JP2013227222A - 窒化物半導体結晶 - Google Patents

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Abstract

【課題】割れやクラックを生じることなく、複数枚の窒化物半導体自立基板を取得可能な構造を有する窒化物半導体結晶を提供する。
【解決手段】厚さ2mm以上に同種の窒化物半導体層が積層され、且つ前記積層された同種の窒化物半導体層は、不純物濃度の低い窒化物半導体層1と不純物濃度の高い窒化物半導体層2とが交互に2周期以上積層されて構成されている窒化物半導体結晶10である。
【選択図】図1

Description

本発明は、窒化物半導体結晶に関し、更に詳しくは、複数枚の窒化物半導体自立基板を取得可能な窒化物半導体結晶に関する。
窒化ガリウム(GaN)、窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)、窒化インジウムガリウム(InGaN)等に代表される窒化物半導体は、紫外から緑色までの波長領域をカバーする発光デバイス材料として、また、高温動作、高出力動作の電子デバイス材料としても注目されている。
窒化物半導体以外の従来の半導体は、ほとんどの場合、当該半導体と同種の単結晶からなる自立基板を準備し、その上に各種の結晶成長法によりデバイス構造を形成することで様々なデバイスを実現・実用化してきた。
一方、窒化物半導体では、GaNやAlNなどの窒化物半導体からなる単結晶の自立基板を得るのが困難なため、サファイアやSiC等の異種基板を使わざるを得なかった。この場合、異種基板上に成長する窒化物半導体層中には高密度の欠陥(転位)が発生し、これがデバイス特性の向上を妨げる大きな要因となっていた。代表的な例で言うと、半導体レーザーの寿命は結晶中の転位密度に強く依存するため、上述の異種基板上への結晶成長により形成した窒化物半導体素子においては、実用的な素子寿命を得ることは困難であった。
近年、各種の手法により低欠陥密度のGaN単結晶自立基板が供給されるようになり、ようやく窒化物半導体を用いた半導体レーザーが実用化されるに至った。GaN自立基板の製造方法としては様々な方法が提案されている。代表的なものとしては、種基板上にハイドライド気相成長法(Hydride Vapor Phase Epitaxy、HVPE法)によりGaNを厚く成長し、成長中あるいは成長後に種基板を除去する方法、溶融Na中にGa金属を含ませた上で、窒素で全体を加圧することで、種結晶上にGaNを析出させるNaフラックス法、高温・高圧下でGa、窒素から直接GaNを合成する高圧合成法、アンモニア中にGaやGaNを溶解させ、高圧合成法よりも低温、低圧で種結晶上にGaNを析出させる安熱合成法、Ga蒸気とアンモニアからGaNを合成する昇華法などが知られている。
上記の方法の中でも、HVPE法を用いた幾つかの方法が現時点では最も成功を収めており、HVPE法を用いた方法によって作製したGaNの自立単結晶の表裏面を研磨することで、大面積(2〜3インチ径)のGaN自立基板が実現されている。代表的なHVPE法に基づく方法としては、サファイア基板上のGaN薄膜表面にTiを蒸着し、これを熱処理することでボイドを形成し、その上にHVPE法によりGaNを厚く成長し、上記のボイド部分よりサファイア基板を剥離する方法(Void-Assisted Separation Method:VAS法、非特許文献1参照)や、部分的に表面を絶縁体マスクで覆ったGaAs基板上にHVPE法によりGaNを厚く成長し、その後GaAs基板を除去する方法(DEEP法、非特許文献2参照)が知られている。
Yuichi OSHIMA et al., Japanese Journal of Applied Physics, Vol.42(2003), pp.L1-L3 Kensaku Motoki et al., Journal of Crystal Growth, Vol.305(2007), pp. 377-383.
しかしながら、上記HVPE法を用いた方法により製作したGaN基板であっても依然として高価であり、従来のGaAsやInP基板などと比較しても面積あたり10倍以上の価格差があるのが現状である。これは、これらの方法により1mm以上の厚さの自立単結晶を得るのが難しいため、1回の成長により得られる自立単結晶から1枚の自立基板しか得られないためである。
上記HVPE法を用いた方法は、異種基板上への窒化物半導体自立単結晶の成長であるため、成長初期には単結晶中に高密度の転位が導入される。成長の進展とともに転位密度は減少していくが、この転位の減少過程で窒化物半導体単結晶中に歪が導入される。窒化物半導体自立単結晶が厚くなれば、結晶内部に蓄積される歪エネルギーが大きくなり、この歪エネルギーがある臨界値を越えると、窒化物半導体結晶にクラックや割れが生じる。
これが、上記HVPE法を用いた方法により窒化物半導体自立単結晶を厚く成長できない原因となっている。
一方、従来のGaAsやInPを例えばLEC法等により成長する場合、同種のGaAsやInPの単結晶を種結晶とするため、結晶内部に発生する歪は小さく、数10cmの長さの単結晶を1回の成長で得ることが可能である。この単結晶をスライス、研磨することで、1個の単結晶から数枚〜100枚の基板が得られる。このため、GaAs基板やInP基板はGaN基板よりも格段に低いコストでの生産が可能となっている。
従って、もしスライス工程を適用できる厚さ(典型的には、2mm以上)の窒化物半導体自立単結晶を、割れやクラックを生じることなく作製できれば、窒化物半導体自立基板の製造コストを大幅に引き下げることが可能となる。
本発明の目的は、割れやクラックを生じることなく、複数枚の窒化物半導体自立基板を取得可能な構造を有する窒化物半導体結晶を提供することにある。
本発明の第1の態様は、厚さ2mm以上に同種の窒化物半導体層が積層され、且つ前記積層された同種の窒化物半導体層は、不純物濃度の低い窒化物半導体層と不純物濃度の高い窒化物半導体層とが交互に2周期以上積層されて構成されており、前記不純物濃度の低い窒化物半導体層の厚さは、前記不純物濃度の高い窒化物半導体層の厚さの1/20以上であって、40μm以上である窒化物半導体結晶である。
本発明の第2の態様は、前記不純物濃度の低い窒化物半導体層は、不純物濃度が5×1017cm-3未満であり、前記不純物濃度の高い窒化物半導体層は、不純物濃度が5×1017cm-3以上である。
本発明の第3の態様は、第1〜第2の態様のいずれかの窒化物半導体結晶において、前記積層された同種の窒化物半導体層に含まれる不純物は、n形不純物、p形不純物、または半絶縁性を付与する不純物のいずれかである。
本発明によれば、割れやクラックを生じることなく、複数枚の窒化物半導体自立基板を取得可能な構造を有する窒化物半導体結晶を提供できる。また、安価に窒化物半導体自立基板及び窒化物半導体デバイスを提供できる。
本発明に係る窒化物半導体結晶の一実施形態を示す概略的な断面図である。 本発明に係る窒化物半導体自立基板の製造方法の一実施形態を示す工程図である。 本発明に係る実施例のGaN単結晶における、Si添加GaN層の不純物濃度と、GaN単結晶の厚さと、GaN単結晶の成長歩留との関係を示すグラフである。 比較例のGaN単結晶における、GaN単結晶の不純物濃度と、GaN単結晶の厚さと、GaN単結晶の成長歩留との関係を示すグラフである。
本発明に係る窒化物半導体結晶、窒化物半導体自立基板の製造方法の一実施形態の説明に先立って、本発明の知見及び概略的な説明をする。
(発明の知見及び概略的な説明)
上述したように、窒化物半導体結晶が結晶成長中に割れやクラックが発生するのは、成長中に結晶内部に蓄積する応力が原因である。結晶中のある部分に蓄積した応力エネルギーが臨界値を超えるとその部分が塑性変形しはじめ、更に応力エネルギーが強くなると、結晶の割れやクラックを生じるのである。ここで塑性変形とは、結晶中に新たな転位を発生しながら、不可逆的に結晶が変形する現象である。すなわち、塑性変形が始まる応力の臨界値は、結晶中に新たな転位が導入されはじめる応力であるとも言える。また、もしこの転位が導入される臨界応力を制御できれば、窒化物半導体結晶の割れやクラックの発生も抑制することが可能となると考えられる。
そこで、本発明者は、結晶成長時の様々なパラメータが窒化物半導体結晶の塑性変形のし易さに及ぼす影響を詳細に調査した結果、結晶中の不純物濃度により結晶の塑性変形のし易さが大きく変化することを見出した。すなわち、窒化物半導体結晶中の不純物濃度が低い場合、結晶は塑性変形しにくく、窒化物半導体結晶中の不純物濃度が高い場合、結晶は塑性変形しやすくなる。特に、結晶中に添加される不純物の種類に関わらず、窒化物半導体結晶中の不純物濃度が5×1017cm-3以上となると、結晶は極めて塑性変形し易くなり、割れやクラックが生じ易くなることが明らかとなった。
不純物濃度により塑性変形のし易さが変化する機構の詳細は未だ明らかではないが、窒化物半導体結晶中への不純物の添加による点欠陥濃度の増加が原因である可能性が高い。窒化物半導体結晶に不純物を添加する目的は、主として結晶の電気的特性を制御することにある。このため、ほとんどの場合、結晶中でイオン化する不純物が添加される。結晶中でイオン化する不純物が結晶に添加されると、結晶全体の電荷中性を保つために、不純物イオンと逆の符号の点欠陥が結晶中に導入されやすくなる。例えば、Si、Geなどのn形不純物は窒化物半導体結晶中で、電子を放出してプラスにイオン化する。このため、例えばGaN結晶にSiをドーピングした場合には、GaN結晶中にマイナスに帯電するGa空孔が形成される。逆にp形不純物であるMg、Znなどをドーピングした場合には、プラスに帯電する窒素空孔が形成される。不純物濃度が高い場合には、これらの点欠陥(Ga空孔や窒素空孔)の濃度も高くなる。このような空孔濃度が高い結晶では、応力が加わった際に、結晶中の応力エネルギーを低下させるように空孔が凝集し、転位ループを形成しやすいと考えられる。このような転位増殖の起点となる転位ループが結晶中に存在すると、結晶が塑性変形しやすくなると考えられる。
窒化物半導体結晶中の不純物濃度が小さい場合(5×1017cm-3未満)には、結晶が割れにくくなるので、厚い窒化物半導体結晶を容易に形成することが可能である。しかし、このような、いわゆる「アンドープ」の結晶あるいは低不純物濃度の結晶では、割れない窒化物半導体結晶が得られたとしても工業的な意義は小さい。
窒化物半導体の自立基板として工業的に求められる特性としては、低抵抗なn形あるいはp形(キャリア濃度が1×1018cm-3以上)の導電性基板か、抵抗率が1×105Ωcm以上の半絶縁性基板(Fe等を1×1018cm-3以上含む)がほとんどである。このように、工業的に有用なn形あるいはp形の導電性の窒化物半導体基板や、半絶縁性の窒化物半導体基板を得るためには、Siであれば1×1018cm-3以上、Mgであれば5×1019cm-3以上、Feであれば1×1018cm-3以上の不純物濃度とする必要がある。しかしながら、このような高い不純物濃度を均一に有する窒化物半導体結晶を、割れやクラックを生じさせること無く、厚く結晶成長させるのは非常に困難となる。
ところが、実用的な観点から言うと、窒化物半導体結晶は、その厚さ方向に均一な不純物濃度とする必要はない。具体的に言うと、窒化物半導体自立基板は厚い窒化物半導体結晶をスライスして形成することが可能であるが、スライスされる部分は最終的な窒化物半導体自立基板には含まれないので、スライスされる部分には不純物を添加しておく必要が無いということである。
実際に、n形不純物、p型不純物、または半絶縁性を与える不純物を高い濃度で含む不純物濃度の高い窒化物半導体層(具体的には不純物濃度が5×1017cm-3以上の層)と、この不純物濃度の高い窒化物半導体層と同種の窒化物半導体層であり、且つ不純物濃度の高い窒化物半導体層よりも不純物濃度の低い窒化物半導体層(具体的には不純物濃度が5×1017cm-3未満の層)と、を交互に積層した積層構造の窒化物半導体結晶を製作したところ、窒化物半導体結晶の厚さが2mmを超えた状態でも、割れやクラックの無い窒化物半導体結晶を容易に実現できることが明らかとなった。これは、不純物濃度の高い窒化物半導体層は塑性変形しやすく割れ易いが、不純物濃度の高い窒化物半導体層中に塑性変形しにくい不純物濃度の低い窒化物半導体層を挿入すると、この低不純物濃度の窒化物半導体層が塑性変形を防ぐ支えの役割を果たし、結晶の割れやクラックを防止するためと考えられる。
上記不純物濃度の低い窒化物半導体層は、塑性変形しにくく結晶の塑性変形を防止する役割を果たすものであって、結晶をスライスして自立基板を作製する際には除去されてよい層であるから、上記不純物濃度の高い窒化物半導体層よりも不純物濃度が格段に低い窒化物半導体層とするのが好ましい。すなわち、不純物濃度の低い窒化物半導体層は、不純物原料を供給せずに成長させるアンドープ層(不可避的に低濃度で不純物が含まれる場合を含む)とするのが好ましい。
このように、不純物濃度の高い窒化物半導体層と不純物濃度の低い窒化物半導体層とを交互に積層した、厚さが2mm〜35mmの窒化物半導体結晶を作製し、これらの窒化物半導体結晶をスライスすることで、1つの窒化物半導体結晶から3〜100枚の窒化物半導体自立基板を得ることにも成功した。従来では、1つの窒化物半導体自立単結晶から1枚の窒化物半導体自立基板しか得られなかったことを考えると、約100倍の生産性の向上を達成したことになり、窒化物半導体自立基板の製造コストを大幅に低減可能な製造技術であると言える。
上記のようにして得られた自立基板上に、有機金属気相成長法(MOVPE法)などで各種デバイス構造を有する窒化物半導体層を形成することで、半導体レーザ(LD)、発光ダイオード(LED)、フォト・ダイオード(PD)や、高電子移動度トランジスタ(HEMT)、ヘテロ・バイポーラトランジスタ(HBT)を従来よりも格段に安価に実現することが可能となる。
(一実施形態)
次に、本発明に係る窒化物半導体結晶、及び窒化物半導体自立基板の製造方法の一実施形態を図面を用いて説明する。
(窒化物半導体結晶)
図1に、本発明に係る窒化物半導体結晶の一実施形態の概略的な断面図を示す。図1に示すように、本実施形態の窒化物半導体結晶10は、不純物濃度の低い窒化物半導体層1と不純物濃度の高い窒化物半導体層2とが交互に2周期以上積層されて構成されている。一つの不純物濃度の低い窒化物半導体層1とこれに隣接する一つの不純物濃度の高い窒化物半導体層2とで1周期が構成され、窒化物半導体結晶10は、この周期構造を2周期以上繰り返して厚さ2mm以上に積層されている。不純物濃度の低い窒化物半導体層1と不純物濃度の高い窒化物半導体層2とは、同種の窒化物半導体層であり、例えば、不純物濃度の低い窒化物半導体層1がGaN層ならば不純物濃度の高い窒化物半導体層2もGaN層であり、不純物濃度の低い窒化物半導体層1がAlxGa1-xN(0<x<1)層ならば不純物濃度の高い窒化物半導体層2もAlxGa1-xN(0<x<1)層である。窒化物半導体結晶10としては、GaN、AlxGa1-xN(0<x<1)以外に、AlN、InN、InyGa1-yN(0<y<1)なども挙げられる。
不純物濃度の低い窒化物半導体層1の不純物濃度を5×1017cm-3未満とし、不純物濃度の高い窒化物半導体層2の不純物濃度を5×1017cm-3以上とするのが好ましい。厚さ2mm以上の窒化物半導体結晶では、不純物濃度が5×1017cm-3以上となると、結晶中に添加される不純物の種類に関わらず、結晶は極めて塑性変形し易くなり、割れやクラックのない結晶が得られる歩留まりが低下する(図4参照)。したがって、割れやクラックのない、厚さ2mm以上の窒化物半導体結晶を成長するためには、不純物濃度の低い窒化物半導体層1の不純物濃度は、5×1017cm-3未満とし、窒化物半導体結晶10の塑性変形を抑制する必要がある。不純物濃度の低い窒化物半導体層1は、不純物濃度の高い窒化物半導体層2よりも不純物濃度が格段に低いアンドープ層とするのがより好ましい。
不純物濃度の低い窒化物半導体層1と不純物濃度の高い窒化物半導体層2とが交互に2周期以上積層された窒化物半導体結晶を厚さ2mm以上とするのは、複数枚の窒化物半導体自立基板を取得可能とし、安価な窒化物半導体自立基板を得るためである。
一方、不純物濃度の高い窒化物半導体層2の不純物濃度を5×1017cm-3以上とするのは、上述したように、工業的に有用なn形あるいはp形の導電性の窒化物半導体基板や、半絶縁性の窒化物半導体基板を得るためであり、例えば、n形不純物のSiであれば1×1018cm-3以上、p形不純物のMgであれば5×1019cm-3以上、半絶縁性の不純物のFeであれば1×1018cm-3以上の不純物濃度とするのが望ましい。
なお、不純物濃度の低い窒化物半導体層1と不純物濃度の高い窒化物半導体層2との間に、不純物濃度が連続的に増減変化する窒化物半導体のグレーテッド層、あるいは低不純物濃度の窒化物半導体層1と高不純物濃度の窒化物半導体層2との中間の不純物濃度を有する窒化物半導体層が設けられていてもよい。
また、窒化物半導体結晶10の前後に、或いは窒化物半導体結晶10中であって、不純物濃度の低い窒化物半導体層1と不純物濃度の高い窒化物半導体層2とが交互に2周期以上積層されて部分の前後に、不純物濃度の低い窒化物半導体層1と不純物濃度の高い窒化物半導体層2の積層構造からなる窒化物半導体層とは、異なる種類の窒化物半導体層などが設けられていてもよい。
不純物濃度の低い窒化物半導体層1の厚さは、不純物濃度の高い窒化物半導体層2の厚さの1/20以上(より好ましくは1/16以上)とするのが好ましい。これは、不純物濃度の低い窒化物半導体層1は、上述したように、窒化物半導体結晶10の塑性変形を防止する役割を果たすもので、不純物濃度の高い窒化物半導体層2の厚さに対して上記1/20以上の比率で設けるのがよい。
また、不純物濃度の低い窒化物半導体層1は、主に、窒化物半導体結晶10をスライスして窒化物半導体自立基板を作製する際の切断箇所であり、最終的な窒化物半導体自立基板には含まれない方がむしろ好ましい層とも言える。したがって、不純物濃度の低い窒化物半導体層1の厚さは、ワイヤソーなどで窒化物半導体結晶10を切断する切り代と、切断後の基板の研磨代とを加えた程度の厚さまでとることができる。更に、自立基板上にデバイス構造の半導体層などを形成し、デバイスを作製する場合において、前記半導体層の形成後に自立基板の裏面を研磨する場合には、このデバイス作製工程における研磨代を、不純物濃度の低い窒化物半導体層1の厚さに加えることができる。
不純物濃度の高い窒化物半導体層2は、主に、工業的に有用なn形あるいはp形の導電性の窒化物半導体自立基板や、半絶縁性の窒化物半導体自立基板として用いられる層である。したがって、不純物濃度の高い窒化物半導体層2の厚さは、所望の窒化物半導体自立基板の厚さに加えて、ワイヤソーなどで窒化物半導体結晶10を切断する切り代や切断後の基板の研磨代とを考慮したものとなる。
窒化物半導体の「自立基板」は、自らの形状を保持できるだけでなく、ハンドリングに不都合が生じない程度の強度を有する基板をいい、このような強度を有するためには、窒化物半導体自立基板の厚さを200μm以上とするのが好ましい。
窒化物半導体結晶10に含まれる不純物は、n形不純物、p形不純物、または半絶縁性を付与する不純物のいずれか、或いはこれらを組み合わせたものである。n形不純物としてはSi、Geなど、p形不純物としてはMg、Znなど、半絶縁性を付与する不純物としてはFeなどが挙げられる。
(窒化物半導体自立基板の製造方法)
図2に、本発明の一実施形態に係る窒化物半導体自立基板の製造方法の工程図を示す。
本実施形態では、VAS法(ボイド形成剥離法)を用いて窒化物半導体結晶を作製した。図2(a)には、本実施形態で用いた窒化物半導体結晶成長用の下地基板(種結晶基板)15を示す。下地基板15は、サファイア基板11上にMOVPE法などでGaN層12を成長し、その表面にTi層を蒸着した後、水素、アンモニア中で熱処理することでTi層を網目構造のTiN13に変換しつつ、GaN層12にボイド14を形成したものである。
下地基板15上に、HVPE法などにより、GaN層などの窒化物半導体層を厚く成長して窒化物半導体結晶20を形成する。窒化物半導体層の成長の際に、不純物原料を所定の間隔で供給・停止し、或いは増減して、不純物濃度の低い窒化物半導体層21と不純物濃度の高い窒化物半導体層22とを交互に2周期以上積層した厚さ2mm以上の窒化物半導体結晶20を形成する(図2(b))。
なお、図2(b)では、TiN13上に、TiN13に接して不純物濃度の低い窒化物半導体層21が形成されているが、TiN13と不純物濃度の低い窒化物半導体層21との間に、100μm以上の厚さを有する厚い不純物濃度の低い窒化物半導体層を追加してもよい。
その後、ボイド14部分よりサファイア基板11を剥離して、自立したGaN単結晶などの窒化物半導体結晶20を得る(図2(c))。
なお、窒化物半導体結晶の作製は、VAS法に限らず、例えば、DEEP法、或いは、安熱合成法、高圧合成法、昇華法、Naフラックスなどを用いて作製してもよい。
次いで、得られた窒化物半導体結晶20をスライスして窒化物半導体自立基板を作製する。スライスは、図2(d)に示すように、不純物濃度の低い窒化物半導体層21を切断位置とし、切断ラインLに沿って窒化物半導体結晶20を切断する。スライスには、ワイヤソーや内周刃スライサなどが用いられる。スライスして切り出された窒化物半導体基板の表面は、研磨加工がなされて平坦化され、窒化物半導体自立基板30が得られる。窒化物半導体自立基板30は、不純物濃度の高い窒化物半導体層22からなる。或いは、窒化物半導体自立基板は、不純物濃度の高い窒化物半導体層22が少なくとも最表面になるように作製する。切断による切り代と研磨による研磨代とを加えた厚さDの部分が、窒化物半導体結晶20から除去され、窒化物半導体自立基板30の厚さが定まる。
得られた窒化物半導体自立基板30上に、MOVPE法、MBE法(分子線エピタキシー法)などにより、LD、LED、PDなどの発光・受光デバイスや、HEMT、HBTなどの電子デバイスに対応した各種デバイス構造を有する窒化物半導体層を積層形成し、更に電極を形成するなどして、窒化物半導体デバイスが作製される。
次に、本発明の実施例を説明する。
(実施例1)
実施例1では、図2に示す上記実施形態と同様にVAS法を用いて、窒化物半導体結晶としてGaN単結晶を製作した。
まず、下地基板としてボイド基板を準備した。ボイド基板は、サファイア基板上にMOVPE法などで厚さ300nm程度のGaN層を成長し、その表面にTi層を蒸着し、その後、水素及びアンモニアの混合ガス中で熱処理することで、Ti層を網目構造のTiNに変換しつつ、GaN層をボイド化したものである。サファイア基板としては、C面からA軸あるいはM軸方向に0.05°〜1°の範囲で傾斜した表面を持ち、厚さが300〜800μm、直径が35mm〜160mmのサファイア基板を用いた。上記のボイド基板製作時のTi層の厚さは5nm〜100nmとした。
続いて、下地基板であるボイド基板上に、HVPE法によりGaN層を厚く成長した。成長したGaN層は、800μmの厚さのSiを添加したGaN層と、200μmの厚さのアンドープGaN層(Si濃度が3×1014cm-3未満)を交互に積層した構造とした。アンドープGaN層の成長時には、Si原料の供給を停止した。
HVPE法によりGaN層を厚く成長した後、ボイド形成部分よりサファイア基板を剥離して自立したGaN単結晶を得た。
HVPE法によるGaN層の成長条件としては、例えば、ボイド基板の温度800℃〜1200℃、HVPE装置内の圧力10kPa〜120kPaで、30μm/hr〜1000μm/hrの成長速度とし、0.1mm〜100mm厚のGaN単結晶を製作した。III族原料としては、HVPE装置内で800℃に加熱した金属ガリウムに塩酸を吹き付けて生成したGaClガスを用いた。また、V族原料ガスとしてはNH3ガスを用い、n形ドーパントとなるSi原料としてはジクロロシランガス(SiH2Cl2)を用いた。また、キャリアガスとしては、水素、窒素、あるいはこれらの混合ガスを用いた。
GaN単結晶の転位密度は、ボイド基板製作時のTi層の厚さで決定される。Ti層が薄いほど、MOVPEで成長したGaN層中の転位が、その上のGaN厚膜に伝播しやすいため、高転位密度となる。Ti層の厚さが5〜100nmの範囲で得られるGaN単結晶の転位密度は、1×104cm-2〜1×108cm-2の範囲である。
また、得られたGaN単結晶は、成長終了後にいずれも表面にピットがほとんど無い鏡面のものであった。GaN単結晶中の電子濃度としては、成長中のジクロロシラン流量を調整して1×1015cm-3〜1×1020cm-3のGaN単結晶を作製した。
直径160mmのGaN単結晶を成長の成長において、成長終了時にクラック、割れの無いGaN単結晶が得られる割合(成長歩留(%))の、Siを添加したGaN層の不純物濃度(Si濃度(cm-3))およびGaN単結晶の厚さ(mm)との依存性を図3に示す。
図3に示すように、不純物濃度が1×1019cm-3で厚さが10mmのGaN単結晶の場合でも、70%以上の成長歩留が実現された。図3は、直径が160mmのGaN単結晶に対する結果であるが、これ以外の直径が35mm〜160mm未満の場合でも、ほぼ同様の結果であった。
(比較例)
比較例においては、実施例1のように、Siを添加したGaN層とアンドープのGaN層とを交互に積層した構造ではなく、SiをGaN層に均一に添加した。その他の条件は、実施例1と同様にした。
直径160mmのGaN単結晶を成長の成長において、成長終了時にクラック、割れの無いGaN単結晶が得られる割合(成長歩留(%))の、Siを均一に添加したGaN層の不純物濃度(Si濃度(cm-3))およびGaN単結晶の厚さ(mm)の依存性を図4に示す。
図4に示すように、結晶の厚さが2mm以下の場合、あるいは結晶が厚くても不純物濃度が5×1017cm-3以下の場合には50%以上の高い成長歩留が得られている。しかしながら、不純物濃度が5×1017cm-3以上の場合に、結晶厚さが2mm以上になると、急激に成長歩留が低下している。上記実施例1と比較例とを比べると、実施例1では、成長歩留が劇的に向上したことが分かる。図4は、直径が160mmのGaN自立単結晶に対する結果であるが、これ以外の直径が35mm〜160mm未満の場合でも、ほぼ同様の結果であった。
(実施例2)
実施例1と同様の実験を、アンドープGaN層の厚さを10μm〜500μmの範囲で変化させて実験を行った。その結果、アンドープGaN層の厚さが40μm以上の場合に、実施例1とほぼ同様の結果が得られた。アンドープGaN層が40μmよりも薄く、例えば10μm、20μm、30μmの場合には、アンドープGaN層を挿入した効果は見られず、比較例とほぼ同じ結果となった。
アンドープGaN層の厚さが40μmよりも薄い場合には、Siを添加した塑性変形しやすいGaN層と、アンドープGaN層の厚さとの比率が小さくなり過ぎるため、アンドープGaN層により自立単結晶の塑性変形を防止する効果が十分ではなかったものと考えられる。
実際、実施例2において、Siを添加したGaN層の厚さを、実施例1の800μmから1200μmへと増やした場合には、アンドープGaN層の挿入による成長歩留の向上効果を得るためには、アンドープGaN層の厚さは60μm以上とする必要があった。
また、Siを添加したGaN層の厚さが2000μmの場合に同様の結果を得るために
は、アンドープGaN層の厚さを100μm以上とする必要があった。
以上の結果から、2mm以上の厚さで不純物濃度が5×1017cm-3以上のGaN単結晶を、割れやクラック無しで成長するためには、アンドープGaN層の厚さを、Siを添加したGaN層の厚さの1/20以上とする必要があると言える。
(実施例3)
実施例2において、Siを添加したGaN層のSi濃度を5×1017cm-3以上とし、またアンドープGaN層に代えてSi添加量が3×1014〜5×1017cm-3未満の低Si濃度GaN層として、同様の実験を行った。その結果、実施例2とほぼ同様の結果が得られた。
(実施例4)
実施例1〜3において、GaNを、AlN、InN、AlxGa1-xN(0<x<1)、InyGa1-yN(0<y<1)に変更して同様の実験をおこなったところ、実施例1〜3とほぼ同様の結果を得た。
(実施例5)
実施例1〜4において、n型の不純物Siを、p型の不純物であるMg、Zn、Beに変えて、p型の窒化物自立単結晶を成長した。いずれの場合においても、実施例1〜4とほぼ同等の結果を得た。
(実施例6)
実施例1〜4において、n型の不純物Siを、半絶縁性を付与する不純物であるFeに変えて、半絶縁性の窒化物自立単結晶を成長した。この場合も、実施例1〜4とほぼ同等の結果を得た。
(実施例7)
実施例1〜6において成長した、割れやクラックの無い2mm以上の厚さの窒化物半導体単結晶をワイヤソーを用いてスライスした。この場合、窒化物半導体単結晶の側面の、アンドープ層あるいは低い不純物濃度を有する層が存在する位置に、ワイヤを周期的に配置してスライスを行った。ワイヤ径は200μmであり、遊離砥粒(ダイヤ)を用いた。その結果、1個の窒化物半導体単結晶から数枚〜100枚の基板が得られた。
得られた基板の表面及び裏面を研磨することで、デバイス形成に使用可能な窒化物半導体自立基板を得た。この際、アンドープ層あるいは低い不純物密度の層の厚さによっては、得られた自立基板の裏面にアンドープ層あるいは低い不純物密度の層が残留したが、少なくとも自立基板の表面側100μm程度は高い不純物濃度の層となるようにスライス・研磨を行った。光デバイス、電子デバイスのいずれを形成する場合においても、実装時には通常100μm程度の厚さまで裏面を研磨して基板を薄くするので、このように裏面にアンドープ層あるいは不純物濃度が低い層がある程度残留していても、実用上の問題は生じない。
(他の実施例)
サファイア基板の表面を、R面、A面、M面あるいはその他の高指数面(例えば、(11−22)面)などとして、実施例1〜7と同様の実験を行った。この場合にも、ほぼ実施例1〜7と同様の結果が得られた。
また、実施例1〜7と同様の実験を、窒化物半導体層の成長を、HVPE法に代えて、MBE法、MOVPE法、昇華法を用いて行った。いずれの場合にも、実施例1〜7と同様な結果が得られた。
更に、実施例1〜7と同様の実験を、窒化物半導体層の成長を、VAS法に代えて、安熱合成法、高圧合成法、昇華法、Naフラックスを用いた液相成長(LPE)を用いて行った。いずれの場合にも、実施例1〜7と同様な結果が得られた。
上記実施例の窒化物半導体自立基板上に、MBE法、MOVPE法などによりLD、LED、トランジスタなどのデバイスを製作することにより、従来の窒化物半導体自立基板を用いた場合よりも、これらのデバイスのコストを格段に低減できる。
1 不純物濃度の低い窒化物半導体層
2 不純物濃度の高い窒化物半導体層
10 窒化物半導体結晶
15 下地基板
20 窒化物半導体結晶
21 不純物濃度の低い窒化物半導体層
22 不純物濃度の高い窒化物半導体層
30 窒化物半導体自立基板

Claims (3)

  1. 厚さ2mm以上に同種の窒化物半導体層が積層され、且つ前記積層された同種の窒化物半導体層は、不純物濃度の低い窒化物半導体層と不純物濃度の高い窒化物半導体層とが交互に2周期以上積層されて構成されており、前記不純物濃度の低い窒化物半導体層の厚さは、前記不純物濃度の高い窒化物半導体層の厚さの1/20以上であって、40μm以上である窒化物半導体結晶。
  2. 前記不純物濃度の低い窒化物半導体層は、不純物濃度が5×1017cm-3未満であり、前記不純物濃度の高い窒化物半導体層は、不純物濃度が5×1017cm-3以上である請求項1に記載の窒化物半導体結晶。
  3. 前記積層された同種の窒化物半導体層に含まれる不純物は、n形不純物、p形不純物、または半絶縁性を付与する不純物のいずれかである請求項1または2に記載の窒化物半導体結晶。
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