本発明は、概して、細胞性免疫反応、体液性免疫反応及びこれらの組合せを含む、様々な型の免疫反応を効果的に誘導するための組成物及び方法に関する。本発明は、広範な種類の抗原(病原体を含む)に対する防御的免疫反応及び/又は治療上の免疫反応を誘導するために有用である。また、本発明における反応は、細胞性免疫反応、体液性免疫反応、又は細胞性免疫反応と体液性免疫反応との両方を、優先的に誘導する(又は確実に誘導する)ために最適化され得る。加えて、本発明に係るワクチン及びワクチン戦略によって誘導された免疫反応は、病原体に対して有効な反応を提供するために最適化され得る。この病原体は、頻繁に変異する、及び/又は同時に複数の種若しくは株で個体に感染する病原体、異なるライフサイクルステージにおいて個体に感染又は存在する病原体、ならびに標的細胞の感染を含む様々な作用による免疫システムを回避する病原体を含む。免疫反応が、病原体の変化型(変異体又はライフサイクル型)及び/又は病原体による宿主細胞の感染若しくは占領を、抑制又は検出できず、免疫反応が回避される又は誤誘導されるにも関わらず、病気の原因となる病原体の可能性を制限するために、体液性免疫反応が少なくともいくらか効果的である場合に、本発明により誘導された免疫反応は特に効果的である。本発明に係るワクチン及びワクチン戦略によって誘導された免疫反応は、病気又は症状を有する個体を防御又は治療するために最適化され得る。この最適化は、特定の病気又は症状に最も有益な免疫反応の型、及び与えられた抗原又は病原体に対する、これらが与えられた時点での患者の免疫状態に依存する。最後に、本発明に係るワクチン及びワクチン戦略は、わずかな導入で効果的な免疫反応を刺激することができる。さらに、本発明に係るワクチン及びワクチン戦略は、低レベルの抗原への露出で免疫反応を刺激するのにも効果的である(投与量の節約)。
本発明は、防御免疫若しくは治療免疫、及び/又はワクチン接種目的に有用であり、様々な抗原に対する免疫反応を誘導するための組成物及び方法の両方を提供する。ある局面において、本発明は、体液性免疫反応及び細胞性免疫反応の両方を誘導することが可能な組成物を提供する。さらなる局面において、本発明は、目的とする1つ若しくはそれ以上の抗原に対する抗原特異的抗体生成を含む、体液性免疫反応を優先的に誘導する若しくは導くため、又は細胞傷害性T細胞反応を含む、細胞性(細胞の)免疫反応を優先的に誘導する若しくは導くための組成物及びワクチン戦略を提供する。優先的な誘導によって、免疫反応を特定の免疫反応に押し進める又は向けることが意図される。主として、どのようにして、本発明に係る酵母ベースワクチンを用いた免疫システムに利用可能なように抗原が作製されるのかに基づいている。組成物及び免疫付与戦略は、上述したように、免疫反応の最適化を提供するために特に設計されている。本発明は、また、DNAワクチンのような非酵母ベースワクチンを用いた、免疫原性又は成功する免疫付与を強調又は捕捉することが可能な組成物及び方法を提供する。
より詳細には、本発明は、米国特許5,830,463及び7,083,787ならびに米国特許公報2004-0156858 A1及び2006-0110755 A1に記載されているように、酵母を基づく免疫治療製品に関するプラットフォーム技術の進歩を導く。また、本発明は、広範な種類の抗原(病原体を含む)に対する防御及び/又は治療免疫反応を誘導するときに用いられる、新規酵母ベースワクチンを提供する。ある局面において、本発明は、特定の抗原に対する優先的に誘導される免疫反応の型を操作するため、ならびに特定の抗原又は複数の抗原に対して個体を最も効果的に免疫するための、及び抗原又は複数の抗原に関連する病気又は症状を最も効果的に抑制又は治療するための免疫反応の可能性を操作するために、細胞内、細胞外(例えば酵母表面発現)又はその両方に抗原を発現又は提供する、酵母ベースワクチン組成物を選択的に設計する可能性、ならびに異なる抗原、ならびに細胞内及び/又は細胞外発現及び/又は局在した抗原の組合せを選択する可能性、を上手く利用している。
例えば、ここに記載された発明を使用する一実施形態において、組成物及び方法は、抗原又は複数の抗原に対する、交差防御、長期間続く免疫を提供するための「一般的な」ワクチンアプローチ、及び重要な細胞性免疫を提供することが記載されている。本発明の要素は、病原体、例えばある抗原が、異なる株又は異なる種の病原体間において、高度に保存されていることに関する事実を上手く利用している。加えて、標的となり得る免疫反応に対するある細胞(例えば腫瘍細胞)が、特定の保存された抗原に共有され得る。このような抗原は、病原体又は細胞の内部に頻繁に発現する(例えば、病原体又は細胞の内部の抗原が、株と株との間、種と種との間、又は細胞と細胞との間で、より保存されやすい一方で、病原体又は細胞の表面に提示された抗原は、免疫検出を回避し逃れるために、より即座に変化又は変異しやすい。)。このような保存された抗原(ウイルスのような病原体内に発現したときに、細胞内抗原として一般に参照され得る。)は、交差防御及び抗原(それゆえに、病原体に感染した又は病原体に占められた細胞に対する抗原)に対する効果的な細胞性(細胞の)免疫を誘導可能な酵母ベースワクチンの基礎を提供する。この局面において、保存された抗原又は内部抗原は、主として、本発明に係る酵母運搬体によって、細胞内に発現又は提供される。この型の抗原の発現は細胞内発現に限定されないが、保存された抗原又は内部抗原は、以下に示すように、本発明に係る酵母運搬体によって、細胞外(酵母の表面上)にもまた、若しくは代替的に発現又は提供され得る。
本発明に係る酵母運搬体における、抗原の細胞内発現又は局在(例えば、発現、細胞内組み込み、又は酵母の細胞内環境内に含まれる酵母を提供するいずれかの他の方法)は、一般に、いずれかの抗原に対する細胞性免疫反応を優先的に誘導するのに有用であり、より詳細には、細胞性免疫反応が即座に誘導される状況において、抗原を提供する。一方、特に、細胞外環境において野生型の抗原が生じる、又は生じる可能性があるとき(例えば、先行感染、病気又は予防接種)体液性免疫反応もまた、このアプローチによって導かれる又は引き起こされる。酵母運搬体による抗原の細胞内発現又は供給は、抗原の導入又は初期ワクチン接種に特に有用である。これにより、強力な細胞性免疫反応の提供により、及び好ましくは免疫記憶により、(例えば、免疫作用の増幅、感染又は病気を通した)抗原による将来の攻撃に対する細胞性及び体液性の両方を目的とする免疫反応を強調し得るからである。抗原の細胞内発現又は供給は、上述した保存された抗原又は内部抗原、及び以下に示す可変の又は外部抗原を含む、いずれかの抗原に対する免疫反応の誘導に有用である。
他の実施形態において、組成物及び方法は、株、種又は抗原変異体特異的免疫反応を誘導するように設計されて提供される。例えば、このアプローチは、特に病原体の突然変異体、株、種若しくはライフサイクルステージ、又は特に抗原変異体に関連した、より特異的な抗原に対する宿主を免疫する。この変異体は、例えば、表面抗原に基づいて選択された3つのウイルス群を代表する3つのウイルス株をたいてい含む、従来の殺傷されたウイルスワクチンにおいて既に変異したものである。言い換えると、本発明のこの局面はさらに、多くの病原体及び細胞が、特にその病原体又は細胞表面に(表面抗原は一般に外部抗原としてここに参照される)、変化に富んだタンパク質(可変タンパク質)を発現するという事実を上手く利用する。これにより、抗原又は病原体に対して、非常に直接的な免疫、又は周期的な免疫でさえを提供する、酵母ベースワクチンを作製するために用いられ得る。本発明の1つの局面において、このような抗原は、主として、本発明に係る酵母運搬体によって、細胞外(表面上)に発現する。可変の又は外部抗原の発現は、酵母運搬体上における、抗原の細胞外発現又は細胞外供給に限定されず、このような抗原は、以下に示すように、本発明に係る酵母運搬体によって細胞内にもまた、又は代替えとして発現し得る。
本発明に係る酵母運搬体による、細胞外又は表面の抗原の発現又は提供(例えば、表面発現若しくは抗原の酵母運搬体の外側表面への転座の結果として発現することによる、外側表面への抗原の付着による、又は酵母からの抗原の分泌による)は、抗原に対する体液性免疫反応を優先的に誘導する。また、より詳細には、酵母運搬体によって抗原が細胞内に発現したときと比較して、体液性免疫反応の誘導を強調する。一方で、細胞性免疫反応もまた、このアプローチによっても導かれる又は誘導される。確かに、上述した従来の殺傷されたウイルスワクチンと比較して、このようなワクチンの1つの利点は、例えば、ウイルスに対する中和抗体を主として誘導することである。本発明に係るワクチンは、これらの表面抗原に対する細胞性及び体液性の両方の免疫反応を誘導することができる。酵母運搬体による抗原の細胞外発現又は供給は、上述した保存された若しくは内部抗原、及び可変の若しくは外部抗原を含む、いずれかの抗原に対する免疫反応を誘導するために有用である。しかしながら、酵母運搬体における抗原の細胞外発現又は供給は、可溶性抗原、細胞表面発現抗原、又は病原体表面発現抗原のように、免疫システムが細胞外環境における攻撃を予期するような抗原に対する免疫反応の誘導に特に有用である。これにより、このような抗原に対する体液性免疫反応の発展が望まれる。
ある局面において、本発明はまた、細胞性及び体液性の両方の免疫を効果的に誘導する強力な新規ワクチンを提供するために、2つのワクチンを組み合わせて上述のようにアプローチする。これにより、特に抗原突然変異体又は病原体種、病原体株若しくは病原体変異体に対する、交差防御免疫及びより特異的な免疫の両方を提供するように設計することができる。例えば、インフルエンザ感染のようなウイルス感染を参照すると、組合せワクチンアプローチは、ウイルス株特異的抗原アプローチ共に「一般的な」方法である交差防御において、インフルエンザウイルス感染にたいして強力な免疫反応を誘導する。このアプローチは、インフルエンザウイルスに対して、細胞性及び体液性の両方の免疫反応を誘導するだろう。さらに、本発明の好ましい実施形態において、このアプローチは、交差防御及びウイルス株に特異的な方法の両方で行われる。
本発明のこの実施形態において、ワクチンはいずれかの又は複数の方法によって設計されることができる。例えば、ある局面において、病原体からの保存された抗原(例えばウイルス内部抗原)は、酵母運搬体によって細胞内に発現又は供給されることができる。さらに、病原体からの可変抗原(例えばウイルス表面抗原)は、酵母運搬体によって細胞外に発現又は供給されることができる。このような酵母運搬体を用いた免疫付与は、ウイルスに対する細胞性及び体液性の両方の免疫反応を誘導するだろう。また、これらの誘導は、交差防御方法及びウイルス株に特異的な方法の両方によって行われるだろう。このような酵母運搬体を含むワクチンによって免疫した個体は、保存された抗原に対して強力な細胞性免疫を有し、可変の抗原に対して強力な体液性免疫を有している。一方で、両方の型の免疫反応は、両方の型の抗原に対して導かれるだろう。この第1実施例が、ウイルスに対する免疫反応を向上させる又は修飾するためにどのように変更され得るかは、当業者に明白だろう。例えば、保存された抗原及び可変の抗原の両方が、酵母によって細胞内に発現又は供給され得る。また、両方の型の抗原に対して細胞性免疫反応(将来の細胞性及び体液性免疫反応を導くために重要である)を誘導することをより確実にし、可変の抗原に対するより効果的な体液性免疫を即座に供給するために、酵母によって、可変の抗原を細胞外に発現又は供給することができる(図16及び本明細書における議論を参照のこと)。
ここに記載した実施形態の組合せにおいて、細胞外(酵母運搬体表面上)に抗原を発現又は供給した酵母運搬体は、細胞内に発現又は供給された酵母運搬体と同一又は異なる酵母運搬体であることができる。加えて、細胞内抗原及び/又は細胞外抗原の異なる組み合わせは、異なる酵母運搬体上に発現することができる。また、媒体は、所望のワクチン接種に基づいて、別々に又は一緒に用いることができる。一般に、2つ又はそれ以上の異なる酵母運搬体によって抗原が供給されたとき(例えば、1つの酵母運搬体において全ての抗原を発現又は供給するのに対して)、酵母運搬体を組み合わせて(混合して)単一のワクチンとして投与する(例えば、一度の注入又は他の型の投与)、又は異なる酵母運搬体を連続して投与することができる。連続した投与は、短い時間(秒又は分)に区切ること、及びより長い時間(日、週、月又はさらに年)に区切ることを含む、いずれかの適切な期間によって分割することができる。これらの実施形態において、本発明は、好ましい実施形態における、抗原のいずれかの組合せが、用いられ得る少なくとも1つの細胞内抗原と少なくとも1つの細胞外抗原とを含むことを意図している。また本発明は、そのような抗原を発現又は供給する酵母運搬体(単一の酵母運搬体を含む)のいずれかの組合せを用いて、これらの抗原が供給されることを意図している。
上述したワクチンアプローチは結果的に、細胞外抗原及び/又は細胞内抗原の異なる組合せを含む、抗原の異なる組合せ、さらにある局面において、保存された及び/又は可変の抗原の異なる組み合わせ、が提供される場合において、異なる酵母ベースワクチンの投与の組合せ又は連続した投与(例えば主要な/増強戦略)によって変更され得る。加えて上述した酵母運搬体は、同時に又は順次(たとえば、主要な及び増強プロトコールにおいて)、さらなる免疫反応に向かい、かつ感染及び病気に対する強調された防御を提供するために、ワクチンの他の型と組み合わせることができる。一実施形態において、少なくとも細胞性免疫、またある局面においては、細胞内及び細胞外の両方に抗原を発現又は供給することによって細胞性及び体液性の両方の免疫を提供する、本発明に係る酵母ベースワクチンは、特定の抗原、1組の抗原又は病原体に対する免疫反応を導くために用いられる。そして、免疫の増強は、DNAワクチン、タンパク質サブユニットワクチン又は殺傷された若しくは不活化された病原体のような従来のワクチンの運搬によって、提供される。また、免疫の増強は、他の酵母ベースワクチン(膜又は細胞壁粒子ワクチンを含む)、又は酵母と従来の抗原調整物との組み合わせ若しくは酵母単独によっても、提供される(例えば、これらの後者の2つの筋書きにおいて、酵母がアジュバントとして先行して提供されている場合)。このような「先導−増強」戦略において、第1免疫(先導)が次の増強の効果を向上させた結果として誘導される、及びある実施形態において誘導される強力な細胞性反応が、実際に相乗作用効果を提供することができる。特に、増強するワクチンが先導するワクチンと異なる型のワクチンであり、先導するワクチンと比較して異なる抗原を含んでいるとき、このような相乗作用効果を提供することができる。
本発明に係る酵母ベースワクチン及び方法を用いて免疫反応を導くことによって、細胞性及び体液性の両方の免疫記憶が生成される(例えば、目的とする抗原を選択的に認識する記憶B細胞及びT細胞が生成される)。結果として、例えば、ワクチン増強、病気又は感染による、後の抗原に対する暴露において、免疫システムはより迅速にかつ効果的に反応するだろう。また、ワクチン増強に対して重要なことに、より引く低い抗原を、非酵母ベースワクチンの増強剤として用いることができる(例えば、実施例2ならびに図14及び16)。加えて、酵母運搬体は、非酵母ベースワクチンとの相乗効果において機能し得るので、免疫反応を、酵母ベースワクチンをDNAワクチンと組合わせるような、組合せアプローチによって最適化する。これにより、ワクチンはただ1回及び/又は定量で効果的に投与されればよい。このような投与量節約の特性は、非酵母ベースワクチン供給不足である場合又は物質の公衆衛生が脅かされる戦闘時に望まれる。特に一斉予防注射のように、1以上の個体を免疫することが困難になるからである。
酵母運搬体がやむを得ず、目的とする抗原を組換え発現しない、又は別の方法で供給されない場合、本発明に係る組成物及び方法は、ワクチン(例えば、DNAワクチン、サブユニットタンパク質ワクチン、殺傷又は不活化病原体、樹状細胞ワクチン等の従来のいずれかのワクチン)もまた含んでいてもよく、単独で供給される抗原の免疫反応を強調するための、又は非抗原担持酵母運搬体の投入における免疫反応を誘導するのに十分な量の抗原を、個体がすでに保持している場合のアジュバントとして用いられる。このような個体は病原体に感染している個体であり、細胞タンパク質の変異した、又は免疫システムに耐性がない抗原若しくは耐性が破壊された抗原を発現若しくは担持した個体である。このアプローチは、上述したように、細胞内及び/又は細胞外に異種抗原を発現又は供給する酵母運搬体に先行する又は後に続く免疫付与に組合わせることができる。
実際には、本発明に係るワクチンがどのように設計され、用いられるかには、かなりの柔軟性がある。例えば、保存された抗原のような、ある抗原が、発現した又は組み込まれた(例えば、連結された、混合された、含有した、供給された)酵母運搬体を含む「一般的な」ワクチンが、個体において交差防御免疫を向上させるために、周期的な方式で個体に投与され得る。このワクチンを、例えば、個体群の間で広がることが知られている特定のウイルス株に対応するために、例えば1回又は周期的な方式で、可変抗原のような他の抗原が発現した又は組み込まれた酵母運搬体と組み合わせることができる。このような可変抗原が発現した又は組み込まれた酵母運搬体は、与えられた期間の間又は特定の地域のために、目的とする病原体及び/又は最も流行している病原体株を標的とするために、毎年又は他のいずれかの好ましい方式(例えば、緊急又は先行する伝染病若しくは流行病、あるいは他の必要性)で、交替、代替又は選択することができる。ここに提供された記載を考慮すれば、本発明の他の実施形態は明らかになるだろう。
上述したように、酵母運搬体において抗原を発現する又は抗原を連結する型の操作は、特定の免疫結果を達成する。個体群、個体又は特定の病気、症状若しくは病原体感染ための、所望するように「調整」又は「設計」されたワクチンに利用することができる。酵母運搬体による抗原の細胞外発現又は供給の場合、体液性及び細胞性の両方の免疫が誘導されるが、この型の発現又は供給は、酵母による抗原の細胞内発現又は供給の場合と比較して、体液性免疫の誘導に特に効果的である。これは、主に、本実施形態おける、抗原のB細胞に対する直接的な暴露によって、B細胞が活性化、増殖、成熟及び抗体生成がより効果的に行われることが理由である。
より詳細には、酵母表面に発現又は供給された(酵母の側に分泌した)抗原が、B細胞の側に発現したB細胞抗原レセプター(BCR)によって認識されることができる。この表面抗原にBCRが結合すると、それからB細胞は、結合した抗原発現酵母運搬体を吸収し、抗原が処理されて、抗原からのペプチドの型で、主要組織適合複合体(MHC)クラスIIレセプターを付随させた複合体として、B細胞表面に戻される。これらのMHCペプチド複合体は、特定のMHCペプチド複合体を特異的に認識するT細胞レセプター(TCR)を有する。「ヘルパー」T細胞(例えばCD4+T細胞)に結合する。B細胞の側に存在するMHCペプチド複合体を認識する、活性化した抗原特異的T細胞は、順に、このようなB細胞にシグナルの型(例えば、サイトカイン)で「救済」を提供する。これにより、B細胞を増殖させ、その継承細胞を分化させ、抗体分泌細胞に成熟させる。
ヘルパーT細胞は、樹状細胞及びマクロファージを含む、他の抗原存在細胞の側に存在するMHCペプチド複合体と接触することと同様に、上述したようなMHC抗原複合体が存在するB細胞にT細胞が接触することによって活性化され得る。さらに、本発明に係る酵母運搬体は、樹状細胞のような抗原存在細胞のMHCクラスI経路(MHCクラスII経路に加えて)の側で熱心に食作用され、当該MHCクラスI経路を直接的に活性化するので、CD4+細胞性反応に加えて、CD8+細胞性免疫反応が、抗原の細胞外発現又は供給によって誘導される。この方法において、体液性及び細胞性の両方の免疫反応が、酵母の側の抗原の細胞外発現又は供給によって誘導される。そして、発現のこの型は、抗原の細胞内発現又は供給と比較して、体液性免疫反応の誘導により効果的であると確信される。体液性免疫反応には、中和抗体の生成が含まれ得る。中和抗体は、感染性の病気及び他の望ましくない症状の抑制及び治療に有用である。
体液性免疫反応の結果としておこるB細胞活性化の様子を、図16A及び16Bに模式的に示した。図16Aを参照して、B細胞活性化のシグナル1に対して、抗原は、非酵母ベースワクチン若しくは可溶性タンパク質によって、又は酵母発現、酵母提示又はそうでなければ表面上の標的抗原の含有によって、供給される。図16Bを参照して、活性化B細胞によって行われる、抗原の細胞内処理は、MHCクラス2レセプターを介して存在し、抗原特異的ヘルパーT細胞によって認識され、抗原特異的ヘルパーT細胞を活性化する。活性化抗原特異的T細胞によって伝達されるシグナル及びサイトカインは、B細胞反応を成熟させ、かつ抗体生成を増強させる。上述し、さらに以下で示すように、細胞内に標的抗原を発現した酵母は、抗原特異的ヘルパーT細胞の数を活性化及び増幅させるのに、非常に効果的である。ヘルパーT細胞活性化及び増殖が、先行する又はB細胞の可溶性標的抗原結合に付随するとき、抗体生成はより効果的に誘導される。
以前に報告されているように、抗原が酵母運搬体の細胞内に発現又は供給されたとき、細胞性免疫反応(CD4+及びCD8+T細胞反応の両方)は、樹状細胞及びマクロファージのような抗原存在細胞の、MHCクラスI制限経路及びMHCクラスII制限経路の両方を介した抗原の存在によって生成される(例えば、米国特許5,830,463及び7,083,787、ならびにStubbsらのNat. Med. 7:625-629 (2001)及びLuらのCancer Research 64:5084-5088 (2004)参照のこと)。このメカニズムで活性化されたT細胞は、非酵母ベースワクチンのような異なるアプローチによって、又は例えば病原体若しくは病気により自然に暴露されることによって、標的抗原に攻撃されたB細胞にシグナルを供給することによって、抗体生成にもまた寄与することができる。この概念で実施した実験結果を図14及び15に示す。
本発明はこのようなワクチンに限定されないが、本発明の種々の観点は、ここに記載したインフルエンザワクチンの特定の例を通じてよりよく理解されるだろう。ここに提供した情報が与えられたことによって、当業者であれば即座に、本発明に係る酵母運搬体による細胞外及び/又は細胞内抗原発現又は供給される細胞外及び/又は細胞内抗原の操作、保存された抗原及び可変の抗原(又は内部抗原及び外部抗原)の発現又は供給の操作、ならびにここに記載した方法の先導及び増強の操作によって、インフルエンザウイルスのために記載されたワクチン戦略を、他の病原体及び標的抗原が細胞タンパク質である場合の免疫プロトコールに対して推定することが可能であることは明白である。
一実施形態において、本発明は概して、インフルエンザウイルスに対して動物を予防接種するための、及び動物においてインフルエンザ感染を治療又は抑制するための、新規組成物及び方法に関する。本発明は、酵母ベースワクチン又は酵母ベースワクチンの組合せの使用方法を包含し、少なくとも1つの酵母運搬体、及び動物においてインフルエンザ感染に対する免疫反応の誘導が選択された、少なくとも1つのインフルエンザ抗原を含むワクチンを包含する。特に好ましい実施形態において、本発明は、酵母ベースワクチンにおけるインフルエンザ抗原の組合せの使用方法を包含している。抗原の組合せが、特定のウイルス株に対する特定の防御と同様に、様々なインフルエンザウイルス株に対する交差防御を提供する。本発明は、交差防御、「一般的な」ワクチンアプローチ、ならびに単独及び共同のウイルス株特異的抗原アプローチを利用して、インフルエンザウイルス感染を防ぐために用いられる、新規の酵母ベースワクチンを、特に提供する。このアプローチは、好ましくは交差防御方法及びウイルス株特異的方法の両方によって行われる、インフルエンザウイルスに対する細胞性及び体液性の両方の免疫反応を誘導するだろう。
本実施形態の第1局面において、本発明は、インフルエンザウイルスによって内部に発現したあるタンパク質が、ウイルス株間において高度に保存されているという事実を利用する。これらの抗原(ここで概して、内部ウイルスタンパク質と称する)は、交差防御し、かつウイルスタンパク質(及び、インフルエンザウイルス感染細胞)に対する効果的な細胞性免疫反応を誘導し得る、酵母ベースワクチンのための基礎を提供する。
本実施形態の他の局面において、本発明はさらに、表面タンパク質(ここで概して、外部ウイルスタンパク質と称する)の変異体がインフルエンザウイルス株に発現する事実を利用する。3つのウイルス群を代表する3つのウイルス株を典型的に含む従来の殺傷されたウイルスワクチンにおいて行われたように、表面タンパク質は、表面抗原に基づいて選択された、より特異的なウイルス株に対して宿主を免疫する酵母ワクチンを生成するために用いることができる。
しかしながら、ウイルスに対する中和抗体反応を誘導する、これらの従来の殺傷されたウイルスワクチンと比較して、本発明に係るワクチンは、これらのウイルス表面抗原に対して、細胞性及び体液性の両方の免疫反応を誘導することができる。さらに、本発明は、好ましい局面において、細胞性及び体液性の両方の免疫を含み、交差防御及びウイルス株特異的免疫の両方を誘導する、強力な新規インフルエンザワクチンを提供するために、これらの2つのワクチンを組合せる。
〔一般的な技術〕
本発明の実施は、特に指示がない限り、分子生物学(組み換え技術が挙げられる)、微生物学、細胞生物学、生化学、核酸化学、及び免疫学の当業者にとって公知である従来の技術を採用する。当該技術は、Methods of Enzymology, Vol. 194, Guthrie et al., eds., Cold Spring Harbor Laboratory Press (1990); Biology and activities of yeasts, Skinner, et al., eds., Academic Press (1980); Methods in yeast genetics : a laboratory course manual, Rose et al., Cold Spring Harbor Laboratory Press (1990); The Yeast Saccharomyces: Cell Cycle and Cell Biology, Pringle et al., eds., Cold Spring Harbor Laboratory Press (1997); The Yeast Saccharomyces: Gene Expression, Jones et al., eds., Cold Spring Harbor Laboratory Press (1993); T he Yeast Saccharomyces: Genome Dynamics, Protein Synthesis, and Energetics, Broach et al., eds., Cold Spring Harbor Laboratory Press (1992); Molecular Cloning: A Laboratory Manual, second edition (Sambrook et al., 1989) and Molecular Cloning: A Laboratory Manual, third edition (Sambrook and Russel, 2001), (本明細書においてまとめて「Sambrook」と呼ぶ);Current Protocols in Molecular Biology (F.M. Ausubel et al., eds., 1987,2001年までの補足を含む); PCR: The Polymerase Chain Reaction, (Mullis et al., eds., 1994); Harlow and Lane (1988) Antibodies, A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Publications, New York; Harlow and Lane (1999) Using Antibodies: A Laboratory Manual Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY (本明細書においてまとめて「Harlow and Lane」と呼ぶ), Beaucage et al. eds., Current Protocols in Nucleic Acid Chemistry John Wiley & Sons, Inc., New York, 2000); Casarett and Doull‘s Toxicology The Basic Science of Poisons, C. Klaassen, ed., 6th edition (2001), 及びVaccines, S. Plotkin and W. Orenstein, eds., 3rd edition (1999)といった文献において十分に説明されている。
〔一般的な定義〕
「体液性免疫反応」は、一般的に、抗体産生、及び抗体産生に伴って生じる過程のすべて(Bリンパ球(B細胞)の活性化、親和性の成熟、プラズマ細胞への分化、ならびに記憶B細胞の発生、胚中心形成及びアイソタイプ切り替え、ならびにヘルパーT細胞の活性化、シグナル伝達、及びサイトカイン産生が挙げられるが、これらに限定されない)の他に、中和、古典的な(classical)補体の活性化及びオプソニン作用を含む抗体のエフェクター機能を指す。
「細胞性」免疫反応(本明細書のどこにおいても「細胞」免疫反応と交換可能に使用され得る)は、一般的に、免疫細胞(Tリンパ球(細胞毒性Tリンパ球(CTL))、樹状細胞、マクロファージ、及びナチュラルキラー細胞が挙げられるが挙げられる)の抗原に対する応答、当該応答に伴って生じる過程(これらの細胞の増殖及び活性化、CTLエフェクター機能、適応的免疫反応及び先天性免疫反応に関する他の細胞の機能に影響するサイトカイン産生、及び記憶T細胞生成が挙げられる)のすべてを指す。
本発明によれば、酵母運搬体に関して細胞外における抗原の提供(又は細胞外の抗原の提供)に、本明細書において適用されるときに、用語「細胞外」は、あらゆる多くの方法によって達成され得る、抗原が酵母運搬体の細胞外(表面上又は外側)にあるということを指す。例えば、抗原又はそれらの一部が酵母運搬体の外表面(例えば、完全な酵母、原型を保った酵母にとっての細胞壁、又は、酵母のスフェロプラスト、細胞質体及びゴーストにとっての細胞質膜)に並べられる(位置される、含まれる、局在される)ように酵母運搬体によって発現される場合に、抗原は、酵母運搬体に関して細胞外にある。 抗原は、例えば、酵母の小胞体(ER)において発現され得、かつそれから酵母の表面に移動され得るが、一般的に組み換え抗原産生に関して、酵母運搬体の表面又は酵母運搬体の細胞外における「発現」という言及は、転写から始まって、翻訳を経て、抗原の標的化、及び酵母運搬体における最後の行き先までの送達若しくは移動を経る、抗原産生の全体の過程を包含することを意図される。また、用語「発現」は、一般的に用語「提供」と交換可能に使用され得、かつもっとも一般的に酵母運搬体の表面上に抗原を提供するあらゆる様式を包含できる(すなわち、他の方法による連携が包含される)。また、例えば、酵母の外表面に、例えば、共有結合又は非共有結合によって(すなわち、酵母によって組み換え発現される必要はない)付着されている場合に、抗原は、酵母運搬体に関して細胞外にある。また、抗原が酵母を有する混合物(混和物、複合した、組成物)の中に単にある場合に、抗原は酵母運搬体に関して細胞外にある。また、抗原が酵母によって分泌される場合に、抗原は、酵母運搬体に関して細胞外にある。
本発明によれば、本明細書において細胞内における抗原の提供(又は細胞内の抗原の提供)に適用されるときに、用語「細胞内」は、あらゆる多くの方法によって達成され得る、抗原が酵母運搬体の細胞内環境の内部に含まれることを意味する。例えば、抗原が酵母運搬体によって発現され(例えば、組み替え産生によって)、かつ産生される少なくともいくつかの抗原が酵母の内部に残っている(すなわち、酵母運搬体の表面に移動若しくは送達されないか、又は酵母運搬体の表面に移動若しくは送達されていない)場合に、抗原は、酵母運搬体に関して細胞内にある。酵母運搬体の細胞内部環境としては、細胞表面を横切っていない、細胞質基質、小胞体、内膜、及び分泌小胞が挙げられる。また、抗原が、酵母の中に添加されている(例えば、輸送の好適な方法(エレクトロポレーション、微粒子銃、微量注入、リポフェクション、吸収、感染及び原形質融合が挙げられる)によって)場合に、抗原は、酵母運搬体に関して細胞内にある。
本発明によれば、用語「抗原」の本明細書における通常の使用は、タンパク質(ペプチド、部分的なタンパク質、全長のタンパク質)のあらゆる部分を指し、ここで、当該タンパク質は、天然に生じているか、又は細胞性組成物(細胞全体、細胞可溶化物又は崩壊した細胞)に対して、生体(生体全体、可溶化物又は崩壊した細胞)に対して又は炭水化物(例えば、がん細胞において発現されたそれら)に対して、又は他の分子かそれらの一部かに対して、合成的に誘導されている。抗原は、当該抗原が投与された個体の細胞及び組織の内部において出くわす同じ又は類似の抗原に対する、抗原特異的免疫反応(例えば、体液性免疫反応及び/又は細胞性免疫反応)を誘発する。代替可能に、抗原は、免疫寛容原として作用可能である。
免疫反応の刺激に言及する場合に、用語「抗原」は、用語「免疫原」と交換可能に使用され得る。本明細書において使用されるときに、免疫原は、動物に対する当該免疫原の投与(例えば、本発明のワクチンを介して)が、組織又は動物の内部において出くわす同じ又は類似の抗原に対して、抗原特異的な免疫反応を起こすように、体液性免疫反応及び/又は細胞性免疫反応を誘発する(すなわち、抗原性である)抗原を表す。
「寛容原」は、免疫原を発現若しくは提示する細胞、又は当該免疫源との接触に応じて、抗原に対する免疫反応が低下又は変化するような、かつ好ましくは実質的に非応答、アネルギー、他の不活化、免疫細胞の消失になるような、投与の形態、量、又は経路において提供される抗原を表すために使用される。
「ワクチン接種抗原」は、免疫原又は寛容原であり得るが、ワクチンにおいて使用される抗原であり、ここで、当該ワクチン抗原に対して生物学的応答(免疫反応、免疫寛容の誘発)が誘発されることである。
所定の抗原の「免疫原性ドメイン」は、動物に投与された場合に免疫原として作用する少なくとも1つのエピトープを含む、抗原のあらゆる部分、断片又はエピトープ(例えば、ペプチド断片又はペプチドサブユニット又は抗体エピトープ又は他の立体構造エピトープ)であり得る。例えば、単一のタンパク質は、複数の異なる免疫原ドメインを含むことができる。免疫原ドメインは、例えば、体液性免疫反応の場合に、タンパク質内の直鎖状配列である必要はない。
エピトープは、本明細書おいて、免疫反応を十分に誘発する所定の抗原内における単一の免疫原性部位、又は免疫反応を十分に抑制、消失若しくは不活化する所定の抗原内における単一の寛容原部位として定義される。当業者は、T細胞エピトープがB細胞エピトープと、大きさ及び組成に関して異なること、ならびにクラスIのMHC経路を介して提示されるエピトープが、クラスIIのMHC経路を介して提示されるエピトープと異なることを認識する。エピトープは、直鎖状配列又は立体構造エピトープ(結合領域が保存される)であり得る。抗原は、単一のエピトープほどの大きさであり得るか、又は単一のエピトープより大きくあり得、かつ複数のエピトープを含むことができる。従って、抗原の大きさは、約5−12アミノ酸(例えば、ペプチド)ほどの大きさであり得、かつ全長のタンパク質(多量体タンパク質及び融合タンパク質か、キメラタンパク質か、完全な細胞か、完全な微生物か、又はこれらの一部(例えば、細胞全体の可溶化物又は微生物の抽出物)が挙げられる)ほどの大きさであり得る。その他に、抗原は、酵母運搬体に、又は本発明の組成物に取り込まれ得る炭水化物を含むことができる。ある実施形態において(例えば、抗原が酵母運搬体によって組み換え核酸分子から発現される場合に)、抗原が、全体の細胞又は微生物であるよりむしろ、タンパク質、融合タンパク質、キメラタンパク質、又はこれらの断片であることを理解される。本発明の好ましいインフルエンザ融合タンパク質が、本明細書に記載されている。
「ワクチン接種」又は「免疫化」は、抗原を単独に又は補助剤とともに投与した結果として、抗原又はこれらの免疫原性部分又はこれらの寛容原性部分に対する、免疫反応の誘発(誘導)を指す。ワクチン接種は、結果として好ましく予防効果又は治療効果を生じ、ここで、抗原(又は抗原の原料)に対する後のばくろは、動物における疾患又は悪い健康状態を軽減するか又は予防する、抗原(又は原料)に対する免疫反応を誘発する。ワクチン接種の概念は、当該技術において公知である。本発明の組成物(ワクチン)の投与によって誘発される免疫反応は、当該組成物の投与を行っていない場合と比べて、免疫反応のあらゆる様相(例えば、細胞性反応、体液性反応、サイトカイン酸性)のあらゆる検出可能な変化であり得る。
タルモゲン(Tarmogen)(標的分子抗原)は、一般的に、細胞外に(その表面に)、細胞内に(内部に又は細胞質基質に)、又は細胞外と細胞内との両方に1つ以上の異種抗原を発現している酵母運搬体を指す。タルモゲンは、当該技術において一般的に説明されている。例えば、米国特許第5,830,463号明細書を参照すればよい。
本発明の1つの実施形態において、本明細書に記載のあらゆるアミノ酸配列は、特定のアミノ酸配列のC末端及び/又はN末端に隣接する、少なくとも1つから20以下の付加的な異種アミノ酸とともに産生され得る。結果として生じるタンパク質又はポリペプチドは、特定のアミノ酸配列「から必須に構成されるもの」と呼ばれ得る。上述のように、本発明によれば、異種アミノ酸は、特定のアミノ酸配列に隣接して天然に見られない(すなわち、自然に、インビボにおいて見られない)、又は特定のアミノ酸配列の機能と関連しない、又は天然に生じる配列における核酸が所定のアミノ酸配列が得られる生物にとって標準のコドン用法を用いて翻訳される場合に、異種アミノ酸が遺伝子において生じるときに、特定のアミノ酸配列をコードする天然に生じる当該核酸配列と隣接するヌクレオチドにコードされない、アミノ酸の配列である。同様に、本明細書において核酸配列に言及して使用される場合に、表現「から必須に構成されるもの」は、特定のアミノ酸配列をコードする核酸の5’末端及び/又は3’末端において、少なくとも1つから約60程度までの付加的な異種ヌクレオチドによって隣接される、特定のアミノ酸配列をコードする核酸配列を指す。異種ヌクレオチドは、当該ヌクレオチドが天然の遺伝子において生じるか、又はタンパク質のあらゆる付加的な機能を損なうか、若しくは特定のアミノ酸配列を有するタンパク質の機能を変えるタンパク質をコードしないときに、特定のアミノ酸配列をコードする核酸配列に隣接して天然に見られない(すなわち、自然において、インビボにおいて見られない)。
本発明によれば、「異種アミノ酸」は、特定のアミノ酸配列と隣接して天然に見られない(すなわち、自然に、インビボにおいて見られない)、又は特定のアミノ酸配列の機能に関連しない、又は天然に生じる配列におけるヌクレオチドが、所定のアミノ酸配列が得られる生物にとっての標準のコドン用法を用いて翻訳された場合に、当該ヌクレオチドが遺伝子において生じるときに、特定のアミノ酸配列をコードする天然に生じる核酸配列と隣接するヌクレオチドによってコードされない、アミノ酸の配列である。従って、インフルエンザ抗原に対して異種の少なくとも2つのアミノ酸残基は、インフルエンザ抗原と隣接して天然に見られない少なくとも2つのあらゆるアミノ酸残基である。
本発明によれば、本発明の酵母運搬体に関して、「異種」タンパク質又は「異種」抗原(異種の融合タンパク質が挙げられる)に対する言及は、当該タンパク質又は抗原が酵母によって天然に発現されるタンパク質又は抗原ではないが、融合タンパク質が酵母によって天然に発現される酵母の配列又はタンパク質又はこれらの一部(例えば、本明細書に記載のAgaタンパク質)を含み得ることを意味する。例えば、インフルエンザのヘマグルチニンタンパク質及び酵母のAgaタンパク質の融合タンパク質は、当該融合タンパク質が酵母によって天然に発現されないので、本発明の目的にふさわしい酵母運搬体に関して異種タンパク質とみなされる。
本発明によれば、表現「〜と選択的に結合する」は、特定のタンパク質と差別的に結合する、本発明の抗体、抗原結合断片又は結合相手の能力を指す。より詳細には、表現「選択的に結合する」は、1つのタンパク質をもう1つのタンパク質と(例えば、抗体、これらの断片又は結合相手を抗原と)特異的に結合することを指し、ここで、ここで、あらゆる標準的なアッセイ(例えば、免疫学的検定)によって測定されるような結合の度合いは、当該アッセイ用のバックグラウンド対照より統計的に有為に高い。例えば、免疫学的検定を実施する場合に、対照としては、抗体又は抗原結合断片を単独に含む(すなわち、抗原がない場合の)反応ウェル/チューブが典型的に挙げられ、ここで、抗原の非存在下における抗体又はこれらの抗原結合断片による反応性の総計(例えば、ウェルに対する非特異的結合)は、バックグラウンドとみなされる。結合は、当該技術において標準的な種々の方法(酵素免疫検定(例えば、ELISA)、免疫ブロット法などが挙げられる)を用いて測定され得る。
「個体」は、脊椎動物、好ましくは哺乳類、より好ましくはヒトである。哺乳類としては、家畜、競技動物、愛玩動物、霊長類、マウス及びラットが挙げられる。用語「個体」は、用語「動物」、「対象」又は「患者」と交換可能に使用され得る。
本発明における単離されたタンパク質又はポリペプチドに対する言及は、全長タンパク質、融合タンパク質、又は当該タンパク質のあらゆる断片、ドメイン、若しくは立体構造エピトープを含む。より詳細には、本発明に係る単離されたタンパク質は、その天然の環境から取り出されている(すなわち、人の操作を受けている)タンパク質(ポリペプチド又はペプチドが挙げられる)であり、かつ例えば、精製されたタンパク質、部分的に精製されたタンパク質、組み換え的に産生されたタンパク質及び合成的に産生されたタンパク質を含み得る。従って、「単離された」は、タンパク質が精製されている程度を反映しない。好ましくは、本発明の単離されたタンパク質は、組み換え的に産生される。本発明によれば、用語「修飾」及び「変異」は、特に本明細書に記載のタンパク質又はこれらの一部のアミノ酸配列(又は核酸配列)に対する修飾/変異に関して、交換可能に使用され得る。
本明細書において使用されるときに、用語「相同物」は、天然に生じるタンパク質又はペプチド(すなわち、「原型」又は「野性体」のタンパク質)とは、天然に生じる当該タンパク質又はペプチドに対する軽微な修飾によって異なるが、天然に生じる形態の基本的なタンパク質構造及び側鎖構造を維持しているタンパク質又はペプチドを指すために使用される。当該変化としては、1若しくは数個のアミノ酸側鎖の変化;1若しくは数個のアミノ酸の変化(欠失(例えば、当該タンパク質の又はペプチドの切断型)、挿入及び/又は置換が挙げられる);1若しくは数個の原子の立体化学的な変化;及び/又は軽微な誘導体化(メチル化、糖化、リン酸化、アセチル化、ミリストイル化、プレニル化、パルミチン酸化、アミド化及び/又はグリコシルホスファチジルイノシトールの付加が挙げられるが、これらに限定されない)が挙げられるが、これらに限定されない。相同物は、天然に生じるタンパク質又はペプチドと比べて、増強された性質、減弱された性質又は同様の性質のいずれかを有し得る。相同物としては、タンパク質のアゴニスト又はタンパク質のアンタゴニストを挙げることができる。相同物は、タンパク質を産生するための当該技術において公知の技術(単離された天然に生じるタンパク質に対する直接的修飾、直接的なタンパク質合成、又は例えば、無作為の若しくは標的化した変異生成をもたらすための古典的DNA技術若しくは組み換えDNA技術を用いた当該タンパク質をコードする核酸配列に対する修飾が挙げられるが、これらに限定されない)を用いて産生され得る。
所定のタンパク質の相同物は、基準のタンパク質のアミノ酸配列に対して、少なくとも約45%、又は少なくとも約50%、又は少なくとも約55%、又は少なくとも約60%、又は少なくとも約65%、又は少なくとも約70%、又は少なくとも約75%、又は少なくとも約80%、又は少なくとも約85%、又は少なくとも約90%、又は少なくとも約95%、又は少なくとも約95%、又は少なくとも約96%、又は少なくとも約97%、又は少なくとも約98%、又は少なくとも約99%が同一(又は全整数の変化量の単位において、45%から99%の間のあらゆるパーセントの同一性)である、アミノ酸配列を包含し得るか、アミノ酸配列から必須に構成され得るか、又はアミノ酸配列からなり得る。1つの実施形態において、相同物は、基準のタンパク質の天然に生じるアミノ酸配列に対して、100%未満が同一の、約99%未満が同一の、約98%未満が同一の、約97%未満が同一の、約96%未満が同一の、約95%未満が同一の、以下同様に1%の変化量において約70%未満までが同一の、アミノ酸配列を包含するか、アミノ酸から必須に構成されるか、又はアミノ酸からなる。
本明細書において使用されるときに、特に明記しない限り、同一性のパーセント(%)に対する言及は、(1)標準の初期値の変数を有するアミノ酸検索用のblastp及び核酸検索用のblastnを用いたBLAST 2.0 Basic BLAST相同性検索(ここで、照会配列は、初期値によって低い複雑性の領域について取り除かれる)(引用によってその全体が本明細書に組み込まれるAltschul, S.F., Madden, T.L., Schaeaeffer, A.A., Zhang, J., Zhang, Z., Miller, W. & Lipman, D.J. (1997) “Gapped BLAST and PSI-BLAST: a new generation of protein database search programs.” Nucleic Acids Res. 25:3389-3402に記載されている);(2)(後述の変数を用いた)BLAST2整列;及び/又は(3)標準の初期値の変数を有するPSI−BLAST(Position−Specific Iterated BLAST)を用いて実施される相同性の評価を指す。ここで、BLAST 2.0 Basic BLASTとBLAST2との間にある標準の変数におけるいくつかの差に起因して、2つの特定の配列が、BLAST2プログラムを用いて有為な相同性を有するとして認識されるかもしれないが、一方、照会配列として当該配列の内の1つを用いてBLAST 2.0 Basic BLASTにおいて実施した検索は、最上位の一致として第2配列を同定しないかもしれないことを留意すべきである。その他に、PSI―BLASTは、配列相同性を探すための感度の高い手段である、「プロファイル」検索の自動化された使い勝手の良い種類を提供する。当該プログラムは、まずギャップト(gapped)BLASTデータベース検索を実施する。PSI−BLASTプログラムは、帰ってきたあらゆる有為な整列に由来する情報を用いて、データベース検索の次の一巡にとっての照会配列を差し替える、位置特異的な得点マトリクスを構築する。従って、パーセント同一性がこれらのプログラムのあらゆる1つを用いることによって決定され得ることが、理解される。
Tatusova and Madden, (1999), “Blast 2 sequences - a new tool for comparing protein and nucleotide sequences”, FEMS Microbiol Lett. 174:247-250(参照によってその全体が本明細書に組み込まれる)に記載のように、2つの特定の配列は、BLAST2配列を用いて互いに整列化され得る。BLAST2配列整列は、BLAST 2.0アルゴリズムを用いたblastp又はblastnを実施されて、結果として生じる整列に隙間(欠失及び挿入)の導入を可能にする当該2つの配列間におけるギャップトBLAST検索(BLAST 2.0)を実施する。本明細書における明確さを目的として、BLAST2配列整列が、以下の標準的な初期値の変数を用いて実施される。
For blastn, using 0 BLOSUM62 matrix:
Reward for match = 1
Penalty for mismatch = −2
Open gap (5) and extension gap (2) penalties
gap x_dropoff (50) expect (10) word size (11) filter (on)
For blastp, using 0 BLOSUM62 matrix:
Open gap (11) and extension gap (1) penalties
gap x_dropoff (50) expect (10) word size (3) filter (on)。
単離した核酸分子は、その天然の環境から取り出されている(すなわち、人の操作を受けている)核酸分子であり、当該天然の環境は、核酸分子が天然に見られるゲノム又は染色体である。従って、「単離した」は、核酸分子が精製される度合いを反映する必要はないが、当該分子が、当該核酸分子が天然に見られるゲノムの全体又は染色体の全体を含まないことを表す。単離した核酸分子は、遺伝子を含み得る。遺伝子を含む単離した核酸分子は、当該遺伝子を含む(しかし、むしろ当該遺伝子と関連するコード領域及び制御領域を含むが、同じ染色体上に天然に見られる付加的な遺伝子を含まない)染色体の断片ではない。また、単離した核酸分子としては、特定の核酸配列と天然において隣接しない付加的な核酸(すなわち、異種の配列)によって隣接された(すなわち、当該配列の5’末端及び/又は3’末端において)特定の核酸配列を挙げることができる。単離した核酸分子としては、DNA、RNA(例えば、mRNA)又はDNA若しくはRNAのいずれかの誘導体(例えば、cDNA)を挙げることができる。表現「核酸分子」は、主に物質的な核酸分子を指し、かつ表現「核酸配列」は、主に核酸分子のヌクレオチドの配列を指すが、2つの表現は、特にタンパク質又はタンパク質のドメインをコード可能な核酸分子、又は核酸配列に関して、交換可能に使用され得る。
組み換え核酸分子は、トランスフェクトされた細胞において核酸分子の発現を効率的に調節可能なあらゆる転写制御配列の少なくとも1つと作動可能に連結された本明細書に記載のあらゆるタンパク質の1つ以上をコードするあらゆる核酸配列の少なくとも1つを含み得る、分子である。表現「核酸分子」は、主に物質的な核酸分子を指し、かつ表現「核酸配列」は、主に核酸分子のヌクレオチドの配列を指すが、2つの表現は、特にタンパク質をコード可能な核酸分子、又は核酸配列に関して、交換可能に使用され得る。その他に、表現「組み換え分子」は、主に転写制御配列と作動可能に連結された核酸分子を指すが、動物に投与される、表現「核酸分子」と交換可能に使用され得る。
組み換え核酸分子は、本発明に従って融合タンパク質の組み換え産生を実現可能にし、かつ宿主細胞への核酸分子の送達を可能にする、本発明の融合タンパク質をコードする単離した核酸分子を作動可能に連結されたあらゆる核酸配列、典型的に異種配列である組み換えベクターを含む。当該ベクターは、ベクターに挿入される単離した核酸分子と隣接して天然に見られない核酸配列を含み得る。ベクターは、原核生物又は真核生物のいずれかのRNA又はDNAのいずれかであり得、かつ本発明において好ましくはウイルス又はプラスミドである。組み換えベクターは、クローニング、配列決定、及び/又はそうでなければ核酸分子の他の操作(例えば、DNAワクチン又はウイルスベクターに基づくワクチンの場合にように)に使用され得る。組み換えベクターは、核酸分子の発現に好ましく使用され、かつ発現ベクターとも呼ばれ得る。好ましい組み換えベクターは、トランスフェクトされた宿主細胞において発現されることできる。
本発明の組み換え分子において、核酸分子は、宿主細胞と適合し、かつ本発明の核酸分子の発現を制御する制御配列(例えば、転写制御配列、翻訳制御配列、複製開始点、及び他の制御配列)を含む発現ベクターと作動可能に連結されている。特に、本発明の組み換え分子は、1つ以上の発現制御配列と作動可能に連結された核酸分子を含む。表現「作動可能に連結された」は、宿主細胞内にトランスフェクトした(すなわち、形質転換した、形質導入した、又はトランスフェクトした)ときに分子が発現されるように、核酸分子を発現制御配列と連結することを指す。
本発明によれば、用語「トランスフェクション」は、外来の核酸分子(すなわち、組み換え核酸分子)が細胞内に挿入され得るあらゆる方法を指す。用語「形質転換」は、用語「トランスフェクション」(当該用語が微生物細胞(例えば、藻類、細菌及び酵母)への核酸分子の導入を指すために使用される場合に)と交換可能に使用され得る。細菌の系において、用語「形質転換」は、微生物による外来の核酸の獲得に起因する遺伝的変化を説明するために使用され、かつ用語「トランスフェクション」と本質的に同義である。従って、トランスフェクション技術としては、形質転換、細胞の化学的処理、粒子銃、エレクトロポレーション、微量注入法、リポフェクション、吸着、感染及び原形質融合が挙げられるが、これらに限定されない。
〔本発明のワクチン及び組成物〕
本発明の実施形態は、単一の抗原又は複数の抗原に対する細胞性免疫反応及び/又は体液性免疫反応を誘発する方法に使用され得る組成物(ワクチン)に関し、好ましい実施形態において、疾患若しくは悪い健康状態(病原体による感染が挙げられる)から動物を予防するか、又は当該疾患又は悪い健康状態から結果として生じる少なくとも1つの症状を軽減する方法に関する。組成物は、一般的に、(a)酵母運搬体;及び(b)当該酵母運搬体によって発現されるか、当該酵母運搬体と会合されたか、又は当該酵母運搬体と組み合わせた異種抗原を含む。他の組成物は、ワクチン組成物の他の形態(例えば、DNAワクチン、タンパク質サブユニットワクチン、又は殺した病原体若しくは不活化した病原体)において提供される異種抗原と組み合わせた酵母運搬体を含む。酵母運搬体が1つ以上の抗原を発現する場合に、抗原は、あらゆる組み合わせにおいて、細胞内に、細胞外に、又は両方に発現されるか、又は提供される。ある種の実施形態において、抗原は、酵母運搬体における異種タンパク質の発現を安定化するために、発現された異種タンパク質の翻訳後修飾を妨げるために、及び/又はある実施形態において酵母運搬体の表面上に融合タンパク質を発現(転移させることを含む)(細胞外発現)させ得るように、設計された融合タンパク質として提供される。また、融合タンパク質は、広い細胞性免疫反応、及びある実施形態において、体液性免疫反応を提供し、かつ好ましくは、2つ以上の異なる抗原を発現する、及び/又は異なる抗原を発現する他の酵母運搬体と組み合わせられる。これらの融合タンパク質は、酵母運搬体によって(例えば、酵母の細胞質体、酵母のゴースト、又は酵母の膜若しくは細胞壁の抽出物若しくは画分若しくはこれらの粒子にまで、さらに処理され得る、原型を保った酵母又は酵母スフェロプラストによって)組み替えタンパク質としてもっとも典型的に発現されるが、当該融合タンパク質の1つ以上が、酵母運搬体に取り込まれ得るか、又はそうでなければ本明細書に記載の酵母運搬体と複合されるか、若しくは混合されて、本発明のワクチンを形成することは、本発明の実施形態である。
〔酵母運搬体〕
本発明の組成物(例えば、ワクチン)のあらゆるものにおいて、酵母運搬体に関する以下の局面は、本発明に含まれる。本発明によれば、酵母運搬体は、本発明のワクチン若しくは治療組成物において1つ以上の抗原とともに、又は補助剤として使用され得る、あらゆる酵母細胞(例えば、完全な又は原型を保った細胞)又はこれらの誘導物(後述を参照すればよい)である。従って、酵母運搬体としては、生きた原型を保った酵母微生物(すなわち、細胞壁を含めてすべての構成要素を有する酵母細胞)、殺した(死んだ)原型を保った酵母微生物、又はこれらの誘導物(酵母のスフェロプラスト(すなわち、細胞壁を欠く酵母細胞)、酵母の細胞質体(すなわち、細胞壁及び核を欠く酵母細胞)、酵母のゴースト(すなわち、細胞壁、核及び細胞質を欠く酵母細胞)、亜細胞性酵母膜抽出物若しくはそれらの画分(また、酵母膜粒子と呼ばれ、かつ以前は亜細胞性酵母粒子と呼ばれた)、又は酵母細胞壁調整物が挙げられる)が挙げられ得るが、これらに限定されない。
酵母のスフェロプラストは、酵母細胞壁の酵素消化によって典型的に産生される。当該方法は、例えば、引用によってその全体が本明細書に組み込まれる、Franzusoff et al., 1991, Meth. Enzymol. 194, 662-674に記載されている。
酵母の細胞質体は、酵母細胞の除核によって典型的に産生される。当該方法は、例えば、引用によってその全体が本明細書に組み込まれる、Coon, 1978, Natl. Cancer Inst. Monogr. 48, 45-55に記載されている。
酵母のゴーストは、透過化処理された、又は溶解させた細胞を封じ直すことによって産生され、かつ必要ではないが、その細胞の細胞小器官の少なくともいくつかを含むことができる。当該方法は、例えば、いずれも引用によってそれらの全体が本明細書に組み込まれる、Franzusoff et al., 1983, J. Biol. Chem. 258, 3608-3614及びBussey et al., 1979, Biochim. Biophys. Acta 553, 185-196に記載されている。
酵母膜粒子(亜細胞性酵母膜抽出物又はこれらの画分)は、天然の核又は細胞質を欠く酵母の膜を指す。当該粒子は、あらゆる大きさ(天然の酵母の膜の大きさから、超音波処理又は当業者に公知の他の膜崩壊法に続いて、封じ直しによって産生される微粒子までの範囲の大きさが挙げられる)であり得る。亜細胞性酵母膜抽出物を産生する方法は、例えば、Franzusoff et al., 1991, Meth. Enzymol. 194, 662-674に記載されている。また、酵母膜部分、及び抗原が酵母膜粒子の調製前に組み替え的に発現される場合に、関心のある抗原を含む酵母膜粒子の画分を使用し得る。抗原は、膜の内部に、膜のいずれかの表面、又はこれらの組み合わせ(すなわち、抗原が、膜の内部及び外部の両方にあり得る、及び/又は酵母膜粒子の膜にまたがり得る)に運ばれ得る。1つの実施形態において、酵母膜粒子は、膜の表面上にあるか、又は膜内に少なくとも部分的に埋まっている少なくとも1つの所望の抗原を含む原型を保った、崩壊した、又は崩壊しかつ封じ直した酵母膜であり得る、組み換え酵母膜粒子である。
酵母細胞壁調製物の例は、当該酵母細胞壁調製物が、動物に投与されたときに感染性因子に対する所望の(例えば、予防的な)免疫反応を刺激するように、表面上に抗原を支持するか、又は少なくとも部分的に抗原が埋め込まれた単離した酵母細胞壁である。
あらゆる酵母株は、本発明の酵母運搬体を産生するために使用され得る。酵母は、3つの分類:子嚢菌類、担子菌及び不完全菌類の1つに属する単細胞微生物である。免疫修飾物質としての使用に関する酵母の種類の選択に関する主な検討材料の1つは、酵母の病原性である。1つの実施形態において、酵母は、サッカロマイスセレシジアエ(Saccharomyces cerecisiae)といった非病原性の株である。非病原性酵母株の選択は、酵母運搬体が投与される個体に対するあらゆる副作用を最小化のためになされる。しかし、病原性のある酵母は、当該酵母の病原性が当業者に公知のあらゆる手段(例えば、変異株)によって打ち消され得る場合に、使用され得る。病原性あるの酵母、又はこれらの非病原性の変異体は、補助剤として又は生物学的反応の修飾物質として過去に使用されており、かつ本発明に従って使用され得るが、非病原性の酵母が好ましい。
酵母株の好ましい属としては、サッカロマイス(Saccharomyces)、カンジダ(Candida)(病原性であり得る)、クリプトコッカス(Cryptococcus)、ハンセヌラ(Hansenula)、クルイベロマイス(Kluyveromyces)、ピチア(Pichia)、ロドトルラ(Rhodotorula)、スキゾサッカトマイス(Schizosaccharomyces)及びヤロウィア(Yarrowia)が挙げられ、同時にサッカロマイス(Saccharomyces)、カンジダ(Candida)、ハンセヌラ(Hansenula)、ピチア(Pichia)及びスキゾサッカトマイス(Schizosaccharomyces)が好ましく、かつ同時にサッカロマイス(Saccharomyces)が特に好ましい。酵母株の好ましい種としては、サッカロマイスセレビジアエ(saccharomyces cerevisiae)、サッカロマイスカルスバーゲンシス(saccharomyces carlsbergensis)、カンジダアルビカンス(Candida albicans)、カンジダケフィア(Candida kefyr)、カンジダトロピカリス(Candida tropicalis)、クリプトコッカスラウレンティ(Cryptococcus laurentii)、クリプトコッカスネオフォマンス(Cryptococcus neoformans)、ハンセヌラアノマラ(Hansenula anomala)、ハンセヌラポリモルファ(Hansenula polymorpha)、クルイベロマイスフラジリス(Kluyveromyces fragilis)、クルイベロマイスラクティス(Kluyveromyces lactis)、クルイベロマイスマルキアヌスバーラクティス(Kluyveromyces marxianus var. lactis)、ピチアパストリス(Pichia pastoris)、ロドトルラルブラ(Rhodotorula rubra)、スキゾサッカロマイスポムベ(Schizosaccharomyces pombe)、及びヤロウィアリポリティカ(Yarrowia lipolytica)が挙げられる。これらの種が、上述の種の中に含まれることが意図される種々の亜種、類型、亜類型などを含むことは、十分に理解される。より好ましい酵母の種としては、S.セレビジアエ(S. cerevisiae)、C.アルビカンス(C. albicans)、H.ポリモルファ(H. polymorpha)、P.パストリス(P. pastoris)及びS.ポムベ(S. pombe)が挙げられる。S.セレビジアエ(S. cerevisiae)は、操作が比較的に容易であること、及び食品添加物としての利用に関して「安全であると一般に認識されている(Generally Recognized As Safe)」こと、若しくは「GRAS」(GRAS、1997年4月17日にFDAが提出したRule 62FR18938)であることによって、特に好ましい。本発明の1つの実施形態は、特に高いコピー数にプラスミドを複製可能な酵母株(例えば、S.セレビジアエcir株(S. cerevisiae cir)である。S.セレビジアエ(S. cerevisiae)株は、1つ以上の標的抗原及び/又は抗原融合タンパク質を高水準に発現可能にする発現ベクターを維持可能な当該株の1つである。その他に、低下した翻訳後修飾を示す変異(例えば、N結合型の糖化を延長する酵素における変異)を含む、あらゆる変異酵母株が本発明に使用され得る。
1つの実施形態において、本発明の好ましい酵母運搬体は、樹状細胞又はマクロファージといった酵母運搬体及び抗原が送達される細胞種と融合可能であり、従って、酵母運搬体、及び多くの実施形態において抗原の特に効率的な当該細胞種に対する送達をもたらす。本明細書において使用されるときに、標的細胞種との酵母運搬体の融合は、シンシチウム形成を導く、標的細胞種(例えば、樹状細胞又はマクロファージ)の膜との、酵母細胞膜又はこれらの粒子の融合能を指す。本明細書において使用されるときに、シンシチウムは、細胞の融合によってもたらされる細胞質の多核巨細胞の集団である。ウイルス表面タンパク質(HIV、インフルエンザウイルス、ポリオウイルス及びアデノウイルスといった免疫不全ウイルスのウイルス表面タンパク質が挙げられる)、及び他の融合誘導因子(例えば、卵子と精子との間における融合に関与する融合誘導因子)の多くは、2つの膜の間(例えば、ウイルスと哺乳類の細胞膜との間、又は哺乳類の膜同士の間)における融合をもたらすことが可能なことが示されている。例えば、表面上にHIVのgp120/gp41を生じる酵母運搬体は、CD4陽性Tリンパ球と融合可能である。しかし、ここで留意すべきは、酵母運搬体への標的部分の組み込みは、一方ではある状況下において好ましくあり得るが、必須ではない。細胞外に抗原を発現する酵母運搬体の場合において、これは、本発明の酵母運搬体のさらなる利点であり得る。本発明の酵母運搬体が樹状細胞(これと同様に、他の細胞(例えば、マクロファージ))によって容易に取り込まれることは、以前に示されている。
酵母運搬体の産生、ならびに抗原を有する酵母運搬体の発現、抗原と酵母運搬体の組み合わせ、又は抗原と酵母運搬体の会合に関する方法は、以下に記載されている。
〔抗原〕
本発明における使用に関して検討される抗原としては、免疫反応の誘発に好ましいあらゆる抗原が挙げられる。例えば、抗原としては、病原体と関連したあらゆる抗原(ウイルス抗原、真菌抗原、細菌抗原、寄生虫抗原、寄生生物抗原、外寄生生物抗原、原虫抗原、又は他のあらゆる感染性因子に由来する抗原が挙げられる)が挙げられるが、これらに限定されない。また、抗原としては、病原性の原因か、又は細胞性の原因に由来する特定の疾患又は悪い健康状態と関連したあらゆる抗原(がん抗原、自己免疫疾患と関連した抗原(例えば、糖尿病抗原)、アレルギー抗原(アレルゲン)、1つ以上の変異アミノ酸を内部に有する哺乳類細胞分子、出生前若しくは新生児期に哺乳類細胞によって通常に発現されるタンパク質、伝染病因子(例えば、ウイルス)の挿入によって誘導されるタンパク質、遺伝子の転座によって発現が誘導されるタンパク質、及び制御配列の変異によって発現が誘導されるタンパク質が挙げられるが、これらに限定されない)が挙げられる。これらの抗原は、本来の抗原、又はある方法(例えば、配列の変更又は融合タンパク質の生成)において修飾されている遺伝的に改変された抗原であり得る。ある実施形態において(例えば、抗原が酵母運搬体によって組み換え核酸分子から発現される場合に)、抗原は、全体の細胞又は微生物というよりむしろ、タンパク質若しくはこれらのあらゆる免疫原性ドメイン、融合タンパク質、又はキメラタンパク質であることが理解される。
本発明の組成物に(ワクチン)に含めるための他の好ましい抗原としては、例えば、アレルゲン、自己免疫抗原、発熱因子、移植片対宿主疾患(GVHD)に関与する抗原、ある種の癌、感染性ショック抗原、及び移植拒否反応に関与する抗原によって、例えば引き起こされる、所望ではない、又は害を及ぼす免疫反応を抑制可能な抗原が挙げられる。当該化合物としては、好ましくは細胞性免疫及び/又は体液性免疫を増強又は抑制できる生物学的反応修飾因子との組み合わせにおいて、抗ヒスタミン、シクロスポリ、副腎皮質ステロイド、FK506、害を及ぼす免疫反応の生成に関与するT細胞受容体と対応するペプチド、Fasリガンド(すなわち、細胞質Fas受容体の細胞外ドメイン又は細胞基質ドメインと結合する(従って、アポトーシスを誘導する)化合物)、寛容化又はアネルギーをもたらすように提示される好適なMHC複合体、T細胞受容体、及び自己免疫抗原が挙げられる。
本発明において有用な腫瘍抗原(がん抗原)としては、腫瘍抗原(例えば、がん細胞に由来する、タンパク質、糖タンパク質又は表面炭水化物)、腫瘍抗原に由来するエピトープ、全体の腫瘍細胞、腫瘍細胞の混合物、及びこれらの一部(例えば、溶解物)を挙げることができる。
1つの局面において、抗原は、ウイルス(アデノウイルス、アレナウイルス、ブンヤウイルス、コロナウイルス、コクサッキーウイルス、サイトメガロウイルス、エプスタインバーウイルス、フラビウイルス、ヘパドナウイルス、肝炎ウイルス、ヘルペスウイルス、インフルエンザウイルス、レンチウイルス、麻疹ウイルス、ムンプスウイルス、ミクソウイルス、腫瘍ウイルス、オルトミクソウイルス、パピローマウイルス、パポバウイルス、パラインフルエンザウイルス、パラミクソウイルス、パルボウイルス、ピコルナウイルス、ポックスウイルス、狂犬病ウイルス、呼吸器系合胞体ウイルス、レオウイルス、桿状ウイルス、風疹ウイルス、トガウイルス、及び水痘ウイルスが挙げられるが、これらに限定されない)に由来する。他のウイルスとしては、Tリンパ球増殖性のウイルス(例えば、ヒトTリンパ球増殖性ウイルス(HTLV−I及びHTLV−IIといったHTLV))、ウシ白血病ウイルス(BLVS)及びネコ白血病ウイルス(FLVs)が挙げられる。レンチウイルスとしては、ヒト免疫不全ウイルス(HIV(HIV−1又はHIV−2が挙げられる))、サル免疫不全ウイルス(SIV)、ネコ免疫不全ウイルス(FIV)、及びイヌ免疫不全ウイルス(CIV)が挙げられる。
他の局面において、抗原は、アスペルギルス(Aspergillus)、ボルダテラ(Bordatella)、ブルギア(Brugia)、カンジダ(Candida)、クラミジア(Chlamydia)、コッチジア(Coccidia)、クリプトコッカス(Cryptococcus)、ジロフィラリア(Dirofilaria)、エスケリキア(Escherichia)、フランチセラ(Francisella)、ゴノコッカス(Gonococcus)、ヒストプラズマ(Histoplasma)、レイシュマニア(Leishmania)、マイコバクテリウム(Mycobacterium)、マイコプラズマ(Mycoplasma)、パラメチウム(Paramecium)、ペルツシス(Pertussis)、プラスモジウム(Plasmodium)、ニューモコッカス(Pneumococcus)、ニューモキスティス(Pneumocystis)、リケットシア(Rickettsia)、サルモネラ(Salmonella)、シゲラ(Shigella)、スタフィロコッカス(Staphylococcus)、ストレプトコッカス(Streptococcus)、トクソプラズマ(Toxoplasma)、ビブリオコレラエイエルシニア(Vibriocholerae Yersinia)から選択される属からの感染性因子に由来する。1つの局面において、感染性因子は、プラスモジウムフォルシパラム(Plasmodium falciparum)又はプラスモジウムビバックス(Plasmodium vivax)が選択される。
1つの局面において、抗原は、エンテロバクテリアセアエ(Enterobacteriaceae)、マイクトコッカセアエ(Micrococcaceae)、ビブリオナセアエ(Vibrionaceae)、パステウレラセアエ(Pasteurellaceae)、マイコプラズマタセアエ(Mycoplasmataceae)、及びリケットシアセアエ(Rickettsiaceae)から選択される科からの細菌に由来する。1つの局面において、細菌は、シュードモナス(Pseudomonas)、ボルデテラ(Bordetella)、マイコバクテリウム(Mycobacterium)、ビブリオ(Vibrio)、バチルス(Bacillus)、サルモネラ(Salmonella)、フランシセラ(Francisella)、スタフィロコッカス(Staphylococcus)、ストレプトコッカス(Streptococcus)、エスケリキア(Escherichia)、エンテロコッカス(Enterococcus)、パステウレラ(Pasteurella)、及びイエーシニア(Yersinia)から選択される属である。1つの局面において、細菌は、シュードモナスアエルギノサ(Pseudomonas aeruginosa)、シュードモナスマレイ(Pseudomonas mallei)、シュードモナスシュードマレイ(Pseudomonas pseudomallei)、ボルデテラペルツシス(Bordetella pertussis)、マイコバクテリウムチュバークロシス(Mycobacterium tuberculosis)、マイコバクテリウムレプラエ(Mycobacterium leprae)、フランシセラチュラレンシス(Francisella tularensis)、ビブリオコレラエ(Vibrio cholerae)、バチルスアンスラシス(Bacillus anthracis)、サルモネラエンテリック(Salmonella enteric)、イエーシニアペスティス(Yersinia pestis)、エスケリキアコリ(Escherichia coli)及びボルデテラブロンキセプティカ(Bordetella bronchiseptica)から選択される種に由来する。
本発明によれば、本組成物又はワクチンにおける使用に好適な抗原としては、同じ抗原に由来する2つ以上の免疫原性ドメイン若しくはエピトープ、同じ細胞、組織若しくは生物に由来する2つ以上の抗原免疫原性ドメイン、若しくはエピトープ、又は異なる細胞、組織若しくは生物に由来する2つ以上の異なる抗原、免疫原性ドメイン、若しくはエピトープを挙げることができる。
上述のように、本発明のワクチン及び組成物に使用される融合タンパク質は、動物にワクチン接種するための少なくとも1つのインフルエンザ抗原を含む。組成物又はワクチンは、要望に応じて、1つ、2つ、少数の、いくつもの又は多数のインフルエンザ抗原(1つ以上のインフルエンザ抗原の1つ以上の免疫原性ドメインが挙げられる)を含むことができる。
病原体(例えば、インフルエンザウイルス)に由来する抗原が使用される場合に、当業者は、病原体の異なる種に渡って高度に保存されている病原体遺伝子の領域から抗原を選択することによって、病原体抗原を発現する酵母運搬体を備えるワクチンの長期の有効性を最大化できる。その他に、可変性である病原体の領域(例えば、抗原)、株と株との間において異なる病原体の領域、又は季節ごとに若しくは地理的領域において変異され得る病原体の領域から抗原を選択することによって、例えば、特定の伝染性に対処するワクチンの能力が最大化される。本発明のこの局面は、上述において詳しく述べられている。
1つの局面において、病原体はインフルエンザウイルスである。この局面において、保存された、又は内部に発現される抗原としては、基質タンパク質(M1)、イオンチャネル(M2)抗原、ヌクレオカプシド(NP)抗原、ポリメラーゼPB1(PB1)抗原、ポリメラーゼ(PB2)抗原、及びポリメラーゼPA(PA)抗原が挙げられる。可変性の、又は外部に発現される抗原としては、M2eと呼ばれるM2の細胞外部分だけでなく、ヘマグルチニン(HA)抗原(あらゆる1つ以上のサブタイプ)及びノイラミニダーゼ(NA)抗原(あらゆる1つ以上のサブタイプ)が挙げられる。これらの抗原は、本発明に係る新規のワクチン戦略に使用するために、上述のように選択され得る。
1つの局面において、病原体はC型肝炎ウイルス(HCV)といった肝炎ウイルスである。この局面において、保存された、又は内部に発現される抗原としては、HCV核タンパク質であるHCV NS2、NS3、NS4、NS5が挙げられる。可変性の又は外部に発現される抗原としては、HCV E1及びE2(エンベロープタンパク質)が挙げられる。これらの抗原は、本発明に係る新規のワクチン戦略に使用するために、上述のように選択され得る。
1つの局面において、病原体はB型肝炎ウイルス(HBV)といった肝炎ウイルスである。この局面において、保存された、又は内部に発現される抗原としては、核抗原であるHbcAg及びe抗原であるHbeAgが挙げられる。可変性の、又は外部に発現される抗原としては、HbsAg(42nMビリオン及び22nMビリオン)が挙げられる。これらの抗原は、本発明に係る新規のワクチン戦略に使用されるために、上述のように選択され得る。
1つの局面において、病原体はヒト免疫不全ウイルス(HIV)といった免疫不全ウイルスである。この局面において、保存された、又は内部に発現される抗原としは、Vif、Vpr、Nef、p7、ヌクレオカプシドが挙げられる。可変性の、又は外部に発現される抗原としては、gp120及びgp41が挙げられる。これらの抗原は、本発明に係る新規のワクチン戦略に使用するために、上述のように選択される。
ある実施形態において、抗原は融合タンパク質である。本発明の1つの局面において、融合タンパク質は、2つ以上の抗原を含み得る。1つの局面において、融合タンパク質は、1つ以上の抗原(例えば、インフルエンザのM1配列及びインフルエンザのHA配列)の2つ以上の免疫原性ドメイン、又は2つ以上のエピトープを含み得る。当該ワクチンは、広範な患者における抗原特異的な免疫作用を提供し得る。例えば、本発明に有用な複数のドメイン融合タンパク質は、各ドメインが、特定のタンパク質に由来するペプチドであって、当該タンパク質において見られる変異アミノ酸のいずれか一方の側に隣接し、かつ当該変異アミノ酸を含む少なくとも4アミノ酸残基からなるペプチドからなる複数のドメインを有し得る(ここで、当該変異は、特定の疾患又は悪い健康状態(例えば、特定の株によるインフルエンザ感染)に関連する。
1つの実施形態において、本発明の酵母を基にしたワクチンの構成要素として使用される融合タンパク質は、酵母において異種の抗原の発現に特に有用な構築物を用いて産生される。典型的に、所望の抗原性のタンパク質又はペプチドは、それらのアミノ末端部において、(a)酵母運搬体における融合タンパク質の発現を安定化するか、又は発現された融合タンパク質の翻訳後修飾を妨げる特定の合成ペプチド(当該ペプチドについて、例えば、引用によってその全体が本明細書に組み込まれる、2004年8月12日出願の米国出願公開第2004−0156858 A1号明細書に詳細に記載されている);(b)内因性の酵母タンパク質の少なくとも一部(ここで、融合相手のいずれかは、酵母におけるタンパク質の発現の有為に増強された安定性を提供する)及び/又は酵母細胞によるタンパク質の翻訳後修飾を有為に妨げる)(また、当該タンパク質について、例えば、上記の米国出願公開第2004−0156858 A1号明細書に詳細に記載されている);及び/又は(c)融合タンパク質を酵母の表面上に発現させる酵母タンパク質の少なくとも一部(例えば、上述においてより詳細に記載されているAgaタンパク質)と融合される。
また、融合ペプチド又は融合タンパク質は、選択因子(例えば、抗体)によって認識されることが所望され得、かつ構築物におけるワクチン接種抗原に対する免疫反応に負の影響を与えないと思われるエピトープを提供し得る。当該因子は、本発明において有用なタンパク質の同定、選択及び精製に有用である。
その他に、本発明は、抗原をコードする構築物のC末端に融合されたペプチドの利用、特にタンパク質の選択及び同定における利用を包含する。当該ペプチドとしては、ペプチドタグ(例えば、6×His)又はあらゆる他の短いエピトープタグといった、あらゆる合成ペプチド又は天然ペプチドが挙げられるが、これらに限定されない。本発明に係る抗原のC末端に結合されたペプチドは、上述したN末端ペプチドの付加の有無に関わらず、使用され得る。
本発明に有用な融合構築物の1つは、(a)少なくとも1つの抗原(本明細書の他の箇所に記載されているような種々の融合タンパク質及び複数の抗原構築物だけでなく、全長の抗原の免疫原性ドメイン及びエピトープが挙げられる);及び(b)合成ペプチドを含む融合タンパク質である。
1つの実施形態において、合成ペプチドは、インフルエンザ抗原のN末端と連結され、当該ペプチドは、当該インフルエンザ抗原とは異種の少なくとも2つのアミノ酸残基から構成される(ここで、当該ペプチドは、酵母運搬体における融合タンパク質の発現を安定化するか、又は発現された融合タンパク質の翻訳後修飾を妨げる)。合成ペプチド及び抗原のN末端部分はともに、以下の要求:(1)融合タンパク質の1位における残基がメチオニンである(すなわち、合成ペプチドにおける最初のアミノ酸がメチオニンである);(2)融合ペプチドの2位におけるアミノ酸残基がグリシン又はプロリンではない(すなわち、合成ペプチドにおける2番目のアミノ酸が、グリシン又はプロリンではない);(3)融合タンパク質の2から6位におけるアミノ酸残基が1つとしてメチオニンではない(すなわち、合成ペプチドか又はタンパク質の一部である2から6位のアミノ酸は、合成ペプチドが6アミノ酸よりも短い場合に、メチオニンを含まない)
;及び(4)融合タンパク質の2から6位におけるアミノ酸が、1つとしてリジン又はアルギニンではない(すなわち、合成ペプチドか又はタンパク質の一部である2から6位のアミノ酸は、合成ペプチドが5アミノ酸よりも短い場合に、リジン又はアルギニンを含まない)を有する融合タンパク質を形成する。合成ペプチドが2アミノ酸ほどの長さであり得るが、より好ましくは2から6アミノ酸(3、4、5アミノ酸が挙げられる)であり得、6アミノ酸よりも長くて、すべての整数において約200アミノ酸、300アミノ酸、400アミノ酸、500アミノ酸又はそれ以上までであり得る。
1つの実施形態において、融合タンパク質は、M−X2−X3−X4−X5−X6というアミノ酸配列を備える(ここで、Mはメチオニンであり;ここで、X2は、グリシン、プロリン、リジン又はアルギニンを除くあらゆるアミノ酸であり;ここで、X3は、メチオニン、リジン又はアルギニンを除くあらゆるアミノ酸であり;ここで、X4は、メチオニン、リジン又はアルギニンを除くあらゆるアミノ酸であり;ここで、X5は、メチオニン、リジン又はアルギニンを除くあらゆるアミノ酸であり;かつここで、X6は、メチオニン、リジン又はアルギニンを除くあらゆるアミノ酸である)。1つの実施形態において、X6残基はプロリンである。酵母細胞におけるインフルエンザ抗原の発現の安定性を向上する、及び/又は酵母におけるタンパク質の翻訳後修飾を妨げる例示的な合成配列としては、配列M−A−E−D−A−P(配列番号1)が挙げられる。MADEAP配列は、インフルエンザ抗原の他に、他の抗原とともに使用され得る。発現産物の増強された安定性に加えて、この融合相手は、構築物におけるワクチン接種抗原に対する免疫反応に対して負の影響を与えないと思われる。その他に、合成融合ペプチドは、選択因子(例えば、抗原)によって認識され得るエピトープを提供するために設計され得る。
本発明の他の実施形態において、本発明に使用される合成ペプチドの翻訳開始部位をコードする核酸は、コザックの翻訳配列の法則に従って、A−C−C−A−T−G−Gである(ここで、この配列におけるATGは、転写開始部位であり、かつM−A−E−D−A−P(配列番号1)のメチオニンをコードする)。本明細書に記載されるような本発明の種々の実施形態がまた、組み合わせられ得ることは、理解されるべきである。例えば、本発明の1つの局面において、合成ペプチドがMA−D−E−A−P(配列番号1)である場合に、このペプチドに関する開始部位をコードする核酸は、A−C−C−A−T−G−Gであり得る。本発明の実施形態の様々な他の組み合わせは、当業者にとって明らかである。
本発明の1つの局面において、酵母運搬体は、抗原が、部分的に又は全体的に酵母運搬体の表面上に、発現されるか、又は発現された抗原産物の送達若しくは移動によって提供(細胞外に発現)されるように、操作される。本発明のこの局面を達成する方法の1つは、酵母運搬体の表面上に1つ以上の抗原を位置させるためのスペーサアーム(spacer arm)を用いることである。スペーサアームを用いる方法の1つは、酵母細胞壁に対して関心のある抗原を標的化するタンパク質との、関心のある抗原の融合タンパク質を作り出すことである。例えば、使用され得るタンパク質の1つは、抗原が酵母の表面上に位置されるように、抗原の酵母細胞壁に対する標的化を可能にする酵母タンパク質(例えば、細胞壁タンパク質2(cwp2)、Aga2、Pir4又はFlo1タンパク質)である。酵母タンパク質以外のタンパク質がスペーサアーム(しかし、あらゆるスペーサアームタンパク質に関して、スペーサアームタンパク質よりむしろ、標的抗原に対して導かれる免疫原性反応を有することが最も所望される)用に使用され得る。従って、他のタンパク質がスペーサアーム用に使用される場合に、使用されるスペーサアームタンパク質は、その結果、標的抗原に対する免疫反応が圧倒されるほどに、スペーサアームタンパク質そのものに対して大きな免疫反応を生成すべきではない。当業者は、標的抗原に対する免疫反応と比べて、スペーサアームに対する免疫反応を小さくすることを目指すべきである。免疫反応の大きさを決定するあらゆる公知の方法は、使用され(例えば、抗体産生、溶菌アッセイなど)、かつ当業者にとって容易に知られる。
標的抗原を配置して酵母表面にさらさせる他の方法は、シグナル配列(例えば、グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI))を用いて、酵母細胞壁に対して固着させることである。代替可能に、配置は、抗原が、細胞壁に対して結合されるタンパク質(例えば、cwp)と結合するように、関心のある抗原を小胞体(ER)への移動を介して、分泌経路に標的化するシグナル配列を付けることによって達成され得る。
1つの局面において、スペーサアームタンパク質は、酵母タンパク質である。酵母タンパク質は、酵母タンパク質の約2から約800のアミノ酸から構成され得る。1つの実施形態において、酵母タンパク質は、約10から700のアミノ酸である。本発明の他の実施形態において、酵母タンパク質は、約40から600アミノ酸である。本発明の他の実施形態は、少なくとも250アミノ酸、少なくとも300アミノ酸、少なくとも350アミノ酸、少なくとも400アミノ酸、少なくとも450アミノ酸、少なくとも500アミノ酸、少なくとも550アミノ酸、少なくとも600アミノ酸、少なくとも650アミノ酸である酵母タンパク質を包含する。1つの実施形態において、酵母タンパク質は、少なくとも450アミノ酸の長さである。
他の実施形態において、酵母タンパク質は、酵母運搬体における融合タンパク質の発現を安定化する、発現された融合タンパク質の翻訳後修飾を妨げ、及び/又は酵母における特定の区画に対して融合タンパク質を標的化する(例えば、酵母細胞表面に発現されること)。酵母分泌経路への送達に関して、使用するための酵母タンパク質としては、Aga(Aga1及び/又はAga2が挙げられるが、これらに限定されない);SUC2(酵母転化酵素);アルファ因子シグナルリーダー配列;CPY;細胞壁における局在及び保持に関するCwp2p;娘細胞形成の初期において母細胞芽における局在に関するBUD遺伝子;Flo1p;Pir2p;及びPir4pが挙げられるが、これらに限定されない。
本発明の他の実施形態において、他の配列が使用されて、酵母運搬体の他の部分に(例えば、細胞基質又はミトコンドリアに)標的化され得る、保持され得る、及び/又は安定化され得る。以上のあらゆる実施形態に対して使用され得る好適な酵母タンパク質の例としては、SEC7;グルコース及び細胞基質局在における抑制性の発現に関するホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ PCK1、ホスホグリセロキナーゼ PGK及びトリオースリン酸イソメラーゼ TPI遺伝子産物;熱処理に対する細胞のばくろによって発現が誘導され、かつタンパク質がより熱安定になる、熱ショックタンパク質 SSA1、SSA3、SSA4、SSC1;ミトコンドリアへの取り込みに関する、ミトコンドリアタンパク質 CYC1;ACT1が挙げられるが、これらに限定されない。
有効な体液性免疫反応の初回刺激に関して、標的抗原は、酵母表面上のある部分に発現される又は提供される(酵母によって分泌される)べきである。図10A及び10B、図11、ならびに図13B、ならびに実施例に示されているように、複数の変種は、酵母細胞表面上に抗原を発現又は提供することが可能である。酵母タンパク質の他の組み合わせが、表面上に1つ以上の関心のある抗原を配置するために使用され得ることを、当業者は十分に理解する。
当業者は、種々の方法において、酵母の表面上における抗原の発現又は提供を最適化可能である。当該方法の1つは、抗原の表面発現を監視及び/又は制御することである。これを達成するために考えられる方法の1つは、最大の影響を与えるような、抗原の発現水準を最適化することである。ある抗原について、抗原の過剰発現は、酵母にとって、又は代わりに個体の免疫細胞と免疫系とにとって、有毒である。他の場合において、表面発現が少なすぎることは、B細胞との抗原の相互作用の欠如に起因して、免疫系の初回刺激を最適以下にさせる原因になる。当業者は、公知の技術(例えば、フローサイトメトリー(例えば、FACS)及び細胞生存率との発現水準の相関)を用いることによって抗原の発現について監視可能である。
抗体の表面発現又は表面提供を最適化する他の方法は、細胞壁の融合相手からスペーサアームを慎重に選択することである。スペーサアームとして使用され得る酵母タンパク質の例は、後に示されており、かつ図10Bに示されているが、スペーサアームの大きさは、どれだけの抗原が酵母の表面に結合するために露出されるかに影響を与える可能性がある。従って、使用される抗原に依存して、当業者は、酵母の表面における抗原の適切な位置決めを達成するスペーサアームを選択する。1つの実施形態において、スペーサアームは、少なくとも450アミノ酸の酵母タンパク質である。
抗原の表面発現を最適化する他ための他の検討事項は、抗原及びスペーサアームの組み合わせが、単量体(例えば、図11に示されるようなHA−cwp2)として、又は2量体として、又は3量体(例えば、3量体のHA−aga2p+可溶性の分泌されたHA)として、又は互いに接続されたさらに多い単位として発現されるべきか、ということである。例えば、多量体の形態が、抗体の特定の分類(例えば、中和抗体)を誘発するために要求される立体構造を採用する場合に、単量体、2量体、3量体などのこの利用は、抗原をより免疫原性がある状態にする態様において抗原のすべてではないがいくつかの部分が酵母運搬体の表面上に並べられるように、抗原の適切な位置決め及び折りたたみを可能にする。
当業者は、5.5よりも高いpH水準(例えば、中性pH)において酵母細胞を培養することによって、酵母運搬体の表面上及び細胞質基質の両方における、酵母運搬体の能力を(異種抗原の発現の有無に関わらず)最適化することができる。中性pHの利用は、抗原の接触性よおび表面への表出の最適化を補助し、酵母細胞壁がより柔軟な状態になることを許容し、かつ免疫細胞の酵母に対する結合を引き起こして、最適化された免疫反応(有益なサイトカイン(例えば、INF−ガンマ)の分泌が挙げられる)及び最適化された活性化反応を生成する。
当業者が用いて抗体反応に関する初回刺激を最適化する方法は、酵母の糖化の総量を制御することである。酵母の糖化の総量は、糖部分が大きくなる傾向にあるので、表面上に発現された抗原の免疫原性及び抗原性に影響を与える可能性がある。従って、本発明を実施する場合に、酵母の表面上における糖部分の存在、及び標的抗原の周囲にある三次元空間に対する影響が、考慮されるべきである。あらゆる方法が、酵母の糖化の量を低下させるために使用され得る。例えば、低糖化を有するために選択されている酵母変異体(例えば、mnn1、och1及びmnn9変異体)を使用可能であるか、又は標的抗原上における糖化受容配列を変異によって除去可能である。代替可能に、短縮型の糖化様式を有する酵母(例えば、Pichia)を使用することができる。表面抗原における糖化の影響の例としては、実施例5に与えられている。
酵母の表面に対する抗原の提供に関する他の検討事項は、どれだけ酵母が不活性であるか、及び酵母の活性状態がどれだけ表面に発現された抗原の抗原性に影響するかという見込まれる結果である。酵母の熱不活化は、酵母を不活化する標準的な方法であるが、熱不活化は、標的抗原の2次、3次又は4次の構造を変える可能性を有する。熱不活化が使用される場合に、それから、当業者は、当該分野に耕地の標準的な方法によって、標的抗原の構造変化を注意深く監視すべきである。代替可能に、酵母を不活化する他の方法(例えば、化学的な、電気的な、放射性の、又は紫外線の方法)が使用され得る。例えば、標準的な酵母培養の教科書(例えば、Methods of Enzymology, Vol. 194, Cold Spring Harbor Publishing (1990))に開示されている方法論を参照すればよい。使用されるあらゆる最適化戦略は、標的抗原の2次、3次又は4次の構造を考慮にいれるべきであり、かつその免疫原性を最適化するように当該構造を保護すべきである。
上記実施形態と同様の、かつ上記実施形態の制限を含み得る(が、これは必要ではない)本発明の融合タンパク質構築物の他の特定の局面としては、インフルエンザ抗原のC末端と連結されたペプチドであって、インフルエンザ抗原とは異種の少なくとも2つのアミノ酸配列からなる当該ペプチドを備えるワクチンが挙げられる(ここで、当該ペプチドは、酵母における融合タンパク質の発現を安定化するか、又は発現された融合タンパク質の翻訳後修飾を妨げる)。本発明の1つの例示的な局面において、ペプチドは、E−D(Glu−Asp)のアミノ酸配列を備える。当該配列は、疎水性の影響を弱めるために働く。
1つの実施形態において、本発明のワクチンは、インフルエンザ抗体のC末端と連結されたペプチドを備え得る(ここで、ペプチドは、ペプチドに対して指向された抗体による融合タンパク質の認識を可能にする)。1つの局面において、ペプチドは、G−G−G−H−H−H−H−H−H(配列番号2)のアミノ酸配列を備える。この実施形態は、単独に使用され得るか、又は上述に記載した融合タンパク質の他の局面と組み合わせて使用され得る。
1つの実施形態において、本明細書の融合タンパク質において使用される酵母タンパク質/ペプチド、スペーサアーム、又は合成ペプチドは、融合タンパク質の同定用及び精製用の抗体エピトープを備える。抗体は、内因性の抗原と選択的に結合するものをすでに利用可能であるか、又は容易に生成され得る。最後に、特定の細胞質の位置(例えば、分泌経路内、ミトコンドリア内、核内)にタンパク質を導くことが好ましく、それから構築物は、細胞機構がその送達系に関して最適化されることが確かな、酵母タンパク質に対する外因性のシグナルを使用可能である。当該シグナルについては、以上においていくらか詳細に記載されている。好ましくは、抗体は、融合タンパク質と選択に結合する利用可能なものであるか、又は産生されるものである。
〔本発明の酵母運搬体、タルモゲン(Tarmogen)、及び組成物(ワクチン)の製造〕
本発明によれば、用語「酵母運搬体−抗原複合体」又は「酵母−抗原複合体」は、抗原との酵母運搬体のあらゆる関連を説明するために、一般的に使用される。当該関連としては、酵母(組み換え酵母)による抗原の発現、酵母への抗原の導入、酵母に対する抗原の物理的な接触、及び例えば、緩衝液又は他の溶液又は調合物における酵母及び抗原の同時の混合が挙げられる。複合体のこれらの種類について、以下に詳細に記載されている。
1つの実施形態において、酵母運搬体を調製するために使用される酵母細胞は、抗原が酵母細胞によって発現されるように、異種の核酸分子を用いてトランスフェクションされている。また、当該酵母は、本明細書において組み換え酵母又は組み換え酵母運搬体と呼ばれる。それから、酵母細胞は、原形を保った細胞として樹状細胞に取り込まれ得るか、又は酵母細胞は、又は殺され得る酵母細胞か、又は例えば、続いて樹状細胞に取り込まれるあらゆるものである、酵母のスフェロプラスト、細胞質体、ゴースト又は亜細胞性粒子の形成によって導かれ得る。また、酵母のスフェロプラストは、組み換え核酸分子を用いて直接にトランスフェクトされて(例えば、当該スフェロプラストは、完全な酵母から産生され、かつそれからトランスフェクトされて)、抗原を発現する組み換えスフェロプラストを産生し得る。
1つの局面において、酵母運搬体を調製するために使用される酵母細胞又は酵母のスフェロプラストは、抗原が酵母細胞又は酵母のスフェロプラストによって組み換え的に発現されるように、抗原をコードする組み換え核酸分子を用いてトランスフェクトされる。この局面において、酵母を組み換え的に発現する酵母細胞又は酵母のスフェロプラストが使用されて、酵母の細胞質体、酵母のゴースト、又は酵母の膜粒子若しくは酵母細胞膜粒子、又はこれらの画分を備える酵母運搬体を産生し得る。
一般的に、酵母運搬体及び抗原は、本明細書に記載のあらゆる技術によって関連され得る。1つの局面において、酵母運搬体は、抗原を細胞内に取り込んだ。他の局面において、抗原は、酵母運搬体と共有結合的に、又は非共有結合的に結合された。さらに他の実施形態において、酵母運搬体及び抗原は、混合によって関連された。他の局面において、及び好ましい実施形態において、抗原は、酵母運搬体によって、又は酵母運搬体が誘導された酵母細胞若しくは酵母のスフェロプラストによって組み換え的に発現される。
本発明の酵母運搬体によって産生されるべき、好ましい抗原の数は、酵母運搬体によって合理的に産生され得るあらゆる抗原の数であり、かつ典型的に少なくとも1から少なくとも約6以上の範囲であると同時に、約2つから6つの異種抗原であることが好ましい。
本発明の酵母運搬体における抗原の発現は、当業者に公知の技術を用いて達成される。要約すれば、少なくとも1つの所望の抗原をコードする核酸分子は、宿主酵母細胞に形質転換される場合に、当該核酸分子の保存された、又は調節された発現に影響を与えることを可能にするために、当該核酸分子が転写制御配列と作動可能に連結されるように、発現ベクターに挿入される。1つ以上の抗原をコードする核酸分子は、1つ以上の発現制御配列と作動可能に連結された1つ以上の発現ベクターであり得る。特に重要な発現制御配列は、翻訳開始を制御する配列(例えば、プロモーター及び活性化配列の上流)である。あらゆる好適な酵母プロモーターが、本発明に使用され得、かつ種々の当該プロモーターは、当業者にとって公知である。Saccharomyces cerevisiaeにおける発現に好適なプロモーターとしては、以下の酵母タンパク質:アルコールデヒドロゲナーゼI(ADH1)若しくはII(ADH2)、CUP1、ホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)、トリオースリン酸イソメラーゼ(TPI)、翻訳伸張因子EF−1アルファ(TEF2)、グリセルアルデヒド3リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH;またトリオースリン酸デヒドロゲナーゼに関してTDH3と呼ばれる)、ガラクトキナーゼ(GAL1)、ガラクトース1リン酸ウリジルトランフェラーゼ(GAL7)、UDP−ガラクトースエピメラーゼ(GAL10)、チトクロームc1(CYC1)、Sec7タンパク質(SEC7)及び酸性ホスファターゼ(PHO5)、これらと同時に、より好ましいハイブリッドプロモーター(例えば、ADH2/GAPDH及びCYC1/GAL10、及びグルコース濃度が低い(例えば、約0.1から約0.2パーセント)場合に挙げられ得るADH2/GAPDHプロモーターだけでなく、さらにより好ましいCUP1プロモーターとTEF2と)をコードする遺伝子が挙げられるが、これらに限定されない。同様に、上流活性化配列(UASs)(エンハンサーとも呼ばれる)の多くは、公知である。Saccharomyces cerevisiaeにおける発現にとって好ましい上流活性化配列としては、以下のタンパク質:PCK1、TPI、TDH3、CYC1、ADH1、ADH2、SUC2、GAL1、GAL7及びGAL10をコードする遺伝子のUASだけでなく、GAL4遺伝子産物によって活性化されるUASと同時に、特に好ましくはADH2のUASが挙げられるが、これらに限定されない。ADH2のUASが、ADR1遺伝子産物によって活性化されるので、異種遺伝子がADH2のUASに対して作動可能に連結されている場合に、ADR1遺伝子を過剰発現させることが好ましい。Saccharomyces cerevisiaeにおける発現にとって好ましい転写終結配列としては、α因子、GAPDH及びCYC1遺伝子の終結配列が挙げられる。
メチル要求性の酵母において遺伝子を発現するために好ましい転写制御配列としては、アルコール酸化酵素及び蟻酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子の転写制御配列が挙げられる。
酵母による抗原の細胞外発現に関する最適化の重要性及び方法は、本明細書のここまでにおいて、詳細に論じられている。
本発明に係る酵母細胞への核酸分子のトランスフェクションは、核酸分子が細胞に投与されるあらゆる方法(拡散、能動輸送、バスソニケーション(bath sonication)、エレクトロポレーション、微量注入法、リポフェクション、吸着法、及び原形質融合が挙げられるが、これらに限定されない)によって達成され得る。トランスフェクトされた核酸分子は、酵母染色体に組み込まれるか、又は当業者に公知の技術を用いて染色体外ベクターに維持される。当該核酸分子を支持する酵母運搬体の例は、本明細書に詳細に開示されている。また、上記において論じたように、酵母細胞質体、酵母のゴースト、ならびに酵母膜粒子又はは細胞壁調製物は、原型を保った酵母微生物又は酵母スフェロプラストを、所望の核酸分子を用いてトランスフェクトすること、これらにおいて抗原を産生すること、ならびにそれからさらに、当業者に公知の方法を用いて当該微生物又はスフェロプラストを操作して、所望の抗原を含む細胞質体、ゴースト又は亜細胞性酵母膜抽出物又はこれらの画分を産生することによって組み換え的に産生され得る。
組み換え酵母運搬体の産生及び抗原の発現にとって有効な条件としては、酵母株が培養され得る有効な培地が挙げられる。有効な培地は、典型的に、吸収可能な炭水化物源、窒素源及びリン酸源はもちろん、適切な塩、ミネラル、金属及び他の栄養物(例えば、ビタミン及び成長因子)を含む水性の培地である。培地は、複合栄養物を含み得るか、又は決まった最小培地であり得る。本発明の酵母株は、種々の容器(バイオリアクター、三角フラスコ、試験管、マイクロタイターディッシュ、及びペトリ板が挙げられるが、これらに限定されない)において培養され得る。培養は、酵母株にとって適切な温度、pH及び酸素含有量において実施される。当該培養条件は、当業者の専門的知識(例えば、Guthrie et al. (eds.), 1991, Methods in Enzymology, vol. 194, Academic Press, San Diegoを参照すればよい)の範囲内である。
本発明のある局面において、及び体液性免疫反応の誘導が所望される実施形態において抗原の十分な表面発現若しくは表面提供を有することが所望される場合において、酵母は、少なくとも5.5のpH水準に維持された培地(すなわち、培養培地のpHが5.5未満に下がることを許容しない)において培養される。他の局面において、酵母は、約5.5に維持されたのpH水準において培養される。他の局面において、酵母は、約5.6、5.7、5.8又は5.9に維持されたpH水準において培養される。他の局面において、酵母は、約6に維持されたpH水準において培養される。他の局面において、酵母は、約6.5に維持されたpH水準において培養される。他の局面において、酵母は、約6、6.1、6.2、6.3、6.4、6.5、6.6、6.7、6.8、6.9又は7.0に維持されたpH水準において培養される。他の局面において、酵母は、約7、7.1、7.2、7.3、7.4、7.5、7.6、7.7、7.8、7.9又は8.0に維持されたpH水準において培養される。pH水準は、酵母の培養において重要である。当業者は、培養過程が酵母培養の開始だけでなく、同様に培養の維持を含むことを十分に理解する。酵母培養は、時間の経過に伴って酸性に変わること(すなわち、pHが低下すること)が知られているように、培養過程の間において、注意してpH水準を監視しなければならない。培地のpH水準が6未満に下がっている状態における酵母細胞培養は、培地のpHが培養過程のある時点において少なくとも5.5にまで到達させるという条件の下に、やはり本発明の範囲内にあると考えられる。従って、酵母が約pH5.5又はそれ以上である培地において培養される時間が長いほど、所望の特性を有する酵母を得るという点に関して、よりよい結果になる。
酵母の培養における中性pHの利用は、免疫調節用の運搬体として酵母を使用するための所望の特性である種々の生物学的影響を助長する。1つの局面において、中性pHにおいて酵母を培養することは、細胞世代時間に関してあらゆる負の影響(例えば、倍加時間を遅らせること)を与えることなく、酵母の良好な培養を可能にする。酵母は、細胞壁の柔軟性を失うことなく、高密度に増殖し続けることができる。他の局面において、中性pHの利用は、すべての回収密度において、柔軟な細胞壁を有する酵母及び/又は細胞壁消化酵素(例えば、グルクナーゼ)に感受性である酵母の産生を可能にする。この特色は、柔軟性のある細胞壁を有する酵母が、例えば、酵母を受け入れている細胞においてサイトカイン(例えば、インターフェエロン−γ(IFN−γ))の分泌を促進することによって、固有の免疫反応を示すので、好ましい。その他に、当該培養方法によって細胞壁に位置される抗原に対するより良好な接近性が与えられる。他の局面において、ある抗原(例えば、インフルエンザHA抗原)にとっての中性pHの使用は、HA発現酵母が低いpH(例えば、5)にある培地において培養される場合に起こり得ない、ジチオスレイトール(DTT)を用いた処理によって、ジスルフィド結合されたHAの放出を可能にする。最後に、他の局面において、中性pH方法論を用いて培養された酵母に(例えば、食作用又は他の取り込みによって)ばくろされる場合に、Th1−タイプサイトカインを産生する細胞は、当該Th1−タイプサイトカイン(IFN−γ、インターロイキン−12(IL−12)、及びIL−2が挙げられるが、これらに限定されない)の増強された産生を発現する。
本発明において使用されるときに、用語「中性pH」は、約pH5.5から約pH8、好ましくは約pH6から約8の範囲のpHを指す。当業者は、軽微な変動(例えば、10分の1又は100分の1)がpHメーターを用いた測定に場合に生じ得ることを十分に理解する。従って、酵母細胞を培養するための中性pHの使用は、酵母細胞が、培地の中にある時間の大部分に渡って中性pHにおいて増殖されることを意味する。
本発明の1つの実施形態において、酵母運搬体における抗原の組み替え的発現の代替手段として、酵母運搬体は、タンパク質抗原若しくはペプチド抗原、又は抗原として作用する炭水化物若しくは他の分子を細胞内に取り込んでいる。続いて、現在、細胞内に抗原を含む酵母運搬体は、患者に投与され得るか、又は担体(例えば、樹状細胞)に取り込まれ得る(以下に記載されている)。本明細書において使用されるときに、ペプチドは、約30から50アミノ酸と同等かそれ未満のアミノ酸配列を備え、一方においてタンパク質は、約30から50アミノ酸以上のアミノ酸配列を備え;タンパク質は多量体であり得る。抗原として有用なタンパク質又はペプチドは、T細胞エピトープほどの大きさ(すなわち、5アミノ酸以上の長さ)であり得、かつ複数のエピトープ、タンパク質断片、全長のタンパク質、キメラタンパク質又は融合タンパク質を包含する抗原よりも大きいあらゆる好適な大きさであり得る。ペプチド及びタンパク質は、天然に、又は合成的に誘導体化され得;当該修飾としては、糖化、リン酸化、アセチル化、ミリスチル化、プレニル化、パルミトイル化、アミド化及び/又はグリセロホスファチジルイノシトールの付加が挙げられるが、これらに限定されない。ペプチド及びタンパク質は、当業者にとって公知の技術(例えば、拡散、能動輸送、リポソーム融合、エレクトロポレーション、食作用、凍結融解循環及びバスソニケーション)によって、本発明の酵母運搬体に直接に挿入され得る。ペプチド、タンパク質、炭水化物又は他の分子を直接に取り込み得る酵母運搬体としては、産生の後であるが、樹状細胞への取り込みの前に、抗原を取り込み得るスフェロプラスト、ゴースト又は細胞質体だけでなく原型を保った酵母が挙げられる。代替可能に、原型を保った酵母は、抗原を取り込み得、かつそれからスフェロプラスト、ゴースト、細胞質体、又は亜細胞性粒子それらから調整され得る。あらゆる数の抗原、例えば、微生物の取り込みによって、哺乳類がん細胞又はそれらの一部の取り込みによって提供される、少なくとも1、2、3、4又は100若しくは1000までのあらゆる整数の抗原が、この実施形態における酵母運搬体に取り込まれ得る。
本発明の他の実施形態において、抗原は、酵母運搬体と物理的に付着される。酵母運搬体に対する抗原の物理的な付着は、当該技術において好適なあらゆる方法(共有的な及び非共有的な会合方法(例えば、抗体又は他の結合相手を用いることによって、酵母運搬体の外表面に対して抗原を化学的に架橋すること、又は酵母運搬体の外表面に対して抗原を生物学的に連結することが挙げられるが、これらに限定されない)が挙げられるが、これらに限定されない)によって達成され得る。化学的な架橋は、例えばグルタルアルデヒド連結、光親和性標識、カルボジイミドを用いた処理、ジスルフィド結合の架橋を可能にする化学物質、及び当該技術において標準的な他の架橋化学物質を用いた処理を含む方法によって達成され得る。代替可能に、化学物質は、特定の電荷特性を有する抗原とより融合又は結合しやすいように、酵母膜又は細胞壁の組成物の電荷を変える酵母運搬体と接触され得る。また、標的因子(例えば、抗体、結合ペプチド、可溶性受容体、及び他のリガンド)は、融合タンパク質として抗原に取り込まれ得るか、又はそうでばければ、酵母運搬体に対する抗原の結合のために、抗原と会合され得る。
さらに他の実施形態において、酵母運搬体及び抗原は、より受動的な、非特異的な又は非共有結合的な機序によって、例えば、緩衝液又は他の好適な調合物(例えば、混和物)において酵母運搬体及び抗原を穏やかに混合することによって、互いに会合される。
1つの実施形態において、酵母運搬体及び抗原は、両方ともが担体(例えば、樹状細胞又はマクロファージ)の細胞内に取り込まれて、本発明の治療組成物又はワクチンを形成する。代替可能に、本発明の抗原(例えば、本発明のインフルエンザ融合タンパク質)は、酵母運搬体の非存在下において樹状細胞に取り込まれ得る。
両方の構成要素の取り込みが達成され得る種々の形態について、以下に詳細に論じられている。本明細書において使用されるときに、用語「取り込んだ」及びこれらの派生物は、構成要素(例えば、酵母運搬体及び/又は抗原)の細胞(例えば、樹状細胞)に対する挿入、導入又は侵入を指す。構成要素を細胞内に取り込むことは、細胞の細胞内区画に対する(例えば、細胞質膜を介して、かつ最低でも細胞質、ファゴソーム、リソソーム、又は細胞のある細胞内空間への)構成要素の挿入又は導入を指す。細胞に構成要素を取り込むことは、構成要素が強制的に細胞に入れる(例えば、エレクトロポレーション)か、又は構成要素がある過程(例えば、食作用)によって細胞に入りやすい環境に(細胞と接触して、又は細胞の近くに)置かれる、あらゆる技術を参照する。取り込み技術としては、拡散、能動輸送、リポソーム融合、エレクトロポレーション、食作用、及びバスソニケーションが挙げられるが、これらに限定されない。好ましい実施形態において、樹状細胞による酵母運搬体及び/又は抗原の取り込みに関する受動的な機序が使用され、当該受動的な機序としては、樹状細胞による酵母運搬体及び/又は抗原の食作用が挙げられる。
1つの実施形態において、原型を保った酵母は(異種抗原の発現の有無に関係ない)、すりつぶされ得るか、又は酵母細胞壁調製物、酵母膜粒子若しくは酵母断片(すなわち、原型を保っていない)を産生するように処理され得、かつある実施形態において、酵母断片は、免疫反応を増強するための抗原(例えば、DNAワクチン、タンパク質サブユニットワクチン、殺した病原体又は不活化した病原体)を含む他の組成物とともに提供され得るか、又は投与され得る。例えば、酵素的処理、化学的処理又は物理的力(例えば、機械的なせん断又は超音波処理)は、酵母を、補助剤として使用される部分にまで壊すために使用され得る。
また、本発明の1つの実施形態において、組成物又はワクチンは、生物学的反応修飾因子化合物、又は(例えば、当該修飾因子をコードする核酸分子を有する酵母運搬体のトランスフェクションによって)当該修飾因子を産生する能力を含み得るが、当該修飾因子は、本発明に係る強い免疫反応を達成するために必ずしも必要ではない。例えば、酵母運搬体は、少なくとも1つの抗原と少なくとも1つの生物学的反応修飾因子化合物とを用いてトランスフェクトされるか、若しくは少なくとも1つの抗原と少なくとも1つの生物学的反応修飾因子化合物とを取り込むか、又は本発明のワクチン若しくは組成物は、少なくとも1つの生物学的反応修飾因子と組み合わせて投与され得る。生物学的反応修飾因子は、免疫修飾化合物と呼ばれ得る免疫反応を修飾可能な化合物を含む。ある種の生物学的修飾因子は、予防的な免疫反応を刺激可能であるが、他の修飾因子は、体液性免疫反応を抑制可能である。ある種の生物学的免疫修飾因子は、細胞性免疫反応を優先的に増強するが、他の修飾因子は、体液性免疫反応を優先的に増強する(すなわち、体液性免疫と比べて細胞性免疫の増強された水準である免疫反応を刺激可能であり、又は逆もまた同様である)。体液性免疫反応と細胞性免疫反応とを識別するだけでなく、免疫反応の刺激又は抑制を測定するための当業者に公知の多くの技術がある。
好適な生物学的修飾因子としては、サイトカイン、ホルモン、脂質の誘導体、小分子薬物及び他の成長修飾因子(例えば、これらに限定されないが、インターロイキン 2(IL−2)、インターロイキン 4(IL−4)、インターロイキン 10(IL−10)、インターロイキン 12(IL−12)、インタフェロンガンマ(IFN−ガンマ)、インシュリン様成長因子 I(IGF−I)、トランスフォーミング成長因子ベータ(TGF−β)ステロイド、プロスタグランジン及びロイコトリエン)が挙げられる。酵母運搬体がIL−2、IL−12及び/又はIFN−ガンマを発現(例えば、産生)し、かつおそらく分泌する能力は、細胞性免疫を優先的に増強するが、酵母運搬体がIL−4、IL−5及び/又はIL−10を発現(例えば、産生)し、かつおそらく分泌する能力は、体液性免疫を優先的に増強する。好適な他の生物学的反応修飾因子としては、抗CTLA−4抗体(例えば、アネルギー性のT細胞放出するため);T細胞同時刺激因子(例えば、抗CD137、抗CD28、抗CD40);アレムツズマブ(alemtuzumab)(例えば、キャンパス(CamPath)(登録商標))、デニロイキン ジフチトックス(denileukin diftitox)(例えば、オンタック(ONTAK)(登録商標))、抗CD−4、抗CD−25、抗PD−1、抗PD−L1、抗PD−L2又はFOXP3を遮断する因子(例えば、CD4陽性/CD25陽性調節性T細胞の活性化/殺害を阻害するため);Flt3リガンド、イミキモド(imiquimod)(アルダラ(Aldara)(商標))、GM−CSF、サルグラモスチム(sargramostim)(ロイキン(Leukine)(登録商標))、トール様受容体(Toll−like receptor)(TLR)−7 アゴニスト、又はTLR−9 アゴニスト(例えば、樹状細胞、マクロファージ及び他の専門の抗原提示細胞の、数を増やすか、又は活性化状態を増強する因子)が挙げられるが、これらに限定されない。当該生物学的反応修飾因子は、当該技術において公知であり、かつ公然に利用可能である。
本発明の組成物及び治療ワクチンは、特定の疾患若しくは悪い健康状態(病原体による感染が挙げられる)から対象を保護するために有用なあらゆる他の化合物、又は当該感染のあらゆる症状を処置若しくは寛解するあらゆる化合物をさらに含み得る。
本明細書において使用されるときに、薬学的に受容可能な担体は、本発明の酵母ワクチンを、適切にインビボ又はエキソビボに送達するために好適なあらゆる物質又は運搬体を指す。当該担体としては、補助剤、賦形剤、又は送達運搬体若しくは担体のあらゆる他の種類が挙げられる。
本発明によれば、補助剤は、典型的に、特定の抗原に対する動物の免疫反応を一般に増強する物質である。好適な補助剤としては、フロインドのアジュバント;他の細胞壁組成物;アルミニウムに基づく塩;カルシウムに基づく塩;シリカ;ポリヌクレオチド;変性毒素;血清タンパク質;ウイルス被覆タンパク質;他の細菌由来調整物;ガンマインターフェロン;ブロック共重合体補助剤(例えば、ハンターのタイターマックス補助剤(CytRx(商標)、Inc. Norcross, GA));リビ(Ribi)補助剤(Ribi ImmunoChem Research, Inc., Hamilton, MTから入手可能である);ならびにサポニン及びそれらの誘導体(例えば、クイル(Quil) A(Superfos Biosector A/S, Denmark)から入手可能である)が挙げられるが、これらに限定されない。補助剤は、本発明の酵母運搬体に要求されないが、それらの利用は、除外されない。
担体は、典型的に、処理された動物における治療組成物の半減期を増強する化合物である。好適な担体としては、多量体化徐放性調合物、生物分解性植込錠、リポソーム、油、エステル、及びグリコールが挙げられるが、これらに限定されない。
また、本発明の組成物及びワクチンは、1つ以上の薬学的に受容可能な賦形剤を含み得る。本明細書において使用されるときに、薬学的に受容可能な賦形剤は、本発明の方法に有用な組成物を、適切にインビボ又はエキソビボに送達するために好適なあらゆる物質を指す。好ましい薬学的に受容可能な賦形剤は、身体における標的細胞、標的組織又は標的部位に組成物が到達したときに、化合物が標的部位における免疫反応を誘引可能である(ここで、標的部位が全身であり得ることに注意されたい)形態に、組成物(例えば、酵母運搬体又は酵母運搬体を含む樹状細胞)を維持可能である。本発明の好ましい賦形剤としては、ワクチンを輸送するが、特にある部位に対してワクチンを標的化しない賦形剤又は調合物(また、本明細書において非標的化担体と呼ぶ)が挙げられる。薬学的に受容可能な賦形剤の例としては、水、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、リンガー溶液、デキストロース溶液、血清含有溶液、ハンクス液、他の水性の生理学的平衡溶液、油、エステル及びグリコールが挙げられるが、これらに限定されない。水性担体は、例えば、化学的安定性及び等張性を増強することによって、受給者の生理学的条件に近づけるために要求される、好適な補助物質を含むことができる。また、補助物質は、防腐剤を含み得る。安定化剤(例えば、トレハロース、グリシン、ソルビトール、乳糖又はグルタミン酸1ナトリウム(MSG))が、加えられて、種々の条件(例えば、温度の変動又は凍結融解過程)に対してワクチン調合物を安定化し得る。また、組成物は、懸濁液(例えば、無菌水又は生理食塩水(好ましくは緩衝化されている))を含み得る。
酵母運搬体は、本発明の組成物(当業者に公知の多くの技術を用いて、患者に直接に投与されるか、又はまず担体(例えば、樹状細胞)に取り込まれる調製物が挙げられる)に配合され得る。例えば、酵母運搬体は、1つの好ましい実施形態である凍結乾燥によって乾燥され得る。また、投与若しくは樹状細胞への取り込み、又は抗原を用いた他種類の投与の前に、酵母運搬体は、薬学的に受容可能な賦形剤と混合され得る。例えば、調合物は、好適な希釈剤(例えば、無菌水、生理食塩水、等張化緩衝生理食塩水(例えば、生理学的pHに緩衝化されている)又は他の好適な希釈剤)において再懸濁され得るか、又は希釈され得る。凍結乾燥(凍結乾燥法)は、好ましい選択肢である。また、酵母運搬体を備える調合物は、ケーク(cake)又は錠剤に酵母を詰め込むこと(例えば、焼成運用又は浸出運用において使用される酵母に対してなされる)によって調製され得る。
〔本発明のキット〕
本発明は、本発明のあらゆる1つ以上のワクチン、及び/又はタルモゲン若しくは本発明の酵母運搬体を備える単独のキットか、本明細書に記載の抗原及び抗原調整物との組み合わせた当該キットを意図する。本発明のキットに包含されるのは、あらゆる種類のワクチンに、及び特に本発明の酵母運搬体に基づくワクチン若しくはワクチン戦略に使用する、細胞内抗原及び細胞外抗原のあらゆる組み合わせである。例えば、本明細書に記載のあらゆる融合タンパク質、又は本明細書に記載されているような細胞内抗原及び細胞外抗原を提供するタンパク質調整物は、キットに提供され得る。抗原は、あらゆる形態(酵母運搬体によって発現された形態に(タルモゲンとして)若しくはそうでなければ酵母運搬体に提供された形態に、DNAワクチンの形態に、タンパク質調製物として、又は死んだ若しくは不活化した病原体として、が挙げられる)において提供され得る。抗原のあらゆる好適な形態が包含される。また、包含されるのは、複数の抗原又は抗原調製物であり、ここで、抗原のそれぞれは、異なる酵母運搬体によって発現されるか、又はそうでなければ異なる酵母運搬体(例えば、異なる酵母運搬体との複合体)に提供される。例えば、酵母運搬体のそれぞれは、個体又は個体の集団に投与するための抗原の好ましい組み合わせ(例えば、保存された抗原若しくは内部抗原及び/又は可変抗原若しくは外部抗原)、及び好ましいワクチン戦略(例えば、保存された抗原若しくは内部抗原を用いた初回刺激及び可変抗原若しくは外部抗原を用いた追加免疫)を選択できるように、特定の病原体に由来の異なる抗原を発現するか、又はそうでなければ提供することができる。1つの局面において、このキットは、ワクチン戦略に使用される初回刺激又は抗原調製物を、単独に又は当該キットに含まれるタルモゲンと組み合わせて、付加的にさらに含むことができる(本明細書に記載のように、初回刺激/追加免疫戦略などにおいて同時に投与されるか、続けて投与される)。また、キットは、本明細書に記載のように補助剤として使用するための、抗原を発現しないか、又は提供しない酵母運搬体を含み得る。使用のための取扱説明書の一揃えは、本発明のあらゆるキットに含まれ得る。また、酵母運搬体用の培養試薬は、包含され得る。酵母細胞は、培養を始めるために凍結され得るか、又はあらかじめ培養されて抗原を発現し、かつキットの一部として詰め込みのために凍結され得るか、又は凍結乾燥されて提供され得る。
〔本発明の方法〕
本発明の一実施形態は、細胞性免疫反応、体液性免疫反応及び/又はそれらの組み合わせなどの、免疫反応を引き出す方法に関する。本発明の別の実施形態は、病原体の感染(例えば、インフルエンザウイルスの感染)又はそれにより生じる病気などの、病状又は病気から、動物を守る方法(その病状又は病気の予防及び/又は治療も含む)に関する。本方法は、病気若しくは病状にかかっている(病原体の感染も含む)動物、又は病気若しくは病状が発症する危険性のある動物に、本明細書に記載されている本発明のワクチン又は組成物を投与する工程を包含し、それにより、感染の予防又は動物への感染により生じる少なくとも1つの症状の緩和など、病気又は病状を緩和又は予防するものである。本発明の方法は、好ましくは、動物において、少なくとも1つの抗原に対する抗原特異的細胞性免疫反応を、少なくとも、その抗原を含むワクチンを個体に対して最初に投与したときに、引き出す。特定の病原体又は病気に対する免疫反応、及びワクチンを投与される個体の免疫状態を調整するための詳細な方法は、既に上述しており、また本明細書に例示されている。当業者であれば、所望の免疫反応を実現させるために、抗原、抗原の発現形式又は供給方式、及びワクチン組成物の異なる組み合わせを容易に用いることができ、また本明細書に記載のワクチンプロトコールを容易に用いることができるであろう。
上記実施形態において、ワクチン又は組成物は、(a)第1酵母運搬体、及び(b)本明細書に記載の1以上の何れかの抗原(酵母運搬体が発現する抗原、酵母運搬体が輸送する抗原、酵母運搬体と複合体を形成している抗原、酵母運搬体に結合している抗原、酵母運搬体が分泌する抗原、及び/又は酵母運搬体と混合されている抗原)である。ワクチンは、上述した抗原とは異なる抗原を発現、輸送、若しくは分泌している、又は上述した抗原とは異なる抗原と混合され、結合し若しくは複合体を形成しているさらなる酵母運搬体を含むものであってもよい。本発明の酵母運搬体が発現、輸送、分泌し、又は本発明の酵母運搬体と混合され、結合し若しくは複合体を形成している抗原の好ましい組み合わせ、及び、組み合わされる又は連続して投与される酵母運搬体の好ましい組み合わせは、上記に詳細に記載されている。
一実施形態において、ワクチンは、酵母が細胞内に発現又は供給する少なくとも1つの抗原である。一実施形態において、ワクチンは、酵母が細胞内に発現又は供給する少なくとも1つの抗原、及び酵母が細胞外に発現又は供給する少なくとも1つの抗原である。この実施形態の一態様において、細胞内及び細胞外の抗原は同一の抗原であり、別の態様においては、それらは異なる抗原である。一実施形態において、酵母が細胞内に発現又は供給する抗原は、保存されている抗原又は病原体が内部に発現している抗原の少なくとも1つの抗原である。一実施形態において、酵母が細胞外に発現又は供給する抗原は、変化しやすい抗原又は病原体が外部に(表面上に)発現している抗原の少なくとも1つの抗原である。別の実施形態において、酵母は、上記変化しやすい抗原又は外部抗原も、細胞内に発現し又は供給する。
本発明の一実施形態において、ワクチンは、酵母が細胞内に発現又は供給する少なくとも1つの抗原、及び酵母が細胞外に発現又は供給する少なくとも1つの抗原である。また、ワクチンは、抗原に対する免疫システムを誘導する(prime)ために用いられる。誘導による(by priming)とは、そのワクチンがある個体に対するワクチンの最初の投与であることが意図されており、抗原又は抗原混合物を用いての免疫付与がなされていない個体のような場合が意図されている。したがって、その後にその抗原に遭遇したときに(例えば、ワクチンを追加免疫したとき、又は例えば病原体の感染の結果として、天然抗原に遭遇したときに)、より迅速にかつ効率よく応答するよう、免疫システムが「誘導」される。
一実施形態において、ワクチンは、酵母が細胞内に発現若しくは供給する少なくとも1つの抗原、酵母が細胞外に発現若しくは供給する少なくとも一つの抗原、又は酵母が細胞内に発現若しくは供給する抗原及び酵母が細胞外に発現若しくは供給する抗原の両方である。また、ワクチンは、追加免疫ワクチンとして(すなわち、1又は複数の抗原による第一免疫の最初の誘導免疫の後に)投与される。
一実施形態において、抗原が高度に保存されており、変異がなさそうな場合には、単一の抗原の発現であることが望ましい。別の実施形態において、単一の抗原を標的として実現し得るよりも広範囲の交差防御応答を得るためには、複数の抗原を発現及び供給することが望ましい。このような交差防御応答は、共通(universal)ワクチンの創出に有用であり、広範な範囲の防御免疫反応を提供するために、上述したような抗体産生ワクチンと組み合わせてもよい。防御のメカニズムは抗体産生ワクチンにより引き出されるメカニズムと異なるため、共通抗原のターゲティングを投与量倹約(dose-sparing)の投薬計画に利用し得る。
別の実施形態において、追加免疫ワクチンは、異なるタイプのワクチン(例えば、非酵母ベースワクチン、例えば、タンパク質サブユニット、DNA、死/不活化病原体)又は異なるタイプの酵母運搬体を用いている酵母ベースワクチンである。例えば、酵母膜粒子若しくは細胞壁粒子、又はタンパク質、DNA若しくは不活化/死病原体ワクチンと共にアジュバントとして用いられる酵母である。さらにとりわけ、本発明の一実施形態では、本明細書に記載されている本発明のワクチン又は組成物は、1以上の他のワクチン又は免疫療法組成物(従来のあらゆる非酵母ベースワクチン又は組成物など)の投与を含むプロトコールによって投与できる。例えば、このような他のワクチン又は免疫療法組成物としては、例えばDNAワクチン、死若しくは不活化病原体ワクチン又はタンパク質サブユニットワクチン(例えば、精製抗原調製物)などの、抗原含有、抗原コード又は抗原発現組成物が挙げられる。本発明の酵母ベースワクチンは、少なくとも強力な細胞性免疫反応である抗原特異的免疫反応を誘導するために好んで用いられる。また一実施形態では、細胞性免疫反応及び体体液性免疫反応両方の抗原特異的免疫反応を誘導するために好んで用いられる。また非酵母ベースワクチン又は別の形態の酵母ベースワクチンは、免疫反応(細胞性及び/又は液性)を高める(boost)ために好んで用いられる。あるいは、以前に非酵母ベースワクチンにより投与されている1又は複数の抗原に対する個体の免疫反応を高めるために、本発明の酵母ベースワクチンを投与するものであってもよい。
一態様において、異種抗原を発現しない又は別の方法で含んでいない若しくは供給しない酵母は、興味を引くもう1つの(複数の)抗原と併せてアジュバントとして用いることができる。一実施形態において、異種抗原を発現しない又は別の方法で含んでいない若しくは供給しない酵母は、DNAワクチンによる免疫反応を亢進させるために、非酵母ベースワクチン(例えば、DNAワクチン)と同時に用いられる。一代替形態において、異種抗原を(表面上に、又は内部に、又はその何れにも)発現又は供給する酵母は、免疫反応を亢進させるために他の型のワクチンと併せて用いられる。別の代替形態において、異種抗原を発現しない又は別の方法で含んでいない若しくは供給しない酵母は、個体に単独で投与される(すなわち、外因性抗原は投与されない)。本発明のこの態様では、個体は既に、抗原非保有酵母運搬体の投与に対して免疫反応を引き出すのに十分な量の抗原を保有している。例えば、最近病原体に感染した個体、細胞内タンパクに変異が入った個体、又は別の方法で免疫システムに耐性がない抗原若しくは耐性を破壊し得る抗原を発現若しくは保有している個体が挙げられる。
防御免疫反応を引き出すためには、酵母運搬体における異種抗原を、非酵母ベースワクチンに使用される抗原と同一にする必要はない。抗原の選択は、2つの抗原が配列類似性を共有するように、共通のエピトープを保持するように、又は標的病原体において異なる抗原であるように、選択すればよい。一態様において、抗原は、補助的又は相補的な免疫反応を引き出すための、酵母ベースワクチン用及び非酵母ベースワクチン用に選択される。このことは、酵母運搬体の異種抗原に対する免疫反応が、非酵母ベースワクチンにおける抗原に対する免疫反応に拮抗する状況である場合には、明らかに好ましい。
本発明の治療用組成物又はワクチンの使用方法では、好ましくは動物の免疫反応を引き出し、それにより、その動物を、病気若しくは病状(感染を含む)から、又はその病気若しくは病状(感染を含む)による症状から守る。本明細書において用いられる場合、語句「病気から守る」とは、病気の症状を緩和する、病気の発病を低減させる、及び/又は病気の重症度を低減させることをいう。動物を守ることには、本発明の組成物を動物に投与した場合の、本発明の組成物における、病気の発症を防ぐ能力及び/又は病気の症状、兆候若しくは原因を治癒する若しくは和らげる能力を参照できる。そのようなものとして、動物を病気から守ることには、病気の発病を予防すること(予防治療又は予防ワクチン)及び病気を患っている動物若しくは病気の初期症状が現れている動物を治療すること(治療上の処置又は治療ワクチン)が含まれる。特に、場合によっては過剰な又は有害な免疫反応を追加的に抑制(例えば、低減、阻害又は阻止)し得る有益な免疫反応又は防御免疫反応の誘導により、免疫反応を動物に引き出すことによって、動物を病気から守ることができる。用語「病気」は、動物の正常な健康状態からのあらゆる逸脱を指し、病気の症状が現れている状態と同様に、逸脱(例えば、感染)はすでに生じているものの症状がまだ現れていない状態も含むものである。
一実施形態において、本発明の任意のワクチンは、インフルエンザウイルスなどの病原体に感染している個体又は個体群に投与される。別の実施形態において、本発明のワクチンの任意のものが、上記病原体に感染する危険性のある個体又は個体群に投与される。上記個体らは、例えば通常の個体群又は全個体群よりもインフルエンザの感染の危険性が高いことが確認されている集団であり得る。上記個体らはまた、その集団の地理的な居場所から予測される病原体株(例えば、ウイルス菌株)の故に、本発明の特定のワクチンのために選択された個体群であり得る。このような集団は、あらゆる適したパラメータによって定義することが可能である。別の実施形態では、既に知られている若しくは予測される感染状況又は特定の病原体に対する感染のしやすさに関係なく、本発明のワクチンの任意のものが、あらゆる個体又はあらゆる個体群に投与される。
より具体的には、本発明の方法により本明細書に記載のワクチンを動物に投与したときに、このワクチンは、好ましくは、病原体の感染の軽減(例えば、感染による少なくとも1つの症状又は臨床症状の減少)、感染の排除又は感染を排除するときの時間の減少、感染及び/又は感染に関連した症状の予防、並びに感染に対するエフェクター細胞免疫及び液性免疫の刺激であり得る結果を生じさせる。さらには、ワクチンは、好ましくは、病原体の全ての感染を防止する又は減少させる免疫システムを誘導し、この病原体は、病原体の全ての生活環形態、菌株又は変異株を含み、個体の血液の循環内に遊離しているか又は個体の細胞内若しくは組織内に遊離しているかを問わない。ワクチンはまた、好ましくは、病原体に対しての免疫が長続きする免疫、又は少なくとも共通免疫若しくは交差防御免疫も付与し、それにより、新しい菌株又は変異株のさらなる感染をより容易に予防及び/又は排除する。
本発明は、本発明の組成物又はワクチンの動物への送達を含む。投与工程は、ex vivo又はin vivoにおいて行い得る。ex vivo投与は、調節工程の一部を患者の体外において行うことを指す。例えば、患者から取り除いた細胞(樹状細胞)集団に、酵母運搬体及び抗原が細胞内に取り込まれる条件のもと本発明の組成物を投与し、患者に細胞を戻すことが挙げられる。本発明の治療用組成物は、あらゆる適した投与様式により、患者に戻すことができ、又は患者に投与することができる。
キャリアと組み合わせての又は単独での、本発明に係るワクチン又は組成物の投与は、通常は全身性投与又は粘膜投与である。好ましい投与経路は、当業者にとって明白であろう。好ましい投与方法としては、静脈内投与、腹腔内投与、筋肉内投与、結節内(intranodal)投与、冠動脈内投与、動脈内投与(例えば、頚動脈への投与)、皮下投与、経皮送達、気管内投与、皮下投与、関節内投与、心室内投与、吸入(例えば、エアロゾル)、頭蓋内、髄腔内、眼内、経耳、鼻腔内、経口、経肺投与、カテーテル注入、及び組織への直接注射が挙げられるが、これらに限定されない。
特に好ましい投与経路は、静脈内、腹腔内、皮下、皮内、結節内、筋肉内、経皮、吸入、鼻腔内、経口、眼内、関節内、頭蓋内及び髄腔内である。非経口送達としては、皮内、筋肉内、腹腔内、胸腔内、肺内、静脈内、皮下、心房カテーテル及び静脈カテーテルが挙げられる。経耳送達としては点耳が挙げられ、鼻腔内送達としては点鼻又は鼻腔内注射が挙げられ、また眼内送達としては点眼が挙げられる。エアロゾル(吸入)送達は、この分野において標準的な方法(例えば、本明細書にそのまま参考として援用される、Stribling et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 1992, 189:11277-11281を参照)を用いて行うことも可能である。例えば、一実施形態において、本発明の組成物又はワクチンは、適した吸入器具又は噴霧器を用いての噴霧送達に適した組成物に調剤し得る。経口送達では、口から摂取し得る固体及び液体が挙げられる。経口送達は粘膜免疫の発現に有用であり、また、酵母運搬体を含んで構成される組成物を、例えば錠剤若しくはカプセルとして、同様に食品及び飲料製造物内に調剤して経口送達用に容易に調製できることから有用である。
粘膜免疫を調節する他の投与経路は、ウイルス感染及び他の病原体による感染の治療においてとりわけ有用である。このような経路としては、気管支、皮内、筋肉内、鼻腔内、他の吸入、直腸、皮下、局所性、経皮、膣及び尿道口経路が挙げられる。
上記に特定した方法の任意のものの一実施形態では、ワクチンは呼吸器管に投与される。別の実施形態では、ワクチンは投与の非経口経路により投与される。さらに別の実施形態では、ワクチンは樹状細胞又はマクロファージをさらに含んでいる。ここで、融合タンパク質を発現している単独又は複数の酵母運搬体(上述の好ましい組み合わせを参照)がex vivoで樹状細胞又はマクロファージに送達され、抗原を発現している酵母運搬体を含む樹状細胞又はマクロファージが動物に投与される。この実施形態の一態様においては、樹状細胞又は酵母運搬体に遊離抗原がさらに取り込まれている。一態様において、酵母ベースワクチンは、一個体において別の酵母ベースワクチン又は非酵母ベースワクチンの投与部位と同じ部位に投与される。別の態様において、酵母ベースワクチンは、一個体において別の酵母ベースワクチン又は非酵母ベースワクチンの投与部位と異なる部位に投与される。一態様において、ワクチンは治療ワクチンとして投与される。別の態様において、ワクチンは予防ワクチンとして投与される。
本発明によれば、効果的な投与プロトコール(すなわち、効果的な手段によりワクチン又は治療用組成物を投与する方法)は、好ましくは動物が病気から守られるように、病気若しくは病状を患っている動物又は病気若しくは病状にかかる危険性のある動物に免疫反応を結果として引き出す、適した投与量パラメータ及び投与様式を含む。効果的な投与量パラメータは、特定の病気に対して、この分野において標準的な方法により決定できる。このような方法としては、例えば、生存率、副作用(すなわち、毒性)及び病気の進行又は退行の判定が挙げられる。
本発明によれば、適した単回投与量は、適した期間にわたって1回以上投与することによって、動物に抗原特異的免疫反応を引き出すことができる量である。投与量は治療すべき病気又は病状によって異なり得る。例えば、一実施形態において、本発明の酵母運搬体の単回投与量は、組成物が投与される生物の体重1kgあたり約1×105から約5×107酵母細胞相当物である。好ましい実施形態では、投与量あたりの酵母細胞は、生物の体重に合わせては調整されていない。この実施形態において、本発明の酵母運搬体の単回投与量は、投与量あたり約1×104から約1×109酵母細胞である。単回投与に用いられる酵母運搬体の量は、約0.0001酵母ユニット(YU)から約10,000YUの間であり得る(1YU=107酵母)。一実施形態において、用いられる酵母運搬体の量は、約0.001YUから約1000YUである。他の実施形態において、用いられる酵母運搬体の量は、約0.01YUから約100YUである。他の実施形態において、用いられる酵母運搬体の量は、約0.1YUから約10YUである。一実施形態において、本発明の酵母運搬体の単回投与量は、投与量あたり(すなわち、生物あたり)約0.1YU(1×106細胞)から約100YU(1×109細胞)であり、0.1×106細胞単位で(すなわち、1.1×106,1.2×106,1.3×106...)、その間のあらゆる投与量を含んでいる。投与量のこの範囲は、マウス、サル、ヒトなど、あらゆる大きさのあらゆる生物に効果的に使用し得るものである。
酵母運搬体及び抗原を樹状細胞に取り込ませることによってワクチンを投与する場合には、本発明のワクチンの好ましい単回投与量は、投与ごとの生物あたり約0.5×106から約40×106樹状細胞である。単回投与量は、好ましくは、個体あたり約1×106から約20×106樹状細胞であり、より好ましくは、個体あたり約1×106から約10×106樹状細胞である。
治療用組成物の「追加免疫(booster)」又は「ブースト(boost)」は、抗原に対する免疫反応が弱まったとき、又は免疫反応の供給若しくは特定の単一若しくは複数の抗原に対する記憶応答の誘導が必要なときに、好ましくは投与される。追加免疫は、はじめの投与から約2週間から数年経過後に投与可能である。一実施形態において、投与スケジュールは、生物の体重1kgあたり、組成物の約1×105から約5×107酵母細胞相当物を、約1月から約6月の期間にわたって、約1回から約4回投与するスケジュールである。
本発明の一実施形態において、第1ワクチンは個体又は個体群に投与される。この第1ワクチンは、詳細に上述している単一又は複数の酵母運搬体の投与量及び1以上の抗原を含んで構成される。一態様において、この第1ワクチンは、好ましくは、単一又は複数の酵母運搬体及び1以上の細胞内抗原を、単独で又は1以上の細胞外抗原と組み合わせて含んで構成される。インフルエンザの場合には、ワクチンは、好ましくは、少なくとも1以上の内部インフルエンザ抗原を含んで構成されている。このワクチンは、抗原に対する細胞性免疫の維持又は誘発が必要なとき、また抗原が外因性である場合に抗原に対する液性免疫の維持又は誘発が必要なときに、個体ごとにあらゆる適した間隔で定期的に投与され得る。インフルエンザなどの病原体の場合には、ワクチンは、好ましくは、少なくとも1以上のインフルエンザウイルス株に対する細胞性免疫を維持するか又は引き出す。例えば、ワクチンは、追加免疫、1年ごと若しくは半年ごと、数年ごと、又はその他必要により、投与され得る。上述のように、本発明のこの実施形態は、共通の、交差防御ワクチンとして用いられる。また、従来のワクチンよりも、様々なタイプの病原体感染に対して、より長続きする免疫を付与し得る。
さらなる実施形態では、第2ワクチンは、単一又は複数の酵母運搬体の投与量及び1以上の抗原(上記の第1ワクチンに含まれている抗原と同じ抗原又は異なる抗原)を含んで構成され、好ましくは、単一又は複数の酵母運搬体の投与量及び1以上の細胞外抗原単独若しくは1以上の細胞内抗原と組み合わせた細胞外抗原を含んで構成される。第2ワクチンは上記の第1ワクチンを接種した同じ個体又は個体群に投与される。この第2ワクチンは、第1ワクチンと一緒に(例えば、異なる酵母運搬体の組み合わせを含んで構成される単一のワクチンとして)、又は第1ワクチンとは別に投与され得る。後者の計画では、様々なワクチンにより引き出される免疫反応をうまく操るために、第2ワクチンは、第1ワクチンと同じときに第1ワクチンに続けて(例えば、投与の間隔を、数秒、数分又は数時間あけて)、又は第1ワクチンとは異なる日程で投与され得る。例えば、第1ワクチンは、1年に1回又はより長期の単位ごとに、可能であれば、共通の、交差防御細胞性免疫反応を引き出すことを目的として、また適用可能であればワクチン設計に基づいて体体液性免疫反応を引き出すことを目的として、投与され得る。第2ワクチンもまた、そのときに個体群の間で最も流行している病原体株に対して適時にかなって個体群を免疫するために、1年に1回又は必要に応じて(すなわち、1回限りの方法で、1年に2回以上、又は免疫計画に関連させて)投与され得、又は病原体による感染の一時的な流行若しくは全地域にわたる流行を制御若しくは予防するために、必要に応じて投与され得る。インフルエンザワクチンに適用しているこの計画は、本明細書においては特定のものについて詳細に記述されているが、本発明はインフルエンザワクチンに限定されるものではない。上述の通り、本発明のワクチン計画は、交差防御免疫及び病原体株/変異株特異的免疫の両方をもたらすよう設計されている。これらの免疫は、細胞性免疫及び液性免疫の両方を含み、これまでに記載されてきているものよりもより柔軟で有効な、病原体に対する免疫付与をもたらすと考えられている。この計画は、例えば腫瘍細胞が発現している抗原などの細胞抗原に合うように、容易に改編される。
本発明の方法では、ワクチン及び治療用組成物を、動物(対象、個体、患者)に投与することができる。このような動物としては、あらゆる脊椎動物であり、とりわけ脊椎動物の中の、哺乳類のあらゆる動物であり、特にこれらに限定されないが、霊長類、げっ歯類、家畜及び家庭内のペットである。家畜とは、食用の哺乳動物又は有用産物を産出する哺乳動物(例えば、ウール生産のためのヒツジ)である。守るべき動物として好ましいものは、ヒト、イヌ、ネコ、マウス、ラット、ヤギ、ヒツジ、ウシ、ウマ及びブタであり、特に好ましくはヒトである。
〔第1及び第2医療利用〕
本発明はまた、細胞外及び/又は細胞内抗原(ターモゲン(Tarmogen))を発現又は供給する酵母運搬体;細胞外及び細胞内抗原、融合タンパク質、アジュバントとしての酵母運搬体及び/又は本明細書に記載の抗原調製物を組み合わせたもの;並びに/又は、あらゆる利用のための、とりわけ、病原体による感染、癌、自己免疫疾患などの病気又は病状の治療又は予防のための製剤又は薬剤の調製のためにそれらを組み合わせたもの、のあらゆる利用を意図する。製剤又は薬剤は、投与経路の組み合わせ(例えば、鼻腔内及び/又は非経口)を含む、あらゆる投与形態用に調剤し得る。製剤又は薬剤は、本明細書に記載の任意の投与プロトコール用に調製し得る。一態様において、製剤又は薬剤は、抗原特異的免疫反応(細胞性及び/又は液性)を引き出すため、インフルエンザの感染から動物を守るため、病気又は病状を治療又は予防するため、インフルエンザウイルスなどの病原体に感染する危険性のある個体群を免疫するため、インフルエンザウイルスなどの病原体に感染している個体群を治療するため、又はインフルエンザウイルスなどの病原体感染から動物を守るためのものである。
〔インフルエンザ組成物及びワクチン〕
あらゆる抗原に向けられている、上述されている本発明の様々な態様は、インフルエンザウイルス及び組成物並びにインフルエンザウイルスに対して免疫反応を引き出す方法への本発明の概念及び実施形態の適用に関する詳細な議論により、説明及び例証されるであろう。本発明は、抗原又は抗原源としてのインフルエンザウイルスに限定されるものではない。
本発明者らは、酵母運搬体及び1以上のインフルエンザウイルス融合タンパク質を含んで構成される、酵母ベースワクチン及びこれの使用方法を開発した。1以上のインフルエンザ抗原を発現する又は他の方法により当該抗原と複合体を形成する上記酵母運搬体は、単独で、又は1以上のさらなるインフルエンザウイルス融合タンパク質を発現する又は他の方法により当該タンパク質と複合体を形成する1以上のさらなる酵母運搬体と組み合わせて、使用することができる。あるいはこの酵母運搬体は、任意の非酵母ベースワクチン(例えば、DNAワクチン、タンパク質サブユニットワクチン、又は死/不活化インフルエンザウイルス)など、他の形態のインフルエンザ抗原と組み合わせて使用することができる。
一実施形態において、ワクチンは、マトリックスタンパク質(M1)、イオンチャネル(M2)抗原、ヌクレオキャプシド(NP)抗原、ポリメラーゼPB1(PB1)抗原、ポリメラーゼ(PB2)抗原及びポリメラーゼPA(PA)抗原から選択される1以上の内部インフルエンザ抗原を発現又は供給する酵母運搬体である。別の実施形態において、ワクチンは、血球凝集素(HA)抗原(任意の1以上のサブタイプ)及びノイラミニダーゼ(NA)抗原(任意の1以上のサブタイプ)から選択される1以上の外部インフルエンザ抗原を発現する酵母運搬体である。内部抗原は、通常、酵母が細胞内に発現する。外部インフルエンザ抗原は、通常、酵母が細胞表面(細胞外抗原)に発現又は供給し、また酵母が細胞内に発現する。いくつかの実施形態においては、抗原の何れの供給方法(細胞内及び細胞外)も好ましい。特に好ましい実施形態では、外部インフルエンザ抗原は、所定の期間(例えば、1年間)、ある動物種(例えば、ヒト)の間で最も著しく広まっているウイルス型又はウイルス集団を提示するために選択される。又は、見込まれる、疑われる又は予期される特定の型のインフルエンザの発生、例えば、インフルエンザの一時的な流行又は全地域的な流行、に対応するために選択される。
さらなる、またとりわけ好ましい本発明の実施形態は、外部及び内部インフルエンザ抗原両方の使用の組み合わせをうまく利用するワクチンに関する。この実施形態において、ワクチンは、マトリックスタンパク質(M1)、イオンチャネル(M2)、ヌクレオキャプシド(NP)抗原、ポリメラーゼPB1(PB1)抗原、ポリメラーゼ(PB2)抗原及びポリメラーゼPA(PA)抗原から選択される少なくとも1以上の内部インフルエンザ抗原を発現又は供給する酵母運搬体である。これらのタンパク質の組み合わせの使用もまた、本発明に包含されるものである。内部インフルエンザ抗原は好ましくは、酵母が細胞内に発現するが、抗原は細胞外に供給されてもよい。ワクチンはまた、酵母運搬体による、血球凝集素(HA)抗原(任意の1以上のサブタイプ)及びノイラミニダーゼ(NA)抗原(任意の1以上のサブタイプ)から選択される少なくとも1つの外部インフルエンザ抗原の発現又は供給である。外部インフルエンザ抗原は、酵母の表面(細胞外)に発現又は供給されるが、酵母が細胞内に発現又は供給してもよい。いくつかの実施形態において、外部インフルエンザ抗原については、何れの発現方法又は抗原供給方法も好ましい。
インフルエンザウイルスの様々な株に由来するタンパク質についての核酸配列及びアミノ酸配列は公知である。例えば、インフルエンザウイルスA/PR/8/34株のH1N1の配列は、NCBIデータベースにおいて、アクセッション番号M38279(本明細書において配列番号29で示されるヌクレオチド配列であり、配列番号30の配列をコードしている)、NC_002019(本明細書において配列番号31で示されるヌクレオチド配列であり、配列番号32の配列をコードしている)として、公開されている。例えば、鳥インフルエンザA/Vietnam/1203/04株の配列もまた公知である。例えば、A/Vietnam/1203/04由来のH5N1をコードするヌクレオチド(例えば、NCBIデータベースにおけるアクセッション番号AY818135)は、本明細書において配列番号33として表されており、配列番号34の配列をコードしている。本明細書に記載されている特定の配列は、これらの株の知られている又は報告されている配列に由来するものであるが、当業者であれば容易に別の株又は同一の株において報告されている別の配列を選びだすことができ、また公開されている配列について述べられている手法と同一の手法を用いて、それを本発明に使用することができることは理解されるであろう。様々な配列ソフトウェアプログラムの任意のものを用いて配列を整列させることが容易にでき、また本明細書に記載のタンパク質と対応する配列を、他の株又は報告されているウイルス配列内において容易に特定できる。さらに、ヌクレオチド配列及びアミノ酸配列は、様々な株又は公のデータベースにおける配列の報告との間で僅かに異なってもよいことも着目される。このような些細な差異が本発明における免疫反応を引き出す能力に重大な影響を及ぼすということは、予期されていない。本発明は、本明細書に記載されている配列に限定されるものではない。この実施形態では、外部インフルエンザ抗原を発現又は供給する酵母運搬体は、内部インフルエンザ抗原を発現又は供給する酵母運搬体と同じか又は異なる酵母運搬体であり得る。さらに、内部インフルエンザ抗原及び/又は外部インフルエンザ抗原の異なる組み合わせを、異なる酵母運搬体に発現又は供給させることができる。また、所望するワクチン接種に応じて、当該運搬体を、別個に、又は一緒に用いることができる。通常、インフルエンザ抗原が2以上の異なる酵母運搬体によって供給される場合(すなわち、全てのインフルエンザ抗原を1つの酵母運搬体において供給することとは対照的に)、1つのワクチンとして投与(例えば、一度の注射又は調剤の他の形態)するためにこの酵母運搬体らを組み合わせる(混合する)ことが可能であり、又は、異なる酵母運搬体を順次投与することが可能である。順次投与する場合、任意の適した期間をあけることが可能であり、短い時間増加単位(秒単位又は分単位)及び長い時間増加単位(日単位、週単位、月単位またさらには年単位)が可能である。本発明は、これらの実施形態において、少なくとも1つの内部インフルエンザタンパク質及び少なくとも1つの外部インフルエンザタンパク質を含むインフルエンザタンパク質のあらゆる組み合わせを用いることができるということ、また、このようなタンパク質を発現する又は他の方法により当該タンパク質と複合体を形成している酵母運搬体のあらゆる組み合わせ(単一の酵母運搬体も含む)を用いて、これらのタンパク質を供給することができるということを意図している。
本発明のワクチンをどのように設計し、使用するかということについては極めて柔軟性がある。例えば、一個体において細胞性の交差防御免疫を生じさせるために、内部インフルエンザ抗原を供給する酵母運搬体を含んで構成される「共通」ワクチンを、定期的に一個体に投与できる。例えば、次いで、このワクチンを、外部インフルエンザ抗原を供給するさらなる酵母運搬体と、一回限り又は定期的に組み合わせることができる。外部インフルエンザ抗原を供給する酵母運搬体は、毎年、又は着目されるウイルス株及び/又は所定の期間若しくは特定の地理的領域において最も流行しているウイルス株を標的とするために、他のあらゆる好ましい理由のときに(例えば、緊急時、予期される一時的な流行又は全地域的な流行時、その他必要なときに)、循環(rotate)、交代(alternate)、選択できる。本発明の他の実施形態は、本明細書における開示に照らせば明らかであろう。
本発明のさらに別の実施形態では、1以上の内部抗原(単独で、又は1以上の外部抗原と組み合わせて)を発現又は供給する酵母運搬体を、誘導ワクチンとして投与でき、その後に、さらなる酵母ベースワクチンによる追加免疫又は他の内部及び/若しくは外部抗原調製物による追加免疫を行うことが可能である。他の内部及び/又は外部抗原調製物としては、部分的に精製した若しくは精製したインフルエンザタンパク質調製物、インフルエンザタンパク質を発現する酵母運搬体の溶解物、DNAインフルエンザワクチン、死滅(若しくは不活化)ウイルス、又は酵母運搬体(異種抗原を供給するもの若しくは供給しないもの)と非酵母ベースワクチンとを組み合わせたものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。本発明の一実施形態には追加免疫ワクチンを含めているが、本発明の酵母ベースワクチンは免疫反応の誘発に極めて有効であるため、追加免疫ワクチンを必要としなくてもよいだろう。
インフルエンザM1,M2及びMPタンパク質は、インフルエンザが発現する内部タンパク質であり、インフルエンザウイルス菌株間で配列が高度に保存されており、免疫療法の優れた標的となっている。本発明のワクチンの投与は、インフルエンザ特異的CD4+及びCD8+T細胞応答を増大させ、結果としてウイルスによる負荷が減少することが期待され、最終的には、インフルエンザに感染した個体におけるウイルスの除去を亢進させる。酵母ベースの構成において外部インフルエンザ抗原(例えば、HA,M2e(M2タンパク質の外部ペプチド)及び/又はNA抗原)を複合させた場合には、ワクチンは、ワクチン接種の基板を提供するためのインフルエンザ特異的細胞性免疫及び液性免疫をさらに増大させる。また、このワクチンは、そのときのワクチンの必要性に合うように調整し得る。基板が提供されるワクチン接種には、効果が長続きする、交差防御ワクチン接種アプローチ(内部抗原を介する)、及び菌株特異的アプローチ(外部抗原を介する)が包含される。さらには、本発明のワクチンは卵ベースではないため、従来のインフルエンザワクチンと比べて、幅広い範囲の受容者に対してこのワクチンを用い得る。このワクチンは、現行のインフルエンザワクチンに比べて、より効率よく、より迅速に生産されることもまた予想される。最終的に、上述の通り、必要に応じてウイルスのサブタイプを標的にしながら共通免疫を確立できる観点から、本発明によりもたらされるワクチン設計における柔軟性が、従来のインフルエンザワクチンから大きく改良された点である。
本発明の一実施形態は、動物をインフルエンザの感染から守るための方法又はインフルエンザの感染により生じる少なくとも1つの症状を緩和する方法に用い得る組成物(ワクチン)に関する。ワクチンは、(a)酵母運搬体、及び(b)酵母運搬体が発現又は供給する異種インフルエンザ融合タンパク質を含んで構成される。上述の通り、本発明は、本発明のワクチンにおいて抗原として使用する複数の異なるインフルエンザ融合タンパク質を包含している。これらの融合タンパク質は、酵母運搬体において異種タンパク質の発現が安定化するように、また発現される異種タンパク質の翻訳後修飾が起こらないように設計されており、及び/又はいくつかの実施形態では、酵母運搬体の表面に発現するようにできる。この融合タンパク質は、広範な細胞性免疫反応及びいくつかの実施形態では体体液性免疫反応をもたらし、1以上の異なるインフルエンザ抗原を好ましくは発現又は供給し、及び/又は異なるインフルエンザ抗原を発現又は供給している他の酵母運搬体と組み合わされる。抗原の組み合わせでは、少なくとも1つの内部インフルエンザ抗原及び少なくとも1つの外部インフルエンザ抗原を含んでいることが好ましい。本発明のワクチンを形成させるために、1以上のこれら融合タンパク質を酵母運搬体に詰め込む(例えば、タンパク質として)ことができ、又は、このタンパク質を本明細書に記載の酵母運搬体と組み合わせる若しくは混合させることができるということは本発明の一実施形態ではあるが、最も一般的には、酵母運搬体(例えば、無傷酵母又は酵母スフェロプラストであり、これらは、任意でさらにサイトプラスト、酵母ゴースト、酵母膜抽出物又はこれらの分画に処理し得る)が、組み換えタンパク質としてこれらの融合タンパク質を発現又は供給している。
上述の通り、本発明のワクチン及び組成物に用いる融合タンパク質は、動物のワクチン接種ための少なくとも1つのインフルエンザ抗原を含む。組成物又はワクチンは、1つの、2つの、いくつかの、複数の又は多数のインフルエンザ抗原を含むことができ、これらには、1以上のインフルエンザ抗原の1以上の免疫原性ドメインが所望の通りに含まれている。例えば、本明細書に述べられているいかなる融合タンパク質も、インフルエンザマトリックスタンパク質(M1)、インフルエンザイオンチャネルタンパク質(M2)、インフルエンザヌクレオキャプシドタンパク質(MP)、ポリメラーゼPB1(PB1)抗原、ポリメラーゼ(PB2)抗原及びポリメラーゼPA(PA)抗原から選択される1以上の内部インフルエンザタンパク質、及び/又はインフルエンザ血球凝集素(HA)又はインフルエンザノイラミニダーゼ(NA)から選択される1以上の外部インフルエンザタンパク質の少なくとも一部を含み得る。
本発明によれば、「内部インフルエンザタンパク質」は、インフルエンザウイルス(任意の型又は菌株)が発現し、その全て又はほとんどがウイルス粒子の内部に含まれ、ウイルスのコア又はマトリックスタンパク質膜にあるタンパク質をいう。このようなタンパク質は、一般的にはウイルスの型及び菌株間で高度に保存されており、ウイルスによって豊富に生産される。本明細書において「外部インフルエンザタンパク質」は、インフルエンザウイルス(任意の型又は菌株)が発現し、脂質膜を通り抜けて外部に延びており、ほとんどがウイルス粒子の外部に発現しているタンパク質(例えば、ウイルス表面タンパク質)をいう。このようなタンパク質は抗体によって認識されるものであり、それゆえ、ウイルスに対する体体液性免疫反応を引き出すのに有用である。インフルエンザイオンチャネルタンパク質(M2)が主にはインフルエンザウイルス内部に含まれている一方で、インフルエンザウイルスの表面に発現している細胞外小ドメイン(M2eとして知られている)を有している点は着目される。したがって、M2タンパク質は一般的には内部インフルエンザタンパク質としてみられているが、インフルエンザウイルスが発現する場合に、又は少なくともその細胞外ドメインを細胞表面に発現している若しくは提示している細胞が発現している場合に抗体によって認識され得る限りにおいて、本発明の目的のために、外部インフルエンザタンパク質とみることもできる。
本発明の一実施形態において、ワクチンのインフルエンザ抗原部分は、2以上の抗原を含んで構成される融合タンパク質として生産される。一態様において、融合タンパク質は、1以上の抗原の2以上の免疫原性ドメイン又は2以上のエピトープ(例えば、インフルエンザM1配列及びインフルエンザHA配列)を含み得る。このようなワクチンは、広範な範囲の患者に対して抗原特異的免疫をもたらす。例えば、本発明に有用な複数ドメイン融合タンパク質は複数のドメインを有しており、各ドメインは特定のタンパク質由来のペプチドからなり、このペプチドは、タンパク質中に存在する変異アミノ酸の一方の側に位置しこの変異アミノ酸を含む少なくとも4アミノ酸残基からなり、この変異は特定の病気又は病状(例えば、特定菌株のインフルエンザ感染)と関連しているものである。
様々なインフルエンザの型、サブタイプ及び菌株に由来するインフルエンザ遺伝子の核酸配列及びアミノ酸配列並びにこれらによってコードされているポリタンパク質は、この技術分野において公知である。したがって、本明細書により提供されている手引き及びインフルエンザ抗原の特定の例示への言及を用いることにより、当業者は、本発明の組成物及びワクチンにおいて、あらゆるインフルエンザ菌株から様々なインフルエンザベースの融合タンパク質を容易に生産し、用いることができる。
本発明において、発明者らは、インフルエンザウイルス感染を予防し又は阻止することに用いられる新規組み換え酵母免疫療法(yeast immunotherapeutics)を創出した。酵母免疫療法のうちの1つでは、誘導プロモータ制御下において融合タンパク質としてインフルエンザマトリックスタンパク質(M1)が発現する。ヒスチジンタグに対する抗体を用いた酵母ワクチン細胞溶解物のイムノブロット解析では、組み換え酵母がタンパク質を発現していることが示されている。M1発現酵母ワクチンをBALB/cマウスに注射すると、リンパ球の増殖及び細胞毒性活性が示され、強力なM1抗原特異的ヘルパー及び細胞傷害性T細胞免疫反応が誘導される。別の酵母免疫療法では細胞内に血球凝集素抗原(HA)タンパク質を発現し、また別の酵母免疫療法では細胞外に血球凝集素抗原(HA)タンパク質を供給する。いくつかの免疫療法では構成的プロモータの制御下において抗原を供給する。本発明に包含される他の酵母ワクチンは以下に詳細に説明されるであろう。
本発明の一態様において、インフルエンザ抗原は、内部インフルエンザタンパク質であるマトリックスタンパク質(M1)である。本発明の一態様において、インフルエンザ抗原は、原則的に、インフルエンザM1タンパク質の2から252番目のアミノ酸からなる。M1はインフルエンザウイルスにおいてマトリックスタンパク質膜を形成するおよそ27kDのインフルエンザタンパク質である(図1参照)。M1は構造タンパク質であり、ウイルスのアセンブリ及び細胞質へのリボヌクレオタンパク質(RNP)の核酸の運び出しに関わっている。M1はインフルエンザウイルス間で高度に保存されており、また多量に存在するウイルスタンパク質であり、全ウイルスタンパク質のおよそ47%を占める。あらゆるM1タンパク質又はその部分は、本発明に使用されることが意図されており、このようなM1タンパク質の任意のもののあらゆる変異体又は変形体もまた同様である。
実施例1は、本発明の典型的なワクチン又はワクチンの成分を生産するための、内部インフルエンザタンパク質であるマトリックスタンパク質(M1又はMP)の使用について説明するものである(すなわち、本明細書に記載されているように、酵母運搬体が、異なるタンパク質を発現している他の酵母運搬体と組み合わされている限り、又は付加的なインフルエンザタンパク質を発現するようさらに形質転換されている限りにおける成分への言及である)。この実施形態において、酵母(例えば、サッカロミセス・セレビジエ(Saccharomyces cerevisiae)W303α)は、インフルエンザウイルスA/PR/8/34に由来するインフルエンザM1融合タンパク質を銅誘導プロモータCUP1制御下で発現するように人工的に改変されている。融合タンパク質は配列番号4のアミノ酸配列を有する単一のポリペプチドであり、配列番号3に示される核酸配列によりコードされているものである。
本発明の別の態様において、インフルエンザ抗原は外部インフルエンザタンパク質である血球凝集素(HA)である。本発明の一態様において、インフルエンザ抗原は、原則的にインフルエンザHAタンパク質の2から530番目のアミノ酸からなり、これはN末端のHAのER−ターゲティングシグナル配列を含むものであるが、HAのC末端の36残基は取り除かれている。したがって、C末端の膜アンカー及び細胞質テール(cytoplasmic tail)は取り除かれている。別の態様において、インフルエンザ抗原は、原則的にインフルエンザHAタンパク質の17から342番目のアミノ酸からなり、これはN末端にあるHAのER−ターゲティングシグナル配列である16アミノ酸を除いたものであり、またC末端の膜アンカー及び細胞質テールを含んで構成されるHAのC末端の36残基を除いたものである。HAは内在性膜タンパク質であり、インフルエンザウイルス粒子の表面に発現している(図1参照)。血球凝集素は、標的細胞表面にあるグリコシル化されたレセプタータンパク質のシアル酸残基を介しての宿主細胞への結合を担っている。また同様に、それに続く、ウイルスがエンドサイトーシスによって取り込まれた後のエンドソーム内でのウイルス膜と宿主膜との融合を担っている。HAは少なくとも4つの主要抗原性部位を含んでいる。これら4つの領域のうちの1つにおける単一のアミノ酸置換により、ウイルスは、免疫の監視から逃れ、毎年世界規模で広がる能力を獲得し得る。人への感染においては3種の相違するHAタンパク質が見つかっており、H1,H2及びH3と称されている。また、鳥インフルエンザウイルスにおいて見つかっているH5を含め、動物のインフルエンザウイルスではさらに他の13種が見つかっている。あらゆるHAタンパク質又はその部分は、本発明に使用されることが意図されており、このようなHAタンパク質の任意のもののあらゆる変異体又は変形体もまた同様である。一実施形態において、HAタンパク質を発現している本発明の酵母運搬体は1以上のHAタンパク質(例えば、H1,H2など)を発現しているか、又は異なるHAタンパク質を発現している酵母運搬体(例えば、一方の運搬体はH1、もう一方の運搬体はH2又は他のHAタンパク質)とワクチンにおいて組み合わされている。
実施例2は、本発明の他の典型的なワクチン又はワクチンの成分を生産するための、外部インフルエンザタンパク質である血球凝集素(HA)の使用について説明するものである。この実施形態において、酵母(例えば、サッカロミセス・セレビジエW303α)は、融合タンパク質をTEF2プロモータ制御下で発現するように人工的に改変されている。インフルエンザウイルスA/PR/8/34に由来するインフルエンザHA抗原(H2)を含んで構成される融合タンパク質は、配列番号6のアミノ酸配列を含んで構成される単一のポリペプチドであり、配列番号5に示される核酸配列によりコードされているものである。
実施例2はまた、本発明の他の典型的なワクチン又はワクチンの成分を生産するための、外部インフルエンザタンパク質である血球凝集素(HA)、この場合は、鳥インフルエンザ菌株由来のHAであるH5の使用についても説明するものである。この実施形態において、酵母(例えば、サッカロミセス・セレビジエW303α)は、融合タンパク質を発現するように人工的に改変されている。インフルエンザウイルスA/Vietnam/1203/04に由来するインフルエンザHA抗原(H5)を含んで構成される融合タンパク質は、配列番号20のアミノ酸配列を含んで構成される単一のポリペプチドであり、配列番号19に示される核酸配列によりコードされているものである。
上述した融合タンパク質の何れも、酵母がHA融合タンパク質を細胞内に発現するように設計されている。簡単に言えば、これらの融合タンパク質は、Aga2及びHAの両方のN末端シグナル配列を含んでいる。Aga2のシグナル配列はER内に転移するための融合を標的としているが、HAのシグナル配列は移動を停止するためのものとして機能している。このため、融合タンパク質は分泌経路をうまく切り抜けられない。HA部分が原形質膜の細胞質側に留まっている内在性膜タンパク質となる。
実施例3は、本発明のさらに他の典型的なワクチン又はワクチンの成分を生産するための、外部インフルエンザタンパク質である血球凝集素(HA)の使用について説明するものである。この実施形態において、酵母(例えば、サッカロミセス・セレビジエW303α)は、融合タンパク質をTEF2プロモータ制御下で発現するように人工的に改変されている。この融合タンパク質は、インフルエンザウイルスA/PR/8/34に由来する、HA1として参照されるHA(H1)抗原のN末端部分が酵母により外部発現されるように設計されている。Agalpも発現している細胞においてこのタンパク質が発現すると、このタンパク質は酵母細胞の外部細胞壁に局在するが、細胞内にもまた含まれる。融合タンパク質は、配列番号10のアミノ酸配列を含んで構成され、配列番号9に示される核酸配列によりコードされているものである。
本発明の別の態様では、インフルエンザ抗原は外部インフルエンザタンパク質であるノイラミニダーゼ(NA)であり、別の実施形態においては、NAの免疫原性部分が意図される。NAはインフルエンザウイルス粒子の表面に発現する内在性膜タンパク質である(図1参照)。ノイラミニダーゼは、シアル酸(ノイラミン酸)を消化するものである。殆どの細胞はシアル酸をその表面に有している。シアル酸はウイルスレセプターの一部であるため、ウイルスが細胞に結合すると、シアル酸は内部に吸収される(エンドサイトーシスにより取り込まれる)。感染の後期までに、シアル酸はノイラミニダーゼにより感染細胞表面から取り除かれる。これにより、子ビリオンが細胞から出たときにその拡散が容易になるだろう。ノイラミニダーゼは、呼吸器管における粘液層への侵入にも関与している。人の感染においては2種の相違するNAタンパク質が見つかっており、N1及びN2と称されている。動物のインフルエンザウイルスにおいては、他に13種が見つかっている。あらゆるNAタンパク質又はその部分は、本発明に使用されることが意図されており、このようなNAタンパク質の任意のもののあらゆる変異体又は変形体もまた同様である。好ましい実施形態では、NAタンパク質を発現している本発明の酵母運搬体は1以上のNAタンパク質(例えば、N1,N2など)を発現しているか、又は異なるNAタンパク質を発現している酵母運搬体(例えば、一方の運搬体はNA、もう一方の運搬体はNA又は他のNAタンパク質)とワクチンにおいて組み合わされている。
本発明のさらに別の態様において、本発明のワクチンに用いられているインフルエンザ抗原は、内部又は外部インフルエンザタンパク質であるイオンチャネルタンパク質(M2)である。本発明の一態様では、インフルエンザ抗原は、原則的に、インフルエンザM2タンパク質の細胞外部分(M2eとしても知られている)からなる。一態様において、M2eは、NPインフルエンザタンパク質のC末端又はこのタンパク質の一部分のC末端と融合している。このタンパク質(M2e)は細胞内(細胞質ゾル)発現用にも設計できる。別の実施形態では、M2eは、酵母の細胞外表面に発現するように細胞壁タンパク質(例えば、Aga2)に融合している。M2はマトリックスタンパク質であり、マトリックスタンパク質膜及び脂質二重層に及ぶ内在性膜タンパク質であり、ウイルス粒子の表面上に発現している(図1参照)。M2は、エンドソーム内でビリオンがコートされていない間、プロトンをウイルス粒子内に入れるイオンチャネルである。M2はまた、ウイルス感染細胞においてトランスゴルジネットワークのpHを調節している。M2は、単一の膜貫通(TM)ドメインを有する97残基のホモ多量体であり、このドメインの残基にチャネルの孔領域が含まれる。このチャネルの生物学的活性型はホモ四量体である。本発明によれば、M2タンパク質のウイルス外部に発現している部分(すなわち、M2の細胞外ドメインとしても知られている部分)は、本明細書においてM2eとしても称され得る。M2eはA型インフルエンザウイルスの間で高度に保存されていることが知られている。上述の通り、本発明の一実施形態においては、主として又は独占的にM2eを含んで構成されるM2タンパク質の一部分は、酵母運搬体が発現する。この実施形態では、M2タンパク質は外部インフルエンザタンパク質とみなされる。他の実施形態において、M2タンパク質のマトリックスタンパク質膜部分が発現する場合には、M2タンパク質は内部インフルエンザタンパク質とみなされ得る。あらゆるM2タンパク質又はその部分は、本発明に使用されることが意図されており、このようなM2タンパク質の任意のもののあらゆる変異体又は変形体もまた同様である。
本発明の別の態様において、本発明のワクチンに用いられているインフルエンザ抗原は、内部インフルエンザタンパク質であるヌクレオキャプシドタンパク質(NP)であり、ヌクレオタンパク質とも称されている。本発明の一態様では、インフルエンザ抗原は、原則的に、酵母の細胞質に発現し免疫原性であるインフルエンザNPタンパク質の一部分からなる。NPは、マトリックスタンパク質膜により形成されるシェルの内側に局在している(図1参照)。NPの主たる機能は、RNAの転写、複製及びパッケージングのためにウイルスゲノムをキャプシドに包んでリボヌクレオタンパク質(RNP)を形成することである。しかしNPはウイルスの生活環を通して他の必須な機能もまた果たしている。NPは、インフルエンザをA型、B型及びC型へ分類するために用いられるが、ウイルス型間でさえも、とりわけA型及びB型間で、高度に保存されている。あらゆるNPタンパク質又はその部分は、本発明に使用されることが意図されており、このようなNPタンパク質の任意のもののあらゆる変異体又は変形体もまた同様である。好ましい実施形態では、NPタンパク質を発現している本発明の酵母運搬体は1以上のNPタンパク質(例えば、A型インフルエンザ由来のNP、B型インフルエンザ由来のNPなど)を発現しているか、又は異なるNPタンパク質を発現している酵母運搬体(例えば、一方の運搬体はA型インフルエンザ由来のNPを発現しており、もう一方の運搬体はB型インフルエンザ由来のNPを発現しエチル)とワクチンにおいて組み合わされている。
実施例4は、本発明のさらに他の典型的なワクチン又はワクチンの成分を生産するための、外部インフルエンザタンパク質である血球凝集素(HA)の使用について説明するものである。この実施形態において、酵母(例えば、サッカロミセス・セレビジエ)は、融合タンパク質をTEF2プロモータ制御下で発現するように人工的に改変されている。この融合タンパク質は、インフルエンザウイルスA/Vietnam/1203/04株に由来するHA抗原(H5)を酵母が細胞内に発現するように設計されている。Agalpも発現している細胞においてこのタンパク質が発現すると、このタンパク質は酵母細胞の外部細胞壁に局在する。この融合タンパク質は、配列番号14のアミノ酸配列を含んで構成され、配列番号13に示される核酸配列によりコードされているものである。
実施例5は、本発明の酵母運搬体が発現するいくつかのHA含有融合タンパク質の設計について説明するものである。また、酵母スフェロプラスト上など、表面発現用の様々なコンストラクトを例証するものであり、さらに、表面発現でのグリコシル化の効果を例証するものである。
TK75−15と名づけられた一融合タンパク質は、本明細書において配列番号36として参照され、配列番号35によりコードされる融合タンパク質であり、Aga2配列のC末端にHA配列が配置されている融合タンパク質のコンストラクションを例証するものである。Agalpも発現(この場合、CUP1プロモータにより動かされる)している細胞においてこのタンパク質が発現すると、図10B(上部左)に示すように、このタンパク質は酵母細胞の外部細胞壁及び細胞質に局在する。
実施例5は、図10B(上部右)に模式的に示すVK4と名づけられた融合タンパク質についてもまた説明するものである。VK4は、Aga2配列を用いてインフルエンザHAタンパク質(H1)が細胞壁に局在するように設計されたものであり、TEF2プロモータにより動かされる。このコンストラクトでは、HA配列がAga2配列のN末端に配置するように構築されている。自身のAgalpも発現(この場合、自身のプロモータを使用)しているMat a酵母においてこのタンパク質が発現すると、このタンパク質は酵母細胞の外部細胞壁に局在し、また細胞内にも存在する。この融合タンパク質は、配列番号26のアミノ酸配列を含んで構成され、配列番号25に示される核酸配列によりコードされているものである。
実施例5は、VK11と名づけられた融合タンパク質についてもまた説明するものである。VK11は、上記VK4の類似体であり、Aga2配列を用いてHAタンパク質であるインフルエンザH5が細胞壁に局在するように設計されている点が異なり、TEF2プロモータにより動かされる。このコンストラクトでは、タンパク質は、Aga2配列のN末端にHA配列が配置されるようにも構築されている。この融合タンパク質は、配列番号22のアミノ酸配列を含んで構成され、配列番号21に示される核酸配列によりコードされているものである。
実施例5は、図10B(下部左)に模式的に示すVK8と名づけられた融合タンパク質についてもまた説明するものである。VK8は、Cwp2配列を用いてインフルエンザHAタンパク質(H1)が細胞壁に局在するように設計されたものであり、TEF2プロモータにより動かされる。このコンストラクトでは、HA配列がCwp2配列のN末端に配置するようにも構築されている。このタンパク質は、酵母細胞の外部細胞壁に局在し、細胞内部にも存在する。この融合タンパク質は、配列番号28のアミノ酸配列を含んで構成され、配列番号27に示される核酸配列によりコードされているものである。
実施例5は、VK12と名づけられた融合タンパク質についてもまた説明するものである。VK12は、上記VK8の類似体であり、Cwp2配列を用いてHAタンパク質であるインフルエンザH5が細胞壁に局在するように融合タンパク質が設計されている点で異なり、TEF2プロモータにより動かされる。このコンストラクトでは、タンパク質は、Cwp2配列のN末端にHA配列が配置されるようにも構築されている。この融合タンパク質は、配列番号24のアミノ酸配列を含んで構成され、配列番号23に示される核酸配列によりコードされているものである。
実施例5は、図10B(下部右)に模式的に示すLu002と名づけられた融合タンパク質についてもまた説明するものである。Lu002は、内在性α−因子シグナル及びリーダー配列を用いて、膜貫通ドメインを有するインフルエンザHAタンパク質を無傷の状態で酵母スフェロプラストの原形質膜上に発現するように設計されており、TEF2プロモータにより動かされる。このタンパク質は、ゴルジにおいてα−因子シグナル及びリーダー配列が自然に切り離され、酵母スフェロプラストの原形質膜に局在し、細胞内にも存在する。外来性タンパク質を酵母の分泌経路に向かわせるために内在性α−因子シグナル及びリーダー配列を用いることは、既に記載されている(例えば、米国特許第5,413,914号;又は、Franzusoff et al J. Biol. Chem. 270, 3154-3159 (1995)を参照)。
実施例6は、本発明のさらに他の典型的なターモゲン又はターモゲンの成分を生産するための、いくつかの内部インフルエンザタンパク質の使用について説明するものである。本実施形態では、酵母(例えば、サッカロミセス・セレビジエ)は、融合タンパク質をTEF2プロモータ制御下で発現するように人工的に改変されている。この融合タンパク質は、インフルエンザウイルスA/PR/8/34に由来するM1抗原及びNP抗原、並びにインフルエンザウイルスA/PR/8/34株及びインフルエンザA/Vietnam/1203/04株の両方に由来するM2e抗原を含むM2e抗原を酵母が細胞内に発現するように設計されている。本発明のこの酵母ベースワクチンは、インフルエンザ菌株間で保存されている抗原に対する交差防御免疫を誘導するのに有用である。この融合タンパク質は、配列番号16のアミノ酸配列を含んで構成され、配列番号15に示される核酸配列によりコードされているものである。
実施例7は、本発明のさらに他の典型的なターモゲン又はターモゲンの成分を生産するための、いくつかの内部インフルエンザタンパク質の使用について説明するものである。この実施形態では、酵母(例えば、サッカロミセス・セレビジエ)は、融合タンパク質をTEF2プロモータ制御下で発現するように人工的に改変されている。この融合タンパク質は、インフルエンザウイルスA/PR/8/34に由来するNP抗原及びインフルエンザウイルスA/PR/8/34に由来するM2e抗原が細胞内に発現されるように設計されている。本発明のこの酵母ベースワクチンは、インフルエンザ菌株間で保存されている抗原に対する交差防御免疫を誘導するのに有用である。この融合タンパク質は、配列番号18のアミノ酸配列を含んで構成され、配列番号17に示される核酸配列によりコードされているものである。
本発明の一実施形態においては、上述したインフルエンザウイルス抗原の任意のものが、本発明の酵母運搬体において、少なくとも1つの他のインフルエンザ抗原と共に発現する。好ましくは、内部インフルエンザ抗原(例えば、M1,M2又はNP)が外部インフルエンザ抗原(例えば、HA,NA,又はM2e)と共に両方とも発現する。インフルエンザ抗原は、同一の又は異なるコンストラクトを用いて発現し得る。外部インフルエンザ抗原は、酵母により細胞外に及び/又は細胞内にもたらされ得る。酵母運搬体に発現させる抗原の好ましい組み合わせは、M1及びHA;M1及びNA;M1,HA及びNA;NP及びHA;NP及びNA;NP,HA及びNA;M2及びHA;M2及びNA;M2及びM1;M2,HA及びNA;並びに、M1,M2及びNAであるが、これらに限定されない。M2を含むこれら組み合わせの任意のものにおいて、M2は、全長のM2若しくはM2eであることができ、又は酵母内で発現若しくは供給でき、免疫原性を有するM2の任意の部分であることができる。同様に、他のタンパク質は、本明細書に記載されている任意の形態、部分、及び変異形として発現され得る。これらの組み合わせにおいて、タンパク質の任意の1以上のサブタイプ、とりわけ、HA又はNAの任意の1以上のサブタイプが発現又は供給され得る。
本発明の別の実施形態においては、1以上のインフルエンザ抗原又はこれらの抗原の組み合わせを発現又は供給する上述の酵母運搬体の任意のものと、1以上の異なる抗原又は抗原の組み合わせを発現又は供給する酵母運搬体とが組み合わされ、酵母ワクチンを形成している。あるいは、1以上のインフルエンザ抗原を発現又は供給する上述の酵母運搬体の任意のものと、1以上の異なる抗原又は抗原の組み合わせを発現する酵母運搬体とを連続して投与できる。1以上の内部インフルエンザ抗原を発現又は供給する酵母運搬体は、1以上の外部インフルエンザ抗原を発現又は供給する酵母運搬体と組み合わされるか、これと連続して投与されることが好ましい。酵母運搬体の好ましい組み合わせは、HA、NA又はこれらの組み合わせ(これら抗原の1以上のサブタイプを含む)を発現又は供給している酵母運搬体とともに投与される、又はこの酵母運搬体と連続して投与される、M1を発現又は供給している酵母運搬体;HA,NA又はこれらの組み合わせ(これら抗原の1以上のサブタイプを含む)を発現又は供給している酵母運搬体とともに投与される、又はこの酵母運搬体と連続して投与される、NPを発現又は供給している酵母運搬体;及び,HA,NA又はこれらの組み合わせ(これら抗原の1以上のサブタイプを含む)を発現又は供給している酵母運搬体とともに投与される、又はこの酵母運搬体と連続して投与される、M2を発現又は供給している酵母運搬体、であるがこれらに限定されない。別の実施形態では、M1,NP及び/又はM2の任意の2以上のものを発現又は供給している酵母運搬体を、HA,NA又はこれらの組み合わせ(これら抗原の1以上のサブタイプを含む)を発現又は供給している酵母運搬体と共に、又はこの酵母運搬体と連続させて投与し得る。
〔単離した融合タンパク質、核酸分子及び細胞〕
本発明の別の実施形態は、単離したタンパク質である。このタンパク質は、本明細書に記載されているようなインフルエンザ抗原を含んで構成される単離融合タンパク質の任意のものを含むものである。本発明は、上記タンパク質の任意のものをコードする単離核酸分子、上記タンパク質をコードする核酸配列を含んで構成される組み換え核酸分子、並びに、上記核酸分子若しくは組み換え核酸分子を含む又はこれら核酸分子を用いてトランスフェクト/形質転換される細胞及びベクター(ウイルスベクターを含む)もまた包含している。
本発明に係る好ましい融合タンパク質は、本明細書に記載されている融合タンパク質の任意のものである。本発明に包含される典型的な融合タンパク質は、配列番号4、配列番号6、配列番号10、配列番号14、配列番号16、配列番号18、配列番号20、配列番号22、配列番号24、配列番号26、配列番号28及び配列番号36から選択されるアミノ酸配列を含んで構成される、又は原則的にこれらからなる、又はこれらからなるものである。様々なインフルエンザタンパク質の配列はこの技術分野において周知であるため、本明細書により提供される手引きを参照する当業者にとっては、他の融合タンパク質の配列も明白になるであろう。
本発明は、本明細書に記載されている融合タンパク質の任意のものをコードする核酸配列を含んで構成される、又は原則的にこの配列からなる、又はこの配列からなる任意の核酸分子もまた包含する。
本発明に係る組み換え核酸分子を用いてトランスフェクトされることに適した宿主細胞は、トランスフェクト又は形質転換が可能なあらゆる細胞であり、あらゆる動物細胞、昆虫細胞、細菌細胞、真菌細胞(酵母細胞を含む)である。一実施形態において、宿主細胞は、本発明の融合タンパク質をトランスフェクトされ、これを発現している動物細胞である。このような細胞は〔実施例〕の項において実証される。また、このような細胞は、例えば、本発明のワクチン又は組成物により誘導される抗原特異的T細胞反応を評価するのに有用である。インフルエンザ抗原に対する他のワクチン又は組成物もまた、このトランスフェクト細胞により評価され得る。
以下の実験結果は、例証の目的で提供されるものであり、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
〔実施例〕
(実施例1)
以下の実施例は、本発明のインフルエンザM1融合タンパク質酵母ワクチンである、GI−8001(いくつかの図面においては、GI−8000としても通常称されている)の設計について説明するものである。
銅誘導プロモータCUP1の制御下でインフルエンザM1融合タンパク質を発現するように、サッカロミセス・セレビジエを人工的に改変した。この融合タンパク質は、以下の配列要素がN末端側からC末端側にかけて、機能し得る形でフレームがつながっている単一のポリペプチド(融合タンパク質のアミノ酸配列は、本明細書において配列番号4に示されている)であり、その配列要素は、1)プロテアソームによる分解に対する耐性を付与するための配列MADEAP(配列番号1);2)M1タンパク質の2から252番目のアミノ酸(配列番号4の7番目から257番目の位置);3)M1タンパク質をヒスチジンタグから離すために導入されるトリグリシンスペーサ(配列番号4の258番目から260番目の位置);及び4)C末端ヘキサヒスチジンタグ(配列番号4の261番目から266番目の位置)である。配列番号2の融合タンパク質をコードする核酸配列は、配列番号1に示されている配列である。この典型的な酵母ベースワクチンにおいて、M1遺伝子は、インフルエンザA/PR/8/34/H1N1感染培養細胞からRT−PCRによりクローニングしたものであり、これがコードするアミノ酸配列は、この菌株/遺伝子型から得られる理論M1アミノ酸配列と完全に一致している。
インフルエンザM1融合タンパク質を発現している酵母(サッカロミセス・セレビジエW303)の増殖及び誘導は、ULDM培地中で行った。本明細書に記載しているように、この培地のpHを中性pHには調整しなかった(すなわち、通常の酵母増殖条件を用いた)。0.2YU/mlにおいて0.375mMの硫酸銅により、インフルエンザM1融合タンパク質の発現を誘導した。対数増殖中期(mid-exponential phase)において酵母を集菌し、熱により死滅させた。M1融合タンパク質の発現を、銅誘導、熱不活化GI−8001酵母由来の溶解物のウェスタンブロット解析により確認した(図2参照)。タンパク質の検出には、ヒスチジンタグに特異的なモノクローナル抗体を用いた。
ULDM培地の標準的な調製法は以下の通りである。
雌のBALB/cマウスに、1週間ごとで計3週間(3 weekly)、PBSのみ、又は、M1を発現している1YU若しくは10YUのG1−8001酵母ベースワクチン(図3A及び3Bにおいて、それぞれ、「1YU M1」及び「10YU M1」と表示している)を注射した。最後の投与から16日後にマウスを屠殺した。CTL反応及びリンパ球増殖を評価するために、ターゲットとしてM1発現酵母を用いて(IVS−M1)、又はターゲットとして弱毒化インフルエンザウイルスを用いて(IVS−flu)、インビトロ刺激アッセイを実施した。また、サイトカイン分析のために上清を回収した。これらのアッセイにおける標的細胞として、P815腫瘍細胞に、インフルエンザM1融合タンパク質又はインフルエンザをトランスフェクトした。CTLアッセイの結果を図3に示す。この結果から、GI−8001ワクチンによりマウスを免疫すると、抗原特異的(M1及びインフルエンザウイルス)CTL反応が誘導されることが示されている。
図4は、インフルエンザA/PR/8/34に感染しているP815細胞由来の溶解物のウェスタンブロットを示している。HAが上清物として確認される。これにより、P815細胞は、インフルエンザウイルスに感染し得、本明細書に記載のアッセイにおいて標的細胞として用い得ることが例証されている。
図5及び6は、リンパ球増殖アッセイの結果を示している。図5において、刺激抗原は、M1融合タンパク質を発現している酵母(MP yeast)の溶解物である。図6において、刺激抗原は、死菌インフルエンザ(A/PR8)である。この結果から、GI−8001(GI−8000、M1発現酵母)が酵母特異的増殖応答を誘導することが示されている。
(実施例2)
以下の実施例は、血球凝集素(HA)を細胞内に発現する本発明の2つの酵母ベースワクチンの設計について説明するものであり、H1 HA(本明細書の他の箇所では、GI−8002又はGI−8000−Iとも称されている)を用いており、また第2ものには、H5 HA(GI−8102とも称する)を用いている。
<細胞内発現用H1−HA>
転写伸長因子2プロモータTEF2の制御下でHA(H1又はHA1)融合タンパク質を細胞内に発現するように、サッカロミセス・セレビジエを人工的に改変した(図7下部参照)。インフルエンザHA抗原を含んで構成されるこの融合タンパク質は、以下の配列要素がN末端側からC末端側にかけて、機能し得る形でフレームがつながっている単一のポリペプチド(融合タンパク質のアミノ酸配列は、本明細書において配列番号6に示されている)であり、その配列要素は、1)元来有している18アミノ酸のER−ターゲティングシグナル配列(配列番号6の1番目から18番目の位置)を含む、サッカロミセス・セレビジエの全長Aga2タンパク質配列(配列番号6の1番目から87番目の位置);2)インフルエンザHAタンパク質の2番目から530番目までのアミノ酸(配列番号6の88番目から616番目の位置)であり、これは、HAのN末端ER−ターゲティングシグナル配列(配列番号6の88番目から105番目の位置)を含むが、HAのC末端の36残基は除かれており、したがってC末端膜アンカー及び細胞質テールは取り除かれている;3)HAタンパク質の本体をヒスチジンタグから離すためのトリグリシンスペーサ(配列番号6の617番目から619番目の位置);及び4)C末端ヘキサヒスチジンタグ(配列番号6の620番目から625番目の位置)である。配列番号6の融合タンパク質をコードしている核酸配列は、配列番号5により示されている。この融合タンパク質及びこれを発現しているターモゲンは、GI−8000 Aga2−HA又はGI−8002と呼ばれ得る。
この典型的な酵母ベースワクチンにおいて、HA遺伝子は、インフルエンザA/PR/8/34/H1N1感染培養細胞からクローニングされたものであり、これがコードするアミノ酸配列は、この菌株/遺伝子型から理論上得られるHAアミノ酸配列とは完全には一致していない。実際の配列と理論配列とのアライメントを表1に示す(実施例2参照)。
TEF::Aga2−HAプラスミドを保有する酵母を対数増殖中期までUDM中で増殖させた。この培地を用いた増殖条件では、中性pH条件には調整しなかった。細胞を洗浄し、熱により死滅させ、全タンパク質を細胞から抽出した。タンパク質を発現していた熱不活化酵母由来の溶解物のウェスタンブロット分析により、HA融合タンパク質の発現を確認した(図7)。hisタグmAb(図7右)又はHA特異的mAb(不図示)をプローブに用いた全タンパク質のウェスタンブロットから、酵母内にAga2−HAタンパク質が高レベルで蓄積していることが示されている。
UDM培地の標準的な調製法は以下の通りである。
5−10週齢の雌のBALB/cマウスに、PBS、0.5YUのGI−8000 Aga2−HA(GI−8002)又は5YUのGI−8000 Aga2−HA(GI−8002)を、それぞれ皮下投与(100μl)又は経鼻投与(50μl)により、1週間に1度で計3週間、投与した。3度目の投与から2週間後にマウスを屠殺した。分析のために血清を集めた。また、CTL反応(A/PR/8/34インフルエンザウイルスを一晩感染させた
51Cr標識した同系のP815腫瘍細胞を使用)及びリンパ球増殖を評価するために、脾細胞に対してインビトロ刺激アッセイを実施した。増殖アッセイのために、脾細胞をGI−8000 Aga2−HA(GI−8002)又はUV不活化A/PR8インフルエンザウイルスと共に5日間培養した。抗体分析のためにも血清を集めた。
図8はCTLアッセイの結果を示し、図9はリンパ球増殖アッセイの結果を示している。この結果から、GI−8000 Aga2−HAはインフルエンザウイルス特異的CTL反応を誘導することが示されている。皮下経路により投与した場合には、全体として経鼻投与よりも強いCTL反応が誘導される。しかしながら、低用量の経鼻投与でも高レベルのCTL反応を誘導する。増殖アッセイでは、両方の投与経路いずれにおいてもインフルエンザウイルス特異的リンパ球増殖が誘導されることが示された。しかし、皮下投与と比較すると、経鼻投与がもたらす増殖反応は低レベルであった。
上述のように細胞内抗原としてHAを発現しているターモゲンについても、アジュバントとして液性免疫を誘導する能力を評価した。具体的には、0日目及び21日目に、アジュバント(アジュバントは、この実施例中に説明されているGI−8000−Iターモゲン)若しくはミョウバンと共に又はこれらを用いずに、抗原(A/PR/8/34由来のHA)を2回投与した。抗原の2回目の投与から3週間後に、HA中和抗原力価を測定した。表2はこの実験の結果を示している。このデータから、GI−8000−Iは、B細胞応答に対してアジュバントとしての役目を果たす、優れた能力を有していることが示された。事実、GI−8000−Iは、ミョウバン添加の有無に関わらず、精製タンパク質と同等によく、又は精製タンパク質よりもよく、アジュバントとして機能する。そのようなものであるため、抗体応答の生成において同じ有効性を達成させることに、低用量の非酵母ベースワクチンを用い得る(すなわち、投与量倹約)。
上述のように細胞内抗原としてHAを発現しているターモゲンについても、インフルエンザに対して免疫反応を誘導する能力を評価した。10μgのHAを供給するために十分な量の不活化A/PR/8/34ビリオンにより、誘導を行った。5YUのGI−8000−Iを使用した。約1月後に追加免疫した。さらに1月後にHI(HA中和阻害)力価を測定した。HI力価を測定すると同時に病原菌接種を実施した。5日後にウイルス力価を測定した。表3は、インフルエンザに対して免疫誘導するためにGI−8000−Iを用いた場合の結果を示している。
この型のターモゲンを用いると、複数抗原に対するT細胞がインフルエンザ感染細胞において作り出される。複数抗原に対する免疫反応を引き出すことの利点は、これにより、交差防御免疫が可能になること、また、複数抗原のターモゲン発現が共通ワクチンとして機能できるようになることである。効率的な免疫反応を作り出すことにより、鳥インフルエンザ又は季節的インフルエンザに対する従来のワクチンと比較して、投与量倹約できる(すなわち、効果を得るために必要な用量が小さい)。
<細胞内発現用H5 HA>
細胞内にHA(H5)融合タンパク質を発現するようにサッカロミセス・セレビジエを人工的に改変した(本明細書においてはGI8102とも称する)。インフルエンザH5抗原を含んで構成されるこの融合タンパク質は、以下の配列要素がN末端側からC末端側にかけて、機能し得る形でフレームがつながっている単一のポリペプチド(融合タンパク質のアミノ酸配列は、本明細書において配列番号20に示されている)であり、その配列要素は、1)元来有している18アミノ酸のER−ターゲティングシグナル配列(配列番号20の1番目から18番目の位置)を含む、サッカロミセス・セレビジエの全長Aga2タンパク質配列(配列番号20の1番目から87番目の位置);2)H1 HAの1番目から16番目の残基に対応するN末端ER−ターゲティングシグナル配列(配列番号20の88番目から105番目の位置);3)鳥インフルエンザA/Vietnam/1203/2004菌株由来のH5 HA(配列番号20の106番目から620番目の位置)であり、これは、HAのC末端の36残基は除かれており、したがってC末端膜アンカー及び細胞質テールは取り除かれている;及び4)C末端のヘキサヒスチジンタグ(配列番号20の621番目から626番目の位置)である。配列番号20の融合タンパク質をコードしている核酸配列は、配列番号19により示されている。
(実施例3)
以下の実施例は、本発明の酵母運搬体(本明細書において通常GI−8000−Sとして参照され得る)における、本明細書においてHA1と称されている、別のHA融合タンパク質の設計について説明するものである。
この融合タンパク質は、酵母がHA融合タンパク質を細胞外及び細胞内に発現するように設計されている。インフルエンザHA抗原のN末端部分(HA1)を含んで構成されるこの融合タンパク質は、以下の配列要素がN末端側からC末端側にかけて、機能し得る形でフレームがつながっている単一のポリペプチド(融合タンパク質のアミノ酸配列は、本明細書において配列番号10に示されている)であり、その配列要素は、1)元来有している18アミノ酸のER−ターゲティングシグナル配列(配列番号10の1番目から18番目の位置)を含む、サッカロミセス・セレビジエAga2タンパク質全長配列(配列番号10の1番目から89番目の位置);2)インフルエンザHAタンパク質の17番目から342番目のアミノ酸(配列番号10の90番目から415番目の位置)であり、これは、HAのN末端ERターゲティングシグナル配列である16アミノ酸が除かれており、またC末端膜アンカー及び細胞質テールを含むHAのC末端36残基が除かれている;3)HA1タンパク質本体をヒスチジンタグから離すためのトリグリシンスペーサ(配列番号10の416番目から418番目の位置);及び4)C末端ヘキサヒスチジンタグ(配列番号10の419番目から424番目の位置)である。Agalpも発現している細胞にこのタンパク質を発現させると、このタンパク質は酵母細胞の外部細胞壁に局在する(この技術を用いての細胞外への発現を模式的に説明するための図10Aを参照)。このタンパク質は細胞内にも発現するだろう。配列番号10の融合タンパク質をコードしている核酸配列は、配列番号9により示されている。
この典型的な酵母ベースワクチンにおいて、HA遺伝子は、インフルエンザA/PR/8/34/H1N1卵ストックからクローニングされたものであり、この菌株/遺伝子型における理論HAアミノ酸配列とは完全には一致しないアミノ酸配列をコードしていた。実際の配列と理論配列とのアライメントを表4に示す。両配列間には10アミノ酸のミスマッチが存在する。
銅誘導、熱不活化酵母由来の溶解物のウェスタンブロット分析により、融合タンパク質の発現を確認した(図17参照)。UDM中での銅誘導の後、Aga1合成を誘導するための通常条件(中性pHではない)下で、構成的に発現しているAga2−HA1を50mMのDTTにより生細胞の細胞表面にてAga1から解放させた。DTT溶出物について、グリコシダーゼ酵素PNGaseF又はENDO−hを用いた処理を1時間行った。ウェスタンブロットによりAga−HA1量について反応の解析を行った(図17)。細胞内及び細胞表面両方でのHA1の発現が観察された。
(実施例4)
以下の実施例は、本発明の別のHA融合タンパク質酵母ワクチンの設計について説明するものである。
鳥インフルエンザA/Vietnam/1203/2004(H5−N1)菌株由来の血球凝集素(HA)タンパク質を、酵母細胞表面(細胞外)タンパク質として発現するように別の酵母運搬体を設計した。このタンパク質は、TK88(Aga2−H5 HA)とも称され、細胞内にも局在するだろう。図10Aの上部パネルを再び参照すれば、表面での発現の構成が図解されている。インフルエンザHA抗原(H5)を含んで構成されるこの融合タンパク質は、以下の配列要素がN末端側からC末端側にかけて、機能し得る形でフレームがつながっている単一のポリペプチド(融合タンパク質のアミノ酸配列は、本明細書において配列番号14に示されている)であり、その配列要素は、1)元来有している18アミノ酸のER−ターゲティングシグナル配列を含む、サッカロミセス・セレビジエAga2タンパク質全長配列(配列番号14の1番目から87番目のアミノ酸);2)インフルエンザH5 HAタンパク質の2番目から530番目のアミノ酸(配列番号14の88番目から616番目の位置)であり、これは、HAのN末端ERターゲティングシグナル配列が欠失しており、またHAのC末端36残基も除かれており、したがってC末端膜アンカー及び細胞質テールが取り除かれている;3)HAタンパク質本体をヒスチジンタグから離すためのトリグリシンスペーサ(配列番号14の617番目から619番目の位置);及び4)C末端ヘキサヒスチジンタグ(配列番号14の620番目から625番目までの位置)である。Agalpも発現している細胞にこのタンパク質を発現させると、このタンパク質は酵母細胞の外部細胞壁に局在し、また細胞質及びERにも局在する。配列番号14の融合タンパク質をコードしている核酸配列は、配列番号13により示されている。
このターモゲンは、本明細書に記載の中性pH条件及び通常の酵母増殖条件下の両方で発現してきている。中性pH条件を用いて発現させると、このタンパク質は細胞壁上(表面)に検出される。中性pH条件ではタンパク質の発現効率が上昇する。また中性pH条件では、細胞壁上でのpH効果のため表面上のタンパク質の存在を検出する能力が向上し、また表面に発現しているタンパク質を検出するためのHA特異的抗体の能力が向上する。
(実施例5)
以下の実施例は、抗原が酵母表面にターゲットされるように設計されている追加のコンストラクト(細胞外コンストラクト)の生成について説明するものである。
インフルエンザ由来の血球凝集素(HA)タンパク質を酵母細胞表面(細胞外)タンパク質として発現するように、追加のターモゲンを設計した。このタンパク質は酵母の細胞質内にも発現する。図10Aの上部パネルを再び参照すれば、表面での発現の構成が図解されている。
図10Bは、抗原を表面に発現しているいくつかの特定の構成を模式的に図解しており、様々な酵母タンパク質がどのようにスペーサアーム(spacer arm)として用いられ得るかを示している。コンストラクトはインフルエンザHAを発現させるために用いられているが、これらの方法及びコンストラクトを用いればあらゆるタンパク質を発現させ得る。
<Aga2−HA H1融合タンパク質(表面)>
図10B(上部左)に模式的に示されている、TK75−15と名づけられた融合タンパク質は、Aga2配列を用いて、インフルエンザHAタンパク質を細胞壁上に発現させるように設計されており、TEF2プロモータによって動かされる。このコンストラクトにおいて、タンパク質は、HA配列がAga2配列のC末端にくるように、構築されている。Agalpも発現している(この場合、CUP1プロモータにより動かされる)細胞にこのタンパク質を発現させると、図10B(上部左)に示すように、このタンパク質は酵母細胞の外部細胞壁に局在し、また細胞質ゾルにも局在する。インフルエンザHA抗原を含んで構成されるこの融合タンパク質は、以下の配列要素がN末端側からC末端側にかけて、機能し得る形でフレームがつながっている単一のポリペプチド(融合タンパク質のアミノ酸配列は、本明細書において配列番号36に示されている)であり、その配列要素は、1)元来有している18アミノ酸のER−ターゲティングシグナル配列(配列番号36の1番目から18番目の位置)を含む、サッカロミセス・セレビジエAga2タンパク質全長配列(配列番号36の1番目から87番目の位置);2)Aga2をHA本体から離すためのスペーサ(88番目及び89番目の位置);3)シグナル配列が欠失しているインフルエンザHAタンパク質(配列番号36の90番目から600番目の位置)であり、これはHAのC末端36残基を欠いており、したがってC末端膜アンカー及び細胞質テールが取り除かれている;4)HAタンパク質本体をヒスチジンタグから離すためのトリグリシンスペーサ(配列番号36の601番目から603番目の位置);及び5)C末端ヘキサヒスチジンタグ(配列番号36の604番目から609番目の位置)である。配列番号36の融合タンパク質をコードしている核酸配列は、配列番号35により示されている。このタンパク質及びこれを発現しているターモゲンは、75−15と呼ばれ得る。
<HA H1−Aga2融合タンパク質(表面)>
図10B(上部右)に模式的に示されている、VK4と名づけられた融合タンパク質は、Aga2配列を用いてインフルエンザHAタンパク質が細胞壁上に発現するように設計されており、TEF2プロモータによって動かされる。このコンストラクトにおいて、タンパク質は、HA配列がAga2配列のN末端にくるように構築されている。自身のAgalpも発現している(この場合、自身のプロモータによる)酵母でこのタンパク質を発現させると、このタンパク質は、酵母細胞の外部細胞壁に局在し、また細胞内にも存在する。インフルエンザHA抗原(H1)を含んで構成されるこの融合タンパク質は、以下の配列要素がN末端側からC末端側にかけて、機能し得る形でフレームがつながっている単一のポリペプチド(融合タンパク質のアミノ酸配列は、本明細書において配列番号26に示されている)であり、その配列要素は、1)Aga2 ER−ターゲティングシグナル配列(配列番号26の1番目から19番目のアミノ酸);2)シグナル配列及びC末端膜貫通ドメインを欠いている、A/PR/8/34由来のH1 HA(配列番号26の20番目から533番目の位置);3)HAタンパク質本体をヒスチジンタグから引き離すためのスペーサ(配列番号26の534番目から535番目の位置);4)ヘキサヒスチジンタグ(配列番号26の536番目から541番目の位置);5)エンテロキナーゼ切断部位(配列番号26の542番目から548番目の位置);及び6)シグナル配列を欠くAga2(配列番号26の549番目から614番目の位置)である。配列番号26の融合タンパク質をコードしている核酸配列は、配列番号25により示されている。
<HA H5−Aga2融合タンパク質(表面)>
VK11と名づけられた融合タンパク質は、Aga2配列を用いて細胞壁上にインフルエンザHA H5タンパク質が発現するように設計されており、上述のVK4と類似しているが、鳥インフルエンザ(A/Vietnam/1203/04)由来のH5 HAタンパク質を含んでいる点で異なる。このコンストラクトにおいて、タンパク質は、HA配列がAga2配列のN末端にくるように、構築されている。このタンパク質を酵母で発現させると、このタンパク質は、酵母細胞の外部細胞壁に局在し、また細胞内にも存在する。インフルエンザHA抗原(H5)を含んで構成されるこの融合タンパク質は、以下の配列要素がN末端側からC末端側にかけて、機能し得る形でフレームがつながっている単一のポリペプチド(融合タンパク質のアミノ酸配列は、本明細書において配列番号22に示されている)であり、その配列要素は、1)Aga2 ER−ターゲティングシグナル配列(配列番号22の1番目から19番目のアミノ酸);2)シグナル配列及びC末端膜貫通ドメインを欠いている、A/Vietnam/1203/04由来のH5 HA(配列番号22の20番目から536番目の位置);3)ヘキサヒスチジンタグ(配列番号22の537番目から542番目の位置);4)エンテロキナーゼ切断部位(配列番号22の543番目から548番目の位置);及び5)シグナル配列を欠いているAga2(配列番号22の549番目から616番目)である。配列番号22の融合タンパク質をコードしている核酸配列は、配列番号21により示されている。
<HA H1−Cwp2融合タンパク質(表面)>
図10B(下部左)に模式的に示されている、VK8と名づけられた融合タンパク質は、Cwp2配列を用いてインフルエンザHAタンパク質が細胞壁上に発現するように設計されており、TEF2プロモータによって動かされる。このタンパク質は酵母細胞の外部細胞壁に局在し、また細胞内にも存在する。インフルエンザHA抗原(H1)を含んで構成されるこの融合タンパク質は、以下の配列要素がN末端側からC末端側にかけて、機能し得る形でフレームがつながっている単一のポリペプチド(融合タンパク質のアミノ酸配列は、本明細書において配列番号28に示されている)であり、その配列要素は、1)Suc2転化酵素シグナル配列(配列番号28の1番目から21番目のアミノ酸);2)シグナル配列及びC末端膜貫通ドメインを欠いている、A/PR/8/34由来のH1 HA(配列番号28の22番目から535番目の位置);3)HAタンパク質本体をヒスチジンタグから引き離すためのスペーサ(配列番号28の536番目から537番目の位置);4)ヘキサヒスチジンタグ(配列番号28の538番目から543番目の位置);5)エンテロキナーゼ切断部位(配列番号28の544番目から549番目の位置);及び6)シグナル配列を欠いているCwp2(配列番号28の550番目から617番目)である。配列番号28の融合タンパク質をコードしている核酸配列は、配列番号27により示されている。
<HA H5−Cwp2融合タンパク質(表面)>
VK12と名づけられた融合タンパク質は、Cwp2配列を用いて細胞壁上にインフルエンザHA H5タンパク質が発現するように設計されており、上述のVK8と類似しているが、鳥インフルエンザ(A/Vietnam/1203/04)由来のH5 HAタンパク質を含んでいる点で異なる。このタンパク質は酵母細胞の外部細胞壁に局在しており、また細胞内にも存在する。インフルエンザHA抗原(H5)を含んで構成されるこの融合タンパク質は、以下の配列要素がN末端側からC末端側にかけて、機能し得る形でフレームがつながっている単一のポリペプチド(融合タンパク質のアミノ酸配列は、本明細書において配列番号24に示されている)であり、その配列要素は、1)Suc2転化酵素シグナル配列(配列番号24の1番目から21番目のアミノ酸);2)シグナル配列及びC末端膜貫通ドメインを欠いている、A/Vietnam/1203/04由来のH5 HA(配列番号24の22番目から536番目の位置);3)HAタンパク質本体をヒスチジンタグから引き離すスペーサ(配列番号24の537番目から538番目の位置);4)ヘキサヒスチジンタグ(配列番号24の539番目から544番目の位置);5)エンテロキナーゼ切断部位(配列番号24の545番目から550番目の位置);及び6)シグナル配列を欠いているCwp2(配列番号24の551番目から618番目の位置)である。配列番号24の融合タンパク質をコードしている核酸配列は、配列番号23により示されている。
<スフェロプラスト発現用HA−融合タンパク質(表面)>
図10B(下部右)に模式的に示すLu002と名づけられた融合タンパク質は、膜貫通ドメインを保持するインフルエンザHAタンパク質が無傷の状態で酵母スフェロプラスト原形質膜上に発現するように設計されており、TEF2プロモータによって動かされる。このタンパク質は酵母スフェロプラストの細胞質に局在しており、細胞内にも存在している。
図11は、細胞壁タンパク質2(cwp2)を介してインフルエンザHAタンパク質を酵母表面上に発現させる融合タンパク質(VK8として上述している)を発現する、別のターモゲンを表している。酵母表面のHA発現についてのフローサイトメトリー分析のヒストグラムを下部右側に示す。ヒストグラムでは、この特定のコンストラクトは、酵母運搬体単独(GI−1001又はYVEC)と比して、細胞表面にHAを非常によく発現させることが示されている。
図12Aから12Gは、酵母運搬体の表面上にインフルエンザHAタンパク質を発現させるために様々なアプローチ(上述し、図10Bに図解している)を利用した場合のヒストグラムを示している。これらの実験は全て通常の酵母増殖条件にて実施した(すなわち、中性pH条件は用いなかった)。図12Aから12Cは、VK4を発現しているターモゲン及びTK75−15を発現しているターモゲンによる発現を表すものであり、これらは上述したように2つの異なる配向で融合しているものであり、Aga2スペーサアーム又はリンカーを用いている。図12Aは、コントロールの(非形質転換)酵母(YEX)による発現を示している。図12Bは、VK4の発現を示している。また図12Cは、TK75−15の発現を示している。図12Dから12Gは、HAを表面に発現する他の可能な形態を示している。図12Dもまた酵母コントロール(YEX)である。図12E及び12Fは、VK8を発現しているターモゲンを示しており、VK8はHAの発現のためのスペーサアームとしてCwp2を用いている。これらの図では、タンパク質の発現における、酵母のグリコシル化を調節する効果も表している。脱グリコシル化VK8発現ターモゲン(図12F)では、グリコシル化VK8発現ターモゲン(図12E)と比較して、HAの表面発現が向上している。最後に、図12Gは、HAを原形質膜上に発現しているスフェロプラストである、Lu002発現ターモゲンによるHAの発現を示している。
これらの結果は、本発明の酵母運搬体の表面に(細胞外に)抗原をうまく発現させるために、様々なコンストラクトを用い得ることを表している。
(実施例6)
以下の実施例は、本発明の別のインフルエンザ融合タンパク質酵母ワクチンの設計について説明するものであり、酵母運搬体がインフルエンザタンパク質の組み合わせを細胞内に発現しているものである。
ターモゲンは、細胞内融合タンパク質として、マトリックスタンパク質(M1)ヌクレオキャプシドタンパク質(NP)及びイオンチャネルタンパク質細胞外配列(M2e)を、TEF2プロモータ制御下で発現するように設計されている(この融合タンパク質の発現が、同一のプラスミド上にあるHAコンストラクトの第2発現と共に図解されている図13参照)。M1及びNP(N1)配列は、A/PR/8/34インフルエンザ菌株由来のものである。4×M2eは、A/PR/8/34インフルエンザ菌株由来のM2e配列が2コピー及びA/Viet Nam/1203/2004インフルエンザ菌株由来のM2e配列が2コピーであること表している。M1−N1−4×M2eタンパク質を含んで構成されるこの融合タンパク質は、以下の配列要素がN末端側からC末端側にかけて、機能し得る形でフレームがつながっている単一のポリペプチド(融合タンパク質のアミノ酸配列は、本明細書において配列番号16に示されている)であり、その配列要素は、1)プロテアソームによる分解に対する耐性を付与する配列MADEAP(配列番号1)(配列番号16の1番目から6番目の位置);2)インフルエンザA/PR/8/34のM1タンパク質(配列番号16の7番目から260番目の位置);3)M1タンパク質をNPタンパク質から離すためのスペーサ(配列番号16の261番目から262番目の位置);4)インフルエンザA/PR/8/34のNPタンパク質(配列番号16の263番目から760番目の位置);5)NPタンパク質をM2eタンパク質から離すためのスペーサ(配列番号16の761番目から762番目の位置);6)インフルエンザA/PR/8/34のM2タンパク質由来の第1M2e(細胞外)タンパク質(配列番号16の763番目から787番目の位置);7)インフルエンザA/Viet Nam/1203/2004のM2タンパク質由来の第2M2e(細胞外)タンパク質(配列番号16の788番目から811番目の位置);8)第2M2eタンパク質を第3M2eタンパク質から離すためのスペーサ(配列番号16の812番目から813番目の位置);9)インフルエンザA/PR/8/34のM2タンパク質由来の第3M2e(細胞外)タンパク質(配列番号814番目から838番目の位置);10)インフルエンザA/Viet Nam/1203/2004のM2タンパク質由来の(細胞外)タンパク質からなる第4M2eタンパク質(配列番号16の839番目から862番目の位置);及び11)C末端ヘキサヒスチジンタグ(配列番号16の864番目から869番目の位置)である。配列番号16の融合タンパク質をコードしている核酸配列は、配列番号15により示されている。
図13A及び13Bを参照すれば、追加のコンストラクトと共にM1−NP−4×M2e融合タンパク質(配列番号16)を発現しているターモゲンの使用を模式的に表す図が示されている。具体的に、配列番号16で表される融合タンパク質は、CUP1プロモータ制御下でHAタンパク質をコードする第2コンストラクトも含む単一のプラスミドとしても作製されている。このプラスミドの発現により、M1−NP−4×M2e融合タンパク質及びHAタンパク質が細胞内に発現される結果となる。第2独立コンストラクトを使用しても、HAを発現させることができる。生産される追加のターモゲンは、図13Bに表されているコンストラクト(上述のVK8に対応)を使用している。このコンストラクトによりHAタンパク質が細胞外(表面)に発現する。この融合タンパク質は、上述のM1−N1−4×M2e融合タンパク質を含むターモゲンと同一のターモゲン内に、単独で又は内部に発現する上述のHAコンストラクトと組み合わせられて、発現し得る。VK8(表面HA)融合タンパク質を発現する別のターモゲンもまた、上述のM1−N1−4×M2e融合タンパク質を発現しているターモゲンと共に、単独で又は内部に発現するHAと組み合わせられて、ワクチンに供給され得る。内部に発現するタンパク質と外部に発現するタンパク質とを別個の融合タンパク質として供給する1つの利点は、B細胞応答と細胞性免疫反応のための樹状細胞などの抗原提示細胞による取り込みとの両方に利用可能な十分な抗原を確保できることである。
(実施例7)
以下の実施例は、本発明の別のインフルエンザ融合タンパク質酵母ワクチンの設計について説明するものであり、酵母運搬体がインフルエンザタンパク質の組み合わせを細胞内に発現しているものである。
NP−2×M2e融合タンパク質を発現するターモゲンが作り出され、またNP−4×M2e融合タンパク質を発現するターモゲンが作り出されている。
NP−4×M2e融合タンパク質は、M1部分を含んでいないという点以外は、実施例6に記載され配列番号16に示されているM1−N1−4×M2e融合タンパク質と同一の手法により構築されている。
NP−2×M2e融合タンパク質において、NP(N1)及び2コピーあるM2e配列は全て、A/PR/8/34インフルエンザ菌株由来のものである。N1−2×M2eタンパク質を含んで構成されるこの融合タンパク質は、以下の配列要素がN末端側からC末端側にかけて、機能し得る形でフレームがつながっている単一のポリペプチド(融合タンパク質のアミノ酸配列は、本明細書において配列番号18に示されている)であり、その配列要素は、1)プロテアソームによる分解に対する耐性を付与する配列MADEAP(配列番号1)(配列番号18の1番目から6番目の位置);2)インフルエンザA/PR/8/34のNPタンパク質(配列番号18の7番目から503番目の位置);3)NPタンパク質をM2eタンパク質から離すためのスペーサ(配列番号18の504番目から505番目の位置);4)インフルエンザA/PR/8/34のM2タンパク質由来の第1M2e(細胞外)タンパク質(配列番号18の506番目から530番目の位置);5)第1M2eタンパク質を第2M2eタンパク質から離すためのスペーサ(配列番号18の531番目の位置);6)インフルエンザA/PR/8/34のM2タンパク質由来の第2M2e(細胞外)タンパク質(配列番号18の532番目から555番目の位置);並びに7)トリグリシンスペーサ及びすぐその後に続くC末端ヘキサヒスチジンタグ(配列番号18の556番目から564番目の位置)である。配列番号18の融合タンパク質をコードしている核酸配列は、配列番号17により示されている。
ターモゲンを作り出すために酵母運搬内に発現しているこの融合タンパク質は、細胞内に発現しており、他のコンストラクトの発現と組み合わされることも可能である(例えば、上記実施例6に説明されているようなHA表面又はHA細胞内発現計画によって)。
(実施例8)
以下の実施例は、細胞外タンパク質としてインフルエンザHAを発現しているターモゲンによる免疫付与が体体液性免疫反応を誘導することを示すものである。
この実施例では、GI−8000−Sの単回投与量をマウスに皮下投与しているか、又は生インフルエンザウイルスの低用量を経静脈的にマウスに感染させている。GI−8000−Sは、Cwp2を含む融合タンパク質として酵母細胞表面にHAを発現するものである。免疫から1週間後、HI力価を測定した。別のマウスのグループに、5YUのGI−8000−Sを与えた。免疫から1週間後、HI力価を測定した。この実験の結果を表5に示す。このデータから、GI−8000−Sワクチンの単回投与により、可溶性精製タンパク質を加えることなく、又は非酵母ベースワクチンを加えることなく、HA中和抗体応答を引き出せることが示されている。
(実施例9)
着目される様々な抗原を発現するターモゲンは、抗体の産生を誘導するために用いられている。後述するように、本明細書に開示されている本発明は、抗体応答である、体液性免疫反応を誘導する方法を提供する。
一実験において、GI−2001(HIVAX−1)を用いて実施した。これは、内在性酵母細胞膜タンパク質としてHIV−1 gp160エンベロープタンパク質を生産する(Franzusoff et al J. Biol. Chem. 270, 3154-3159 (1995))ものである。生酵母細胞、無傷酵母細胞又はスフェロプラストとして投与されるYVEC及びHIVAX−1株の何れか2×107(2YU)を、1週間ごと計3週間、マウスに注射し、このマウスの血清について、無傷酵母又はスフェロプラストの全溶解物に対するウェスタンブロット分析を実施した。ウェスタンブロットから、マウスは酵母由来の様々なタンパク質に対する抗体を産生しており、得られる抗体のパターンはマウスが無傷酵母及びスフェロプラストのいずれに感染しているかに依存していることが示された。HIVAX−1スフェロプラストを用いて免疫し、無傷HIVAX−1酵母又はYVEC酵母若しくはスフェロプラストを用いては免疫していないマウスの血清は、gp160に特異的な抗体を含んでいるようであった。理論にとらわれなければ、この結果は、おそらく、無傷酵母の表面上でB細胞にさらされるのではなく、スフェロプラストの外部表面上でさらされるであろう内在性膜タンパク質として、HIVAX−1内にgp160が発現していることによるものである。
HIVAX−1から得られた結果とは異なり、ニワトリ卵白アルブミンを産生するターモゲンであるOVAXを用いてワクチン接種したマウスの血清は、抗OVA抗体の力価を示している。この結果は、ニワトリ卵白アルブミンの大部分はOVAX酵母株においてペリプラズム空間に分泌されているという事実、及びいくつかの可溶性タンパク質が細胞壁を通って無傷酵母から放出されているという事実によるものであるようである。それゆえ、組み換え酵母ベースワクチン内に含まれる異種抗原の局在は、抗体が産生されているかどうかに左右されるようである。
OVAX酵母における抗OVA抗体を誘導する能力をさらに調べるために、下記の表に示す抗原を用いて、一ヶ月に一度で二が月間、BALB/cマウスにワクチン接種した。二回目のワクチン接種から一ヶ月後、マウスに可溶性ニワトリ卵白アルブミンをワクチン接種した(アジュバントは非添加)。PBSを用いてモックをワクチン接種したマウスでは、56日目に可溶性OVAを単回接種した後、抗OVA抗体応答を開始しなかった。これに対し、2×107(2YU)のOVAXにより二度ワクチン接種したマウスでは、アジュバント非添加の可溶性OVAにより追加免疫をした後、高力価の抗OVA抗体応答を開始した。この実験結果から、OVAXにより免疫したマウスにおいて、その後の可溶性OVAによる追加免疫より前に、又はOVAX及びOVA−ミョウバンを共投与したマウスにおいて、可溶性OVAによる追加免疫より前、特にOVA−ミョウバン追加OVAXの単回投与の後に、高力価の高OVA抗体が観察されるという点において、ターモゲンは抗原倹約効果を実現させることが、示されている。図14A及び14Bもまた、同様の実験の結果を示している。
図14A及び14Bを参照すれば、用いた3つの投与計画について、T細胞誘導(図14B)及び抗体産生(図14A)の結果が示されている。図14Aにおいて、PBSのみを投与する計画A(コントロール)では、追加免疫にPBSを使用したときに卵白アルブミン特異的抗体の力価は検出されなかったことが示されている。誘導のために0日目及び28日目にPBSを投与し、56日目の追加免疫に可溶性卵白アルブミンタンパク質(ova)を用いる計画Bでは、65日目までに卵白アルブミン特異的抗体力価は検出されなかった。卵白アルブミンを発現している酵母運搬体(OVAX)を免疫誘導のために使用し、追加免疫に可溶性卵白アルブミンタンパク質を用いる計画Cでは、抗体力価が急速に生じることが観察された。図14Bは、上述の3つの計画のそれぞれにより免疫されたマウスから回収したT細胞のインビトロ再刺激を行う、可溶性卵白アルブミンタンパク質の様々な量を用いてのT細胞活性化アッセイの結果を示している。計画Cは、細胞性免疫反応の誘導に効果的である。
(実施例10)
以下の実施例は、Gag産生ターモゲンが抗原特異的ヘルパーT細胞を誘導することを示すものである。
以下の実施例の目的は、細胞質タンパク質としてHIV−1 Gagタンパク質を産生しているターモゲン、GI−2010における、抗体産生のために抗原特異的ヘルパーT細胞を誘導する能力を確かめることである。5匹のBALB/cマウスのグループに対して、生理食塩水、2YUのYVEC及び2YUのGI−2010のいずれかを(0、7及び21日目に皮下に)注射し、又は1×107pfuのMVAコントロール及び1×107のMVA−UGD(HIV−1 Gagをコードしている組み換え修飾ワクシニアアンカラ(Modified Vaccinia Ankara)ウイルス)のいずれかを(0日及び21日目に腹腔内に)注射した。生理食塩水又は酵母を用いて免疫したマウスに対して、その後、28日目に、5μgの組み換えp24 Gagタンパク質を含む生理食塩水を注射した。実験を通じて単離したマウスの血清サンプルについて、ELISAにより、抗p24 Gag抗体の力価を測定した。図15に示す結果は、可溶性Gagタンパク質により追加免疫しない限り、GI−2010を用いて免疫したマウスは検出可能なp24 Gag特異的抗体を発現しなかったことを示している。生理食塩水又はYVECを注射されたマウスは抗体を産生しなかったため、このデータから、GI−2010は、アジュバントを含まない可溶性Gagタンパク質により引き出されるB細胞応答を高めるために、ワクチン接種されたマウスにおいてヘルパーT細胞を誘導することが示されている。
この実施例から、抗体産生のためにターモゲンがヘルパーT細胞を誘導できること、及び酵母内における抗原の局在は産生される抗体量に重要な役割を果たすことが示される。例えば、酵母細胞表面タンパク質としてHBsAgを発現している酵母は抗HBsAg抗原を誘導するという研究例がある。例えば、M.P. Schreuder et al., Vaccine, 14(5):383-8 (1996)を参照のこと。
(実施例11)
以下の実施例は、非酵母ベース抗原調製物と混合すると、本発明の酵母ベースワクチンがアジュバント効果を有することを示すものである。
この実験では、細胞質タンパク質としてA/PR/8/34のHAを産生するターモゲン、GI−8002を用いた(実施例2を参照)。簡単にいうと、BALB/cマウス(1グループあたり5匹)を、1日目及び22日目に、5YU(5×107)のGI−8002酵母細胞単独、1μg又は10μgのBPL不活化インフルエンザウイルス(A/PR/8/34)単独、及び指定量のBPL不活化インフルエンザウイルスを追加された5YUのGI−8002のいずれかを用いて経皮下で免疫した。2回目の投与から4週間後に血清を回収し、中和抗体の存在を測定するためにHIアッセイを実施した。この実験の結果から、中和抗体を誘導するために酵母をBPL不活化ウイルスと単純に混合した場合、酵母がアジュバント効果を有することが示されている。
本明細書に挙げられている、全ての特許、特許出願及び公報の開示内容は、全ての目的に関して、本出願にそのまま参考として援用される。
〔参考文献〕
1. Kiyosawa et al., Hepatology 12 (1990):671-675.
2. Tong et al., NEJM 332 (1995):1463-1466.
3. Yano et al., Hepatology 23 (1996):1334-1340.
4. Gordon et al., Hepatology 28 (1998) 2:562-567.
5. Di Bisceglie et al., Hepatology 14 (1991):969-974.
6. Koretz et al., Ann Intern Med 119 (1993):110-115.
7. Mattson et al., Liver 13 (1993):274-276.
8. Tr emolada et al., J Hepatol 16 (1992):273-281.
9. Fattovich et al., Gastroenterology 112 (1997):463-472.
10.Serfaty et al., Hepatology 27 (1998):1435-1440.
11.Armstrong et al., Hepatology 31 (2000):777-82.
12.Shiratori et al., Annals of Internal Medicine, 142 (2005):105-114.
13.Yoshida et al., IHIT Study Group (Inhibition of Hepatocarcinogenesis by Interferon Therapy). Ann. Intern. Med 131 (1999):174-81.
14.Okanoue et al., Viral hepatitis therapy study group. J Hepatol 30 (1999): 653-9.
15.Shoukry et al., Annual Rev. Microbiol 58 (2004):391-424.
16.Stubbs et al., Nat Med 7 (2001):625-629.
17.Lu et al., Cancer Research 64 (2004):5084-5088.
18.Haller et al., Abstract, “A novel yeast-based immunotherapeutic product for chronic hepatitis C virus infection”. AASLD Meeting, March 4-5, 2005, CityCityplaceChicago, StateIL
19.Mondelli et al., Journal of Hepatology 31 (1999):65-70.
20.Day et al., Journal of Virology (2002):12584-12595.
21.Lauer and Walker, New England Journal of Medicine 345 (2001) 1:41-52.
22.Grakoui et al., Science Mag. Report 342 (2003).
23.Yewdell et al., Adv. Immunol 73 (1999):1-77.
24.Shoukry et al., The Journal of Experimental Medicine 197 (2003):1645-1655.
25.Matzinger, Science 296 (2002):301-305.
26.Fa lo et al., Nat Med 1 (1995):649-53.
27.Kikuchi et al., Int. Immunopharmacol, 2 (2002):1503-1508.
28.Tada et al., Microbio.l Immunol. 46 (2002):503-512.
29.Pichuantes et al., “Expression of heterologous gene products in yeast. In Protein Engineering - Principles and Practice. J. L. Cleland and C. S. Craik, editors.” CityplaceWiley-Liss, StateNew York (1996):129-162.
30.Underhill, Eur. J. Immunol. 33 (2003):1767-1775.
31.Ozinsky et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U S A. 97 (2000):13766-13771.
32.Akira et al., Nat. Immunol. 2 (2001):675-680.
33.Medzhitov et al., Science 296 (2002):298-300.
34.Gantner et al., J. Exp. Med. 197 (2003):1107-1117.
35.Huang et al., Science. 294 (2001):870-875.
36.Savolainen et al., Allergy 53 (1998):506-512.
37.Mari et al., Clin. Exp.Allergy. 33 (2003):1429-1438.
38.Kortekangas-Savolainen et al., Clin Exp Allergy 24 (1994):836-842.
39.Belchi-Hernandez et al., Allergy Clin. Immunol. 97 (1996):131-134.
40.Dentico et al., Eur J Epidemiol. 8 (1992):650-655.
41.Joossens et al., Gastroenterology 122 (2002):1242-7.
42.Sandborn et al., Inflammatory Bowel Dis. 7 (2001):192-201.
43.Ponton et al., Med. Mycology 38 (2000):225-236.
44.Wheeler et al., Proc Natl Acad Sci U S A. 100 (2003):2766-2770.
45.Haller et al., Vaccine 25 (2007): 1452-1463
米国仮出願60/765,025号、2006年2月2日出願。
本発明の様々な実施形態について詳細に述べてきたが、これらの実施形態の修飾及び改編を当業者であれば思いつくであろうことは明らかである。しかしながら、そのような修飾及び改編は以下の特許請求の範囲に記載の本発明の範囲内であることは、明白に理解されるべきである。