JP2013077360A - 磁気記録媒体 - Google Patents

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Abstract

【課題】高密度記録用磁性体として好適な六方晶フェライト磁性粉末の分散性向上を達成しつつ、優れた走行耐久性を有する磁気記録媒体を提供すること。
【解決手段】非磁性支持体上に強磁性粉末、結合剤、および摩擦係数低減成分を含む磁性層を有する磁気記録媒体。前記強磁性粉末は六方晶フェライト構造を有し、前記摩擦係数低減成分は非磁性無機粒子であり、かつ、前記磁性層は、水酸基およびカルボキシル基からなる群から選択される置換基が芳香環に直接置換してなる化合物を更に含む。
【選択図】なし

Description

本発明は、磁気記録媒体に関するものであり、詳しくは、優れた電磁変換特性と走行耐久性を兼ね備えた磁気記録媒体に関するものである。
近年、記録情報量の増加により、磁気記録媒体には常に高密度記録が要求されている。従来、磁気記録媒体の磁性層には強磁性金属粉末が主に用いられてきたが、更に高密度記録を達成するためには、強磁性金属粉末の改良には限界が見え始めている。これは、強磁性金属粉末は粒子サイズを小さくしていくと熱揺らぎのため超常磁性となってしまい、磁気記録媒体に用いることができなくなるからである。
これに対し六方晶フェライト磁性粉末は、結晶構造に由来する高い結晶磁気異方性を有し熱的安定性に優れるため、微細化しても磁気記録に適した優れた磁気特性を維持することができる。また、六方晶フェライト磁性粉末を磁性層に用いた磁気記録媒体はその垂直成分により高密度特性に優れる。このように六方晶フェライト磁性粉末は、高密度化に適した強磁性体である。
しかし六方晶フェライト磁性粉末は、針状形態の強磁性金属磁性粉末と異なり、板状形態であり、かつその板面の垂直方向に磁化容易軸を持っているため、スタッキング(磁性体がそろばん玉状に凝集する状態)しやすい。高密度記録領域において良好な電磁変換特性を得るためには、微粒子磁性体を高度に分散させ、磁性層表面の平滑性を高めることが有効であるため、従来六方晶フェライトの凝集を抑制するために様々な対策が検討されてきた(例えば特許文献1〜6参照)。
特開平4−178916号公報 特開平5−283218号公報 特開平5−144615号公報 特開2002−298333号公報 特開2009−99240号公報 特開2002−373413号公報
上記の通り、高密度記録用磁気記録媒体には磁性体の分散性向上という課題が存在する。そこで本発明者らは、高密度記録用磁性体として好適な六方晶フェライト磁性粉末の分散性を高めるための手段を見出すべく検討を重ねたところ、磁気記録媒体に求められるもう1つの特性である走行耐久性と、分散性向上とを両立することは、必ずしも容易ではないことが判明した。
そこで本発明の目的は、高密度記録用磁性体として好適な六方晶フェライト磁性粉末の分散性向上を達成しつつ、優れた走行耐久性を有する磁気記録媒体を提供することにある。
塗布型磁気記録媒体の磁性層において六方晶フェライト磁性粉末の分散性を向上するためには、六方晶フェライト粒子の周囲を結合剤で取り囲み六方晶フェライト粒子同士の会合(凝集)を抑制することが有効である。そのためには六方晶フェライト粒子表面の結合剤に対する親和性を高めることが重要となる。この点について本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、六方晶フェライト粒子表面を改質し結合剤との親和性を高めるための添加剤成分として、水酸基およびカルボキシル基からなる群から選択される置換基が芳香環に直接置換してなる化合物(以下、「表面改質剤」ともいう。)を見出すに至った。磁性層に使用される結合剤は一般に疎水性が高いのに対し、六方晶フェライト粒子表面は親水性が高い。したがって、そのままの状態では六方晶フェライト粒子は結合剤との親和性に乏しいが、上記表面改質剤は、上記置換基が六方晶フェライト粒子表面に吸着することで粒子表面を芳香環によって疎水化することができ、これにより六方晶フェライト粒子表面を結合剤によって取り囲み粒子同士の会合による分散性低下(凝集)を抑制できると考えられる。
しかし本発明者らの更なる検討の結果、上記表面改質剤は、塗布型磁気記録媒体において磁性層成分として汎用されているカーボンブラックと併用されると分散性向上効果を十分に発揮できないという、新たな課題が存在することが判明した。これは、上記表面改質剤はカーボンブラックと結合しやすいために、該表面改質剤を介してカーボンブラックと六方晶フェライト粒子が会合し粗大な凝集物を形成してしまうからであると、本発明者らは推察している。しかしカーボンブラックは磁性層において磁性層表面に突起を形成し摩擦係数を低減し得る成分であるため、磁性層成分としてカーボンブラックを除くのみでは、六方晶フェライト磁性粉末の分散性向上(これによる表面平滑性の向上)は達成できたとしても、走行時の摩擦係数増大により走行耐久性は低下してしまう。
以上の知見に基づき本発明者らは更なる鋭意検討を重ねた結果、六方晶フェライト磁性粉末と上記表面改質剤を含む磁性層において、摩擦係数低減成分として非磁性無機粒子を使用することで、六方晶フェライト磁性粉末の分散性を向上しつつ、優れた走行耐久性を有する磁気記録媒体が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、上記目的は、下記手段によって達成された。
[1]非磁性支持体上に強磁性粉末、結合剤、および摩擦係数低減成分を含む磁性層を有する磁気記録媒体であって、
前記強磁性粉末は六方晶フェライト構造を有し、
前記摩擦係数低減成分は非磁性無機粒子であり、かつ、
前記磁性層は、水酸基およびカルボキシル基からなる群から選択される置換基が芳香環に直接置換してなる化合物を更に含むことを特徴とする磁気記録媒体。
[2]前記強磁性粉末は、強磁性六方晶フェライト粉末の水素還元処理物である[1]に記載の磁気記録媒体。
[3]前記磁性層はカーボンブラックを含まない[1]または[2]に記載の磁気記録媒体。
[4]前記非磁性無機粒子は無機酸化物コロイド粒子である[1]〜[3]のいずれかに記載の磁気記録媒体。
[5]前記非磁性無機粒子はシリカコロイド粒子である[1]〜[4]のいずれかに記載の磁気記録媒体。
[6]前記化合物に含まれる芳香環は1つである[1]〜[5]のいずれかに記載の磁気記録媒体。
[7]前記芳香環は、ナフタレン環またはビフェニル環である[1]〜[6]のいずれかに記載の磁気記録媒体。
[8]前記芳香環は、該置換基を1つまたは2つ有する[1]〜[7]のいずれかに記載の磁気記録媒体。
[9]前記化合物は、ジヒドロキシナフタレンまたはビフェニルカルボン酸である[1]〜[8]のいずれかに記載の磁気記録媒体。
[10]前記強磁性粉末は、一般式:AFe1219[Aは、Ba、Sr、PbおよびCaからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素]で表されるフェライト組成を有し、かつ230kA/m以下の保磁力を有する[1]〜[9]のいずれかに記載の磁気記録媒体。
[11]前記強磁性粉末の平均粒子サイズは10nm以上30nm以下である[1]〜[10]のいずれかに記載の磁気記録媒体。
[12]前記磁性層は、前記非磁性無機粒子とは異なる粒状物質(ただしカーボンブラックを除く)を更に含む[1]〜[11]のいずれかに記載の磁気記録媒体。
本発明によれば、優れた表面平滑性と走行耐久性を兼ね備えた磁気記録媒体を提供することができる。
本発明は、非磁性支持体上に強磁性粉末、結合剤、および摩擦係数低減成分を含む磁性層を有する磁気記録媒体に関するものであり、前記強磁性粉末は六方晶フェライト構造を有し、前記摩擦係数低減成分は非磁性無機粒子であり、かつ、前記磁性層は、水酸基およびカルボキシル基からなる群から選択される置換基が芳香環に直接置換してなる化合物(表面改質剤)を更に含む。
先に説明したように、上記本発明の磁気記録媒体は、優れた表面平滑性と走行耐久性を両立し得るものである。以下、本発明の磁気記録媒体について、更に詳細に説明する。
表面改質剤
本発明の磁気記録媒体は、前記強磁性粉末、結合剤、および非磁性無機粒子(摩擦係数低減成分)とともに、水酸基およびカルボキシル基からなる群から選択される置換基が芳香環に直接置換してなる化合物(表面改質剤)を含む。上記表面改質剤の作用機構については、先に説明した通りである。
前記表面改質剤が有する前記置換基を有する芳香環は、単環構造であっても多環構造であってもよく、炭素環であっても複素環であってもよい。また、多環構造としては、縮合環であっても、2つ以上の環が単結合を介して連結した環集合であってもよい。上記芳香環の具体例としては、ナフタレン環、ビフェニル環、アントラセン環、ピレン環、フェナントレン環等を挙げることができ、好ましい芳香環としては、ナフタレン環、ビフェニル環、アントラセン環、ピレン環を挙げることができ、より好ましい芳香環としては、ナフタレン環およびビフェニル環を挙げることができる。
前記表面改質剤では、以上説明した芳香環に、水酸基およびカルボキシル基からなる群から選択される置換基が直接置換している。水酸基およびカルボキシル基からなる群から選択される置換基を有することで、六方晶フェライト磁性粒子に適度に吸着し、凝集を抑制することができる。前記化合物に含まれる水酸基およびカルボキシル基からなる群から選択される置換基の数は、1つ以上であればよく、2つまたは3つ以上であってもよい。適度な吸着力を発揮することから好ましくは、1つまたは2つである。
前記芳香環は、水酸基およびカルボキシル基からなる群から選択される置換基の他に置換基を含んでいてもよい。該置換基としては、特に限定されるものではないが、例えばハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、アルキル基、を挙げることができる。ただし表面改質剤の磁性粒子への吸着力が過度に高いことは、磁性粒子の会合を促進する場合があるため好ましくない。この点からは、水酸基およびカルボキシル基よりも磁性粒子表面に対して高い吸着性を示す置換基(例えばスルホン酸基またはその塩)の存在は好ましくない。また、化合物としての親疎水性に大きく影響を及ぼす置換基の存在も好ましくない。以上の観点から、前記表面改質剤は、水酸基およびカルボキシル基からなる群から選択される置換基以外の置換基を有さないことが好ましい。
また、前記表面改質剤は、結合剤として使用されるような高分子化合物ではないことが好ましい。これは、磁性層に使用する添加剤成分が増えるほど磁性体の充填率が低くなり高密度記録化の観点から望ましくないが、高分子化合物では分散性を高度に向上するためには、多量の添加が求められるからである。少ない添加量で優れた分散性向上効果を得るためには、表面改質剤としては、分子内に含まれる芳香環は1つであることが好ましい。ここで芳香環は、2つ以上の環が単結合を介して連結した環集合は1つと数えるが、2つ以上の環が単結合以外の連結基を介して連結しているものについては、含まれる芳香環は複数と数えるものとする。また、同様の理由から表面改質剤としては分子量が1000以下のものが好ましく、500以下のものがより好ましく、200以下のものがより一層好ましい。また、表面改質剤の分子量の下限は特に限定されるものではないが、構造に含まれる芳香環および前記置換基の分子量を考慮すると、下限は、例えば100以上、または150以上になり得る。
以上説明した表面改質剤としては、前記置換基が直接置換したナフタレンまたは前記置換基が直接置換したビフェニルが好ましく、ジヒドロキシナフタレンおよびビフェニルカルボン酸がより好ましく、ジヒドロキシナフタレンが特に好ましい。
本発明の磁気記録媒体は、分散性向上の観点から、前記表面改質剤を、前記強磁性粉末100質量部あたり1.5質量部以上の量で磁性層に含むことが好ましい。上記の通り高密度記録化の観点からは強磁性粉末の充填率を高めることが望ましいため、添加剤の添加量はその効果を発揮し得る範囲で低減することが好ましい。上記観点から、磁性層の前記表面改質剤含有量は、前記強磁性粉末100質量部あたり10質量部以下とすることが好ましい。前記強磁性粉末の分散性と充填率を両立する観点から、磁性層における前記表面改質剤の含有量は、前記強磁性粉末100質量部あたり3〜10質量部とすることがより好ましい。
強磁性粉末
本発明において、前記表面改質剤により分散性向上が達成される強磁性粉末は、六方晶フェライト構造を有するものである。上記強磁性粉末は、六方晶フェライト構造に起因する高い結晶磁気異方性を有し熱的安定性に優れるため、微細化しても磁気記録に適した優れた磁気特性を維持することができる。また、当該強磁性粉末を磁性層に用いた磁気記録媒体は、その垂直成分により高密度特性に優れる。
前記強磁性粉末の一態様としては、ガラス結晶化法、水熱合成法、共沈法等の公知の製法で製造された六方晶フェライト磁性粉末、またはこれに任意に公知の方法で徐酸化処理が施された六方晶フェライト磁性粉末を挙げることができる。六方晶フェライトは、例えば、バリウムフェライト、ストロンチウムフェライト、鉛フェライト、カルシウムフェライト、およびそれらの各置換体、例えばCo置換体等であることができる。具体的には、マグネートプランバイト型のバリウムフェライトおよびストロンチウムフェライト、スピネルで粒子表面を被覆したマグネートプランバイト型フェライト、更に一部スピネル相を含有したマグネートプランバイト型のバリウムフェライトおよびストロンチウムフェライト等が挙げられ、その他、所定の原子以外にAl、Si、S、Sc、Ti、V、Cr、Cu、Y、Mo、Rh、Pd、Ag、Sn、Sb、Te、Ba、Ta、W、Re、Au、Hg、Pb、Bi、La、Ce、Pr、Nd、P、Co、Mn、Zn、Ni、Sr、B、Ge、Nbなどの原子を含んでもかまわない。一般にはCo−Zn、Co−Ti、Co−Ti−Zr、Co−Ti−Zn、Ni−Ti−Zn、Nb−Zn−Co、Sb−Zn−Co、Nb−Zn等の元素を添加したものを使用できる。
ところで、磁性粒子の粒子サイズを小さくすると、磁性粒子が磁化方向を保とうとするエネルギー(磁気異方性エネルギー)が熱エネルギーに抗することが困難となり、いわゆる熱揺らぎにより記録の保持性が低下してしまう。これに対し六方晶フェライト磁性粉末は結晶構造に起因して結晶磁気異方性が高いため、高密度記録化のために微細化しても熱揺らぎによる磁気特性の低下が少ない。しかし結晶磁気異方性が高いが故に保磁力が高くなるため、記録に大きな外部磁場が必要となり記録性は低下する。したがって熱的安定性と記録のしやすさを両立するためには、六方晶フェライトの結晶構造を維持しつつ、その保磁力を低下させることが好ましい。
上記の点について本発明者らは、六方晶フェライト磁性粒子を水素還元することにより、保磁力を低下させる(これにより記録性を改善する)ことができることを見出した。即ち本発明において使用する強磁性粉末の好ましい態様は、強磁性六方晶フェライト粉末の水素還元処理物である。一般に、優れた熱的安定性を有する六方晶フェライト磁性粉末の保磁力は230kA/m以上、更には235kA/m以上である。なお一般に入手可能な六方晶フェライト磁性粉末の保磁力は、通常500kA/m以下程度である。これに対して前記水素還元処理物は、記録のしやすさの観点から235kA/m未満、更には230kA/m未満の保磁力を有することが好ましい。また、本発明において磁性層に使用される強磁性粉末の保磁力は、120kA/m以上、更には160kA/m以上であることが好ましい。これは、保磁力が低すぎると、隣接記録ビットからの影響で記録を保持しづらくなり、熱的安定性が低下するからである。
なお、六方晶フェライトについては、保磁力を下げるために保磁力調整成分としてFeを置換する置換元素を添加することが行われる。しかし置換元素の導入は結晶磁気異方性を低下させるため、熱的安定性の観点からは好ましくない。そこで本発明では、強磁性粉末としては、置換元素を含まない六方晶フェライト磁性粉末またはその水素還元処理物を使用することが好ましい。置換元素を含まない六方晶フェライト磁性粉末とは、一般式:AFe1219[Aは、Ba、Sr、PbおよびCaからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素]で表される組成を有するものである。
次に、水素還元の詳細について説明する。
上記水素還元は、還元性ガスとして水素を含む雰囲気において六方晶フェライト磁性粉末に加熱処理を施すことにより行われる。なお還元性ガスとしては炭化水素や一酸化炭素も知られているが、炭化水素や一酸化炭素を使用すると磁性粒子表面に副生物として炭素成分が堆積する場合がある。前述のように前記表面改質剤はカーボンブラック(即ち炭素成分)と結合しやすいため、炭素成分の堆積により前記表面改質剤が磁性粒子表面に吸着しやすくなると推察される。なおこの点について、特開平7−57242号公報には、所定の芳香族化合物を磁性層表面に留めるためには磁性粒子表面の炭素成分の存在が好ましいとの記載がある。しかし上記吸着は前記置換基(水酸基、カルボキシル基)によるものではなく、炭素成分と芳香環が結合することによる効果と考えられるため、磁性粒子表面を芳香環によって覆い磁性粒子表面を疎水化(これにより結合剤との親和性を向上)し、磁性粒子の分散性を高めるという、前記表面改質剤の所期の効果を得ることは困難となる。以上の点から本発明における強磁性粉末は、表面に炭素成分(カーボン、CO、CO2)は存在しないことが好ましい。したがって、水素還元は、還元性ガスとして水素を単独で含む雰囲気中で行うことが好ましい。還元雰囲気中の水素含有量は、反応効率の観点から、50体積%以上であることが好ましく、90体積%以上であることが好ましい。反応容器にガス流入口と排気口を設け、還元分解中に常時還元ガス気流を流入させつつ反応後のガスを排出することが、反応効率の点から特に好ましい。還元ガス気流中での還元分解は、Ca還元の様にCaが不純物として混入することもなく、還元分解での副生成物が気相中に移り除かれる点で有利である。また、還元処理による副生成物を除去するため、排気ガスをスクラバーで処理することもできる。なお、安全上の配慮から不活性ガスで希釈した水素も好ましく用いることができる。ただし安全を確保できる設備および条件下であれば、100%水素雰囲気(即ち純水素)の使用ももちろん可能であり、反応効率の点から好ましい。
水素還元により保磁力を低下させ記録性を改善することは好ましい対応であるが、六方晶フェライトの結晶構造に起因する熱的安定性を維持するためには、還元処理後にも六方晶フェライトの結晶構造が保持されることが好ましい。したがって水素還元の反応条件は、還元処理によって六方晶フェライトの結晶構造が破壊されることのないように比較的穏和な条件とすることが好ましい。なお還元処理後に六方晶フェライトの結晶構造が保持されていることは、水素還元処理物のX線回折分析において、六方晶フェライトに由来するピークが検出されることにより、確認することができる。
具体的には、水素還元における加熱処理温度は、反応炉内温度として100〜200℃の範囲とすることが好ましい。加熱処理温度は、工程管理上は195℃以下であることがより好ましく、処理時間の短縮化の観点からは130℃以上であることがより好ましく、160℃以上であることが更に好ましい。還元処理時間は、還元性雰囲気中の水素濃度等に応じて、所望の保磁力の磁性粉末が得られるように設定すればよく特に限定されるものではないが、生産性等の観点からは5〜30分間程度が好ましく、例えば純水素を用いる場合には5〜25分間程度が好適である。
上記還元処理は、上部が開口した反応容器に六方晶フェライト磁性粉末を入れた状態で反応チャンバー内に配置して行うことができる。この場合、反応容器の底部に位置する六方晶フェライト磁性粉末を還元性雰囲気に接触させるために容器内の粒子を適宜攪拌することが好ましい。このためにはロータリーキルン等が好ましく用いられる。なお、ハンドリング性をいっそう向上するために上記還元処理後の磁性粉末を酸化処理し、最表面に酸化物層を形成することも、好ましい対応である。酸化処理は、公知の徐酸化処理によって行うことができる。
前記還元処理の有無にかかわらず、本発明の磁気記録媒体の磁性層に含まれる強磁性粉末の平均粒子サイズは、高密度記録の観点から、30nm以下であることが好ましく、25nm以下であることが好ましい。また、安定な磁化を得るためには、平均粒子サイズは10nm以上であることが好ましい。水素還元によって粒子サイズは実質的に変化しないため、水素還元処理物の平均粒子サイズは、還元処理前の原料六方晶フェライト磁性粉末と同様である。
なお本発明における平均粒子サイズとは、特記しない限り、以下の測定方法によって得られる値とする。
六方晶フェライト磁性粉末等の粉末を、日立製透過型電子顕微鏡H−9000型を用いて粒子を撮影倍率100000倍で撮影し、総倍率500000倍になるように印画紙にプリントして粒子写真を得る。粒子写真から目的の粒子を選びデジタイザーで粒子の輪郭をトレースしカールツァイス製画像解析ソフトKS−400で粒子のサイズを測定する。500個の粒子のサイズを測定した平均値を平均粒子サイズとする。
本発明において、各種粉末を構成する粒子のサイズは、(1)粒子の形状が針状、紡錘状、柱状(ただし、高さが底面の最大長径より大きい)等の場合は、粒子の長軸の長さ、即ち長軸長で表され、(2)粒子の形状が板状乃至柱状(ただし、厚さ乃至高さが板面乃至底面の最大長径より小さい)場合は、その板面乃至底面の最大長径で表され、(3)粒子の形状が球形、多面体状、不特定形等であって、かつ形状から粒子を構成する長軸を特定できない場合は、円相当径で表される。円相当径とは、円投影法で求められるものを言う。
また、該粉末の平均粒子サイズは、上記粒子サイズの算術平均であり、500個の一次粒子について上記の如く測定を実施して求めたものである。一次粒子とは、凝集のない独立した粉体をいう。
また、該粒子の平均針状比は、上記測定において粒子の短軸の長さ、即ち短軸長を測定し、各粒子の(長軸長/短軸長)の値の算術平均を指す。ここで、短軸長とは、上記粒子サイズの定義で(1)の場合は、粒子の短軸の長さを、同じく(2)の場合は、厚さ乃至高さを各々指し、(3)の場合は、長軸と短軸の区別がないから、(長軸長/短軸長)は、便宜上1とみなす。
そして、粒子の形状が特定の場合、例えば、上記粒子サイズの定義(1)の場合は、平均粒子サイズは平均長軸長であり、同定義(2)の場合は平均粒子サイズは平均板径であり、(最大長径/厚さ乃至高さ)の算術平均が平均板状比である。同定義(3)の場合は平均粒子サイズは平均直径(平均粒径、平均粒子径ともいう)である。
摩擦係数低減成分
本発明の磁気記録媒体は、前記表面改質剤および強磁性粉末とともに、摩擦係数低減成分として非磁性無機粒子を含む。本発明において「摩擦係数低減成分」とは、磁性層表面に適度な突起を形成することにより、該成分が含まれない場合と比べて、磁気記録媒体が磁気信号の記録または再生時にヘッドと接触する際に生じる摩擦係数を低減する効果を奏する成分である。磁気記録媒体における摩擦係数低減成分としては、従来はカーボンブラックが広く用いられていたが、先に説明したように、前記表面改質剤はカーボンブラック共存下では前記強磁性粉末の分散性を十分に向上することができないため、本発明では摩擦係数低減成分として非磁性無機粒子を使用するものとする。なお本発明における上記非磁性無機粒子には、カーボンブラックは包含されないものとする。本発明の磁気記録媒体は、磁性層にカーボンブラックを含まないことが、表面改質剤による分散性向上効果を良好に得るために好ましい。なおここで「カーボンブラックを含まない」とは、磁性層成分として積極的に添加しないものを意味するものであり、例えば磁気記録媒体の製造工程において、他の層(例えば非磁性層、カーボンブラック)の成分として含まれるカーボンブラックが磁性層に意図せず混入することは許容するものとする。
前記非磁性無機粒子を構成する無機物質としては、金属酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属窒化物、金属炭化物、金属硫化物を挙げることができる。具体的には、α化率90%以上のα−アルミナ、β−アルミナ、γ−アルミナ、θ−アルミナ、二酸化珪素、炭化ケイ素、酸化クロム、酸化セリウム、α−酸化鉄、ゲータイト、コランダム、窒化珪素、チタンカーバイト、二酸化チタン、酸化スズ、酸化マグネシウム、酸化タングステン、酸化ジルコニウム、窒化ホウ素、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二硫化モリブデンなどを一種または二種以上組み合わせて使用することができる。優れたサイズ分布と分散性を有する粒子の入手容易性の点からは、無機酸化物が好ましく、シリカ(二酸化珪素)がより好ましい。
また、前記非磁性無機粒子としては、分散性の観点から、コロイド粒子を使用することが好ましい。コロイド粒子としては、入手容易性の点から無機酸化物コロイド粒子がより好ましい。無機酸化物コロイド粒子としては、上記無機酸化物のコロイド粒子を挙げることができ、具体例としては、SiO2・Al23、SiO2・B23、TiO2・CeO2、SnO2・Sb23、SiO2・Al23・TiO2、TiO2・CeO2・SiO2などの複合無機酸化物コロイド粒子を挙げることもできる。好ましいものとしては、SiO2、Al23、TiO2、ZrO2、Fe23などの無機酸化物コロイド粒子を挙げることができ、単分散のコロイド粒子の入手容易性の点から、シリカコロイド粒子(コロイダルシリカ)が特に好ましい。
ところで、一般的なコロイド粒子は表面が親水性であるため水を分散媒とするコロイド溶液の作製に適する。例えば一般的な合成法により得られるコロイダルシリカは、表面が分極した酸素原子(O2-)で覆われているため水中で水を吸着して水酸基を形成して安定化している。しかしこれら粒子は、磁気テープ用塗布液に使用される有機溶媒中では、そのままではコロイド状態で存在することは困難である。そこで有機溶媒中でこれら粒子をコロイド状態で分散可能とするために、粒子表面に疎水化処理を施すことが行われている。本発明でも、このような疎水化処理を施したコロイド粒子を使用することが好ましい。そのような疎水化処理の詳細については、例えば特開平5−269365号公報、特開平5−287213号公報、特開平2007−63117号公報等に記載されている。このような表面処理が施されたコロイド粒子は、上記公報記載の方法等によって合成することができ、また市販品としても入手可能である。
前記非磁性無機粒子の平均粒子サイズは、磁性層表面に摩擦係数低減に寄与する適度な突起を形成する観点から、磁性層厚以上であることが好ましく、1.2倍以上であることがより好ましい。また、非磁性無機粒子の過剰な突出によるスペーシングロスを防ぐ観点からは、磁性層厚の2倍以下であることが好ましく、1.7倍以下であることがより好ましい。よりいっそう優れた電磁変換特性を得るためには、非磁性無機粒子の平均粒子サイズは50〜200nmの範囲であることが好ましい。また、磁性層厚は、電磁変換特性の更なる向上の観点からは、200nm以下であることが好ましく、170nm以下であることがより好ましく、均一な磁性層を形成する観点からは、30nm以上であることが好ましく、50nm以上であることがより好ましい。
上記非磁性無機粒子の平均粒子サイズは、以下の方法によって測定された値とする。
非磁性無機粒子を、透過型電子顕微鏡で印画紙にプリントして粒子写真を得る。例えば、日立製透過型電子顕微鏡H−9000型を用いて粒子を撮影倍率50000〜100000倍程度で撮影し印画紙にプリントして粒子写真を得ることができる。
次いで、粒子写真から50個の粒子を無作為に抽出し、各粒子の輪郭をデジタイザーでトレースし、トレースした領域と同じ面積の円の直径(円面積相当径)を算出する。本発明において非磁性無機粒子の粒子サイズとは、こうして算出される直径をいうものとする。上記粒子サイズの算出には、例えばカールツァイス製画像解析ソフトKS−400を使用することができる。また、スキャナーからの画像取り込みおよび画像解析の際のscale補正は、例えば直径1cmの円を用いて行うことができる。
そして上記方法により測定された50個の粒子の粒径の算術平均値を非磁性無機粒子の平均粒子サイズとする。また、後述する磁性層に含まれる粒状物質の平均粒子サイズも同様に測定および算出された値である。
なお、上記方法に求められる平均粒子サイズは、50個の一次粒子について算出される平均値である。一次粒子とは、凝集のない独立した粉体をいう。したがって非磁性無機粒子の平均粒子サイズを測定するための試料粒子としては、一次粒子の粒子サイズを測定可能なものであれば磁性層から採取した試料粉末であっても原料粉末であってもよい。磁性層からの試料粉末の採取方法については、特開2011−48878号公報段落[0015]を参照できる。
磁性層中の前記非磁性無機粒子の含有量は、優れた電磁変換特性と摩擦係数低減を両立できる範囲で設定することが好ましく、具体的には強磁性粉末100質量部に対して0.5〜5質量部とすることが好ましく、1〜3質量部とすることがより好ましい。
添加剤
磁性層、更に後述する非磁性層には、必要に応じて添加剤を加えることができる。添加剤としては、研磨剤、潤滑剤、分散剤・分散助剤、防黴剤、帯電防止剤、酸化防止剤、溶剤などを挙げることができる。上記添加剤の具体例等の詳細については、例えば特開2006−108282号公報段落[0075]〜[0083]を参照できる。本発明で使用されるこれらの添加剤は、磁性層、さらに後述する非磁性層でその種類、量を必要に応じて使い分けることができる。また本発明で用いられる添加剤のすべてまたはその一部は、磁性層または非磁性層用の塗布液の製造時のいずれの工程で添加してもよい。例えば、混練工程前に強磁性粉末と混合する場合、強磁性粉末と結合剤と溶剤による混練工程で添加する場合、分散工程で添加する場合、分散後に添加する場合、塗布直前に添加する場合などがある。
中でも本発明では、磁性層に添加剤として、上記非磁性無機粒子とは異なる素材からなる粒状物質を含むことが好ましい。そのような粒状物質としては、一般に研磨剤として添加される無機粉末を使用することができる。なお、本発明において磁性層に含まれる研磨剤とは、同層に摩擦係数低減成分として含まれる非磁性無機粒子よりもモース硬度の高い粒状物質をいうものとする。例えば、シリカ粒子のモース硬度は7であるため、シリカ粒子を前記非磁性無機粒子として含む磁性層では、モース硬度8以上の粒状物質が研磨剤に相当する。磁性層に研磨剤を含むことにより、磁性層の研磨性を高めヘッド付着物を除去することができる。上記研磨剤としては、磁性層の研磨性を高める観点から、モース硬度8以上の無機粉末を使用することが好ましく、モース硬度9以上の無機粉末を使用することがより好ましい。モース硬度の最大値は、ダイヤモンドの10である。具体的には、アルミナ(Al23)、炭化珪素、ボロンカーバイド(B4C)、TiC、酸化セリウム、酸化ジルコニウム(ZrO2)、ダイヤモンド粉末を挙げることができ、中でもアルミナ、炭化珪素、およびダイヤモンドが好ましい。これら無機粉末は針状、球状、サイコロ状等のいずれの形状でもよいが、形状の一部に角を有するものが研磨性が高く好ましい。なお、このような研磨剤として使用される無機粉末により磁性層表面に突起を形成し摩擦係数を低減することも考えられるが、研磨剤により形成される突起のみで走行耐久性を維持し得る量の磁性層表面突起を形成すると研磨能が高くなりすぎヘッドダメージが顕著となる。他方、ヘッドに大きなダメージを与えない範囲で研磨剤により突起を形成すると摩擦係数を低減することが困難となる。そこで本発明では、非磁性無機粒子と研磨剤を併用することが好ましい。研磨剤によりヘッドに大きなダメージを与えることを回避する観点から、研磨剤の平均粒径は、10〜300nmであることが好ましく、30〜250nmであることがより好ましく、50〜200nmであることが更に好ましい。その添加量は、強磁性粉末100質量部あたり1〜20質量部とすることが好ましく、2〜15質量部とすることがより好ましく、3〜10質量部とすることが更に好ましい。
結合剤
本発明において、磁性層、および後述する非磁性層に使用する結合剤としては、従来公知の熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、反応型樹脂やこれらの混合物を挙げることができる。その詳細については、特開2006−108282号公報段落[0044]〜[0054]を参照できる。結合剤の添加量は、磁性層については強磁性粉末100質量部あたり5〜30質量とすることが好ましく、非磁性層については非磁性粉末100質量部あたり10〜20質量部とすることが好ましい。結合剤とともにポリイソシアネート化合物等の硬化剤を使用することもできる。その詳細については、特開2006−108282号公報段落[0055]〜[0056]を参照でき、使用量は適宜設定可能である。
非磁性層
本発明の磁気記録媒体は、非磁性支持体と磁性層との間に、非磁性粉末および結合剤を含む非磁性層を有することもできる。なお、非磁性層は実質的に非磁性であればその効果を発揮するものであり、例えば、不純物として、または意図的に少量の磁性体(磁性材料)を含んでいてもよい。「実質的に非磁性」とは残留磁束密度が0.01T以下または保磁力が7.96kA/m(100Oe)以下であることを示し、好ましくは残留磁束密度と保磁力をもたないことを示す。非磁性層の厚みは、例えば0.2μm〜5.0μmであり、好ましくは0.3μm〜3.0μmであり、より好ましくは1.0μm〜2.5μmである。非磁性層のその他詳細については、特開2006−108282号公報段落[0086]〜[0101]を参照できる。なお本発明の磁気記録媒体では、前記表面改質剤によって強磁性粉末の分散性を十分に向上するために、磁性層成分としてカーボンブラックは排除すべきであるが、非磁性層には表面電気抵抗の低減等を目的として、カーボンブラックを添加することができる。
非磁性層および磁性層の形成は、非磁性層塗布液が湿潤状態にあるうちに磁性層塗布液を塗布する同時重層塗布(wet-on-wet)により行ってもよく、非磁性層塗布液が乾燥した後に磁性層塗布液を塗布する逐次重層塗布(wet-on-dry)により行ってもよい。磁性層表面に摩擦係数低減に有効な突起を適切な量で形成するためには、磁性層中の非磁性無機粒子や研磨剤成分が非磁性層へ沈み込む量が少ないことが好ましい。この点からは、上記逐次重層塗布を行うことが好ましい。磁気記録媒体の製造方法に関する詳細については、特開2006−108282号公報段落[0057]〜[0067]を参照できる。
層構成
本発明の磁気記録媒体において、非磁性支持体の好ましい厚さは3〜10μmである。また、非磁性支持体の磁性層が設けられる面とは反対の面に公知のバックコート層を形成することもできる。上記バックコート層の厚さは、例えば0.1〜1.0μm、好ましくは0.2〜0.8μmである。本発明の磁気記録媒体における磁性層の厚さおよび非磁性層の厚さについては前述の通りである。
その他の本発明の磁気記録媒体の詳細については、磁気記録媒体に関する公知技術を適用することができる。
以下に、本発明の具体的実施例および比較例を挙げるが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。以下において「部」は、質量部を示す。
[調製例1]
以下の方法で、バリウムフェライト磁性粉末の水素還元処理物を調製した。
下記表1記載のバリウムフェライト(以下、「BaFe」と記載する。フェライト組成はBaFe1219)を反応炉内で、純水素ガス気流中で加熱処理(還元処理)した。還元処理中、反応炉のガス流入口から純水素ガス気流ガス気流(1L/min)を常時流入させつつ排気口から反応後のガスを排出した。反応炉としては、アルバック理工製ゴールドイメージ炉(P810C)を用い、昇温速度150℃/minで190℃まで昇温し、該温度で15min間加熱処理を行い、その後、降温速度20℃/minで炉内を30℃まで冷却した後、空気を導入した。その後、温度が数度上昇した後、室温まで冷却した。
上記で得られた水素還元処理物をX線回折装置によりX線回折分析したところ、処理前のBaFeと同様に六方晶フェライトを示すパターンが確認された。この結果から、還元処理により得られた磁性粉末において、還元処理前と同様の六方晶フェライトの結晶構造が維持されていることが確認された。
Figure 2013077360
磁性粉の評価方法
(1)磁性粉の比表面積SBET
表1記載のSBETの測定は、窒素吸着法により行った。
(2)粒子サイズ(TEM観察による平均板径、平均板厚、平均粒子体積)の評価
表1記載の粒子サイズの測定は、HITACHI製の透過型電子顕微鏡(印加電圧200kV)により行った。
(3)磁気特性(保磁力Hc)
水素還元処理前後の磁性粉の保磁力Hcを、玉川製作所製超電導振動式磁力計(VSM)を使用し、印加磁場3184kA/m(40kOe)の条件で評価した。結果を表2に示す。
Figure 2013077360
[実施例1]
1−1.磁性層塗布液処方
表1記載のバリウムフェライト磁性粉末:100部
ポリウレタン樹脂(官能基:−SO3Na、官能基濃度180eq/t):14部
オレイン酸:1.5部
2,3−ジヒドロキシナフタレン:6部
アルミナ粉末(平均粒径:120nm):6部
シリカコロイド粒子(コロイダルシリカ;平均粒子サイズ100nm):2部
シクロヘキサノン:110部
メチルエチルケトン:100部
トルエン:100部
ブチルステアレート:2部
ステアリン酸:1部
1−2.非磁性層塗布液処方
非磁性無機質粉体(α−酸化鉄):85部
表面処理剤:Al23、SiO2
長軸径:0.05μm
タップ密度:0.8
針状比:7
BET比表面積:52m2/g
pH8、DBP吸油量:33g/100g
カーボンブラック 20部
DBP吸油量:120ml/100g
pH:8
BET比表面積:250m2/g
揮発分:1.5%
ポリウレタン樹脂(官能基:−SO3Na、官能基濃度:180eq/t):15 部
フェニルホスホン酸:3部
α−Al23(平均粒径0.2μm):10部
シクロヘキサノン:140部
メチルエチルケトン:170部
ブチルステアレート:2部
ステアリン酸:1部
1−3.磁気テープの作製
上記の塗布液のそれぞれについて、各成分をオープンニーダーで60分間混練した後、ジルコニアビ−ズ(粒径0.5mmまたは0.1mm)を用いたサンドミルで720〜1080分間分散した。得られた分散液に3官能性低分子量ポリイソシアネート化合物(日本ポリウレタン製コロネート3041)を6部加え、更に20分間撹拌混合したあと、1μmの平均孔径を有するフィルターを用いて濾過し、磁性層塗布液および非磁性層塗布液を調製した。
上記非磁性層塗布液を、厚さ5μmのポリエチレンナフタレートベース上に乾燥後の厚さが1.5μmになるように塗布し、100℃で乾燥させた。更にその直後に磁性層塗布液を乾燥後の厚さが0.08μmになるようにウェットオンドライ塗布し、100℃で乾燥した。この時、磁性層が未乾燥の状態で300mT(3000ガウス)の磁石で垂直磁場配向を行った。更に、金属ロールのみから構成される7段のカレンダーで速度100m/min、線圧300kg/cm、温度90℃で表面平滑化処理を行った後、70℃で24時間加熱硬化処理を行い1/2インチ幅にスリットし磁気テープを作製した。
[実施例2]
強磁性粉末として、調製例1で得たBaFeの水素還元処理物100部を使用した点以外、実施例1と同様の方法で磁気テープを作製した。
[実施例3]
磁性層成分の2,3−ジヒドロキシナフタレン6部をビフェニルカルボン酸6部に変更した点以外、実施例1と同様の方法で磁気テープを作製した。
[比較例1]
磁性層成分からコロイダルシリカを除いた点以外、実施例1と同様の方法で磁気テープを作製した。
[比較例2]
磁性層成分として、コロイダルシリカ20部に代えて、平均粒子サイズ15nmのカーボンブラック20部を使用した点以外、実施例1と同様の方法で磁気テープを作製した。
[比較例3]
磁性層成分から2,3−ジヒドロキシナフタレンを除いた点以外、比較例2と同様の方法で磁気テープを作製した。
[比較例4]
磁性層成分から2,3−ジヒドロキシナフタレンを除いた点以外、実施例1と同様の方法で磁気テープを作製した。
[比較例5]
磁性層成分からコロイダルシリカを除いた点以外、実施例2と同様の方法で磁気テープを作製した。
[比較例6]
磁性層成分として、コロイダルシリカ20部に代えて、平均粒子サイズ15nmのカーボンブラック20部を使用した点以外、実施例2と同様の方法で磁気テープを作製した。
[比較例7]
磁性層成分から2,3−ジヒドロキシナフタレンを除いた点以外、比較例6と同様の方法で磁気テープを作製した。
[比較例8]
磁性層成分から2,3−ジヒドロキシナフタレンを除いた点以外、実施例2と同様の方法で磁気テープを作製した。
磁気テープの評価方法
(1)磁気特性
磁気テープの保磁力Hcを、玉川製作所製超電導振動式磁力計(VSM)を使用し、印加磁場3184kA/m(40kOe)の条件で評価した。結果を表3に示す。
(2)磁性層表面粗さRa
原子間力顕微鏡(AFM:DIGITAL INSTRUMENT社製のNANOSCOPE III)を用い、コンタクトモードで磁性層表面について40μm×40μmの面積を測定し、中心線平均表面粗さ(Ra)を測定した。結果を表3に示す。
(3)摩擦係数の測定
磁気テープの磁性層表面を、10mm/secの速度でAFMにより測定された中心線平均表面粗さRaが5nmの円筒SUS棒に対して加重100gで繰り返し100往復摺動したときの摩擦係数(μ値)を求めた。結果を表3に示す。表3中、「貼りつき」と記載したものは、摩擦係数が高すぎて上記円筒SUS棒が磁性層表面に貼りついてしまい、往復摺動が不可能であったことを意味する。
Figure 2013077360
評価結果
スペーシング変動による電磁変換特性の低下を抑制する観点からは、走行耐久性を維持できる範囲で磁性層表面の表面粗さは低いことが好ましい。この点から好ましい磁性層表面粗さは、前記方法で測定される表面粗さRaとして、1.0〜2.0nmの範囲である。表3に示すように、実施例1〜3において、強磁性粉末は同じであるが2,3−ジヒドロキシナフタレンもビフェニルカルボン酸も含まない比較例3、4、7、8と比べて、磁性層表面の平滑性を高めることができ、上記好ましい表面粗さRaを実現できたことは、前記表面改質剤が優れた分散性向上効果を発揮することを示す結果である。ただし、磁性層成分として2,3−ジヒドロキシナフタレンとカーボンブラックを含む比較例2、6では、強磁性粉末は同じであるが摩擦係数低減成分としてコロイダルシリカを含む実施例1〜3と比べて磁性層表面平滑性が大きく低下したことから、前記表面改質剤は、カーボンブラックと併用されると十分な分散性向上効果を発揮することができないことが確認できる。
また、磁性層成分としてコロイダルシリカを含まない比較例1、5では摩擦係数の測定が不可能なほど摩擦特性が低下したことから、走行耐久性を維持するためには摩擦係数低減成分が不可欠であることも確認できる。
以上の結果から、本発明によれば優れた表面平滑性と摩擦特性を兼ね備えた磁気記録媒体が得られることが示された。
また、表3に示すように強磁性粉末としてBaFeの水素還元処理物を使用することで、磁気テープの保磁力を低下させることができた。これは表2に示したように、水素還元処理によって磁性粉の保磁力を下げることができたことによるものである。保磁力が低いほど、小さな外部磁場で記録を行うことができるため、記録性の点で有利である。また、前述の通り、上記水素還元処理物は六方晶フェライト構造を有するものであるため、当該構造に起因する高い熱的安定性を有するものでもある。
本発明の磁気記録媒体は、優れた走行耐久性を示すものであり、長期にわたり高い信頼性をもって使用可能であることが求められる高容量データバックアップ用テープとして好適である。

Claims (12)

  1. 非磁性支持体上に強磁性粉末、結合剤、および摩擦係数低減成分を含む磁性層を有する磁気記録媒体であって、
    前記強磁性粉末は六方晶フェライト構造を有し、
    前記摩擦係数低減成分は非磁性無機粒子であり、かつ、
    前記磁性層は、水酸基およびカルボキシル基からなる群から選択される置換基が芳香環に直接置換してなる化合物を更に含むことを特徴とする磁気記録媒体。
  2. 前記強磁性粉末は、強磁性六方晶フェライト粉末の水素還元処理物である請求項1に記載の磁気記録媒体。
  3. 前記磁性層はカーボンブラックを含まない請求項1または2に記載の磁気記録媒体。
  4. 前記非磁性無機粒子は無機酸化物コロイド粒子である請求項1〜3のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
  5. 前記非磁性無機粒子はシリカコロイド粒子である請求項1〜4のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
  6. 前記化合物に含まれる芳香環は1つである請求項1〜5のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
  7. 前記芳香環は、ナフタレン環またはビフェニル環である請求項1〜6のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
  8. 前記芳香環は、該置換基を1つまたは2つ有する請求項1〜7のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
  9. 前記化合物は、ジヒドロキシナフタレンまたはビフェニルカルボン酸である請求項1〜8のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
  10. 前記強磁性粉末は、一般式:AFe1219[Aは、Ba、Sr、PbおよびCaからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素]で表されるフェライト組成を有し、かつ230kA/m以下の保磁力を有する請求項1〜9のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
  11. 前記強磁性粉末の平均粒子サイズは10nm以上30nm以下である請求項1〜10のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
  12. 前記磁性層は、前記非磁性無機粒子とは異なる粒状物質(ただしカーボンブラックを除く)を更に含む請求項1〜11のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
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