JP2013197300A - 超音波厚みセンサの製造方法 - Google Patents

超音波厚みセンサの製造方法 Download PDF

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一剛 森
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克実 難波
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一郎 永野
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Abstract

【課題】超音波厚みセンサとして薄質で可撓性を示して、測定対象表面が湾曲している場合でもそれに追従させることができ、しかも測定対象個所に常時貼着させておくことを可能として、厚み測定前後の種々の作業を不要とし、厚み測定の手間と時間を大幅に削減し、かつ多数の箇所の同時的な厚み測定や、連続的な厚み測定も可能とし、さらに300℃以上の比較的高温でも使用可能な超音波厚みセンサを製造する方法を提供する。
【解決手段】Ti、Biのいずれか一方のアルコキシドのアルコール溶液と、他方の酢酸塩とを混合してTi−Biゾルを調製し、そのTi−Biゾルとチタン酸ビスマス(BIT)からなる粒径1〜5μmの粉末とを混合し、その混合物を、少なくとも表面が導電性を有しかつ一方の電極となるべき薄板状支持体の表面に付着させ、加熱、焼成してBIT焼結体層を形成し、さらに他方の電極の形成及び分極処理を行なう。
【選択図】図1

Description

本発明は、酸化物系圧電材料からなる圧電素子を用いて、超音波により各種配管の金属管、その他の管の管壁の厚み、あるいは各種金属容器の外壁の厚みなど、種々の厚みを検出するための超音波厚みセンサの製造方法に関するものである。
周知のように圧電素子を用いて超音波の送受信を行なって、各種の対象物、対象部位の検出や、各種測定、診断などを行なう装置は、従来から広く使用されている。例えば水中探査用のソナー、あるいは超音波探傷装置、超音波診断装置が従来から広く知られており、そのほか、金属板や金属管などの厚みを検出する厚みセンサにも、超音波センサが用いられている(例えば特許文献1、2など)。
このような超音波送受信用の圧電素子の材料としては、PZTと称されるチタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O)で代表されるペロブスカイト結晶構造を有する酸化物系圧電材料(圧電セラミックス)が最も代表的である。
ところでこの種の酸化物系圧電材料からなる圧電素子の製造方法としては、PZTなどの原料粉末を円盤状あるいは立方体形状などの所定のバルク形状に成形し、その成形体を焼結して、セラミック焼結体とし、その後、焼結体に電極を取り付けてから分極処理を施し、圧電素子とするのが一般的である(例えば特許文献3参照)。
具体的には、例えばPZT圧電素子の場合、先ずPbO、ZrO、TiOなどのPZT用の原料粉末を所定の割合で配合し、その配合粉末に純水を加えてボールミルで混合粉砕し、乾燥して仮焼成し、再度粉砕して粉末とし、更に仮焼成してから再度粉砕して、ペロブスカイト型結晶構造を有する、粒径が数μmから数十μm程度のPZT粉末を得る。そしてそのPZT粉末に、PVA(ポリビニルアルコール)などのバインダを加えて混合し、適度の大きさの造粒粉とする。その後、造粒粉に圧力を加えて成形し、肉厚な円盤状あるいは立方体形状などの所定のバルク形状の成形体とする。更にその成形体を加熱してバインダを除去してから、高温に加熱して焼成(焼結)して、セラミック焼結体とし、その後、所定の製品形状(圧電素子形状)に加工した後、銀電極などの電極を焼付けなどにより取り付け、分極処理を行なって、圧電特性を付与するのが通常である。
上述のような従来の酸化物系圧電素子の製造法においては、成形体を焼結する際の加熱温度を1200℃程度以上に上げることによって急激に焼結体の緻密度が高まることが知られており、そこで一般には1200〜1300℃程度で焼結することが行なわれている。そしてこのように1200℃以上の高温で焼成することによって、焼結体は、密度90%以上に高密度化されて、緻密な焼結体が得られることが知られている。
このように、従来の製造方法において焼結体の高密度化を図っていた理由は、焼結体からなるセンサ素子が高密度となるほど、分極処理後の圧電特性が向上して、効率的に超音波を発振することが可能となり、超音波出力の高出力化が容易に図れることにある。そのため従来は、酸化物系圧電材料からなる圧電素子の製造にあたっては、焼成温度を1200℃以上の高温として焼結体の緻密化を図り、圧電特性をできるだけ高め、高出力化を図ろうとするのが常識であった。
例えば、超音波ソナーの場合は、センサから検出対象物までの距離が著しく大きく、そのため、確実に対象物を捕捉するためには、大出力を必要とする。また超音波探傷装置の場合、たとえ検出すべき部位までの距離が短くても、検出すべき傷や欠陥の形状が一様ではなく、しかも傷や欠陥からの反射波と、傷や欠陥よりも遠い位置に存在する管外表面/外部空間の境界面からの反射波との2種の反射波の受信信号を峻別することが必要であり、そのためある程度大出力とする必要がある。さらに更に超音波診断装置の場合も、検査対象部位の形状が一様ではなく、しかも人体組織を透過する際の超音波の減衰が大きいことなどから、やはりかなりの大出力とする必要がある。そこで、これらの用途では、セラミック圧電素子はできるだけ高密度とすることが必要とされている。そして厚みセンサについても、他の用途と同様に高密度化することが常識とされていたのである。
なお、圧電素子を高出力化すれば、それに伴って反射波のエネルギも大きくなる。そして反射波のエネルギが過大であれば、反射波の受信信号中のノイズが大きくなってしまう。そこで従来、過大な反射波が予想される場合には、反射波を減衰させるためのダンパを組み込んでおくことも行なわれている。
ところで従来の超音波厚みセンサでは、厚みの測定が必要になるたびごとに、センサの探触子の前面を、各種設備の配管などの測定対象物の外表面に、水などの超音波媒体を介して押し当て、超音波の送受信を行なって厚みを測定するのが通常である。
しかるに、各種設備の配管は、金属管の外表面が保護材や断熱材などの外被によって覆われていることが多い。このような場合に超音波厚みセンサによって配管の厚み測定を行なう際には、測定個所の外被を除去して金属管の外表面に媒体を塗布もしくは供給する準備作業が必要となり、また厚み測定後には、媒体を拭き取り、更に外被を修復する修復作業を必要とする。したがって1回の厚み測定作業に多くの手間と時間を要さざるを得なかったのが実情である。
更に、従来の超音波厚みセンサは、前述のように厚みの測定が必要になるたびごとに、センサの探触子の前面を、測定対象物の外表面に水などの超音波媒体を介して押し当てるのが通常であるため、配管や容器外壁などにおける多数の個所の厚み測定を同時に行なうことは困難であり、そのため多数の個所の厚み測定データを得たい場合には、膨大な手間と時間を要さざるを得なかった。
また同様の理由から、厚みの経時的な測定データを連続して得ることは困難であった。
一方、従来の製造方法によって得られた酸化物系圧電材料(セラミック圧電材料)を用いた圧電素子は、全体的に焼結体が緻密で、かつ厚いバルク形状を有しているため、可撓性(フレキシビリティ;屈曲性)を全く有していないのが通常である。そのため、このような圧電素子を配管や容器外壁などを対象とする超音波厚みセンサに用いた場合、次のような問題があった。
すなわち、配管のうちでもその管径が小さい配管、すなわち外面の曲率半径が小さい配管の管壁や、配管におけるL字状に屈曲した部あるいはL字状に溶接した部分、すなわちエルボー部分、さらにはT字状に溶接した部分の隅部の如く、湾曲した部分(凸状もしくは凹状に湾曲した部分)の厚みを測定しようとした場合、その湾曲部分に探触子の前面を均一に当てることは困難であり、そのため測定誤差が大きくなったり、厚み測定が困難となったりする問題もあった。
ところで、工場やプラントなどの配管においては、300℃程度以上の高温の流体が流れるものも多く、また各種容器としても、300℃程度以上の高温の媒体を収容するものも多いが、このような配管や容器に用いる超音波厚み測定センサは、300℃以上の比較的高温でも確実に作動して厚みを測定し得ることが必要である。
ここで、各種の用途の圧電素子に使用される酸化物系圧電材料としては、従来は前述のようにPZTと称されるチタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O)が一般的であったが、PZTはそのキュリー温度が350℃程度以下であり、そのためPZTを300℃程度以上の高温域で使用すれば、分極が失われて、圧電特性を示さなくなり、厚み測定を行い得なくなってしまうおそれがある。したがって300℃程度以上の比較的高温の使用環境では、PZTを用いた厚みセンサは不適切であり、そこで300℃程度以上の比較的高温でも確実に厚み測定を行ない得る超音波厚みセンサの開発が望まれている。
また、通常は300℃以上の使用環境にはないが、火災や事故などによって周囲温度などが300℃以上に上昇する危険性があるような個所に設置される厚みセンサとしても、同様に300℃程度以上の比較的高温でも作動する超音波厚みセンサが望まれる。
特開平1−202609号公報 特開2002−228431号公報 特開平7−45124号公報
本発明は以上の事情を背景としてなされたもので、酸化物系圧電材料を用いた超音波厚みセンサとして、全体的に薄質で可撓性を示すことができ、そのため測定対象個所の外表面が湾曲している場合でもその湾曲面に追従させて、湾曲面における厚み測定を確実に行なうことができ、しかも配管や容器外壁などの測定対象個所に厚みセンサを常時貼着させておくことにより、厚み測定前の準備作業や測定後の修復作業などを不要とし、これによって厚み測定の手間と時間を大幅に削減することができ、併せて多数の箇所の同時的な厚み測定や、連続的な厚み測定も可能とし、しかも300℃程度以上の高温に曝されても圧電特性が失われることなく超音波厚み測定を行ない得るようにした超音波厚み測定センサを製造する方法を提供する。
前述のように各種の対象物検出や検査、測定、診断などのための超音波送受信に使用される従来の酸化物系圧電材料からなる圧電素子は、高い圧電効率を得るために、密度が90%以上となるように緻密化しておくのが常識とされており、超音波厚みセンサでも、同様に90%以上の高密度の圧電素子が使用されていた。
しかるに、各種設備における配管の管壁や容器の外壁などの厚み測定にあたっては、他の用途の場合のような高い圧電効率、高出力は必ずしも必要としないことを本発明者等は知見した。
すなわち、既に述べたように、水中探査用の超音波ソナー、あるいは超音波探傷装置、超音波診断装置などの場合は、対象物までの距離が遠かったり、あるいは対象物の形状が不定形で一様ではなかったり、更には対象部位に超音波が到達するまでの間の減衰が大きかったりする、などの点から、高出力が望まれるが、配管や容器などの厚み測定の場合、
対象となる管壁や容器外壁の厚み(超音波を透過/反射させるべき距離)は数百μmからせいぜい十数mm程度と小さく、しかも反射面は一様な定形面となっており、更には、超音波探傷の場合のように2種以上の反射波の受信信号を峻別する必要もないため、他の用途よりも超音波出力が小さくても、確実に厚みを測定し得ることを知見した。言い換えれば、厚みセンサの場合は、他の用途よりも圧電効率が低くても、厚みセンサとして充分に機能させることができることを知見したのである。
一方、酸化物系圧電材料からなる圧電素子においては、焼結体の緻密度が低くなって、相対的にポーラスとなれば、圧電効率は下がるが、薄質な可撓性を有する支持体上に焼結体層をポーラスに薄く形成しておけば、可撓性(フレキシビリティ)を付与することが可能となる。またその場合、支持体を圧電素子に必要な一対の電極のうちの一方の電極と兼ねさせて、焼結体層を支持体上に形成した後もその支持体をそのまま一方の電極として機能させることにより、簡単な工程で厚みセンサを製造し得ることを見い出した。
このように、厚みセンサとしては、焼結体の緻密度をある程度小さくすると同時に薄肉化を測って、圧電効率を若干下げながらも、厚みセンサとして可撓性を付与したものとすることができることを新規に見い出した。
ここで、上述のように電極を兼ねる薄質な支持体上に焼結体層を薄く形成するためには、その支持体として金属薄板を用い、その金属薄板上に、前述のような粒径が数μmから数十μm程度の焼結原料粉末のペーストを塗布して、支持体(金属薄板)ごと加熱し、ペーストを焼成することが考えられる。この場合、前述の従来法に倣って、1200〜1300℃程度の高温に加熱するとすれば、電極兼支持体の金属薄板として、1200〜1300℃の高温でも酸化しないような優れた耐高温酸化性を有する白金(Pt)などを用いざるを得ない。しかしながら、このような白金などの優れた耐高温酸化性を有する材料は、極めて高価格であるのが通常であり、したがってその場合には、厚みセンサの材料コストが著しく高くなってしまう。
ところで、各種の酸化物系圧電材料のうちでも、BITと称されるチタン酸ビスマス(BiTi12)は、そのキュリー温度が約410℃程度と、PZTのキュリー温度よりも高い。そのため、BITを超音波厚みセンサの圧電素子材料として用いれば、PZTを用いた場合よりも高温まで使用可能となる。そこで本発明者等は、400℃程度まで使用可能な超音波センサの酸化物系圧電材料としてBITを使用することを考えた。
そして本発明者が実験、研究を重ねた結果、BITを構成する金属であるTiおよびBiのいずれか一方の金属のアルコキシドのアルコール溶液と他方の金属の酢酸塩とを混合してなるゾル(Ti−Biゾル)を調製し、そのTi−Biゾルと、BITからなる粒径が数μm程度の粉末とを混合し、その混合物スラリーを焼結原料として焼成すれば、600〜800℃程度の低温でも、70〜80%程度の密度まで焼結可能となり、その場合、分極処理後には超音波厚みセンサとして必要な程度の圧電特性が得られることを見い出した。
すなわちBITからなる圧電素子の製造においては、従来一般には、ボールミルによって粉砕された数μm程度の粒径のBIT粉末を焼成するのが通常であったが、BIT粉末を単独で焼結させるのではなく、その粉末に、BITを構成する各金属成分(Ti、Bi)を含むゾル、特にTi、Biの一方のアルコキシドのアルコール溶液と他方の酢酸塩からなるゾルを加えて焼成することにより、数μm程度のBIT粉末を単独で焼結させる場合よりも格段に低温で焼結することが可能となることを見い出した。そしてこれらの場合には、600〜800℃程度の低温で焼成しても、厚みセンサとして必要な程度の比較的低密度の焼結体を得ることが可能であることを見い出した。さらにこのような比較的低温の焼成温度であれば、電極を兼ねる前記支持体として、高価な白金などを使用する必要がなくなり、ステンレス鋼などの安価な材料を使用することが可能となって、材料コストの低減に有効となることを知見し、その結果、300℃程度以上の比較的高温の温度域(但し通常は400℃程度以下)でも使用可能な可撓性を有する超音波厚みセンサを低コストで製造し得ることを見い出し、本発明をなすに至ったのである。
したがって本発明の超音波厚みセンサの製造方法では、基本的には、圧電セラミックの原料となるチタン酸ビスマスの平均粒径1〜5μmの粉末に、チタン酸ビスマスの金属成分のアルコキシドおよび酢酸塩のゾルを配合し、その混合物を一方の電極となるべき薄板状支持体(超音波センサにおける一方の電極となるべく少なくとも表面を導電性としたもの)、例えばSUSなどの金属薄板の表面に塗布などにより付着させ、その状態で加熱、焼成して、比較的ポーラスで可撓性を示し得る焼結体層を前記金属薄板表面に形成し、その後、他方の電極の形成と分極処理を行って、センサ全体として可撓性を示し得るようにした。
具体的には、本発明の基本的な態様(第1の態様)の超音波厚みセンサの製造方法は、
チタンおよびビスマスのいずれか一方のアルコキシドのアルコール溶液と、他方の酢酸塩とを混合してTi−Biゾルを調製するゾル調製工程と、
前記Ti−Biゾルと、チタン酸ビスマスからなる平均粒径1〜5μmの粉末とを混合して、その混合物からなる焼結原料を調製する焼結原料調製工程と、
少なくとも一方の板面が導電性を有する薄板状支持体を第1の電極とし、前記焼結原料を、前記薄板状支持体からなる第1の電極の前記一方の板面上に所定厚みで付着させて乾燥させることにより焼結原料層を形成する焼結原料層形成工程と、
前記焼結原料層を加熱により焼成して、チタン酸ビスマスからなる焼結体層を形成する焼成工程と、
前記焼結体層における第1の電極に対し反対側の表面上に第2の電極を形成する第2電極形成工程と、
前記第2電極形成工程の前もしくは後に、前記焼結体層における厚み方向に電位差を与えて焼結体層を分極させる分極処理工程と、
を有してなることを特徴とするものである。
このように本発明の基本的な態様の超音波厚みセンサの製造方法においては、チタン酸ビスマス(BiTi12:BIT)からなる比較的粗大な粉末(平均粒径1〜5μm)のみならず、それにBITの金属成分のアルコキシドのアルコール溶液と酢酸塩からなるゾル(Ti−Biゾル)を混合してなる混合物を焼結原料として、第1の電極としての薄板状支持体の板面上に付着させ、その支持体上の焼結原料層を焼成して、BIT焼結体層とする。この焼成時には、第1の電極としての薄板状支持体は、焼結原料層を支持するための支持体として機能する。そのため焼結原料層の厚みを薄くしても、支障なく焼成することが可能である。またその薄板状支持体は、厚みセンサとしての使用時においても、電極として機能するのみならず、BIT焼結体層(圧電セラミック層)の支持体としても機能して、BIT焼結体層が剥落することを防止できる。
そして第1の電極としての薄板状支持体として、可撓性を示す程度に薄いものを用いて、かつ第2の電極も充分に薄質としておけば、厚みセンサとしてその全体の厚みを薄くして、可撓性を有するものとすることができる。さらに、焼結原料として、前述のような比較的粗大なBIT粉末(平均粒径1〜5μm)と、BITの金属成分のゾル(Ti−Biゾル)とを混合してなる混合物を用いているため、焼成工程においては、比較的低温の焼成温度(例えば600〜800℃)でも、ある程度の密度(例えば70〜80%程度)を有する焼結体層、すなわち超音波厚みセンサとして支障ない程度の圧電特性を分極処理後に得ることができる焼結体層を形成することができる。
すなわち、焼成工程における焼成開始前の状態で、第1の電極としての薄板状支持体上の焼結原料層(混合物層)は、比較的粗大なBIT粉末の粒子間の空隙に、同じBITを構成する金属成分であるTi、Biのいずれか一方のアルコキシドと他方の酢酸塩が存在しており、焼成時にはそのアルコキシドおよび酢酸塩が分解して反応し、BITとなる。その過程で、アルコキシドおよび酢酸塩の分解反応生成物は、比較的粗大なBIT粉末の粒子間を結合する結合物質(焼結助剤)として機能するため、焼結体層は比較的低温の焼成温度でも70%以上の密度となり、しかもそれと同時に、アルコキシドおよび酢酸塩の分解生成物自体もBITとなるため、比較的低密度(70〜80%)でも、焼結層全体として厚みセンサに必要な程度の良好な圧電特性を示すことが可能となる。
しかもBITは、そのキュリー温度が約410℃程度と、PZTのキュリー温度よりも高く、そのため分極処理後のBITからなる焼結体層(圧電セラミック層)が400℃近くの高温に曝されても分極が失われることがなく、したがって400℃程度までは超音波厚みセンサとして使用することが可能となる。
また本発明の第2の態様の超音波厚みセンサの製造方法は、前記第1の態様の超音波厚みセンサの製造方法において、前記ゾル調製工程で、チタンアルコキシドのアルコール溶液と酢酸ビスマスとを混合してTi−Biゾルを調製することを特徴とするものである。
一方、本発明の第3の態様の超音波厚みセンサの製造方法は、前記第1の態様の超音波厚みセンサの製造方法において、前記ゾル調製工程で、ビスマスアルコキシドのアルコール溶液と酢酸チタンとを混合してTi−Biゾルを調製することを特徴とするものである。
これらの第2の態様、第3の態様のいずれにおいても、焼結原料の焼成時において、Ti−Biゾルの分解反応生成物が、比較的粗大なBIT粉末粒子に対する焼結助剤として有効に機能し、しかもその分解反応生成物自体もBITとなる。
また本発明の第4の態様の超音波厚みセンサの製造方法は、前記第1〜第3のいずれかの態様の超音波厚みセンサの製造方法において、前記ゾル調製工程で、チタンとビスマスのモル比が実質的に3:4となるようにTi−Biゾルを調製することを特徴とするものである。
このようにTi−Biゾルをチタンとビスマスのモル比が実質的に3:4となるように調整することによって、焼結原料の焼成時においてTi−Biゾルの分解反応生成物のほぼ全量が過不足なくBIT圧電材料となり、そのため比較的低密度でも、超音波厚みセンサとして必要な程度の圧電特性を示すことが可能となる。
さらに本発明の第5の態様の超音波厚みセンサの製造方法は、前記第1〜第4のいずれかの態様の超音波厚みセンサの製造方法において、前記焼成工程によって、密度が70〜80%の範囲内のチタン酸ビスマスからなる焼結体層を得ることを特徴とするものである。
この第5の態様の超音波厚みセンサの製造方法では、圧電材料であるBIT焼結体層(圧電セラミック層)の密度を、従来一般の圧電セラミックよりも低密度の80%以下としておくことによって、その焼結体層を第1の電極となる薄板状支持体に支持させた状態で可撓性を示すことができる。また同時に焼結体層の密度を70%以上とすることによって、超音波厚みセンサとして必要な程度の圧電性能を確保することができるとともに、焼結体層が過度に低密度となって脆くなることにより、焼結体層が第1の電極から剥離してしまうことを防止できる。
なお本明細書において焼結体層の密度とは、空隙率の逆数、すなわち相対密度を意味するものとする。
さらに本発明の第6の態様の超音波厚みセンサの製造方法は、前記第1〜第5のいずれかの態様の超音波厚みセンサの製造方法において、前記前記焼成工程における加熱温度を、600〜800℃の範囲内とすることを特徴とするものである。
このように第6の態様の超音波厚みセンサの製造方法では、焼成工程における加熱温度を、従来一般の圧電セラミック製造における焼成温度より格段に低い600〜800℃の範囲内としているが、焼結原料としてBIT粉末とTi−Biゾルとの混合物を用いているため、このような低温での焼結によっても焼結を進行させて、超音波厚みセンサとして必要な程度の圧電特性を示しうる密度(従来よりも低い70〜80%程度)を有する焼結体層を形成することができる。そしてまた、このように比較的低い密度に焼結された焼結体層は、その焼結体層を第1の電極となる薄板状支持体に支持させた状態で可撓性を示すことができ、また一方、焼結体層の密度が過度に小さくなって焼結体層が脆くなり、第1の電極(薄板状支持体)から剥離してしまうことも防止できる。
さらに本発明の第7の態様の超音波厚みセンサの製造方法は、前記第1〜第6のいずれかの態様の超音波厚みセンサの製造方法において、前記第2電極形成工程の前もしくは後に前記分極処理工程を行い、かつその分極処理工程においては、焼結体層の表面もしくはその焼結体層上の第2の電極の表面に分極用電極が直接接触するように分極処理用電極を配置し、放電防止用液体中において分極用電極と前記薄板状支持体の表面との間に電圧を印加することに、焼結体層を分極させることを特徴とするものである。
このように焼結体層に分極処理を施すことによって、BITからなる焼結体層は超音波厚みセンサに必要な程度の圧電特性を示し、超音波厚みセンサとして実際に使用可能となる。
一方、本発明の第8の態様の超音波厚みセンサの製造方法は、前記第1〜第6のいずれかの態様の超音波厚みセンサの製造方法において、前記第2電極形成工程の前もしくは後に前記分極処理工程を行い、かつその分極処理工程においては、焼結体層表面もしくはその焼結体層上の第2電極表面から離れた位置にコロナ放電用電極を配して、気体中においてコロナ放電用電極と支持体表面との間に電圧を印加することにより、その間にコロナ放電を生起させ、そのコロナ放電による電界領域内に焼結体層を曝すことにより焼結体層を分極させることを特徴とするものである。
このように、第8の態様においては、第7の態様で適用している従来一般の分極処理法に代えて、コロナ放電による分極処理を適用しているが、このようなコロナ放電による分極処理を適用することによっても、BIT焼結体層を、超音波厚みセンサとして必要な程度まで分極させることができる。またここで、第2の電極が焼結体層の表面上に未だ形成されていない状態、および既に第2の電極が焼結体層上に形成されている状態の、いずれの状態でコロナ放電による分極処理を行っても、焼結体層を分極させることができる。
さらに本発明の第9の態様の超音波厚みセンサの製造方法は、前記第1〜第8のいずれかの態様の超音波厚みセンサの製造方法において、前記第1電極を構成する薄板状支持体として、その厚みが10〜150μmの範囲内の金属薄板を用い、また前記焼結体層を、その厚みが30〜150μmの範囲内となるように形成し、さらに前記第2の電極を、その厚みが、10〜100μmの範囲内となるように形成することを特徴とするものである。
このような第9の態様においては、焼結体層の厚みが30〜150μmの範囲内と薄いため、焼結体層を金属薄板(第1の電極)に支持させた状態で、可撓性を示すことができ、さらに金属薄板(第1の電極)および第2の電極も薄いため、最終的に得られる厚みセンサとしても、容易に可撓性を示すものとすることができる。
そしてまた本発明の第10の態様の超音波厚みセンサの製造方法は、前記第1〜第8のいずれかの態様の超音波厚みセンサの製造方法において、前記第1電極を構成する薄板状支持体として、その厚みが30〜100μmの範囲内の部分安定化ジルコニアからなるセラミック基板の表面に、良導電性を有する耐高温酸化性金属からなる平均膜厚5〜20μmのメタライズ層が形成されたメタライズ板を用い、また前記焼結体層を、その厚みが30〜150μmの範囲内となるように形成し、さらに前記第2の電極を、その厚みが、10〜100μmの範囲内となるように形成することを特徴とすることを特徴とするものである。
このように第1電極を構成する薄板状支持体として、厚みが30〜100μmの部分安定化ジルコニアからなるセラミック基板の表面に、良導電性の耐高温酸化性金属からなる平均膜厚5〜20μmのメタライズ層が形成されたメタライズ板を用いた場合でも、最終的な超音波厚みセンサとして、容易に可撓性を示すものとすることができる。
本発明の超音波厚みセンサの製造方法によれば、センサ全体として薄質で可撓性を示す超音波厚みセンサを容易に製造することができる。特に本発明法では、酸化物系圧電材料であるチタン酸ビスマス(BIT)の平均粒径1〜5μmの粉末に、その原料粉末の金属成分であるTi、Biのうちの一方のアルコキシドのアルコール溶液と他方の酢酸塩とを混合したTi−Biゾルを配合して、その混合物を焼結原料としているため、焼成温度を比較的低温とすることができ、したがって電極材料として耐高温酸化性が著しく優れた白金などの高価な材料を使用しなくて済むため、材料コストを抑えることができる。そして前述のように薄質で可撓性を示す超音波厚みセンサであれば、測定対象部位が湾曲面であってもその湾曲面に追従して変形させることが可能であるため、湾曲面における厚み測定を確実に行なうことができる。またこのような厚みセンサは、予め配管などの測定対象個所に貼り付けておいて、そのままの状態で配管設備などを稼動させ、必要な時に随時厚み測定を行なうことができ、その場合、厚み測定前後の作業、例えば配管における測定前の外被除去作業や媒体塗布作業、及び測定後の媒体拭き取り作業や外被修復作業などを不要とすることができ、そのため、厚み測定の手間と時間を大幅に削減することができ、さらには、多数の個所にそれぞれ厚みセンサを貼り付けておいて、多数の個所における厚みの同時測定を容易に行なうことができるとともに、経時的かつ連続的な厚み測定が可能もなるという、顕著な効果を得ることができる。
さらに本発明の製造方法によって得られた超音波厚みセンサは、その超音波送受信のための酸化物系圧電材料として、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)よりもキュリー温度が高いチタン酸ビスマス(BIT)を使用しているため、PZTを用いた場合よりも高温まで使用可能であって、400℃程度までは確実に作動するから、300℃程度以上の高温の流体が流れる配管や、同様に300℃程度以上の高温の媒体を収容する各種容器における厚み測定に最適であり、その他300℃程度以上の高温に曝される危険性がある個所での厚み測定の用途に使用すれば、300℃程度以上の高温に曝された後にも厚み測定を継続することができる。
本発明の超音波厚みセンサの製造方法の第1の実施形態を示すフローチャートである。 本発明の製造方法により得られた超音波厚みセンサの一例を、その使用時の状況として示す略解的な縦断面図である。 本発明の製造方法により得られた超音波厚みセンサの一例の使用時の状況の他の例を示す略解的な縦断面図である。 本発明の超音波厚みセンサの製造方法において適用されるコロナ放電による分極処理を実施している状況の一例を示す略解的な正面図である。 図4におけるV−V線での略解的な縦断側面図である。 図4におけるVI−VI線での略解的な平面図である。
以下に、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1には、本発明の実施形態の超音波厚みセンサ製造方法を示す。
この実施形態は、基本的には、第1の電極となるべき薄板状支持体として、ステンレス鋼などの金属薄板を用い、チタン酸ビスマス(BIT)からなる粉末(平均粒径1〜5μmの粉末)と、そのBITの金属成分であるTiとBiのうち、一方のアルコキシドのアルコール溶液と他方の酢酸塩とからなるゾル(Ti−Biゾル)とを混合して、その混合物を焼結原料として、第1電極を兼ねた金属薄板上で焼成するものである。
具体的には、図1に示しているように、
P1:BITの金属成分であるTi、Biのうちの一方のアルコキシドのアルコール溶液と、他方の酢酸塩とを用意し、これらを混合して、その混合物からなるゾル(Ti−Biゾル)を調製するゾル調製工程、
P2:BITからなる平均粒径1〜5μmの原料粉末と、前記Ti−Biゾルとを混合して、その混合物からなる焼結原料(スラリー)を調製する焼結原料調製工程
P3:前記焼結原料スラリーを、薄板状支持体としての金属薄板からなる第1の電極の一方の板面に所定厚みで付着させて、第1の電極の一方の板面上に焼結原料層を形成する焼結原料層形成工程、例えば前記スラリーを、金属薄板からなる第1の電極の一方の板面に塗布して乾燥させる工程、
P4:第1の電極を兼ねた前記金属薄板上の焼結原料層を加熱して焼成し、BITからなる焼結体層を第1の電極の一方の板面上に形成する焼成工程、
P5A、P5B:前記焼成工程P4の終了後、次の分極処理工程の前に、焼結体層における前記第1の電極に対して反対側の表面に第2の電極を形成する第2電極形成工程(注:この第2電極形成工程は、焼成工程P4の終了後、次の分極処理工程の前に施す場合(図1においてP5Aと表示)と、分極処理工程に先立って行なう場合(図1においてP5Bと表示)とがある)、
P6A、P6B:焼結体層の厚み方向に電位差を与え、焼結体層を分極処理する分極処理工程(注:この分極処理を第2電極形成工程P5Aの後に行う場合を図1においてP6Aと表示し、第2電極形成工程P5Bの前に行う場合を図1においてP6Bと表示)、
以上の各工程からなるプロセスによって、酸化物系圧電材料としてBITを用いた超音波厚みセンサを製造する。
以下にこれらの各工程について、具体的に説明する。
〔ゾル調製工程P1〕
予め、準備工程として、平均粒径1〜5μmのBIT粉末を準備しておく。
ここで、セラミック粉末製造メーカなどからは、圧電素子用の原料粉末としてBIT粉末が市販されており、したがって本発明の超音波厚みセンサの製造方法を実施するに当たっては、この種の市販のBIT粉末を購入して、それをそのまま、あるいは平均粒径1〜5μmに粉砕して使用しても良い。但し、BIT粉末の調製から出発してもよいことはもちろんであり、そこで、BIT粉末調製のための工程を、ゾル調製に先立つ準備工程として次に簡単に説明する。
すなわち、BIT原料となる酸化物粉末、例えば酸化チタン(TiO)および酸化ビスマス(Bi)の各粉末を、目標とするBIT組成となるように配合するとともに、エタノールなどの溶媒やポリエチレンイミンなどの界面活性剤を適宜加えて、ボールミルなどにより混錬し、得られた混錬物(スラリー)を乾燥して混合粉末とする。さらにこの混合粉末を、粉体の状態で仮焼成する。この仮焼成は、通常は、大気雰囲気中で700〜1000℃程度の温度において1〜20時間程度加熱すればよい。このような仮焼成によって、混合酸化物粉末の各成分が相互に固溶して、ビスマス層状ペロブスカイト型結晶構造を有するチタン酸ビスマス(BIT;BiTi12)が生成される。得られたもの(仮焼成後の状態では通常は塊状)を、ボールミルなどにより粉砕すれば、平均粒径1〜5μmのBIT粉末が得られる。
なお本発明においては、BIT組成を基本として、それに微量添加元素として、Mn、Mg、Ca、Sr、Ba、V、Nb、Ta、La、Nd、Sc、Gdなどの1種又は2種以上を、それぞれ10重量%程度以下添加してもよく、要は、BIT系(チタン酸ビスマス系)の圧電セラミック材料と称される材料はすべて対象となる。
なおまた、原料粉末の粒径は平均粒径1〜5μmとしているが、これは、従来の一般的な手法、すなわち酸化物系圧電材料を構成する金属成分の酸化物の粉末を混合して焼成し、これを機械的に粉砕して得られる原料粉末は、通常平均粒径1〜5μm程度であるからである。ここで、原料粉末の平均粒径を1μm未満とすることは、粉砕効率の観点から困難であり、一方原料粉末の平均粒径を5μm超とすることは、燒結性の観点から問題となる。
また上記のBIT粉末の準備と並び、BITを構成する金属成分であるTiおよびBiのうち、いずれか一方のアルコキシドと、他方の酢酸塩を準備する。
すなわち、アルコキシドとしては、アルキル基をRとし、一般式Ti(OR)で表されるチタンアルコキシド、またはBi(OR)で表されるビスマスアルコキシドを準備し、酢酸塩として酢酸ビスマスまたは酢酸チタンを用意する。
上記のアルコキシドにおけるアルキル基Rは特に限定されないが、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、アミル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ブチル基、イソブチル基、t―ブチル基、s−ブチル基などを適用することができる。より具体的には、チタンアルコキシドとしては、チタンジブトキシド、チタンジイソプロキシド、あるいはチタンイソプロポキシドなど、またビスマスアルコキシドとしては、ビスマスブトキシド、ビスマスイソプロポキシドなどを用いることが好ましい。
一方、酢酸塩としての酢酸ビスマスは、CBiOと表せるものである。また酢酸チタンとしては、一般に二酢酸チタン(CTi)、三酢酸チタン(CTi)、四酢酸チタン(C12Ti)があるが、これらのいずれを使用しても良い。
ここで、アルコキシドと酢酸塩との組み合わせとしては、
A:チタンアルコキシドと酢酸ビスマスとの組み合わせ、
B:酢酸チタンとビスマスアルコキシドとの組み合わせ、
のうち、いずれの組み合わせを用いても良いが、総合的な入手のしやすさおよび原材料コストの点からは、Aの組み合わせを用いることが望ましい。
またTi―Biゾルにおけるアルコキシドおよび酢酸塩の配合は、TiとBiの割合が、目標とするBITにおけるTiとBiの割合と同等となるように定めることが望ましい。すなわち、BITはBiTi12であるから、モル比が、Bi:Ti=4:3の割合となるように配合することが望ましい。
但し、BiTi12の組成を基本として、それに微量添加元素として、Mn、Mg、Ca、Sr、Ba、V、Nb、Ta、La、Nd、Sc、Gdなどの1種又は2種以上を添加したBIT系圧電セラミック材料を対象とする場合、アルコキシドおよび酢酸塩からなるTi−Biゾルとしては、必ずしもこれらの微量元素金属まで含んでいなくても良く、主成分であるTi、Biのアルコキシド、酢酸塩を含んでいればで充分である。もちろん場合によっては、これらの微量添加元素を含むゾルであってもよい。
さらに、TiもしくはBiのアルコキシドを溶解させるアルコールの種類は特に限定しないが、一般には溶解のしやすさや安定性などの点から、アルコキシドのアルキル基と同じアルコールを用いた溶液とすることが望ましい。
〔焼結原料調製工程P2〕
前述のような比較的粗大なBIT粉末(平均粒径1〜5μm)と、Ti−Biゾルとを、混合、混錬すれば、焼結原料としてのスラリー状の混合物が得られる。
なお、上記のBIT粉末とTi−Biゾルの配合比は特に限定しないが、通常は、BIT粉末中の金属成分(TiおよびBi)に対するTi―Biゾル中の金属成分(TiおよびBi)のモル比が、0.2〜1.0の範囲内となるように配合することが望ましい。上記のモル比が0.2未満では、Ti−BIゾル中のTi、Biが少なすぎて、焼成工程においてゾルの分解反応生成物が焼結助剤として充分に機能せず、そのため低温での焼結が困難となり、一方上記のモル比が1.0を越えれば、Ti−Biゾルが多すぎて、第1の電極を兼ねる金属薄板上で焼成したときに、Ti−Biゾルからの分解反応生成物の量が過剰となり、焼結体層が緻密化されてしまって可撓性が得られなくなってしまうおそれがある。
さらに、Ti−Biゾルと、BIT粉末との直接的な混合割合自体も、特に限定しないが、通常は、Ti−Biゾル:BIT粉末が重量比で4:1〜2:3の範囲内となるように混合することが望ましい。Ti−Biゾルと、BIT粉末との重量比が4:1未満では、混合物スラリーの粘度が低すぎて、次の焼結原料層形成工程において充分な厚みで塗布することが困難となるとともに、焼成工程においてTi−Biゾルの分解反応生成物の量が過剰となり、前述のように焼結体層が緻密化して可撓性が失われるおそれがある。一方上記の重量比が2:3を越えれば、混合物スラリーの粘度が高すぎて、次の焼結原料層形成工程において混合物スラリーの塗布が困難となるとともに、焼成工程においてTi−Biゾルの分解反応生成物の量が過少となり、前述のように焼成工程においてゾルの分解反応生成物が焼結助剤として充分に機能せず、そのため低温での焼結が困難となるおそれがある。
〔焼結原料層形成工程P3〕
この焼結原料層形成工程は、前記混合物スラリー(焼結原料)を、第1の電極としての金属薄板の板面に所定の厚みで付着させて、金属薄板の表面に所定の厚みの焼結原料層を形成する工程である。
上記金属薄板は、電極として機能するだけではなく、乾燥後の焼成工程や厚みセンサとしての使用時において支持体として機能するものである。その金属薄板の材質は特に限定されないが、本発明の場合、焼結原料として比較的粗大なBIT粉末とTI−Biゾルとの混合物を用いているため、600〜800℃程度の比較的低温で焼成することができ、したがって800℃程度までの耐酸化性を有する汎用の耐熱金属を使用することができる。すなわち、白金などの如く1200℃以上まで耐えうる高価な金属を用いる必要はなく、ステンレス鋼やその他の汎用の耐熱鋼を、第1の電極を兼ねる金属薄板として使用することができる。具体的には、18Cr−8Niとして知られるSUS304系統のオーステナイト系ステンレス鋼、あるいは18Cr−12Ni−2.5MoのSUS316系統のオーステナイト系ステンレス鋼、その他、22Ni−12CrのSUH309系統のオーステナイト系耐熱鋼を用いることができる。これらは、いずれも白金よりも格段に安価に入手することができる。
前記第1の電極としての金属薄板の厚みは、10μm〜150μmとすることが好ましい。その厚みが10μm未満では、強度が不充分で、センサ製造工程中のハンドリングに支障をきたすおそれがあるとともに、厚みセンサとしての使用時において変形あるいは破損してしまうおそれがある。一方、その厚みが150μmを越えれば、金属薄板の可撓性が失われて、厚みセンサ全体としてもその可撓性が劣ることとなり、そのため使用時において厚み測定対象の配管の湾曲部分に貼着することが困難となるおそれがある。
なお前記焼結原料としての混合物を金属薄板上に付着させるための手段としては、その混合物のスラリーを金属薄板表面に塗布する方法が代表的である。またその場合の塗布手段としては、加圧噴射(スプレー)や、ロールコーター、その他、一般の印刷技術で適用されている塗布・印刷手段を任意に適用することができる。このように塗布した後には、乾燥させて焼結原料層とする。乾燥手段は特に限定しないが、通常は自然乾燥すればよく、また場合によっては乾燥の促進のため、60℃程度以下に加熱しても良い。
ここで、塗布層を乾燥させた状態では、乾燥前の状態から収縮して、乾燥前の1/2〜1/4程度の厚みとなるが、乾燥後の焼結原料層の厚み(したがって後述する焼成工程開始直前の段階での厚み)は、70〜200μmの範囲内とすることが望ましい。焼成工程開始直前の段階での焼結原料層の厚みが70μm未満では、焼成後の焼結体層の厚みが薄すぎて、センサを湾曲させた時に、焼結体層が第1の電極としての金属薄板から剥離するおそれがある。一方、焼成工程開始直前の段階での厚みが200μmを越えれば、焼成後の焼結体層の厚みも厚くなりすぎ、その結果、後述するように充分な可撓性を焼結体層に与えることが困難となるおそれがある。
なお、第1電極を兼ねる金属薄板上に混合物スラリーを塗布した後の乾燥は、次の焼成工程における焼結のための加熱の初期段階で行なっても良い。
〔焼成工程P4〕
続いて、前述のようにして第1の電極としての金属薄板の板面に焼結原料層を形成した状態で、その焼結原料層を加熱して焼成し、BITからなる焼結体層を形成する。
この焼成工程では、比較的粗大なBIT粉末の粒子(平均粒径1〜5μm)の間に存在しているTi―Biゾルのアルコキシドおよび酢酸塩が分解して反応し、超微粉末状の分解反応生成物が生成され、かつその分解反応生成物が、比較的粗大なBIT粉末の粒子を焼結結合させる役割、すなわち焼結助剤として機能する。しかもその分解反応生成物は、それ自体でBITの組成を有するため、圧電特性を向上させる機能も果たす。したがってこのように比較的粗大なBIT粉末とともにTi−Biゾルを混合して焼成することにより、比較的低温でも焼結が進行し、かつ圧電特性も向上する。
ここで、焼成工程では、加熱温度を600〜800℃の範囲内として、焼成後の状態(圧電材料焼結体層)の密度が70〜80%の範囲内となるように焼成することが望ましい。
焼成後のセラミック焼結体の密度が80%と越える高密度となれば、焼結体層の剛性が高くなって、可撓性が劣る状態となり、その結果、厚みセンサとしての使用時においてセンサを湾曲させれば、焼結体層が第1の電極としての金属薄板から剥離したり、クラックが発生したりするおそれがあり、したがって厚さ測定対象の配管などの湾曲部分に適用することが困難となる。また同時に密度が80%と越える高密度となるように焼成した場合、焼成時の収縮が大きくなって、第1の電極としての金属薄板から剥離してしまうおそれが強く、その結果、第1の電極としての金属薄板上に密着した焼結体層を得ることが困難となる。
一方、焼成後のBIT焼結体層の密度が70%未満の低密度では、焼結体層の空隙率が高すぎて、焼結体層内部の粒子が充分に結合されていない状態となり、そのため、その後の工程におけるハンドリング時やセンサとしての使用時に焼結体層が粉体状に剥落してしまうおそれがあり、また同時に、焼結体層内部の空隙率が高くなって、厚さ測定のため超音波センサとして充分な圧電特性が得られなくなるおそれがある。
したがって焼成後のBIT焼結体層の密度は、70〜80%の範囲内とすることが望ましいが、このような密度の焼結体層を形成するためには、焼成温度を600〜800℃の範囲内とすることが好ましい。このように従来一般の酸化物系圧電材料(セラミック圧電材料)の焼成温度よりも低い600〜800℃の焼成温度でも、焼結原料に配合されているアルコキシドおよび酢酸塩の分解反応生成物が焼結助剤として機能するため、超音波厚みセンサとして必要な圧電特性を示す焼結体密度を充分に得ることができる。
ここで焼成温度が800℃を超える高温となれば、焼成時に粉体粒子同士の焼結反応が急速に進行して、密度が80%以下の焼結体層を得ることが困難となる。一方、焼成温度が600℃未満の低温では、粉体粒子同士の焼結反応が充分に進行せず、焼結体層の密度を70%以上に高めることが困難となる。なお焼成温度は、600〜800℃の範囲内でも、特に650〜750℃の範囲内が好ましい。
また焼成時の雰囲気は大気とすることが好ましい。さらに焼成時間は、焼成温度によっても異なるが、通常は0.1〜1時間とすることが好ましい。
このような焼成工程によって、支持体を兼ねた第1の電極としての金属薄板の一方の板面に、所定の厚み、所定の密度のチタン酸ビスマス(BIT)からなるBIT焼結体層が形成される。
〔第2電極形成工程P5A、P5B〕
この第2電極形成工程は、前記第1の電極(金属薄板)の対極となる第2の電極を、前記BIT焼結体層の上面(第1の電極に対し反対側の面)に形成する工程であり、次の分極処理工程P6Aを実施する前の工程(P5A)、あるいは分極処理工程P6Bを行なった後の工程(P5B)として実施される。
第2の電極形成のための具体的手段は特に限定されないが、例えば銀(Ag)などの電極用の導電性金属の粉末をペースト化しておき、そのペーストを焼結体層表面に塗布して焼き付けたり、あるいは電極用の導電性金属の薄膜を焼結体層の表面に載置もしくは貼着して焼き付けたりすれば良い。なおこの第2電極の厚みは、10〜100μmとすることが好ましい。第2の電極の厚みが100μmを越えれば、厚みセンサの可撓性を損なうおそれがあり、一方10μm未満に薄く第2の電極を形成した場合、焼結体層表面の凹凸によって局部的に第2の電極が不連続となってしまうおそれがある。
このようにして、支持体を兼ねた第1の電極(金属薄板)の一方の板面に、圧電材料としてのBITからなる焼結体層が形成され、さらにその焼結体層の表面に第2の電極が形成された積層体が得られる。
〔分極処理工程P5A、P5B〕
この分極処理工程は、第2電極形成工程P5Aを経て、第1の電極(金属薄板)上のBIT焼結体層の上面に第2の電極が形成された積層体、あるいは第2電極形成工程P5Bの実施前で第1の電極(金属薄板)上のBIT焼結体層の上面に第2の電極が未だ形成されていない積層体を対象とし、その積層体におけるBIT焼結体層の厚み方向に電位差を与えて、BIT焼結体を分極させる工程である。
この分極処理としては、
A:従来の一般的な分極処理方法、すなわち一対の分極用電極によって積層体を直接挟み、シリコンオイルなどの放電防止用液体中に浸漬させ、その状態で分極用電極間に高電圧を印加して、焼結体を分極させる方法(従来分極法)、
B:従来の一般的な分極処理方法とは異なり、気体(通常は空気)中において発生させたコロナ放電による電界領域内に焼結体を曝して、焼結体を分極させる方法(コロナ放電分極法)、
以上のAまたはBのいずれかを適用する。
Aの従来分極法を適用する場合、例えば前記積層体を、その両側から分極用電極によって挟み、かつ絶縁破壊による火花放電(全路放電)の発生を防止するためのシリコンオイルなどの火花放電防止用媒体(液体)中に浸漬させた状態で、焼結体層の厚み1mmあたり2000〜3000V程度の高電圧の直流電圧もしくはパルス電圧を焼結体層の厚み方向に加えればよい。また分極を促進するため、適宜80〜200℃程度に加熱したシリコンオイル中で高電圧を加えても良い。この分極法A自体は従来と同様であればよいから、その詳細は省略する。
一方Bのコロナ放電分極法は、有機材料の表面改質のための分極には従来から適用されているが、無機材料(酸化物系無機圧電材料)の分極のためには従来は適用されていなかった。しかるに本発明者等は、超音波厚みセンサとして使用される70〜80%の低密度のBIT焼結体であれば、超音波厚みセンサとして必要な程度の圧電特性が得られるように分極させることが可能であることを見い出した。
すなわち、気体(通常は大気)中において、線状電極もしくは針状電極からなるコロナ放電用電極と、それに対向する平板上のベース電極との間に高電圧光電を印加して、コロナ放電用電極からベース電極に向けて気体の電離によるコロナ放電を生起させ、かつそのコロナ放電による電界領域(放電域)内に前記積層体の焼結体層を曝せば、焼結体層の厚み方向に電位差を与えて分極させることができる。なおこのコロナ放電による分極処理は、それ以前の第2電極形成工程によって焼結体層の表面に予め第2の電極が形成されている場合、および焼結体層の表面に未だ第2の電極が形成されていない場合(すなわち分極処理工程の後に第2電極形成工程を実施する場合)のいずれの場合でも実施可能であることが確認されている。
このようなコロナ放電による分極処理を実施するための装置の具体的な例およびそれを用いた分極処理の詳細については、後に図4〜図6を参照して改めて説明する。
上述のような従来分極法Aもしくはコロナ放電分極法Bによって分極処理を施すことによって、焼結体層は圧電特性を示すようになり、したがって超音波厚みセンサに使用できるようになる。
なお、分極処理工程の前に第2電極形成工程を行なっていない場合には、分極処理工程P6Aの後工程として、第2電極形成工程P5Bを実施し、既に分極されている焼結体層の表面に前記と同様にして第2の電極を形成する。
なおまた、実際の超音波センサでは、前記第1の電極、第2の電極に、超音波測定の電圧信号の入出力ためにリード線を取り付けておく必要がある。そこで分極処理の後、もしくは分極処理の前に、各電極に導電ペーストなどを用いてそれぞれリード線を取り付けておくのが通常である。
以上のような実施形態の方法によって製造された超音波厚みセンサ、及びその使用時の状況を図2、図3に示す。
図2、図3において、符号1は、超音波厚みセンサ9の第1の電極(支持体を兼ねた金属薄板)であり、その第1の電極1の一方の板面に、BITからなる焼結体層(圧電セラミック層)3が形成されており、更にその焼結体層3の表面に第2の電極5が形成されている。そして第1の電極1、第2の電極5のそれぞれからは、リード線7A、7Bが引き出されている。このように構成された厚みセンサ9は、その第1の電極1の片面が厚さ測定対象物(金属管の管壁、容器の外壁など)11の表面に接するように、接着剤13などを用いて貼り付けることによって、その測定対象物11の厚みを随時測定することができる。なおこの際の接着剤13としては、銀ペースト、ガラスペースト、白金ペースト、金ペーストなどを使用すればよい。
ここで、本発明の実施形態により製造された超音波厚みセンサは、全体として第1の電極(金属薄板)、焼結体層、第2の電極の3層構造からなる極めて薄型のものであって、配管の外側に保護や断熱などのために外被を設ける場合でも、配管組み立て時において予め配管の外面に接着しておき、その厚みセンサの外側から配管の保護や断熱のための外被を設け、その状態で配管設備をそのまま使用し、そのままの状態で適宜厚み測定をおこなうことができる。そしてその場合には、厚み測定前における外被の剥離や、測定後の外被修復作業が不要となり、また厚み測定前に対象物の表面に超音波媒体を塗布する作業、及び測定後に超音波媒体を拭き取る作業も不要となる。
またこの超音波厚みセンサは、全体として薄質で可撓性を有しているため、図3に示したように、測定対象物11の表面が湾曲している場合であっても、その湾曲面に沿って超音波厚みセンサ9を接着して、湾曲部位における厚み測定を行なうことができる。
ここで、本発明の実施形態により製造された超音波厚みセンサは、圧電材料としてキュリー温度が約410℃程度のチタン酸ビスマス(BIT)を使用しているため、400℃程度までは圧電材料であるBIT焼結体層が分極を失うことがなく、そのため400℃程度までの比較的高温域でも厚み測定を確実に行なうことができる。
次に、分極処理工程にコロナ放電分極法を適用する場合において、その分極処理を実施するためのコロナ放電分極処理装置の一例、特にコロナ放電用電極として線状電極を用いた装置の例を、図4〜図6に示し、さらにその装置を用いての分極処理の望ましい態様について説明する。
図4〜図6において、床面などの固定水平面上に設置された固定台21の上方に電極台23が位置しており、この電極台23は、固定台21に、昇降調整機構25を介して上下方向に位置調整に支持されている。例えば電極台23は、固定台21から垂直上方に伸びるガイド軸27によって昇降可能に支持されるとともに、油圧シリンダなどの流体圧シリンダあるいは回転螺子機構、その他、各種のリンク機構など、自動もしくは手動の任意の構成の昇降調整機構25によって昇降されるように構成されている。
前記電極台23は、その上面が水平な平坦面23Aとされており、またその電極台23は、基本的には少なくともその上面(平坦面)23Aが導電性を有する構成とされていればよいが、本実施形態の場合は、電極台23の全体がアルミニウムやアルミニウム合金、銅や銅合金、ステンレス鋼などの導電性材料からなる構成とされている。そしてこの電極台23は、接地電位を保つように、アース線29によって電気的に接地されている。なお電極台23には、必要に応じて、電熱ヒータや温水ヒータ、オイルヒータなどの図示しない加熱手段が組み込まれていても良い。
さらに電極台23の上方には、コロナ放電用電極31として、直線状の導電性線材からなる1本または2本以上(図示の例では3本)の線状電極31A〜31Cが、その長さ方向が水平となるように(したがって電極台23の上面23Aと平行となるように)、かつ同じ水平面内において平行に等しい間隔Sで配設されている。これらの線状電極31A〜31Cは、タングステン(W)などの高融点導電材料によって外径50〜100μm程度の線材に作られたものである。そして線状電極31A〜31Cは、例えばアーム状の電極支持部材33から間隔をおいて下方に突出する一対の支持部33A、33B間に張設されて、水平状態を保つようになっている。また線状電極31A〜31Cは、直流高電圧電源からなる分極電圧印用の電源35の一方側(正極もしくは負極側)に、リード線36を介して電気的に接続されている。
以上のようにして、電極台23の上方の所定距離Gだけ離れた位置に、その電極台23の上面23Aと平行なコロナ放電用の線状電極31A〜31Cが配設された分極処理装置が構成されている。そして電極台23の上面23Aと線状電極31A〜31Cの間の距離Gは、昇降調整機構25によって電極台23の垂直方向位置を変えることによって、適宜調整可能となっている。
但し、場合によっては、電極台23の上下方向位置は固定しておく一方、電極支持部材33を昇降可能として、その電極支持部材33に昇降調整機構を設けておき、必要に応じて電極支持部材33を昇降させることによって線状電極31A〜31Cを上下動させ、これによって電極台23の上面23Aと線状電極31A〜31Cの間の距離Gを調整することも可能である。したがって、要は、電極台23の上面23Aと線状電極31A〜31Cの間の距離Gを調整する間隔調整手段として、電極台23と電極支持部材33のいずれかに昇降調整機構が設けられていれば良い。
次に、図4〜図6に示されるコロナ放電分極処理装置を用いて、前記積層体におけるBITからなる焼結体層に分極処理を施す方法について説明する。
ここで、積層体40は、既に述べたようにステンレス鋼や白金などの導電性を有する10〜150μm程度の薄質な金属薄板(第1の電極)1を支持体とし、その金属薄板1の一方の板面(上面)に、30〜150μm程度の薄い層状にBITからなる焼結体層3が形成されたもの(分極処理工程の前に第2電極形成工程を実施しない場合)、あるいは、上記と同様に支持体としての金属薄板(第1の電極)1の板面にBITからなる焼結体層3が形成され、さらにその焼結体層3の表面に第2の電極5が形成されたものである。但し図4〜図6の例では、第2の電極5を形成していない積層体40を示している。ここで、上記の金属薄板3は、コロナ放電のための電圧印加時に、コロナ放電用電極(線状電極31;31A〜31C)の対極の平板状ベース電極としても機能するものである。
前述のような積層体40における焼結体層3に分極処理を施すにあたっては、積層体40を、金属薄板1の板面(下面)が電極台23の上面23Aに接するように載置する。この状態では、電極台23と金属薄板1との間が電気的に導通されて、金属薄板1が電極台23と同電位(通常は接地電位)となり、金属薄板1自体が、コロナ放電時の平板状ベース電極として機能し得ることになる。またこの状態では、焼結体層3の上面は水平となっており、同じく水平に張設された線状電極31A〜31Cとの間に所定の間隔が存在する。
この状態で分極電圧印用電源35を駆動させれば、線状電極31A〜31Cと金属薄板1との間に高電圧が加えられ、これによって各線状電極31A〜31Cから金属薄板1に向けてコロナ放電が発生して、電界領域(放電域;電位差領域)が形成される。焼結体層3は、金属薄板1に対して線状電極31A〜31Cの側に形成されているから、その焼結体層3は、コロナ放電による電界に曝され、その結果、焼結体層3が分極されることになる。
本発明者等の実験によれば、密度が70〜80%と低密度でかつ厚みが数百μmオーダー以下の薄質なBITからなる焼結体層であれば、コロナ放電によって、超音波厚みセンサとして必要な程度の分極特性、圧電特性が得られることが判明している。
なお、場合によっては、既に述べたように分極処理装置として電極台23に予め加熱手段を組み込んだ構成を適用しておき、分極処理時に加熱手段を作動させて、電極台23および金属薄板1を介して焼結体層3を、例えば80〜200℃程度に加熱し、その状態でコロナ放電を生起させて、分極を促進しても良い。
なお本例の場合、コロナ放電用電極としては、従来のコロナ放電において一般的な針状電極ではなく線状電極を用いているが、線状電極であっても、その径が小さければ、水平に伸びる線状電極の垂直断面で見れば点状となっており、そのため平板状ベース電極(金属薄板1)に向かってコロナ放電を生じさせることができる。しかも各線状電極31A〜31Cからは、その線状電極の長さ方向に沿う帯状に電界(放電域)が形成されるため、ある表面積を有する焼結体層3に対して、その表面における広がりを持った領域を同時に電界に曝し、これによって焼結体層のある広さの領域を、一斉に分極させることができる。
特に本例のように、線状電極31として平行な複数本のもの(31A〜31C)を設けておけば、同時に広い面積にわたって焼結体層3をコロナ放電による電界中に曝すことができる。
例えば図4〜図6に示す例では、間隔を置いて平行に配列された3本の線状電極31A、31B、31Cのそれぞれと平板状ベース電極に相当する金属薄板1との間には、それぞれコロナ放電によって電界領域(放電域)41A、41B、41C(図5、図6参照)が形成される。これらの電界領域41A、41B、41Cは、それぞれ線状電極31A、31B、31Cの長さ方向に沿う帯状の領域として、最大幅(金属薄板表面付近での幅)Wで形成される。そして各電界領域41A、41B、41Cの幅方向の端部付近が互いに重なり合うように、線状電極31A、31B、31Cの相互間の間隔S、および線状電極31A、31B、31Cと電極台23との間の距離Gを設定しておけば、金属薄板1上に形成されている焼結体層3の全体が電界領域中に曝されることになり、その焼結体層3の全体を同時に分極させることが可能となる。
なお、分極のためのコロナ放電時におけるコロナ放電用電極としての線状電極31(31A〜31C)と、それに対向する平板状のベース電極(金属薄板1)との間の間隔Gは、0.5〜2cm程度が好ましい。間隔Gが0.5mm未満では、対向電極間の距離が小さすぎて、絶縁破壊による火花放電(全路放電)が生じてしまうおそれがあり、一方間隔Gが2cmを越えれば、コロナ放電が生じにくくなってしまう。
また分極のためのコロナ放電時において印加する印加電圧は、間隔Gによっても異なるが、通常は5000〜15000V程度が好ましい。5000V未満ではコロナ放電が生じにくくなり、一方15000Vを越えれば、細い線状電極が焼切れてしまうおそれがある。なお本発明者等の実験によれば、焼結体層の密度が70〜80%で、かつ厚みが30〜150μm程度と薄質であれば、上記の電極間距離条件、印加電圧条件の範囲内でのコロナ放電によって、超音波厚みセンサとして必要な程度の分極特性(圧電特性)が得られることが確認されている。
さらに、高電圧を印加する時間、すなわちコロナ放電によって分極処理を行う時間は、1〜5分程度とすることが望ましい。分極処理時間が1分未満では、70〜80%の低密度の焼結体について、超音波厚みセンサとして必要な程度まで分極させることができなくなってしまうおそれがあり、一方、5分を越えて分極処理を行っても、70〜80%の低密度の焼結体ではそれ以上分極が進行せず、生産性を損なうだけである。但し、分極しにくい圧電材料の場合には、5分を越える長時間の分極処理を行うことも許容される。
なお、図4〜図6では、焼結体層3の表面に第2の電極5が予め形成されていない場合についてコロナ放電による分極処理を行う例として示しているが、第2の電極5が予め形成されている焼結体層3に対してコロナ放電による分極処理を行ってもよいことはもちろんであり、その場合においても、焼結体層3の表面に予め第2の電極5が形成されていない状態での分極処理条件と同様な条件で分極させ得ることが確認されている。
さらに、以上の説明では、焼結体層を支持するための薄板状支持体(超音波厚みセンサとしての第1の電極を兼ねるもの)として、ステンレス鋼などの金属薄板を用いることとしているが、基本的には、薄板状支持体は、第1の電極として機能させるべく、少なくとも表面に導電性が付与されているものであれば良い。したがって例えばジルコニア系セラミックスからなる平均厚み30〜100μm程度の薄い基板の板面に、白金(Pt)、金(Au)、銀(Ag)、その他、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)など、導電性を有しかつ耐高温酸化特性に優れた金属をメタライズして、平均膜厚5〜20μm程度のメタライズ層を形成した薄板状支持体を使用することも許容される。
すなわち、ジルコニア系セラミックスは、各種のセラミックスのうちでも、一般に靭性、延性が優れていて、薄質であれば、ある程度の可撓性を示すことができ、そのため本発明で対象としている超音波厚みセンサにおいて、板状支持体として金属薄板の代わりに使用することができる。特にジルコニア系セラミックスのうちでも、部分安定化ジルコニアは、靭性、延性に優れており、したがって超音波厚みセンサに使用することができる。部分安定化ジルコニアとしては、イットリウム(Y)で代表される希土類元素の酸化物(例えばイットリア:Y)や酸化マグネシウム(マグネシア:MgO)、あるいは酸化カルシウム(カルシア:CaO)などがある。これらのうちでも、イットリアを安定化剤として添加したイットリア部分安定化ジルコニア(3YSZ)を用いることが、特性(可撓性)およびコスト面から最も望ましい。
以下に本発明の実施例を記す。
この実施例1は、Ti−Biゾルとして、Tiのアルコキシドであるチタンブトキシドのアルコール溶液と酢酸ブチルの混合ゾルを用い、そのTi−BiゾルとBIT粉末との混合物(スラリー)を焼結原料として、第1の電極となる薄板状支持体の金属薄板に付着させて焼成し、さらに分極処理としては一対の分極用電極によって挟んでシリコンオイル中で処理する方法を適用して、超音波厚みセンサを製造した実施例である。
すなわち、先ずBIT粉末用の原料粉末として、酸化ビスマス(BiO)および酸化チタン(TiO)の粉末を用意し、これらを、BiO:4モル、TiO:3モルの割合で配合し、溶媒をエタノール、界面活性剤をポリエチレンイミンとして、ボールミルにより24時間湿式混練し、スラリーとした。そのスラリーを乾燥させて混合粉末塊とした後、アルミナるつぼに入れて、アルミナの蓋をし、800℃、10時間の熱処理(仮焼成)を行い、BIT、すなわちBiTi12の粉末塊を得た。そのBIT粉末塊を粉砕し、300ミクロンの篩いを通過させたものをボールミルに入れ、エタノール中で、ジルコニアボールを粉砕媒体として24時間粉砕することにより、平均粒径2μmのBIT粉末とし、乾燥させた。
一方、チタンアルコキシドとしてのチタンブトキシドのブタノール溶液と、ビスマスの酢酸塩として酢酸ビスマスを用意し、これらをBi:Ti=4:3のモル比となるように配合して、Ti−Biゾルを調製した。なおこのTi−Biゾルは、金属成分としてのTiおよびBiを、ゾルの全重量に対して合計で10%含むものである。
前記Ti−Biゾルに、前述の平均粒径2μmのBIT粉末を、Ti−Biゾル:BIT粉末が重量比で2:1の割合で混合し、焼結原料スラリーとした。
次いでその焼結原料スラリーを、第1の電極としてのSUS304からなる金属薄板(厚さ50μm、1cm×2cm角)の中央に、8mm角の方形状に厚さ100μmで塗布した。具体的な塗布方法としては、前記金属薄板の板面に、8mm角の開口部が形成されるように100μm厚のテープでマスキングし、ロールコーターで前記開口部に焼結原料スラリーを100μm厚で塗布し、焼結原料層を形成した。
塗布後、乾燥させてから、650℃で加熱することにより、焼結原料層を焼結させ、BIT焼結体層とした。具体的には、電気炉に入れ、大気雰囲気にて昇温速度10℃/minで650℃まで加熱し、650℃において0.5時間保持した後、炉令した。これにより、焼成されたBITからなる厚み50μmの焼結体層が、第1の電極としての厚さ50μmのSUS304からなる金属薄板の上に焼き付けられたものが得られた。
次に、そのBITからなる焼結体層(8mm角)の中央に、4mm丸の大きさで第2の電極用の銀ペーストを塗布し、500℃で焼き付け、平均厚み20μmの第2の電極(銀電極)を形成した。
このようにして第1の電極(SUS304)上にBITからなる焼結体層(セラミック層)が形成されかつその焼結体層上に第2の電極(銀)が形成された積層体が得られた。なお焼結体層の密度は、約75%であった。
その後、積層体を150℃のシリコンオイル中に浸漬し、積層体における第1の電極と第2の電極の間に3000V/mmの電位差を与える分極処理を5分間実施した。その後、第1の電極(SUS304)と第2の電極(銀)のそれぞれにリード線を導電ペーストにより接着し、厚みセンサとした。
分極処理後のサンプルについて、d33メータを用いて分極状況(圧電定数d33)を調べたところ、良好に分極されていることが確認された。また実際に超音波厚みセンサとして、ステンレス鋼製の外径10cm、肉厚8mmの管の管壁に、接着剤として銀ペーストを用いて貼り付け、室温において管壁の厚み測定を行なったところ、良好に作動しかつ正しく厚みが測定されることが確認された。さらに、上記の厚み測定対象の管壁を350℃に加熱して、その状態で上記と同様に厚み測定を行なったところ、室温の場合と同様に良好に作動しかつ正しく厚みが測定されることが確認された。
この実施例2は、Ti−Biゾルとしては、実施例1と同様に、Tiのアルコキシドであるチタンブトキシドのアルコール溶液と酢酸ブチルの混合ゾルを用い、一方分極処理方法としては、前記実施例1とは変えて、コロナ放電による分極処理を適用し、超音波厚みセンサを製造した実施例である。
すなわち、実施例1と同様に、平均粒径2μmのBIT粉末とTi−Biゾルとを混合して焼結原料スラリーを得、これを実施例1と同様にして第1の電極としての金属薄板(SUS304)に塗布、乾燥、焼成し、得られたBITからなる焼結体層(厚み50μm、密度約75%)上に第2電極を形成し、積層体とした。
次いでコロナ放電による分極処理を、次のようにして施した。すなわち、コロナ放電分極処理装置として図4〜図6に示す装置を用い、その電極台23上に積層体40を載置して、コロナ放電による分極処理を行なった。ここでコロナ放電用電極31としては、タングステン(W)からなる外径100μm、長さ150mmの3本の線状電極31A〜31Cを、30mmの間隔で平行に配列し、また積層体40と線状電極31A〜31Cとの間隔は1cmとし、9000Vの電圧を線状電極31A〜31Cと電極台23との間に加え、5分間処理を行った。
その後、第1の電極(SUS304)と第2の電極(銀)のそれぞれにリード線を導電ペーストにより接着し、厚みセンサとした。
コロナ放電による分極処理後のサンプルについて、d33メータを用いて分極状況(圧電定数d33)を調べたところ、実施例1と同様に良好に分極されていることが確認された。また実際に超音波厚みセンサとして、ステンレス鋼製の外径10cm、肉厚8mmの管の管壁に、接着剤として金ペーストを用いて貼り付け、実施例1と同様に、室温状態および350℃加熱状態で、管壁の厚み測定を行なったところ、室温、350℃加熱のいずれの状態においても良好に作動しかつ正しく厚みが測定されることが確認された。
この実施例3は、Ti−Biゾルとしては、実施例1、実施例2と同様に、Tiのアルコキシドであるチタンブトキシドのアルコール溶液と酢酸ブチルの混合ゾルを用い、一方、コロナ放電による分極処理を、実施例2とは変えて、BITからなる焼結体層(厚み50μm、密度約75%)上に第2の電極が未だ形成されていない状態で実施し、その後に第2の電極を分極処理後の焼結体層上に形成して、超音波厚みセンサを製造した例である。
すなわち、金属薄板(SUS304)上にBITからなる焼結体層を形成するまでは、実施例2と全く同様とし、その焼結体層上に第2の電極を形成していない状態の積層体を、図4〜図6に示すコロナ放電分極処理装置の電極台上に載置し、実施例2と同様な条件で、コロナ放電による分極処理を行った。
分極処理後、BITからなる焼結体層(8mm角)の中央に、4mm丸の大きさで第2の電極用の銀ペーストを塗布し、500℃で焼き付け、平均厚み20μmの第2の電極(銀電極)を形成した。その後、第1の電極(SUS304)と第2の電極(銀)のそれぞれにリード線を導電ペーストにより接着し、厚みセンサとした。
コロナ放電による分極処理後のサンプルについて、d33メータを用いて分極状況(圧電定数d33)を調べたところ、実施例2と同様に、良好に分極されていることが確認された。また実際に超音波厚みセンサとして、ステンレス鋼製の外径10cm、肉厚8mmの管の管壁に、接着剤として金ペーストを用いて貼り付け、実施例1と同様に、室温状態および350℃加熱状態で、管壁の厚み測定を行なったところ、室温、350℃加熱のいずれの状態においても良好に作動しかつ正しく厚みが測定されることが確認された。
この実施例4は、Ti−Biゾルとして、実施例1とは変えて、Biのアルコキシドであるビスマスブトキシドのアルコール溶液と二酢酸チタンとの混合ゾルを用い、一方分極処理としては、実施例1と同様に、一対の分極用電極によって挟んでシリコンオイル中で処理する方法を適用して、超音波厚みセンサを製造した実施例である。
BIT粉末は、実施例1と同様にして、平均粒径2μmに調整した。
一方、ビスマスアルコキシドとしてのビスマスブトキシドのブタノール溶液と、チタンの酢酸塩として二酢酸チタンを用意し、これらをBi:Ti=4:3のモル比となるように配合して、Ti−Biゾルを調製した。なおこのTi−Biゾルは、金属成分としてのTiおよびBiを、ゾルの全重量に対して合計で10%含むものである。
前記Ti−Biゾルに、前述の平均粒径2μmのBIT粉末を、Ti−Biゾル:BIT粉末が重量比で2:1の割合で混合し、焼結原料スラリーとした。
次いでその焼結原料スラリーを、実施例1と同様にして第1の電極としてのSUS304からなる金属薄板に塗布し、乾燥させてから、実施例1と同様な条件で加熱して焼成し、BITからなる厚み50μmの焼結体層が、第1の電極としての厚さ50μmのSUS304からなる金属薄板の上に焼き付けられたものが得られた。
次に、そのBITからなる焼結体層(8mm角)の中央に、4mm丸の大きさで第2の電極用の銀ペーストを塗布し、500℃で焼き付け、平均厚み20μmの第2の電極(銀電極)を形成した。
このようにして第1の電極(SUS304)上にBITからなる焼結体層(セラミック層)が形成されかつその焼結体層上に第2の電極(銀)が形成された積層体が得られた。なお焼結体層の密度は、約75%であった。
その後、積層体を150℃のシリコンオイル中に浸漬し、積層体における第1の電極と第2の電極の間に3000V/mmの電位差を与える分極処理を5分間実施した。その後、第1の電極(SUS304)と第2の電極(銀)のそれぞれにリード線を導電ペーストにより接着し、厚みセンサとした。
分極処理後のサンプルについて、d33メータを用いて分極状況(圧電定数d33)を調べたところ、良好に分極されていることが確認された。また実際に超音波厚みセンサとして、ステンレス鋼製の外径10cm、肉厚8mmの管の管壁に、接着剤として銀ペーストを用いて貼り付け、実施例1と同様に、室温状態および350℃加熱状態で、管壁の厚み測定を行なったところ、室温、350℃加熱のいずれの状態においても良好に作動しかつ正しく厚みが測定されることが確認された。
この実施例5は、Ti−Biゾルとして、実施例4と同様に、Biのアルコキシドであるビスマスブトキシドのアルコール溶液と二酢酸チタンとの混合ゾルを用い、一方分極処理方法としては、実施例4とは変えて、コロナ放電による分極処理を適用して、超音波厚みセンサを製造した実施例である。
すなわち、実施例4と同様に、平均粒径2μmのBIT粉末とTi−Biゾルとを混合して焼結原料スラリーを得、これを実施例4と同様にして第1の電極としての金属薄板(SUS304)に塗布、乾燥、焼成し、得られたBITからなる焼結体層(厚み50μm、密度約75%)上に第2電極を形成し、積層体とした。
次いでコロナ放電による分極処理を、図4〜図6に示すコロナ放電分極処理装置を用いて、実施例2と同様な条件で、コロナ放電による分極処理を行なった。
その後、第1の電極(SUS304)と第2の電極(銀)のそれぞれにリード線を導電ペーストにより接着し、厚みセンサとした。
コロナ放電による分極処理後のサンプルについて、d33メータを用いて分極状況(圧電定数d33)を調べたところ、実施例4と同様に良好に分極されていることが確認された。また実際に超音波厚みセンサとして、ステンレス鋼製の外径10cm、肉厚8mmの管の管壁に、接着剤として金ペーストを用いて貼り付け、実施例1と同様に、室温状態および350℃加熱状態で、管壁の厚み測定を行なったところ、室温、350℃加熱のいずれの状態においても良好に作動しかつ正しく厚みが測定されることが確認された。
この実施例6は、Ti−Biゾルとして、Biのアルコキシドであるビスマスブトキシドのアルコール溶液と三酢酸チタンとの混合ゾルを用い、一方、コロナ放電による分極処理を、実施例5とは変えて、BITからなる焼結体層上に第2の電極が未だ形成されていない状態で実施し、その後に第2の電極を分極処理後の焼結体層上に形成した例である。
すなわち、金属薄板(SUS304)上にBITからなる焼結体層を形成するまでは、実施例2とほぼ同様とし、その焼結体層上に第2の電極を形成していない状態の積層体を、図4〜図6示すコロナ放電分極処理装置の電極台上に載置し、実施例5と同様な条件で、コロナ放電による分極処理を行った。
分極処理後、BITからなる焼結体層(厚み50μm、密度約75%、8mm角)の中央に、4mm丸の大きさで第2の電極用の銀ペーストを塗布し、500℃で焼き付け、平均厚み20μmの第2の電極(銀電極)を形成した。その後、第1の電極(SUS304)と第2の電極(銀)のそれぞれにリード線を導電ペーストにより接着し、厚みセンサとした。
コロナ放電による分極処理後のサンプルについて、d33メータを用いて分極状況(圧電定数d33)を調べたところ、実施例5と同様に、良好に分極されていることが確認された。また実際に超音波厚みセンサとして、ステンレス鋼製の外径10cm、肉厚8mmの管の管壁に、接着剤として金ペーストを用いて貼り付け、実施例1と同様に、室温状態および350℃加熱状態で、管壁の厚み測定を行なったところ、室温、350℃加熱のいずれの状態においても良好に作動しかつ正しく厚みが測定されることが確認された。
以上、本発明の好ましい実施形態、実施例について説明したが、これらの実施形態、実施例は、あくまで本発明の要旨の範囲内の一つの例に過ぎず、本発明の要旨から逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。すなわち本発明は、前述した説明によって限定されることはなく、添付の特許請求の範囲によってのみ限定され、その範囲内で適宜変更可能であることはもちろんである。
1 金属薄板(第1の電極;薄板状支持体)
3 焼結体層(BIT圧電セラミックス層)
5 第2の電極
9 超音波厚みセンサ
11 厚さ測定対象物
31、31A〜31C 線状電極(コロナ放電用電極)
40 積層体
41A〜41C 電界領域(放電域)

Claims (10)

  1. チタンおよびビスマスのいずれか一方のアルコキシドのアルコール溶液と、他方の酢酸塩とを混合してTi−Biゾルを調製するゾル調製工程と、
    前記Ti−Biゾルと、チタン酸ビスマスからなる平均粒径1〜5μmの粉末とを混合して、その混合物からなる焼結原料を調製する焼結原料調製工程と、
    少なくとも一方の板面が導電性を有する薄板状支持体を第1の電極とし、前記焼結原料を、前記薄板状支持体からなる第1の電極の前記一方の板面上に所定厚みで付着させて乾燥させることにより焼結原料層を形成する焼結原料層形成工程と、
    前記焼結原料層を加熱により焼成して、チタン酸ビスマスからなる焼結体層を形成する焼成工程と、
    前記焼結体層における第1の電極に対し反対側の表面上に第2の電極を形成する第2電極形成工程と、
    前記第2電極形成工程の前もしくは後に、前記焼結体層における厚み方向に電位差を与えて焼結体層を分極させる分極処理工程と、
    を有してなることを特徴とする超音波厚みセンサの製造方法。
  2. 前記ゾル調製工程において、チタンアルコキシドのアルコール溶液と酢酸ビスマスとを混合してTi−Biゾルを調製することを特徴とする請求項1に記載の超音波厚みセンサの製造方法
  3. 前記ゾル調製工程において、ビスマスアルコキシドのアルコール溶液と酢酸チタンとを混合してTi−Biゾルを調製することを特徴とする請求項1に記載の超音波厚みセンサの製造方法
  4. 前記ゾル調製工程において、チタンとビスマスのモル比が実質的に3:4となるようにTi−Biゾルを調製することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかの請求項に記載の超音波厚みセンサの製造方法
  5. 前記焼成工程によって、密度が70〜80%の範囲内のチタン酸ビスマスからなる焼結体層を得ることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかの請求項に記載の超音波厚みセンサの製造方法。
  6. 前記前記焼成工程における加熱温度を、600〜800℃の範囲内とすることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれかの請求項に記載の超音波厚みセンサの製造方法。
  7. 前記第2電極形成工程の前もしくは後に前記分極処理工程を行い、かつその分極処理工程においては、焼結体層表面もしくは第2の電極の表面に分極用電極が直接接触するように分極処理用電極を配置し、放電防止用液体中において分極用電極と前記薄板状支持体の表面との間に電圧を印加することによって焼結体層を分極させることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれかの請求項に記載の超音波厚みセンサの製造方法。
  8. 前記第2電極形成工程の前もしくは後に前記分極処理工程を行い、かつその分極処理工程においては、焼結体層表面もしくは第2電極表面から離れた位置にコロナ放電用電極を配して、気体中においてコロナ放電用電極と支持体表面との間に電圧を印加することにより、その間にコロナ放電を生起させ、そのコロナ放電による電界領域内に焼結体層を曝すことにより焼結体層を分極させることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれかの請求項に記載の超音波厚みセンサの製造方法。
  9. 前記第1電極を構成する薄板状支持体として、その厚みが10〜150μmの範囲内の金属薄板を用い、また前記焼結体層を、その厚みが30〜150μmの範囲内となるように形成し、さらに前記第2の電極を、その厚みが、10〜100μmの範囲内となるように形成することを特徴とする請求項1〜請求項8のいずれかの請求項に記載の超音波厚みセンサの製造方法。
  10. 前記第1電極を構成する薄板状支持体として、その厚みが30〜100μmの範囲内の部分安定化ジルコニアからなるセラミック基板の表面に、良導電性を有する耐高温酸化性金属からなる平均膜厚5〜20μmのメタライズ層が形成されたメタライズ板を用い、また前記焼結体層を、その厚みが30〜150μmの範囲内となるように形成し、さらに前記第2の電極を、その厚みが、10〜100μmの範囲内となるように形成することを特徴とすることを特徴とする請求項1〜請求項8のいずれかの請求項に記載の超音波厚みセンサの製造方法。
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