以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について詳細に説明する。
まず、本発明に係る熱処理装置の全体構成について概説する。図1は、本発明に係る熱処理装置1の構成を示す縦断面図である。熱処理装置1は、基板として略円形の半導体ウェハーWに対してフラッシュ光を照射してその半導体ウェハーWを加熱するフラッシュランプアニール装置である。
熱処理装置1は、半導体ウェハーWを収容する略円筒形状のチャンバー6と、複数のフラッシュランプFLを内蔵するランプハウス5と、を備える。また、熱処理装置1は、チャンバー6およびランプハウス5に設けられた各動作機構を制御して半導体ウェハーWの熱処理を実行させる制御部3を備える。
チャンバー6は、ランプハウス5の下方に設けられており、略円筒状の内壁を有するチャンバー側部63、および、チャンバー側部63の下部を覆うチャンバー底部62によって構成される。また、チャンバー側部63およびチャンバー底部62によって囲まれる空間が熱処理空間65として規定される。熱処理空間65の上方は上部開口60とされており、上部開口60にはチャンバー窓61が装着されて閉塞されている。
チャンバー6の天井部を構成するチャンバー窓61は、石英により形成された円板形状部材であり、ランプハウス5から出射されたフラッシュ光を熱処理空間65に透過する石英窓として機能する。チャンバー6の本体を構成するチャンバー底部62およびチャンバー側部63は、例えば、ステンレススチール等の強度と耐熱性に優れた金属材料にて形成されており、チャンバー側部63の内側面の上部のリング631は、フラッシュ光照射による劣化に対してステンレススチールより優れた耐久性を有するアルミニウム(Al)合金等で形成されている。
また、熱処理空間65の気密性を維持するために、チャンバー窓61とチャンバー側部63とはOリングによってシールされている。すなわち、チャンバー窓61の下面周縁部とチャンバー側部63との間にOリングを挟み込むとともに、クランプリング90をチャンバー窓61の上面周縁部に当接させ、そのクランプリング90をチャンバー側部63にネジ止めすることによって、チャンバー窓61をOリングに押し付けている。
チャンバー底部62には、保持部7を貫通して半導体ウェハーWをその下面(ランプハウス5からのフラッシュ光が照射される側とは反対側の面)から支持するための複数(本実施の形態では3本)の支持ピン70が立設されている。支持ピン70は、例えば石英により形成されており、チャンバー6の外部から取り付けられている。また、本実施形態の支持ピン70は、チャンバー6内における半導体ウェハーWの有無を検出するための投受光プローブとしての機能をも兼ね備えているが、これについては後に詳述する。
チャンバー側部63は、半導体ウェハーWの搬入および搬出を行うための搬送開口部66を有し、搬送開口部66は、軸662を中心に回動するゲートバルブ185により開閉可能とされる。チャンバー側部63における搬送開口部66とは反対側の部位には熱処理空間65に処理ガス(例えば、窒素(N2)ガスやヘリウム(He)ガス、アルゴン(Ar)ガス等の不活性ガス、あるいは、酸素(O2)ガス等)を導入する導入路81が形成され、その一端は弁82を介して図示省略の給気機構に接続され、他端はチャンバー側部63の内部に形成されるガス導入バッファ83に接続される。また、搬送開口部66には熱処理空間65内の気体を排出する排出路86が形成され、弁87を介して図示省略の排気機構に接続される。
図2は、チャンバー6をガス導入バッファ83の位置にて水平面で切断した断面図である。図2に示すように、ガス導入バッファ83は、図1に示す搬送開口部66の反対側においてチャンバー側部63の内周の約1/3に亘って形成されており、導入路81を介してガス導入バッファ83に導かれた処理ガスは、複数のガス供給孔84から熱処理空間65内へと供給される。
また、熱処理装置1は、チャンバー6の内部において半導体ウェハーWを水平姿勢にて保持しつつフラッシュ光照射前にその保持する半導体ウェハーWの予備加熱を行う略円板状の保持部7と、保持部7をチャンバー6の底面であるチャンバー底部62に対して昇降させる保持部昇降機構4と、を備える。図1に示す保持部昇降機構4は、略円筒状のシャフト41、移動板42、ガイド部材43(本実施の形態ではシャフト41の周りに3本配置される)、固定板44、ボールネジ45、ナット46およびモータ40を有する。チャンバー6の下部であるチャンバー底部62には保持部7よりも小さい直径を有する略円形の下部開口64が形成されており、ステンレススチール製のシャフト41は、下部開口64を挿通して、保持部7(厳密には保持部7のホットプレート71)の下面に接続されて保持部7を支持する。
移動板42にはボールネジ45と螺合するナット46が固定されている。また、移動板42は、チャンバー底部62に固定されて下方へと伸びるガイド部材43により摺動自在に案内されて上下方向に移動可能とされる。また、移動板42は、シャフト41を介して保持部7に連結される。
モータ40は、ガイド部材43の下端部に取り付けられる固定板44に設置され、タイミングベルト401を介してボールネジ45に接続される。保持部昇降機構4により保持部7が昇降する際には、駆動部であるモータ40が制御部3の制御によりボールネジ45を回転し、ナット46が固定された移動板42がガイド部材43に沿って鉛直方向に移動する。この結果、移動板42に固定されたシャフト41が鉛直方向に沿って移動し、シャフト41に接続された保持部7が図1に示す半導体ウェハーWの受渡位置と図5に示す半導体ウェハーWの処理位置との間で滑らかに昇降する。
移動板42の上面には略半円筒状(円筒を長手方向に沿って半分に切断した形状)のメカストッパ451がボールネジ45に沿うように立設されており、仮に何らかの異常により移動板42が所定の上昇限界を超えて上昇しようとしても、メカストッパ451の上端がボールネジ45の端部に設けられた端板452に突き当たることによって移動板42の異常上昇が防止される。これにより、保持部7がチャンバー窓61の下方の所定位置以上に上昇することはなく、保持部7とチャンバー窓61との衝突が防止される。
また、保持部昇降機構4は、チャンバー6の内部のメンテナンスを行う際に保持部7を手動にて昇降させる手動昇降部49を有する。手動昇降部49はハンドル491および回転軸492を有し、ハンドル491を介して回転軸492を回転することより、タイミングベルト495を介して回転軸492に接続されるボールネジ45を回転して保持部7の昇降を行うことができる。
チャンバー底部62の下側には、シャフト41の周囲を囲み下方へと伸びる伸縮自在のベローズ47が設けられ、その上端はチャンバー底部62の下面に接続される。一方、ベローズ47の下端はベローズ下端板471に取り付けられている。べローズ下端板471は、鍔状部材411によってシャフト41にネジ止めされて取り付けられている。保持部昇降機構4により保持部7がチャンバー底部62に対して上昇する際にはベローズ47が収縮され、下降する際にはべローズ47が伸張される。そして、保持部7が昇降する際にも、ベローズ47が伸縮することによって熱処理空間65内の気密状態が維持される。
図3は、保持部7の構成を示す断面図である。保持部7は、半導体ウェハーWを予備加熱(いわゆるアシスト加熱)するホットプレート(加熱プレート)71、および、ホットプレート71の上面に設置されるサセプタ72を有する。保持部7の下面には、既述のように保持部7を昇降するシャフト41が接続される。サセプタ72は石英(あるいは、窒化アルミニウム(AIN)等であってもよい)により形成され、その上面には半導体ウェハーWの位置ずれを防止するピン75が設けられる。サセプタ72は、その下面をホットプレート71の上面に面接触させてホットプレート71上に設置される。これにより、サセプタ72は、ホットプレート71からの熱エネルギーを拡散してサセプタ72上面に載置された半導体ウェハーWに伝達するとともに、メンテナンス時にはホットプレート71から取り外して洗浄可能とされる。
ホットプレート71は、ステンレススチール製の上部プレート73および下部プレート74にて構成される。上部プレート73と下部プレート74との間には、ホットプレート71を加熱するニクロム線等の抵抗加熱線76が配設され、導電性のニッケル(Ni)ロウが充填されて封止されている。また、上部プレート73および下部プレート74の端部はロウ付けにより接着されている。
図4は、ホットプレート71を示す平面図である。図4に示すように、ホットプレート71は、保持される半導体ウェハーWと対向する領域の中央部に同心円状に配置される円板状のゾーン711および円環状のゾーン712、並びに、ゾーン712の周囲の略円環状の領域を周方向に4等分割した4つのゾーン713〜716を備え、各ゾーン間には若干の間隙が形成されている。また、ホットプレート71には、支持ピン70が挿通される3つの貫通孔77が、ゾーン711とゾーン712との隙間の周上に120°毎に設けられる。
6つのゾーン711〜716のそれぞれには、相互に独立した抵抗加熱線76が周回するように配設されてヒータが個別に形成されており、各ゾーンに内蔵されたヒータにより各ゾーンが個別に加熱される。保持部7に保持された半導体ウェハーWは、6つのゾーン711〜716に内蔵されたヒータにより加熱される。また、ゾーン711〜716のそれぞれには、熱電対を用いて各ゾーンの温度を計測するセンサ710が設けられている。各センサ710は略円筒状のシャフト41の内部を通り制御部3に接続される。
ホットプレート71が加熱される際には、センサ710により計測される6つのゾーン711〜716のそれぞれの温度が予め設定された所定の温度になるように、各ゾーンに配設された抵抗加熱線76への電力供給量が制御部3により制御される。制御部3による各ゾーンの温度制御はPID(Proportional,Integral,Derivative)制御により行われる。ホットプレート71では、半導体ウェハーWの熱処理(複数の半導体ウェハーWを連続的に処理する場合は、全ての半導体ウェハーWの熱処理)が終了するまでゾーン711〜716のそれぞれの温度が継続的に計測され、各ゾーンに配設された抵抗加熱線76への電力供給量が個別に制御されて、すなわち、各ゾーンに内蔵されたヒータの温度が個別に制御されて各ゾーンの温度が設定温度に維持される。なお、各ゾーンの設定温度は、基準となる温度から個別に設定されたオフセット値だけ変更することが可能とされる。
6つのゾーン711〜716にそれぞれ配設される抵抗加熱線76は、シャフト41の内部を通る電力線を介して電力供給源(図示省略)に接続されている。電力供給源から各ゾーンに至る経路途中において、電力供給源からの電力線は、マグネシア(マグネシウム酸化物)等の絶縁体を充填したステンレスチューブの内部に互いに電気的に絶縁状態となるように配置される。なお、シャフト41の内部は大気開放されている。
図6は、ウェハー検出機構の構成の一例を示すブロック図である。本実施形態の支持ピン70は、透光性材料である石英にて形成された棒状の部材である。すなわち、支持ピン70は、半導体ウェハーWを載置するためのみならず、導光ロッドとしても機能する。支持ピン70は、チャンバー6のチャンバー底部62に立設されている。半導体ウェハーWは、チャンバー6内にて支持ピン70の先端70aに載置されて支持される。
一方、支持ピン70の基端70bは、チャンバー6の外部に位置しており、光ケーブル16を介して受光部12と接続されている。基端70bは研磨面とされている。光ケーブル16は、複数本(例えば32本)の石英ガラスの光ファイバーを束ねて被覆を施したものである。光ケーブル16の一端は支持ピン70の基端70bと対向しており、他端は受光部12に接続される。受光部12は、例えばフォトダイオードにて構成されている。なお、光ケーブル16を構成する光ファイバーの本数は32本に限定されるものではなく任意の数とすることができる。
支持ピン70に支持されている半導体ウェハーWから放射された放射光は、支持ピン70の先端70aから入射して支持ピン70の内部を基端70bに向けて導かれる。その光は支持ピン70の基端70bから出射されて光ケーブル16を介して受光部12によって受光される。なお、本明細書において、半導体ウェハーWから放射される放射光は、可視光のみならず、赤外光(波長が可視光より長くマイクロ波より短い電磁波)および紫外光(波長が可視光よりも短くX線より長い電磁波)も含むものとする。
受光部12は、受光した光を電気信号に変換してアンプ13に出力する。アンプ13は電気信号を適当に増幅して積分回路14に出力する。積分回路14は、電気信号から高周波ノイズを除去してコンパレータ15に送信する。コンパレータ15は、送信された電気信号の電圧値と予め定められた設定電圧値(閾値)との比較を行う。コンパレータ15による比較結果は制御部3に伝達されるようにしても良い。
図7は、光ケーブル16の取り付けを示す図である。チャンバー底部62の外面(熱処理空間65とは反対側の面)にはネジ172によって取り付けブロック171が固設されている。支持ピン70は、取り付けブロック171およびチャンバー底部62を貫通して設けられる。チャンバー底部62の貫通孔は支持ピン70よりも若干大きく、支持ピン70は当該貫通孔に遊貫して設けられる。その一方、支持ピン70は取り付けブロック171に対してはOリング173を介して取り付けられている。すなわち、支持ピン70と取り付けブロック171との間には上下2カ所にOリング173が挟み込まれており、これらOリング173によって熱処理空間65と外部雰囲気とがシールされるとともに支持ピン70の自由な移動が規制される。なお、チャンバー底部62と取り付けブロック171との間にもOリングが挟み込まれてシールされている。
取り付けブロック171の下部には支持ピン70の貫通孔を取り囲むように雄ネジ174が固設されている。一方、光ケーブル16の先端(上記一端)の周囲にも雌ネジ161が固定して設けられている。雌ネジ161を雄ネジ174に螺合させることによって、光ケーブル16の先端が支持ピン70の基端70bに当接されて押圧される。すなわち、Oリング173を介して取り付けブロック171に取り付けられた支持ピン70の基端70bに光ケーブル16の先端が押し付けられる。
光ケーブル16の取り付け手順についてさらに説明を続ける。雌ネジ161を取り付けブロック171に取り付ける前に、図7(a)に示すように、支持ピン70の基端70bを取り付けブロック171の下端から突出させておく。その後、図7(b)に示すように、光ケーブル16の先端を支持ピン70の基端70bに押し付けつつ、雌ネジ161を雄ネジ174に螺合させることにより、支持ピン70が光ケーブル16によって取り付けブロック171に押し込まれる。そして、図8に示すように、雌ネジ161を雄ネジ174に完全に螺合させると、光ケーブル16の先端がOリング173によって挟み込まれた支持ピン70の基端70bに対して押圧された状態となる。
次に、図1に戻り、ランプハウス5は、筐体51の内側に、複数本(本実施形態では30本)のキセノンフラッシュランプFLからなる光源と、その光源の上方を覆うように設けられたリフレクタ52と、を備えて構成される。また、ランプハウス5の筐体51の底部にはランプ光放射窓53が装着されている。ランプハウス5の床部を構成するランプ光放射窓53は、石英により形成された板状部材である。ランプハウス5がチャンバー6の上方に設置されることにより、ランプ光放射窓53がチャンバー窓61と相対向することとなる。ランプハウス5は、チャンバー6内にて保持部7に保持される半導体ウェハーWにランプ光放射窓53およびチャンバー窓61を介してフラッシュランプFLから光を照射することにより半導体ウェハーWを加熱する。
複数のフラッシュランプFLは、それぞれが長尺の円筒形状を有する棒状ランプであり、それぞれの長手方向が保持部7に保持される半導体ウェハーWの主面に沿って(つまり水平方向に沿って)互いに平行となるように平面状に配列されている。よって、フラッシュランプFLの配列によって形成される平面も水平面である。
キセノンフラッシュランプFLは、その内部にキセノンガスが封入されその両端部にコンデンサーに接続された陽極および陰極が配設された棒状のガラス管(放電管)と、該ガラス管の外周面上に付設されたトリガー電極とを備える。キセノンガスは電気的には絶縁体であることから、コンデンサーに電荷が蓄積されていたとしても通常の状態ではガラス管内に電気は流れない。しかしながら、トリガー電極に高電圧を印加して絶縁を破壊した場合には、コンデンサーに蓄えられた電気がガラス管内に瞬時に流れ、そのときのキセノンの原子あるいは分子の励起によって光が放出される。このようなキセノンフラッシュランプFLにおいては、予めコンデンサーに蓄えられていた静電エネルギーが0.1ミリセカンドないし10ミリセカンドという極めて短い光パルスに変換されることから、連続点灯の光源に比べて極めて強い光を照射し得るという特徴を有する。
また、リフレクタ52は、複数のフラッシュランプFLの上方にそれら全体を覆うように設けられている。リフレクタ52の基本的な機能は、複数のフラッシュランプFLから出射されたフラッシュ光を保持部7の側に反射するというものである。リフレクタ52はアルミニウム合金板にて形成されており、その表面(フラッシュランプFLに臨む側の面)はブラスト処理により粗面化加工が施されて梨地模様を呈する。このような粗面化加工を施しているのは、リフレクタ52の表面が完全な鏡面であると、複数のフラッシュランプFLからの反射光の強度に規則パターンが生じて半導体ウェハーWの表面温度分布の均一性が低下するためである。
また、制御部3は、熱処理装置1に設けられた上記の種々の動作機構を制御する。制御部3のハードウェアとしての構成は一般的なコンピュータと同様である。すなわち、制御部3は、各種演算処理を行うCPU、基本プログラムを記憶する読み出し専用のメモリであるROM、各種情報を記憶する読み書き自在のメモリであるRAMおよび制御用ソフトウェアやデータなどを記憶しておく磁気ディスクを備えている。図6に示したウェハー検出機構の動作も制御部3によって制御されている。
上記の構成以外にも熱処理装置1は、半導体ウェハーWの熱処理時にフラッシュランプFLおよびホットプレート71から発生する熱エネルギーによるチャンバー6およびランプハウス5の過剰な温度上昇を防止するため、様々な冷却用の構造を備えている。例えば、チャンバー6のチャンバー側部63およびチャンバー底部62には水冷管(図示省略)が設けられている。また、ランプハウス5は、内部に気体流を形成して排熱するための気体供給管55および排気管56が設けられて空冷構造とされている(図1参照)。また、チャンバー窓61とランプ光放射窓53との間隙にも空気が供給され、ランプハウス5およびチャンバー窓61を冷却する。
次に、熱処理装置1における半導体ウェハーWの処理手順について簡単に説明する。ここで処理対象となる半導体ウェハーWはイオン注入法により不純物(イオン)が添加された半導体基板であり、添加された不純物の活性化が熱処理装置1によるフラッシュ加熱処理により実行される。図9は、熱処理装置1における半導体ウェハーWの処理手順を示すフローチャートである。図9に示す半導体ウェハーWの処理手順は、制御部3が熱処理装置1の各動作機構を制御することによって実行される。
まず、保持部7が図5に示す処理位置から図1に示す受渡位置に下降する(ステップS1)。「処理位置」とは、フラッシュランプFLから半導体ウェハーWに光照射が行われるときの保持部7の位置であり、図5に示す保持部7のチャンバー6内における位置である。また、「受渡位置」とは、チャンバー6に半導体ウェハーWの搬出入が行われるときの保持部7の位置であり、図1に示す保持部7のチャンバー6内における位置である。熱処理装置1における保持部7の基準位置は処理位置であり、処理前にあっては保持部7は処理位置に位置しており、これが処理開始に際して受渡位置に下降するのである。
保持部7はチャンバー6に設置された支持ピン70に対して昇降するものであり、図1に示すように、保持部7が受渡位置にまで下降するとチャンバー底部62に近接し、支持ピン70の先端70aが保持部7を貫通して保持部7の載置面(サセプタ72の上面)から上方に突出する。逆に、図5に示すように、保持部7が処理位置まで上昇するとチャンバー窓61に近接し、保持部7の載置面が支持ピン70の先端70aよりも上方に位置する。
次に、保持部7が受渡位置に下降した後、弁82が開かれてチャンバー6の熱処理空間65内に常温の窒素ガスが導入される。それと同時に、弁87が開かれて熱処理空間65内の気体が排気される(ステップS2)。チャンバー6に供給された窒素ガスは、熱処理空間65においてガス導入バッファ83から図2中に示す矢印AR4の方向へと流れ、排出路86および弁87を介してユーティリティ排気により排気される。また、チャンバー6に供給された窒素ガスの一部は、べローズ47の内側に設けられる排出口(図示省略)からも排出される。
続いて、ゲートバルブ185が開いて搬送開口部66が開放され、装置外部の搬送ロボットにより搬送開口部66を介して半導体ウェハーWがチャンバー6内に搬入され、複数の支持ピン70上に載置される(ステップS3)。半導体ウェハーWは各支持ピン70の先端70aに載置されて支持される。なお、半導体ウェハーWの搬入時におけるチャンバー6への窒素ガスのパージ量は約40リットル/分とされている。また、以下で説明する各ステップにおいて、チャンバー6には常に窒素ガスが供給および排気され続けており、窒素ガスの供給量は半導体ウェハーWの処理工程に合わせて様々に変更される。
半導体ウェハーWがチャンバー6内に搬入され、搬送ロボットがチャンバー6から退出した後、ゲートバルブ185により搬送開口部66が閉鎖される。そして、保持部昇降機構4により保持部7が受渡位置からチャンバー窓61に近接した処理位置にまで上昇する(ステップS4)。保持部7は、受渡位置から上昇する過程において、支持ピン70から半導体ウェハーWを受け取る。支持ピン70から保持部7に渡された半導体ウェハーWはサセプタ72の上面に載置・保持される。保持部7が処理位置にまで上昇するとサセプタ72に保持された半導体ウェハーWも処理位置に保持されることとなる。
ホットプレート71の6つのゾーン711〜716のそれぞれは、各ゾーンの内部(上部プレート73と下部プレート74との間)に個別に内蔵されたヒータ(抵抗加熱線76)により所定の温度まで加熱されている。保持部7が処理位置まで上昇して半導体ウェハーWが保持部7と接触することにより、その半導体ウェハーWはホットプレート71に内蔵されたヒータによって予備加熱されて温度が次第に上昇する(ステップS5)。
この処理位置にて約60秒間の予備加熱が行われ、半導体ウェハーWの温度が予め設定された予備加熱温度T1まで上昇する。予備加熱温度T1は、半導体ウェハーWに添加された不純物が熱により拡散する恐れのない、200℃ないし800℃程度、好ましくは350℃ないし550℃程度とされる。また、保持部7とチャンバー窓61との間の距離は、保持部昇降機構4のモータ40の回転量を制御することにより任意に調整することが可能とされている。
約60秒間の予備加熱時間が経過した後、保持部7が処理位置に位置したまま制御部3の制御によりランプハウス5のフラッシュランプFLから半導体ウェハーWへ向けてフラッシュ光が照射される(ステップS6)。すなわち、支持ピン70の先端70aよりも上方の処理位置に上昇した保持部7に保持された半導体ウェハーWにフラッシュ光が照射される。このとき、フラッシュランプFLから放射されるフラッシュ光の一部は直接にチャンバー6内の保持部7へと向かい、他の一部は一旦リフレクタ52により反射されてからチャンバー6内へと向かい、これらのフラッシュ光の照射により半導体ウェハーWのフラッシュ加熱が行われる。フラッシュ加熱は、フラッシュランプFLからの閃光照射により行われるため、半導体ウェハーWの表面温度を短時間で上昇することができる。
すなわち、ランプハウス5のフラッシュランプFLから照射されるフラッシュ光は、予め蓄えられていた静電エネルギーが極めて短い光パルスに変換された、照射時間が0.1ミリ秒ないし10ミリ秒程度の極めて短く強い閃光である。そして、フラッシュランプFLからの閃光照射によりフラッシュ加熱される半導体ウェハーWの表面温度は、瞬間的に1000℃ないし1100℃程度の処理温度T2まで上昇し、半導体ウェハーWに添加された不純物が活性化された後、表面温度が急速に下降する。このように、熱処理装置1では、半導体ウェハーWの表面温度を極めて短時間で昇降することができるため、半導体ウェハーWに添加された不純物の熱による拡散(この拡散現象を、半導体ウェハーW中の不純物のプロファイルがなまる、ともいう)を抑制しつつ不純物の活性化を行うことができる。なお、添加不純物の活性化に必要な時間はその熱拡散に必要な時間に比較して極めて短いため、0.1ミリセカンドないし10ミリセカンド程度の拡散が生じない短時間であっても活性化は完了する。
また、フラッシュ加熱の前に保持部7により半導体ウェハーWを予備加熱しておくことにより、フラッシュランプFLからのフラッシュ光照射によって半導体ウェハーWの表面温度を処理温度T2まで速やかに上昇させることができる。
フラッシュ加熱が終了し、処理位置における約10秒間の待機の後、保持部7が保持部昇降機構4により再び図1に示す受渡位置まで下降する(ステップS7)。保持部7は、処理位置から受渡位置まで下降する過程において、支持ピン70にフラッシュ加熱後の半導体ウェハーWを渡す。保持部7から渡された半導体ウェハーWは支持ピン70の先端70aに載置されて支持される。但し、フラッシュ加熱時に半導体ウェハーWの割れが発生していた場合には、保持部7が受渡位置まで下降しても支持ピン70によって半導体ウェハーWが支持されることは無い。
本実施形態においては、フラッシュ加熱後に保持部7が受渡位置まで下降した時点で半導体ウェハーWからの放射光の強度を測定してウェハー割れ判定を行う(ステップS8)。半導体ウェハーWからは、その温度に応じた放射光が常時放射され続けている。上述の予備加熱およびフラッシュ加熱によって昇温した半導体ウェハーWから放射される放射光の光量は常温のときよりも多くなっている。フラッシュ加熱後に支持ピン70に支持された半導体ウェハーWから放射された放射光は、支持ピン70の先端70aから入射して基端70bに向けて導かれる。一方、フラッシュ加熱時に半導体ウェハーWの割れが発生している場合には、半導体ウェハーWからの放射光が支持ピン70に入射することはない。よって、フラッシュ加熱時に半導体ウェハーWの割れが発生している場合としていない場合とでは、支持ピン70の先端70aから基端70bへと導かれる放射光の強度が大きく異なる。
支持ピン70の先端70aから基端70bへと向かった放射光は光ケーブル16を介して受光部12によって受光されて電気信号に変換され、ウェハー検出機構の回路に入る。その電気信号はアンプ13によって増幅され積分回路14を通って高周波ノイズが除去された後、コンパレータ15に送信される。コンパレータ15は、その電気信号の電圧と予め定められた設定電圧値(閾値)との比較を行う。すなわち、コンパレータ15は間接的に、受光部12によって受光された放射光の強度と閾値との比較を行う。
図10は、受光部12から出力される電気信号の電圧(厳密には、コンパレータ15に入力される時点での電圧)の変化を示す図である。ウェハー検出機構自体は、フラッシュ光照射の前後にわたって常に作動しており、受光部12からは電気信号が出力され続けている。図10において、時刻t1は、チャンバー6内に半導体ウェハーWが搬入されて支持ピン70に載置された時点(ステップS3)である。そして、時刻t2は、半導体ウェハーWが支持ピン70から上昇する保持部7に渡された瞬間である(ステップS4)。チャンバー6に搬入された時点での半導体ウェハーWの温度は常温である。常温の半導体ウェハーWであっても、その温度に応じた放射光が放射されているのであるがその強度は弱い。このため、処理前の半導体ウェハーWが支持ピン70に支持されているときに(時刻t1から時刻t2までの期間)、受光部12によって受光される放射光の強度は小さく、受光部12から出力される電気信号の電圧も低い。なお、支持ピン70に半導体ウェハーWが支持されていないときであっても、バックグラウンドの影響によって受光部12からは電圧の小さい微弱な電気信号が出力され続けている。
フラッシュ加熱後、下降する保持部7から支持ピン70に半導体ウェハーWが時刻t3に渡される(ステップS7)。フラッシュ加熱時に半導体ウェハーWが割れることなく、時刻t3に支持ピン70に比較的高温の半導体ウェハーWが載置された場合には、受光部12によって受光される放射光の強度が強く、図10の実線にて示すように、受光部12からコンパレータ15に送信される電気信号の電圧レベルが高い。逆に、フラッシュ加熱時に半導体ウェハーWに割れが生じていて保持部7が下降しても支持ピン70に半導体ウェハーWが支持されない場合には、受光部12によって受光される放射光の強度が弱く、図10の点線にて示すように、受光部12からコンパレータ15に送信される電気信号の電圧レベルも低い(バックグラウンドと同程度)。よって、例えば、支持ピン70に半導体ウェハーWが載置されている場合の電圧値とされていない場合の電圧値とを予め実験等によって求めておき、それらの平均値を上記比較の閾値Thとして設定しておけば、コンパレータ15によって支持ピン70に支持される半導体ウェハーWの有無を検出することができる。すなわち、コンパレータ15に入力される電気信号の電圧値が設定された閾値Thよりも高い場合には、支持ピン70上に半導体ウェハーWが載置されていると判断することができる。一方、電気信号の電圧値が設定された閾値Thよりも低い場合には、支持ピン70上に半導体ウェハーWが載置されていないと判断することができる。
コンパレータ15による比較の結果、放射光に基づく電気信号の電圧値が閾値Thよりも低く、支持ピン70上に半導体ウェハーWが存在していないと判断されたときには、フラッシュ加熱時に半導体ウェハーWの割れが発生していたものと考えられるため、搬送開口部66を開放することなく直ちに処理を中断し、熱処理装置1の復帰作業を行う。
一方、電気信号の電圧値が閾値Thよりも高く、支持ピン70上に半導体ウェハーWが問題なく載置されていると判断されたときには、ゲートバルブ185により閉鎖されていた搬送開口部66が開放され、支持ピン70上に載置された半導体ウェハーWは装置外部の搬送ロボットにより搬出され(ステップS9)、熱処理装置1における半導体ウェハーWのフラッシュ加熱処理が完了する。図10の時刻t4は、搬送ロボットによって支持ピン70から半導体ウェハーWが受け取られた瞬間である。なお、コンパレータ15での比較結果に基づいて制御部3が支持ピン70上の半導体ウェハーWの有無を判定し、無しと判定した場合には警告発報或いは熱処理装置1の停止処理を行い、有りと判定した場合にはステップS10のウェハー搬出処理を実行するようにしても良い。
本実施形態においては、半導体ウェハーWから放射されて支持ピン70の先端70aから基端70bへと導かれる放射光を受光部12によって受光し、コンパレータ15によって放射光の強度と閾値Thとの比較を行うことにより、支持ピン70上に半導体ウェハーWが載置されているか否かを判定している。支持ピン70上に半導体ウェハーWが載置されているか否かによって放射光の強度には明確な差異があり、その間に閾値Thを設定しておけば、チャンバー6を開放することなく(つまり、ゲートバルブ185によって搬送開口部66を開放することなく)チャンバー6内の半導体ウェハーWの有無を確実に検出することができる。
特に、本実施形態では、半導体ウェハーWから放射される放射光を支持ピン70を介して受光し、その放射光の強度と閾値Thとの比較を行っているため、半導体ウェハーWの裏面の反射率が低かったとしても、支持ピン70上の半導体ウェハーWの有無を検出することができる。すなわち、本発明によれば、半導体ウェハーWの裏面の反射率に関わらず、半導体ウェハーWの有無を確実に検出して誤検知を防止することができる。
また、本実施形態においては、本来半導体ウェハーWの受け渡しを行うためにチャンバー6に設置されている石英製の支持ピン70を投受光用のプローブとしても利用している。このため、検出センサを設置するための新たなスペースをチャンバー6に設ける必要はない。さらに、石英製の支持ピン70であれば、保持部7のホットプレート71からの熱にも耐性があり、しかもフラッシュ加熱時には保持部7の下方に位置することとなるため、フラッシュ光が支持ピン70の先端70aから入射して受光部12を損傷するおそれも無い。
以上、本発明の実施の形態について説明したが、この発明はその趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば、上記実施形態においては、フラッシュ加熱後に保持部7が下降して支持ピン70に半導体ウェハーWが渡されたときに、支持ピン70上の半導体ウェハーWの有無を判定していたが、これを半導体ウェハーWがチャンバー6内に搬入されて支持ピン70に支持されているとき(図10の時刻t1から時刻t2までの期間)に行うようにしても良い。このときの判定手法は上記と同様であるが、図10にも示している通り、加熱処理前の常温の半導体ウェハーWからの放射光強度は加熱処理後のそれよりも低い。このため、閾値Thとの比較で確実な判定を行うためには、アンプ13によるゲインを大きくする必要がある。
また、上記実施形態のように加熱処理後の半導体ウェハーWの有無を判定するときには、数百℃程度に昇温した半導体ウェハーWからより多く放射される赤外光を用いて判定を行うのが好ましいが、これに代えてアンプ13によるゲインを大きくして可視光を用いて判定を行うようにしても良い。但し、アンプ13のゲインを過度に大きくすると、バックグラウンドのノイズが大きく増幅されてその電圧レベルが閾値Thを超えることによる誤検知のおそれがあるため、これらのバランスを考慮してアンプ13のゲインを設定するのが望ましい。
また、上記実施形態においては、アンプ13によって増幅された電気信号を積分回路14によってノイズ除去してからコンパレータ15によって閾値Thと比較するというハードウェア構成を用いた比較判定を行っていたが、これをコンピュータを用いたソフトウェアによる比較判定を行うようにしても良い。具体的には、図6のアンプ13にA/D変換器を介してコンピュータを接続する。アンプ13によって増幅されたアナログの電気信号はA/D変換器によってディジタル信号に変換されてコンピュータに入力される。そのコンピュータは予めインストールされているソフトウェアを実行することによって、入力されたディジタル信号のレベルを所定の閾値と比較する。このようにソフトウェアによる比較判定を行っても、上記実施形態と同様に、支持ピン70上の半導体ウェハーWの有無を確実に検出することができる。
また、上記実施形態においては、光ケーブル16の先端を支持ピン70の基端70bに押圧して双方間の隙間を無くすようにしていたが、これに代えて、光ケーブル16の先端と支持ピン70の基端70bとの間を屈折液で満たすようにしても良い。屈折液は、所定の屈折率を有するように調整された液体である。屈折液の屈折率は石英の屈折率と同程度が好ましい。光ケーブル16の先端と支持ピン70の基端70bとの間を屈折液で満たせば、屈折率の相違に起因した界面での反射が生じなくなり、光ケーブル16と支持ピン70との間での光の伝達が阻害されること無く円滑に行われる。その結果、上記実施形態と同様に、支持ピン70を利用した半導体ウェハーWの有無の検出を確実に行うことができる。もっとも、屈折液を用いる場合には、屈折液を塗布する工程が必要となるため、光ケーブル16の取り付け作業を簡素化する観点からは上記実施形態のようにした方が好ましい。また、屈折液を比較的粘性の高い屈折ペーストとしても良い。
また、上記実施形態においては、半導体ウェハーWの受け渡しを行うための支持ピン70を投受光用のプローブとして利用していたが、支持ピン70とは別に専用の光ガイド部材をチャンバー6に設置し、その光ガイド部材によって半導体ウェハーWからの放射光を導くようにしても良い。
また、上記実施形態においては、固定された支持ピン70に対して保持部7を昇降させることによって半導体ウェハーWの受け渡しを行うようにしていたが、これとは逆に、固定された保持部7に対して支持ピン70を昇降させるようにしても良いし、支持ピン70および保持部7の双方を昇降させるようにしても良い。すなわち、支持ピン70に対して相対的に保持部7が昇降する構成であれば良い。
また、上記実施形態においては、支持ピン70を構成する透光性材料を石英としていたが、これに代えて透光性材料をサファイアとしても良い。石英に比較してサファイアは赤外光の透過性が高く、放射光のうち特に赤外光を使用する場合にはサファイアを用いた方が好ましい。
また、ウェハー検出機構と接続する支持ピン70は、チャンバー底部62に立設された3本の支持ピン70のうちの1本のみであっても良いし、2本または3本であっても良い。
また、上記実施形態においては、ランプハウス5に30本のフラッシュランプFLを備えるようにしていたが、これに限定されるものではなく、フラッシュランプFLの本数は任意の数とすることができる。また、フラッシュランプFLはキセノンフラッシュランプに限定されるものではなく、クリプトンフラッシュランプであっても良い。また、ランプハウス5にフラッシュランプFLに代えてハロゲンランプを備え、予備加熱された半導体ウェハーWに対してハロゲンランプから光照射を行うことによって加熱するようにしても良い。
また、本発明に係る熱処理装置によって処理対象となる基板は半導体ウェハーに限定されるものではなく、液晶表示装置などに用いるガラス基板であっても良い。