以下、本発明の実施形態について説明する。なお、以下の説明において特定の機能を発現する材料として具体的な材料(化合物等)を例示する場合があるが、本発明はそのような材料を使用した態様に限定されない。また例示される材料は、特に記載がない限り、1種を単独で使用してもよいし2種以上を併用してもよい。
[複合構造体]
本発明の複合構造体は、基材(X)と基材(X)に積層された層(Y)とを有する。層(Y)は、反応生成物(R)を含む。反応生成物(R)は、少なくとも金属酸化物(A)と硫黄化合物(B)とが反応してなる反応生成物である。層(Y)において、金属酸化物(A)を構成する金属原子のモル数(NM)と、硫黄化合物(B)に由来する硫黄原子のモル数(Ns)とは、0.6≦(前記モル数(NM))/(前記モル数(Ns))≦4.0の関係を満たす。なお、本発明の複合構造体が有する層(Y)は、反応に関与していない金属酸化物(A)および/または硫黄化合物(B)を、部分的に含んでいてもよい。
[金属酸化物(A)]
金属酸化物(A)を構成する金属原子(M)としては、原子価が2価以上(たとえば、2〜4価や3〜4価)の金属原子を挙げることができ、具体的には、例えば、マグネシウム、カルシウム等の周期表第2族の金属;亜鉛等の周期表第12族の金属;アルミニウム等の周期表第13族の金属;ケイ素等の周期表第14族の金属;チタン、ジルコニウム等の遷移金属などを挙げることができる。なお、ケイ素は半金属に分類される場合があるが、本明細書ではケイ素を金属に含めるものとする。金属酸化物(A)を構成する金属原子(M)は1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。これらの中でも、金属酸化物(A)を製造するための取り扱いの容易さや得られる複合構造体のガスバリア性がより優れることから、金属酸化物(A)を構成する金属原子(M)は、アルミニウム、チタンおよびジルコニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、アルミニウムであることが特に好ましい。
金属原子(M)に占める、アルミニウム、チタンおよびジルコニウムの合計の割合は、60モル%以上、70モル%以上、80モル%以上、90モル%以上、95モル%以上、または100モル%であってもよい。また、金属原子(M)に占める、アルミニウムの割合は、60モル%以上、70モル%以上、80モル%以上、90モル%以上、95モル%以上、または100モル%であってもよい。
金属酸化物(A)としては、液相合成法、気相合成法、固体粉砕法などの方法により製造されたものを使用することができるが、得られる金属酸化物(A)の形状や大きさの制御性や製造効率などを考慮すると、液相合成法により製造されたものが好ましい。
液相合成法においては、加水分解可能な特性基が金属原子(M)に結合した化合物(L)を原料として用いてこれを加水分解縮合させることで、化合物(L)の加水分解縮合物として金属酸化物(A)を合成することができる。また化合物(L)の加水分解縮合物を液相合成法で製造するにあたっては、原料として化合物(L)そのものを用いる方法以外にも、化合物(L)が部分的に加水分解してなる化合物(L)の部分加水分解物、化合物(L)が完全に加水分解してなる化合物(L)の完全加水分解物、化合物(L)が部分的に加水分解縮合してなる化合物(L)の部分加水分解縮合物、化合物(L)の完全加水分解物の一部が縮合したもの、あるいはこれらのうちの2種以上の混合物を原料として用いてこれを縮合または加水分解縮合させることによっても金属酸化物(A)を製造することができる。なお、化合物(L)の加水分解縮合物(A)は、実質的に金属酸化物とみなすことが可能である。そのため、この明細書では、化合物(L)の加水分解縮合物(A)を「金属酸化物(A)」という場合がある。すなわち、この明細書において、「金属酸化物(A)」を、「化合物(L)の加水分解縮合物(A)」と読み替えることが可能であり、「化合物(L)の加水分解縮合物(A)」を「金属酸化物(A)」と読み替えることが可能である。上記の加水分解可能な特性基(官能基)の種類に特に制限はなく、例えば、ハロゲン原子(F、Cl、Br、I等)、アルコキシ基、アシロキシ基、ジアシルメチル基、ニトロ基等が挙げられるが、反応の制御性に優れることから、ハロゲン原子またはアルコキシ基が好ましく、アルコキシ基がより好ましい。
化合物(L)は、反応の制御が容易で、得られる複合構造体のガスバリア性が優れることから、以下の式(I)で示される少なくとも1種の化合物(L1)を含むことが好ましい。
M1X1 mR1 (n-m) (I)
[式(I)中、M1は、Al、TiおよびZrからなる群より選ばれる。X1は、F、Cl、Br、I、R2O−、R3C(=O)O−、(R4C(=O))2CH−およびNO3からなる群より選ばれる。R1、R2、R3およびR4はそれぞれ、アルキル基、アラルキル基、アリール基およびアルケニル基からなる群より選ばれる。式(I)において、複数のX1が存在する場合には、それらのX1は互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。式(I)において、複数のR1が存在する場合には、それらのR1は互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。式(I)において、複数のR2が存在する場合には、それらのR2は互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。式(I)において、複数のR3が存在する場合には、それらのR3は互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。式(I)において、複数のR4が存在する場合には、それらのR4は互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。nはM1の原子価に等しい。mは1〜nの整数を表す。]
R1、R2、R3およびR4が表すアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基等が挙げられる。R1、R2、R3およびR4が表すアラルキル基としては、例えば、ベンジル基、フェネチル基、トリチル基等が挙げられる。R1、R2、R3およびR4が表すアリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、トリル基、キシリル基、メシチル基等が挙げられる。R1、R2、R3およびR4が表すアルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基等が挙げられる。R1は、例えば、炭素数が1〜10のアルキル基であることが好ましく、炭素数が1〜4のアルキル基であることがより好ましい。X1は、F、Cl、Br、I、およびR2O−から選ばれることが好ましい。化合物(L1)の好ましい一例では、X1がハロゲン原子(F、Cl、Br、I)または炭素数が1〜4のアルコキシ基(R2O−)であり、mはn(M1の原子価)と等しい。金属酸化物(A)を製造するための取り扱いの容易さや得られる複合構造体のガスバリア性がより優れることから、M1はAl、TiまたはZrであることが好ましく、Alであることが特に好ましい。化合物(L1)の一例では、X1がハロゲン原子(F、Cl、Br、I)または炭素数が1〜4のアルコキシ基(R2O−)であり、mはn(M1の原子価)と等しく、M1はAlである。
化合物(L1)の具体例としては、例えば、塩化アルミニウム、アルミニウムトリエトキシド、アルミニウムトリノルマルプロポキシド、アルミニウムトリイソプロポキシド、アルミニウムトリノルマルブトキシド、アルミニウムトリs−ブトキシド、アルミニウムトリt−ブトキシド、アルミニウムトリアセテート、アルミニウムアセチルアセトネート、硝酸アルミニウム等のアルミニウム化合物;チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラノルマルブトキシド、チタンテトラ(2−エチルヘキソキシド)、チタンテトラメトキシド、チタンテトラエトキシド、チタンアセチルアセトネート等のチタン化合物;ジルコニウムテトラノルマルプロポキシド、ジルコニウムテトラブトキシド、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート等のジルコニウム化合物が挙げられる。これらの中でも、化合物(L1)としては、アルミニウムトリイソプロポキシドおよびアルミニウムトリs−ブトキシドから選ばれる少なくとも1つの化合物が好ましい。化合物(L1)は1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
本発明の効果が得られる限り、化合物(L)に占める化合物(L1)の割合に特に限定はない。化合物(L1)以外の化合物が化合物(L)に占める割合は、例えば、20モル%以下や10モル%以下や5モル%以下や0モル%である。一例では、化合物(L)は化合物(L1)のみからなる。
また、化合物(L1)以外の化合物(L)としては、本発明の効果が得られる限り特に限定されないが、例えばマグネシウム、カルシウム、亜鉛、ケイ素等の金属原子に、上述の加水分解可能な特性基が結合した化合物などが挙げられる。
化合物(L)が加水分解されることによって、化合物(L)が有する加水分解可能な特性基の少なくとも一部が水酸基に置換される。さらに、その加水分解物が縮合することによって、金属原子(M)が酸素原子(O)を介して結合された化合物が形成される。この縮合が繰り返されると、実質的に金属酸化物とみなしうる化合物が形成される。なお、このようにして形成された金属酸化物(A)の表面には、通常、水酸基が存在する。
本明細書においては、金属原子(M)のモル数に対する、M−O−Mで表される構造における酸素原子(O)のように、金属原子(M)のみに結合している酸素原子(例えば、M−O−Hで表される構造における酸素原子(O)のように金属原子(M)と水素原子(H)に結合している酸素原子は除外する)のモル数の割合([金属原子(M)のみに結合している酸素原子(O)のモル数]/[金属原子(M)のモル数])が0.8以上となる化合物を金属酸化物(A)に含めるものとする。金属酸化物(A)は、上記割合が0.9以上であることが好ましく、1.0以上であることがより好ましく、1.1以上であることがさらに好ましい。上記割合の上限は特に限定されないが、金属原子(M)の原子価をnとすると、通常、n/2で表される。
上記の加水分解縮合が起こるためには、化合物(L)が加水分解可能な特性基(官能基)を有していることが重要である。それらの基が結合していない場合、加水分解縮合反応が起こらないか極めて緩慢になるため、目的とする金属酸化物(A)の調製が困難になる。
加水分解縮合物は、例えば、公知のゾルゲル法で採用される手法により特定の原料から製造することができる。当該原料には、化合物(L)、化合物(L)の部分加水分解物、化合物(L)の完全加水分解物、化合物(L)の部分加水分解縮合物、および化合物(L)の完全加水分解物の一部が縮合したものからなる群より選ばれる少なくとも1種(以下、「化合物(L)系成分」と称する場合がある)を用いることができる。これらの原料は、公知の方法で製造してもよいし、市販されているものを用いてもよい。特に限定はないが、例えば、2〜10個程度の化合物(L)が加水分解縮合することによって得られる縮合物を原料として用いることができる。具体的には、例えば、アルミニウムトリイソプロポキシドを加水分解縮合させて2〜10量体の縮合物としたものを原料の一部として用いることができる。
化合物(L)の加水分解縮合物において縮合される分子の数は、化合物(L)系成分を縮合または加水分解縮合する際の条件によって制御することができる。例えば、縮合される分子の数は、水の量、触媒の種類や濃度、縮合または加水分解縮合する際の温度や時間などによって制御することができる。
上記したように、本発明の複合構造体が有する層(Y)は、反応生成物(R)を含み、反応生成物(R)は、少なくとも金属酸化物(A)と硫黄化合物(B)とが反応してなる反応生成物である。このような反応生成物は、金属酸化物(A)と硫黄化合物(B)とを混合して反応させることによって形成できる。硫黄化合物(B)との混合に供される(混合される直前の)金属酸化物(A)は、金属酸化物(A)そのものであってもよいし、金属酸化物(A)を含む組成物の形態であってもよい。好ましい一例では、金属酸化物(A)を溶媒に溶解または分散することによって得られた液体(溶液または分散液)の形態で、金属酸化物(A)が硫黄化合物(B)と混合される。
金属酸化物(A)の溶液または分散液を製造するための好ましい方法を以下に記載する。ここでは、金属酸化物(A)が酸化アルミニウム(アルミナ)である場合を例にとってその分散液を製造する方法を説明するが、他の金属酸化物の溶液や分散液を製造する際にも類似の製造方法を採用することができる。好ましいアルミナの分散液は、アルミニウムアルコキシドを必要に応じて酸触媒でpH調整した水溶液中で加水分解縮合してアルミナのスラリーとし、これを特定量の酸の存在下に解膠することにより得ることができる。
アルミニウムアルコキシドを加水分解縮合する際の反応系の温度は特に限定されない。当該反応系の温度は、通常2〜100℃の範囲内である。水とアルミニウムアルコキシドが接触すると液の温度が上昇するが、加水分解の進行に伴いアルコールが副生し、当該アルコールの沸点が水よりも低い場合に当該アルコールが揮発することにより反応系の温度がアルコールの沸点付近以上には上がらなくなる場合がある。そのような場合、アルミナの成長が遅くなることがあるため、95℃付近まで加熱して、アルコールを除去することが有効である。反応時間は反応条件(酸触媒の有無、量や種類など)に応じて相違する。反応時間は、通常、0.01〜60時間の範囲内であり、好ましくは0.1〜12時間の範囲内であり、より好ましくは0.1〜6時間の範囲内である。また、反応は、空気、二酸化炭素、窒素、アルゴンなどの各種気体の雰囲気下で行うことができる。
加水分解縮合の際に用いる水の量は、アルミニウムアルコキシドに対して1〜200モル倍であることが好ましく、10〜100モル倍であることがより好ましい。水の量が1モル倍未満の場合には加水分解が充分進行しないため好ましくない。一方200モル倍を超える場合には製造効率が低下したり粘度が高くなったりするため好ましくない。水を含有する成分(例えば塩酸や硝酸など)を使用する場合には、その成分によって導入される水の量も考慮して水の使用量を決定することが好ましい。
加水分解縮合に使用する酸触媒としては、塩酸、硫酸、硝酸、p−トルエンスルホン酸、安息香酸、酢酸、乳酸、酪酸、炭酸、シュウ酸、マレイン酸等を用いることができる。これらの中でも、塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、乳酸、酪酸が好ましく、硝酸、酢酸がより好ましい。加水分解縮合時に酸触媒を使用する場合には、加水分解縮合前のpHが2.0〜4.0の範囲内となるように酸の種類に応じて適した量を使用することが好ましい。
加水分解縮合により得られたアルミナのスラリーをそのままアルミナ分散液として使用することもできるが、得られたアルミナのスラリーを、特定量の酸の存在下に加熱して解膠することで、透明で粘度安定性に優れたアルミナの分散液を得ることができる。
解膠時に使用される酸としては、硝酸、塩酸、過塩素酸、蟻酸、酢酸、プロピオン酸などの1価の無機酸や有機酸を使用することができる。これらの中でも、硝酸、塩酸、酢酸が好ましく、硝酸、酢酸がより好ましい。
解膠時の酸として硝酸、塩酸を使用する場合、その量はアルミニウム原子に対して0.001〜0.4モル倍であることが好ましく、0.005〜0.3モル倍であることがより好ましい。0.001モル倍未満の場合には解膠が充分に進行しない、または非常に長い時間を要するなどの不具合を生じる場合がある。また0.4モル倍を超える場合には得られるアルミナの分散液の経時安定性が低下する傾向がある。
一方、解膠時の酸として酢酸を使用する場合、その量はアルミニウム原子に対して0.01〜1.0モル倍であることが好ましく、0.05〜0.5モル倍であることがより好ましい。0.01モル倍未満の場合には解膠が充分に進行しない、または非常に長い時間を要するなどの不具合を生じる場合がある。また1.0モル倍を超える場合には得られるアルミナの分散液の経時安定性が低下する傾向がある。
解膠時に存在させる酸は、加水分解縮合時に添加されてもよいが、加水分解縮合で副生するアルコールを除去する際に酸が失われた場合には、前記範囲の量になるように、再度、添加することが好ましい。
解膠を40〜200℃の範囲内で行うことによって、適度な酸の使用量で短時間に解膠させ、所定の粒子サイズを有し、粘度安定性に優れたアルミナの分散液を製造することができる。解膠時の温度が40℃未満の場合には解膠に長時間を要し、200℃を超える場合には温度を高くすることによる解膠速度の増加量は僅かである一方、高耐圧容器等を必要とし経済的に不利なので好ましくない。
解膠が完了した後、必要に応じて、溶媒による希釈や加熱による濃縮を行うことにより、所定の濃度を有するアルミナの分散液を得ることができる。ただし、増粘やゲル化を抑制するため、加熱濃縮を行う場合は、減圧下に、60℃以下で行うことが好ましい。
硫黄化合物(B)(組成物として用いる場合には硫黄化合物(B)を含む組成物)との混合に供される金属酸化物(A)は硫黄原子を実質的に含有しないことが好ましい。しかしながら、例えば、金属酸化物(A)の調製時における不純物の影響などによって、硫黄化合物(B)(組成物として用いる場合には硫黄化合物(B)を含む組成物)との混合に供される金属酸化物(A)中に少量の硫黄原子が混入する場合がある。そのため、本発明の効果が損なわれない範囲内で、硫黄化合物(B)(組成物として用いる場合には硫黄化合物(B)を含む組成物)との混合に供される金属酸化物(A)は少量の硫黄原子を含有していてもよい。硫黄化合物(B)(組成物として用いる場合には硫黄化合物(B)を含む組成物)との混合に供される金属酸化物(A)に含まれる硫黄原子の含有率は、ガスバリア性により優れる複合構造体が得られることから、当該金属酸化物(A)に含まれる全ての金属原子(M)のモル数を基準(100モル%)として、30モル%以下であることが好ましく、10モル%以下であることがより好ましく、5モル%以下であることがさらに好ましく、1モル%以下であることが特に好ましく、0モル%であってもよい。
[硫黄化合物(B)]
硫黄化合物(B)は、金属酸化物(A)と反応可能な部位を含有し、典型的には、そのような部位を複数含有する。好ましい一例では、硫黄化合物(B)は、そのような部位(原子団または官能基)を2〜20個含有する。そのような部位の例には、金属酸化物(A)の表面に存在する官能基(たとえば水酸基)と反応可能な部位が含まれる。たとえば、そのような部位の例には、硫黄原子に直接結合したハロゲン原子や、硫黄原子に単結合によって直接結合した酸素原子が含まれる。すなわち、好ましい一例では、硫黄化合物(B)は、硫黄原子に直接結合したハロゲン原子、および、硫黄原子に単結合によって直接結合した酸素原子からなる群より選ばれる少なくとも1種の原子を複数含有する。それらのハロゲン原子や酸素原子は、金属酸化物(A)の表面に存在する水酸基と縮合反応(加水分解縮合反応)を起こすことができる。金属酸化物(A)の表面に存在する官能基(たとえば水酸基)は、通常、金属酸化物(A)を構成する金属原子(M)に結合している。
硫黄化合物(B)としては、例えば、ハロゲン原子および/または酸素原子が硫黄原子に単結合によって直接結合した構造を有するものを用いることができ、このような硫黄化合物(B)は、金属酸化物(A)の表面に存在する水酸基と(加水分解)縮合することによって、金属酸化物(A)に結合できる。硫黄化合物(B)は、1つの硫黄原子を有するものであってもよいし、2つ以上の硫黄原子を有するものであってもよい。
硫黄化合物(B)としては、硫酸、二硫酸、過硫酸、ペルオキソ二硫酸、亜硫酸、二亜硫酸、ジチオン酸、ポリチオン酸、亜ジチオン酸、チオ硫酸およびそれらの誘導体が挙げられる。上記の誘導体の例としては、上記した硫黄化合物の塩、(部分)エステル化合物、ハロゲン化物(塩化物等)、脱水物などが挙げられる。これらの硫黄化合物(B)は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの硫黄化合物(B)の中でも、後述するコーティング液(U)を用いて層(Y)を形成する場合におけるコーティング液(U)の安定性と得られる複合構造体のガスバリア性がより優れることから、硫酸を単独で使用するか、または、硫酸とそれ以外の硫黄化合物とを併用することが好ましい。
典型的な層(Y)では、金属酸化物(A)の粒子同士が、硫黄化合物(B)に由来する硫黄原子を介して結合された特定の構造を有する。このような構造は金属酸化物(A)と硫黄化合物(B)とを混合して反応させることによって形成できる。金属酸化物(A)との混合に供される(混合される直前の)硫黄化合物(B)は、硫黄化合物(B)そのものであってもよいし硫黄化合物(B)を含む組成物の形態であってもよく、硫黄化合物(B)を含む組成物の形態が好ましい。好ましい一例では、硫黄化合物(B)を溶媒に溶解することによって得られる溶液の形態で、硫黄化合物(B)が金属酸化物(A)と混合される。その際の溶媒には任意の溶媒が使用できるが、水または水を含む混合溶媒が好ましい溶媒として挙げられる。
[反応生成物(R)]
反応生成物(R)には、金属酸化物(A)および硫黄化合物(B)のみが反応することによって生成される反応生成物が含まれる。また、反応生成物(R)には、金属酸化物(A)と硫黄化合物(B)とさらに他の化合物とが反応することによって生成される反応生成物も含まれる。反応生成物(R)は、後述する製造方法で説明する方法によって形成できる。
[金属酸化物(A)と硫黄化合物(B)との比率]
層(Y)において、金属酸化物(A)を構成する金属原子のモル数(NM)と硫黄化合物(B)に由来する硫黄原子のモル数(NS)とは、0.6≦(モル数(NM))/(モル数(NS))≦4.0の関係を満たす。モル数(NM)とモル数(NS)とは、0.8≦(モル数(NM))/(モル数(NS))≦3.0の関係を満たしてもよく、1.0≦(モル数(NM))/(モル数(NS))≦2.0の関係を満たすことが好ましい。(モル数(NM))/(モル数(Ns))の値が4.0を超えると、金属酸化物(A)が硫黄化合物(B)に対して過剰となり、金属酸化物(A)の粒子同士の結合が不充分となり、ガスバリア性と耐酸性が低下する傾向がある。一方、(モル数(NM))/(モル数(Ns))の値が0.6未満であると、硫黄化合物(B)が金属酸化物(A)に対して過剰となり、金属酸化物(A)との結合に関与しない余剰な硫黄化合物(B)が多くなり、ガスバリア性が低下する傾向がある。
なお、上記比は、層(Y)を形成するためのコーティング液における、金属酸化物(A)の量と硫黄化合物(B)の量との比によって調整できる。層(Y)におけるモル数(NM)とモル数(NS)との比は、通常、コーティング液における比であって金属酸化物(A)を構成する金属原子のモル数と硫黄化合物(B)を構成する硫黄原子のモル数との比と同じである。
また、本発明の複合構造体においては、800〜1400cm-1の範囲における層(Y)の赤外線吸収スペクトルにおいて赤外線吸収が最大となる波数(n1)が1070〜1090cm-1の範囲(たとえば、1070〜1080cm-1の範囲や1070〜1075cm-1の範囲)にあることが好ましい。当該波数(n1)を、以下では、「最大吸収波数(n1)」という場合がある。最大吸収波数(n1)がこの範囲にあることは、金属酸化物(A)と硫黄化合物(B)との反応が効果的に進行したことを示すものであり、得られる複合構造体のガスバリア性と耐酸性を向上させることができる。ここで、層(Y)の赤外線吸収スペクトルは、ATR法(全反射測定法)で測定するか、または、複合構造体から層(Y)をかきとり、その赤外線吸収スペクトルをKBr法で測定することによって得ることができる。
さらに、本発明の複合構造体においては、層(Y)を構成する金属酸化物(A)の各粒子の形状は特に限定されず、例えば、球状、扁平状、多面体状、繊維状、針状などの形状を挙げることができ、繊維状または針状の形状であることがガスバリア性により優れる複合構造体となることから好ましい。層(Y)は単一の形状を有する粒子のみを有していてもよいし、2種以上の異なる形状を有する粒子を有していてもよい。また、金属酸化物(A)の粒子の大きさも特に限定されず、ナノメートルサイズからサブミクロンサイズのものを例示することができるが、ガスバリア性と透明性により優れる複合構造体となることから、金属酸化物(A)の粒子のサイズは、平均粒径として1〜100nmの範囲にあることが好ましい。層(Y)が上記のような微細構造を有することにより、当該複合構造体のガスバリア性が向上する。ただし、層(Y)の原料として用いられる金属酸化物(A)の粒子は、層(Y)を形成する過程で、形状やサイズが変化してもよい。特に、後述するコーティング液(U)を用いて層(Y)を形成する場合には、コーティング液(U)中やそれを形成するために使用することのできる後述する液体(S)中において、あるいはコーティング液(U)を基材(X)上に塗布した後の各工程において、形状やサイズが変化することがある。
なお、層(Y)における上記のような微細構造は、透過型電子顕微鏡(TEM)により当該層(Y)の断面を観察することにより確認することができる。また、層(Y)における金属酸化物(A)の各粒子の粒径は、透過型電子顕微鏡(TEM)によって得られた層(Y)の断面観察像において、各粒子の最長軸における最大長さと、それと垂直な軸における当該粒子の最大長さの平均値として求めることができ、断面観察像において任意に選択した10個の粒子の粒径を平均することにより、上記平均粒径を求めることができる。
また、本発明の複合構造体が有する層(Y)において、金属酸化物(A)の各粒子と硫黄原子との結合形態としては、例えば、金属酸化物(A)を構成する金属原子(M)と硫黄原子(S)とが酸素原子(O)を介して結合された形態を挙げることができる。金属酸化物(A)の粒子同士は1分子の硫黄化合物(B)に由来する硫黄原子(S)を介して結合していてもよいが、2分子以上の硫黄化合物(B)に由来する硫黄原子(S)を介して結合していてもよい。結合している2つの金属酸化物(A)の粒子間の具体的な結合形態としては、結合している一方の金属酸化物(A)の粒子を構成する金属原子を(Mα)と表し、他方の金属酸化物(A)の粒子を構成する金属原子を(Mβ)と表すと、例えば、(Mα)−O−S−O−(Mβ)の結合形態;(Mα)−O−S−[O−S]n−O−(Mβ)の結合形態;(Mα)−O−S−Z−S−O−(Mβ)の結合形態;(Mα)−O−S−Z−S−[O−S−Z−S]n−O−(Mβ)の結合形態などが挙げられる。なお上記結合形態の例において、nは1以上の整数を表し、Zは硫黄化合物(B)が分子中に2つ以上の硫黄原子を有する場合における2つの硫黄原子間に存在する構成原子群を表し、硫黄原子に結合しているその他の置換基の記載は省略している。複合構造体が有する層(Y)において、1つの金属酸化物(A)の粒子は複数の他の金属酸化物(A)の粒子と結合していることが、得られる複合構造体のガスバリア性の観点から好ましい。
[重合体(C)]
層(Y)は、特定の重合体(C)をさらに含んでもよい。重合体(C)は、水酸基、カルボキシル基、カルボン酸無水物基、およびカルボキシル基の塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基(f)を有する重合体である。本発明の複合構造体が有する層(Y)において重合体(C)は、それが有する官能基(f)によって金属酸化物(A)の粒子および硫黄化合物(B)に由来する硫黄原子の一方または両方と直接的にまたは間接的に結合していてもよい。また本発明の複合構造体が有する層(Y)において反応生成物(R)は、重合体(C)が金属酸化物(A)や硫黄化合物(B)と反応するなどして生じる重合体(C)部分を有していてもよい。なお、本明細書において、硫黄化合物(B)としての要件を満たす重合体であって官能基(f)を含む重合体は、重合体(C)には含めずに硫黄化合物(B)として扱う。
重合体(C)としては、官能基(f)を有する構成単位を含む重合体を用いることができる。このような構成単位の具体例としては、ビニルアルコール単位、アクリル酸単位、メタクリル酸単位、マレイン酸単位、イタコン酸単位、無水マレイン酸単位、無水フタル酸単位などの、官能基(f)を1個以上有する構成単位が挙げられる。重合体(C)は、官能基(f)を有する構成単位を1種類のみ含んでいてもよいし、官能基(f)を有する構成単位を2種類以上含んでいてもよい。
より優れたガスバリア性を有する複合構造体を得るために、重合体(C)の全構成単位に占める、官能基(f)を有する構成単位の割合は、10モル%以上であることが好ましく、20モル%以上であることがより好ましく、40モル%以上であることがさらに好ましく、70モル%以上であることが特に好ましく、100モル%であってもよい。
官能基(f)を有する構成単位とそれ以外の他の構成単位とによって重合体(C)が構成されている場合、当該他の構成単位の種類は特に限定されない。当該他の構成単位の例には、アクリル酸メチル単位、メタクリル酸メチル単位、アクリル酸エチル単位、メタクリル酸エチル単位、アクリル酸ブチル単位、およびメタクリル酸ブチル単位等の(メタ)アクリル酸エステルから誘導される構成単位;ギ酸ビニル単位および酢酸ビニル単位等のビニルエステルから誘導される構成単位;スチレン単位およびp−スチレンスルホン酸単位等の芳香族ビニルから誘導される構成単位;エチレン単位、プロピレン単位、およびイソブチレン単位等のオレフィンから誘導される構成単位などが含まれる。重合体(C)が2種類以上の構成単位を含む場合、当該重合体(C)は、交互共重合体、ランダム共重合体、ブロック共重合体、およびテーパー型共重合体のいずれであってもよい。
水酸基を有する重合体(C)の具体例としては、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニルの部分けん化物、ポリエチレングリコール、ポリヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、でんぷん等の多糖類、多糖類から誘導される多糖類誘導体などが挙げられる。カルボキシル基、カルボン酸無水物基またはカルボキシル基の塩を有する重合体(C)の具体例としては、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリ(アクリル酸/メタクリル酸)およびそれらの塩などを挙げることができる。また、官能基(f)を含有しない構成単位を含む重合体(C)の具体例としては、エチレン−ビニルアルコール共重合体、エチレン−無水マレイン酸共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、イソブチレン−無水マレイン酸交互共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体のけん化物などが挙げられる。より優れたガスバリア性を有する複合構造体を得るために、重合体(C)は、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、多糖類、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸の塩、ポリメタクリル酸、およびポリメタクリル酸の塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の重合体であることが好ましい。
重合体(C)の分子量に特に制限はない。より優れたガスバリア性および力学的物性(落下衝撃強さ等)を有する複合構造体を得るために、重合体(C)の数平均分子量は、5,000以上であることが好ましく、8,000以上であることがより好ましく、10,000以上であることがさらに好ましい。重合体(C)の数平均分子量の上限は特に限定されず、例えば、1,500,000以下である。
ガスバリア性をより向上させるために、層(Y)における重合体(C)の含有率は、層(Y)の質量を基準(100質量%)として、30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましく、5質量%以下であってもよい。重合体(C)は、層(Y)中の他の成分と反応していてもよいし、反応していなくてもよい。なお、本明細書では、重合体(C)が他の成分と反応している場合も、重合体(C)と表現する。たとえば、重合体(C)が、金属酸化物(A)、および/または、硫黄化合物(B)に由来する硫黄原子と結合している場合も、重合体(C)と表現する。この場合、上記の重合体(C)の含有率は、金属酸化物(A)および/または硫黄原子と結合する前の重合体(C)の質量を層(Y)の質量で除して算出する。
本発明の複合構造体が有する層(Y)は、少なくとも金属酸化物(A)と硫黄化合物(B)とが反応してなる反応生成物(R)(ただし、重合体(C)部分を有するものを含む)のみから構成されていてもよいし、当該反応生成物(R)と、反応していない重合体(C)のみから構成されていてもよいが、その他の成分をさらに含んでいてもよい。
上記の他の成分としては、例えば、炭酸塩、塩酸塩、硝酸塩、リン酸塩、ホウ酸塩、アルミン酸塩等の無機酸金属塩;シュウ酸塩、酢酸塩、酒石酸塩、ステアリン酸塩等の有機酸金属塩;アセチルアセトナート金属錯体(アルミニウムアセチルアセトナート等)、シクロペンタジエニル金属錯体(チタノセン等)、シアノ金属錯体等の金属錯体;層状粘土化合物;架橋剤;重合体(C)以外の高分子化合物;可塑剤;酸化防止剤;紫外線吸収剤;難燃剤などが挙げられる。
本発明の複合構造体中の層(Y)における上記の他の成分の含有率は、50質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましく、5質量%以下であることが特に好ましく、0質量%(他の成分を含まない)であってもよい。
[層(Y)の厚さ]
本発明の複合構造体が有する層(Y)の厚さ(複合構造体が2層以上の層(Y)を有する場合には各層(Y)の厚さの合計)は、4.0μm以下であることが好ましく、2.0μm以下であることがより好ましく、1.0μm以下であることがさらに好ましく、0.9μm以下であることが特に好ましい。層(Y)を薄くすることによって、印刷、ラミネート等の加工時における複合構造体の寸法変化を低く抑えることができ、さらに複合構造体の柔軟性が増し、その力学的特性を、基材自体の力学的特性に近づけることができる。本発明の複合構造体では、層(Y)の厚さの合計が1.0μm以下(例えば0.5μm以下)の場合でも、20℃、0%RH(相対湿度)の条件下における酸素透過度を1ml/(m2・day・atm)以下とすることが可能である。ここで「0%RH」とは複合構造体の両側の相対湿度が0%であることを意味する。また、層(Y)の厚さ(複合構造体が2層以上の層(Y)を有する場合には各層(Y)の厚さの合計)は、0.1μm以上(例えば0.2μm以上)であることが好ましい。なお、層(Y)1層当たりの厚さは、本発明の複合構造体のガスバリア性がより良好になる観点から、0.05μm以上(例えば0.15μm以上)であることが好ましい。層(Y)の厚さは、層(Y)の形成に用いられる後述するコーティング液(U)の濃度や、その塗布方法によって制御することができる。
[基材(X)]
本発明の複合構造体が有する基材(X)の材質に特に制限はなく、様々な材質からなる基材を用いることができる。基材(X)の材質としては、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等の樹脂;布帛、紙類等の繊維集合体;木材;ガラス;金属;金属酸化物などが挙げられる。なお、基材は複数の材質からなる複合構成または多層構成のものであってもよい。
基材(X)の形態に特に制限はなく、フィルムやシート等の層状の基材であってもよいし、球、多面体およびパイプ等の立体形状を有する各種成形体であってもよい。これらの中でも、層状の基材は、食品等を包装するための包装材料に複合構造体(積層構造体)を用いる場合に、特に有用である。
層状の基材としては、例えば、熱可塑性樹脂フィルム層、熱硬化性樹脂フィルム層、繊維重合体シート(布帛、紙等)層、木材シート層、ガラス層、無機蒸着層および金属箔層からなる群より選ばれる少なくとも1種の層を含む単層または複層の基材が挙げられる。これらの中でも、熱可塑性樹脂フィルム層、紙層および無機蒸着層からなる群より選ばれる少なくとも1種の層を含む基材が好ましく、その場合の基材は単層であってもよいし、複層であってもよい。そのような基材を用いた複合構造体(積層構造体)は、包装材料への加工性や包装材料として使用する際の諸適性に優れる。
熱可塑性樹脂フィルム層を形成する熱可塑性樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート、ポリブチレンテレフタレートやこれらの共重合体等のポリエステル系樹脂;ナイロン−6、ナイロン−66、ナイロン−12等のポリアミド系樹脂;ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体などの水酸基含有ポリマー;ポリスチレン;ポリ(メタ)アクリル酸エステル;ポリアクリロニトリル;ポリ酢酸ビニル;ポリカーボネート;ポリアリレート;再生セルロース;ポリイミド;ポリエーテルイミド;ポリスルフォン;ポリエーテルスルフォン;ポリエーテルエーテルケトン;アイオノマー樹脂などの熱可塑性樹脂を成形加工することによって得られるフィルムを挙げることができる。食品等を包装するための包装材料に用いられる積層体の基材としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン−6、またはナイロン−66からなるフィルムが好ましい。
熱可塑性樹脂フィルムは、延伸フィルムであってもよいし無延伸フィルムであってもよい。得られる複合構造体の加工適性(印刷やラミネートなど)が優れることから、延伸フィルム、特に二軸延伸フィルムが好ましい。二軸延伸フィルムは、同時二軸延伸法、逐次二軸延伸法、およびチューブラ延伸法のいずれかの方法で製造された二軸延伸フィルムであってもよい。
紙層に用いられる紙としては、例えば、クラフト紙、上質紙、模造紙、グラシン紙、パーチメント紙、合成紙、白板紙、マニラボール、ミルクカートン原紙、カップ原紙、アイボリー紙などが挙げられる。紙層を含む基材を用いることによって、紙容器用の積層構造体を得ることができる。
無機蒸着層は、酸素ガスや水蒸気に対するバリア性を有するものであることが好ましい。無機蒸着層は、アルミニウムなどの金属蒸着層のように遮光性を有するものや、透明性を有するものを適宜使用することができる。無機蒸着層は、基体の上に無機物を蒸着することにより形成することができ、基体の上に無機蒸着層が形成された積層体全体を、多層構成の基材(X)として用いることができる。透明性を有する無機蒸着層としては、例えば、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸窒化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化錫、またはそれらの混合物等の無機酸化物から形成される層;窒化ケイ素、炭窒化ケイ素等の無機窒化物から形成される層;炭化ケイ素等の無機炭化物から形成される層などが挙げられる。これらの中でも、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、窒化ケイ素から形成される層は、酸素ガスや水蒸気に対するバリア性が優れる観点から好ましい。
無機蒸着層の好ましい厚さは、無機蒸着層を構成する成分の種類によって異なるが、通常、2〜500nmの範囲内である。この範囲で、複合構造体のバリア性や機械的物性が良好になる厚さを選択すればよい。無機蒸着層の厚さが2nm未満であると、酸素ガスや水蒸気に対する無機蒸着層のバリア性発現の再現性が低下する傾向があり、また、無機蒸着層が充分なバリア性を発現しない場合もある。また、無機蒸着層の厚さが500nmを超えると、複合構造体を引っ張ったり屈曲させたりした場合に無機蒸着層のバリア性が低下しやすくなる傾向がある。無機蒸着層の厚さは、より好ましくは5〜200nmの範囲にあり、さらに好ましくは10〜100nmの範囲にある。
無機蒸着層の形成方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、化学気相成長法(CVD)などを挙げることができる。これらの中でも、生産性の観点から、真空蒸着法が好ましい。真空蒸着を行う際の加熱方式としては、電子線加熱方式、抵抗加熱方式および誘導加熱方式のいずれかが好ましい。また無機蒸着層が形成される基体との密着性および無機蒸着層の緻密性を向上させるために、プラズマアシスト法やイオンビームアシスト法を採用して蒸着してもよい。また、無機蒸着層の透明性を上げるために、蒸着の際に、酸素ガスなどを吹き込んで反応を生じさせる反応蒸着法を採用してもよい。
基材(X)が層状である場合には、その厚さは、得られる複合構造体の機械的強度や加工性が良好になる観点から、1〜200μmの範囲にあることが好ましく、5〜100μmの範囲にあることがより好ましく、7〜60μmの範囲にあることがさらに好ましい。
[接着層(H)]
本発明の複合構造体において、層(Y)は、基材(X)と直接接触するように積層されていてもよいが、基材(X)と層(Y)との間に配置された接着層(H)を介して層(Y)が基材(X)に積層されていてもよい。この構成によれば、基材(X)と層(Y)との接着性を高めることができる場合がある。接着層(H)は、接着性樹脂で形成してもよい。接着性樹脂からなる接着層(H)は、基材(X)の表面を公知のアンカーコーティング剤で処理するか、基材(X)の表面に公知の接着剤を塗布することによって形成できる。当該接着剤としては、ポリイソシアネート成分とポリオール成分とを混合し反応させる二液反応型ポリウレタン系接着剤が好ましい。また、アンカーコーティング剤や接着剤に、公知のシランカップリング剤などの少量の添加剤を加えることによって、さらに接着性を高めることができる場合がある。シランカップリング剤の好適な例としては、イソシアネート基、エポキシ基、アミノ基、ウレイド基、メルカプト基などの反応性基を有するシランカップリング剤を挙げることができる。基材(X)と層(Y)とを接着層(H)を介して強く接着することによって、本発明の複合構造体に対して印刷やラミネートなどの加工を施す際に、ガスバリア性や外観の悪化をより効果的に抑制することができる。
接着層(H)を厚くすることによって、本発明の複合構造体の強度を高めることができる。しかし、接着層(H)を厚くしすぎると、外観が悪化する傾向がある。接着層(H)の厚さは0.03〜0.18μmの範囲にあることが好ましい。この構成によれば、本発明の複合構造体に対して印刷やラミネートなどの加工を施す際に、ガスバリア性や外観の悪化をより効果的に抑制することができ、さらに、本発明の複合構造体を用いた包装材料の落下強度を高めることができる。接着層(H)の厚さは、0.04〜0.14μmの範囲にあることがより好ましく、0.05〜0.10μmの範囲にあることがさらに好ましい。
[複合構造体の構成]
本発明の複合構造体(積層体)は、基材(X)および層(Y)のみによって構成されてもよいし、基材(X)、層(Y)および接着層(H)のみによって構成されていてもよい。本発明の複合構造体は、複数の層(Y)を含んでもよい。また、本発明の複合構造体は、基材(X)、層(Y)および接着層(H)以外の他の部材(例えば熱可塑性樹脂フィルム層、紙層、無機蒸着層等の他の層など)をさらに含んでもよい。そのような他の部材(他の層など)を有する本発明の複合構造体は、基材(X)に直接または接着層(H)を介して層(Y)を積層させた後に、さらに当該他の部材(他の層など)を直接または接着層を介して接着または形成することによって製造できる。このような他の部材(他の層など)を複合構造体に含ませることによって、複合構造体の特性を向上させたり、新たな特性を付与したりすることができる。例えば、本発明の複合構造体にヒートシール性を付与したり、バリア性や力学的物性をさらに向上させたりすることができる。
特に、本発明の複合構造体の最表面層をポリオレフィン層とすることによって、複合構造体にヒートシール性を付与したり、複合構造体の力学的特性を向上させたりすることができる。ヒートシール性や力学的特性の向上などの観点から、ポリオレフィンはポリプロピレンまたはポリエチレンであることが好ましい。また、複合構造体の力学的特性を向上させるために、他の層として、ポリエステルからなるフィルム、ポリアミドからなるフィルム、および水酸基含有ポリマーからなるフィルムからなる群より選ばれる少なくとも1つのフィルムを積層することが好ましい。力学的特性の向上の観点から、ポリエステルとしてはポリエチレンテレフタレート(PET)が好ましく、ポリアミドとしてはナイロン−6が好ましく、水酸基含有ポリマーとしてはエチレン−ビニルアルコール共重合体が好ましい。なお各層の間には必要に応じて、アンカーコート層や接着剤からなる層を設けてもよい。
本発明の複合構造体は、少なくとも1層の層(Y)と、少なくとも1層の他の層(基材を含む)とを積層することによって形成できる。他の層の例には、ポリエステル層、ポリアミド層、ポリオレフィン層(顔料含有ポリオレフィン層、耐熱性ポリオレフィン層、または2軸延伸耐熱性ポリオレフィン層であってもよい)、水酸基含有ポリマー層(たとえばエチレン−ビニルアルコール共重合体層)、紙層、無機蒸着フィルム層、熱可塑性エラストマー層、および接着層などが含まれる。複合構造体が基材および層(Y)を含む限り、これらの他の層および層(Y)の数および積層順に特に制限はない。なお、これらの他の層は、その材料からなる成形体(立体形状を有する成形体)に置き換えてもよい。
本発明の複合構造体の構成の具体例を、以下に示す。なお、以下の具体例において、各層は、その材料からなる成形体(立体形状を有する成形体)に置き換えてもよい。また、複合構造体は接着層(H)等の接着層を有していてもよいが、以下の具体例において、当該接着層の記載は省略している。
(1)層(Y)/ポリエステル層、
(2)層(Y)/ポリエステル層/層(Y)、
(3)層(Y)/ポリアミド層、
(4)層(Y)/ポリアミド層/層(Y)、
(5)層(Y)/ポリオレフィン層、
(6)層(Y)/ポリオレフィン層/層(Y)、
(7)層(Y)/水酸基含有ポリマー層、
(8)層(Y)/水酸基含有ポリマー層/層(Y)、
(9)層(Y)/紙層、
(10)層(Y)/紙層/層(Y)、
(11)層(Y)/無機蒸着層/ポリエステル層、
(12)層(Y)/無機蒸着層/ポリアミド層、
(13)層(Y)/無機蒸着層/ポリオレフィン層、
(14)層(Y)/無機蒸着層/水酸基含有ポリマー層、
(15)層(Y)/ポリエステル層/ポリアミド層/ポリオレフィン層、
(16)層(Y)/ポリエステル層/層(Y)/ポリアミド層/ポリオレフィン層、
(17)ポリエステル層/層(Y)/ポリアミド層/ポリオレフィン層、
(18)層(Y)/ポリアミド層/ポリエステル層/ポリオレフィン層、
(19)層(Y)/ポリアミド層/層(Y)/ポリエステル層/ポリオレフィン層、
(20)ポリアミド層/層(Y)/ポリエステル層/ポリオレフィン層、
(21)層(Y)/ポリオレフィン層/ポリアミド層/ポリオレフィン層、
(22)層(Y)/ポリオレフィン層/層(Y)/ポリアミド層/ポリオレフィン層、
(23)ポリオレフィン層/層(Y)/ポリアミド層/ポリオレフィン層、
(24)層(Y)/ポリオレフィン層/ポリオレフィン層、
(25)層(Y)/ポリオレフィン層/層(Y)/ポリオレフィン層、
(26)ポリオレフィン層/層(Y)/ポリオレフィン層、
(27)層(Y)/ポリエステル層/ポリオレフィン層、
(28)層(Y)/ポリエステル層/層(Y)/ポリオレフィン層、
(29)ポリエステル層/層(Y)/ポリオレフィン層、
(30)層(Y)/ポリアミド層/ポリオレフィン層、
(31)層(Y)/ポリアミド層/層(Y)/ポリオレフィン層、
(32)ポリアミド層/層(Y)/ポリオレフィン層、
(33)層(Y)/ポリエステル層/紙層、
(34)層(Y)/ポリアミド層/紙層、
(35)層(Y)/ポリオレフィン層/紙層、
(36)ポリオレフィン層/紙層/ポリオレフィン層/層(Y)/ポリエステル層/ポリオレフィン層、
(37)ポリオレフィン層/紙層/ポリオレフィン層/層(Y)/ポリアミド層/ポリオレフィン層、
(38)ポリオレフィン層/紙層/ポリオレフィン層/層(Y)/ポリオレフィン層、
(39)紙層/ポリオレフィン層/層(Y)/ポリエステル層/ポリオレフィン層、
(40)ポリオレフィン層/紙層/層(Y)/ポリオレフィン層、
(41)紙層/層(Y)/ポリエステル層/ポリオレフィン層、
(42)紙層/層(Y)/ポリオレフィン層、
(43)層(Y)/紙層/ポリオレフィン層、
(44)層(Y)/ポリエステル層/紙層/ポリオレフィン層、
(45)ポリオレフィン層/紙層/ポリオレフィン層/層(Y)/ポリオレフィン層/水酸基含有ポリマー層、
(46)ポリオレフィン層/紙層/ポリオレフィン層/層(Y)/ポリオレフィン層/ポリアミド層、
(47)ポリオレフィン層/紙層/ポリオレフィン層/層(Y)/ポリオレフィン層/ポリエステル層。
本発明によれば、ガスバリア性に優れた複合構造体を得ることが可能である。好ましい一例では、層(Y)の厚さ(複合構造体が2層以上の層(Y)を有する場合には各層(Y)の厚さの合計)が1.0μm以下(たとえば0.5μm以上で1.0μm以下)である複合構造体が、以下の性能1を満たす。
(性能1)20℃、0%RHの条件下における酸素透過度が1ml/(m2・day・atm)以下である。
さらに、本発明によれば、耐酸性に優れ、酸性物質に暴露された後もガスバリア性が高いレベルで維持された複合構造体を得ることが可能である。好ましい一例では、複合構造体は前記性能1に加え、さらに以下の性能2を満たす。
(性能2)酢酸の飽和蒸気に40℃で30日間暴露した後の20℃、0%RHの条件下における酸素透過度が、暴露前の20℃、0%RHの条件下における酸素透過度の2倍以下(好ましくは1.5倍以下)である。
[用途]
本発明の複合構造体は、ガスバリア性および耐酸性のいずれにも優れる。そのため、本発明の複合構造体は、様々な用途に適用でき、特に、酸性物質に暴露または接触する用途に好ましく適用することができる。本発明の複合構造体は、包装材料として特に好ましく用いられる。包装材料以外の用途の例には、LCD用基板フィルム、有機EL用基板フィルム、電子ペーパー用基板フィルム、電子デバイス用封止フィルム、PDP用フィルム、LED用フィルム、ICタグ用フィルム、太陽電池用バックシート、太陽電池用保護フィルムなどの電子デバイス関連フィルム、光通信用部材、電子機器用フレキシブルフィルム、燃料電池用隔膜、燃料電池用封止フィルム、各種機能性フィルムの基板フィルムが含まれる。
この包装材料は、様々な用途に適用することができ、酸素などのガスバリア性が必要となる用途や、包装材の内部が各種の機能性ガスによって置換される用途に好ましく用いられる。例えば、本発明の包装材料は、食品用包装材料として好ましく用いられる。食品用包装材料として用いる場合には、スタンドアップパウチなどの、折り目を有する形態に特に好適に用いられる。また、本発明の包装材料は、食品用包装材料以外にも、農薬、医薬等の薬品;医療器材;機械部品、精密材料等の産業資材;衣料などを包装するための包装材料として好ましく用いることができる。
本発明の成形品は、本発明の包装材料を用いて形成される。本発明の成形品は、縦製袋充填シール袋、真空包装袋、スパウト付パウチ、ラミネートチューブ容器、輸液バッグ、容器用蓋材、紙容器または真空断熱体であってもよい。
本発明の成形品(たとえば縦製袋充填シール袋など)では、ヒートシールが行われる。ヒートシールが行われる場合には、通常、成形品の内側となる側、あるいは成形品の内側となる側および外側となる側の両方に、ヒートシール可能な層を配置することが必要である。ヒートシール可能な層が、成形品(袋)の内側となる側にのみある場合は、通常、胴体部のシールは合掌貼りシールとなる。ヒートシール可能な層が、成形品の内側となる側および外側となる側の両方にある場合は、通常、胴体部のシールは封筒貼りシールとなる。ヒートシール可能な層としては、ポリオレフィン層(以下、「PO層」と記載することがある)が好ましい。
本発明の成形品は、たとえば、液体、粘稠体、粉体、固形バラ物、または、これらを組み合わせた食品や飲料物などを包装する縦製袋充填シール袋であってもよい。本発明の縦製袋充填シール袋は、ガスバリア性に優れ、屈曲処理後でもガスバリア性の低下が小さい。そのため、該縦製袋充填シール袋によれば、内容物の品質劣化を長期間にわたって抑制できる。
以下では、基材(X)と基材(X)に積層された層(Y)とを含む多層膜を、ガスバリア性多層膜という場合がある。このガスバリア性多層膜も、本発明の複合構造体の1種である。ガスバリア性多層膜には、様々な特性(たとえば熱シール性)を付与するための層が積層されていてもよい。たとえば、本発明の複合構造体は、ガスバリア性多層膜/接着層/ポリオレフィン層、または、ポリオレフィン層/接着層/ガスバリア性多層膜/接着層/ポリオレフィン層、といった構成を有してもよい。すなわち、本発明の複合構造体は、一方の最表面に配置されたポリオレフィン層を含んでもよい。また、本発明の複合構造体は、一方の最表面に配置された第1のポリオレフィン層と、他方の最表面に配置された第2のポリオレフィン層とを含んでもよい。第1のポリオレフィン層と第2のポリオレフィン層とは同じでもよいし、異なってもよい。
縦製袋充填シール袋は、少なくとも1層のガスバリア性多層膜と、少なくとも1層の他の層とを積層することによって形成してもよい。他の層の例には、ポリエステル層、ポリアミド層、ポリオレフィン層、紙層、無機蒸着フィルム層、EVOH層、および接着層などが含まれる。これらの層の数および積層順には特に制限はないが、ヒートシールが行われる場合にはそのための構成が採用される。
縦製袋充填シール袋として特に好ましい複合構造体の構成としては、ガスバリア性多層膜/ポリアミド層/PO層、ガスバリア性多層膜/PO層、PO層/ガスバリア性多層膜/PO層という構成が挙げられる。これらの構成において、ガスバリア性多層膜の基材として、たとえばポリアミドフィルムを用いることができる。該縦製袋充填シール袋は、製袋後、輸送後のガスバリア性に特に優れる。上記縦製袋充填シール袋を構成する各層の層と層の間には、接着層を設けてもよい。また、本発明の複合構造体の層(Y)が基材の片面にある場合、層(Y)は、該縦製袋充填シール袋の外側および内側のいずれの方向を向いていてもよい。
本発明の成形品は、固形分を含む食品などを包装する真空包装袋であってもよい。該真空包装袋は、ガスバリア性に優れ、屈曲処理後にもガスバリア性の低下が小さい。そのため、該真空包装袋は、真空包装時における変形によるガスバリア性の低下はほとんどない。該真空包装袋は柔軟であり、固形分を含む食品に容易に密着するため、真空包装時の脱気が容易である。そのため、該真空包装袋は、真空包装体内の残存酸素を少なくでき、食品の長期保存性に優れる。また、真空包装後に、角張ったり、折り曲がったりした部分が生じにくいため、ピンホールやクラックなどの欠陥が発生しにくい。また、該真空包装袋によれば、真空包装袋同士や、真空包装袋とダンボールとの擦れによってピンホールが発生することを抑制できる。また、該真空包装袋は、ガスバリア性に優れるため、内容物(たとえば食品)の品質劣化を長期間にわたって抑制できる。
真空包装袋は、少なくとも1層のガスバリア性多層膜と、少なくとも1層の他の層とを積層することによって形成してもよい。他の層の例には、ポリエステル層、ポリアミド層、ポリオレフィン層、無機蒸着フィルム層、EVOH層、および接着層などが含まれる。これらの層の数および積層順には特に制限はないが、ヒートシールが行われる場合にはそのための構成が採用される。
真空包装袋として特に好ましい複合構造体の構成としては、ガスバリア性多層膜/ポリアミド層/PO層、および、ポリアミド層/ガスバリア性多層膜/PO層、という構成が挙げられる。これらの構成において、ガスバリア性多層膜の基材として、たとえばポリアミドフィルムを用いることができる。このような複合構造体を用いた真空包装袋は、真空包装後のガスバリア性に特に優れる。上記各層の層間には接着層を設けてもよい。また、層(Y)が基材の片面のみに積層されている場合、層(Y)は、基材に対して真空包装袋の外側にあってもよいし内側にあってもよい。
本発明の成形品は、様々な液状物質を包装するスパウト付パウチであってもよい。該スパウト付パウチは、液体飲料(たとえば清涼飲料)、ゼリー飲料、ヨーグルト、フルーツソース、調味料、機能性水、流動食等の容器として使用できる。また、該スパウト付パウチは、アミノ酸輸液剤、電解質輸液剤、糖質輸液剤、輸液用脂肪乳剤などの液状の医薬品の容器としても好ましく使用できる。該スパウト付パウチは、ガスバリア性に優れ、屈曲処理後にもガスバリア性の低下が小さい。そのため該スパウト付パウチを用いることによって、輸送後、長期保存後においても、内容物の酸素による変質を防ぐことが可能である。また、該スパウト付パウチは透明性が良好であるため、内容物の確認や、劣化による内容物の変質の確認が容易である。
スパウト付きパウチは、少なくとも1層のガスバリア性多層膜と、少なくとも1層の他の層とを積層することによって形成してもよい。他の層の例には、ポリエステル層、ポリアミド層、ポリオレフィン層、無機蒸着フィルム層、EVOH層、および接着層などが含まれる。これらの層の数および積層順には特に制限はないが、ヒートシールが行われる場合にはそのための構成が採用される。
スパウト付パウチとして特に好ましい複合構造体の構成としては、ガスバリア性多層膜/ポリアミド層/PO層、および、ポリアミド層/ガスバリア性多層膜/PO層、という構成が挙げられる。上記各層の層間には接着層を設けてもよい。また、層(Y)が基材の片面のみに積層されている場合、層(Y)は、基材に対してスパウト付パウチの外側にあってもよいし内側にあってもよい。
本発明の成形品は、化粧品、薬品、医薬品、食品、歯磨などを包装するラミネートチューブ容器であってもよい。該ラミネートチューブ容器は、ガスバリア性に優れ、屈曲処理後でもガスバリア性の低下が小さく、使用時にスクイーズ(squeeze)された後でも優れたガスバリア性を維持する。また、該ラミネートチューブ容器は透明性が良好であるため、内容物の確認や、劣化による内容物の変質の確認が容易である。
ラミネートチューブ容器は、少なくとも1層のガスバリア性多層膜と、少なくとも1層の他の層とを積層することによって形成してもよい。他の層の例には、ポリアミド層、ポリオレフィン層(顔料含有ポリオレフィン層であってもよい)、無機蒸着フィルム層、EVOH層、および接着層などが含まれる。これらの層の数および積層順には特に制限はないが、ヒートシールが行われる場合にはそのための構成が採用される。
ラミネートチューブ容器として特に好ましい構成としては、PO層/ガスバリア性多層膜/PO層、および、PO層/顔料含有PO層/PO層/ガスバリア性多層膜/PO層、という構成が挙げられる。上記各層の層間には、接着層を配置してもよい。また、層(Y)が基材の片面のみに積層されている場合、層(Y)は、基材に対してラミネートチューブ容器の外側にあってもよいし内側にあってもよい。
本発明の成形品は、輸液バッグであってもよく、たとえば、アミノ酸輸液剤、電解質輸液剤、糖質輸液剤、輸液用脂肪乳剤などの液状の医薬品が充填される輸液バッグであってもよい。該輸液バッグは、ガスバリア性に優れ、屈曲処理後でもガスバリア性の低下が小さい。そのため、該輸液バッグによれば、輸送後、保存後においても、充填されている液状医薬品が酸素によって変質することを防止できる。
輸液バッグは、少なくとも1層のガスバリア性多層膜と、少なくとも1層の他の層とを積層することによって形成してもよい。他の層の例には、ポリアミド層、ポリオレフィン層、無機蒸着フィルム層、EVOH層、熱可塑性エラストマー層、および接着層などが含まれる。これらの層の数および積層順には特に制限はないが、ヒートシールが行われる場合にはそのための構成が採用される。
輸液バッグとして特に好ましい複合構造体の構成としては、ガスバリア性多層膜/ポリアミド層/PO層、および、ポリアミド層/ガスバリア性多層膜/PO層、という構成が挙げられる。上記各層の層間には、接着層を配置してもよい。また、層(Y)が基材の一方の表面のみに積層されている場合、層(Y)は、基材に対して輸液バッグの外側にあってもよいし内側にあってもよい。
本発明の成形品は、畜肉加工品、野菜加工品、水産加工品、フルーツなどの食品が充填される容器の蓋材であってもよい。該容器用蓋材は、ガスバリア性に優れ、屈曲処理後でもガスバリア性の低下が小さいため、内容物である食品の品質劣化を長期間にわたって抑制できる。そして、該容器用蓋材は、食料品などの内容物の保存用に使用される容器の蓋材として、好ましく用いられる。
容器用蓋材は、少なくとも1層のガスバリア性多層膜と、少なくとも1層の他の層とを積層することによって形成してもよい。他の層の例には、ポリアミド層、ポリオレフィン層、無機蒸着フィルム層、EVOH層、ポリエステル層、紙層、および接着層などが含まれる。これらの層の数および積層順には特に制限はないが、ヒートシールが行われる場合にはそのための構成が採用される。
容器用蓋材として特に好ましい複合構造体の構成としては、ガスバリア性多層膜/ポリアミド層/PO層、および、ガスバリア性多層膜/PO層、という構成が挙げられるである。これらの構成において、ガスバリア性多層膜の基材として、たとえばポリアミドフィルムを用いることができる。このような構成を有する蓋材は、輸送後のガスバリア性に特に優れる。上記各層の層間には、接着層を設けてもよい。また、複合構造体の層(Y)が基材の片面にある場合、層(Y)は、基材よりも内側(容器側)にあってもよいし、基材よりも外側にあってもよい。
本発明の成形品は、紙容器であってもよい。該紙容器は、折り曲げ加工を行ってもガスバリア性の低下が少ない。また、該紙容器は層(Y)の透明性が良好であるため、窓付き容器に好ましく用いられる。さらに、該紙容器は、電子レンジによる加熱にも適している。
紙容器は、少なくとも1層のガスバリア性多層膜と、少なくとも1層の他の層とを積層することによって形成してもよい。他の層の例には、ポリエステル層、ポリアミド層、ポリオレフィン層(耐熱性ポリオレフィン層または2軸延伸耐熱性ポリオレフィン層であってもよい)、無機蒸着フィルム層、水酸基含有ポリマー層、紙層、および接着層などが含まれる。これらの層の数および積層順には特に制限はないが、ヒートシールが行われる場合にはそのための構成が採用される。
紙容器として特に好ましい複合構造体の構成としては、耐熱性ポリオレフィン層/紙層/耐熱性ポリオレフィン層/ガスバリア性多層膜/耐熱性ポリオレフィン層、という構成が挙げられる。上記各層の層間には、接着層を配置してもよい。上記の例において、耐熱性ポリオレフィン層は、たとえば、2軸延伸耐熱性ポリオレフィンフィルムまたは無延伸耐熱性ポリオレフィンフィルムのいずれかで構成される。成型加工の容易さの観点から、複合構造体の最外層に配置される耐熱性ポリオレフィン層は無延伸ポリプロピレンフィルムであることが好ましい。同様に、複合構造体の最外層よりも内側に配置される耐熱性ポリオレフィン層は無延伸ポリプロピレンフィルムであることが好ましい。好ましい一例では、複合構造体を構成するすべての耐熱性ポリオレフィン層が、無延伸ポリプロピレンフィルムである。
本発明の成形品は、保冷や保温が必要な各種用途に使用することができる真空断熱体であってもよい。該真空断熱体は、長期間にわたって断熱効果を保持できるため、冷蔵庫、給湯設備および炊飯器などの家電製品用の断熱材、壁部、天井部、屋根裏部および床部などに用いられる住宅用断熱材、車両屋根材、自動販売機などの断熱パネルなどに利用できる。
真空断熱体は、少なくとも1層のガスバリア性多層膜と、少なくとも1層の他の層とを積層することによって形成してもよい。他の層の例には、ポリエステル層、ポリアミド層、ポリオレフィン層、および接着層などが含まれる。これらの層の数および積層順には特に制限はないが、ヒートシールが行われる場合にはそのための構成が採用される。
真空断熱体として特に好ましい複合構造体の構成としては、ガスバリア性多層膜/ポリアミド層/PO層、および、ポリアミド層/ガスバリア性多層膜/PO層、という構成が挙げられる。上記各層の層間には、接着層を設けてもよい。また、層(Y)が基材の一方の表面のみに積層されている場合、層(Y)は、基材に対して真空断熱体の外側にあってもよいし内側にあってもよい。
[複合構造体の製造方法]
以下、本発明の複合構造体の製造方法について説明する。この方法によれば、本発明の複合構造体を容易に製造できる。本発明の複合構造体の製造方法に用いられる材料、および複合構造体の構成等は、上述したものと同様であるので、重複する部分については説明を省略する場合がある。たとえば、金属酸化物(A)、硫黄化合物(B)、および重合体(C)に対して、本発明の複合構造体の説明における記載を適用することが可能である。なお、この製造方法について説明した事項については、本発明の複合構造体に適用できる。また、本発明の複合構造体について説明した事項については、本発明の製造方法に適用できる。
本発明の複合構造体の製造方法は、工程(I)、(II)および(III)を含む。工程(I)では、金属酸化物(A)と、金属酸化物(A)と反応可能な部位を含有する少なくとも1種の化合物と、溶媒とを混合することによって、金属酸化物(A)、当該少なくとも1種の化合物および当該溶媒を含むコーティング液(U)を調製する。工程(II)では、基材(X)上にコーティング液(U)を塗布することによって、基材(X)上に層(Y)の前駆体層を形成する。工程(III)では、その前駆体層を140℃以上の温度で熱処理することによって、基材(X)上に層(Y)を形成する。
[工程(I)]
工程(I)で用いられる、金属酸化物(A)と反応可能な部位を含有する少なくとも1種の化合物を、以下では、「少なくとも1種の化合物(Z)」という場合がある。工程(I)では、金属酸化物(A)と、少なくとも1種の化合物(Z)と、溶媒とを少なくとも混合する。1つの観点では、工程(I)では、金属酸化物(A)と、少なくとも1種の化合物(Z)とを含む原料を、溶媒中で反応させる。当該原料は、金属酸化物(A)および少なくとも1種の化合物(Z)の他に、他の化合物を含んでもよい。典型的には、金属酸化物(A)は粒子の形態で混合される。少なくとも1種の化合物(Z)は、硫黄化合物(B)を含む。典型的には、少なくとも1種の化合物(Z)は、金属酸化物(A)と反応可能な部位を複数含有する化合物である。
工程(I)は、以下の工程(a)〜(c)を含むことが好ましい。
工程(a):金属酸化物(A)を含む液体(S)を調製する工程。
工程(b):硫黄化合物(B)を含む溶液(T)を調製する工程。
工程(c):上記工程(a)および(b)で得られた液体(S)と溶液(T)とを混合する工程。
工程(b)は、工程(a)より先に行われてもよいし、工程(a)と同時に行われてもよいし、工程(a)の後に行われてもよい。以下、各工程について、より具体的に説明する。
工程(a)では、金属酸化物(A)を含む液体(S)を調製する。液体(S)は、溶液または分散液である。当該液体(S)は、例えば、公知のゾルゲル法で採用されている手法によって調製できる。例えば、上述した化合物(L)系成分、水、および必要に応じて酸触媒や有機溶媒を混合し、公知のゾルゲル法で採用されている手法によって化合物(L)系成分を縮合または加水分解縮合することによって調製できる。化合物(L)系成分を縮合または加水分解縮合することによって得られる、金属酸化物(A)の分散液は、そのまま金属酸化物(A)を含む液体(S)として使用することができる。しかし、必要に応じて、当該分散液に対して特定の処理(上記したような解膠や濃度制御のための溶媒の加減等)を行ってもよい。
工程(a)は、化合物(L)および化合物(L)の加水分解物からなる群より選ばれる少なくとも1種を縮合(たとえば加水分解縮合)させる工程を含んでもよい。具体的には、工程(a)は、化合物(L)、化合物(L)の部分加水分解物、化合物(L)の完全加水分解物、化合物(L)の部分加水分解縮合物、および化合物(L)の完全加水分解物の一部が縮合したものからなる群より選ばれる少なくとも1種を縮合または加水分解縮合する工程を含んでもよい。
また、液体(S)を調製するための方法の別の例としては、以下の工程を含む方法が挙げられる。まず、熱エネルギーによって金属を金属原子として気化させ、その金属原子を反応ガス(酸素)と接触させることによって金属酸化物の分子およびクラスターを生成させる。その後、それらを瞬時に冷却することによって、粒径が小さい金属酸化物(A)の粒子を製造する。次に、その粒子を水や有機溶媒に分散させることによって、液体(S)(金属酸化物(A)を含む分散液)が得られる。水や有機溶媒への分散性を高めるため、金属酸化物(A)の粒子に対して表面処理を施したり、界面活性剤等の安定化剤を添加したりしてもよい。また、pHを制御することによって、金属酸化物(A)の分散性を向上させてもよい。
液体(S)を調製するための方法のさらに別の例としては、バルク体の金属酸化物(A)をボールミルやジェットミル等の粉砕機を用いて粉砕し、これを水や有機溶媒に分散させることによって、液体(S)(金属酸化物(A)を含む分散液)とする方法を挙げることができる。ただし、この場合には、金属酸化物(A)の粒子の形状や大きさの分布を制御することが困難となる場合がある。
工程(a)において使用できる有機溶媒の種類に特に制限はなく、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ノルマルプロパノール等のアルコール類が好適に用いられる。
液体(S)中における金属酸化物(A)の含有率は、0.1〜30質量%の範囲内であることが好ましく、1〜20質量%の範囲内であることがより好ましく、2〜15質量%の範囲内であることがさらに好ましい。
工程(b)では、硫黄化合物(B)を含む溶液(T)を調製する。溶液(T)は、硫黄化合物(B)を溶媒に溶解することによって調製できる。硫黄化合物(B)の溶解性が低い場合には、加熱処理や超音波処理を施すことによって溶解を促進してもよい。
溶液(T)の調製に用いられる溶媒は、硫黄化合物(B)の種類に応じて適宜選択すればよいが、水を含むことが好ましい。硫黄化合物(B)の溶解の妨げにならない限り、溶媒は、メタノール、エタノール等のアルコール;テトラヒドロフラン、ジオキサン、トリオキサン、ジメトキシエタン等のエーテル;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン;エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、n−ブチルセロソルブ等のグリコール誘導体;グリセリン;アセトニトリル;ジメチルホルムアミド等のアミド;ジメチルスルホキシド;スルホランなどを含んでもよい。
溶液(T)中における硫黄化合物(B)の含有率は、0.1〜99質量%の範囲内であることが好ましく、0.1〜95質量%の範囲内であることがより好ましく、0.1〜90質量%の範囲内であることがさらに好ましい。また、溶液(T)中における硫黄化合物(B)の含有率は、0.1〜50質量%の範囲内にあってもよく、1〜40質量%の範囲内にあってもよく、2〜30質量%の範囲内にあってもよい。
工程(c)では、液体(S)と溶液(T)とを混合する。液体(S)と溶液(T)との混合時には、局所的な反応を抑制するため、添加速度を抑え、攪拌を強く行いながら混合することが好ましい。この際、攪拌している液体(S)に溶液(T)を添加してもよいし、攪拌している溶液(T)に液体(S)を添加してもよい。また、混合時の温度を30℃以下(例えば20℃以下)に維持することによって、保存安定性に優れたコーティング液(U)を得ることができる場合がある。さらに、混合完了時点からさらに30分程度攪拌を続けることによって、保存安定性に優れたコーティング液(U)を得ることができる場合がある。
また、コーティング液(U)は、重合体(C)を含んでもよい。コーティング液(U)に重合体(C)を含ませる方法は、特に制限されない。例えば、液体(S)、溶液(T)、または液体(S)と溶液(T)との混合液に、重合体(C)を粉末またはペレットの状態で添加した後に溶解させてもよい。また、液体(S)、溶液(T)、または液体(S)と溶液(T)との混合液に、重合体(C)の溶液を添加して混合してもよい。また、重合体(C)の溶液に、液体(S)、溶液(T)、または液体(S)と溶液(T)との混合液を添加して混合してもよい。溶液(T)に重合体(C)を含有させることによって、工程(c)において液体(S)と溶液(T)とを混合する際に、金属酸化物(A)と硫黄化合物(B)との反応速度が緩和され、その結果、経時安定性に優れたコーティング液(U)が得られる場合がある。
コーティング液(U)が重合体(C)を含むことによって、重合体(C)を含有する層(Y)を含む複合構造体を容易に製造できる。
コーティング液(U)は、必要に応じて、酢酸、塩酸、硝酸、トリフルオロ酢酸、トリクロロ酢酸から選ばれる少なくとも1種の酸化合物(D)を含んでもよい。以下では、当該少なくとも1種の酸化合物(D)を、単に「酸化合物(D)」と略称する場合がある。コーティング液(U)に酸化合物(D)を含ませる方法は、特に制限されない。例えば、液体(S)、溶液(T)、または液体(S)と溶液(T)との混合液に、酸化合物(D)をそのまま添加して混合してもよい。また、液体(S)、溶液(T)、または液体(S)と溶液(T)との混合液に、酸化合物(D)の溶液を添加して混合してもよい。また、酸化合物(D)の溶液に、液体(S)、溶液(T)、または液体(S)と溶液(T)との混合液を添加して混合してもよい。溶液(T)が酸化合物(D)を含むことによって、工程(c)において液体(S)と溶液(T)とを混合する際に、金属酸化物(A)と硫黄化合物(B)との反応速度が緩和され、その結果、経時安定性に優れたコーティング液(U)が得られる場合がある。
酸化合物(D)を含むコーティング液(U)においては、金属酸化物(A)と硫黄化合物(B)との反応が抑制され、コーティング液(U)中での反応物の沈澱や凝集を抑制することができる。そのため、酸化合物(D)を含むコーティング液(U)を用いることによって、得られる複合構造体の外観が向上する場合がある。また、酸化合物(D)の沸点は200℃以下であるため、複合構造体の製造過程において、酸化合物(D)を揮発させるなどすることによって、酸化合物(D)を層(Y)から容易に除去できる。
コーティング液(U)における酸化合物(D)の含有率は、0.1〜5.0質量%の範囲内であることが好ましく、0.5〜2.0質量%の範囲内であることがより好ましい。これらの範囲では、酸化合物(D)の添加による効果が得られ、且つ、酸化合物(D)の除去が容易である。液体(S)中に酸成分が残留している場合には、その残留量を考慮して、酸化合物(D)の添加量を決定すればよい。
工程(c)における混合によって得られた液は、そのままコーティング液(U)として使用できる。この場合、通常、液体(S)や溶液(T)に含まれる溶媒が、コーティング液(U)の溶媒となる。また、工程(c)における混合によって得られた液に処理を行って、コーティング液(U)を調製してもよい。たとえば、有機溶媒の添加、pHの調製、粘度の調製、添加物の添加等の処理を行ってもよい。
工程(c)の混合によって得られた液に、得られるコーティング液(U)の安定性が阻害されない範囲で有機溶剤を添加してもよい。有機溶剤の添加によって、工程(II)における基材(X)へのコーティング液(U)の塗布が容易になる場合がある。有機溶剤としては、得られるコーティング液(U)において均一に混合されるものが好ましい。好ましい有機溶剤の例としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール等のアルコール;テトラヒドロフラン、ジオキサン、トリオキサン、ジメトキシエタン等のエーテル;アセトン、メチルエチルケトン、メチルビニルケトン、メチルイソプロピルケトン等のケトン;エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、n−ブチルセロソルブ等のグリコール誘導体;グリセリン;アセトニトリル;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド;ジメチルスルホキシド;スルホランなどが挙げられる。
コーティング液(U)の保存安定性、およびコーティング液(U)の基材に対する塗工性の観点から、コーティング液(U)の固形分濃度は、1〜20質量%の範囲にあることが好ましく、2〜15質量%の範囲にあることがより好ましく、3〜10質量%の範囲にあることがさらに好ましい。コーティング液(U)の固形分濃度は、例えば、シャーレにコーティング液(U)を所定量加え、当該シャーレごと100℃の温度で溶媒等の揮発分の除去を行い、残留した固形分の質量を、最初に加えたコーティング液(U)の質量で除して算出することができる。その際、一定時間乾燥するごとに残留した固形分の質量を測定し、連続した2回の質量差が無視できるレベルにまで達した際の質量を残留した固形分の質量として、固形分濃度を算出するのが好ましい。
コーティング液(U)の保存安定性および複合構造体のガスバリア性の観点から、コーティング液(U)のpHは6.0以下の範囲にあることが好ましく、5.0以下の範囲にあることがより好ましく、4.0以下の範囲にあることがさらに好ましい。
コーティング液(U)のpHは公知の方法で調整することができ、例えば、酸性化合物や塩基性化合物を添加することによって調整することができる。酸性化合物の例には、塩酸、硝酸、リン酸、酢酸および酪酸が含まれる。塩基性化合物の例には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、トリメチルアミン、ピリジン、炭酸ナトリウム、および酢酸ナトリウムが含まれる。
コーティング液(U)は、時間の経過とともに状態が変化し、最終的にはゲル状の組成物となるか、または沈殿を生じる傾向がある。そのように状態が変化するまでの時間は、コーティング液(U)の組成に依存する。基材(X)上にコーティング液(U)を安定して塗布するためには、コーティング液(U)は、長時間にわたってその粘度が安定していることが好ましい。溶液(U)は、工程(I)の完了時の粘度を基準粘度として、25℃で2日間静置した後においても、ブルックフィールド粘度計(B型粘度計:60rpm)で測定した粘度が基準粘度の5倍以内となるように調製されることが好ましい。コーティング液(U)の粘度が上記の範囲にある場合、貯蔵安定性に優れるとともに、より優れたガスバリア性を有する複合構造体が得られることが多い。
コーティング液(U)の粘度が上記範囲内になるように調整する方法として、例えば、固形分の濃度を調整する、pHを調整する、粘度調節剤を添加する、といった方法を採用することができる。粘度調節剤の例には、カルボキシメチルセルロース、でんぷん、ベントナイト、トラガカントゴム、ステアリン酸塩、アルギン酸塩、メタノール、エタノール、n−プロパノール、およびイソプロパノールが含まれる。
本発明の効果が得られる限り、コーティング液(U)は、上述した物質以外の他の物質を含んでもよい。例えば、コーティング液(U)は、炭酸塩、塩酸塩、硝酸塩、ホウ酸塩、アルミン酸塩等の無機金属塩;シュウ酸塩、酢酸塩、酒石酸塩、ステアリン酸塩等の有機酸金属塩;アセチルアセトナート金属錯体(アルミニウムアセチルアセトナート等)、シクロペンタジエニル金属錯体(チタノセン等)、シアノ金属錯体等の金属錯体;層状粘土化合物;架橋剤;重合体(C)以外の高分子化合物;可塑剤;酸化防止剤;紫外線吸収剤;難燃剤などを含んでいてもよい。
[工程(II)]
工程(II)では、基材(X)上にコーティング液(U)を塗布することによって、基材(X)上に層(Y)の前駆体層を形成する。コーティング液(U)は、基材(X)の少なくとも一方の面の上に直接塗布してもよい。また、コーティング液(U)を塗布する前に、基材(X)の表面を公知のアンカーコーティング剤で処理したり、基材(X)の表面に公知の接着剤を塗布したりするなどして、基材(X)の表面に接着層(H)を形成しておいてもよい。
また、コーティング液(U)は、必要に応じて、脱気および/または脱泡処理してもよい。脱気および/または脱泡処理の方法としては、例えば、真空引き、加熱、遠心、超音波、などによる方法があるが、真空引きを含む方法を好ましく使用することができる。
コーティング液(U)を基材(X)上に塗布する方法は、特に限定されず、公知の方法を採用することができる。好ましい方法としては、例えば、キャスト法、ディッピング法、ロールコーティング法、グラビアコート法、スクリーン印刷法、リバースコート法、スプレーコート法、キスコート法、ダイコート法、メタリングバーコート法、チャンバードクター併用コート法、カーテンコート法などが挙げられる。
通常、工程(II)において、コーティング液(U)中の溶媒を除去することによって、層(Y)の前駆体層が形成される。溶媒の除去方法に特に制限はなく、公知の乾燥方法を適用することができる。具体的には、熱風乾燥法、熱ロール接触法、赤外線加熱法、マイクロ波加熱法などの乾燥方法を、単独で、または組み合わせて適用することができる。乾燥温度は、基材(X)の流動開始温度よりも0〜15℃以上低いことが好ましい。コーティング液(U)が重合体(C)を含む場合には、乾燥温度は、重合体(C)の熱分解開始温度よりも15〜20℃以上低いことが好ましい。乾燥温度は70〜200℃の範囲にあることが好ましく、80〜180℃の範囲にあることがより好ましく、90〜160℃の範囲にあることがさらに好ましい。溶媒の除去は、常圧下または減圧下のいずれで実施してもよい。また、後述する工程(III)における熱処理によって、溶媒を除去してもよい。
層状の基材(X)の両面に層(Y)を積層する場合、コーティング液(U)を基材(X)の一方の面に塗布した後、溶媒を除去することによって第1の層(第1の層(Y)の前駆体層)を形成し、次いで、コーティング液(U)を基材(X)の他方の面に塗布した後、溶媒を除去することによって第2の層(第2の層(Y)の前駆体層)を形成してもよい。それぞれの面に塗布するコーティング液(U)の組成は同一であってもよいし、異なってもよい。
立体形状を有する基材(X)の複数の面に層(Y)を積層する場合、上記の方法でそれぞれの面ごとに層(層(Y)の前駆体層)を形成してもよい。あるいは、コーティング液(U)を基材(X)の複数の面に同時に塗布して乾燥させることによって、複数の層(層(Y)の前駆体層)を同時に形成してもよい。
[工程(III)]
工程(III)では、工程(II)で形成された前駆体層(層(Y)の前駆体層)を、140℃以上の温度で熱処理することによって層(Y)を形成する。工程(III)で行われる熱処理は、金属酸化物(A)と硫黄化合物(B)とを反応させる処理であってもよい。たとえば、工程(III)で行われる熱処理は、金属酸化物(A)と硫黄化合物(B)とを反応させることによって、硫黄化合物(B)に由来する硫黄原子を介して金属酸化物(A)の粒子同士を結合させる処理であってもよい。
工程(III)では、金属酸化物(A)の粒子同士が硫黄原子(硫黄化合物(B)に由来する硫黄原子)を介して結合される反応が進行する。別の観点では、工程(III)では、反応生成物(R)が生成する反応が進行する。当該反応を充分に進行させるため、熱処理の温度は、140℃以上(たとえば150℃以上)であり、170℃以上であることがより好ましく、190℃以上であることがさらに好ましい。熱処理温度が低いと、充分な反応度を得るのにかかる時間が長くなり、生産性が低下する原因となる。熱処理の温度の好ましい上限は、基材(X)の種類などによって異なる。例えば、ポリアミド系樹脂からなる熱可塑性樹脂フィルムを基材(X)として用いる場合には、熱処理の温度は190℃以下であることが好ましい。また、ポリエステル系樹脂からなる熱可塑性樹脂フィルムを基材(X)として用いる場合には、熱処理の温度は220℃以下であることが好ましい。熱処理は、空気中、窒素雰囲気下、またはアルゴン雰囲気下などで実施することができる。
熱処理の時間は0.1秒〜1時間の範囲にあることが好ましく、1秒〜15分の範囲にあることがより好ましく、5〜300秒の範囲にあることがさらに好ましい。一例の熱処理は、140〜220℃の範囲で0.1秒〜1時間行われる。また、他の一例の熱処理では、170〜200℃の範囲で、5〜300秒間(たとえば60〜300秒間)行われる。
複合構造体を製造するための本発明の方法は、層(Y)の前駆体層または層(Y)に紫外線を照射する工程を含んでもよい。紫外線照射は、工程(II)の後(たとえば塗布されたコーティング液(U)の溶媒の除去がほぼ終了した後)のいずれの段階で行ってもよい。その方法は特に限定されず、公知の方法を適用することができる。照射する紫外線の波長は170〜250nmの範囲にあることが好ましく、170〜190nmの範囲および/または230〜250nmの範囲にあることがより好ましい。また、紫外線照射に代えて、電子線やγ線等の放射線の照射を行ってもよい。紫外線照射を行うことによって、複合構造体のガスバリア性能がより高度に発現する場合がある。
基材(X)と層(Y)との間に接着層(H)を配置するために、コーティング液(U)を塗布する前に、基材(X)の表面を公知のアンカーコーティング剤で処理したり、基材(X)の表面に公知の接着剤を塗布したりする場合には、熟成処理を行うことが好ましい。具体的には、コーティング液(U)を塗布した後であって工程(III)の熱処理工程の前に、コーティング液(U)が塗布された基材(X)を比較的低温下に長時間放置することが好ましい。熟成処理の温度は、110℃未満であることが好ましく、100℃以下であることがより好ましく、90℃以下であることがさらに好ましい。また、熟成処理の温度は、10℃以上であることが好ましく、20℃以上であることがより好ましく、30℃以上であることがさらに好ましい。熟成処理の時間は、0.5〜10日の範囲にあることが好ましく、1〜7日の範囲にあることがより好ましく、1〜5日の範囲にあることがさらに好ましい。このような熟成処理を行うことによって、基材(X)と層(Y)との間の接着力がより強固になる。
工程(III)の熱処理を経て得られた複合構造体は、そのまま本発明の複合構造体として使用できる。しかし、当該複合構造体に、上記したように他の部材(他の層など)をさらに接着または形成して本発明の複合構造体としてもよい。当該部材の接着は、公知の方法で行うことができる。
別の側面では、本発明は、本発明の製造方法で用いられるコーティング液(U)に関する。すなわち、本発明のコーティング液は、金属酸化物(A)と、金属酸化物(A)と反応可能な部位を含有する少なくとも1種の化合物(Z)と、溶媒とを含む。少なくとも1種の化合物(Z)は、硫黄化合物(B)を含む。このコーティング液において、金属酸化物(A)を構成する金属原子のモル数(NM)と、硫黄化合物(B)に含まれる硫黄原子のモル数(Ns)とは、0.6≦(前記モル数(NM))/(前記モル数(Ns))≦4.0の関係を満たす。コーティング液の詳細については、上述したため、重複する説明を省略する。
以下に、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって何ら限定されるものではない。なお、実施例および比較例における各測定および評価は、以下の(1)〜(4)の方法によって実施した。
(1)層(Y)(または層(Y’))の赤外線吸収スペクトル
実施例で形成される層(Y)の赤外線吸収スペクトル、および比較例で形成される層(Y’)の赤外線吸収スペクトルは、以下の方法で測定した。
まず、基材として延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(PET)を用いた複合構造体について、フーリエ変換赤外分光光度計(Perkin Elmer社製、「Spectrum One」)を用いて、層(Y)(または層(Y’))の赤外線吸収スペクトルを測定した。赤外線吸収スペクトルは、ATR(全反射測定)のモードで、700〜4000cm-1の範囲で測定した。層(Y)(または層(Y’))の厚さが1μm以下である場合には、ATR法による赤外線吸収スペクトルでは基材(X)由来の吸収ピークが検出され、層(Y)(または層(Y’))のみに由来する吸収強度を正確に求めることができない場合がある。このような場合には、基材(X)のみの赤外線吸収スペクトルを別途測定し、それを差し引くことで層(Y)(または層(Y’))由来のピークのみを抽出した。PET以外の基材(延伸ナイロンフィルムなど)を用いた複合構造体についても、上記と同様に測定した。
このようにして得られた層(Y)(または層(Y’))の赤外線吸収スペクトルに基づいて、800〜1400cm-1の範囲における最大吸収波数(n1)を求めた。
(2)複合構造体の外観
得られた複合構造体の外観を、目視によって下記のように評価した。
S:無色透明で均一な外観であり、きわめて良好であった。
A:わずかにくもりまたはムラが見られたが良好であった。
B:コーティング液のはじきなどによって、連続した層が得られなかった。
(3)酸化合物に暴露処理する前の酸素バリア性
酸素透過度(OTR)は、酸素透過量測定装置(モダンコントロール社製「MOCON OX−TRAN2/20」)を用いて測定した。温度が20℃、酸素供給側の湿度が0%RH、キャリアガス側の湿度が0%RH、酸素圧が1気圧、キャリアガス圧力が1気圧の条件下で酸素透過度(単位:ml/(m2・day・atm))を測定した。キャリアガスとしては2体積%の水素ガスを含む窒素ガスを使用した。
(4)酸化合物に暴露処理した後の酸素バリア性
密封容器中に充分な量の酢酸を封入し、40℃に維持した。その密封容器の中の気相中(すなわち、酢酸の飽和蒸気中)で、10cm×10cmの大きさの複合構造体を30日間保管した。このようにして酸化合物に暴露処理した複合構造体について、酸素透過度を測定した。
酸素透過度(OTR)は、酸素透過量測定装置(モダンコントロール社製「MOCON OX−TRAN2/20」)を用いて測定した。温度が20℃、酸素供給側の湿度が0%RH、キャリアガス側の湿度が0%RH、酸素圧が1気圧、キャリアガス圧力が1気圧の条件下で酸素透過度(単位:ml/(m2・day・atm))を測定した。キャリアガスとしては2体積%の水素ガスを含む窒素ガスを使用した。
[実施例1]
蒸留水230質量部を撹拌しながら70℃に昇温した。その蒸留水に、アルミニウムイソプロポキシド88質量部を1時間かけて滴下し、液温を徐々に95℃まで上昇させ、発生するイソプロパノールを留出させることによって加水分解縮合を行った。得られた液体に、60質量%の硝酸水溶液4.0質量部を添加し、95℃で3時間撹拌することによって加水分解縮合物の粒子の凝集体を解膠させた後に、固形分濃度がアルミナ換算で10質量%になるように濃縮した。こうして得られた分散液19.90質量部に対して、蒸留水54.63質量部、メタノール19.00質量部および5質量%のポリビニルアルコール(以下、PVA)水溶液0.50質量部を加え、均一になるように撹拌することによって、分散液(S1)を得た。また、50質量%の硫酸水溶液5.97質量部を、溶液(T1)として使用した。続いて、分散液(S1)を攪拌しながら溶液(T1)を滴下してコーティング液(U1)を得た。
次に、基材として、延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ株式会社製、「ルミラーP60」(商品名)、厚さ12μm、「PET」と略記することがある)を準備した。その基材(PET)上に、乾燥後の厚さが0.5μmとなるようにバーコータによってコーティング液(U1)をコートし、100℃で5分間乾燥することによって層(Y1)の前駆体層を形成した。得られた積層体に対して、乾燥機を用いて200℃で1分間の熱処理を施し、層(Y1)(0.5μm)/PET(12μm)という構造を有する複合構造体(A1)を得た。得られた複合構造体(A1)について、上記した方法によって、層(Y1)(層(Y))の赤外線吸収スペクトル、複合構造体の外観、および酸化合物への暴露処理前後の酸素バリア性を測定または評価した。
[実施例2〜4]
(モル数(NM))/(モル数(NS))の比率を表1に従って変更したこと以外は実施例1と同様の方法によって、実施例2〜4の複合構造体を製造し、それらの複合構造体について測定および評価を行った。
[実施例5〜6]
熱処理の温度を表1に従って変更したこと以外は実施例1と同様の方法によって、実施例5および6の複合構造体を製造し、それらの複合構造体について測定および評価を行った。
[実施例7]
PVAを使用しなかったこと以外は実施例1と同様の方法によって、実施例7の複合構造体を製造し、その複合構造体について測定および評価を行った。
[実施例8〜9]
PVAの代わりにでんぷんまたはポリアクリル酸を使用したこと以外は実施例1と同様の方法によって、実施例8および9の複合構造体を製造し、それらの複合構造体について測定および評価を行った。
[実施例10]
PVAの使用量を、層(Y)の質量に対して15質量%まで増やしたこと以外は実施例1と同様の方法によって、実施例10の複合構造体を製造し、その複合構造体について測定および評価を行った。
[実施例11〜12]
硫酸の代わりに、硫酸とメタンスルホン酸との混合物(モル比率で9:1または8:2)を使用したこと以外は実施例1と同様の方法によって、実施例11および12の複合構造体を製造し、それらの複合構造体について測定および評価を行った。
[実施例13]
分散液(S1)の代わりに、下記の方法で製造した分散液(S13)を使用したこと以外は実施例1と同様の方法によって、実施例13の複合構造体を製造し、その複合構造体について測定および評価を行った。
まず、耐圧容器を使用して、蒸留水230質量部を撹拌しながら75℃に昇温した。次に、その蒸留水に、アルミニウムイソプロポキシド88質量部を1時間かけて滴下し、液温を徐々に95℃まで上昇させ、発生するイソプロパノールを留出させることによって加水分解縮合を行った。得られた液体に、酢酸2.6質量部を添加し、140℃で4時間撹拌することによって解膠させ、その後、固形分濃度がアルミナ換算で10質量%になるように濃縮した。こうして得られた分散液19.90質量部に対して、蒸留水54.63質量部、メタノール19.00質量部および5質量%のポリビニルアルコール水溶液0.50質量部を加え、均一になるように撹拌することによって、分散液(S13)を得た。
[実施例14]
層(Y)を基材の両面に積層したこと以外は実施例1と同様の方法によって、実施例14の複合構造体を製造し、その複合構造体について測定および評価を行った。
[実施例15]
基材を延伸ナイロンフィルム(ユニチカ株式会社製 「エンブレム ONBC」(商品名)、厚さ15μm、「ONY」と略記することがある)としたこと以外は実施例1と同様の方法によって、実施例15の複合構造体を製造し、その複合構造体について測定および評価を行った。
[実施例16]
層(Y)を基材の両面に積層したこと以外は実施例15と同様の方法によって、実施例16の複合構造体を製造し、その複合構造体について測定および評価を行った。
[実施例17]
基材を厚さ12μmのシリカ蒸着PETフィルムとしたこと以外は実施例1と同様の方法によって、実施例17の複合構造体を製造した。ただし、層(Y)は、シリカ蒸着PETの蒸着面側に積層した。そして、実施例17の複合構造体について、測定および評価を行った。
[比較例1]
硫酸を使用しなかったこと以外は実施例1と同様の方法によって、比較例1の複合構造体を製造し、その複合構造体について測定および評価を行った。
[比較例2]
金属酸化物(アルミナ)を使用しなかったこと以外は実施例1と同様の方法によって、複合構造体の製造を行った。しかし、コーティング液(U)の濡れ性が悪く、コーティング液(U)がはじかれたため、連続した層が得られなかった。
[比較例3〜4]
(モル数(NM))/(モル数(NS))の比率を表1に従って変更したこと以外は実施例1と同様の方法によって、比較例3および4の複合構造体を製造し、それらの複合構造体について測定および評価を行った。
[比較例5〜6]
熱処理の温度を表1に従って変更したこと以外は実施例1と同様の方法によって、比較例5および6の複合構造体を製造し、それらの複合構造体について測定および評価を行った。
[比較例7]
金属酸化物(アルミナ)の代わりに、硝酸アルミニウムを加水分解縮合せずに使用したこと以外は実施例1と同様の方法によって、複合構造体の製造を行った。しかし、コーティング液(U)の濡れ性が悪く、コーティング液(U)がはじかれたため、連続した層が得られなかった。
上記実施例および比較例の製造条件、測定および評価結果を表1に示す。
表1において、「−」は、「使用していない」、「計算できない」、「実施していない」、「測定できない」等を意味する。
表1から明らかなように、実施例の複合構造体は、酸化合物への暴露処理後も優れた酸素バリア性を示した。また、実施例の複合構造体は、良好な外観を示した。
[実施例18]
実施例18では、本発明の複合構造体を用いて縦製袋充填シール袋を作製した。まず、実施例1と同様の方法によって、複合構造体(A1)を作製した。次に、2液型の接着剤(三井武田ケミカル株式会社製、A−520(商品名)およびA−50(商品名))を複合構造体(A1)上にコートして乾燥したものを準備し、これと延伸ナイロンフィルム(上記したONY)とをラミネートして積層体を得た。続いて、その積層体の延伸ナイロンフィルム上に、2液型の接着剤(三井武田ケミカル株式会社製、A−520(商品名)およびA−50(商品名))をコートして乾燥したものを準備し、これと無延伸ポリプロピレンフィルム(東セロ株式会社製、RXC−21(商品名)、厚さ70μm、以下「CPP70」と略記することがある)とをラミネートした。このようにして、PET/層(Y1)/接着剤/ONY/接着剤/CPP70という構造を有する複合構造体(C18)を得た。
次に、複合構造体(C18)を幅400mmに切断して、縦型製袋充填包装機(オリヒロ株式会社製)に供給し、合掌貼りタイプの縦製袋充填シール袋(幅160mm、長さ470mm)を作製した。次に、製袋充填包装機を用いて、複合構造体(C18)からなる縦製袋充填シール袋に水2kgを充填した。製袋充填包装機における複合構造体(C18)の加工性は良好であり、得られた縦製袋充填シール袋の外観には、皺や筋のような欠点は見られなかった。
[実施例19]
実施例19では、本発明の複合構造体を用いて真空包装袋を作製した。まず、実施例1と同様の方法によって、複合構造体(A1)を作製した。次に、2液型の接着剤(三井武田ケミカル株式会社製、A−520(商品名)およびA−50(商品名))を延伸ナイロンフィルム(上述したONY)上にコートして乾燥したものを準備し、それと複合構造体(A1)とをラミネートした。次に、ラミネートされた複合構造体(A1)上に、2液型の接着剤(三井武田ケミカル株式会社製、A−520(商品名)およびA−50(商品名))をコートして乾燥したものを準備し、それと無延伸ポリプロピレンフィルム(上述したCPP70)とをラミネートした。このようにして、ONY/接着剤/層(Y1)/PET/接着剤/CPP70という構成を有する複合構造体(C19)を得た。
次に、複合構造体(C19)から、22cm×30cmの長方形の積層体2枚を切り取った。そして、CPP70が内側となるように2枚の複合構造体(C19)を重ね合わせ、長方形の3辺をヒートシールすることによって袋を形成した。その袋に、固形食品のモデルとして木製の球体(直径30mm)を、球体同士が接触するように1層に敷き詰めた状態で充填した。その後、袋の内部の空気を脱気して、最後の1辺をヒートシールすることにより、真空包装体を作製した。得られた真空包装体において、複合構造体(C19)は球体の凹凸に沿って密着した状態となっていた。
[実施例20]
実施例20では、本発明の複合構造体を用いてスパウト付パウチを作製した。まず、実施例18と同様の方法によって、PET/層(Y1)/接着剤/ONY/接着剤/CPP70という構造を有する複合構造体(C20)を得た。次に、複合構造体(C20)を所定の形状に2枚切り出した後、CPP70が内側となるように2枚の複合構造体(C20)を重ね合わせ、周縁をヒートシールし、更に、ポリプロピレン製のスパウトをヒートシールによって取り付けた。このようにして、平パウチ型のスパウト付パウチを問題なく作製できた。
[実施例21]
実施例21では、本発明の複合構造体を用いてラミネートチューブ容器を作製した。まず、実施例1と同様の方法によって、複合構造体(A1)を作製した。次に、2枚の無延伸ポリプロピレンフィルム(トーセロ株式会社製、RXC−21(商品名)、厚さ100μm、以下「CPP100」と略記することがある)のそれぞれに、2液型の接着剤(三井武田ケミカル株式会社製、A−520(商品名)およびA−50(商品名))をコートして乾燥したものを準備し、複合構造体(A1)とラミネートした。このようにして、CPP100/接着剤/層(Y1)/PET/接着剤/CPP100という構造を有する複合構造体(C21)を得た。
次に、複合構造体(C21)を所定の形状に切り出した後、筒状にして重ね合わせた部分をヒートシールすることによって、筒状体を作製した。次に、その筒状体をチューブ容器成形用のマンドレルに装着し、筒状体の一端に、円錐台状の肩部とそれに連続する先端部とを作製した。肩部および先端部は、ポリプロピレン樹脂を圧縮成形することによって形成した。次に、上記先端部に、ポリプロピレン樹脂製のキャップを付けた。次に、筒状体の開放している他端をヒートシールした。このようにして、ラミネートチューブ容器を問題なく作製できた。
[実施例22]
実施例22では、本発明の複合構造体を用いて輸液バッグを作製した。まず、実施例18と同様の方法によって、PET/層(Y1)/接着剤/ONY/接着剤/CPP70という構造を有する複合構造体(C22)を得た。次に、複合構造体(C22)を所定の形状に2枚切り出した後、CPP70が内側となるように2枚の複合構造体(C22)を重ね合わせ、周縁をヒートシールし、更に、ポリプロピレン製のスパウトをヒートシールによって取り付けた。このようにして、輸液バッグを問題なく作製できた。
[実施例23]
実施例23では、本発明の複合構造体を用いて容器用蓋材を作製した。まず、実施例18と同様の方法によって、PET/層(Y1)/接着剤/ONY/接着剤/CPP70という構造を有する複合構造体(C23)を得た。次に、その複合構造体(C23)を、容器用蓋材として、直径88mmの円形に切り出した。また、直径78mm、フランジ幅が6.5mm、高さ30mmで、ポリオレフィン層/スチール層/ポリオレフィン層の3層で構成される円柱状容器(東洋製罐株式会社製ハイレトフレックスHR78−84)を準備した。この容器に水をほぼ満杯に充填し、複合構造体(C23)からなる容器用蓋材を、フランジ部にヒートシールした。このようにして、容器用蓋材を用いた蓋付き容器を問題なく作製できた。
[実施例24]
実施例24では、本発明の複合構造体を用いて紙容器を作製した。まず、実施例1と同様の方法によって、複合構造体(A1)を作製した。次に、400g/m2の板紙の両面に接着剤を塗布した後、その両面にポリプロピレン樹脂(以下、「PP」と略記することがある)を押出ラミネートすることによって、板紙の両面にPP層(厚さ各20μm)を形成した。その後、一方のPP層の表面に接着剤を塗布し、その上に複合構造体(A1)をラミネートし、さらに複合構造体(A1)の表面に接着剤を塗布し、無延伸ポリプロピレンフィルム(上述したCPP70)と貼り合わせた。このようにして、PP/板紙/PP/接着剤/層(Y1)/PET/接着剤/CPP70という構成を有する複合構造体(C24)を作製した。複合構造体(C24)の作製において、必要に応じてアンカーコート剤を用いた。このようにして得た複合構造体(C24)を用いて、ブリック型の紙容器を問題なく作製できた。
[実施例25]
実施例25では、本発明の複合構造体を用いて真空断熱体を作製した。まず、実施例19と同様の方法によって、ONY/接着剤/層(Y1)/PET/接着剤/CPP70という構成を有する複合構造体(C25)を得た。次に、複合構造体(C25)を所定の形状に2枚切り出した後、CPP70が内側となるように2枚の複合構造体(C25)を重ね合わせ、長方形の3辺をヒートシールすることによって袋を形成した。次に、袋の開口部から断熱性の芯材を充填し、真空包装機(Frimark GmbH製VAC−STAR 2500型)を用いて、温度20℃で内部圧力10Paの状態で袋を密封した。このようにして、真空断熱体を問題なく作製できた。なお、断熱性の芯材には、120℃の雰囲気下で4時間乾燥したシリカ微粉末を用いた。