JP2013161989A - Bi2Te3結晶と3d遷移金属とを含む結晶組成物の製造方法 - Google Patents
Bi2Te3結晶と3d遷移金属とを含む結晶組成物の製造方法 Download PDFInfo
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Abstract
【解決手段】Bi2Te3結晶(成分A)と3d遷移金属元素(成分B)とを混合して得た結晶組成物の部分の電気抵抗率を調整する工程を有し、Bi2Te3単結晶の温度T(K)における電気抵抗率をρ0(mΩcm)、前記部分の電気抵抗率をρ(mΩcm)としたとき、前記工程が、80≦T≦300でρが極小値を有し、かつ、T=80においてρ0<ρとなるような前記部分が、結晶組成物中に10%以上あるように成分Bを選択しその含有量を調整する工程1、又は、T=300でρ<0.6ρ0となるような前記部分が、結晶組成物中に20%以上あるように、成分Bを選択しその含有量を調整する工程2を有する。
【選択図】なし
Description
例えば、Bi2Te3系結晶については、Bi2Te3単結晶に過剰にTeを混合することで、トポロジカル絶縁体の性状を有すると考えられているBi2Te3系結晶(以下、TI結晶ともいう)が得られており、表面の導電性を担うと考えられている電子(以下、表面電子ともいう)の存在について詳細に調査されている(非特許文献2)。
(1)Bi2Te3結晶(成分A)と、3d遷移金属から選ばれる少なくとも1種の金属元素(成分B)とを含む結晶組成物の製造方法であって、
前記製造方法が、前記成分Aと前記成分Bとを混合して、
前記結晶組成物の部分の電気抵抗率を調整する工程を有し、
Bi2Te3単結晶の温度T(K)における電気抵抗率をρ0(T)(mΩcm)とし、前記部分の温度T(K)における電気抵抗率をρ(T)(mΩcm)としたとき、
前記工程が、
80≦T≦300において、ρ(T)が極小値を有し、かつ、
T=80において、ρ0(T)<ρ(T)となるような前記部分が、前記結晶組成物中に10%以上あるように、前記成分Bを選択し、前記成分Bの含有量を調整する工程1、又は、
T=300において、ρ(T)<0.6ρ0(T)
となるような前記部分が、前記結晶組成物中に20%以上あるように、前記成分Bを選択し、前記成分Bの含有量を調整する工程2を有する結晶組成物の製造方法、
(2)前項(1)記載の製造方法で得られうるBi2Te3と3d遷移金属から選ばれる少なくとも1種の金属元素を含む結晶組成物、
(3)Bi2Te3結晶とFeとを含む結晶組成物であって、
Bi2Te3単結晶の温度T(K)における電気抵抗率をρ0’(T)(mΩcm)とし、
前記結晶組成物の部分の温度T(K)における電気抵抗率をρ’(T)(mΩcm)としたとき、
80≦T≦300において、ρ’(T)が極小値を有し、かつ、
T=80において、ρ0’(T)<ρ’(T)となるような前記部分が、前記結晶組成物中に10%以上ある結晶組成物、及び、
(4)Bi2Te3結晶とCo及び/又はNiとの結晶組成物であって、
Bi2Te3単結晶の温度T(K)における電気抵抗率をρ0”(T)(mΩcm)とし、
前記結晶組成物の部分の温度T(K)における電気抵抗率をρ”(T)(mΩcm)としたとき、
T=300において、ρ’(T)<0.6ρ0”(T)
となるような前記部分が、前記結晶組成物中に20%以上ある結晶組成物。
温度T(K)における、Bi2Te3単結晶の電気抵抗率をρ0(T)(mΩcm)と表記すると、ρ0(T)は、温度Tに対して、縮退半導体に特徴的な挙動を示す(例えば、表19)。
なお、Bi2Te3単結晶がp型縮退半導体であるか、n型縮退半導体であるかは、ホール効果又はゼーペック効果を利用して確認することができ、Bi2Te3単結晶はp型縮退半導体であることが確認されている(例えば、非特許文献5)。
一方、TI結晶1の温度T(K)における電気抵抗率をρ1(T)(mΩcm)とすると、
TI結晶1の製造直後には、
ρ1(T)は、80≦T≦300の範囲で極小値を有し、T=80において、ρ0(T)<ρ1(T)となるTI結晶に特徴的な挙動を示す(例えば、非特許文献6)。
即ち、Bi2Te3単結晶にTeを溶融混合する方法によって得られたTI結晶1の性状は極めて不安定であることが確認された。
さらに、TI結晶1は、同一の製造条件で得られる確率が極めて低い(例えば、表20)。
理想的な化学量論比のBi2Te3単結晶は、バルク部分は価電子帯が電子で充満された真性半導体であり、表面にエネルギー・ギャップレスの伝導帯が存在するトポロジカル絶縁体であると考えられている(例えば、非特許文献1で引用されているH.Zhang et al,:Nat.Phys.5,438(2009))。
しかし、Bi2Te3結晶の融点である570℃付近ではTeはBiに比べて蒸気圧が高いため、Bi2Te3結晶中にTe欠陥が出来やすい。従って、BiとTeを化学量論比で混合して得たBi2Te3単結晶を製造しても、Teが単結晶中に安定して存在できないため、通常は、価電子帯に正孔が生じてp型縮退半導体になっていると考えられる(例えば、表19)。
そこで、p型縮退半導体であるBi2Te3単結晶に、さらに過剰のTeを混合して溶融混合すると、Teのある特定含有量において、バルク部分のTe欠陥(価電子帯の正孔)が解消して真性半導体になると同時に、表面がエネルギー・ギャップレスの伝導帯を有する、トポロジカル絶縁体と考えられている状態であるTI結晶1を得ることができる、と考えられる(例えば、表21)。
しかし、Teが結晶中に安定して存在できないため、TI結晶1を得られる確率が低く、仮にTI結晶1を得ても、その状態を安定して保持できないと考えられる(例えば、表20及び21)。
なお、本発明において結晶組成物の部分とは、結晶組成物(例えば、実施例におけるようなインゴット状結晶組成物)から切り出される、電気抵抗率を測定することができる後述する程度のサイズの矩形サンプル(結晶組成物)を4から10個程度切り出すことができるプレート状結晶組成物である。
即ち、結晶組成物の製造方法は、成分Aと成分Bとを混合して、結晶組成物の部分の電気抵抗率を調整する工程を有し、
Bi2Te3単結晶の温度T(K)における電気抵抗率をρ0(T)(mΩcm)とし、結晶組成物の部分の温度T(K)における電気抵抗率をρ(T)(mΩcm)としたとき、
この工程が、
80≦T≦300において、ρ(T)が極小値を有し、
かつ、T=80において、ρ0(T)<ρ(T)(以下、第1の抵抗率要件ともいう)
となるような部分が、結晶組成物中に10%以上あるように、成分Bを選択し、成分Bの含有量を調整する工程1を有する態様(以下、工程1を有する本発明の態様を、第1の製造方法ともいう)、又は、
T=300において、ρ(T)<0.6ρ0(T)(以下、第2の抵抗率要件ともいう)
となるような前記部分が、前記結晶組成物中に20%以上あるように、成分Bを選択し、成分Bの含有量を調整する工程2を有する態様(以下、工程2を有する本発明の態様を、第2の製造方法ともいう)である。
工程1において、第1の抵抗率要件は、さらに、
ρ(T)の80≦T≦300における最も低温側の極小値ρmに対して、ρm≦ρ(80)であることが好ましく、さらに、
T=80において、2≦ρ(T)であることがより好ましく、3≦ρ(T)であることが更に好ましく、4≦ρ(T)であることが更に好ましい。
工程2において、第2の抵抗率要件は、さらに、
T=300Kにおいて、ρ(T)≦0.55ρ0(T)であることが好ましく、ρ(T)≦0.5ρ0(T)であることがより好ましい。
本発明の製造方法における成分Aは、第1又は第2の抵抗率要件を容易に見出せるという観点から、好ましくはBi2Te3単結晶である。
成分Aは、Bi−Te系熱電材料として使用されてきた周知のものを使用でき、例えば、市販されているもの(例えば、BII15PB(株式会社高純度化学研究所製)、BIC−17209A(フルウチ化学社製))を、必要に応じて精製して使用することができる。
成分Aは、好ましくは溶製法又は焼成法によって製造できるが(非特許文献4)、不純物や欠陥が特性を低下させるという観点から、より好ましくは溶製法であり、更に好ましくはブリッジマン法によって製造する。
成分Aの原料粉末を、型枠(好ましくは石英管)に好ましくは、ロータリーポンプを用いて10−3〜10−1トール、より好ましくは2×10−3〜0.5×10−1トールの真空度にして真空封入した後、電気炉内で、
昇温速度を、好ましくは300〜800℃/時間、より好ましくは400〜700℃/時間、更に好ましくは550〜700℃/時間、
到達温度を、好ましくは500〜1200℃、より好ましくは700〜1100℃、更に好ましくは800〜1000℃に設定し、
到達温度での加熱時間を、好ましくは1〜24時間、より好ましくは2〜12時間、更に好ましくは4〜8時間に設定して加熱し、原料粉末を溶融する。
冷却速度を、好ましくは50〜200℃/時間、より好ましくは100〜200℃/時間に設定して、
好ましくは600〜800℃、より好ましくは700〜800℃まで冷却し、その後、
冷却速度を、好ましくは2〜20℃/時間、より好ましくは5〜15℃/時間に設定して、
室温になるまで徐冷して冷却インゴットを得る。
この冷却インゴットを粉砕して、上記の操作を、不純物が観察されなくなるまで繰り返して精製作業を行う。
粉砕は、ラボスケールでは乳鉢で粉砕してもよく、工業生産スケールでは、少なくとも乳鉢と同程度の粉砕効果を有する粉砕機で行うことが好ましい。
このようにして精製されたBi2Te3単結晶を、成分Aとして、また、電気抵抗率ρ0(T)を測定するためのBi2Te3単結晶として使用することが好ましい。
成分Bは、3d遷移金属から選ばれる少なくとも1種の金属であり、好ましくは、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni及びCuからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属であることが好ましく、より好ましくは、Mn、Fe、Co及びNiからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属であることが好ましく、第1の製造方法においては、第1の抵抗率要件を満たすように調整することが容易である観点から、Feであることが更に好ましく、第2の製造方法においては、第2の抵抗率要件を満たすように調整することが容易である観点から、Co及び/又はNiであることが更に好ましい。
成分AがBi2Te3単結晶であれば、これをBi2Te3単結晶として、ρ0(T)を測定してよい。
また、成分Aとは別に、Bi2Te3単結晶を製造するか、Bi2Te3単結晶の市販品を使用してρ0(T)を測定してもよい。
Bi2Te3単結晶を製造する場合は、成分Aと同じ製法で製造し、Bi2Te3単結晶の市販品を購入する場合は、成分Aと同じ製法で製造及び精製されたものを使用することが好ましい。
成分Aに成分Bを混合する方法としては、
成分Aと成分Bの混合物を溶融させた後に徐冷する混合溶融法、
成分Aに、イオン化させた成分Bを注入するイオン注入法、
高温下で、成分Aに、成分Bを表面から拡散させる拡散法等が使用できるが、
成分Bが、成分A中に均一に混合し、ρ(T)の温度に対する挙動(第1又は第2の抵抗率要件)を、工程1又は工程2の中で安定に制御する観点から、混合溶融法が好ましい。
以下では、混合溶融法について詳細に説明する。
混合溶融法においては、後述する冷却インゴット内の成分Bの分布が均一になるような条件を選択することが好ましい。以下では、ラボスケールで冷却インゴットを製造するための好適条件を説明するが、工業生産スケールで製造する場合は、それぞれの条件をスケールアップされた要素に応じて調整することが好ましい。
成分Aと成分Bとは、加熱する前に、予め混合して、成分Aと成分Bの混合物にしておくことが好ましい。
成分A及び成分Bの原料が、粉末状であれば、成分Aと成分Bとを攪拌混合すればよく、
成分A及び/又は成分Bの原料が塊状であれば、塊状の原料を乳鉢で粉砕して両者を混合するか、原料のまま両者を混合して粉砕する。
なお、成分A及び成分Bの原料は、混合溶融工程で不純物が混入しないように取り扱い、混入した場合は、取り除いて混合溶融工程に付することが好ましい。
成分Aと成分Bの混合物を、
室温(好ましくは5〜35℃、より好ましくは10〜30℃、更に好ましくは15〜25℃)において、型枠(好ましくは石英製の型枠)に真空充填する。
成分Aと成分Bの混合物を溶融混合する方法としては、
成分Bが、成分A中に均一に混合し、ρ(T)の温度に対する挙動(第1又は第2の抵抗率要件)を、工程1又は工程2の中で安定に制御する観点から、
成分Aを融点以上の溶融温度で溶融させて、又は、溶融させつつ、成分Bを添加して溶融混合することが好ましく、
成分Aと成分Bの混合物を、成分Aの融点以上の溶融温度で溶融させることがより好ましい。
溶融混合の際の加熱及び冷却は、加熱速度、冷却速度、到達温度及び加熱時間等をプログラムできるような電気炉として、例えば、光洋リンドバーグ社のKBF748を、温度制御器はシマデン社製のDSM温度制御器を組み合わせて使用することが好ましく、炉内で温度分布を制御できる電気炉内で行われることがより好ましい。
昇温速度は、
成分Bが、成分A中に均一に混合し、ρ(T)の温度に対する挙動(第1又は第2の抵抗率要件)を、工程1又は工程2の中で安定に制御する観点から、
好ましくは300〜800℃/時間、より好ましくは400〜700℃/時間、更に好ましくは550〜700℃/時間である。
成分Bが、成分A中に均一に混合し、ρ(T)の温度に対する挙動(第1又は第2の抵抗率要件)を、工程1又は工程2の中で安定に制御する観点から、
Bi2Te3の融点(570℃)より充分高温であればよく、
好ましくは600〜1200℃、より好ましくは700〜1100℃、更に好ましくは800〜1000℃に設定する。
成分Bが、成分A中に均一に混合し、ρ(T)の温度に対する挙動(第1又は第2の抵抗率要件)を、工程1又は工程2の中で効率よく安定に制御する観点から、
好ましくは2〜48時間、より好ましくは4〜24時間、更に好ましくは8〜16時間、更に好ましくは10〜14時間に設定する。
電気炉内で混合溶融した試料は、加熱終了後、電気炉内の温度を、
冷却速度を、好ましくは60〜300℃/時間、より好ましくは120〜200℃/時間に設定して、
好ましくは600〜800℃、より好ましくは700〜800℃まで冷却し、その後、
冷却速度を、好ましくは2〜10℃/時間、より好ましくは2〜5℃/時間に設定して、
室温になるまで徐冷して、冷却されたインゴット(以下、冷却インゴットともいう)を得る。
その場合、到達温度での加熱後、加熱を停止して室温まで自然冷却して、型枠を取り出し、他の電気炉に移した後、再度、上記の好適昇温速度で加熱して上記の好適到達温度になった後、上記の好適冷却条件で冷却を行うことが好ましい。
冷却インゴットが、断面が10〜5mm2、長さが2〜10cm程度の場合を例にして電気抵抗率の測定条件を説明する。
冷却インゴットの長さ方向を、好ましくは3〜10mm、より好ましくは3〜8mm、更に好ましくは3〜7mmごとに、前記数値範囲の厚さを有する部分に分割する。
各部分から、厚さ50〜300μm、縦長さ2〜4mm、横長さ1〜2mmの矩形サンプルを少なくとも1個、好ましくは2〜10個、より好ましくは4〜10個切り出す。
冷却インゴットから得られる各部分と、各部分から得られる各矩形サンプルは、例えば、市販の新品のオルファカッター(オルファ社製)の替刃を使い捨てながら、好ましくは精密加工用カッター(例えば、精密細工用オルファカッター(オルファ社製、品番AR1KNIII))で切り出す。
温度t(K)における電気抵抗率ρD(t)(mΩcm)は、下記式(1):
ρD(t)=R(t)dy/x (1)
(dは矩形サンプルの厚さ、xは矩形サンプルの縦長さ、yは矩形サンプルの横長さを表す)。
測定温度は、好ましくは80Kから、1〜5Kきざみで設定する。
なお、1つの部分から1つの矩形サンプルを採取している場合は、ρ(T)=ρDC(T)である。
T−ρ(T)プロットに基づいて、例えば、データ処理ソフトORIGIN(ORIGIN社製)の微分解析を適用して、各温度Tにおける微分係数を算出する。
冷却インゴットから得られる全部分の、10%以上の部分の電気抵抗率、好ましくは20%以上の部分の電気抵抗率、より好ましくは30%以上の部分の電気抵抗率、更に好ましくは40%以上の部分の電気抵抗率、更に好ましくは50%以上の部分の電気抵抗率、更に好ましくは60%以上の部分の電気抵抗率、更に好ましくは70%以上の部分の電気抵抗率、更に好ましくは90%以上の部分の電気抵抗率が、第1の抵抗率要件を満たすように、成分Bを、3d遷移金属から、好ましくは、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni及びCuからなる群から、より好ましくは、Mn、Fe、Co及びNiからなる群から選び、成分Bの含有量を調整する。
冷却インゴットから得られる全部分の、20%以上の部分の電気抵抗率、好ましくは30%以上の部分の電気抵抗率、より好ましくは40%以上の部分の電気抵抗率、更に好ましくは50%以上の部分の電気抵抗率、更に好ましくは60%以上の部分の電気抵抗率、更に好ましくは70%以上の部分の電気抵抗率、更に好ましくは80%以上の部分の電気抵抗率、更に好ましくは90%以上の部分の電気抵抗率が、第2の抵抗率要件を満たすように、成分Bを、3d遷移金属から、好ましくは、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni及びCuからなる群から、より好ましくは、Mn、Fe、Co及びNiからなる群から選び、成分Bの含有量を調整する。
結晶組成物の部分の電気抵抗率の温度依存性を特定して指標とすることによって、新規な結晶組成物(例えば、上記の冷却インゴット及びその部分)を製造できるものである(実施例1及び2)。
本発明の第1の製造方法によって、Bi2Te3結晶とFeとを含む結晶組成物であって、
Bi2Te3単結晶の温度T(K)における電気抵抗率をρ0’(T)(mΩcm)とし、
結晶組成物の部分の温度T(K)における電気抵抗率をρ’(T)(mΩcm)としたとき、
80≦T≦300において、ρ’(T)が極小値を有し、
かつ、T=80において、ρ0’(T)<ρ’(T)となるような部分が、前記結晶組成物中に10%以上ある結晶組成物(例えば、上記の冷却インゴット及びそれを分割した部分)を得ることができる。
即ち、本発明の第1の製造方法は、成分Aに対して、所定の結晶組成物の部分の電気抵抗率の特定の温度依存性(第1の抵抗率要件)を指標として、Teと同様のドナー挙動を示すと考えられる3d遷移金属から選ばれる成分Bの種類と含有量を調整することで、非特許文献2で得られたTI結晶と同様の挙動を、長期間にわたり安定して示すTI結晶を得ることを可能とする。
本発明の第2の製造方法によって、Bi2Te3結晶とCo及び/又はNiとの結晶組成物であって、
温度Tにおける、Bi2Te3単結晶の電気抵抗率をρ0”(T)(mΩcm)、
結晶組成物の部分の温度T(K)における電気抵抗率をρ”(T)(mΩcm)としたとき、
T=300において、ρ”(T)<0.6ρ0”(T)
となるような前記部分が、前記結晶組成物中に20%以上ある結晶組成物(例えば、上記の冷却インゴット及びそれを分割した部分)を得ることができる(例えば、表13、14、16〜18)。
第2の製造方法により得られうる結晶組成物は、従来のBi2Te3結晶に、Co及び/又はNiを特定量混合して、電気抵抗率を低減し、その結果、電気抵抗率の逆数である電気伝導率を向上しており、ZTの増大に寄与するものである。
(1−1)成分A(Bi2Te3結晶、粉末)
テルル化ビスマス(株式会社高純度化学研究所製、品番BII15PB、純度99.9%)
Fe:株式会社高純度化学研究所製、品番FEE03PB、純度99.9%
Co:株式会社高純度化学研究所製、品番COE03PB、純度99%
Ni:株式会社高純度化学研究所製、品番NIOE08PB、純度99.9%
株式会社高純度化学研究所製、品番TEE10PB、純度99.98%
成分Aの粉末原料25gを、石英管(容量:約10cc(長さ10cm))にロータリーポンプを用いて10−2トール程度の真空度で真空封入した後、
電気炉内で、昇温速度1.67℃/分、到達温度900℃に設定された条件で加熱し、
到達温度900℃で6時間攪拌せずに加熱して溶解した後、加熱を停止し、
電気炉内で1時間かけて750℃とした後、
冷却速度10℃/時間で25時間冷却して冷却インゴットを得る。
光学顕微鏡観察によって、冷却インゴットの表面に付着した不純物をオルファカッターで切削して除去して精製した。
この冷却インゴットを乳鉢で粉砕して、上記の操作を、不純物が観察されなくなるまで繰り返して精製作業を行い、不純物が観察されなくなった冷却インゴットをBi2Te3結晶の比較冷却インゴット1(長さ10cm、断面積20mm2)とした。
上記の精製されたBi2Te3単結晶を成分Aとして使用した。
成分Aの5gとTeの0.376gとを、乳鉢内で粉砕混合した。
混合物の全量を、石英管(容量:約10cc(長さ10cm))に投入して、
昇温速度300℃/分、到達温度950℃に設定された条件で加熱し、
950℃で12時間、加熱して溶解した後、
電気炉内で冷却速度480℃/時間で室温まで冷却して、その後、
別の電気炉に入れ直して、
昇温速度100℃/時間、到達温度900℃に設定された条件で加熱した後、冷却速度600℃/時間で室温まで冷却して、TI結晶1の比較冷却インゴット2(長さ8cm、断面積24mm2)を得た。
比較冷却インゴット2は、成分AとTeの合計量に対するTeの組成比が7重量%である。
TI結晶1の製造条件において、Teを、Fe、Co及びNiにそれぞれ置き換えて、同様にして実施例結晶組成物の冷却インゴットを得た。
なお、冷却インゴット中における、成分Aと混合した金属元素の合計量に対する、混合した金属元素の組成比(重量%)(以下、金属含有量ともいう)を表1に示すように変えて実施例結晶組成物の冷却インゴットを製造した。
Teを、Feに置き換えて得た冷却インゴットを冷却インゴット(Fex)、
Teを、Coに置き換えて得た冷却インゴットを冷却インゴット(Cox)、
Teを、Niに置き換えて得た冷却インゴットを冷却インゴット(Nix)、
Teを、Mnに置き換えて得た冷却インゴットを冷却インゴット(Mnx)(xは各金属含有量を表す)と表記する。
部分の分割及び矩形サンプルの切り出しはオルファカッター(オルファ社製)を使用した。
比較冷却インゴット1を長さ方向に5mm間隔で切断し、厚さ5mmの部分に6分割(部分の数6個)した。
各部分から、厚さd=50〜300μm、縦長さx=2〜4mm、横長さy=1〜2mmの矩形サンプルを1個切り出した。この切り出し条件を表1にまとめた。
比較冷却インゴット1を長さ方向に5mm間隔で切断し、厚さ6mmの部分に6分割した。
各部分から、厚さ50〜300μm、縦長さ2〜4mm、横長さが1〜2mmの矩形サンプルを1個切り出した。この切り出し条件を表1にまとめた。
冷却インゴット(Fe1.25)(長さ3cm)は、長さ方向に6mm間隔で切断し、厚さ6mmの部分に5分割し(部分の数が5)、各部分から、厚さd=50〜300μm、縦長さx=2〜4mm、横長さが1〜2mmの矩形サンプルを1個切り出した。この切り出し条件を表1にまとめた。
他の冷却インゴットの切り出し条件も表1にまとめた。
(6−1)冷却インゴット(Fe1.25)
冷却インゴット(Fe1.25)から採取した各矩形サンプルについて、温度t=77〜300(K)の範囲で1〜4K刻みの各温度tにおける抵抗R(t)を電流0.1Aの下で測定し、式(1)により各温度tにおける電気抵抗率ρD(t)を算出した。
なお、1つの部分から1つの矩形サンプルを採取しているので、ρDC(T)がその1つの部分の温度Tにおける電気抵抗率ρ(T)である。
各部分の温度Tにおける電気抵抗率ρ(T)の値と微分係数の値を表2にまとめた。
なお、ρ(T)は80Kから10℃毎の値を示した。
その他の冷却インゴット(Fex)、(Mnx)、(Cox)及び(Nix)並びに比較冷却インゴット1及び2についても、冷却インゴット(Fe10.00)と同様に各部分の温度Tにおける電気抵抗率ρ(T)の値と微分係数の値を求めた。その結果を表3〜20にまとめた。
なお、比較冷却インゴット1の6個の部分についての温度Tにおけるρ(T)の算術平均をρ0(T)とする。
(4−1)Feの含有量を変えて冷却インゴット(Fe)の温度−電気抵抗率曲線を求めると、
冷却インゴット(Fe)については、結晶組成物中のFeの含有量が10重量%の場合に、冷却インゴット(Fe)の全部分中、第1の抵抗率要件を満たす部分の数が57%となった。
Teの含有量を変えて比較冷却インゴット1の温度−電気抵抗率曲線を求めると、
比較冷却インゴット1については、第1の抵抗率要件を満たす部分が存在するTeの含有量を見出すことができなかった(表20)。
即ち、結晶組成物中のFeの含有量を10重量%にした冷却インゴット(Fe)中の第1の抵抗率要件を満たす部分を見出すために、3d遷移金属からFeを選択し、Feの含有量を調整する工程が工程1であり(実施例1)、
結晶組成物中のFeの含有量を10重量%にした冷却インゴット(Fe)、その中の第1の低効率要件を満たす部分及びTI結晶性を示す矩形サンプルが、第1の製造方法で得られた本発明の結晶組成物であり、本発明の結晶組成物である(実施例2)。
第1の抵抗率要件を満たす部分が存在するようにTeの含有量を調整することができず、第1の抵抗率要件を満たす結晶組成物を提供できない。
なお、比較冷却インゴット2については、先に切り出した6個の矩形サンプルに加え、さらに、各部分から4〜10個、比較冷却インゴット2全体では92個の矩形サンプルを切り出して電気抵抗率を測定したところ、3個だけ第1の低効率要件を満たす物があった。しかし、これらの矩形サンプルは、温度5〜35℃、湿度30〜90%の室内環境下で9月保存する間に、電気抵抗率曲線が低下し、最終的に、p型縮退半導体特有の温度−電気抵抗率曲線の傾向になるに至った(表21)。
温度5〜35℃、湿度30〜90%の室内環境下で9月保存しても、温度−電気抵抗率曲線の傾向がほとんど変化しなかった(表22)。
Fe、Mn、Co及びNiの含有量をそれぞれ変えて冷却インゴット(Fe)、(Mn)、(Co)及び(Ni)の温度−電気抵抗率曲線を求めると、
冷却インゴット(Co)については、結晶組成物中の含有量が7.50及び10.00重量%の場合に、
冷却インゴット(Ni)については、結晶組成物中の含有量が5.00、7.50及び10.00重量%の場合に、第2の抵抗率要件を満たした。
即ち、結晶組成物中のCoの含有量を10重量%にした冷却インゴット(Co)中の第2の抵抗率要件を満たす部分と、
結晶組成物中のNiの含有量を10重量%にした冷却インゴット(Ni)中の第2の抵抗率要件を満たす部分を見出すために、
3d遷移金属からCo及びNiを選択し、これらの含有量を調整する工程が工程2であり(実施例3)、第2の製造方法により得られた、
結晶組成物中のCoの含有量を10重量%にした冷却インゴット(Co)、その中の第2の抵抗率要件を満たす部分及びTEC結晶性を示す矩形サンプルと、
結晶組成物中のNiの含有量を10重量%にした冷却インゴット(Ni)、その中の第2の抵抗率要件を満たす部分及びTEC結晶性を示す矩形サンプルが、第2の製造方法で得られた本発明の結晶組成物であり、かつ、本発明の結晶組成物である(実施例4)。
Claims (10)
- Bi2Te3結晶(成分A)と、3d遷移金属から選ばれる少なくとも1種の金属元素(成分B)とを含む結晶組成物の製造方法であって、
前記製造方法が、前記成分Aと前記成分Bとを混合して、
前記結晶組成物の部分の電気抵抗率を調整する工程を有し、
Bi2Te3単結晶の温度T(K)における電気抵抗率をρ0(T)(mΩcm)とし、前記部分の温度T(K)における電気抵抗率をρ(T)(mΩcm)としたとき、
前記工程が、
80≦T≦300において、ρ(T)が極小値を有し、かつ、
T=80において、ρ0(T)<ρ(T)となるような前記部分が、前記結晶組成物中に10%以上あるように、前記成分Bを選択し、前記成分Bの含有量を調整する工程1、又は、
T=300において、ρ(T)<0.6ρ0(T)
となるような前記部分が、前記結晶組成物中に20%以上あるように、前記成分Bを選択し、前記成分Bの含有量を調整する工程2を有する結晶組成物の製造方法。 - 前記工程1において、ρ(T)の80≦T≦300における最も低温側の極小値ρmに対して、ρm≦ρ(80)である請求項1記載の結晶組成物の製造方法。
- 前記工程1において、T=80において、2≦ρ(T)である請求項1又は2記載の結晶組成物の製造方法。
- 前記工程2において、T=300において、ρ(T)≦0.55ρ0(T)である請求項1記載の結晶組成物の製造方法。
- 前記3d遷移金属が、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni及びCuからなる群である請求項1〜4のいずれか記載の結晶組成物の製造方法。
- 前記3d遷移金属が、Mn、Fe、Co及びNiからなる群である請求項5記載の結晶組成物の製造方法。
- 前記工程において、前記成分Aと前記成分Bとを溶融混合する請求項1〜6のいずれか記載の結晶組成物の製造方法。
- 前記請求項1〜7のいずれか1項記載の製造方法で得られうるBi2Te3と3d遷移金属から選ばれる少なくとも1種の金属元素を含む結晶組成物。
- Bi2Te3結晶とFeとを含む結晶組成物であって、
Bi2Te3単結晶の温度T(K)における電気抵抗率をρ0’(T)(mΩcm)とし、
前記結晶組成物の部分の温度T(K)における電気抵抗率をρ’(T)(mΩcm)としたとき、
80≦T≦300において、ρ’(T)が極小値を有し、かつ、T=80において、ρ0’(T)<ρ’(T)となるような前記部分が、前記結晶組成物中に10%以上ある結晶組成物。 - Bi2Te3結晶とCo及び/又はNiとの結晶組成物であって、
Bi2Te3単結晶の温度T(K)における電気抵抗率をρ0”(T)(mΩcm)とし、
前記結晶組成物の部分の温度T(K)における電気抵抗率をρ”(T)(mΩcm)としたとき、
T=300において、ρ’(T)<ρ0”(T)
となるような前記部分が、前記結晶組成物中に20%以上ある結晶組成物。
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