JP2013213199A - 親水性皮膜およびコーティング液 - Google Patents

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Abstract

【課題】水まわり環境において実用上十分な耐久性を有する親水性皮膜であり、湿潤環境においても一定以上の膜硬度が維持される親水性皮膜の提供。
【解決手段】スルホン酸またはその塩からなる親水性官能基を有しており、前記親水性皮膜全体に含まれる前記親水性官能基由来の硫黄原子の重量濃度を0.02wt%〜0.4wt%、かつ、前記親水性皮膜のうち、大気に接する表面に存在する前記親水性官能基由来の硫黄原子の原子濃度を0.5at%以上である親水性皮膜。
【選択図】図1

Description

本発明は、親水性皮膜、及び該皮膜を備えた部材に係わり、特に水まわり環境で使用される基材に好適な親水性皮膜、及び該皮膜を備えた部材に関する。
水まわりにおいて、材料の親水性は様々な効果をもたらす。親水性材料の表面に付着した水滴は、材料表面に濡れ広がる。この現象は、浴室や洗面所の鏡における結露水付着による曇りの抑制、また浴室や洗面所、台所に残存した水滴の速乾等の目的に利用できる。さらに、親水性材料は、材料表面に付着した疎水性汚れを散水等によって浮き上がらせて除去するセルフクリーニング性(防汚性)を有することが知られている。このように、水まわりにおける材料表面の親水化は、防曇性、速乾性、及び防汚性等の効果をもたらす。
基材表面の親水化手法として、従来から、非反応性の界面活性剤を含む親水性組成物を基材表面に塗布する方法が行われている(特許文献1)。この方法は、塗布後の初期においては親水効果が発揮されるものの、処理面を払拭すれば親水性が低下してしまう、すなわち親水持続性に欠けるものであった。また、親水性のポリマーからなる親水性組成物を、基材表面に塗装する方法(特許文献2)もあるが、表面が軟らかく傷つきやすい、または親水性が不十分で、防曇材料及び防汚材料として使用するには十分とは言えないものであった。また、親水性無機粒子を基材表面に塗布する方法もあるが(特許文献3)、水まわりで使用する場合、水垢等の汚れが固着して清掃しても除去できなくなり親水性が低下してしまう、すなわち親水持続性に欠けるものであった。
表面硬度に優れ、親水性及びその持続性に優れる親水性皮膜を形成する手法として、イオン性官能基と重合性官能基を有する化合物と(メタ)アクリレートの共重合体からなる親水性皮膜(特許文献4、5)が開示されている。また、スルホン酸またはスルホン酸塩基を有する化合物と(メタ)アクリロイル基を有する化合物との共重合体からなる親水性皮膜(特許文献6)についても開示されている。
特開2006−257244号公報 特開2007−332174号公報 特許第4165014号公報 特開平11−140109号公報 WO2007/064003号公報 特開2009−73923号公報
特許文献4、5、6に記載の、イオン性官能基と重合性官能基を有する化合物と重合性官能基を有し主骨格を形成する主骨格化合物との共重合体からなる親水性皮膜は、製膜直後、及び湿度の低い環境、すなわち乾燥環境においては、良好な親水性と膜硬度を有する。しかしながら、水まわり環境において、良好な親水性を有し、かつ実用上十分な耐久性を有する親水性皮膜を提供するためには、更なる工夫が必要であった。
スルホン酸などのイオン性官能基は、水との親和性が非常に高い。これは、親水性を発現させるためには好ましい性質であるが、一方で、水による材料物性の低下を引き起こしやすいといった好ましくない影響も与えるということを本発明者らは見出した。
水による物性低下として懸念されるのは、水中環境や相対湿度(RH%)がRH80%を越えるような高湿度環境のいわゆる湿潤環境での皮膜の軟化である。この現象は、特許文献2記載のような皮膜において顕著に見られる問題であるが、特許文献4、5、6記載のような皮膜においても生じうる。皮膜が軟化すると、使用時に基材から皮膜が剥がれてしまったり、皮膜が損傷する等の不具合が生じてしまい、水まわりにおいて実用上必要な耐久性を発揮できないという問題が発生する。
また、皮膜中の化学結合が加水分解されることによる材料物性の低下も懸念される。水まわりにおいては、お手入れのためにアルカリ性洗剤が使用される部材があり、これによって更に加水分解が促進される。アルカリ性洗剤が多く使われる部位としては、例えば、排水口等のカビが生えやすい部位等があり、これらの部位においては特に高い耐加水分解性が求められる。
本発明は、水まわり環境において、良好な親水性を有し、かつ実用上十分な耐久性を有する親水性皮膜、及び該皮膜を備えた部材を提供することを目的とする。水回り環境において実用上十分な耐久性を有する親水性皮膜としてより具体的には、湿潤環境においても一定以上の膜硬度が維持される親水性皮膜を提供することを目的とする。
上記目的を達成するために、本発明は、基材上に形成される親水性皮膜であって、親水性皮膜は、スルホン酸またはその塩からなる親水性官能基を有しており、親水性皮膜全体に含まれる前記親水性官能基由来の硫黄原子の重量濃度が、0.02wt%以上0.4wt%以下、かつ、親水性皮膜のうち、大気に接する表面に存在する前記官能基由来の硫黄原子の原子濃度が0.5at%以上であるであることを特徴とする。
スルホン酸またはその塩からなる親水性官能基を親水性官能基由来の硫黄原子濃度を高くすることで、形成される皮膜は高い親水性を示す。一方で、該親水性官能基は水との親和性が高いため、湿潤環境下では該親水性官能基濃度が高い皮膜中に水分が浸入しやすくなる。皮膜中に水分が浸入すると、乾燥時に鉛筆硬度H以上の十分な皮膜硬度を備えていた場合であっても、水まわり等の湿潤環境下では皮膜が全体的に軟化してしまい、特に水まわり環境等での耐傷性、および基材への密着力が著しく低下することを本発明者らは見出した。
そこで、親水性皮膜に含まれる該親水性官能基由来の硫黄原子の重量濃度を0.4wt%以下としつつ、さらに親水性皮膜のうち大気に接する表面の該硫黄原子の原子濃度を0.5at%以上に高くすることで、親水性皮膜の表面に選択的に該硫黄原子を配置させて、該皮膜の基材と接する側の該硫黄原子の原子濃度を十分に低くすることが可能となった。そのため、湿潤環境下での親水性皮膜への水分の侵入を皮膜の表面近傍にとどめ、親水性皮膜のうち基材と接する側については水分の侵入を防ぐことにより、湿潤環境下においても鉛筆硬度H以上とすることが可能となった。従って、水まわり環境に親水性皮膜を適用した場合であっても、皮膜の親水性と、十分な耐傷性や皮膜の密着性と、の両立が可能となる。
また、本発明にかかる親水性皮膜では、親水性皮膜中の親水性官能基由来の硫黄原子の重量濃度が、0.05wt%以上0.3wt%以下であることも好ましい。
親水性皮膜に含まれる親水性官能基由来の硫黄原子の重量濃度を0.05wt%以上0.3wt%以下とすることで、より確実に湿潤環境下における該皮膜の硬度低下を抑制することができ、水まわりでも特に耐傷性が必要なる浴室の床やキッチンカウンター等にも好適に利用することができる。
また、本発明にかかる親水性皮膜は、分子内に前記スルホン酸またはその塩からなる親水性官能基を有する化合物(A)と、分子内に重合性官能基を有する化合物(B)と、が共重合されたものであって、化合物(B)は、重合性官能基として、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基からなる群のうち少なくとも一種以上を備え、該重合性官能基を3個以上有することが好ましい。
化合物(B)の重合性官能基数は親水性皮膜硬度に影響を及ぼす。具体的には、重合性官能基数を多くして、親水性皮膜の架橋密度を高くすることで、親水性皮膜の硬度が上昇する。そのため、重合性官能基が2個以下の場合、水まわりで使用するために実用上必要な膜硬度を達成できず、湿潤環境のみならず、乾燥環境においても膜硬度が不十分となる。該重合性官能基を3個以上とするようにすることで、確実に親水性皮膜に必要な硬度を得ることが可能となる。
また、本発明にかかる親水性皮膜を形成するコーティング液に含まれる化合物(B)は、重合性官能基を6個以上含有し、かつ、重合性官能基を6個以上含有する化合物(B)の重量濃度と親水性皮膜中の該親水性官能基由来の硫黄原子の重量濃度の比が2:1以上とすることも好ましい。
本発明にかかる親水性皮膜を水まわり用途に応用した場合、親水性皮膜がアルカリ洗剤等と接触することが考えられる、アルカリ性洗剤は、親水性皮膜中の化学結合の加水分解を引き起こし、親水性皮膜表面のスルホン酸またはその塩からなる親水性官能基の濃度が減少し、親水性が低下することを本発明者らは見出した。特に、本発明では、親水性皮膜の基材側における硫黄原子濃度を十分に低下させるために、親水性を発現するための最小限の硫黄原子濃度しか該親水性皮膜表面に分布させていない。そのため、親水性官能基の濃度減少は、防汚性や防曇性に重大な影響を及ぼす。
本発明では化合物(B)として、分子内に重合性官能基を6個以上有する重合性化合物を用い、かつ、重合性官能基を6個以上含有する化合物(B)の重量濃度と、親水性皮膜中の該親水性官能基由来の硫黄原子重量濃度の比が2:1以上としているため、親水性皮膜の架橋密度を十分に増加させることができ、アルカリ性洗剤と接触した場合であっても、親水性皮膜表面に存在する親水官能基の離脱を効果的に抑制することが可能となる。
また、本発明にかかる親水性皮膜を形成するコーティング液に含まれる重合性官能基を6個以上含有する化合物(B)の重量濃度と親水性皮膜中の親水性官能基由来の硫黄原子重量濃度との比が3:1以上10:1以下であることも好ましい。これにより、高い初期親水性(例えば、水接触角30度未満)と、アルカリ耐久性を兼ね備えた親水性皮膜とすることができる。
また、本発明にかかる親水性皮膜では、化合物(A)が、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基から選ばれる重合性官能基を1個含有することも好ましい。
該親水性官能基由来の硫黄原子の親水性皮膜の表面への選択的な偏析は、化合物(A)同士の凝集によって起こると考えられる。そのため、化合物(A)を凝集しやすくするため化合物(A)において、スルホン酸またはその塩からなる親水性官能基を除く部分の分子量を小さくした。具体的には、スルホン酸またはその塩からなる親水性官能基を有する化合物(A)を、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基から選ばれる重合性官能基を備えたものとし、かつ該重合性官能基数を1個のみとした。
それによって、化合物(A)が化合物(B)に溶解しにくくなり、親水性皮膜中において化合物(A)同士の凝集が生じやすくなるため、親水性官能基由来の硫黄原子をより確実に親水性皮膜表面に分布させることが可能となる。そのため、親水性の確保および湿潤環境下の硬度低下の抑制をより確実に達成することが可能となる。
また、本発明にかかる親水性皮膜では、化合物(A)のスルホン酸またはその塩からなる親水性官能基は、スルホン酸塩基であることが好ましい。該親水性官能基をスルホン酸塩基とすることで、化合物(A)が化合物(B)により溶解しにくくなり、化合物(A)同士の凝集をより生じやすくすることができる。
本発明によれば、水まわり環境において、良好な親水性を有し、かつ実用上十分な耐久性を有する親水性皮膜、及び該親水性皮膜を備えた部材を提供することが可能となる。より具体的には、湿潤環境においても一定以上の膜硬度が維持される親水性皮膜を提供することが可能となる。
本発明の実施形態である親水性皮膜を表す模式図である。 乾燥時、および湿潤時における親水性皮膜中の硫黄原子濃度(wt%)と鉛筆硬度の関係を示す図である。 実施例3における硫黄原子の親水性皮膜深さ方向分布の測定結果を示す図である。 比較例2における硫黄原子の親水性皮膜深さ方向分布の測定結果を示す図である。
以下、本発明を詳細に説明する。
(親水性皮膜)
本発明の親水性皮膜を表す模式図を図1に示す。本発明の親水性皮膜は、スルホン酸またはその塩からなる親水性官能基を含有している。スルホン酸塩としては、例えば、スルホン酸ナトリウム塩、スルホン酸カリウム塩、スルホン酸アンモニウム塩等が挙げられる。
本発明の親水性皮膜において、良好な親水性と、湿潤環境下での硬度低下の抑制と、を両立させるために、スルホン酸またはその塩からなる親水性官能基の親水性皮膜内における分布を工夫した。具体的には、図1に示すように、該親水性官能基由来の硫黄原子を親水性皮膜表面に高濃度に存在させるとともに、該親水性皮膜の基材側に存在する硫黄原子を十分に低くしている。親水性皮膜表面の硫黄原子の原子濃度は、X線光電子分光(XPS)分析によって求められる。なお、ここで親水性皮膜表面とは、X線光電子分光分析によるX線の潜り込みを考慮し、親水性皮膜の表面から10nm未満の深さを指す。
該親水性皮膜の親水特性について以下に説明する。スルホン酸またはその塩からなる親水性官能基の濃度は、該親水性官能基由来の硫黄原子濃度によって表される。本発明における、親水性皮膜表面の硫黄原子の原子濃度は、0.5at%以上、より好ましくは0.6at%以上である。硫黄原子の原子濃度が0.5at%以上の場合、親水性の代用特性である水滴接触角が30°以下となり、速乾性等が求められる用途において十分な親水性を発揮することができる。硫黄原子の原子濃度が0.6at%以上の場合、水滴接触角が20°以下となり、防曇性、防汚性等のより高度な親水性が求められる用途においても十分な親水性を発揮することができる。
上述の通り、親水性官能基由来の硫黄原子濃度は高いほど親水特性において高い効果を発現させることが可能となる。一方で、本発明の親水性皮膜において、湿潤環境においても十分な耐傷性を発現させるためには、該親水性皮膜中における、スルホン酸基またはその塩からなる親水性官能基の濃度を低くする必要がある。というのも、該親水性皮膜中の該親水性官能基濃度が高いと、該親水性官能基が水との親和性が高いことによって、親水性皮膜中に水が浸入しやすくなる。親水性皮膜中に水が浸入すると、親水性皮膜が膨潤してしまい、親水性皮膜の膜硬度が低下してしまうためである。
そこで本発明の親水性皮膜においては、該親水性皮膜中のスルホン酸またはその塩からなる親水性官能基由来の硫黄原子の重量濃度を0.4wt%以下、より好ましくは0.3wt%以下に少なくするとともに、親水性皮膜のうち、大気に接する表面には、親水性官能基由来の硫黄原子の原子濃度が0.5at%以上と多くすることで、該親水性皮膜のうち、該基材と接する側の該親水性官能基由来の硫黄原子濃度を十分に低くしている。ここで、親水性皮膜の大気に接する表面とは、図1の(a)で示されるように何らかの基材に親水性コーティング材を塗布して皮膜を形成した際に、大気と界面を形成する面であり、本願では後述する水接触角を測定する際に皮膜が水と接する面、及びX線電子分光法で測定される最表面を含む。親水性皮膜全体に含まれる親水性官能基由来の硫黄原子の重量濃度を0.4wt%以下とすることで、膜硬度の代用特性である鉛筆硬度を乾燥時はもちろんのこと、湿潤環境下であってもH以上とすることができ、一般的な水まわり部材において、湿潤環境下でも乾燥時同様に十分な膜硬度を維持することができる。
なお、湿潤環境とは、水と接触する環境、もしくは相対湿度(RH%)が80RH%以上となるような高湿度環境のことである。特に、水まわりにおいては、水及び水が含有される洗剤をスポンジや布等に含ませて部材を擦ることで部材のお手入れが行われる。したがって、水と接触するような湿潤環境下において高い膜硬度を維持することが重要となる。
また、親水性皮膜全体に含まれる硫黄原子の重量濃度を0.3wt%以下とすれば、より確実に親水性皮膜内部、すなわち親水性皮膜の基材と接する側への水分の侵入を抑制できるため、浴室床等のより高い膜硬度が求められる用途への適用に好適となる。
親水性皮膜中のスルホン酸またはその塩からなる親水性官能基由来の硫黄原子の重量濃度は、有機微量元素分析装置、ガスクロマトグラフ質量分析装置等により測定することが
できる。
(親水性皮膜の成分)
本発明で提供される親水性皮膜は、次に示す化合物(A)、(B)の共重合体を含んでいる。
(化合物(A))
本発明の化合物(A)は、分子内に1個のスルホン酸またはその塩からなる親水性官能基と、1個の重合性官能基を有する。重合性官能基は、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基から選択される。化合物(A)として、2種類以上の化合物を併用することもできる。
化合物(A)としては、市販の化合物または合成した化合物を用いることができる。市販の化合物としては、例えば、2−((メタ)アクリロイルオキシ)エタンスルホン酸、及びそのナトリウムまたはカリウム塩、3−((メタ)アクリロイルオキシ)プロパン‐1‐スルホン酸、及びそのナトリウムまたはカリウム塩、アクリルアミドターシャリーブチルスルホン酸、及びそのナトリウムまたはカリウム塩、ビニルスルホン酸、及びそのナトリウムまたはカリウム塩、メタリルスルホン酸、及びそのナトリウムまたはカリウム塩、p−スチレンスルホン酸、及びそのナトリウムまたはカリウム塩、ポリオキシエチレン‐1‐(アリルオキシメチル)アルキルエーテル硫酸アンモニウム等が使用できる。
本発明の親水性皮膜においては、該親水性皮膜の大気と接する表面にスルホン酸またはその塩からなる化合物を選択的に偏析させる必要がある。化合物(A)の該親水性皮膜表面への偏析は、化合物(A)同士の凝集によって起こると考えられる。そのため、化合物(A)は該親水性皮膜を形成するコーティング材中では、溶解または分散し、皮膜中では表面に凝集しやすい成分であることが望ましい。化合物(A)を凝集しやすくするためには、化合物(A)において、スルホン酸またはその塩からなる親水性官能基を除く部分の分子量を小さくするとよい。したがって、化合物(A)に含まれる重合性官能基数は少ない方が好ましく、1個のみ含有することが好ましい。さらに好ましくは、化合物(A)のスルホン酸またはその塩からなる親水性官能基は、スルホン酸基よりもスルホン酸塩基である。
(化合物(B))
本発明の化合物(B)は、分子内にアクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基からなる群のうち少なくとも1種以上の重合性官能基を3個以上含有する。化合物(B)の重合性官能基は皮膜硬度に影響を及ぼす。そのため、重合性官能基が2個以下の場合、湿潤環境のみならず、乾燥環境においても膜硬度が不十分となり、水まわりにおいて実用上必要な耐久性が得られない恐れがある。なお化合物(B)として、2種類以上の化合物を併用することもできる。
化合物(B)として、好ましい化合物としては、例えば、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、エトキシ化グリセリントリアクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、エトキシ化イソシアヌル酸トリアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールポリアクリレート、ポリグリセリンモノエチレンオキサイドポリアクリレート、ポリグリセリンポリエチレングリコールポリアクリレート、及び重合性官能基を3個以上含有する(メタ)アクリレートオリゴマー、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー等が挙げられる。
更に、アルカリ性洗剤が使用される環境において、実用上十分な耐久性を有するために工夫をすることも好ましい。具体的には、化合物(B)として、分子内に重合性官能基を6個以上有する重合性化合物を用い、化合物(B)の重量濃度を、親水性皮膜中の該親水性由来の硫黄原子重量濃度の比を2以上とする。
化合物(B)としては、例えば、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールポリアクリレート、ポリグリセリンモノエチレンオキサイドポリアクリレート、ポリグリセリンポリエチレングリコールポリアクリレート、重合性官能基を6個以上含有する(メタ)アクリレートオリゴマー、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー等が挙げられる。
アルカリ性洗剤は、親水性皮膜中の化学結合の加水分解を引き起こす。このとき、スルホン酸またはその塩からなる親水性官能基が親水性皮膜に結合している部分が切断される。これによって、親水性皮膜表面のスルホン酸またはその塩からなる親水性官能基の濃度が減少し、親水性が低下すると考えられる。特に本発明では、親水性皮膜の基材側における硫黄原子濃度を低下させるために、親水性を発現するための最小限の硫黄原子濃度しか該親水性皮膜表面に分布させていない。そのため、アルカリ性洗剤による親水性官能基の濃度減少がおきると、実用上の防汚性や防曇性に重大な影響がでてしまう。これを抑制するためには、該親水性皮膜の架橋密度を十分に上げることが望ましく、化合物(B)として、分子内に重合性官能基を6個以上有する重合性化合物を所定量以上含有させる。それによって、親水性皮膜の架橋密度を上げることができ、アルカリ性洗剤と接触した場合であっても、親水性皮膜表面に存在する親水性官能基の離脱を抑制することが可能となる。
本発明の親水性皮膜は、化合物(A)、(B)の機能を阻害しない範囲で、該化合物(A)、(B)以外の重合性化合物を含んでも良い。
(溶媒)
本発明の親水性皮膜を形成させるコーティング材は、親水性官能基を有する化合物(A)を皮膜表面に偏析させるため、また、基材への濡れ性を向上させるために溶媒を含有する。溶媒の種類は化合物(A)、(B)、及び化合物(A)、(B)以外の重合性化合物、重合開始剤が溶解するものであれば特に限定されないが、アルコール類、エーテル類、ケトン類、エステル類、炭化水素類などの有機溶媒、及び水が利用できる。これらを単独で使用、または、2種類以上併用してもよい。
(任意成分)
本発明に用いられる親水性皮膜材には、任意成分として、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、染料、顔料、レベリング剤、消泡剤、増粘剤、沈降防止剤、帯電防止剤、分散剤等の各種添加剤を含有させることができる。
(基材)
本発明に用いられる親水性皮膜が形成される基材は、湿潤環境下における耐久性が要求される基材であれば、特に限定されない。水まわりにおいては、浴室壁材、浴室床材、浴室窓材、浴室扉材、シャワーブース壁材、浴室及び洗面鏡、洗面及びキッチンカウンター材、洗面ボウル材、キッチンシンク材、レンジフード材、便器材、便座材、及び排水口に使用される基材等の基材が挙げられる。基材と親水性皮膜の間には、プライマー層又は中間層等を設けてもよい。
(親水性皮膜の製造方法)
本発明における親水性皮膜が形成された部材を製造する工程は、化合物(A)、(B)、溶媒を含む親水性皮膜コーティング材を基材表面に塗布する塗布工程と、該溶媒を乾燥させる加熱乾燥工程と、活性エネルギー線又は熱を与えることにより該コーティング材中の化合物(A)、(B)を共重合させる硬化工程から成る。
(塗布工程)
本発明に用いられる親水性皮膜コーティング材を基材に塗布する方法に限定はなく、ハケ塗り、スプレーコート、ディップコート、スピンコート、カーテンコートなどの通常の方法によって行われる。塗膜厚さは、十分な親水性と耐摩耗性を有し、かつクラックを発生させず、良好なる基材との密着性を発現させるためには、0.1〜300μmの範囲、好ましくは1〜100μmの範囲であることが望ましい。
(加熱乾燥工程)
本発明における親水性皮膜が親水性を発現するためには、溶媒を揮発させる必要がある。溶媒の揮発は使用する溶媒によって室温でも起こりうるが、加熱することが好ましい。加熱方式は、赤外線または熱風等により加熱する公知の方法を用いることができる。加熱温度は、通常室温〜200℃の範囲、好ましくは35〜150℃の範囲であることが望ましい。加熱時間は、親水性発現後の期間であれば、任意に設定できる。加熱時間が短すぎる、すなわち溶媒の揮発が不十分な条件では、親水性が十分に発現せず、皮膜は撥水性となる。最適な加熱時間範囲は、溶媒の含有量、皮膜厚み、加熱温度、雰囲気湿度等により異なる。生産性を考慮した場合、最適な加熱時間範囲のうち、より短時間となる条件を選択することが好ましい。
(硬化工程)
基材に塗布された皮膜を硬化させる手段としては、熱硬化、活性エネルギー線硬化、または熱硬化と活性エネルギー線硬化との組み合わせが選択される。熱硬化を行う場合は、開始剤として熱重合開始剤が用いられる。また、活性エネルギー線硬化の場合、放射線としては、400〜800nmの可視光、400nm以下の紫外線、及び電子線が挙げられ、通常、装置が高価な電子線よりも、比較的に安価な紫外線または可視光線が好ましく用いられる。紫外線または可視光線を利用して活性エネルギー線硬化を行う場合は、光重合開始剤が用いられる。重合開始剤は、親水性皮膜中に含有される重合性化合物の総重量の0.01〜20重量%、好ましくは1〜10重量%の範囲で添加することが好ましい。
基材に塗布された皮膜を硬化させる手段としては、熱硬化を行う場合は、赤外線または熱風等により加熱する公知の方法を用いることができる。一方で、活性エネルギー線硬化を行う場合は、紫外線、電子線、放射線等の活性エネルギー線を照射する公知の方法を用いることができる。紫外線を用いる場合、紫外線発生源としては、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、キセノンランプ、ガリウムランプ、メタルハライドランプ、紫外線レーザー、太陽光等の紫外線などが挙げられる。照射雰囲気は空気でもよいし、窒素、アルゴン等の不活性ガスでもよい。
以下の実施例によって本発明を更に詳細に説明する。なお、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
(サンプル作製)
化合物(A)として2−(メタクリロイルオキシ)エタンスルホン酸ナトリウム(和光純薬社製)0.3gと、化合物(B)としてペンタエリスリトールトリアクリレート(新中村化学社製NKエステルA−TMM−3LM−N)50g及びポリグリセリンモノエチレンオキサイドポリアクリレート(新中村化学社製NK ECONOMER PG5009E)50gと、光重合開始剤としてイルガキュア500(BAFS社製)3gと、溶媒としてメトキシエタノール100g及び水1.5gを混合した溶液を、スターラーにて攪拌することによって、実施例1の皮膜コーティング材サンプルを作製した。
残りの実施例および比較例のサンプルについても、表1に示す成分、調合比にて、同様の方法で皮膜コーティング材サンプルを作製した。
Figure 2013213199
なお、表1において、略号は以下の意味を示す。
<化合物(A)>
SEMA・Na:2−(メタクリロイルオキシ)エタンスルホン酸ナトリウム(分子量:216.19)
ATBS:アクリルアミドターシャリーブチルスルホン酸(分子量:207.25)
VSA・Na:ビニルスルホン酸ナトリウム(分子量144)
KH−05:ポリオキシエチレン‐1‐(アリルオキシメチル)アルキルエーテル硫酸アンモニウム(分子量:557)
SPMA・K:3−(メタクリロイルオキシ)−1−プロパンスルホン酸カリウム(分子量:246.3)
<化合物(B)>
重合性官能基を3個含有する化合物
PETA:ペンタエリスリトールトリアクリレート
TMPT:トリメチロールプロパントリアクリレート
A−GLY−9E:エトキシ化グリセリントリアクリレート(EO9mol)
重合性官能基を6個含有する化合物
A−DPH:ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート
重合性官能基を7個含有する化合物
PG5009E:ポリグリセリンモノエチレンオキサイドポリアクリレート(新中村化学社製NK ECONOMER PG5009E)
重合性官能基を2個含有する化合物
9G:ポリエチレングリコール#400ジメタクリレート
重合性官能基を1個含有する化合物
HEMA:メタクリル酸2−ヒドロキシルエチル(分子量:130.14)
<光重合開始剤>
Irg.500:イルガキュア500
得られた皮膜コーティング材を、100mm×100mmサイズのアクリル板に、バーコーター#12を用いて塗布し、50℃の熱風乾燥炉にて、10分間加熱乾燥を行った。その後、高圧水銀ランプを備えた紫外線硬化装置(ANUP4154、パナソニック電工)にて、積算光量1000mJ/cmとなるように紫外線を照射して硬化させ、アクリル板上に親水性皮膜が形成されたサンプルを作製した。
(皮膜中のスルホン酸またはその塩に由来する硫黄原子の重量濃度の算出)
表1における皮膜中の硫黄原子の重量濃度の算出方法について説明する。
具体的には式1を用いて、親水性皮膜中の硫黄原子の重量濃度、すなわち皮膜中S濃度を算出している。結果は表1に示すとおりである。
(皮膜中S濃度[wt%])
=(化合物(A)の重量濃度)×(硫黄原子量/化合物(A)の分子量)×100
・・・式(1)
なお、ここで用いる化合物(A)の重量濃度は親水性皮膜中の重量濃度であるので、コーティング材に含まれている溶媒の重量は算出に用いない。また、硫黄原子量は32.07を用いた。
(親水性皮膜の大気に接する表面のスルホン酸またはその塩に由来する硫黄原子の原子濃度の測定)
次に、X線光電子分光(XPS)分析装置(AXIS−HS、島津Kratos製)を用いて、親水性皮膜の大気に接する表面の硫黄原子濃度、すなわち表面S濃度の測定を行った。装置の構成と測定条件を以下に示す。また、結果を表1に示す。測定した実施例のサンプルは親水性皮膜の大気に接する表面の硫黄原子の原子濃度は0.5at%以上であった。一方、比較例1は装置の検出限界以下であった。
装置:AXIS−HS(島津Kratos)
X線源:Mg−kα
電圧・電流:15kV・10mA
測定エリア:0.3mm×0.7mm
パスエネルギー:40eV
測定エネルギー範囲:C1s,O1s,K2s,S2p
ステップ:0.1eV
中和銃:on
帯電補正C1s(285.0eV)
(親水性皮膜の水との接触角測定1)
得られたサンプルは、蒸留水で十分にすすいだ後、水滴接触角を測定することで評価した。装置としては、接触角計(CX−150、協和界面化学)を用いた。結果を表1に示す。
その結果、実施例1〜15、および比較例2〜6では全て水に対する接触角が30°未満となり、いずれも良好な親水性効果を発現させることが可能であることがわかった。一方で、親水性皮膜の皮膜中S濃度が0.02wt%未満でかつ、親水性皮膜の大気に接する表面の硫黄原子の原子濃度が0.5at%未満である比較例1の場合には、親水性皮膜表面の接触角は50°であった。
(乾燥時および湿潤時における親水性皮膜の硬度測定1)
次に、親水性を測定した実施例1〜6および比較例1、2のサンプルについて、乾燥時および湿潤時の鉛筆硬度を測定した。なお、ここでの乾燥時とは、室温20℃、湿度50%以下の環境、湿潤時とは作製した親水性皮膜サンプルを蒸留水に1時間浸漬し、取り出した直後である。乾燥時及び湿潤時それぞれの鉛筆硬度は、JIS K5600−5−4の引っかき硬度(鉛筆法)に準じて測定した。実施例1〜6及び比較例1、2の皮膜中S濃度を横軸にプロットし、乾燥時、湿潤時の鉛筆硬度を縦軸にプロットした結果を図2に示す。
図2より、親水性皮膜の皮膜中S濃度が0.4wt%を超えると乾燥時、湿潤時ともに硬度が低下することがわかる。また、乾燥時に比べて、湿潤時では皮膜中S濃度が0.4wt%を超えるとより急激に硬度低下を起こすことが明らかとなった。水まわり用途では湿潤環境下でH以上の硬度があれば耐摩耗性、耐傷性等の負荷が比較的軽い用途に応用可能である。よって、親水性皮膜の皮膜中S濃度を0.4wt%以下、より好ましくは0.3wt%以下とすることで達成できることが分かった。一方で、皮膜中S濃度を低下させ過ぎると皮膜表面の硫黄原子濃度も低下し十分な親水性を発現しなくなるため、少なくとも0.02wt%以上とすることが好ましい。
(親水性皮膜の水との接触角測定2)
得られたサンプルのうち、化合物(A)の種類を異ならせた実施例3、7、8、9、15および比較例1〜5について、上述の接触角測定1と同様に接触角の測定を行った。実施例、比較例のサンプルともに、親水性皮膜の大気に接する表面の硫黄原子の原子濃度が0.5at%以上であったため、いずれも水との接触角は30°以下であった。
(乾燥下、および湿潤下における親水性皮膜の硬度測定2)
次に、上記化合物(A)の種類を異ならせたサンプルについて、上述と同様の条件下で乾燥時および湿潤時の鉛筆硬度を測定した。結果を表2に示す。
Figure 2013213199
表2より、皮膜中S濃度が0.4wt%以下の実施例3、7、8、9、15のサンプルについては、化合物(A)の種類によらず高い親水性を有し、かつ、湿潤時においても高い鉛筆硬度を有していることが確認された。比較例1は、皮膜中S濃度が0.4wt%以下であるので湿潤時においても鉛筆硬度H以上の高い硬度を有するが、親水性が低下していた。また、皮膜中の硫黄原子濃度が0.4wt%より大きい比較例2〜5のサンプルはいずれも高い親水性を有し、乾燥時の硬度は良好だったものの、湿潤環境下において著しく低下した。
(親水性皮膜のスルホン酸またはその塩に由来する硫黄原子濃度の深さ分布の測定)
次に、親水性皮膜の炭素(C)、酸素(O)、硫黄(S)、ナトリウム(Na)原子の深さ方向の濃度分布分析を行った。測定は、X線光電子分光(XPS)分析装置(PHI5000VersaProbe、アルバック・ファイ社製)を用いた。親水性皮膜の深さ分布の測定は、該親水性皮膜をArスパッタすることで、特定のスパッタタイムごとに露出する面を測定することにより行った。装置の構成と測定条件を以下に示す。
装置構成
装置:PHI5000 Versa Probe(アルバック・ファイ)
X線源:単色化Al Ka(1486.6eV)
分光器:静電同心半球型分析器
増幅器:多チャンネル式(Multi−ChnannelDetector.16ch並列)
測定条件
測定エネルギー:C1s,O1s,K2s,S2p
スパッタデプスプロファイル
X線ビーム径:300μmφ(75W,15kV)
分析面積:300μm×300μm
信号取り込み角:45.0°
スパッタ条件
イオン源:Ar2500
加速電圧:20kV
試料電圧:100nA
スパッタ領域:2mm×2mm
帯電中和条件
中和銃1.1V
イオン銃:7V
測定サンプルは、水滴接触角が30°以下でかつ、湿潤時の鉛筆硬度がH以上である実施例3と、水滴接触角が30°以下であるが、湿潤時の鉛筆硬度がH未満である比較例2に対して行った。測定結果をそれぞれ図3、図4にそれぞれ示す。なお、スパッタレートは、該親水性皮膜表面から基材までをスパッタしたスパッタ時間と、該親水性皮膜膜厚とを対比して算出し、実施例3では63.6nm/min、比較例2では59.8nm/minとそれぞれ算出された。また、スパッタ時間とスパッタレートを積算することにより、その時点での深さを算出した。
図3中、横軸がスパッタ時間であり、縦軸は各原子の存在比(原子濃度)を表している。スパッタ時間が0のときは、装置の潜り込み深さである数nm程度の深さにおける原子濃度であるが、ここでは図1および図3中の矢印Aで示すように、親水性皮膜の大気と接する表面の原子濃度(表面S濃度)とみなす。また、スパッタ時間が経過するほど膜の内部の原子濃度を表している。従って、後述する特定のスパッタ時間における深さ(nm)は、測定した表面S濃度の潜り込み深さを基準にしてそこからの深さを表す。なお、図3及び図4は全て親水性皮膜のデータであり基材までは到達していない。
実施例3のサンプルは膜厚6.8μmであり、比較例4のサンプルは膜厚が6.5μmであった。なお、膜厚はX線電子分光分析装置の深さ方向分析を、基材であるアクリル板に到達するまで測定を行い、アクリル板に到達した時点のスパッタ時間とスパッタレートから算出した。
実施例3のサンプルは、スパッタ時間0minのときの硫黄原子濃度、つまり大気と接する表面の硫黄原子の原子濃度(表面S濃度)は、6.15at%であった。また、スパッタ時間0.2min(深さ12.7nm)のときの硫黄原子濃度は0.093at%であり、表面S濃度を1としたときの硫黄原子濃度の比は0.015まで低下している。その後スパッタ時間0.5min(深さ31.8nm)のときの硫黄原子濃度が0.08at%であり、表面S濃度を1としたときの硫黄原子濃度の比が0.013とほとんど存在していない。このことから、硫黄は親水性皮膜表面の極近傍のみに選択的に存在し、親水性皮膜中の基材側にはほとんど存在していないことが分かる。
一方で、比較例4のサンプルは、スパッタ時間0minで大気と接する表面の硫黄原子濃度(表面S濃度)が、7.19at%であった。また、スパッタ時間0.2min(深さ11.96nm)のときの硫黄原子濃度は5.05at%であり、表面S濃度を1としたときの硫黄原子濃度の比は0.70であった。
比較例2のサンプルでは、図4に示すとおり、図3の実施例3のサンプルと比較して皮膜内部にも硫黄原子が分布していることが確認された。この硫黄原子は親水性官能基に由来するものと考えられる。したがって、比較例2のサンプルでは、皮膜の大気と接する表面のみでなく皮膜内部においても親水性官能基が存在しているため、湿潤環境下において皮膜内部にまで水分が侵入して硬度が低下したものと思われる。
形成する皮膜の膜厚が10〜100μmの範囲の場合、親水性皮膜の親水成分に由来する硫黄原子濃度は、大気と接する表面から50nmまでの深さで、その表面濃度と比較して10%以下となっていることが好ましく、より好ましくは5%以下である。
(化合物(B)の重合性官能基数と硬度の関係)
表1のうち、化合物(B)の重合性官能基の数を変化させたサンプルについて、前述と同様の方法にて乾燥時、および湿潤時の鉛筆硬度を測定した。具体的なサンプルは、重合性官能基の数が3個以上である実施例1〜6、および実施例10〜15、そして重合性官能基が2個の比較例6である。これらのサンプルについて、皮膜の乾燥時および湿潤時の鉛筆硬度を測定した。結果を表3に示す。
Figure 2013213199
表3に示すとおり、化合物(B)の重合性官能基の数を3以上とすることで、乾燥時、湿潤時のいずれにおいても高い硬度を発現させることが可能であることが確認された。
(アルカリ性洗剤への耐久性試験)
次に、アルカリ性洗剤への耐久性評価として、アルカリ性溶液浸漬後の親水性を評価した。サンプルとしては、表1のうち、化合物(B)の重合性官能基の数が6個以上である実施例1〜6、10、11、15と、化合物(B)の重合性官能基の数が6個未満である実施例12、13、14および比較例6を用いた。これらの親水性皮膜サンプルを、5wt%の水酸化ナトリウム水溶液に24時間浸漬させた後に、蒸留水で十分にすすぎ、水滴接触角を測定した。上記サンプルのアルカリ耐久性試験前後の水滴接触角の結果を表3に示す。
表3に示すとおり、化合物(B)の重合性官能基の数が6個未満のサンプルでは、アルカリ耐久試験後に水滴接触角が著しく上昇した。一方で、化合物(B)の重合性官能基の数を6個以上としたサンプルでは、アルカリ耐久試験後においても試験前同等の低い水滴接触角を維持していることが分かった。このことから、化合物(B)の重合性官能基の数を6個以上とすることで親水性皮膜の架橋密度が向上することが確認された。
次に、化合物(B)の重合性官能基の数が6個以上のサンプルについて、皮膜中の硫黄原子濃度に対する化合物(B)の重量濃度と、アルカリ耐久性との関係について評価を実施した。サンプルとしては、表1のうち、同じ化合物(B)を用い、かつ化合物(B)の、該親水性皮膜中の硫黄原子濃度に対する比を変化させた実施例1〜6及び15を用い、6官能以上の化合物(B)の重量濃度〔wt%〕/皮膜中S濃度〔wt%〕の比を算出し、結果を表3に示す。ここで、6官能以上の化合物(B)の重量濃度は、親水性皮膜中に含まれる化合物(A)、化合物(B)の全重量に対する6官能以上の化合物(B)の重量の割合である。
表3に示すとおり、化合物(B)の重合性官能基の数を6個以上とし、さらに前記化合物(B)の重量濃度と、前記親水性皮膜中の前記親水性官能基由来の硫黄原子重量濃度の比が、2:1以上とすることで親水性皮膜中の親水性官能基がアルカリ性洗剤によって加水分解されて脱離することを抑制できることが確認された。よって、特に高いアルカリ耐性が求められる用途においては、化合物(B)の重合性官能基として6個以上のものを選択し、化合物(B)の重量濃度と、親水性皮膜中の該親水性官能基由来の硫黄原子重量濃度との比が2:1以上とすることが好ましい。また、当該比を3:1以上10:1以下とすることで、高い初期親水性(水接触角30度未満)と、アルカリ耐久性を兼ね備えた親水性皮膜とすることができる。

Claims (7)

  1. 基材上に形成される親水性皮膜であって、
    前記親水性皮膜は、スルホン酸またはその塩からなる親水性官能基を有しており、
    前記親水性皮膜全体に含まれる前記官能基由来の硫黄原子の重量濃度を0.02wt%以上0.4wt%以下、かつ、
    前記親水性皮膜のうち、大気に接する表面に存在する前記官能基由来の硫黄原子の原子濃度を0.5at%以上であることを特徴とする、親水性皮膜。
  2. 前記親水性皮膜に含まれる前記官能基由来の硫黄原子の重量濃度が、0.05wt%以上0.3wt%以下であることを特徴とする、請求項1に記載の親水性皮膜。
  3. 前記親水性皮膜は、
    分子内に前記スルホン酸またはその塩からなる親水性官能基を有する化合物(A)と、
    分子内に重合性官能基を有する化合物(B)と、が共重合されたものであって、
    前記化合物(B)は、前記重合性官能基として、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基からなる群のうち少なくとも一種以上を備え、
    前記重合性官能基を3個以上有することを特徴とする、請求項1または2のいずれかに記載の親水性皮膜。
  4. 前記化合物(A)は、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基から選ばれる前記重合性官能基を1個含有することを特徴とする、請求項4または5のいずれかに記載の親水性皮膜。
  5. 前記化合物(A)のスルホン酸またはその塩からなる前記親水性官能基は、スルホン酸塩
    基であることを特徴とする、請求項5に記載の親水性皮膜。
  6. 請求項1〜5に記載の親水性皮膜を形成するためのコーティング液であって、
    前記化合物(B)は、前記重合性官能基を6個以上含有し、かつ、
    前記化合物(B)の重量濃度と、前記親水性皮膜中の前記官能基由来の硫黄原子の重量濃度の比が、2:1以上であることを特徴とする、コーティング液。
  7. 請求項1〜5に記載の親水性皮膜を形成するためのコーティング液であって、
    前記化合物(B)は、前記重合性官能基を6個以上含有し、かつ、
    前記化合物(B)の重量濃度と前記親水性皮膜中の前記官能基由来の硫黄原子の重量濃度の比が3:1以上10:1以下であることを特徴とする、コーティング液。
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