本発明の一実施形態について以下説明する。ここでは、まず、本発明者らが独自に見い出した知見について説明し、その後、本発明に係る不揮発性メモリセルについて説明することとする。
<1.本発明に係る抵抗可変型不揮発性メモリセル>
〔1.本発明に至る過程〕
以下、本発明に係る不揮発性メモリセルを完成させるに至るまでの背景として、本発明者らが独自に見出した知見について説明する。
ReRAMでは、電圧のオン/オフにより抵抗が変化することを利用しているが、この抵抗変化の原理は「酸素欠損の有無と、酸素欠損における電子のトラップ、デトラップが抵抗変化の原因である」という試作実験に基づく現象論的な類推に留まっている。
ReRAMの単一セル構造は、絶縁体または半導体的な電気特性を示す遷移金属酸化物層を金属電極(第1電極および第2電極)で挟んだ構造である。
本発明者らは、このような構造における電圧印加時の遷移金属酸化物層の酸素欠損と電子の挙動に着目したシミュレーションを行うことにより、酸素欠損、電子および遷移金属原子の複合体からなる新たな伝導パスの形成機構を見出すことに成功した。
具体的には、密度汎関数理論に基づいた第一原理計算を用いて、遷移金属原子、酸素欠損を含む遷移金属酸化物層について電子状態密度を計算し、バンドギャップの大きさ、および、フェルミエネルギー近傍の状態密度を検出した。
不揮発性メモリセルでは、電圧の印加により電子数が変化することとなる。しかしながら、従来の第一原理計算では、その精密さのために、原子数が多いと、計算の収束に至るまでの時間を多く費やすこととなる。そのため、従来の計算モデルでは、不揮発性メモリセル全体における電子数の変化を考慮した計算は実現できていなかった。
そこで、本発明者らは、遷移金属酸化物層中の酸素欠損に着目し、酸素欠損が配列し易い方向を検証することによって、計算量の少ない新しい計算モデルを構築することに成功し、酸素欠損、電子および遷移金属からなる複合体が電子の流れ易い伝導パスを形成することを初めて見出した。以下、詳細に説明する。
〔2.計算手法〕
まず、密度汎関数理論に基づく第一原理計算を用いた解析を行った。特に、電極の層と、酸化物層との界面における電子状態密度を解析し、バンドギャップの変化を評価した。第一原理計算とは、「相互作用する多電子系の基底状態のエネルギーは電子の密度分布により決められる」ことを示した密度汎関数理論を基にした計算手法である(P. Hohenberg and W. Kohn, Phys. Rev. 136, B864 (1964),W. Kohn and L. J. Sham, Phys. Rev. 140, A1133 (1965)、または、藤原毅夫著「固体電子構造」朝倉書店発行第3章を参照)。第一原理計算によれば、物質の電子構造を経験的なパラメータなしに定量的に議論できるようになり、実際、多くの実証により、実験に匹敵する有効性が示されている。
三次元周期境界条件を課した第一原理計算では、通常、固体表面を数層の薄膜(スラブ)でモデル化する。外部電場を加える前の電子状態に関する例として、金属原子を2層用いた表面平行方向で平均化した静電ポテンシャルを図1(a)に示す。
図1(a)で示すモデルに対して、表面垂直方向に外部電場をかけて計算する方法が従来提案されている。本発明に係るアプローチでは、真空領域の中央に双極子層を導入する手法を用いる。つまり、スラブの両側にそれぞれ反対の符号の電荷層を設けることで、均一な外部電場を加える。当該手法は符号の異なる電荷層を設けるため、スーパーセル内の全体の電荷状態を、ニュートラルな状態で保つことができ、電子を増加または減少させる必要がない。スーパーセル内で電子を増加または減少させることにより、陽極または陰極近傍の電場の効果、および、陽イオンまたは陰イオン近傍の電場の効果を解析するアプローチと比較すると、図1(b)に示したアプローチでは、一つのスーパーセル内で生に帯電した層と負に帯電した層の間の電場の効果を解析することができる。また、双極子層を制御することにより、任意の電場の値の効果を解析することができる。そのため、本発明に係る不揮発性メモリセルの解析に適している。
また、従来のスーパーセル内にNa等の電子を供給し易い原子を加えて外部電場を加える手法と比較すると、図1(b)に示した手法は、符号の異なる電荷層を設けるのみで外部電場を加えることができ、スーパーセル内に余分な原子を配置せずに評価したい原子構造のみを解析することができる点や、計算対象とする原子数を増やさないため、計算コストを抑えることができる点で優れている。そのため、本発明では、図1(b)に示す方法を用いる。
当該解析手法を用いた場合の静電ポテンシャルのφの分布はポアソン方程式に従い、以下の式(1)で表すことができる。
Δ2φ=−ρ/ε・・・式(1)
式(1)において、ρは電荷密度を表し、εは誘電率を示す。また、外部電場Fは、以下の式で表される。
F=−Δφ・・・式(2)
なお、図1(b)では、0.05V/Åの外部電場を加えた例を示している。
〔3.原子距離の遷移についての挙動シミュレーション〕
上述した図1(b)の手法を用いて、単位格子内の電子占有数を変えたときの電極層の原子と酸化物層の原子との原子間距離の遷移についてシミュレートした。すなわち、密度汎関数に基づく第一原理計算により、酸化物層および電極層からなる素子の電子エネルギー状態が最も安定的な数値をとる原子配置を計算し、当該原子配置における原子間距離を求めた。
図2は、電極層としてTaを用いたときの占有電子数の変化に伴う原子間距離の遷移を示す図である。図2に示されるように、占有電子数が減少することにより、電極層と酸化物層との界面において、Ta−O原子間距離は変化しないが、z軸方向に沿って当該Taと隣接している酸素(O)原子と、当該酸素原子とz軸方向に沿って隣接しているCo原子との間の距離が長くなることが確認できた。具体的には、第1層の酸素原子と第2層のCo原子との間の距離が、占有電子数を変化させないときには2.11Åであるのに対し、酸化物層の単位格子当りの占有電子数を3だけ減らしたときには2.39Åと0.28Åだけ高電位電極側に変位することが確認された。また、第1層の酸素原子(つまり、高電位電極に隣接する酸素原子)だけでなく、高電位電極の近傍の酸素原子、例えば、第2層の酸素原子も高電位電極側に変位することが確認された。
一方、図3は、電極層としてPtを用いたときの占有電子数の変化に伴う原子間距離の遷移を示す図である。図3に示されるように、占有電子数が減少することにより、電極層と酸化物層との界面において、Pt原子が酸化物層から大きく離れ、酸化物層の第1層((電極層と隣接する層)に位置するCo原子もPt原子に引きずられて、酸化物層の第2層から離れる方向に変位することが確認できた。ただし、酸化物層の第1層に位置する酸素原子の変位はほとんど見られなかった。具体的には、第1層の酸素原子と第2層のCo原子との間の距離が、占有電子数を変化させないときには1.93Åであるのに対し、酸化物層の単位格子当りの占有電子数を3だけ減らしたときには1.95Åと0.02Åだけしか変位しないことが確認された。
以上のように、占有電子数を減少させたとき、電極層としてTaを用いたときには、Taが第1層の酸素原子とともに酸化物層から離れる方向に変位する。一方、電極層としてPtを用いたときには、第1層の酸素原子が酸化物層から離れる方向に変位する程度は小さい。しかし、何れの場合も酸素原子が酸化物層から離れ、電極層側へ変位変位することにより、フェルミエネルギー近傍に状態密度の変化が生じ、酸化物層のエネルギーギャップの大きさが変化する、あるいは、フェルミエネルギー近傍に状態密度の変化が生じる。この酸素原子の変位により、フェルミエネルギー付近のバンドギャップが小さくなり、酸化物層がより金属的に変化する。この金属酸化膜表面の酸素移動により、酸化物層における高抵抗状態と低抵抗状態との切り替えを行うことが可能となる。
〔4.CoO層における挙動シミュレーション〕
次に、本発明で重要となる酸化物層の内部における電子状態密度を解析し、バンドギャップの変化等を評価した。図4は、不揮発性メモリセルの構造および酸化物層の抵抗変化を示す断面図である。図4の左には、高抵抗状態の不揮発性メモリセル1を示しており、電極(第1電極)10と電極(第2電極)との間に酸化物層30aが配置されている。この高抵抗状態では、酸化物層30aは絶縁体である。この不揮発性メモリセル1に対して書き込みパルス(電圧)を印加することによって、酸化物層30aの抵抗が変化し、絶縁体から金属の酸化物層30bに変化する。
一方、低抵抗状態の不揮発性メモリセル1に対して消去パルス(電圧)を印加することによって、酸化物層30bの抵抗が変化し、金属から絶縁体の酸化物層30aに戻り、0または1の記録状態が変化する。ここで「金属」とは「金属的」であることを意味し、「絶縁体」とは「絶縁体的」であることを意味する。
上記のような構造であり、酸化物層がCoO層である不揮発性メモリセルについて、本発明者らは提唱したCMDを用いて伝導パスの検討を行った。本シミュレーションでは、第一原理計算の中でも現在、最も精度の高い、一般密度勾配近似法を用いて計算した。
図5は、酸素欠損が1つ存在するCoO層中の原子配置を示す斜視図である。本発明者らは、酸素欠損が伝導パスに影響を及ぼすと考え、上記のCoO層において、2つ目の酸素欠損が生じ易いO原子の位置について計算を行った。
まず、1つ目の酸素欠損と、周期境界条件で上記酸素欠損から最も近くに配置される酸素とが離れるように、ユニットセル(単位格子)をシミュレートした。すなわち、Co原子が32個、O原子が32個のユニットセルからO原子が欠損すると、3.13%の欠損に相当する。酸素欠損が生じると、ユニットセルは構造緩和する。このユニットセルにおける酸素欠損生成エネルギーは5.016eVである。
次に、1つ目の酸素欠損が存在しているユニットセルからさらにもう1つの酸素欠損が生じるための酸素欠損生成エネルギーを評価した。その結果、上記酸素欠損に対して(110)方向に位置すると共に、酸素欠損の近傍に位置するO原子の酸素欠損生成エネルギーは、4.564eVであった(図5中の「1位のO原子」)。また、b−c面において、酸素欠損の近傍に位置するCo原子を酸素欠損と共に挟んで位置するO原子における酸素欠損生成エネルギーは6.446eVであった(図5中の「2位のO原子」)。最後に、b軸方向において、酸素欠損から2番目に配列したO原子における酸素欠損生成エネルギーは4.620eVであった(図5中の「3位のO原子」)。
上記結果から、清浄なバルク結晶よりも酸素欠損が生じている結晶の方が酸素欠損が生じ易いことが分かった。つまり、酸素欠損の周囲に新たな酸素欠損が生じ易い、すなわち、酸素同士には引力が生じていることが分かった。また、酸素欠損生成エネルギーが最も小さく、最も酸素欠損が生じ易い方向は(110)方向であることも判明した。本発明者らはこの結果からCoO層の(110)方向に着目し、シミュレーションを行った。
図6はCoO層中の酸素欠損の位置を示す図であり、図6(a)は、a−b面に配置されたCo原子、O原子および酸素欠損を示す平面図である。また、図6(b)はa−c面に配置されたCo原子、O原子および酸素欠損を示す平面図であり、図6(c)はCo原子、O原子および酸素欠損を示す斜視図である。
上記のように、酸素欠損が(110)方向、つまりc軸方向に配列しているCoO層についてシミュレートし、電子を注入した際の電子状態密度およびバンド構造を明らかとした。なお、(110)方向に配列したCo原子間の距離は、3.012Åである(1Åは1×10−10mである)。また、比較のため、図6(a)〜(c)において酸素欠損の位置にO原子が存在しているCoO層、すなわち、酸素欠損が存在しないCoO層についてもシミュレートし、電子状態密度およびバンド構造を明らかとした。
図7に得られたCoO層の電子状態密度を示す。図7(a)は、酸素欠損が存在しないCoO層の電子状態密度を示すグラフであり、図7(b)は、酸素欠損が存在し、さらにCoO層に電子を注入した(価電子を1つ増加させた)際の電子状態密度を示すグラフである。両グラフにおいて、縦軸は電子状態を示し、横軸はエネルギーを示している。
両電子状態密度を比較すると、図7(a)のグラフ(酸素欠損無)では、フェルミ準位の近傍に電子状態が生じていないことが分かる。一方、図7(b)のグラフ(酸素欠損有+電子注入)では、フェルミ準位の近傍に電子状態が生じている。図7(a)・(b)をそれぞれ縦軸方向に拡大したグラフを図8(a)・(b)に示す。酸素欠損が存在するCoO層では、フェルミ準位の近傍に電子状態が生じていることが明らかである。両電子状態密度の比較から、CoO層酸素欠損が生成され、電子が注入されることによって、導電性が生じていることが理解される。
上記導電性を伴う軌道について詳細に評価するため、酸素欠損が生成され電子が注入されたCoO層のバンド図を図9の左図に示す。このバンド図から、フェルミ準位をまたぐ軌道(バンド曲線)が確認され、バンド図からも酸素欠損が存在する状態が電子伝導性を有することが確認できた。右側に当該CoO層の電子密度分布を示す。
図9右側の上図は、CoO層(酸素欠損有+電子注入)の電子状態分布を示す斜視図であり、図9右側の中央図は、a面からCoO層の電子状態分布を示す平面図である。なお、酸素欠損の連なり(c軸方向)が、中央に位置するように電子密度分布を示している。図9右側の下図は、酸素欠損の連なり(c軸方向)を示す斜視図である。上記中央図および下図に示されるように、c軸に沿って2本のパイプ状に電子が分布していることが確認でき、伝導パスが酸素欠損の近傍に位置することが判明した。さらに、この伝導パスの分布を評価するため、電子密度分布の断面図を図10に示す。
図10はCoO層中の伝導パスを示す図であり、図10(a)は、CoO層の電子密度分布を示す斜視図である。また、図10(b)は、CoO層のa−c面での電子密度分布を示す断面図であり、図10(c)は、CoO層のb−c面での電子分布密度を示す断面図である。図10(a)〜図10(c)には、電子密度分布が高い箇所(H)、中程度の箇所(M)、低い箇所(L)に対応する符号(H、M、L)をそれぞれ付している。
図10(b)から、直線上の伝導パス3がCo原子に沿うように生成されており、しかも酸素欠損を避けていることが明らかになった。一方、図10(c)では、伝導パス3が生成されていない。この理由として、図10(b)よりも図10(c)の方が、酸素欠損2と最も近いCo原子との距離が長いことが挙げられる。このように、CoO層中に生じた酸素欠損の周囲に電子が移動し、この電子が酸素欠損2の周囲(近傍)にトラップされることによって、ソフトブレークダウン、つまり、伝導パス3が生成されることを確認した。
上記伝導パス3は、酸素欠損を避けて形成されるものであり、酸素欠損自体を伝って伝導パスが生成されているわけではない。これらの結果から、CoO層中の伝導パスは、酸素欠損、電子およびCo原子(遷移金属原子)からなる複合体によって形成されるのである。これにより、酸素欠損を伝導パスとする従来の現象論的解釈は間違いであるといえる。なお、CoO層では、伝導パスは酸素欠損の周囲に形成されており、伝導パスが少なくとも形成されている範囲は、酸素欠損を連ねた軸の周囲、酸素原子層の1層分の範囲である。
電子は伝導パスを通って移動し易い。このため、不揮発性メモリセル1に電圧を印加することによって、電極10から電極20へ向かって伝導パスが形成されるように、酸化物層30aが形成されていれば、書き換え速度が速く、大容量のデータを高信頼性で取り扱えるReRAMを高歩留まりで提供できる。この設計指標は、鋭意検討により本発明者らが見出したものであり、従来、見出されていなかった知見に基づくものである。
より具体的には、CoO層では伝導パスは(110)方向に沿って形成(分布)しているため、酸化物層30aの(110)方向が、電極10から電極20へ向かう方向に沿って、酸化物層30aが形成されていればよい。上記配置とすることにより、電極の印加によって、酸化物層30b中の伝導パスが電極10から電極20へ向かって生じる不揮発性メモリセルを容易に提供できる。
〔5.HfO2層における挙動シミュレーション〕
次に、HfO2層中の酸素欠損についても一般密度勾配近似法を用いて計算を行った。HfO2層の場合も、不揮発性メモリセルは図4で示した構造と同様である。図11は、HfO2のユニットセルを示す斜視図である。CoO層と同様に、上記HfO2のユニットセルでは、酸素欠損2が1つ存在している。本発明者らは、HfO2層についても酸素欠損が伝導パスに影響を及ぼすと考え、上記HfO2層において、さらに酸素欠損が生じ易いO原子の位置について計算を行った。
酸素欠損2近傍に位置するO原子a〜eについて、酸素欠損生成エネルギーを算出した。その結果、O原子aにおける酸素欠損生成エネルギーは、4.562eVであり、O原子bにおける酸素欠損生成エネルギーは、4.748eV、O原子cにおける酸素欠損生成エネルギーは、4.474eVであった。また、O原子dにおける酸素欠損生成エネルギーは、4.696eV、O原子eにおける酸素欠損生成エネルギーは、4.621eVであった。
上記結果から、清浄なバルク結晶よりも酸素欠損が生じている結晶の方が酸素欠損が生じ易いことが分かった。つまり、酸素欠損の周囲に新たな酸素欠損が生じ易い、すなわち、酸素同士には引力が生じていることが分かった。また、酸素欠損生成エネルギーが最も小さく、最も酸素欠損が生じ易い方向は(110)方向であることも判明した。この結果からHfO2層の(110)方向に着目し、シミュレーションを行った。
図12はHfO2層中のHfO2原子、O原子および酸素欠損の位置を示す斜視図である。上述したように、酸素欠損が(110)方向、つまりc軸方向に配列しているHfO2層についてシミュレートし、電子を注入した際の電子状態密度およびバンド構造を明らかとした。また、比較のため、図12において酸素欠損の位置にO原子が存在しているCoO層、すなわち、酸素欠損が存在しないCoO層についてもシミュレートし、電子状態密度およびバンド構造を明らかとした。
図13に得られたHfO2層の電子状態密度を示す。図13(a)は、酸素欠損が存在しないHfO2層の電子状態密度を示すグラフであり、図13(b)は、酸素欠損が存在し、さらにHfO2層に電子を注入した際の電子状態密度を示すグラフである。両グラフにおいて、縦軸は電子状態を示し、横軸はエネルギーを示している。
両電子状態密度を比較すると、図13(a)のグラフ(酸素欠損無)では、フェルミ準位の近傍に電子状態が生じていないことが分かる。一方、図13(b)のグラフ(酸素欠損有+電子注入)では、フェルミ準位の近傍にわずかに電子状態が生じていることが分かる。図13(a)・(b)を縦軸方向にそれぞれ拡大したグラフを図14(a)・(b)に示す。酸素欠損が存在するHfO2層では、フェルミ準位の近傍に電子状態が生じていることが明確に理解される。この伝導性を担う軌道について詳細に評価するため、酸素欠損が生成され、電子が注入された状態のバンド図を図15の左図に示す。
このバンド図から、フェルミ準位をまたぐ軌道(バンド曲線)が確認され、バンド図からも酸素欠損が存在する状態が電子伝導性を有することが確認できた。HfO2層の場合、フェルミ準位をまたぐ電子状態の傾きが非常に大きく、図9のCoO層の場合と比較すると、その差が明らかである。すなわち、HfO2層では、導電パスにおける電子の移動に関してリニア性が高く、光速に近い超高速動作が可能であることが示されている。
図15の右側に当該HfO2層の電子密度分布を示す。図15右側の上図は、CoO層(酸素欠損有+電子注入)の電子状態分布を示す斜視図であり、酸素欠損の連なり(c軸方向)が、中央に位置するように電子密度分布を示している。図15右側の下図は、上図の酸素欠損の連なりを示す斜視図であり、量子力学的状態の三次元構造を持つ伝導パス3が形成されていることが確認された。さらに、この伝導パスの分布を評価するため、電子密度分布の断面図を図16に示す。
図16はHfO2層中の伝導パスを示す図であり、図16(a)は、HfO2層の電子密度分布を示す斜視図である。また、図16(b)は、HfO2層のa−c面での電子密度分布を示す断面図であり、図16(c)は、HfO2層のb−c面での電子分布密度を示す断面図である。図16(a)〜図16(c)には、電子密度分布が高い箇所(H)、中程度の箇所(M)、低い箇所(L)に対応する符号(H、M、L)をそれぞれ付している。
図16(b)および(c)から分かるように、HfO2層では、配列した酸素欠損2の周囲にHfO2原子を繋げるように、電子が移動する。この電子が酸素欠損2の周囲(近傍)にトラップされることによって、ソフトブレークダウン、つまり、伝導パス3が生成されることを確認した。HfO2層での伝導パス3は螺旋状であり、a−c面およびb−c面においてジグザグに分布している点が特徴的である。螺旋状であることにより、伝導パスの分布範囲が実質的に広く、Hf金属原子の局所的変位の影響を受けにくくなり、電子がより早く流れ易い。
上記伝導パス3は、Hf金属原子と酸素欠損の周囲(近傍)に三次元の螺旋構造として形成されるものであり、酸素欠損自体を伝って伝導パスが生成されているわけではない。これらの結果から、CoOの場合と同様、HfO2の場合も、伝導パスは、酸素欠損、電子およびHf原子(遷移金属)からなる複合体によって形成されるのである。これにより、酸素欠損を伝導パスとする従来の現象論的解釈は間違いであることが明確になった。
なお、HfO2層では、伝導パスは、酸素欠損の周囲に形成されている。また、酸素欠損の列は、金属原子または酸素原子によって遮断されない十分な範囲に形成に形成されている。
電子は伝導パスを通って移動し易い。このため、酸化物層30aがHfO2層である不揮発性メモリセル1に電圧を印加することによって、電極10から電極20へ向かって伝導パスが形成されるように酸化物層30aが形成されていれば、書き換え速度が速く、大容量のデータを高信頼性で取り扱えるReRAMを高歩留まりで提供することができる。この設計指標は、鋭意検討により本発明者らが見出したものであり、従来、見出されていなかった知見に基づくものである。
より具体的には、電圧が印加されることによって、HfO2層では酸素欠損2が(110)方向に配列し、酸素欠損2の周囲に伝導パスが形成(分布する)。このため、HfO2層の(110)方向が、電極10から電極20へ向かう方向に沿って、酸化物層(HfO2層)30が形成されていればよい。上記配置とすることにより、電極の印加によって、酸化物層30b中の伝導パスが電極10から電極20へ向かって生じる不揮発性メモリセルを容易に提供できる。
なお、HfO2層の伝導パスについては、さらに興味深いことが示されている。図9の左図に示すCoO層のバンド構造はフェルミ準位近傍で飽和しており、これはCoO層の伝導パスを移動する電子の有効質量が、通常の半導体と同様、大きいことを示している。これに対して、図15の左図に示すHfO2層のバンド構造はフェルミ準位近傍で直線上になっている。これはHfO2層の伝導パスを移動する電子の有効質量が、グラフェンと同様に、ゼロかゼロに極めて近い値であることを示している。これにより、HfO2層の伝導パスを用いたReRAMのスイッチング速度は、シリコントランジスタのスイッチング速度の千倍にも達することが想定され、現在考えられている半導体メモリでは達成不可能な超高速動作が期待できることも明らかになった。
〔6.抵抗可変型不揮発性メモリセルの構成〕
上述したように、本発明者らは、CMDを用いた第一原理計算を実行し、酸素欠損近傍の電子状態を解析することにより、酸素欠損、電子およびCo原子またはHf原子からなる複合体である導電パスの存在を見出した。本発明に係る不揮発性メモリセルは、電極間に電圧を印加することによって、導電パスが電極10から電極20へ向かって形成される(生じる)ように、CoO層またはHfO2層が形成されているものである。
従来の不揮発性メモリに関する設計指針を図17(a)・(b)に示す。図17(a)は、電子がトラップされた状態を示す酸化物層30の断面図であり、図17(b)は、デトラップ状態を示す酸化物層30の断面図である。このように、従来では、酸素欠損2自体での電子5のトラップが議論され、酸素原子自体、酸素原子の変位および酸化物層30の界面構造の変化については全く考慮されていなかった。
一方、本発明の設計指針を図18に示す。図18は、本発明に係る設計指針を示しており、図18(a)は、低抵抗状態の不揮発性メモリを示す断面図であり、図18(b)〜(d)は高抵抗状態の不揮発性メモリを示す断面図である。図18(a)に示すように、本発明に係る不揮発性メモリの低抵抗状態では、外部電場(電圧)の印加により、酸素原子Oが電極20の方向へ変位し、金属酸化物の金属層30cに位置している。
一方、図18(b)では、外部電場が印加されているが、酸素原子Oが金属層30cではなく、酸化物層30(絶縁層)dに変位している。このため、酸素原子Oの位置で伝導性が阻まれており、高抵抗な状態となっている。図18(c)では、酸素原子Oが金属層30cに変位しているものの、外部電場が印加されておらず(電子トラップ無)、伝導パス3が形成されないため、高抵抗状態となっている。
図18(d)では、外部電場が印加されておらず、さらに、酸素原子Oは電極20側に変位しておらず、酸化物層30dに位置している。図18(d)に対して、外部電場(電圧)を印加することにより、電極20と酸化物層30dとの界面(金属層30c)近傍の酸素原子の変位によって伝導パス3が形成され、図18(a)の低抵抗状態となる。このように、図18(a)・(d)間で伝導パス3の形成が制御されるが、過渡的な状態として、図18(b)・(c)の状態も存在する。
図4において、本発明に係る不揮発性メモリセルの基本的構成について説明したが、より詳細に以下説明する。本発明に係る不揮発性メモリセル1は、電極10、電極20、酸化物層30a(または酸化物層b)を備えている。この酸化物層30aは、電極10と電極20との両方に接しており、これらの電極に挟まれた構造となっている。
電極10は、電極20よりも電位の高い高電位電極である。このため、電極10と酸化物層30aとの界面、および、酸化物層30aと電極20との界面において、電圧の印加により、酸化物層30aの酸素を変移させ、電極10・20間の抵抗値を大きく変化させることができる。電極10および電極20は、Ta、W、HfおよびCuからなる群から選ばれた1種からなっていることが好ましい。なお、電極10および電極20の材料としては、水素を通しにくい材料(例えばW)が好ましい。もしくは、水素を通し難い材料からなり、電極20の上面を覆う膜を形成してもよい。これにより、電極20の上面からの水素の侵入を防止することができる。不揮発性メモリセルに対する水素の影響については後述する。
また、上記電極10および電極20は、単層構造であってもよいし、微細半導体デバイスで用いられているバリアメタルを含む多層構造であってもよい。さらに、上記電極10と電極20とは、同一材料で構成されていてもよいし、異なる材料で構成されていてもよい。
また、上記電極10および電極20の膜厚は、特に限定されるものではないが、一般的には、10nm以上、500nm以下とすることが好ましい。
図4には図示していないが、電極10は、基板上に形成されてもよい。この基板は、具体的には、シリコン基板、ポリシリコン基板、SOI(Silicon on Insulator)基板、SiC(Silicon carbide)基板、ガラス基板、プラスチック基板等を用いることができる。中でも、現状のLSI技術と整合し、また、安価で大口径のものも容易に得られることから、単結晶のシリコン基板を用いることが好ましい。なお、本発明において、上記基板は必須の構成ではない。
酸化物層30aは、CoOまたはHfO2である。この酸化物層は、上述したように、印加される電圧(または電流)によって、絶縁体的から金属的への転移が誘起されるものである。酸化物層30aを構成するCoOまたはHfO2は、大きなエネルギーギャップを有するため、酸化物層30aは絶縁体となっている。
本発明に係る不揮発性メモリセル1は、上述のように電圧が印加されることによって、導電パスが電極10から電極20に向かって形成される。上述したように、この伝導パスは電子が流れ易いため、同じ電圧条件であれば、従来の不揮発性メモリセルよりも電子の移動速度が非常に速い。このため、書き換え速度が速く、大容量のデータを高信頼性で取り扱えるReRAMを高歩留まりで提供することができる。
また、上記酸化物層30a・30bの層厚は、特に限定されるものではなく、一般的には、1nm〜50nmとすることが好ましい。
酸化物層30aを備える不揮発性メモリセル1を製造する方法は、特に限定されるものではなく、従来公知の薄膜プロセスおよび微細加工プロセスを用いて製造することができる。例えば、まず、WやTaなどを用いた金属スパッタ、またはダマシン法による銅配線プロセス等により、表面が平坦化された電極10を形成する。
次に、平坦化された電極10上に酸化物層30aを、原子層エピタキシー(ALE=Atomic Layer Epitaxy)、スパッタ装置によるスパッタ法等により形成し、積層させて、電子を伝導する伝導パスが電極10から電極20へ向かって形成されるように、酸化物層30aを形成する。
好ましくは、CoO層またはHfO2層(110)方向が、電極10から電極20へ向かう方向に沿って、酸化物層30aを形成する。換言すると、電極10の表面に対してCoO層またはHfO2層の(110)方向が垂直となるように、酸化物層30aを形成する。
そして、酸化物層30a上に、WやTaなどを用いた金属スパッタ、またはダマシン法による銅メッキを用いた銅配線プロセス等により電極20を形成させる。上記工程を経ることにより、酸化物層30aを備える不揮発性メモリセル1を製造することができる。なお、銅配線プロセスを用いる場合は、バリアメタルとしてWまたはTaなどを用いればよい。
上記不揮発性メモリセル1によれば、電極10と電極20との間に電圧を印加することによって、酸化物層30aであるCoO層またはHfO2層において、(110)方向に酸素欠損が生成される。(110)方向に配列した酸素欠損の周囲には、伝導パスが形成され、この伝導パスは電極10から電極20に向かう方向に沿って位置するため、導電パスを通って電子が移動し易い。
上述したように、フェルミエネルギー近傍に電子エネルギー準位が生成されるため、抵抗値が大きく変化する。電圧(あるいは電流)の印加を停止しても、高電位電極側での原子変移が維持されるため、抵抗値も維持される。そのため、酸化物層30aおよび酸化物層30bは、不揮発性を示す。
また、不揮発性メモリセル1では電子の移動が容易であるため、高速応答性を有す。高速応答性を有する上記不揮発性メモリセルは、大容量のデータを取り扱い可能である。さらに、不揮発性メモリセル1は、現在の半導体プロセスを用いて製造できる。そのため、半導体プロセスとの整合性も良く、製造が容易で、低コストで製造可能となり、様々な機能デバイスへの利用が可能である。
ところで、半導体プロセスでは、水素処理が行われることが多い。この水素処理の際に水素が酸化物層30aを還元して、酸化物層30中の酸素欠損に水素が移動してしまう虞がある。そこで、本発明者らは、一般密度勾配近似法を用いて水素処理がCoO層に及ぼす影響を計算した。図19は、水素処理無しの場合のCoO層を示す図である。図19(a)は、酸素欠損無しのCoO層のバンド図、図19(b)は、酸素欠損ありのCoO層のバンド図、図19(c)は、酸素欠損ありのCoO層に対して電子がトラップされた状態を示すバンド図である。また、図19(d)は、図19(c)のCoO層に対応する、a−c面での電子密度分布を示す断面図である。
図19(a)に示すように、酸素欠損なしの場合、フェルミ準位をまたぐ軌道は確認されず、酸素欠損ありの場合にも、フェルミ準位には軌道が届いていない。しかし、酸素欠損あり、かつ、電子トラップがなされた場合(図19(c))、フェルミ準位をまたぐ軌道が確認され、電子の伝導性が発現されることを確認できた。
一方、本発明者らは、水素処理がなされたCoO層に対しても一般密度勾配近似法を用いて計算を行った。この場合、CoO層には水素原子が拡散しており、酸素欠損の位置にH原子が位置することとなる。図20は、水素処理ありの場合のCoO層を示す図であり、図20(a)は、酸素欠損ありのCoO層のバンド図、図20(b)は、酸素欠損ありのCoO層に対して電子がトラップされた状態を示すバンド図である。また、図20(c)は、図20(b)のCoO層に対応する、a−c面での電子密度分布を示す断面図である。
図20(a)に示すように、酸素欠損なしの場合、フェルミ準位をまたぐ軌道は確認されず、酸素欠損ありの場合に電子をトラップした状態でも、フェルミ準位には軌道が届いていない。これでは、電子導電性を発現できず、不揮発性メモリセルを実現できない。このような現象はHfO2層についても同様である。このように、酸化物層の水素処理により、不揮発性メモリセルに不具合が生じる。
水素拡散の有無、および、電子トラップの有無の比較のために、一般密度勾配近似法を用いて計算を行った。図21および図22に、モデルとなるCoO層である酸化物層30dの断面図および対応するCoO層のバンド図を示す。
図21のCoO層には水素が拡散されておらず、酸素欠損有のCoO層にて電子がトラップされると、フェルミ準位の近傍に電子状態が生じていることがバンド図から分かる。また、図22では、電子トラップ無の状態で酸素欠損2に水素Hが拡散しており、−0.5eV付近に電子状態が全く生じていないことが分かる。さらに、CoO層30dに電子をトラップさせても、フェルミ準位の近傍に電子状態は生じない。これは、水素HによってReRAMの動作が阻害されることを示している。
そこで、好ましい形態として、不揮発性メモリセル1を半導体プロセスを用いて製造する場合には、不揮発性メモリセル1には、図23のように、電極10、電極20および酸化物層30のそれぞれの端面を遮蔽する端面遮蔽膜40が形成されていることが好ましい。図23は、端面遮蔽膜40を備える不揮発性メモリセル1aを示す断面図である。
これにより、それぞれの端面において、水素が遮蔽されて水素が酸化物層30まで到達されないため、酸素欠損にH原子が入り込むことを防ぐことができる。これにより、酸素欠損を保持すると共に伝導パスの発生を確保できる。ひいては、不揮発性メモリセル1aの特性劣化を防止することができる。この端面遮蔽膜40の材料としては、SiNなどの窒化物が好ましい。また、端面遮蔽膜40の厚さは特に限定されないが、H原子から端面を好適に遮蔽する観点から、10nm以上、500nm以下であることが好ましい。
なお、不揮発性メモリセル1・1aにおいて、酸化物層30の抵抗を変化させるために印加する電圧(または電流)については、特に限定されるものではなく、酸化物層30の抵抗値を変化させることが可能な電圧(または電流)であればよい。しかし、CMOS LSIプロセスとの整合上、低電圧(または低電流)であることが好ましい。さらに、情報の書き込みおよび読み出し速度は、特に限定されるものではないが、1μ秒間以下で書き込み、読み出し可能であることが好ましく、100ナノ秒間以下で書き込み、読み出し可能であることがより好ましい。特に、100ナノ秒間以下での書き込み、読み出しが可能な形態とすることにより、不揮発性メモリセル1をDRAMに代用することが可能となる。
図24は、本発明の端面遮蔽膜40を備える不揮発性メモリセル1bを示す断面図である。不揮発性メモリセル1bでは、不揮発性メモリセル1aの構造に加えて、電極10および電極20のそれぞれの表面に水素吸蔵層41が形成されている。水素吸蔵層41は、水素原子(水素イオン)を吸収し、層内に貯蔵可能な材料で構成されている。このような材料としては、カーボンナノチューブなどが挙げられ、カーボンナノチューブが集積された層を水素吸蔵層41に適用できる。また、水素吸蔵層41の材料として、TiCo、金属-有機構造体(Metal-Organic Framework; MOF)も挙げられる。TiCoは、希土類を用いないことで安価に製造出来るというメリットがあり、金属-有機構造体は、有機配位子と配位方向が規定された金属クラスターの間で錯体形成を行って得られる周期性の高い結晶性化合物である。
水素吸蔵層41の厚さは特に限定されないが、H原子を好適に吸蔵する観点から、10nm以上、500nm以下であることが好ましい。
図25は、本発明の端面遮蔽膜40を備える不揮発性メモリセル1cを示す断面図である。不揮発性メモリセル1cでは、不揮発性メモリセル1bの構造に加えて、端面遮蔽膜40と水素吸蔵層41との界面を遮蔽する界面遮蔽膜42が形成されている。
界面遮蔽膜42が上記界面を遮蔽するように形成されていることで、上記界面から水素原子(水素イオン)が侵入することを防ぐと共に、不揮発性メモリセル1cの端面付近において、界面遮蔽膜42側から水素原子が酸化物層30に到達するまでの距離が長くなり、水素原子が酸化物層30に非常に侵入し難くなる。
<2.本発明に係る抵抗可変型不揮発性装置>
本発明に係る不揮発性メモリセルは、上述したような構造を有し、電子の状態のみで制御されるため、繰り返しの書き込みおよび消去に対する動作の安定性および再現性に優れている。したがって、本発明に係る不揮発性メモリセルは、抵抗可変型不揮発性メモリ装置に適用することができる。つまり、本発明には、本発明に係る不揮発性メモリセルを用いたデバイス、例えば、抵抗可変型不揮発性メモリ装置、さらには、該抵抗可変型不揮発性メモリ装置を備えるシステムLSIのような各種装置も含まれる。ここでは、本発明に係る不揮発性メモリセルの利用形態として、抵抗可変型不揮発性メモリ装置について説明する。なお、「抵抗可変型不揮発性メモリ装置」を「不揮発性メモリ装置」と適宜省略する。
本発明に係る不揮発性メモリ装置は、上述した本発明に係る不揮発性メモリセルを集積化したものである。例えば、電気的に接続された上記不揮発性メモリセルとスイッチング素子とのセットを基板上にアレイ状に配した構成のものを挙げることができる。ここで、本発明の一実施形態として、本発明に係る不揮発性メモリセルをMOS FETを用いたスイッチング素子と電気的に接続し、高集積化された不揮発性メモリ装置についてより具体的に説明する。
本発明に係る不揮発性メモリ装置は、上記の不揮発性メモリセルとスイッチング素子とが電気的に接続されることにより構成されているものである。具体的には、不揮発性メモリ装置は、複数のトランジスタ(スイッチング素子)が設けられた基板、該基板上に設けられた電極(第1電極)および対となる電極(第2電極)、およびこれらの電極の間に配置された酸化物層を備えている。すなわち、上記基板には、複数のトランジスタと、複数の不揮発性メモリセルとが設けられている。
図26は、本発明に係る不揮発性メモリ装置100の一部を示す回路図であり、不揮発性メモリセル1およびトランジスタ4が1対の状態を示している。不揮発性メモリ装置100は、不揮発性メモリセル1、トランジスタ4、ワード線L1およびビット線L2を備えている。不揮発性メモリセル1およびトランジスタ4は図示しない基板上に配置されており、不揮発性メモリセル1およびトランジスタ4は基板上に複数備えられている。
不揮発性メモリセル1中の電極10・20および酸化物層30a・30bの図示を省略しているが、複数の電極10または電極20は、複数のトランジスタ4と電気的に接続されて構成されている。つまり、図26に示すように、不揮発性メモリセル1は、トランジスタ4と電気的に接続されている。また、トランジスタ4は、ワード線L1と接続されており、不揮発性メモリセル1は、ビット線L2に接続されている。このような不揮発性メモリセル1およびトランジスタ4の対が複数基板上に備えられおり、それぞれの不揮発性メモリセル1はワード線L1と接続され、それぞれのトランジスタ4はビット線L2と接続されている。
上記構成によれば、電極10と電極20との間に電圧(または電流)を印加することで抵抗が変化する。したがって、例えば、複数のビット線L2のうちのBnと、複数のワード線L1のうちのWnとを選択することによって、(Bn,Wn)の不揮発性メモリセル1への書き込みまたは読み出しを所定の印加電圧を可変にして行うことが可能となる。
上記トランジスタ4は、特に限定されるものではなく、あらゆるトランジスタを用いることができる。例えば、MOSトランジスタを好適に用いることができる。
なお、電極10・20、および酸化物層30a・30bについては、〔4.CoO層における挙動シミュレーション〕で説明したものと同一であるので、ここでは説明を省略する。
本実施形態に係る不揮発性メモリ装置100は、MOS FETを用いたスイッチング素子上に、不揮発性メモリセル1を形成することにより製造することができる。ここで、本実施形態に係る不揮発性メモリ装置100の製造方法の一例について、図27を参照しながら説明する。図27は、不揮発性メモリ装置100を示す断面図である。なお、不揮発性メモリ装置100は、好ましい形態として端面遮蔽膜40が形成された不揮発性メモリセルを備えている。不揮発性メモリ装置100において、端面遮蔽膜40を備えない構成としてもよい。
図27に示されるように、MOSゲート51、MOSソース52およびMOSドレイン43を備えるトランジスタ4(スイッチング素子)が、複数、アレイ状に設けられた基板60上に、絶縁層44を形成する。絶縁層44には、MOSドレイン53の上にコンタクトホールを形成し、当該コンタクトホールに埋め込み金属50を充填し、CMP(Chemical Mechanical Polishing)プロセスにより埋め込み金属50を平坦化する。
その後、金属スパッタ、またはダマシン法による銅配線プロセス等により平坦化された電極10を埋め込み金属50上に形成する。そして、平坦化された電極10上に、酸化物層30を、アトミックレイヤーデポジション(Atomic Layer Deposition;ALD)やMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)等により形成し、積層させる。そして、酸化物層30上に、金属スパッタ、またはダマシン法による銅配線プロセス等により平坦化された電極20を形成させる。
電極10、酸化物層30および電極20を所定形状に形成した後、電極10、酸化物層30および電極20にSiNなどの窒化物層を形成する。その後、電極10、酸化物層30および電極20の端面以外の不要な窒化物層を取り除くことで、端面遮蔽膜40を形成することができる。端面遮蔽膜40を形成しない場合、本工程は不要である。
そして、絶縁層44の上に絶縁層45を形成する。続いて、所望の微細形状の加工を行う。その際、加工方法は特に限定されるものではなく、半導体プロセスや、GMRやTMR磁気ヘッドや磁気メモリ(MRAM)などの磁性デバイス作製プロセス等で用いられる従来公知の方法を用いることができる。例えば、ステッパー等を用いたフォトリソグラフィー技術により、微細パタ−ン形成し、RIE(Reactive Ion Etching)等のエッチング法によりエッチングする。この際、電極20を接続する配線(図示しない)が形成される。上記工程を経ることにより、不揮発性メモリ装置100を製造することができる。なお、図27では、MOSソース52の引き出し電極は図示していないが、従来の技術を用いて当該引き出し電極を形成すればよい。
なお、埋め込み金属50の材料を電極10の材料と同じものにすることが好ましい。つまり、電極10の材料がTa,W,HfまたはCuである場合、埋め込み金属50も電極10と同じ材料にする。これにより、埋め込み金属50と電極10とを連続して形成することができる。
また、電極10の材料がTa、W、HfまたはCuである場合、電極20の材料を、電極20と接続する配線に使用される金属(例えば、Cuなどの量産性に優れたもの)を用いてもよい。
本発明に係る不揮発性メモリ装置は、上記の実施形態で説明したように、本発明に係る不揮発性メモリセルを備えているため、情報の書き込み、および消去を高速に行うことができる。また、したがって、本発明に係る不揮発性メモリ装置は、デジタルスチールカメラや携帯電話などのモバイル機器に搭載する不揮発性メモリとして好適に用いることができる。
<3.本発明に係る選定方法>
本発明に係る選定方法は、不揮発性メモリの遷移金属酸化物層の材料として使用される遷移金属酸化物の選定方法に関するものである。
当該選定方法で行う計算は、第一原理計算によって行われる。本選定方法に係る第一原理計算は、密度汎関数理論に基づくものであり、一般密度勾配近似法によるものであって、〔2.計算手法〕、〔3.原子距離の遷移についての挙動シミュレーション〕、〔4.CoO層における挙動シミュレーション〕および〔5.HfO2層における挙動シミュレーション〕における第一原理計算と同一である。当該選定方法は、以下に示す工程a〜工程dを含み、以下、各工程についてフローチャートと共に説明する。図28は、本発明の選定方法の一例を示すフローチャートである。
〔工程a〕
工程aは、遷移金属酸化物の単位格子における原子配置において、2つの酸素原子を酸素欠損に置換した複数の欠損配置の酸素欠損生成エネルギーを計算および比較し、酸素欠損生成エネルギーが最も小さな欠損配置を決定する工程である。
上記「遷移金属酸化物の単位格子における、遷移金属酸化物の原子配置」における遷移金属酸化物は特に限定されるものではなく、公知の遷移金属が対象となる。遷移金属酸化物を構成する遷移金属としては、スカンジウム(Sc)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)亜鉛(Zn)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)モリブデン(Mo)、テクネチウム(Tc)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、カドミウム(Cd)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、レニウム(Re)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、金(Au)が挙げられる。
また、上記遷移金属を含む遷移金属酸化物としては、特に限定されないが、例えば、Sc2O3、TiO2、V2O4、V2O3、CrO3、MnO、MnO2、FeO、Fe3O4、CoO、Co2O3、Co3O4、NiO、Cu2O、CuO、ZnO、Y2O3、ZrO2、Nb2O5、MoO2、MoO3、TcO2、Tc2O7、RuO2、RuO4、Rh2O3、PdO、Ag2O、CdO、La2O3、Ce2O3、CeO2、Pr6O11、Nd2O3、Sm2O3、Eu2O3、Gd2O3、Tb4O7、Dy2O3、Dy2O3、Ho2O3、Er2O3、Tm2O3、Yb2O3、Lu2O3、HfO2、Ta2O5、WO2、WO3、ReO2、Re2O7、OsO4、IrO2、PtO、PtO2、Au2O3などが挙げられる。
本発明の選定方法では、まず、工程aを行う。工程aを実施する一例として、以下のS1〜S4を示す。
まず、S1において、遷移金属酸化物の単位格子(ユニットセル)における遷移金属酸化物の原子配置を決定する(図28のS1:Sはステップ(工程)を示す)。上記原子配置の決定は、第一原理計算にて計算される。
次に、S2において、上記単位格子における遷移金属酸化物の原子配置のうち、1つの酸素原子を酸素欠損に置換した原子配置を第一原理計算にて計算する。遷移金属酸化物がCoOである場合の欠損配置は図5に示す通りである。
さらに、S2の原子配置における酸素欠損において、2つの酸素原子を酸素欠損に置換した複数の欠損配置の酸素欠損生成エネルギーを計算する(S3)。酸素欠損配置は、S1の原子配置において、2つの酸素原子が酸素欠損に置換されたものでもある。
1つ目の酸素欠損に対する2つ目の酸素欠損の位置をどのように選択するかによって、複数の酸素欠損配置が決定され、複数の酸素欠損配置は、酸素欠損生成エネルギーが異なる。S3では、最初に計算した酸素欠損配置とは異なる酸素欠損配置についても酸素欠損生成エネルギーを計算し、さらに、先の2つの酸素欠損配置とは異なる酸素欠損配置についても酸素欠損生成エネルギーを計算する。このように、少なくとも3種類の酸素欠損配置の酸素欠損生成エネルギーを計算することが望ましい。
遷移金属酸化物がCoOの場合について図5を用いて説明すると、まず、1位の酸素原子が酸素欠損に置換された酸素欠損配置の酸素欠損生成エネルギーを計算する。次に、1位の酸素原子とは異なる、2位の酸素原子が酸素欠損に置換された酸素欠損配置の酸素欠損生成エネルギーを計算する。さらに、1位および2位の酸素原子とは異なる、3位の酸素原子が酸素欠損に置換された置換された酸素欠損配置の酸素欠損生成エネルギーを計算する。なお、図5における1位〜3位の酸素原子を酸素欠損に置換した酸素欠損配置以外の酸素欠損配置は、酸素欠損生成エネルギーが大きいため、説明を省略する。
発明者らの知見によれば、酸素欠損の周囲に新たな酸素欠損が生じ易いことが明らかとなっている。このため、2つ目の酸素原子は、1つ目の酸素欠損が配置している軸に配置しており、1つ目の酸素欠損から離間した酸素原子のうち2番目以内に近く離間した酸素原子であることが好ましい。このように酸素欠損の周囲において、2つ目の酸素原子を選択することにより、酸素結成生成エネルギーが小さな酸素欠損配置を容易に見出すことができる。
S4では、S3で計算した複数の酸素欠損生成エネルギー同士を比較し、酸素欠損生成エネルギーが最も小さな酸素欠損配置を決定する。図5を用いて説明すると、1位〜3位の酸素原子が酸素欠損に置換されたそれぞれの酸素欠損配置の酸素欠損生成エネルギー同士を比較し、最も酸素欠損生成エネルギーが小さな酸素欠損配置として、酸素欠損2に対して1位の酸素原子を酸素欠損に置換した配置を決定する。
〔工程b〕
工程bは、上記酸素欠損生成エネルギーが最も小さな欠損配置の電子状態密度を計算する工程であり、S5が工程bに対応する。S5では、上記酸素欠損生成エネルギーが最も小さな欠損配置の電子状態密度を計算する。すなわち、S4での酸素欠損生成エネルギーが最も小さな欠損配置の電子状態密度を計算する。遷移金属酸化物がCoOの場合、CoOの原子配置の電子状態密度は、図7(a)(酸素欠損無)に示す通りである。
工程bは、工程aの後、工程dの前になされていればよい。よって、図28のフローチャートでは、S4の後にS5を行っているが、以下のS6の後、S7の前にS5を行ってもかまわない。
〔工程c〕
工程cは、上記酸素欠損生成エネルギーが最も小さな欠損配置において、価電子を1つ増加させた価電子増加配置の電子状態密度を計算する工程であり、S6は工程cに対応する。
S6では、S4で決定した酸素欠損生成エネルギーが最も小さな欠損配置において、価電子を1つ増加させた価電子増加配置の電子状態密度を計算する。上記「価電子増加配置」とは、上記欠損配置において価電子を1つ注入した状態の原子配置(原子状態)を示すものであり、第一原理計算によってシミュレートされる。遷移金属酸化物がCoOの場合については、価電子増加配置の電子状態密度は、図7(b)(酸素欠損有+電子注入)にて示した通りである。
〔工程d〕
工程dでは、上記遷移金属酸化物を不揮発性メモリセルの遷移金属酸化物層の材料として選定する条件を判定する。工程dは、(1)上記酸素欠損生成エネルギーが最も小さな欠損配置の電子状態密度においてフェルミ準位の近傍に電子状態が存在しておらず、(2)上記価電子増加配置の電子状態密度においてフェルミ準位の近傍に電子状態が存在している場合、上記遷移金属酸化物を不揮発性メモリセルの遷移金属酸化物層の材料として選定する工程である。S7〜S8は、工程dに含まれる。
S7では、S5で計算した酸素欠損生成エネルギーが最も小さな欠損配置の電子状態密度においてフェルミ準位の近傍に電子状態が存在していないことを判定する。遷移金属酸化物がCoOの場合については、図7(a)(酸素欠損無)に示したように、フェルミ準位近傍に電子状態が生じていない(Yes)。この場合、S8に移行する。ここで、「フェルミ準位近傍に電子状態が生じていない」とは、「フェルミ準位を跨ぐ軌道が生じていない」ことを意味する。
一方、S5で計算した酸素欠損生成エネルギーが最も小さな欠損配置の電子状態密度においてフェルミ準位の近傍に電子状態が存在している場合(No)、すなわち、フェルミ準位を跨ぐ軌道が生じている場合、当該遷移金属酸化物は、不揮発性メモリセルの遷移金属酸化物層の材料として不適切であると判断し(S9)、一連のフローを終了する(End)。
S8では、S6で計算した価電子増加配置の電子状態密度においてフェルミ準位の近傍に電子状態が存在していることを判定する。遷移金属酸化物がCoOの場合については、図7(b)(酸素欠損有+電子注入)に示したように、フェルミ準位近傍に電子状態が生じている(Yes)。ここで、「フェルミ準位近傍に電子状態が生じている」とは、「フェルミ準位を跨ぐ軌道が生じている」ことを意味する。一方、(2)の条件を満たさない場合、不揮発性メモリセルの遷移金属酸化物層の材料として不適切であると判断し(S9)、一連のフローを終了する(End)。
上記S7の(1)の条件を満たすということは、外部電場を印加していない状態で遷移金属酸化物が高抵抗状態となることを意味し、S8の(2)の条件を満たすということは、価電子増加配置において伝導パスが形成されていることを意味する。よって、両条件を満たす遷移金属酸化物は不揮発性メモリセルの遷移金属酸化物層の材料として好適に使用できると選定される。
図7〜図9を用いて上述したように、CoOは(1)および(2)の条件を満たし、不揮発性メモリセルの遷移金属酸化物層の材料として好適である。また、図13〜図15を用いて上述したように、HfO2も(1)および(2)の条件を満たし、不揮発性メモリセルの遷移金属酸化物層の材料として好適である。
従来技術は、「酸素欠損の有無と、酸素欠損における電子のトラップ、デトラップが抵抗変化の原因である」という試作実験に基づく現象論的な類推に留まっており、どのような種類の遷移金属酸化物が不揮発性メモリセルの遷移金属酸化物層の材料として好適であるか見出すことはできなかった。本発明の選定方法は、遷移金属酸化物層の材料の新たな設計指標を提供するものであり、第一原理計算を用いて、不揮発性メモリセルの遷移金属酸化物層の材料として好適な遷移金属酸化物を選定できる。その結果、高性能な不揮発性メモリを提供することが可能となる。
S8にて、不揮発性メモリセルの遷移金属酸化物層の材料として(2)の条件を満たす遷移金属酸化物を選定して(Yes)、一連のフローを終了してもよいが、図28に示すフローチャートでは、好ましい実施形態として、工程dが、上記(1)および(2)の条件に加えて、さらに、(3)横軸を波数とし、縦軸をエネルギーとした際のフェルミ準位との交点における遷移金属酸化物のバンド曲線の傾きが飽和しない場合、上記遷移金属酸化物を遷移金属酸化物層の材料として再度選定する工程となっている。
上記のように、バンド曲線の傾きが飽和しなければ、フェルミ準位をまたぐ電子状態の傾きが非常に大きい。このような遷移金属酸化物の有効質量は小さいため、伝導パスにおける電子の移動に関してリニア性が高く、光速に近い超高速動作が可能な不揮発性メモリセルの遷移金属酸化物層の材料として好適である。なお、上記傾きは、エネルギー(eV)を波数(cm−1)で微分したものとして表される。
S10は、上記(3)の条件に係るステップであり、工程dに好ましく含まれる。S10では、(3)の条件として、(3)横軸を波数とし、縦軸をエネルギーとした際のフェルミ準位との交点における遷移金属酸化物のバンド曲線の傾きが飽和しないことが判定される。ここで、バンド曲線の傾きが飽和しないとは、バンド曲線の傾きが急(勾配が大きい)であることを示し、バンド曲線の傾きが飽和するとは、バンド曲線の傾きが緩やか(勾配が小さい)であることを示す。
図15の左図に示すように、HfO2の場合、フェルミ準位との交点におけるHfO2のバンド曲線の傾きは、急な直線状であり、(3)の条件を満たす(Yes)。このため、S10からS11に移行し、HfO2は遷移金属酸化物層の材料として非常に適切であると判定する。
HfO2の場合、バンド曲線が飽和しない理由としては、図15に示す伝導パスの構造に起因すると考えられる。すなわち、HfO2の伝導パスは、直線状ではなく、電極同士を繋ぐように広がっているため、電子の移動を束縛せず、電子の自由度が高い。よって、電子が超高速で移動可能であり、バンド曲線が飽和しない。
さらに、HfO2層を含む不揮発性メモリセルは歩留まりが高いという点でも有利である。HfO2層を含む不揮発性メモリセルを製造するに際し、HfO2層の形成に誤差が生じたとしても、HfO2の伝導パスは電極同士を繋ぐように広がっているため、伝導パスによる電子の経路が経たれ難いと考えられる。また、単結晶でないHfO2層を含む不揮発性メモリセルにおいても伝導パスを形成し易く、多様な製造方法にて製造することも可能である。
一方、図9の左図に示すように、CoOの場合、フェルミ準位との交点におけるCoOのバンド曲線の傾きは、飽和しており、(3)の条件を満たさない(No)。このため、S10からS12に移行し、遷移金属酸化物層の材料として非常に適切ではないものの、適切であると判定する。
CoOの場合、バンド曲線が飽和する理由としては、図9に示す伝導パスの構造に起因すると考えられる。すなわち、CoOの伝導パスは、直線状であり、電子の移動が束縛され易い傾向があり、電子の自由度が低い。
当該判定方法によれば、遷移金属酸化物層の材料として適切な遷移金属酸化物はもちろん(S12)、非常に適切な遷移金属酸化物層についても判定可能である(S11)。
〔工程e〕
さらに、当該判定方法において、複数種類の遷移金属酸化物に対して、上記工程a〜工程dを行い、図示しないが、複数の工程dにおいて複数種類の遷移金属酸化物を遷移金属酸化物層の材料として選定し、これら遷移金属酸化物のうち、最も優れたものを遷移金属酸化物層の材料として再度選定してもよい。
再度選定する基準としては、「フェルミ準位との交点における遷移金属酸化物のバンド曲線の傾き」を用いる。すなわち、複数の工程dにおいて選定した複数種類の遷移金属酸化物のうち、「横軸を波数とし、縦軸をエネルギーとした際のフェルミ準位との交点における遷移金属酸化物のバンド曲線の傾き」が最も大きな遷移金属酸化物を、遷移金属酸化物層の材料として再度選定する。これにより、遷移金属酸化物層の材料として複数種類の遷移金属酸化物が選定された場合であっても、最も好適な遷移金属酸化物を容易に再選定することができる。
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。