JP2013208793A - 多層構造体およびそれを用いた製品、ならびに多層構造体の製造方法 - Google Patents

多層構造体およびそれを用いた製品、ならびに多層構造体の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】ガスバリア性に優れ、変形や衝撃などの物理的ストレスを受けた際にも、ガスバリア性を高いレベルで維持することができる多層構造体、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】開示される多層構造体は、基材(X)と基材(X)に積層された層(Y)を有する多層構造体である。層(Y)は反応生成物(R)を含む組成物からなる。反応生成物(R)は、アルミニウムを含む金属酸化物(A)とリン化合物(B)とが反応してなる反応生成物である。当該リン化合物(B)は、分子内に9個以下のリン原子を有するリン化合物(BL)と、分子内に10個以上のリン原子を有するリン化合物(BH)の両方を特定の比率で含む。層(Y)は、金属酸化物(A)、リン化合物(B)を少なくとも含むコーティング液(U)を塗布することで形成される。
【選択図】なし

Description

本発明は、多層構造体およびそれを用いた製品、ならびに多層構造体の製造方法に関する。
アルミニウムおよびその酸化物であるアルミナを構成成分とする被膜をプラスチックフィルム上に形成した積層体は従来からよく知られており、食品をはじめとする、酸素によって変質しやすい物品を保護するためのガスバリア性を有する包装材料として用いられている。それらのガスバリア被膜の多くは、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、化学気相成長法(CVD)といったドライプロセスでプラスチックフィルムに形成されている。アルミニウム蒸着フィルムは、ガスバリア性に加えて、遮光性も有しており、主として乾燥食品向けの包装材料として使用されている。一方、透明性を有するアルミナ蒸着フィルムは内容物の視認性を有しており、金属探知機による異物検査や電子レンジ加熱が可能であるなどの特徴を活かし、レトルト食品包装をはじめとして、幅広い用途で包装材料として使用されている。
また、アルミニウム原子、酸素原子、および硫黄原子によって構成される透明ガスバリア被膜が知られている(特許文献1:特開2003−251732号公報)。特開2003−251732号公報は、ターゲットにアルミニウムを用い、かつ反応ガスに硫化水素と酸素との混合ガスを用い、反応性スパッタリング法によって、ガスバリア性を有する透明被膜をプラスチックフィルム上に形成する方法を開示している。
さらに、アルミナ粒子とリン化合物との反応生成物によって構成される透明ガスバリア被膜が、本発明者らによって開示されている(特許文献2:国際公開WO2011−122036号)。国際公開WO2011−122036号は、アルミナ粒子とリン化合物を含むコーティング液を塗布し、次いで乾燥および熱処理を行うことで、ガスバリア性を有する透明被膜をプラスチックフィルム上に形成する方法を開示している。
特開2003−251732号公報 国際公開WO2011−122036号
しかしながら、上記従来のガスバリア被膜は、初期のガスバリア性は優れているものの、変形や衝撃などの物理的ストレスを受けた際にクラックやピンホールといった欠陥が生じる場合があり、実際の使用時においてガスバリア性が不足する場合があった。たとえば、食品包装材料として使用される際には、印刷、ラミネート、製袋、食品充填、輸送、陳列、消費の各段階で大小様々な物理的ストレスを受けることになる。そのため、そのような物理的なストレスを受けても高いガスバリア性を維持できる多層構造体が求められている。
そこで、本発明の目的の1つは、ガスバリア性に優れ、変形や衝撃などの物理的ストレスを受けた際にも、ガスバリア性を高いレベルで維持することができる多層構造体、およびその製造方法を提供することである。また、本発明の目的の他の1つは、当該多層構造体を含む製品を提供することである。
上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、本発明者らは、アルミナ粒子と2種類のリン化合物とを含むコーティング液を塗布し、次いで乾燥および熱処理を行うことによって、ガスバリア性に優れ、変形や衝撃などの物理的ストレスを受けた際にも、ガスバリア性を高いレベルで維持することができる多層構造体が得られることを見出した。ここで、2種類のリン化合物とは、分子内に9個以下のリン原子を有する第一のリン化合物と、分子内に10個以上のリン原子を有する第二のリン化合物であった。この新たな知見に基づいてさらに検討を重ねることによって、本発明者らは本発明を完成させた。
すなわち、本発明の多層構造体は、基材(X)と基材(X)に積層された層(Y)とを有する多層構造体であって、前記層(Y)は反応生成物(R)を含む組成物からなり、前記反応生成物(R)は、アルミニウムを含む金属酸化物(A)とリン化合物(B)とが反応してなる反応生成物であり、前記リン化合物(B)が、分子内に9個以下のリン原子を有するリン化合物(BL)と、分子内に10個以上のリン原子を有するリン化合物(BH)との両方を含み、前記層(Y)において、前記リン化合物(BL)の質量WLと、前記リン化合物(BH)の質量WHとが、1/99≦(質量WH)/(質量WL)≦35/65の関係を満たし、前記層(Y)において、前記金属酸化物(A)を構成する金属原子(M)のモル数NMと、前記リン化合物(BL)に由来するリン原子のモル数NPとが、1.0≦(モル数NM)/(モル数NP)≦3.6の関係を満たす。
本発明の多層構造体では、前記金属酸化物(A)は、加水分解可能な特性基が結合した金属原子(M)を含有する化合物(L)の加水分解縮合物であってもよく、前記化合物(L)が、以下の式(I)で示される少なくとも1種の化合物(L1)を含んでもよい。
AlX1 m1 (3-m) (I)
[式(I)中、X1は、F、Cl、Br、I、R2O−、R3C(=O)O−、(R4C(=O))2CH−およびNO3からなる群より選ばれる。R1、R2、R3およびR4はそれぞれ、アルキル基、アラルキル基、アリール基およびアルケニル基からなる群より選ばれる。式(I)において、複数のX1が存在する場合には、それらのX1は互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。式(I)において、複数のR1が存在する場合には、それらのR1は互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。式(I)において、複数のR2が存在する場合には、それらのR2は互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。式(I)において、複数のR3が存在する場合には、それらのR3は互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。式(I)において、複数のR4が存在する場合には、それらのR4は互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。mは1〜3の整数を表す。]
本発明の多層構造体では、前記化合物(L1)が、アルミニウムトリイソプロポキシドおよびアルミニウムトリs−ブトキシドから選ばれる少なくとも1種の化合物であってもよい。
本発明の多層構造体では、前記リン化合物(BL)が、リン酸、ポリリン酸、亜リン酸、ホスホン酸およびそれらの誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物であってもよい。
本発明の多層構造体では、前記リン化合物(BH)は、末端がリン酸基である側鎖を含有する重合体であってもよい。
本発明の多層構造体では、前記リン化合物(BH)は、リン酸基を含有する(メタ)アクリル酸エステル類の単独重合体または共重合体であり、前記(メタ)アクリル酸エステル類が、後述する式(II)で示される少なくとも1種の化合物を含んでもよい。
本発明の多層構造体では、前記リン化合物(BH)が、アシッドホスホオキシエチルメタクリレートの単独重合体であってもよい。
本発明の多層構造体では、前記層(Y)の赤外線吸収スペクトルにおいて800〜1400cm-1の範囲における赤外線吸収が最大となる波数(n1)が1080〜1130cm-1の範囲にあってもよい。
本発明の多層構造体では、前記層(Y)の赤外線吸収スペクトルにおいて、前記波数(n1)における吸光度(A1)と、波数(n2)における吸光度(A2)とが、吸光度(A2)/吸光度(A1)≦0.2の関係を満たしてもよい。ここで、前記波数(n2)は、前記層(Y)の赤外線吸収スペクトルにおいて、2500〜4000cm-1の範囲における水酸基の伸縮振動に基づく赤外線吸収が最大となる波数である。
本発明の多層構造体では、前記波数(n1)の吸収ピークの半値幅が200cm-1以下であってもよい。
本発明の多層構造体では、前記基材(X)が、熱可塑性樹脂フィルム層、紙層および無機蒸着層からなる群より選ばれる少なくとも1種の層を含んでもよい。
本発明の多層構造体は、20℃、85%RHの条件下における酸素透過度が1ml/(m2・day・atm)以下であってもよい。
本発明の多層構造体は、23℃、50%RHの条件下で、5%延伸した状態で5分間保持した後の20℃、85%RHの条件下における酸素透過度が、2ml/(m2・day・atm)以下であってもよい。
本発明の製品は、本発明の多層構造体を含む製品であって、前記多層構造体が、包装材料、太陽電池部材またはディスプレイ部材に使用されていてもよい。
また、基材(X)と基材(X)に積層された層(Y)とを有する多層構造体を製造するための製造方法は、
アルミニウムを含む金属酸化物(A)と、前記金属酸化物(A)と反応可能な部位を含有する複数の化合物と、溶媒とを混合することによって、前記金属酸化物(A)、前記複数の化合物および前記溶媒を含むコーティング液(U)を調製する工程(I)と、
基材(X)上にコーティング液(U)を塗布することによって、基材(X)上に層(Y)の前駆体層を形成する工程(II)と、
層(Y)の前駆体層を140℃以上の温度で熱処理して層(Y)を形成する工程(III)とを含み、
前記複数の化合物が、分子内に9個以下のリン原子を有するリン化合物(BL)と、分子内に10個以上のリン原子を有するリン化合物(BH)とを含み、
前記コーティング液(U)において、前記リン化合物(BL)の質量WLと、前記リン化合物(BH)の質量WHとが、1/99≦(質量WH)/(質量WL)≦35/65の関係を満たし、
前記コーティング液(U)において、前記金属酸化物(A)を構成する金属原子(M)のモル数NMと、前記リン化合物(BL)に含まれるリン原子のモル数NPとが、1.0≦(モル数NM)/(モル数NP)≦3.6の関係を満たす。
本発明の製造方法では、前記工程(I)が、
前記金属酸化物(A)を含む液体(S)を調製する工程(a)と、
前記リン化合物(BL)を含む溶液(TL)を調製する工程(bL)と、
前記リン化合物(BH)を含む溶液(TH)を調製する工程(bH)と、
前記液体(S)、前記溶液(TL)および前記溶液(TH)を混合する工程(c)とを含んでもよい。
本発明の製造方法では、前記工程(c)において、前記液体(S)と前記溶液(TH)との混合が、前記液体(S)と前記溶液(TL)との混合と同時またはそれより後に実施されてもよい。
本発明によれば、ガスバリア性に優れ、変形や衝撃などの物理的ストレスを受けた際にも、ガスバリア性を高いレベルで維持することができる多層構造体が得られる。また、本発明の製造方法によれば、上記多層構造体を容易に製造できる。
なお、本明細書においては、変形や衝撃などの物理的ストレスを受けた際にも、ガスバリア性を高いレベルで維持することができる性質を、「耐屈曲性」と表現することがある。また、本明細書においては、耐屈曲性を評価する指標として、「23℃、50%RHの条件下で、5%延伸した状態で5分間保持した後のガスバリア性」を採用した。これは、通常の実用条件で起こりうる物理的ストレスよりも過酷な評価条件であり、この指標で良好な評価結果を示す多層構造体は、実際の用途においても良好な性能を示すことが期待できる。
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、以下の説明において特定の機能を発現する材料として具体的な材料(化合物等)を例示する場合があるが、本発明はそのような材料を使用した態様に限定されない。また、例示される材料は、特に記載がない限り、1種を単独で使用してもよいし2種以上を併用してもよい。
[多層構造体]
本発明の多層構造体は、基材(X)と基材(X)に積層された層(Y)とを有する多層構造体である。このような多層構造体は、多層構造体を製造するための本発明の方法によって得られる。
[層(Y)]
本発明の多層構造体が有する層(Y)は、反応生成物(R)を含む組成物からなる。反応生成物(R)は、アルミニウムを含む金属酸化物(A)とリン化合物(B)とが反応してなる反応生成物であり、当該リン化合物(B)が、分子内に9個以下のリン原子を有するリン化合物(BL)と、分子内に10個以上のリン原子を有するリン化合物(BH)の両方を含む。層(Y)において、リン化合物(BL)の質量WLとリン化合物(BH)の質量WHとは所定の関係を満たし、金属酸化物(A)を構成する金属原子(M)のモル数NMとリン化合物(BL)に由来するリン原子のモル数NPとは所定の関係を満たす。具体的には、層(Y)に含まれるリン化合物(BL)の質量WLと、層(Y)に含まれるリン化合物(BH)の質量WHとが、1/99≦(質量WH)/(質量WL)≦35/65の関係を満たす。また、層(Y)に含まれる、金属酸化物(A)を構成する金属原子(M)のモル数NMと、層(Y)に含まれる、リン化合物(BL)に由来するリン原子のモル数NPとが、1.0≦(モル数NM)/(モル数NP)≦3.6の関係を満たす。
本発明の多層構造体が有する層(Y)は、層(Y)の赤外線吸収スペクトルにおいて、800〜1400cm-1の範囲における赤外線吸収が最大となる波数(n1)が1080〜1130cm-1の範囲にあってもよい。
当該波数(n1)を、以下では、「最大吸収波数(n1)」という場合がある。金属酸化物(A)は、通常、金属酸化物(A)の粒子の形態でリン化合物(B)と反応する。
また、本発明の多層構造体が有する層(Y)は、金属酸化物(A)の粒子同士が、リン化合物(B)に由来するリン原子を介して結合された構造を有する。リン原子を介して結合している形態には、リン原子を含む原子団を介して結合している形態が含まれ、たとえば、リン原子を含み金属原子を含まない原子団を介して結合している形態が含まれる。
本発明の多層構造体が有する層(Y)において、金属酸化物(A)の粒子同士を結合させている金属原子であって金属酸化物(A)に由来しない金属原子のモル数は、金属酸化物(A)の粒子同士を結合させているリン原子のモル数の0〜1倍の範囲(たとえば0〜0.9倍の範囲)にあることが好ましく、たとえば、0.3倍以下、0.05倍以下、0.01倍以下、または0倍であってもよい。
本発明の多層構造体が有する層(Y)は、反応に関与していない金属酸化物(A)および/またはリン化合物(B)を、部分的に含んでいてもよい。
本発明の多層構造体が有する層(Y)は、反応生成物(R)を含み、反応生成物(R)は、少なくとも金属酸化物(A)とリン化合物(B)とが反応してなる反応生成物である。典型的な一例では、当該層(Y)の赤外線吸収スペクトルにおいて800〜1400cm-1の範囲における赤外線吸収が最大となる波数(n1)が1080〜1130cm-1の範囲にある。
一般に、金属化合物とリン化合物とが反応して金属化合物を構成する金属原子(M)とリン化合物に由来するリン原子(P)とが酸素原子(O)を介して結合したM−O−Pで表される結合が生成すると、赤外線吸収スペクトルにおいて特性ピークが生じる。ここで当該特性ピークは、その結合の周囲の環境や構造などによって特定の波数に吸収ピークを示す。本発明者らによる検討の結果、M−O−Pの結合に基づく吸収ピークが1080〜1130cm-1の範囲に位置する場合には、得られる多層構造体において優れたガスバリア性が発現されることが分かった。特に、当該吸収ピークが、一般に各種の原子と酸素原子との結合に由来する吸収が見られる800〜1400cm-1の領域において最大吸収波数の吸収ピークとして現れる場合には、得られる多層構造体においてさらに優れたガスバリア性が発現されることが分かった。
なお、本発明を何ら限定するものではないが、金属酸化物(A)の粒子同士が、リン化合物(B)に由来するリン原子を介し、かつ、金属酸化物(A)に由来しない金属原子を介さずに結合され、そして金属酸化物(A)を構成する金属原子(M)とリン原子(P)とが酸素原子(O)を介して結合したM−O−Pで表される結合が生成すると、金属酸化物(A)の粒子の表面という比較的定まった環境に起因して、当該層(Y)の赤外線吸収スペクトルにおいて、M−O−Pの結合に基づく吸収ピークが、1080〜1130cm-1の範囲に800〜1400cm-1の領域における最大吸収波数の吸収ピークとして現れるものと考えられる。
これに対し、金属アルコキシドや金属塩等の金属酸化物を形成していない金属化合物とリン化合物(B)とを予め混合した後に加水分解縮合させた場合には、金属化合物に由来する金属原子とリン化合物(B)に由来するリン原子とがほぼ均一に混ざり合い反応した複合体が得られ、赤外線吸収スペクトルにおいて、800〜1400cm-1の範囲における最大吸収波数(n1)が1080〜1130cm-1の範囲から外れるようになる。
上記最大吸収波数(n1)は、ガスバリア性により優れる多層構造体となることから、1085〜1120cm-1の範囲にあることが好ましく、1090〜1110cm-1の範囲にあることがより好ましい。
本発明の多層構造体が有する層(Y)の赤外線吸収スペクトルにおいては、2500〜4000cm-1の範囲に様々な原子に結合した水酸基の伸縮振動の吸収が見られることがある。この範囲に吸収が見られる水酸基の例としては、金属酸化物(A)部分の表面に存在しM−OHの形態を有する水酸基、リン化合物(B)に由来するリン原子(P)に結合してP−OHの形態を有する水酸基、後述する重合体(C)に由来するC−OHの形態を有する水酸基などが挙げられる。層(Y)中に存在する水酸基の量は、2500〜4000cm-1の範囲における水酸基の伸縮振動に基づく最大吸収の波数(n2)における吸光度(A2)と関連づけることができる。ここで、波数(n2)は、層(Y)の赤外線吸収スペクトルにおいて2500〜4000cm-1の範囲における水酸基の伸縮振動に基づく赤外線吸収が最大となる波数である。以下では、波数(n2)を、「最大吸収波数(n2)」という場合がある。
層(Y)中に存在する水酸基の量が多いほど、層(Y)の緻密さが低下し、結果としてガスバリア性が低下する傾向がある。また、本発明の多層構造体が有する層(Y)の赤外線吸収スペクトルにおいて、上記最大吸収波数(n1)における吸光度(A1)と上記吸光度(A2)との比率[吸光度(A2)/吸光度(A1)]が小さいほど、金属酸化物(A)の粒子同士がリン化合物(B)に由来するリン原子を介して効果的に結合されていると考えられる。そのため当該比率[吸光度(A2)/吸光度(A1)]は、得られる多層構造体のガスバリア性を高度に発現させる観点から、0.2以下であることが好ましく、0.1以下であることがより好ましい。層(Y)が上記のような比率[吸光度(A2)/吸光度(A1)]を有する多層構造体は、後述する金属酸化物(A)を構成する金属原子のモル数(NM)とリン化合物(BL)に由来するリン原子のモル数(NP)との比率や熱処理条件などを調整することによって得ることができる。なお、特に限定されるわけではないが、後述する層(Y)の前駆体層の赤外線吸収スペクトルにおいては、800〜1400cm-1の範囲における最大吸光度(A1’)と、2500〜4000cm-1の範囲における水酸基の伸縮振動に基づく最大吸光度(A2’)とが、吸光度(A2’)/吸光度(A1’)>0.2の関係を満たす場合がある。
本発明の多層構造体が有する層(Y)の赤外線吸収スペクトルにおいて、上記最大吸収波数(n1)に極大を有する吸収ピークの半値幅は、得られる多層構造体のガスバリア性の観点から200cm-1以下であることが好ましく、150cm-1以下であることがより好ましく、130cm-1以下であることがより好ましく、110cm-1以下であることがより好ましく、100cm-1以下であることがさらに好ましく、50cm-1以下であることが特に好ましい。本発明を何ら限定するものではないが、金属酸化物(A)の粒子同士がリン原子を介して結合する際、金属酸化物(A)の粒子同士が、リン化合物(B)に由来するリン原子を介し、かつ金属酸化物(A)に由来しない金属原子を介さずに結合され、そして金属酸化物(A)を構成する金属原子(M)とリン原子(P)とが酸素原子(O)を介して結合したM−O−Pで表される結合が生成すると、金属酸化物(A)の粒子の表面という比較的定まった環境に起因して、最大吸収波数(n1)に極大を有する吸収ピークの半値幅が上記範囲になると考えられる。なお、本明細書において最大吸収波数(n1)の吸収ピークの半値幅は、当該吸収ピークにおいて吸光度(A1)の半分の吸光度(吸光度(A1)/2)を有する2点の波数を求めその差を算出することにより得ることができる。
上記した層(Y)の赤外線吸収スペクトルは、ATR法(全反射測定法)で測定するか、または、多層構造体から層(Y)をかきとり、その赤外線吸収スペクトルをKBr法で測定することによって得ることができる。
本発明の多層構造体が有する層(Y)において、金属酸化物(A)の各粒子の形状は特に限定されず、例えば、球状、扁平状、多面体状、繊維状、針状などの形状を挙げることができ、繊維状または針状の形状であることがガスバリア性により優れる多層構造体となることから好ましい。層(Y)は単一の形状を有する粒子のみを有していてもよいし、2種以上の異なる形状を有する粒子を有していてもよい。また、金属酸化物(A)の粒子の大きさも特に限定されず、ナノメートルサイズからサブミクロンサイズのものを例示することができるが、ガスバリア性により優れる多層構造体となることから、金属酸化物(A)の粒子のサイズは、平均粒径として1〜100nmの範囲にあることが好ましい。
なお本発明の多層構造体が有する層(Y)における上記のような微細構造は、透過型電子顕微鏡(TEM)により、当該層(Y)の断面を観察することにより確認することができる。また、層(Y)における金属酸化物(A)の各粒子の粒径は、透過型電子顕微鏡(TEM)によって得られた層(Y)の断面観察像において、各粒子の最長軸における最大長さと、それと垂直な軸における当該粒子の最大長さの平均値として求めることができ、断面観察像において任意に選択した10個の粒子の粒径を平均することにより、上記平均粒径を求めることができる。
本発明の多層構造体が有する層(Y)は、一例において、金属酸化物(A)の粒子同士が、リン化合物(B)に由来するリン原子を介し、かつ金属酸化物(A)に由来しない金属原子を介さずに結合された構造を有する。すなわち、一例では、金属酸化物(A)の粒子同士は金属酸化物(A)に由来する金属原子を介して結合されていてもよいが、それ以外の金属原子を介さずに結合された構造を有する。ここで、「リン化合物(B)に由来するリン原子を介し、かつ金属酸化物(A)に由来しない金属原子を介さずに結合された構造」とは、結合される金属酸化物(A)の粒子間の結合の主鎖が、リン化合物(B)に由来するリン原子を有し、かつ金属酸化物(A)に由来しない金属原子を有さない構造を意味しており、当該結合の側鎖に金属原子を有する構造も包含する。ただし、本発明の多層構造体が有する層(Y)は、金属酸化物(A)の粒子同士が、リン化合物(B)に由来するリン原子と金属原子の両方を介して結合された構造(結合される金属酸化物(A)の粒子間の結合の主鎖が、リン化合物(B)に由来するリン原子と金属原子の両方を有する構造)を一部有していてもよい。
本発明の多層構造体が有する層(Y)において、金属酸化物(A)の各粒子とリン原子との結合形態としては、例えば、金属酸化物(A)を構成する金属原子(M)とリン原子(P)とが酸素原子(O)を介して結合された形態を挙げることができる。金属酸化物(A)の粒子同士は1分子のリン化合物(B)に由来するリン原子(P)を介して結合していてもよいが、2分子以上のリン化合物(B)に由来するリン原子(P)を介して結合していてもよい。結合している2つの金属酸化物(A)の粒子間の具体的な結合形態としては、結合している一方の金属酸化物(A)の粒子を構成する金属原子を(Mα)と表し、他方の金属酸化物(A)の粒子を構成する金属原子を(Mβ)と表すと、例えば、(Mα)−O−P−O−(Mβ)の結合形態;(Mα)−O−P−[O−P]n−O−(Mβ)の結合形態;(Mα)−O−P−Z−P−O−(Mβ)の結合形態;(Mα)−O−P−Z−P−[O−P−Z−P]n−O−(Mβ)の結合形態などが挙げられる。なお上記結合形態の例において、nは1以上の整数を表し、Zはリン化合物(B)が分子中に2つ以上のリン原子を有する場合における2つのリン原子間に存在する構成原子群を表し、リン原子に結合しているその他の置換基の記載は省略している。本発明の多層構造体が有する層(Y)において、1つの金属酸化物(A)の粒子は複数の他の金属酸化物(A)の粒子と結合していることが、得られる多層構造体のガスバリア性の観点から好ましい。
金属酸化物(A)は、加水分解可能な特性基が結合した金属原子(M)を含有する化合物(L)の加水分解縮合物であってもよい。当該特性基の例には、後述する式(I)のX1が含まれる。
なお、化合物(L)の加水分解縮合物は、実質的に金属酸化物とみなすことが可能である。そのため、この明細書では、化合物(L)の加水分解縮合物を「金属酸化物(A)」という場合がある。すなわち、この明細書において、「金属酸化物(A)」を、「化合物(L)の加水分解縮合物」と読み替えることが可能であり、「化合物(L)の加水分解縮合物」を「金属酸化物(A)」と読み替えることが可能である。
[金属酸化物(A)]
金属酸化物(A)を構成する金属原子(それらを総称して「金属原子(M)」という場合がある)としては、原子価が2価以上(たとえば、2〜4価や3〜4価)の金属原子を挙げることができ、具体的には、例えば、マグネシウム、カルシウム等の周期表第2族の金属;亜鉛等の周期表第12族の金属;アルミニウム等の周期表第13族の金属;ケイ素等の周期表第14族の金属;チタン、ジルコニウム等の遷移金属などを挙げることができる。なお、ケイ素は半金属に分類される場合があるが、本明細書ではケイ素を金属に含めるものとする。金属酸化物(A)を構成する金属原子(M)は1種類であってもよいし、2種類以上であってもよいが、アルミニウムを少なくとも含む必要がある。アルミニウムと併用されうる金属原子(M)としては、金属酸化物(A)を製造するための取り扱いの容易さや得られる多層構造体のガスバリア性が優れることから、チタンおよびジルコニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
金属原子(M)に占める、アルミニウム、チタンおよびジルコニウムの合計の割合は、60モル%以上、70モル%以上、80モル%以上、90モル%以上、95モル%以上、または100モル%であってもよい。また、金属原子(M)に占める、アルミニウムの割合は、60モル%以上、70モル%以上、80モル%以上、90モル%以上、95モル%以上、または100モル%であってもよい。
金属酸化物(A)としては、液相合成法、気相合成法、固体粉砕法などの方法により製造されたものを使用することができるが、得られる金属酸化物(A)の形状や大きさの制御性や製造効率などを考慮すると、液相合成法により製造されたものが好ましい。
液相合成法においては、加水分解可能な特性基が金属原子(M)に結合した化合物(L)を原料として用いてこれを加水分解縮合させることで、化合物(L)の加水分解縮合物として金属酸化物(A)を合成することができる。ただし、化合物(L)が有する金属原子(M)は少なくともアルミニウムを含む必要がある。また化合物(L)の加水分解縮合物を液相合成法で製造するにあたっては、原料として化合物(L)そのものを用いる方法以外にも、化合物(L)が部分的に加水分解してなる化合物(L)の部分加水分解物、化合物(L)が完全に加水分解してなる化合物(L)の完全加水分解物、化合物(L)が部分的に加水分解縮合してなる化合物(L)の部分加水分解縮合物、化合物(L)の完全加水分解物の一部が縮合したもの、あるいはこれらのうちの2種以上の混合物を原料として用いてこれを縮合または加水分解縮合させることによっても金属酸化物(A)を製造することができる。このようにして得られる金属酸化物(A)も、本明細書では「化合物(L)の加水分解縮合物」ということとする。上記の加水分解可能な特性基(官能基)の種類に特に制限はなく、例えば、ハロゲン原子(F、Cl、Br、I等)、アルコキシ基、アシロキシ基、ジアシルメチル基、ニトロ基等が挙げられるが、反応の制御性に優れることから、ハロゲン原子またはアルコキシ基が好ましく、アルコキシ基がより好ましい。
化合物(L)は、反応の制御が容易で、得られる多層構造体のガスバリア性が優れることから、以下の式(I)で示される少なくとも1種の化合物(L1)を含むことが好ましい。
AlX1 m1 (3-m) (I)
[式(I)中、X1は、F、Cl、Br、I、R2O−、R3C(=O)O−、(R4C(=O))2CH−およびNO3からなる群より選ばれる。R1、R2、R3およびR4はそれぞれ、アルキル基、アラルキル基、アリール基およびアルケニル基からなる群より選ばれる。式(I)において、複数のX1が存在する場合には、それらのX1は互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。式(I)において、複数のR1が存在する場合には、それらのR1は互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。式(I)において、複数のR2が存在する場合には、それらのR2は互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。式(I)において、複数のR3が存在する場合には、それらのR3は互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。式(I)において、複数のR4が存在する場合には、それらのR4は互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。mは1〜3の整数を表す。]
1、R2、R3およびR4が表すアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基等が挙げられる。R1、R2、R3およびR4が表すアラルキル基としては、例えば、ベンジル基、フェネチル基、トリチル基等が挙げられる。R1、R2、R3およびR4が表すアリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、トリル基、キシリル基、メシチル基等が挙げられる。R1、R2、R3およびR4が表すアルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基等が挙げられる。R1は、例えば、炭素数が1〜10のアルキル基であることが好ましく、炭素数が1〜4のアルキル基であることがより好ましい。X1は、F、Cl、Br、I、R2O−であることが好ましい。化合物(L1)の好ましい一例では、X1がハロゲン原子(F、Cl、Br、I)または炭素数が1〜4のアルコキシ基(R2O−)であり、mは3である。化合物(L1)の一例では、X1がハロゲン原子(F、Cl、Br、I)または炭素数が1〜4のアルコキシ基(R2O−)であり、mは3である。
なお、化合物(L)は、化合物(L1)に加えて以下の式で表される少なくとも1種の化合物を含んでもよい。
11 m1 (n-m)
[式中、M1はTiまたはZrを表す。X1は、F、Cl、Br、I、R2O−、R3C(=O)O−、(R4C(=O))2CH−およびNO3からなる群より選ばれる。R1、R2、R3およびR4はそれぞれ、アルキル基、アラルキル基、アリール基およびアルケニル基からなる群より選ばれる。式(I)において、複数のX1が存在する場合には、それらのX1は互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。式(I)において、複数のR1が存在する場合には、それらのR1は互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。式(I)において、複数のR2が存在する場合には、それらのR2は互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。式(I)において、複数のR3が存在する場合には、それらのR3は互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。式(I)において、複数のR4が存在する場合には、それらのR4は互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。nは、M1の原子価に等しい。mは1〜nの整数を表す。]
化合物(L1)の具体例としては、例えば、塩化アルミニウム、アルミニウムトリエトキシド、アルミニウムトリノルマルプロポキシド、アルミニウムトリイソプロポキシド、アルミニウムトリノルマルブトキシド、アルミニウムトリs−ブトキシド、アルミニウムトリt−ブトキシド、アルミニウムトリアセテート、アルミニウムアセチルアセトネート、硝酸アルミニウム等のアルミニウム化合物挙げられる。これらの中でも、化合物(L1)としては、アルミニウムトリイソプロポキシドおよびアルミニウムトリs−ブトキシドから選ばれる少なくとも1つの化合物が好ましい。化合物(L1)は1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
本発明の効果が得られる限り、化合物(L)に占める化合物(L1)の割合に特に限定はない。化合物(L1)以外の化合物が化合物(L)に占める割合は、例えば、20モル%以下や10モル%以下や5モル%以下や0モル%である。一例では、化合物(L)は化合物(L1)のみからなる。
また、化合物(L1)以外の化合物(L)としては、本発明の効果が得られる限り特に限定されないが、例えばチタン、ジルコニウム、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、ケイ素等の金属原子に、上述の加水分解可能な特性基が結合した化合物などが挙げられる。なお、ケイ素は半金属に分類される場合があるが、本明細書ではケイ素を金属に含めるものとする。これらの中でも、得られる多層構造体のガスバリア性に優れることから、化合物(L1)以外の化合物(L)としては、金属原子としてチタンまたはジルコニウムを有する化合物が好ましい。化合物(L1)以外の化合物(L)の具体例としては、例えば、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラノルマルブトキシド、チタンテトラ(2−エチルヘキソキシド)、チタンテトラメトキシド、チタンテトラエトキシド、チタンアセチルアセトネート等のチタン化合物;ジルコニウムテトラノルマルプロポキシド、ジルコニウムテトラブトキシド、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート等のジルコニウム化合物が挙げられる。
化合物(L)が加水分解されることによって、化合物(L)が有する加水分解可能な特性基の少なくとも一部が水酸基に置換される。さらに、その加水分解物が縮合することによって、金属原子(M)が酸素原子(O)を介して結合された化合物が形成される。この縮合が繰り返されると、実質的に金属酸化物とみなしうる化合物が形成される。なお、このようにして形成された金属酸化物(A)の表面には、通常、水酸基が存在する。
本明細書においては、金属原子(M)のモル数に対する、M−O−Mで表される構造における酸素原子(O)のように、金属原子(M)のみに結合している酸素原子(例えば、M−O−Hで表される構造における酸素原子(O)のように金属原子(M)と水素原子(H)に結合している酸素原子は除外する)のモル数の割合([金属原子(M)のみに結合している酸素原子(O)のモル数]/[金属原子(M)のモル数])が0.8以上となる化合物を金属酸化物(A)に含めるものとする。金属酸化物(A)は、上記割合が0.9以上であることが好ましく、1.0以上であることがより好ましく、1.1以上であることがさらに好ましい。上記割合の上限は特に限定されないが、金属原子(M)の原子価をnとすると、通常、n/2で表される。
上記の加水分解縮合が起こるためには、化合物(L)が加水分解可能な特性基(官能基)を有していることが重要である。それらの基が結合していない場合、加水分解縮合反応が起こらないか極めて緩慢になるため、目的とする金属酸化物(A)の調製が困難になる。
加水分解縮合物は、例えば、公知のゾルゲル法で採用される手法により特定の原料から製造することができる。当該原料には、化合物(L)、化合物(L)の部分加水分解物、化合物(L)の完全加水分解物、化合物(L)の部分加水分解縮合物、および化合物(L)の完全加水分解物の一部が縮合したものからなる群より選ばれる少なくとも1種(以下、「化合物(L)系成分」と称する場合がある)を用いることができる。これらの原料は、公知の方法で製造してもよいし、市販されているものを用いてもよい。特に限定はないが、例えば、2〜10個程度の化合物(L)が加水分解縮合することによって得られる縮合物を原料として用いることができる。具体的には、例えば、アルミニウムトリイソプロポキシドを加水分解縮合させて2〜10量体の縮合物としたものを原料の一部として用いることができる。
化合物(L)の加水分解縮合物において縮合される分子の数は、化合物(L)系成分を縮合または加水分解縮合する際の条件によって制御することができる。例えば、縮合される分子の数は、水の量、触媒の種類や濃度、縮合または加水分解縮合する際の温度や時間などによって制御することができる。
上記したように、本発明の多層構造体が有する層(Y)は、反応生成物(R)を含み、前記反応生成物(R)は、少なくともアルミニウムを含む金属酸化物(A)とリン化合物(B)とが反応してなる反応生成物である。このような反応生成物は金属酸化物(A)とリン化合物(B)とを混合し反応させることにより形成することができる。リン化合物(B)との混合に供される(混合される直前の)金属酸化物(A)は、金属酸化物(A)そのものであってもよいし、金属酸化物(A)を含む組成物の形態であってもよい。好ましい一例では、金属酸化物(A)を溶媒に溶解または分散することによって得られた液体(溶液または分散液)の形態で、金属酸化物(A)がリン化合物(B)と混合される。
金属酸化物(A)の溶液または分散液を製造するための好ましい方法を以下に記載する。ここでは、金属酸化物(A)がアルミニウム原子以外の金属原子を含まない場合、すなわち金属酸化物(A)が酸化アルミニウム(アルミナ)である場合を例にとってその分散液を製造する方法を説明するが、他の金属原子を含有する溶液や分散液を製造する際にも類似の製造方法を採用することができる。好ましいアルミナの分散液は、アルミニウムアルコキシドを必要に応じて酸触媒でpH調整した水溶液中で加水分解縮合してアルミナのスラリーとし、これを特定量の酸の存在下に解膠することにより得ることができる。
アルミニウムアルコキシドを加水分解縮合する際の反応系の温度は特に限定されない。当該反応系の温度は、通常2〜100℃の範囲内である。水とアルミニウムアルコキシドが接触すると液の温度が上昇するが、加水分解の進行に伴いアルコールが副生し、当該アルコールの沸点が水よりも低い場合に当該アルコールが揮発することにより反応系の温度がアルコールの沸点付近以上には上がらなくなる場合がある。そのような場合、アルミナの成長が遅くなることがあるため、95℃付近まで加熱して、アルコールを除去することが有効である。反応時間は反応条件(酸触媒の有無、量や種類など)に応じて相違する。反応時間は、通常、0.01〜60時間の範囲内であり、好ましくは0.1〜12時間の範囲内であり、より好ましくは0.5〜6時間の範囲内である。また、反応は、空気、二酸化炭素、窒素、アルゴンなどの各種気体の雰囲気下で行うことができる。
加水分解縮合の際に用いる水の量は、アルミニウムアルコキシドに対して1〜200モル倍であることが好ましく、10〜100モル倍であることがより好ましい。水の量が1モル倍未満の場合には加水分解が充分進行しないため好ましくない。一方200モル倍を超える場合には製造効率が低下したり粘度が高くなったりするため好ましくない。水を含有する成分(例えば塩酸や硝酸など)を使用する場合には、その成分によって導入される水の量も考慮して水の使用量を決定することが好ましい。
加水分解縮合に使用する酸触媒としては、塩酸、硫酸、硝酸、p−トルエンスルホン酸、安息香酸、酢酸、乳酸、酪酸、炭酸、シュウ酸、マレイン酸等を用いることができる。これらの中でも、塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、乳酸、酪酸が好ましく、硝酸、酢酸がより好ましい。加水分解縮合時に酸触媒を使用する場合には、加水分解縮合前のpHが2.0〜4.0の範囲内となるように酸の種類に応じて適した量を使用することが好ましい。
加水分解縮合により得られたアルミナのスラリーをそのままアルミナ分散液として使用することもできるが、得られたアルミナのスラリーを、特定量の酸の存在下に加熱して解膠することで、透明で粘度安定性に優れたアルミナの分散液を得ることができる。
解膠時に使用される酸としては、硝酸、塩酸、過塩素酸、蟻酸、酢酸、プロピオン酸などの1価の無機酸や有機酸を使用することができる。これらの中でも、硝酸、塩酸、酢酸が好ましく、硝酸、酢酸がより好ましい。
解膠時の酸として硝酸または塩酸を使用する場合、その量はアルミニウム原子に対して0.001〜0.4モル倍であることが好ましく、0.005〜0.3モル倍であることがより好ましい。0.001モル倍未満の場合には解膠が充分に進行しない、または非常に長い時間を要するなどの不具合を生じる場合がある。また0.4モル倍を超える場合には得られるアルミナの分散液の経時安定性が低下する傾向がある。
一方、解膠時の酸として酢酸を使用する場合、その量はアルミニウム原子に対して0.01〜1.0モル倍であることが好ましく、0.05〜0.5モル倍であることがより好ましい。0.01モル倍未満の場合には解膠が充分に進行しない、または非常に長い時間を要するなどの不具合を生じる場合がある。また1.0モル倍を超える場合には得られるアルミナの分散液の経時安定性が低下する傾向がある。
解膠時に存在させる酸は、加水分解縮合時に添加されてもよいが、加水分解縮合で副生するアルコールを除去する際に酸が失われた場合には、前記範囲の量になるように、再度、添加することが好ましい。
解膠を40〜200℃の範囲内で行うことによって、適度な酸の使用量で短時間に解膠させ、所定の粒子サイズを有し、粘度安定性に優れたアルミナの分散液を製造することができる。解膠時の温度が40℃未満の場合には解膠に長時間を要し、200℃を超える場合には温度を高くすることによる解膠速度の増加量は僅かである一方、高耐圧容器等を必要とし経済的に不利なので好ましくない。
解膠が完了した後、必要に応じて、溶媒による希釈や加熱による濃縮を行うことにより、所定の濃度を有するアルミナの分散液を得ることができる。ただし、増粘やゲル化を抑制するため、加熱濃縮を行う場合は、減圧下に、60℃以下で行うことが好ましい。
リン化合物(B)(組成物として用いる場合にはリン化合物(B)を含む組成物)との混合に供される金属酸化物(A)はリン原子を実質的に含有しないことが好ましい。しかしながら、例えば、金属酸化物(A)の調製時における不純物の影響などによって、リン化合物(B)(組成物として用いる場合にはリン化合物(B)を含む組成物)との混合に供される金属酸化物(A)中に少量のリン原子が混入する場合がある。そのため、本発明の効果が損なわれない範囲内で、リン化合物(B)(組成物として用いる場合にはリン化合物(B)を含む組成物)との混合に供される金属酸化物(A)は少量のリン原子を含有していてもよい。リン化合物(B)(組成物として用いる場合にはリン化合物(B)を含む組成物)との混合に供される金属酸化物(A)に含まれるリン原子の含有率は、ガスバリア性により優れる多層構造体が得られることから、当該金属酸化物(A)に含まれる全ての金属原子(M)のモル数を基準(100モル%)として、30モル%以下であることが好ましく、10モル%以下であることがより好ましく、5モル%以下であることがさらに好ましく、1モル%以下であることが特に好ましく、0モル%であってもよい。
本発明の多層構造体が有する層(Y)においては、金属酸化物(A)の粒子同士が、リン化合物(B)に由来するリン原子を介して結合された特定の構造を有するが、当該層(Y)における金属酸化物(A)の粒子の形状やサイズと、リン化合物(B)(組成物として用いる場合にはリン化合物(B)を含む組成物)との混合に供される金属酸化物(A)の粒子の形状やサイズとは、それぞれ同一であってもよいし異なっていてもよい。すなわち、層(Y)の原料として用いられる金属酸化物(A)の粒子は、層(Y)を形成する過程で、形状やサイズが変化してもよい。特に、後述するコーティング液(U)を用いて層(Y)を形成する場合には、コーティング液(U)中やそれを形成するために使用することのできる後述する液体(S)中において、あるいはコーティング液(U)を基材(X)上に塗布した後の各工程において、形状やサイズが変化することがある。
[リン化合物(B)]
リン化合物(B)は、金属酸化物(A)と反応可能な部位を含有し、典型的には、そのような部位を複数含有する。そのような部位の例には、金属酸化物(A)の表面に存在する官能基(たとえば水酸基)と反応可能な部位が含まれる。たとえば、そのような部位の例には、リン原子に直接結合したハロゲン原子や、リン原子に直接結合した酸素原子が含まれる。それらのハロゲン原子や酸素原子は、金属酸化物(A)の表面に存在する水酸基と縮合反応(加水分解縮合反応)を起こすことができる。金属酸化物(A)の表面に存在する官能基(たとえば水酸基)は、通常、金属酸化物(A)を構成する金属原子(M)に結合している。
リン化合物(B)としては、例えば、ハロゲン原子または酸素原子がリン原子に直接結合した構造を有するものを用いることができ、このようなリン化合物(B)を用いることにより金属酸化物(A)の表面に存在する水酸基と(加水分解)縮合することで結合することができる。
本発明のリン化合物(B)は、分子内に9個以下のリン原子を有するリン化合物(BL)と、分子内に10個以上のリン原子を有するリン化合物(BH)の両方を含む必要がある。一例では、リン化合物(BL)に含まれるリン原子の数は1〜9個の範囲(たとえば1〜5個の範囲)にあり、リン化合物(BH)に含まれるリン原子の数は10〜1000個の範囲(たとえば20〜500個の範囲)にある。
[リン化合物(BL)]
リン化合物(BL)は、分子内に9個以下(たとえば、1〜5個の範囲)のリン原子を有するリン化合物である。一例では、当該リン原子は酸性基またはその誘導体に含まれる。すなわち、一例のリン化合物(BL)は、酸性基またはその誘導体以外の部分にリン原子を含まず、リン原子を含む酸性基またはその誘導体を9個以下だけ含む。リン原子を含む酸性基の例には、リン酸基、ポリリン酸基、亜リン酸基、ホスホン酸基が含まれる。リン化合物(BL)は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。リン化合物(BL)は、リン酸、ポリリン酸、亜リン酸、ホスホン酸およびそれらの誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物であってもよい。ポリリン酸の具体例としては、ピロリン酸、三リン酸、4つ以上のリン酸が縮合したポリリン酸などが挙げられるが、縮合度が10以上のポリリン酸については、リン化合物(BL)ではなく、リン化合物(BH)に含まれる。上記の誘導体の例としては、リン酸、ポリリン酸、亜リン酸、ホスホン酸の、塩、(部分)エステル化合物、ハロゲン化物(塩化物等)、脱水物(五酸化ニリン等)などが挙げられる。また、ホスホン酸の誘導体の例には、ホスホン酸(H−P(=O)(OH)2)のリン原子に直接結合した水素原子が種々の官能基を有していてもよいアルキル基に置換されている化合物(例えば、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)、N,N,N’,N’−エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)等)や、その塩、(部分)エステル化合物、ハロゲン化物および脱水物も含まれる。これらのリン化合物(BL)の中でも、後述するコーティング液(U)を用いて層(Y)を形成する場合におけるコーティング液(U)の安定性と得られる多層構造体のガスバリア性がより優れることから、リン酸を単独で使用するか、またはリン酸とそれ以外のリン化合物とを併用することが好ましい。また、安価で入手が容易なリン酸を使用することは、経済的な面でも有利といえる。
[リン化合物(BH)]
リン化合物(BH)は、分子内に10個以上のリン原子を有するリン化合物であり、典型的には、高分子構造を有している。好ましい一例では、リン化合物(BH)に含有されるリン原子の数は、10〜1000個の範囲(たとえば20〜500個の範囲)にある。リン化合物(BH)は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。一例では、当該リン原子は酸性基に含まれる。リン原子を含む酸性基の例には、リン酸基、ポリリン酸基、亜リン酸基、ホスホン酸基が含まれる。
リン化合物(BH)は、上記条件を満たせば特に制限はなく、デンプン等の多糖類やポリビニルアルコールなどの水酸基を有する重合体の水酸基の一部または全てをリン酸化処理したものを使用してもよい。好ましい一例では、リン化合物(BH)は、末端がリン酸基である側鎖を含有する重合体である。当該重合体は、リン酸基を含有する(メタ)アクリル酸エステル類の単独重合体または共重合体であってもよい。より具体的には、当該重合体は、ビニル基とは反対側の分子端がリン酸基である(メタ)アクリル酸エステル類の単独重合体または共重合体であってもよい。共重合体は、たとえば、当該(メタ)アクリル酸エステル類と他のビニル基含有単量体(ビニル単量体)とを共重合することによって形成できる。
上記(メタ)アクリル酸エステル類は、下記一般式(II)で示される少なくとも1種の化合物(単量体)を含むことが好ましい。
Figure 2013208793
[式(II)中、R5およびR6は、水素原子またはメチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基から選ばれるアルキル基であり、アルキル基に含まれる一部の水素原子が他の原子や官能基で置換されていてもよい。また、nは、典型的には1〜6の整数である。]
典型的な一例では、R5は水素原子またはメチル基であり、R6は水素原子またはメチル基である。
一般式(II)で示される単量体のうち、本発明に好適に使用できる単量体の例としては、アシッドホスホオキシエチルアクリレート、アシッドホスホオキシエチルメタクリレート、アシッドホスホオキシポリオキシエチレングリコールアクリレート、アシッドホスホオキシポリオキシエチレングリコールメタクリレート、アシッドホスホオキシポリオキシプロピレングリコールアクリレート、アシッドホスホオキシポリオキシプロピレングリコールメタクリレート、3−クロロ−2−アシッドホスホオキシプロピルアクリレートおよび3−クロロ−2−アシッドホスホオキシプロピルメタクリレートなどを挙げることができる。その中でも、アシッドホスホオキシエチルメタクリレートの単独重合体であることが、耐屈曲性に優れた多層構造体が得られる点でより好ましい。ただし、本発明に使用できる単量体はこれらに限定されるものではない。これらの単量体の一部は、ユニケミカル株式会社から商品名Phosmerとして販売されており、適宜購入して使用することができる。
本発明のリン化合物(BH)は、一般式(II)で表される単量体の単独重合体であってもよいし、一般式(II)で表される単量体を2種以上用いた共重合体であってもよいし、一般式(II)で表される少なくとも1種類の単量体と他のビニル単量体との共重合体であってもよい。
一般式(II)で表される単量体と共重合することができる他のビニル単量体としては、一般式(II)で表される単量体と共重合できるものであれば特に限定されず公知のものを使用できる。このようなビニル単量体として、例えば、アクリル酸、アクリル酸エステル類、メタクリル酸、メタクリル酸エステル類、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、スチレン、核置換スチレン類、アルキルビニルエーテル類、アルキルビニルエステル類、パーフルオロ・アルキルビニルエーテル類、パーフルオロ・アルキルビニルエステル類、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、マレイミドまたはフェニルマレイミド等が挙げられる。これらのビニル単量体の中で、特に好ましく用いることができるものは、メタクリル酸エステル類、アクリロニトリル、スチレン類、マレイミド、フェニルマレイミドである。
より優れた耐屈曲性を有する多層構造体を得るために、リン化合物(BH)の全構成単位に占める、一般式(II)で表される単量体に由来する構成単位の割合は、10モル%以上であることが好ましく、20モル%以上であることがより好ましく、40モル%以上であることがさらに好ましく、70モル%以上であることが特に好ましく、100モル%であってもよい。
リン化合物(BH)の分子量に特に制限はないが、典型的には、リン化合物(BH)の数平均分子量は、1,000〜100,000の範囲にある。数平均分子量がこの範囲にあると、リン化合物(BH)を使用することによる耐屈曲性の改善効果と、後述するコーティング液(U)の粘度安定性とを、高いレベルで両立することができる。また、リン原子1つあたりのリン化合物(BH)の分子量は、150〜500の範囲にある場合に、リン化合物(BH)を使用することによる耐屈曲性の改善効果をより高めることができる場合がある。
リン化合物(BH)を形成するための重合反応は、原料となる単量体成分及び生成する重合体の双方が溶解する溶媒中において、重合開始剤を用いて行うことができる。重合開始剤の例には、2,2−アゾビスイソブチロニトリル、2,2−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、ジメチル2,2−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、ジメチル2,2−アゾビスイソブチレートなどのアゾ系開始剤、ラウリルパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド、tert−ブチルパーオクトエートなどの過酸化物系開始剤等が含まれる。他のビニルモノマーと共重合する場合には、コモノマー同士の組合せにより適宜溶媒を選択する。必要に応じて2種以上の混合溶媒を使用してもよい。
一例の重合反応は、単量体、重合開始剤および溶媒からなる混合溶液を溶媒に滴下しながら重合温度50〜100℃で行い、滴下終了後も1〜24時間程度、重合温度あるいはそれ以上の温度に維持し、攪拌を継続して重合を完結させる。
溶媒は単量体成分を1とした場合、重量比で1.0〜3.0程度用いることが好ましく、重合開始剤は重量比で0.005〜0.05程度用いることが好ましい。より好ましい重量比は溶媒が1.5〜2.5、重合開始剤が0.01前後である。溶媒、重合開始剤の使用量が上記範囲にないと、重合体がゲル化して様々な溶媒に不溶となり、後述するコーティング液(U)の製造が困難になる場合がある。
上記したように、本発明の多層構造体が有する層(Y)は反応生成物(R)を含み、前記反応生成物(R)は、少なくとも金属酸化物(A)とリン化合物(B)とが反応してなる反応生成物である。このような反応生成物は金属酸化物(A)とリン化合物(B)とを混合し反応させることにより形成することができる。金属酸化物(A)との混合に供される(混合される直前の)リン化合物(B)は、リン化合物(B)そのものであってもよいしリン化合物(B)を含む組成物の形態であってもよく、リン化合物(B)を含む組成物の形態が好ましい。好ましい一例では、リン化合物(B)を溶媒に溶解することによって得られる溶液の形態で、リン化合物(B)が金属酸化物(A)と混合される。その際の溶媒は任意のものが使用できるが、水または水を含む混合溶媒が好ましい溶媒として挙げられる。
金属酸化物(A)との混合に供されるリン化合物(B)またはリン化合物(B)を含む組成物では金属原子の含有率が低いことが、ガスバリア性により優れる多層構造体が得られることから好ましい。金属酸化物(A)との混合に供されるリン化合物(B)またはリン化合物(B)を含む組成物に含まれる金属原子の含有率は、当該リン化合物(B)またはリン化合物(B)を含む組成物に含まれる全てのリン原子のモル数を基準(100モル%)として、100モル%以下であることが好ましく、30モル%以下であることがより好ましく、5モル%以下であることがさらに好ましく、1モル%以下であることが特に好ましく、0モル%であってもよい。
[反応生成物(R)]
反応生成物(R)には、金属酸化物(A)およびリン化合物(B)のみが反応することによって生成される反応生成物が含まれる。また、反応生成物(R)には、金属酸化物(A)とリン化合物(B)とさらに他の化合物とが反応することによって生成される反応生成物も含まれる。反応生成物(R)は、後述する製造方法で説明する方法によって形成できる。
[金属酸化物(A)とリン化合物(BL)との比率]
層(Y)において、金属酸化物(A)を構成する金属原子のモル数NMとリン化合物(BL)に由来するリン原子のモル数NPとが、1.0≦(モル数NM)/(モル数NP)≦3.6の関係を満たす必要があり、1.1≦(モル数NM)/(モル数NP)≦3.0の関係を満たすことが好ましい。(モル数NM)/(モル数NP)の値が3.6を超えると、金属酸化物(A)がリン化合物(BL)に対して過剰となり、金属酸化物(A)の粒子同士の結合が不充分となり、また、金属酸化物(A)の表面に存在する水酸基の量が多くなるため、ガスバリア性とその安定性が低下する傾向がある。一方、(モル数NM)/(モル数NP)の値が1.0未満であると、リン化合物(BL)が金属酸化物(A)に対して過剰となり、金属酸化物(A)との結合に関与しない余剰なリン化合物(BL)が多くなり、また、リン化合物(BL)由来の水酸基の量が多くなりやすく、やはりガスバリア性とその安定性が低下する傾向がある。
なお、上記比は、層(Y)を形成するためのコーティング液における、金属酸化物(A)の量とリン化合物(BL)の量との比によって調整できる。層(Y)におけるモル数NMとモル数NPとの比は、通常、コーティング液における比であって金属酸化物(A)を構成する金属原子のモル数とリン化合物(BL)を構成するリン原子のモル数との比と同じである。
[リン化合物(BL)とリン化合物(BH)との比率]
層(Y)において、リン化合物(BL)の質量WLと、リン化合物(BH)の質量WHとが、1/99≦(質量WH)/(質量WL)≦35/65の関係を満たすことが必要であり、3/97≦(質量WH)/(質量WL)≦25/75の関係を満たすことがより好ましく、5/95≦(質量WH)/(質量WL)≦20/80の関係を満たすことがさらに好ましい。(質量WH)/(質量WL)の値が35/65を超えると、ガスバリア性が低下する傾向が顕著となる。また、(質量WH)/(質量WL)の値が1/99未満であると、リン化合物(BH)を使用することによる耐屈曲性の改善効果が不足する場合がある。なお、上記比は、層(Y)を形成するためのコーティング液における、リン化合物(BL)とリン化合物(BH)の量との比によって調整できる。
[重合体(C)]
本発明の多層構造体が有する層(Y)は、特定の重合体(C)をさらに含んでもよい。重合体(C)は、水酸基、カルボキシル基、カルボン酸無水物基、およびカルボキシル基の塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基(f)を有する重合体である。多層構造体が有する層(Y)において重合体(C)は、それが有する官能基(f)によって金属酸化物(A)の粒子およびリン化合物(B)に由来するリン原子の一方または両方と直接的にまたは間接的に結合していてもよい。また多層構造体が有する層(Y)において反応生成物(R)は、重合体(C)が金属酸化物(A)やリン化合物(B)と反応するなどして生じる重合体(C)部分を有していてもよい。なお、本明細書において、リン化合物(B)としての要件を満たす重合体であって官能基(f)を含む重合体は、重合体(C)には含めずにリン化合物(B)として扱う。
重合体(C)としては、官能基(f)を有する構成単位を含む重合体を用いることができる。このような構成単位の具体例としては、ビニルアルコール単位、アクリル酸単位、メタクリル酸単位、マレイン酸単位、イタコン酸単位、無水マレイン酸単位、無水フタル酸単位などの、官能基(f)を1個以上有する構成単位が挙げられる。重合体(C)は、官能基(f)を有する構成単位を1種類のみ含んでいてもよいし、官能基(f)を有する構成単位を2種類以上含んでいてもよい。
より優れたガスバリア性およびその安定性を有する多層構造体を得るために、重合体(C)の全構成単位に占める、官能基(f)を有する構成単位の割合は、10モル%以上であることが好ましく、20モル%以上であることがより好ましく、40モル%以上であることがさらに好ましく、70モル%以上であることが特に好ましく、100モル%であってもよい。
官能基(f)を有する構成単位とそれ以外の他の構成単位とによって重合体(C)が構成されている場合、当該他の構成単位の種類は特に限定されない。当該他の構成単位の例には、アクリル酸メチル単位、メタクリル酸メチル単位、アクリル酸エチル単位、メタクリル酸エチル単位、アクリル酸ブチル単位、およびメタクリル酸ブチル単位等の(メタ)アクリル酸エステルから誘導される構成単位;ギ酸ビニル単位および酢酸ビニル単位等のビニルエステルから誘導される構成単位;スチレン単位およびp−スチレンスルホン酸単位等の芳香族ビニルから誘導される構成単位;エチレン単位、プロピレン単位、およびイソブチレン単位等のオレフィンから誘導される構成単位などが含まれる。重合体(C)が2種類以上の構成単位を含む場合、当該重合体(C)は、交互共重合体、ランダム共重合体、ブロック共重合体、およびテーパー型共重合体のいずれであってもよい。
水酸基を有する重合体(C)の具体例としては、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニルの部分けん化物、ポリエチレングリコール、ポリヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、でんぷん等の多糖類、多糖類から誘導される多糖類誘導体などが挙げられる。カルボキシル基、カルボン酸無水物基またはカルボキシル基の塩を有する重合体(C)の具体例としては、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリ(アクリル酸/メタクリル酸)およびそれらの塩などを挙げることができる。また、官能基(f)を含有しない構成単位を含む重合体(C)の具体例としては、エチレン−ビニルアルコール共重合体、エチレン−無水マレイン酸共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、イソブチレン−無水マレイン酸交互共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体のけん化物などが挙げられる。より優れたガスバリア性およびその安定性を有する多層構造体を得るために、重合体(C)は、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、多糖類、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸の塩、ポリメタクリル酸、およびポリメタクリル酸の塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の重合体であることが好ましい。
重合体(C)の分子量に特に制限はない。より優れたガスバリア性および力学的物性(落下衝撃強さ等)を有する多層構造体を得るために、重合体(C)の数平均分子量は、5,000以上であることが好ましく、8,000以上であることがより好ましく、10,000以上であることがさらに好ましい。重合体(C)の数平均分子量の上限は特に限定されず、例えば、1,500,000以下である。
ガスバリア性をより向上させるために、層(Y)における重合体(C)の含有率は、層(Y)の質量を基準(100質量%)として、50質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることがさらに好ましく、20質量%以下であってもよい。重合体(C)は、層(Y)中の他の成分と反応していてもよいし、反応していなくてもよい。なお、本明細書では、重合体(C)が他の成分と反応している場合も、重合体(C)と表現する。たとえば、重合体(C)が、金属酸化物(A)、および/または、リン化合物(B)に由来するリン原子と結合している場合も、重合体(C)と表現する。この場合、上記の重合体(C)の含有率は、金属酸化物(A)および/またはリン原子と結合する前の重合体(C)の質量を層(Y)の質量で除して算出する。
多層構造体が有する層(Y)は、少なくともアルミニウムを含む金属酸化物(A)とリン化合物(B)とが反応してなる反応生成物(R)(ただし、重合体(C)部分を有するものを含む)のみから構成されていてもよいし、当該反応生成物(R)と、反応していない重合体(C)のみから構成されていてもよいが、その他の成分をさらに含んでいてもよい。
上記の他の成分としては、例えば、炭酸塩、塩酸塩、硝酸塩、炭酸水素塩、硫酸塩、硫酸水素塩、ホウ酸塩、アルミン酸塩等の無機酸金属塩;シュウ酸塩、酢酸塩、酒石酸塩、ステアリン酸塩等の有機酸金属塩;アセチルアセトナート金属錯体(アルミニウムアセチルアセトナート等)、シクロペンタジエニル金属錯体(チタノセン等)、シアノ金属錯体等の金属錯体;層状粘土化合物;架橋剤;重合体(C)以外の高分子化合物;可塑剤;酸化防止剤;紫外線吸収剤;難燃剤などが挙げられる。
多層構造体中の層(Y)における上記の他の成分の含有率は、50質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましく、5質量%以下であることが特に好ましく、0質量%(他の成分を含まない)であってもよい。
[層(Y)の厚さ]
本発明の多層構造体が有する層(Y)の厚さ(多層構造体が2層以上の層(Y)を有する場合には各層(Y)の厚さの合計)は、4.0μm以下であることが好ましく、2.0μm以下であることがより好ましく、1.0μm以下であることがさらに好ましく、0.9μm以下であってもよい。層(Y)を薄くすることによって、印刷、ラミネート等の加工時における多層構造体の寸法変化を低く抑えることができ、さらに多層構造体の柔軟性が増し、その力学的特性を、基材自体の力学的特性に近づけることができる。
本発明の多層構造体では、層(Y)の厚さの合計が1.0μm以下(例えば0.5μm以下)の場合でも、20℃、85%RH(RH:相対湿度)の条件下における酸素透過度を1ml/(m2・day・atm)以下とすることが可能である。また、層(Y)の厚さ(多層構造体が2層以上の層(Y)を有する場合には各層(Y)の厚さの合計)は、0.1μm以上(例えば0.2μm以上)であることが好ましい。なお、層(Y)1層当たりの厚さは、本発明の多層構造体のガスバリア性がより良好になる観点から、0.05μm以上(例えば0.15μm以上)であることが好ましい。層(Y)の厚さは、層(Y)の形成に用いられる後述するコーティング液(U)の濃度や、その塗布方法によって制御することができる。
[基材(X)]
本発明の多層構造体が有する基材(X)の材質に特に制限はなく、様々な材質からなる基材を用いることができる。基材(X)の材質としては、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等の樹脂;布帛、紙類等の繊維集合体;木材;ガラス;金属;金属酸化物などが挙げられる。なお、基材は複数の材質からなる複合構成または多層構成のものであってもよい。
基材(X)の形態に特に制限はなく、フィルムやシート等の層状の基材であってもよいし、球、多面体およびパイプ等の立体形状を有する各種成形体であってもよい。これらの中でも、層状の基材は、食品等を包装するための包装材料や太陽電池部材等に多層構造体(積層構造体)を用いる場合に、特に有用である。
層状の基材としては、例えば、熱可塑性樹脂フィルム層、熱硬化性樹脂フィルム層、繊維重合体シート(布帛、紙等)層、木材シート層、ガラス層、無機蒸着層および金属箔層からなる群より選ばれる少なくとも1種の層を含む単層または複層の基材が挙げられる。これらの中でも、熱可塑性樹脂フィルム層、紙層および無機蒸着層からなる群より選ばれる少なくとも1種の層を含む基材が好ましく、その場合の基材は単層であってもよいし、複層であってもよい。そのような基材を用いた多層構造体(積層構造体)は、包装材料への加工性や包装材料として使用する際に求められる諸特性に優れる。
熱可塑性樹脂フィルム層を形成する熱可塑性樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート、ポリブチレンテレフタレートやこれらの共重合体等のポリエステル系樹脂;ナイロン−6、ナイロン−66、ナイロン−12等のポリアミド系樹脂;ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体などの水酸基含有ポリマー;ポリスチレン;ポリ(メタ)アクリル酸エステル;ポリアクリロニトリル;ポリ酢酸ビニル;ポリカーボネート;ポリアリレート;再生セルロース;ポリイミド;ポリエーテルイミド;ポリスルフォン;ポリエーテルスルフォン;ポリエーテルエーテルケトン;アイオノマー樹脂などの熱可塑性樹脂を成形加工することによって得られるフィルムを挙げることができる。食品等を包装するための包装材料に用いられる積層体の基材としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン−6、またはナイロン−66からなるフィルムが好ましい。
熱可塑性樹脂フィルムは、延伸フィルムであってもよいし無延伸フィルムであってもよい。得られる多層構造体の加工適性(印刷やラミネートなど)が優れることから、延伸フィルム、特に二軸延伸フィルムが好ましい。二軸延伸フィルムは、同時二軸延伸法、逐次二軸延伸法、およびチューブラ延伸法のいずれかの方法で製造された二軸延伸フィルムであってもよい。
紙層に用いられる紙としては、例えば、クラフト紙、上質紙、模造紙、グラシン紙、パーチメント紙、合成紙、白板紙、マニラボール、ミルクカートン原紙、カップ原紙、アイボリー紙などが挙げられる。紙層を含む基材を用いることによって、紙容器用の多層構造体を得ることができる。
無機蒸着層は、酸素ガスや水蒸気に対するバリア性を有するものであることが好ましい。無機蒸着層は、アルミニウムなどの金属蒸着層のように遮光性を有するものや、透明性を有するものを適宜使用することができる。無機蒸着層は、基体の上に無機物を蒸着することにより形成することができ、基体の上に無機蒸着層が形成された積層体全体を、多層構成の基材(X)として用いることができる。透明性を有する無機蒸着層としては、例えば、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸窒化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化錫、またはそれらの混合物等の無機酸化物から形成される層;窒化ケイ素、炭窒化ケイ素等の無機窒化物から形成される層;炭化ケイ素等の無機炭化物から形成される層などが挙げられる。これらの中でも、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、窒化ケイ素から形成される層は、酸素ガスや水蒸気に対するバリア性が優れる観点から好ましい。
無機蒸着層の好ましい厚さは、無機蒸着層を構成する成分の種類によって異なるが、通常、2〜500nmの範囲内である。この範囲で、多層構造体のバリア性や機械的物性が良好になる厚さを選択すればよい。無機蒸着層の厚さが2nm未満であると、酸素ガスや水蒸気に対する無機蒸着層のバリア性発現の再現性が低下する傾向があり、また、無機蒸着層が充分なバリア性を発現しない場合もある。また、無機蒸着層の厚さが500nmを超えると、多層構造体を引っ張ったり屈曲させたりした場合に無機蒸着層のバリア性が低下しやすくなる傾向がある。無機蒸着層の厚さは、より好ましくは5〜200nmの範囲にあり、さらに好ましくは10〜100nmの範囲にある。
無機蒸着層の形成方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、化学気相成長法(CVD)などを挙げることができる。これらの中でも、生産性の観点から、真空蒸着法が好ましい。真空蒸着を行う際の加熱方式としては、電子線加熱方式、抵抗加熱方式および誘導加熱方式のいずれかが好ましい。また無機蒸着層が形成される基体との密着性および無機蒸着層の緻密性を向上させるために、プラズマアシスト法やイオンビームアシスト法を採用して蒸着してもよい。また、無機蒸着層の透明性を上げるために、蒸着の際に、酸素ガスなどを吹き込んで反応を生じさせる反応蒸着法を採用してもよい。
基材(X)が層状である場合にその厚さは、得られる多層構造体の機械的強度や加工性が良好になる観点から、1〜1000μmの範囲にあることが好ましく、5〜500μmの範囲にあることがより好ましく、9〜200μmの範囲にあることがさらに好ましい。
[接着層(H)]
本発明の多層構造体において、層(Y)は、基材(X)と直接接触するように積層されていてもよいが、基材(X)と層(Y)との間に配置された接着層(H)を介して層(Y)が基材(X)に積層されていてもよい。この構成によれば、基材(X)と層(Y)との接着性を高めることができる場合がある。接着層(H)は、接着性樹脂で形成してもよい。接着性樹脂からなる接着層(H)は、基材(X)の表面を公知のアンカーコーティング剤で処理するか、基材(X)の表面に公知の接着剤を塗布することによって形成できる。当該接着剤としては、ポリイソシアネート成分とポリオール成分とを混合し反応させる二液反応型ポリウレタン系接着剤が好ましい。また、アンカーコーティング剤や接着剤に、公知のシランカップリング剤などの少量の添加剤を加えることによって、さらに接着性を高めることができる場合がある。シランカップリング剤の好適な例としては、イソシアネート基、エポキシ基、アミノ基、ウレイド基、メルカプト基などの反応性基を有するシランカップリング剤を挙げることができる。基材(X)と層(Y)とを接着層(H)を介して強く接着することによって、本発明の多層構造体に対して印刷やラミネートなどの加工を施す際に、ガスバリア性や外観の悪化をより効果的に抑制することができる。
接着層(H)を厚くすることによって、本発明の多層構造体の強度を高めることができる。しかし、接着層(H)を厚くしすぎると、外観が悪化する傾向がある。接着層(H)の厚さは0.03〜0.18μmの範囲にあることが好ましい。この構成によれば、本発明の多層構造体に対して印刷やラミネートなどの加工を施す際に、ガスバリア性や外観の悪化をより効果的に抑制することができ、さらに、本発明の多層構造体を用いた包装材料の落下強度を高めることができる。接着層(H)の厚さは、0.04〜0.14μmの範囲にあることがより好ましく、0.05〜0.10μmの範囲にあることがさらに好ましい。
[多層構造体の構成]
本発明の多層構造体(積層体)は、基材(X)、および層(Y)のみによって構成されてもよいし、基材(X)、層(Y)、および接着層(H)のみによって構成されていてもよい。本発明の多層構造体は、複数の層(Y)を含んでもよい。また、本発明の多層構造体は、基材(X)、層(Y)、および接着層(H)以外の他の部材(例えば熱可塑性樹脂フィルム層、紙層、無機蒸着層等の他の層など)をさらに含んでもよい。そのような他の部材(他の層など)を有する本発明の多層構造体は、基材(X)に直接または接着層(H)を介して層(Y)を積層させた後に、さらに当該他の部材(他の層など)を直接または接着層を介して接着または形成することによって製造できる。このような他の部材(他の層など)を多層構造体に含ませることによって、多層構造体の特性を向上させたり、新たな特性を付与したりすることができる。例えば、本発明の多層構造体にヒートシール性を付与したり、バリア性や力学的物性をさらに向上させたりすることができる。
特に、本発明の多層構造体の最表面層をポリオレフィン層とすることによって、多層構造体にヒートシール性を付与したり、多層構造体の力学的特性を向上させたりすることができる。ヒートシール性や力学的特性の向上などの観点から、ポリオレフィンはポリプロピレンまたはポリエチレンであることが好ましい。また、多層構造体の力学的特性を向上させるために、他の層として、ポリエステルからなるフィルム、ポリアミドからなるフィルム、および水酸基含有ポリマーからなるフィルムからなる群より選ばれる少なくとも1つのフィルムを積層することが好ましい。力学的特性の向上の観点から、ポリエステルとしてはポリエチレンテレフタレート(PET)が好ましく、ポリアミドとしてはナイロン−6が好ましく、水酸基含有ポリマーとしてはエチレン−ビニルアルコール共重合体が好ましい。なお各層の間には必要に応じて、アンカーコート層や接着剤からなる層を設けてもよい。
本発明の複合構造体は、少なくとも1層の層(Y)と、少なくとも1層の他の層(基材を含む)とを積層することによって形成できる。他の層の例には、ポリエステル層、ポリアミド層、ポリオレフィン層(顔料含有ポリオレフィン層、耐熱性ポリオレフィン層、または2軸延伸耐熱性ポリオレフィン層であってもよい)、水酸基含有ポリマー層(たとえばエチレン−ビニルアルコール共重合体層)、紙層、無機蒸着フィルム層、熱可塑性エラストマー層、および接着層などが含まれる。複合構造体が基材および層(Y)を含む限り、これらの他の層および層(Y)の数および積層順に特に制限はない。なお、これらの他の層は、その材料からなる成形体(立体形状を有する成形体)に置き換えてもよい。
本発明の複合構造体の構成の具体例を、以下に示す。なお、以下の具体例において、各層は、その材料からなる成形体(立体形状を有する成形体)に置き換えてもよい。また、複合構造体は接着層(H)等の接着層を有していてもよいが、以下の具体例において、当該接着層の記載は省略している。
(1)層(Y)/ポリエステル層、
(2)層(Y)/ポリエステル層/層(Y)、
(3)層(Y)/ポリアミド層、
(4)層(Y)/ポリアミド層/層(Y)、
(5)層(Y)/ポリオレフィン層、
(6)層(Y)/ポリオレフィン層/層(Y)、
(7)層(Y)/水酸基含有ポリマー層、
(8)層(Y)/水酸基含有ポリマー層/層(Y)、
(9)層(Y)/紙層、
(10)層(Y)/紙層/層(Y)、
(11)層(Y)/無機蒸着層/ポリエステル層、
(12)層(Y)/無機蒸着層/ポリアミド層、
(13)層(Y)/無機蒸着層/ポリオレフィン層、
(14)層(Y)/無機蒸着層/水酸基含有ポリマー層、
(15)層(Y)/ポリエステル層/ポリアミド層/ポリオレフィン層、
(16)層(Y)/ポリエステル層/層(Y)/ポリアミド層/ポリオレフィン層、
(17)ポリエステル層/層(Y)/ポリアミド層/ポリオレフィン層、
(18)層(Y)/ポリアミド層/ポリエステル層/ポリオレフィン層、
(19)層(Y)/ポリアミド層/層(Y)/ポリエステル層/ポリオレフィン層、
(20)ポリアミド層/層(Y)/ポリエステル層/ポリオレフィン層、
(21)層(Y)/ポリオレフィン層/ポリアミド層/ポリオレフィン層、
(22)層(Y)/ポリオレフィン層/層(Y)/ポリアミド層/ポリオレフィン層、
(23)ポリオレフィン層/層(Y)/ポリアミド層/ポリオレフィン層、
(24)層(Y)/ポリオレフィン層/ポリオレフィン層、
(25)層(Y)/ポリオレフィン層/層(Y)/ポリオレフィン層、
(26)ポリオレフィン層/層(Y)/ポリオレフィン層、
(27)層(Y)/ポリエステル層/ポリオレフィン層、
(28)層(Y)/ポリエステル層/層(Y)/ポリオレフィン層、
(29)ポリエステル層/層(Y)/ポリオレフィン層、
(30)層(Y)/ポリアミド層/ポリオレフィン層、
(31)層(Y)/ポリアミド層/層(Y)/ポリオレフィン層、
(32)ポリアミド層/層(Y)/ポリオレフィン層、
(33)層(Y)/ポリエステル層/紙層、
(34)層(Y)/ポリアミド層/紙層、
(35)層(Y)/ポリオレフィン層/紙層、
(36)ポリオレフィン層/紙層/ポリオレフィン層/層(Y)/ポリエステル層/ポリオレフィン層、
(37)ポリオレフィン層/紙層/ポリオレフィン層/層(Y)/ポリアミド層/ポリオレフィン層、
(38)ポリオレフィン層/紙層/ポリオレフィン層/層(Y)/ポリオレフィン層、
(39)紙層/ポリオレフィン層/層(Y)/ポリエステル層/ポリオレフィン層、
(40)ポリオレフィン層/紙層/層(Y)/ポリオレフィン層、
(41)紙層/層(Y)/ポリエステル層/ポリオレフィン層、
(42)紙層/層(Y)/ポリオレフィン層、
(43)層(Y)/紙層/ポリオレフィン層、
(44)層(Y)/ポリエステル層/紙層/ポリオレフィン層、
(45)ポリオレフィン層/紙層/ポリオレフィン層/層(Y)/ポリオレフィン層/水酸基含有ポリマー層、
(46)ポリオレフィン層/紙層/ポリオレフィン層/層(Y)/ポリオレフィン層/ポリアミド層、
(47)ポリオレフィン層/紙層/ポリオレフィン層/層(Y)/ポリオレフィン層/ポリエステル層。
本発明によれば、以下の性能の一方または両方を満たす多層構造体を得ることが可能である。好ましい一例では、層(Y)の厚さ(多層構造体が2層以上の層(Y)を有する場合には各層(Y)の厚さの合計)が1.0μm以下(たとえば0.5μm以上で1.0μm以下)である多層構造体が、以下の性能を満たす。なお、酸素透過度の測定条件の詳細については、実施例で説明する。
(性能1)20℃、85%RHの条件下における酸素透過度が1ml/(m2・day・atm)以下である。
(性能2)23℃、50%RHの条件下で、5%延伸した状態で5分間保持した後の20℃、85%RHの条件下における酸素透過度が、2ml/(m2・day・atm)以下である。
[用途]
本発明の多層構造体は、ガスバリア性に優れ、変形や衝撃などの物理的ストレスを受けた際にも、ガスバリア性を高いレベルで維持することができる。また、本発明によれば、外観に優れる多層構造体を得ることができる。そのため、本発明の多層構造体は、様々な用途に適用できる。たとえば、本発明の製品は、本発明の多層構造体を含む製品であって、当該多層構造体が、包装材料、太陽電池部材またはディスプレイ部材に使用されている製品であってもよい。また、本発明の多層構造体は、ガスバリア性に加えて、水蒸気に対するバリア性を有することもでき、その場合には、変形や衝撃などの物理的ストレスを受けた際にも、その水蒸気バリア性を高いレベルで維持することができる。特に、太陽電池部材やディスプレイ部材などの製品に使用する場合には、この特性が製品の耐久性に大きく寄与する場合がある。
本発明の多層構造体は、包装材料として特に好ましく用いられる。包装材料以外の用途の例には、LCD用基板フィルム、有機EL用基板フィルム、電子ペーパー用基板フィルム、電子デバイス用封止フィルム、PDP用フィルム、LED用フィルム、ICタグ用フィルム、太陽電池用バックシート、太陽電池用保護フィルムなどの電子デバイス関連フィルム、光通信用部材、電子機器用フレキシブルフィルム、燃料電池用隔膜、燃料電池用封止フィルム、各種機能性フィルムの基板フィルムが含まれる。
この包装材料は、様々な用途に適用することができ、酸素に対するバリア性が必要となる用途や、包装材の内部が各種の機能性ガスによって置換される用途に好ましく用いられる。例えば、本発明の包装材料は、食品用包装材料として好ましく用いられる。食品用の包装材料として用いる場合には、スタンドアップパウチなどの、折り目を有する形態に特に好適に用いられる。また、本発明の包装材料は、食品用包装材料以外にも、農薬、医薬等の薬品;医療器材;機械部品、精密材料等の産業資材;衣料などを包装するための包装材料として好ましく用いることができる。
また、本発明の包装材料は種々の成形品に加工して使用することができる。このような成形品は、縦製袋充填シール袋、真空包装袋、スパウト付パウチ、ラミネートチューブ容器、輸液バッグ、容器用蓋材、紙容器または真空断熱体であってもよい。
上記成形品(たとえば縦製袋充填シール袋など)では、ヒートシールが行われる。ヒートシールが行われる場合には、通常、成形品の内側となる側、あるいは成形品の内側となる側および外側となる側の両方に、ヒートシール可能な層を配置することが必要である。ヒートシール可能な層が、成形品(袋)の内側となる側にのみある場合は、通常、胴体部のシールは合掌貼りシールとなる。ヒートシール可能な層が、成形品の内側となる側および外側となる側の両方にある場合は、通常、胴体部のシールは封筒貼りシールとなる。ヒートシール可能な層としては、ポリオレフィン層(以下、「PO層」と記載することがある)が好ましい。
本発明の多層構造体を含む成形品は、たとえば、液体、粘稠体、粉体、固形バラ物、または、これらを組み合わせた食品や飲料物などを包装する縦製袋充填シール袋であってもよい。本発明の多層構造体を含む縦製袋充填シール袋は、ガスバリア性に優れ、変形や衝撃などの物理的ストレスを受けた際にもそのガスバリア性が維持されるため、該縦製袋充填シール袋によれば、内容物の品質劣化を長期間にわたって抑制できる。
以下では、基材(X)と基材(X)に積層された層(Y)とを含む多層膜を、バリア性多層膜という場合がある。このバリア性多層膜も、本発明の多層構造体の1種である。バリア性多層膜には、様々な特性(たとえば熱シール性)を付与するための層が積層されていてもよい。たとえば、本発明の多層構造体は、バリア性多層膜/接着層/ポリオレフィン層、または、ポリオレフィン層/接着層/バリア性多層膜/接着層/ポリオレフィン層、といった構成を有してもよい。すなわち、本発明の多層構造体は、一方の最表面に配置されたポリオレフィン層を含んでもよい。また、本発明の多層構造体は、一方の最表面に配置された第1のポリオレフィン層と、他方の最表面に配置された第2のポリオレフィン層とを含んでもよい。第1のポリオレフィン層と第2のポリオレフィン層とは同じでもよいし、異なってもよい。
縦製袋充填シール袋は、少なくとも1層のバリア性多層膜と、少なくとも1層の他の層とを積層することによって形成してもよい。他の層の例には、ポリエステル層、ポリアミド層、ポリオレフィン層、紙層、無機蒸着フィルム層、EVOH層、および接着層などが含まれる。これらの層の数および積層順には特に制限はないが、ヒートシールが行われる場合にはそのための構成が採用される。
縦製袋充填シール袋として特に好ましい多層構造体の構成としては、バリア性多層膜/ポリアミド層/PO層、バリア性多層膜/PO層、PO層/バリア性多層膜/PO層という構成が挙げられる。これらの構成において、バリア性多層膜の基材として、たとえばポリアミドフィルムを用いることができる。該縦製袋充填シール袋は、変形や衝撃などの物理的ストレスを受けた際にもそのガスバリア性が維持される。上記縦製袋充填シール袋を構成する各層の層と層の間には、接着層を設けてもよい。また、本発明の多層構造体の層(Y)が基材の片面にある場合、層(Y)は、該縦製袋充填シール袋の外側および内側のいずれの方向を向いていてもよい。
本発明の多層構造体を含む成形品は、固形分を含む食品などを包装する真空包装袋であってもよい。該真空包装袋は、ガスバリア性に優れ、変形や衝撃などの物理的ストレスを受けた際にもそのガスバリア性が維持される。そのため、該真空包装袋は、長期間にわたってガスバリア性の低下はほとんどない。該真空包装袋は柔軟であり、固形分を含む食品に容易に密着するため、真空包装時の脱気が容易である。そのため、該真空包装袋は、真空包装体内の残存酸素を少なくでき、食品の長期保存性に優れる。また、真空包装後に、角張ったり、折り曲がったりした部分が生じにくいため、ピンホールやクラックなどの欠陥が発生しにくい。また、該真空包装袋によれば、真空包装袋同士や、真空包装袋とダンボールとの擦れによってピンホールが発生することを抑制できる。また、該真空包装袋は、ガスバリア性に優れ、変形や衝撃などの物理的ストレスを受けた際にもそのガスバリア性が維持されるため、内容物(たとえば食品)の品質劣化を長期間にわたって抑制できる。
真空包装袋は、少なくとも1層のバリア性多層膜と、少なくとも1層の他の層とを積層することによって形成してもよい。他の層の例には、ポリエステル層、ポリアミド層、ポリオレフィン層、無機蒸着フィルム層、EVOH層、および接着層などが含まれる。これらの層の数および積層順には特に制限はないが、ヒートシールが行われる場合にはそのための構成が採用される。
真空包装袋として特に好ましい多層構造体の構成としては、バリア性多層膜/ポリアミド層/PO層、および、ポリアミド層/バリア性多層膜/PO層、という構成が挙げられる。これらの構成において、バリア性多層膜の基材として、たとえばポリアミドフィルムを用いることができる。このような多層構造体を用いた真空包装袋は、真空包装後や、真空包装・加熱殺菌後のガスバリア性に特に優れる。上記各層の層間には接着層を設けてもよい。また、層(Y)が基材の片面のみに積層されている場合、層(Y)は、基材に対して真空包装袋の外側にあってもよいし内側にあってもよい。
本発明の多層構造体を含む成形品は、様々な液状物質を包装するスパウト付パウチであってもよい。該スパウト付パウチは、液体飲料(たとえば清涼飲料)、ゼリー飲料、ヨーグルト、フルーツソース、調味料、機能性水、流動食等の容器として使用できる。また、該スパウト付パウチは、アミノ酸輸液剤、電解質輸液剤、糖質輸液剤、輸液用脂肪乳剤などの液状の医薬品の容器としても好ましく使用できる。該スパウト付パウチは、ガスバリア性に優れ、変形や衝撃などの物理的ストレスを受けた際にもそのガスバリア性が維持される。そのため該スパウト付パウチを用いることによって、輸送後、長期保存後においても、内容物の変質を防ぐことが可能である。また、該スパウト付パウチは透明性が良好であるため、内容物の確認や、劣化による内容物の変質の確認が容易である。
スパウト付きパウチは、少なくとも1層のバリア性多層膜と、少なくとも1層の他の層とを積層することによって形成してもよい。他の層の例には、ポリエステル層、ポリアミド層、ポリオレフィン層、無機蒸着フィルム層、EVOH層、および接着層などが含まれる。これらの層の数および積層順には特に制限はないが、ヒートシールが行われる場合にはそのための構成が採用される。
スパウト付パウチとして特に好ましい多層構造体の構成としては、バリア性多層膜/ポリアミド層/PO層、および、ポリアミド層/バリア性多層膜/PO層、という構成が挙げられる。上記各層の層間には接着層を設けてもよい。また、層(Y)が基材の片面のみに積層されている場合、層(Y)は、基材に対してスパウト付パウチの外側にあってもよいし内側にあってもよい。
本発明の多層構造体を含む成形品は、化粧品、薬品、医薬品、食品、歯磨などを包装するラミネートチューブ容器であってもよい。該ラミネートチューブ容器は、ガスバリア性に優れ、変形や衝撃などの物理的ストレスを受けた際にもそのガスバリア性が維持される。また、該ラミネートチューブ容器は透明性が良好であるため、内容物の確認や、劣化による内容物の変質の確認が容易である。
ラミネートチューブ容器は、少なくとも1層のバリア性多層膜と、少なくとも1層の他の層とを積層することによって形成してもよい。他の層の例には、ポリアミド層、ポリオレフィン層(顔料含有ポリオレフィン層であってもよい)、無機蒸着フィルム層、EVOH層、および接着層などが含まれる。これらの層の数および積層順には特に制限はないが、ヒートシールが行われる場合にはそのための構成が採用される。
ラミネートチューブ容器として特に好ましい構成としては、PO層/バリア性多層膜/PO層、および、PO層/顔料含有PO層/PO層/バリア性多層膜/PO層、という構成が挙げられる。上記各層の層間には、接着層を配置してもよい。また、層(Y)が基材の片面のみに積層されている場合、層(Y)は、基材に対してスラミネートチューブ容器の外側にあってもよいし内側にあってもよい。
本発明の多層構造体を含む成形品は、輸液バッグであってもよく、たとえば、アミノ酸輸液剤、電解質輸液剤、糖質輸液剤、輸液用脂肪乳剤などの液状の医薬品が充填される輸液バッグであってもよい。該輸液バッグは、ガスバリア性に優れ、変形や衝撃などの物理的ストレスを受けた際にもそのガスバリア性が維持される。そのため、該輸液バッグによれば、加熱殺菌処理前、加熱殺菌処理中、加熱殺菌処理後、輸送後、保存後においても、充填されている液状医薬品が変質することを防止できる。
輸液バッグは、少なくとも1層のバリア性多層膜と、少なくとも1層の他の層とを積層することによって形成してもよい。他の層の例には、ポリアミド層、ポリオレフィン層、無機蒸着フィルム層、EVOH層、熱可塑性エラストマー層、および接着層などが含まれる。これらの層の数および積層順には特に制限はないが、ヒートシールが行われる場合にはそのための構成が採用される。
輸液バッグとして特に好ましい多層構造体の構成としては、バリア性多層膜/ポリアミド層/PO層、および、ポリアミド層/バリア性多層膜/PO層、という構成が挙げられる。上記各層の層間には、接着層を配置してもよい。また、層(Y)が基材の一方の表面のみに積層されている場合、層(Y)は、基材に対して輸液バッグの外側にあってもよいし内側にあってもよい。
本発明の多層構造体を含む成形品は、畜肉加工品、野菜加工品、水産加工品、フルーツなどの食品が充填される容器の蓋材であってもよい。該容器用蓋材は、ガスバリア性に優れ、変形や衝撃などの物理的ストレスを受けた際にもそのガスバリア性が維持されるため、内容物である食品の品質劣化を長期間にわたって抑制できる。そして、該容器用蓋材は、食料品などの内容物の保存用に使用される容器の蓋材として、好ましく用いられる。
容器用蓋材は、少なくとも1層のバリア性多層膜と、少なくとも1層の他の層とを積層することによって形成してもよい。他の層の例には、ポリアミド層、ポリオレフィン層、無機蒸着フィルム層、EVOH層、ポリエステル層、紙層、および接着層などが含まれる。これらの層の数および積層順には特に制限はないが、ヒートシールが行われる場合にはそのための構成が採用される。
容器用蓋材として特に好ましい多層構造体の構成としては、バリア性多層膜/ポリアミド層/PO層、および、バリア性多層膜/PO層、という構成が挙げられるである。これらの構成において、バリア性多層膜の基材として、たとえばポリアミドフィルムを用いることができる。上記各層の層間には、接着層を設けてもよい。また、多層構造体の層(Y)が基材の片面にある場合、層(Y)は、基材よりも内側(容器側)にあってもよいし、基材よりも外側にあってもよい。
本発明の多層構造体を含む成形品は、紙容器であってもよい。該紙容器は、折り曲げ加工を行ってもガスバリア性の低下が少ない。また、該紙容器は層(Y)の透明性が良好であるため、窓付き容器に好ましく用いられる。さらに、該紙容器は、電子レンジによる加熱にも適している。
紙容器は、少なくとも1層のバリア性多層膜と、少なくとも1層の他の層とを積層することによって形成してもよい。他の層の例には、ポリエステル層、ポリアミド層、ポリオレフィン層(耐熱性ポリオレフィン層または2軸延伸耐熱性ポリオレフィン層であってもよい)、無機蒸着フィルム層、水酸基含有ポリマー層、紙層、および接着層などが含まれる。これらの層の数および積層順には特に制限はないが、ヒートシールが行われる場合にはそのための構成が採用される。
紙容器として特に好ましい多層構造体の構成としては、耐熱性ポリオレフィン層/紙層/耐熱性ポリオレフィン層/バリア性多層膜/耐熱性ポリオレフィン層、という構成が挙げられる。上記各層の層間には、接着層を配置してもよい。上記の例において、耐熱性ポリオレフィン層は、たとえば、2軸延伸耐熱性ポリオレフィンフィルムまたは無延伸耐熱性ポリオレフィンフィルムのいずれかで構成される。成型加工の容易さの観点から、多層構造体の最外層に配置される耐熱性ポリオレフィン層は無延伸ポリプロピレンフィルムであることが好ましい。同様に、多層構造体の最外層よりも内側に配置される耐熱性ポリオレフィン層は無延伸ポリプロピレンフィルムであることが好ましい。好ましい一例では、多層構造体を構成するすべての耐熱性ポリオレフィン層が、無延伸ポリプロピレンフィルムである。
本発明の多層構造体を含む成形品は、保冷や保温が必要な各種用途に使用することができる真空断熱体であってもよい。該真空断熱体は、長期間にわたって断熱効果を保持できるため、冷蔵庫、給湯設備および炊飯器などの家電製品用の断熱材、壁部、天井部、屋根裏部および床部などに用いられる住宅用断熱材、車両屋根材、自動販売機などの断熱パネルなどに利用できる。
真空断熱体は、少なくとも1層のバリア性多層膜と、少なくとも1層の他の層とを積層することによって形成してもよい。他の層の例には、ポリエステル層、ポリアミド層、ポリオレフィン層、および接着層などが含まれる。これらの層の数および積層順には特に制限はないが、ヒートシールが行われる場合にはそのための構成が採用される。
真空断熱体として特に好ましい多層構造体の構成としては、バリア性多層膜/ポリアミド層/PO層、および、ポリアミド層/バリア性多層膜/PO層、という構成が挙げられる。上記各層の層間には、接着層を設けてもよい。また、層(Y)が基材の一方の表面のみに積層されている場合、層(Y)は、基材に対して真空断熱体の外側にあってもよいし内側にあってもよい。
[多層構造体の製造方法]
以下、本発明の多層構造体の製造方法について説明する。この方法によれば、本発明の多層構造体を容易に製造できる。本発明の多層構造体の製造方法に用いられる材料、および多層構造体の構成等は、上述したものと同様であるので、重複する部分については説明を省略する場合がある。たとえば、金属酸化物(A)、リン化合物(B)および重合体(C)に対して、本発明の多層構造体の説明における記載を適用することが可能である。なお、この製造方法について説明した事項については、本発明の多層構造体に適用できる。また、本発明の多層構造体について説明した事項については、本発明の製造方法に適用できる。
本発明の多層構造体の製造方法は、工程(I)、(II)、および(III)を含む。工程(I)では、少なくともアルミニウムを含む金属酸化物(A)と、金属酸化物(A)と反応可能な部位を含有する複数の化合物と、溶媒とを混合することによって、金属酸化物(A)、前記複数の化合物および前記溶媒を含むコーティング液(U)を調製する。工程(II)では、基材(X)上にコーティング液(U)を塗布することによって、基材(X)上に層(Y)の前駆体層を形成する。工程(III)では、その前駆体層を140℃以上の温度で熱処理することによって、基材(X)上に層(Y)を形成する。
[工程(I)]
工程(I)で用いられる、金属酸化物(A)と反応可能な部位を含有する複数の化合物を、以下では、「複数の化合物(Z)」という場合がある。工程(I)では、金属酸化物(A)と、複数の化合物(Z)と、溶媒とを少なくとも混合する。1つの観点では、工程(I)では、金属酸化物(A)と、複数の化合物(Z)とを含む原料を、溶媒中で反応させる。当該原料は、金属酸化物(A)および複数の化合物(Z)の他に、他の化合物を含んでもよい。典型的には、金属酸化物(A)は粒子の形態で混合される。
コーティング液(U)において、リン化合物(BL)の質量WLと、リン化合物(BH)の質量WHとが、1/99≦(質量WH)/(質量WL)≦35/65の関係を満たす。また、コーティング液(U)において、金属酸化物(A)を構成する金属原子(M)のモル数NMと、リン化合物(BL)に含まれるリン原子のモル数NPとは、1.0≦(モル数NM)/(モル数NP)≦3.6の関係を満たす。これらの値の好ましい範囲は、上述したため、重複する説明を省略する。
複数の化合物(Z)は、リン化合物(B)を含み、リン化合物(B)は、分子内に9個以下のリン原子を有するリン化合物(BL)と、分子内に10個以上のリン原子を有するリン化合物(BH)の両方を含む。複数の化合物(Z)に含まれる金属原子のモル数は、リン化合物(B)に含まれるリン原子のモル数の0〜1倍の範囲にあることが好ましい。典型的には、複数の化合物(Z)は、金属酸化物(A)と反応可能な部位を複数含有する化合物であり、複数の化合物(Z)に含まれる金属原子のモル数が、リン化合物(B)に含まれるリン原子のモル数の0〜1倍の範囲にある。
(複数の化合物(Z)に含まれる金属原子のモル数)/(リン化合物(B)に含まれるリン原子のモル数)の比を0〜1の範囲(たとえば0〜0.9の範囲)とすることによって、より優れたガスバリア性を有する多層構造体が得られる。この比は、多層構造体のガスバリア性をさらに向上させるために、0.3以下であることが好ましく、0.05以下であることがより好ましく、0.01以下であることがさらに好ましく、0であってもよい。典型的には、複数の化合物(Z)は、リン化合物(B)のみからなる。工程(I)では、上記比を容易に低下させることができる。
工程(I)は、以下の工程(a)〜(c)を含むことが好ましい。なお、工程(c)以外の工程は、どのような順序で行ってもよい。
工程(a):金属酸化物(A)を含む液体(S)を調製する工程、
工程(bL):リン化合物(BL)を含む溶液(TL)を調製する工程、
工程(bH):リン化合物(BH)を含む溶液(TH)を調製する工程、
工程(c):液体(S)、溶液(TL)および溶液(TH)を混合する工程。
工程(a)では、金属酸化物(A)を含む液体(S)を調製する。液体(S)は、溶液または分散液である。当該液体(S)は、例えば、公知のゾルゲル法で採用されている手法によって調製できる。例えば、上述した化合物(L)系成分、水、および必要に応じて酸触媒や有機溶媒を混合し、公知のゾルゲル法で採用されている手法によって化合物(L)系成分を縮合または加水分解縮合することによって調製できる。化合物(L)系成分を縮合または加水分解縮合することによって得られる、金属酸化物(A)の分散液は、そのまま金属酸化物(A)を含む液体(S)として使用することができる。しかし、必要に応じて、当該分散液に対して特定の処理(上記したような解膠や濃度制御のための溶媒の加減等)を行ってもよい。
工程(a)は、化合物(L)および化合物(L)の加水分解物からなる群より選ばれる少なくとも1種を縮合(たとえば加水分解縮合)させる工程を含んでもよい。具体的には、工程(a)は、化合物(L)、化合物(L)の部分加水分解物、化合物(L)の完全加水分解物、化合物(L)の部分加水分解縮合物、および化合物(L)の完全加水分解物の一部が縮合したものからなる群より選ばれる少なくとも1種を縮合または加水分解縮合する工程を含んでもよい。
また、液体(S)を調製するための方法の別の例としては、以下の工程を含む方法が挙げられる。まず、熱エネルギーによって金属を金属原子として気化させ、その金属原子を反応ガス(酸素)と接触させることによって金属酸化物の分子およびクラスターを生成させる。その後、それらを瞬時に冷却することによって、粒径が小さい金属酸化物(A)の粒子を製造する。次に、その粒子を水や有機溶媒に分散させることによって、液体(S)(金属酸化物(A)を含む分散液)が得られる。水や有機溶媒への分散性を高めるため、金属酸化物(A)の粒子に対して表面処理を施したり、界面活性剤等の安定化剤を添加したりしてもよい。また、pHを制御することによって、金属酸化物(A)の分散性を向上させてもよい。
液体(S)を調製するための方法のさらに別の例としては、バルク体の金属酸化物(A)をボールミルやジェットミル等の粉砕機を用いて粉砕し、これを水や有機溶媒に分散させることによって、液体(S)(金属酸化物(A)を含む分散液)とする方法を挙げることができる。ただし、この場合には、金属酸化物(A)の粒子の形状や大きさの分布を制御することが困難となる場合がある。
工程(a)において使用できる有機溶媒の種類に特に制限はなく、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ノルマルプロパノール等のアルコール類が好適に用いられる。
液体(S)中における金属酸化物(A)の含有率は、0.1〜40質量%の範囲内であることが好ましく、1〜30質量%の範囲内であることがより好ましく、2〜20質量%の範囲内であることがさらに好ましい。
工程(bL)および工程(bH)では、リン化合物(BL)およびリン化合物(BH)をそれぞれ含む溶液(TL)および溶液(TH)を調製する。溶液(TL)および溶液(TH)は、リン化合物(BL)およびリン化合物(BH)をそれぞれ溶媒に溶解することによって調製できる。リン化合物(BL)およびリン化合物(BH)の溶解性が低い場合には、加熱処理や超音波処理を施すことによって溶解を促進してもよい。
溶液(TL)および溶液(TH)の調製に用いられる溶媒は、リン化合物(BL)およびリン化合物(BH)の種類に応じて適宜選択すればよいが、水を含むことが好ましい。リン化合物(BL)およびリン化合物(BH)の溶解の妨げにならない限り、溶媒は、メタノール、エタノール等のアルコール;テトラヒドロフラン、ジオキサン、トリオキサン、ジメトキシエタン等のエーテル;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン;エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、n−ブチルセロソルブ等のグリコール誘導体;グリセリン;アセトニトリル;ジメチルホルムアミド等のアミド;ジメチルスルホキシド;スルホランなどを含んでもよい。
溶液(TL)および溶液(TH)中におけるリン化合物(BL)およびリン化合物(BH)の含有率は、それぞれ、0.1〜99質量%の範囲内であることが好ましく、0.5〜95質量%の範囲内であることがより好ましく、1.0〜90質量%の範囲内であることがさらに好ましい。
工程(c)では、液体(S)、溶液(TL)および溶液(TH)とを混合する。混合の順番に特に制限はないが、液体(S)と溶液(TH)との混合を、液体(S)と溶液(TL)との混合と同時またはそれより後に実施した場合に、特に外観に優れる多層構造体が得られる場合がある。これらの混合時には、局所的な反応を抑制するため、添加速度を抑え、攪拌を強く行いながら混合することが好ましい。工程(c)で混合される際の、液体(S)、溶液(TL)および溶液(TH)の温度は、いずれも50℃以下であることが好ましく、いずれも30℃以下であることがより好ましく、いずれも20℃以下であることがさらに好ましい。混合時におけるそれらの温度を50℃以下とすることによって、金属酸化物(A)とリン化合物(B)が均一に混合し、得られる多層構造体のガスバリア性を向上することができる。さらに、混合完了時点からさらに30分程度攪拌を続けることによって、保存安定性に優れたコーティング液(U)を得ることができる場合がある。
また、コーティング液(U)は、重合体(C)を含んでもよい。コーティング液(U)に重合体(C)を含ませる方法は、特に制限されない。例えば、液体(S)、溶液(TL)、溶液(TH)、またはそれら少なくと2つの混合液に、重合体(C)を粉末またはペレットの状態で添加した後に溶解させてもよい。また、液体(S)、溶液(TL)、溶液(TH)、またはそれら少なくと2つの混合液に、重合体(C)の溶液を添加して混合してもよい。また、重合体(C)の溶液に、液体(S)、溶液(TL)、溶液(TH)、またはそれら少なくと2つの混合液を添加して混合してもよい。工程(c)の前に、液体(S)、溶液(TL)および溶液(TH)のいずれか一方に重合体(C)を含有させることによって、工程(c)において各液体を混合する際に、金属酸化物(A)とリン化合物(B)との反応速度が緩和され、その結果、経時安定性に優れたコーティング液(U)が得られる場合がある。
コーティング液(U)が重合体(C)を含むことによって、重合体(C)を含有する層(Y)を含む多層構造体を容易に製造できる。
コーティング液(U)は、必要に応じて、酢酸、塩酸、硝酸、トリフルオロ酢酸、トリクロロ酢酸から選ばれる少なくとも1種の酸化合物(D)を含んでもよい。以下では、当該少なくとも1種の酸化合物(D)を、単に「酸化合物(D)」と略称する場合がある。コーティング液(U)に酸化合物(D)を含ませる方法は、特に制限されない。例えば、液体(S)、溶液(TL)、溶液(TH)、またはそれら少なくと2つの混合液に、酸化合物(D)をそのまま添加して混合してもよい。また、液体(S)、溶液(TL)、溶液(TH)、またはそれら少なくと2つの混合液に、酸化合物(D)の溶液を添加して混合してもよい。また、酸化合物(D)の溶液に、液体(S)、溶液(TL)、溶液(TH)、またはそれら少なくと2つの混合液を添加して混合してもよい。工程(c)の前に、液体(S)、溶液(TL)および溶液(TH)のいずれか一方が酸化合物(D)を含むことによって、工程(c)において各液体を混合する際に、金属酸化物(A)とリン化合物(B)との反応速度が緩和され、その結果、経時安定性に優れたコーティング液(U)が得られる場合がある。
酸化合物(D)を含むコーティング液(U)においては、金属酸化物(A)とリン化合物(B)との反応が抑制され、コーティング液(U)中での反応物の沈澱や凝集を抑制することができる。そのため、酸化合物(D)を含むコーティング液(U)を用いることによって、得られる多層構造体の外観が向上する場合がある。また、酸化合物(D)の沸点は200℃以下であるため、多層構造体の製造過程において、酸化合物(D)を揮発させるなどすることによって、酸化合物(D)を層(Y)から容易に除去できる。
コーティング液(U)における酸化合物(D)の含有率は、0.1〜5.0質量%の範囲内であることが好ましく、0.5〜2.0質量%の範囲内であることがより好ましい。これらの範囲では、酸化合物(D)の添加による効果が得られ、且つ、酸化合物(D)の除去が容易である。液体(S)中に酸成分が残留している場合には、その残留量を考慮して、酸化合物(D)の添加量を決定すればよい。
工程(c)における混合によって得られた液は、そのままコーティング液(U)として使用できる。この場合、通常、液体(S)、溶液(TL)および溶液(TH)に含まれる溶媒が、コーティング液(U)の溶媒となる。また、工程(c)における混合によって得られた液に処理を行って、コーティング液(U)を調製してもよい。たとえば、有機溶媒の添加、pHの調製、粘度の調製、添加物の添加等の処理を行ってもよい。
工程(c)の混合によって得られた液に、得られるコーティング液(U)の安定性が阻害されない範囲で有機溶剤を添加してもよい。有機溶剤の添加によって、工程(II)における基材(X)へのコーティング液(U)の塗布が容易になる場合がある。有機溶剤としては、得られるコーティング液(U)において均一に混合されるものが好ましい。好ましい有機溶剤の例としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール等のアルコール;テトラヒドロフラン、ジオキサン、トリオキサン、ジメトキシエタン等のエーテル;アセトン、メチルエチルケトン、メチルビニルケトン、メチルイソプロピルケトン等のケトン;エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、n−ブチルセロソルブ等のグリコール誘導体;グリセリン;アセトニトリル;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド;ジメチルスルホキシド;スルホランなどが挙げられる。
コーティング液(U)の保存安定性、およびコーティング液(U)の基材に対する塗工性の観点から、コーティング液(U)の固形分濃度は、1〜20質量%の範囲にあることが好ましく、2〜15質量%の範囲にあることがより好ましく、3〜10質量%の範囲にあることがさらに好ましい。コーティング液(U)の固形分濃度は、例えば、シャーレにコーティング液(U)を所定量加え、当該シャーレごと100℃の温度で溶媒等の揮発分の除去を行い、残留した固形分の質量を、最初に加えたコーティング液(U)の質量で除して算出することができる。その際、一定時間乾燥するごとに残留した固形分の質量を測定し、連続した2回の質量差が無視できるレベルにまで達した際の質量を残留した固形分の質量として、固形分濃度を算出することが好ましい。
コーティング液(U)の保存安定性および多層構造体のガスバリア性の観点から、コーティング液(U)のpHは0.1〜6.0の範囲にあることが好ましく、0.2〜5.0の範囲にあることがより好ましく、0.5〜4.0の範囲にあることがさらに好ましい。
コーティング液(U)のpHは公知の方法で調整することができ、例えば、酸性化合物や塩基性化合物を添加することによって調整することができる。酸性化合物の例には、塩酸、硝酸、硫酸、酢酸、酪酸、および硫酸アンモニウムが含まれる。塩基性化合物の例には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、トリメチルアミン、ピリジン、炭酸ナトリウム、および酢酸ナトリウムが含まれる。
コーティング液(U)は、時間の経過とともに状態が変化し、最終的にはゲル状の組成物となるか、または沈殿を生じる傾向がある。そのように状態が変化するまでの時間は、コーティング液(U)の組成に依存する。基材(X)上にコーティング液(U)を安定して塗布するためには、コーティング液(U)は、長時間にわたってその粘度が安定していることが好ましい。溶液(U)は、工程(I)の完了時の粘度を基準粘度として、25℃で2日間静置した後においても、ブルックフィールド粘度計(B型粘度計:60rpm)で測定した粘度が基準粘度の5倍以内となるように調製されることが好ましい。コーティング液(U)の粘度が上記の範囲にある場合、貯蔵安定性に優れるとともに、より優れたガスバリア性を有する多層構造体が得られることが多い。
コーティング液(U)の粘度が上記範囲内になるように調整する方法として、例えば、固形分の濃度を調整する、pHを調整する、粘度調節剤を添加する、といった方法を採用することができる。粘度調節剤の例には、カルボキシメチルセルロース、でんぷん、ベントナイト、トラガカントゴム、ステアリン酸塩、アルギン酸塩、メタノール、エタノール、n−プロパノール、およびイソプロパノールが含まれる。
本発明の効果が得られる限り、コーティング液(U)は、上述した物質以外の他の物質を含んでもよい。例えば、コーティング液(U)は、炭酸塩、塩酸塩、硝酸塩、炭酸水素塩、硫酸塩、硫酸水素塩、ホウ酸塩、アルミン酸塩等の無機金属塩;シュウ酸塩、酢酸塩、酒石酸塩、ステアリン酸塩等の有機酸金属塩;アセチルアセトナート金属錯体(アルミニウムアセチルアセトナート等)、シクロペンタジエニル金属錯体(チタノセン等)、シアノ金属錯体等の金属錯体;層状粘土化合物;架橋剤;重合体(C)以外の高分子化合物;可塑剤;酸化防止剤;紫外線吸収剤;難燃剤などを含んでいてもよい。
[工程(II)]
工程(II)では、基材(X)上にコーティング液(U)を塗布することによって、基材(X)上に層(Y)の前駆体層を形成する。コーティング液(U)は、基材(X)の少なくとも一方の面の上に直接塗布してもよい。また、コーティング液(U)を塗布する前に、基材(X)の表面を公知のアンカーコーティング剤で処理したり、基材(X)の表面に公知の接着剤を塗布したりするなどして、基材(X)の表面に接着層(H)を形成しておいてもよい。
また、コーティング液(U)は、必要に応じて、脱気および/または脱泡処理してもよい。脱気および/または脱泡処理の方法としては、例えば、真空引き、加熱、遠心、超音波、などによる方法があるが、真空引きを含む方法を好ましく使用することができる。
工程(II)で塗布される際のコーティング液(U)の粘度であってブルックフィールド形回転粘度計(SB型粘度計:ローターNo.3、回転速度60rpm)で測定された粘度が、塗布時の温度において3000mPa・s以下であることが好ましく、2000mPa・s以下であることがさらに好ましい。当該粘度が3000mPa・s以下であることによって、コーティング液(U)のレベリング性が向上し、外観により優れる多層構造体を得ることができる。工程(II)で塗布される際のコーティング液(U)の粘度は、濃度、温度、工程(c)の混合後の攪拌時間や攪拌強度によって調整できる。たとえば、工程(c)の混合後の攪拌を長く行うことによって、粘度を低くすることができる場合がある。
コーティング液(U)を基材(X)上に塗布する方法は、特に限定されず、公知の方法を採用することができる。好ましい方法としては、例えば、キャスト法、ディッピング法、ロールコーティング法、グラビアコート法、スクリーン印刷法、リバースコート法、スプレーコート法、キスコート法、ダイコート法、メタリングバーコート法、チャンバードクター併用コート法、カーテンコート法などが挙げられる。
通常、工程(II)において、コーティング液(U)中の溶媒を除去することによって、層(Y)の前駆体層が形成される。溶媒の除去方法に特に制限はなく、公知の乾燥方法を適用することができる。具体的には、熱風乾燥法、熱ロール接触法、赤外線加熱法、マイクロ波加熱法などの乾燥方法を、単独で、または組み合わせて適用することができる。乾燥温度は、基材(X)の流動開始温度よりも0〜15℃以上低いことが好ましい。コーティング液(U)が重合体(C)を含む場合には、乾燥温度は、重合体(C)の熱分解開始温度よりも15〜20℃以上低いことが好ましい。乾燥温度は70〜200℃の範囲にあることが好ましく、80〜180℃の範囲にあることがより好ましく、90〜160℃の範囲にあることがさらに好ましい。溶媒の除去は、常圧下または減圧下のいずれで実施してもよい。また、後述する工程(III)における熱処理によって、溶媒を除去してもよい。
層状の基材(X)の両面に層(Y)を積層する場合、コーティング液(U)を基材(X)の一方の面に塗布した後、溶媒を除去することによって第1の層(第1の層(Y)の前駆体層)を形成し、次いで、コーティング液(U)を基材(X)の他方の面に塗布した後、溶媒を除去することによって第2の層(第2の層(Y)の前駆体層)を形成してもよい。それぞれの面に塗布するコーティング液(U)の組成は同一であってもよいし、異なってもよい。
立体形状を有する基材(X)の複数の面に層(Y)を積層する場合、上記の方法でそれぞれの面ごとに層(層(Y)の前駆体層)を形成してもよい。あるいは、コーティング液(U)を基材(X)の複数の面に同時に塗布して乾燥させることによって、複数の層(層(Y)の前駆体層)を同時に形成してもよい。
[工程(III)]
工程(III)では、工程(II)で形成された前駆体層(層(Y)の前駆体層)を、140℃以上の温度で熱処理することによって層(Y)を形成する。すなわち、この熱処理によって、層(Y)の前駆体層が層(Y)に変化する。
工程(III)では、金属酸化物(A)の粒子同士がリン原子(リン化合物(B)に由来するリン原子)を介して結合される反応が進行する。別の観点では、工程(III)では、反応生成物(R)が生成する反応が進行する。当該反応を充分に進行させるため、熱処理の温度は、140℃以上であり、170℃以上であることがより好ましく、190℃以上であることがさらに好ましい。熱処理温度が低いと、充分な反応度を得るのにかかる時間が長くなり、生産性が低下する原因となる。熱処理の温度の好ましい上限は、基材(X)の種類などによって異なる。例えば、ポリアミド系樹脂からなる熱可塑性樹脂フィルムを基材(X)として用いる場合には、熱処理の温度は190℃以下であることが好ましい。また、ポリエステル系樹脂からなる熱可塑性樹脂フィルムを基材(X)として用いる場合には、熱処理の温度は220℃以下であることが好ましい。熱処理は、空気中、窒素雰囲気下、またはアルゴン雰囲気下などで実施することができる。
熱処理の時間は0.1秒〜1時間の範囲にあることが好ましく、1秒〜15分の範囲にあることがより好ましく、5〜300秒の範囲にあることがさらに好ましい。一例の熱処理は、140〜220℃の範囲で0.1秒〜1時間行われる。また、他の一例の熱処理は、170〜200℃の範囲で、5〜300秒間(たとえば10〜300秒間)行われる。
多層構造体を製造するための本発明の方法は、層(Y)の前駆体層または層(Y)に紫外線を照射する工程を含んでもよい。紫外線照射は、工程(II)の後(たとえば塗布されたコーティング液(U)の溶媒の除去がほぼ終了した後)のいずれの段階で行ってもよい。その方法は特に限定されず、公知の方法を適用することができる。照射する紫外線の波長は170〜250nmの範囲にあることが好ましく、170〜190nmの範囲および/または230〜250nmの範囲にあることがより好ましい。また、紫外線照射に代えて、電子線やγ線等の放射線の照射を行ってもよい。紫外線照射を行うことによって、多層構造体のガスバリア性能がより高度に発現する場合がある。
基材(X)と層(Y)との間に接着層(H)を配置するために、コーティング液(U)を塗布する前に、基材(X)の表面を公知のアンカーコーティング剤で処理したり、基材(X)の表面に公知の接着剤を塗布したりする場合には、熟成処理を行うことが好ましい。具体的には、コーティング液(U)を塗布した後であって工程(III)の熱処理工程の前に、コーティング液(U)が塗布された基材(X)を比較的低温下に長時間放置することが好ましい。熟成処理の温度は、110℃未満であることが好ましく、100℃以下であることがより好ましく、90℃以下であることがさらに好ましい。また、熟成処理の温度は、10℃以上であることが好ましく、20℃以上であることがより好ましく、30℃以上であることがさらに好ましい。熟成処理の時間は、0.5〜10日の範囲にあることが好ましく、1〜7日の範囲にあることがより好ましく、1〜5日の範囲にあることがさらに好ましい。このような熟成処理を行うことによって、基材(X)と層(Y)との間の接着力がより強固になる。
こうして得られた多層構造体は、そのまま本発明の多層構造体として使用できる。しかし、当該多層構造体に、上記したように他の部材(他の層など)をさらに接着または形成して本発明の多層構造体としてもよい。当該部材の接着は、公知の方法で行うことができる。
以下に、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって何ら限定されるものではない。なお、実施例および比較例における各測定および評価は、以下の(1)〜(4)の方法によって実施した。
(1)層(Y)の赤外線吸収スペクトル
実施例で形成される層(Y)の赤外線吸収スペクトルは、以下の方法で測定した。
まず、基材(X)上に積層した層(Y)について、フーリエ変換赤外分光光度計(Perkin Elmer社製、「Spectrum One」)を用いて、赤外線吸収スペクトルを測定した。赤外線吸収スペクトルは、ATR(全反射測定)のモードで、700〜4000cm-1の範囲で測定した。層(Y)の厚さが1μm以下である場合には、ATR法による赤外線吸収スペクトルでは基材(X)由来の吸収ピークが検出され、層(Y)のみに由来する吸収強度を正確に求めることができない場合がある。このような場合には、基材(X)のみの赤外線吸収スペクトルを別途測定し、それを差し引くことで層(X)由来のピークのみを抽出した。
このようにして得られた層(Y)の赤外線吸収スペクトルに基づいて、800〜1400cm-1の範囲における最大吸収波数(n1)、および、最大吸収波数(n1)における吸光度(A1)を求めた。また、2500〜4000cm-1の範囲における水酸基の伸縮振動に基づく最大吸収波数(n2)、および、最大吸収波数(n2)における吸光度(A2)を求めた。また、最大吸収波数(n1)の吸収ピークの半値幅は、当該吸収ピークにおいて吸光度(A1)の半分の吸光度(吸光度(A1)/2)を有する2点の波数を求め、それらの波数の差を算出することによって得た。また、最大吸収波数(n1)の吸収ピークが、他の成分に由来する吸収ピークと重なっている場合には、ガウス関数を用いて最小二乗法により、それぞれの成分に由来する吸収ピークに分離した後に、上記した場合と同様に最大吸収波数(n1)の吸収ピークの半値幅を得た。
(2)多層構造体の外観
得られた多層構造体の外観を、目視によって下記のように評価した。
A:無色透明で均一であり、極めて良好な外観であった。
B:わずかにくもりまたはムラが見られたが、良好な外観であった。
C:くもりやムラが激しく、劣った外観であった
(3)20℃、85%RHの条件下における酸素透過度(Os)
酸素透過度は、酸素透過量測定装置(モダンコントロール社製「MOCON OX−TRAN2/20」)を用いて測定した。具体的には、酸素供給側に層(Y)が向き、キャリアガス側に基材(X)が向くように多層構造体をセットし、温度が20℃、酸素供給側の湿度が85%RH、キャリアガス側の湿度が85%RH、酸素圧が1気圧、キャリアガス圧力が1気圧の条件下で酸素透過度(単位:ml/(m2・day・atm))を測定した。キャリアガスとしては2体積%の水素ガスを含む窒素ガスを使用した。
(4)23℃、50%RHの条件下で、5%延伸した状態で5分間保持した後の20℃、85%RHの条件下における酸素透過度(Of)
21cm×30cmの大きさの多層構造体を作製した。そして、その多層構造体を23℃、50%RHの条件下で24時間以上放置した後、同条件下で長軸方向に5%延伸し、延伸した状態を5分間保持することで、延伸後の多層構造体を得た。酸素透過度は、酸素透過量測定装置(モダンコントロール社製「MOCON OX−TRAN2/20」)を用いて測定した。具体的には、酸素供給側に層(Y)が向き、キャリアガス側に基材(X)が向くように多層構造体をセットし、温度が20℃、酸素供給側の湿度が85%RH、キャリアガス側の湿度が85%RH、酸素圧が1気圧、キャリアガス圧力が1気圧の条件下で酸素透過度(単位:ml/(m2・day・atm))を測定した。キャリアガスとしては2体積%の水素ガスを含む窒素ガスを使用した。
[分散液(S)の製造例]
コーティング液(U)を製造するために使用した分散液(S)の製造例を示す。
蒸留水230質量部を撹拌しながら70℃に昇温した。その蒸留水に、アルミニウムイソプロポキシド88質量部を1時間かけて滴下し、液温を徐々に95℃まで上昇させ、発生するイソプロパノールを留出させることによって加水分解縮合を行った。得られた液体に、60質量%の硝酸水溶液4.0質量部を添加し、95℃で3時間撹拌することによって加水分解縮合物の粒子の凝集体を解膠させた後に、固形分濃度がアルミナ換算で10質量%になるように濃縮することで、分散液(S1)を得た。
[溶液(TL)の製造例]
85質量%のリン酸水溶液を調製し、溶液(TL1)を得た。
[溶液(TH)の製造例]
まず、攪拌機、還流冷却機、滴下ロート及び温度計を備えた丸底フラスコ(内容積:50ml)を窒素置換し、溶媒としてメチルエチルケトン(以下、「MEK」と略記する場合がある)を12g仕込み、オイルバスに漬けて80℃に加熱し還流を開始した。この時から重合の全過程を通じて微量の窒素ガスを流し続けた。次に、アシッドホスホオキシエチルメタクリレート(以下、「PHM」と略記する場合がある)8.5g、MEK5g及びアゾビスイソブチロニトリル100mgの混合溶液を調整し、滴下ロートから10分間かけて等速で滴下した。滴下終了後も80℃を維持し、12時間程度攪拌を続けて、帯黄色の粘調な液状の重合体溶液を得た。
重合体溶液を約10倍量の1,2−ジクロロエタン中へ注入し、上澄液をデカンテーションにて除去して沈殿物を回収し、重合体を単離した。回収した重合体は当該重合体の良溶媒であるテトラヒドロフラン(以下、「THF」と略記する場合がある)に溶解し約10倍量の1,2−ジクロロエタン中に再沈殿させる操作を3回繰り返して行って精製した。精製した重合体をゲル・パーミエーション・クロマトグラフで、溶媒としてTHFを用い重合体濃度1wt%で分子量を測定したところ、分子量はポリスチレン換算で約10,000であった。
精製した重合体を、水とイソプロパノールとの混合溶媒に5wt%の濃度となるように溶解することによって、溶液(TH1)を得た。
溶液(TH1)の調製と同様の方法によって、アシッドホスホオキシポリオキシプロピレングリコールメタクリレート(以下、「PHP」と略記する場合がある)の単独重合体の溶液(TH2)を得た。さらに、同様にして、PHMとアクリロニトリル(以下、「AN」と略記する場合がある)をモル比率2/1および1/1でそれぞれ共重合させた共重合体の溶液(TH3)および溶液(TH4)をそれぞれ得た。
[実施例1]
分散液(S1)21.77質量部に対して、蒸留水47.22質量部、メタノール18.80質量部、5質量%のポリビニルアルコール水溶液0.60質量部、および60質量%の硝酸1.50質量部を加え、均一になるように撹拌した。次に、溶液(TL1)4.11質量部、溶液(TH1)6.00質量部をこの順に滴下して加え、コーティング液(U1)を得た。得られたコーティング液(U1)を15℃に保持したまま、粘度が1500mPa・sになるまで攪拌を続けた。なお、当該コーティング液(U1)における、金属酸化物(A)(アルミナ)を構成する金属原子のモル数(NM)とリン化合物(BL)(リン酸)を構成するリン原子のモル数(NP)との比率(モル数(NM)/モル数(NP))は、1.20であった。
基材として、延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ株式会社製、「ルミラーP60」(商品名)、厚さ12μm、以下では「PET」と略記することがある)を準備した。その基材(PET)上に、乾燥後の厚さが0.5μmとなるようにバーコータによってコーティング液(U1)を塗布し、110℃で5分間乾燥した。次いで、180℃で1分間の熱処理を施し、層(Y1)(0.5μm)/PET(12μm)という構造を有する本発明の多層構造体(A1)を得た。
得られた多層構造体(A1)の透湿度(水蒸気透過度;WVTR)を、水蒸気透過量測定装置(モダンコントロール社製「MOCON PERMATRAN3/33」)を用いて測定した。具体的には、水蒸気供給側に層(Y1)が向き、キャリアガス側にPETの層が向くように複合構造体をセットし、温度40℃、水蒸気供給側の湿度90%RH、キャリアガス側の湿度0%RHの条件下で透湿度(単位:g/(m2・day))を測定した。多層構造体(A1)の透湿度は、0.3g/(m2・day)であった。
[実施例2〜6]
H/WLの比率をそれぞれ表1に従って変更したこと以外は実施例1と同様の方法によって、多層構造体を得た。
[実施例7〜9]
M/NPの比率をそれぞれ表1に従って変更したこと以外は実施例1と同様の方法によって、多層構造体を得た。
[実施例10〜11]
リン化合物(BL)として、リン酸の代わりにリン酸トリメチルおよびホスホン酸をそれぞれ使用したこと以外は実施例1と同様の方法によって、多層構造体を得た。
[実施例12〜14]
溶液(TH1)の代わりに溶液(TH2)、溶液(TH3)および溶液(TH4)をそれぞれ使用したこと以外は実施例1と同様の方法によって、多層構造体を得た。
[実施例15]
溶液(TH1)の代わりに、リン酸化処理を施したデンプンの水溶液を使用したこと以外は実施例1と同様の方法によって、多層構造体を得た。
[実施例16〜18]
熱処理の条件を表1に従って変更したこと以外は実施例1と同様の方法によって、多層構造体を得た。
[実施例19]
溶液(TL)と溶液(TH)の滴下順を逆にしたこと以外は実施例1と同様の方法によって、多層構造体を得た。
[実施例20]
層(Y)を基材の両面に積層したこと以外は実施例1と同様の方法によって、多層構造体を得た。得られた多層構造体の透湿度を実施例1と同様にして測定したところ、0.1g/(m2・day)以下であった。
[実施例21]
基材を延伸ナイロンフィルム(ユニチカ株式会社製「エンブレム ONBC」(商品名)、厚さ15μm、「ONY」と略記することがある)としたこと以外は実施例1と同様の方法によって、多層構造体を得た。
[比較例1]
溶液(TH)を滴下しなかったこと以外は実施例1と同様の方法によって、多層構造体を得た。
[比較例2〜3]
H/WLの比率をそれぞれ表1に従って変更したこと以外は実施例1と同様の方法によって、多層構造体を得た。
[比較例4]
溶液(TL)を滴下しなかったこと以外は実施例1と同様の方法によって、多層構造体を得た。
[比較例5〜6]
M/NPの比率をそれぞれ表1に従って変更したこと以外は実施例1と同様の方法によって、多層構造体を得た。
[比較例7〜8]
溶液(TH1)の代わりに、分子中にリン原子を3つ有するニトリロトリス(メチレンホスホン酸)の水溶液および分子中にリン原子を4つ有するN,N,N’,N’−エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)の水溶液をそれぞれ使用したこと以外は実施例1と同様の方法によって、多層構造体を得た。
[参考例1]
参考例として、厚み0.03μmのアルミニウムの蒸着層を形成したPETフィルムを評価した。
[参考例2]
参考例として、厚み0.03μmの酸化アルミニウムの蒸着層を形成したPETフィルムを評価した。
上記実施例、比較例および参考例の製造条件および評価結果を以下の表1に示す。なお、表において、「−」は、「使用していない」、「計算できない」、「実施していない」、「測定できない」等を意味する。
Figure 2013208793
Figure 2013208793
表から明らかなように、実施例の多層構造体は、強い延伸ストレスを受けても、ガスバリア性を高いレベルで維持することができた。また、実施例の多層構造体は、良好な外観を示した。
[実施例22]
実施例22では、本発明の多層構造体を用いて縦製袋充填シール袋を作製した。まず、実施例1と同様の方法によって、多層構造体(A1)を作製した。次に、2液型の接着剤(三井武田ケミカル株式会社製、A−520(商品名)およびA−50(商品名))を多層構造体(A1)上にコートして乾燥したものを準備し、これと延伸ナイロンフィルム(上記したONY)とをラミネートして積層体を得た。続いて、その積層体の延伸ナイロンフィルム上に、2液型の接着剤(三井武田ケミカル株式会社製、A−520(商品名)およびA−50(商品名))をコートして乾燥したものを準備し、これと無延伸ポリプロピレンフィルム(東セロ株式会社製、RXC−21(商品名)、厚さ70μm、以下「CPP70」と略記することがある)とをラミネートした。このようにして、PET/層(Y1)/接着剤/ONY/接着剤/CPP70という構造を有する多層構造体(B22)を得た。
次に、多層構造体(B22)を幅400mmに切断して、縦型製袋充填包装機(オリヒロ株式会社製)に供給し、合掌貼りタイプの縦製袋充填シール袋(幅160mm、長さ470mm)を作製した。次に、製袋充填包装機を用いて、多層構造体(B22)からなる縦製袋充填シール袋に水2kgを充填した。製袋充填包装機における多層構造体(B22)の加工性は良好であり、得られた縦製袋充填シール袋の外観には、皺や筋のような欠点は見られなかった。
[実施例23]
実施例23では、本発明の多層構造体を用いて真空包装袋を作製した。まず、実施例1と同様の方法によって、多層構造体(A1)を作製した。次に、2液型の接着剤(三井武田ケミカル株式会社製、A−520(商品名)およびA−50(商品名))を延伸ナイロンフィルム(上述したONY)上にコートして乾燥したものを準備し、それと多層構造体(A1)とをラミネートした。次に、ラミネートされた多層構造体(A1)上に、2液型の接着剤(三井武田ケミカル株式会社製、A−520(商品名)およびA−50(商品名))をコートして乾燥したものを準備し、それと無延伸ポリプロピレンフィルム(上述したCPP70)とをラミネートした。このようにして、ONY/接着剤/層(Y1)/PET/接着剤/CPP70という構成を有する多層構造体(B23)を得た。
次に、多層構造体(B23)から、22cm×30cmの長方形の積層体2枚を切り取った。そして、CPP70が内側となるように2枚の多層構造体(B23)を重ね合わせ、長方形の3辺をヒートシールすることによって袋を形成した。その袋に、固形食品のモデルとして木製の球体(直径30mm)を、球体同士が接触するように1層に敷き詰めた状態で充填した。その後、袋の内部の空気を脱気して、最後の1辺をヒートシールすることにより、真空包装体を作製した。得られた真空包装体において、多層構造体(B23)は球体の凹凸に沿って密着した状態となっていた。
[実施例24]
実施例24では、本発明の多層構造体を用いてスパウト付パウチを作製した。まず、実施例21と同様の方法によって、PET/層(Y1)/接着剤/ONY/接着剤/CPP70という構造を有する多層構造体(B24)を得た。次に、多層構造体(B21)を所定の形状に2枚切り出した後、CPP70が内側となるように2枚の多層構造体(C24)を重ね合わせ、周縁をヒートシールし、更に、ポリプロピレン製のスパウトをヒートシールによって取り付けた。このようにして、平パウチ型のスパウト付パウチを問題なく作製できた。
[実施例25]
実施例25では、本発明の多層構造体を用いてラミネートチューブ容器を作製した。まず、実施例1と同様の方法によって、多層構造体(A1)を作製した。次に、2枚の無延伸ポリプロピレンフィルム(トーセロ株式会社製、RXC−21(商品名)、厚さ100μm、以下「CPP100」と略記することがある)のそれぞれに、2液型の接着剤(三井武田ケミカル株式会社製、A−520(商品名)およびA−50(商品名))をコートして乾燥したものを準備し、多層構造体(A1)とラミネートした。このようにして、CPP100/接着剤/層(Y1)/PET/接着剤/CPP100という構造を有する多層構造体(B25)を得た。
次に、多層構造体(B25)を所定の形状に切り出した後、筒状にして重ね合わせた部分をヒートシールすることによって、筒状体を作製した。次に、その筒状体をチューブ容器成形用のマンドレルに装着し、筒状体の一端に、円錐台状の肩部とそれに連続する先端部とを作製した。肩部および先端部は、ポリプロピレン樹脂を圧縮成形することによって形成した。次に、上記先端部に、ポリプロピレン樹脂製のキャップを付けた。次に、筒状体の開放している他端をヒートシールした。このようにして、ラミネートチューブ容器を問題なく作製できた。
[実施例26]
実施例26では、本発明の多層構造体を用いて輸液バッグを作製した。まず、実施例21と同様の方法によって、PET/層(Y1)/接着剤/ONY/接着剤/CPP70という構造を有する多層構造体(B26)を得た。次に、多層構造体(B26)を所定の形状に2枚切り出した後、CPP70が内側となるように2枚の多層構造体(B26)を重ね合わせ、周縁をヒートシールし、更に、ポリプロピレン製のスパウトをヒートシールによって取り付けた。このようにして、輸液バッグを問題なく作製できた。
[実施例27]
実施例27では、本発明の多層構造体を用いて容器用蓋材を作製した。まず、実施例21と同様の方法によって、PET/層(Y1)/接着剤/ONY/接着剤/CPP70という構造を有する多層構造体(B27)を得た。次に、その多層構造体(B27)を、容器用蓋材として、直径88mmの円形に切り出した。また、直径78mm、フランジ幅が6.5mm、高さ30mmで、ポリオレフィン層/スチール層/ポリオレフィン層の3層で構成される円柱状容器(東洋製罐株式会社製ハイレトフレックスHR78−84)を準備した。この容器に水をほぼ満杯に充填し、多層構造体(B27)からなる容器用蓋材を、フランジ部にヒートシールした。このようにして、容器用蓋材を用いた蓋付き容器を問題なく作製できた。
[実施例28]
実施例28では、本発明の多層構造体を用いて紙容器を作製した。まず、実施例1と同様の方法によって、多層構造体(A1)を作製した。次に、400g/m2の板紙の両面に接着剤を塗布した後、その両面にポリプロピレン樹脂(以下、「PP」と略記することがある)を押出ラミネートすることによって、板紙の両面にPP層(厚さ各20μm)を形成した。その後、一方のPP層の表面に接着剤を塗布し、その上に多層構造体(A1)をラミネートし、さらに多層構造体(A1)の表面に接着剤を塗布し、無延伸ポリプロピレンフィルム(上述したCPP70)と貼り合わせた。このようにして、PP/板紙/PP/接着剤/層(Y1)/PET/接着剤/CPP70という構成を有する多層構造体(B28)を作製した。多層構造体(B28)の作製において、必要に応じてアンカーコート剤を用いた。このようにして得た多層構造体(B28)を用いて、ブリック型の紙容器を問題なく作製できた。
[実施例29]
実施例29では、本発明の多層構造体を用いて真空断熱体を作製した。まず、実施例21と同様の方法によって、ONY/接着剤/層(Y1)/PET/接着剤/CPP70という構成を有する多層構造体(B29)を得た。次に、多層構造体(B29)を所定の形状に2枚切り出した後、CPP70が内側となるように2枚の多層構造体(B29)を重ね合わせ、長方形の3辺をヒートシールすることによって袋を形成した。次に、袋の開口部から断熱性の芯材を充填し、真空包装機(Frimark GmbH製VAC−STAR 2500型)を用いて、温度20℃で内部圧力10Paの状態で袋を密封した。このようにして、真空断熱体を問題なく作製できた。なお、断熱性の芯材には、120℃の雰囲気下で4時間乾燥したシリカ微粉末を用いた。
[実施例30]
実施例30では、本発明の多層構造体を用いて太陽電池モジュールを作製した。まず、実施例1と同様の方法によって、多層構造体(A1)を作製した。次に、10cm角の強化ガラス上に設置されたアモルファス系のシリコン太陽電池セルを厚さ450μmのエチレン−酢酸ビニル共重合体で挟み込み、その上に多層構造体(A1)の層(Y1)が対面するように貼り合わせることで太陽電池モジュールを作製した。貼り合わせは、150℃にて真空引きを3分間行った後、9分間圧着を行うことによって実施した。このようにして作製された太陽電池モジュールは、良好に作動し、長期に渡って良好な電気出力特性を示した。
本発明の多層構造体は、ガスバリア性が優れ、良好な外観を有する。また、変形や衝撃などの物理的ストレスを受けた際にも、ガスバリア性を高いレベルで維持することができる。そのため、本発明の多層構造体は、食品、薬品、医療器材、産業資材、衣料等の包装材料として好ましく使用できる。
また、包装材料以外の用途としては、LCD用基板フィルム、有機EL用基板フィルム、電子ペーパー用基板フィルム、電子デバイス用封止フィルム、PDP用フィルム、LED用フィルム、ICタグ用フィルム、太陽電池用バックシート、太陽電池用保護フィルムなどの電子デバイス関連フィルム、光通信用部材、電子機器用フレキシブルフィルム、燃料電池用隔膜、燃料電池用封止フィルム、各種機能性フィルムの基板フィルムを例として挙げることができる。

Claims (17)

  1. 基材(X)と基材(X)に積層された層(Y)とを有する多層構造体であって、
    前記層(Y)は反応生成物(R)を含む組成物からなり、
    前記反応生成物(R)は、アルミニウムを含む金属酸化物(A)とリン化合物(B)とが反応してなる反応生成物であり、
    前記リン化合物(B)が、分子内に9個以下のリン原子を有するリン化合物(BL)と、分子内に10個以上のリン原子を有するリン化合物(BH)との両方を含み、
    前記層(Y)において、前記リン化合物(BL)の質量WLと、前記リン化合物(BH)の質量WHとが、1/99≦(質量WH)/(質量WL)≦35/65の関係を満たし、
    前記層(Y)において、前記金属酸化物(A)を構成する金属原子(M)のモル数NMと、前記リン化合物(BL)に由来するリン原子のモル数NPとが、1.0≦(モル数NM)/(モル数NP)≦3.6の関係を満たす、多層構造体。
  2. 前記金属酸化物(A)は、加水分解可能な特性基が結合した金属原子(M)を含有する化合物(L)の加水分解縮合物であって、
    前記化合物(L)が、以下の式(I)で示される少なくとも1種の化合物(L1)を含む、請求項1に記載の多層構造体。
    AlX1 m1 (3-m) (I)
    [式(I)中、X1は、F、Cl、Br、I、R2O−、R3C(=O)O−、(R4C(=O))2CH−およびNO3からなる群より選ばれる。R1、R2、R3およびR4はそれぞれ、アルキル基、アラルキル基、アリール基およびアルケニル基からなる群より選ばれる。式(I)において、複数のX1が存在する場合には、それらのX1は互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。式(I)において、複数のR1が存在する場合には、それらのR1は互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。式(I)において、複数のR2が存在する場合には、それらのR2は互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。式(I)において、複数のR3が存在する場合には、それらのR3は互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。式(I)において、複数のR4が存在する場合には、それらのR4は互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。mは1〜3の整数を表す。]
  3. 前記化合物(L1)が、アルミニウムトリイソプロポキシドおよびアルミニウムトリs−ブトキシドから選ばれる少なくとも1種の化合物である、請求項2に記載の多層構造体。
  4. 前記リン化合物(BL)が、リン酸、ポリリン酸、亜リン酸、ホスホン酸およびそれらの誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の多層構造体。
  5. 前記リン化合物(BH)は、末端がリン酸基である側鎖を含有する重合体である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の多層構造体。
  6. 前記リン化合物(BH)は、リン酸基を含有する(メタ)アクリル酸エステル類の単独重合体または共重合体であり、前記(メタ)アクリル酸エステル類が、以下の式(II)で示される少なくとも1種の化合物を含む、請求項5に記載の多層構造体。
    Figure 2013208793
    [式(II)中、R5およびR6は、水素原子またはメチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基から選ばれるアルキル基であり、アルキル基に含まれる一部の水素原子が他の原子や官能基で置換されていてもよい。nは1〜6の整数である]
  7. 前記リン化合物(BH)が、アシッドホスホオキシエチルメタクリレートの単独重合体である、請求項6に記載の多層構造体。
  8. 前記層(Y)の赤外線吸収スペクトルにおいて800〜1400cm-1の範囲における赤外線吸収が最大となる波数(n1)が1080〜1130cm-1の範囲にある、請求項1〜7のいずれか1項に記載の多層構造体。
  9. 前記層(Y)の赤外線吸収スペクトルにおいて、前記波数(n1)における吸光度(A1)と、波数(n2)における吸光度(A2)とが、吸光度(A2)/吸光度(A1)≦0.2の関係を満たし、
    前記波数(n2)は、前記層(Y)の赤外線吸収スペクトルにおいて、2500〜4000cm-1の範囲における水酸基の伸縮振動に基づく赤外線吸収が最大となる波数である、請求項8に記載の多層構造体。
  10. 前記波数(n1)の吸収ピークの半値幅が200cm-1以下である、請求項8または9に記載の多層構造体。
  11. 前記基材(X)が、熱可塑性樹脂フィルム層、紙層および無機蒸着層からなる群より選ばれる少なくとも1種の層を含む、請求項1〜10のいずれか1項に記載の多層構造体。
  12. 20℃、85%RHの条件下における酸素透過度が1ml/(m2・day・atm)以下である、請求項1〜11のいずれか1項に記載の多層構造体。
  13. 23℃、50%RHの条件下で、5%延伸した状態で5分間保持した後の20℃、85%RHの条件下における酸素透過度が、2ml/(m2・day・atm)以下である、請求項1〜12のいずれか1項に記載の多層構造体。
  14. 請求項1〜13のいずれか1項に記載の多層構造体を含む製品であって、
    前記多層構造体が、包装材料、太陽電池部材またはディスプレイ部材に使用されている製品。
  15. 基材(X)と基材(X)に積層された層(Y)とを有する多層構造体の製造方法であって、
    アルミニウムを含む金属酸化物(A)と、前記金属酸化物(A)と反応可能な部位を含有する複数の化合物と、溶媒とを混合することによって、前記金属酸化物(A)、前記複数の化合物および前記溶媒を含むコーティング液(U)を調製する工程(I)と、
    基材(X)上にコーティング液(U)を塗布することによって、基材(X)上に層(Y)の前駆体層を形成する工程(II)と、
    層(Y)の前駆体層を140℃以上の温度で熱処理して層(Y)を形成する工程(III)とを含み、
    前記複数の化合物が、分子内に9個以下のリン原子を有するリン化合物(BL)と、分子内に10個以上のリン原子を有するリン化合物(BH)とを含み、
    前記コーティング液(U)において、前記リン化合物(BL)の質量WLと、前記リン化合物(BH)の質量WHとが、1/99≦(質量WH)/(質量WL)≦35/65の関係を満たし、
    前記コーティング液(U)において、前記金属酸化物(A)を構成する金属原子(M)のモル数NMと、前記リン化合物(BL)に含まれるリン原子のモル数NPとが、1.0≦(モル数NM)/(モル数NP)≦3.6の関係を満たす、製造方法。
  16. 前記工程(I)が、
    前記金属酸化物(A)を含む液体(S)を調製する工程(a)と、
    前記リン化合物(BL)を含む溶液(TL)を調製する工程(bL)と、
    前記リン化合物(BH)を含む溶液(TH)を調製する工程(bH)と、
    前記液体(S)、前記溶液(TL)および前記溶液(TH)を混合する工程(c)とを含む、請求項15に記載の製造方法。
  17. 前記工程(c)において、前記液体(S)と前記溶液(TH)との混合が、前記液体(S)と前記溶液(TL)との混合と同時またはそれより後に実施される、請求項16に記載の製造方法。
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