以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付してある。
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態について説明する。図1は、本発明の第1実施形態が適用された車両用制動制御装置1が搭載されるハイブリッド車両の各機能のブロック構成を示したものである。
まず、本実施形態の車両用制動制御装置1における液圧ブレーキ装置について説明する。図1に示されるように、車両用制動制御装置1には、ブレーキペダル11と、倍力装置12と、M/C13と、W/C14、15、34、35と、ブレーキ液圧制御用アクチュエータ50とが備えられており、これらによって液圧ブレーキ装置が構成されている。また、車両用制動制御装置1にはブレーキECU70が備えられている。このブレーキECU70が液圧ブレーキ装置や後述する回生ブレーキ装置の協調制御を実行する制御手段の一部として機能することで、液圧ブレーキ装置が発生させる液圧制動力や回生ブレーキ装置が発生させる回生制動力を制御する。図2は、液圧ブレーキ装置を構成する各部の詳細構造を示した図である。
図2に示されるように、ドライバによって踏み込まれるブレーキ操作部材としてのブレーキペダル11には、ストロークセンサ11aが接続されており、このストロークセンサ11aの検出信号がブレーキECU70に伝えられることで、ブレーキペダル11の踏み込み量、つまりブレーキ操作量が検出できるようになっている。また、ブレーキペダル11は、ブレーキ液圧発生源となる倍力装置12およびM/C13に接続されており、ドライバがブレーキペダル11を踏み込むと、倍力装置12にて踏力が倍力され、M/C13に配設されたマスタピストン13a、13bを押圧する。これにより、これらマスタピストン13a、13bによって区画されるプライマリ室13cとセカンダリ室13dとにドライバのブレーキ操作量に応じた同圧のM/C圧が発生させられる。
M/C13には、プライマリ室13cおよびセカンダリ室13dそれぞれと連通する通路を有するマスタリザーバ13eが備えられている。マスタリザーバ13eは、その通路を通じてM/C13内にブレーキ液を供給したり、M/C13内の余剰のブレーキ液を貯留したりする。このM/C13に発生させられるM/C圧は、ブレーキ液圧制御用アクチュエータ50を通じて各W/C14、15、34、35に伝えられる。
ブレーキ液圧制御用アクチュエータ50は、第1配管系統50aと第2配管系統50bとを有して構成されている。第1配管系統50aは、左前輪FLと右後輪RRに加えられるブレーキ液圧を制御するもので、第2配管系統50bは、左後輪RLと右前輪FRに加えられるブレーキ液圧を制御するものであり、これら第1、第2配管系統50a、50bの2配管系によりX配管が構成されている。
以下、第1、第2配管系統50a、50bについて説明するが、第1配管系統50aと第2配管系統50bとは、略同様の構成であるため、ここでは第1配管系統50aについて説明し、第2配管系統50bについては第1配管系統50aを参照する。
第1配管系統50aには、上述したM/C圧を左前輪FLに備えられたW/C14および右後輪RRに備えられたW/C15に伝達する主管路となる管路Aが備えられている。この管路Aを通じて、各W/C14、15それぞれにW/C圧が発生させられる。
また、管路Aには、連通状態と差圧状態に制御できる調圧弁を備えた第1差圧制御弁16が備えられている。この第1差圧制御弁16は、通常ブレーキ状態では連通状態とされ、ソレノイドに電流が流されると差圧状態となる。第1差圧制御弁16で形成される差圧はソレノイドに流す電流の電流値に応じて変化し、電流値が大きいほど大きな差圧量となる。この第1差圧制御弁16が差圧状態とされていると、W/C圧がM/C圧よりも差圧量分高くなるようにブレーキ液の流動が規制される。
そして、管路Aは、この第1差圧制御弁16よりもW/C14、15側の下流において、2つの管路A1、A2に分岐する。2つの管路A1、A2の一方にはW/C14へのブレーキ液圧の増圧を制御する第1増圧制御弁17が備えられ、他方にはW/C15へのブレーキ液圧の増圧を制御する第2増圧制御弁18が備えられている。
第1、第2増圧制御弁17、18は、連通・遮断状態を制御できる2位置弁として電磁弁により構成されている。これら第1、第2増圧制御弁17、18が連通状態に制御されると、M/C圧あるいは後述するポンプ19からのブレーキ液の吐出によるブレーキ液圧がW/C14、15に加えられる。
なお、ドライバが行うブレーキペダル11の操作による通常のブレーキ時には、第1差圧制御弁16および第1、第2増圧制御弁17、18は、常時連通状態に制御される。また、第1差圧制御弁16および第1、第2増圧制御弁17、18には、それぞれ安全弁16a、17a、18aが並列に設けられている。
管路Aにおける第1、第2増圧制御弁17、18および各W/C14、15の間と調圧リザーバ20とを結ぶ減圧管路としての管路Bには、連通・遮断状態を制御できる2位置弁として、電磁弁からなる第1減圧制御弁21と第2減圧制御弁22とがそれぞれ配設されている。これら第1、第2減圧制御弁21、22は、通常ブレーキ時には、常時遮断状態とされている。
調圧リザーバ20と主管路である管路Aの間を結ぶように、還流管路となる管路Cが配設されている。この管路Cには調圧リザーバ20からM/C13側あるいはW/C14、15側に向けてブレーキ液を吸入吐出するように、モータ60によって駆動される自吸式のポンプ19が設けられている。このポンプ19の吐出口側には、ポンプ19に対して高圧なブレーキ液が加えられないように安全弁19aが備えられていると共に、ポンプ19が吐出したブレーキ液の脈動を緩和するために固定容量ダンパ23が配設されている。
そして、調圧リザーバ20とM/C13とを接続するように、補助管路となる管路Dが設けられている。この管路Dを通じて、ポンプ19にてM/C13からブレーキ液を吸入し、管路Aに吐出することで、TCS(Traction Control System)制御時やBA(Brake Assist)制御時などにおいて、W/C14、15側にブレーキ液を供給し、対象となる車輪のW/C圧を増加できるようになっている。
調圧リザーバ20は、管路Dに接続されてM/C13側からのブレーキ液を受け入れるリザーバ孔20aと、管路Bおよび管路Cに接続されW/C14、15から排出されるブレーキ液を受け入れると共にポンプ19の吸入側にブレーキ液を供給するリザーバ孔20bとが備えられ、これらがリザーバ室20cと連通している。リザーバ孔20aより内側には、ボール弁などで構成された弁体20dが配設されている。この弁体20dは、弁座20eに離着することで管路Dとリザーバ室20cとの間の連通遮断を制御したり、弁座20eとの間の距離が調整されることでリザーバ室20cの内圧とM/C圧との差圧の調圧を行う。弁体20dの下方には、弁体20dを上下に移動させるための所定ストロークを有するロッド20fが弁体20dと別体で設けられている。また、リザーバ室20c内には、ロッド20fと連動するピストン20gと、このピストン20gを弁体20d側に押圧してリザーバ室20c内のブレーキ液を押し出そうとする力を発生するスプリング20hが備えられている。
このように構成された調圧リザーバ20は、所定量のブレーキ液が貯留されると、弁体20dが弁座20eに着座して調圧リザーバ20内にブレーキ液が流入しないようになっている。このため、ポンプ19の吸入能力より多くのブレーキ液がリザーバ室20c内に流動することがなく、ポンプ19の吸入側に高圧が印加されることもない。
また、ブレーキ液圧制御用アクチュエータ50には、M/C圧センサ51が備えられている。M/C圧センサ51は、ブレーキ配管のうちのM/C圧と同圧となる部位に備えられており、本実施形態の場合には管路AのうちのM/C13と第1差圧制御弁16との間に備えられている。M/C圧センサ51の検出信号はブレーキECU70に伝えられている。
一方、上述したように、第2配管系統50bは、第1配管系統50aにおける構成と略同様となっている。つまり、第1差圧制御弁16および安全弁16aは、第2差圧制御弁36および安全弁36aに対応する。第1、第2増圧制御弁17、18および安全弁17a、18aは、それぞれ第3、第4増圧制御弁37、38および安全弁37a、38aに対応し、第1、第2減圧制御弁21、22は、それぞれ第3、第4減圧制御弁41、42に対応する。調圧リザーバ20および各構成要素20a〜20hは、調圧リザーバ40および各構成要素40a〜40hに対応する。ポンプ19および安全弁19aは、ポンプ39および安全弁39aに対応する。ダンパ23は、ダンパ43に対応する。また、管路A、管路B、管路C、管路Dは、それぞれ管路E、管路F、管路G、管路Hに対応する。以上のように車両用制動制御装置1における液圧ブレーキ装置が構成されている。このような構成の液圧ブレーキ装置においては、第1、第2差圧制御弁16、36、ポンプ19、39、調圧リザーバ20、40およびモータ60により、本発明におけるブレーキ液圧加圧手段が構成される。
ブレーキECU70は、CPU、ROM、RAM、I/Oなどを備えた周知のマイクロコンピュータによって構成され、ROMなどに記憶されたプログラムに従って各種演算などの処理を実行する。例えば、ブレーキECU70は、ストロークセンサ11aの検出信号やM/C圧センサ51の検出信号よりブレーキペダル11のストローク量やM/C圧を求めたり、ブレーキペダル11のストローク量に対応する目標制動力を演算したり、ポンプ加圧を行うためにブレーキ液圧制御用アクチュエータ50に対して電気信号を出力したりする。このブレーキECU70からの電気信号に基づき、各制御弁16〜18、21、22、36〜38、41、42およびポンプ19、39を駆動するためのモータ60への電圧印加制御が実行される。これにより、各W/C14、15、34、35に発生させられるW/C圧の制御が行われる。
具体的には、ブレーキ液圧制御用アクチュエータ50では、ブレーキECU70からモータ60および制御弁駆動用のソレノイドに対して電流供給が行われると、その電流供給に応じて各制御弁16〜18、21、22、36〜38、41、42が駆動され、ブレーキ配管の経路が設定される。そして、設定されたブレーキ配管の経路に応じたブレーキ液圧がW/C14、15、34、35に発生させられ、各車輪に発生させられる制動力が制御される。
例えば、前輪FL、FRのW/C14、34におけるW/C圧がM/C圧よりも高くなるように加圧して液圧制動力を発生させるときには、第1差圧制御弁16と第2差圧制御弁36を差圧状態にした状態でモータ60を駆動し、ポンプ19、39にブレーキ液の吸入・吐出動作を行わせる。これにより、M/C13内のブレーキ液が管路D、Cを通じてポンプ19に吸出され、管路C、Aを通じて前輪FLのW/C14に供給される。同様に、M/C13内のブレーキ液が管路H、Gを通じてポンプ39に吸出され、管路G、Eを通じて前輪FRのW/C34に供給される。このとき、第1差圧制御弁16および第2差圧制御弁36内の調圧弁によりM/C13とW/C14、34の間に差圧が発生させられるため、W/C14、34がM/C圧よりも高いW/C圧となるように加圧され、液圧制動力が発生させられる。
また、図1に示されるように、ハイブリッド車には、回生ブレーキ装置80およびこの回生ブレーキ装置80を制御して回生ブレーキ制御を行うハイブリッドECU81が備えられている。
回生ブレーキ装置80は、両前輪FL、FRを連結する車軸に接続されたモータと、モータに電気的に接続されたインバータおよびインバータに電気的に接続されたバッテリ等を備えた構成とされている。モータは、例えば交流同期型で構成され、インバータにてバッテリが発生させる直流電流を交流電流に変換させることで、モータへの電力供給がなされる。インバータは、ハイブリッドECU81の制御信号に基づいてバッテリの直流電流を交流電流に変換する役割や、モータによって発電された交流電力を直流電力に変換してバッテリの充電を行う役割を果たす。
ハイブリッドECU81は、主として駆動系を制御するものである。このハイブリッドECU81は、ブレーキECU70に対して回生ブレーキ制御に使用されるデータを供給したり、逆にブレーキECU70から必要なデータを受け取ったりする。
そして、ハイブリッドECU81は、ブレーキECU70と協調して回生ブレーキ制御等を行い、インバータを制御してモータの作動を制御する。すなわち、ハイブリッドECU81の制御信号に基づきインバータにてモータの作動を制御し、両前輪FL、FR(もしくはこれらを連結する車軸)の回転力でモータを駆動させて発電を行い、得られた電力によりバッテリの充電を行う。そして、この発電の際のモータの抵抗力により制動力が発生させられるため、これを回生制動力として用いている。
このとき、ハイブリッドECU81は、回生ブレーキ装置80の各種情報を扱っており、ブレーキECU70からの要求に応じて必要な情報をブレーキECU70に送信している。ここでいうハイブリッドECU81が扱っている各種情報とは、回生可能制動力量と回生可能制動力勾配および回生実行制動力などの情報である。回生可能制動力量とは、回生ブレーキ装置80によって発生させられる回生制動力の最大値を意味している。また、回生可能制動力勾配とは、回生ブレーキ装置80によって本制御周期に発生可能な回生制動力の勾配を意味している。また、回生実行制動力とは、回生ブレーキ装置80が実際に発生させた回生制動力である。回生可能制動力や回生可能制動力勾配は、回生ブレーキ装置80の能力から決まっている値である。ハイブリッドECU81は、これら回生可能制動力量と回生可能制動力勾配から、実際に要求可能な回生制動力を演算している。そして、要求可能な回生制動力に基づいて回生制動力を発生させ、実際に発生させられた回生実行制動力を求め、それをブレーキECU70に送信するようにしている。例えば、回生実行制動力は、次のようにして求めている。すなわち、モータが発生した逆起電力から回生制動力と対応する回生実行トルクを求めることができるため、周知の手法によってモータの逆起電力を求め、そこから回生制動力と対応する回生実行トルクを求める。この回生実行トルクもしくは回生実行トルクをさらに制動力換算することで回生実行制動力を求めている。
続いて、上記のように構成された車両用制動制御装置1の作動について説明する。まず、車両用制動制御装置1の具体的な作動の説明に先立ち、その作動を行う理由について説明する。
制動が開始されると、ストロークセンサ11aの検出信号に基づいて検出されるブレーキペダル11のストローク量に応じた目標制動力を発生させるべく、液圧ブレーキ装置で液圧制動力を発生させると共に、回生ブレーキ装置80で回生制動力を発生させる。これら液圧制動力と回生制動力のトータルの制動力が目標制動力となるように、液圧ブレーキ装置と回生ブレーキ装置80の協調制御が行われる。
このとき、液圧ブレーキ装置では、ブレーキペダル11が踏み込まれても所定量以上踏み込まれるまでM/C圧が発生しない無効ストロークが存在しているため、ブレーキペダル11の踏み込みと同時にポンプ19、39を駆動すると共に第1、第2差圧制御弁16、36を差圧状態にしてポンプ加圧を開始している。
図3は、ブレーキペダル11の踏み込み状態に応じたM/C13内の様子を示した断面図である。図4は、ブレーキペダル11の踏み込みに基づくM/Cピストン13a、13bのストローク量(以下、M/Cストロークという)と第1、第2差圧制御弁16、36における差圧量の指示値(以下、差圧指示値という)、車両減速度およびM/C圧との関係を示した図である。また、図5は、M/C13内の状態に応じた調圧リザーバ20、40の動作を示した断面図である。なお、図3では簡略化のため、M/C13がプライマリ室13cのみで構成された図としているが、セカンダリ室13d内でもプライマリ室13c内と同じ動作が行われている。
図3(a)に示すように、ブレーキペダル11の踏み込み初期時、具体的にはマスタピストン13aのポート13fがカップシール13gに到達するまでは、プライマリ室13cとマスタリザーバ13eとが連通している。このため、ブレーキペダル11が踏み込まれてもM/C圧が増加しない無効ストロークとなる。このときにはポンプ19、39でM/C13内のブレーキ液を吸出し、W/C14、15、34、35側に供給する。これにより、無効ストローク中でもW/C圧を増加させられる。このときには、プライマリ室13cとマスタリザーバ13eとが連通しているため、M/C13内のブレーキ液を吸い出してもマスタリザーバ13eからブレーキ液が供給されることになり、M/C圧は0の状態となる。
また、W/C圧を加圧するために、第1、第2差圧制御弁16、36を差圧状態としているが、M/C圧が0の状態であることから、その差圧分がW/C圧となる。このため、目標制動力から回生ブレーキ装置80にて発生させられる回生制動力を差し引いて液圧制動力として発生させるべき制動力分が発生させられるように、第1、第2差圧制御弁16、36の差圧指示値を設定し、その差圧指示値に対応する電流を第1、第2差圧制御弁16、36に供給している。
そして、ブレーキペダル11が無効ストローク分だけ踏み込まれると、その後はブレーキペダル11の踏み込みに応じてM/C圧が発生させられる。つまり、図3(b)に示すように、ブレーキペダル11が無効ストローク分だけ踏み込まれると、マスタピストン13aのポート13fがカップシール13gに到達し、マスタリザーバ13eとプライマリ室13cとが遮断される。このため、これ以降はブレーキペダル11が踏み込まれると、図3(c)に示すようにM/C13内のみからブレーキ液がポンプ19、39側に供給されると共に、ブレーキペダル11の踏み込みに伴ってM/C圧が発生させられる。
このため、従来では、図4(a)中に実線で示すように、M/Cストロークがストローク量Aとなった時点、つまりポート13fが閉じてプライマリ室13cおよびセカンダリ室13dとマスタリザーバ13eとが遮断されたときの差圧指示値を保持し、ブレーキペダル11の踏み込みに応じたM/C圧の増加分だけW/C圧を増加させるようにしている。
このとき、理想的には、M/Cストロークがストローク量Aとなった時点の差圧指示値を保持しても、M/C圧が上昇し、制動力および減速度が連続的に上昇するはずである。しかしながら、実際には、M/Cストロークがストローク量Aになる前は、調圧リザーバ20、40付近の圧力が0もしくは若干負圧になっている状況であり、図5(a)に示すように調圧リザーバ20、40のリザーバ室20c、40c内のブレーキ液はほぼ空となっており、調圧リザーバ20、40内のピストン20g、40gは上方に位置し、弁体20d、40dと弁座20e、40eの成す吸入開口面積も広い状態となっている。このため、ポート13fが閉じてM/C圧が掛かることで調圧リザーバ20、40付近の圧力が正圧に変化すると、図5(b)に示すように調圧リザーバ20、40内のピストン20g、40gが下方にストロークし、その後図5(c)に示すように、ピストン20g、40gのストロークによって弁体20d、40dと弁座20e、40eの成す吸入開口面積が狭くなることで、リザーバ室20c、40cの内圧とM/C圧との差圧が調圧される調圧状態となり、M/C圧が上昇する。このように、調圧リザーバ20、40付近の圧力が正圧に変化した後、図5(b)に示すような、吸入開口面積が広い状態で調圧リザーバ20、40内のピストン20g、40gが下方にストロークして、その分のブレーキ液が消費液量として取られる状態が発生することにより、図4(c)の実線で示したようにストローク量Aに至ってもM/C圧が上昇しなくなるし、W/C側へブレーキ液が供給されないためW/C圧が上昇せず、図4(b)に示すように車両減速度がほぼ一定値で停滞してしまう。特に、調圧リザーバ20、40内のスプリング20h、40hは、路面摩擦係数μが低い低μ路でのW/C圧の減圧を考慮して非常に低い反力に設定されているため、正圧が掛かると容易にピストン20g、40gのストロークを許容し、上記のような現象を発生させる。
これを改善するためには、調圧リザーバ20、40内のピストン20g、40gのストロークの変化を見込んで、その間もポンプ19、39による加圧が上昇するように、第1、第2差圧制御弁16、36の差圧指示値を上昇させるようにする。例えば、図4(a)中に破線で示すように、ブレーキペダル11のストローク量に応じた差圧指示値をM/Cストロークがストローク量Aとなるときに発生させるのではなく、調圧リザーバ20、40内のピストン20g、40gのストローク分を加味したストローク量Bとなるときに発生させるようにする。
このようにすれば、M/Cストロークがストローク量Aとなってからも差圧指示値が上昇し続けると共にポンプ19、39による加圧も続けられる。これにより、M/C圧も連続的に上昇することになるし、W/C側へのブレーキ液の供給も行われるためW/C圧も上昇する。したがって、マスタリザーバ13eのポート13fが閉じたときに減速度が停滞することを抑制でき、減速度を連続的に上昇させることが可能となる。このため、ブレーキペダル11を踏みこんでいるのに減速度が得られないというようなブレーキフィーリングの悪化を防止することが可能となる。
このように、調圧リザーバ20、40の消費液量を考慮し、M/Cストロークがストローク量Aとなってからもストローク量Bとなるまで差圧指示値を上昇させ続けるようにしている。つまり、ポンプ加圧量が上昇させられるM/Cストロークを延長させるようにした加圧延長ストロークを設定している。このような加圧延長ストロークを設けることにより、上記効果を得ることができるが、差圧指示値の増加、つまり差圧量の増加によって必要となる足回りでの消費液量が多くなると調圧リザーバ20、40にブレーキ液を満たせなくなる。これについて、図6を参照して説明する。
図6は、図4(b)に示したM/Cストロークと車両減速度との関係と差圧指示値との関係を示した図である。従来では、図中実線で示したように、無効ストローク以上のストローク量になると差圧指示値が保持されていたため、車両減速度が停滞し、調圧リザーバ20、40内にブレーキ液が満たされてから再び車両減速度が上昇するようになっていた。このため、本実施形態では、図中破線で示すように、無効ストローク以上のストローク量となってからも、加圧延長ストロークが設けられることで差圧指示値の上昇が続けられるようにし、ポンプ加圧量が上昇させ続けられるようにしている。
無効ストロークの間には、M/C圧が発生しないので、第1、第2差圧制御弁16、36が発生させる差圧によってW/C圧が発生させられる。この際には、差圧によって発生させられるW/C圧に応じた液量のブレーキ液がM/C13から足回り(つまり各W/C)に供給される。
その後、加圧延長ストロークのときには、調圧リザーバ20、40に調圧状態となる所定量が溜まるまでは、M/C13より、第1、第2差圧制御弁16、36による差圧に応じてW/C14、15、34、35に供給される液量と、調圧リザーバ20、40内を満たすための液量のブレーキ液が供給される。このとき、第1、第2差圧制御弁16、36での差圧増加量が大きく、足回り(つまり各W/C)での消費液量が多くなると、調圧リザーバ20、40内をブレーキ液で満たせなくなるのである。
このため、第1、第2差圧制御弁16、36での差圧増加量は、その差圧増加量に対応した足回りでの消費液量がM/Cストロークに基づいてM/C13から供給されるブレーキ液量よりも小さくなるように設定されるようにしている。これにより、第1、第2差圧制御弁16、36への差圧指示値を上昇させ続けても、それによる差圧増加量と対応した足回りでの消費液量以上にM/C13からブレーキ液が供給されるようにできるため、調圧リザーバ20、40内を確実にブレーキ液で満たすことができる。
なお、仮に第1、第2差圧制御弁16、36での差圧増加量が大きく、足回りでの消費液量が多くなったとしても、M/C13内のカップシール13gの作用により、カップシール13gの背面からブレーキ液が供給される。図7は、M/C圧が発生しているときとブレーキ液の吸出しによってM/C圧が負圧になったときのカップシール13gの様子を示した断面図である。図7(a)に示すように、M/C圧が発生しているときには、カップシール13gにそのM/C圧が掛かるため、その間はカップシール13gによってシールされ、マスタリザーバ13eからM/C13内にブレーキ液が供給されることはない。このため、このときにはM/C13内のブレーキ液が吸出される。これに対して、図7(b)に示すように、M/C圧が負圧になると、カップシール13gがシールできなくなり、カップシール13gの背面を通じてマスタリザーバ13eからブレーキ液が供給される。このため、第1、第2差圧制御弁16、36での差圧増加量が大きく、足回りでの消費液量が多くなったとしても、カップシール13gの背面からブレーキ液が供給され、足回りでの消費液量に満たなくなることはない。
そして、調圧リザーバ20、40内が調圧状態となる所定量のブレーキ液で満たされ、加圧延長ストロークよりも更にM/Cストロークのストローク量が増加したときには、第1、第2差圧制御弁16、36への差圧指示値が保持される。このときには、M/C圧の上昇に必要な第1、第2差圧制御弁16、36の上流側(M/C側)での消費液量と、第1、第2差圧制御弁16、36の下流側(W/C側)において差圧に基づいて発生させられるW/C圧に応じた消費液量が、M/C13から供給される。第1、第2差圧制御弁16、36の下流側へのブレーキ液の供給は、第1、第2差圧制御弁16、36内を通じて上流側から供給される場合と、ポンプ19、39を介して供給される場合があるが、いずれの場合であっても、M/CストロークとW/C圧との関係は通常ブレーキと変らない。
このように、本実施形態では、M/Cストロークが無効ストローク以上になっても第1、第2差圧制御弁16、36の差圧指示値を上昇させ続けると共にポンプ19、39による加圧も続けるようにする。これにより、加圧延長ストローク中にもM/C圧が連続的に上昇すると共にW/C圧も上昇するようにし、マスタリザーバ13eのポート13fが閉じたときに減速度が停滞することを抑制できるようにする。
続いて、上記のように加圧延長ストロークを設ける場合の車両用制動制御装置1の作動について説明する。図8は、車両用制動制御装置1が実行する制動制御処理の詳細を示したフローチャートである。この図に示す処理は、ブレーキECU70において所定の制御周期毎に実行される。
まず、ステップ100では、入力処理を行う。具体的には、ストロークセンサ11aの検出信号やM/C圧センサ51の検出信号を入力し、この検出信号に基づいてM/Cストローク、つまりM/Cピストン13a、13bのストローク量を演算する。ストロークセンサ11aの検出信号は、ブレーキペダル11のストローク量、つまりブレーキ操作量に対応する信号となるが、ブレーキペダル11のストローク量はM/Cストロークと対応する値である。このため、ストロークセンサ11aの検出信号に基づいてM/Cストロークを演算できる。また、M/C圧センサ51の検出信号に基づいて、M/C圧を検出する。
続くステップ105では、ステップ100で演算したM/Cストロークに基づいて、M/Cストロークに対応して発生させるべき目標制動力を演算したのち、目標制動力からM/C圧を差し引くことで制御制動力を演算する。
目標制動力は、ブレーキ操作量が大きいほど大きくなるようにブレーキ操作量に対応して決まる値であり、一般的にはブレーキ操作量と目標制動力の関係を表した関数式もしくはマップより求めることができる。ここでは、演算したブレーキ操作量がM/Cストロークと対応した値であることから、M/Cストロークに基づいて目標制動力を演算している。また、制御制動力とは、目標制動力からM/C圧を差し引いた値、つまり目標制動力のうちM/C圧以外で発生させる制動力となるポンプ加圧による液圧制動力と回生ブレーキ装置80による回生制動力の分の制動力である。上記したように、調圧リザーバ20、40でのブレーキ液の消費があるため、M/Cストロークが無効ストロークを超えてもさらに加圧延長ストロークの間はM/C圧が発生しない。このため、本実施形態では、加圧延長ストロークを一定値として予め設定してあり、制御制動力について、M/Cストロークが無効ストロークを超えてさらに加圧延長ストロークに至っても、加圧延長ストロークの間は連続的に上昇する値となるようにしている。そして、M/C圧が発生すると、その後は制御制動力は一定の値に保持される。
そして、ステップ110に進み、ハイブリッドECU81に対して回生要求制動力を送信する。ここでは、回生ブレーキ装置80によってできる限り大きな回生制動力を発生させて欲しいことから、制動制動力を回生要求制動力としてハイブリッドECU81に送信している。さらに、ステップ115では、ハイブリッドECU81より送信される情報、具体的には回生ブレーキ装置80によって発生させられた回生実行制動力に関する情報を受信する。これに基づいて、ステップ120では回生可能制動力を演算する。すなわち、回生実行制動力がそのときに実際に発生させられている回生制動力であり、これを回生可能制動力としている。
続く、ステップ125では、ポンプ加圧量を演算する。ポンプ加圧量は、ポンプ加圧によって発生させる液圧制動力のことであり、制御制動力から回生可能制動力を差し引いた値となる。制御制動力は、目標制動力のうちM/C圧以外で発生させる制動力となるポンプ加圧による液圧制動力と回生ブレーキ装置80による回生制動力の分の制動力である。このため、制御制動力から回生ブレーキ装置80で発生させられる回生可能制動力を差し引けば、ポンプ加圧による液圧制動力(=ポンプ加圧量)となる。そして、上記したようにポート13fが閉じたときの調圧リザーバ20、40でのブレーキ液の消費を考慮して、M/Cストロークが無効ストロークを超えてもさらに加圧延長ストロークの間は制御制動力が連続的に上昇する値とされている。このため、ポンプ加圧量もM/Cストロークが加圧延長ストロークに至るまでは連続的に上昇する値となる。
この後、ステップ130に進み、第1、第2差圧制御弁16、36への差圧指示値に対応する電流値、つまり第1、第2差圧制御弁16、36の差圧量を差圧指示値に従った値に制御するために第1、第2差圧制御弁16、36に出力する電流値を演算する。なお、第1、第2差圧制御弁16、36への差圧指示値はポンプ加圧量に相当するため、ステップ125での演算結果に基づいて本演算が行われる。この後、ステップ135において、ステップ130で演算した電流値の電流を第1、第2差圧制御弁16、36に対して出力し、演算されたポンプ加圧量を発生させるために、第1、第2差圧制御弁16、36の差圧量が差圧指示値に従った値となるように制御する。
以上のように、加圧延長ストロークを設定し、M/Cストロークが無効ストロークを超えてもさらに加圧延長ストロークの間は第1、第2差圧制御弁16、36への差圧指示値を連続的に上昇させ、ポンプ加圧も続けられるようにしている。これにより、調圧リザーバ20、40内がブレーキ液で満たされるようにしつつ、W/C側へのブレーキ液の供給も行われるようにでき、W/C圧も連続的に上昇させることができる。よって、マスタリザーバ13eのポート13fが閉じたときに減速度が停滞することを抑制し、ブレーキフィーリングが悪化することを防止することが可能となる。
参考として、図9および図10に加圧延長ストロークを設定していない場合と設定した場合での各パラメータの変化を示す。図9に示すように、加圧延長ストロークを設定していない場合には、M/Cストロークが無効ストローク以上となりポート13fが閉じたときに差圧指示値が保持されている。このため、期間T1において、調圧リザーバ20、40内がブレーキ液で満たされるまで減速度がほぼ一定で停滞していることが分かる。これに対して、図10に示すように、加圧延長ストロークを設定した場合には、M/Cストロークが無効ストロークを超えて更に加圧延長ストロークに至っても差圧指示値が連続的に上昇させられる。このため、調圧リザーバ20、40内をブレーキ液で満たしつつ、W/C圧を上昇させることができるため、減速度を停滞させることなく連続的に上昇させることが可能となる。
(他の実施形態)
上記実施形態では、液圧ブレーキ装置と回生ブレーキ装置80との強調制御を行う車両用制動制御装置について説明したが、M/C13内からブレーキ液を吸出してM/C圧よりもW/C圧が高くなるようにポンプ加圧を行うようなブレーキ制御を行う車両用制動制御装置に対して本発明を適用できる。
また、上記実施形態では、加圧延長ストロークを一定値とする場合を想定しているが、M/Cストロークの変化速度に応じて加圧延長ストロークが設定されるようにしても良い。すなわち、M/Cストロークの変化速度が速いほど、マスタピストン13a、13bのポート13fの開口面積が小さくなることによるオリフィス効果によってM/C圧が発生させられることがある。このような場合にはより早くからM/C圧が発生することから、加圧延長ストロークを短くしても良くなる。したがって、M/Cストロークの変化速度が速いときには、それよりも低いときに比べて加圧延長ストロークが小さくなるようにすると好ましい。その場合、上記した図8のステップ105において加圧延長ストロークを予め設定された値を用いるのではなく、M/Cストロークの変化速度に応じて演算して設定すれば良い。なお、このステップ105の処理をッ実行する部分が実質的に本発明において加圧延長ストローク設定手段として機能する。
また、上記実施形態では、差圧指示値がM/Cストロークの増加に対して一定の勾配で増加するような形態としているが、必ずしもそのような形態である必要は無い。例えば、差圧指示値がM/Cストロークの増加に伴って指数関数的に増加する形態であっても良いし、途中で勾配が変化する形態であっても良い。
また、上記実施形態では、ブレーキ操作部材としてブレーキペダル11を例に挙げて説明している。しかしながら、他のブレーキ操作部材、例えばブレーキレバーなどが用いられても良い。また、上記実施形態では、右前輪FRおよび左前輪FLにのみ回生制動力が作用するようになっているが、後輪あるいは全輪などへ回生制動力が作用するものであっても良いし、回生制動力を有しない車両であっても良い。また、本実施形態では、ブレーキ配管形式を右前輪FRと左後輪RLを同系統、左前輪FLと右後輪RRを同系統とするX配管の構成としているが、右前輪FRと左前輪FLを同系統、右後輪RRと左後輪RLを同系統とする前後配管の構成としても良い。また、ポンプ19、39の吸入口側に備えられるリザーバとして調圧リザーバ20、40を用いているが、調圧弁が備えられていない一般的なリザーバであっても良い。