JP2013208098A - 細胞遊走試験用装置および細胞遊走試験方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】異なる濃度の薬剤に対する細胞遊走を同時にかつ定量的に解析することが可能な細胞遊走試験用装置および細胞遊走試験方法を提供する。
【解決手段】表面に第1の線状導電性領域11と第2の線状導電性領域12と絶縁性領域3とを有する基材4を備え、第1および第2の線状導電性領域は、一方の端部が細胞接着性領域5に接触しておりその領域上および周囲が細胞接着阻害性領域6であり、第1および第2の線状導電性領域は薬剤供給部7に接触しており、第1の線状導電性領域上と薬剤供給部13との距離が、第2の線状導電性領域上と薬剤供給部14との距離に等しく、第1の線状導電性領域に接触する薬剤供給部と第2の線状導電性領域に接触する薬剤供給部に異なる濃度で薬剤を供給可能であり、第1および第2の線状導電性領域上の細胞接着阻害性領域は、第1および第2の線状導電性領域への電圧印加によって細胞接着性領域に変化することが可能である。
【選択図】図1

Description

本発明は、細胞遊走試験用装置およびこれを用いた細胞遊走試験方法に関する。
現在、様々な動物や植物の細胞培養が行われており、また、新たな細胞の培養法が開発されている。細胞培養の技術は、細胞の生化学的現象や性質の解明、有用な物質の生産等の目的で利用されている。さらに、培養細胞を用いて、人工的に合成された薬剤の生理活性や毒性を調べる試みがなされている。
一部の細胞(特に多くの動物細胞)は、何かに接着して生育する接着依存性を有しており、生体外の浮遊状態では長期間生存することができない。このような接着依存性を有した細胞の培養には、細胞が接着するための担体が必要であり、一般的には、コラーゲンやフィブロネクチン等の細胞接着性タンパク質を均一に塗布したプラスチック製の培養皿が用いられている。これらの細胞接着性タンパク質は、培養細胞に作用し、細胞の接着を容易にし、細胞の形態に影響を与えることが知られている。
一方、細胞の遊走は免疫応答や受精後の胚形態形成、組織修復および再生等の様々な段階に関与している。また、癌やアテローム動脈硬化症、関節炎等の疾患の進行においても極めて重要な役割を持つ。具体的には、血管内皮を通しての細胞の遊走は、炎症、アテローム性動脈硬化症、癌の転移といった状態の病態生理における重要な現象である。そのため、インビトロでの細胞遊走を測定する方法は、長年に渡って開発されてきた。
細胞遊走アッセイに関して既に市販されている装置としては、古典的なボイデンチャンバ、細胞培養インサート、FluoroBlock(登録商標)(BD Biosciences)、Cell Motility HitKit(登録商標)(Cellomics)がある。しかし、こうした装置では、接着した細胞の遊走方向を制御して、定量的に細胞遊走をアッセイすることは困難である。
特定の領域に細胞を遊走させて観測するための基板は、(非特許文献1)に開示されている。この基板は、ウェル内に細胞を播種しコンフルエントに培養した後、ピンで細胞を引っ掻くことにより創傷パターンを作製し、その創傷パターンへ向かって周りから細胞が遊走する過程を観測するものである(スクラッチアッセイ)。このような基板を用いるスクラッチアッセイは、ピンで創傷パターンを形成することから、傷のサイズ(幅)に物理的制約があり、せいぜいミリオーダー程度までしか小さくすることができない。また、傷のエッヂが汚く、ウェル間での傷形状のばらつきが大きいという問題がある。また、創傷時、ピンと細胞との物理的接触により細胞が浮遊したり、細胞内容物が漏出したりするといった欠点もある。さらに、傷の面積が広く細胞が早く埋まる部分や遅く埋まる部分などのばらつきが大きく、定量的なアッセイが難しく経時的な観察が必要になるなどの問題もあった。
これに対し、本発明者らは、導電性領域と絶縁性領域とを有する基材、並びにその導電性領域上に形成された細胞接着性領域と細胞接着阻害性領域とを備え、導電性領域上において細胞接着性領域と細胞接着阻害性領域とが隣り合っている細胞培養用基板を開発し、既に特許出願を行っている(特許文献1)。この細胞培養用基板に細胞を播種し、細胞接着性領域に細胞を接着させ、導電性領域に電圧を印加して導電性領域上の細胞接着阻害性領域を細胞接着性に変化させることにより、細胞接着性領域に接着している細胞の、細胞接着性に変化した領域への遊走を観察することができる。しかし、当該基板では、1つの基板で異なる濃度の薬剤に対する細胞遊走を比較することはできない。
特開2011−101638号公報
Justic C Yarrow, et al., A high-throughput cell migration assay using scratch wound healing, a comparison of image-based readout methods," BMC Biotechnology 2004, 4: 21.
本発明は、異なる濃度の薬剤に対する細胞遊走を同時にかつ定量的に解析することが可能な細胞遊走試験用装置およびこれを用いた細胞遊走試験方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、細胞を接着させて遊走させることが可能な2以上の細胞遊走路を設け、各遊走路に接触する薬剤供給部に異なる濃度で薬剤を供給し、遊走路と交わる方向に薬剤濃度勾配を形成して同時に細胞遊走させることにより、異なる濃度の薬剤に対する細胞遊走を同時にかつ定量的に解析できることを見出した。
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
(1)細胞遊走試験用装置であって、
その表面に第1の線状導電性領域と第2の線状導電性領域と絶縁性領域とを有する基材を備え、
第1および第2の線状導電性領域は、
一方の端部が細胞接着性領域に接触しておりその領域上および周囲が細胞接着阻害性領域であるか、または
一部領域上が細胞接着性領域でありその他領域上および周囲が細胞接着阻害性領域であり、
第1および第2の線状導電性領域は薬剤供給部に接触しており、
第1の線状導電性領域上またはこれに接触する細胞接着性領域と薬剤供給部との距離が、第2の線状導電性領域上またはこれに接触する細胞接着性領域と薬剤供給部との距離に等しく、
第1の線状導電性領域に接触する薬剤供給部と第2の線状導電性領域に接触する薬剤供給部に異なる濃度で薬剤を供給可能であり、
第1および第2の線状導電性領域上の細胞接着阻害性領域は、第1および第2の線状導電性領域への電圧印加によって細胞接着性領域に変化することが可能である、
前記装置。
(2)第1の線状導電性領域に接触する薬剤供給部と第2の線状導電性領域に接触する薬剤供給部が互いに接続して流路を形成している、(1)記載の装置。
(3)流路が薬剤導入口および薬剤排出口と接続している、(2)記載の装置。
(4)第1の線状導電性領域に接触する薬剤供給部と第2の線状導電性領域に接触する薬剤供給部とが独立しており、それぞれ薬剤導入口と接続している、(1)記載の装置。
(5)細胞遊走試験方法であって、
(i)(1)〜(4)のいずれかに記載の細胞遊走試験用装置の基材上に細胞を播種して、細胞接着性領域に細胞を接着させる工程、
(ii)第1および第2の線状導電性領域に電圧を印加することによって、第1および第2の線状導電性領域上の細胞接着阻害性領域を細胞接着性領域に改変する工程、
(iii)第1の線状導電性領域に接触する薬剤供給部と第2の線状導電性領域に接触する薬剤供給部における薬剤濃度が異なるように、薬剤供給部に薬剤を供給する工程、および
(iv)細胞接着性領域に改変された領域へ細胞を遊走させる工程
を含む、上記方法。
(6)一定時間経過後、第1の線状導電性領域と第2の線状導電性領域における細胞の遊走距離を測定する工程をさらに含む、(5)記載の方法。
本発明によれば、異なる薬剤濃度における細胞遊走速度を定量的に解析することができる。また、細胞遊走速度が飽和する薬剤濃度を決定することにより、薬剤の適切な投与量を決定することができる。
図1は、本発明の第一の実施形態を示す図である。 図2は、本発明の第二の実施形態を示す図である。 図3は、本発明の第二の実施形態の一態様を示す図である。 図4は、本発明の第一の実施形態の一態様を示す図である。 図5は、本発明の一実施形態を示す図である。 図6は、実施例において細胞遊走試験を実施した結果を示す写真である。
以下、本発明を詳細に説明する。
まず、本発明の細胞遊走試験用装置の第一の実施形態を図1に基づいて説明する。図1に示すように、この細胞遊走試験用装置10は、その表面に第1の線状導電性領域11と第2の線状導電性領域12と絶縁性領域3とを有する基材4を備え、
第1および第2の線状導電性領域は、一方の端部が細胞接着性領域5に接触しておりその領域上および周囲が細胞接着阻害性領域6であり、
第1および第2の線状導電性領域は薬剤供給部7に接触しており、
第1の線状導電性領域に接触する細胞接着性領域と薬剤供給部との距離8が、第2の線状導電性領域に接触する細胞接着性領域と薬剤供給部との距離9に等しく、
第1の線状導電性領域に接触する薬剤供給部13と第2の線状導電性領域に接触する薬剤供給部14に異なる濃度で薬剤を供給可能であり、
第1および第2の線状導電性領域上の細胞接着阻害性領域は、第1および第2の線状導電性領域への電圧印加によって細胞接着性領域に変化することが可能である。
次に、本発明の細胞遊走試験用装置の第二の実施形態を図2に基づいて説明する。図2に示すように、この細胞遊走試験用装置10は、その表面に第1の線状導電性領域11と第2の線状導電性領域12と絶縁性領域3とを有する基材4を備え、
第1および第2の線状導電性領域は、一部領域上が細胞接着性領域5でありその他領域上および周囲が細胞接着阻害性領域6であり、
第1および第2の線状導電性領域は薬剤供給部7に接触しており、
第1の線状導電性領域上の細胞接着性領域と薬剤供給部との距離8が、第2の線状導電性領域上の細胞接着性領域と薬剤供給部との距離9に等しく、
第1の線状導電性領域に接触する薬剤供給部13と第2の線状導電性領域に接触する薬剤供給部14に異なる濃度で薬剤を供給可能であり、
第1および第2の線状導電性領域上の細胞接着阻害性領域は、第1および第2の線状導電性領域への電圧印加によって細胞接着性領域に変化することが可能である。
(細胞接着性領域と細胞接着阻害性領域)
本発明において細胞接着性とは、細胞が接着すること、または細胞が接着しやすいことを意味する。細胞接着阻害性とは、細胞が接着しにくいことまたは細胞が接着しないことを意味する。したがって、細胞接着性領域と細胞接着阻害性領域とがパターン化されて配置された基材上に細胞を播種すると、細胞接着性領域には細胞が接着するが、細胞接着阻害性領域には細胞が接着しないため、基材上には細胞がパターン状に配列されることになる。
細胞接着性の程度は、接着させる細胞によって異なる場合もあるため、細胞接着性とは、ある種の細胞に対して細胞接着性であることを意味する。したがって、細胞遊走試験用装置の基材には、複数種の細胞に対する複数の細胞接着性領域が存在する場合、すなわち細胞接着性が異なる細胞接着性領域が2水準以上存在する場合もある。
本発明の細胞遊走試験用装置の基材における、細胞接着性領域および細胞接着阻害性領域の構造としては、例えば、以下の2つの形態が挙げられる。
第一の形態は、細胞接着性領域が、炭素酸素結合を有する有機化合物を含む細胞接着阻害性の親水性膜に酸化処理および/または分解処理を施して細胞接着性とした領域である形態である。この形態では、電極上に炭素酸素結合を有する有機化合物を含む細胞接着阻害性の親水性膜を形成し、次いで、細胞の接着が望まれる領域に対して酸化処理および/または分解処理を施すことにより当該領域に細胞接着性を付与して細胞接着性領域に改変する。前記処理を施さない部分は細胞接着阻害性領域である。
第二の形態は、細胞接着性領域が、炭素酸素結合を有する有機化合物を低密度で含む親水性膜で形成されている形態である。この形態は、炭素酸素結合を有する有機化合物を高密度で含む親水性膜が細胞接着阻害性を有するのに対して、前記化合物を低密度で含む親水性膜は細胞接着性を有することを利用したものである。基材上に前記化合物が結合しやすい第一領域と結合しにくい第二領域とを設け、該基材上に前記化合物の膜を形成すると、第一領域は細胞接着阻害性領域となり、第二領域は細胞接着性領域となる。
さらに、本発明の細胞遊走試験用装置の基材においては、第1および第2の線状導電性領域上の細胞接着阻害性領域が、電圧印加、好ましくは第1および第2の線状導電性領域への正電圧の印加によって細胞接着性に変化する。電圧の印加によって細胞接着性に変化した領域は、上記のように炭素酸素結合を有する有機化合物を含む細胞接着阻害性の親水性膜に酸化処理および/または分解処理を施して得られる細胞接着性領域とは、詳細な表面性状が異なる場合がある。
(基材)
本発明の細胞遊走試験用装置に用いられる基材としては、第1および第2線状導電性領域を形成可能な材料から構成されるものであれば特に制限されない。絶縁性材料からなる基材上に導電性領域を形成することが好ましい。基材材料としては、具体的には、ガラス、石英ガラス、ホウケイ酸ガラス、アルミナ、サファイア、フォルステライト、感光性ガラス、セラミック、シリコン、エラストマー、プラスチック(例えば、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ABS樹脂、ナイロン、アクリル樹脂、フッ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、メチルペンテン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、塩化ビニル樹脂)で代表される有機材料を挙げることができる。その形状も限定されず、例えば、平板、平膜、フィルム、多孔質膜等の平坦な形状、シリンダ、スタンプ、マルチウェルプレート、マイクロ流路等の立体的な形状、並びに表面に凹凸が形成された形状が挙げられる。フィルムを使用する場合、その厚さは特に制限されないが、通常0.1〜1000μm、好ましくは1〜500μm、より好ましくは10〜200μmである。
(導電性領域)
絶縁性材料からなる基材上に導電性領域を形成する場合、公知のパターニング技術を利用できる。公知のパターニング技術としては、例えば、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法、フレキソ印刷法およびコンタクトプリンティング法等の各種印刷法による方法、各種リソグラフィー法を用いる方法、並びにインクジェット法による方法、他に微細な溝を彫刻等する立体成型の手法等が挙げられる。具体的には、絶縁性材料からなる基材、例えばガラス基材に、電極材料、例えば金属膜または金属酸化物膜を成膜し、これをフォトリソグラフィ技術等の公知の技術を用いてパターニングすることにより、所望のパターンの導電性領域を形成することができる。
基材上への電極材料の成膜は、公知の方法で行うことができる。例えば、マイクロ波プラズマCVD(Chemical vapor deposit)法、ECRCVD(Electric cyclotron resonance chemical vapor deposit)法、ICP(Inductive coupled plasma)法、直流スパッタリング法、ECR(Electric cyclotron resonance)、スパッタリング法、イオン化蒸着法、アーク式蒸着法、レーザ蒸着法、EB(Electron beam)蒸着法、抵抗加熱蒸着法等が挙げられる。成膜は、塗布により実施してもよい。スピンコートや各種の印刷方式も使用できる。
導電性領域を構成する電極材料として、金属または金属酸化物、金属微粒子や導電性ナノファイバーが絶縁体に分散された膜、導電性の有機材料等が挙げられる。金属としては、銀、金、銅、白金等が挙げられ、金属酸化物としては、ITO(酸化インジウム錫)、IZO(酸化インジウム亜鉛)、SnO(酸化スズ)等が挙げられ、金属微粒子としては、銀、金、銅、白金等の微粒子、導電性ナノファイバーとしてはカーボンナノチューブ、導電性の有機材料としては、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)等が挙げられる。
導電性領域は、特に制限されないが、透明電極材料の膜で構成されることが好ましい。透明電極材料としては、例えば、ITO、IZO、SnO、導電性高分子であるポリエチレンジオキシチオフェン等が挙げられる。また、電圧印加後も透明であることが好ましい。本発明においては、ITOをスパッタリング法により基材上に成膜して、その後パターニングすることにより、導電性領域を形成することが好ましい。透明な電極材料の膜は、細胞の観察において有利である。
電極材料の膜の厚さは、通常、単分子膜〜100μm程度であり、好ましくは2nm〜1μm、より好ましくは5nm〜500nmである。
上記のような導電性領域のパターニングを行う場合は、具体的には、成膜した金属または金属酸化物に対し、レジスト塗布、フォトマスクを介した露光、現像およびエッチングを行って実施することができる。
本発明においては基材上に少なくとも第1の線状導電性領域と第2の線状導電性領域が形成されているが、さらに第3、第4の線状導電性領域を含んでいてもよい。線状導電性領域が3本以上存在する場合、各線状導電性領域の形状、その他の要素との関係は第1および第2導電性領域と同様である。また、線状導電性領域同士の関係は、第1線状導電性領域と第2線状導電性領域との関係に等しいものとする。すなわち、各線状導電性領域は、一方の端部が細胞接着性領域に接触しておりその領域上および周囲が細胞接着阻害性領域であるか、または一部領域上が細胞接着性領域でありその他領域上および周囲が細胞接着阻害性領域であり、各線状導電性領域は薬剤供給部に接触しており、各線状導電性領域上またはこれに接触する細胞接着性領域と薬剤供給部との距離が互いに等しく、各線状導電性領域に接触する薬剤供給部にそれぞれ異なる濃度で薬剤を供給可能であり、線状導電性領域上の細胞接着阻害性領域は、線状導電性領域への電圧印加によって細胞接着性領域に変化することが可能である。
線状導電性領域の本数は、特に制限されないが、通常2〜1536本、好ましくは4〜384本、より好ましくは12〜96本である。このような本数とすることにより、ハイスループットスクリーニングで一般的に用いられている96、384、1536マイクロプレートと同等の検体数の評価が可能であり、データの相関が取りやすい。線状導電性領域は、直線状で互いに略平行であることが細胞遊走を定量的に観察する観点から好ましいが、これに限定されず、曲線でもよい。また、各線状導電性領域は、互いに略平行に並ぶ態様に限られず、互いに交わる方向に配列されていてもよい。例えば、各線状導電性領域が、中心に配置された細胞接着性領域から放射状に広がるパターンでもよい。その場合、薬剤供給部は細胞接着性領域を中心とした略円周上で各線状導電性領域と接触するように配置されることになり、電圧印加後に線状導電性領域上に形成された細胞遊走路に沿って放射状に遊走する細胞を観察することになる。
これら複数の線状導電性領域は電気的に接続して、1つの導電性領域を形成していることが好ましい。それにより、複数の線状導電性領域に一度にかつ同時に電圧を印加でき、簡便かつ正確な定量的観察が可能になる。
複数の線状導電性領域、例えば第1の線状導電性領域と第2の線状導電性領域は、図1に示すような、複数の櫛歯部と各櫛歯部を支持する基部とからなる櫛形パターンにおける櫛歯部として構成されていることが好ましい。その場合、櫛歯部の幅(基部から櫛歯部が延びる方向(櫛歯部の長さ方向)と直交する側の幅、すなわち図1のw)は、好ましくは0.1〜500μmであり、より好ましくは5〜500μm、さらに好ましくは10〜200μmである。櫛歯部の幅が狭すぎると、櫛歯部の長さ方向の電気抵抗が高くなり、一定の電圧をかけた際に櫛歯部の長さ方向に電圧降下が生じやすく、電位の制御が困難になる。電圧降下の程度は、用いる導電性材料の導電率により変わるため、櫛歯部の幅の下限も導電性材料の導電率に応じて適宜決められるが、一般的には5μm以上が好ましい。基材上の導電性領域の幅を5μm以下のように狭くする場合には、基材上に幅の広い電極を設け、該電極の表面の一部を絶縁膜で被覆し、5μm以下の所望の幅の領域だけを露出させて、該領域を導電性領域とすることにより、抵抗値が高く電圧降下を起こす問題を解決することができる。また、櫛歯部の幅が測定対象の細胞の大きさよりも狭いと、櫛歯部上に細胞が接着しにくくなる。従って、細胞遊走を観察する際の櫛歯部の幅は、測定対象の細胞の大きさによって適宜決められるが、一般的には10μm以上が好ましい。櫛歯部の幅が広いと、顕微鏡で観察する際に視野に入る櫛歯の本数が少なくなり、統計的な処理をする際に不利になる。一般的には、顕微鏡の視野は数mm以下であるため、視野内に少なくとも1本の櫛歯部が入るためには、櫛歯部の幅は500μm以下が好ましい。また、櫛歯部の幅が適度に狭いと、測定対象の細胞の遊走方向が制限されるため、一定時間経過後の遊走距離が長くなり測定に有利になる効果もある。櫛歯部間の間隔は、好ましくは10〜1000μm、より好ましくは50〜500μmである。櫛歯部間の間隔が狭すぎると、櫛歯部間の絶縁性領域上の細胞接着阻害性領域を乗り越えて、隣り合った櫛歯部間で細胞が遊走しやすくなるため、細胞の遊走方向を制限しにくくなる。従って、一般的には10μm以上、より好ましくは50μm以上の櫛歯部間の間隔だと好ましい。櫛歯部間の間隔が広すぎると、顕微鏡で観察する際に視野に入る櫛歯の本数が少なくなり、統計的な処理をする際に不利になる。一般的には、顕微鏡の視野は数mm以下であるため、櫛歯部の幅は1000μm以下が好ましい。
一実施形態においては、図1に示すように、複数の線状導電性領域が電気的に接続した1つの導電性領域を形成し、当該導電性領域とは電気的に独立した別の導電性領域を基材に形成することが好ましい。換言すれば、基材4がその表面に第1の導電性領域1と第2の導電性領域2と絶縁性領域3とを有し、第1の導電性領域と第2の導電性領域は電気的に独立しており、第1の導電性領域が第1の線状導電性領域11と第2の線状導電性領域12を含む態様である。その場合、図1に示すように、2つの電気的に独立した導電性領域(第1の導電性領域1と第2の導電性領域2)は、ともに櫛歯部と基部を有する櫛型のパターンで構成され、互いの櫛歯部と櫛歯部が互いにかみあったパターンを形成することが特に好ましい。そのようなパターンは、細胞遊走試験において電圧を印加した場合に、電流が効果的に流れるため好ましい。
(細胞接着阻害性領域)
細胞接着阻害性領域は、好ましくは、炭素酸素結合を有する有機化合物により形成される親水性膜からなる。当該親水性膜は、水溶性や水膨潤性を有する、炭素酸素結合を有する有機化合物を主原料とする薄膜であり、酸化される前は細胞接着阻害性を有し、酸化および/または分解された後は細胞接着性を有しているものであれば特に限定されない。
本発明において炭素酸素結合とは、炭素と酸素との間に形成される結合を意味し、単結合に限らず二重結合であってもよい。炭素酸素結合としてはC−O結合、C(=O)−O結合、C=O結合が挙げられる。
主原料としては、水溶性高分子、水溶性オリゴマー、水溶性有機化合物、界面活性物質、両親媒性物質等が挙げられ、これらが相互に物理的または化学的に架橋し、電極と物理的または化学的に結合することにより親水性薄膜となる。
具体的な水溶性高分子材料としては、ポリアルキレングリコールおよびその誘導体、ポリアクリル酸およびその誘導体、ポリメタクリル酸およびその誘導体、ポリアクリルアミドおよびその誘導体、ポリビニルアルコールおよびその誘導体、双性イオン型高分子、多糖類等を挙げることができる。分子形状は、直鎖状、分岐を有するもの、デンドリマー等を挙げることができる。より具体的には、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールの共重合体、例えば、Pluronic F108、Pluronic F127、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)、ポリ(N−ビニル−2−ピロリドン)、ポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリ(メタクリロイルオキシエチルフォスフォリルコリン)、メタクリロイルオキシエチルフォスフォリルコリンとアクリルモノマーの共重合体、デキストラン、およびヘパリン等が挙げられるがこれらには限定されない。
具体的な水溶性オリゴマー材料や水溶性低分子化合物としては、アルキレングリコールオリゴマーおよびその誘導体、アクリル酸オリゴマーおよびその誘導体、メタクリル酸オリゴマーおよびその誘導体、アクリルアミドオリゴマーおよびその誘導体、酢酸ビニルオリゴマーの鹸化物およびその誘導体、双性イオンモノマーからなるオリゴマーおよびその誘導体、アクリル酸およびその誘導体、メタクリル酸およびその誘導体、アクリルアミドおよびその誘導体、双性イオン化合物、水溶性シランカップリング剤、水溶性チオール化合物等を挙げることができる。より具体的には、エチレングリコールオリゴマー、(N−イソプロピルアクリルアミド)オリゴマー、メタクリロイルオキシエチルフォスフォリルコリンオリゴマー、低分子量デキストラン、低分子量ヘパリン、オリゴエチレングリコールチオール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、2−〔メトキシ(ポリエチレンオキシ)プロピル〕トリメトキシシラン、およびトリエチレングリコール−ターミネーティッド−チオール等が挙げられるがこれらには限定されない。
親水性膜は、処理前は高い細胞接着阻害性を有し、酸化処理および/または分解処理後は細胞接着性を示すものであることが望ましい。
親水性膜の平均厚さは、0.8nm〜500μmが好ましく、0.8nm〜100μmがより好ましく、1nm〜10μmがより好ましく、1.5nm〜1μmが最も好ましい。平均厚さが0.8nm以上であれば、タンパク質の吸着や細胞の接着において、基材もしくは電極表面の親水性薄膜で覆われていない領域の影響を受けにくいため好ましい。また、平均厚さが500μm以下であればコーティングが比較的容易である。
導電性領域上への親水性膜の形成方法としては、導電性領域へ親水性有機化合物を直接吸着させる方法、導電性領域へ親水性有機化合物を直接コーティングする方法、導電性領域へ親水性有機化合物をコーティングした後に架橋処理を施す方法、導電性領域への密着性を高めるために多段階式に親水性薄膜を形成させる方法、導電性領域との密着性を高めるために電極の上に下地層を形成し、次いで親水性有機化合物をコーティングする方法、電極の表面に重合開始点を形成し、次いで親水性ポリマーブラシを重合する方法等を挙げることができる。
上記成膜方法のうち特に好ましい方法としては、多段階式に親水性薄膜を形成させる方法、並びに、導電性領域との密着性を高めるために電極の上に下地層を形成し、次いで親水性有機化合物をコーティングする方法を挙げることができる。これらの方法を用いると、親水性有機化合物の電極への密着性を高めることが容易だからである。本明細書では「結合層」という用語を用いる。結合層とは、多段階式に親水性有機化合物の薄膜を形成する場合には最表面の親水性薄膜層と電極との間に存在する層を意味し、電極の表面に下地層を設け当該下地層の上に親水性薄膜層を形成する場合には当該下地層を意味する。結合層は、結合部分(リンカー)を有する材料を含む層であることが好ましい。リンカーとリンカーに結合させる材料の末端の官能基の組み合わせとしては、エポキシ基と水酸基、フタル酸無水物と水酸基、カルボキシル基とN−ハイドロキシスクシイミド、カルボキシル基とカルボジイミド、アミノ基とグルタルアルデヒド等が挙げられる。それぞれの組み合わせにおいて、いずれがリンカーであってもよい。これらの方法においては、親水性材料によるコーティングを行う前に、電極の上にリンカーを有する材料により結合層を形成する。結合層における前記材料の密度は結合力を規定する重要な因子である。前記密度は、結合層の表面における水の接触角を指標として簡便に評価することができる。例えば、エポキシ基を末端に有するシランカップリング剤(エポキシシラン)を例にとると、エポキシシランを付加した電極の表面の水接触角が典型的には45°以上、望ましくは47°以上であれば、次に酸触媒存在下エチレングリコール系材料等を付加することによって十分な細胞接着阻害性を有する領域を形成することができる。なお、本発明において水接触角とは、23℃において測定される水接触角を指す。
(親水性膜の酸化処理および/または分解処理による細胞接着性領域の形成)
本発明では、細胞接着性領域は、炭素酸素結合を有する有機化合物を含む細胞接着阻害性の親水性膜に酸化処理および/または分解処理を施して細胞接着性とした領域により形成されることが好ましい。
本発明において「酸化」とは狭義の意味であり、有機化合物が酸素と反応して酸素の含有量が反応以前よりも多くなる反応を意味する。
本発明において「分解」とは有機化合物の結合が切断されて1種の有機化合物から2種以上の有機化合物が生じる変化を指す。「分解処理」としては典型的には、酸化処理による分解、紫外線照射による分解等が挙げられるがこれらには限定されない。「分解処理」が酸化を伴う分解(つまり酸化分解)である場合、「分解処理」と「酸化処理」とは同一の処理を指す。
紫外線照射による分解とは、有機化合物が紫外線を吸収し、励起状態を経て分解することを指す。なお、有機化合物が、酸素を含む分子種(酸素、水等)とともに存在している系中に紫外線を照射すると、紫外線が化合物に吸収されて分解が起こる以外に、該分子種が活性化して有機化合物と反応する場合がある。後者の反応は「酸化」に分類できる。そして活性化された分子種による酸化により有機化合物が分解する反応は、「紫外線照射による分解」ではなく「酸化による分解」に分類できる。
以上のように「酸化処理」と「分解処理」は操作としては重複する場合があり、両者を明確に区別することはできない。そこで本明細書では「酸化処理および/または分解処理」という用語を使用する。
酸化処理および/または分解処理の方法としては、親水性膜を紫外線照射処理する方法、光触媒処理する方法、酸化剤で処理する方法等が挙げられる。本発明では、電極上に細胞接着性領域と細胞接着阻害性領域とをそれぞれ形成することから、親水性膜をパターン状に部分的に酸化処理および/または分解処理する。部分的に酸化処理および/または分解処理する場合は、フォトマスクやステンシルマスク等のマスクを用いたり、スタンプを用いたりするとよい。また、紫外線レーザ等のレーザを用いた方式等の直描方式で酸化処理および/または分解処理を施してもよい。
紫外線照射処理の場合は、波長185nmや254nmの紫外線を出す水銀ランプや波長172nmの紫外線を出すエキシマランプ等のVUV領域からUV−C領域の紫外線を出すランプを光源として用いることが好ましい。光触媒処理する場合は、波長365nm以下の紫外線を出す光源を用いることが好ましく、波長254nm以下の紫外線を出す光源を用いることがより好ましい。光触媒としては、酸化チタン光触媒、金属イオンや金属コロイドで活性化された酸化チタン光触媒を用いるのが好ましい。酸化剤としては、有機酸や無機酸を特に制限なく用いることができるが、高濃度の酸は取り扱いが難しいので、10%以下の濃度に希釈して用いるとよい。最適な紫外線処理時間、光触媒処理時間、酸化剤処理時間は、用いる光源の紫外線強度、光触媒の活性、酸化剤の酸化力や濃度等の諸条件に応じて適宜決定することができる。
細胞接着性領域は、炭素酸素結合を有する有機化合物を低密度で含む親水性膜により形成されていてもよい。この態様では、細胞接着性領域と細胞接着阻害性領域とは、ともに炭素酸素結合を有する有機化合物を含む親水性膜で形成されている。2つの領域は前記有機化合物の密度が相違する。同密度が高いほど細胞は接着しにくくなる傾向がある。細胞接着性領域では、前記有機化合物の密度が、細胞が接着できる程度に低い。一方、細胞接着阻害性領域では、前記有機化合物の密度が、細胞が接着できない程度に高い。
親水性有機化合物の密度を制御する方法としては、親水性有機化合物の薄膜と電極表面との間に結合層を設け、当該結合層の親水性有機化合物との結合力を調整する方法が挙げられる。ここで「結合層」とは上記で定義した通りであり、上記で説明した好ましい材料から構成され得る。結合層の結合力は、結合層におけるリンカーを有する材料の密度が高いほど強くなり、同密度が低いほど弱くなる。結合層におけるリンカーを有する材料の密度は、上述の通り、結合層の表面における水の接触角を指標として簡便に評価することができる。
この実施形態では、細胞接着性領域の結合層における、リンカーを有する材料の密度は低い。細胞接着性領域における、親水性有機化合物の薄膜を形成する前の結合層の表面の水接触角は、リンカーを有する材料としてエポキシ基を末端に有するシランカップリング剤を使用する場合を例にとると、典型的には、10°〜43°、望ましくは15°〜40°である。このような結合層を形成する方法としては、リンカーを有する材料の被膜(結合層)を電極表面に形成した後、当該結合層の表面を酸化処理および/または分解処理する方法が挙げられる。結合層表面を酸化処理および/または分解処理する方法としては、結合層表面を紫外線照射処理する方法、光触媒処理する方法、酸化剤で処理する方法等が挙げられる。結合層表面の全面を酸化処理および/または分解処理してもよいし、部分的に処理してもよい。部分的な処理は、フォトマスクやステンシルマスク等のマスクを用いたり、スタンプを用いることにより行うことができる。また、紫外線レーザ等のレーザを用いた方式等の直描方式で酸化処理および/または分解処理を施してもよい。諸条件等についても、親水性膜の酸化処理および/または分解処理により細胞接着性領域を形成する方法の場合と同様の条件を適用できる。こうして形成された結合層上に親水性有機化合物の薄膜を形成することにより、細胞接着性領域が形成できる。
この実施形態では、細胞接着阻害性領域の結合層における、リンカーを有する材料の密度は高い。細胞接着阻害性領域における、親水性有機化合物の薄膜を形成する前の結合層の表面の水接触角は、リンカーを有する材料としてエポキシ基を末端に有するシランカップリング剤を使用する場合を例にとると、典型的には45°以上、望ましくは47°以上である。このような結合層は、リンカーを有する材料の被膜を電極表面に形成することにより得られる。結合層表面を部分的に酸化処理および/または分解処理した場合には、処理を受けない残余の部分が前記水接触角を有する結合層となる。こうして形成された結合層上に親水性有機化合物の薄膜を形成することにより、細胞接着阻害性領域が形成できる。
(細胞接着性領域と細胞接着阻害性領域との比較)
細胞接着性領域(結合層が存在する場合には結合層も含む)の炭素量は、細胞接着阻害性領域(結合層が存在する場合には結合層も含む)の炭素量と比較して低いことが好ましい。具体的には、細胞接着性領域の炭素量が、細胞接着阻害性領域の炭素量に対して20〜99%であることが好ましい。この範囲内に該当することは、親水性膜の厚さ(結合層が存在する場合には結合層の厚さと親水性膜の厚さの合計)が10μm以下の場合に特に好適である。「炭素量(atomic concentration、%)」は下記に定義する通りである。
また、細胞接着性領域(結合層が存在する場合には結合層も含む)における炭素のうちで酸素と結合している炭素の割合(%)の値は、細胞接着阻害性領域(結合層が存在する場合には結合層も含む)における炭素のうちで酸素と結合している炭素の割合(%)の値に対して小さい値であることが好ましい。具体的には、細胞接着性領域における炭素のうちで酸素と結合している炭素の割合(%)の値が、細胞接着阻害性領域における炭素のうちで酸素と結合している炭素の割合(%)の値に対して35〜99%であることが好ましい。この範囲内に該当することは、親水性膜の厚さ(結合層が存在する場合には結合層の厚さと親水性膜の厚さの合計)が10μm以下の場合に特に好適である。「酸素と結合している炭素の割合(atomic concentration、%)」は下記に定義する通りである。
(親水性薄膜の評価方法)
本発明の親水性薄膜(結合層が存在する場合には結合層も含む)の評価手法としては、接触角測定、エリプソメトリー、原子間力顕微鏡観察、電子顕微鏡観察、オージェ電子分光測定、X線光電子分光測定、各種質量分析法等を用いることができる。これらの手法の中で、最も定量性に優れているのはX線光電子分光測定(XPS/ESCA)である。この測定方法で求められるのは相対的定量値であり、一般的に元素濃度(atomic concentration、%)で算出される。以下、本発明におけるX線光電子分光分析方法を詳細に説明する。
本発明において親水性薄膜の「炭素量」は、「X線光電子分光装置を用いて得られるC1sピークの解析値から求められる炭素量」と定義される。また、本発明において親水性薄膜の「酸素と結合している炭素の割合」は、「X線光電子分光装置を用いて得られるC1sピークの解析値から求められる酸素と結合している炭素の割合」と定義される。具体的な測定は、特開2007−312736号公報に記載される通りに実施できる。
(パターンの形状)
本発明の細胞遊走試験用装置の基材では、細胞接着性領域と細胞接着阻害性領域とがパターン化されて配置される。細胞接着性領域と細胞接着阻害性領域と細胞接着性に変化する領域とをパターニングにより予め決定することにより、細胞遊走試験において細胞を遊走させる領域および方向を制御することができる。
一実施形態において、細胞接着性領域と細胞接着阻害性領域のパターンは、図1に示すように、各線状導電性領域の一方の端部が細胞接着性領域に接触し、その領域上および周囲が細胞接着阻害性領域となるようにパターン化された配置される。
各線状導電性領域の一方の端部が細胞接着性領域に接触していることにより、まず細胞接着性領域に細胞を接着させた後、各線状導電性領域への電圧(好ましくは正電圧)の印加により各線状導電性領域上の細胞接着阻害性領域が細胞接着性に変化すると、その細胞接着性に変化した領域に細胞が遊走できるようになる。電圧印加前は、各線状導電性領域上および周囲は細胞接着阻害性領域であるため、電圧印加後は、線状導電性領域上のみが細胞接着性に変化し、線状導電性領域と同じ細胞接着性領域の線状パターンが形成される。細胞接着性領域の線状パターンは細胞遊走路を構成し、細胞が線状パターンに沿って遊走していくことから、遊走距離を測定することにより、細胞遊走を定量的に解析することができる。
別の実施形態において、細胞接着性領域と細胞接着阻害性領域のパターンは、図2に示すように、各線状導電性領域の一部領域上が細胞接着性領域でありその他領域上および周囲が細胞接着阻害性領域となるようにパターン化されて配置される。
各線状導電性領域の一部領域上を細胞接着性領域とし、その他領域上および周囲を細胞接着阻害性領域とすることにより、線状導電性領域上において細胞接着性領域と細胞接着阻害性領域が隣接することになる。細胞接着性領域と細胞接着阻害性領域が隣接することにより、まず細胞接着性領域に細胞を接着させた後、各線状導電性領域への電圧(好ましくは正電圧)の印加によりその他領域上の細胞接着阻害性領域が細胞接着性に変化すると、その細胞接着性に変化した領域に細胞が遊走できるようになる。電圧印加前は、線状導電性領域のその他領域上および周囲は細胞接着阻害性領域であるため、電圧印加後は、線状導電性領域と同じ細胞接着性領域の線状パターンが形成される。細胞接着性領域の線状パターンは細胞遊走路を構成し、細胞が線状パターンに遊走していくことから、遊走距離を測定することにより、細胞遊走を定量的に解析することができる。
図1に示すような細胞遊走試験用装置の基材10は、例えば次のようにして製造することができる。すなわち、基材4上に第1導電性領域1と第2導電性領域2を形成する工程、基材の表面に炭素酸素結合を有する有機化合物を含む細胞接着阻害性の親水性膜(ポリエチレングリコール膜)を形成する工程、および第1および第2線状導電性領域の一方の端部と接触するように、親水膜をパターン状に酸化処理および/または分解処理して細胞接着性に改変させる工程を含む方法により製造できる。
(薬剤供給部)
第1の線状導電性領域および第2の線状導電性領域はいずれも薬剤供給部に接触している。本発明の細胞遊走試験用装置は、薬剤に対する細胞の遊走を試験するため好適に用いられる。線状導電性領域に電圧が印加されると、細胞接着阻害性領域が細胞接着性に変化して細胞遊走路が形成されるが、薬剤供給部に供給された薬剤は、基材表面を拡散して濃度勾配を形成し、一部が電圧印加前の細胞接着性領域に接着した細胞まで到達する。そして、薬剤に接触した細胞が、線状導電性領域への電圧印加後に形成される細胞接着性領域の細胞遊走路を遊走する速度を解析することができる。ここで、線状導電性領域が薬剤供給部に接触するとは、電圧印加後に線状導電性領域上に形成される細胞遊走路に薬剤供給部の薬剤が拡散可能であることを意味する。
本発明の細胞遊走試験装置においては、第1の線状導電性領域上またはこれに接触する細胞接着性領域と薬剤供給部との距離が、第2の線状導電性領域上またはこれに接触する細胞接着性領域と薬剤供給部との距離に等しい。まず、電圧印加前の細胞接着性領域と薬剤供給部の距離を、線状導電性領域間で同じ距離とすることにより、薬剤に対する細胞の遊走反応の強度が、電圧印加後に形成される細胞遊走路における遊走距離に反映されることになる。
本発明の細胞遊走試験装置は、第1の線状導電性領域に接触する薬剤供給部13と第2の線状導電性領域に接触する薬剤供給部14に異なる濃度で薬剤を供給可能なように構成される。一実施形態においては、図2cに示されるように、第1の線状導電性領域に接触する薬剤供給部13と第2の線状導電性領域に接触する薬剤供給部14が互いに接続して流路を形成する。この流路に特定の濃度の薬剤を流すことにより、流路方向、すなわち線状導電性領域と直行する方向に薬剤の濃度勾配が形成される。したがって、第1の線状導電性領域に接触する薬剤供給部13と第2の線状導電性領域に接触する薬剤供給部14における薬剤濃度は異なるものとなる。薬剤の濃度勾配は、線状導電性領域と平行な方向にも形成されるが、薬剤供給部13および14と細胞接着性領域5との距離は、線状導電性領域間で等しいことから、薬剤供給部における薬剤濃度が高いほど、細胞接着性領域5における薬剤濃度も高くなる。
この流路は、好ましくは薬剤導入口15および薬剤排出口16と接続している。薬剤導入口に一定濃度の薬剤を導入し続けることにより、流路に沿って、薬剤導入口から薬剤排出口の方向に薬剤の濃度勾配が形成される。あるいは、薬剤導入口15に高濃度の薬剤を導入し、薬剤排出口16に低濃度の薬剤を導入することにより、流路に沿って、薬剤導入口から薬剤排出口の方向に薬剤の濃度勾配を形成することもできる。この場合、一定時間経過すると薬剤濃度は流路内で均一になるので、薬剤濃度が均一になるまでの間に細胞遊走試験を実施することが好ましい。
一実施形態においては、図3cに示されるように、各線状導電性領域に接触する薬剤供給部が独立しており、それぞれの薬剤供給部(13、14)が薬剤導入口と接続している。その場合は、それぞれの薬剤導入口に異なる濃度の薬剤を導入することにより、各線状導電性領域に接触する薬剤供給部に異なる濃度で薬剤を供給することができる。
当然のことながら、図1のようなパターンを有する基材に対しても同様に、図2cや区3cに示す薬剤供給部を形成することができる。
薬剤供給部、薬剤導入口および薬剤排出口は、基材と一体となるように形成してもよく、基材と分離可能に形成してもよい。図4に本発明の細胞遊走試験用装置の一実施形態を示す。該実施形態は、図1および2に示すような、第1の線状導電性領域に接触する薬剤供給部と第2の線状導電性領域に接触する薬剤供給部が互いに接続して流路を形成している実施形態に対応するものである。図4において、線状導電性領域は基材の横方向(X方向)に遊走路が形成されるように配置されている。該実施形態は、基材4上に蓋部材20を有し、基材4と蓋部材20は好ましくは一体形成されている。蓋部材20は薬剤導入口15と薬剤排出口16を有し、基材の細胞接着性領域5に対応する位置に細胞導入口21を有する。細胞導入口は、細胞接着性領域の上部がすべて開口している形態でもよいし、一部が開口している形態でもよい。一部が開口している形態でも細胞を導入して培養することにより、細胞接着性領域全域に細胞を接着させることができる。細胞遊走路となる基材と蓋部材との間の空間は、図4dに示すように、細胞遊走路ごと、すなわち線状導電性領域ごとに空間が区切られるように流路が形成されていてもよいし、図4eのように一体の空間が形成されていてもよい。一体の空間を形成している場合でも、薬剤導入口から薬剤排出口に向けて、すなわち線状導電性領域と直行する方向に薬剤の勾配が形成されているので、線状導電性領域ごと、すなわち細胞遊走路ごとに濃度勾配を形成することができる。
また、図4に示すように、それぞれ第1導電性領域1および第2導電性領域2と電気的に接触するとともに、基材の外側につながるリード線を配置してもよい。このような構造により、例えば、蓋部材を取り付けたままで電圧を印加して、細胞接着阻害性領域を細胞接着性に変化させ、そのまま観察を行うことができるため、細胞培養中または細胞遊走中のコンタミネーションのリスクを回避することができる。
図4に示す実施形態において、基材や蓋部材の寸法は特に制限されないが、例えば、基材の寸法は、図4のX方向が20〜30mm、Y方向が25〜75mmとすることができる。蓋部材の寸法は、X方向が18〜28mm、Y方向が23〜73mm、Z方向が10〜30mm、薬剤導入口と薬剤排出口の間隔Y’が5〜70mmとすることができる。また基材と蓋部材との間隔(図4bのv)は0.05〜2mmとすることができる。
(細胞)
細胞遊走試験用装置で試験する細胞としては、血球系細胞やリンパ系細胞等の浮遊細胞でもよいし接着性細胞でもよいが、本発明は、接着性を有する細胞に対して好適に使用される。また遊走する性質を有する細胞に対して好適に使用される。そのような細胞としては、例えば、肝癌細胞、グリオーマ細胞、結腸癌細胞、腎癌細胞、膵癌細胞、前立腺癌細胞、大腸癌細胞、乳癌細胞、肺癌細胞、卵巣癌細胞等の癌細胞、肝臓の実質細胞である肝細胞、クッパー細胞、血管内皮細胞や角膜内皮細胞等の内皮細胞、線維芽細胞、骨芽細胞、砕骨細胞、歯根膜由来細胞、表皮角化細胞等の表皮細胞、気管上皮細胞、消化管上皮細胞、子宮頸部上皮細胞、角膜上皮細胞等の上皮細胞、乳腺細胞、ペリサイト、平滑筋細胞や心筋細胞等の筋細胞、腎細胞、膵ランゲルハンス島細胞、末梢神経細胞や視神経細胞等の神経細胞、軟骨細胞、骨細胞等が挙げられる。これらの細胞は、組織や器官から直接採取した初代細胞でもよく、あるいは、それらを何代か継代させたものでもよい。さらにこれらの細胞は、未分化細胞である胚性幹細胞、多分化能を有する間葉系幹細胞等の多能性幹細胞、単分化能を有する血管内皮前駆細胞等の単能性幹細胞、分化が終了した細胞の何れであってもよい。また、細胞は単一種を培養してもよいし二種以上の細胞を共培養してもよい。
目的の細胞を含む試料は、予め、生体組織を細かくして液体中に分散させる分散処理や、生体組織中の目的の細胞以外の細胞その他細胞破片等の不純物質を除去する分離処理等を行っておくことが好ましい。
細胞試験用基板への細胞の播種に先だって、目的とする細胞を含む試料を、予め、各種の培養方法で予備培養して、目的とする細胞を増やすことが好ましい。予備培養には、単層培養、コートディシュ培養、ゲル上培養等の通常の培養方法が採用できる。予備培養において、細胞を支持体表面に接着させて培養する方法の一つに、いわゆる単層培養法として既に知られている手段がある。具体的には、例えば、培養容器に目的の細胞を含む試料と培養液とを収容して一定の環境条件に維持しておくことにより、特定の生細胞のみが、培養容器等の支持体表面に接着した状態で増殖する。使用する装置や処理条件等は、通常の単層培養法等に準じて行う。細胞が接着して増殖する支持体表面の材料として、ポリリシン、ポリエチレンイミン、コラーゲンおよびゼラチン等の細胞の接着や増殖が良好に行われる材料を選択したり、ガラスシャーレ、プラスチックシャーレ、スライドガラス、カバーガラス、プラスチックシートおよびプラスチックフィルム等の支持体表面に、細胞の接着や増殖が良好に行われる化学物質、いわゆる細胞接着因子を塗布しておくことも行われる。
予備培養後に、培養容器中の培養液を除去することで、試料中の、支持体表面に接着しない塊状や線維状の不純物等の不要成分が除去され、支持体表面に接着した生細胞のみを回収できる。支持体表面に接着した生細胞の回収には、EDTA−トリプシン処理等の手段が適用できる。
上記のように予備培養した細胞を、細胞試験用基板上に播種する。細胞の播種方法や播種量については特に制限はなく、例えば、朝倉書店発行「日本組織培養学会編組織培養の技術(1999年)」266〜270頁等に記載されている方法が使用できる。細胞を細胞試験用基板上で増殖させる必要がない程度に十分な量で、細胞が単層で接着するように播種することが好ましい。通常、培養液1ml当たり10〜10個のオーダーで細胞が含まれるように播種するのが好ましく、また、電極1cm当たり10〜10個のオーダーで細胞が含まれるように播種するのが好ましい。具体的には、400mm当たり2×10個程度で播種する。
播種した細胞は、細胞接着性領域に接着させる。細胞の培養液としては、当技術分野で通常用いられる細胞培養用培地であれば特に制限なく用いることができる。例えば、用いる細胞の種類に応じて、MEM培地、BME培地、DME培地、αMEM培地、IMDM培地、ES培地、DM−160培地、Fisher培地、F12培地、WE培地およびRPMI1640培地等、朝倉書店発行「日本組織培養学会編組織培養の技術第三版」581頁に記載されているような基礎培地を用いることができる。さらに、基礎培地に血清(ウシ胎児血清等)、各種増殖因子、抗生物質、アミノ酸等を加えてもよい。また、Gibco無血清培地(インビトロジェン社)等の市販の無血清培地等を用いることができる。
(薬剤)
本発明の細胞遊走試験用装置を用いて、様々な薬剤に対する細胞の遊走を解析することができる。本発明において試験の対象となる薬剤は特に制限されず、例えば、天然または人為的に合成された各種ペプチド、タンパク質(酵素又は抗体を含む)、核酸(ポリヌクレオチド(DNA若しくはRNA)、オリゴヌクレオチド(siRNA、shRNAまたはデコイオリゴなど)、またはペプチド核酸(PNA)など)、有機化合物、無機化合物、低分子化合物、およびその他の高分子化合物などが挙げられる。具体的には、ウシ胎児血清(FBS)、上皮細胞増殖因子(EGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、Latrunculin B、サイトカラシンなどが挙げられる。
また、薬剤と細胞の組み合わせとしては、例えば、マウス線維芽細胞(SWISS−3T3)と線維芽細胞増殖因子(FGF)、ウシ血管内皮細胞とFBS、ウシ血管内皮細胞とLatrunculinB、イヌ腎臓由来上皮細胞(MDCK)と上皮細胞増殖因子、HeLa細胞とFBSなどが挙げられる。
(細胞遊走試験)
上記のように、本発明の細胞遊走試験用装置の基材上に細胞を播種し、好ましくは培養を行い、細胞接着性領域に細胞を接着させた後、第1および第2線状導電性領域に電圧を印加し、当該領域上の細胞接着阻害性領域を細胞接着性に変化させることを利用して、細胞遊走の観察試験を行うことができる。すなわち、本発明の細胞遊走試験方法は、
(i)本発明の細胞遊走試験用装置の基材上に細胞を播種して、細胞接着性領域に細胞を接着させる工程、
(ii)第1および第2の線状導電性領域に電圧を印加することによって、第1および第2の線状導電性領域上の細胞接着阻害性領域を細胞接着性領域に改変する工程、
(iii)第1の線状導電性領域に接触する薬剤供給部と第2の線状導電性領域に接触する薬剤供給部における薬剤濃度が異なるように、薬剤供給部に薬剤を供給する工程、および
(iv)細胞接着性領域に改変された領域へ細胞を遊走させる工程
を含む、上記方法。
上記工程(ii)および(iii)はいずれを先に行ってよい。すなわち、薬剤を供給してから電圧を印加し、線状導電性領域上の細胞接着阻害性領域を細胞接着性領域に改変して、形成された細胞遊走路への細胞遊走を開始させてもよいし、電圧印加により細胞遊走路を形成してから薬剤を供給してもよい。好ましくは電圧印加後に薬剤供給を実施する。電圧印加後に薬剤供給を実施することにより、薬剤が電荷を持っている分子である場合に薬剤分子が基材表面に吸着して濃度勾配の再現性が下がるのを回避できる。また、浮遊した細胞接着阻害性物質が薬剤と反応して薬剤の性能が落ちるのを回避できる。そのため、電圧印加後に細胞接着阻害性物質が浮遊した培地を取り除き、培地交換を行った後、薬剤を添加することが望ましい。
まず、図5aに示すように、細胞遊走試験用装置の基材4上に細胞Aを播種した後、好ましくは細胞培養を行い、細胞接着性領域5に細胞Aを接着させる。さらに、基材表面を洗浄することにより、接着していない細胞を洗い流し、細胞接着性領域5にのみ細胞を接着させることが好ましい。そして好ましくは細胞接着性領域上に接着した細胞を培養する。
続いて、線状導電性領域に電圧を印加することにより、線状導電性領域上の細胞接着阻害性領域を細胞接着性領域に変化させる。ここで、線状導電性領域に印加する電圧は、正電圧であることが好ましい。正電圧を印加することにより、細胞接着阻害性領域を効果的に細胞接着性領域に改変できるとともに、特に導電性領域がITO膜からなる場合に黒変するのを防止することができ、細胞遊走の観察を良好に実施できる。
印加する電圧は、電極が接している溶媒の種類や、電極の材質、電極の形状によって、適切な値が変わるが、通常、細胞接着阻害性領域を細胞接着性領域に改変可能な電圧以上で、細胞に悪影響を与えない程度に低い電圧を加えるのがよい。具体的には、通常1〜10V、好ましくは2〜5Vであり、印加する時間は、通常1秒〜60分間、好ましくは10秒〜10分間であるが、これに限定されるものではない。
電圧は、基材平面内の導電性領域間(例えば、ITOとITO間)に印加してもよいし、基材平面内に、Pt等の対抗電極を設けて導電性領域と対向電極の間(例えば、ITOとPt間)に印加してもよい。また、電圧を精密に制御するため、基材平面内にAg/AgCl等の参照電極を設けてもよい。上記の対抗電極や参照電極は、基材平面内でなくてもよい(培養液に電極を浸漬する形態でもよい)。
そして、図5bに示すように、細胞接着性領域5に接着していた細胞が、線状導電性領域上に形成された細胞接着性の細胞遊走路へ向かって遊走するため、この状態を顕微鏡等により観察することができる。一定時間経過後、例えばCCDカメラ等で基材を上から撮影することにより、線状導電性領域における細胞の遊走距離を測定してもよい。一定時間経過後に撮影した映像から遊走距離を測定することにより、顕微鏡等で経時的に観察する必要がなくなり、遊走試験を簡便かつ大量に実施することが可能になる。
本発明の細胞遊走試験装置においては、複数の線状導電性領域に直行する方向に薬剤濃度の勾配が形成されるため、線状導電性領域上に電圧印加により形成された細胞遊走路ごとに細胞の遊走速度が異なる結果となりうる。したがって、薬剤濃度が異なる細胞遊走路において細胞遊走速度に違いがなかった場合、その薬剤濃度がその薬剤の試験細胞に対する効き目の飽和値であると判断することができ、最適な薬剤投与濃度を決定することができる。
例えば、図2〜3に示すような実施形態においては、電圧印加後に細胞接着性領域5の両側に細胞接着性の細胞遊走路が形成される。そして、薬剤供給部に供給された薬剤が細胞遊走促進性である場合、細胞接着性領域5に接着した細胞は薬剤供給部の方向に遊走するが、薬剤が細胞遊走抑制性である場合、細胞は薬剤供給部と反対の方向に遊走する。したがって、薬剤供給部に供給された薬剤が細胞遊走促進性であるか細胞遊走抑制性であるかを判断することも可能になる。したがって、本発明の細胞遊走試験用装置および試験方法は、薬剤として、細胞遊走促進剤を試験できるとともに、細胞遊走阻害剤を試験することもできる。
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明は実施例の範囲に限定されない。
[ITOの成膜]
ガラス基板(コーニング社製)を用意し、スパッタリングによりガラス基材上に1500Åの厚さにITO(酸化インジウム錫)を成膜した。フォトリソグラフィにより、幅10μm、長さ5mmの遊走路がピッチ30μmで90本並ぶようにパターニングした。
[PEGコーティング]
パターニングされたITO成膜ガラス基材上にあらかじめ加水分解されたエポキシシラン(GE東芝シリコーン製)をスピンコーティングで塗布した後、80℃で15分加熱し、純水で洗浄することによりシラン化合物を成膜した。このとき、ITO成膜ガラス基材の接触角は、40〜55°であった。同基材上に触媒量の硫酸を添加したポリエチレングリコール(PEG)としてPEG400(シグマ・アルドリッチ)を浸漬法にて塗布し、100℃で1時間加熱し、純水で洗浄することによりPEGをコーティングした。この基材の接触角は27〜35°程度であった。
[フォトリソグラフィ条件]
PEGがコーティングされた基材上に、幅1000μmのライン状の開口部を有するパターンが形成されているフォトマスクを、ライン状の開口部が遊走路と直行するように配置し、プロキシミティ露光によりVUV(波長172nm)を照射してライン状の開口部にあたるPEGを分解した。
[ディッシュ化条件]
上記のように作製した基材と、底面に18mmφの穴が空いている35mmφのポリスチレン製ディッシュとを接着剤にて接合させ、1日以上放置することで出ガスを抜き、ディッシュ化した。以上のようにしてディッシュを5つ作製した。
[培養条件]
作製されたディッシュそれぞれに2.0×10細胞/cmとなるようにマウス線維芽細胞を播種し、DMEM 10%FBS溶液中で24時間培養した。
[電圧印加条件]
細胞がライン状のパターンに接着していることを確認した後、遊走させたい方向の導電性領域を正極、それに対向する側の導電性領域を負極につなぎ、2.0Vで1分間電圧を印加し、PEGを脱離した。
[薬剤添加条件]
電圧印加後、各ディッシュの培地を取り除き、薬剤としてFBSの濃度が培地中0%、0.1%、1%、10%、20%のものを調整し、ディッシュごとに各濃度の培地に交換した。
[遊走観察]
CCDカメラにて5分間に一度細胞を撮影し、遊走路上における細胞の進行距離を定量化した。電圧印加24時間後に撮影した結果を図6に示す。
1:第1導電性領域
2:第2導電性領域
3:絶縁性領域
4:基材
5:細胞接着性領域
6:細胞接着阻害性領域
7:薬剤供給部
8:細胞接着性領域と薬剤供給部の距離
9:細胞接着性領域と薬剤供給部の距離
10:細胞遊走試験用装置
11:第1の線状導電性領域
12:第2の線状導電性領域
13:第1の線状導電性領域に接触する薬剤供給部
14:第2の線状導電性領域に接触する薬剤供給部
15:薬剤導入口
16:薬剤排出口
20:蓋部材
21:細胞導入口

Claims (6)

  1. 細胞遊走試験用装置であって、
    その表面に第1の線状導電性領域と第2の線状導電性領域と絶縁性領域とを有する基材を備え、
    第1および第2の線状導電性領域は、
    一方の端部が細胞接着性領域に接触しておりその領域上および周囲が細胞接着阻害性領域であるか、または
    一部領域上が細胞接着性領域でありその他領域上および周囲が細胞接着阻害性領域であり、
    第1および第2の線状導電性領域は薬剤供給部に接触しており、
    第1の線状導電性領域上またはこれに接触する細胞接着性領域と薬剤供給部との距離が、第2の線状導電性領域上またはこれに接触する細胞接着性領域と薬剤供給部との距離に等しく、
    第1の線状導電性領域に接触する薬剤供給部と第2の線状導電性領域に接触する薬剤供給部に異なる濃度で薬剤を供給可能であり、
    第1および第2の線状導電性領域上の細胞接着阻害性領域は、第1および第2の線状導電性領域への電圧印加によって細胞接着性領域に変化することが可能である、
    前記装置。
  2. 第1の線状導電性領域に接触する薬剤供給部と第2の線状導電性領域に接触する薬剤供給部が互いに接続して流路を形成している、請求項1記載の装置。
  3. 流路が薬剤導入口および薬剤排出口と接続している、請求項2記載の装置。
  4. 第1の線状導電性領域に接触する薬剤供給部と第2の線状導電性領域に接触する薬剤供給部とが独立しており、それぞれ薬剤導入口と接続している、請求項1記載の装置。
  5. 細胞遊走試験方法であって、
    (i)請求項1〜4のいずれか1項に記載の細胞遊走試験用装置の基材上に細胞を播種して、細胞接着性領域に細胞を接着させる工程、
    (ii)第1および第2の線状導電性領域に電圧を印加することによって、第1および第2の線状導電性領域上の細胞接着阻害性領域を細胞接着性領域に改変する工程、
    (iii)第1の線状導電性領域に接触する薬剤供給部と第2の線状導電性領域に接触する薬剤供給部における薬剤濃度が異なるように、薬剤供給部に薬剤を供給する工程、および
    (iv)細胞接着性領域に改変された領域へ細胞を遊走させる工程
    を含む、上記方法。
  6. 一定時間経過後、第1の線状導電性領域と第2の線状導電性領域における細胞の遊走距離を測定する工程をさらに含む、請求項5記載の方法。
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