JP2013174746A - 位相板デバイス及びその製造方法並びに位相差電子顕微鏡 - Google Patents

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Abstract

【課題】長寿命で、かつ高分解能の位相差電子顕微鏡像の取得が可能な位相板デバイス及びその製造方法、並びに位相差電子顕微鏡を提供する。
【解決手段】所定温度に加熱された基板上に、第1炭素膜を成膜した後、前記基板と前記第1炭素膜とを分離する工程と、開口を有する支持体上に、前記開口の少なくとも一部を覆うように、前記第1炭素膜を担持させる工程と、前記第1炭素膜を加工して位相板を形成する工程とを行うか、又は、開口を有する支持体上に、前記開口の少なくとも一部を覆うように、第1炭素膜を担持させる工程と、前記第1炭素膜を加工して芯位相板を形成する工程と、前記第1炭素膜を所定温度で加熱処理する工程とを行って、位相板デバイスを製造する。
【選択図】図4

Description

本発明は、位相板デバイス及びその製造方法並びにこの位相板デバイスを用いた位相差電子顕微鏡に関する。より詳しくは、位相差電子顕微鏡に用いられる位相板の帯電化防止技術に関する。
位相差電子顕微鏡は、試料を透過した電子線に生じる位相の差を強度の変化に変換して画像化するものであり、生物や高分子試料を、無染色のまま、高コントラストで観察することができるため、生物分野や医療分野などを始めとして、様々な分野で注目されている(例えば、特許文献1参照。)。
一方、位相差電子顕微鏡は、位相板が帯電して像が劣化するするという問題があるため、その位相板には、通常、比較的帯電しにくい炭素薄膜が使用されている。位相差電子顕微鏡において、位相板に炭素などの導電性材料を用いた場合、位相板の帯電は、位相板そのものに原因であるわけではなく、位相板の製作過程に紛れ込む有機物、無機物又は酸化金属などの外来性の絶縁汚れが原因であると考えられている。
位相板の帯電化防止方法としては、従来、前述した外来性の絶縁物汚れの除去を中心に検討がなされている。例えば、位相板の汚れのうち有機物由来のものは、高温真空中で蒸発するため、位相板加熱する方法(非特許文献1参照)や使用直前に位相板に対して長時間電子線照射を行う方法(特許文献2参照)が用いられている。また、無機物や金属酸化物由来の汚れについては、加熱処理では除去できないため、種々の加工時クリーン処理法が適用されている。
更に、使用直前に、位相板を薄い炭素膜で被覆して、汚れによる帯電を電気的にシールドする方法も提案されている(特許文献3参照)。そして、これらの中でも特に、本発明者により提案された「炭素膜被覆帯電シールド法」は、他の方法に比べて、位相板の帯電化防止効果が優れていることから、多くの生物試料の観察に応用されている(非特許文献2〜7参照)。
特開平9−237603号公報 特開2001−273866号公報 特開2006−162805号公報
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しかしながら、前述した従来の技術には、以下に示す問題点がある。即ち、特許文献2及び非特許文献1に記載された方法では、位相板の帯電化防止効果が十分でないという問題点がある。一方、特許文献3に記載された方法は、位相板の加工工程において付着した汚れには有効であるが、電子顕微鏡内での観察過程において、生物試料や有機物試料から出た水や有機物などが付着して生じる汚れは、防止することができない。このため、この方法を適用したとしても、高分解能が得られる期間が短く、位相板が短命であるという問題点がある。
そこで、本発明は、長寿命で、かつ高分解能の位相差電子顕微鏡像の取得が可能な位相板デバイス及びその製造方法、並びに位相差電子顕微鏡を提供することを主目的とする。
本発明者は、位相板の短寿命化を招く使用過程で生じる位相板の帯電について、「(i)位相板に照射される電子線が特定量以上になると、その部分が帯電する。」及び「(ii)氷包埋した試料は、完全乾燥試料に比べて、位相板の帯電劣化が早い。」の2つの現象に注目した。(i)の帯電については、電子顕微鏡分野ではBerriman効果として従来から知られており、その理由は、炭素膜の構造特性、即ち、炭素膜最外層が絶縁性であるという特性により説明されている(Glaeser RM,Dowring KH、“Specimen charging on Thin Films with One Conducting Layer: Discussion of Physics Principles”、Microsc. Microanal.、2004年、No.10、p.790-796)。
一方、(ii)の現象は、炭素膜を支持する金属グリッドの表面が、氷包埋試料の電子線照射蒸発で生じた水蒸気により酸化され、炭素膜と支持用グリッドとの電気的接触が不良になることが原因と考えられる。そして、その対策として、本発明者は、炭素膜をグリッドに強固に付着させて、電気的接触(電気導通性)を良好にする方法を提案している(特願2011−235473号)。
本発明者は、これらの知見に基づき、位相板の帯電化防止技術について、更に鋭意実験検討を行った結果、位相板膜となる炭素膜を形成する際に高温で処理することにより、炭素膜の導電性を大幅に向上できることを見出し、本発明に至った。更に、本発明者は、使用時に位相板を加熱することで、性能の劣化を防止することができ、また、帯電劣化した位相板を所定時間加熱処理することにより、その性能を回復できることも見出した。
即ち、本発明に係る位相板デバイスは、位相差電子顕微鏡の対物レンズ及び試料を通過した電子の通路に配置される位相板デバイスであって、開口部を有する支持体と、該支持体上に、前記開口部の少なくとも一部を覆うように担持された第1炭素膜と、を有し、前記第1炭素膜は、加熱しながら成膜されたか又は成膜後に加熱処理されたものである。
この位相板デバイスは、表面、裏面及び開口部を覆うように第2炭素膜が設けられており、該第2炭素膜も、加熱しながら成膜されたか又は成膜後に加熱処理されたものであってもよい。
そして、成膜時の加熱温度又は成膜後の加熱処理温度は、例えば300℃以上とすることができる。
また、前記第1炭素膜及び/又は前記第2炭素膜は、非晶質炭素で形成することができる。
更に、前記支持体表面には、炭素とパラジウム又は白金とを含有する被覆層が形成されていてもよい。その場合、前記被覆層は、前記支持体側にはパラジウム又は白金が多く存在し、外面に炭素が多く存在するように、炭素とパラジウム又は白金の存在比が厚さ方向で変化させることができる。
本発明に係る位相板デバイスの製造方法は、位相差電子顕微鏡の対物レンズ及び試料を通過した電子の通路に配置される位相板デバイスを製造する方法であって、加熱された基板上に、第1炭素膜を成膜した後、前記基板と前記第1炭素膜とを分離する工程と、開口を有する支持体上に、前記開口の少なくとも一部を覆うように、前記第1炭素膜を担持させる工程と、前記第1炭素膜を加工して位相板を形成する工程と、を少なくとも有する。
この位相板デバイスの製造方法では、前記位相板が担持された支持体を加熱し、その表面、裏面及び開口部を覆うように第2炭素膜を成膜してもよい。
また、加熱温度は例えば300℃以上にすることができる。
一方、本発明に係る他の位相板デバイスの製造方法は、位相差電子顕微鏡の対物レンズ及び試料を通過した電子の通路に配置される位相板デバイスを製造する方法であって、開口を有する支持体上に、前記開口の少なくとも一部を覆うように、第1炭素膜を担持させる工程と、前記第1炭素膜を加工して芯位相板を形成する工程と、前記第1炭素膜を加熱処理する工程と、を少なくとも有する。
この位相板デバイスの製造方法では、前記加熱処理の温度を300℃以上にすることができる。
また、これらの位相板デバイスの製造方法では、前記支持体表面に、炭素とパラジウム又は白金とを含有する被覆層を形成してもよい。
その場合、前記被覆層を形成する際に、前記支持体側にはパラジウム又は白金が多く存在し、外面に炭素が多く存在するように、炭素とパラジウム又は白金の存在比を厚さ方向で変化させることができる。
本発明に係る位相差電子顕微鏡は、前述した位相板デバイスを備えるものである。
この位相差電子顕微鏡は、前記位相板デバイスを加熱する加熱部を有していてもよい。
そして、前記加熱部により、観察時及び真空内待機時に前記位相板デバイスを300℃以上に加熱することができる。
本発明によれば、炭素膜を加熱しながら成膜するか又は成膜後に加熱処理しているため、長寿命でかつ高分解能の位相差電子顕微鏡像が得られる位相板を実現することができる。
(a)及び(b)は200kV電子顕微鏡撮影による位相板のBerriman効果を示す図であり、(a)は電子線照射前の状態を示し、(b)は電子線(8500電子/Å)照射後の状態を示す。 (a)〜(c)は200kV電子顕微鏡撮影による位相板のBerriman効果で生じたビーム痕が高温(350℃)処理により経時的に消失する過程を示す図であり、(a)は10分間放置後、(b)は90分間放置後、(c)は900分間放置後の状態をそれぞれ示す。 (a)は本発明の第1の実施形態の位相板デバイスの構造を模式的に示す断面図であり、(b)はその100kV用炭素膜位相板デバイスの構成を示す模式図である。 (a)〜(e)は図4に示すゼルニケ位相板デバイスの製造方法を、その工程順に示す断面図である。 (a)〜(d)はグリッド14に材料傾斜膜13を形成する方法を、その工程順に示す断面図である。 (a)〜(e)は本発明の第1の実施形態の変形例に係るゼルニケ位相板デバイスの製造方法を、その工程順に示す断面図である。 (a)は本発明の第2の実施形態の位相板デバイスの構造を模式的に示す断面図であり、(b)はその100kV用炭素膜位相板デバイスの構成を示す模式図である。 (a)及び(b)は200kV電子顕微鏡撮影による帯電に伴う金コロイド像の白化現象を示す図面代用写真であり、(a)は無傾斜像(1枚目)、(b)はトモグラフィー用最傾斜像撮影後無傾斜に戻して撮った金コロイド像(55枚目)である。 (a)及び(b)は高温処理位相板を使用した200kV電子顕微鏡撮影によるリポソーム撮影に用いたマーカー金コロイド像であり、(a)は1枚目撮影時の金コロイド像、(b)は10枚目撮影時の金コロイド像である。 (a)及び(b)は高温処理なしの位相板を使用した200kV電子顕微鏡撮影によるリポソーム撮影に用いたマーカー金コロイド像であり、(a)は1枚目撮影時の金コロイド像、(b)は3枚目撮影時の金コロイド像である。 (a)は電子線の高線量照射により劣化した位相板炭素膜の200kV電子顕微鏡像とそのフーリエ変換像であり、(b)は350℃、12時間の高温処理により性能を回復させた位相板炭素膜の200kV電子顕微鏡像とそのフーリエ変換像であり、(c)はデフォーカス条件での劣化位相板対応フーリエ変換像と回復位相板対応フーリエ変換像とを比較した図である。
以下、本発明を実施するための形態について、添付の図面を参照して、詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
本発明の位相板デバイスは、前述したBerriman効果の物理的解釈に関する新発見がきっかけとなって発明されたものであり、一言でいえば、電子線照射自体が炭素の導電特性を変えるという新知見をベースに、その解決法を提案するものである。図1(a)及び(b)はBerriman効果を示す図であり、(a)は電子線照射前の状態を示し、(b)は電子線(8500電子/Å)照射後の状態を示す。
「Berriman効果」は、図1(a)及び(b)に示すように、炭素膜に強い電子線を照射すると、そこに電子線ビーム痕が生じるもので、その解釈には、電子線により誘起され集積した汚れ自体の像を見ているとする解釈と、前述した最表面炭素膜が絶縁性となりその帯電による帯電ポテンシャルに由来しているとする解釈の2つがある。
本発明者は、この電子ビーム痕が、外部汚れや初めから存在する絶縁性炭素に起因するものではなく、電子線の炭素原子衝突に伴う構造欠陥が生み出す導電特性の変化に起因すると結論づけた。即ち、位相板を構成する導電性炭素自体が、電子線により、導電性のグラファイト様構造から絶縁性のダイヤモンド様構造に変化したと結論づけた。その根拠の1つに、炭素膜の高温処理によるBerriman効果消失の観測が挙げられる。
図2(a)〜(c)はBerriman効果で生じたビーム痕が位相板の高温(350℃)保持により徐々に消失する過程を示す図であり、図2(a)は350℃で10分間保持後、図2(b)は350℃で90分間保持後、図2(c)は350℃で900分間保持後の状態をそれぞれ示す。そして、図2(a)〜(c)に示す高温保持によるBerriman効果の消失の理由は、高温状態における炭素の絶縁性構造から導電性構造への転換過程が考えられる。
そこで、本発明者は、位相板の導電性を維持・向上させるための温度条件を特定するため、温度制御された下地(マイカ)に、炭素膜を蒸着し、その直流電気抵抗を測定した。下記表1にその結果を示す。なお、下記表1に示す抵抗値(相対値)は、常温で測定した値であるが、炭素膜の成膜は下地(マイカ)をセラミックヒーター上に担持し、温度条件を変えて、膜厚10nmを目安として炭素蒸着を行った。
上記表1に示すように、成膜時に加熱すると、炭素膜の抵抗値が大きく低下することが確認された。炭素膜の加熱処理による導電性グラファイト化の報告は多数あるが、その際の加熱温度は、通常、1000℃以上であり(特願2010−272963号)、ニッケルなどの触媒的金属下地を用いた場合でも700℃以上(M.Yudasaka et al., “Graphite formation on Ni film by chemical vapor desorption”, Thin Solid Films、 1996年、No.280, p117-123.)が推奨されている。従って、この従来の加熱処理温度よりも極めて低い温度で導電性炭素膜が形成されることを示す上記表1の結果は、新たな発見である。また、本発明者は、200℃に加熱したマイカ上に成膜した炭素膜を真空内で加熱すると、上記表1に示した結果と同様に、事後的に導電性を改善できることも見出している。
一方、位相板に高温処理を施す場合、位相板特性が突然劣化するというマイナスの現象も起こり得る。この現象には、前述した炭素膜と支持用グリッドとの間の電気的接触問題、即ち、温度変化に伴って炭素と金属の熱膨張の差が両者の接合を破壊し、電気的接地不良を生じさせることが関係している。これは、熱膨張率が小さい炭素材料では普遍的な問題であり、一般的に解決が困難とされている。そこで、本発明においては、炭素膜の高温処理と併せて、炭素膜と支持用グリッドと間の電気的接触問題の解決方法についても提案する。
<第1の実施形態>
先ず、本発明の第1の実施形態に係る位相板デバイスについて説明する。本実施形態の位相板は、ゼルニケ位相板と称され、電子の位相をπ/2(90°)シフトさせるものであり、例えば、位相差電子顕微鏡の対物レンズ後方の電子の通路に配置される。図3(a)は本実施形態の位相板デバイスの構造を模式的に示す断面図であり、図3(b)はその100kV用炭素膜位相板デバイスの構成を示す模式図である。
図3(a),(b)に示すように、本実施形態の位相板デバイス10は、中央部に真円状の貫通孔(無散乱電子線透過孔15)が形成された第1炭素膜膜11が、その貫通孔よりも大径の開口部14aを有する支持用グリッド14によって、一方の面側から支持されている。また、この位相板デバイス10の全表面、即ち、第1炭素膜膜11の表側、無散乱電子線透過孔15内、開口部14a内及び支持用グリッド14の裏側は、第2炭素膜12によって被覆されている。
本実施形態の位相板デバイス10は、平面視で略円形状であり、中央部には試料からの無散乱電子を透過する無散乱電子線透過孔15が形成されている。また、その外側には、第1炭素膜11の両面を第2炭素膜で挟んだ3層構造の導電性薄膜からなり、試料からの散乱電子を透過する散乱電子線透過領域16が設けられている。そして、最外部には電子を透過しない電子線不透過領域17が存在する構成となっている。
なお、本実施形態の位相板デバイス10において、「位相板」として機能する部分は、無散乱電子線透過孔15及び散乱電子線透過領域16であり、狭義にはこれらの部分を「位相板」といい、それと区別するために全体は「位相板デバイス」と呼ぶ。
[第1炭素膜11]
第1炭素膜11は、加熱した基板上に炭素材料を成膜することにより得られ、前述したように低温で形成した従来の炭素膜に比べて導電性が飛躍的に向上している。ここで、基板の加熱温度は、生産効率の観点から、300℃以上とすることが好ましく、より好ましくは400℃以上である。また、第1炭素膜11は、炭素材料により形成されていればよいが、特に電子を散漫散乱させる非晶質炭素で形成されていることが望ましい。また、第1炭素膜11の厚さは、特に限定されるものではなく、炭素材料の種類や加速電圧などに応じて適宜設定することができる。
ここで、狭義の位相板は、第1炭素膜11と第2炭素膜12により構成され、その電子線位相変化量は、これらの厚さの和により決定される。例えば、図3(b)に示す加速電圧が100kV用の炭素膜位相板デバイスの場合、第1炭素膜11と第2炭素膜12の厚さの和は20nmとなる。なお、第1炭素膜11と第2炭素膜12の厚さの和は、加速電圧が200kV用の場合は24nm、300kVの場合は28nmとなる。そこで、後述する理由から第2炭素膜12の厚さを7nm以上とするためには、第1炭素膜11の厚さは、機械的強度を失わない範囲で薄くすることが望ましい。
[支持用グリッド14]
支持用グリッド14は、電子線を透過しない導電性材料によって形成されている。その材質は、特に限定されるものではないが、例えば銅、モリブデン及び白金などを使用することができ、その中でも特に、熱膨張率が炭素材料に近いモリブデンが好適である。これにより、炭素膜11,12とグリッド14との熱膨張率の差が小さくなり、高温処理や温度変化に伴って生じるこれらの機械的不整合やそれに起因する電気的不接触を抑制することができる。
この支持用グリッド14の厚さは、例えば10〜50μmとすることができる。また、支持用グリッド14の開口部14aの形状は、典型的には円形状であるが、これに限定されるものではなく、第1炭素膜11の貫通孔(無散乱電子線透過孔15)よりも大径の開口部が形成されていればよい。
支持用グリッド14は、酸化防止の観点から、全面がパラジウムや白金で被覆されていることが好ましい。また、支持用グリッド14の表面は、炭素・パラジウム材料又は炭素・白金材料で被覆されていることがより好ましく、各成分の存在比が厚さ方向で変化する材料傾斜膜13が形成されていることが特に好ましい。具体的には、材料傾斜膜13では、支持用グリッド14側がパラジウム又は白金100%となり、外側が炭素100%となるように、各成分の存在比を変化させる。これにより、酸化防止に加えて、第1炭素膜11や第2炭素膜12との機械的接着性及び電気的接続性を向上させることができる。
温度変化に伴う炭素膜位相板と支持用グリッドとの膨張差の問題は、支持用グリッド全体を炭素膜で被覆し、炭素膜位相板が被覆炭素と接触するようにすれば解決できるが、その場合でも、位相板を構成する炭素膜と支持用グリッドの金属表面との接合問題が残る。その対策としては、支持用グリッド14を、前述した金属中で最も炭素熱膨張に近いモリブデンで構成し、その表面を酸化しにくいパラジウム又は白金で被覆し、更にその上に炭素・パラジウム膜又は炭素・白金膜を形成すればよい。
モリブデンとパラジウム又は白金は、合金を形成するため、金属同士で接合問題は生じない。次に、炭素・パラジウム又は炭素・白金の混合材料が層状に形成されるため、接合状態が良好となる。これにより、膨張差問題と高温における金属表面酸化問題を同時に解決することができる。特に、炭素とパラジウム又は白金の存在比を、被覆パラジウム又は被覆白金に近い層から傾斜的に変え、これらの存在比が厚さ方向で連続的に変化するようにすると、接合の不連続性が緩和され、熱膨張問題と酸化問題を同時解決することが可能となる。
この材料傾斜膜13の厚さは、特に限定されるものではないが、位相板本体を構成する炭素膜と支持グリッド14を構成する金属との膨張率差を吸収するため、20nm以上であることが望ましい。また、材料傾斜膜13の形成方法は、特に限定されるものではないが、例えば炭素・パラジウム材料で形成する場合は、炭素とパラジウムの蒸発温度差を利用し、炭素棒のまわりにパラジウム線を巻きつけて、ジュール熱蒸着法で成膜することができる。この方法では、3000℃付近で先ず最初にパラジウムを蒸着し、次に3300℃付近でパラジウムと炭素との同時蒸着を行う。
[第2炭素膜12]
第2炭素膜12は、電子を散漫散乱させる非晶質炭素からなり、第1炭素膜11を担持させたグリッド14を加熱し、そこに炭素材料を成膜することにより得られる。ここで、グリッド14の加熱温度は、生産効率の観点から、300℃以上とすることが好ましく、より好ましくは400℃以上である。また、第2炭素膜12の厚さは、特に限定されるものではなく、材料や加速電圧などに応じて適宜設定することができるが、導電性の観点から、7nm以上とすることが望ましい。
[製造方法]
次に、前述の如く構成される位相板デバイス10の製造方法について説明する。図4(a)〜(e)は本実施形態の位相板デバイス10の製造方法を、その工程順に示す断面図である。図4(a)〜(e)に示すように、本実施形態の位相板デバイス10は、例えば、以下に示す各工程により製造される。
(堆積工程)
先ず、図4(a)に示すように、400〜450℃に加熱したマイカからなる基板1上に、ジュール熱真空蒸着法、電子ビーム真空蒸着法、イオンスパッター法又はプラズマCVD法などの方法により、炭素材料を所要厚みに成膜し、非晶質炭素膜2を形成する。なお、マイカの耐熱限界のため、加熱温度を400〜450℃に設定しているが、加熱温度は特に限定されるものではなく、基板の材質や処理時間などに応じて適宜設定することができ、原理的には高温ほど高導電性炭素膜ができて有利である。
(剥離工程)
次に、図4(b)に示すように、水中に基板1ごと浸漬し、非晶質炭素膜2を自然に剥離させる水中剥離法により、基板1から非晶質炭素膜2を分離する。この方法の場合、非晶質炭素膜2は、水面上に浮いた状態で分離される。
(転写工程)
その後、図4(c)に示すように、例えば円形の開口部14aを有し、白金や炭素被覆モリブデンなどの導電性材料からなる支持用グリッド14で、水面上に浮いている非晶質炭素膜2をすくい取り、担持させる。これにより、支持用グリッド14の開口部14aは、その全面が非結晶炭素膜2で覆われることとなる。なお、支持用グリッド14の表面には、炭素・パラジウム又は炭素・白金からなる材料傾斜膜13が形成されていてもよい。
図5(a)〜(d)は支持用グリッド14に材料傾斜膜13を形成する方法を、その工程順に示す断面図である。支持用グリッド14に材料傾斜膜13を形成する場合は、先ず、図5(a)に示すように、モリブデンなどの導電材料からなり、開口部14aを備えた支持用グリッド14を用意する。
次に、図5(b)に示すように、各種蒸着法により、支持用グリッド14の全面に、パラジウム又は白金からなる被覆層3を形成する。このとき、熱膨張率差吸収インターフェースの観点から、被覆層3の厚さは10nm以上とすることが好ましく、接合強度の観点から、成膜温度は300℃以上とすることが好ましく、より好ましくは400℃以上である。
その後、図5(c)に示すように、各種蒸着法により、被覆層3上に、炭素材料とパラジウム又は白金からなる混合層4を形成し、その上に、炭素材料からなる炭素層5を形成する。これにより、図5(d)に示すように、支持用グリッド14の表面に、パラジウム又は白金からなる被覆層3、炭素材料とパラジウム又は白金からなる混合層4及び炭素層5がこの順に積層された材料傾斜膜13が形成される。
このとき、熱膨張率差吸収インターフェースの観点から、混合層4の厚さは10nm以上とすることが好ましく、炭素層5の厚さは10nm以上とすることが好ましい。また、接合強度と高電導性観点から、混合層4及び炭素層5の成膜温度は、300℃以上とすることが好ましく、より好ましくは400℃以上である。
なお、蒸着源の炭素棒にパラジウム線を巻き付け、ジュール熱真空蒸着法により、蒸着温度を3000〜3300℃の範囲で制御し、成膜すると、1回の操作で、支持用グリッド14の表面に材料傾斜膜13を形成することができる。具体的には、先ず、沸点の低いパラジウムを蒸発させ、次に、炭素を蒸発させることで、傾斜的にパラジウムから炭素へ蒸着移行を行うことができる。また、2つの蒸着源を用意し、両者の量を制御可能なビーム蒸着法を用いれば、更に高度な膜作製制御が可能となる。
(孔空け工程)
その後、収束イオンビーム法などにより、非晶質炭素膜2に微小な貫通孔(無散乱電子線透過孔15)を形成し、図4(d)に示すように、支持用グリッド14上に担持された状態のまま第1炭素膜11を形成する。
(第2炭素膜形成工程)
次に、加熱した状態で、ジュール熱真空蒸着法、電子ビーム真空蒸着法、イオンスパッター法又はプラズマCVD法などの方法により、支持用グリッド14の裏面、グリッド開口部14aの側面、第1炭素膜11の表面、裏面及び貫通孔15の側面に、非結晶の第2炭素膜12を形成する。これにより、図4(e)に示すように、電子線透過孔15を備える位相板デバイス10が得られる。
[動作]
次に、本実施形態の位相板デバイス10の動作について説明する。この位相板デバイス10は、位相差電子顕微鏡の対物レンズ及び試料を通過した電子の通路に配置され、支持用グリッド14が、導線などの接地部材18を介して接地される。そして、試料を通過した電子線は、この位相板デバイス10の全域を通過し、そして、散乱電子線透過領域15した電子の位相のみがπ/2シフトする。
ここで、本実施形態の位相板デバイス10を備えた位相差電子顕微鏡では、位相板デバイス10を加熱する加熱部を有することが好ましく、この加熱部により、観察時及び真空内待機時に、位相板デバイス10が300℃以上、好ましくは400℃以上の温度で加熱されることが好ましい。なお、観察時及び真空内待機時の加熱温度は、同じにする必要はなく、例えば、観察時は400℃程度で短時間に加熱し、真空内待機時は300℃程度で加熱するなど、任意に選択することができる。
ここで、「位相板」は、位相板デバイスの一部であるため、当然ながら位相板も同じ温度に加熱される。これにより、第1炭素膜11及び第2炭素膜の導電性を維持すると共に、電子線照射に伴う炭素の絶縁性構造変換を防止することができる。なお、位相差電子顕微鏡に設けられる加熱部の構成は、特に限定されるものではなく、例えば位相板デバイスを担持するホルダーをセラミックヒーターなどで加熱すればよい。
以上詳述したように、本実施形態の位相板デバイス10では、第1炭素膜11及び第2炭素膜12を加熱しながら成膜するか又は成膜後に加熱処理しているため、導電性に優れた炭素膜を形成することができる。また、この位相板デバイス10は、観察時及び真空内待機時に、300℃以上、好ましくは400℃以上の高温で処理することにより、帯電による性能劣化を防止することができる。その結果、長寿命でかつ高分解能の位相差電子顕微鏡像が得られる位相板を実現することができる。
なお、本実施形態の位相板デバイス10は、帯電劣化した場合でも、少なくとも位相板として機能する部分を、加熱処理することにより、その性能を回復することができる。その処理温度及び処理時間は、特に限定されるものではないが、例えば300℃以上、好ましくは400℃以上の温度で、1時間以上処理すればよい。また、位相板を加熱する方法も、特に限定されるものではなく、例えば観察時及び真空内待機時の加熱に用いられる加熱ヒーター付ホルダーなどを適用することができる。
また、本実施形態の位相板デバイス10では、支持用グリッド14表面を炭素とパラジウム又は白金とからなる材料傾斜膜13で被覆することにより、材料間での熱膨張差及び支持用グリッド表面の酸化に起因する炭素膜と支持用グリッドとの接続不良を防止することができる。これにより、長期間に亘って、炭素膜と支持用グリッドとの間の電気的接合状態を、良好に保つことが可能となる。
<第1の実施形態の変形例>
次に、本発明の第1の実施形態の変形例に係る位相板デバイスについて説明する。前述した第1の実施形態の位相板デバイスでは、2種類の炭素膜11,12を形成しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、第2の炭素膜12を設けずに、第1の炭素膜を位相板として必要な厚さにしてもよい。
図6(a)〜(e)は本変形例のゼルニケ位相板デバイスの製造方法を、その工程順に示す断面図である。なお、図6においては、図4に示す各構成要素と同じものには同じ符号を付し、その詳細な説明は省略する。本変形例の位相板デバイスは、例えば、図6(a)〜(d)に示す方法で、厚膜の非晶質炭素膜2を形成し、それを加工して支持用グリッド14上に担持された状態のまま第1炭素膜11を形成する。これを、例えば、図6(e)に示すように、真空チャンバ30内に設置されたヒーター31などによって、400℃以上の温度で、2時間以上真空加熱し、位相板デバイスを得る。
本変形例の位相板デバイスでは、2回の炭素膜作製工程(第1炭素膜と第2炭素膜)を1回に省力化できるため、高効率であり、かつ第1炭素膜作製時の加熱も省力可能であり、製造コストを低減することができる。ただし、位相板寿命の点では、2回の炭素膜作成工程による位相板の方が優れている。なお、本変形例の位相板デバイスにおける上記以外の構成及び効果は、前述した第1の実施形態と同様である。
<第2の実施形態>
次に、本発明の第2の実施形態に係る位相板デバイスについて説明する。本実施形態の位相板は、ヒルベルト位相板と称され、電子の位相をπ(180°)シフトさせるものであり、例えば、位相差電子顕微鏡の対物レンズを通過した電子の通路に配置される。図7(a)は本発明の第2の実施形態の位相板デバイスの構造を模式的に示す断面図であり、図7(b)はその100kV用炭素膜位相板デバイスの構成を示す模式図である。
図7(a)及び図7(b)に示すように、本実施形態の位相板デバイス20は、開口部24aを有する支持用グリッド24によって、平面視で略半円形状の第1炭素膜21が、一方の面側から支持されている。また、この位相板デバイス20は、材料傾斜膜23で被覆された支持用グリッド24の裏面及び開口部24a側面、並びに第1炭素膜21の表面及び裏面の開口部24a内で露出している部分及び側面が、第2炭素膜23によって被覆されている。
そして、本実施形態の位相板デバイス20には、平面視で略半円形状で、試料からの無散乱電子を透過する無散乱電子線透過孔25と、第1炭素膜21及び第2炭素膜22の3層の導電性薄膜で構成され、試料からの散乱電子を透過する散乱電子線透過領域26と、電子を透過しない電子線不透過領域27が設けられている。
本実施形態の位相板デバイス20における第1炭素膜21及び第2炭素膜22の膜厚は、電子の位相がπシフトするように調節される。また、グリッド24は、電子を透過せず、接地部材28を介して接地される。なお、本実施形態の位相板デバイス20における上記以外の構成及び位相板デバイス20の製造方法は、前述した第1の実施形態と同様である。
以下、本発明の実施例及び比較例を挙げて、本発明の効果について具体的に説明する。本実施例においては、炭素膜を高温処理して作製した実施例の位相板デバイスと、高温処理せずに作製した比較例の位相板デバイスを用いて、金コロイドにおける像劣化を指標とし、その帯電性能を比較した。また、350℃で長時間保持する高温処理によって劣化した位相板の性能回復実験も行った。
ここで、位相板デバイスの帯電の有無を知る指標としては、金コロイドのコントラスト逆転現象がある。図8(a)及び(b)は帯電に伴う金コロイド像の白化現象を示す図面代用写真であり、図8(a)は無傾斜像(1枚目)、図8(b)はトモグラフィー用最傾斜像撮影後無傾斜に戻して撮った金コロイド像(55枚目)である。図8(a)及び(b)は、多数枚の傾斜像を撮る電子線トモグラフィーにおいて、異なる傾斜像間の位置合わせに用いられるマーカー金コロイドの像を示している。
そして、図8(a)に示す最初に撮った像の金コロイドは、ほぼ黒(完全に黒化していないのは多少の帯電の影響)であるが、図8(b)に示す50枚近い傾斜像を撮った後で再び最初の角度に戻して撮った像は、強く白化している。これは、位相板帯電に伴う位相板の付加位相(π/2位相から例えば(3/4)π位相に変化)として説明されている(Danev R,Nagayama K、“Optimizing the phase shift and the cut-on frequency of phase plates for TEM”、Ultramicroscopy、2011年、No.111、p.1305-1315 参照)。
また、図9(a)及び(b)は高温処理位相板を使用したリポソーム撮影に用いたマーカー金コロイド像であり、図9(a)は1枚目撮影時の金コロイド像、図9(b)は10枚目撮影時の金コロイド像である。また、図10(a)及び(b)は高温処理なしの位相板を使用したリポソーム撮影に用いたマーカー金コロイド像であり、図10(a)は1枚目撮影時の金コロイド像、図10(b)は3枚目撮影時の金コロイド像である。なお、図9及び図10において、大きい球殻がリポソームであり、小さい黒丸がマーカー金コロイドである。
図9(a)及び(b)に示す金コロイド像は、400℃での高温処理を行って作製した実施例の位相板デバイスを使用して撮影したものであり、金コロイドは、期待通り、完全黒化しており、10枚撮影後も像の劣化は認められなかった。一方、図10(a)及び(b)に示す金コロイド像は、高温処理をせずに作製した比較例の位相板デバイスを使用して撮影したものであり、図10(a)に示す1枚目で既に白化が始まり、帯電が認められた。そして、図10(b)に示す3枚目撮影像では、更に白化が進行していた。このように、比較例の位相板デバイスでは、最初からの帯電が起こり、撮影するに従い帯電は進行した。
劣化位相板の性能回復性評価は、炭素膜(1nm厚)を試料とし、電子顕微鏡像に反映されている周波数変化の特徴を利用した。具体的には、先ず、高温処理なしの位相板に対して、位相板中心孔まわりを長時間電子線照射して、帯電劣化の激しい位相板を作製し、それを用いた炭素膜位相差像を200kV電子顕微鏡で撮影した。
図11(a)は電子線の高線量照射により劣化した位相板炭素膜の200kV電子顕微鏡像とそのフーリエ変換像であり、図11(b)は350℃、12時間の高温処理により性能を回復させた位相板炭素膜の200kV電子顕微鏡像とそのフーリエ変換像であり、図11(c)はデフォーカス条件での劣化位相板対応フーリエ変換像と回復位相板対応フーリエ変換像とを比較した図である。なお、図11(c)に示すグラフでは、フーリエ変換像から計算した周波数スペクトルにおいて、デフォーカス導入に伴い振動成分が大きいほど、良好な位相板であることを示している。
図11(a)に示すように、長時間電子線照射をしたと思われる中心近辺には、小さな2つの白丸が対称的に現れているのが観察された。これは、位相板中心付近の電子線照射炭素膜変換に伴う激しい帯電によると解釈できる。また、図11(b)に示すように、同じ位相板を350℃で12時間程度加熱処理した後の電子顕微鏡像とそのフーリエ変換像であり、中心付近に見られた帯電由来の2つの白丸が消失していた。
回復前後の位相板性能を、更に周波数特性で評価するため、意識的にデフォーカスを600nm入れて周波数スペクトルを比較した。その結果、図11(c)に示すように、振動成分を持った電子顕微鏡像が撮れた。そのフーリエ変換像を解析したところ、図11(c)下段に示すように、高周波領域において回復位相板のスペクトルの強度が増大しており、更に、図11(a)及び(b)では不明確であった高周波成分の回復も確認された。
以上の結果から、本発明によれば、長寿命で、かつ高分解能の位相差電子顕微鏡像の取得が可能な位相板を作製することが確認された。そして、本発明は、ゼルニケ(Zernike)位相差法やヒルベルト(Hilbert)位相差法など種々のタイプの位相差電子顕微鏡での広範な生物科学や材料科学分野への応用が可能である。
1 基板
2 非晶質炭素膜
3 白金又はパラジウム被覆層
10、20 位相板デバイス
11、21 第1炭素膜
12、22 第2炭素膜
13、23 材料傾斜膜
14、24 支持用グリッド
14a、24a 位相板支持用グリッド開口部
15、25 無散乱電子線透過孔
16、26 散乱電子線透過領域
17、27 電子線不透過領域
18、28 接地部材
30 真空チャンバー
31 ヒーター

Claims (16)

  1. 位相差電子顕微鏡の対物レンズ及び試料を通過した電子の通路に配置される位相板デバイスであって、
    開口部を有する支持体と、
    該支持体上に、前記開口部の少なくとも一部を覆うように担持された第1炭素膜と、を有し、
    前記第1炭素膜は、加熱しながら成膜されたか又は成膜後に加熱処理されたものである位相板デバイス。
  2. 表面、裏面及び開口部を覆うように第2炭素膜が設けられており、
    該第2炭素膜も、加熱しながら成膜されたか又は成膜後に加熱処理されたものであることを特徴とする請求項1に記載の位相板デバイス。
  3. 成膜時の加熱温度又は成膜後の加熱処理温度が300℃以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の位相板デバイス。
  4. 前記第1炭素膜及び/又は前記第2炭素膜は、非晶質炭素で形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の位相板デバイス。
  5. 前記支持体表面には、炭素とパラジウム又は白金とを含有する被覆層が形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の位相板デバイス。
  6. 前記被覆層は、前記支持体側にはパラジウム又は白金が多く存在し、外面に炭素が多く存在するように、炭素とパラジウム又は白金の存在比が厚さ方向で変化していることを特徴とする請求項5に記載の位相板デバイス。
  7. 位相差電子顕微鏡の対物レンズ及び試料を通過した電子の通路に配置される位相板デバイスを製造する方法であって、
    加熱された基板上に、第1炭素膜を成膜した後、前記基板と前記第1炭素膜とを分離する工程と、
    開口を有する支持体上に、前記開口の少なくとも一部を覆うように、前記第1炭素膜を担持させる工程と、
    前記第1炭素膜を加工して位相板を形成する工程と、
    を少なくとも有する位相板デバイスの製造方法。
  8. 前記位相板が担持された支持体を加熱し、その表面、裏面及び開口部を覆うように第2炭素膜を成膜することを特徴とする請求項7に記載の位相板デバイスの製造方法。
  9. 加熱温度を300℃以上にすることを特徴とする請求項7又は8に記載の位相板デバイスの製造方法。
  10. 位相差電子顕微鏡の対物レンズ及び試料を通過した電子の通路に配置される位相板デバイスを製造する方法であって、
    開口を有する支持体上に、前記開口の少なくとも一部を覆うように、第1炭素膜を担持させる工程と、
    前記第1炭素膜を加工して芯位相板を形成する工程と、
    前記第1炭素膜を加熱処理する工程と、
    を少なくとも有する位相板デバイスの製造方法。
  11. 前記加熱処理の温度を300℃以上にすることを特徴とする請求項10に記載の位相板デバイスの製造方法。
  12. 前記支持体表面に、炭素とパラジウム又は白金とを含有する被覆層を形成することを特徴とする請求項7〜11のいずれか1項に記載の位相板デバイスの製造方法。
  13. 前記被覆層を形成する際、前記支持体側にはパラジウム又は白金が多く存在し、外面に炭素が多く存在するように、炭素とパラジウム又は白金の存在比を厚さ方向で変化させることを特徴とする請求項12に記載の位相板デバイスの製造方法。
  14. 請求項1乃至6のいずれか1項の位相板デバイスを備える位相差電子顕微鏡。
  15. 前記位相板デバイスを加熱する加熱部を有することを特徴とする請求項14に記載の位相差電子顕微鏡。
  16. 前記加熱部により、観察時及び真空内待機時に前記位相板デバイスが300℃以上に加熱されることを特徴とする請求項15に記載の位相差電子顕微鏡。
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