JP2013144638A - 圧電/電歪セラミックス焼結体 - Google Patents

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Abstract

【課題】高電界印加時の電界誘起歪が大きいニオブ酸アルカリ系の圧電/電歪セラミックス焼結体を提供する。
【解決手段】圧電/電歪セラミックス焼結体は、Li,Na及びKからなる群より選択される少なくとも1種類の元素をAサイト構成元素として含み、Nb及びTaからなる群より選択される少なくとも1種類の元素をBサイト構成元素として含むペロブスカイト型酸化物を主結晶相とする。圧電/電歪セラミックス焼結体においては、格子歪層112が少ないことが望ましく、第1の格子面のX線回折の強度と結晶学的な対称性の低下により第1の格子面とは面間隔が異なる第2の格子面のX線回折の強度との合計に対するドメイン壁の近傍に存在する格子歪層による散漫散乱の強度の比である散漫散乱強度比が高温エージング処理により0.33以下とされることが望ましい。
【選択図】図7

Description

本発明は、高電界印加時の電界誘起歪が大きいニオブ酸アルカリ系の圧電/電歪セラミックス焼結体に関する。
圧電/電歪アクチュエータは、サブミクロンのオーダーで変位を精密に制御することができるという利点を有する。特に、圧電/電歪セラミックス焼結体を圧電/電歪体として用いた圧電/電歪アクチュエータは、変位を精密に制御することができる他にも、電気機械変換効率が高く、発生力が大きく、応答速度が速く、耐久性が高く、消費電力が少ないという利点も有する。このため、圧電/電歪セラミックス焼結体を圧電/電歪体として用いた圧電/電歪アクチュエータは、これらの利点を生かして、インクジェットプリンタのヘッドやディーゼルエンジンのインジェクタ等に採用されている。
圧電/電歪アクチュエータ用の圧電/電歪セラミックス焼結体としては、従来、チタン酸ジルコン酸鉛系のものが用いられていた。しかし、焼結体からの鉛の溶出が地球環境に与える影響が強く懸念されるようになってからは、ニオブ酸アルカリ系のものも検討されている。
特許文献1は、本願発明と関連する文献公知発明が記載された先行技術文献である。特許文献1には、ニオブ酸アルカリ系の圧電/電歪セラミックス焼結体のドメイン構造についての言及がある。
特開2008−78267号公報
しかし、従来のニオブ酸アルカリ系の圧電/電歪セラミックス焼結体では、高電界印加時の電界誘起歪を向上することができるドメイン構造が不明であり、その結果として、大きな高電界印加時の電界誘起歪を得ることができなかった。
本発明は、この問題を解決するためになされたもので、高電界印加時の電界誘起歪が大きいニオブ酸アルカリ系の圧電/電歪セラミックス焼結体を提供することを目的とする。
上記課題を解決するため、請求項1の発明は、Li,Na及びKからなる群より選択される少なくとも1種類の元素をAサイト構成元素として含み、Nb及びTaからなる群より選択される少なくとも1種類の元素をBサイト構成元素として含むペロブスカイト型酸化物を主結晶相とし、第1の格子面のX線回折の強度と立方晶から対称性が低下したことにより生じた第1の格子面とは面間隔が異なる第2の格子面のX線回折の強度との合計に対するドメイン壁の近傍に存在する格子歪層による散漫散乱の強度の比である散漫散乱強度比が高温エージング処理により0.33以下とされた圧電/電歪セラミックス焼結体である。
請求項2の発明は、分極方向と垂直な面におけるc軸配向度が3以下である請求項1に記載の圧電/電歪セラミックス焼結体である。
請求項3の発明は、主成分の組成が一般式{Li(Na1−x1−y(Nb1−z−wTaSb)Oであらわされ、0.9≦a≦1.1,0.2≦x≦0.8,0.0≦y≦0.1,0.0≦z≦0.5,0<w≦0.1であって、主成分100モル部に対して0.05モル部以下の副成分Biを含む請求項1又は請求項2に記載の圧電/電歪セラミックス焼結体である。
請求項4の発明は、主成分の組成が一般式{Li(Na1−x1−y(Nb1−z−wTaSb)Oであらわされ、0.9≦a≦1.1,0.2≦x≦0.8,0.0≦y≦0.1,0.0≦z≦0.5,0<w≦0.1である請求項1又は請求項2に記載の圧電/電歪セラミックス焼結体である。
請求項5の発明は、主成分の組成が一般式[{Li(Na1−x1−y1−tBi(Nb1−zTa)Oであらわされ、0.9≦a≦1.1,0.2≦x≦0.8,0.0≦y≦0.1,0.0≦z≦0.5,0.0<t≦0.1である請求項1又は請求項2に記載の圧電/電歪セラミックス焼結体である。
請求項6の発明は、Mn,Ag,Cr,Fe,Co,Ni,Cu及びZnからなる群より選択される少なくとも1種類の金属元素をさらに含む請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の圧電/電歪セラミックス焼結体である。
請求項7の発明は、Mn,Ag,Cr,Fe,Co,Ni,Cu及びZnからなる群より選択される少なくとも1種類の金属元素の主成分100モル部に対する含有量が3モル部以下である請求項6に記載の圧電/電歪セラミックス焼結体である。
請求項1ないし請求項7の発明によれば、高電界印加時の電界誘起歪が大きいニオブ酸アルカリ系の圧電/電歪セラミックス焼結体を提供することができる。
格子歪層を含まない理想的な結晶格子を示す模式図である。 格子歪層を含む実際の結晶格子を示す模式図である。 (Li,Na,K)(Nb,Ta)O系の圧電/電歪セラミックス焼結体のX線回折プロファイルとプロファイル・フィッティングとの一例を示す図である。 第1実施形態に係る圧電/電歪セラミックスの望ましいドメイン構造を示す模式図である。 第1実施形態に係る圧電/電歪セラミックスの望ましいドメイン構造を示す模式図である。 第2実施形態に係るc軸配向度及び散漫散乱強度比の算出の流れを示すフローチャートである。 X線回折プロファイルの一例を示す図である。 第3実施形態に係る圧電/電歪セラミックス焼結体の製造の流れを示す流れ図である。 焼成プロファイルを示す図である。 第4実施形態に係る圧電/電歪アクチュエータの断面図である。 第5実施形態に係る圧電/電歪アクチュエータの断面図である。 第6実施形態に係る圧電/電歪アクチュエータの断面図である。 第7実施形態に係る圧電/電歪アクチュエータの斜視図である。 第7実施形態に係る圧電/電歪アクチュエータの縦断面図である。 第7実施形態に係る圧電/電歪アクチュエータの横断面図である。 第7実施形態に係る圧電/電歪アクチュエータの一部の分解斜視図である。 焼成キープ工程の有無及び焼成キープ工程における処理条件の影響を示す図である。 比較例1の試料の断面FE−SEM写真を示す図である。 実施例2の試料の断面FE−SEM写真を示す図である。 実施例2の試料の断面の第1の視野のIQマッピング像を示す図である。 図20の矩形の領域の内部の結晶方位の揺らぎ量をマッピングした図面代用写真図を示す図である。 実施例2の試料の断面の第2の視野のIQマッピング像を示す図である。 図22のIQマッピング像と同一の視野におけるND面のIPFマッピング像の図面代用写真を示す図である。 図22のIQマッピング像と同一の視野におけるTD面のIPFマッピング像の図面代用写真を示す図である。 図22のIQマッピング像と同一の視野におけるRD面のIPFマッピング像の図面代用写真を示す図である。 図23〜図25のIPFマッピング像のColor keyの図面代用写真を示す図である。 焼成キープ工程の有無、分極処理における処理条件、エージング処理の有無及びエージング処理における処理条件の影響を示す図である。 実施例4の試料の断面FE−SEM写真を示す図である。 焼成キープ工程の有無、分極処理における処理条件、エージング処理の有無及びエージング処理における処理条件の影響を示す図である。 焼成キープ工程の有無、分極処理における処理条件及びエージング処理の有無の影響を示す図である。
<1 第1実施形態>
第1実施形態は、圧電/電歪セラミックス焼結体に関する。
<1.1 組成>
第1実施形態に係る圧電/電歪セラミックス焼結体は、Li(リチウム),Na(ナトリウム)及びK(カリウム)からなる群より選択される少なくとも1種類の元素をAサイト構成元素として含み、Nb(ニオブ)及びTa(タンタル)からなる群より選択される少なくとも1種類の元素をBサイト構成元素として含むペロブスカイト型酸化物を主結晶相とする(Li,Na,K)(Nb,Ta)O3系の圧電/電歪セラミックス焼結体である。
主成分の組成は、一般式{Li(Na1−x1−y(Nb1−zTa)Oであらわされ、0.9≦a≦1.1,0.2≦x≦0.8,0.0≦y≦0.1,0.0≦z≦0.5を満たすことが望ましい。0.9≦a≦1.1としたのは、aがこの範囲を下回ると、焼結性が低下する傾向があり、aがこの範囲を上回ると、誘電損失が増加し、高電界印加時の電界誘起歪が低下する傾向があるからである。0.2≦x≦0.8,0.0≦y≦0.1,0.0≦z≦0.5としたのは、x,y,zがこの範囲外となると、高電界印加時の電界誘起歪が低下する傾向があるからである。
また、高電界印加時の電界誘起歪をさらに向上するため、主成分のBサイトにSb(アンチモン)を導入してもよい。この場合、主成分の組成は、一般式{Li(Na1−x1−y(Nb1−z−wTaSb)Oであらわされ、0.9≦a≦1.1,0.2≦x≦0.8,0.0≦y≦0.1,0.0≦z≦0.5,0<w≦0.1を満たすことが望ましい。w≦0.1としたのは、wがこの範囲を上回ると、高電界印加時の電界誘起歪が低下する傾向があるからである。Sbの導入による効果は、概ね、0.01≦wであらわれる。
また、高電界印加時の電界誘起歪をさらに向上するため、主成分のAサイトにBi(ビスマス)を導入してもよい。この場合、主成分の組成は、一般式[{Li(Na1−x1−y1−tBi(Nb1−zTa)Oであらわされ、0.9≦a≦1.1,0.2≦x≦0.8,0.0≦y≦0.1,0.0≦z≦0.5,0.0<t≦0.1を満たすことが望ましい。t≦0.1としたのは、tがこの範囲を上回ると、高電界印加時の電界誘起歪が低下する傾向があるからである。Biの導入による効果は、概ね、0.0001≦tであらわれる。
また、高電界印加時の電界誘起歪をさらに向上するため、主成分のBサイトにSbを導入するとともに、副成分としてBi(酸化ビスマス)を導入してもよい。この場合、主成分の組成は、一般式{Li(Na1−x1−y(Nb1−z−wTaSb)Oであらわされ、0.9≦a≦1.1,0.2≦x≦0.8,0.0≦y≦0.1,0.0≦z≦0.5,0<w≦0.1を満たすことが望ましい。w≦0.1としたのは、wがこの範囲を上回ると、高電界印加時の電界誘起歪が低下する傾向があるからである。このようなSbの導入による効果は、概ね、0.01≦wであらわれる。また、主成分100モル部に対する副成分Biの含有量は、0.05モル部以下であることが望ましい。Biの含有量がこの範囲を上回ると、高電界印加時の電界誘起歪が低下する傾向があるからである。Biの導入による効果は、概ね、0.0001≦tであらわれる。
さらに、Ag(銀),Mn(マンガン),Cr(クロム),Fe(鉄),Co(コバルト),Ni(ニッケル),Cu(銅)及びZn(亜鉛)からなる群より選択される少なくとも1種類の金属元素をさらに含ませることも望ましい。これらの金属元素の主成分100モル部に対する含有量は、3モル部以下であることが望ましい。これらの金属元素の含有量がこの範囲を上回ると、誘電損失が増加し、高電界印加時の電界誘起歪が低下する傾向があるからである。これらの金属元素の添加の効果は、概ね、0.01モル部以上であらわれる。これらの金属元素は、遷移金属元素又は典型金属元素であって、化学的な性質が類似する第4周期の6族〜12族に属する。これらの金属元素は、酸化物等として粒界に存在していてもよいし、主結晶相の粒内に含まれていてもよいし、異相に含まれていてもよい。
<1.2 c軸配向度>
第1実施形態に係る圧電/電歪セラミックス焼結体のc軸配向度は、3以下であることが望ましい。c軸配向度が3より大きくなると、非180°ドメインが少なくなり、高電界印加時の電界誘起歪が低下する傾向があるからである。また、c軸配向度は、理想的には0であることが望ましい。ここでいう「c軸配向度」とは、分極方向と垂直な面におけるc軸配向度である。
また、第1実施形態に係る圧電/電歪セラミックス焼結体は、非180°ドメインを多く含むことによってc軸配向度が3以下となっていることが望ましい。
<1.3 格子歪層と散漫散乱強度>
図1及び図2は、圧電/電歪セラミックス焼結体の格子歪層を説明する模式図である。図1は、結晶系が正方晶である場合の格子歪層を含まない理想的な結晶格子とドメイン壁とを示す模式図である。図2は、結晶系が正方晶である場合の格子歪層を含む実際の結晶格子とドメイン壁とを示す模式図である。
図1に示すように、理想的な結晶格子においては、第1のドメイン102と第2のドメイン104とは(101)面であるドメイン壁106を境界として明確に分かれている。すなわち、理想的な結晶格子は、ドメイン壁106の近傍に境界層を有していない。しかし、図2に示すように、実際の結晶格子においては、第1のドメイン108と第2のドメイン110とは(101)面であるドメイン壁114を境界として明確に分かれていない。すなわち、実際の結晶格子は、ドメイン壁114の近傍に結晶格子の周期性が低下している境界層112を有している。一般に、このような厚さを有する境界層112は、「格子歪層」と呼ばれ、格子歪層112に起因するX線の散乱は、「散漫散乱」と呼ばれている。
図3は、(Li,Na,K)(Nb,Ta)O系の圧電/電歪セラミックス焼結体のX線回折プロファイルの一例を示す図である。図3は、正方晶の(002)面(図3においては「(002)tetra」と表記されている)のピーク及び(200)面(図3においては「(200)tetra」と表記されている)のピークがあらわれる2θ角度2θ=44〜47°におけるX線回折プロファイルを示している。
図3に示すように、実測された測定プロファイル116の(002)面のピークにフィッティングしたプロファイルと測定プロファイル116の(200)面のピークにフィッティングしたプロファイルとの合成プロファイル118を求め、測定プロファイル116と合成プロファイル118とを比較すると、(002)面のピークと(200)面のピークとの間の2θ角度範囲には、合成プロファイル118では説明できないプロファイル(以下では、「ブリッジ・プロファイル」という)120が存在する。このようなブリッジ・プロファイル120と同様のプロファイルは、(001)面のピークと(100)面のピークとの間、(004)面のピークと(400)面のピークとの間等にも存在する。より一般的には、第1の格子面のピークと結晶学的な対称性の低下により第1の格子面とは面間隔が異なる第2の格子面のピークとの間には、ブリッジ・プロファイルが存在する。
ブリッジ・プロファイル120は、格子歪層112からの散漫散乱である。しかし、格子歪層112は、ドメイン壁114に向かって結晶系が少しずつ立方晶に近づいてゆくことにより、第1のドメイン108と第2のドメイン110とを連続的につなげている。このため、ブリッジ・プロファイル120は、明確なピークとはならない。
実際、図3に示すように、測定プロファイル116から合成プロファイル118を減じた残差プロファイル122は、測定プロファイル116の(002)面のピーク及び(200)面のピークの近傍で高くなり、(002)面のピークと(200)面のピークとの間でプラトー状態を維持するツノ型となる。
チタン酸ジルコン酸鉛系の圧電/電歪セラミックス焼結体においては、格子歪層112は全体の30%程度の体積を占めるといわれている(J.E.Daniels et al., J.Phys. D:Appl. Phys. 39 (2006) 5294)。また、散漫散乱の強度は、格子歪層112を伴うドメイン壁114の密度が高くなるほど高くなり、格子歪層112が厚くなるほど高くなるといわれている(A.I.Ustinov et al., Materials Science Forum 321-324 (2000) 109)。
第1実施形態に係る圧電/電歪セラミックス焼結体においては、格子歪層112が少ないことが望ましく、第1の格子面のX線回折の強度と結晶学的な対称性の低下により、すなわち、立方晶から対称性が低下したことにより第1の格子面とは面間隔が異なる第2の格子面のX線回折の強度との合計に対する格子歪層による散漫散乱の強度の比である散漫散乱強度比が0.5以下であることが望ましい。散漫散乱強度比が0.5以下となり格子歪層112が少なくなれば、高電界印加時の電界誘起歪を向上することができるからである。ここでいう「第1の格子面」は、X線回折プロファイルにおいてピークが縮退してしまうような面間隔が同じ格子面の全体、例えば、結晶系が正方晶である場合の(100)面及び(010)面の両方を含むものとする。
<1.4 ドメイン構造>
図4及び図5は、第1実施形態に係る圧電/電歪セラミックス焼結体の望ましいドメイン構造を示す模式図である。図4及び図5は、圧電/電歪セラミックス焼結体の断面におけるドメイン構造を示す断面図となっている。
図4及び図5に示すように、第1実施形態に係る圧電/電歪セラミックス焼結体は、隣接するバンド116と非180°ドメイン構造を形成する、すなわち、隣接するバンド116と結晶方位が約90°異なるバンド116が配列された「Banded構造」又は「バンド構造」と呼ばれるドメイン構造を有している。これにより、高電界印加時の電界誘起歪に代表される圧電/電歪セラミックスの特性を向上することができる。ここでいう「約90°」は、結晶系が正方晶であっても結晶格子のc軸の長さとa軸の長さとの違いやBanded構造を構成するバンド116の内部における結晶方位の揺らぎのために、隣接するバンド116との結晶方位の差が正確に90°とはならずに±2°程度のばらつきを有していることを意味している。
Banded構造には、主に、図4に示すようなバンド116が1方向に配列された縞々模様状のHerring bone型及び図5に示すようなバンド116が2方向に配列された網目模様状のSquare net型がある。第1実施形態に係る圧電/電歪セラミックス焼結体に含まれるBanded構造は、Herring bone型及びSquare net型のいずれであってもよく、Herring bone型及びSquare net型の両方が混在していてもよい。
粒内に占めるBanded構造の比率は、断面における面積比で4〜80%であることが望ましい。また、Banded構造を構成するバンド116の配列方向の幅(バンドの配列方向の幅)は、1〜10μmであることが望ましい。Banded構造を構成するバンドの中のドメインにおいて結晶方位が0.05〜0.5μm周期で−2〜2°揺らいでいることも望ましい。これにより、高電界印加時の電界誘起歪に代表される圧電/電歪セラミックス焼結体の特性を向上することができる。
<1.5 コンポジット化による散漫散乱強度比の低下>
散漫散乱強度比を低下させるため、圧電/電歪セラミックス焼結体を、組成が異なる母相と添加材相とが共存し母相の中に添加材相が分散した微構造を有するセラミックスコンポジット(セラミックス複合体)としてもよい。圧電/電歪セラミックス焼結体がセラミックスコンポジットであることは、圧電/電歪セラミックス焼結体の鏡面研磨面の元素分布をEPMA(Electron Probe Micro Analysis)等で分析することより確認される。
ここで言う母相とは、Li,Na及びKからなる群より選択される少なくとも1種類の元素をAサイト構成元素として含み、Nb及びTaからなる群より選択される少なくとも1種類の元素をBサイト構成元素として含むニオブ酸アルカリ系のペロブスカイト型酸化物である。一方、添加材相とは、前記ペロブスカイト型酸化物と組成または組成比が異なる圧電/電歪特性を示す酸化物であっても良いし、それ以外の酸化物であっても良い。
添加材相が圧電/電歪特性を示す酸化物である場合、母相の組成及び添加材相の組成は、母相単体の残留歪率より添加材相単体の残留歪率が大きくなるように選択される。これにより、圧電/電歪セラミックス焼結体(セラミックス複合体)に分極処理が行われると、母相よりも添加材相が大きく歪む。このため、母相の内部には、分極電界と平行な方向については圧縮応力が生じ、分極電界と垂直な方向については引張応力が生じる。この圧縮応力及び引張応力は、母相の非180°ドメインの可逆性を増す。母相の非180°ドメインの可逆性が増すと、母相の残留歪率が小さくなるとともに可逆歪率が大きくなり、散漫散乱強度比が低下するとともに、圧電/電歪セラミックス焼結体の高電界印加時の電界誘起歪が増加する。
添加材相「単体」及び母相「単体」の残留歪率とは、それぞれ、添加材相及び母相と同じ組成を有する圧電/電歪セラミックス焼結体を作製し残留歪率を測定することにより特定される。残留歪率の大小は、同じ分極条件で分極処理を行った場合の残留歪率で判断される。
添加材相単体の残留歪率を母相単体の残留歪率よりも大きくするため、母相の組成と添加材相の組成とは異なる。添加材相の残留歪率を母相の残留歪率よりも大きくするためには、Ta量を示す上記一般式中のzを母相よりも添加材相の方が小さくなるようにすること、Li量を示す上記一般式中のyを母相よりも添加材相の方が小さくなるようにすること、A/B比aを母相よりも添加材相の方が大きくなるようにすることが望ましい。
母相の構成元素と添加材相の構成元素とを比較した場合に共通しない元素は0種類であることが望ましい。これにより、焼成のときの母相と添加材相との間の相互拡散が抑制される。ただし、母相の残留歪率と添加材相の残留歪率との差が十分に大きい場合には、共通しない元素が1種類あっても、同様の効果が得られる。
母相は、上述の組成を有する固溶体であるが、若干の粒界偏析物を含んでいてもよい。同様に、添加材相も、上述の組成を有する固溶体であるが、若干の粒界偏析物を含んでいてもよい。
添加材相が圧電/電歪特性を示さない酸化物である場合、母相の組成及び添加材相の組成は、母相単体の熱膨張係数より添加材相単体の熱膨張係数が小さくなるように選択される。これにより、圧電/電歪セラミックス焼結体(セラミックス複合体)を焼成した後の降温過程で、熱膨張差に起因する熱応力が導入される。即ち、ニオブ酸アルカリ系のペロブスカイト型酸化物である母相を構成する粒子の粒内に圧縮応力、粒界に引張応力が導入される。この圧縮応力及び引張応力は、母相の非180°ドメインの可逆性を増す。母相の非180°ドメインの可逆性が増すと、母相の残留歪率が小さくなるとともに可逆歪率が大きくなり、散漫散乱強度比が低下するとともに、圧電/電歪セラミックス焼結体の高電界印加時の電界誘起歪が増加する。
添加材相「単体」及び母相「単体」の熱膨張係数とは、それぞれ、添加材相及び母相と同じ組成を有する焼結体を作製し熱膨張係数を測定することにより特定される。
ニオブ酸アルカリ系のペロブスカイト型酸化物より熱膨張係数が低い材料として、例えば、酸化モリブデン、酸化ニオブ、酸化スズ、酸化タングステン、酸化アルミニウム等が挙げられる。
<2 第2実施形態>
第2実施形態は、c軸配向度及び散漫散乱強度比の算出方法に関する。
<2.1 c軸配向度及び散漫散乱強度比の算出方法>
図6及び図7は、第2実施形態に係るc軸配向度及び散漫散乱強度比の算出方法を説明する図である。図6は、第2実施形態に係るc軸配向度及び散漫散乱強度比の算出の流れを示すフローチャートである。図7は、X線回折プロファイルの一例を示す図である。図7は、正方晶の(002)面(図7においては「(002)tetra」と表記されている)のピーク及び(200)面(図7においては「(200)tetra」と表記されている)のピークがあらわれる2θ角度2θ=44〜47°におけるX線回折プロファイルを示している。
(a)X線回折プロファイルの測定(ステップS201);
c軸配向度及び散漫散乱強度比の算出にあたっては、まず、2θ/θスキャンを行ってX線回折プロファイルを測定する。X線回折プロファイルの測定にあたっては、X線源、回折光学系、モノクロメータ及び検出器を有する粉末X線回折装置を用いる。測定に用いるX線は、CuKα線である。
回折光学系としては、例えば、ブラッグ−ブレンターノ集中光学系又は反射ギニエ光学系を用いる。
ブラッグ−ブレンターノ集中光学系を用いる場合、湾曲型グラファイトを結晶として用いたカウンターモノクロメータを試料と検出器の間に設置することが望ましい。CuKα線以外の余分なX線(連続X線・蛍光X線・Kβ線等)を除去して分解能を向上するためである。
反射ギニエ光学系を用いる場合、湾曲型Ge(111)単結晶を結晶として用いた入射側モノクロメータをX線源と試料との間に設置することが望ましい。CuKα線を構成するCuKα1線及びCuKα2線のうちのCuKα2線を除去して分解能を向上するためである。
ブラッグ−ブレンターノ集中光学系及び反射ギニエ光学系のいずれを用いるかにかかわらず、例えば、ゴニオメータ半径は185mm、発散スリットは1°、散乱スリットは1°、受光スリットは0.3mmとすることができる。
ただし、ここで説明したX線回折装置の構成は、一例にすぎず、十分な分解能及び精度でX線回折プロファイルを測定することができるのであれば、他の構成を採用してもよい。
(b)前処理(ステップS202);
続いて、必要な前処理を行う(ステップS202)。すなわち、ブラッグ−ブレンターノ集中光学系を用いる場合は、バックグラウンド及びKα2線による回折ピークを計算処理により除去する。また、反射ギニエ光学系を用いる場合は、入射側モノクロメータでKα2線が既に除去されているため、バックグラウンドを計算処理により除去するのみでよい。
(c)第1のピーク及び第2のピークの同定(ステップS203);
続いて、X線回折プロファイルにあらわれたピークの中から結晶学的な対称性の低下により分離した第1のピーク及び第2のピークを同定する。なお、図7においては、第1のピークとして結晶系が正方晶である場合の(002)面のピーク、第2のピークとして結晶系が正方晶である場合の(200)面のピークを選択した場合を示しているが、他のピークを選択してもよい。例えば、第1のピークとして結晶系が正方晶である場合の(001)面のピーク、第2のピークとして結晶系が正方晶である場合の(100)面のピークを選択してもよいし、第1のピークとして結晶系が正方晶である場合の(004)面のピーク、第2のピークとして結晶系が正方晶である場合の(400)面のピークを選択してもよい。
(d)第1のピーク及び第2のピークの半値幅W,W及び高さI,Iの読み取り(ステップS204);
続いて、第1のピーク及び第2のピークの半値幅W,W及び高さI,IをX線回折プロファイルから読み取る。
(e)第1のピーク及び第2のピークの面積S,Sの算出(ステップS205);
続いて、ステップS204で読み取った半値幅W,W及び高さI,Iから第1のピーク及び第2のピークの面積S=I×W,S=I×Wを算出する。面積S,Sは、それぞれ、(002)面及び(200)面のX線回折の強度をあらわしている。
(f)第1のピーク及び第2のピークの2θ角度2θ,2θの読み取り(ステップS206);
面積S1,S2の算出とは別に、第1のピーク及び第2のピークの2θ角度2θ,2θをX線回折プロファイルから読み取る。2θ角度2θ,2θは、半値幅中心法により読み取ることが望ましい。
(g)2θ角度(2θ+2θ)/2におけるX線回折プロファイルの高さIDSの読み取り(ステップS207);
続いて、ステップS206で読み取った2θ角度2θ,2θの中心の2θ角度(2θ+2θ)/2におけるX線回折プロファイルの高さIDSを読み取る。
(h)散漫散乱面積SDS=IDS×(2θ−2θ)の算出(ステップS208);
続いて、ステップS206で読み取った2θ角度2θ,2θ及びステップS207で読み取った高さIDSから散漫散乱面積SDS=IDS×(2θ−2θ)を算出する。散漫散乱面積SDSは、格子歪層による散漫散乱の強度をあらわしている。
(i)散漫散乱強度比SDS/(S+S)の算出(ステップS209);
続いて、ステップS205で算出した面積S,S及びステップS208で算出した散漫散乱面積SDSから散漫散乱強度比SDS/(S+S)を算出する。
(j)c軸配向度の算出(ステップS210);
最後に、ステップS205で算出した面積S,Sからc軸配向度(S/S)/(1/2)を算出する。c軸配向度を求める式における分母の「1/2」は、S:S=1:2となる無配向状態においてc軸配向度が「1」となるように補正するための値である。
<2.2 本算出方法の利点>
このように、高さIDSと高さI,Iの和I+Iとの比IDS/(I+I)ではなく散漫散乱面積SDSと面積S,Sの和S+Sとの比SDS/(S+S)から散漫散乱強度比を算出することにより、結晶性や正方晶性の影響を抑制して散漫散乱強度比を算出することができる。
すなわち、比IDS/(I+I)から散漫散乱強度比を算出する場合、結晶性が低くなるほど又は正方晶性が低くなるほど(002)面のピークのすそ野と(200)面のピークのすそ野との重なりが大きくなるため、高さIDSが高くなり、散漫散乱強度比が高くなってしまう。
これに対して、SDS/(S+S)から散漫散乱強度比を求める場合は、(002)面のピークのすそ野と(200)面のピークのすそ野との重なりの大小の影響は小さいので、結晶性や正方晶性が散漫散乱強度比に与える影響は小さい。
なお、面積S,S及び散漫散乱面積SDSを正確に求めるためには、「1 第1実施形態」の「1.3 散漫散乱強度」の欄で説明したようなプロファイル・フィッティングが必要である。しかし、ブリッジ・プロファイルのような明確なピークとならないプロファイルに対してプロファイル・フィッティングを行うことは高度な知識を有する分析者にとっても容易ではない。これに対して、第2実施形態に係る散漫散乱強度比の算出方法は、簡便でありながら、ニオブ酸アルカリ系の圧電/電歪セラミックス焼結体の高電界印加時の電界誘起歪を向上するための指標となる程度の精度を有する散漫散乱強度比を求めることができる。
<3 第3実施形態>
第3実施形態は、第1実施形態に係る圧電/電歪セラミックス焼結体の製造に適した電/電歪セラミックス焼結体の製造方法に関する。
図8は、第3実施形態に係る圧電/電歪セラミックス焼結体の製造の流れを示す流れ図である。
(a)圧電/電歪セラミックス粉末の作製(ステップS301);
圧電/電歪セラミックス焼結体の製造にあたっては、まず、「第1実施形態」の「組成」の欄で説明した組成を有する圧電/電歪セラミックス粉末を作製する(ステップS301)。このとき、焼成のときの揮発や拡散等を考慮して組成を若干調整した圧電/電歪セラミックス粉末を作製してもよい。
(b)成形(ステップS302);
続いて、ステップS301で作製した圧電/電歪セラミックス粉末を成形して成形体を作製する。成形は、押出成形・射出成形・加圧成形・鋳込み成形・テープ成形・冷間等方圧(CIP)成形等により行う。
(c)焼成(ステップS303);
続いて、ステップ302で作製した成形体を焼成して焼結体を作製する。焼成は、図9に示す焼成プロファイルを用いて行うことが望ましい。すなわち、第1の温度T1まで昇温して第1の温度T1をしばらく維持し(以下では、第1の温度T1を維持する工程を「焼成キープ工程」という)、その後で第2の温度T2まで昇温して第2の温度T2をしばらく維持し、最後に室温まで降温する焼成プロファイルを用いて焼成を行うことが望ましい。第1の温度T1は、800〜900℃であることが望ましく、第2の温度T2は、950〜1100℃であることが望ましい。また、第1の温度T1を維持する時間P1は、0.5〜20時間であることが望ましく、第2の温度T2を維持する時間P2は、0.5〜6時間であることが望ましい。焼成キープ工程を実行することにより、粒径の分布に2個以上のピークがあるバイモーダル構造を圧電/電歪セラミックス焼結体に導入することができ、散漫散乱強度比が0.5以下、粒内に占めるBanded構造の比率が4〜80%、Banded構造を構成するバンドの幅が1〜10μmであって、Banded構造を構成するバンドの中のドメインにおいて結晶方位が0.05〜0.5μm周期で−2〜2°揺らいでいる圧電/電歪セラミックス焼結体を得ることができる。
(d)分極処理(ステップS304);
続いて、ステップS303で作製した焼結体に分極処理を行う。分極処理は、分極処理用の電極を形成した圧電/電歪セラミックス焼結体をシリコンオイル等の絶縁油に浸漬して、分極処理用の電極に電圧を印加することにより行う。このとき、圧電/電歪セラミックス焼結体を50〜150℃に加熱する高温分極処理を実行することが望ましい。高温分極処理を実行するときには、圧電/電歪セラミックス焼結体に2〜10kV/mmの電界が印加されるようにすることが望ましい。焼成キープ工程に加えて高温分極処理を実行することにより、散漫散乱強度比をさらに低下させることができ、粒内に占めるBanded構造の比率をさらに増加させることができる。
(e)エージング処理(ステップS305);
続いて、ステップS304で分極処理が行われた圧電/電歪セラミックス焼結体にエージング処理を行う。このとき、分極用電極が開放された状態で圧電/電歪セラミックス焼結体を大気中で100〜300℃に加熱する高温エージング処理を実行することが望ましい。焼成キープ工程及び高温分極処理に加えて高温エージング処理を実行することにより、散漫散乱強度比をさらに低下させることができるとともに、粒内に占めるBanded構造の比率をさらに増加させることができ、c軸配向度を3以下に低下させることができる。
高温エージング処理によるc軸配向度の低下は、脱分極によるものではなく、主に非180°ドメインの増加によるものであると考えられる。これは、高温エージング処理を行うと、高電界印加時の電界誘起歪だけでなく比誘電率・圧電定数等も向上することができることに鑑みて、前者を否定することができるからである。
(f)圧電/電歪セラミックス焼結体をコンポジット化する場合(添加材相が圧電/電歪特性を示す酸化物の場合);
圧電/電歪セラミックス焼結体をコンポジット化する場合は、ステップS301の圧電/電歪セラミックス粉末の作製において、母相の圧電/電歪セラミックス粉末と添加材相の圧電/電歪セラミックス粉末とを混合した混合原料を準備する。
母相の圧電/電歪セラミックス粉末は、母相の構成元素の素原料を混合及び仮焼することにより作製される。
添加材相の圧電/電歪セラミックス粉末の作製にあたっては、まず、添加材相の構成元素の素原料を混合して仮焼した後に、得られた仮焼原料を成形し焼成する。続いて、得られた焼結体を粉砕して分級する。このようにして作製された添加材相の圧電/電歪セラミックス粉末の反応性は低いので、母相と添加材相とが共存する環境下で焼成を行っても、母相と添加材相との反応は起こりにくい。このことは、母相と添加材相との間の相互拡散の抑制に寄与する。
(g)圧電/電歪セラミックス焼結体をコンポジット化する場合(添加材相が母相より熱膨張係数が低い酸化物の場合);
上記添加材相を、ニオブ酸アルカリ系の酸化物以外の酸化物とした事以外は、同様の工程で圧電/電歪セラミックス焼結体が作製される。
<4 第4実施形態>
第4実施形態は、第1実施形態に係る圧電/電歪セラミックス焼結体を用いた圧電/電歪アクチュエータ402に関する。
<4.1 全体構造>
図10は、第4実施形態に係る圧電/電歪アクチュエータ402の模式図である。図10は、単層型の圧電/電歪アクチュエータ402の断面図となっている。
図10に示すように、圧電/電歪アクチュエータ402は、基体404の上面に、電極膜408、圧電/電歪体膜410及び電極膜412をこの順序で積層した構造を有している。圧電/電歪体膜410の両主面上の電極膜408,412は、圧電/電歪体膜410を挟んで対向している。電極膜408、圧電/電歪体膜410及び電極膜412を積層した積層体406は基体404に固着されている。
ここでいう「固着」とは、有機接着剤や無機接着剤を用いることなく、基体404と積層体406との界面における固相反応により、積層体406を基体404に接合することをいう。
圧電/電歪アクチュエータ402では、電圧が印加されると、印加された電圧に応じて圧電/電歪体膜410が電界と垂直な方向に伸縮し、その結果として屈曲変位を生じる。
<4.2 圧電/電歪体膜410>
圧電/電歪体膜410は、第1実施形態に係る圧電/電歪セラミックス焼結体を用いて構成される。
圧電/電歪膜410の膜厚は、0.5〜50μmであることが好ましく、0.8〜40μmであることがさらに好ましく、1〜30μmであることが特に好ましい。この範囲を下回ると、緻密化が不十分になる傾向があるからである。また、この範囲を上回ると、焼結時の収縮応力が大きくなるため、基体404の板厚を厚くする必要が生じ、圧電/電歪アクチュエータ402の小型化が困難になるからである。
<4.3 電極膜408,412>
電極膜408,412の材質は、白金・パラジウム・ロジウム・金若しくは銀等の金属又はこれらの合金である。中でも、焼成時の耐熱性が高い点で白金又は白金を主成分とする合金が好ましい。また、焼成温度によっては、銀−パラジウム等の合金も好適に用いることができる。
電極膜408,412の膜厚は、15μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがさらに好ましい。この範囲を上回ると、電極膜408,412が緩和層として機能し、屈曲変位が小さくなる傾向があるからである。また、電極膜408,412がその役割を適切に果たすためには、膜厚は、0.05μm以上であることが好ましい。
電極膜408,412は、圧電/電歪体膜410の屈曲変位に実質的に寄与する領域を覆うように形成することが好ましい。例えば、圧電/電歪体膜410の中央部分を含み、圧電/電歪体膜410の両主面の80%以上の領域を覆うように形成することが好ましい。
<4.4 基体404>
基体404の材質は、セラミックスであるが、その種類に制限はない。もっとも、耐熱性、化学的安定性及び絶縁性の観点から、安定された酸化ジルコニウム・酸化アルミニウム・酸化マグネシウム・ムライト・窒化アルミニウム・窒化ケイ素・ガラスからなる群から選択される少なくとも1種類を含むセラミックスが好ましい。中でも、機械的強度及び靭性の観点から安定化された酸化ジルコニウムがさらに好ましい。ここでいう「安定化された酸化ジルコニウム」とは、安定化剤の添加によって結晶の相転移を抑制した酸化ジルコニウムをいい、安定化酸化ジルコニウムの他、部分安定化酸化ジルコニムを包含する。
安定化された酸化ジルコニウムとしては、例えば、1〜30mol%の酸化カルシウム・酸化マグネシウム・酸化イットリニウム・酸化イッテルビウム若しくは酸化セリウム又は希土類金属の酸化物を安定化剤として含有させた酸化ジルコニウムをあげることができる。中でも、機械的強度が特に高い点で、酸化イットリニウムを安定化剤として含有させた酸化ジルコニウムが好ましい。酸化イットリニウムの含有量は、1.5〜6mol%であることが好ましく、2〜4mol%であることがさらに好ましい。また、酸化イットリニウムに加えて、0.1〜5mol%の酸化アルミニウムを含有させることもさらに好ましい。安定化された酸化ジルコニウムの結晶相は、立方晶と単斜晶との混合晶、正方晶と単斜晶との混合晶又は立方晶と正方晶と単斜晶との混合晶等であってもよいが、主たる結晶相が正方晶と立方晶との混合晶又は正方晶となっていることが、機械的強度、靭性及び耐久性の観点から好ましい。
基体404の板厚は、1〜1000μmが好ましく、1.5〜500μmがさらに好ましく、2〜200μmが特に好ましい。この範囲を下回ると、圧電/電歪アクチュエータ402の機械的強度が低下する傾向にあるからである。また、この範囲を上回ると、基体404の剛性が高くなり、電圧を印加した場合の圧電/電歪体膜410の伸縮による屈曲変位が小さくなる傾向があるからである。
基体404の表面形状(積層体406が固着される面の形状)は、特に制限されず、三角形、四角形(長方形や正方形)、楕円形又は円形とすることができ、三角形及び四角形については角丸めを行ってもよい。これらの基本形を組み合わせた複合形としてもよい。
<4.5 圧電/電歪アクチュエータ402の製造方法の概略>
圧電/電歪アクチュエータ402の製造にあたっては、まず、基体404の上に電極膜408を形成する。電極膜408は、イオンビーム・スパッタリング・真空蒸着・PVD(Physical Vapor Deposition)・イオンプレーティング・CVD(Chemical Vapor Deposition)・メッキ・エアロゾルデポジション・スクリーン印刷・スプレー・ディッピング等の方法で形成することができる。中でも、基体404と圧電/電歪体膜410との接合性の観点から、スパッタリング法又はスクリーン印刷法が好ましい。形成された電極膜408は、熱処理により、基体404及び圧電/電歪体膜410と固着することができる。
続いて、電極膜408の上に圧電/電歪体膜410を形成する。圧電/電歪体膜410は、イオンビーム・スパッタリング・真空蒸着・PVD・イオンプレーティング・CVD・メッキ・ゾルゲル・エアロゾルデポジション・スクリーン印刷・スプレー・ディッピング等の方法で形成することができる。中でも、平面形状や膜厚の精度が高く、圧電/電歪体膜を連続して形成することができる点で、スクリーン印刷法が好ましい。
さらに続いて、圧電/電歪体膜410の上に電極膜412を形成する。電極膜412は、電極膜408と同様に形成することができる。
しかる後に、積層体406が形成された基体404を一体的に焼成する。この焼成により、圧電/電歪体膜410の焼結が進行するとともに、電極膜408,412が熱処理される。
なお、電極膜408,412の熱処理を焼成とともに行うことが生産性の観点から好ましいが、このことは、電極膜408,412を形成するごとに熱処理を行うことを妨げるものではない。ただし、電極膜412の熱処理の前に圧電/電歪体膜410の焼成を行っている場合は、圧電/電歪体膜410の焼成温度より低い温度で電極膜412を熱処理する。
焼成が終わった後には、分極処理及びエージング処理を行い、圧電/電歪アクチュエータ402を完成する。
<5 第5実施形態>
第5実施形態は、第4実施形態に係る圧電/電歪アクチュエータ402の構造に代えて採用することができる圧電/電歪アクチュエータ502の構造に関する。
図11は、第5実施形態に係る圧電/電歪アクチュエータ502の模式図である。図11は、多層型の圧電/電歪アクチュエータ502の断面図となっている。
図11に示すように、圧電/電歪アクチュエータ502は、基体504の上面に、電極膜514、圧電/電歪体膜516、電極膜518、圧電/電歪体膜520及び電極膜522をこの順序で積層した構造を有している。圧電/電歪体膜516の両主面上の電極膜514,518は、圧電/電歪体膜516を挟んで対向しており、圧電/電歪体膜520の両主面上の電極膜518,522は、圧電/電歪体膜520を挟んで対向している。電極膜514、圧電/電歪体膜516、電極膜518、圧電/電歪体膜520及び電極膜522を積層した積層体506は基体504に固着されている。なお、図11には、圧電/電歪体膜が2層である場合が図示されているが、圧電/電歪体膜が3層以上となってもよい。
多層型の圧電/電歪アクチュエータ502の基体504の板厚は、積層体506が接合される中央部524が周縁部526よりも薄肉化されている。基体504の機械的強度を保ちつつ、屈曲変位を大きくするためである。なお、単層型の圧電/電歪アクチュエータ402において基体404に代えて基体504を用いてもよい。
多層型の圧電/電歪アクチュエータ502も、形成すべき圧電/電歪膜及び電極膜の数が増える点を除いては、単層型の圧電/電歪アクチュエータ402と同様に製造することができる。
<6 第6実施形態>
第6実施形態は、第4実施形態に係る圧電/電歪アクチュエータ402の構造に代えて採用することができる圧電/電歪アクチュエータ602の構造に関する。
図12は、第6実施形態に係る圧電/電歪アクチュエータ602の模式図である。図12は、多層型の圧電/電歪アクチュエータ602の断面図となっている。
図12に示すように、圧電/電歪アクチュエータ602は、図11に示す基体504を単位構造として当該単位構造が繰り返される基体604と、単位構造の各々の上に固着された積層体606とを備える。積層体606は、第5実施形態に係る積層体506と同様のものである。
圧電/電歪アクチュエータ602も、形成すべき圧電/電歪膜及び電極膜の数が増える点及び積層体の数が増える点を除いては、圧電/電歪アクチュエータ402と同様に製造することができる。
<7 第7実施形態>
第7実施形態は、第1実施形態に係る圧電/電歪セラミックス焼結体を用いた圧電/電歪アクチュエータ702に関する。
<7.1 全体構造>
図13〜図15は、圧電/電歪アクチュエータ702の模式図である。図13は、圧電/電歪アクチュエータ702の斜視図、図14は、圧電/電歪アクチュエータ702の縦断面図、図15は、圧電/電歪アクチュエータ702の横断面図となっている。
図13〜図15に示すように、圧電/電歪アクチュエータ702は、圧電/電歪体膜728と内部電極膜730とを軸Aの方向に交互に積層し、圧電/電歪体膜728と内部電極膜730とを積層した積層体706の端面740,742に、それぞれ、外部電極膜736,738を形成した構造を有している。圧電/電歪アクチュエータ702の一部を軸Aの方向に分解した状態を示す図16の分解斜視図に示すように、内部電極膜730には、端面740に達しているが端面742には達していない第1の内部電極膜732と、端面742に達しているが端面740には達していない第2の内部電極膜734とがある。第1の内部電極膜732と第2の内部電極膜734とは交互に設けられている。第1の内部電極膜732は、端面740において外部電極膜736と接し、外部電極膜736と電気的に接続されている。第2の内部電極膜734は、端面742において外部電極膜738と接し、外部電極膜738と電気的に接続されている。したがって、外部電極膜736を駆動信号源のプラス側に接続し、外部電極膜738を駆動信号源のマイナス側に接続すると、圧電/電歪体膜728を挟んで対向する第1の内部電極膜732と第2の内部電極膜734とに駆動信号が印加され、圧電/電歪体膜728の厚さ方向に電界が印加される。この結果、圧電/電歪体膜728は厚さ方向に伸縮し、積層体706は全体として図13において破線で示す形状に変形する。
圧電/電歪アクチュエータ702は、既に説明した圧電/電歪アクチュエータ402,502,602と異なり、積層体706が固着される基体を有していない。また、圧電/電歪アクチュエータ702は、パターンが異なる第1の内部電極膜732と第2の内部電極膜734とを交互に設けることから、「オフセット型の圧電/電歪アクチュエータ」とも呼ばれる。
<7.2 圧電/電歪体膜728>
圧電/電歪体膜728は、第1実施形態に係る圧電/電歪セラミックス焼結体を用いて構成される。圧電/電歪体膜728の膜厚は、5〜500μmであることが好ましい。この範囲を下回ると、後述のグリーンシートの製造が困難になるからである。また、この範囲を上回ると、圧電/電歪体膜728に十分な電界を印加することが困難になるからである。
<7.3 内部電極膜730及び外部電極膜736,738>
内部電極膜730及び外部電極膜736,738の材質は、白金・パラジウム・ロジウム・金若しくは銀等の金属又はこれらの合金である。内部電極膜730の材質は、これらの中でも、焼成時の耐熱性が高く圧電/電歪体膜728との共焼結が容易な点で白金又は白金を主成分とする合金であることが好ましい。ただし、焼成温度によっては、銀−パラジウム等の合金も好適に用いることができる。
内部電極膜730の膜厚は、10μm以下であることが好ましい。この範囲を上回ると、内部電極膜730が緩和層として機能し、変位が小さくなる傾向があるからである。また、内部電極膜730がその役割を適切に果たすためには、膜厚は、0.1μm以上であることが好ましい。
なお、図13〜図15には、圧電/電歪体膜728が10層である場合が図示されているが、圧電/電歪体膜728が9層以下又は11層以上であってもよい。
<7.4 圧電/電歪アクチュエータ702の製造方法の概略>
圧電/電歪アクチュエータ702の製造にあたっては、まず、圧電/電歪セラミックス粉末にバインダ、可塑剤、分散剤及び分散媒を加えてボールミル等で混合する。そして、得られたスラリーをドクターブレード法等でシート形状に成形してグリーンシートを得る。
続いて、パンチやダイを使用してグリーンシートを打ち抜き加工し、グリーンシートに位置合わせ用の孔等を形成する。
さらに続いて、グリーンシートの表面にスクリーン印刷等により電極ペーストを塗布し、電極ペーストのパターンが形成されたグリーンシートを得る。電極ペーストのパターンには、焼成後に第1の内部電極膜732となる第1の電極ペーストのパターンと焼成後に第2の内部電極膜734となる第2の電極ペーストのパターンとの2種類がある。もちろん、電極ペーストのパターンを1種類だけとして、グリーンシートの向きをひとつおきに180°回転させることにより、焼成後に内部電極膜732,734が得られるようにしてもよい。
次に、第1の電極ペーストのパターンが形成されたグリーンシートと第2の電極ペーストのパターンが形成されたグリーンシートを交互に重ね合わせるとともに、電極ペーストが塗布されていないグリーンシートを最上部にさらに重ね合わせた後に、重ね合わせたグリーンシートを厚さ方向に加圧して圧着する。このとき、グリーンシートに形成された位置合わせ用の孔の位置が揃うようにする。また、重ね合わせたグリーンシートの圧着にあたっては、圧着に使用する金型を加熱しておくことにより、加熱しながらグリーンシートを圧着するようにすることも望ましい。
このようにして得られたグリーンシートの圧着体を焼成し、得られた焼結体をダイシングソー等で加工することにより、積層体706を得ることができる。そして、焼き付け、蒸着、スパッタリング等により積層体706の端面740,742に外部電極膜736,738を形成し、分極処理及びエージング処理を行うことにより、圧電/電歪アクチュエータ702を完成する。
以下では、実施の形態の具体的適用である実施例について説明する。
<比較例1及び実施例1〜2>
比較例1及び実施例1〜2では、一般式{Li(Na1−x1−y(Nb1−zTa)O(x=0.45,y=0.06,z=0.082,a=1.01)であらわされるペロブスカイト型酸化物100モル部に0.02モル部のMnOを含有させた圧電/電歪セラミックス焼結体について、焼成キープ工程の有無及び焼成キープ工程における処理条件の影響を調べた。その結果を図17に示す。調べた項目は、散漫散乱強度比・c軸配向度・粒内に占めるBanded構造の比率・非180°ドメインの幅・比誘電率ε・圧電定数d31(pm/V)・誘電損失tanδ(%)及び電界誘起歪S4000(ppm)である。図17の実施例1〜2の非180°ドメインの幅の欄に記載されている2つの数値のうち、上方はBanded構造を構成しない非180°ドメインの幅を示し、下方はBanded構造を構成している非180°ドメインの幅を示している。また、図18及び図19に、それぞれ、比較例1及び実施例2の試料の断面FE−SEM写真を示す。
比較例1及び実施例1〜2では、粒径が0.2〜0.5μmの球状の粒形状を有する圧電/電歪セラミックス粉末をペレット状に成形して焼成した。焼成のときの昇温速度及び降温速度は1時間あたり200℃、最高温度は970℃、最高温度を維持する時間は3時間とした。
しかる後に、ペレット状の圧電/電歪セラミックス焼結体を短冊状に加工し、短冊状の試料を大気中において熱処理し、試料から加工応力を除去した。熱処理は、600℃で1時間かけて行った。
さらに、試料をシリコンオイルに浸漬して分極処理を行った。分極処理は、5kV/mmの電界を15分間印加することにより行った。
そして、このようにして得られた試料を用いて、電気的特性、すなわち、比誘電率ε・圧電定数d31(pm/V)・誘電損失tanδ(%)及び電界誘起歪S4000(ppm)を評価した。電界誘起歪S4000(ppm)は、4kV/mmの電界を印加したときの電界に垂直な長手方向の歪量を意味している。また、電気的特性を評価した後に、試料の表裏両面のX線回折プロファイルを測定し、第2実施形態に係る算出方法を用いてc軸配向度及び散漫散乱強度比を算出した。さらに、電気的特性を評価した後に、試料にCP研磨を施し、電界放射走査型電子顕微鏡(FE−SEM)を用いて反射電子像によりドメイン構造を観察した。
図17に示すように、焼成キープ工程を実行しなかった比較例1においては、散漫散乱強度比が0.5より大きくなり、粒内にBanded構造が観察されなかったのに対して、焼成キープ工程を実行した実施例1〜2では、散漫散乱強度が0.5以下となり、粒内にBanded構造が観察された。また、実施例1〜2において観察されたBanded構造を構成するバンドの幅は1〜10μmであった。
また、実施例1と実施例2との対比から明らかなように、焼成キープ工程において第1の温度T1を維持する時間P1を3時間から10時間へと長くすることにより、散漫散乱強度比をさらに低下させることができ、粒内に占めるBanded構造の比率を増加させることができる。
図18に示すように、焼成キープ工程を実行しなかった比較例1においては、幅が0.1〜0.7μmの非180°ドメインが観察されたが、図19に示すように、焼成キープ工程を実行した実施例2においては、幅が0.1〜0.4μmの非180°ドメインの他にHerring bone型のBanded構造を構成する幅が1〜10μmの非180°ドメインが観察された。また、Banded構造を構成する非180°ドメインの中には、幅が0.05〜0.5μmのストライプが観察された。
また、実施例2の試料について、EBSD(Electoron Backscattering Diffraction)法により、ドメインの結晶方位解析も行った。その結果を図20〜図26に示す。
図20は、第1の視野のIQ(Image Quality)マッピング像を示す図である。また、図21は、図20の矩形の領域の内部の結晶方位の揺らぎ量をマッピングした図である。図20及び図21からは、Banded構造を構成する非180°ドメインの中に観察されたストライプは、結晶方位が0.05〜0.5μm周期で−2〜2°揺らいでいることを示していることがわかった。
図22は、実施例2の試料の断面の第2の視野のIQマッピング像を示す図である。図23〜図25は、それぞれ、図22のIQマッピング像と同一の視野におけるND(Normal Direction)面・TD(Transverse Direction)面・RD(Reference Direction)面のIPF(Inverse Pole Figure)マッピング像を示す図である。図26は、図23〜図25のIPFマッピング像のColor keyを示す図である。図23〜図26からは、Banded構造を構成するバンドは、隣接するバンドと結晶学的に90±2°回転した方位関係にあることがわかる。
<比較例2及び実施例3〜7>
比較例2及び実施例3〜7では、一般式{Li(Na1−x1−y(Nb1−z−wTaSb)O(x=0.45,y=0.06,z=0.082,a=1.01,w=0.04)であらわされるペロブスカイト型酸化物100モル部に0.02モル部のMnOを含有させた圧電/電歪セラミックス焼結体について、焼成キープ工程の有無、分極処理における処理条件、エージング処理の有無及びエージング処理における処理条件の影響を調べた。その結果を図27に示す。調べた項目は、比較例1及び実施例1〜2の場合と同じである。また、図28に、実施例4の試料の断面FE−SEM写真を示す。
比較例2及び実施例3〜7では、焼成のときの最高温度を980℃、焼成キープ温度を880℃に変更した点及び実施例5〜7の試料についてエージング処理を行った点を除いては、比較例1及び実施例1〜2の場合と同様に試料の作製及び評価を行った。
図27に示すように、焼成キープ工程を実行しなかった比較例2においては、散漫散乱強度比が0.5より大きくなり、粒内にBanded構造が観察されなかったのに対して、焼成キープ工程を実行した実施例3〜7では、散漫散乱強度が0.5以下となり、粒内にBanded構造が観察された。また、実施例3〜7において観察されたBanded構造を構成する非180°ドメインの幅は1〜5μmであった。
また、実施例3と実施例4との対比から明らかなように、高温分極処理を実行することにより、散漫散乱強度比をさらに低下させることができ、粒内に占めるBanded構造の比率をさらに増加させることができた。
さらに、実施例4と実施例5〜7との対比から明らかなように、高温エージング処理を実行することにより、散漫散乱強度比をさらに低下させることができ、粒内に占めるBanded構造の比率をさらに増加させることができた。
図28に示すように、焼成キープ工程及び高温分極処理を実行した実施例4においては、幅が0.1〜0.8μmの非180°ドメインの他にSquare net型のBanded構造を構成する幅が1〜4μmの非180°ドメインが観察された。また、Banded構造を構成する非180°ドメインの中には、幅が0.05〜0.5μmのストライプが観察された。
<比較例3及び実施例8〜12>
比較例3及び実施例8〜12は、一般式[{Li(Na1−x1−y1−tBi(Nb1−zTa)O(x=0.45,y=0.06,z=0.082,a=1.01,t=0.0005)であらわされるペロブスカイト型酸化物100モル部に0.05モル部のMnOを含有させた圧電/電歪セラミックス焼結体について、焼成キープ工程の有無、分極処理における処理条件、エージング処理の有無及びエージング処理における処理条件の影響を調べた。その結果を図29に示す。調べた項目は、比較例1及び実施例1〜2の場合と同じである。
比較例3及び実施例8〜12では、実施例10〜12の試料についてエージング処理を行った点を除いては、比較例1及び実施例1〜2の場合と同様に試料の作成及び評価を行った。
図29に示すように、焼成キープ工程を実行しなかった比較例3においては、散漫散乱強度比が0.5より大きくなり、粒内にBanded構造が観察されなかったのに対して、焼成キープ工程を実行した実施例8〜12では、散漫散乱強度が0.5以下となり、粒内にBanded構造が観察された。また、実施例8〜12において観察されたBanded構造を構成する非180°ドメインの幅は1〜10μmであった。
また、実施例8と実施例9との対比から明らかなように、高温分極処理を実行することにより、散漫散乱強度比をさらに低下させることができ、粒内に占めるBanded構造の比率をさらに増加させることができた。
さらに、実施例9と実施例10〜12との対比から明らかなように、高温エージング処理を実行することにより、散漫散乱強度比をさらに低下させることができ、粒内に占めるBanded構造の比率をさらに増加させることができた。
<比較例4及び実施例13〜15>
比較例4及び実施例13〜15は、一般式{Li(Na1−x1−y(Nb1−z−wTaSb)O(x=0.45,y=0.06,z=0.082,a=1.01,w=0.04)であらわされるペロブスカイト型酸化物100モル部に0.02モル部のMnO及び0.015モル部のBiを含有させた圧電/電歪セラミックス焼結体について、焼成キープ工程の有無、分極処理における処理条件及びエージング処理の有無の影響を調べた。その結果を図30に示す。調べた項目は、比較例1及び実施例1〜2の場合と同じである。
比較例4及び実施例13〜15では、焼成のときの最高温度を1000℃、焼成キープ温度を860℃に変更した点及び実施例15の試料についてエージング処理を行った点を除いては、比較例1及び実施例1〜2の場合と同様に試料の作成及び評価を行った。
図30に示すように、焼成キープ工程を実行しなかった比較例4においては、散漫散乱強度比が0.5より大きくなり、粒内にBanded構造が観察されなかったのに対して、焼成キープ工程を実行した実施例13〜15では、散漫散乱強度が0.5以下となり、粒内にBanded構造が観察された。また、実施例13〜15において観察されたBanded構造を構成する非180°ドメインの幅は1〜10μmであった。
また、実施例13と実施例14との対比から明らかなように、高温分極処理を実行することにより、散漫散乱強度比をさらに低下させることができ、粒内に占めるBanded構造の比率をさらに増加させることができた。
さらに、実施例14と実施例15の対比から明らかなように、高温エージング処理を実行することにより、散漫散乱強度比をさらに低下させることができ、粒内に占めるBanded構造の比率をさらに増加させることができた。
この発明は詳細に説明されたが、上記の説明は、全ての局面において例示であって、この発明がそれに限定されるものではない。例示されていない無数の変形例が、この発明の範囲から外れることなく想定され得るものと解される。特に、各実施の形態において説明した事項を組み合わせて用いることは当然に予定されている。また、圧電/電歪セラミックス焼結体を圧電/電歪アクチュエータ以外の圧電/電歪素子、例えば、センサ等に用いることも予定されている。
102,108 第1のドメイン
104,110 第2のドメイン
106,114 ドメイン壁
112 格子歪層(境界層)
116 非180°ドメイン
402,502,602,702 圧電/電歪アクチュエータ
410,516,520 圧電/電歪体膜
728 圧電/電歪体膜

Claims (7)

  1. Li,Na及びKからなる群より選択される少なくとも1種類の元素をAサイト構成元素として含み、Nb及びTaからなる群より選択される少なくとも1種類の元素をBサイト構成元素として含むペロブスカイト型酸化物を主結晶相とし、第1の格子面のX線回折の強度と立方晶から対称性が低下したことにより生じた第1の格子面とは面間隔が異なる第2の格子面のX線回折の強度との合計に対するドメイン壁の近傍に存在する格子歪層による散漫散乱の強度の比である散漫散乱強度比が高温エージング処理により0.33以下とされた圧電/電歪セラミックス焼結体。
  2. 分極方向と垂直な面におけるc軸配向度が3以下である請求項1に記載の圧電/電歪セラミックス焼結体。
  3. 主成分の組成が一般式{Li(Na1−x1−y(Nb1−z−wTaSb)Oであらわされ、0.9≦a≦1.1,0.2≦x≦0.8,0.0≦y≦0.1,0.0≦z≦0.5,0<w≦0.1であって、主成分100モル部に対して0.05モル部以下の副成分Biを含む請求項1又は請求項2に記載の圧電/電歪セラミックス焼結体。
  4. 主成分の組成が一般式{Li(Na1−x1−y(Nb1−z−wTaSb)Oであらわされ、0.9≦a≦1.1,0.2≦x≦0.8,0.0≦y≦0.1,0.0≦z≦0.5,0<w≦0.1である請求項1又は請求項2に記載の圧電/電歪セラミックス焼結体。
  5. 主成分の組成が一般式[{Li(Na1−x1−y1−tBi(Nb1−zTa)Oであらわされ、0.9≦a≦1.1,0.2≦x≦0.8,0.0≦y≦0.1,0.0≦z≦0.5,0.0<t≦0.1である請求項1又は請求項2に記載の圧電/電歪セラミックス焼結体。
  6. Mn,Ag,Cr,Fe,Co,Ni,Cu及びZnからなる群より選択される少なくとも1種類の金属元素をさらに含む請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の圧電/電歪セラミックス焼結体。
  7. Mn,Ag,Cr,Fe,Co,Ni,Cu及びZnからなる群より選択される少なくとも1種類の金属元素の主成分100モル部に対する含有量が3モル部以下である請求項6に記載の圧電/電歪セラミックス焼結体。
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