JP2013203610A - 無機繊維質セラミックス多孔体の製造方法 - Google Patents

無機繊維質セラミックス多孔体の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】 製造コストを低減させ、かつ品質の安定性した無機繊維質セラミックス多孔体を得るための製造方法を提供する。
【解決手段】 無機繊維質セラミックス多孔体の製造方法は、特定の無機質短繊維を三次元領域において不規則に配置した予備成形体を形成し、該予備成形体をセラミックス粉末で囲むようにカーボンダイスにセットし、不活性ガス雰囲気中、1000℃〜1800℃の範囲内で5〜50MPaの圧力で第1段目のプレスを行うことで、前記無機質短繊維からの熱分解ガスの放出を抑制するように、前記予備成形体を前記セラミックス粉末が緻密化したセラミックスで覆われた状態にした後、さらに前記第1段目の加圧温度よりも高い温度でかつ1600〜1900℃の範囲内で5〜100MPaの圧力下で第2段目のプレスを行うことを特徴とする。
【選択図】 図2

Description

本発明は、過酷な温度条件下で使用可能であり、優れた耐熱性を有し、且つ高い断熱性と力学的特性を兼ね備えた無機繊維質セラミックス多孔体の製造方法に関する。
近年、航空宇宙分野や環境・エネルギー分野において用いられる断熱材・吸音材・フィルターなどの材料として、耐熱性や断熱性、力学的特性、化学的安定性などが優れた材料が望まれている。このような断熱材としては、耐火煉瓦などセラミックス製断熱材、ガラス繊維、アルミナ繊維、及びシリカ繊維等を用いたセラミックスファイバー製断熱材が知られている。しかし、一般的にアルミナ−シリカ等のセラミックスファイバーを用いた断熱材は、優れた断熱性能を示すが、力学的特性が非常に低いという問題がある。
また、このようなセラミックスファイバー断熱材に比べて十分な強度を有する様々な多孔質構造の断熱材が開発されている。例えば、アルミナ及びジルコニア多孔体は、優れた断熱性能を有し、SiC及びSi多孔体は、優れた力学的特性を有する。しかし、アルミナ及びジルコニア多孔体は、SiC及びSi多孔体に比べ強度が低く、SiC及びSi多孔体は、熱伝導率が高く断熱性能は十分でない。このように、一般的に、多孔質構造の断熱材は、断熱性と強度が相反する関係、すなわち、断熱性に優れるものは強度が低く、強度が高いものは断熱性が不十分である。さらに、高強度な断熱材として金属製の繊維材を用いたものもあるが(特許文献1)、金属はセラミックスに比べ、耐熱性が低く、さらに耐薬品性等の化学的安定性に欠けるという問題がある。
一方、優れた耐熱性、及び耐酸化性を有し、高温においても十分な強度を保持している材料のひとつにSi−M−C−O(Mは、Ti又はZr)からなる繊維を使用した無機繊維焼結体がある(特許文献2)。この特許文献2に記載された無機繊維焼結体は、1400℃においても、室温と同等の力学的特性を保持するとともに、優れた耐熱性を有し、SiC等の結晶質よりも熱伝導率が低く、緻密な焼結体としては、耐熱性も高く、断熱性にも優れている。しかし、特許文献2に記載された無機繊維焼結体の断熱性は、セラミックスファイバー、及びセラミックス多孔体と比べると必ずしも十分ではない。そこで、この無機繊維焼結体を構成する組織構造を維持した無機繊維質セラミックス多孔体が開発された(特許文献3)。
特開2002−146662号公報 特開平5−43338号公報 特開2010−248065号公報
しかしながら、特許文献3に記載された無機繊維質セラミックス多孔体の製造方法は、必ずしも十分なものではない。無機繊維質セラミックス多孔体の製造方法における課題は以下のとおりである。
1つ目は、ホットプレス成形に用いるカーボンダイスの寿命と多孔体の均質性である。この無機繊維質セラミックス多孔体の微細で且つ複雑な組織構造は、ホットプレスの過程での原料繊維の熱分解によって発生する繊維を構成している元素に由来する分解ガス(SiO、COなど)をダイスの隙間を通して外に放出させながら材料組成を制御することによって達成される。そのため、カーボンダイスと放出されるガスの反応により、カーボンダイスの表面に主にSiを主成分とする炭化物や酸化物が生成する。そのため、カーボンダイスを数回使用すると、この生成した炭化物等が堆積して、ダイス同士の合せ面に隙間が発生してしまう。また、この堆積物を除去すると、炭化物と一緒にカーボンダイスの一部が欠けてしまい、ダイス同士の合せ面に隙間ができてしまう。こうなると、ダイス同士の隙間の寸法精度が悪くなり、ダイスの隙間からの放出される熱分解ガスの量が多くなる。このような状態になると、厳密に熱分解反応をコントロールして、無機繊維質セラミックス多孔体の複雑な構造を達成することができない。
代表的な無機繊維質セラミックス多孔体は、(a)Si、M、C及びOからなる非晶質物質、(b)β−SiC、MC及びCの結晶質超微粒子と、SiO及びMOの非晶質物質との集合体(MはTi又はZrを示す。)、又は(c)上記(a)の非晶質物質と上記(b)の集合体との混合物を含有する無機質繊維と、この無機質繊維の間隙を充填するように存在する、(d)Si及びO、場合によりMからなる非晶質物質、(e)結晶質のSiO及び/又はMOからなる結晶質物質、又は(f)上記(d)の非晶質物質と上記(e)の結晶質物質との混合物を含有し、かつ100nm以下の粒径のMCからなる結晶質微粒子が分散した無機物質とからなり、さらに、上記の無機質繊維と上記の無機物質との境界層として1〜200nmの非晶質及び/又は結晶質の炭素からなる層によって構成された成形体に空隙が内在した構造からなっている。
このうち特に、無機質短繊維と無機物質の間に形成され、厚さ1〜200nmの非晶質及び結晶質の少なくとも一つの炭素からなる境界層を生成させることが困難となる。この境界層は、破壊過程において発生したクラックを繊維表面で偏向させることによって、破壊靭性を向上させる重要な役割を担っており、均一に生成させることによって破壊靭性が向上する。特に、約5mm程度の厚さの薄い無機繊維質セラミックス多孔体を成形する場合、この境界層が不均一であると、ホットプレスでの圧力や昇温、冷却の熱影響により、成形後カーボンダイスから取り出した状態で既にクラックが入っていることが多く、取り出しと同時に簡単に無機繊維質セラミックス多孔体が破壊してしまうことがある。この薄い無機繊維質セラミックス多孔体が成形困難な理由は、後述の2つ目の課題である予備成形体中の繊維不均質な分散にもよるところも大きい。
以上のことより、破壊靭性の優れた無機繊維質セラミックス多孔体を得るには、また、厚さの薄い無機繊維質セラミックス多孔体を得るには、境界層を出来る限り均一に生成させることが望ましい。よって、ホットプレス条件により使用回数は異なるが、カーボンダイスは頻繁に交換する必要がある。そのため、ダイスのコストを低減させ、かつ境界層の均一に生成した均質な無機質セラミックス多孔体の製造方法を見出す必要があった。
2つ目は、突発的なダイス、又は上下パンチ棒の破損である。ホットプレス前の原料の無機質短繊維と無機物質から成る予備成形体の繊維体積率を均一揃えることは非常に困難であり、予備成形体には無機質短繊維の粗密がある。このため、ホットプレスの加圧の際に、予備成形体に掛かる面圧が不均一になる。そうすると、予備成形体中の繊維体積率の低い位置に比べ、繊維体積率の高い位置は設定以上の面圧が掛かることになる。この不均一な面圧によりカーボンダイスが突発的に破損し、多孔体が成形できないこともある。さらには、カーボン製の上下パンチ棒にもその衝撃が伝播し、パンチ棒を破損する可能性もある。またさらに、これらの突発的なダイス、及びパンチ棒の破損は、ホットプレス装置のヒーター、及び断熱材に損傷を与える場合もある。そして、この突発的な破損は、多孔体のサイズが大きくなり、パンチ棒、並びにカーボンダイスに掛かる面圧が大きくなれば、さらにその発生頻度は多くなると予想される。
この突発的なダイスの損傷や上下パンチへの衝撃の伝播を防止するために、予備成形体とダイスとの間に高靭性なセラミックス複合材料、又はCC複合材を挟むことが有効ではあるが、完全に防止することは困難であり、ダイスの損傷は防止できても完全な形状の多孔体を得ることは困難である。今後、無機繊維質セラミックス多孔体の成形サイズを大型化するためには、この突発的な損傷を防止し、かつクラックのない多孔体全体に亘って均一な構造の無機繊維質セラミックス多孔体を製造する方法を見出す必要があった。
そこで、本発明は、製造コストを低減させ、かつ品質の安定性した無機繊維質セラミックス多孔体を得るための製造方法を提供することを目的とする。
以上の目的を達成するために、本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、無機繊維質セラミックス多孔体の製造におけるカーボンダイスの寿命を延ばし、且つ多孔体全体に亘って均一な構造が得られる無機繊維質セラミックス多孔体の製造方法を見出した。
すなわち本発明は、内部が(A)(a1)非晶質物質、及び(a2)結晶質超微粒子が分散された非晶質物質の少なくとも一つから構成され、表面層が(B)(b1)Si及びOを含む非晶質、及び(b2)Si及びOを含む結晶質集合体の少なくとも一つから構成される無機質短繊維を三次元領域において不規則に配置した予備成形体を形成し、該予備成形体をセラミックス粉末で囲むようにカーボンダイスにセットし、不活性ガス雰囲気中、1000℃〜1800℃の範囲内で5〜50MPaの圧力で第1段目のプレスを行うことで、前記無機質短繊維からの熱分解ガスの放出を抑制するように、前記予備成形体を前記セラミックス粉末が緻密化したセラミックスで覆われた状態にした後、さらに前記第1段目の加圧温度よりも高い温度でかつ1600〜1900℃の範囲内で5〜100MPaの圧力下で第2段目のプレスを行うことを特徴とする無機繊維質セラミックス多孔体の製造方法に関する。
また、本発明は、前記無機質短繊維は、内部の前記(A)が、(a1)Si、M、C及びOからなる非晶質物質(Mは、Ti又はZr)、(a2)β−SiC、MC及びCの結晶質超微粒子と、SiO及びMOの非晶質物質との集合体(MはTi又はZrを示す。)、及び(a3)上記(a1)の非晶質物質と上記(a2)の集合体との混合物を含有する無機質物質、のうち少なくとも一つから構成され、前記表面層(B)が、(b1)Si及びO、場合によりMからなる非晶質物質、(b2)結晶質のSiO及び/又はMOからなる結晶質物質、及び(b3)上記(b1)の非晶質物質と上記(b2)の結晶質物質との混合物を含有する無機物質、のうち少なくとも一つであることを特徴とする請求項1記載の無機繊維質セラミックス多孔体の製造方法に関する。
また、本発明は、前記セラミックス粉末がアルミナ粉末であることを特徴とする前記繊維結合型セラミックス多孔体の製造方法に関する。
また、本発明は、前記セラミックス粉末が、1800℃以下で溶融する無機物質と、前記第2段目のプレス温度より溶融温度の高い無機物質との混合物からなることを特徴とする前記繊維結合型セラミックス多孔体の製造方法に関する。
また、本発明は、前記1800℃以下で溶融する無機物質がSiOを主成分とするガラスであり、前記第2段目のプレス温度より溶融温度の高い無機物質が炭素又はBNであることを特徴とする前記繊維結合型セラミックス多孔体の製造方法に関する。
また、本発明は、第2段目のプレス成形での不活性ガス雰囲気の圧力が0.01〜1MPaの範囲であることを特徴とする前記繊維結合型セラミックス多孔体の製造方法に関する。
また、本発明は、前記無機繊維質セラミックス多孔体は、(A’)(a1’)非晶質物質、及び(a2’)結晶質超微粒子が分散された非晶質物質の少なくとも一つから構成される無機質短繊維と、(B’)(b1’)Si及びOを含む非晶質、及び(b2’)Si及びOを含む結晶質の少なくとも一つから構成される無機物質とからなり、(A’)無機質短繊維と(B’)無機物質との間、及び(B’)無機物質内の少なくとも一方に気孔が分散していることを特徴とする前記無機繊維質セラミックス多孔体の製造方法に関する。
以上のように、本発明によれば、無機質短繊維を三次元領域において不規則に配置した予備成形体を形成し、該予備成形体をセラミックス粉末で囲むようにカーボンダイスにセットし、2段でホットプレスし、2段のホットプレスのうち第1段目のプレス時に、そのセラミックス粉末を予め無機質短繊維の熱分解ガスの放出を抑制できる程度の密閉状態にすることによって、第2段目のプレス過程での無機繊維の熱分解反応を成形体全域で均一にすることのできる無機繊維質セラミックス多孔体の製造方法を提供することができ、それによって、前述の2つの課題を一度に解決することができる。
実施例1(a)、及び比較例1(b)の、カーボンダイスに予備成形体をセットした状態を示す模式図である。 実施例1(a)、及び比較例1(b)で得られた、無機繊維質セラミックス多孔体の外観写真である。 実施例1(a)、及び比較例1(b)で得られた、無機繊維質セラミックス多孔体の微細構造を示す電子顕微鏡(FE-SEM)写真である。 実施例2で得られた無機繊維質セラミックス多孔体の外観写真である。
本発明に係る無機繊維質セラミック多孔体は、(A’)(a1’)非晶質物質、及び(a2’)結晶質超微粒子が分散された非晶質物質の少なくとも一つから構成される無機質短繊維と、(B’)(b1’)Si及びOを含む非晶質、及び(b2’)Si及びOを含む結晶質の少なくとも一つから構成される無機物質とからなり、(A’)無機質短繊維と(B’)無機物質との間、及び(B’)無機物質内の少なくとも一方に気孔が分散して形成されている。さらに好ましくは、本発明に係る無機繊維質セラミック多孔体は、(a1’)Si、M、C及びOからなる非晶質物質、(a2’)β−SiC、MC及びCの結晶質超微粒子と、SiO及びMOの非晶質物質との集合体(MはTi又はZrを示す。)、又は(a3’)上記(a1’)の非晶質物質と上記(a2’)の集合体との混合物を含有する無機質繊維と、この無機質繊維の間隙を充填するように存在する、(b1’)Si及びO、場合によりMからなる非晶質物質、(b2’)結晶質のSiO及び/又はMOからなる結晶質物質、又は(b3’)上記(b1’)の非晶質物質と上記(b2’)の結晶質物質との混合物を含有し、かつ100nm以下の粒径のMCからなる結晶質微粒子が分散した無機物質とからなり、さらに、上記の無機質繊維と上記の無機物質との境界層として1〜200nmの非晶質及び/又は結晶質の炭素からなる層によって構成された成形体に空隙が内在した構造からなり、さらに、上記の無機質短繊維と上記の無機物質との境界層として1〜200nmの非晶質及び/又は結晶質の炭素からなる層によって構成された成形体に空隙が内在した構造からなっている。
次に、本発明の無機繊維質セラミックス多孔体の製造方法について詳細に説明する。本発明の無機繊維質セラミックス多孔体の製造方法は、内部が(A)(a1)非晶質物質、及び(a2)結晶質超微粒子が分散された非晶質物質の少なくとも一つから構成され、表面層が(B)(b1)Si及びOを含む非晶質、及び(b2)Si及びOを含む結晶質集合体の少なくとも一つから構成される無機質短繊維を三次元領域において不規則に配置した予備成形体を形成し、該予備成形体をセラミックス粉末で囲むようにカーボンダイスにセットし、不活性ガス雰囲気中、1000℃〜1800℃の範囲内で5〜50MPaの圧力で第1段目のプレスを行うことで、前記無機質短繊維からの熱分解ガスの放出を抑制するように、前記予備成形体を前記セラミックス粉末が緻密化したセラミックスで覆われた状態にした後、さらに前記第1段目の加圧温度よりも高い温度でかつ1600〜1900℃の範囲内で5〜100MPaの圧力下で第2段目のプレスを行うことを特徴とする。
本発明に用いられる無機質短繊維は、一般的に市販されているセラミックス繊維の短繊維であり、セラミックス繊維の代表的なものとして、宇部興産(株)より販売されているチラノ繊維(登録商標)、又は、日本カーボン(株)より販売されているニカロン(登録商標)繊維が挙げられる。特に、宇部興産(株)より販売されているチラノ繊維(登録商標)に無機物質を被覆した被覆無機質短繊維が好ましく、その中でも、被覆無機質繊維の内部の無機繊維部が(a1)Si、M、C及びOからなる非晶質物質、(a2)β−SiC、MC及びCの結晶質超微粒子と、SiO及びMOの非晶質物質との集合体(MはTi又はZrを示す。)、又は(a3)上記(a1)の非晶質物質と上記(a2)の集合体との混合物を含有する無機質物質で構成され、被覆無機繊維の被覆層である表面層の無機物質が、(b1)Si及びO、場合によりMからなる非晶質物質、(b2)結晶質のSiO及び/又はMOからなる結晶質物質、又は(b3)上記(b1)の非晶質物質と上記(b2)の結晶質物質との混合物を含有する無機質物質で構成された無機質短繊維が特に好ましい。この無機質短繊維の内部の無機繊維部を構成する各元素の割合は、通常、Si:30〜60重量%、M:0.5〜35重量%、好ましくは1〜10重量%、C:25〜40重量%、O:0.01〜30重量%である。無機質短繊維の相当直径は一般に5〜20μmである。また、無機質短繊維の表面層は、主にSiOからなる。
次に、本発明の特徴である三次元領域において不規則に配置した予備成形体の周囲を覆うセラミックス粉末について説明する。このセラミックス粉末は、無機繊維質セラミックス多孔体の構造を達成するために、無機質短繊維の熱分解ガスの放出を抑制できる程度に、本発明における第2段目のプレス温度以下の温度で前記予備成形体を覆った状態にするために用いる。したがって、単にセラミックス粉末で覆うのみでは、セラミックス粉末の空隙を通して、熱分解反応により発生したガスが放出されるため、多孔体内のガスを厳密にコントロールすることは困難である。厳密にコントロールするためには、本発明における第2段目のプレス温度以下の温度で熱分解ガスの放出を抑制できる程度に密閉状態にする必要がある。熱分解ガスの放出を抑制できる程度に密閉状態とは、熱分解ガスを完全に遮断するほどの密閉状態である必要はないが、無機繊維質セラミックス多孔体の構造となる組成を維持できる密閉状態が好ましい。この密閉状態によって無機繊維結合型セラミックスの歩留まり、強度等の特性が変わるため、目的や要求の程度に応じて密閉状態を管理すればよい。
熱分解により発生したガスは、場合によっては、適度にダイスの外に放出する必要もある。セラミックス粉末が密閉状態となる温度をコントロールできれば、熱分解ガスの放出と抑制をコントロールすることができる。原料繊維の段階で厳密に無機繊維質セラミックス多孔体の組成にコントロールした場合は、ダイスの外に熱分解ガスを放出させないようにセラミックス粉末が密閉状態となる温度を低くする。また、逆に熱分解ガスの放出を多くしたい場合は、セラミックス粉末が密閉状態となる温度を高くする。無機質短繊維の熱分解反応の状況によって、セラミックス粉末の種類、組成を変更し、セラミックス粉末が密閉状態となる温度をコントロールして、熱分解ガスの放出と抑制をコントロールできる。
予備成形体の周囲を覆うセラミックス粉末としては、1000℃〜1800℃の範囲で焼結するセラミックス粉末が好ましい。そのようなセラミックス粉末としては、前述の無機質短繊維の組成範囲であれば、例えば、1300℃から1500℃の範囲で焼結し密閉状態となるアルミナ粉末が挙げられる。アルミナ粉末は、比較的安価であり入手しやすく高温での安定性も優れているため、好適に用いられる。
また、前記セラミックス粉末は、1800℃以下で溶融する無機物質と、前記第2段目のプレス温度より溶融温度の高い無機物質との混合物であってもよい。1800℃以下で溶融する無機物質としては、石英ガラスやアルミノケイ酸ガラス等が挙げられる。また、前記第2段目のプレスの温度より溶融温度の高い無機物質としては、炭素、SiC、BN等が挙げられる。特に、前記1800℃以下で溶融する無機物質がSiOを主成分とするガラスであり、前記第2段目のプレス温度より溶融温度の高い無機物質としてBNが好適な組み合わせとして挙げられる。SiOを主成分とするガラスをBN粉末と混合し、軟化、あるいは溶融したSiOによりBN粉末の間隙を密封し、1300℃から1500℃の範囲内で熱分解ガスの放出を抑制できる積層物を緻密化したセラミックスで覆われた状態にすれば、熱分解ガスのコントロールは可能である。
このように、本発明のキーポイントのひとつは、第2段目のプレス温度以下で、無機質短繊維の熱分解ガスの放出を抑制できる程度に密閉状態にすることである。これにより、課題の1つ目を解決することができる。また、課題の2つ目を同時に解決するためには、流動性のある粉末であることが好ましい。流動性のある粉末を用いることによって、予備成形体の繊維体積率の粗密を緩和することができるため、ホットプレスでの加圧ムラが解消され、部分的に負荷が集中して、突発的にカーボンダイスが破損することを防止できる。セラミックス粉末の流動性を高めるために、例えば、粉末をスプレードライヤー等により球状にしてから使用することも有効である。
次に、第1段目と第2段目のプレスについて具体的に説明する。まず、プレスに用いるカーボンダイス中にセラミックス粉末に覆われた予備成形体を入れ、その上にプレス用パンチ棒をセットし、ホットプレス装置に入れる。この際、カーボンダイスとセラミックス粉末との離型性をよくするために、カーボンダイスにBNをスプレーしてもよい。また、カーボンシートをカーボンダイスとセラミックス粉末の間に挟むことも離型性をよくするために有効な手段である。セラミックス粉末と予備成形体との離型性についても同様にカーボンシートをセラミックス粉末と予備成形体との間に挟むことによって、ホットプレス成形後に無機繊維質セラミックス多孔体を容易に取り出すことができる。
ホットプレス装置にダイスをセットした後、不活性雰囲気に置換する。そして、セラミックス粉末が緻密化したセラミックスで予備成形体が覆われ、無機質短繊維からの熱分解ガスの放出を抑制する程度に密閉状態となる1000℃〜1800℃の範囲の第1段目の設定温度まで昇温する。このときの昇温速度は特に規定はないが、予備成形体の外周部と中心部との温度差が小さくなる昇温速度が望ましい。また、予備成形体の外周部と中心部の温度を均一にするために、第1段目のプレス温度以下でプレス前に温度保持の時間を設定してもよい。そして、第1段目のプレス温度において、5〜50MPaの圧力を負荷する。このプレスは温度を保持した状態であっても、昇温しながらであってもかまわない。第1段目のプレスが終了したら、そのまま引き続き第1段目のプレス温度より高い1600℃〜1900℃の範囲の所定温度まで昇温し、第2段目のプレスを行う。第1段目から第2段目までの昇温速度については、第1段目までと同様に予備成形体の外周部と中心部との温度差が小さくなる昇温速度が望ましく、また、予備成形体の外周部と中心部の温度を均一にするために、温度保持の時間を設定してもよい。
第1段目と第2段目のプレスは、別々に行ってもよく、連続して行ってもよい。第1段目のプレスを終了した後、いったん温度を下げると、密閉状態にあるセラミックスに亀裂が発生し、第2段目のプレス温度へ昇温するまでに、その亀裂から無機質短繊維の熱分解ガスが外に放出される場合がある。また、プレス工程の効率化の観点からも第1段目と第2段目のプレス工程は連続して行うことが好ましい。
プレス工程の雰囲気は、不活性ガス雰囲気であり、一般的には、アルゴンガス雰囲気が好ましい。また、セラミックス粉末を密閉状態にして、熱分解により発生するガスをコントロールする際の効果をより高める方法として、雰囲気圧力を高めることも有効である。ホットプレス装置内の雰囲気圧を高めると、熱分解反応により発生したガスの放出を減少させる効果がある。また、雰囲気圧力を高めることは、セラミックス粉末の密閉状態のバラツキによる熱分解ガスの放出を防止する有効な手段である。昇温開始から雰囲気圧力を高めておくことにより、セラミックス粉末が密閉する前においても熱分解を抑制できる。雰囲気圧力は、通常0.01〜1MPaの範囲であり、特に0.1〜1MPaの範囲が好ましい。
以上、本発明の無機繊維質セラミックス多孔体の製造方法として、無機繊維質セラミックス多孔体のみからなる構造体の製造方法を説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、特許文献3に記載されている、無機繊維質セラミックス多孔体と無機繊維結合型セラミックスとの複合体のような一部無機繊維質セラミックス多孔体を含む構造体にも適用できる。その場合は、予備成形体として、上記で説明した無機質短繊維を三次元領域において不規則に配置した予備成形体と、主にSi,C,およびO、場合によりTi、又はZrを含有する無機繊維結合セラミックスとから成る予備成形体を用いればよい。
以下、本発明を実施例、及び比較例により示す。
(実施例1)
まず、繊維径13μmのチラノ繊維(Si;55 C;32 O;11 Ti;2(重量%),登録商標,宇部興産社製)を繊維長が約40mmとなるようにチョップ状に裁断し、三次元領域において不規則(無配向)に配置したフェルト状に加工した。次に、これを80×80のサイズに裁断した後、1000℃の空気中で加熱処理して、約400nmの均一な無機物質を被覆した無機質短繊維のフェルト状物を得た。この無機物質を被覆した無機質短繊維の内部である無機繊維部はSi、Ti、C及びOからなる非晶質物質から構成され、表面層である被覆層の無機物質はSiO、及びTiOを主体とする非晶質物質から構成されていた。このフェルト状物を65枚(成形後厚さ:5mmに相当)積層し、10重量%のポリビニルアルコール(PVA)溶液に含侵させて、100℃にセットした熱風乾燥機で約48時間乾燥させて予備成形体を成形した。
次に、本来であれば多孔体の成形が困難なダイス表面の損傷した内寸が90×90mmのカーボンダイスを用いてホットプレス成形を実施した。まず、ダイスへの予備成形体、並びにセラミックス粉末のセット方法を説明する。下パンチ棒上に厚さ5mmのCC複合材製スペーサーを置き、その上に厚さ0.2mmのカーボンシートを敷いて、アルミナ粉末を150g入れて表面を平坦に整えた。そして、このアルミナ粉末上にカーボンシートを敷いた後、予備成形体を配置し、さらに、その上にカーボンシートを敷いた。次に、この予備成形体(80×80mm)とダイス(90×90mm)の隙間(側面の隙間)にアルミナ粉末を50g充填し、さらに、予備成形体上部のカーボンシート上にもアルミナ粉末を150g入れ、表面を平坦に整えた。これで予備成形体は、アルミナ粉末で囲まれていることになる。その後、アルミナ粉末上にカーボンシートを敷き、その上にCC複合材製スペーサーを置き、最後に上パンチ棒をセットした。カーボンダイスに予備成形体をセットした状態を図1(a)に示す。図1(a)は模式図のため、カーボンシートを強調しているが、カーボンシートの厚さは0.2mmであり、さらに加圧により薄くなり、表面にはアルミナ粉末が密着しているため、アルミナ粉末とカーボンシートの間から熱分解ガスがダイス外に放出することは極めて少ない。
この状態でアルゴン雰囲気下、温度1400℃、圧力20MPa、で第1段目のプレスを行った。引き続き圧力を保持した状態で温度1850℃に昇温し、1時間保持することによって第2段目のプレスを行った。成形後、ダイスより上下CC複合材製スペーサー、密閉状態のアルミナ、及び多孔体を一体で取出し、CC複合材製スペーサーを取り外し、密閉状態のアルミナをプラスチックハンマー等で軽く叩いて除去することによって、実施例1の無機繊維質セラミックス多孔体を得た。
この状態の実施例1の無機繊維質セラミックス多孔体の外観写真を図2(a)に示す。表面にクラック等はなく、所定寸法の多孔体を得ることができた。また、電子顕微鏡により、境界層の生成状態を確認した。実施例1の無機繊維質セラミックス多孔体の中央部と端部の微細構造を図3(a)に示す。本来であれば多孔体の成形が困難な表面が損傷し隙間の大きなカーボンダイスを使用したにも係らず、熱分解反応により発生した反応ガスの放出量をコントロールできており、多孔体の端部から中央部まで均一な微細構造であった。特に、後述の比較例1のセラミックス粉末を使用しない製造法で製造した無機繊維質セラミックス多孔体と比較すると、境界層の生成は、良好であった。
(実施例2)
フェルト状物の枚数を実施例1よりさらに少ない40枚(成形後厚さ:3mmに相当)とした以外は、実施例1と同様にして、180×180の予備成形体を準備した。そして、本来であれば多孔体の成形が困難なダイス表面の損傷した内寸が190×190mmの大型のカーボンダイスを用いてホットプレス成形を実施した。カーボンダイスへの予備成形体、並びにセラミックス粉末のセット方法は実施例1と同様であるが、成形サイズの大型化に伴い、CC複合材製スペーサーの厚さを5mmから10mmへ、また、アルミナ粉末の量を予備成形体の上下は各550g、側面は80gに変更した。そして、カーボンダイスにセットした後、実施例1と同様の条件でホットプレス成形を行い、実施例2の無機繊維質セラミックス多孔体を得た。
成形後、ダイスより上下CC複合材製スペーサー、密閉状態のアルミナ、及び多孔体を一体で取出し、CC複合材製スペーサーを取り外し、密閉状態のアルミナをプラスチックハンマー等で軽く叩いて除去した。本来であれば多孔体の成形が困難な表面が損傷し隙間の大きなダイスを使用したにも係らず、表面にクラック等はなく、これまで成形が困難であった比較例1の無機繊維質セラミックス多孔体よりさらに薄い厚さ約3mmの無機繊維質セラミックス多孔体を得ることができた。多孔体の端部に付着しているアルミナを除去するために、約170mm角に切断し、形状を整えた実施例2の無機繊維質セラミックス多孔体の外観写真を図4に示す。
(比較例1)
まず、繊維径13μmのチラノ繊維(Si;55 C;32 O;11 Ti;2(重量%),登録商標,宇部興産社製)を繊維長が約40mmとなるようにチョップ状に裁断し、三次元領域において不規則(無配向)に配置したフェルト状に加工した。次に、これを89×89mmのサイズに裁断した後、1000℃の空気中で加熱処理して、約400nmの均一な無機物質を被覆した無機質短繊維のフェルト状物を得た。この無機物質を被覆した無機質短繊維の無機繊維部はSi、Ti、C及びOからなる非晶質物質から構成され、被覆層はSiO、及びTiOを主体とする非晶質物質から構成されていた。
次に、実施例と同様に本来であれば多孔体の成形が困難なダイス表面の損傷した内寸が90×90mmのカーボンダイスを用いてホットプレス成形を実施した。まず、カーボンダイスへのフェルト状物のセット方法を説明する。下パンチ棒上に厚さ5mmのCC複合材料製スペーサーを置き、その上に厚さ0.2mmのカーボンシートを敷いて、成形後の厚さが5mmに相当する65枚のフェルト状物を配置し、その上にカーボンシートを敷いた。さらに、フェルト状物の上部のカーボンシート上にCC複合材料製スペーサーを置き、最後に上パンチ棒をセットした。カーボンダイスにフェルト状物をセットした状態を図1(b)に示す。そして、実施例1と同様にアルゴン雰囲気下、温度1400℃、圧力20MPa、で第1段目のプレスを行い、引き続き圧力を保持した状態で温度1850℃に昇温し、1時間保持することによって第2段目のプレスを行った。成形後、カーボンダイスより上下CC複合材製スペーサーと多孔体を一体で取り出し、CC複合材製スペーサーを取り外し、比較例1の無機繊維質セラミックス多孔体を得た。
この状態の比較例1の無機繊維質セラミックス多孔体の外観写真を図2(b)に示す。端部が破壊しており、所定寸法の多孔体を得ることができなかった。そして、電子顕微鏡により、境界層の生成状態を確認した。比較例1の無機繊維質セラミックス多孔体の中央部の微細構造を図3(b)に示す。多孔体の成形が困難な表面が損傷し隙間の大きなダイスを使用したことにより、熱分解反応により発生した反応ガスの放出量をコントロールできなかったため、熱分解ガスが外部へ放出しにくい多孔体の中央部にも係らず境界層の生成は不均一であり、生成していない箇所が多くあった。
以上のことより、本発明によれば、これまでホットプレス過程における熱分解で発生するガスの制御が困難であった損傷した寸法精度の劣悪なダイスを用いても、成形体の端部まで均一な構造の無機繊維質セラミックス多孔体を得ることができる。
1 上パンチ棒
2 カーボンシート
3 カーボンダイス
4 CC複合材製モールド
5 下パンチ棒
6 CC複合材製スペーサー
7 予備成形体
8 アルミナ粉末
9 フェルト状物
10 ボイド
11 繊維
12 境界層
13 SiO

Claims (7)

  1. 内部が(A)(a1)非晶質物質、及び(a2)結晶質超微粒子が分散された非晶質物質の少なくとも一つから構成され、
    表面層が(B)(b1)Si及びOを含む非晶質、及び(b2)Si及びOを含む結晶質集合体の少なくとも一つから構成される
    無機質短繊維を三次元領域において不規則に配置した予備成形体を形成し、
    該予備成形体をセラミックス粉末で囲むようにカーボンダイスにセットし、不活性ガス雰囲気中、1000℃〜1800℃の範囲内で5〜50MPaの圧力で第1段目のプレスを行うことで、前記無機質短繊維からの熱分解ガスの放出を抑制するように、前記予備成形体を前記セラミックス粉末が緻密化したセラミックスで覆われた状態にした後、
    さらに前記第1段目の加圧温度よりも高い温度でかつ1600〜1900℃の範囲内で5〜100MPaの圧力下で第2段目のプレスを行うことを特徴とする無機繊維質セラミックス多孔体の製造方法。
  2. 前記無機質短繊維は、
    内部の前記(A)が、
    (a1)Si、M、C及びOからなる非晶質物質(Mは、Ti又はZr)、
    (a2)β−SiC、MC及びCの結晶質超微粒子と、SiO及びMOの非晶質物質との集合体(MはTi又はZrを示す。)、及び
    (a3)上記(a1)の非晶質物質と上記(a2)の集合体との混合物を含有する無機質物質、のうち少なくとも一つから構成され、
    前記表面層(B)が、
    (b1)Si及びO、場合によりMからなる非晶質物質、
    (b2)結晶質のSiO及び/又はMOからなる結晶質物質、及び
    (b3)上記(b1)の非晶質物質と上記(b2)の結晶質物質との混合物を含有する無機物質、のうち少なくとも一つであることを特徴とする請求項1記載の無機繊維質セラミックス多孔体の製造方法。
  3. 前記セラミックス粉末がアルミナ粉末であることを特徴とする請求項1記載の繊維結合型セラミックス多孔体の製造方法。
  4. 前記セラミックス粉末が、1800℃以下で溶融する無機物質と、前記第2段目のプレス温度より溶融温度の高い無機物質との混合物からなることを特徴とする請求項1記載の繊維結合型セラミックス多孔体の製造方法。
  5. 前記1800℃以下で溶融する無機物質がSiOを主成分とするガラスであり、前記第2段目のプレス温度より溶融温度の高い無機物質が炭素又はBNであることを特徴とする請求項1記載の繊維結合型セラミックス多孔体の製造方法。
  6. 第2段目のプレス成形での不活性ガス雰囲気の圧力が0.01〜1MPaの範囲であることを特徴とする請求項1記載の繊維結合型セラミックス多孔体の製造方法。
  7. 前記無機繊維質セラミックス多孔体は、
    (A’)(a1’)非晶質物質、及び(a2’)結晶質超微粒子が分散された非晶質物質の少なくとも一つから構成される無機質短繊維と、
    (B’)(b1’)Si及びOを含む非晶質、及び(b2’)Si及びOを含む結晶質の少なくとも一つから構成される無機物質とからなり、
    (A’)無機質短繊維と(B’)無機物質との間、及び(B’)無機物質内、の少なくとも一方に気孔が分散していることを特徴とする請求項1記載の無機繊維質セラミックス多孔体の製造方法。
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