JP4405027B2 - 冷陰極素子 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、電界を印加されることにより電子を放出する冷陰極素子に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、電子放出素子としては熱陰極素子と冷陰極素子とが知られている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
熱陰極素子は真空管に代表される分野に用いられているが、熱を付与するために集積化が困難である、といった問題がある。一方、冷陰極素子は熱を用いないため集積化が可能な素子として、フラットパネルディスプレイ、電圧増幅素子、高周波増幅素子等への応用が期待されている。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明は、低い印加電圧によっても十分に電子を放出することが可能な、実用性の高い前記冷陰極素子を提供することを目的とする。
【0005】
前記目的を達成するため本発明によれば、電界を印加されることにより電子を放出する冷陰極素子であって、波長630nmにおける表面の屈折率nがn≧2.5である非晶質炭素膜より構成されている冷陰極素子が提供される。
【0006】
前記屈折率nは分光エリプソメトリにより測定されたもので、その値は波長630nmにおける値である。表面の屈折率nを、前記のようにn≧2.5に設定された非晶質炭素膜においては、従来のダイヤモンド状炭素(DLC)膜よりも、非晶質炭素膜を構成する原子(以下、膜構成原子と言う)の密度が高くなり、その結果、余剰電子を生じ、その余剰電子が固体内で存在しにくい状態となるため、放出電界が低められて低い印加電圧によっても十分に電子を放出することが可能となる。ただし、屈折率nがn<2.5では、膜構成原子の密度が低くなる。またn>3.0では炭素原子相互間の斥力に起因して、膜構成の原子の密度を高めることが困難となるので、前記屈折率nの上限値はn=3.0に設定される。
【0007】
前記非晶質炭素膜は単体で用いられる外、例えばSiよりなる冷陰極素子の性能向上を図るべく、その素子の表面被膜層構成材料としても用いられる。
【0008】
【発明の実施の形態】
図1は陰極ユニット1を示し、その陰極ユニット1はAl製陰極板2と、その表面に形成された冷陰極素子3とよりなる。その冷陰極素子3は非晶質炭素膜より構成され、分光エリプソメトリにより測定された、波長630nmにおける、表面の屈折率nはn≧2.5に設定されている。
【0009】
表面の屈折率nを前記のように設定された非晶質炭素膜においては、従来のダイヤモンド状炭素(DLC)膜よりも、膜構成原子の密度が高くなり、その結果、余剰電子を生じ、その余剰電子が固体内で存在しにくい状態となるため、放出電界が低められて低い印加電圧によっても十分に電子を放出することが可能となる。
【0010】
非晶質炭素膜の表面に関する分光エリプソメトリによる屈折率nは、通常、n<2.5である。この実施例に係る非晶質炭素膜は、負イオンビームを用いるイオンビーム蒸着法により形成され、これにより、非晶質であっても膜構成原子の密度を高めて、その表面の屈折率nをn≧2.5に設定することができる。
【0011】
これは次のような理由による。即ち、負イオンは、その電子親和力[C- →C+e- −1.268eV、(吸熱)]が原子間結合エネルギ(1〜8eV)に比べて同等またはそれよりも低く、また中性化は吸熱反応であるため、イオンビーム蒸着におけるエネルギは運動エネルギ、したがって蒸着エネルギが支配的となり、これによりエネルギ制御を容易に行って結合原子間距離を小さくし得るのである。
【0012】
一方、正イオンは、そのイオン化ポテンシャルエネルギ[C+ +e- →C+11.26eV(発熱)]が原子間結合エネルギ(1〜8eV)に比べて、大幅に大きく、そのためイオンビーム蒸着時には余剰エネルギが生じ、これが原子間に働く斥力を大きくするため結合原子間距離が大となる、つまり膜構成原子の密度が低くなるのである。
【0013】
以下、具体例について説明する。
【0014】
〔I〕負イオンビーム蒸着法による非晶質炭素膜の形成
図2は公知の超高真空型負イオンビーム蒸着装置(NIABNIS:Neutral and Ionized
Alkaline metal bombardment type heavy Negative Ion Source)を示す。その装置は、センタアノードパイプ5、フィラメント6、熱遮蔽体7等を有するCsプラズマイオン源8と、サプレッサ9と、高純度高密度炭素よりなるターゲット10を備えたターゲット電極11と、負イオン引出し電極12と、レンズ13と、マグネット14を有する電子除去体15と、偏向板16とを備えている。
【0015】
非晶質炭素膜3(便宜上、冷陰極素子と同一の符号を用いる)の形成に当っては、(a)図2に示すように、各部に所定の電圧を印加する、(b)Csプラズマイオン源8によりCsの正イオンを発生させる、(c)Csの正イオンによりターゲット10をスパッタしてC等の負イオンを発生させる、(d)サプレッサ9を介して負イオン引出し電極12により負イオンを引出して負イオンビーム17を発生させる、(e)レンズ13により負イオンビーム17を収束する、(f)電子除去体15により負イオンビーム17に含まれる電子を除去する、(g)偏向板16により負イオンのみを陰極板2に向けて飛行させる、といった方法を採用した。
【0016】
図3は負イオンビーム17の質量スペクトルを示す。この負イオンビーム17の主たる負イオンは構成原子数が1であるC- イオンと構成原子数が2である
C2 - イオンである。ただし、イオン電流はC- >C2 - である。
【0017】
表1は負イオンビーム蒸着法による非晶質炭素膜3の例1〜5における形成条件を示す。例1〜5の厚さは0.4〜0.8μmであった。
【0018】
【表1】
【0019】
次に、例1〜5の略中央部についてラマン分光法による分析を行って、それらが非晶質であるか否かを調べたところ、所定の波数を中心としたブロードなラマンバンドが観察され、このことから例1〜5は非晶質であることが判明した。
【0020】
また例1〜5の表面について分光エリプソメトリによる屈折率nの測定を行い、波長630nmにおける値を求めた。
【0021】
さらに、例1〜5について、図4に示す方法で放出電界の測定を行った。即ち、電圧調整可能な電源18にAl製導電板19を接続し、その導電板19上に、中央部に縦0.8cm、横0.8cm(0.64cm2 )の開口20を有する厚さ150μmのカバーガラス21を載せ、また、そのカバーガラス21上に陰極ユニット1の非晶質炭素膜3を載せ、さらに、その陰極板2に電流計22を接続した。次いで、電源18より導電板19に所定の電圧を印加して、電流計22により電流を読取った。そして、測定電流と開口20の面積とから、放出電流密度(μA/cm2 )を求め、実用性を考慮して、その放出電流密度が8μA/cm2 に達したとき、それに対応する電圧とカバーガラス21の厚さとから放出電界(V/μm)を求めた。
【0022】
表2は例1〜5に関する表面の屈折率nと放出電界を示す。
【0023】
【表2】
【0024】
表2から明らかなように、例4、5のように表面の屈折率nをn≧2.5に設定すると、n<2.5のものに比べて放出電界を50%以上低くすることができる。
【0025】
この種の冷陰極素子は、フラットパネルディスプレイ、電圧増幅素子、高周波増幅素子、高精度至近距離レーダ、磁気センサ、視覚センサ等に応用される。
【0026】
【発明の効果】
本発明によれば、前記のように構成することによって、低い印加電圧によっても十分に電子を放出することが可能な、実用性の高い冷陰極素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 陰極ユニットの断面図である。
【図2】 超高真空型負イオンビーム蒸着装置の概略図である。
【図3】 前記装置によるビームスペクトルである。
【図4】 放出電界測定方法の説明図である。
【符号の説明】
1 陰極ユニット
2 陰極板
3 冷陰極素子(非晶質炭素膜)
Claims (3)
- 電界を印加されることにより電子を放出する冷陰極素子であって、
波長630nmにおける表面の屈折率nがn≧2.5である非晶質炭素膜より構成されていることを特徴とする冷陰極素子。 - 前記屈折率nの上限値がn=3.0である、請求項1記載の冷陰極素子。
- 前記非晶質炭素膜は、負イオンビームを用いるイオンビーム蒸着法により形成された、請求項1または2記載の冷陰極素子。
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