JP4104248B2 - 電子素子の製造方法および電子素子 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は電子素子、例えば電界を印加されることにより電子を放出する冷陰極素子として用いられる電子素子に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、電子放出素子としては熱陰極素子と冷陰極素子とが知られている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
熱陰極素子は真空管に代表される分野に用いられているが、熱を付与するために集積化が困難である、といった問題がある。一方、冷陰極素子は熱を用いないため集積化が可能な素子として、フラットパネルディスプレイ、電圧増幅素子、高周波増幅素子等への応用が期待されている。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明は、例えば冷陰極素子として用いた場合、低い印加電圧によっても十分に電子を放出することが可能である等高い実用性を持つ前記電子素子の製造方法及び電子素子を提供することを目的とする。
【0005】
前記目的を達成するため請求項1の発明によれば、非晶質炭素膜よりなり且つセシウムを含有する主体部と、その主体部を被覆し且つsp3 性の高い非晶質炭素膜よりなる表面層とを有していて、前記表面層において、X線光電子分光法によるC 1S 電子の光電子スペクトルの半値幅HwがHw≦2.0eVであり、前記主体部が、前記表面層との界面に前記セシウムの酸化物よりなる複数の突起を有すると共に、前記表面層が、前記突起に倣って形成された複数の凸部を有している電子素子の製造方法であって、負イオンビームを用いるイオンビーム蒸着法により、セシウムが内部及び表面に点在する非晶質炭素膜よりなる前記主体部を形成し、次いで、その主体部の表面に点在するセシウムを酸化させて、その酸化物による複数の突起を該主体部の表面に形成し、その後、負イオンビームを用いるイオンビーム蒸着法により、前記主体部の、前記突起が点在する表面に、非晶質炭素膜よ りなる前記表面層を形成することを特徴とする電子素子の製造方法が提案され、また請求項2の発明によれば、前記請求項1に記載の方法により製造された電子素子であって、電界を印加されることにより電子を放出する冷陰極素子として用いられることを特徴とする電子素子が提供される。
【0006】
尚、本発明において、非晶質炭素膜のsp 3 性が高いことは、表面層において、X線光電子分光法によるC 1S 電子の光電子スペクトルの半値幅HwがHw≦2.0eVであることで示される。
【0007】
金属結合半径が炭素の原子半径の2倍以上であるセシウムを非晶質炭素膜よりなる主体部内に存在させると、その内部に歪みが生じ、これにより、主体部の電気絶縁性を弱める一方、導電性を強めることが可能である。また表面層を構成する晶質炭素膜は、X線光電子分光法によるC 1S 電子の光電子スペクトルの半値幅HwがHw≦2.0eVであってsp 3 性が高く、元来優れた電界放出特性を有する。またセシウムは、主体部の、表面層との界面にも点在するが、この場合、セシウムが活性であることから、界面のセシウムは空気中の酸素と化合して安定な酸化物となり、その酸化物は、微視的ではあるが、突起をなすものであり、その結果、表面層はそれらセシウム酸化物の突起に倣って形成された複数の凸部を有することとなり、その各凸部による電界集中効果と、非晶質炭素膜の前記した優れた電界放出特性とが相俟って、表面層の電界放出特性が一層高められる。
【0008】
そして、このような電子素子よりなる冷陰極素子においては、その放出電界が低められるので、その冷陰極素子に対する印加電圧を低くしても十分な電子放出を現出させることが可能である。
【0009】
【発明の実施の形態】
図1は陰極ユニット1を示し、その陰極ユニット1はAl製陰極板2と、その表面に形成された電子素子としての冷陰極素子3とよりなる。その冷陰極素子3は、非晶質炭素膜よりなり、且つ金属結合半径が炭素の原子半径の2倍以上であるCs即ちセシウムmを含有する主体部3aと、その主体部3aに接合され、且つsp3 性の高い非晶質炭素膜よりなる表面層3bとを有する。
【0010】
炭素の原子半径は0.77Åであり、またセシウムmの金属結合半径は2.66Åであって、炭素の原子半径の二倍以上のセシウム(Cs)が用いられる。このような金属結合半径を有するセシウムmを非晶質炭素膜よりなる主体部3a内に存在させると、その内部に歪みが生じ、これにより、主体部3aの電気絶縁性を弱める一方、導電性を強めることが可能である。またセシウムmは主体部3aの、表面層3bとの界面iにも点在する。この場合、前記セシウムmが活性であることから、界面iのセシウムmは空気中の酸素と化合して安定な酸化物となり、その酸化物は、微視的ではあるが、突起pをなす。その結果、表面層3bはそれら突起pに倣って形成された複数の凸部rを有する。そして、その表面層3bを構成する非晶質炭素膜は、後述するようにX線光電子分光法(ESCA、XPS)によるC 1S 電子の光電子スペクトルの半値幅HwがHw≦2.0eVであって、sp 3 性が高いことから、元来優れた電界放出特性を有し、これに各凸部rによる電界集中効果が付加されるので、表面層3bの電界放出特性が一層高められる。
【0011】
このような冷陰極素子3においては、その放出電界が低められるので、その冷陰極素子3に対する印加電圧を低くしても十分な電子放出を現出させることが可能である
【0012】
表面層3bにおいて、X線光電子分光法(ESCA、XPS)によるC1S電子の光電子スペクトルの半値幅HwはHw≦2.0eVであることが好ましい。半値幅Hwは、図2に示すように、表面層3bについて、X線光電子分光法による分析を行い、得られたC1S電子の光電子スペクトル4から求められる。即ち、ピーク値の2分の1におけるスペクトルの幅(eV)を半値幅Hwとする。表面層3bにおいて、半値幅Hwを前記のように設定すると、その放出電界を低めることが可能である。
【0013】
二層構成の非晶質炭素膜は、例えばSiよりなる冷陰極素子の性能向上を図るべく、その素子の表面被膜層構成材料としても用いられる。
【0014】
主体部3aおよび表面層3bはイオンビーム蒸着法により形成され、その形成に際し、入射イオンとしてセシウムイオンを用い、また形成条件を調整することによってセシウムmを主体部3aに均一に含有させることが可能となる。イオンビーム蒸着法においては、正イオンビームまたは負イオンビームが用いられる。この場合、主体部3a等の原子密度は正イオンビーム蒸着法によるもの、負イオンビーム蒸着法によるもの、の順に高くなる、つまり、導電性はこの順序で強くなり、放出電界はこの順序で低くなる。この原子密度の差は、負イオンの内部ポテンシャルエネルギ(電子親和力)が正イオンのそれ(電離電圧)よりも低いことに起因する。
【0015】
以下、具体例について説明する。
【0016】
図3は公知の超高真空型負イオンビーム蒸着装置(NIABNIS:Neutral and Ionized Alkaline metal bombardment type heavy Negative Ion Source)を示す。その装置は、センタアノードパイプ5、フィラメント6、熱遮蔽体7等を有するセシウムプラズマイオン源8と、サプレッサ9と、高純度高密度炭素よりなるターゲット10を備えたターゲット電極11と、負イオン引出し電極12と、レンズ13と、マグネット14を有する電子除去体15と、偏向板16とを備えている。
【0017】
主体部3aの形成に当っては、(a)図3に示すように、各部に所定の電圧を印加する、(b)セシウムプラズマイオン源8によりセシウムの正イオンを発生させる、(c)セシウムの正イオンによりターゲット10をスパッタして炭素等の負イオンを発生させる、(d)サプレッサ9を介して負イオン引出し電極12により負イオンを引出して負イオンビーム17を発生させる、(e)レンズ13により負イオンビーム17を収束する、(f)電子除去体15により負イオンビーム17に含まれる電子を除去する、(g)偏向板16により負イオンのみを陰極板2に向けて飛行させる、といった方法を採用した。
【0018】
図4は負イオンビーム17の質量スペクトルを示す。この負イオンビーム17の主たる負イオンは構成原子数が1であるC- イオンと構成原子数が2であるC2 - イオンである。ただし、イオン電流はC- >C2 - である。
【0019】
前記方法により、図5に示すように陰極板2の表面に主体部3aが形成される。この主体部3aにおいては、その内部および表面層3bとの界面iに複数のセシウムmが点在する。図6に示すように界面iに点在する複数のセシウムmは経時的に酸化して、その酸化物による突起pが形成される。
【0020】
次いで、前記同様の負イオンビーム蒸着法を行って主体部3aの界面i上に非晶質炭素膜よりなる表面層3bを形成すると共にその層3bを主体部3aに接合する。これにより、図1に示すように表面層3bは複数の突起pに倣って形成された複数の凸部rを有する。このようにして得られた冷陰極素子3を実施例とする。
【0021】
比較のため、図7に示すように、前記と同様の方法で前記同様の主体部3aを陰極板2表面に形成し、それを大気中に放置したところ、界面iに点在するセシウムmの酸化物よりなる突起pの略全部が円錐状に成長していた。このような主体部3aからなる冷陰極素子3を比較例とする。
【0022】
表1は、負イオンビーム蒸着法による実施例および比較例の形成条件を示す。
【0023】
【表1】
Figure 0004104248
【0024】
実施例の主体部3a形成後、その主体部3aの略中央部分についてラマン分光法による分析を行って、それが非晶質であるか否かを調べた。図8は分析結果を示し、波数1500cm-1付近を中心としたブロードなラマンバンドが観察される。このことから主体部3aは非晶質であることが判明した。表面層3bおよび比較例についても図8と同様の結果が得られた。
【0025】
また原子間力顕微鏡(AFM)により実施例および比較例の表面を撮影してそれらの表面写真を得た。図9は実施例に関する表面写真の要部拡大写図であり、本図より、表面に多数の凸部rが点在することが判る。図10は比較例に関する表面写真の要部拡大写図であり、本図より表面に多数の円錐状突起pが点在することが判る。
【0026】
さらに実施例および比較例について、走査電子顕微鏡(SEM)を用いて検鏡を行ったところ、実施例および比較例の内部にセシウムmの存在が認められた。
【0027】
さらにまた、オージエ電子分光法(AES)により実施例および比較例に関する表面の二次電子像を撮影したところ、実施例については、表面層3bの表面にセシウムの存在は認められなかったが、比較例の表面にはセシウムの存在が認められた。
【0028】
さらに実施例および比較例について、図11に示す方法で放出電界の測定を行った。即ち、電圧調整可能な電源18にAl製導電板19を接続し、その導電板19上に、中央部に縦0.8cm、横0.8cm(0.64cm2 )の開口20を有する厚さ150μmのカバーガラス21を載せ、また、そのカバーガラス21上に陰極ユニット1の冷陰極素子3を載せ、さらに、その陰極板2に電流計22を接続した。次いで、電源18より導電板19に所定の電圧を印加して、電流計22により電流を読取った。そして、測定電流と開口20の面積とから、放出電流密度(μA/cm2 )を求め、実用性を考慮して、その放出電流密度が8μA/cm2 に達したとき、それに対応する電圧とカバーガラス21の厚さとから放出電界(V/μm)を求めた。
【0029】
その結果、実施例の放出電界は0.8V/μmであったが、比較例のそれは1.2V/μmであり、実施例は比較例に比べて十分に低い放出電界を有することが判明した。
【0030】
なお、主体部3aが前記のようなセシウムmを含有しない場合にも、それ相当の効果が得られる。この種の冷陰極素子は、フラットパネルディスプレイ、電圧増幅素子、高周波増幅素子、高精度至近距離レーダ、磁気センサ、視覚センサ等に応用される。
【0031】
【発明の効果】
本発明方法により製造される電子素子は、印加電圧を低くしても十分な電子放出を現出させることが可能であり、例えば冷陰極素子として用いることが可能な、高い実用性を持つ電子素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 陰極ユニットの実施例の断面図である。
【図2】 表面層に関するX線光電子分光法によるC1S電子の光電子スペクトルである。
【図3】 超高真空型負イオンビーム蒸着装置の概略図である。
【図4】 前記装置によるビームスペクトルである。
【図5】 形成直後の主体部の説明図である。
【図6】 経時変化後の主体部の説明図である。
【図7】 陰極ユニットの比較例の断面図である。
【図8】 主体部に関するラマン分光法による分析結果を示すチャートである。
【図9】 実施例に関する原子間力顕微鏡による表面写真の要部拡大写図である。
【図10】 比較例に関する原子間力顕微鏡による表面写真の要部拡大写図である。
【図11】 放出電界測定方法の説明図である。
【符号の説明】
1 陰極ユニット
2 陰極板
3 冷陰極素子(電子素子)
3a 主体部
3b 表面層
i 界面
セシウム
p 突起
r 凸部

Claims (2)

  1. 非晶質炭素膜よりなり且つセシウム(m)を含有する主体部(3a)と、その主体部(3a)を被覆し且つsp3 性の高い非晶質炭素膜よりなる表面層(3b)とを有していて、前記表面層(3b)において、X線光電子分光法によるC 1S 電子の光電子スペクトルの半値幅HwがHw≦2.0eVであり、
    前記主体部(3a)が、前記表面層(3b)との界面(i)に前記セシウム(m)の酸化物よりなる複数の突起(p)を有すると共に、前記表面層(3b)が、前記突起(p)に倣って形成された複数の凸部(r)を有している電子素子の製造方法であって、
    負イオンビームを用いるイオンビーム蒸着法により、セシウム(m)が内部及び表面に点在する非晶質炭素膜よりなる前記主体部(3a)を形成し、
    次いで、その主体部(3a)の表面に点在するセシウム(m)を酸化させて、その酸化物による複数の突起(p)を該主体部(3a)の表面に形成し、
    その後、負イオンビームを用いるイオンビーム蒸着法により、前記主体部(3a)の、前記突起(p)が点在する表面に、非晶質炭素膜よりなる前記表面層(3b)を形成することを特徴とする、電子素子の製造方法。
  2. 請求項1に記載の方法により製造された電子素子であって、
    電界を印加されることにより電子を放出する冷陰極素子(3)として用いられる、子素子
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