JP2013223442A - 細胞遊走解析方法および細胞培養物作成方法 - Google Patents

細胞遊走解析方法および細胞培養物作成方法 Download PDF

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Abstract

【課題】細胞の予備培養と、その後の接着状態での培養による細胞遊走解析試験または細胞培養物作成との両方を同一基材において連続的に行う方法、ならびに当該方法に適した細胞遊走解析用および細胞培養物作成用基材を提供する。
【解決手段】本発明は、細胞の培養方法であって、(a)細胞接着阻害性領域が表面に形成されており、該領域が形成された部分の少なくとも一部が導電部bである基材に、細胞を播種して非接着状態で培養する工程、(b)導電部bに電圧を印加することによって導電部b上に形成された細胞接着阻害性領域を細胞接着性領域に改変する工程、および(c)細胞接着性領域に接着した細胞を培養する工程を含む、上記方法に関する。
【選択図】図1

Description

本発明は、細胞培養方法、特には細胞遊走解析方法および細胞培養物作成方法、ならびに細胞遊走解析用および細胞培養物作成用基材に関する。
細胞の遊走は免疫応答や受精後の胚形態形成、組織修復および再生等の様々な段階に関与している。また、癌やアテローム動脈硬化症、関節炎等の疾患の進行においても極めて重要な役割を持つ。具体的には、血管内皮を通しての細胞の遊走は、炎症、アテローム性動脈硬化症、癌の転移といった状態の病態生理における重要な現象である。そのため、インビトロでの細胞遊走を測定する方法は、長年に渡って開発されてきた。
例えば、一般に市販されている細胞遊走解析装置としては、古典的なボイデンチャンバ、細胞培養インサート、FluoroBlock(登録商標)(BD Biosciences)、Cell Motility HitKit(登録商標)(Cellomics)がある。
ここで、細胞遊走解析装置に適用する前に、細胞を予備培養して細胞遊走解析試験に十分な量に増やす場合がある。浮遊系の細胞や、ES細胞、iPS細胞、体性幹細胞等の胚様体および細胞塊を用いる場合、一般に、表面に非接着処理の施された培養容器において非接着状態で予備培養した後に細胞遊走解析装置に移し、接着状態で遊走解析試験を行う。このように、従来の細胞遊走解析装置を用いる場合には、細胞遊走解析装置とは別に培養容器を用いる必要があり、また培養容器から細胞遊走解析装置に移す作業は複雑であるため、試料が汚染されたり、多くの作業時間が費やされる等の問題があった。
また、ES細胞等の細胞に関し、非接着処理の施された培養容器において未分化の状態で培養した後に、接着処理の施された培養容器において培養して分化誘導を行う場合にも、同様の問題があった。
例えば特許文献1には、導電性領域と絶縁性領域とを有する基材、ならびにその導電性領域上に形成された細胞接着性領域と細胞接着阻害性領域とを備え、導電性領域上において細胞接着性領域と細胞接着阻害性領域とが隣り合っている細胞遊走解析装置が記載されている。この細胞遊走解析装置に細胞を播種し、細胞接着性領域に細胞を接着させ、導電性領域に電圧を印加して導電性領域上の細胞接着阻害性領域を細胞接着性に変化させることにより、細胞接着性領域に接着している細胞の、細胞接着性に変化した細胞接着阻害性領域への遊走を観察することができる。
また、特許文献2には、導電性領域を有する基材、および導電性領域にシランを介して結合された細胞接着阻害性の膜を含む基板の導電性領域に正電圧を印加することにより細胞接着阻害性の膜を剥離する工程、および細胞接着阻害性の膜が剥離された領域で細胞を培養する工程を含む、細胞培養方法が記載されている。
他に、非特許文献1および2には、ITO電極上に形成した細胞接着阻害性の膜であるPEGを電圧印加により脱離する技術を用いて、神経細胞を所定の位置に配置した後当該細胞の伸長を制御すること(非特許文献1)、異なる細胞を共培養すること(非特許文献2)が記載されている。
しかしながら、上記文献のいずれにも、細胞の予備培養と、その後の接着状態での培養による細胞遊走解析試験または細胞培養物作成との両方を同一の装置において行うことは記載されていない。さらには、上記のような細胞遊走解析試験または細胞培養物作成を行うために適した、装置表面の形状や装置表面上の細胞接着性領域と細胞接着阻害性領域のパターン形状は記載されていない。
特開2011−101638号公報 特開2011−83244号公報
Michael Gabi; Alexandre Larmagnac; Petra Schulte; Janos Voeroes, "Electrically controlling cell adhesion, growth and migration", Colloids and surfaces B Biointerfaces (2010) Volume: 79, Issue: 2, Publisher: Elsevier B.V., Pages: 365-371 Mihye Kim, Ji Youn Lee, Sunny S. Shah,b Giyoong Tae, and Alexander Revzin, "On-cue detachment of hydrogels and cells from optically transparent electrodes", Langmuir 2008, 24, 6837-6844
本発明は、細胞の予備培養と、その後の接着状態での培養による細胞遊走解析試験または細胞培養物作成との両方を同一基材において連続的に行う方法、ならびに当該方法に適した細胞遊走解析用および細胞培養物作成用基材を提供することを目的とする。
本発明者らは、細胞接着阻害性領域が表面に形成されている基材に電圧を印加して細胞接着阻害性領域を細胞接着性領域に改変することにより、細胞の予備培養と、その後の接着状態での培養による細胞遊走解析試験または細胞培養物作成との両方を同一基材において連続的に行うことができることを見出した。本発明の細胞の培養方法は、細胞の遊走解析方法および細胞培養物の作成方法を含む。
さらに、特定の表面形状、または特定の形状にパターニングされた細胞接着阻害性領域および場合により細胞接着性領域を表面に有する基材が、上記のような細胞遊走解析試験または細胞培養物作成を行うために適することを見出した。
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
(1)細胞の培養方法であって、
(a)細胞接着阻害性領域が表面に形成されており、該領域が形成された部分の少なくとも一部が導電部である基材に、細胞を播種して非接着状態で培養する工程、
(b)導電部に電圧を印加することによって導電部上に形成された細胞接着阻害性領域を細胞接着性領域に改変する工程、および
(c)細胞接着性領域に接着した細胞を培養する工程
を含む、上記方法。
(2)工程(c)において、細胞接着性領域に接着した細胞の該領域における移動を観察する、請求項1に記載の方法。
(3)工程(c)において、細胞接着性領域に接着した細胞の少なくとも一部を分化させる、請求項1または2に記載の方法。
(4)工程(a)において使用される基材の表面に形成された細胞接着阻害性領域が、相互に近接する第1の細胞接着阻害性領域および第2の細胞接着阻害性領域を含み、
基材の第1の細胞接着阻害性領域が表面に形成された部分が第1の導電部であり、
基材の第2の細胞接着阻害性領域が表面に形成された部分が第2の導電部であり、
工程(b)が、第1の導電部に電圧を印加することによって第1の細胞接着阻害性領域を第1の細胞接着性領域に改変する工程(b1)、第1の細胞接着性領域に接着した細胞を培養する工程(b2)および、第2の導電部に電圧を印加することによって第2の細胞接着阻害性領域を第2の細胞接着性領域に改変する工程(b3)を含み、
工程(c)において、第1の細胞接着性領域に接着した細胞を培養する、上記(1)に記載の方法。
(5)工程(c)において、第1の細胞接着性領域に接着した細胞の第2の細胞接着性領域における移動を観察する、上記(4)に記載の方法。
(6)工程(b2)および/または工程(c)において、第1の細胞接着性領域に接着した細胞の少なくとも一部を分化させる、上記(4)または(5)に記載の方法。
(7)工程(a)において、細胞塊を形成させる、上記(1)〜(6)のいずれかに記載の方法。
(8)細胞の培養方法であって、
(a)細胞接着阻害性領域および第1の細胞接着性領域が表面に相互に接して形成されており、該細胞接着阻害性領域が形成された部分が導電部である基材に、細胞を播種して培養し、細胞塊を形成させる工程、
(b)導電部に電圧を印加することによって導電部上に形成された細胞接着阻害性領域を第2の細胞接着性領域に改変する工程、および
(c)第2の細胞接着性領域に接着した細胞を培養する工程
を含む、上記方法。
(9)工程(c)において、第2の細胞接着性領域に接着した細胞の該領域における移動を観察する、上記(8)に記載の方法。
(10)細胞遊走解析用の基材であって、
その表面に、細胞接着阻害性領域が形成されており、
基材の細胞接着阻害性領域が形成された部分の少なくとも一部は導電部であり、
基材の細胞接着阻害性領域が形成された部分には少なくとも1つの凹部が形成されており、該凹部が細胞塊を形成させることが可能な形状であり、
導電部上に形成された細胞接着阻害性領域は、導電部への電圧印加によって、細胞接着性領域に変化することが可能である、上記基材。
(11)導電部が、複数の突出部と各突出部を支持する基部とからなる櫛形にパターニングされている、上記(10)に記載の基材。
(12)細胞遊走解析用基材であって、
その表面に、第1の細胞接着阻害性領域と第2の細胞接着阻害性領域が相互に近接して形成されており、
基材の第1の細胞接着阻害性領域が表面に形成された部分は第1の導電部であり、基材の第2の細胞接着阻害性領域が表面に形成された部分は第2の導電部であり、
第1の導電部および第2の導電部の平面形状が、それぞれ複数の突出部を有し、第1の導電部の突出部と第2の導電部の突出部とがそれぞれの延出方向において近接するように形成されており、
第1の細胞接着阻害性領域は、第1の導電部への電圧印加によって、第1の細胞接着性領域に変化することが可能であり、
第2の細胞接着阻害性領域は、第2の導電部への電圧印加によって、第2の細胞接着性領域に変化することが可能である、
上記基材。
本発明によれば、細胞の予備培養と、その後の接着状態での培養による細胞遊走解析試験または細胞培養物作成とを同一基材において連続的に行うことができる。さらに、本発明によれば、予備培養した試料を基材に移す作業が必要ないため、試料の汚染を防ぎ、また、作業の効率化を図ることができる。
図1は、本発明の細胞遊走解析方法の第一の実施形態を示す図である。 図2は、本発明の細胞遊走解析方法の第一の実施形態の一態様を示す図である。 図3は、本発明の細胞遊走解析方法の第二の実施形態を示す図である。 図4は、本発明の細胞培養物の作成方法の第一の実施形態を示す図である。 図5は、本発明の細胞遊走解析用の基材の第一の実施形態を示す図である。 図6は、本発明の細胞遊走解析用の基材の第二の実施形態を示す図である。
(細胞)
本発明において播種する細胞としては、血球系細胞やリンパ系細胞等の浮遊細胞でもよいし接着性細胞でもよく、例えば、肝がん細胞、グリオーマ細胞、結腸癌細胞、腎がん細胞、膵がん細胞、前立腺がん細胞、大腸がん細胞、乳癌細胞、肺がん細胞、卵巣がん細胞等のがん細胞、肝臓の実質細胞である肝細胞、クッパー細胞、血管内皮細胞や角膜内皮細胞等の内皮細胞、繊維芽細胞、骨芽細胞、砕骨細胞、歯根膜由来細胞、表皮角化細胞等の表皮細胞、気管上皮細胞、消化管上皮細胞、子宮頸部上皮細胞、角膜上皮細胞等の上皮細胞、乳腺細胞、ペリサイト、平滑筋細胞や心筋細胞等の筋細胞、腎細胞、膵ランゲルハンス島細胞、末梢神経細胞や視神経細胞等の神経細胞、軟骨細胞、骨細胞等が挙げられる。これらの細胞は、組織や器官から直接採取した初代細胞でもよく、あるいは、それらを何代か継代させたものでもよい。さらにこれら細胞は、未分化細胞である胚性幹細胞、多分化能を有する間葉系幹細胞等の多能性幹細胞、単分化能を有する血管内皮前駆細胞等の単能性幹細胞、分化が終了した細胞の何れであってもよい。また、細胞は単一種を培養してもよいし二種以上の細胞を共培養してもよい。本発明は、接着性を有する細胞に対して好適に使用される。また遊走する性質を有する細胞に対して好適に使用される。
本発明において、基材上へ細胞の播種方法や播種量については特に制限はなく、例えば、朝倉書店発行「日本組織培養学会編組織培養の技術(1999年)」266〜270頁等に記載されている方法が使用できる。
培養液としては、当技術分野で通常用いられる細胞培養用培地であれば特に制限なく用いることができる。例えば、用いる細胞の種類に応じて、MEM培地、BME培地、DME培地、αMEM培地、IMDM培地、ES培地、DM−160培地、Fisher培地、F12培地、WE培地およびRPMI1640培地等、朝倉書店発行「日本組織培養学会編組織培養の技術第三版」581頁に記載されているような基礎培地を用いることができる。さらに、基礎培地に血清(ウシ胎児血清等)、各種増殖因子、抗生物質、アミノ酸等を加えてもよい。また、Gibco無血清培地(インビトロジェン社)等の市販の無血清培地等を用いることができる。
細胞を培養する時間は、培養時の細胞操作の有無等に左右されるが、通常6〜96時間、好ましくは12〜72時間である。培養する温度は、通常37℃である。CO細胞培養装置等を利用して、5%程度のCO濃度雰囲気下で培養するのが好ましい。
(導電部および基体)
本発明の基材は導電部をその表面に形成させるための基体を含んでいてもよい。
本発明の基材に用いられる基体としては、導電部を形成可能な材料で形成されたものであれば特に制限されない。基体は絶縁性材料を含むものであることが好ましい。具体的には、ガラス、石英ガラス、ホウケイ酸ガラス、アルミナ、サファイア、セラミクス、フォルステライト、感光性ガラス、セラミック、シリコン、エラストマー、プラスチック(例えば、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ABS樹脂、ナイロン、アクリル樹脂、フッ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、メチルペンテン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、塩化ビニル樹脂)で代表される有機材料を挙げることができる。基体は透明性の材料を含むものであることが好ましい。その形状も限定されず、例えば、平板、平膜、フィルム、多孔質膜等の平坦な形状、シリンダ、スタンプ、マルチウェルプレート、マイクロ流路等の立体的な形状、ならびに表面に凹凸が形成された形状が挙げられる。フィルムを使用する場合、その厚さは特に制限されないが、通常0.1〜1000μm、好ましくは1〜500μm、より好ましくは10〜200μmである。
基体上に導電部を形成する場合、公知のパターニング技術を利用できる。公知のパターニング技術としては、例えば、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法、フレキソ印刷法およびコンタクトプリンティング法等の各種印刷法による方法、各種リソグラフィー法を用いる方法、ならびにインクジェット法による方法、他に微細な溝を彫刻等する立体整形の手法等が挙げられる。具体的には、基体、例えばガラス基体に、導電性材料、例えば金属膜または金属酸化物膜を成膜し、これをフォトリソグラフィー技術等の公知の技術を用いてパターニングすることにより、導電部を形成することができる。
基体上への導電性材料の成膜は、公知の方法で行うことができる。例えば、マイクロ波プラズマCVD(Chemical vapor deposit)法、ECRCVD(Electric cyclotron resonance chemical vapor deposit)法、ICP(Inductive coupled plasma)法、直流スパッタリング法、ECR(Electric cyclotron resonance)、スパッタリング法、イオン化蒸着法、アーク式蒸着法、レーザー蒸着法、EB(Electron beam)蒸着法、抵抗加熱蒸着法等が挙げられる。成膜は、塗布により実施してもよい。スピンコートや各種の印刷方式も使用できる。
導電部を構成する導電性材料の膜として、金属膜または金属酸化物膜、金属微粒子や金属ナノファイバーが絶縁体に分散された膜、導電性の有機材料からなる膜等が挙げられる。金属酸化物としては、ITO(酸化インジウム錫)、IZO(酸化インジウム亜鉛)等が挙げられ、金属微粒子としては、銀、金、銅等の微粒子、金属ナノファイバーとしてはカーボンナノチューブ、導電性の有機材料としては、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)等が挙げられる。
導電性材料の膜としては特に制限されないが、透明な膜であることが好ましく、例えば、ITO膜、IZO膜、導電性高分子のポリエチレンジオキシチオフェン膜等が挙げられる。また、電圧印加後も透明な膜であることが好ましい。本発明においては、ITO膜をスパッタリング法により成膜して、その後パターニングすることにより、導電部を形成することが好ましい。透明な膜は、細胞の観察において有利である。
導電性材料の膜の厚さは、通常、単分子膜〜100μm程度であり、好ましくは2nm〜1μm、より好ましくは5nm〜500nmである。
導電部は、複数の突出部を有することが好ましく、特に複数の突出部と各突出部を支持する基部とからなる櫛形にパターニングされていることが好ましい。その場合、導電部が形成する突出部の幅(基部から突出部が延びる方向(突出部の長さ方向)と直交する側の幅)は、好ましくは0.1〜500μmであり、細胞遊走を観察するためには、好ましくは5〜500μm、より好ましくは10〜200μmである。突出部の幅が狭すぎると、突出部の長さ方向の電気抵抗が高くなり、一定の電圧をかけた際に突出部の長さ方向に電圧降下が生じやすく、電位の制御が困難になる。電圧降下の程度は、用いる導電性材料の導電率により変わるため、突出部の幅の下限も導電性材料の導電率に応じて適宜決められるが、一般的には5μm以上が好ましい。基材上の導電部の幅を5μm以下のように狭くする場合には、基材上に幅の広い電極を設け、該電極の表面の一部を絶縁膜で被覆し、5μm以下の所望の幅の領域だけを露出させて、該領域を導電部とすることにより、抵抗値が高く電圧降下を起こす問題を解決することができる。また、突出部の幅が測定対象の細胞の大きさよりも狭いと、突出部上に細胞が接着しにくくなる。従って、細胞遊走を観察する際の突出部の幅は、測定対象の細胞の大きさによって適宜決められるが、一般的には10μm以上が好ましい。突出部の幅が広いと、顕微鏡で観察する際に視野に入る突出部の本数が少なくなり、統計的な処理をする際に不利になる。一般的には、顕微鏡の視野は数mm以下であるため、視野内に少なくとも1本の突出部が入るためには、突出部の幅は500μm以下が好ましい。また、突出部の幅が適度に狭いと、測定対象の細胞の遊走方向が制限されるため、一定時間経過後の遊走距離が長くなり測定に有利になる効果もある。突出部間の間隔は、好ましくは10〜1000μm、より好ましくは50〜500μmである。突出部間の間隔が狭すぎると、突出部間の絶縁性領域上の細胞接着阻害性領域を乗り越えて、隣り合った突出部間で細胞が遊走しやすくなるため、細胞の遊走方向を制限しにくくなる。従って、一般的には10μm以上、より好ましくは50μm以上の突出部間の間隔だと好ましい。突出部間の間隔が広すぎると、顕微鏡で観察する際に視野に入る突出部の本数が少なくなり、統計的な処理をする際に不利になる。一般的には、顕微鏡の視野は数mm以下であるため、突出部の幅は1000μm以下が好ましい。突出部と突出部が互いにかみあった2つの櫛形のパターンが特に好ましい。そのようなパターンは、細胞遊走試験において電圧を印加した場合に、電流が効果的に流れるため好ましい。
上記のような導電部のパターニングは、具体的には、成膜した金属膜または金属酸化物膜に、レジスト塗布、フォトマスクを介した露光、現像およびエッチングを行って実施することができる。
(細胞接着性領域と細胞接着阻害性領域)
本発明において、第1の細胞接着性領域と第2の細胞接着性領域を単に細胞接着性領域と称する場合がある。また、本発明において、第1の細胞接着阻害性領域と第2の細胞接着阻害性領域を単に細胞接着阻害性領域と称する場合がある。
本発明において、細胞接着性とは、細胞が接着すること、または細胞が接着しやすいことを意味する。細胞接着阻害性とは、細胞が接着しにくいことまたは細胞が接着しないことを意味する。従って、細胞接着性領域と細胞接着阻害性領域が形成されている基材表面に細胞を播くと、細胞接着性領域には細胞が接着するが、細胞接着阻害性領域には細胞が接着しない。
細胞接着性は、接着しようとする細胞によって異なる場合もあるため、細胞接着性とは、ある種の細胞に対して細胞接着性であることを意味する。従って、細胞遊走解析用基材上には、複数種の細胞に対する複数の細胞接着性領域が存在する場合、すなわち細胞接着性が異なる細胞接着性領域が2水準以上存在する場合もある。
また、本発明において、非接着状態とは、細胞が基材表面に接着していない状態を意味し、培養液中に浮遊している状態および基材表面に接着していないが接している状態を含む。また、細胞塊の場合、細胞塊を形成する細胞のいずれもが基材表面に接着していない状態を意味し、細胞塊が培養液中に浮遊している状態および細胞塊を形成する細胞の一部が基材表面に接着していないが接している状態を含む。
(細胞接着阻害性領域)
細胞接着阻害性領域は、好ましくは、炭素酸素結合を有する有機化合物により形成される親水性膜により形成される。当該親水性膜は、水溶性や水膨潤性を有する、炭素酸素結合を有する有機化合物を主原料とする薄膜であり、酸化される前は細胞接着阻害性を有し、酸化および/または分解された後は細胞接着性を有しているものであれば特に限定されない。また、細胞接着阻害性領域は、細胞非接着性あり、かつ表面に親水性膜が形成されないレジスト部により形成されていてもよい。このようなレジスト部の材料としては、例えばSU−8(MicroChem)を挙げることができる。レジスト部の形成方法は、特に制限されないが、例えば、スピンコートや各種印刷技術による塗布成膜により形成することができる。また、レジスト部の厚さは特に制限されないが、1〜100μmであることが好ましい。
本発明において炭素酸素結合とは、炭素と酸素との間に形成される結合を意味し、単結合に限らず二重結合であってもよい。炭素酸素結合としてはC−O結合、C(=O)−O結合、C=O結合が挙げられる。
主原料としては、水溶性高分子、水溶性オリゴマー、水溶性有機化合物、界面活性物質、両親媒性物質等が挙げられ、これらが相互に物理的または化学的に架橋し、基体または導電部と物理的または化学的に結合することにより親水性薄膜となる。
具体的な水溶性高分子材料としては、ポリアルキレングリコールおよびその誘導体、ポリアクリル酸およびその誘導体、ポリメタクリル酸およびその誘導体、ポリアクリルアミドおよびその誘導体、ポリビニルアルコールおよびその誘導体、双性イオン型高分子、多糖類、等を挙げることができる。分子形状は、直鎖状、分岐を有するもの、デンドリマー等を挙げることができる。より具体的には、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールの共重合体、例えば、Pluronic F108、Pluronic F127、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)、ポリ(N−ビニル−2−ピロリドン)、ポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリ(メタクリロイルオキシエチルフォスフォリルコリン)、メタクリロイルオキシエチルフォスフォリルコリンとアクリルモノマーの共重合体、デキストラン、およびヘパリンが挙げられるがこれらには限定されない。
具体的な水溶性オリゴマー材料や水溶性低分子化合物としては、アルキレングリコールオリゴマーおよびその誘導体、アクリル酸オリゴマーおよびその誘導体、メタクリル酸オリゴマーおよびその誘導体、アクリルアミドオリゴマーおよびその誘導体、酢酸ビニルオリゴマーの鹸化物およびその誘導体、双性イオンモノマーからなるオリゴマーおよびその誘導体、アクリル酸およびその誘導体、メタクリル酸およびその誘導体、アクリルアミドおよびその誘導体、双性イオン化合物、水溶性シランカップリング剤、水溶性チオール化合物等を挙げることができる。より具体的には、エチレングリコールオリゴマー、(N−イソプロピルアクリルアミド)オリゴマー、メタクリロイルオキシエチルフォスフォリルコリンオリゴマー、低分子量デキストラン、低分子量ヘパリン、オリゴエチレングリコールチオール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、2−〔メトキシ(ポリエチレンオキシ)−プロピルトリメトキシシラン、およびトリエチレングリコール−ターミネーティッド−チオールが挙げられるがこれらには限定されない。
親水性膜は、処理前は高い細胞接着阻害性を有し、酸化処理および/または分解処理後は細胞接着性を示すものであることが望ましい。
親水性膜の平均厚さは、0.8nm〜500μmが好ましく、0.8nm〜100μmがより好ましく、1nm〜10μmがより好ましく、1.5nm〜1μmが最も好ましい。平均厚さが0.8nm以上であれば、細胞の接着において、基材の表面の親水性薄膜で覆われていない領域の影響を受けにくいため好ましい。また、平均厚さが500μm以下であればコーティングが比較的容易である。
基体または導電部表面への親水性膜の形成方法としては、基体または導電部へ親水性有機化合物を直接吸着させる方法、基体または導電部へ親水性有機化合物を直接コーティングする方法、基体または導電部へ親水性有機化合物をコーティングした後に架橋処理を施す方法、基体または導電部への密着性を高めるために多段階式に親水性薄膜を形成させる方法、基体または導電部との密着性を高めるために基体または導電部上に下地層を形成し、次いで親水性有機化合物をコーティングする方法、基体または導電部表面に重合開始点を形成し、次いで親水性ポリマーブラシを重合する方法等を挙げることができる。
上記成膜方法のうち特に好ましい方法としては、多段階式に親水性薄膜を形成させる方法、ならびに、基体または導電部との密着性を高めるために基体または導電部上に下地層を形成し、次いで親水性有機化合物をコーティングする方法を挙げることができる。これらの方法を用いると、親水性有機化合物の基体または導電部への密着性を高めることが容易だからである。本明細書では「結合層」という用語を用いる。結合層とは、多段階式に親水性有機化合物の薄膜を形成する場合には最表面の親水性薄膜層と基材との間に存在する層を意味し、基体または導電部表面に下地層を設け当該下地層の上に親水性薄膜層を形成する場合には当該下地層を意味する。結合層は、結合部分(リンカー)を有する材料を含む層であることが好ましい。リンカーとリンカーに結合させる材料の末端の官能基の組み合わせとしては、エポキシ基と水酸基、フタル酸無水物と水酸基、カルボキシル基とN−ハイドロキシスクシイミド、カルボキシル基とカルボジイミド、アミノ基とグルタルアルデヒド等が挙げられる。それぞれの組み合わせにおいて、いずれがリンカーであってもよい。これらの方法においては、親水性材料によるコーティングを行う前に、基体または導電部上にリンカーを有する材料により結合層を形成する。結合層における前記材料の密度は結合力を規定する重要な因子である。前記密度は、結合層の表面における水の接触角を指標として簡便に評価することができる。例えば、エポキシ基を末端に有するシランカップリング剤(エポキシシラン)を例にとると、エポキシシランを付加した基材の表面の水接触角が典型的には45°以上、望ましくは47°以上であれば、次に酸触媒存在下エチレングリコール系材料等を付加することによって十分な細胞接着阻害性を有する基材を作ることができる。なお、本発明において水接触角とは、23℃において測定される水接触角を指す。
(親水性膜の酸化処理および/または分解処理による細胞接着性領域の形成)
本発明では、細胞接着性領域は、炭素酸素結合を有する有機化合物を含む細胞接着阻害性の親水性膜に酸化処理および/または分解処理を施して細胞接着性とした領域により形成される。
本発明において「酸化」とは狭義の意味であり、有機化合物が酸素と反応して酸素の含有量が反応以前よりも多くなる反応を意味する。
本発明において「分解」とは有機化合物の結合が切断されて1種の有機化合物から2種以上の有機化合物が生じる変化を指す。「分解処理」としては典型的には、酸化処理による分解、紫外線照射による分解等が挙げられるがこれらには限定されない。「分解処理」が酸化を伴う分解(つまり酸化分解)である場合、「分解処理」と「酸化処理」とは同一の処理を指す。
紫外線照射による分解とは、有機化合物が紫外線を吸収し、励起状態を経て分解することを指す。なお、有機化合物が、酸素を含む分子種(酸素、水等)とともに存在している系中に紫外線を照射すると、紫外線が化合物に吸収されて分解が起こる以外に、該分子種が活性化して有機化合物と反応する場合がある。後者の反応は「酸化」に分類できる。そして活性化された分子種による酸化により有機化合物が分解する反応は、「紫外線照射による分解」ではなく「酸化による分解」に分類できる。
以上のように「酸化処理」と「分解処理」は操作としては重複する場合があり、両者を明確に区別することはできない。そこで本明細書では「酸化処理および/または分解処理」という用語を使用する。
酸化処理および/または分解処理の方法としては、親水性膜を紫外線照射処理する方法、光触媒処理する方法、酸化剤で処理する方法等が挙げられる。本発明では、導電部上に細胞接着性領域を形成することから、親水性膜をパターン状に部分的に酸化処理および/または分解処理する。部分的に酸化処理および/または分解処理する場合は、フォトマスクやステンシルマスク等のマスクを用いたり、スタンプを用いたりするとよい。また、紫外線レーザ等のレーザを用いた方式等の直描方式で酸化処理および/または分解処理を施してもよい。
紫外線照射処理の場合は、波長185nmや254nmの紫外線を出す水銀ランプや波長172nmの紫外線を出すエキシマランプ等のVUV領域からUV−C領域の紫外線を出すランプを光源として用いることが好ましい。光触媒処理する場合は、波長365nm以下の紫外線を出す光源を用いることが好ましく、波長254nm以下の紫外線を出す光源を用いることがより好ましい。光触媒としては、酸化チタン光触媒、金属イオンや金属コロイドで活性化された酸化チタン光触媒を用いるのが好ましい。酸化剤としては、有機酸や無機酸を特に制限なく用いることができるが、高濃度の酸は取り扱いが難しいので、10%以下の濃度に希釈して用いるとよい。最適な紫外線処理時間、光触媒処理時間、酸化剤処理時間は、用いる光源の紫外線強度、光触媒の活性、酸化剤の酸化力や濃度等の諸条件に応じて適宜決定することができる。
細胞接着性領域は、炭素酸素結合を有する有機化合物を低密度で含む親水性膜により形成されていてもよい。この態様では、細胞接着性領域と細胞接着阻害性領域とは、ともに炭素酸素結合を有する有機化合物を含む親水性膜で形成されている。2つの領域は前記有機化合物の密度が相違する。同密度が高いほど細胞は接着しにくくなる傾向がある。細胞接着性領域では、前記有機化合物の密度が、細胞が接着できる程度に低い。一方、細胞接着阻害性領域では、前記有機化合物の密度が、細胞が接着できない程度に高い。
親水性有機化合物の密度を制御する方法としては、親水性有機化合物の薄膜と基体または導電部表面との間に結合層を設け、当該結合層の親水性有機化合物との結合力を調整する方法が挙げられる。ここで「結合層」とは上記で定義した通りであり、上記で説明した好ましい材料から構成され得る。結合層の結合力は、結合層におけるリンカーを有する材料の密度が高いほど強くなり、同密度が低いほど弱くなる。結合層におけるリンカーを有する材料の密度は、上述の通り、結合層の表面における水の接触角を指標として簡便に評価することができる。
本発明のこの態様では、細胞接着性領域の結合層における、リンカーを有する材料の密度は低い。細胞接着性領域における、親水性有機化合物の薄膜を形成する前の結合層の表面の水接触角は、リンカーを有する材料としてエポキシ基を末端に有するシランカップリング剤を使用する場合を例にとると、典型的には、10°〜43°、望ましくは15°〜40°である。このような結合層を形成する方法としては、リンカーを有する材料の被膜(結合層)を基体または導電部表面に形成した後、当該結合層の表面を酸化処理および/または分解処理する方法が挙げられる。結合層表面を酸化処理および/または分解処理する方法としては、結合層表面を紫外線照射処理する方法、光触媒処理する方法、酸化剤で処理する方法等が挙げられる。結合層表面の全面を酸化処理および/または分解処理してもよいし、部分的に処理してもよい。部分的な処理は、フォトマスクやステンシルマスク等のマスクを用いたり、スタンプを用いることにより行うことができる。また、紫外線レーザ等のレーザを用いた方式等の直描方式で酸化処理および/または分解処理を施してもよい。諸条件等についても、親水性膜の酸化処理および/または分解処理により細胞接着性領域を形成する方法の場合と同様の条件を適用できる。こうして形成された結合層上に親水性有機化合物の薄膜を形成することにより、細胞接着性領域が形成できる。
本発明のこの態様では、細胞接着阻害性領域の結合層における、リンカーを有する材料の密度は高い。細胞接着阻害性領域における、親水性有機化合物の薄膜を形成する前の結合層の表面の水接触角は、リンカーを有する材料としてエポキシ基を末端に有するシランカップリング剤を使用する場合を例にとると、典型的には45°以上、望ましくは47°以上である。このような結合層は、リンカーを有する材料の被膜を基体または導電部表面に形成することにより得られる。結合層表面を部分的に酸化処理および/または分解処理した場合には、処理を受けない残余の部分が前記水接触角を有する結合層となる。こうして形成された結合層上に親水性有機化合物の薄膜を形成することにより、細胞接着阻害性領域が形成できる。
(細胞接着性領域と細胞接着阻害性領域との比較)
細胞接着性領域(結合層が存在する場合には結合層も含む)の炭素量は、細胞接着阻害性領域(結合層が存在する場合には結合層も含む)の炭素量と比較して低いことが好ましい。具体的には、細胞接着性領域の炭素量が、細胞接着阻害性領域の炭素量に対して20〜99%であることが好ましい。この範囲内に該当することは、親水性膜の厚さ(結合層が存在する場合には結合層の厚さと親水性膜の厚さの合計)が10μm以下の場合に特に好適である。「炭素量(atomic concentration、%)」は下記に定義する通りである。
また、細胞接着性領域(結合層が存在する場合には結合層も含む)における炭素のうちで酸素と結合している炭素の割合(%)の値は、細胞接着阻害性領域(結合層が存在する場合には結合層も含む)における炭素のうちで酸素と結合している炭素の割合(%)の値に対して小さい値であることが好ましい。具体的には、細胞接着性領域における炭素のうちで酸素と結合している炭素の割合(%)の値が、細胞接着阻害性領域における炭素のうちで酸素と結合している炭素の割合(%)の値に対して35〜99%であることが好ましい。この範囲内に該当することは、親水性膜の厚さ(結合層が存在する場合には結合層の厚さと親水性膜の厚さの合計)が10μm以下の場合に特に好適である。「酸素と結合している炭素の割合(atomic concentration、%)」は下記に定義する通りである。
(親水性薄膜の評価方法)
本発明の親水性薄膜(結合層が存在する場合には結合層も含む)の評価手法としては、接触角測定、エリプソメトリー、原子間力顕微鏡観察、電子顕微鏡観察、オージェ電子分光測定、X線光電子分光測定、各種質量分析法等を用いることができる。これらの手法の中で、最も定量性に優れているのはX線光電子分光測定(XPS/ESCA)である。この測定方法で求められるのは相対的定量値であり、一般的に元素濃度(atomic concentration、%)で算出される。以下、本発明におけるX線光電子分光分析方法を詳細に説明する。
本発明において親水性薄膜の「炭素量」は、「X線光電子分光装置を用いて得られるC1sピークの解析値から求められる炭素量」と定義される。また、本発明において親水性薄膜の「酸素と結合している炭素の割合」は、「X線光電子分光装置を用いて得られるC1sピークの解析値から求められる酸素と結合している炭素の割合」と定義される。具体的な測定は、特開2007−312736に記載されるとおりに実施できる。
(本発明の基材の製造方法)
本発明の基材は、基材の全面に、炭素酸素結合を有する有機化合物を含む細胞接着阻害性の親水性膜を形成する工程、および場合により導電部上に細胞阻害性領域が形成されるように、親水性膜を酸化処理および/または分解処理して細胞接着性に改変させる工程を含む方法により製造できる。
(導電部への電圧印加による細胞接着性領域の形成)
本発明では、細胞接着性領域は、導電部に電圧を印加して細胞接着阻害性領域に形成された親水性膜を分解し、剥離して細胞接着性とすることにより形成される。ここで、分解とは有機化合物の結合が切断されて1種の有機化合物から2種以上の有機化合物が生じる変化を指す。本発明では、導電部に電圧を印加することにより、例えば結合層に存在する結合部分(リンカー)が切断され、親水性膜を構成する有機化合物の少なくとも一部が分解または除去されるものと考えられる。
導電部に印加する電圧は、正電圧であることが好ましい。正電圧を印加することにより、細胞接着阻害性領域を効果的に細胞接着性領域に改変できるとともに、特に導電部がITO膜からなる場合に黒変するのを防止することができ、細胞遊走の観察を良好に実施できる。
印加する電圧は、当業者であれば適宜決定することができるが、通常1〜10V、好ましくは2〜5Vであり、印加する時間は、通常0.5〜60分間、好ましくは1〜10分間である。
印加する電圧は、電極が接している溶媒の種類や、電極の材質、電極の形状によって、適切な値が変わるが、通常、細胞接着阻害性領域を細胞接着性領域に改変可能な電圧以上で、細胞に悪影響を与えない程度に低い電圧を加えるのがよい。
電圧は、基材平面内の導電部間(例えば、ITOとITO間)に印加してもよいし、基材平面内に、Pt等の対抗電極を設けて導電部と対向電極の間(例えば、ITOとPt間)に印加してもよい。また、電圧を精密に制御するため、基材平面内にAg/AgCl等の参照電極を設けてもよい。上記の対抗電極や参照電極は、基材平面内でなくてもよい(培養液に電極を浸漬する形態でもよい)。
細胞の移動の観察には、細胞が移動する速度の計測、ならびに遊走方向、遊走時の細胞形態、および細胞同士のコネクション等の観察が含まれる。細胞が移動する速度の計測は、細胞接着性領域、例えば長方形の細胞接着性領域において、細胞が浸潤していく面積や距離を測定することにより、実施できる。
以下、本発明の実施形態について、図を参照することにより説明する。
本発明の細胞遊走解析方法の第一の実施形態
図1に本発明の細胞遊走解析方法の第一の実施形態が示されている。
本実施形態に係る細胞遊走解析方法は、
(a)細胞接着阻害性領域が表面に形成されており、該領域が形成された部分の少なくとも一部が導電部bである基材に、細胞Aを播種して非接着状態で培養する工程、
(b)導電部bに電圧を印加することによって導電部b上に形成された細胞接着阻害性領域を細胞接着性領域に改変する工程、および
(c)細胞接着性領域に接着した細胞Aの該領域における移動を観察する工程
を含む。
ここで、細胞接着阻害性領域は親水性膜aが形成されている領域に対応し、細胞接着性領域は導電部bが基材表面に表出している領域に対応する。
本実施形態において、工程(b)により導電部b上に形成されている親水性膜aが剥離し、細胞接着阻害性領域が細胞接着性領域に改変されるため(図1中央)、工程(a)において培養された細胞Aが細胞接着性領域に接着される(図1右)。したがって、本実施形態によれば、非接着状態で予備培養した細胞Aを別の容器に移すことなく当該細胞Aの遊走解析試験を行うことができる。
本実施形態において、非接着状態での培養により増殖することができ、基材に接着した場合に遊走する性質を有する細胞を用いることが好ましい。このような細胞としては、例えば、通常は浮遊性であり細胞接着しているように見えないが、細胞分化や機能発現時には、ある種の組織への接着をするもの、例えば血液細胞等が挙げられる。このような細胞を用いる場合、培養液1ml当り1〜2×10個のオーダーで細胞が含まれるように播種するのが好ましく、培養後に培養液1ml当り10〜10個のオーダーで細胞が含まれることが好ましい。
また、非接着状態での培養により細胞塊を形成することができ、基材に接着した場合に細胞塊が崩れて遊走する性質を有する細胞を用いることが好ましい。このような細胞としては、接着性の細胞であれば特に限定されないが、例えば、細胞塊を形成することによって機能発現や機能維持、分化誘導をしやすくなる細胞、例えばiPS細胞やES細胞等の幹細胞、癌細胞、肝細胞および毛乳頭細胞等が挙げられる。このような細胞を用いる場合、培養液1ml当り1〜2×10個のオーダーで細胞が含まれるように播種するのが好ましく、培養後に培養液1ml当り10〜10個のオーダーで細胞塊が含まれることが好ましい。
本実施形態において、細胞の培養後、電圧印加の前および/または後に、生体組織中の目的の細胞以外の細胞その他細胞破片等の不純物質を除去する分離処理を行うことができる。例えば、電圧印加後に基材を洗浄することにより、接着していない細胞を洗い流し、接着した細胞のみを基材上に残すことが好ましい。このような分離処理により、細胞の遊走に影響を与えうる物質を除去することができ、よって、より定量的に細胞遊走解析試験を行うことができる。
図2に本発明の細胞遊走解析方法の第一の実施形態の一態様が示されている。
本態様は、工程(a)において使用される基材の表面に形成された細胞接着阻害性領域が、相互に近接する第1の細胞接着阻害性領域および第2の細胞接着阻害性領域を含み、
基材の第1の細胞接着阻害性領域が表面に形成された部分が第1の導電部bであり、
基材の第2の細胞接着阻害性領域が表面に形成された部分が第2の導電部b’であり、
工程(b)が、第1の導電部bに電圧を印加することによって第1の細胞接着阻害性領域を第1の細胞接着性領域に改変する工程(b1)、第1の細胞接着性領域に接着した細胞を培養する工程(b2)および、第2の導電部b’に電圧を印加することによって第2の細胞接着阻害性領域を第2の細胞接着性領域に改変する工程(b3)を含み、
工程(c)において、第1の細胞接着性領域に接着した細胞Aの第2の細胞接着性領域における移動を観察する細胞遊走解析方法である。
ここで、第1の細胞接着阻害性領域および第2の細胞接着阻害性領域は、それぞれ親水性膜aおよびa’が形成されている領域に対応し、第1の細胞接着性領域および第2の細胞接着性領域は、それぞれ導電部bおよびb’が基材表面に表出している領域に対応する。第1の細胞接着阻害性領域と第2の細胞接着阻害性領域とは、電圧印加後に第1の細胞接着性領域から第2の細胞接着性領域へ細胞が移動することができるように相互に近接していればよい。
本態様によれば、第1の細胞接着性領域に細胞を接着させた後、電圧印加により形成された第2の細胞接着性領域上を細胞が遊走することが可能となるので、細胞遊走解析試験において、細胞を遊走させる前の位置を予め設定し、試験開始のタイミング、細胞を遊走させる領域および方向を制御することができる。
本態様の工程(b2)において、培養中に実験の目的に応じた添加試薬を加えてもよい。これにより、工程(b2)において細胞のある特定の機能等を発現させた後に、工程(c)において細胞遊走解析を行うことができる。
本発明の細胞遊走解析方法の第二の実施形態
図3に本発明の細胞遊走解析方法の第二の実施形態が示されている。この実施形態における、細胞の培養条件、基材の形状等の諸条件は、この節において特に規定していない限り、上記実施形態について述べた諸条件と同様である。
本実施形態に係る細胞遊走解析方法は、
(a)細胞接着阻害性領域および第1の細胞接着性領域が表面に相互に接して形成されており、該細胞接着阻害性領域が形成された部分が導電部bである基材に、細胞Aを播種して培養して細胞塊Cを形成する工程、
(b)導電部bに電圧を印加することによって導電部b上に形成された細胞接着阻害性領域を第2の細胞接着性領域に改変する工程、および
(c)第2の細胞接着性領域に接着した細胞Aの該領域における移動を観察する工程
を含む。
ここで、細胞接着阻害性領域は親水性膜aが形成されている領域に対応し、第1の細胞接着性領域は導電部bが基材表面に表出している領域に対応する(図2左および中央)。また、第2の細胞接着性領域は電圧印加後に新たに導電部bが基材表面に表出した領域に対応する(図2右)。細胞接着阻害性領域と第1の細胞接着性領域は、電圧印加後に細胞接着阻害性領域が第2の細胞接着性領域に変化した際に、第1の細胞接着性領域に対して接着状態または一部が第1の細胞接着性領域に接着している状態にある細胞塊Cを形成する細胞Aが第2の細胞接着性領域へ移動することができるように相互に接していればよい。
本実施形態において、工程(b)により導電部b上に形成されている親水性膜aが剥離し、細胞接着阻害性領域が第2の細胞接着性領域に改変される(図3右)。尚、第2の細胞接着性領域は、炭素酸素結合を有する有機化合物を含む細胞接着阻害性の親水性膜aに酸化処理および/または分解処理を施して得られる第1の細胞接着性領域とは、詳細な表面性状が異なる場合がある。
本実施形態によれば、工程(a)において形成させた細胞塊を別の容器に移すことなく細胞塊を形成する細胞の第2の細胞接着性領域上における遊走解析を行うことができる。また、本実施形態によれば、細胞遊走解析試験において、細胞を遊走させる前の位置を予め設定し、試験開始のタイミング、細胞を遊走させる領域および方向を制御することができる。
本実施形態によれば、第1の細胞接着性領域の面積を制御することにより、細胞塊の大きさを制御することができる。また、第1の細胞接着性領域の面積を制御することにより、細胞塊を形成する一部の細胞(例えば、底面部分の細胞)が第1の細胞接着性領域に接着している状態で細胞塊を形成させることができ、これにより細胞の機能を向上させることができる(図3中央)。
本実施形態に用いることができる細胞としては、接着状態で細胞塊を形成することができるものであれば特に制限されないが、例えば間葉系幹細胞等が挙げられる。
工程(a)について、細胞塊を形成させるための培養条件、および第1の細胞接着性領域の形状および大きさついては、W. Wang et al., Biomaterials 30 (2009) 2705-2715の記載を参照することができる。
例えば、細胞は、培養液1ml当り10〜10個のオーダーで細胞が含まれるように播種するのが好ましい。
第1の細胞接着性領域の形状は、細胞塊を形成させることができる形状であれば特に制限されないが、円形、正方形および多角形等の対称な形状等であることが好ましい。第1の細胞接着性領域は、基材に細胞を播種後に培養した際に、接着状態で細胞塊を形成することができる面積を有することが好ましい。
本発明の細胞培養物の作成方法の第一の実施形態
図4に本発明の細胞培養物の作成方法の第一の実施形態が示されている。この実施形態における、細胞の培養条件、基材の形状等の諸条件は、この節において特に規定していない限り、上記実施形態について述べた諸条件と同様である。
本実施形態に係る細胞培養物の作成方法は、
(a)細胞接着阻害性領域が表面に形成されており、該領域が形成された部分の少なくとも一部が導電部bである基材に、細胞Aを播種して非接着状態で培養する工程、
(b)導電部bに電圧を印加することによって導電部b上に形成された細胞接着阻害性領域を細胞接着性領域に改変する工程、および
(c)細胞接着性領域に接着した細胞Aを該領域において培養する工程、
を含む。
ここで、細胞接着阻害性領域は親水性膜aが形成されている領域に対応し、第1の細胞接着性領域は導電部bが基材表面に表出している領域に対応する。
本実施形態によれば、非接着状態において培養した細胞を別の容器に移すことなく当該細胞を接着状態で培養することができる。
本実施形態の工程(a)および/または工程(c)において、培養中に実験の目的に応じた添加試薬を加えてもよい。これにより、特定の機能等を発現した細胞培養物を作成することができる。
本実施形態において、非接着状態での培養および/または基材に接着した状態での培養中に適切な試薬を加えることにより分化誘導される細胞を用いることが好ましい。このような細胞としては、例えば、iPS細胞やES細胞等の幹細胞等が挙げられる。このような細胞に特定の機能等を発現させるための培養条件および培養条件については、日本ベクトン・ディッキンソン株式会社から提供されている技術情報「ヒトiPS細胞から網膜細胞への分化誘導接着培養法」(http://www.bdj.co.jp/falcon/products/hkdqj2000003sfi4-att/65-122-00_TechnicalData.pdf)の記載を参照することができる。
本実施形態において、細胞の培養後、電圧印加の前および/または後に、生体組織中の目的の細胞以外の細胞その他細胞破片等の不純物質を除去する分離処理を行うことができる。例えば、電圧印加後に基材を洗浄することにより、接着していない細胞を洗い流し、接着した細胞のみを基材上に残すことが好ましい。このような分離処理により、細胞の接着状態における増殖に影響を与えうる物質を除去することができ、よって、より効率的に細胞を増殖させることができる。
本発明の細胞遊走解析用の基材の第一の実施形態
図5に本発明の細胞遊走解析用の基材の第一の実施形態が示されている。この実施形態における、基材の形状等の諸条件は、この節において特に規定していない限り、上記実施形態について述べた諸条件と同様である。
本実施形態に係る細胞遊走解析用の基材10は、
その表面に、細胞接着阻害性領域11が形成されており、
基材10の細胞接着阻害性領域11が形成された部分の少なくとも一部は導電部bであり、
基材10の細胞接着阻害性領域11が形成された部分には少なくとも1つの凹部12が形成されており、該凹部12が細胞塊を形成させることが可能な形状であり、
導電部b上に形成された細胞接着阻害性領域11は、導電部bへの電圧印加によって、細胞接着性領域11’に変化することが可能である。
ここで、細胞接着阻害性領域11は親水性膜aが形成されている領域に対応する(図5左)。導電部bの下には、図示するように基体cが配置されていてもよく、配置されていなくともよい(図示せず)。また、導電部bは、複数の突出部と各突出部を支持する基部とからなる櫛形にパターニングされていてもよい(図示せず)。
本実施形態によれば、基材10の細胞接着阻害性領域11に細胞塊を形成させることが可能な形状を有する凹部12が形成されていることにより、該凹部12において細胞を培養して細胞塊を形成させた後、該細胞塊を別の容器に移すことなく、電圧印加後細胞接着性に改変された凹部12’において細胞の遊走解析試験を行うことができる。
本実施形態において、凹部における非接着状態での培養により細胞塊を形成することができ、基材に接着した場合に細胞塊が崩れて遊走する性質を有する細胞を用いることが好ましい。このような細胞としては、接着性の細胞であれば特に限定されないが、例えば、細胞塊を形成することによって機能発現や機能維持、分化誘導をしやすくなる細胞、例えばiPS細胞やES細胞等の幹細胞、癌細胞、肝細胞および毛乳頭細胞等が挙げられる。
凹部の形状は、細胞塊を形成させることが可能な形状であれば特に制限されない。凹部の形状としては、基材表面において、例えば長方形、正方形、楕円形、円形等であるものが挙げられる。凹部の底面は、細胞塊を形成したい点を最低部とした傾斜構造を形成していることが好ましい。傾斜構造は、曲線的なU字構造でもよく、直線的なV字構造でもよい。細胞遊走解析を一次元で簡便に行う場合には、細長い帯状の形状、例えば長方形であることが好ましい(図5参照)。基材表面における形状が長方形である場合、短辺は細胞塊の大きさに対応する長さであることが好ましく、具体的には10μm〜1000μmであることが好ましく、また長辺は、細胞の細胞分裂周期における移動距離の2倍に対応することが好ましく、具体的には40μm〜4000μmであることが好ましい。
また、凹部の形状としては、基材表面に対して垂直な断面おいて、長方形、正方形、半円形、放物線形、U字、V字等であるものが挙げられる。長辺に対して平行な断面においては、長方形、正方形等であるものが挙げられる。例えば、長辺に垂直な断面がU字で、平行な断面が長方形の場合、U字の底面部に垂直方向から見て長方形状に導電部を設けることが好ましい。非接着状態での細胞塊の形成が容易であり、また遊走の観察がしやすいという観点から、基材表面と凹部側壁とが成す角度が90度以上であることが好ましい。基材表面から凹部の底面の最低部までの距離は、目的の細胞塊を形成させるために十分であれば特に制限されない。例えば、培養液を凹部内のみに配置する場合は、培養に必要な培養液量を保持できる容量を確保する観点から100μm〜10cmであることが好ましい。培養液を凹部以外にも配置する場合は、細胞塊を形成・保持させやすい深さであれば特に制限されず、10μm〜1000μmであることが好ましい。
また、凹部は、基材の表面の面積、例えば細胞接着阻害性領域の面積に対し、好ましくは0.1〜1000個/cm、特に好ましくは1〜100個/cmの密度で存在することが好ましい。凹部を上記のような密度で存在させることにより、より多くの細胞塊を形成させ、効率的に試験することができる。
本発明の細胞遊走解析用の基材の第二の実施形態
図6に本発明の細胞遊走解析用の基材の第二の実施形態が示されている。この実施形態における、基材の形状等の諸条件は、この節において特に規定していない限り、上記実施形態について述べた諸条件と同様である。
本実施形態に係る細胞遊走解析用の基材20は、
その表面に、第1の細胞接着阻害性領域21と第2の細胞接着阻害性領域22が相互に近接して形成されており、
基材20の第1の細胞接着阻害性領域21が表面に形成された部分は第1の導電部bであり、基材20の第2の細胞接着阻害性領域22が表面に形成された部分は第2の導電部b’であり、
第1の導電部bおよび第2の導電部b’の平面形状が、それぞれ複数の突出部を有し、第1の導電部bの突出部と第2の導電部b’の突出部とがそれぞれの延出方向において近接するように形成されており、
第1の細胞接着阻害性領域21は、第1の導電部bへの電圧印加によって、第1の細胞接着性領域21’に変化することが可能であり、
第2の細胞接着阻害性領域22は、第2の導電部b’への電圧印加によって、第2の細胞接着性領域22’に変化することが可能である。
ここで、第1の細胞接着阻害性領域21および第2の細胞接着阻害性領域22は、それぞれ親水性膜aおよびa’が形成されている領域に対応し、第1の細胞接着性領域21’および第2の細胞接着性領域22’は、それぞれ導電部bおよびb’が基材表面に表出している領域に対応する。導電部bの下には、図示するように基体cが配置されていてもよく、配置されていなくともよい(図示せず)。
本実施形態において、第1の導電部bの突出部と第2の導電部b’の突出部とがそれぞれの延出方向において近接するとは、第1の導電部bへの電圧印加により形成された第1の細胞接着性領域21’に接着された細胞が、第2の導電部b’への電圧印加により形成された第2の細胞接着性領域22’へ移動することができるように、第1の導電部bおよび第2の導電部b’が形成されていることをいう。好ましくは、第1の導電部bと第2の導電部b’は、複数の突出部と各突出部を支持する基部とからなる形状にパターニングされている(図6)。
本実施形態によれば、非接着状態で培養した細胞を、別の容器に移すことなく、第1の導電部bへの電圧印加により所定の位置(第1の細胞接着性領域21’)に配置し、その後第2の導電部b’への電圧印加により、試験開始のタイミングおよび遊走させる領域(第2の細胞接着性領域21’)を制御して、定量性の高い遊走解析試験を行うことができる。
本実施形態において、第1の導電部bへの電圧印加後に第1の細胞接着性領域21’において細胞塊を形成させる場合、第1の導電部bの突出部は、その延出方向おける端部、すなわち第2の導電部b’の突出部と近接する部分が、細胞塊を形成させることができる形状であることが好ましい。このような形状としては、特に限定されないが、円形、正方形および多角形等の対称な形状等であることが好ましく、円形であることが特に好ましい(図6)。当該部分は、基材に細胞を播種後に培養した際に、接着状態で細胞塊を形成することができる面積を有することが好ましい。
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明は実施例の範囲に限定されない。
1.基材の作製
(導電部および絶縁部の形成)
長さ×幅が125mm×85mmの無アルカリガラス基板上に透明電極(ITO)を膜厚150nmで全面にスパッタ成膜した。ついで、フォトリソグラフィーによってパターニングを施し、線幅100μmの櫛型ITO電極基材を準備した。
(親水性膜の形成)
トルエン39.0gおよびエポキシシランTSL8350(GE東芝シリコーン製)750μLの混合液を攪拌しながら触媒量のトリエチルアミンを加え、さらに室温で数分間攪拌した。UV洗浄した基板を、上記のエポキシシラン溶液に浸漬し、19時間室温で振盪した。その後、下地処理された基板をエタノールで洗浄し、次いで水洗し、乾燥した。
次に、ポリエチレングリコール15gを攪拌しながら、触媒量の濃硫酸をゆっくり添加し、さらに室温で数分間攪拌した。上記のエポキシシラン処理された基板を上記のポリエチレングリコールに浸漬し、80℃で60分間反応させた。反応後、基板をよく水洗いし、次いで乾燥した。これにより親水性膜が形成された基板が得られた。
(ディッシュとの接合)
得られた基板を25mm角に切断し、中央部に穴のあいた35mmディッシュの裏面側から接着剤で接合することにより基材を作成した。基材は、エチレンオキシドガスで滅菌した。
2.細胞培養
毛乳頭細胞を5×105個/mLに調整し、35mmディッシュに播種した。10%血清を含むDMEM培地を用いて、37℃、5%CO濃度のインキュベータ内で培養した。2−4日後に位相差顕微鏡で観察したところ、スフェロイドが形成されていた。
3.電圧印加
培養液中へ対向電極を差し入れ、対向電極とITO電極間に、ITO電極側が正となるよう2Vの電圧を2分間印加した。
4.遊走試験
電圧印加後、顕微鏡付きのインキュベータ内で5時間培養しながら、観察を行った。その結果、スフェロイドが電極上に接着した後、スフェロイドを構成する細胞が崩れていき、電極に沿って遊走している様子を観察することができた。
A:細胞
B:培養液
C:細胞塊
a、a’:親水性膜
b:(第1の)導電部
b’:第2の導電部
c:基体
10、10’:基材
11:細胞接着阻害性領域
11’:細胞接着性領域
12、12’:凹部
20、20’、20’’:基材
21:第1の細胞接着阻害性領域
21’:第1の細胞接着性領域
22:第2の細胞接着阻害性領域
22’:第2の細胞接着性領域

Claims (12)

  1. 細胞の培養方法であって、
    (a)細胞接着阻害性領域が表面に形成されており、該領域が形成された部分の少なくとも一部が導電部である基材に、細胞を播種して非接着状態で培養する工程、
    (b)導電部に電圧を印加することによって導電部上に形成された細胞接着阻害性領域を細胞接着性領域に改変する工程、および
    (c)細胞接着性領域に接着した細胞を培養する工程
    を含む、上記方法。
  2. 工程(c)において、細胞接着性領域に接着した細胞の該領域における移動を観察する、請求項1に記載の方法。
  3. 工程(c)において、細胞接着性領域に接着した細胞の少なくとも一部を分化させる、請求項1または2に記載の方法。
  4. 工程(a)において使用される基材の表面に形成された細胞接着阻害性領域が、相互に近接する第1の細胞接着阻害性領域および第2の細胞接着阻害性領域を含み、
    基材の第1の細胞接着阻害性領域が表面に形成された部分が第1の導電部であり、
    基材の第2の細胞接着阻害性領域が表面に形成された部分が第2の導電部であり、
    工程(b)が、第1の導電部に電圧を印加することによって第1の細胞接着阻害性領域を第1の細胞接着性領域に改変する工程(b1)、第1の細胞接着性領域に接着した細胞を培養する工程(b2)および、第2の導電部に電圧を印加することによって第2の細胞接着阻害性領域を第2の細胞接着性領域に改変する工程(b3)を含み、
    工程(c)において、第1の細胞接着性領域に接着した細胞を培養する、請求項1に記載の方法。
  5. 工程(c)において、第1の細胞接着性領域に接着した細胞の第2の細胞接着性領域における移動を観察する、請求項4に記載の方法。
  6. 工程(b2)および/または工程(c)において、第1の細胞接着性領域に接着した細胞の少なくとも一部を分化させる、請求項4または5に記載の方法。
  7. 工程(a)において、細胞塊を形成させる、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
  8. 細胞の培養方法であって、
    (a)細胞接着阻害性領域および第1の細胞接着性領域が表面に相互に接して形成されており、該細胞接着阻害性領域が形成された部分が導電部である基材に、細胞を播種して培養し、細胞塊を形成させる工程、
    (b)導電部に電圧を印加することによって導電部上に形成された細胞接着阻害性領域を第2の細胞接着性領域に改変する工程、および
    (c)第2の細胞接着性領域に接着した細胞を培養する工程
    を含む、上記方法。
  9. 工程(c)において、第2の細胞接着性領域に接着した細胞の該領域における移動を観察する、請求項8に記載の方法。
  10. 細胞遊走解析用の基材であって、
    その表面に、細胞接着阻害性領域が形成されており、
    基材の細胞接着阻害性領域が形成された部分の少なくとも一部は導電部であり、
    基材の細胞接着阻害性領域が形成された部分には少なくとも1つの凹部が形成されており、該凹部が細胞塊を形成させることが可能な形状であり、
    導電部上に形成された細胞接着阻害性領域は、導電部への電圧印加によって、細胞接着性領域に変化することが可能である、上記基材。
  11. 導電部が、複数の突出部と各突出部を支持する基部とからなる櫛形にパターニングされている、請求項10に記載の基材。
  12. 細胞遊走解析用基材であって、
    その表面に、第1の細胞接着阻害性領域と第2の細胞接着阻害性領域が相互に近接して形成されており、
    基材の第1の細胞接着阻害性領域が表面に形成された部分は第1の導電部であり、基材の第2の細胞接着阻害性領域が表面に形成された部分は第2の導電部であり、
    第1の導電部および第2の導電部の平面形状が、それぞれ複数の突出部を有し、第1の導電部の突出部と第2の導電部の突出部とがそれぞれの延出方向において近接するように形成されており、
    第1の細胞接着阻害性領域は、第1の導電部への電圧印加によって、第1の細胞接着性領域に変化することが可能であり、
    第2の細胞接着阻害性領域は、第2の導電部への電圧印加によって、第2の細胞接着性領域に変化することが可能である、
    上記基材。
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