本発明は、運転者からの加速指令に応じて複数のエンジン制御要素を制御してエンジン出力を変化させる車両及びエンジン制御方法に関するものである。
一般に、エンジンへの燃料供給量には、エンジン回転数やスロットル開度などに対応して予め基準値が定められている。エンジンの動作を制御する制御装置は、各種センサから取得したエンジン回転数やスロットル開度などに基づき、基準値として定められた燃料供給量を決定し、その量の燃料をインジェクタにより吸気中へ噴射する。近年の車両に搭載されたエンジンでは、スロットルが閉じられて減速状態となったときに、燃費向上等のためにエンジンへの燃料噴射を停止する燃料カット制御が実行され、スロットルが開かれると燃料噴射が再開されるものが提供されている(例えば、特許文献1参照)。
しかし、燃料カット制御中には燃料カット前に吸気管に付着していた燃料がエンジンに吸入され、吸気管は乾燥した状態となる。通常、自動二輪車では混合気の空燃比はリッチ状態に設定されているが、燃料カット制御状態から加速のためにスロットルを開いて燃料噴射を再開した時には、その噴射された燃料が乾燥した吸入管に付着するため、エンジンに吸入される混合気は一時的にリーン状態となり、その後にリッチ状態となる。そうすると、燃料噴射を再開して加速する際にエンジン出力が変動して、ドライバビリティが損なわれる。特にコーナリング時などには、運転者は車体振動等に対してナーバスになるため、燃料カット制御状態から燃料噴射を再開するときに生じるエンジン出力変動を抑制することが望まれる。
また、スロットル開度が小さい状態では、燃焼エネルギーがエンジンの機械的抵抗よりも小さくなるため、駆動輪からの動力によってクランクシャフトが回転し、エンジン出力はマイナスとなる。特に、走行中の高いエンジン回転数において減速のためにスロットルが閉じられると、吸気量不足によりエンジンで燃焼が行われない状態が発生する。この状態から加速のためにスロットルが開かれると、エンジンが不燃状態から遅れて急に燃料状態に移行してエンジン出力が変動し、ドライバビリティが損なわれることとなる。
そこで本発明は、減速状態から加速状態に移行する際のドライバビリティを向上させることを目的とする。
本発明は前記事情に鑑みてなされたものであり、本発明に係る車両は、運転者から加速指令が入力される加速入力装置と、運転者から制動指令が入力される制動入力装置と、前記加速指令に応じて複数のエンジン制御要素を制御してエンジン出力を変化させるとともに、所定の減速条件が成立したときにエンジン出力を低下させる減速制御を実行するエンジン制御装置と、を備え、前記エンジン制御装置は、前記減速制御中に前記制動指令が解除されたと判定された場合に、減速制御状態を維持しつつエンジン出力が増加する傾向に少なくとも1つのエンジン制御要素の制御量を変化させる出力増加準備を行い、その後に前記加速指令が入力されたと判定された場合に、前記他の少なくとも1つのエンジン制御要素の制御量を変化させてエンジン出力を増加させる。
本発明者は、ブレーキを使いながら減速してから再加速する際には、運転者は制動操作を解除した後に遅れて加速操作を行うのが通常であることに着目した。つまり、運転者が加速操作を行うタイミングを事前に知ることはできないが、制動操作を解除した時点を検出することで、加速操作を行うタイミングよりも前のタイミングを特定することができる。よって前記構成によれば、減速制御中において制動指令が解除されたと判定された場合に、減速制御状態を維持しつつエンジン出力が増加する傾向に少なくとも1つのエンジン制御要素の制御量を変化させる出力増加準備を行うため、その後の加速指令時において、エンジンの応答性を向上させたり、エンジン出力の急変化を防いだりすることができる。その結果、減速状態から加速状態に移行する際のドライバビリティを向上させることができる。
なお、出力増加準備では、車速が増加しない状態を保つ範囲で、エンジン制御要素の制御量を変化させることが好ましい。例えば、エンジンの燃焼行程における不燃焼現象が維持される範囲で、エンジン出力が増加する傾向にエンジン制御要素の制御量を増加させてもよい。また例えば、駆動輪の回転慣性力によりエンジンのクランクシャフトが駆動される状態、すなわちエンジンブレーキ状態を保つ範囲で、エンジン出力が増加する傾向にエンジン制御要素の制御量を増加させてもよい。さらに、前記制御量は、スロットル開度、燃料噴射量、点火時期、休筒解除(燃焼行程で失火させていた気筒を点火させるように復帰)、排気バルブ開度、過給制御など、エンジン出力を変化させることが可能なものであれば任意の制御量を用いることができる。
前記エンジン制御要素は、前記エンジンへの燃料供給を制御する燃料供給装置を含み、前記減速条件は、予め定められた燃料カット条件を含み、前記減速制御は、前記燃料カット条件が成立したときに前記エンジンへの燃料供給を停止する燃料カット制御を含み、前記エンジン制御装置は、前記燃料カット制御中において、前記制動指令が解除されたと判定された場合に、前記出力増加準備として前記エンジンへの燃料供給を再開させるように前記燃料供給装置を制御してもよい。
前記構成によれば、燃料カット制御中において制動指令が解除されたと判定された場合にエンジンへの燃料供給が再開されるため、加速操作が行われる前に乾燥した吸気管に予め燃料が付着させられ、空燃比変動に起因するエンジン出力変動を抑制することができる。その結果、燃料カット制御を実行しながらもエンジン出力変動を抑制することができ、燃費向上とドライバビリティ向上とを両立することができる。
前記エンジン制御要素は、前記エンジンへの吸気量を調節するスロットル弁を駆動する弁アクチュエータを含み、前記エンジン制御装置は、前記減速制御中において、前記制動指令が解除されたと判定された場合に、前記出力増加準備として前記スロットル弁の開度を増やすように前記弁アクチュエータを制御してもよい。
前記構成によれば、減速制御中において制動指令が解除されたと判定された場合にスロットル弁の開度が増やされるため、運転者により加速操作が行われる前に予め吸気量が増やされ、運転者が加速操作を行う際の出力応答性が良くなる。そうすれば、加速操作を開始した時点から遅れてエンジン出力が急に増加することが防がれ、エンジン出力変動を抑制することができる。その結果、減速状態から加速状態に移行する際のエンジン出力変動を抑制することができ、ドライバビリティを向上させることができる。
前記制動指令の制動量を検出する制動量センサを備え、前記エンジン制御装置は、前記制動量センサにより検出される制動量が所定の閾値以上から前記閾値未満となった場合に、前記制動指令が解除されたと判定してもよい。
前記構成によれば、制動指令が一旦入力されてから制動指令が解除されたときを容易に判定することができる。
アンチロックブレーキシステムを備え、前記エンジン制御装置は、前記アンチロックブレーキシステムに設けられたブレーキ圧センサの検出値により前記制動指令が解除されたことを判定してもよい。
前記構成によれば、制動指令の解除判定のためのセンサとしてアンチロックブレーキシステムのブレーキ圧センサを共用するため、部品点数及びコストを低減することができる。
前記エンジン制御装置は、前記制動指令が解除されたと判定された時点から予め定められる遅れ時間の経過後に前記出力増加準備を行ってもよい。
前記構成によれば、制動指令が解除されたと判定された時点と同時に出力増加準備を行う場合に比べて、出力増加準備の開始時とその後の加速指令入力によるエンジン出力増加時との間の時間が短くなり、出力増加準備状態が無駄に長く続くことを防止することができる。また、遅れ時間を調節すれば、出力増加準備の開始時から加速指令が入力されるまでの想定時間が調節されるので、出力増加準備後のエンジン出力増加量を調節できることになる。なお、遅れ時間は所定の制御パラメータに基づいて決定されるようにしてもよい。
車両の走行状態を検出する走行状態検出センサを備え、前記エンジン制御装置は、前記走行状態検出センサで検出される値に応じて前記遅れ時間を決定してもよい。
前記構成によれば、減速制御中の走行状態に応じて遅れ時間が調節されるので、その時の走行状態に適するような再加速が行えるように出力増加準備を行うことができる。
前記走行状態は、制動量、制動量変化率、エンジン回転数及び走行速度のうち少なくとも1つを含み、前記エンジン制御装置は、制動量、制動量変化率、エンジン回転数及び走行速度のうち少なくとも1つの値が大きいほど前記遅れ時間を短くしてもよい。
前記構成によれば、走行状態に応じた望ましい加速性能を得ることができる。即ち、制動量や制動量変化率やエンジン回転数や走行速度が大きいときには走行速度が大幅に低下するため、その後には早く加速することが望まれることが多い。よって、制動量、制動量変化率、エンジン回転数及び走行速度のうち少なくとも1つの値が大きいほど、遅れ時間を短くする(即ち、出力増加準備から加速指令が入力されるまでの時間を長くする)ことで、エンジン出力が増加する傾向にエンジン制御要素の制御量が十分に変化させられるため、その後の加速を速やかに行うことができる。
前記走行状態は、変速機の変速位置を含み、前記エンジン制御装置は、前記変速機の変速位置が減速比の最も大きい1速位置である場合には、他の変速位置である場合よりも前記遅れ時間を長くしてもよい。
前記構成によれば、変速機の変速位置が減速比の大きい1速の場合には発生トルクが大きい。よって、変速機の変速位置が1速である場合には、他の変速位置よりも遅れ時間を長くする(即ち、出力増加準備の開始時から加速指令が入力されるまでの時間を短くする)ことで、再加速時にトルクが大きくなり過ぎることが抑制され、安定した加速を実現することができる。
前記エンジンは複数の気筒を有し、前記エンジン制御装置は、前記複数の気筒間で前記出力増加準備を開始するタイミングをずらしていてもよい。
前記構成によれば、出力増加準備後に加速する際のエンジン出力の変動が滑らかになり、運転フィーリングを向上させることができる。
本発明のエンジン制御方法は、所定の減速条件が成立したときにエンジン出力を低下させるよう複数のエンジン制御要素を制御する減速工程と、減速工程の開始後に、運転者から与えられる制動指令が解除されると、少なくとも1つのエンジン制御要素の制御量を変化させて出力増加準備を行う出力増加準備工程と、出力増加準備工程の開始後に、運転者から加速指令が入力されると、他の少なくとも1つのエンジン制御要素の制御量を増加させてエンジン出力を増加させる出力増加工程とを含む。
前記方法によれば、減速制御状態における制動指令の解除を判定することで、加速指令が入力される前に運転者より加速指令が与えられることを予測することができる。そうすれば、加速指令が与えられる前に予めエンジン制御を開始でき、加速指令が与えられてからエンジン制御を開始する場合に比べて、エンジンの応答性を向上させたり、エンジン出力の急変化を防いだりすることができる。その結果、減速状態から加速状態に移行する際のドライバビリティを向上させることができる。
前記出力増加準備工程では、車両の走行状態ごとに前記制御量の変化を異ならせてもよい。
前記方法によれば、走行状態に応じて好適な制御量変化を行うことができ、乗り心地をさらに向上させることができる。例えば、早く加速されることが望まれる走行状態では、出力増加工程での出力増加量が大きくなるように出力準備工程での制御量変化が設定され得る。また、出力増加工程での急な出力変動を抑制することが望まれる走行状態では、出力増加量が小さくなるように準備工程での制御量変化が設定され得る。なお、制御量は、燃料供給量やスロットル開度や遅れ時間などを含む。
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、減速状態から加速状態に移行する際のドライバビリティを向上させることができる。
本発明の第1実施形態に係る自動二輪車を示す右側面図である。
図1に示す自動二輪車の制御系を説明するブロック図である。
図2に示す自動二輪車の制御を説明するフローチャートである。
図3に示す制御を説明するグラフである。
本発明の第2実施形態に係る自動二輪車の制御を説明するフローチャートである。
図5に示す制御を説明するグラフである。
本発明の第3実施形態に係る自動二輪車の制御を説明するフローチャートである。
図7に示す制御を説明するグラフである。
本発明の第4実施形態に係る自動二輪車の制御を説明するフローチャートである。
図9に示す制御を説明するグラフである。
本発明の第5実施形態に係る自動二輪車の制御を説明するフローチャートである
以下、本発明に係る実施形態を図面を参照して説明する。なお、以下では全ての図を通じて同一又は相当する要素には同一の参照符号を付して、その重複する説明を省略する。また、以下の説明で用いる方向の概念は、車両に乗車した運転者から見た方向を基準とする。また、本実施形態においては、本発明を自動二輪車に適用した例について説明するが、本発明は車輪で走行する車両である限り適用可能である。例えば、四輪の自動車や、運転者がシートに跨がった状態で運転する鞍乗型車両のいずれにも適用可能である。鞍乗型車両には、自動二輪車、ATV(All Terrain Vehicle)等が含まれる。
図1は本発明の第1実施形態に係る自動二輪車1を示す右側面図である。図1に示すように、自動二輪車1は、従動輪からなる前輪2と、駆動輪からなる後輪3とを備えている。前輪2は略上下方向に延びるフロントフォーク4の下端部にて回転自在に支持されており、フロントフォーク4は、ブラケット(図示せず)を介してステアリングシャフト(図示せず)に支持されている。ステアリングシャフト(図示せず)は、ヘッドパイプ5によって回転自在に支持されている。前記ブラケットには、左右へ延びるバー型のハンドル6が取り付けられている。
前輪2の左右両側には前輪ブレーキディスク7Aが固定されている。フロントフォーク4の下端部には、前輪ブレーキキャリパ7Bが支持されている。前輪ブレーキディスク7A及び前輪ブレーキキャリパ7Bは、前輪ブレーキ7を構成し、前輪ブレーキキャリパ7Bのピストン(図示せず)が油圧により前輪ブレーキディスク7Aに押し付けられることによりブレーキ力を発生させる。ハンドル6の運転者の右手により把持される部分に設けられたスロットルグリップ8(加速入力装置)は、運転者から加速指令が入力されるものであり、手首のひねりにより回転させることで後述するスロットル装置22(図2参照)が操作される。スロットルグリップ8の前方には、主に前輪ブレーキ7を作動させるために運転者から制動指令が入力されるブレーキレバー9(制動入力装置)が設けられている。
ヘッドパイプ5からは左右一対のメインフレーム10が下方に傾斜しながら後方へ延びており、メインフレーム10の後部に左右一対のピボットフレーム11が接続されている。ピボットフレーム11には、略前後方向に延びるスイングアーム12の前端部が軸支されており、スイングアーム12の後端部に後輪3が回転自在に軸支されている。ハンドル6の後方には燃料タンク13が設けられており、燃料タンク13の後方に運転者騎乗用のシート14が設けられている。後輪3の右側には後輪ブレーキディスク15Aが固定されている。スイングアーム12の後端部には、後輪ブレーキキャリパ15Bが支持されている。後輪ブレーキディスク15A及び後輪ブレーキキャリパ15Bは、後輪ブレーキ15を構成し、後輪ブレーキキャリパ15Bのピストン(図示せず)が油圧により後輪ブレーキディスク15Aに押し付けられることによりブレーキ力を発生させる。シート14の下方かつ左右両側には、運転者が足を載せるステップ16が設けられている。右側のステップ16には、前方へ延びるブレーキペダル17(制動入力装置)が軸支されており、運転者が足で踏み込むことにより、主に後輪ブレーキ15を作動させることができる。
前輪2と後輪3との間には、エンジンEがメインフレーム10及びピボットフレーム11に支持された状態で搭載されている。エンジンEとしては4ストローク並列四気筒エンジンが例示されている。エンジンEの出力軸には変速機18が接続されており、この変速機18から出力される駆動力がチェーン(図示せず)を介して後輪3に伝達される。エンジンEの吸気ポート(図示せず)には、燃料タンク13の下方でメインフレーム10の内側に配置されたスロットル装置22(図2参照)が接続されている。スロットル装置22の上流側には、燃料タンク13の下方に配置されたエアクリーナ21(図2参照)が接続されており、前方からの走行風圧を利用して外気を取り込む構成となっている。また、シート14の下方の内部空間には、エンジンECU19(エンジン制御装置)及びABS用ECU20が収容されている。
図2は図1に示す自動二輪車の制御系を説明するブロック図である。図2に示すように、エアクリーナ21は、スロットル装置22を介してエンジンEの吸気ポート(図示せず)に接続されている。スロットル装置22は、吸気通路に配置されて吸気量を調節するスロットル弁23を有している。スロットル弁23は、エンジンECU19で制御されるモータからなる弁アクチュエータ24(エンジン制御要素)に接続されており、弁アクチュエータ24によって開閉される。スロットル弁23には、スロットル弁23の開度を検出するスロットルポジションセンサ25が設けられている。
また、スロットル装置22には、吸気通路に燃料を噴射する燃料供給装置であるインジェクタ26(エンジン制御要素)が設けられている。エンジンEには、4つの気筒内の混合気にそれぞれ点火を行う点火装置27(エンジン制御要素)が設けられている。エンジンEのクランクシャフト(図示せず)には、クランクシャフトの回転数を検出するエンジン回転数センサ28が設けられている。エンジンEには、エンジンEの動力を変速して後輪3に伝達する変速機18が接続されている。変速機18には、その変速位置を検出するためのギヤポジションセンサ29が設けられている。また、スロットルグリップ8には、スロットルグリップ8の開度を検出するグリップポジションセンサ30が設けられている。
エンジンECU19は、マイコン等の演算装置や各種のメモリ等より構成され、スロットルポジションセンサ25、エンジン回転数センサ28、ギヤポジションセンサ29及びグリップポジションセンサ30に接続されている。エンジンECU19は、メイン制御部31、スロットル制御部32、燃料制御部33及び点火制御部34を有している。メイン制御部31は、各センサ25,28,29,30から入力される信号に基づいてエンジン制御に関する演算等を行う。スロットル制御部32は、メイン制御部31における演算結果に基づいて弁アクチュエータ24を制御し、スロットル弁23の開度を調節する。燃料制御部33は、メイン制御部31における演算結果に基づいてインジェクタ26を制御する。点火制御部34は、メイン制御部31における演算結果に基づいて点火装置27を制御する。また、メイン制御部31には、運転者が入力操作を行うための操作パネル35が接続されている。
自動二輪車1は、アンチロックブレーキシステムとして機能する電動ブレーキ装置36を備えている。電動ブレーキ装置36は、ABS用ECU20を有している。ABS用ECU20には、前輪2の回転数を検出する前輪速度センサ37と、後輪3の回転数を検出する後輪速度センサ38とが接続されている。また、ABS用ECU20には、前輪ブレーキ7(の前輪ブレーキキャリパ7B)を作動させるための油圧ポンプ等からなる前輪ブレーキアクチュエータ39と、後輪ブレーキ15(の後輪ブレーキキャリパ15B)を作動させるための油圧ポンプ等からなる後輪ブレーキアクチュエータ40とが接続されている。また、ABS用ECU20には、前輪ブレーキ7(の前輪ブレーキキャリパ7B)を作動させるブレーキ圧(油圧)を検出するための前輪ブレーキ圧センサ41(制動量センサ)と、後輪ブレーキ15(の前輪ブレーキキャリパ7B)を作動させるブレーキ圧(油圧)を検出するための後輪ブレーキ圧センサ42(制動量センサ)とが接続されている。即ち、ブレーキ圧センサ41,42は、運転者による制動指令の制動量を検出する役目を果たす。なお、制動量センサとして、ブレーキ圧センサの代わりに、ブレーキレバー9やブレーキペダル17の操作量を検出するブレーキストロークセンサを用いてもよい。
図3は図2に示す自動二輪車1の制御を説明するフローチャートである。図4は図3に示す制御を説明するグラフである。以下、図2乃至4に基づいてエンジンEが燃料カット制御状態から加速状態に移行する際の制御について説明する。まず、エンジンEが始動されると通常運転が開始される(ステップS1)。その通常運転中に、エンジンECU19のメイン制御部31は、所定の燃料カット条件(ステップS1〜S3)が成立するか否かを判定する。
具体的には、まず、エンジン回転数センサ28で検出されるエンジン回転数が所定値(例えば、2000〜2500rpm)以上であるか否かが判定される(ステップS2)。ステップS2でYesの場合には、グリップポジションセンサ30で検出されるスロットルグリップ開度φが全閉状態(ゼロ又はその近傍)であるか否かが判定される(ステップS3)。なお、スロットルグリップ開度φが全閉状態(ゼロ又はその近傍)であるときは、スロットル弁23のスロットル開度θはアイドリング開度θ1となるように制御される。ステップS3でYesの場合には、前輪ブレーキ圧センサ41又は後輪ブレーキ圧センサ42で検出されるブレーキ圧Pが第1閾値P1以上であるか否かが判定される(ステップS4)。
ステップ4でYesの場合には(図4の時間t1)、燃料カット条件が成立したと判定され、減速工程として燃料カット制御が実行される(ステップS5)。燃料カット制御は、インジェクタ26から吸気通路中への燃料噴射を強制的に停止させてエンジン出力を低下させる減速制御である。これにより、減速中における無駄な燃料消費が低減され、燃費向上及び排ガス低減が図られる。なお、ステップS2〜S4の何れかでNoの場合には、燃料カット制御は実行されずにステップS1に戻り、通常運転が継続される。
燃料カット制御中には、前輪ブレーキ圧センサ41又は後輪ブレーキ圧センサ42で検出されるブレーキ圧Pが第2閾値P2未満であるか否かが判定される(ステップS6)。第2閾値P2は、第1閾値P1よりも大きい値である。但し、第1閾値P1と第2閾値P2とを互いに同じ値としてもよい。ステップS6でNoの場合には、エンジン回転数センサ28で検出されるエンジン回転数が所定値(例えば、2000〜2500rpm)以上であるか否かが判定される(ステップS7)。なお、このステップS7における所定値は、ステップS2における所定値と同じであってもよいし、異なっていてもよい。
ステップS7でNoの場合には、エンジン回転数が低く、エンジンストールが発生し易いため、通常運転に復帰して燃料噴射を再開する(ステップS1)。ステップS7でYesの場合には、ステップS5に戻り、再度、ブレーキ圧Pが第2閾値P2未満であるか否かが判定される(ステップS6)。ステップS6でYesの場合には(図4の時間t2)、制動指令が解除されたと判定し、遅れ時間Tを決定する(ステップS8)。遅れ時間Tは、ステップS6でYesと判定された時点から燃料噴射を再開させるまでの時間である。これにより、制動指令が解除されたと判定された時点と同時に燃料噴射を再開する場合に比べて燃費向上が図られる。
次いで、制動指令が解除されたと判定された時点から遅れ時間Tが経過したか否かが判定される(ステップS9)。ステップS9でYesの場合には(図4の時間t3)、出力増加準備工程として、スロットル開度θはアイドリング開度θ1のままでインジェクタ26による燃料噴射が再開される(ステップS10)。その燃料噴射を再開する際には、エンジンEの4つの気筒間で燃料噴射を再開するタイミングをずらしてもよい。そうすれば、燃料噴射再開後に加速する際のエンジン出力の変動が滑らかになり、運転フィーリングがより向上する。
次いで、運転者により加速指令が入力されたか否かが判定される(ステップS11)。具体的には、スロットルグリップ開度φがゼロより大きくなったか否かが判定される。ステップS11でYesの場合には(図4の時間t4)、出力増加工程として通常運転(ステップS1)に戻り、スロットルグリップ開度φの増加に連動してスロットル開度θも増加して、エンジン出力が増加する。
ステップS8で決定される遅れ時間Tは、自動二輪車1の走行状態に応じて定められている。具体的には、エンジンECU19のメイン制御部31は、走行状態検出センサで検出される値と遅れ時間Tとの相関関係を示す遅れ時間マップを記憶している。走行状態検出センサは、例えば、ブレーキ圧センサ41,42、エンジン回転数センサ28、前輪速度センサ37及びギヤポジションセンサ29のうち少なくとも1つである。
遅れ時間マップは、ブレーキ圧センサ41,42で検出されるブレーキ圧(制動量)又は制動開始時からの単位時間あたりのブレーキ圧変化率が大きいほど(即ち、急ブレーキであるほど)、遅れ時間Tが短くなるように設定されうる。また、遅れ時間マップは、エンジン回転数センサ28で検出されるエンジン回転数又は制動開始時からの単位時間あたりの回転数変化率が大きいほど、遅れ時間Tが短くなるように設定されうる。また、遅れ時間マップは、前輪速度センサ37で検出される前輪速度(即ち、走行速度)が大きいほど、遅れ時間Tが短くなるように設定されうる。
制動量や制動量変化率やエンジン回転数や回転数変化率や走行速度や走行速度変化率が大きいときには減速により走行速度が大幅に低下するため、その後には早く加速することが望まれることが多い。また、エンジン回転数や走行速度が大きいときには、燃料カット制御中にエンジンEに導かれる吸気の総量が多くなるために吸気通路の内壁内面の乾燥度が高くなる。そこで、制動量、制動量変化率、エンジン回転数、エンジン回転数変化率、走行速度及び走行速度変化率のうち少なくとも1つの値が大きいほど、遅れ時間Tを短くすることで、燃料噴射の再開時(出力増加準備の開始時)から加速指令が入力されるまでの時間が長くなり、スロットル装置22の吸気通路の管壁内面に十分な燃料を付着させることができる。よって、出力増加準備後の加速指令時の混合気の空燃比をリッチにすることができ、出力変動の少ない速やかな加速を得ることができる。
また、遅れ時間マップは、ギヤポジションセンサ29で検出される変速位置が減速比の最も大きい1速位置である場合には、他の変速位置(2〜6速位置)である場合よりも遅れ時間Tが長くなるように設定されうる。変速機18の変速位置が減速比の大きい1速の場合には発生トルクが大きい。よって、変速位置が1速である場合には、他の変速位置よりも遅れ時間を長くすることで、燃料噴射の再開時(出力増加準備の開始時)から加速指令が入力されるまでの時間が短くなり、スロットル装置22の吸気通路の管壁内面に付着させる燃料が多くなるのを防ぐことができる。よって、再加速時にトルクが大きくなり過ぎることが抑制され、安定した加速を実現することができる。
また、遅れ時間マップは、ギヤポジションセンサ29で検出される変速位置が減速比の最も大きい1速位置である場合には、他の変速位置(2〜6速位置)である場合よりも遅れ時間Tが短くなるようにも設定されうる。変速機18の変速位置が減速比の大きい1速の場合は、十分な加速力が必要なことも多い。よって、変速位置が1速である場合には、他の変速位置よりも遅れ時間を短くすることで、燃料噴射の再開時(出力増加準備の開始時)から加速指令が入力されるまでの時間が長くなり、スロットル装置22の吸気通路の管壁内面に付着させる燃料を多くすることができる。よって、再加速時のトルクを十分に大きくして、加速性能を向上させることもできる。また、変速位置が1速の場合と、1速以外の場合とで、遅れ時間Tを変更するとしたが、変速位置として、減速比が大きいグループ(例えば、1,2速)である場合と、減速比が小さいグループ(例えば、3速以上)である場合とで、遅れ時間Tを変更してもよい。
なお、遅れ時間Tは、制動指令が解除されたと判定された時点から加速指令が入力されるまでの時間(この時間は実験的に知得される)よりも短い時間に設定され、例えば、0秒以上0.5秒以下の値に設定されるとよい。また、遅れ時間Tは、運転者が操作パネル35を操作することで設定できるようにしてもよい。また、本実施形態では走行状態又はエンジン運転状態に応じて遅れ時間Tを可変としたが、状態に拘らず一定としてもよい。また、遅れ時間マップは、低燃費走行モードに設定されると非低燃費走行モードに比べて遅れ時間Tが長くなるように設定されてもよい。また、遅れ時間Tとしてゼロが与えられてもよい。
以上に説明した構成によれば、燃料カット制御中において制動指令が解除されたと判定された場合にエンジンEへの燃料噴射が再開されるため、加速操作が行われる前に乾燥した吸気通路の管壁内面に予め燃料が付着させられ、空燃比変動に起因するエンジン出力変動を抑制することができる。その結果、燃料カット制御を実行しながらもエンジン出力変動を抑制することができ、燃費向上とドライバビリティ向上とを両立することができる。
(第2実施形態)
図5は本発明の第2実施形態に係る自動二輪車の制御を説明するフローチャートである。図6は図5に示す制御を説明するグラフである。以下、図2,5及び6に基づいてエンジンEが燃料カット制御状態から加速状態に移行する際の制御について説明する。ステップS1〜S9は第1実施形態と同様であるため説明を省略する。ステップS9において、制動指令が解除されたと判定された時点から遅れ時間Tが経過したと判定された場合には(図6の時間t3)、出力増加準備工程として、インジェクタ26による燃料噴射を再開させないままでスロットル開度θを若干増加させる(ステップS20)。そのスロットル開度θを増加させる際には、エンジンEの4つの気筒間でスロットル開度θが増加開始するタイミングをずらしてもよい。
次いで、運転者により加速指令が入力されたか否かが判定される(ステップS11)。具体的には、スロットルグリップ開度φがゼロより大きくなったか否かが判定される。ステップS11でYesの場合には(図6の時間t4)、出力増加工程として通常運転(ステップS1)に戻り、インジェクタ26による燃料噴射が再開するとともに、スロットルグリップ開度φの増加に連動してスロットル開度θも増加し、エンジン出力が増加する。
以上に説明した構成によれば、燃料カット制御中において制動指令が解除されたと判定された場合にスロットル開度θが増やされるため、運転者により加速操作が行われる前に予め吸気量が増やされ、運転者が加速操作を行う際の出力応答性が良くなる。そうすれば、加速操作を開始した時点から遅れてエンジン出力が急に増加することが防がれ、エンジン出力変動を抑制することができる。その結果、減速状態から加速状態に移行する際のエンジン出力変動を抑制することができ、ドライバビリティを向上させることができる。なお、他の構成は前述した第1実施形態と同様であるため説明を省略する。
(第3実施形態)
図7は本発明の第3実施形態に係る自動二輪車の制御を説明するフローチャートである。図8は図7に示す制御を説明するグラフである。以下、図2,7及び8に基づいてエンジンEが燃料カット制御状態から加速状態に移行する際の制御について説明する。ステップS1〜S7は第1実施形態と同様であるため説明を省略する。ステップS6において、ブレーキ圧Pが第2閾値P2未満であると判定された場合には(図8の時間t2)、出力増加準備における燃料噴射量F1を決定する(ステップS38)。
出力増加準備における燃料噴射量F1は、自動二輪車1の走行状態に応じて定められている。具体的には、エンジンECU19のメイン制御部31は、走行状態検出センサで検出される値と燃料噴射量F1との相関関係を示す出力増加準備燃料噴射量マップを記憶している。走行状態検出センサは、例えば、ブレーキ圧センサ41,42、エンジン回転数センサ28、前輪速度センサ37及びギヤポジションセンサ29のうち少なくとも1つである。
出力増加準備燃料噴射量マップは、ブレーキ圧センサ41,42で検出されるブレーキ圧又はブレーキ圧変化率が大きいほど、燃料噴射量F1が多くなるように設定されうる。また、出力増加準備燃料噴射量マップは、エンジン回転数センサ28で検出されるエンジン回転数が大きいほど、燃料噴射量F1が多くなるように設定されうる。また、出力増加準備燃料噴射量マップは、前輪速度センサ37で検出される前輪速度(即ち、走行速度)が大きいほど、燃料噴射量F1が多くなるように設定されうる。
制動量や制動量変化率やエンジン回転数や回転数変化率や走行速度や走行速度変化率が大きいときには減速により走行速度が大幅に低下するため、その後には早く加速することが望まれることが多い。また、エンジン回転数や走行速度やそれらの変化率が大きいときには、燃料カット制御中にエンジンEに導かれる吸気の総量が多くなるために吸気通路の内壁内面の乾燥度が高くなる。そこで、制動量、エンジン回転数、走行速度及びそれらの変化率のうち少なくとも1つの値が大きいほど、出力増加準備における燃料噴射量F1を多くすることで、スロットル装置22の吸気通路の管壁内面に十分な燃料を付着させることができる。よって、出力増加準備後の加速指令時の混合気の空燃比をリッチにすることができ、出力変動の少ない速やかな加速を得ることができる。
また、出力増加準備燃料噴射量マップは、ギヤポジションセンサ29で検出される変速位置が減速比の最も大きい1速位置である場合には、他の変速位置(2〜6速位置)である場合よりも燃料噴射量F1が少なくなるように設定されうる。変速機18の変速位置が減速比の大きい1速の場合には発生トルクが大きい。よって、変速位置が1速である場合には、他の変速位置よりも燃料噴射量F1を少なくすることで、スロットル装置22の吸気通路の管壁内面に付着させる燃料が多くなるのを防ぐことができる。よって、再加速時にトルクが大きくなり過ぎることが抑制され、安定した加速を実現することができる。
また、出力増加準備燃料噴射量マップは、ギヤポジションセンサ29で検出される変速位置が減速比の最も大きい1速位置である場合には、他の変速位置(2〜6速位置)である場合よりも燃料噴射量F1が多くなるようにも設定されうる。変速機18の変速位置が減速比の大きい1速の場合は、十分な加速力が必要なことも多い。よって、変速位置が1速である場合には、他の変速位置よりも燃料噴射量F1を多くすることで、スロットル装置22の吸気通路の管壁内面に付着させる燃料を多くすることができ、再加速時の加速性能を向上させることもできる。
なお、変速位置が1速の場合と、1速以外の場合とで、燃料噴射量F1を変更するとしたが、変速位置として、減速比が大きいグループ(例えば、1,2速)である場合と、減速比が小さいグループ(例えば、3速以上)である場合とで、燃料噴射量F1を変更してもよい。また、燃料噴射量F1は、運転者が操作パネル35を操作することで設定できるようにしてもよい。また、本実施形態では燃料噴射量F1を走行状態又はエンジン運転状態に応じて可変としたが、状態に拘らず一定としてもよい。また、出力増加準備燃料噴射量マップは、低燃費走行モードに設定されると燃料噴射量F1が少なくなるように設定されてもよい。
そして、ステップS6でYesの場合には(図8の時間t3)、出力増加準備工程として、スロットル開度θはアイドリング開度θ1のままで、ステップS38で決定された燃料噴射量F1でインジェクタ26による燃料噴射が再開される(ステップS39)。その燃料噴射を再開する際には、エンジンEの4つの気筒間で燃料噴射を再開するタイミングをずらしてもよい。
次いで、運転者により加速指令が入力されたか否かが判定される(ステップS11)。具体的には、スロットルグリップ開度φがゼロより大きくなったか否かが判定される。ステップS11でYesの場合には(図8の時間t4)、出力増加工程として通常運転(ステップS1)に戻り、通常の燃料噴射量マップに基づいてインジェクタ26による燃料噴射が通常通り行われるとともに、スロットルグリップ開度φの増加に連動してスロットル開度θも増加して、エンジン出力が増加する。
以上に説明した構成によれば、燃料カット制御中の走行状態に応じて出力増加準備の燃料噴射量F1が調節されるので、その時の走行状態に適するような再加速が行えるように、出力増加準備を行うことができる。なお、他の構成は前述した第1実施形態と同様であるため説明を省略する。なお、第3実施形態では、第1実施形態と同様に、燃料噴射量の他に、遅れ時間についても走行状態・エンジン運転状態に応じて変化可能にしてもよい。燃料噴射量と遅れ時間との両方を変化可能とすることで、多様な状態に応じた制御を実現することができる。
(第4実施形態)
図9は本発明の第4実施形態に係る自動二輪車の制御を説明するフローチャートである。図10は図9に示す制御を説明するグラフである。以下、図2,9及び10に基づいてエンジンEが燃料カット制御状態から加速状態に移行する際の制御について説明する。ステップS1〜S7は第1実施形態と同様であるため説明を省略する。ステップS6において、ブレーキ圧Pが第2閾値P2未満であると判定された場合には(図10の時間t2)、出力増加準備におけるスロットル開度θ2を決定する(ステップS48)。
出力増加準備におけるスロットル開度θ2は、自動二輪車1の走行状態に応じて定められている。具体的には、エンジンECU19のメイン制御部31は、走行状態検出センサで検出される値とスロットル開度θ2との相関関係を示す出力増加準備スロットル開度マップを記憶している。走行状態検出センサは、例えば、ブレーキ圧センサ41,42、エンジン回転数センサ28、前輪速度センサ37及びギヤポジションセンサ29のうち少なくとも1つである。
出力増加準備スロットル開度マップは、ブレーキ圧センサ41,42で検出されるブレーキ圧又はブレーキ圧変化率が大きいほど、スロットル開度θ2が大きくなるように設定されうる。また、出力増加準備スロットル開度マップは、エンジン回転数センサ28で検出されるエンジン回転数が大きいほど、スロットル開度θ2が大きくなるように設定されうる。また、出力増加準備スロットル開度マップは、前輪速度センサ37で検出される前輪速度(即ち、走行速度)が大きいほど、スロットル開度θ2が大きくなるように設定されうる。
制動量や制動量変化率やエンジン回転数や走行速度が大きいときには走行速度が大幅に低下するため、その後には早く加速することが望まれることが多い。そこで、制動量、制動量変化率、エンジン回転数及び走行速度のうち少なくとも1つの値が大きいほど、出力増加準備におけるスロットル開度θ2を大きくすることで、気筒での燃焼を発生させ易い吸気量を予め確保することができる。よって、運転者が加速操作を行う際の出力応答性が良くなり、速やかな加速を得ることができる。
また、出力増加スロットル開度マップは、ギヤポジションセンサ29で検出される変速位置が減速比の最も大きい1速位置である場合には、他の変速位置(2〜6速位置)である場合よりもスロットル開度θ2が小さくなるように設定されうる。変速機18の変速位置が減速比の大きい1速の場合には発生トルクが大きい。よって、変速位置が1速である場合には、他の変速位置よりもスロットル開度θ2を少なくすることで、再加速時にトルクが大きくなり過ぎることが抑制され、安定した加速を実現することができる。
また、出力増加準備スロットル開度マップは、ギヤポジションセンサ29で検出される変速位置が減速比の最も大きい1速位置である場合には、他の変速位置(2〜6速位置)である場合よりもスロットル開度θ2が大きくなるようにも設定されうる。変速機18の変速位置が減速比の大きい1速の場合は、十分な加速力が必要なことも多い。よって、変速位置が1速である場合には、他の変速位置よりもスロットル開度θ2を多くすることで、再加速時のトルクを十分に大きくして、加速性能を向上させることもできる。
なお、スロットル開度θ2は、運転者が操作パネル35を操作することで設定できるようにしてもよい。また、本実施形態ではスロットル開度θ2を可変としたが、一定としてもよい。また、出力増加準備スロットル開度マップは、低燃費走行モードに設定されるとスロットル開度θ2が少なくなるように設定されてもよい。
そして、ステップS6でYesの場合には(図10の時間t3)、出力増加準備工程として、インジェクタ26による燃料噴射を再開させないままで、ステップS48で決定されたスロットル開度θ2にスロットル開度θを増加させる(ステップS49)。そのスロットル開度θを増加させる際には、エンジンEの4つの気筒間でスロットル開度θが増加開始するタイミングをずらしてもよい。
次いで、運転者により加速指令が入力されたか否かが判定される(ステップS11)。具体的には、スロットルグリップ開度φがゼロより大きくなったか否かが判定される。ステップS11でYesの場合には(図10の時間t4)、出力増加工程として通常運転(ステップS1)に戻り、インジェクタ26による燃料噴射が再開するとともに、スロットルグリップ開度φの増加に連動してスロットル開度θが増加し、エンジン出力が増加する。
以上に説明した構成によれば、燃料カット制御中の走行状態に応じて出力増加準備のスロットル開度θ2が調節されるので、その時の走行状態に適するような再加速が行えるように、出力増加準備を行うことができる。なお、他の構成は前述した第1実施形態と同様であるため説明を省略する。なお、第4実施形態では、第1実施形態と同様に、スロットル開度の他に、遅れ時間についても走行状態・エンジン運転状態に応じて変化可能にしてもよい。スロットル開度と遅れ時間との両方を変化可能とすることで、多様な状態に応じた制御を実現することができる。さらに、第3実施形態と同様に、スロットル開度の他に、燃料噴射量についても状態に応じて、変化可能としてもよい。
(第5実施形態)
図11は本発明の第5実施形態に係る自動二輪車の制御を説明するフローチャートである。以下、図2及び11に基づいてエンジンEが減速状態から加速状態に移行する際の制御について説明する。即ち、本実施形態は、燃料カット制御状態から再加速する際の制御に関するものではなく、通常の減速状態から再加速する際の制御に関するものである。
まず、エンジンEが始動されると通常運転が開始される(ステップS1)。その通常運転中に、エンジンECU19のメイン制御部31は、所定の減速条件(ステップS2及びS3)が成立するか否かを判定する。具体的には、まず、エンジン回転数センサ28で検出されるエンジン回転数が所定値以上であるか否かが判定される(ステップS2)。ステップS2でYesの場合には、グリップポジションセンサ30で検出されるスロットルグリップ開度φが全閉状態(ゼロ又はその近傍)であるか否かが判定される(ステップS3)。ステップS3でYesの場合には、減速条件が成立したと判定され、減速工程として減速制御が実行される(ステップS55)。減速制御は、スロットル弁23の開度をアイドリング開度まで減少させるとともに、インジェクタ26から吸気通路中への燃料噴射量をアイドリング吸気量に適した量まで減少させて、エンジン出力を低下させる通常の制御である。
減速制御中には、前輪ブレーキ圧センサ41又は後輪ブレーキ圧センサ42で検出されるブレーキ圧Pが第1閾値P1以上になってから第2閾値P2未満になったか否かが判定される(ステップS56)。ステップS56でNoの場合には、ステップS2に戻る。ステップS56でYesの場合には、制動指令が解除されたと判定し、出力増加準備におけるスロットル弁23の開度を決定する(ステップS58)。そして、出力増加準備工程として、インジェクタ26による燃料噴射を再開させないままで、ステップS58で決定されたスロットル開度(アイドリング開度よりも若干大きい開度)になるようにスロットル開度θを増加させる(ステップS59)。そのスロットル開度θを増加させる際には、エンジンEの4つの気筒間でスロットル開度θが増加開始するタイミングをずらしてもよい。
次いで、運転者により加速指令が入力されたか否かが判定される(ステップS11)。具体的には、スロットルグリップ開度φがゼロより大きくなったか否かが判定される。ステップS11でYesの場合には、出力増加工程として通常運転(ステップS1)に戻り、インジェクタ26による燃料噴射が再開するとともに、スロットルグリップ開度φの増加に連動してスロットル開度θが増加し、エンジン出力が増加する。
以上に説明した構成によれば、通常の減速制御中において制動指令が解除されたと判定された場合にスロットル弁の開度が増やされるため、運転者により加速操作が行われる前に予め吸気量が増やされ、運転者が加速操作を行う際の出力応答性が良くなる。そうすれば、加速操作を開始した時点から遅れてエンジン出力が急に増加することが防がれ、エンジン出力変動を抑制することができる。その結果、減速状態から加速状態に移行する際のエンジン出力変動を抑制することができ、ドライバビリティを向上させることができる。
なお、本実施形態のように通常の減速状態から再加速する際の制御においても、前述した第1〜4実施形態のように、遅れ時間Tを設定してもよいし、出力増加準備におけるスロットル開度を走行状態に応じて可変としてもよい。また、本実施形態では、制動指令が解除されたことをブレーキ圧センサに基づいて判断したが、他の手段を用いてもよい。例えば、ブレーキレバー変位位置を検出するセンサを用いて制動指令の解除を判断してもよい。また車速の単位時間あたりの減速変化が略ゼロに達したこと、減速変化が緩やかになったことを判断して、制動指令が解除されたことを判断してもよい。また、本実施形態では、第1閾値と第2閾値とを用いて制動解除を判断したが、1つの閾値を用いてもよい。この場合、上記制動量判断値が1つの所定値を超えた状態から、1つの所定値未満に達すると、制動解除したことを判断してもよい。
以上のように、本発明に係る車両は、減速状態から加速状態に移行する際のドライバビリティを向上させることができる優れた効果を有し、この効果の意義を発揮できる自動二輪車等の鞍乗型車両等に広く適用すると有益である。
1 自動二輪車
8 スロットルグリップ(加速入力装置)
9 ブレーキレバー(制動入力装置)
17 ブレーキペダル(制動入力装置)
18 変速機
19 エンジンECU(エンジン制御装置)
23 スロットル弁
24 弁アクチュエータ(エンジン制御要素)
25 スロットルポジションセンサ
26 インジェクタ(燃料供給装置、エンジン制御要素)
27 点火装置(エンジン制御要素)
28 エンジン回転数センサ(走行状態検出センサ)
29 ギヤポジションセンサ(走行状態検出センサ)
30 グリップポジションセンサ
36 電動ブレーキ装置(アンチロックブレーキシステム)
37 前輪速度センサ(走行状態検出センサ)
41 前輪ブレーキ圧センサ(制動量センサ、走行状態検出センサ)
42 後輪ブレーキ圧センサ(制動量センサ、走行状態検出センサ)
E エンジン
本発明は、運転者からの加速指令に応じて複数のエンジン制御要素を制御してエンジン出力を変化させる鞍乗型車両に関するものである。
一般に、エンジンへの燃料供給量には、エンジン回転数やスロットル開度などに対応して予め基準値が定められている。エンジンの動作を制御する制御装置は、各種センサから取得したエンジン回転数やスロットル開度などに基づき、基準値として定められた燃料供給量を決定し、その量の燃料をインジェクタにより吸気中へ噴射する。近年の車両に搭載されたエンジンでは、スロットルが閉じられて減速状態となったときに、燃費向上等のためにエンジンへの燃料噴射を停止する燃料カット制御が実行され、スロットルが開かれると燃料噴射が再開されるものが提供されている(例えば、特許文献1参照)。
しかし、燃料カット制御中には燃料カット前に吸気管に付着していた燃料がエンジンに吸入され、吸気管は乾燥した状態となる。通常、自動二輪車では混合気の空燃比はリッチ状態に設定されているが、燃料カット制御状態から加速のためにスロットルを開いて燃料噴射を再開した時には、その噴射された燃料が乾燥した吸入管に付着するため、エンジンに吸入される混合気は一時的にリーン状態となり、その後にリッチ状態となる。そうすると、燃料噴射を再開して加速する際にエンジン出力が変動して、ドライバビリティが損なわれる。特にコーナリング時などには、運転者は車体振動等に対してナーバスになるため、燃料カット制御状態から燃料噴射を再開するときに生じるエンジン出力変動を抑制することが望まれる。
また、スロットル開度が小さい状態では、燃焼エネルギーがエンジンの機械的抵抗よりも小さくなるため、駆動輪からの動力によってクランクシャフトが回転し、エンジン出力はマイナスとなる。特に、走行中の高いエンジン回転数において減速のためにスロットルが閉じられると、吸気量不足によりエンジンで燃焼が行われない状態が発生する。この状態から加速のためにスロットルが開かれると、エンジンが不燃状態から遅れて急に燃料状態に移行してエンジン出力が変動し、ドライバビリティが損なわれることとなる。
そこで本発明は、減速状態から加速状態に移行する際のドライバビリティを向上させることを目的とする。
本発明は前記事情に鑑みてなされたものであり、本発明に係る鞍乗型車両は、運転者から加速指令が入力される加速入力装置と、運転者から制動指令が入力される制動入力装置と、前記加速指令に応じて複数のエンジン制御要素を制御してエンジン出力を変化させるとともに、所定の減速条件が成立したときにエンジン出力を低下させる減速制御を実行するエンジン制御装置と、を備え、前記エンジン制御要素は、前記エンジンへの燃料供給を制御する燃料供給装置を含み、前記減速条件は、予め定められた燃料カット条件を含み、前記減速制御は、エンジン回転数が所定値以上で前記燃料カット条件が成立したときに前記エンジンへの燃料供給を停止する燃料カット制御を含み、前記エンジン制御装置は、前記減速制御中に前記制動指令が解除されたと判定された場合に、減速制御状態を維持しつつエンジン出力が増加する傾向に少なくとも1つのエンジン制御要素の制御量を変化させる出力増加準備を行い、その後に前記加速指令が入力されたと判定された場合に、他の少なくとも1つのエンジン制御要素の制御量を変化させてエンジン出力を増加させる。
本発明者は、ブレーキを使いながら減速してから再加速する際には、運転者は制動操作を解除した後に遅れて加速操作を行うのが通常であることに着目した。つまり、運転者が加速操作を行うタイミングを事前に知ることはできないが、制動操作を解除した時点を検出することで、加速操作を行うタイミングよりも前のタイミングを特定することができる。よって前記構成によれば、減速制御中において制動指令が解除されたと判定された場合に、減速制御状態を維持しつつエンジン出力が増加する傾向に少なくとも1つのエンジン制御要素の制御量を変化させる出力増加準備を行うため、その後の加速指令時において、エンジンの応答性を向上させたり、エンジン出力の急変化を防いだりすることができる。その結果、減速状態から加速状態に移行する際のドライバビリティを向上させることができる。
なお、出力増加準備では、車速が増加しない状態を保つ範囲で、エンジン制御要素の制御量を変化させることが好ましい。例えば、エンジンの燃焼行程における不燃焼現象が維持される範囲で、エンジン出力が増加する傾向にエンジン制御要素の制御量を増加させてもよい。また例えば、駆動輪の回転慣性力によりエンジンのクランクシャフトが駆動される状態、すなわちエンジンブレーキ状態を保つ範囲で、エンジン出力が増加する傾向にエンジン制御要素の制御量を増加させてもよい。さらに、前記制御量は、スロットル開度、燃料噴射量、点火時期、休筒解除(燃焼行程で失火させていた気筒を点火させるように復帰)、排気バルブ開度、過給制御など、エンジン出力を変化させることが可能なものであれば任意の制御量を用いることができる。
前記エンジン制御装置は、制動中であり且つその制動量が所定値未満に達したとき、前記制動指令が解除されたと判定してもよい。
前記エンジン制御装置は、エンジンの燃焼行程における不燃焼現象が維持される範囲またはエンジンブレーキ状態が保たれる範囲で、エンジン出力が増加する傾向に前記少なくとも1つのエンジン制御要素の制御量を増加させてもよい。
前記エンジンは複数の気筒を有し、前記エンジン制御装置は、前記複数の気筒間で前記出力増加準備を開始するタイミングをずらしていてもよい。
前記エンジン制御装置は、前記制動指令が解除されたと判定された時点から予め定められる遅れ時間の経過後に前記出力増加準備を行ってもよい。
前記制動入力装置は、ハンドルに設けられてもよい。
前記加速入力装置は、ハンドルの把持部分に設けられ、その前方に前記制動入力装置が配置されてもよい。
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、減速状態から加速状態に移行する際のドライバビリティを向上させることができる。
本発明の第1実施形態に係る自動二輪車を示す右側面図である。
図1に示す自動二輪車の制御系を説明するブロック図である。
図2に示す自動二輪車の制御を説明するフローチャートである。
図3に示す制御を説明するグラフである。
本発明の第2実施形態に係る自動二輪車の制御を説明するフローチャートである。
図5に示す制御を説明するグラフである。
本発明の第3実施形態に係る自動二輪車の制御を説明するフローチャートである。
図7に示す制御を説明するグラフである。
本発明の第4実施形態に係る自動二輪車の制御を説明するフローチャートである。
図9に示す制御を説明するグラフである。
本発明の第5実施形態に係る自動二輪車の制御を説明するフローチャートである
以下、本発明に係る実施形態を図面を参照して説明する。なお、以下では全ての図を通じて同一又は相当する要素には同一の参照符号を付して、その重複する説明を省略する。また、以下の説明で用いる方向の概念は、車両に乗車した運転者から見た方向を基準とする。また、本実施形態においては、本発明を自動二輪車に適用した例について説明するが、本発明は車輪で走行する車両である限り適用可能である。例えば、四輪の自動車や、運転者がシートに跨がった状態で運転する鞍乗型車両のいずれにも適用可能である。鞍乗型車両には、自動二輪車、ATV(All Terrain Vehicle)等が含まれる。
図1は本発明の第1実施形態に係る自動二輪車1を示す右側面図である。図1に示すように、自動二輪車1は、従動輪からなる前輪2と、駆動輪からなる後輪3とを備えている。前輪2は略上下方向に延びるフロントフォーク4の下端部にて回転自在に支持されており、フロントフォーク4は、ブラケット(図示せず)を介してステアリングシャフト(図示せず)に支持されている。ステアリングシャフト(図示せず)は、ヘッドパイプ5によって回転自在に支持されている。前記ブラケットには、左右へ延びるバー型のハンドル6が取り付けられている。
前輪2の左右両側には前輪ブレーキディスク7Aが固定されている。フロントフォーク4の下端部には、前輪ブレーキキャリパ7Bが支持されている。前輪ブレーキディスク7A及び前輪ブレーキキャリパ7Bは、前輪ブレーキ7を構成し、前輪ブレーキキャリパ7Bのピストン(図示せず)が油圧により前輪ブレーキディスク7Aに押し付けられることによりブレーキ力を発生させる。ハンドル6の運転者の右手により把持される部分に設けられたスロットルグリップ8(加速入力装置)は、運転者から加速指令が入力されるものであり、手首のひねりにより回転させることで後述するスロットル装置22(図2参照)が操作される。スロットルグリップ8の前方には、主に前輪ブレーキ7を作動させるために運転者から制動指令が入力されるブレーキレバー9(制動入力装置)が設けられている。
ヘッドパイプ5からは左右一対のメインフレーム10が下方に傾斜しながら後方へ延びており、メインフレーム10の後部に左右一対のピボットフレーム11が接続されている。ピボットフレーム11には、略前後方向に延びるスイングアーム12の前端部が軸支されており、スイングアーム12の後端部に後輪3が回転自在に軸支されている。ハンドル6の後方には燃料タンク13が設けられており、燃料タンク13の後方に運転者騎乗用のシート14が設けられている。後輪3の右側には後輪ブレーキディスク15Aが固定されている。スイングアーム12の後端部には、後輪ブレーキキャリパ15Bが支持されている。後輪ブレーキディスク15A及び後輪ブレーキキャリパ15Bは、後輪ブレーキ15を構成し、後輪ブレーキキャリパ15Bのピストン(図示せず)が油圧により後輪ブレーキディスク15Aに押し付けられることによりブレーキ力を発生させる。シート14の下方かつ左右両側には、運転者が足を載せるステップ16が設けられている。右側のステップ16には、前方へ延びるブレーキペダル17(制動入力装置)が軸支されており、運転者が足で踏み込むことにより、主に後輪ブレーキ15を作動させることができる。
前輪2と後輪3との間には、エンジンEがメインフレーム10及びピボットフレーム11に支持された状態で搭載されている。エンジンEとしては4ストローク並列四気筒エンジンが例示されている。エンジンEの出力軸には変速機18が接続されており、この変速機18から出力される駆動力がチェーン(図示せず)を介して後輪3に伝達される。エンジンEの吸気ポート(図示せず)には、燃料タンク13の下方でメインフレーム10の内側に配置されたスロットル装置22(図2参照)が接続されている。スロットル装置22の上流側には、燃料タンク13の下方に配置されたエアクリーナ21(図2参照)が接続されており、前方からの走行風圧を利用して外気を取り込む構成となっている。また、シート14の下方の内部空間には、エンジンECU19(エンジン制御装置)及びABS用ECU20が収容されている。
図2は図1に示す自動二輪車の制御系を説明するブロック図である。図2に示すように、エアクリーナ21は、スロットル装置22を介してエンジンEの吸気ポート(図示せず)に接続されている。スロットル装置22は、吸気通路に配置されて吸気量を調節するスロットル弁23を有している。スロットル弁23は、エンジンECU19で制御されるモータからなる弁アクチュエータ24(エンジン制御要素)に接続されており、弁アクチュエータ24によって開閉される。スロットル弁23には、スロットル弁23の開度を検出するスロットルポジションセンサ25が設けられている。
また、スロットル装置22には、吸気通路に燃料を噴射する燃料供給装置であるインジェクタ26(エンジン制御要素)が設けられている。エンジンEには、4つの気筒内の混合気にそれぞれ点火を行う点火装置27(エンジン制御要素)が設けられている。エンジンEのクランクシャフト(図示せず)には、クランクシャフトの回転数を検出するエンジン回転数センサ28が設けられている。エンジンEには、エンジンEの動力を変速して後輪3に伝達する変速機18が接続されている。変速機18には、その変速位置を検出するためのギヤポジションセンサ29が設けられている。また、スロットルグリップ8には、スロットルグリップ8の開度を検出するグリップポジションセンサ30が設けられている。
エンジンECU19は、マイコン等の演算装置や各種のメモリ等より構成され、スロットルポジションセンサ25、エンジン回転数センサ28、ギヤポジションセンサ29及びグリップポジションセンサ30に接続されている。エンジンECU19は、メイン制御部31、スロットル制御部32、燃料制御部33及び点火制御部34を有している。メイン制御部31は、各センサ25,28,29,30から入力される信号に基づいてエンジン制御に関する演算等を行う。スロットル制御部32は、メイン制御部31における演算結果に基づいて弁アクチュエータ24を制御し、スロットル弁23の開度を調節する。燃料制御部33は、メイン制御部31における演算結果に基づいてインジェクタ26を制御する。点火制御部34は、メイン制御部31における演算結果に基づいて点火装置27を制御する。また、メイン制御部31には、運転者が入力操作を行うための操作パネル35が接続されている。
自動二輪車1は、アンチロックブレーキシステムとして機能する電動ブレーキ装置36を備えている。電動ブレーキ装置36は、ABS用ECU20を有している。ABS用ECU20には、前輪2の回転数を検出する前輪速度センサ37と、後輪3の回転数を検出する後輪速度センサ38とが接続されている。また、ABS用ECU20には、前輪ブレーキ7(の前輪ブレーキキャリパ7B)を作動させるための油圧ポンプ等からなる前輪ブレーキアクチュエータ39と、後輪ブレーキ15(の後輪ブレーキキャリパ15B)を作動させるための油圧ポンプ等からなる後輪ブレーキアクチュエータ40とが接続されている。また、ABS用ECU20には、前輪ブレーキ7(の前輪ブレーキキャリパ7B)を作動させるブレーキ圧(油圧)を検出するための前輪ブレーキ圧センサ41(制動量センサ)と、後輪ブレーキ15(の前輪ブレーキキャリパ7B)を作動させるブレーキ圧(油圧)を検出するための後輪ブレーキ圧センサ42(制動量センサ)とが接続されている。即ち、ブレーキ圧センサ41,42は、運転者による制動指令の制動量を検出する役目を果たす。なお、制動量センサとして、ブレーキ圧センサの代わりに、ブレーキレバー9やブレーキペダル17の操作量を検出するブレーキストロークセンサを用いてもよい。
図3は図2に示す自動二輪車1の制御を説明するフローチャートである。図4は図3に示す制御を説明するグラフである。以下、図2乃至4に基づいてエンジンEが燃料カット制御状態から加速状態に移行する際の制御について説明する。まず、エンジンEが始動されると通常運転が開始される(ステップS1)。その通常運転中に、エンジンECU19のメイン制御部31は、所定の燃料カット条件(ステップS1〜S3)が成立するか否かを判定する。
具体的には、まず、エンジン回転数センサ28で検出されるエンジン回転数が所定値(例えば、2000〜2500rpm)以上であるか否かが判定される(ステップS2)。ステップS2でYesの場合には、グリップポジションセンサ30で検出されるスロットルグリップ開度φが全閉状態(ゼロ又はその近傍)であるか否かが判定される(ステップS3)。なお、スロットルグリップ開度φが全閉状態(ゼロ又はその近傍)であるときは、スロットル弁23のスロットル開度θはアイドリング開度θ1となるように制御される。ステップS3でYesの場合には、前輪ブレーキ圧センサ41又は後輪ブレーキ圧センサ42で検出されるブレーキ圧Pが第1閾値P1以上であるか否かが判定される(ステップS4)。
ステップ4でYesの場合には(図4の時間t1)、燃料カット条件が成立したと判定され、減速工程として燃料カット制御が実行される(ステップS5)。燃料カット制御は、インジェクタ26から吸気通路中への燃料噴射を強制的に停止させてエンジン出力を低下させる減速制御である。これにより、減速中における無駄な燃料消費が低減され、燃費向上及び排ガス低減が図られる。なお、ステップS2〜S4の何れかでNoの場合には、燃料カット制御は実行されずにステップS1に戻り、通常運転が継続される。
燃料カット制御中には、前輪ブレーキ圧センサ41又は後輪ブレーキ圧センサ42で検出されるブレーキ圧Pが第2閾値P2未満であるか否かが判定される(ステップS6)。第2閾値P2は、第1閾値P1よりも大きい値である。但し、第1閾値P1と第2閾値P2とを互いに同じ値としてもよい。ステップS6でNoの場合には、エンジン回転数センサ28で検出されるエンジン回転数が所定値(例えば、2000〜2500rpm)以上であるか否かが判定される(ステップS7)。なお、このステップS7における所定値は、ステップS2における所定値と同じであってもよいし、異なっていてもよい。
ステップS7でNoの場合には、エンジン回転数が低く、エンジンストールが発生し易いため、通常運転に復帰して燃料噴射を再開する(ステップS1)。ステップS7でYesの場合には、ステップS5に戻り、再度、ブレーキ圧Pが第2閾値P2未満であるか否かが判定される(ステップS6)。ステップS6でYesの場合には(図4の時間t2)、制動指令が解除されたと判定し、遅れ時間Tを決定する(ステップS8)。遅れ時間Tは、ステップS6でYesと判定された時点から燃料噴射を再開させるまでの時間である。これにより、制動指令が解除されたと判定された時点と同時に燃料噴射を再開する場合に比べて燃費向上が図られる。
次いで、制動指令が解除されたと判定された時点から遅れ時間Tが経過したか否かが判定される(ステップS9)。ステップS9でYesの場合には(図4の時間t3)、出力増加準備工程として、スロットル開度θはアイドリング開度θ1のままでインジェクタ26による燃料噴射が再開される(ステップS10)。その燃料噴射を再開する際には、エンジンEの4つの気筒間で燃料噴射を再開するタイミングをずらしてもよい。そうすれば、燃料噴射再開後に加速する際のエンジン出力の変動が滑らかになり、運転フィーリングがより向上する。
次いで、運転者により加速指令が入力されたか否かが判定される(ステップS11)。具体的には、スロットルグリップ開度φがゼロより大きくなったか否かが判定される。ステップS11でYesの場合には(図4の時間t4)、出力増加工程として通常運転(ステップS1)に戻り、スロットルグリップ開度φの増加に連動してスロットル開度θも増加して、エンジン出力が増加する。
ステップS8で決定される遅れ時間Tは、自動二輪車1の走行状態に応じて定められている。具体的には、エンジンECU19のメイン制御部31は、走行状態検出センサで検出される値と遅れ時間Tとの相関関係を示す遅れ時間マップを記憶している。走行状態検出センサは、例えば、ブレーキ圧センサ41,42、エンジン回転数センサ28、前輪速度センサ37及びギヤポジションセンサ29のうち少なくとも1つである。
遅れ時間マップは、ブレーキ圧センサ41,42で検出されるブレーキ圧(制動量)又は制動開始時からの単位時間あたりのブレーキ圧変化率が大きいほど(即ち、急ブレーキであるほど)、遅れ時間Tが短くなるように設定されうる。また、遅れ時間マップは、エンジン回転数センサ28で検出されるエンジン回転数又は制動開始時からの単位時間あたりの回転数変化率が大きいほど、遅れ時間Tが短くなるように設定されうる。また、遅れ時間マップは、前輪速度センサ37で検出される前輪速度(即ち、走行速度)が大きいほど、遅れ時間Tが短くなるように設定されうる。
制動量や制動量変化率やエンジン回転数や回転数変化率や走行速度や走行速度変化率が大きいときには減速により走行速度が大幅に低下するため、その後には早く加速することが望まれることが多い。また、エンジン回転数や走行速度が大きいときには、燃料カット制御中にエンジンEに導かれる吸気の総量が多くなるために吸気通路の内壁内面の乾燥度が高くなる。そこで、制動量、制動量変化率、エンジン回転数、エンジン回転数変化率、走行速度及び走行速度変化率のうち少なくとも1つの値が大きいほど、遅れ時間Tを短くすることで、燃料噴射の再開時(出力増加準備の開始時)から加速指令が入力されるまでの時間が長くなり、スロットル装置22の吸気通路の管壁内面に十分な燃料を付着させることができる。よって、出力増加準備後の加速指令時の混合気の空燃比をリッチにすることができ、出力変動の少ない速やかな加速を得ることができる。
また、遅れ時間マップは、ギヤポジションセンサ29で検出される変速位置が減速比の最も大きい1速位置である場合には、他の変速位置(2〜6速位置)である場合よりも遅れ時間Tが長くなるように設定されうる。変速機18の変速位置が減速比の大きい1速の場合には発生トルクが大きい。よって、変速位置が1速である場合には、他の変速位置よりも遅れ時間を長くすることで、燃料噴射の再開時(出力増加準備の開始時)から加速指令が入力されるまでの時間が短くなり、スロットル装置22の吸気通路の管壁内面に付着させる燃料が多くなるのを防ぐことができる。よって、再加速時にトルクが大きくなり過ぎることが抑制され、安定した加速を実現することができる。
また、遅れ時間マップは、ギヤポジションセンサ29で検出される変速位置が減速比の最も大きい1速位置である場合には、他の変速位置(2〜6速位置)である場合よりも遅れ時間Tが短くなるようにも設定されうる。変速機18の変速位置が減速比の大きい1速の場合は、十分な加速力が必要なことも多い。よって、変速位置が1速である場合には、他の変速位置よりも遅れ時間を短くすることで、燃料噴射の再開時(出力増加準備の開始時)から加速指令が入力されるまでの時間が長くなり、スロットル装置22の吸気通路の管壁内面に付着させる燃料を多くすることができる。よって、再加速時のトルクを十分に大きくして、加速性能を向上させることもできる。また、変速位置が1速の場合と、1速以外の場合とで、遅れ時間Tを変更するとしたが、変速位置として、減速比が大きいグループ(例えば、1,2速)である場合と、減速比が小さいグループ(例えば、3速以上)である場合とで、遅れ時間Tを変更してもよい。
なお、遅れ時間Tは、制動指令が解除されたと判定された時点から加速指令が入力されるまでの時間(この時間は実験的に知得される)よりも短い時間に設定され、例えば、0秒以上0.5秒以下の値に設定されるとよい。また、遅れ時間Tは、運転者が操作パネル35を操作することで設定できるようにしてもよい。また、本実施形態では走行状態又はエンジン運転状態に応じて遅れ時間Tを可変としたが、状態に拘らず一定としてもよい。また、遅れ時間マップは、低燃費走行モードに設定されると非低燃費走行モードに比べて遅れ時間Tが長くなるように設定されてもよい。また、遅れ時間Tとしてゼロが与えられてもよい。
以上に説明した構成によれば、燃料カット制御中において制動指令が解除されたと判定された場合にエンジンEへの燃料噴射が再開されるため、加速操作が行われる前に乾燥した吸気通路の管壁内面に予め燃料が付着させられ、空燃比変動に起因するエンジン出力変動を抑制することができる。その結果、燃料カット制御を実行しながらもエンジン出力変動を抑制することができ、燃費向上とドライバビリティ向上とを両立することができる。
(第2実施形態)
図5は本発明の第2実施形態に係る自動二輪車の制御を説明するフローチャートである。図6は図5に示す制御を説明するグラフである。以下、図2,5及び6に基づいてエンジンEが燃料カット制御状態から加速状態に移行する際の制御について説明する。ステップS1〜S9は第1実施形態と同様であるため説明を省略する。ステップS9において、制動指令が解除されたと判定された時点から遅れ時間Tが経過したと判定された場合には(図6の時間t3)、出力増加準備工程として、インジェクタ26による燃料噴射を再開させないままでスロットル開度θを若干増加させる(ステップS20)。そのスロットル開度θを増加させる際には、エンジンEの4つの気筒間でスロットル開度θが増加開始するタイミングをずらしてもよい。
次いで、運転者により加速指令が入力されたか否かが判定される(ステップS11)。具体的には、スロットルグリップ開度φがゼロより大きくなったか否かが判定される。ステップS11でYesの場合には(図6の時間t4)、出力増加工程として通常運転(ステップS1)に戻り、インジェクタ26による燃料噴射が再開するとともに、スロットルグリップ開度φの増加に連動してスロットル開度θも増加し、エンジン出力が増加する。
以上に説明した構成によれば、燃料カット制御中において制動指令が解除されたと判定された場合にスロットル開度θが増やされるため、運転者により加速操作が行われる前に予め吸気量が増やされ、運転者が加速操作を行う際の出力応答性が良くなる。そうすれば、加速操作を開始した時点から遅れてエンジン出力が急に増加することが防がれ、エンジン出力変動を抑制することができる。その結果、減速状態から加速状態に移行する際のエンジン出力変動を抑制することができ、ドライバビリティを向上させることができる。なお、他の構成は前述した第1実施形態と同様であるため説明を省略する。
(第3実施形態)
図7は本発明の第3実施形態に係る自動二輪車の制御を説明するフローチャートである。図8は図7に示す制御を説明するグラフである。以下、図2,7及び8に基づいてエンジンEが燃料カット制御状態から加速状態に移行する際の制御について説明する。ステップS1〜S7は第1実施形態と同様であるため説明を省略する。ステップS6において、ブレーキ圧Pが第2閾値P2未満であると判定された場合には(図8の時間t2)、出力増加準備における燃料噴射量F1を決定する(ステップS38)。
出力増加準備における燃料噴射量F1は、自動二輪車1の走行状態に応じて定められている。具体的には、エンジンECU19のメイン制御部31は、走行状態検出センサで検出される値と燃料噴射量F1との相関関係を示す出力増加準備燃料噴射量マップを記憶している。走行状態検出センサは、例えば、ブレーキ圧センサ41,42、エンジン回転数センサ28、前輪速度センサ37及びギヤポジションセンサ29のうち少なくとも1つである。
出力増加準備燃料噴射量マップは、ブレーキ圧センサ41,42で検出されるブレーキ圧又はブレーキ圧変化率が大きいほど、燃料噴射量F1が多くなるように設定されうる。また、出力増加準備燃料噴射量マップは、エンジン回転数センサ28で検出されるエンジン回転数が大きいほど、燃料噴射量F1が多くなるように設定されうる。また、出力増加準備燃料噴射量マップは、前輪速度センサ37で検出される前輪速度(即ち、走行速度)が大きいほど、燃料噴射量F1が多くなるように設定されうる。
制動量や制動量変化率やエンジン回転数や回転数変化率や走行速度や走行速度変化率が大きいときには減速により走行速度が大幅に低下するため、その後には早く加速することが望まれることが多い。また、エンジン回転数や走行速度やそれらの変化率が大きいときには、燃料カット制御中にエンジンEに導かれる吸気の総量が多くなるために吸気通路の内壁内面の乾燥度が高くなる。そこで、制動量、エンジン回転数、走行速度及びそれらの変化率のうち少なくとも1つの値が大きいほど、出力増加準備における燃料噴射量F1を多くすることで、スロットル装置22の吸気通路の管壁内面に十分な燃料を付着させることができる。よって、出力増加準備後の加速指令時の混合気の空燃比をリッチにすることができ、出力変動の少ない速やかな加速を得ることができる。
また、出力増加準備燃料噴射量マップは、ギヤポジションセンサ29で検出される変速位置が減速比の最も大きい1速位置である場合には、他の変速位置(2〜6速位置)である場合よりも燃料噴射量F1が少なくなるように設定されうる。変速機18の変速位置が減速比の大きい1速の場合には発生トルクが大きい。よって、変速位置が1速である場合には、他の変速位置よりも燃料噴射量F1を少なくすることで、スロットル装置22の吸気通路の管壁内面に付着させる燃料が多くなるのを防ぐことができる。よって、再加速時にトルクが大きくなり過ぎることが抑制され、安定した加速を実現することができる。
また、出力増加準備燃料噴射量マップは、ギヤポジションセンサ29で検出される変速位置が減速比の最も大きい1速位置である場合には、他の変速位置(2〜6速位置)である場合よりも燃料噴射量F1が多くなるようにも設定されうる。変速機18の変速位置が減速比の大きい1速の場合は、十分な加速力が必要なことも多い。よって、変速位置が1速である場合には、他の変速位置よりも燃料噴射量F1を多くすることで、スロットル装置22の吸気通路の管壁内面に付着させる燃料を多くすることができ、再加速時の加速性能を向上させることもできる。
なお、変速位置が1速の場合と、1速以外の場合とで、燃料噴射量F1を変更するとしたが、変速位置として、減速比が大きいグループ(例えば、1,2速)である場合と、減速比が小さいグループ(例えば、3速以上)である場合とで、燃料噴射量F1を変更してもよい。また、燃料噴射量F1は、運転者が操作パネル35を操作することで設定できるようにしてもよい。また、本実施形態では燃料噴射量F1を走行状態又はエンジン運転状態に応じて可変としたが、状態に拘らず一定としてもよい。また、出力増加準備燃料噴射量マップは、低燃費走行モードに設定されると燃料噴射量F1が少なくなるように設定されてもよい。
そして、ステップS6でYesの場合には(図8の時間t3)、出力増加準備工程として、スロットル開度θはアイドリング開度θ1のままで、ステップS38で決定された燃料噴射量F1でインジェクタ26による燃料噴射が再開される(ステップS39)。その燃料噴射を再開する際には、エンジンEの4つの気筒間で燃料噴射を再開するタイミングをずらしてもよい。
次いで、運転者により加速指令が入力されたか否かが判定される(ステップS11)。具体的には、スロットルグリップ開度φがゼロより大きくなったか否かが判定される。ステップS11でYesの場合には(図8の時間t4)、出力増加工程として通常運転(ステップS1)に戻り、通常の燃料噴射量マップに基づいてインジェクタ26による燃料噴射が通常通り行われるとともに、スロットルグリップ開度φの増加に連動してスロットル開度θも増加して、エンジン出力が増加する。
以上に説明した構成によれば、燃料カット制御中の走行状態に応じて出力増加準備の燃料噴射量F1が調節されるので、その時の走行状態に適するような再加速が行えるように、出力増加準備を行うことができる。なお、他の構成は前述した第1実施形態と同様であるため説明を省略する。なお、第3実施形態では、第1実施形態と同様に、燃料噴射量の他に、遅れ時間についても走行状態・エンジン運転状態に応じて変化可能にしてもよい。燃料噴射量と遅れ時間との両方を変化可能とすることで、多様な状態に応じた制御を実現することができる。
(第4実施形態)
図9は本発明の第4実施形態に係る自動二輪車の制御を説明するフローチャートである。図10は図9に示す制御を説明するグラフである。以下、図2,9及び10に基づいてエンジンEが燃料カット制御状態から加速状態に移行する際の制御について説明する。ステップS1〜S7は第1実施形態と同様であるため説明を省略する。ステップS6において、ブレーキ圧Pが第2閾値P2未満であると判定された場合には(図10の時間t2)、出力増加準備におけるスロットル開度θ2を決定する(ステップS48)。
出力増加準備におけるスロットル開度θ2は、自動二輪車1の走行状態に応じて定められている。具体的には、エンジンECU19のメイン制御部31は、走行状態検出センサで検出される値とスロットル開度θ2との相関関係を示す出力増加準備スロットル開度マップを記憶している。走行状態検出センサは、例えば、ブレーキ圧センサ41,42、エンジン回転数センサ28、前輪速度センサ37及びギヤポジションセンサ29のうち少なくとも1つである。
出力増加準備スロットル開度マップは、ブレーキ圧センサ41,42で検出されるブレーキ圧又はブレーキ圧変化率が大きいほど、スロットル開度θ2が大きくなるように設定されうる。また、出力増加準備スロットル開度マップは、エンジン回転数センサ28で検出されるエンジン回転数が大きいほど、スロットル開度θ2が大きくなるように設定されうる。また、出力増加準備スロットル開度マップは、前輪速度センサ37で検出される前輪速度(即ち、走行速度)が大きいほど、スロットル開度θ2が大きくなるように設定されうる。
制動量や制動量変化率やエンジン回転数や走行速度が大きいときには走行速度が大幅に低下するため、その後には早く加速することが望まれることが多い。そこで、制動量、制動量変化率、エンジン回転数及び走行速度のうち少なくとも1つの値が大きいほど、出力増加準備におけるスロットル開度θ2を大きくすることで、気筒での燃焼を発生させ易い吸気量を予め確保することができる。よって、運転者が加速操作を行う際の出力応答性が良くなり、速やかな加速を得ることができる。
また、出力増加スロットル開度マップは、ギヤポジションセンサ29で検出される変速位置が減速比の最も大きい1速位置である場合には、他の変速位置(2〜6速位置)である場合よりもスロットル開度θ2が小さくなるように設定されうる。変速機18の変速位置が減速比の大きい1速の場合には発生トルクが大きい。よって、変速位置が1速である場合には、他の変速位置よりもスロットル開度θ2を少なくすることで、再加速時にトルクが大きくなり過ぎることが抑制され、安定した加速を実現することができる。
また、出力増加準備スロットル開度マップは、ギヤポジションセンサ29で検出される変速位置が減速比の最も大きい1速位置である場合には、他の変速位置(2〜6速位置)である場合よりもスロットル開度θ2が大きくなるようにも設定されうる。変速機18の変速位置が減速比の大きい1速の場合は、十分な加速力が必要なことも多い。よって、変速位置が1速である場合には、他の変速位置よりもスロットル開度θ2を多くすることで、再加速時のトルクを十分に大きくして、加速性能を向上させることもできる。
なお、スロットル開度θ2は、運転者が操作パネル35を操作することで設定できるようにしてもよい。また、本実施形態ではスロットル開度θ2を可変としたが、一定としてもよい。また、出力増加準備スロットル開度マップは、低燃費走行モードに設定されるとスロットル開度θ2が少なくなるように設定されてもよい。
そして、ステップS6でYesの場合には(図10の時間t3)、出力増加準備工程として、インジェクタ26による燃料噴射を再開させないままで、ステップS48で決定されたスロットル開度θ2にスロットル開度θを増加させる(ステップS49)。そのスロットル開度θを増加させる際には、エンジンEの4つの気筒間でスロットル開度θが増加開始するタイミングをずらしてもよい。
次いで、運転者により加速指令が入力されたか否かが判定される(ステップS11)。具体的には、スロットルグリップ開度φがゼロより大きくなったか否かが判定される。ステップS11でYesの場合には(図10の時間t4)、出力増加工程として通常運転(ステップS1)に戻り、インジェクタ26による燃料噴射が再開するとともに、スロットルグリップ開度φの増加に連動してスロットル開度θが増加し、エンジン出力が増加する。
以上に説明した構成によれば、燃料カット制御中の走行状態に応じて出力増加準備のスロットル開度θ2が調節されるので、その時の走行状態に適するような再加速が行えるように、出力増加準備を行うことができる。なお、他の構成は前述した第1実施形態と同様であるため説明を省略する。なお、第4実施形態では、第1実施形態と同様に、スロットル開度の他に、遅れ時間についても走行状態・エンジン運転状態に応じて変化可能にしてもよい。スロットル開度と遅れ時間との両方を変化可能とすることで、多様な状態に応じた制御を実現することができる。さらに、第3実施形態と同様に、スロットル開度の他に、燃料噴射量についても状態に応じて、変化可能としてもよい。
(第5実施形態)
図11は本発明の第5実施形態に係る自動二輪車の制御を説明するフローチャートである。以下、図2及び11に基づいてエンジンEが減速状態から加速状態に移行する際の制御について説明する。即ち、本実施形態は、燃料カット制御状態から再加速する際の制御に関するものではなく、通常の減速状態から再加速する際の制御に関するものである。
まず、エンジンEが始動されると通常運転が開始される(ステップS1)。その通常運転中に、エンジンECU19のメイン制御部31は、所定の減速条件(ステップS2及びS3)が成立するか否かを判定する。具体的には、まず、エンジン回転数センサ28で検出されるエンジン回転数が所定値以上であるか否かが判定される(ステップS2)。ステップS2でYesの場合には、グリップポジションセンサ30で検出されるスロットルグリップ開度φが全閉状態(ゼロ又はその近傍)であるか否かが判定される(ステップS3)。ステップS3でYesの場合には、減速条件が成立したと判定され、減速工程として減速制御が実行される(ステップS55)。減速制御は、スロットル弁23の開度をアイドリング開度まで減少させるとともに、インジェクタ26から吸気通路中への燃料噴射量をアイドリング吸気量に適した量まで減少させて、エンジン出力を低下させる通常の制御である。
減速制御中には、前輪ブレーキ圧センサ41又は後輪ブレーキ圧センサ42で検出されるブレーキ圧Pが第1閾値P1以上になってから第2閾値P2未満になったか否かが判定される(ステップS56)。ステップS56でNoの場合には、ステップS2に戻る。ステップS56でYesの場合には、制動指令が解除されたと判定し、出力増加準備におけるスロットル弁23の開度を決定する(ステップS58)。そして、出力増加準備工程として、インジェクタ26による燃料噴射を再開させないままで、ステップS58で決定されたスロットル開度(アイドリング開度よりも若干大きい開度)になるようにスロットル開度θを増加させる(ステップS59)。そのスロットル開度θを増加させる際には、エンジンEの4つの気筒間でスロットル開度θが増加開始するタイミングをずらしてもよい。
次いで、運転者により加速指令が入力されたか否かが判定される(ステップS11)。具体的には、スロットルグリップ開度φがゼロより大きくなったか否かが判定される。ステップS11でYesの場合には、出力増加工程として通常運転(ステップS1)に戻り、インジェクタ26による燃料噴射が再開するとともに、スロットルグリップ開度φの増加に連動してスロットル開度θが増加し、エンジン出力が増加する。
以上に説明した構成によれば、通常の減速制御中において制動指令が解除されたと判定された場合にスロットル弁の開度が増やされるため、運転者により加速操作が行われる前に予め吸気量が増やされ、運転者が加速操作を行う際の出力応答性が良くなる。そうすれば、加速操作を開始した時点から遅れてエンジン出力が急に増加することが防がれ、エンジン出力変動を抑制することができる。その結果、減速状態から加速状態に移行する際のエンジン出力変動を抑制することができ、ドライバビリティを向上させることができる。
なお、本実施形態のように通常の減速状態から再加速する際の制御においても、前述した第1〜4実施形態のように、遅れ時間Tを設定してもよいし、出力増加準備におけるスロットル開度を走行状態に応じて可変としてもよい。また、本実施形態では、制動指令が解除されたことをブレーキ圧センサに基づいて判断したが、他の手段を用いてもよい。例えば、ブレーキレバー変位位置を検出するセンサを用いて制動指令の解除を判断してもよい。また車速の単位時間あたりの減速変化が略ゼロに達したこと、減速変化が緩やかになったことを判断して、制動指令が解除されたことを判断してもよい。また、本実施形態では、第1閾値と第2閾値とを用いて制動解除を判断したが、1つの閾値を用いてもよい。この場合、上記制動量判断値が1つの所定値を超えた状態から、1つの所定値未満に達すると、制動解除したことを判断してもよい。
以上のように、本発明に係る車両は、減速状態から加速状態に移行する際のドライバビリティを向上させることができる優れた効果を有し、この効果の意義を発揮できる自動二輪車等の鞍乗型車両等に広く適用すると有益である。
1 自動二輪車
8 スロットルグリップ(加速入力装置)
9 ブレーキレバー(制動入力装置)
17 ブレーキペダル(制動入力装置)
18 変速機
19 エンジンECU(エンジン制御装置)
23 スロットル弁
24 弁アクチュエータ(エンジン制御要素)
25 スロットルポジションセンサ
26 インジェクタ(燃料供給装置、エンジン制御要素)
27 点火装置(エンジン制御要素)
28 エンジン回転数センサ(走行状態検出センサ)
29 ギヤポジションセンサ(走行状態検出センサ)
30 グリップポジションセンサ
36 電動ブレーキ装置(アンチロックブレーキシステム)
37 前輪速度センサ(走行状態検出センサ)
41 前輪ブレーキ圧センサ(制動量センサ、走行状態検出センサ)
42 後輪ブレーキ圧センサ(制動量センサ、走行状態検出センサ)
E エンジン