらの材料をコア層超格子列に用いることにより、伝導帯サブバンド間遷移による、波長3〜20μmの中赤外領域で発振可能な量子カスケード半導体レーザを実現できる。
次に、発光層1の下準位1に遷移した電子は、LOフォノンを放出して、更にその下の下準位2へ高速に緩和した後に、注入層1を経由して隣の単位構造の発光層2の上準位に注入される。この説明から理解されるように、下準位2は、下準位1に遷移した電子を高速に緩和させて下準位1のキャリアを枯渇させ、上準位との間でのキャリアの反転分布を効率よく形成するために用いられる。また、注入層は、図3に示すように、多数のサブバンド準位が密集したミニバンドと呼ばれる電子の輸送路が形成された構造となっていることができ、この電子の輸送路を電子が通過して、次の発光層へスムーズに注入される。発光層2に注入された電子は発光層1同様に発光遷移した後に、注入層2を経由して次の単位構造の発光層3に受け渡され、以下同様にして、多段に接続された各単位構造で発光遷移が繰り返される。量子カスケード半導体レーザの出力光としては、各単位構造での発光が足し合わさって放出されるが、電流注入増加と共に、発光が強まり、やがて発振閾値に達すると、光学利得が内部ロスや共振器ロスを上回って発振が生じる。
このようにコア層としては、注入層と発光層が多段接続された構造が用いられ、発光層間を注入層で接続することで、電子は隣接する発光層に連続的にスムーズに受け渡されて、伝導帯サブバンド間遷移による発光が効率よく生じる。この説明から明らかなように、量子カスケード半導体レーザでは伝導帯のみを用い、伝導帯サブバンド間の電子遷移により発光が生じる。
一方、光通信等で用いられるpn接合を用いた半導体レーザでは、伝導帯の電子が価電子帯にバンド間遷移し、価電子帯のホールと再結合する際に放出する遷移エネルギにより発光が生じる。したがって、量子カスケード半導体レーザは、pn接合を用いたレーザダイオードと異なる原理により発光している。
再び図1を参照すると、量子カスケード半導体レーザ11は、埋め込み領域15の上面15b及びメサ導波路13の上面13bを覆うn型半導体層28を備えることができる。n型半導体層28は、n型上部クラッド層25及びn型コンタクト層26を含む。このn型上部クラッド層25の一部はメサ導波路13内に設けられることができる。また、量子カスケード半導体レーザ11は絶縁膜27を備え、絶縁膜27はn型半導体層28の上面28b上に設けられる。この絶縁膜27上には、電極29が設けられる。絶縁膜27は、n型半導体層28の上面28bに設けられた開口27aを有する。電極29は絶縁膜27の開口27aを介してn型コンタクト層26の上面26bに接触を成す。上記の通り、この量子カスケード半導体レーザでは、下部を除く上部クラッド層25の領域とコンタクト層26が、メサ導波路13には含まれない低メサ導波路となっており、これに起因して後述の通り、種々の改善が得られる。支持基体21の裏面21bには、電極30が接触を成す。
量子カスケードレーザ11の一実施例では、第1半導体層19のp型半導体は6.0×1016cm−3以上のp型ドーパント濃度を有することが好ましい。p型半導体のp型ドーパント濃度が6.0×1016cm−3以上であるとき、光導波路内の基本横モードM0を余り減衰させず、埋め込み領域15に浸み出す高次横モードを顕著に減衰させることに有効であり、埋め込み領域15は、高次横モード抑制のための光吸収に寄与できる。また、p型半導体のp型ドーパント濃度の上限は例えば1×1020cm−3以下である。
量子カスケード半導体レーザ11は、図1の(b)部に示されるように、メサ導波路13の側面13a及び支持基体21の主面21a上に設けられた半絶縁性の第2半導体層17を更に備えることができる。第1半導体層19及び第2半導体層17は埋め込み領域15を構成する。第2半導体層17は、メサ導波路13の側面13aと第1半導体層19との間に設けられた第1部分17aと、支持基体21の主面21aと第1半導体層19との間に設けられた第2部分17bとを含むことができる。
この量子カスケード半導体レーザ11によれば、第2半導体層17の第1部分17aがメサ導波路13の側面13aと第1半導体層19との間に設けられると共に第2半導体層17の第2部分17bが支持基体主面21aと第1半導体層19との間に設けられるので、第1半導体層19による光吸収及び埋め込み領域15の高抵抗化に加えて、第2半導体層17の半絶縁性が埋め込み領域15の更なる高抵抗化の強化に役立つ。このため、埋め込み領域15へのキャリアの侵入による漏れ電流の発生がより低減されて、電流はメサ導波路により強く狭窄される。その結果、量子カスケード半導体レーザ11の閾値電流の低減等の発振特性の更なる改善が得られる。
一実施例では、埋め込み領域15内の第2半導体層17は、メサ導波路13の側面13aに接する側部17aと、支持基体21の主面21aに接する底部17bとを有することができる。
量子カスケード半導体レーザ11は、図1の(c)部に示されるように、第1の半導体層19に加えて、埋め込み領域15の上面を覆う、或いは埋め込み領域15の上面を構成する半絶縁性半導体層20を更に備えることができる。半絶縁性半導体層20は第2半導体層17及び第1半導体層19と一緒になって埋め込み領域15を構成する。半絶縁性半導体層20は、メサ導波路13の上端近傍で第2半導体層17に接続されていることが好ましい。
この量子カスケード半導体レーザによれば、埋め込み領域15のp型半導体領域は、半絶縁性半導体層20並びに第2半導体層17の第1部分17a及び第2部分17bによって、他の導電領域から電気的に分離される。これによって、埋め込み領域15に全体としてより高い抵抗になるような構造を付与でき、埋め込み領域15に流れる漏れ電流の更なる抑制が可能になる。その結果、メサ導波路領域13への電流狭窄がより強まるので、量子カスケード半導体レーザ11のしきい値電流の更なる低減を期待できる。
埋め込み領域15の第1半導体層19はInP及びAlInAsのいずれか一方であることが好ましい。埋め込み領域15の第2半導体層17はInP及びAlInAsのいずれか一方であることができる。埋め込み領域15の一部分又は全てがInP及びAlInAsを含むとき、p型ドーパントによる安定した光吸収を提供できる。
図1の(b)部及び(c)部に示された量子カスケード半導体レーザ11では、第2半導体層17は第1半導体層19と異なる半導体材料からなることができる。このとき、第2半導体層17が第1半導体層19と異なる半導体材料からなるので、埋め込み領域15の設計の自由度が増して、構造最適化や特性改善の検討がより容易となる。
また、第2半導体層17は第1半導体層19より高いバンドギャップを有する半導体材料からなることが好ましい。第2半導体層17のバンドギャップが第1半導体層19のバンドギャップより高いので、第2半導体層17は、メサ導波路13を流れる電子に対して第1半導体層19より高いエネルギー障壁を提供する。従って、第2半導体層17は、その高いエネルギー障壁に起因して、電子に対して埋め込み領域15を一層高抵抗化するため、メサ導波路領域13への電流狭窄がより強化される。その結果、量子カスケード半導体レーザ11の発振特性が更に改善される。また、第2半導体層17に第1半導体層19に比べて低い屈折率の材料を用いれば、埋め込み領域15とメサ導波路領域13との屈折率差を大きくでき、基本モードの導波光を導波路メサ領域13内により強く閉じ込めることができる。この結果、より安定な基本モード発振を得ることが期待できる。
量子カスケード半導体レーザ11は、図1の(d)部に示されるように、図1の(a)部に示される埋め込み領域15の第1半導体層19に追加して,第3半導体層24を備えることができ、第3半導体層24は、メサ導波路13を埋め込むようにメサ導波路13の側面13a上、及び支持基体主面21a上に設けられる。第3半導体層24は第1半導体層19と一緒になって埋め込み領域15を構成する。第3半導体層24は第1半導体層19と異なる材料、または異なる導電型、または異なるドーパント濃度の半導体材料からなることができる。第3半導体層24が、半絶縁性半導体、p型半導体及びアンドープ半導体の少なくともいずれか一方を含み、この第1半導体層19がメサ導波路13と第3半導体層24との間に設けられると共に第3半導体層24と支持基体主面21aとの間に設けられる。本構造においても、p型の第1半導体層19と隣接する各n型半導体領域と第1半導体層19との界面にpn逆バイアス接合が形成されるため、埋め込み領域15は電子に対し高抵抗化される。その結果、本領域はメサ導波路13へキャリア(電流)を狭窄するための電流ブロック層としても機能する。量子カスケード半導体レーザ11では、第3半導体層24は、上記図1の(a)部の埋め込み領域15に適用した場合と同様に、図1の(b)部及び(c)部に示される埋め込み領域15に対しても、第1半導体層19に追加して設けられることができる。この量子カスケード半導体レーザ11によれば、第3半導体層24の付加により、埋め込み領域15の設計の自由度が増し、また素子特性改善の検討がより容易となる。
一実施例では、量子カスケード半導体レーザ11では、第3半導体層24はアンドープ半導体を含むことが好ましい。アンドープ半導体は低いキャリア濃度であるので、アンドープ半導体からなる第3半導体層24は高い比抵抗を有する。これ故に、埋め込み領域15に流れる漏れ電流がより抑制され、メサ導波路領域13への電流狭窄がより強まる。この結果、閾値電流の更なる低減が期待できる。また、アンドープ半導体は高いドーパント濃度のn型半導体より高い熱伝導を有するので、量子カスケード半導体レーザ11の放熱性が向上される。
また、一実施例では、量子カスケード半導体レーザ11では、第3半導体層24は半絶縁性半導体を含むことが好ましい。半絶縁性半導体は埋め込み領域15の高抵抗化に役立つ。量子カスケード半導体レーザ11では、半絶縁性半導体は、Fe、Ti、Cr、またはCoのうちの何れかの遷移金属がドープされた半導体であることができる。第3半導体層24の半絶縁性は、上記の遷移金属の添加により提供される。これらの遷移金属をドーパントとしてInPやAlInAs等の半導体に添加することにより、第3半導体層24の半導体に半絶縁性を付与でき、キャリア(電子)に対して例えば10Ωcm以上の高い比抵抗を提供できる。このような第3半導体層24の非常に高い比抵抗のため、埋め込み領域15に流れる漏れ電流がより抑制され、メサ導波路領域13への電流狭窄がより強まる。この結果、閾値電流の更なる低減が期待できる。また、半絶縁性半導体は高いドーパント濃度のp型半導体より高い熱伝導を有するので、量子カスケード半導体レーザ11の放熱性が向上される。
量子カスケード半導体レーザ11の一実施例では、第2半導体層17は半絶縁性半導体からなるとき、埋め込み領域15の第2半導体層17は、メサ導波路13の側面13a及び支持基体主面21aの全体を覆うことが好ましい。第2半導体層17がメサ導波路側面13aを覆うので、コア層23の側面23a(メサ導波路13がn型上部クラッド層25を含むときはその側面25aとコア層23の側面23a)が第2半導体層17で覆われる。第2半導体層17は半絶縁性半導体であるので、メサ導波路13を埋め込み領域15の第1半導体層19から半絶縁性半導体で電気的に分離できると共に第1半導体層19のp型半導体によりメサ導波路13における伝搬の高次モードを抑制できる。
さらに、一実施例では、量子カスケード半導体レーザ11では、第3半導体層24はp型半導体を含むことができる。第3半導体層24が第1半導体層19と異なるp型ドーパント濃度のp型半導体からなるとき、埋め込み領域15の設計の自由度を増加でき、構造最適化や特性改善の検討をより容易にする。第3半導体層24のp型半導体は第1半導体層19のp型ドーパント濃度より低いp型ドーパント濃度を有することが好ましい。第3半導体層24が第1半導体層19より低いp型ドーパント濃度を有するので、第3半導体層24は高い比抵抗を有する。これ故に、埋め込み領域15に流れる漏れ電流がより抑制され、メサ導波路領域13への電流狭窄がより強まる。この結果、閾値電流の更なる低減が期待できる。また、低いドーパント濃度のp型半導体から成る第3半導体層24は、高いドーパント濃度のp型半導体から成る第1半導体層19より高い熱伝導を有するので、本埋め込み領域の構造によれば、量子カスケード半導体レーザ11の放熱性が向上される。或いは、第3半導体層24のp型半導体は第1半導体層19のp型ドーパント濃度と同じか、より高いp型ドーパント濃度を有していてもよい。
量子カスケードレーザ11の一実施例では、第3半導体層24のp型半導体は1×1015cm−3以上のp型ドーパント濃度を有することが好ましい。p型半導体のp型ドーパント濃度が上記の値以上であるとき、p型ドーパントは、例えばZn、Be、C等であることができる。これらの元素をp型ドーパントとしてInPやAlInAs等の半導体に添加することにより、埋め込み領域15内の半導体にp導電性を付与でき、n型上部クラッド層25のn型半導体に対してpn接合を形成できる。このため、このpn接合が逆バイアスされるとき、キャリア(電子)に対して高いポテンシャル障壁を提供できる。従ってp導電性の半導体から成る第3半導体層24はメサ導波路13に対して電流ブロック層として良好に機能する。この埋め込み領域15は、光導波路内の基本横モードM0を余り減衰させず、埋め込み領域15に浸み出す高次横モードを顕著に減衰させることに有効であり、埋め込み領域15は、高次横モード抑制のための光吸収に寄与できる。また、第3半導体層24のp型半導体のp型ドーパント濃度の上限は例えば1×1020cm−3以下である。
量子カスケード半導体レーザ11では、第1半導体層19の屈折率は第3半導体層24の屈折率より低いことが好ましい。第1半導体層19の屈折率が第3半導体層24の屈折率より低いので、埋め込み領域15とメサ導波路13との屈折率差を大きくできる。このため、基本モードが導波路メサ領域中13により強く閉じ込められるので、基本モード発振をより安定に期待できる。
これまで説明してきた埋め込み領域15の材料について説明する。第1半導体層19はp型のInP及びAlInAsのいずれか一方であることができる。この量子カスケード半導体レーザ11によれば、これらの材料にp型ドーパントを大量に添加するとき、p型ドープのInP及びAlInAsは添加量に応じて高い光吸収性を示して、高次モード抑制のために寄与すると共に、p型の第1半導体層19と隣接する各n型半導体領域と第1半導体層19との界面にpn逆バイアス接合が形成されるため、埋め込み領域15は電子に対し高抵抗化され、その結果、メサ導波路13へキャリア(電流)を狭窄するための電流ブロック層としても機能する。また第3半導体層24に、低いp型ド−パント濃度やアンドープ、または半絶縁性のInP及びAlInAsの半導体層を用いれば第3半導体層24は電子に対し高抵抗化されるため、埋め込み領域15への漏れ電流をより低減できる。更に、AlInAsは高いバンドギャップを示すので、これを第2半導体層17に用いれば、第2半導体層17の高バンドギャップ化に起因して、電子に対して埋め込み領域15をより高抵抗化できるため、埋め込み領域15への漏れ電流をより低減できる。従って、第1半導体層19、第2半導体層17、または第3半導体層24に上記各半導体層を用いれば、埋め込み領域15への漏れ電流が低減され、電流をメサ導波路領域13に強く狭窄できる。このため、より良好な量子カスケード半導体レーザの特性が得られる。
また、AlInAsは低屈折率を示すので、これを第1半導体層19や第2半導体層17に用いれば、埋め込み領域15と導波路メサ領域13との屈折率差の拡大を可能にし、基本モードが導波路メサ中により強く閉じ込められて、より安定な基本モード発振を得ることが期待できる。
第2半導体層17はInP及びAlInAsのいずれか一方であることができる。これらの材料に遷移金属を添加するとき、遷移金属ドープのInP及びAlInAsは添加量に応じて高い抵抗を示す。また、第3半導体層24はInP及びAlInAsのいずれか一方であることができる。第3半導体層24に低いp型ド−パント濃度やアンドープ、または半絶縁性のInP、またはAlInAsの半導体層を用いれば、第3半導体層24は高抵抗化されるため、埋め込み領域15への漏れ電流をより低減できる。またInP及びAlInAsは、基板としてInP基板を用いるとき、基板に格子整合を為して、良好な結晶成長が可能になる。
図1の(c)部及び図1の(d)部に示される量子カスケード半導体レーザ11では、第3半導体層24は第2半導体層17と異なる半導体からなることができる。また、第3半導体層24は第1半導体層19と異なる半導体からなることができる。
この量子カスケード半導体レーザによれば、第3半導体層24が第2半導体層17または第1半導体層19と異なる半導体を備えるとき、埋め込み領域15の設計の自由度が高まる。材料の組み合わせに関する一実施例では、第1半導体層19、第2半導体層17および第3半導体層24は、それぞれ、例えば第1半導体層19はp型AlInAs、第2半導体層17は半絶縁性のAlInAs、第3半導体層24はp型、アンドープ、または半絶縁性のInPからなることが好ましい。
図1の(b)部及び図1の(c)部に示される量子カスケード半導体レーザ11の埋め込み領域15に更に第3半導体層24が付加される場合は、第2半導体層17は第3半導体層24より低い屈折率の半導体を備えることが好ましい。第2半導体層17が低屈折率の材料からなるとき、埋め込み領域15の実質的な屈折率と導波路メサ領域13の屈折率との屈折率差を拡大でき、メサ導波路13を伝搬する光の基本モードが導波路メサ領域13により強く閉じ込められる。従って、この埋め込み領域15は、より安定な基本モード発振を可能にする。
図1の(b)部及び図1の(c)部に示されるに示される量子カスケード半導体レーザ11では、第1半導体層19は第2半導体層17に接触を成す。埋め込み領域15では、コア層23の側面23a上において、第2半導体層17の層厚は、コア層23の側面23a上における第1半導体層19の層厚より小さい。ここで、層厚は、支持基体主面21aの法線軸に直交する方向に規定される。埋め込み領域15では、コア層23の側面23a上における第2半導体層17の層厚がコア層23の側面23a上における第1半導体層19の層厚より大幅に薄いので、埋め込み領域15において、高次モードの大半は第1半導体層19に分布する。従って、第1半導体層19は、コア層23から埋め込み領域15に浸み出す高次モード抑制のための光吸収に効果的に寄与する。
図1の(d)部に示される量子カスケード半導体レーザ11では、埋め込み領域15は、第1半導体層19と、第1半導体層19に接触を成す第3半導体層24とを含む。埋め込み領域15では、コア層23の側面23a上における第1半導体層19の層厚はn型上部クラッド層25の側面25a上における第1半導体層19の層厚より大きい。コア層23の側面23a上における第1半導体層19の層厚がn型上部クラッド層25の側面25a上における第1半導体層19の層厚より大きいとき、埋め込み領域15において、高次モードの大半は第1半導体層19に分布する。従って、第1半導体層19は、コア層23から埋め込み領域15に浸み出す高次モードの抑制に寄与する。
既に図2を参照しながら、量子カスケードレーザに固有の問題を説明した。ここでは、量子カスケードレーザにおける課題を別の視点から説明する。特に中赤外領域では、光通信領域(例えば、波長1.3〜1.6μm)に比べて、材料の特性に起因して、電流未注入時においても発光層と埋め込み層との間の屈折率差が小さくなる。これ故に、中赤外領域では、屈折率差の低下に起因して、メサ導波路領域へ基本モードを閉じ込める能力が低下する。したがって、上記電流注入時の屈折率や利得分布の変動によって、基本モードが不安定化しやすくなるだけでなく、高次モードが発振する条件が光通信領域に比べて満たされやすい。
図4は、量子カスケードレーザのための発光層の材料(典型材料GaInAs)及び埋め込み層の材料(典型材料:InP)の屈折率の波長依存性を計算した結果を示す。GaInAsの屈折率の波長依存性は、非特許文献1の第36頁の式(2.14)を利用して計算される。InPの屈折率の波長依存性は、非特許文献2の第556頁の図面16.10.5の式を利用して計算される。
図4に示されるように、例えば典型的な光通信波長である1.55μm帯においては、両材料の屈折率差が0.36程度の大きな値であるのに対して、中赤外領域では屈折率差が急減し、例えば波長8μm帯では屈折率差が0.24程度であり、波長1.55μm帯における屈折率差に比べて、30%以上と大幅に屈折率差が減少する。したがって、中赤外波長領域は、光通信波長帯に比べて、電流注入時の屈折率や利得分布の変動によって、基本モードがより不安定化しやすい。その結果、高次モードがより発振しやすい。高次モードの発振は、実用上の障害を生じさせる故に、これを回避する必要がある。
本実施の形態では、高次モードの発振を回避する方策として、埋め込み領域にp型半導体層を適用し、このp型半導体層の光吸収能を利用して、高次モードを選択的に抑制する構造を量子カスケードレーザに用いる。
図2に示すように、高次横モードは、基本横モードに比べて水平横方向に大きく広がって分布する。これ故に、高次横モードは、基本モードに比べて、埋め込み領域に大きなエネルギー分布を有する。ここで、埋め込み領域中の光閉じ込め係数(つまり、ある導波光モードの全エネルギーに対する、埋め込み領域中に存在する部分エネルギーの比率)を用いて、埋め込み領域に存在する光の分布を見積もると、図2に示された2つのモードに関して、基本横モードの光閉じ込め係数は6.2%程度であり、基本横モードは埋め込み領域に僅かしか分布していない。しかしながら、1次横モードの光閉じ込め係数は33.7%程度であり、1次横モードは埋め込み領域中へより多く分布している。したがって、埋め込み領域に中赤外領域の光を吸収する半導体層を含むとき、この半導体層は、基本横モードを余り減衰させず、高次横モードを選択的に減衰させることが可能となる。従って、本実施の形態に係る量子カスケードレーザは、埋め込み領域15を用いることで、基本モードの発振には影響を与えず、高次モードの発振を抑制できる。
非特許文献3に示されるように、Fe添加InP半絶縁性半導体は、エネルギ0.6eV以上(換算2.07μm以下の波長)の光を吸収する。このため、光通信帯の光に対しては光吸収層として機能するが、中赤外波長領域の光を実質的に吸収しないので、光吸収層としては機能しない。一方、p型ドーパントを含む半導体では、そのドーピングにより生成されたキャリアによる価電子帯間光吸収等の光吸収が生じ、この吸収は、長波長化に伴い急激に増大するので、波長が長い中赤外領域では強い光吸収を示す。
非特許文献4の第200頁の図面2には、埋め込み領域に用いられる半導体として最も一般的なInPにp型ドーパントを添加したときの、p型添加InPの光吸収係数の波長依存性が示されている。この結果に従うとき、光通信波長帯(1.3〜1.6μm帯)における吸収係数は0.5cm−1未満と小さいが、中赤外波長領域ではその吸収係数が急増する。従って、中赤外波長領域では、大きな吸収効果が得られる。例えば中赤外波長である8μm帯においては、非特許文献4の図2中における添加密度6×1016cm−3のp型InP半導体でも、6cm−1程度の大きな吸収係数が得られる。
量子カスケードレーザの共振器長をLとおき、光吸収のための埋め込み領域の光吸収係数をαとおき、埋め込み領域の光閉じ込め係数をΓとおく。
量子カスケードレーザの一方の反射端面から他方の反射端面まで導波光が伝搬する際に、この導波光が埋め込み領域における光吸収により被るエネルギー減衰量、つまり、導波前のエネルギーのうち導波中に消失したエネルギーの割合は、(1−exp(−Γ×α×L))×100(%)で求められる。
例えば、埋め込み領域15が図1の(a)部に示すように第1半導体層19のみで構成される構造を有し、更に第1半導体層19が6.0×1016cm−3のドーパント濃度のp型InPから成る量子カスケードレーザにおいて、8μm波長帯における導波モードのエネルギー減衰量を計算する。共振器長Lを3mmとおき、光吸収係数αを6cm−1(6.0×1016cm−3のドーパント濃度における値)とおき、8μm帯の基本横モード及び1次横モードの埋め込み領域中の光閉じ込め係数Γを上記の通り、それぞれ6.2%及び33.7%とおく。計算によれば、上記の端面間にわたる光導波に際して、埋め込み領域により被るエネルギー減衰量は、基本横モードにおいて10.6%程度あるのに対して、1次横モードでは45.5%程度であり、この値は基本横モードのエネルギー減衰量に比べて4倍以上大きい。この理由は以下のものである:1次横モードは基本横モードに比べて埋め込み領域15中の光閉じ込め係数Γが大きく、即ち埋め込み領域中を導波する導波光成分のエネルギー比率が大きいので、基本横モードに比べて埋め込み領域で遥かに強い吸収を被る。なお、1次横モードより高い高次横モードは、1次横モードに比べて、更に水平横方向に広がって分布するので、これらの高次横モードの光閉じ込め係数Γは更に大きい値であり、これ故に、高次横モードは、1次横モード以上に埋め込み領域により強く吸収されて、減衰される。
この説明から理解されるように、埋め込み領域15は、基本モードを余り減衰さることなく、高次モードのみを選択的に顕著に減衰させる。その結果、埋め込み領域15は、電流増加時の高次モード発振を効果的に抑制でき、高注入電流においても基本横モードでの安定した発振を可能にする。
非特許文献4の図面2に示されるように、p型半導体の自由キャリア吸収による光吸収は、光通信の波長帯では急激に弱まる。p型ドーパント濃度6.0×1016cm−3のInPでは、波長8μm帯における吸収係数は6cm−1と大きいけれども、光通信波長域の波長1.55μm帯における吸収係数は0.4cm−1程度であり、大きく減少する。この場合、上記と同様にして求めた減衰量(端面間での導波における1次横モードの減衰量)は、閉じ込め係数Γが100%、即ち1次横モードの光成分の全体が埋め込み領域に分布すると仮定して1次横モードが最も強い吸収を被る場合を想定しても、11%程度であり、この値は減衰が僅かであることを示す。したがって、量子カスケード半導体レーザ11の埋め込み構造は、光通信波長帯(1.3〜1.6μm)では高次横モードの発生を効果的に抑制することはできない。即ち、量子カスケード半導体レーザ11の構造は、p型半導体による光吸収が顕著に生じる波長域、つまり中赤外波長領域、遠赤外波長域、テラヘルツ波長域といった長波長領域(つまり、光通信帯より長い波長領域)において、高次横モード抑制の効果を発揮できる。また、p型半導体のドーパント濃度としては、高いドーパント濃度はより強い光吸収を提供できる点で好ましいが、上記のような6.0×1016cm−3以上のp型ドーパント濃度であれば、高次モード抑制のための光吸収を充分に得られると思われる。
上記の説明は、埋め込み領域の半導体としてInPについて説明したが、InPには限定されることなく、他の半導体、AlInAs、GaInAs、AlGaInAs、GaInAsP等においても適用される。
p型のドーパントとしては亜鉛(Zn)等を使用できる。また、n型ドーパント及びp型のドーパントを共添加して、埋め込み領域が正味の導電型としてp型導電性を示すように、複数のドーパントを添加してp型半導体を作製することもできる。n型ドーパントとしてはシリコン(Si)、イオウ(S)、錫(Sn)、セレン(Se)等を使用できる。
図5は、本実施の別の形態に係る量子カスケード半導体レーザを模式的に示す図面である。量子カスケード半導体レーザ11aは、絶縁膜27及び電極29を更に備えることができる。量子カスケード半導体レーザ11aでは、絶縁膜27は、埋め込み領域15の上面15bを覆う。電極29は絶縁膜27上に設けられる。絶縁膜27は、メサ導波路13の上面13bに設けられた開口27aを有する。電極29は絶縁膜27の開口27aを介して前記メサ導波路13の上面13bに接触を成す。絶縁膜27が埋め込み領域15の上面15bを覆うと、絶縁膜27の開口27aがメサ導波路上面13bに位置するので、電極29からの電流が、この開口27aを介してメサ導波路13に選択的に提供される。支持基体21の裏面21bには、電極30が接触を成す。
図5を参照すると、量子カスケード半導体レーザ11aでは、n型上部クラッド層25の全てが、メサ導波路13内に設けられている。量子カスケード半導体レーザ11aでは、絶縁膜27が埋め込み領域15の上面15bを覆い、電極29が絶縁膜27上に設けられている。絶縁膜27は、メサ導波路13の上面13bに設けられた開口27aを有しており、電極29はこの開口27aを介してメサ導波路13の上面13bに接触を成す。必要な場合には、メサ導波路13は、電極29に接触を成しn型上部クラッド層25上に設けられたコンタクト層26を含むことができる。この量子カスケード半導体レーザ11aによれば、絶縁膜27が埋め込み領域15の上面15bを覆うと、絶縁膜27がメサ導波路13の上面13bに設けられた開口27aを有するので、電極29からの電流がこの開口27aを介してメサ導波路13に選択的に注入される。埋め込み領域15は、図1の(a)部、(b)部、(c)部及び(d)部のいずれかに示された埋め込み構造を有することができ、上記量子カスケード半導体レーザ11の場合と同様の技術的寄与を得ることができる。
引き続き、図6〜図9を参照しながら、本実施の形態のためのいくつかの実施例を説明する。これらの実施例は、埋め込みヘテロストラクチャー(BH)構造を有する。
(実施例1)
図6〜図9に示される量子カスケード半導体レーザQCL1は、半導体基板上に設けられたメサ導波路と、このメサ導波路を埋め込むようにメサ導波路の両側を覆う埋め込み領域とを備える。メサ導波路は、素子中央部において半導体基板上に設けられ、また下部クラッド層、下部光閉じ込め層、コア層、上部光閉じ込め層、上部クラッド層、及びコンタクト層を含む。埋め込み領域は、メサ導波路の側面に設けられた第1領域と基板の上面に接触を成す第2領域とから構成される。第1領域は、半絶縁半導体及び/又はp型半導体から成る。第2領域は半絶縁半導体及び/又はp型半導体からなる。
メサ導波路に係る構造は以下のものである。
下部クラッド層:n型InP。
下部光閉じ込め層:n型GaInAs。
コア層の発光層:GaInAs/AlInAsの超格子列。
コア層の注入層:GaInAs/AlInAsの超格子列。
上部光閉じ込め層:n型GaInAs。
上部クラッド層:n型InP。
コンタクト層:n型GaInAs。
絶縁膜(誘電体膜):SiO、SiON、SiN、アルミナ。
上部電極:Ti/Au。
半導体基板:n−InP基板。
下部電極:Ti/Au。
本実施例では、基板にはInPを用いる。中赤外領域の発光を生成する量子カスケード半導体レーザを構成する半導体材料はInPに近い格子定数を有するので、InP基板上にQCLを構成する半導体層を良好に結晶成長できる。下部クラッド層及び上部クラッド層には一般にInPが用いられる。InPはInP基板に格子整合するので、InP基板上への良好な結晶成長が容易であり、且つ熱伝導性がよい。このため、InPをクラッド層に用いることより、コア層からの良好な放熱性が得られ、量子カスケード半導体レーザの温度特性が向上する。
BH構造量子カスケード半導体レーザにおいて良好な発振を実現するためには、利得領域であるメサ導波路内に導波光を強く閉じ込めて、効率よく誘導放出を生じさせて、この導波光を増幅する必要がある。導波光の波長が長いほど、導波光は、素子内においてメサ導波路内だけでなくメサ導波路の外側により広がって分布する。このため、メサ導波路内への良好な光閉じ込めのためには、導波光の波長の増加と共にメサ導波路幅も大きくする必要が有る。具体的には、メサ導波路幅には、発振波長と同程度の値を用いることが必要とされる。そのため、図5及び図6に示される構造において、量子カスケード半導体レーザが波長3〜20μmの中赤外波長の光を生成する場合は、量子カスケード半導体レーザの発振波長と同程度の3〜20μm程度の広いメサ幅が適用される。
(構造例1)
埋め込み領域は、図6に示されるように、その全体がp型半導体から成る。この埋め込み領域は、第1領域、第2領域及び第3領域を有する。
第1領域がメサ導波路に接触を成すと共に、第2領域が基板又は下部n型クラッド層に接触を成し、絶縁膜は第3領域に接触を成す。
(構造例2)
埋め込み領域は、図7に示されるように、埋め込み領域の半導体領域Aはp型半導体から成り、埋め込み領域の半導体領域Bはこの半導体領域A及びメサ導波路に接触を成すように、半導体領域Aとメサ導波路との間に設けられた半絶縁性半導体からなる。絶縁膜は半導体領域Aに接触を成す。半導体領域Aのp型半導体は、半絶縁性半導体によって、メサ導波路、及びメサ導波路に接続される導電体から隔置される。本構造では、半導体領域Bの半絶縁性により、埋め込み領域がより高抵抗化する。このため、埋め込み領域へのキャリア(電子)の侵入による漏れ電流の発生がより低減されて、電流はメサ導波路により強く狭窄される。その結果、閾値電流の低減等の量子カスケード半導体レーザの発振特性の更なる改善が得られる。
また、p型半導体層としては、例えば、亜鉛(Zn)等のp型ドーパントを添加することで、InPやAlInAs等にp型導電性を提供できる。既に説明したように、p型InPやp型AlInAs等のp型半導体は、中赤外波長以上の長い波長の光を強く吸収する。したがって、p型半導体を半導体領域Aに適用するとき、半導体領域Aは、電流閉じ込め性に加えて、高次横モードの光成分を吸収する光吸収層としても機能するため、高次モード発振をより効果的に抑制できる。
Zn等をp型ドーパントに用いるp型半導体は、低温成長でも良好な結晶性を実現できる。例えば、Znドープp型半導体層は、例えば摂氏530度〜540度といった摂氏500度台の低温の成長でも良好な結晶性を有する。一方、例えばFe等の遷移金属をドープした半絶縁性半導体は、摂氏650度以上の高温の成長が必要である。
超格子列で構成されるコア層は、超格子列内部の隣接する多数の半導体層の界面において、熱的ストレスによる原子の相互拡散及びこの相互拡散に起因する結晶歪が生じやすく、相互拡散及び結晶歪が原因となって、結晶組成の変動や結晶性の劣化が発生しやすい。そこで、半導体領域Aに低温成長可能なp型半導体を用いれば、半絶縁性半導体を用いる場合に比べて、埋め込み領域の成長中にコア層が被る熱的なストレスを軽減できる。その結果、熱的なストレスによる、コア層の組成変動や結晶性の劣化を抑制することができ、これらに起因する、素子特性劣化や信頼性劣化を回避できる。
半導体領域Bを構成する半絶縁性半導体は、半導体領域Aと同じであるものに限定されることはなく、必要に応じて、半導体領域Aとは異なる材料を半導体領域Bに使用できる。このように、異なる半導体材料を組み合わせることで、埋め込み領域の設計の自由度が増し、構造最適化や特性改善の検討がより容易となる。
例えば、半導体領域Bが、半導体領域Aに比べて高いバンドギャップの半導体からなることができる。高バンドギャップの半導体としては、例えばAlInAsがある。AlInAsは、クラッド層等に用いられるInPよりも高いバンドギャップを有するので、これを半導体領域Bに用いれば、InPを半導体領域Bに用いる場合に比べて電子に対するエネルギー障壁を増大させることができる。
この構造では、半導体領域Bの高バンドギャップ化に起因して、半導体領域Bに隣接する半導体層(クラッド層やコア層、光閉じ込め層、基板)と半導体領域Bとの間のバンドオフセットに起因する伝導帯端のエネルギー不連続が増加し、両者間に形成される電子に対するエネルギー障壁が増大する。このため、本構造では、半絶縁性半導体の高抵抗性に加えて、バンドオフセットによるエネルギー障壁増加の効果により、隣接層から埋め込み領域への電子の侵入をより強く抑制できる。したがって、埋め込み領域は、電子に対してより高い抵抗を示すようになるので、電流はメサ導波路領域により強く狭窄される。この結果、より良好な発振特性が得られる。
しかしながら、AlInAsは、成長条件や成長面の形状等により組成変動しやすい3元混晶で、且つ酸化されやすいAlを含むため、厚膜を結晶性良く成長するのは容易ではない。また熱伝導がInPより1桁悪い。従って、熱伝導、及び結晶成長の点から、埋め込み領域全体をAlInAsで形成する必要はない。例えば、上記高バンドギャップ材料が好適な半導体領域Bのみにこれを用い、半導体領域Aには、AlInAsよりもバンドギャップは小さいが、熱伝導が良好で、結晶成長も容易なInPを用いた方が、量子カスケード半導体レーザの製造上、及び温度特性上、好ましい。
半導体領域A及び半導体領域Bに用いられるAlInAsやInPといった半導体はInP基板と格子整合するので、良好な結晶成長が可能であり、かつ既に説明したように、p型ドーパントの添加により中赤外波長域においても十分な光吸収性を示し、高次モード抑制のために役立つ。
(構造例3)
埋め込み領域は、図8に示されるように、埋め込み領域の半導体領域Aはp型半導体から成り、埋め込み領域の半導体領域Bは、この半導体領域A、メサ導波路、下部クラッド層、及び絶縁膜に接触を成すように、半導体領域Aとメサ導波路との間、半導体領域Aと下部クラッド層との間、及び半導体領域Aと絶縁膜との間に設けられた半絶縁性半導体からなる。半導体領域Aのp型半導体は、半導体領域Bの半絶縁性半導体によって、メサ導波路、及びメサ導波路に接続される導電体から電気的に隔置される。絶縁膜は上部電極と半導体領域Bとの間に設けられる。
構造例1、構造例2および構造例3に適用された光閉じ込め層は、QCLに必須ではなく、光閉じ込め層が無い場合でもコア層に導波光が充分に閉じ込められるときには用いられない。同様に、コンタクト層は、QCLに必須ではなく、半導体層と上部電極との良好なオーミックコンタクトが得られる場合は不要である。更に、下部クラッド層もQCLに必須では無く、基板が下部クラッド層として兼用できない場合等、必要な場合に用いられる。また、絶縁膜もQCLに必須では無く、これが無いと埋め込み領域が電子に対し充分に高抵抗化できない場合等、必要な場合に用いられる。
構造例1〜構造例3を、図5に示された量子カスケード半導体レーザの構造に基づき説明したけれども、これらの構造は、図1に示された量子カスケード半導体レーザの構造にも適用可能である。
構造例1では、埋め込み領域における全体がp型半導体で形成されている。しかしながら、埋め込み領域の構造は、これに限定されるものではなく、例えば構造例2及び構造例3に示されるように、埋め込み領域が半導体領域A及び半導体領域Bから成る場合は、両者は、異なる材料、異なる導電型の半導体を組み合わせて構成されていても良い。これの技術的寄与としては、材料や導電型の違いに起因して屈折率、バンドギャップ、熱伝導、光吸収といった埋め込み領域の特性に関して、埋め込み領域の設計の自由度が増す。
構造例2及び構造例3について、材料が異なる半導体領域A及びBの具体例を示す。図7に示される構造では、例えば、半導体領域Bには低屈折率の材料、例えばAlInAsを用いるのが好ましい。例えば波長8μm帯において、InPの屈折率は3.35程度であるのに対して、AlInAsの屈折率は3.15程度であり、InPの屈折率に比べて低い。したがって、半導体領域Bに低い屈折率の材料(例えばAlInAs)を用いるとき、高い屈折率のInPに比べて、埋め込み領域とメサ導波路領域との屈折率差を大きくでき、導波光の基本モードを導波路メサ領域内により強く閉じ込めることができる。この結果、より安定な基本モード発振を得ることが期待できる。
しかしながら、AlInAsは、成長条件や成長面の形状等により組成変動しやすい3元混晶で、且つ酸化されやすいAlを含むため、厚膜を結晶性良く成長するのは容易ではない。また熱伝導がInPより1桁悪い。従って、熱伝導、及び結晶成長の点から、埋め込み領域全体をAlInAsで形成する必要はない。例えば、上記低屈折率材料が好適な半導体領域Bのみにこれを用い、半導体領域Aには、AlInAsよりも屈折率は高いが、熱伝導が良好で、結晶成長も容易なInPを用いた方が、量子カスケード半導体レーザの製造上、及び温度特性上、好ましい。しかしながら、必要な場合には、半導体領域A及び半導体領域BをAlInAsで形成しても良い。
(実施例2)
構造例1では、埋め込み領域における全体がp型半導体で形成されている。しかしながら、埋め込み領域の構造は、これに限定されるものではなく、埋め込み領域は、異なる材料、異なる導電型、異なるドーパント濃度の半導体を組み合わせて構成されていても良い。埋め込み領域は、例えば図9に示されるように、2種の半導体領域C及びDから構成されることができる。図9の構造においては、導波光の高次横モードを抑制するために、半導体領域Cには、中赤外域の光吸収が可能であるp型半導体が用いられる。一方、半導体領域Dには、必要に応じて、半導体領域Cとは異なる材料、異なる導電型、異なるドーパント濃度の半導体層を使用できる。本構造においても、半導体領域Cの寄与により、実施例1と同様に高次モード抑制に有効である。
埋め込み領域がこのような複数の半導体層からなるとき、個々の半導体層が、異なる材料、異なる導電型、異なるドーパント濃度を有することができ、このとき、材料、導電型、ドーパント濃度の違いに起因して屈折率、バンドギャップ、熱伝導、光吸収といった埋め込み領域の特性に関して、埋め込み領域の設計の自由度が増す。
(構造例4)
図9を参照すると、埋め込み領域では、半導体領域Cは、半導体領域Cに分布する光成分を吸収できるp型半導体からなり、半導体領域Dは、必要に応じ、異なる材料や導電型、ドーパント濃度の半導体層を使用できる。本構造においても、半導体領域Cの光吸収作用により、実施例1と同様の技術的寄与が提供される。
半導体領域Dが半導体領域Cと異なる材料や導電型、ドーパント濃度の半導体からなるとき、これらの違いに起因して、埋め込み領域は、屈折率、バンドギャップ、熱伝導、光吸収といった点で異なる特性の複数の半導体材料を組み合わせて構成できる。これ故に、埋め込み領域の設計の自由度が増し、また素子特性改善の検討がより容易となる。
半導体領域Cと半導体領域Dの材料が異なる具体例としては、例えば半導体領域Cには低い屈折率の材料、例えばAlInAsを用いることが好ましい。例えば8μm波長帯において、InPの屈折率は3.35程度であるのに対して、AlInAsの屈折率は3.15程度であり、AlInAsの屈折率はInPの屈折率より小さい。したがって、半導体領域CをAlInAsといった低い屈折率材料で作製するとき、高い屈折率のInPに比べて、埋め込み領域とメサ導波路領域との屈折率差を大きくでき、基本モードの伝搬光を導波路メサ領域により強く閉じ込めることができる。この結果、より安定な基本モード発振を得ることが期待できる。
しかしながら、AlInAsは、成長条件や成長面の形状等により組成変動しやすい3元混晶で、且つ酸化されやすいAlを含むため、厚膜を結晶性良く成長するのは容易ではない。また熱伝導がInPより1桁悪い。従って、熱伝導、及び結晶成長の点から、埋め込み領域全体をAlInAsで形成する必要はない。例えば、上記低屈折率材料が好適な半導体領域Cのみにこれを用い、半導体領域Dには、AlInAsよりも屈折率は高いが、熱伝導が良好で、結晶成長も容易なInPを用いた方が、量子カスケード半導体レーザの製造上、及び温度特性上、好ましい。しかしながら、必要に応じ、半導体領域DにもAlInAsを適用できる。
メサ導波路の外側における高次モードの殆どは、メサ導波路の近傍における埋め込み領域、つまり半導体領域Cに分布する。このため、高次モード発振抑制のために、半導体領域Cは、光吸収機能を有するドーパント濃度6×1016cm−3程度以上のp型半導体で構成される。一方、半導体領域Dはメサ導波路から離れているため、ここには高次モードは僅かしか存在しない。このため、半導体領域Dには光吸収機能を有する半導体を必ずしも用いる必要は無い。そこで半導体領域Dのドーパント濃度に関しては、ここには半導体領域Cより低いドーパント濃度のp型半導体及び/又はアンドープ半導体といった、光吸収機能が弱い半導体を用いても良い。また、これらの半導体材料は、上記理由からInPであることが好適である。
また、半導体領域Dの導電型に関しては、上記のように半導体領域Dには光吸収機能は不要のため、ここをFeドープInP等の低光吸収の半絶縁性半導体で構成しても良い。
低ドープp型半導体、アンドープ半導体、又は半絶縁性半導体が半導体領域Dに適用されるとき、半導体領域Dに高ドープp型半導体を適用することに比べて、半導体領域Dに高い比抵抗を付与でき、埋め込み領域に流れる漏れ電流を低減できる。この結果、メサ導波路領域への電流狭窄がより強まるので、閾値電流の更なる低減が期待できる。また、低ドープp型半導体、アンドープ半導体、もしくは半絶縁性半導体は、高ドープp型半導体より高熱伝導率を有するので、これらの半導体を半導体領域Dに用いれば、素子の放熱性を向上でき、特性改善を可能にする。このように、半導体領域Dは、半導体領域Cと異なる材料、導電型、ドーパント濃度の半導体で構成することができる。また、半導体領域Dは、材料、導電型、ドーパント濃度の全てにおいて半導体領域Cと異なる必要は無く、これらの何れか1つにおいて異なっていてもよい。
なお、以上では半導体領域C及び半導体領域Dの組み合わせを構造例1の埋め込み領域に適用した場合を説明したが、これを構造例2及び構造例3の埋め込み領域の半導体領域Aにも適用できる。これらに適用した場合でも、構造例1に適用した場合と同様に、上記説明した半導体領域C及び半導体領域Dの組み合わせに起因する寄与を得ることができる。
(実施例3)
ハイメサ構造の量子カスケード半導体レーザを参照しながら、構造例1〜構造例4を説明してきた。ハイメサの導波路構造は、コア層上の上部クラッド層及びコンタクト層の全てを含むように、半導体積層のメサ状エッチングが行われた。構造例1〜構造例4における埋め込み領域の構造は、ハイメサ構造に限定されることなく、図1に示されるような低メサ構造にも適用される。図10は、下部クラッド層上部、コア層、上下の光閉じ込め層、及び上部クラッド層下部を含み、下部以外の上部クラッド層とコンタクト層を実質的に含まない低メサ導波路を含む量子カスケード半導体レーザの構造を示す。この構造においても、上記の実施例と同様に、埋め込み領域のp型半導体層が光吸収層として機能する。このメサ構造により、中赤外波長領域における高次水平横モードの発生が抑制され、量子カスケード半導体レーザが基本モードで安定して発振することを実現できる。
図10に示されるような低メサ導波路構造の利点を説明する。高メサ導波路構造では、コア層に加えて、コンタクト層、上部クラッド層全体の全てを含む高メサ導波路を形成するために、半導体積層を垂直方向に例えば5〜6μm以上といった深いエッチングを行う。このエッチングの場合、垂直縦方向のエッチングの進行に伴い、水平横方向にもサイドエッチによりエッチングが生じる。これ故に、完成されたメサ導波路の断面が矩形を有するように、異方的なエッチングを為すことが困難であり、メサ導波路の断面が台形状になりやすい。この場合、メサ導波路の上端部と下端部では、メサ導波路の幅が異なる。このため、メサ導波路内部において電界強度が異なるようになり、コア層への均一な電界印加が困難となる。量子カスケード半導体レーザでは、通常、均一な電界分布が得られる矩形状のメサ断面を仮定して、コア層内部の設計が行われる。従って、上記のようにメサ断面が矩形から有意に変化すると、設計の前提条件である均一電界の条件が満たされなくなり、量子カスケード半導体レーザの構造設計を精度良く行うことが困難となる。
一方低メサ構造では、上部クラッド層の大部分とコンタクト層がメサ領域に含まれない。このため、ハイメサ構造に比べて少ないエッチング量でメサ導波路を形成できる。これ故に、矩形状のメサ断面形状の実現が容易となる。そのため、高メサ構造に比べて、コア層における均一な電界の生成が容易となる。その結果、量子カスケード半導体レーザの特性を設計通りに実現することが可能となる。
量子カスケード半導体レーザに低メサ構造を採用するとき、メサ導波路を薄い埋め込み領域で埋め込むことができる。これ故に、埋め込み領域の成長時間を構造例1〜構造例4の高メサ構造に比べて短かくできる。したがって、埋め込み領域の成長中にコア層が被る熱的なダメージを低減できる。その結果、熱的なダメージによるコア層の組成変動やコア層の結晶性劣化を抑制することができ、これらに起因する特性劣化や信頼性劣化を量子カスケード半導体レーザにおいて回避できる。
低メサ導波路構造では、メサ導波路及び埋め込み領域上に、大半の上部クラッド領域、及びコンタクト層が形成される。一方、ハイメサ構造ではコンタクト層及び上部クラッド層が狭いメサ領域にしか存在せず、このメサ領域上面に電極が形成される。この構造上の違いにより、低メサ導波路構造は、ハイメサ構造に比べて、素子コンタクト抵抗や素子直列抵抗を低減でき、その結果、量子カスケード半導体レーザの動作電圧が下がるため、量子カスケード半導体レーザの消費電力を低減できる。
更に図1に示される量子カスケード半導体レーザ構造は、図5に示される量子カスケード半導体レーザに対して、メサ高さを大幅に低減できるため、メサエッチング時間を短縮できる。従って、メサエッチングにおけるウエハ面内のメサ形状の均一性の確保や、プロセス毎のメサ形状の再現性の確保が容易となる。
上記全実施例においては、下部nクラッド層の一部がメサ領域に含まれる実施例を説明したけれども、これに限定されず、下部n型クラッド層の全体がメサ導波路領域に含まれていても良い。或いは、下部n型クラッド層はメサ導波路領域に含まれていなくても良い。上記全実施例では、基板はメサ導波路に含まれないけれども、これに限定されるものでは無く、必要に応じて、基板の一部がメサ導波路領域に含まれていても良い。本実施の形態では、上部n型クラッド層の下部分がエッチングされてメサ導波路領域に含まれているけれども、これに限定されるものではなく、上部n型クラッド層は、全くエッチングされずに、またメサ領域に含まれなくてもよい。これら何れの構造においても、上記の各構造例で得られる効果と同じ効果を提供できる。以上埋め込みヘテロストラクチャー型の量子カスケード半導体レーザについて、本実施の形態を説明したが、本発明は、これには限られず、実施例と同様の埋め込みヘテロストラクチャー構造を有する量子カスケード半導体レーザ以外の素子にも、適用可能である。
本実施の形態に関する、発明者らの検討によれば、半導体レーザがしきい値近傍の低電流域で動作するとき、その領域で光学利得が最大の基本モードがまず発振する。しかし、注入電流の増加に伴って、発光層内において空間ホールバーニングと呼ばれるキャリアの不均一な分布が生じることがあり、また、電流増加に伴う発熱による発光層内部の温度の不均一分布が生じる。特に量子カスケード半導体レーザでは、例えば光通信用の半導体レーザに比べて大電力(ワット程度)での駆動に起因して発熱が大きくなるので、発光層における温度分布に顕著な不均一性が生じやすい。電流増加に伴う、このようなキャリアや温度の不均一分布に起因して、発光層内部の屈折率及び利得の分布が動的に変動する。この結果、高次モードの発振が生じやすくなる。
また、中赤外領域の光波長では、光通信領域(波長1.3〜1.66μm)に比べて、半導体材料固有の特性に起因して電流の未注入時においても発光層と埋め込み層との屈折率差が小さい。これ故に、上記のような電流注入時の屈折率や利得分布の変動によって、基本モードが不安定化することに加えて、高次モードが発振する条件が動作中に満たされやすい。
さらに、中赤外量子カスケード半導体レーザでは長い発振波長に関連して広いメサ幅を用いるため、これに起因する高次モード発振の可能性が高まる。
閾値近傍の低電流域では、そのメサ導波路領域で光学利得が最大の基本モードがまず発振するが、電流増加と共に、発光層内において、空間ホールバーニングと呼ばれるキャリアの不均一分布や、電流増加に伴う発熱による発光層内部の温度の不均一分布が生じる。特に、量子カスケード半導体レーザはワット級の大電力駆動に起因して大きな熱を発生し、これ故に、発光層(コア層)の温度分布に不均一が生じやすい。この不均一は、発光層内部の屈折率や利得の分布の変動を引き起こし、その結果、高次モードが発振しやすくなる。特に中赤外波長領域では、光通信領域(波長1.3〜1.6μm)に比べて、材料の特性上、材料固有の発光層と埋め込み層との屈折率差が小さい。このため、上記電流注入時の屈折率や利得分布の変動によって、基本モードが不安定化すると同時に、高次モードが発振する条件が満たされやすい。
高次モード発振は、キンクの発生、発振波長の変動、雑音の増加等の特性の劣化に至る。
本実施の形態によれば、量子カスケード半導体レーザにおける広いメサ幅に起因する高次モード発振による、キンクの発生や、発振波長の変動、雑音の増加等の特性の劣化を低減できる。
本発明は、本実施の形態に開示された特定の構成に限定されるものではない。
以上説明したように、本実施の形態によれば、水平横方向の導波モードにおける高次モードを抑圧可能な構造の量子カスケード半導体レーザが提供される。
11…量子カスケードレーザ、13…メサ導波路、15…埋め込み領域、17…第2半導体層、19…第1半導体層、21…支持基体、23…コア層、25…n型上部クラッド層、M0…基本横モード、M1…1次横モード、27…絶縁膜、29…電極、31…発光層、33…注入層。

Claims (17)

  1. 量子カスケードレーザであって、
    n型半導体からなる主面を有する支持基体上に設けられ、コア層を含むメサ導波路と、
    前記メサ導波路を埋め込むように、前記メサ導波路の側面上及び前記支持基体の前記主面上に設けられたp型半導体の第1半導体層と、
    を備え、
    前記第1半導体層は、前記メサ導波路を埋め込む埋め込み領域を構成する、量子カスケード半導体レーザ。
  2. 前記第1半導体層の前記p型半導体は6.0×1016cm−3以上のp型ドーパントを含む、請求項1に記載された量子カスケード半導体レーザ。
  3. 前記メサ導波路の前記側面上及び前記支持基体の前記主面上に設けられた半絶縁性の第2半導体層を更に備え、
    前記第2半導体層及び前記第1半導体層は前記埋め込み領域を構成し、
    前記第2半導体層は、前記メサ導波路の側面と前記第1半導体層との間に設けられた第1部分と、前記支持基体の前記主面と前記第1半導体層との間に設けられた第2部分とを含む、請求項1又は請求項2に記載された量子カスケード半導体レーザ。
  4. 前記第2半導体層及び前記第1半導体層上に設けられた半絶縁性半導体層を更に備え、
    前記半絶縁性半導体層は前記第2半導体層及び前記第1半導体層と一緒になって前記埋め込み領域を構成し、
    前記半絶縁性半導体層は前記埋め込み領域の上面を構成し、
    前記半絶縁性半導体層は前記第2半導体層に接続されている、請求項3に記載された量子カスケード半導体レーザ。
  5. 前記第2半導体層は、前記第1半導体層と異なる半導体材料からなり、
    前記第2半導体層は、前記第1半導体層より高いバンドギャップを有する半導体材料からなる、請求項3又は請求項4に記載された量子カスケード半導体レーザ。
  6. 前記メサ導波路を埋め込むように、前記メサ導波路の前記側面上及び前記支持基体の前記主面上に設けられた第3半導体層を更に備え、
    前記第1半導体層は前記第3半導体層と前記メサ導波路の前記側面及び前記支持基体の前記主面との間に設けられ、
    前記第3半導体層は、前記第1半導体層と異なる半導体材料からなり、
    前記第3半導体層は、前記第1半導体層と一緒になって前記埋め込み領域を構成し、
    前記第3半導体層は、アンドープ半導体、p型半導体及び半絶縁性半導体の少なくともいずれかを含む、請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載された量子カスケード半導体レーザ。
  7. 前記第3半導体層はアンドープ半導体を含む、請求項6に記載された量子カスケード半導体レーザ。
  8. 前記第3半導体層は半絶縁性半導体を含む、請求項6に記載された量子カスケード半導体レーザ。
  9. 前記半絶縁性半導体は、Fe、Ti、Cr、またはCoのうちの少なくとも何れかの遷移金属がドープされた半導体である、請求項8に記載された量子カスケード半導体レーザ。
  10. 前記第3半導体層は、p型半導体を含む、請求項6に記載された量子カスケード半導体レーザ。
  11. 前記第3半導体層のp型半導体は前記第1半導体層のp型ドーパント濃度より低いp型ドーパント濃度を有する、請求項10に記載された量子カスケード半導体レーザ。
  12. 前記第1半導体層の屈折率は前記第3半導体層の屈折率より低い、請求項6〜請求項11のいずれか一項に記載された量子カスケード半導体レーザ。
  13. 前記埋め込み領域の前記第1、第2又は第3半導体層はInP及びAlInAsのいずれか一方である、請求項1〜請求項12のいずれか一項に記載された量子カスケード半導体レーザ。
  14. 前記支持基体は、基板及び該基板上のn型InP半導体層、並びにn型InP基板のいずれか一方である、請求項1〜請求項13のいずれか一項に記載された量子カスケード半導体レーザ。
  15. 前記コア層は、発光のための複数の発光層と、前記発光層にキャリアを注入するための複数の注入層とを含み、
    前記発光層及び前記注入層は交互に配列されており、
    前記発光層及び前記注入層の各々はGaInAs/AlInAsの超格子列を含む、請求項1〜請求項14のいずれか一項に記載された量子カスケード半導体レーザ。
  16. 前記埋め込み領域の上面を覆う絶縁膜と、
    前記絶縁膜上に設けられた電極と、
    を更に備え、
    前記メサ導波路は、前記支持基体及び前記コア層上に設けられたn型上部クラッド層を含み、
    前記絶縁膜は、前記メサ導波路の上面に設けられた開口を有し、
    前記電極は前記絶縁膜の前記開口を介して前記メサ導波路の前記上面に接触を成す、請求項1〜請求項15のいずれか一項に記載された量子カスケード半導体レーザ。
  17. 前記埋め込み領域の上面及び前記メサ導波路の上面を覆うn型半導体層と、
    前記n型半導体層の上面上に設けられた絶縁膜と、
    前記絶縁膜上に設けられた電極と、
    を更に備え、
    前記絶縁膜は、前記n型半導体層の上面に設けられた開口を有し、
    前記電極は前記絶縁膜の前記開口を介して前記n型半導体層の前記上面に接触を成す、請求項1〜請求項15のいずれか一項に記載された量子カスケード半導体レーザ。
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