この発明は、絶縁回路基板の製造方法に関し、さらに詳しくは、たとえばパワーデバイスなどの電子素子が実装される絶縁回路基板を製造する方法に関する。
この明細書において、「アルミニウム」という用語には、「純アルミニウム」と表現する場合を除いて、純アルミニウムの他にアルミニウム合金を含むものとする。また、この明細書および特許請求の範囲において、「純アルミニウム」という用語は、純度99.00wt%以上の純アルミニウムを意味するものとする。
たとえばIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)などの半導体素子(電子素子)からなるパワーデバイスを備えたパワーモジュールにおいては、半導体素子から発せられる熱を効率良く放熱して、半導体素子の温度を所定温度以下に保つ必要がある。そこで、従来、パワーデバイスを実装するパワーモジュール用ベースとして、アルミニウム製ヒートシンクおよびヒートシンクにろう付された絶縁回路基板からなり、絶縁回路基板が、ヒートシンクにろう付されたセラミック製電気絶縁板と、電気絶縁板におけるヒートシンクにろう付された面とは反対側の面にろう付されたアルミニウム製回路板とよりなり、回路板における電気絶縁板にろう付された面とは反対側の面が、電子素子搭載部を有する配線面となされているものが知られている(特許文献1参照)。
特許文献1記載のパワーモジュール用ベースは、絶縁回路基板の回路板の配線面にニッケルメッキが施された後、電子素子搭載部にパワーデバイスがはんだ付けされることにより実装されてパワーモジュールとして用いられている。そして、パワーデバイスから発せられた熱は、回路板および電気絶縁板を経てヒートシンクに伝えられ、放熱されるようになっている。
ところで、特許文献1記載のパワーモジュール用ベースは、ヒートシンク、電気絶縁板および回路板を、隣り合うものどうしの間にAl−Si合金系のろう材を配置した状態で積層し、ヒートシンク、電気絶縁板および回路板を、加圧しつつ加熱してヒートシンクと電気絶縁板および電気絶縁板と回路板とをろう付することにより製造されている。
しかしながら、特許文献1記載のパワーモジュール用ベースの製造方法では、ヒートシンク、電気絶縁板および回路板を積層状態で加圧しつつ加熱すると、ろう材は、まず外周縁部から溶融し始め、その後徐々に中央部に向けて熱が伝導し溶融が進んでいくので、ろう材の中央部を溶融させるまで加熱しようとすると、その前に、ろう材の外周縁部に存在しておりかつ既に溶融したろう材が、回路板と電気絶縁板との間からしみ出し、さらにその表面張力で凝集することによって、回路板の側面を伝って配線面まで流れて配線面の電子素子搭載部を覆うおそれがあった。そして、溶融したろう材が回路板の配線面の電子素子搭載部を覆い、ここで凝固すると、電子素子搭載部を含んだ配線面全体への良好なニッケルメッキや、電子素子搭載部への電子素子の良好なはんだ付けが困難になる。しかも、凝固したろう材上からニッケルメッキを施した回路板の配線面の電子素子搭載部に電子素子をはんだ付すると、電子素子の熱サイクル寿命を低下させるおそれがある。
そこで、このような問題を解決したパワーモジュール用ベースの製造方法として、セラミック製電気絶縁板の一面とアルミニウム製回路板とをろう付すると同時に、電気絶縁板の他面とアルミニウム製伝熱板とをろう付して絶縁回路基板を製造した後に、絶縁回路基板の伝熱板をヒートシンクにろう付またははんだ付する方法が提案されている(特許文献2参照)。特許文献2記載の方法において、電気絶縁板と回路板および伝熱板とのろう付は、電気絶縁板と回路板および伝熱板との間にろう材層を配置して行われるが、当該ろう材層としては、表面に回路板の外周縁部が配置される外周部分と、この外周部分に囲まれた内側部分とを備えており、内側部分が、直径0.1μm以下の超微粒子粉末のろう材により形成され、外周部分が、内側部分のろう材よりも粒径が大きいろう材により形成されているものが用いられている。
しかしながら、特許文献2記載のパワーモジュール用ベースの製造方法では、電気絶縁板と回路板および伝熱板とのろう付に用いられるろう材層のコストが高くなり、絶縁回路基板およびパワーモジュール用ベースの製造コストが高くなるという問題がある。
実公平8−10202号公報
特開2008−181939号公報
この発明の目的は、上記問題を解決し、コストの安い絶縁回路基板の製造方法を提供することにある。
本発明は、上記目的を達成するために以下の態様からなる。
1)電気絶縁板の一面に導電材料製回路板がろう付され、回路板における電気絶縁板にろう付された面とは反対側の面が電子素子搭載部を有する配線面となされており、電気絶縁板が回路板よりも大きく、かつ電気絶縁板の輪郭が回路板の輪郭よりも外側に位置している絶縁回路基板を製造する方法であって、
電気絶縁板と回路板とを、両者間にろう材層が存在するように積層し、ろう材層の輪郭の少なくとも一部分を回路板の輪郭よりも内側に位置させ、この状態で電気絶縁板、回路板およびろう材層を加熱し、ろう材層から溶け出したろう材を用いて電気絶縁板と回路板とをろう付することを特徴とする絶縁回路基板の製造方法。
2)ろう材層の厚さを15〜50μmとし、ろう材層の輪郭の全体を回路板の輪郭よりも内側に位置させた状態で、電気絶縁板、回路板およびろう材層を加熱し、ろう材層から溶け出したろう材を用いて電気絶縁板と回路板とをろう付する上記1)記載の絶縁回路基板の製造方法。
3)回路板の輪郭における任意の点からろう材層の輪郭までの最短距離のうちの最小値をL1mm、回路板の輪郭における任意の点からろう材層の輪郭までの最短距離のうちの最大値をL2mm、回路板の面積をSmm2とした場合、ろう材層の厚さが15μmの場合に0.0010≦L1/S、L2/S≦0.0048であり、ろう材層の厚さが50μmの場合に0.0085≦L1/S、L2/S≦0.0129であり、さらにろう材層の厚さが15〜50μmの範囲内において、0.0010≦L1/S≦0.0085、0.0048≦L2/S≦0.0129という条件を満足する上記2)記載の絶縁回路基板の製造方法。
4)ろう材層の厚さをtとした場合、L1/S、およびL2/Sがろう材層の厚さtの式で表され、ろう材層の厚さが15〜50μmの範囲内において、L1/S=0.0177−(1/806){1.5626+(2.685/t)}1/2となり、L2/S=0.0231−(1.305/806){1.5626+(1.885/t)}1/2となる上記3)記載の絶縁回路基板の製造方法。
5)電気絶縁板がAlN、Al2O3およびSi3N4よりなる群から選ばれた1種の材料からなり、回路板がアルミニウムからなり、ろう材層がAl−Si合金系ろう材からなる上記1)〜4)のうちのいずれかに記載の絶縁回路基板の製造方法。
6)ろう材層が、回路板および電気絶縁板とは別個に形成されたろう材箔からなる上記1)〜5)のうちのいずれかに記載の絶縁回路基板の製造方法。
7)電気絶縁板の一面に導電材料製回路板がろう付されるとともに、回路板における電気絶縁板にろう付された面とは反対側の面が電子素子搭載面となされており、電気絶縁板が回路板よりも大きくかつ電気絶縁板の輪郭が回路板の輪郭よりも外側に位置している絶縁回路基板と、絶縁回路基板の電気絶縁板における回路板がろう付された面とは反対側の面がろう付された冷却器とを備えているパワーモジュール用ベースを、電気絶縁板と回路板および冷却器とを、隣り合うものどうしの間に介在させたろう材層を用いてろう付することにより製造する方法であって、
上記1)〜6)のうちのいずれかに記載された方法における電気絶縁板と回路板とを両者間にろう材層が存在するように積層すると同時に、電気絶縁板と冷却器とを両者間にろう材層が存在するように積層し、電気絶縁板、回路板、冷却器およびろう材層を加熱し、ろう材層から溶け出したろう材を用いて電気絶縁板と回路板および冷却器とをろう付することを特徴とするパワーモジュール用ベースの製造方法。
8)電気絶縁板と冷却器との間に熱伝導材料製応力緩和部材を配置するとともに、電気絶縁板および冷却器と応力緩和部材との間にろう材層を配置しておき、電気絶縁板と回路板および応力緩和部材のろう付と同時に、冷却器と応力緩和部材とをろう付する上記7)記載のパワーモジュール用ベースの製造方法。
9)上記1)〜6)に記載された方法により製造された絶縁回路基板であって、
電気絶縁板と導電材料製回路板との間に、一旦溶融したろう材が再凝固して形成されるとともに回路板と同一の大きさおよび形状である再凝固ろう材層が設けられており、再凝固ろう材層が、周縁が回路板の輪郭よりも小さな第1部分と、第1部分の周囲を囲みかつ周縁が回路板の輪郭と合致した第2部分とよりなり、再凝固ろう材層の第2部分に含まれるAl−Si合金の単位体積当たりの量が、再凝固ろう材層の第1部分に含まれるAl−Si合金の単位体積当たりの量よりも多くなっている絶縁回路基板。
10)電気絶縁板と導電材料製回路板との間に形成された再凝固ろう材層において、前記第2部分に存在するAl−Si合金層の厚さが、前記第1部分に存在するAl−Si合金層の厚さよりも厚くなっている上記9)記載の絶縁回路基板。
11)回路板の輪郭における任意の点からろう材層の輪郭までの最短距離のうちの最小値をL1mm、回路板の輪郭における任意の点からろう材層の輪郭までの最短距離のうちの最大値をL2mm、回路板の面積をSmm2とした場合、0.0010≦L1/S≦0.0085、0.0048≦L2/S≦0.0129という条件を満足する上記9)または10)記載の絶縁回路基板。
上記1)〜6)の絶縁回路基板の製造方法によれば、電気絶縁板と回路板とを、両者間にろう材層が存在するように積層し、ろう材層の輪郭の少なくとも一部分を回路板の輪郭よりも内側に位置させ、この状態で電気絶縁板、回路板およびろう材層を加熱し、ろう材層から溶け出したろう材を用いて電気絶縁板と回路板とをろう付するので、電気絶縁板と回路板とのろう付の際に、電気絶縁板と回路板との間に配置したろう材が溶融してなる溶融ろう材が、回路板の輪郭を形成しかつ回路板の厚み方向に幅を持つ輪郭面を通って回路板の配線面側に流れることが抑制される。したがって、回路板の電子素子搭載部を有する配線面が再凝固したろう材により覆われることが防止され、回路板の配線面に施すニッケルメッキに欠陥が生じることが抑制されるとともに、ニッケルメッキを施した配線面の電子素子搭載部に電子素子を良好にはんだ付けすることが可能になる。しかも、電気絶縁板と回路板とのろう付に、通常のろう材を用いることが可能になり、特許文献2記載の方法で製造された絶縁回路基板に比べて製造コストが安くなる。
上記2)〜4)の絶縁回路基板の製造方法によれば、電気絶縁板と回路板とのろう付の際に、電気絶縁板と回路板との間に配置したろう材が溶融してなる溶融ろう材が、回路板の輪郭を形成しかつ回路板の厚み方向に幅を持つ輪郭面を通って回路板の配線面側に流れることが効果的に抑制される。
上記7)および8)のパワーモジュール用ベースの製造方法によれば、電気絶縁板と回路板とのろう付の際に、電気絶縁板と回路板との間に配置したろう材が溶融してなる溶融ろう材が、回路板の輪郭を形成しかつ回路板の厚み方向に幅を持つ輪郭面を通って回路板の配線面側に流れることが抑制される。したがって、回路板の電子素子搭載部を有する配線面が再凝固したろう材により覆われることが防止され、回路板の配線面に施すニッケルメッキに欠陥が生じることが抑制されるとともに、ニッケルメッキを施した配線面の電子素子搭載部に電子素子を良好にはんだ付けすることが可能になる。しかも、電気絶縁板と回路板とのろう付に、通常のろう材を用いることが可能になり、特許文献2記載の方法で製造された絶縁回路基板に比べて製造コストが安くなる。
上記9)〜11)の絶縁回路基板の場合、溶融後に硬化したろう材によって、回路板の配線面における電子素子搭載部が覆われることが防止される。
この発明の方法により製造された絶縁回路基板を有するパワーモジュール用ベースにパワーデバイスが実装されたパワーモジュールを示す垂直断面図である。
図1のパワーモジュール用ベースにおいて、電気絶縁板と回路板との間に形成された再凝固ろう材層を示す図である。
図1のパワーモジュール用ベースを製造する方法において、電気絶縁板と回路板との間に配置されるろう材箔と、回路板との関係を示す図である。
L1/SおよびL2/Sとろう材箔の厚さとの関係を表すグラフである。
図1のパワーモジュール用ベースを製造する方法において、電気絶縁板と回路板との間に配置されるろう材箔の第1の変形例を示す図3相当の図である。
図1のパワーモジュール用ベースを製造する方法において、電気絶縁板と回路板との間に配置されるろう材箔の第2の変形例を示す図3相当の図である。
図1のパワーモジュール用ベースを製造する方法において、電気絶縁板と回路板との間に配置されるろう材箔の第3の変形例を示す図3相当の図である。
以下、この発明の実施形態を、図面を参照して説明する。なお、以下の説明において、図1の上下を上下というものとする。
図1はこの発明による絶縁回路基板を備えたパワーモジュール用ベースにおける回路板の電子素子搭載部にパワーデバイスが実装されたパワーモジュールを示し、図2は絶縁回路基板を示す。また、図3および図4はパワーモジュール用ベースの製造方法を示す。
図1において、パワーモジュール(1)は、パワーモジュール用ベース(2)と、パワーモジュール用ベース(2)に実装されたパワーデバイス(3)(電子素子)とよりなる。
パワーモジュール用ベース(2)は、長方形のセラミックス製電気絶縁板(5)、電気絶縁板(5)の上面にろう付された長方形の導電材料製回路板(6)、および電気絶縁板(5)の下面にろう付された長方形の熱伝導材料製応力緩和板(7)(応力緩和部材)からなる絶縁回路基板(4)と、絶縁回路基板(4)の応力緩和板(7)の下面がろう付されたアルミニウム製冷却器(8)とからなる。なお、図1においては1つの絶縁回路基板(4)だけが図示されているが、パワーモジュール用ベース(2)は、複数の絶縁回路基板(4)を備えているのが一般的である。
絶縁回路基板(4)の電気絶縁板(5)は、必要とされる絶縁特性、熱伝導率および機械的強度を満たしていれば、どのようなセラミックから形成されていてもよいが、たとえばAlN、Al2O3、Si3N4などにより形成される。電気絶縁板(5)は回路板(6)および応力緩和板(7)よりも大きく、電気絶縁板(5)の輪郭は回路板(6)および応力緩和板(7)の輪郭よりも外側に位置している。
回路板(6)は、導電性に優れたアルミニウム、銅などの金属により形成されるが、電気伝導率および熱伝導率が高く、変形能が高く、しかも半導体素子とのはんだ付け性に優れた純度の高い純アルミニウム、たとえば純度99.99質量%以上の純アルミニウムにより形成されていることが好ましい。回路板(6)の厚さは、電気伝導性および熱伝導性を考慮して、5mm以下、好ましくは0.2mm以下とされるのが通常である。回路板(6)の上面、すなわち回路板(6)における電気絶縁板(5)にろう付された面とは反対側の面は、電子素子搭載部(11)を有する配線面(9)となされている。
応力緩和板(7)は、熱伝導性に優れたアルミニウム、銅などの金属により形成されるが、熱伝導率が高く、しかも変形能が高い純アルミニウム、たとえば純度99.99質量%以上の純アルミニウムにより形成されていることが好ましい。応力緩和板(7)に、応力緩和板(7)の厚み方向(上下方向)にのびる複数の貫通穴(12)が形成されている。なお、応力緩和板(7)には、必ずしも貫通穴が形成されている必要はない。
冷却器(8)は、複数の冷却流体通路(13)が並列状に設けられた扁平中空状であり、熱伝導性に優れるとともに、軽量であるアルミニウムにより形成されていることが好ましい。冷却流体としては、液体および気体のいずれを用いてもよい。なお、冷却器(8)としては、ケース内にインナーフィンが配置されたものが用いられてもよい。
パワーデバイス(3)は、絶縁回路基板(4)の回路板(6)の配線面(9)における電子素子搭載部(11)上にはんだ付けされており、これによりパワーモジュール用ベース(2)に実装されている。パワーデバイス(3)から発せられる熱は、回路板(6)、電気絶縁板(5)および応力緩和板(7)を経て冷却器(8)に伝えられ、冷却流体通路(13)内を流れる冷却流体に放熱されるようになっている。
図1においては図示は省略したが、電気絶縁板(5)と回路板(6)、電気絶縁板(5)と応力緩和板(7)、および応力緩和板(7)と冷却器(8)とは、それぞれSi10質量%、Mg1質量%を含み、残部Alおよび不可避不純物からなるアルミニウムろう材を用いてろう付されており、電気絶縁板(5)と回路板(6)、電気絶縁板(5)と応力緩和板(7)、および応力緩和板(7)と冷却器(8)との間にはそれぞれ一旦溶融したろう材が再凝固して形成された再凝固ろう材層が設けられている。
図2に示すように、電気絶縁板(5)と回路板(6)との間に設けられた再凝固ろう材層(14)は、回路板(6)(図2においては図示略)と同一の大きさおよび形状である。再凝固ろう材層(14)は、輪郭が回路板(6)の輪郭よりも小さな第1部分(15)と、第1部分(15)の周囲を囲みかつ輪郭が回路板(6)の輪郭と合致した第2部分(16)とよりなる。再凝固ろう材層(14)の第2部分(16)に含まれるAl−Si合金の単位体積(再凝固ろう材層(14)の単位体積)当たりの量は、再凝固ろう材層(14)の第1部分(15)に含まれるAl−Si合金の単位体積(再凝固ろう材層(14)の単位体積)当たりの量よりも多くなっていることが好ましい。なお、再凝固ろう材層(14)の上述したような構成、すなわち第1部分(15)および第2部分(16)の形状および大きさとAl−Si合金の量については、たとえば塩化第二鉄液を用いて絶縁回路基板(4)の回路板(6)を溶解除去することによって確認することができる。すなわち、塩化第二鉄液によりAlからなる部分が溶解除去されるので、電気電気絶縁板(5)上にSiが残留することになり、第2部分(16)の残留Si量が第1部分(15)の残留Si量よりも多くなる。
また、電気電気絶縁板(5)と回路板(6)との間に設けられた再凝固ろう材層(14)において、第2部分(16)に存在するAl−Si合金層の厚さが、第1部分(15)に存在するAl−Si合金層の厚さよりも厚くなっていることが好ましい。たとえば、再凝固ろう材層(14)の第1部分(15)におけるAl−Si合金層の厚さは1〜3μm程度であり、同じく第2部分(16)におけるAl−Si合金層の厚さは3〜10μm程度である。再凝固ろう材層(14)の第1部分(15)および第2部分(16)におけるAl−Si合金層の厚さについては、たとえば再凝固ろう材層(14)の断面を露出させ、アルゴンビームで断面の表面を処理した後に、走査電子顕微鏡を用いたEDS(エネルギ分散型X線分光)による元素分析を行うことで確認することができる。
ここで、回路板(6)の輪郭、すなわち第2部分(16)の輪郭における任意の点からろう材層の第1部分(15)の輪郭までの最短距離のうちの最小値をL1mm、第2部分(16)(回路板(6))の輪郭における任意の点からろう材層の第1部分(15)の輪郭までの最短距離のうちの最大値をL2mm、回路板(6)の面積、すなわち第1部分(15)および第2部分(16)の合計面積をSmm2とした場合、0.0010≦L1/S≦0.0085、0.0048≦L2/S≦0.0129という条件を満足していることが好ましい。
以下、パワーモジュール用ベース(2)の製造方法について説明する。
まず、冷却器(8)上に、応力緩和板(7)、電気絶縁板(5)および回路板(6)をこの順序で配置する。冷却器(8)と応力緩和板(7)との間、応力緩和板(7)と電気絶縁板(5)との間および電気絶縁板(5)と回路板(6)との間に、それぞれアルミニウムろう材層を設けておく。ろう材層は、たとえばSi10質量%、Mg1質量%を含み、残部Alおよび不可避不純物からなるアルミニウムろう材からなる。
冷却器(8)と応力緩和板(7)との間に配置されるろう材層は、アルミニウムろう材からなる箔や、心材の両面にろう材層が形成されたアルミニウムブレージングシートなどからなる。また、冷却器(8)と応力緩和板(7)との間に配置されるろう材層は、応力緩和板(7)の下面に予めクラッドされていてもよい。応力緩和板(7)と電気絶縁板(5)との間に配置されるろう材層は、アルミニウムろう材からなる箔や、心材の両面にろう材層が形成されたアルミニウムブレージングシートからなる。また、応力緩和板(7)と電気絶縁板(5)との間に配置されるろう材層は、応力緩和板(7)の上面に予めクラッドされていてもよい。
電気絶縁板(5)と回路板(6)との間に配置されるろう材層は、上述したアルミニウムろう材によって形成され、かつ電気絶縁板(5)および回路板(6)とは別個に形成されたろう材箔(17)からなる。ろう材箔(17)の厚さは15〜50μmであることが好ましい。また、ろう材箔(17)は、図3に示すように、回路板(6)と相似の方形であり、両者の中心が一致するとともに、ろう材箔(17)の輪郭の全体が回路板(6)の輪郭よりも内側に位置させた状態でろう材箔(17)が配置されている。なお、回路板(6)およびろう材箔(17)の長辺どうしおよび短辺どうしは平行または平行に近くなっている。
ここで、回路板(6)の輪郭における任意の点からろう材箔(17)の輪郭までの最短距離のうちの最小値をL1mm、回路板(6)の輪郭における任意の点からろう材箔(17)の輪郭までの最短距離のうちの最大値をL2mm、回路板(6)の面積をSmm2とした場合、ろう材箔(17)の厚さが15μmの場合に0.0010≦L1/S、L2/S≦0.0048であり、ろう材箔(17)の厚さが50μmの場合に0.0085≦L1/S、L2/S≦0.0129であり、さらにろう材箔(17)の厚さが15〜50μmの範囲内において、0.0010≦L1/S≦0.0085、0.0048≦L2/S≦0.0129という条件を満足していることが好ましい。また、ろう材箔(17)の厚さをtとし、L1/S、およびL2/Sをろう材箔(17)の厚さtの式で表した場合、ろう材箔(17)の厚さが15〜50μmの範囲内においては、L1/S=0.0177−(1/806){1.5626+(2.685/t)}1/2となり、L2/S=0.0231−(1.305/806){1.5626+(1.885/t)}1/2となっていることが好ましい。L1/SおよびL2/Sの曲線を図4に示す。L1/S<0.0177−(1/806){1.5626+(2.685/t)}1/2の場合、製造された絶縁回路基板(4)において、回路板(6)の配線面(9)に再凝固したろう材が存在することがある。しかしながら、この場合にも、再凝固したろう材は回路板(6)の配線面(9)の一部を覆っているだけであって配線面(9)への良好なニッケルメッキや、配線面(9)の電子素子搭載部(11)への電子素子の良好なはんだ付けを妨げる程ではない。一方、L2/S>0.0231−(1.305/806){1.5626+(1.885/t)}1/2の場合、回路板(6)の輪郭寄りの部分と電気絶縁板(5)との間に未ろう付部が生じることがあり、その場合回路板(6)から電気絶縁板(5)への熱伝導性が低下するおそれがある。
その後、適当な治具により回路板(6)、電気絶縁板(5)、応力緩和板(7)および冷却器(8)を加圧した状態にして仮止めしたものを真空雰囲気とされた加熱炉中に入れ、この状態で回路板(6)、電気絶縁板(5)、応力緩和板(7)、冷却器(8)、ろう材箔(17)およびろう材層を適当な温度に適当な時間加熱し、ろう材箔(17)から溶け出したろう材を用いて電気絶縁板(5)と回路板(6)とをろう付するとともに、ろう材層から溶け出したろう材を用いて電気絶縁板(5)と応力緩和板(7)とをろう付することにより絶縁回路基板(4)を製造すると同時に、ろう材層から溶け出したろう材を用いて絶縁回路基板(4)の応力緩和板(7)と冷却器(8)とをろう付する。こうして、パワーモジュール用ベース(2)が製造される。
上記実施形態においては、電気絶縁板(5)と回路板(6)とをろう付するろう付層は、電気絶縁板(5)および回路板(6)とは別個に形成されたろう材箔(17)からなるが、これに代えて、回路板(6)に予めクラッドされていてもよい。
また、上記実施形態においては、電気絶縁板(5)と冷却器(8)との間に応力緩和板(7)が配置されているが、応力緩和板(7)は必ずしも必要とはせず、電気絶縁板(5)が直接冷却器(8)にろう付されていてもよい。
次に、この発明の具体的実施例を比較例とともに述べる。
実施例1〜16および比較例
この実施例は、図1に示すパワーモジュール用ベースを製造したものである。
焼結助剤を含んだAlNからなりかつ厚さ:0.63mm、縦:29mm、横:34mmの電気絶縁板(5)と、純度99.99wt%の純アルミニウムからなりかつ厚さ:0.6mm、縦:26mm、横:31mmの回路板(6)と、純度99.99wt%の純アルミニウムからなりかつ厚さ:1.6mm、縦:26mm、横:31mmの応力緩和板(7)とを用意した。また、冷却器(8)の代わりに、JIS A3003からなりかつ厚さ:5mm、縦:50mm、横60mmのアルミニウム板を用意した。
さらに、Si10質量%、Mg1質量%を含み、残部Alおよび不可避不純物からなるアルミニウムろう材を用いて、回路板(6)および応力緩和板(7)と相似形状であるとともに、厚さおよび縦横の寸法が異なる複数のろう材箔(17)(実施例1〜16)と、回路板(6)および応力緩和板(7)と合同形状であるとともに、厚さの異なる複数のろう材箔(17)とをつくった(比較例1〜3)。
ついで、アルミニウム板、応力緩和板(7)、電気絶縁板(5)および回路板(6)を、電気絶縁板(5)と回路板(6)および応力緩和板(7)との間に上述したろう材箔(17)を配置するとともに、アルミニウム板と応力緩和板(7)との間にSi10質量%、Mg1質量%を含み、残部Alおよび不可避不純物からなるアルミニウムろう材によって形成され、かつ厚さおよび縦横の寸法が適当なろう材箔(17)を配置した状態で積層し、8g/mm2の面圧を負荷しながら適当な治具により仮止めした。
ここで、電気絶縁板(5)と回路板(6)および応力緩和板(7)との間に配置したろう材箔(17)の厚さ、回路板(6)の輪郭における任意の点からろう材層の輪郭までの最短距離のうちの最小値:L1mm、回路板(6)の輪郭における任意の点からろう材箔(17)の輪郭までの最短距離のうちの最大値:L2mm、ならびに回路板(6)の面積をSmm
2とした場合のL1/SおよびL2/Sを表1に示す。
その後、アルミニウム板、応力緩和板(7)、電気絶縁板(5)および回路板(6)を加圧状態で仮止めしたものを真空雰囲気とされた加熱炉中に入れ、600℃で15分間加熱し、ろう材箔(17)から溶け出したろう材を用いて電気絶縁板(5)と回路板(6)および応力緩和板(7)とをろう付することにより絶縁回路基板(4)を製造すると同時に、ろう材箔から溶け出したろう材を用いて絶縁回路基板(4)の応力緩和板(7)とアルミニウム板とをろう付した。
評価
実施例1〜16および比較例において電気絶縁板(5)にろう付された回路板(6)の配線面(9)を観察した。
その結果を表1の表面観察結果の欄に示す。表1の表面観察結果の欄において、○印は回路板(6)の配線面(9)に再凝固したろう材が全く存在していなかったことを表し、△印は回路板(6)の配線面(9)に再凝固したろう材が存在するものの、再凝固したろう材は回路板(6)の配線面(9)の一部を覆っているだけであって配線面(9)への良好なニッケルメッキや、配線面(9)の電子素子搭載部(11)への電子素子の良好なはんだ付けを妨げる程ではないことを表す。また、×印は再凝固したろう材は回路板(6)の配線面(9)全体を覆っていることを表す。
表1に示す結果から、ろう材箔(17)の輪郭が回路板(6)の輪郭よりも内側に位置している場合には、製造された絶縁回路基板(4)の回路板(6)の配線面(9)への良好なニッケルメッキ性や、配線面(9)の電子素子搭載部(11)への電子素子のはんだ付け性が低下しないことが分かる。
図5〜図7は電気絶縁板(5)と回路板(6)とをろう付するろう材箔の変形例を示す。
図5に示すろう材箔(20)の場合、ろう材箔(20)は、回路板(6)と相似の方形であるとともに、ろう材箔(20)の輪郭の全体が回路板(6)の輪郭よりも内側に位置させた状態で配置されるが、ろう材箔(20)と回路板(6)との中心はずれている。なお、回路板(6)およびろう材箔(20)の長辺どうしおよび短辺どうしは平行または平行に近くなっている。
このろう材箔(20)を用いた場合、回路板(6)の輪郭における任意の点からろう材層の輪郭までの最短距離のうちの最小値:L1mm、および回路板(6)の輪郭における任意の点からろう材箔(20)の輪郭までの最短距離のうちの最大値:L2mmは図5に示す通りとなる。
図6に示すろう材箔(21)の場合、ろう材箔(21)はひし形であり、ろう材箔(21)と回路板(6)との中心が一致するように、ろう材箔(21)の輪郭の全体が回路板(6)の輪郭よりも内側に位置させた状態で配置される。なお、ろう材箔(21)の長い対角線は回路板(6)の長辺と平行または平行に近くなり、短い対角線は回路板(6)の短辺と平行または平行に近くなる。
このろう材箔(21)を用いた場合、回路板(6)の輪郭における任意の点からろう材層の輪郭までの最短距離のうちの最小値:L1mm、および回路板(6)の輪郭における任意の点からろう材箔(21)の輪郭までの最短距離のうちの最大値:L2mmは図6に示す通りとなる。
図7に示すろう材箔(22)の場合、ろう材箔(22)はだ円形であり、ろう材箔(22)と回路板(6)との中心が一致するように、ろう材箔(22)の輪郭の全体が回路板(6)の輪郭よりも内側に位置させた状態で配置される。なお、ろう材箔(22)の長径は回路板(6)の長辺と平行または平行に近くなり、短径は回路板(6)の短辺と平行または平行に近くなる。
このろう材箔(22)を用いた場合、回路板(6)の輪郭における任意の点からろう材層の輪郭までの最短距離のうちの最小値:L1mm、および回路板(6)の輪郭における任意の点からろう材箔(22)の輪郭までの最短距離のうちの最大値:L2mmは図7に示す通りとなる。
図5〜図7に示すこのろう材箔(20)(21)(22)においても、回路板(6)の面積をSmm2とすると、厚さが15μmの場合に0.0010≦L1/S、L2/S≦0.0048であり、厚さが50μmの場合に0.0085≦L1/S、L2/S≦0.0129であり、さらにろう材層の厚さが15〜50μmの範囲内において、0.0010≦L1/S≦0.0085、0.0048≦L2/S≦0.0129という条件を満足していることが好ましい。また、ろう材箔(20)(21)(22)の厚さをtとし、L1/S、およびL2/Sをろう材箔(20)(21)(22)の厚さtの式で表した場合、ろう材箔(22)の厚さが15〜50μmの範囲内においては、L1/S=0.0177−(1/806){1.5626+(2.685/t)}1/2となり、L2/S=0.0231−(1.305/806){1.5626+(1.885/t)}1/2となっていることが好ましい。
(1):パワーモジュール
(2):パワーモジュール用ベース
(3):パワーデバイス
(4):絶縁回路基板
(5):電気絶縁板
(6):回路板
(7):応力緩和板(応力緩和部材)
(8):冷却器
(9):配線面
(11):電子素子搭載部
(14):再凝固ろう材層
(15):第1部分
(16):第2部分
(17)(20)(21)(22):ろう材箔
この発明は、絶縁回路基板の製造方法に関し、さらに詳しくは、たとえばパワーデバイスなどの電子素子が実装される絶縁回路基板を製造する方法に関する。
この明細書において、「アルミニウム」という用語には、「純アルミニウム」と表現する場合を除いて、純アルミニウムの他にアルミニウム合金を含むものとする。また、この明細書および特許請求の範囲において、「純アルミニウム」という用語は、純度99.00wt%以上の純アルミニウムを意味するものとする。
たとえばIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)などの半導体素子(電子素子)からなるパワーデバイスを備えたパワーモジュールにおいては、半導体素子から発せられる熱を効率良く放熱して、半導体素子の温度を所定温度以下に保つ必要がある。そこで、従来、パワーデバイスを実装するパワーモジュール用ベースとして、アルミニウム製ヒートシンクおよびヒートシンクにろう付された絶縁回路基板からなり、絶縁回路基板が、ヒートシンクにろう付されたセラミック製電気絶縁板と、電気絶縁板におけるヒートシンクにろう付された面とは反対側の面にろう付されたアルミニウム製回路板とよりなり、回路板における電気絶縁板にろう付された面とは反対側の面が、電子素子搭載部を有する配線面となされているものが知られている(特許文献1参照)。
特許文献1記載のパワーモジュール用ベースは、絶縁回路基板の回路板の配線面にニッケルメッキが施された後、電子素子搭載部にパワーデバイスがはんだ付けされることにより実装されてパワーモジュールとして用いられている。そして、パワーデバイスから発せられた熱は、回路板および電気絶縁板を経てヒートシンクに伝えられ、放熱されるようになっている。
ところで、特許文献1記載のパワーモジュール用ベースは、ヒートシンク、電気絶縁板および回路板を、隣り合うものどうしの間にAl−Si合金系のろう材を配置した状態で積層し、ヒートシンク、電気絶縁板および回路板を、加圧しつつ加熱してヒートシンクと電気絶縁板および電気絶縁板と回路板とをろう付することにより製造されている。
しかしながら、特許文献1記載のパワーモジュール用ベースの製造方法では、ヒートシンク、電気絶縁板および回路板を積層状態で加圧しつつ加熱すると、ろう材は、まず外周縁部から溶融し始め、その後徐々に中央部に向けて熱が伝導し溶融が進んでいくので、ろう材の中央部を溶融させるまで加熱しようとすると、その前に、ろう材の外周縁部に存在しておりかつ既に溶融したろう材が、回路板と電気絶縁板との間からしみ出し、さらにその表面張力で凝集することによって、回路板の側面を伝って配線面まで流れて配線面の電子素子搭載部を覆うおそれがあった。そして、溶融したろう材が回路板の配線面の電子素子搭載部を覆い、ここで凝固すると、電子素子搭載部を含んだ配線面全体への良好なニッケルメッキや、電子素子搭載部への電子素子の良好なはんだ付けが困難になる。しかも、凝固したろう材上からニッケルメッキを施した回路板の配線面の電子素子搭載部に電子素子をはんだ付すると、電子素子の熱サイクル寿命を低下させるおそれがある。
そこで、このような問題を解決したパワーモジュール用ベースの製造方法として、セラミック製電気絶縁板の一面とアルミニウム製回路板とをろう付すると同時に、電気絶縁板の他面とアルミニウム製伝熱板とをろう付して絶縁回路基板を製造した後に、絶縁回路基板の伝熱板をヒートシンクにろう付またははんだ付する方法が提案されている(特許文献2参照)。特許文献2記載の方法において、電気絶縁板と回路板および伝熱板とのろう付は、電気絶縁板と回路板および伝熱板との間にろう材層を配置して行われるが、当該ろう材層としては、表面に回路板の外周縁部が配置される外周部分と、この外周部分に囲まれた内側部分とを備えており、内側部分が、直径0.1μm以下の超微粒子粉末のろう材により形成され、外周部分が、内側部分のろう材よりも粒径が大きいろう材により形成されているものが用いられている。
しかしながら、特許文献2記載のパワーモジュール用ベースの製造方法では、電気絶縁板と回路板および伝熱板とのろう付に用いられるろう材層のコストが高くなり、絶縁回路基板およびパワーモジュール用ベースの製造コストが高くなるという問題がある。
実公平8−10202号公報
特開2008−181939号公報
この発明の目的は、上記問題を解決し、コストの安い絶縁回路基板の製造方法を提供することにある。
本発明は、上記目的を達成するために以下の態様からなる。
1)電気絶縁板の一面に導電材料製回路板がろう付され、回路板における電気絶縁板にろう付された面とは反対側の面が電子素子搭載部を有する配線面となされており、電気絶縁板が回路板よりも大きく、かつ電気絶縁板の輪郭が回路板の輪郭よりも外側に位置している絶縁回路基板を製造する方法であって、
電気絶縁板と回路板とを、両者間にろう材層が存在するように積層し、ろう材層の輪郭の少なくとも一部分を回路板の輪郭よりも内側に位置させ、この状態で電気絶縁板、回路板およびろう材層を加熱し、ろう材層から溶け出したろう材を用いて電気絶縁板と回路板とをろう付することを特徴とする絶縁回路基板の製造方法。
2)ろう材層の厚さを15〜50μmとし、ろう材層の輪郭の全体を回路板の輪郭よりも内側に位置させた状態で、電気絶縁板、回路板およびろう材層を加熱し、ろう材層から溶け出したろう材を用いて電気絶縁板と回路板とをろう付する上記1)記載の絶縁回路基板の製造方法。
3)回路板の輪郭における任意の点からろう材層の輪郭までの最短距離のうちの最小値をL1mm、回路板の輪郭における任意の点からろう材層の輪郭までの最短距離のうちの最大値をL2mm、回路板の面積をSmm2とした場合、ろう材層の厚さが15μmの場合に0.0010≦L1/S、L2/S≦0.0048であり、ろう材層の厚さが50μmの場合に0.0085≦L1/S、L2/S≦0.0129であり、さらにろう材層の厚さが15〜50μmの範囲内において、0.0010≦L1/S≦0.0085、0.0048≦L2/S≦0.0129という条件を満足する上記2)記載の絶縁回路基板の製造方法。
4)ろう材層の厚さをtとした場合、L1/S、およびL2/Sがろう材層の厚さtの式で表され、ろう材層の厚さが15〜50μmの範囲内において、L1/S=0.0177−(1/806){1.5626+(2.685/t)}1/2となり、L2/S=0.0231−(1.305/806){1.5626+(1.885/t)}1/2となる上記3)記載の絶縁回路基板の製造方法。
5)電気絶縁板がAlN、Al2O3およびSi3N4よりなる群から選ばれた1種の材料からなり、回路板がアルミニウムからなり、ろう材層がAl−Si合金系ろう材からなる上記1)〜4)のうちのいずれかに記載の絶縁回路基板の製造方法。
6)ろう材層が、回路板および電気絶縁板とは別個に形成されたろう材箔からなる上記1)〜5)のうちのいずれかに記載の絶縁回路基板の製造方法。
7)電気絶縁板の一面に導電材料製回路板がろう付されるとともに、回路板における電気絶縁板にろう付された面とは反対側の面が電子素子搭載面となされており、電気絶縁板が回路板よりも大きくかつ電気絶縁板の輪郭が回路板の輪郭よりも外側に位置している絶縁回路基板と、絶縁回路基板の電気絶縁板における回路板がろう付された面とは反対側の面がろう付された冷却器とを備えているパワーモジュール用ベースを、電気絶縁板と回路板および冷却器とを、隣り合うものどうしの間に介在させたろう材層を用いてろう付することにより製造する方法であって、
上記1)〜6)のうちのいずれかに記載された方法における電気絶縁板と回路板とを両者間にろう材層が存在するように積層すると同時に、電気絶縁板と冷却器とを両者間にろう材層が存在するように積層し、電気絶縁板、回路板、冷却器およびろう材層を加熱し、ろう材層から溶け出したろう材を用いて電気絶縁板と回路板および冷却器とをろう付することを特徴とするパワーモジュール用ベースの製造方法。
8)電気絶縁板と冷却器との間に熱伝導材料製応力緩和部材を配置するとともに、電気絶縁板および冷却器と応力緩和部材との間にろう材層を配置しておき、電気絶縁板と回路板および応力緩和部材のろう付と同時に、冷却器と応力緩和部材とをろう付する上記7)記載のパワーモジュール用ベースの製造方法。
9)上記1)〜6)に記載された方法により製造された絶縁回路基板であって、
電気絶縁板と導電材料製回路板との間に、一旦溶融したろう材が再凝固して形成されるとともに回路板と同一の大きさおよび形状である再凝固ろう材層が設けられており、再凝固ろう材層が、周縁が回路板の輪郭よりも小さな第1部分と、第1部分の周囲を囲みかつ周縁が回路板の輪郭と合致した第2部分とよりなり、再凝固ろう材層の第2部分に含まれるAl−Si合金の単位体積当たりの量が、再凝固ろう材層の第1部分に含まれるAl−Si合金の単位体積当たりの量よりも多くなっている絶縁回路基板。
10)電気絶縁板と導電材料製回路板との間に形成された再凝固ろう材層において、前記第2部分に存在するAl−Si合金層の厚さが、前記第1部分に存在するAl−Si合金層の厚さよりも厚くなっている上記9)記載の絶縁回路基板。
11)回路板の輪郭における任意の点からろう材層の輪郭までの最短距離のうちの最小値をL1mm、回路板の輪郭における任意の点からろう材層の輪郭までの最短距離のうちの最大値をL2mm、回路板の面積をSmm2とした場合、0.0010≦L1/S≦0.0085、0.0048≦L2/S≦0.0129という条件を満足する上記9)または10)記載の絶縁回路基板。
上記1)〜6)の絶縁回路基板の製造方法によれば、電気絶縁板と回路板とを、両者間にろう材層が存在するように積層し、ろう材層の輪郭の少なくとも一部分を回路板の輪郭よりも内側に位置させ、この状態で電気絶縁板、回路板およびろう材層を加熱し、ろう材層から溶け出したろう材を用いて電気絶縁板と回路板とをろう付するので、電気絶縁板と回路板とのろう付の際に、電気絶縁板と回路板との間に配置したろう材が溶融してなる溶融ろう材が、回路板の輪郭を形成しかつ回路板の厚み方向に幅を持つ輪郭面を通って回路板の配線面側に流れることが抑制される。したがって、回路板の電子素子搭載部を有する配線面が再凝固したろう材により覆われることが防止され、回路板の配線面に施すニッケルメッキに欠陥が生じることが抑制されるとともに、ニッケルメッキを施した配線面の電子素子搭載部に電子素子を良好にはんだ付けすることが可能になる。しかも、電気絶縁板と回路板とのろう付に、通常のろう材を用いることが可能になり、特許文献2記載の方法で製造された絶縁回路基板に比べて製造コストが安くなる。
上記2)〜4)の絶縁回路基板の製造方法によれば、電気絶縁板と回路板とのろう付の際に、電気絶縁板と回路板との間に配置したろう材が溶融してなる溶融ろう材が、回路板の輪郭を形成しかつ回路板の厚み方向に幅を持つ輪郭面を通って回路板の配線面側に流れることが効果的に抑制される。
上記7)および8)のパワーモジュール用ベースの製造方法によれば、電気絶縁板と回路板とのろう付の際に、電気絶縁板と回路板との間に配置したろう材が溶融してなる溶融ろう材が、回路板の輪郭を形成しかつ回路板の厚み方向に幅を持つ輪郭面を通って回路板の配線面側に流れることが抑制される。したがって、回路板の電子素子搭載部を有する配線面が再凝固したろう材により覆われることが防止され、回路板の配線面に施すニッケルメッキに欠陥が生じることが抑制されるとともに、ニッケルメッキを施した配線面の電子素子搭載部に電子素子を良好にはんだ付けすることが可能になる。しかも、電気絶縁板と回路板とのろう付に、通常のろう材を用いることが可能になり、特許文献2記載の方法で製造された絶縁回路基板に比べて製造コストが安くなる。
上記9)〜11)の絶縁回路基板の場合、溶融後に硬化したろう材によって、回路板の配線面における電子素子搭載部が覆われることが防止される。
この発明の方法により製造された絶縁回路基板を有するパワーモジュール用ベースにパワーデバイスが実装されたパワーモジュールを示す垂直断面図である。
図1のパワーモジュール用ベースにおいて、電気絶縁板と回路板との間に形成された再凝固ろう材層を示す図である。
図1のパワーモジュール用ベースを製造する方法において、電気絶縁板と回路板との間に配置されるろう材箔と、回路板との関係を示す図である。
L1/SおよびL2/Sとろう材箔の厚さとの関係を表すグラフである。
図1のパワーモジュール用ベースを製造する方法において、電気絶縁板と回路板との間に配置されるろう材箔の第1の変形例を示す図3相当の図である。
図1のパワーモジュール用ベースを製造する方法において、電気絶縁板と回路板との間に配置されるろう材箔の第2の変形例を示す図3相当の図である。
図1のパワーモジュール用ベースを製造する方法において、電気絶縁板と回路板との間に配置されるろう材箔の第3の変形例を示す図3相当の図である。
以下、この発明の実施形態を、図面を参照して説明する。なお、以下の説明において、図1の上下を上下というものとする。
図1はこの発明による絶縁回路基板を備えたパワーモジュール用ベースにおける回路板の電子素子搭載部にパワーデバイスが実装されたパワーモジュールを示し、図2は絶縁回路基板を示す。また、図3および図4はパワーモジュール用ベースの製造方法を示す。
図1において、パワーモジュール(1)は、パワーモジュール用ベース(2)と、パワーモジュール用ベース(2)に実装されたパワーデバイス(3)(電子素子)とよりなる。
パワーモジュール用ベース(2)は、長方形のセラミックス製電気絶縁板(5)、電気絶縁板(5)の上面にろう付された長方形の導電材料製回路板(6)、および電気絶縁板(5)の下面にろう付された長方形の熱伝導材料製応力緩和板(7)(応力緩和部材)からなる絶縁回路基板(4)と、絶縁回路基板(4)の応力緩和板(7)の下面がろう付されたアルミニウム製冷却器(8)とからなる。なお、図1においては1つの絶縁回路基板(4)だけが図示されているが、パワーモジュール用ベース(2)は、複数の絶縁回路基板(4)を備えているのが一般的である。
絶縁回路基板(4)の電気絶縁板(5)は、必要とされる絶縁特性、熱伝導率および機械的強度を満たしていれば、どのようなセラミックから形成されていてもよいが、たとえばAlN、Al2O3、Si3N4などにより形成される。電気絶縁板(5)は回路板(6)および応力緩和板(7)よりも大きく、電気絶縁板(5)の輪郭は回路板(6)および応力緩和板(7)の輪郭よりも外側に位置している。
回路板(6)は、導電性に優れたアルミニウム、銅などの金属により形成されるが、電気伝導率および熱伝導率が高く、変形能が高く、しかも半導体素子とのはんだ付け性に優れた純度の高い純アルミニウム、たとえば純度99.99質量%以上の純アルミニウムにより形成されていることが好ましい。回路板(6)の厚さは、電気伝導性および熱伝導性を考慮して、5mm以下、好ましくは0.2mm以下とされるのが通常である。回路板(6)の上面、すなわち回路板(6)における電気絶縁板(5)にろう付された面とは反対側の面は、電子素子搭載部(11)を有する配線面(9)となされている。
応力緩和板(7)は、熱伝導性に優れたアルミニウム、銅などの金属により形成されるが、熱伝導率が高く、しかも変形能が高い純アルミニウム、たとえば純度99.99質量%以上の純アルミニウムにより形成されていることが好ましい。応力緩和板(7)に、応力緩和板(7)の厚み方向(上下方向)にのびる複数の貫通穴(12)が形成されている。なお、応力緩和板(7)には、必ずしも貫通穴が形成されている必要はない。
冷却器(8)は、複数の冷却流体通路(13)が並列状に設けられた扁平中空状であり、熱伝導性に優れるとともに、軽量であるアルミニウムにより形成されていることが好ましい。冷却流体としては、液体および気体のいずれを用いてもよい。なお、冷却器(8)としては、ケース内にインナーフィンが配置されたものが用いられてもよい。
パワーデバイス(3)は、絶縁回路基板(4)の回路板(6)の配線面(9)における電子素子搭載部(11)上にはんだ付けされており、これによりパワーモジュール用ベース(2)に実装されている。パワーデバイス(3)から発せられる熱は、回路板(6)、電気絶縁板(5)および応力緩和板(7)を経て冷却器(8)に伝えられ、冷却流体通路(13)内を流れる冷却流体に放熱されるようになっている。
図1においては図示は省略したが、電気絶縁板(5)と回路板(6)、電気絶縁板(5)と応力緩和板(7)、および応力緩和板(7)と冷却器(8)とは、それぞれSi10質量%、Mg1質量%を含み、残部Alおよび不可避不純物からなるアルミニウムろう材を用いてろう付されており、電気絶縁板(5)と回路板(6)、電気絶縁板(5)と応力緩和板(7)、および応力緩和板(7)と冷却器(8)との間にはそれぞれ一旦溶融したろう材が再凝固して形成された再凝固ろう材層が設けられている。
図2に示すように、電気絶縁板(5)と回路板(6)との間に設けられた再凝固ろう材層(14)は、回路板(6)(図2においては図示略)と同一の大きさおよび形状である。再凝固ろう材層(14)は、輪郭が回路板(6)の輪郭よりも小さな第1部分(15)と、第1部分(15)の周囲を囲みかつ輪郭が回路板(6)の輪郭と合致した第2部分(16)とよりなる。再凝固ろう材層(14)の第2部分(16)に含まれるAl−Si合金の単位体積(再凝固ろう材層(14)の単位体積)当たりの量は、再凝固ろう材層(14)の第1部分(15)に含まれるAl−Si合金の単位体積(再凝固ろう材層(14)の単位体積)当たりの量よりも多くなっていることが好ましい。なお、再凝固ろう材層(14)の上述したような構成、すなわち第1部分(15)および第2部分(16)の形状および大きさとAl−Si合金の量については、たとえば塩化第二鉄液を用いて絶縁回路基板(4)の回路板(6)を溶解除去することによって確認することができる。すなわち、塩化第二鉄液によりAlからなる部分が溶解除去されるので、電気絶縁板(5)上にSiが残留することになり、第2部分(16)の残留Si量が第1部分(15)の残留Si量よりも多くなる。
また、電気絶縁板(5)と回路板(6)との間に設けられた再凝固ろう材層(14)において、第2部分(16)に存在するAl−Si合金層の厚さが、第1部分(15)に存在するAl−Si合金層の厚さよりも厚くなっていることが好ましい。たとえば、再凝固ろう材層(14)の第1部分(15)におけるAl−Si合金層の厚さは1〜3μm程度であり、同じく第2部分(16)におけるAl−Si合金層の厚さは3〜10μm程度である。再凝固ろう材層(14)の第1部分(15)および第2部分(16)におけるAl−Si合金層の厚さについては、たとえば再凝固ろう材層(14)の断面を露出させ、アルゴンビームで断面の表面を処理した後に、走査電子顕微鏡を用いたEDS(エネルギ分散型X線分光)による元素分析を行うことで確認することができる。
ここで、回路板(6)の輪郭、すなわち第2部分(16)の輪郭における任意の点からろう材層の第1部分(15)の輪郭までの最短距離のうちの最小値をL1mm、第2部分(16)(回路板(6))の輪郭における任意の点からろう材層の第1部分(15)の輪郭までの最短距離のうちの最大値をL2mm、回路板(6)の面積、すなわち第1部分(15)および第2部分(16)の合計面積をSmm2とした場合、0.0010≦L1/S≦0.0085、0.0048≦L2/S≦0.0129という条件を満足していることが好ましい。
以下、パワーモジュール用ベース(2)の製造方法について説明する。
まず、冷却器(8)上に、応力緩和板(7)、電気絶縁板(5)および回路板(6)をこの順序で配置する。冷却器(8)と応力緩和板(7)との間、応力緩和板(7)と電気絶縁板(5)との間および電気絶縁板(5)と回路板(6)との間に、それぞれアルミニウムろう材層を設けておく。ろう材層は、たとえばSi10質量%、Mg1質量%を含み、残部Alおよび不可避不純物からなるアルミニウムろう材からなる。
冷却器(8)と応力緩和板(7)との間に配置されるろう材層は、アルミニウムろう材からなる箔や、心材の両面にろう材層が形成されたアルミニウムブレージングシートなどからなる。また、冷却器(8)と応力緩和板(7)との間に配置されるろう材層は、応力緩和板(7)の下面に予めクラッドされていてもよい。応力緩和板(7)と電気絶縁板(5)との間に配置されるろう材層は、アルミニウムろう材からなる箔や、心材の両面にろう材層が形成されたアルミニウムブレージングシートからなる。また、応力緩和板(7)と電気絶縁板(5)との間に配置されるろう材層は、応力緩和板(7)の上面に予めクラッドされていてもよい。
電気絶縁板(5)と回路板(6)との間に配置されるろう材層は、上述したアルミニウムろう材によって形成され、かつ電気絶縁板(5)および回路板(6)とは別個に形成されたろう材箔(17)からなる。ろう材箔(17)の厚さは15〜50μmであることが好ましい。また、ろう材箔(17)は、図3に示すように、回路板(6)と相似の方形であり、両者の中心が一致するとともに、ろう材箔(17)の輪郭の全体が回路板(6)の輪郭よりも内側に位置させた状態でろう材箔(17)が配置されている。なお、回路板(6)およびろう材箔(17)の長辺どうしおよび短辺どうしは平行または平行に近くなっている。
ここで、回路板(6)の輪郭における任意の点からろう材箔(17)の輪郭までの最短距離のうちの最小値をL1mm、回路板(6)の輪郭における任意の点からろう材箔(17)の輪郭までの最短距離のうちの最大値をL2mm、回路板(6)の面積をSmm2とした場合、ろう材箔(17)の厚さが15μmの場合に0.0010≦L1/S、L2/S≦0.0048であり、ろう材箔(17)の厚さが50μmの場合に0.0085≦L1/S、L2/S≦0.0129であり、さらにろう材箔(17)の厚さが15〜50μmの範囲内において、0.0010≦L1/S≦0.0085、0.0048≦L2/S≦0.0129という条件を満足していることが好ましい。また、ろう材箔(17)の厚さをtとし、L1/S、およびL2/Sをろう材箔(17)の厚さtの式で表した場合、ろう材箔(17)の厚さが15〜50μmの範囲内においては、L1/S=0.0177−(1/806){1.5626+(2.685/t)}1/2となり、L2/S=0.0231−(1.305/806){1.5626+(1.885/t)}1/2となっていることが好ましい。L1/SおよびL2/Sの曲線を図4に示す。L1/S<0.0177−(1/806){1.5626+(2.685/t)}1/2の場合、製造された絶縁回路基板(4)において、回路板(6)の配線面(9)に再凝固したろう材が存在することがある。しかしながら、この場合にも、再凝固したろう材は回路板(6)の配線面(9)の一部を覆っているだけであって配線面(9)への良好なニッケルメッキや、配線面(9)の電子素子搭載部(11)への電子素子の良好なはんだ付けを妨げる程ではない。一方、L2/S>0.0231−(1.305/806){1.5626+(1.885/t)}1/2の場合、回路板(6)の輪郭寄りの部分と電気絶縁板(5)との間に未ろう付部が生じることがあり、その場合回路板(6)から電気絶縁板(5)への熱伝導性が低下するおそれがある。
その後、適当な治具により回路板(6)、電気絶縁板(5)、応力緩和板(7)および冷却器(8)を加圧した状態にして仮止めしたものを真空雰囲気とされた加熱炉中に入れ、この状態で回路板(6)、電気絶縁板(5)、応力緩和板(7)、冷却器(8)、ろう材箔(17)およびろう材層を適当な温度に適当な時間加熱し、ろう材箔(17)から溶け出したろう材を用いて電気絶縁板(5)と回路板(6)とをろう付するとともに、ろう材層から溶け出したろう材を用いて電気絶縁板(5)と応力緩和板(7)とをろう付することにより絶縁回路基板(4)を製造すると同時に、ろう材層から溶け出したろう材を用いて絶縁回路基板(4)の応力緩和板(7)と冷却器(8)とをろう付する。こうして、パワーモジュール用ベース(2)が製造される。
上記実施形態においては、電気絶縁板(5)と回路板(6)とをろう付するろう付層は、電気絶縁板(5)および回路板(6)とは別個に形成されたろう材箔(17)からなるが、これに代えて、回路板(6)に予めクラッドされていてもよい。
また、上記実施形態においては、電気絶縁板(5)と冷却器(8)との間に応力緩和板(7)が配置されているが、応力緩和板(7)は必ずしも必要とはせず、電気絶縁板(5)が直接冷却器(8)にろう付されていてもよい。
次に、この発明の具体的実施例を比較例とともに述べる。
実施例1〜16および比較例
この実施例は、図1に示すパワーモジュール用ベースを製造したものである。
焼結助剤を含んだAlNからなりかつ厚さ:0.63mm、縦:29mm、横:34mmの電気絶縁板(5)と、純度99.99wt%の純アルミニウムからなりかつ厚さ:0.6mm、縦:26mm、横:31mmの回路板(6)と、純度99.99wt%の純アルミニウムからなりかつ厚さ:1.6mm、縦:26mm、横:31mmの応力緩和板(7)とを用意した。また、冷却器(8)の代わりに、JIS A3003からなりかつ厚さ:5mm、縦:50mm、横60mmのアルミニウム板を用意した。
さらに、Si10質量%、Mg1質量%を含み、残部Alおよび不可避不純物からなるアルミニウムろう材を用いて、回路板(6)および応力緩和板(7)と相似形状であるとともに、厚さおよび縦横の寸法が異なる複数のろう材箔(17)(実施例1〜16)と、回路板(6)および応力緩和板(7)と合同形状であるとともに、厚さの異なる複数のろう材箔(17)とをつくった(比較例1〜3)。
ついで、アルミニウム板、応力緩和板(7)、電気絶縁板(5)および回路板(6)を、電気絶縁板(5)と回路板(6)および応力緩和板(7)との間に上述したろう材箔(17)を配置するとともに、アルミニウム板と応力緩和板(7)との間にSi10質量%、Mg1質量%を含み、残部Alおよび不可避不純物からなるアルミニウムろう材によって形成され、かつ厚さおよび縦横の寸法が適当なろう材箔(17)を配置した状態で積層し、8g/mm2の面圧を負荷しながら適当な治具により仮止めした。
ここで、電気絶縁板(5)と回路板(6)および応力緩和板(7)との間に配置したろう材箔(17)の厚さ、回路板(6)の輪郭における任意の点からろう材層の輪郭までの最短距離のうちの最小値:L1mm、回路板(6)の輪郭における任意の点からろう材箔(17)の輪郭までの最短距離のうちの最大値:L2mm、ならびに回路板(6)の面積をSmm
2とした場合のL1/SおよびL2/Sを表1に示す。
その後、アルミニウム板、応力緩和板(7)、電気絶縁板(5)および回路板(6)を加圧状態で仮止めしたものを真空雰囲気とされた加熱炉中に入れ、600℃で15分間加熱し、ろう材箔(17)から溶け出したろう材を用いて電気絶縁板(5)と回路板(6)および応力緩和板(7)とをろう付することにより絶縁回路基板(4)を製造すると同時に、ろう材箔から溶け出したろう材を用いて絶縁回路基板(4)の応力緩和板(7)とアルミニウム板とをろう付した。
評価
実施例1〜16および比較例において電気絶縁板(5)にろう付された回路板(6)の配線面(9)を観察した。
その結果を表1の表面観察結果の欄に示す。表1の表面観察結果の欄において、○印は回路板(6)の配線面(9)に再凝固したろう材が全く存在していなかったことを表し、△印は回路板(6)の配線面(9)に再凝固したろう材が存在するものの、再凝固したろう材は回路板(6)の配線面(9)の一部を覆っているだけであって配線面(9)への良好なニッケルメッキや、配線面(9)の電子素子搭載部(11)への電子素子の良好なはんだ付けを妨げる程ではないことを表す。また、×印は再凝固したろう材は回路板(6)の配線面(9)全体を覆っていることを表す。
表1に示す結果から、ろう材箔(17)の輪郭が回路板(6)の輪郭よりも内側に位置している場合には、製造された絶縁回路基板(4)の回路板(6)の配線面(9)への良好なニッケルメッキ性や、配線面(9)の電子素子搭載部(11)への電子素子のはんだ付け性が低下しないことが分かる。
図5〜図7は電気絶縁板(5)と回路板(6)とをろう付するろう材箔の変形例を示す。
図5に示すろう材箔(20)の場合、ろう材箔(20)は、回路板(6)と相似の方形であるとともに、ろう材箔(20)の輪郭の全体が回路板(6)の輪郭よりも内側に位置させた状態で配置されるが、ろう材箔(20)と回路板(6)との中心はずれている。なお、回路板(6)およびろう材箔(20)の長辺どうしおよび短辺どうしは平行または平行に近くなっている。
このろう材箔(20)を用いた場合、回路板(6)の輪郭における任意の点からろう材層の輪郭までの最短距離のうちの最小値:L1mm、および回路板(6)の輪郭における任意の点からろう材箔(20)の輪郭までの最短距離のうちの最大値:L2mmは図5に示す通りとなる。
図6に示すろう材箔(21)の場合、ろう材箔(21)はひし形であり、ろう材箔(21)と回路板(6)との中心が一致するように、ろう材箔(21)の輪郭の全体が回路板(6)の輪郭よりも内側に位置させた状態で配置される。なお、ろう材箔(21)の長い対角線は回路板(6)の長辺と平行または平行に近くなり、短い対角線は回路板(6)の短辺と平行または平行に近くなる。
このろう材箔(21)を用いた場合、回路板(6)の輪郭における任意の点からろう材層の輪郭までの最短距離のうちの最小値:L1mm、および回路板(6)の輪郭における任意の点からろう材箔(21)の輪郭までの最短距離のうちの最大値:L2mmは図6に示す通りとなる。
図7に示すろう材箔(22)の場合、ろう材箔(22)はだ円形であり、ろう材箔(22)と回路板(6)との中心が一致するように、ろう材箔(22)の輪郭の全体が回路板(6)の輪郭よりも内側に位置させた状態で配置される。なお、ろう材箔(22)の長径は回路板(6)の長辺と平行または平行に近くなり、短径は回路板(6)の短辺と平行または平行に近くなる。
このろう材箔(22)を用いた場合、回路板(6)の輪郭における任意の点からろう材層の輪郭までの最短距離のうちの最小値:L1mm、および回路板(6)の輪郭における任意の点からろう材箔(22)の輪郭までの最短距離のうちの最大値:L2mmは図7に示す通りとなる。
図5〜図7に示すこのろう材箔(20)(21)(22)においても、回路板(6)の面積をSmm2とすると、厚さが15μmの場合に0.0010≦L1/S、L2/S≦0.0048であり、厚さが50μmの場合に0.0085≦L1/S、L2/S≦0.0129であり、さらにろう材層の厚さが15〜50μmの範囲内において、0.0010≦L1/S≦0.0085、0.0048≦L2/S≦0.0129という条件を満足していることが好ましい。また、ろう材箔(20)(21)(22)の厚さをtとし、L1/S、およびL2/Sをろう材箔(20)(21)(22)の厚さtの式で表した場合、ろう材箔(22)の厚さが15〜50μmの範囲内においては、L1/S=0.0177−(1/806){1.5626+(2.685/t)}1/2となり、L2/S=0.0231−(1.305/806){1.5626+(1.885/t)}1/2となっていることが好ましい。
(1):パワーモジュール
(2):パワーモジュール用ベース
(3):パワーデバイス
(4):絶縁回路基板
(5):電気絶縁板
(6):回路板
(7):応力緩和板(応力緩和部材)
(8):冷却器
(9):配線面
(11):電子素子搭載部
(14):再凝固ろう材層
(15):第1部分
(16):第2部分
(17)(20)(21)(22):ろう材箔