JP2013199469A - 胃瘻または腸瘻患者用の酸性ゲル状経腸栄養剤 - Google Patents

胃瘻または腸瘻患者用の酸性ゲル状経腸栄養剤 Download PDF

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Abstract

【課題】
経管投与に優れた物性を有する、胃瘻または腸瘻患者用の酸性ゲル状経腸栄養剤を提供する。
具体的には、以下の物性に優れる、胃瘻または腸瘻患者用の酸性ゲル状経腸栄養剤に関する;1)経管投与時(チューブ注入時)にかかる荷重が少なく、介護者が過度な負担なく短時間で注入可能であり、患者への負担も少ない、2)経管投与後(チューブ通過後)の食塊の保形性が良好であり、胃食道逆流または瘻孔からの漏れを抑制できる、3)保存時または経管投与時に発生する離水が少ない、4)チューブ残渣(チューブ押し出し後にチューブ内壁に残存する経腸栄養剤)が少ない。
【解決手段】
(1)タンパク質、(2)酸性多糖類および(3)λカラギナン、ιカラギナン、κ2カラギナン、ならびにμ成分およびν成分を含有するカラギナンからなる群から選択される一種以上のカラギナンを含有し、(4)pHを2.5〜6に調整する。
【選択図】なし

Description

本発明は、経管投与に優れた物性を有する、胃瘻または腸瘻患者用の酸性ゲル状経腸栄養剤に関する。具体的には、以下の物性に優れる、胃瘻または腸瘻患者用の酸性ゲル状経腸栄養剤に関する;1)経管投与時(チューブ注入時)にかかる荷重が少なく、介護者が過度な負担なく短時間で注入可能であり、患者への負担も少ない、2)経管投与後(チューブ通過後)の食塊の保形性が良好であり、胃食道逆流または瘻孔からの漏れを抑制できる、3)保存時または経管投与時に発生する離水が少なく、胃食道逆流または瘻孔からの漏れを抑制できる、4)チューブ残渣(チューブ押し出し後にチューブ内壁に残存する経腸栄養剤)が少なく衛生面で優れる。
経口での栄養摂取が困難である高齢者または嚥下困難者などに適用される栄養投与手段として、経鼻・経口経管栄養法または胃瘻・腸瘻経管栄養法が知られている。
経鼻・経口経管栄養法は、チューブを鼻または口から挿入して食道、胃、または腸の何れかの部位まで到達させ、このチューブを介して、経腸栄養剤を投与する方法である。胃瘻・腸瘻経管栄養法は、胃または腸に手術的または内視鏡的に外瘻を造設し、この外瘻に留置したチューブを介して、経腸栄養剤を持続的に投与する方法である。胃に外瘻を造設して経腸栄養剤を投与する胃瘻(PEG)および腸に外瘻を造設して経腸栄養剤を投与する腸瘻(PEJ)は、従来多用されてきた経鼻・経口経管栄養法に比べて、患者または介護者にかかる負担が少ないため、有効な経管栄養法の一種である。
上記胃瘻経管栄養法(PEG)および腸瘻経管栄養法(PEJ)で液体の経腸栄養剤を用いた場合は、下記(1)〜(3)が問題となる。(1)経管投与の前後で、経腸栄養剤が胃または腸に造設した外瘻のチューブ口から漏れやすい(2)胃に直接添加された経腸栄養剤が腸に一気に落下すること(ダンピング)、もしくは、腸に直接経腸栄養剤を添加することにより、腸で糖質が急速に吸収されて高血糖症となりやすい、または下痢の症状を引き起こしやすい(3)経管栄養法が適用される患者は胃上部の噴門の機能が著しく低下していることがあり、液体の経腸栄養剤を投与後に、胃食道逆流を起こしやすい。
そこで、経腸栄養剤に保形性を付与して、上記(1)〜(3)を解決することが試みられている。また、経腸栄養剤に保形性を付与することで、極めて短時間(例えば数分)で栄養投与することが可能となる。患者の肉体的負担をやわらげることで、患者のQOL(Qualityof Life)を改善できる。
経腸栄養剤に保形性を付与する技術として、寒天または全卵を用いて、経腸栄養剤をプリンまたは茶碗蒸しの硬さを有する半固形物に調製する技術(特許文献1)、ならびに寒天、ジェランガム、およびネイティブジェランガムの少なくとも一種以上を用いる技術(特許文献2)が知られている。
経腸栄養剤にカラギナンを用いる技術としては、ナトリウム型のカラギナンを用いる技術(特許文献3)、分子の一部がイオタカラギナンで置換されたカッパカラギナン(κ2カラギナン)を用いる技術(特許文献4)、寒天、キサンタンガムおよびイオタタイプのカラギナンを用いる技術(特許文献5)等がある。
胃瘻または腸瘻経管栄養法に用いられる経腸栄養剤は、衛生面(細菌汚染)の観点から、pHを酸性(pH2.5〜6)に調整することが望ましい。また、酸性での殺菌は中性での殺菌条件である通常100℃以上(一般的には120℃、20分間)の加熱殺菌に比べて緩やかな条件で行われるため、栄養成分の損失、内容成分の凝集、外観色の変化(褐変など)、食感の変化(硬化および軟化)等の問題点も回避することが可能である。
しかし、経腸栄養剤はタンパク質(さらに好ましくは炭水化物および/または脂質)を必須成分として含有するため、酸性領域下でゲル化させるために使用できるゲル化剤が限られる。具体的には、カラギナン、キサンタンガム、ジェランガム等の酸性多糖類をpH2.5〜6の経腸栄養剤に用いると、静電気的な相互作用によって、タンパク質(正に帯電)と多糖類(負に帯電)が凝集し、ゲルを形成させること自体が難しかった。またゲルを形成できたとしても離水が顕著に発生する、チューブ残渣が増加するなどの問題があり、ゲル状の経腸栄養剤に求められる要件を満たすことができなかった。
pH2.5〜6の酸性領域下で経腸栄養剤に使用できる多糖類は、従来技術では寒天などの中性多糖類のみである(特許文献1、2)。寒天を用いた経腸栄養剤は、経管投与時(チューブ注入時)にかかる荷重が小さいという利点を有する。一方、チューブ注入時の加圧によりゲルがばらけやすく、経管投与後(チューブ通過後)の食塊の保形性が低下する、および離水が顕著に発生するなどの問題を抱えていた。チューブ通過後の保形性の低下および離水発生は胃食道逆流や瘻孔からの経腸栄養剤の漏れを引き起こす要因となる。
以上のように、従来技術では使用できるゲル化剤が限られるため、経管投与に適した物性を有する酸性ゲル状経腸栄養剤を提供することができなかった。
特許第3516673号公報 特開2007−289163号公報 W2006/041173号公報 特開2010−65013号公報 特開2008−237186号公報
上記従来技術に鑑み、本発明では経管投与に優れた物性を有する、胃瘻または腸瘻患者用の酸性ゲル状経腸栄養剤を提供することを目的とする。
具体的には、経管投与時はチューブ注入に必要な荷重が小さく、介護者が過度な負担なく短時間で注入可能であり患者への負担も少なく、経管投与後(チューブ通過後)は食塊の保形性が良好である酸性ゲル状経腸栄養剤を提供することを目的とする。更に本発明では、経管投与時に発生する離水やチューブ残渣が少ない、酸性ゲル状経腸栄養剤を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記のごとき課題を解決すべく鋭意研究した結果、λカラギナン、ιカラギナン、κ2カラギナン、ならびにμ成分およびν成分を含有するカラギナンからなる群から選択される一種以上のカラギナンを用いることで、通常pH2.5〜6の酸性領域下で発生するタンパク質と酸性多糖類の凝集物形成を抑制し、経管投与に優れた物性を有する、胃瘻または腸瘻患者用の酸性ゲル状経腸栄養剤を提供できることを見出して、本発明に至った。
本発明は以下の態様を有する、胃瘻または腸瘻患者用の酸性ゲル状経腸栄養剤に関する;
項1.
(1)タンパク質、
(2)酸性多糖類および
(3)λカラギナン、ιカラギナン、κ2カラギナン、ならびにμ成分およびν成分を含有するカラギナンからなる群から選択される一種以上のカラギナンを含有し、
(4)pHが2.5〜6である、胃瘻または腸瘻患者用の酸性ゲル状経腸栄養剤。
項2.前記酸性多糖類が、κカラギナン、キサンタンガム、ジェランガム、アルギン酸類、またはペクチンからなる群から選択される一種以上である、項1に記載の胃瘻または腸瘻患者用の酸性ゲル状経腸栄養剤。
項3.タンパク質を含む経腸栄養剤と(2)酸性多糖類、および(3)λカラギナン、ιカラギナン、κ2カラギナン、ならびにμ成分およびν成分を含有するカラギナンからなる群から選択される一種以上のカラギナンを混合後、pHを2.5〜6に調整する、胃瘻または腸瘻患者用の酸性ゲル状経腸栄養剤の製造方法。
胃瘻または腸瘻患者への経管投与に優れた物性を有する、pH2.5〜6の酸性ゲル状経腸栄養剤を提供できる。具体的には、以下の物性に優れる胃瘻または腸瘻患者用の酸性ゲル状経腸栄養剤を提供できる;1)経管投与時(チューブ注入時)にかかる荷重が少なく、介護者が過度な負担なく短時間で注入可能であり、患者への負担も少ない、2)経管投与後(チューブ通過後)の食塊の保形性に優れ、胃食道逆流や、瘻孔からの経腸栄養剤の漏れを防止できる、3)保存時また経管投与時に発生する離水が少ない、4)チューブ残渣が少ない。更に、本発明の酸性ゲル状経腸栄養剤はpHが2.5〜6の酸性に調整されているため、細菌繁殖が防止され、衛生面上も優れている。
実験例1において、実施例1−1の「B:チューブ通過後の食塊の保形性」を試験した結果を示す写真である(30分経過後)。 実験例1において、実施例1−2の「B:チューブ通過後の食塊の保形性」を試験した結果を示す写真である(30分経過後)。 実験例1において、比較例1−1の「B:チューブ通過後の食塊の保形性」を試験した結果を示す写真である(30分経過後)。
(I)胃瘻または腸瘻患者用の酸性ゲル状経腸栄養剤
本発明の酸性ゲル状経腸栄養剤は、(1)タンパク質、(2)酸性多糖類および(3)λカラギナン、ιカラギナン、κ2カラギナン、ならびにμ成分およびν成分を含有するカラギナンからなる群から選択される一種以上のカラギナンを含有し、(4)pHが2.5〜6の範囲である。
(1)タンパク質
本発明の酸性ゲル状経腸栄養剤は、タンパク質を含有する。タンパク質は五大栄養素の中の一つであり、生体にとって必要不可欠な栄養素である。
経腸栄養剤に用いられるタンパク質の種類は、従来から食品に使用されているものであれば特に限定されず、各種タンパク質(ペプチドを含む)を用いることができる。例えば、乳タンパク質(牛乳、脱脂粉乳、全粉乳、乳清タンパク質、カゼイン、乳ペプチド等)、大豆タンパク質(豆乳、大豆ペプチド等)、小麦タンパク質等が挙げられる。目安として、牛乳、脱脂粉乳、全脂粉乳、豆乳のタンパク質含量はそれぞれ約3質量%、約35質量%、約25質量%、約3.5質量%である。
酸性ゲル状経腸栄養剤中のタンパク質含量は、適宜調整することができる。通常は0.5質量%以上、好ましくは1質量%以上、更に好ましくは1.5質量%以上である。
なお、従来技術では、タンパク質含量が0.5質量%以上になると、酸性多糖類とタンパク質が相互作用して凝集物を形成し、経腸栄養剤をゲル化できない、ゲルを形成できたとしても離水が顕著に発生する、チューブ残渣が増加するなどの問題が生じていた。しかし、本発明の構成をとることで、タンパク質含量が0.5質量%以上であっても、経管投与に適した物性を有する酸性ゲル状経腸栄養剤を提供することができる。
(2)酸性多糖類
本発明で用いられる酸性多糖類は、硫酸基および/またはカルボキシル基などの電解基を有する多糖類(マイナスの電荷を有する多糖類)である。具体的には、κカラギナン、キサンタンガム、ジェランガム(脱アシル型ジェランガム、ネイティブ型ジェランガム)、アルギン酸類、またはペクチン(LMペクチン等)などを例示できる。これらの酸性多糖類を単独、あるいは複数さらには他の多糖類(電解基をもたない寒天、グァーガム、ローカストビーンガム、グルコマンナンなどの中性多糖類や、アミノ基などの電解基を有するキトサンなどの塩基性多糖類(プラスの電荷を有する多糖類)と併用することができる。上述のとおり、本発明によらなければ、酸性多糖類を用いた場合、pH2.5〜6の酸性領域下で、タンパク質を含有する経腸栄養剤をゲル化させること自体が非常に困難であった。またゲルを形成できたとしても離水が顕著に発生する、チューブ残渣が増加するなどの問題があり、ゲル状の経腸栄養剤に求められる要件を満たすことができなかった。
本発明によれば、pH2.5〜6の酸性領域下であっても、(3)λカラギナン、ιカラギナン、κ2カラギナン、ならびにμ成分およびν成分を含有するカラギナンからなる群から選択される一種以上のカラギナンを安定剤として用いることで、全く意外にも、酸性多糖類を使用した場合であっても、経管投与に適した物性を有する酸性ゲル状経腸栄養剤を提供できることを見出して至った発明である。これにより、酸性多糖類を単独、あるいは複数さらには他の多糖類(電解基をもたない寒天、グァーガム、ローカストビーンガム、グルコマンナンなどの中性多糖類や、アミノ基などの電解基を有するキトサンなどの塩基性多糖類)と併用することで、ゲル化剤として利用することが可能となった。
酸性ゲル状経腸栄養剤に含まれる酸性多糖類の含量は、求められる物性や併用する多糖類によって適宜調整可能であるが、通常、0.01〜3質量%、好ましくは0.05〜2質量%、更に好ましくは0.1〜1質量%の範囲内である。なお、本発明において上記添加量は、用いる酸性多糖類の総量を指す。
本発明において、酸性多糖類は単独、あるいは複数さらには他の多糖類(電解基をもたない寒天、グァーガム、ローカストビーンガム、グルコマンナンなどの中性多糖類や、アミノ基などの電解基を有するキトサンなどの塩基性多糖類)と併用して、ゲル化剤として用いることが好ましい。
(3)λカラギナン、ιカラギナン、κ2カラギナン、ならびにμ成分およびν成分を含有するカラギナンからなる群から選択される一種以上のカラギナン
カラギナンは、紅藻類海藻から抽出、精製される天然高分子で、D−ガラクトースと、3,6アンヒドロ−D−ガラクトースから構成される多糖類であり、分子量は通常、100,000〜1,500,000である。カラギナンの基本構成単位モノマーを下記(化1)に示した。カラギナンの種類は、この結合様式を変えることなく、硫酸基の位置、アンヒドロ糖の有無によって区別される(参照:特表2005−518463号公報)。各成分の基本構造について、(化2)に示した。
Figure 2013199469
Figure 2013199469
本発明では、上記基本構造を有するλ(ラムダ)カラギナン、ι(イオタ)カラギナン、κ2(カッパツー)カラギナン、ならびにμ(ミュー)成分およびν(ニュー)成分を含有するカラギナンからなる群から選択される一種以上のカラギナンを含有することを特徴とする。なお、本発明では硫酸基含量が20〜40%のカラギナンを用いることが好ましい。
λカラギナンは、(化2)に示すλ成分を基本構造とするカラギナンである。商業上入手可能なλカラギナンとして、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製の「サンサポート[登録商標]P−30」を例示できる。
ιカラギナンは、(化2)に示すι成分を基本構造とするカラギナンである。商業上入手可能なιカラギナンとして、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製のサンサポート[登録商標]P−90」を例示できる。
κ2カラギナンは、分子の一部がι成分で置換されたκカラギナン((化2)に示すκ成分を基本構造とするカラギナン)をいう。具体的には、κカラギナンの分子構造中にιカラギナンの構造を一部有する、すなわちκカラギナンとιカラギナンがハイブリッド化していることを特徴とするカラギナンである。ιカラギナンによるκカラギナンの置換率は特に制限されないが、置換率として1〜49%程度、好ましくは10〜40%を例示できる。商業上入手可能なκ2カラギナンとして、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製の「サンサポート[登録商標]P−40」を例示できる。
μ成分およびν成分(化2)はそれぞれκ成分およびι成分の前駆体である。一般的に市場に流通しているκカラギナンおよびιカラギナンは、各々μカラギナンおよびνカラギナンをアルカリ処理して得られるカラギナンであり、通常、μおよびν成分をほとんど含まない。本発明では好ましくはμ成分およびν成分を総量で8質量%以上、更に好ましくは12質量%以上含有するカラギナンを用いる。μ成分およびν成分の上限は特に制限されないが、好ましくは50質量%である。
μ成分およびν成分を有するカラギナンとして、「カラギニンHi−pHive(「Hi−pHive」はCPケルコ社の登録商標)」を商業上利用することが可能である。当該製品はμ成分を2〜7質量%、ν成分を10〜17質量%含有するものである。
なお、μ成分およびν成分を含有するカラギナンは、それ自体でゲルを形成しないという特徴を有している。
本発明では上記カラギナンの中でも、特に、μ成分およびν成分を含有するカラギナンを使用することが好ましい。酸性ゲル状経腸栄養剤におけるタンパク質含量が1.5質量%以上、更には3質量%以上となると、下記物性を兼ね備えるゲル状経腸栄養剤を提供することが困難となる;
1)経管投与時(チューブ注入時)にかかる荷重が少なく、介護者が過度な負担なく短時間で注入可能であり、患者への負担も少ない、2)経管投与後(チューブ通過後)の食塊の保形性に優れ、胃食道逆流や、瘻孔からの経腸栄養剤の漏れを防止できる、3)保存時また経管投与時に発生する離水が少ない、4)チューブ残渣が少ない。
しかし、μ成分およびν成分を含有するカラギナンを使用することで、タンパク質含量が1.5質量%以上、更には3質量%以上であっても、上記物性を兼ね備える酸性ゲル状経腸栄養剤を提供することが可能となる。
酸性ゲル状経腸栄養剤に含まれる、λカラギナン、ιカラギナン、κ2カラギナン、ならびにμ成分およびν成分を含有するカラギナンからなる群から選択される一種以上のカラギナンの含量は、通常は、0.01〜5質量%、好ましくは0.05〜4質量%、更に好ましくは0.1〜3質量%の範囲内である。
上記カラギナンの添加量が0.01質量%を下回ると、凝集物を形成する、または経腸栄養剤をゲル化できない場合がある。一方で添加量が5質量%を上回ると、酸性ゲル状経腸栄養剤を調製する際の粘度が高くなり、調製が困難になる場合がある。また、得られた酸性ゲル状経腸栄養剤のべとつき(付着性)が大きくなる場合がある。付着性が大きいと、チューブ内壁に経腸栄養剤が付着しやすく、経管投与には好ましくない。
本発明の酸性ゲル状経腸栄養剤は(4)pHが2.5〜6、更に好ましくは3〜6である。pHを上記範囲に調整することで、細菌繁殖を防止でき、衛生面上も優れたゲル状経腸栄養剤となる。pHを酸性に調整することで、殺菌時の加熱条件を緩和することも可能である。ゲル状経腸栄養剤のpHを2.5〜6に調整するために使用できる酸の種類は、クエン酸、グルコン酸、コハク酸、酒石酸、フマル酸、リンゴ酸、乳酸、酢酸、またはアスコルビン酸等の有機酸および/またはその塩、ならびにリン酸等の無機酸および/またはその塩などを例示できる。
本発明の酸性ゲル状経腸栄養剤は、胃瘻または腸瘻患者用の経管投与に用いる経腸栄養剤である。
具体的には、胃に外瘻を造設して栄養剤を投与する胃瘻(PEG)、または腸に外瘻を造設して経腸栄養剤を投与する腸瘻(PEJ)経管栄養法に用いられる。
本発明において「ゲル状」とは、動的粘弾性測定装置(例えば、ARES−LS1(TA Instruments社製))を用い、線形領域内の歪において周波数6.28rad/s、測定温度20℃で正弦振動のずり歪を印加したときのtanδ(力学的損失正接)が、tanδ<1、好ましくはtanδ<0.9、更に好ましくはtanδ<0.8である状態をいう。
本発明において「経腸栄養剤」とは、胃瘻または腸瘻経管栄養法によって経管投与される飲食品(牛乳、流動食等)、栄養摂取を目的に調製された成分栄養剤、消化態栄養剤、半消化態栄養剤等(一般的なカロリーは0.75kcal/g以上)でタンパク質を含有するものを広く包含する。中でも、タンパク質含量が1.5質量%以上である経腸栄養剤および/または油脂含量が1.5質量%以上である経腸栄養剤は、pH2.5〜6の酸性領域下で均一にゲル化すること自体が困難である。しかし、本発明の技術を用いることで、均一にゲル化させることができ、さらに経管投与に適した物性を有する胃瘻または腸瘻患者用の酸性ゲル状経腸栄養剤を提供できる。
本発明の胃瘻または腸瘻患者用の酸性ゲル状経腸栄養剤は、(1)タンパク質、(2)酸性多糖類、および(3)ιカラギナン、λカラギナン、κ2カラギナン、ならびにμ成分およびν成分を含有するカラギナンからなる群から選択される一種以上のカラギナンを添加し、(4)pHを2.5〜6に調整する以外は、常法のゲル状経腸栄養剤の製法に従って製造することができる。
好ましい製造方法は、(1)タンパク質、(2)酸性多糖類、および(3)ιカラギナン、λカラギナン、κ2カラギナン、ならびにμ成分およびν成分を含有するカラギナンからなる群から選択される一種以上のカラギナンを混合した後に、pHを2.5〜6に調整する方法である。なお、上記(1)タンパク質は、経腸栄養剤の原料成分をそのまま用いても良く、予め調製した経腸栄養剤(タンパク質含有経腸栄養剤)を上記(1)タンパク質として用いても良い。
(1)タンパク質、(2)酸性多糖類、および(3)ιカラギナン、λカラギナン、κ2カラギナン、ならびにμ成分およびν成分を含有するカラギナンからなる群から選択される一種以上のカラギナンの混合順序は特に問わない。上記(2)、(3)は予め水に溶解した後にタンパク質と混合しても良く、水に溶解させることなく直接タンパク質と混合しても良い。
本発明の胃瘻または腸瘻患者用の酸性ゲル状経腸栄養剤は、製造時に加熱殺菌工程をとることが望ましい。例えば、85〜90℃で30〜60分間の加熱殺菌である。
pHが6を超えると、通常、レトルト殺菌(例.120℃で20分間)などの厳しい殺菌が必要となる。これに伴い、経腸栄養剤の成分が分解したり、凝集する、外観が変化する(褐変)、食感が変化する(硬化および軟化)などの問題が発生する。一方、本発明の酸性ゲル状経腸栄養剤は、pHが酸性に調整されているため、比較的緩和な殺菌条件での加熱が可能であり、上記のような問題が生じない。
本発明の酸性ゲル状経腸栄養剤は、衛生面上で優れる他、以下に示す利点を有する。
(A)チューブ注入時にかかる荷重が小さい。
好ましくは、下記の荷重測定方法に従って測定した荷重値が30N以下、好ましくは25N以下、更に好ましくは20N以下の範囲である。
(荷重測定方法):円柱状に切り出した約20gの試料(酸性ゲル状経腸栄養剤)をシリンジに充填し、直線運動により圧縮応力を測定することが可能な装置(例.テクスチャーアナライザーTA−XT2i(Stable Micro Systems社製))を用いて、圧縮速度0.8mm/秒で、上記シリンジから試料をチューブ(内径4mm、長さ30cm)に押し出す際の荷重を測定する。最大荷重の70%に到達した時点から注入終了までの平均荷重を荷重(N)とする。測定温度は20℃とする。
荷重の数値が小さいと、介護者が、酸性ゲル状経腸栄養剤を過度な負担なく短時間でチューブに注入(経管投与)でき、患者への負担も少ないことを示す。
(B)チューブ通過後の食塊の保形性が良好である。
本発明の酸性ゲル状経腸栄養剤は、チューブから押出した後も良好な保形性を有する。
これにより、経腸栄養剤が胃や腸に造設した瘻孔から漏れる現象や、経管投与後に発生しやすい胃食道逆流、ダンピングなどを抑制することが可能である。
本発明の酸性ゲル状経腸栄養剤は、好ましくは下記の保形性測定方法に従って測定した値が7〜40cm、更に好ましくは7〜30cmの範囲である。
(保形性測定方法):チューブ(内径4mm、長さ30cm)を通過させた後の試料(食塊状になった酸性ゲル状経腸栄養剤)を直径30mm、高さ20mmのリングに充填する。リングを垂直方向に外し、30分間自重で流動させた後、試料の面積を画像解析装置(例.Image Pro Plus J(日本ローパー社製))で測定する。測定温度は20℃とする。
(C)離水が少ない。
本発明の酸性ゲル状経腸栄養剤は、経管投与後に発生する離水量が少ないという利点も有する。経管投与後(チューブ通過後)に発生する離水は、胃や腸に造設した瘻孔からの漏れの発生、胃食道逆流、ならびにダンピングを引き起こす可能性があり、望ましくない。一方、本発明の酸性ゲル状経腸栄養剤は、チューブ通過後に発生する離水が顕著に抑制されている。
本発明の酸性ゲル状経腸栄養剤は、好ましくは、下記の離水測定方法(チューブ通過後の食塊試料が測定対象)に従って求めた離水率が20%以下、更に好ましくは15%以下である。
(離水測定方法(チューブ通過後の食塊)):チューブ(内径4mm、長さ30cm)を通過させた後の試料(食塊状になった酸性ゲル状経腸栄養剤)60g±5gを目開き250μmの篩にのせ、10分間静置する。静置後、離水質量を測定し、下記(式1)に従って離水率を算出する。測定温度は20℃とする。
式1
Figure 2013199469
また、本発明の酸性ゲル状経腸栄養剤は、長期保存時に発生する離水量が少ないという利点も有する。具体的には、下記の離水測定方法(保存時)に従って測定した値が2%以下、更に好ましくは1%以下である。この場合の試料はチューブを通過させる前の酸性ゲル状経腸栄養剤(バルクゲル状)をさす。
(離水測定方法(保存時)):バルクゲル状の試料(酸性ゲル状経腸栄養剤)60g±5gを目開き500μmの篩にのせ、1分間静置する。静置後、離水質量を測定し、上記(式1)に従って離水率を算出する。測定温度は20℃とする。
(D)チューブ内壁への付着が小さく、チューブ残渣が少ない。
本発明の酸性ゲル状経腸栄養剤は、チューブ残渣(押し出し後にチューブ内に残る経腸栄養剤)が少なく、衛生面上も優れている。
本発明の酸性ゲル状経腸栄養剤は、好ましくは、下記のチューブ残渣測定方法に従って測定した値が1g以下、更に好ましくは0.5g以下である。
(チューブ残渣測定方法):円柱状に切り出した約20gの試料(酸性ゲル状経腸栄養剤)をシリンジに充填し、直線運動により圧縮応力を測定することが可能な装置(例.テクスチャーアナライザーTA−XT2i(Stable Micro Systems社製))を用いて、圧縮速度0.8mm/秒で、上記シリンジから試料をチューブ(内径4mm、長さ30cm)に押し出す。その後、空のシリンジに付け替え再度同じ条件で圧縮し、チューブ内の試料を押し出し、チューブ内壁に付着した残渣量を測定する。測定温度は20℃とする。
以下に、実施例を用いて本発明を更に詳しく説明する。ただし、これらの例は本発明を制限するものではない。なお、実施例中の「部」「%」は、それぞれ「質量部」「質量%」、文中「*」印は、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製であること、文中「※」印は、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社の登録商標であることを意味する。
なお、本発明で用いたカラギナンは全て硫酸基含量が20〜40%の範囲内である。
実験例1 胃瘻または腸瘻患者用の酸性ゲル状経腸栄養剤(1)
(胃瘻または腸瘻患者用の酸性ゲル状経腸栄養剤の調製)
表1に示す処方に従って、胃瘻または腸瘻患者用の酸性ゲル状経腸栄養剤を調製した。
具体的には、常温にて脂質(MCT:中鎖脂肪酸トリグリセリド)と水を撹拌しながら、タンパク質、糖質、スクラロース、乳化剤、水溶性大豆多糖類、酸性多糖類、ローカストビーンガム、グァーガム、寒天および安定剤(特定のカラギナン)の粉末原料を添加し、10分間撹拌した。80℃まで加温し、80℃に達温後10分間撹拌した(寒天を用いた比較例1は、90℃まで加温し、90℃に達温後10分間撹拌した)。
クエン酸を添加してpHをp3.9に調整後、香料を添加した。その後、15MPaで均質化処理を行った。容器に充填後、85℃で30分間殺菌を行い、冷却して酸性ゲル状経腸栄養剤を調製した。
Figure 2013199469
注1)「カラギニンHi−pHive*」(μ成分が2〜7質量%、ν成分が10〜17質量%の範囲内である100%カラギナン)を使用。
(酸性ゲル状経腸栄養剤の物性測定)
得られた酸性ゲル状経腸栄養剤について、各種物性(A:チューブ注入時の荷重、B:チューブ通過後の食塊の保形性、C:チューブ通過後の食塊およびチューブ通過前のバルクゲルの離水、D:チューブ残渣)を各々測定した。結果を表2に示す。
Figure 2013199469
表中、「N/A」とは酸性ゲル状経腸栄養剤を調製できず、測定不能であったことを示す。
(物性測定方法)
(A)チューブ注入時の荷重
円柱状に切り出した約20gの試料(酸性ゲル状経腸栄養剤)をシリンジ(テルモカテーテルチップシリンジ50mL)に充填し、テクスチャーアナライザーTA−XT2i(Stable Micro Systems社製)を用いて、圧縮速度0.8mm/秒で、上記シリンジから試料をチューブ(内径4mm、長さ30cm)に押し出す際の荷重を測定した。最大荷重の70%に到達した時点から注入終了までの平均荷重をチューブ荷重(N)とした。測定温度は20℃とした。荷重が小さければ、介護者が過度な負担なく、酸性ゲル状経腸栄養剤を注入できることを示す。
(B)チューブ通過後の食塊の保形性
チューブ(内径4mm、長さ30cm)を通過させた後の試料(酸性ゲル状経腸栄養剤)をガラス製リング(直径30mm、高さ20mm)に充填し、リングを垂直方向に外し、30分間、自重で流動させた後、試料の面積を画像解析装置(Image Pro Plus J(日本ローパー社製))で測定した。測定温度は20℃とした。試料の面積が小さければ、胃または腸内での保形性が高いことを示す。
(C)離水率
チューブ通過後に発生する離水(クラッシュゲル状の食塊の離水)および長期保存時に発生する離水(バルクゲルの離水)を測定した。
(チューブ通過後(クラッシュゲル状の食塊の離水)の離水測定):チューブ(内径4mm、長さ30cm)を通過させた後の試料(食塊状になった酸性ゲル状経腸栄養剤)60g±5gを目開き250μmの篩にのせ、10分間静置した。静置後、離水質量を測定し、下記(式1)に従って離水率を算出した。測定温度は20℃とした。
(長期保存時(チューブ通過前のバルクゲル)の離水測定):バルクゲル状の試料(酸性ゲル状経腸栄養剤)60g±5gを目開き500μmの篩にのせ、1分間静置した。静置後、離水質量を測定し、下記(式2)に従って離水率を算出した。測定温度は20℃とした。
式2
Figure 2013199469
離水率が小さいと、胃や腸に造設した瘻孔からの経腸栄養剤の漏れの発生、胃食道逆流を引き起こす可能性が低下することを示す。
(D)チューブ残渣量
円柱状に切り出した約20gの試料(酸性ゲル状経腸栄養剤)をシリンジ(テルモカテーテルチップシリンジ50mL)に充填し、テクスチャーアナライザーTA−XT2i(Stable Micro Systems社製)を用いて、圧縮速度0.8mm/秒で、上記シリンジから試料をチューブ(内径4mm、長さ30cm)に押し出した。その後、空のシリンジに付け替え再度同じ条件で圧縮し、チューブ内の試料を押し出し、チューブ内壁に付着した残渣量を測定した。測定温度は20℃とした。
チューブ内壁への残渣量が少ないと、衛生面上で優れていることを示す。
実施例1−1および1−2の胃瘻または腸瘻患者用の酸性ゲル状経腸栄養剤は、胃瘻や腸瘻患者用の経管投与に適した物性を有していた。具体的には、チューブ注入時の荷重が小さく(30N以下)、介護者が過度の負担なく注入できる物性であった。チューブ通過後の食塊の保形性も良好(7〜40cm)であり(図1、2)、チューブ残渣も少なく(1g以下)、衛生面でも優れていた。また、離水が顕著に抑制されていた(バルクゲル:2%以下、食塊:20%以下)。
比較例1−1は、多糖類として寒天(中性多糖類)を用いた場合である。寒天を使用することで、pH3.9でも経腸栄養剤をゲル化できたが、保形性が不十分であった(図3)。更には、顕著に離水が発生し、経管投与に適した物性を満たすものではなかった(図3)。
比較例1−2は、λカラギナン、ιカラギナン、κ2カラギナン、ならびにμ成分およびν成分を含有するカラギナンからなる群から選択される一種以上のカラギナンを併用せずに、酸性多糖類を使用した例である。比較例1−2は、調製時に凝集物が形成されたため、酸性ゲル状経腸栄養剤を調製することができなかった。
実施例2 胃瘻または腸瘻患者用の酸性ゲル状経腸栄養剤(2)
実施例1−1で用いた多糖類の添加量を下記表3に置き換える以外は実施例1−1と同様にして酸性ゲル状経腸栄養剤を調製した。得られた胃瘻または腸瘻患者用の酸性ゲル状経腸栄養剤(pH3.9)は、チューブ注入時にかかる荷重が極めて小さかった。更には、チューブ残渣も少なく、チューブ通過後の食塊の保形性も良好であった。
Figure 2013199469
実験例3 胃瘻または腸瘻患者用の酸性ゲル状経腸栄養剤(3)
表4に示す処方に従って、胃瘻または腸瘻患者用の酸性ゲル状経腸栄養剤を調製した。
具体的には、常温にて脂質(MCT)と水を撹拌しながら、タンパク質、糖質、スクラロース、乳化剤、酸性多糖類、ローカストビーンガム、グァーガムおよび安定剤(特定のカラギナン)の粉末原料を添加し、10分間撹拌した。80℃まで加温し、80℃に達温後10分間撹拌した。
クエン酸を添加してpHをp3.9に調整後、香料を添加した。その後、15MPaで均質化処理を行った。容器に充填後、85℃で30分間殺菌を行い、冷却して酸性ゲル状経腸栄養剤を調製した。
Figure 2013199469
酸性多糖類を含有しつつもタンパク質(脱脂粉乳)を含有しない参考例3−1はpH3.9の酸性条件下であっても、凝集物を形成することなくゲル状経腸栄養剤を調製することができた。しかしながら、参考例3−1の処方にタンパク質(脱脂粉乳)を添加した場合は多数の凝集物が形成し、酸性ゲル状経腸栄養剤自体を調製することができなかった(比較例3−1)。
安定剤としてιカラギナンを用いた実施例3−1および3−2の胃瘻または腸瘻患者用の酸性ゲル状経腸栄養剤は、酸性多糖類およびタンパク質を併用しつつも、凝集物を形成することなく且つ胃瘻や腸瘻患者用の経管投与に適した物性を有していた(チューブ注入時の荷重:30N以下、チューブ通過後の食塊の保形性:7〜40cm、離水率(食塊):20%以下、離水率(バルクゲル):2%以下、チューブ残渣量:1g以下)。実施例3−1、3−2および比較例3−1の酸性ゲル状経腸栄養剤について、実験例1と同様に物性を測定した結果を下記表5に示す。
Figure 2013199469
実験例4 胃瘻または腸瘻患者用の酸性ゲル状経腸栄養剤(4)
表6に示す処方に従って、胃瘻または腸瘻患者用の酸性ゲル状経腸栄養剤を調製した。
具体的には、常温にて脂質(MCT)と水を撹拌しながら、タンパク質、糖質、スクラロース、乳化剤、水溶性大豆多糖類、酸性多糖類、ローカストビーンガム、グァーガムおよび安定剤(特定のカラギナン)の粉末原料を添加し、10分間撹拌した。80℃まで加温し、80℃に達温後10分間撹拌した。
クエン酸を添加して表6に示すpHに調整後、香料を添加した。その後、15MPaで均質化処理を行った。容器に充填後、85℃で30分間殺菌を行い、冷却して酸性ゲル状経腸栄養剤を調製した。
Figure 2013199469
経腸栄養剤のpHを6.3に調整した場合は、安定剤不使用であっても凝集物の形成がなく、酸性ゲル状経腸栄養剤を調製することができたが(参考例4−1)、経腸栄養剤のpHを5.9に下げることで凝集物が多発し、酸性ゲル状経腸栄養剤を調製することができなかった(比較例4−1)。
安定剤として、μ成分およびν成分を含有するカラギナンを用いた実施例4−1および4−2の酸性ゲル状経腸栄養剤は、pHを4.5および5.9まで下げた場合であっても、凝集物を形成することなく且つ胃瘻や腸瘻患者用の経管投与に適した物性を有していた(チューブ注入時の荷重:30N以下、チューブ通過後の食塊の保形性:7〜40cm、離水率(食塊):20%以下、離水率(バルクゲル):2%以下、チューブ残渣量:1g以下)。実施例4−1、4−2および比較例4−1の酸性ゲル状経腸栄養剤について、実験例1と同様に物性を測定した結果を下記表7に示す。
一方、安定剤としてNa型κカラギナンを用いた比較例4−2は、チューブ注入時の荷重が73.6Nと極めて大きく、過度の負担がかかるものであった。更に、チューブ注入時にかかる荷重を低減するためにNa型κカラギナンの添加量を0.3質量%まで低減した場合には、凝集が発生し、酸性ゲル状経腸栄養剤を調製することができなかった(比較例4−3)。比較例4−2および4−3の酸性ゲル状経腸栄養剤について、実験例1と同様に物性を測定した結果を下記表7に示す。
Figure 2013199469
実験例5 胃瘻または腸瘻患者用の酸性ゲル状経腸栄養剤(5)
表8に示す処方に従って、胃瘻または腸瘻患者用の酸性ゲル状経腸栄養剤を調製した。
具体的には、常温にて脂質(MCT)と水を撹拌しながら、タンパク質、糖質、スクラロース、乳化剤、水溶性大豆多糖類、酸性多糖類、ローカストビーンガムおよび安定剤(特定のカラギナン)の粉末原料を添加し、10分間撹拌した。80℃まで加温し、80℃に達温後10分間撹拌した。
クエン酸を添加してpHをp3.9に調整後、香料を添加した。その後、15MPaで均質化処理を行った。容器に充填後、85℃で30分間殺菌を行い、冷却して酸性ゲル状経腸栄養剤を調製した。
Figure 2013199469
実施例5−1の酸性ゲル状経腸栄養剤は、pHが3.9であり、かつタンパク質および脂質を共に5質量%以上含有するものであったが、凝集物を形成することなく、かつ胃瘻や腸瘻患者用の経管投与に適した物性を有していた(チューブ注入時の荷重:30N以下、チューブ通過後の食塊の保形性:7〜40cm、離水率(食塊):20%以下、離水率(バルクゲル):2%以下、チューブ残渣量:1g以下)。実施例5−1の酸性ゲル状経腸栄養剤について、実験例1と同様に物性を測定した結果を下記表9に示す。
一方、安定剤として、μ成分およびν成分を含有するカラギナンを用いていない比較例5−2は凝集が多発し、酸性ゲル状経腸栄養剤を調製することができなかった。さらに、安定剤として、μ成分およびν成分を含有するカラギナンを使用せず、かつ酸性多糖類を0.005質量%に低減した比較例5−1は、凝集物を形成しなかったが、ゲル化せず酸性ゲル状経腸栄養剤を調製することができなかった。
Figure 2013199469
実験例6 胃瘻または腸瘻患者用の酸性ゲル状経腸栄養剤(6)
表10に示す処方に従って、胃瘻または腸瘻患者用の酸性ゲル状経腸栄養剤を調製した。
具体的には、常温にて脂質(MCT)と水を撹拌しながら、タンパク質、糖質、スクラロース、乳化剤、酸性多糖類、ローカストビーンガム、グァーガムおよび安定剤(特定のカラギナン)の粉末原料を添加し、10分間撹拌した。80℃まで加温し、80℃に達温後10分間撹拌した。
クエン酸を添加してpH4.5に調整後、香料を添加した。その後、15MPaで均質化処理を行った。容器に充填後、85℃で30分間殺菌を行い、冷却して酸性ゲル状経腸栄養剤を調製した。
Figure 2013199469
実施例6−1の酸性ゲル状経腸栄養剤は、pHが4.5であり、かつタンパク質を2質量%および脂質を1.8質量%含有するものであったが、凝集物を形成することなく、かつ胃瘻や腸瘻患者用の経管投与に適した物性を有していた(チューブ注入時の荷重:30N以下、チューブ通過後の食塊の保形性:7〜40cm、離水率(食塊):20%以下、離水率(バルクゲル):2%以下、チューブ残渣量:1g以下)。実施例6−1の酸性ゲル状経腸栄養剤について、実験例1と同様に物性を測定した結果を下記表11に示す。
Figure 2013199469
実験例7 胃瘻または腸瘻患者用の酸性ゲル状経腸栄養剤(7)
表12に示す処方に従って、胃瘻または腸瘻患者用の酸性ゲル状経腸栄養剤を調製した。
具体的には、常温にて脂質(MCT)と水を撹拌しながら、タンパク質、糖質、スクラロース、乳化剤、酸性多糖類、ローカストビーンガム、グァーガムおよび安定剤(特定のカラギナン)の粉末原料を添加し、10分間撹拌した。80℃まで加温し、80℃に達温後10分間撹拌した。
クエン酸を添加してpH4.5に調整後、香料を添加した。その後、15MPaで均質化処理を行った。容器に充填後、85℃で30分間殺菌を行い、冷却して酸性ゲル状経腸栄養剤を調製した。
Figure 2013199469
実施例7−1の酸性ゲル状経腸栄養剤は、pHが4.5であり、かつタンパク質を1質量%および脂質を1.7質量%含有するものであったが、凝集物を形成することなく、かつ胃瘻や腸瘻患者用の経管投与に適した物性を有していた(チューブ注入時の荷重:30N以下、チューブ通過後の食塊の保形性:7〜40cm、離水率(食塊):20%以下、離水率(バルクゲル):2%以下、チューブ残渣量:1g以下)。実施例7−1の酸性ゲル状経腸栄養剤について、実験例1と同様に物性を測定した結果を下記表13に示す。
Figure 2013199469

Claims (3)

  1. (1)タンパク質、
    (2)酸性多糖類および
    (3)λカラギナン、ιカラギナン、κ2カラギナン、ならびにμ成分およびν成分を含有するカラギナンからなる群から選択される一種以上のカラギナンを含有し、
    (4)pHが2.5〜6である、胃瘻または腸瘻患者用の酸性ゲル状経腸栄養剤。
  2. 前記酸性多糖類が、κカラギナン、キサンタンガム、ジェランガム、アルギン酸類、またはペクチンからなる群から選択される一種以上である、請求項1に記載の胃瘻または腸瘻患者用の酸性ゲル状経腸栄養剤。
  3. タンパク質を含む経腸栄養剤と(2)酸性多糖類、および(3)λカラギナン、ιカラギナン、κ2カラギナン、ならびにμ成分およびν成分を含有するカラギナンからなる群から選択される一種以上のカラギナンを混合後、pHを2.5〜6に調整する、胃瘻または腸瘻患者用の酸性ゲル状経腸栄養剤の製造方法。
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