JP2013035980A - 難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物および成形品 - Google Patents
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Abstract
【課題】非ハロゲン・非リン系の特定の水酸化アルミニウムを用いて、難燃性に優れ、熱変形温度が高く靭性に優れる成形品を得ることができる難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】(A)熱可塑性ポリエステル樹脂および(B)水酸化アルミニウムとベーマイト化を遅延させる反応遅延剤とを混合した原料に水を加えることなく、圧力容器内で170℃〜300℃の温度で加熱することにより得られる水酸化アルミニウムを含有し、(A)成分および(B)成分の合計100重量%中、(A)成分を65〜99.5重量%、(B)成分を0.5〜35重量%含有する難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【選択図】なし
【解決手段】(A)熱可塑性ポリエステル樹脂および(B)水酸化アルミニウムとベーマイト化を遅延させる反応遅延剤とを混合した原料に水を加えることなく、圧力容器内で170℃〜300℃の温度で加熱することにより得られる水酸化アルミニウムを含有し、(A)成分および(B)成分の合計100重量%中、(A)成分を65〜99.5重量%、(B)成分を0.5〜35重量%含有する難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【選択図】なし
Description
本発明は、難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物およびそれを成形して得られる成形品に関する。特に、熱可塑性ポリエステル樹脂に非ハロゲン・非リン系難燃剤の特定の水酸化アルミニウムを含有することにより、難燃性に優れ、熱変形温度が高く靭性に優れる成形品を得ることができる難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物およびそれを成形して得られる成形品に関するものである。
熱可塑性ポリエステル樹脂は、その優れた射出成形性や機械物性などの諸特性を生かし、機械機構部品、電気・電子部品、自動車部品および筐体などの幅広い分野に利用されている。熱可塑性ポリエステル樹脂は、高い融点を持つ結晶性プラスチックスであるため、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の溶融混練や射出成形機には、高い加工温度が必要とされている。また、熱可塑性ポリエステル樹脂は、本質的に可燃性であるため、機械機構部品、電気・電子部品、自動車部品などの工業用材料として使用するためには、一般の化学的、物理的諸特性のバランスに加えて、火炎に対する安全性、すなわち難燃性が要求され、UL−94規格に適合する難燃性が必要とされる場合が多い。
熱可塑性ポリエステル樹脂に難燃性を付与する方法としては、難燃剤としてハロゲン系有機化合物、さらに難燃助剤としてアンチモン化合物を樹脂に配合する方法あるいはリン系難燃剤、さらに難燃助剤を樹脂にコンパウンドする方法が一般的であるが、環境意識の高まりから、ハロゲン系難燃材料の環境に及ぼす影響を懸念する動きがある。また、リン系難燃剤から微量生成するリン酸による影響やリン酸トリフェニルのように接触性アレルギーの原因となるリン系難燃剤の環境への影響が懸念されている。そこで、近年これらハロゲンやリンを全く含まない非ハロゲン・非リン系難燃剤を用いることが望まれるようになり、熱可塑性ポリエステル樹脂に金属水和物を配合することが提案されている。
例えば、熱可塑性ポリエステル樹脂に金属水和物として脱水開始温度が約450℃のベーマイト(化学名:水酸化酸化アルミニウム)を配合することが開示されている(例えば、特許文献1〜2参照)。しかしながら、高度な難燃性を得るためにはベーマイトを多量に添加する必要があり、引張強度など靭性に大きく劣る課題があった。また、特許文献1の比較例には、熱可塑性ポリエステル樹脂に脱水開始温度が約200℃の水酸化アルミニウムを配合することが例示され、溶融混練時に発泡が起こり、樹脂組成物が得られないという開示があった。また、熱可塑性ポリエステル樹脂に金属水和物として脱水開始温度が約320℃の水酸化マグネシウムを配合することが開示されている(例えば、特許文献3参照)。しかしながら、高度な難燃性を得るためには水酸化マグネシウムを多量に添加する必要があり、また、水酸化マグネシウムは一般に塩基性を示すため熱可塑性ポリエステル樹脂の引張強度など靭性に大きく劣る課題があった。
このように、特許文献1〜3で提案されている技術では、高度な難燃性を得るためには、ベーマイトや水酸化マグネシウムを多量に配合する必要があり、引張強度など靭性に大きく劣る課題があり、近年の機械機構部品、電気・電子部品、自動車部品および筐体の要求を満足できる新たな非ハロゲン・非リン系の難燃技術の開発が待望されていた。
本発明は、非ハロゲン・非リン系の特定の水酸化アルミニウムを用いて、難燃性に優れ、熱変形温度が高く靭性に優れる成形品を得ることができる難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を提供することを課題とする。
本発明者らは、上記した課題を解決するために検討を重ねた結果、水酸化アルミニウムとベーマイト化を遅延させる反応遅延剤とを混合した原料に水を加えることなく、圧力容器内で170℃〜300℃の温度で加熱することにより得られる、特定の水酸化アルミニウム(以下、「乾式処理水酸化アルミニウム」と記載する場合がある。)を特定量含有することにより、上記した課題を解決できることを見いだし本発明に到達した。
すなわち、かかる課題を解決するための本発明は、次の構成を特徴とするものである。
(1)(A)熱可塑性ポリエステル樹脂および(B)水酸化アルミニウムとベーマイト化を遅延させる反応遅延剤とを混合した原料に水を加えることなく、圧力容器内で170℃〜300℃の温度で加熱することにより得られる水酸化アルミニウム(乾式処理水酸化アルミニウム)を含有し、(A)成分および(B)成分の合計100重量%中、(A)成分を65〜99.5重量%、(B)成分を0.5〜35重量%含有する難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
(2)さらに、(A)成分と(B)成分の合計100重量部に対し、(C)難燃助剤0.1〜20重量部を含有する(1)に記載の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
(3)(1)または(2)に記載の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を溶融成形して得られる成形品であって、成形品中における(B)成分の平均粒径が1μm〜9μmの範囲にある成形品。
(4)(1)または(2)に記載の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を溶融成形して得られる成形品であって、難燃性規格UL−94 V−2に適合する難燃性を有する成形品。
(5)少なくとも(A)成分および(B)成分を溶融混練する難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の製造方法であって、樹脂温度を200℃〜300℃に制御しつつ、0.3kWh/kg〜1kWh/kgの混練エネルギーを付与することを特徴とする(1)または(2)に記載の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の製造方法。
(1)(A)熱可塑性ポリエステル樹脂および(B)水酸化アルミニウムとベーマイト化を遅延させる反応遅延剤とを混合した原料に水を加えることなく、圧力容器内で170℃〜300℃の温度で加熱することにより得られる水酸化アルミニウム(乾式処理水酸化アルミニウム)を含有し、(A)成分および(B)成分の合計100重量%中、(A)成分を65〜99.5重量%、(B)成分を0.5〜35重量%含有する難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
(2)さらに、(A)成分と(B)成分の合計100重量部に対し、(C)難燃助剤0.1〜20重量部を含有する(1)に記載の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
(3)(1)または(2)に記載の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を溶融成形して得られる成形品であって、成形品中における(B)成分の平均粒径が1μm〜9μmの範囲にある成形品。
(4)(1)または(2)に記載の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を溶融成形して得られる成形品であって、難燃性規格UL−94 V−2に適合する難燃性を有する成形品。
(5)少なくとも(A)成分および(B)成分を溶融混練する難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の製造方法であって、樹脂温度を200℃〜300℃に制御しつつ、0.3kWh/kg〜1kWh/kgの混練エネルギーを付与することを特徴とする(1)または(2)に記載の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の製造方法。
本発明の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物によれば、非ハロゲン・非リン系の特定の水酸化アルミニウムを難燃剤に用いて、難燃性に優れ、熱変形温度が高く靭性に優れる成形品を得ることができる。本発明の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を成形して得られる成形品は、機械機構部品、電気・電子部品、自動車部品または筐体などの成形品として有用である。
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明における(A)熱可塑性ポリエステル樹脂は、(イ)ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とジオールまたはそのエステル形成性誘導体、(ロ)ヒドロキシカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体、(ハ)ラクトンから選択された一種以上を主構造単位とする重合体または共重合体である。ここで、主構造単位とするとは、全構造単位中(イ)〜(ハ)から選択された一種以上を50モル%以上有することを指し、80モル%以上有することが好ましい。
上記ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、ビス(p−カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、5−テトラブチルホスホニウムイソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、マロン酸、グルタル酸、ダイマー酸などの脂肪族ジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸およびこれらのエステル形成性誘導体などが挙げられる。
上記ジオールまたはそのエステル形成性誘導体としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、デカメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジオール、ダイマージオールなどの炭素数2〜20の脂肪族グリコール、ポリエチレングリコール、ポリ−1,3−プロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどの分子量200〜100000の長鎖グリコール、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、t−ブチルハイドロキノン、ビスフェノールA、ビスフェノールS、ビスフェノールFなどの芳香族ジオキシ化合物およびこれらのエステル形成性誘導体などが挙げられる。
ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とジオールまたはそのエステル形成性誘導体を構造単位とする重合体または共重合体としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート、ポリへキシレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリプロピレンイソフタレート、ポリブチレンイソフタレート、ポリシクロヘキサンジメチレンイソフタレート、ポリへキシレンイソフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリエチレンイソフタレート/テレフタレート、ポリプロピレンイソフタレート/テレフタレート、ポリブチレンイソフタレート/テレフタレート、ポリエチレンテレフタレート/ナフタレート、ポリプロピレンテレフタレート/ナフタレート、ポリブチレンテレフタレート/ナフタレート、ポリブチレンテレフタレート/デカンジカルボキシレート、ポリエチレンテレフタレート/シクロヘキサンジメチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート/5−ナトリウムスルホイソフタレート、ポリプロピレンテレフタレート/5−ナトリウムスルホイソフタレート、ポリブチレンテレフタレート/5−ナトリウムスルホイソフタレート、ポリエチレンテレフタレート/ポリエチレングリコール、ポリプロピレンテレフタレート/ポリエチレングリコール、ポリブチレンテレフタレート/ポリエチレングリコール、ポリエチレンテレフタレート/ポリテトラメチレングリコール、ポリプロピレンテレフタレート/ポリテトラメチレングリコール、ポリブチレンテレフタレート/ポリテトラメチレングリコール、ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート/ポリテトラメチレングリコール、ポリプロピレンテレフタレート/イソフタレート/ポリテトラメチレングリコール、ポリブチレンテレフタレート/イソフタレート/ポリテトラメチレングリコール、ポリエチレンテレフタレート/サクシネート、ポリプロピレンテレフタレート/サクシネート、ポリブチレンテレフタレート/サクシネート、ポリエチレンテレフタレート/アジペート、ポリプロピレンテレフタレート/アジペート、ポリブチレンテレフタレート/アジペート、ポリエチレンテレフタレート/セバケート、ポリプロピレンテレフタレート/セバケート、ポリブチレンテレフタレート/セバケート、ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート/アジペート、ポリプロピレンテレフタレート/イソフタレート/アジペート、ポリブチレンテレフタレート/イソフタレート/サクシネート、ポリブチレンテレフタレート/イソフタレート/アジペート、ポリブチレンテレフタレート/イソフタレート/セバケートなどの芳香族ポリエステル樹脂、ポリエチレンオキサレート、ポリプロピレンオキサレート、ポリブチレンオキサレート、ポリエチレンサクシネート、ポリプロピレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンアジペート、ポリプロピレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリネオペンチルグリコールアジペート、ポリエチレンセバケート、ポリプロピレンセバケート、ポリブチレンセバケート、ポリエチレンサクシネート/アジペート、ポリプロピレンサクシネート/アジペート、ポリブチレンサクシネート/アジペートなどの脂肪族ポリエステル樹脂などが挙げられる。ここで、“−/−”は共重合を表し、以下同じとする。
また、上記ヒドロキシカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体としては、グリコール酸、乳酸、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシ安息香酸、p−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸およびこれらのエステル形成性誘導体などが挙げられる。また、これらを構造単位とする重合体または共重合体としては、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリグリコール酸/乳酸、ポリヒドロキシ酪酸/β−ヒドロキシ酪酸/β−ヒドロキシ吉草酸などの脂肪族ポリエステル樹脂などが挙げられる。
また、上記ラクトンとしては、カプロラクトン、バレロラクトン、プロピオラクトン、ウンデカラクトン、1,5−オキセパン−2−オンなどが挙げられる。また、これらを構造単位とする重合体または共重合体としては、ポリカプロラクトン、ポリバレロラクトン、ポリプロピオラクトン、ポリカプロラクトン/バレロラクトンなどが挙げられる。
これらの中で、ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とジオールまたはそのエステル形成性誘導体やヒドロキシカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体を主構造単位とする重合体または共重合体が好ましい。また、ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とジオールまたはそのエステル形成性誘導体を主構造単位とする重合体または共重合体の中でも、芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体と脂肪族ジオールまたはそのエステル形成性誘導体を主構造単位とする重合体または共重合体がより好ましく、テレフタル酸またはそのエステル形成性誘導体とエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオールから選ばれる脂肪族ジオールまたはそのエステル形成性誘導体を主構造単位とする重合体または共重合体がさらに好ましい。中でも、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリエチレンイソフタレート/テレフタレート、ポリプロピレンイソフタレート/テレフタレート、ポリブチレンイソフタレート/テレフタレート、ポリエチレンテレフタレート/ナフタレート、ポリプロピレンテレフタレート/ナフタレート、ポリブチレンテレフタレート/ナフタレートなどの芳香族ポリエステル樹脂が特に好ましく、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートおよびポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレートから選ばれる少なくとも一種の芳香族ポリエステル樹脂が最も好ましい。また、これらを2種以上任意の配合量で用いることもできる。
本発明において、上記ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とジオールまたはそのエステル形成性誘導体を主構造単位とする重合体または共重合体中の全ジカルボン酸に対するテレフタル酸またはそのエステル形成性誘導体の割合が30モル%以上であることが好ましく、40モル%以上であることがさらに好ましい。
本発明において、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂として、溶融時に異方性を形成し得る液晶性ポリエステルを用いてもよい。液晶性ポリエステルの構造単位としては、芳香族オキシカルボニル単位、芳香族ジオキシ単位、芳香族および/または脂肪族ジカルボニル単位、アルキレンジオキシ単位、芳香族イミノオキシ単位などが挙げられる。
本発明で用いる(A)熱可塑性ポリエステル樹脂のカルボキシル末端基量は、流動性、耐加水分解性および耐熱性の点で、50eq/t以下であることが好ましく、30eq/t以下であることがより好ましく、20eq/t以下であることがさらに好ましく、10eq/t以下であることが特に好ましい。下限は0eq/tである。
前記の(A)熱可塑性ポリエステル樹脂のカルボキシル末端基量は、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂1.5gをo−クレゾール/クロロホルム=2/1(vol/ml)混合溶液50mlに溶解させた後、0.05Nの水酸化カリウムエタノール溶液で滴定することにより測定することができる。
本発明で用いる(A)熱可塑性ポリエステル樹脂のヒドロキシ末端基量は、成形性および流動性の点で、50eq/t以上であることが好ましく、80eq/t以上であることがより好ましく、100eq/t以上であることがさらに好ましく、120eq/t以上であることが特に好ましい。なお、上限は180eq/tである。
本発明の(A)熱可塑性ポリエステル樹脂の粘度は、成形性の点で、o−クロロフェノール溶液を25℃で測定したときの固有粘度が0.50〜1.50dl/gの範囲であることが好ましい。
本発明で用いる(A)成分の熱可塑性ポリエステル樹脂の分子量は、耐熱性の点で、重量平均分子量(Mw)8000を超え500000以下の範囲であることが好ましく、8000を超え300000以下の範囲であることがより好ましく、8000を超え250000以下の範囲であることがさらに好ましい。本発明において、ポリエステル樹脂のMwは、溶媒としてヘキサフルオロイソプロパノールを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したポリメチルメタクリレート(PMMA)換算の値である。
本発明における(A)熱可塑性ポリエステル樹脂は、公知の重縮合法や開環重合法などにより製造することができる。バッチ重合および連続重合のいずれでもよく、また、エステル交換反応および直接重合による反応のいずれでも適用することができるが、カルボキシル末端基量を少なくすることができ、かつ、流動性向上効果が大きくなるという点で、連続重合が好ましく、コストの点で、直接重合が好ましい。
本発明の(A)熱可塑性ポリエステル樹脂が、ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とジオールまたはそのエステル形成性誘導体とを主成分とする縮合反応により得られる重合体ないしは共重合体である場合には、ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とジオールまたはそのエステル形成性誘導体とを、エステル化反応またはエステル交換反応し、次いで重縮合反応することにより製造することができる。なお、エステル化反応またはエステル交換反応および重縮合反応を効果的に進めるために、これらの反応時に重合反応触媒を添加することが好ましい。重合反応触媒の具体例としては、チタン酸のメチルエステル、テトラ−n−プロピルエステル、テトラ−n−ブチルエステル、テトライソプロピルエステル、テトライソブチルエステル、テトラ−tert−ブチルエステル、シクロヘキシルエステル、フェニルエステル、ベンジルエステル、トリルエステル、あるいはこれらの混合エステルなどの有機チタン化合物、ジブチルスズオキシド、メチルフェニルスズオキシド、テトラエチルスズ、ヘキサエチルジスズオキシド、シクロヘキサヘキシルジスズオキシド、ジドデシルスズオキシド、トリエチルスズハイドロオキシド、トリフェニルスズハイドロオキシド、トリイソブチルスズアセテート、ジブチルスズジアセテート、ジフェニルスズジラウレート、モノブチルスズトリクロライド、ジブチルスズジクロライド、トリブチルスズクロライド、ジブチルスズサルファイド、ブチルヒドロキシスズオキシド、メチルスタンノン酸、エチルスタンノン酸、ブチルスタンノン酸などのアルキルスタンノン酸などのスズ化合物、ジルコニウムテトラ−n−ブトキシドなどのジルコニア化合物、三酸化アンチモン、酢酸アンチモンなどのアンチモン化合物などが挙げられる。これらの中でも有機チタン化合物およびスズ化合物が好ましく、さらに、チタン酸のテトラ−n−プロピルエステル、テトラ−n−ブチルエステルおよびテトライソプロピルエステルが好ましく、チタン酸のテトラ−n−ブチルエステルが特に好ましい。これらの重合反応触媒を2種以上併用することもできる。重合反応触媒の添加量は、機械特性、成形性および色調の点で、熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対して、0.005〜0.5重量部の範囲が好ましく、0.01〜0.2重量部の範囲がより好ましい。
また、(A)成分の含有量は、難燃性、熱変形温度および靭性のバランスの点から、(A)成分および(B)成分の合計100重量%中、65〜99.5重量%である。(A)成分の含有量が65重量%未満であると、成形品の靭性が低下する。70重量%以上が好ましく、90重量%以上がより好ましい。一方、(A)成分の含有量が99.5重量%を超えると、相対的に(B)成分が不足するため樹脂組成物および成形品の熱変形温度や難燃性が不十分となる。99重量%以下が好ましく、97重量%以下がより好ましい。
本発明の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、(B)水酸化アルミニウムとベーマイト化を遅延させる反応遅延剤とを混合した原料に水を加えることなく、圧力容器内で170℃〜300℃の温度で加熱することにより得られる水酸化アルミニウム(乾式処理水酸化アルミニウム)を含有する。(B)乾式処理水酸化アルミニウムとは、公知のプラスチックスの難燃剤として使用されている水酸化アルミニウムやベーマイト(化学名:水酸化酸化アルミニウム)とは性状が異なる新規な水酸化アルミニウムである。前記公知の水酸化アルミニウムは、電線被覆剤などのオレフィン系樹脂の難燃剤として使用されており、1%脱水開始温度が約220℃である。一方、一般に熱可塑性ポリエステル樹脂は240℃を超える温度で溶融混練される場合が多いことから、1%脱水開始温度が約220℃である水酸化アルミニウムは、240℃を超える溶融混練時に脱水した水分によって、発泡分解が生じて使用できなかった。また、前記のベーマイト(化学名:水酸化酸化アルミニウム)は、1%脱水開始温度が約450℃と高いため、240℃を超える高温での熱可塑性ポリエステル樹脂との溶融混練が可能であった。しかしながら、400℃における脱水量が1%未満であるため、多量添加しても十分な難燃性が得られなかった。
本発明で用いる(B)乾式処理水酸化アルミニウムは、水酸化アルミニウムに反応遅延剤を混合して加熱することにより、通常ベーマイト化が完了してしまう170℃を超える高い温度においてもベーマイト化を抑制でき、高い難燃性を付与することができる。さらに、水を加えることなく、圧力容器内で170℃〜300℃の温度で加熱することにより、ベーマイト化を抑制しながら脱水温度を高くすることができる。本発明で用いる乾式処理水酸化アルミニウムは、1%脱水開始温度が250℃〜320℃の範囲にあるため、熱可塑性ポリエステル樹脂と高温で溶融混練することが可能となる。さらに、400℃における脱水量が22%〜29%と高く、水酸化アルミニウムの約30%の脱水量を示すことから、高い難燃性を示す難燃剤である。
本発明における(B)成分は、例えば、特許第4614354号公報に記載される方法により得ることができる。具体的には、1%脱水開始温度が約220℃である公知の水酸化アルミニウムと、無機酸、有機酸、珪素化合物、フッ素化合物などベーマイト化を遅延する反応遅延剤とを混合した原料に、水を加えることなく、圧力容器内で170℃〜300℃、好ましくは200℃〜250℃の温度で加熱することにより製造され、一般には粉末状で得られる。
なお、上記の1%脱水開始温度と400℃における脱水量は、パーキンエルマー社製“Pyris1”熱重量測定装置(TGA)を用い、室温から10℃/分の昇温速度で450℃まで昇温して加熱減量を記録測定することにより求めることができる。加熱減量が1重量%に達する温度を1%脱水開始温度とし、400℃における加熱減量を400℃における脱水量とする。
また、(B)成分には、分散性向上を目的に、カップリング剤処理、エポキシ化合物、あるいはイオン化処理などの公知の表面処理が施されていてもよい。
また、組成物に配合する前の(B)成分の平均粒径は、成形品の靭性の点から2〜20μmが好ましく、3〜10μmがより好ましい。ここでいう(B)成分の平均粒径とは、レーザーミクロンサイザー法による累積分布50%粒子径を指す。
また、(B)成分の市販品としては河合石灰工業(株)社製の水酸化アルミニウム“ALH−3L”や“ALH−F”などが好ましく用いられる。これらを2種以上含有してもよい。
また、(B)成分の配合量は、難燃性、熱変形温度および靭性のバランスという点から、(A)成分および(B)成分の合計100重量%中、0.5〜35重量%である。(B)成分の含有量が0.5重量%未満であると、樹脂組成物および成形品の熱変形温度および難燃性が不十分となる。1重量%以上が好ましく、3重量%以上がより好ましい。一方、(B)成分の含有量が35重量%を超えると、成形品の靭性が低下する。30重量%以下が好ましく、10重量%以下がより好ましい。
本発明の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、さらに(C)難燃助剤を含有してもよい。本発明における(C)難燃助剤とは、主難燃剤の(B)成分と共に配合して難燃性や物性を向上させる成分であり、環境に及ぼす影響が少ない、ハロゲンやリンを含有しない化合物が好ましい。(C)難燃助剤としては、例えば、窒素化合物系難燃剤、(ポリ)オルガノシロキサン、無機酸化物や無機酸化物の水和物、ナノフィラー、およびフェノール樹脂などが好ましく用いられる。これらを2種以上含有してもよい。
上記の窒素化合物系難燃剤としては、例えば、脂肪族アミン化合物、芳香族アミン化合物、含窒素複素環化合物、シアン化合物、脂肪族アミドや芳香族アミド、尿素、チオ尿素などを挙げることができ、含窒素複素環化合物が好ましく用いられる。
上記の脂肪族アミン化合物としては、例えば、エチルアミン、ブチルアミン、ジエチルアミン、エチレンジアミン、ブチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、1,2−ジアミノシクロヘキサン、1,2−ジアミノシクロオクタンなどを挙げることができる。上記の芳香族アミンとしては、例えば、アニリン、フェニレンジアミンなどを挙げることができる。上記の含窒素複素環化合物としては、例えば、尿酸、アデニン、グアニン、2,6−ジアミノプリン、2,4,6−トリアミノピリジンおよびトリアジン化合物などを挙げることができる。上記のシアン化合物としては、例えば、ジシアンジアミドなどを挙げることができる。また、前記の脂肪族アミドや芳香族アミドとしては、例えば、N,N−ジメチルアセトアミドやN,N−ジフェニルアセトアミドなどを挙げることができる。
上記の含窒素複素環化合物において例示したトリアジン化合物は、トリアジン骨格を有する含窒素複素環化合物であり、例えば、トリアジン、メラミン、ベンゾグアナミン、メチルグアナミン、シアヌール酸、メラミンシアヌレート、メラミンイソシアヌレート、トリメチルトリアジン、トリフェニルトリアジン、アメリン、アメリド、チオシアヌル酸、ジアミノメルカプトトリアジン、ジアミノメチルトリアジン、ジアミノフェニルトリアジン、ジアミノイソプロポキシトリアジンなどを挙げることができ、特に難燃性や機械物性をほとんど低下させることなく、耐熱性に優れるという点でメラミンシアヌレートとメラミンイソシアヌレートが好ましく用いられる。
上記のメラミンシアヌレートまたはメラミンイソシアヌレートとしては、シアヌール酸またはイソシアヌール酸とトリアジン化合物との付加物が好ましく、通常は1対1(モル比)、場合により1対2(モル比)などの組成を有する付加物を挙げることができる。また、メラミンシアヌレートまたはメラミンイソシアヌレートは、公知の方法で製造することができる。例えば、メラミンとシアヌール酸またはイソシアヌール酸の混合物を水スラリーとし、よく混合して両者の塩を微粒子状に形成させた後、このスラリーを濾過、乾燥することにより、一般には粉末状で得られる。また、上記の塩は完全に純粋である必要はなく、多少未反応のメラミンないしシアヌール酸、イソシアヌール酸が残存していてもよい。また、トリス(β−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートなどの分散剤やポリビニルアルコールおよびシリカなどの金属酸化物などの公知の表面処理剤などにより処理してもよく、分散性を向上させることができる。また、メラミンシアヌレートまたはメラミンイソシアヌレートの樹脂に配合される前後の平均粒径はいずれも、成形品の難燃性、機械的強度、表面性の点から0.1〜100μmが好ましく、より好ましくは1〜50μmである。ここでいう平均粒径とは、レーザーミクロンサイザー法による累積分布50%粒子径で測定される平均粒径である。また、メラミンシアヌレートまたはメラミンイソシアヌレートの市販品としては、例えば、日産化学(株)製MC−4000、MC−4500、MC−4250およびMC−6000などが好ましく用いられる。
上記の(ポリ)オルガノシロキサンとしては、例えば、ポリジメチルシロキサン、ポリジメチルシロキサンの側鎖あるいは末端の少なくとも1つのメチル基が、水素、炭素数2以上のアルキル基、シクロヘキシル基、フェニル基、ベンジル基、アミノ基、エポキシ基、ポリエーテル基、カルボキシル基、メルカプト基、クロロアルキル基、アルキル高級アルコールエステル基、アルコール基、アラルキル基、ビニル基およびトリフロロメチル基からなる群より選ばれる少なくとも1つの基により変性された変性ポリシロキサン、またはこれらの混合物、ポリオルガノシロキサンと架橋材などによるポリオルガノシロキサンゴムやポリオルガノシロキサンとポリアルキル(メタ)アクリレートゴムを含む複合ゴムに一種以上のビニル系単量体がグラフト重合されてなるシリコーン/アクリル複合ゴム系グラフト共重合体などを挙げることができる。
上記の無機酸化物や無機酸化物の水和物としては、例えば、硼酸亜鉛、硼酸亜鉛水和物、硼酸カルシウム、硼酸カルシウム水和物、酸化亜鉛、モリブデン酸亜鉛、モリブデン酸カルシウム亜鉛、錫酸亜鉛、ヒドロキシ錫酸亜鉛、メタスズ酸、酸化スズ、酸化スズ塩、硫化亜鉛、酸化第二鉄、硫化イオウ、酸化第一錫、酸化第二スズ、ホウ酸アンモニウム、オクタモリブデン酸アンモニウム、タングステン酸の金属塩、タングステンとメタロイドとの複合酸化物酸、ジルコニウム系化合物、黒鉛、膨潤性黒鉛などを挙げることができる。
上記のナノフィラーとは、ナノサイズの充填剤もしくは溶融混練後にナノサイズに分散する充填剤であり、例えば、シリカ、ヒュウムドシリカ、酸化チタン、スメクタイト系粘土鉱物(モンモリロナイト、ヘクトライト)、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウムと酸化アルミニウムの混合物、およびカーボンナノチューブなどを挙げることができる。
上記のフェノール樹脂とは、フェノール性水酸基を複数有する樹脂であり、例えば、ノボラック型、レゾール型および熱反応型の樹脂、あるいはこれらを変性した樹脂などが挙げられる。これらは硬化剤未添加の未硬化樹脂、半硬化樹脂、あるいは硬化樹脂であってもよい。中でも、硬化剤未添加で、非熱反応性であるノボラック型フェノール樹脂またはメラミン変性ノボラック型フェノール樹脂が難燃性に優れる点で好ましい。
また、(C)成分配合量は、(A)成分および(B)成分の合計100重量部に対し、0.1〜20重量部が好ましい。(C)成分の含有量を0.1重量部以上とすることにより、難燃性がより向上する。1.0重量部以上がより好ましい。一方、(C)成分の含有量を20重量部以下とすることにより、成形品の靭性がより向上する。15重量部以下がより好ましい。
本発明の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、前記(A)成分および(B)成分を含有することにより高い難燃性を奏するため、環境へ配慮した非ハロゲン・非リン系難燃剤によって、難燃性規格UL−94 V−2に適合する難燃性を有する成形品を容易に提供することができる。一方、難燃性規格UL−94 V−0などのより高い難燃性が求められる場合があることから、より難燃性を向上させるために(C)成分として、公知のハロゲン系難燃剤やリン系難燃剤を用いてもよく、これらを前記の(C)成分とともに含有してもよい。
本発明の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、さらに、3つ以上の官能基を有するアルキレンオキシド単位を一つ以上含む公知の多価アルコール化合物を配合することが好ましく、射出成形など成形加工時の流動性を向上させることができる。ここで、多価アルコールとは、水酸基を2つ以上有する化合物を指す。前記3つ以上の官能基を有するアルキレンオキシド単位を一つ以上含む多価アルコール化合物は、3官能性化合物、4官能性化合物および5官能性化合物など、3つ以上の官能基を有し、さらにアルキレンオキシド単位を一つ以上含む化合物であれば、いずれでも好ましく用いられる。
3つ以上の官能基の官能基は、水酸基、アルデヒド基、カルボン酸基、スルホ基、アミノ基、エステル基、アミド基から選択された少なくとも1種であることが好ましく、これらの中から同一あるいは異なる3つ以上の官能基を有していることがより好ましく、特に流動性、機械物性、耐久性、熱変形温度および生産性の点で、同一の官能基であることがさらに好ましい。
アルキレンオキシド単位の例として、炭素原子数1〜4である脂肪族アルキレンオキシド単位が挙げられる。流動性、リサイクル性、耐久性、熱変形温度および機械物性に優れることから、プロピレンオキシド単位がより好ましい。また、流動性および機械物性に優れることから、1官能基当たりのアルキレンオキシド単位は1〜5が好ましい。
3つ以上の官能基を有するアルキレンオキシド単位を一つ以上含む多価アルコール化合物の分子量または重量平均分子量(Mw)は、流動性の点で、溶媒としてヘキサフルオロイソプロパノールを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定され、ポリメチルメタクリレート(PMMA)換算値で数値化された値が、200〜6000の範囲であることが好ましい。
3つ以上の官能基を有するアルキレンオキシド単位を一つ以上含む多価アルコール化合物の配合量は、(A)成分および(B)成分の合計100重量部に対し、0.1〜1重量部が好ましい。
本発明の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、(A)成分以外の熱可塑性樹脂を配合してもよく、成形性、寸法精度、成形収縮および靭性などをより向上させることができる。このような熱可塑性樹脂としては、例えば、低密度ポリエチレン樹脂、高密度ポリエチレン樹脂、エチレン共重合体、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド樹脂、ビニル系樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリウレタン樹脂、芳香族および脂肪族ポリケトン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリイミド樹脂、熱可塑性澱粉樹脂、ポリウレタン樹脂、メチルメタクリレートスチレン樹脂(MS樹脂)、芳香族ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、フェノキシ樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリ−4−メチルペンテン−1、ポリエーテルイミド樹脂、酢酸セルロース樹脂、ポリビニルアルコール樹脂などを挙げることができる。これらを2種以上含有してもよい。特に、寸法精度向上と成形収縮を小さくさせる観点から、芳香族ポリカーボネート樹脂が好ましく、靭性向上の観点からエチレン共重合体およびビニル系樹脂が好ましい。
上記の芳香族ポリカーボネート樹脂としては、例えば、芳香族二価フェノール系化合物とホスゲン、または炭酸ジエステルとを反応させることにより得られる芳香族ホモまたはコポリカーボネートが挙げられる。
また、芳香族二価フェノール系化合物としては、例えば、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジエチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジエチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1−フェニル−1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン等が挙げられる。これらを2種以上使用することができる。
また、芳香族ポリカーボネート樹脂は、重量平均分子量が10000〜1100000の範囲、ガラス転移温度が約150℃のものが好ましい。2種以上の芳香族ポリカーボネート樹脂を併用してもよい。重量平均分子量3000〜1100000の範囲の芳香族ポリカーボネート樹脂や芳香族ポリカーボネート樹脂オリゴマーが特に好ましく用いられる。ここで、重量平均分子量とは、溶媒にテトラヒドロフランを用い、ゲル透過クロマトグラフィーにより、ポリスチレン換算で測定して得られる値である。
また、300℃の温度で荷重1.2kgの条件でASTM D1238に準じてメルトインデキサーで測定した溶融粘度指数(メルトフローインデックス)が1〜100g/10分の範囲のものが好ましく、特に機械特性の点から1〜50g/10分の芳香族ポリカーボネート樹脂が好ましく用いられる。
また、上記の芳香族ポリカーボネート樹脂オリゴマーの例としては、三菱瓦斯化学(株)社製から重量平均分子量約4000の“ユーピロン”(登録商標)ALなどが市販されている。
また、芳香族ポリカーボネート樹脂の配合量は、(A)成分および(B)成分の合計100重量部に対し、1〜100重量部が好ましく、10〜60重量部がより好ましい。芳香族ポリカーボネート樹脂の含有量を1重量部以上とすることにより、成形品の寸法精度を向上させ、成形収縮を低減することができる。一方、芳香族ポリカーボネート樹脂の含有量を100重量部以下とすることにより、成形品の熱変形温度をより高くすることができる。
また、上記の芳香族ポリカーボネート樹脂とともに、さらに酸性燐酸エステル化合物を少量配合してもよく、(A)成分と芳香族ポリカーボネート樹脂のエステル交換防止に有用であることから、熱変形温度などの低下を抑制することができる。上記の酸性燐酸エステル化合物とは、アルコール類と燐酸との部分エステル化合物の総称で、低分子量のものは無色液体、高分子量のものは白色ロウ状、フレーク状固体であり、燐酸の水素をアルキル基やアリル基などで置換したリン系難燃剤の燐酸エステルとは区別して用いられる。好ましく用いられる酸性燐酸エステル系化合物としては、モノおよびジステアリルアシッドホスフェートの混合物などの長鎖アルキルアシッドホスフェート化合物などが挙げられる。かかる化合物は、例えば(株)ADEKAから“アデカスタブ”(登録商標)AX−71の名称で市販され、融点を持つフレーク状固体である。これらを2種以上含有してもよい。
また、酸性燐酸エステル化合物の配合量は、(A)成分および(B)成分と芳香族ポリカーボネート樹脂の合計100重量部に対し、0.01重量部以上が好ましく、成形品の熱変形温度をより向上させることができる。0.05重量部以上がより好ましい。一方、2重量部以下が好ましく、より高い難燃性を維持することができる。1重量部以下がより好ましい。
上記のエチレン共重合体としては、例えば、エチレン/プロピレン、エチレン/プロピレン/非共役ジエン共重合体、エチレン/エチルアクリレート、エチレン/メチルアクリレート、エチレン/ブテン−1、エチレン/メタクリル酸メチル、エチレン/酢酸ビニル、上記エチレン共重合体やポリエチレン樹脂を無水マレイン酸などの酸無水物、グリシジルメタクリレートおよびエポキシ化剤でエポキシ変性した変性エチレン共重合体などが挙げられる。更に、各種の架橋度を有するものや、各種のミクロ構造、例えばシス構造、トランス構造等を有するものなどが挙げられる。上記の変性エチレン共重合体としては、例えば、エチレン/グリシジルメタクリレート、エチレン/エチルアクリレート/グリシジルメタクリレート、エチレン/メチルアクリレート/グリシジルメタクリレート、エチレン/ブテン−1/無水マレイン酸、エチレン/プロピレン/無水マレイン酸、エチレン/エチルアクリレート/無水マレイン酸、エチレン/メチルアクリレート/無水マレイン酸、エチレン/メタクリル酸メチル/無水マレイン酸、エチレン/酢酸ビニル/無水マレイン酸およびエチレンまたはエチレン共重合体を過酸化物などでエポキシ化したエポキシ化エチレン共重合体などが挙げられる。特に、エチレン/グリシジルメタクリレートとエチレン/ブテン−1/無水マレイン酸が衝撃強度などの靭性を大きく改善するため、好ましく用いられる。上記のエチレン/グリシジルメタクリレートとエチレン/ブテン−1/無水マレイン酸の市販品の例としては、例えば、住友化学(株)製“ボンドファースト”(登録商標)E(エチレン/グリシジルメタクリレート)、三井石油化学工業(株)製MH−5010やMH−5020(エチレン/ブテン−1/無水マレイン酸)などが挙げられる。
また、エチレン共重合体の配合量は、(A)成分および(B)成分の合計100重量部に対し、0.1重量部以上が好ましく、衝撃強度などの靭性を向上させることができる。1重量部以上がより好ましい。一方、10重量部以下が好ましく、難燃性と熱変形温度を高く維持することができる。5重量部以下がより好ましい。
上記のビニル系樹脂としては、例えば、ポリメタクリル酸メチル、メタクリル酸メチル/アクリロニトリル、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル/スチレン樹脂(AS樹脂)、スチレン/ブタジエン樹脂、スチレン/N−フェニルマレイミド樹脂、スチレン/アクリロニトリル/N−フェニルマレイミド樹脂などのビニル系(共)重合体、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン樹脂(ABS樹脂)、アクリロニトリル/ブタジエン/メタクリル酸メチル/スチレン樹脂(MABS樹脂)、ハイインパクト−ポリスチレン樹脂等のゴム質重合体で変性されたスチレン系樹脂、およびブロック共重合体としてスチレン/ブタジエン/スチレン樹脂、スチレン/イソプレン/スチレン樹脂およびスチレン/エチレン/ブタジエン/スチレン樹脂などが挙げられる。
また、ビニル系樹脂には、不飽和モノカルボン酸類、不飽和ジカルボン酸類、不飽和酸無水物あるいはエポキシ基含有ビニル系単量体がグラフト重合もしくは共重合されていてもよい。なかでも不飽和酸無水物あるいはエポキシ基含有ビニル系単量体がグラフト重合もしくは共重合されたビニル系樹脂であることが好ましい。
前記の不飽和酸無水物類は、一分子中にラジカル重合可能なビニル基と酸無水物の両者を共有する化合物であり、具体例としては無水マレイン酸等が好ましく挙げられる。
また、エポキシ基含有ビニル系単量体は、一分子中にラジカル重合可能なビニル基とエポキシ基の両者を共有する化合物であり、具体例としてはアクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、エタクリル酸グリシジル、イタコン酸グリシジルなどの不飽和有機酸のグリシジルエステル類、アリルグリシジルエーテルなどのグリシジルエーテル類および2−メチルグリシジルメタクリレートなどの上記の誘導体類が挙げられ、なかでもアクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジルが好ましく使用できる。またこれらは単独ないし2種以上を組み合わせて使用することができる。
不飽和モノカルボン酸類、不飽和ジカルボン酸類、不飽和酸無水物あるいはエポキシ基含有ビニル系単量体をグラフト重合もしくは共重合する際の使用量は、ビニル系樹脂に対して0.05重量%以上であることが好ましい。多量に共重合すると流動性低下やゲル化の傾向があり、好ましくは10重量%以下、さらに好ましくは5重量%以下である。
また、ビニル系樹脂に過酸化物類、過ギ酸、過酢酸、および過安息香酸などのエポキシ化剤でエポキシ変性したビニル系樹脂であってもよい。この場合、エポキシ変性を有効に行わせるためにビニル系樹脂にはジエン系のモノマーがランダム共重合もしくはブロック共重合されていることが好ましい。ジエン系のモノマーの例としては、ブタジエン、イソプレン等が好ましく用いられる。これらのエポキシ変性ビニル系樹脂の好適な製造法の例は、特開平6−256417、特開平6−220124等に示されている。
また、ゴム層を有する最内層(コア層)とそれを覆うビニル系樹脂が外層(シェル層)の1種として構成されるビニル系樹脂も好ましく用いられ、いわゆるコアシェル型と呼ばれる構造を有する公知のコアシェル型ゴムも好ましく用いられる。
また、ビニル系樹脂をグラフト共重合体の分岐鎖として含むビニル系樹脂を用いてもよい。主鎖となる樹脂の例としては、例えば、ポリオレフィン、アクリル系樹脂、およびポリカーボネート樹脂などを挙げることができる。分岐鎖および主鎖のいずれかがメタクリル酸グリシジルや酸無水物などで変性されていてもよく、具体例としては、ポリ(エチレン/グリシジルメタクリレート)−g−ポリメタクリル酸メチル(E/GMA−g−PMMA)、ポリ(エチレン/グリシジルメタクリレート)−g−ポリスチレン(E/GMA−g−PS)、ポリ(エチレン/グリシジルメタクリレート)−g−アクリロニトリル/スチレン(E/GMA−g−AS)、ポリ(エチレン−g−アクリロニトリル/スチレン(E−g−AS)、ポリカーボネート−g−アクリロニトリル/スチレン(PC−g−AS)などが挙げられる(“−g−”はグラフトを表す。)。また、前記ビニル系樹脂をグラフト共重合体の分岐鎖として含むビニル系樹脂の市販品としては、例えば、日本油脂社製“モディパー”(登録商標)などが挙げられる。これらを他のビニル系樹脂とともに含有してもよい。
また、ビニル系樹脂の配合量は、成形品の靭性をより向上させる観点から、(A)成分および(B)成分の合計100重量部に対し、0.1重量部以上が好ましく、1重量部以上がより好ましい。一方、成形品の熱変形温度をより高くする観点から、10重量部以下が好ましく、6重量部以下がより好ましい。
また、本発明の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、さらに、フッ素系樹脂を配合することが好ましく、燃焼時の樹脂組成物の溶融落下を抑制し、難燃性をより向上させることができる。
前記のフッ素系樹脂とは、物質分子中にフッ素を含有する樹脂であり、具体的には、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、(テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン)共重合体、(テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル)共重合体、(テトラフルオロエチレン/エチレン)共重合体、(ヘキサフルオロプロピレン/プロピレン)共重合体、ポリビニリデンフルオライド、(ビニリデンフルオライド/エチレン)共重合体などが挙げられる。中でもポリテトラフルオロエチレン、(テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル)共重合体、(テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン)共重合体、(テトラフルオロエチレン/エチレン)共重合体、ポリビニリデンフルオライドが好ましく、特にポリテトラフルオロエチレン、(テトラフルオロエチレン/エチレン)共重合体が好ましい。
また、フッ素系樹脂の配合量は、(A)成分および(B)成分の合計100重量部に対し、好ましくは0.05〜3重量部、より好ましくは0.15〜1.5重量部である。0.05重量部以上で燃焼時の溶融落下を防止する効果が得られ、3重量部以下で良好な機械特性が得られる。
本発明の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、さらに、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸亜鉛などのアルカリ土類の金属石鹸、脂肪酸エステル、脂肪酸エステルの塩(一部を塩にした物も含む)、エチレンビスステアリルアマイドなどの脂肪酸アミド、エチレンジアミンとステアリン酸およびセバシン酸からなる重縮合物あるいはフェニレンジアミンとステアリン酸およびセバシン酸の重縮合物からなる脂肪酸アミド、ポリアルキレンワックス、酸無水物変性ポリアルキレンワックスおよび上記の滑剤とフッ素系樹脂やフッ素系化合物の混合物などの公知のプラスチックス用離型剤を配合することができ、射出成形時の離型性を改善することができる。特にステアリン酸亜鉛などのアルカリ土類の金属石鹸と脂肪酸エステルの塩(一部を塩にした物も含む)は、射出成形時の離型性改善効果以外に滞留安定性にも寄与することから好ましく用いられる。
また、離型剤の配合量は、(A)成分および(B)成分の合計100重量部に対し、好ましくは0.01〜1重量部であり、0.03〜0.6重量部がより好ましい。0.01重量部以上で十分な離型性効果が得られ、1重量部以下では良好な機械特性が得られる。
本発明の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、さらに、繊維強化材を配合することが好ましく、成形品の機械強度と熱変形温度をより向上させることができる。
前記の繊維強化材の具体例としては、例えば、ガラス繊維、アラミド繊維、および炭素繊維などが挙げられる。上記のガラス繊維としては、チョップドストランドタイプやロービングタイプのガラス繊維であり、アミノシラン化合物やエポキシシラン化合物などのシランカップリング剤および/またはウレタン、酢酸ビニル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ノボラック系エポキシ化合物などの一種以上のエポキシ化合物などを含有した集束剤で処理されたガラス繊維が好ましく用いられ、シランカップリング剤および/または集束剤はエマルジョン液に混合されて使用されていてもよい。また、繊維径は通常1〜30μm、好ましくは5〜15μmである。また、前記の繊維断面は通常円形状であるが、任意の縦横比の楕円形ガラス繊維、扁平ガラス繊維およびまゆ型形状ガラス繊維など任意な断面を持つ繊維強化材を用いることもでき、射出成形時の流動性向上と、ソリの少ない成形品が得られる特徴がある。
また、繊維強化材の配合量は、射出成形時の流動性と射出成形機や金型の耐久性の点から、(A)成分および(B)成分の合計100重量部に対し、好ましくは1〜100重量部であり、2〜95重量部がより好ましく、3〜90重量部がさらに好ましい。1重量部以上で成形品の機械強度と熱変形温度をより向上させる効果が得られ、100重量部以下では良好な流動性が得られる。
また、本発明の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、さらに難燃助剤のナノフィラーと繊維強化材以外の無機充填材を配合することができ、成形品の結晶化特性、耐アーク性、異方性、機械強度、難燃性あるいは熱変形温度などの一部を改良することができ、特に、異方性に効果があるためソリの少ない成形品が得られる。かかる無機充填材としては、針状、粒状、粉末状および層状の無機充填材が挙げられ、具体例としては、ガラスビーズ、ミルドファイバー、ガラスフレーク、チタン酸カリウィスカー、硫酸カルシウムウィスカー、ワラステナイト、カオリン、タルク、炭酸カルシウム、微粉ケイ酸、ケイ酸アルミニウム、酸化ケイ素、バーミキュライト、マイカ、フッ素テニオライト、燐酸ジルコニウム、燐酸チタニウム、およびドロマイトなどが挙げられ、一種以上で用いられる。特に、ミルドファイバー、ガラスフレーク、カオリン、タルクおよびマイカを用いた場合は、異方性に効果があるためソリの少ない成形品が得られる。また、炭酸カルシウム、微粉ケイ酸、ケイ酸アルミニウムおよび酸化ケイ素を(A)成分および(B)成分の合計100重量部に対し、0.01〜1重量部の範囲で配合した場合は、滞留安定性が向上する。
また、上記のナノフィラーと繊維強化材以外の無機充填材には、カップリング剤処理、エポキシ化合物、あるいはイオン化処理などの表面処理が行われていてもよい。また、粒状、粉末状および層状の無機充填材の平均粒径は衝撃強度の点から0.1〜20μmであることが好ましく、特に0.2〜10μmであることが好ましい。また、ナノフィラーと繊維強化材以外の無機充填材の配合量は、成形時の流動性と成形機や金型の耐久性の点から繊維強化材の配合量と合わせて(A)成分および(B)成分の合計100重量部に対し、100重量部以下が好ましい。
本発明の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、加水分解性を向上させることを目的に、グリシジルエステル化合物、グリシジルエーテル化合物およびグリシジルエステルエーテル化合物などのエポキシ化合物、オキサゾリン化合物、カルボジイミド変性イソシアネート化合物およびカルボジイミド化合物などの加水分解改良剤を含有することができる。
また、加水分解改良剤の配合量は、加水分解性向上の観点から、(A)成分および(B)成分の合計100重量部に対し、好ましくは0.01〜3重量部であり、0.03〜1重量部がより好ましい。0.01重量部以上で十分な加水分解性を向上させる効果が得られ、3重量部以下では良好な機械特性が得られる。
本発明の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、さらに安定剤としてヒンダードフェノール系酸化防止剤、ホスファイト系酸化防止剤および/またはチオエーテル系酸化防止剤を配合してもよく、樹脂組成物が長期間高温にさらされても極めて良好な耐熱エージング性を与えることができる。その配合量は、耐熱エージング性向上の観点から、(A)成分および(B)成分の合計100重量部に対し、好ましくは0.01〜2重量部であり、0.03〜1重量部がより好ましい。0.01重量部以上で十分な耐熱エージング性を向上させる効果が得られ、2重量部以下では良好な機械特性が得られる。
本発明の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、さらに、カーボンブラック、酸化チタン、および種々の色の顔料や染料を1種以上配合することにより種々の色に樹脂を調色、耐候(光)性、および導電性を改良することも可能である。顔料や染料の配合量は、(A)成分および(B)成分の合計100重量部に対し、好ましくは0.01〜3重量部であり、0.03〜1重量部がより好ましい。0.01重量部で調色、耐候(光)性、および導電性に効果があり、3重量部以下で良好な機械特性が得られる。
また、前記のカーボンブラックとしては、例えば、チャンネルブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラック、アントラセンブラック、油煙、松煙、および、黒鉛などが挙げられ、平均粒径500nm以下、ジブチルフタレート吸油量50〜400cm3/100gのカーボンブラックが好ましく用いられる。また、酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、ポリオール、シランカップリング剤などで処理されていてもよい。
また、上記の酸化チタンとしては、ルチル形あるいはアナターゼ形などの結晶形を持ち、平均粒径5μm以下の酸化チタンが好ましく用いられ、酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、ポリオール、シランカップリング剤などで処理されていてもよい。また、上記のカーボンブラック、酸化チタン、および種々の色の顔料や染料は、本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物との分散性向上や製造時のハンドリング性の向上のため、種々の熱可塑性樹脂と溶融ブレンドあるいは単にブレンドした混合材料として用いてもよい。
さらに、本発明の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、紫外線吸収剤、光安定剤、可塑剤、および帯電防止剤などの公知の添加剤などを1種以上配合してもよい。
本発明の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、公知の方法で製造することができる。例えば、少なくとも上記(A)成分および(B)成分、および必要に応じて含有する配合材料などを予備混合して押出機などに供給して十分溶融混練する方法、あるいは、重量フィダーなどの定量フィダーを用いて各成分を所定量押出機などに供給して十分溶融混練する方法などにより本発明の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物が製造される。
上記の予備混合の例として、ドライブレンドする方法や、タンブラー、リボンミキサーおよびヘンシェルミキサー等の機械的な混合装置を用いて混合する方法が挙げられる。また、繊維強化材や繊維強化材以外の無機充填材は、二軸押出機などの多軸押出機の元込め部とベント部の途中にサイドフィーダーを設置して添加する方法であってもよい。また、液体の添加剤の場合は、二軸押出機などの多軸押出機の元込め部とベント部の途中に液添ノズルを設置してプランジャーポンプを用いて添加する方法や元込め部などから定量ポンプで供給する方法などであってもよい。
また、難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を製造するに際し、例えば“ユニメルト”あるいは“ダルメージ”タイプのスクリュウを備えた単軸押出機、二軸押出機、三軸押出機、コニカル押出機およびニーダータイプの混練機などを用いてストランド状に吐出し、ストランドカッターでカッティングすることにより、ペレット状の形状で得ることができる。
本発明において、後述する成形品中における(B)成分の平均粒径を特定の範囲にするためには、溶融混練時の混練エネルギーを大きくすることが好ましい。ここで、混練エネルギーとは、1時間あたりの吐出量(kg/h)と溶融混練時の電力量(kW)から求められる吐出量あたりの押出機仕事量(kW/(kg/h)またはkWh/kg)である。混練エネルギーを大きくすることにより、得られる組成物における(B)成分の分散性が向上し、成形品中における(B)の平均粒径を、後述する好ましい範囲に容易に調整することができる。このため、0.3kWh/kg以上の混練エネルギーを付与することが好ましく、0.35kWh/kg以上の混練エネルギーを付与することがより好ましい。一方、剪断発熱による樹脂温度の上昇や(B)成分の脱水に起因する(A)熱可塑性ポリエステルの熱分解を抑制する観点から、1.0kWh/kg以下の混練エネルギーを付与することが好ましく、0.8kWh/kg以下の混練エネルギーを付与することがより好ましい。
また、剪断発熱による樹脂温度の上昇や(B)成分の脱水に起因する(A)熱可塑性ポリエステルの熱分解を抑制する観点から、溶融混練時の樹脂温度を300℃以下に制御しつつ、上記範囲の混練エネルギーを付与することが好ましい。ここでいう溶融混練時の樹脂温度とは、樹脂に剪断が掛かる箇所の樹脂温度を測定した値である。一方、溶融混練機器の保護の観点から、樹脂温度は200℃以上が好ましい。
混練エネルギーを調整する方法として、例えば、2軸押出機を用いて混練エネルギーを大きくする方法を例に説明すると、(1)スクリュウ回転数を高くする方法、(2)押出温度を可能範囲で低くする方法、(3)浅溝タイプのスクリュウを用いる方法などが挙げられる。また、2軸押出機のスクリュウは、多数個のスクリュウブロックで構成され、任意のスクリュウブロックを組み合わせることが可能である。目的とする混練エネルギーに応じたスクリュウブロックを組み合わせることにより、混練エネルギーを調整することができる。混練エネルギーを大きくするスクリュウブロックの例としては、3条ネジタイプのスクリュウブロック、ニーディングスクリュウブロック、逆フルフライトスクリュウブロック、シールリングスクリュウブロックなどが挙げられる。この他にも、混練機メーカーでは混練性を上げるため種々のスクリュウブロックが提案されている。
かくして得られるペレット状の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を、射出成形、押出成形、ブロー成形、インフレーション成形などの公知の方法で溶融成形することによって、本発明の成形品が得られる。前記の射出成形方法としては、通常の射出成形方法以外にガスアシスト成形、2色成形、サンドイッチ成形、インモールド成形、インサート成形およびインジェクションプレス成形などが知られているが、いずれの成形方法も適用できる。
成形品中における(B)成分の平均粒径は、1〜9μmが好ましい。成形品中における(B)成分の平均粒径を1μm以上とすることにより、成形品の熱変形温度をより向上させることができる。2μm以上がより好ましい。一方、成形品中における(B)成分の平均粒径を9μm以下とすることにより、粗大な凝集物と(A)成分との界面から発生する引張物性の低下を抑制することができ、成形品の靭性をより向上させることができる。5μm以下がより好ましい。なお、成形品中における(B)成分の平均粒径は、成形品の一部を薄肉切片とし、オリンパス社製の光学顕微鏡“STM6”を用いて200倍の倍率で観察し、スケールと共に写真撮影後、デジタイザーにて測定し、100個の球状粒子の円形断面の直径の数平均をとることにより算出することができる。
成形品中における(B)成分の平均粒径を前記範囲にするためには、例えば、前述の組成物に配合する前の平均粒径が2〜20μmである(B)成分を用いることや、難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の溶融混練時の混練エネルギーを高くすることが有用である。例えば、樹脂温度を200℃〜300℃に制御しつつ、0.3kWh/kg〜1kWh/kgの混練エネルギーを付与することが好ましい。
本発明の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を溶融成形して得られる成形品は、非ハロゲン・非リン系の特定の水酸化アルミニウムを難燃剤に用いて、優れた難燃性と靭性および高い熱変形温度を有する特徴を活かし、環境に配慮した機械機構部品、電気電子部品、自動車部品または筐体などに好ましく用いることができる。
また、機械機構部品、電気・電子部品、自動車部品の具体例としては、ブレーカー、電磁開閉器、フォーカスケース、フライバックトランス、複写機やプリンターの定着機用成形品、一般家庭電化製品、OA機器などのハウジング、バリコンケース部品、各種端子板、変成器、プリント配線板、ハウジング、端子ブロック、コイルボビン、コネクター、リレー、ディスクドライブシャーシー、トランス、スイッチ部品、コンセント部品、モーター部品、ソケット、プラグ、コンデンサー、自動車点火装置部品、自動車用コネクター、各種自動車用電装部品、抵抗器、金属端子や導線が組み込まれる電気・電子部品などが挙げられる。また、筐体の具体例としては、コンピューター関連機器、音響機器、照明機器、電信・電話機器、エアコン、VTRやテレビなどの家電機器、複写機、ファクシミリ、光学機器などの筐体が挙げられる。
以下、実施例により本発明の効果を更に詳細に説明する。実施例および比較例に用いる原料を以下に示す。ここで%および部とはすべて重量%および重量部を表し、下記の参考例の樹脂名中の「/」は共重合を意味する。
(A)熱可塑性ポリエステル樹脂
<A−1>ポリブチレンテレフタレート樹脂、東レ(株)製“トレコン”(登録商標)1401−X31固有粘度が0.80のPBTを用いた(以下、PBT樹脂と略す)。
<A−2>ポリエチレンテレフタレート樹脂、三井ペット樹脂(株)製“三井PET”J005固有粘度が0.63のPETを用いた(以下、PET樹脂と略す)。
<A−3>ポリ乳酸樹脂、ネイチャーワークス(株)製のポリ乳酸樹脂“4032D”を用いた。(以下、PLA樹脂と略す)。
<A−1>ポリブチレンテレフタレート樹脂、東レ(株)製“トレコン”(登録商標)1401−X31固有粘度が0.80のPBTを用いた(以下、PBT樹脂と略す)。
<A−2>ポリエチレンテレフタレート樹脂、三井ペット樹脂(株)製“三井PET”J005固有粘度が0.63のPETを用いた(以下、PET樹脂と略す)。
<A−3>ポリ乳酸樹脂、ネイチャーワークス(株)製のポリ乳酸樹脂“4032D”を用いた。(以下、PLA樹脂と略す)。
(B)乾式処理水酸化アルミニウム
<B−1>河合石灰工業(株)製の水酸化アルミニウム“ALH−F”、平均粒径5.2μm白色粉末、1%脱水開始温度が281℃、400℃における脱水量が26.0%の水酸化アルミニウムを用いた。
<B−2>河合石灰工業(株)製の水酸化アルミニウム“ALH−3L”、平均粒径5.2μm白色粉末、1%脱水開始温度が273℃の水酸化アルミを用いた。
<B−1>河合石灰工業(株)製の水酸化アルミニウム“ALH−F”、平均粒径5.2μm白色粉末、1%脱水開始温度が281℃、400℃における脱水量が26.0%の水酸化アルミニウムを用いた。
<B−2>河合石灰工業(株)製の水酸化アルミニウム“ALH−3L”、平均粒径5.2μm白色粉末、1%脱水開始温度が273℃の水酸化アルミを用いた。
(B’)比較例に用いた公知のベーマイト(化学名:水酸化酸化アルミニウム)、水酸化アルミニウムおよび水酸化マグネシウム
<B’−1>ベーマイト(化学名:水酸化酸化アルミニウム)、河合石灰工業(株)製、“セラシュール”BMT、平均粒径4μm白色粉末、1%脱水開始温度が435℃、400℃における脱水量が0.4%のベーマイトを用いた(以下、ベーマイトと略す)。
<B’−2>水酸化アルミニウム、昭和電工(株)製の水酸化アルミニウム“ハイジライト”(登録商標)H−32、平均粒径8μm白色粉末、1%脱水開始温度が235℃、400℃における脱水量が29.5%の水酸化アルミニウムを用いた(以下、公知の水酸化アルミニウムと略す)。
<B’−3>水酸化マグネシウム、協和化学工業(株)製“キスマ6E”を用いた(以下、水酸化マグネシウムと略す)。
<B’−1>ベーマイト(化学名:水酸化酸化アルミニウム)、河合石灰工業(株)製、“セラシュール”BMT、平均粒径4μm白色粉末、1%脱水開始温度が435℃、400℃における脱水量が0.4%のベーマイトを用いた(以下、ベーマイトと略す)。
<B’−2>水酸化アルミニウム、昭和電工(株)製の水酸化アルミニウム“ハイジライト”(登録商標)H−32、平均粒径8μm白色粉末、1%脱水開始温度が235℃、400℃における脱水量が29.5%の水酸化アルミニウムを用いた(以下、公知の水酸化アルミニウムと略す)。
<B’−3>水酸化マグネシウム、協和化学工業(株)製“キスマ6E”を用いた(以下、水酸化マグネシウムと略す)。
(C)難燃助剤
<C−1>含窒素複素環化合物のトリアジン系化合物とシアヌール酸またはイソシアヌール酸との塩、日産化学(株)製“MC−6000”、平均粒径2μm白色粉末を用いた(以下、MC塩と略す)。
<C−2>金属酸化物、酸化マグネシウム、和光純薬工業(株)製の試薬を用いた(以下、酸化マグネシウムと略す)。
<C−3>ハロゲン系難燃剤、臭素化ポリカーボネート、帝人化成(株)製“FG−7500”を用いた(以下、ハロゲン系難燃剤と略す)。
<C−4>リン系難燃剤、縮合リン酸エステル、大八化学工業(株)製“PX−200” を用いた(以下、リン系難燃剤と略す)。
<C−1>含窒素複素環化合物のトリアジン系化合物とシアヌール酸またはイソシアヌール酸との塩、日産化学(株)製“MC−6000”、平均粒径2μm白色粉末を用いた(以下、MC塩と略す)。
<C−2>金属酸化物、酸化マグネシウム、和光純薬工業(株)製の試薬を用いた(以下、酸化マグネシウムと略す)。
<C−3>ハロゲン系難燃剤、臭素化ポリカーボネート、帝人化成(株)製“FG−7500”を用いた(以下、ハロゲン系難燃剤と略す)。
<C−4>リン系難燃剤、縮合リン酸エステル、大八化学工業(株)製“PX−200” を用いた(以下、リン系難燃剤と略す)。
さらに、必要に応じて配合する成分
<D−1>芳香族ポリカーボネート樹脂、出光石油化学(株)製“A−1900”を用いた(以下、PC樹脂と略す)。
<D−2>長鎖アルキルアシッドホスフェート化合物、旭電化(株)製“アデカスタブ”(登録商標)AX−71を用いた(以下、AX−71と略す)。
<D−3>ビニル系樹脂、内層のコア層がシリコーンアクリル複合ゴム、外層のシェル層がポリメタクリル酸メチルから構成されたコアシェル型ゴム、三菱レイヨン(株)製“メタブレン”(登録商標)SX−005(以下、ビニル系樹脂と略す)。
<D−4>エチレン共重合体、エチレン/ブテン−1/無水マレイン酸共重合体、三井石油化学工業(株)製MH−5020を用いた(以下、エチレン共重合体と略す)。
<D−5>3つ以上の官能基を有するアルキレンオキシド単位を一つ以上含む多価アルコール化合物、ポリオキシエチレンペンタエリスリトール、日本乳化剤(株)社製PNT−60U(分子量400、1官能基当たりのアルキレンオキシド(エチレンオキシド)単位数1.5を用いた(以下、多価アルコールと略す)。
<D−6>繊維強化材、繊維径約10μmのチョップドストランド状のガラス繊維、日東紡績(株)製“CS3J948”を用いた(以下、GFと略す)。
<D−7>ヒンダードフェノール系酸化防止剤、テトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、チバガイギー社製「IRGANOX」(登録商標)1010を用いた(以下、IR−1010と略す)。
<D−1>芳香族ポリカーボネート樹脂、出光石油化学(株)製“A−1900”を用いた(以下、PC樹脂と略す)。
<D−2>長鎖アルキルアシッドホスフェート化合物、旭電化(株)製“アデカスタブ”(登録商標)AX−71を用いた(以下、AX−71と略す)。
<D−3>ビニル系樹脂、内層のコア層がシリコーンアクリル複合ゴム、外層のシェル層がポリメタクリル酸メチルから構成されたコアシェル型ゴム、三菱レイヨン(株)製“メタブレン”(登録商標)SX−005(以下、ビニル系樹脂と略す)。
<D−4>エチレン共重合体、エチレン/ブテン−1/無水マレイン酸共重合体、三井石油化学工業(株)製MH−5020を用いた(以下、エチレン共重合体と略す)。
<D−5>3つ以上の官能基を有するアルキレンオキシド単位を一つ以上含む多価アルコール化合物、ポリオキシエチレンペンタエリスリトール、日本乳化剤(株)社製PNT−60U(分子量400、1官能基当たりのアルキレンオキシド(エチレンオキシド)単位数1.5を用いた(以下、多価アルコールと略す)。
<D−6>繊維強化材、繊維径約10μmのチョップドストランド状のガラス繊維、日東紡績(株)製“CS3J948”を用いた(以下、GFと略す)。
<D−7>ヒンダードフェノール系酸化防止剤、テトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、チバガイギー社製「IRGANOX」(登録商標)1010を用いた(以下、IR−1010と略す)。
[各特性の測定方法]
本実施例、比較例においては以下に記載する測定方法によって、その特性を評価した。
本実施例、比較例においては以下に記載する測定方法によって、その特性を評価した。
1.引張物性
東芝機械製IS55EPN射出成形機を用いて、成形温度250℃、金型温度80℃の温度条件、射出時間と保圧時間は合わせて10秒、冷却時間10秒の成形サイクル条件で試験片厚み1/8インチ(約3.2mm)厚みのASTM1号ダンベルの引張物性評価用試験片を得た。前記の機械強度評価用試験片を用い、ASTMD638(2005年)に従い、引張降伏強度、引張降伏伸び、引張破断強度および引張破断伸びを測定し、値は3本の測定値の平均値とした。
東芝機械製IS55EPN射出成形機を用いて、成形温度250℃、金型温度80℃の温度条件、射出時間と保圧時間は合わせて10秒、冷却時間10秒の成形サイクル条件で試験片厚み1/8インチ(約3.2mm)厚みのASTM1号ダンベルの引張物性評価用試験片を得た。前記の機械強度評価用試験片を用い、ASTMD638(2005年)に従い、引張降伏強度、引張降伏伸び、引張破断強度および引張破断伸びを測定し、値は3本の測定値の平均値とした。
なお、試験片が破壊する際、引張降伏強度と引張降伏伸びを示さず破断する材料を靭性に劣ると判断し、引張降伏強度と引張降伏伸びを示し、かつ、引張破断伸びの数字が大きい材料を靭性に優れると判断した。
2.難燃性
東芝機械製IS55EPN射出成形機を用いて、上記1項の引張物性と同一射出成形条件で1/32インチ(約0.79mm)厚みの燃焼試験片を得た。前記の燃焼試験片を用い、UL94垂直試験に定められている評価基準に従い、難燃性を評価した。難燃性はV−0>V−1>V−2の順に低下しランク付けされる。また、燃焼性に劣り上記のV−2に達せず、上記の難燃性ランクに該当しなかった材料は規格外とした。
東芝機械製IS55EPN射出成形機を用いて、上記1項の引張物性と同一射出成形条件で1/32インチ(約0.79mm)厚みの燃焼試験片を得た。前記の燃焼試験片を用い、UL94垂直試験に定められている評価基準に従い、難燃性を評価した。難燃性はV−0>V−1>V−2の順に低下しランク付けされる。また、燃焼性に劣り上記のV−2に達せず、上記の難燃性ランクに該当しなかった材料は規格外とした。
3.熱変形温度
東芝機械製IS55EPN射出成形機を用いて、上記1項の引張物性と同一射出成形条件で1/8インチ(約3.18mm)厚みのダンベルの熱変形温度評価用試験片を得た。前記の熱変形温度評価用試験片を用い、ASTMD648(2005年)に従い、測定荷重0.45MPaの条件で熱変形温度を測定し、値は3本の測定値の平均値とした。
東芝機械製IS55EPN射出成形機を用いて、上記1項の引張物性と同一射出成形条件で1/8インチ(約3.18mm)厚みのダンベルの熱変形温度評価用試験片を得た。前記の熱変形温度評価用試験片を用い、ASTMD648(2005年)に従い、測定荷重0.45MPaの条件で熱変形温度を測定し、値は3本の測定値の平均値とした。
4.成形収縮率
上記1項のASTM1号ダンベルの長さ方向の寸法をマイクロメーターで測定し、値は3本の測定値の平均値とした。なお、成形収縮率が小さいほど、寸法変化が少なく寸法安定性に優れるものと推察した。
上記1項のASTM1号ダンベルの長さ方向の寸法をマイクロメーターで測定し、値は3本の測定値の平均値とした。なお、成形収縮率が小さいほど、寸法変化が少なく寸法安定性に優れるものと推察した。
5.流動性
上記2項の難燃性において、1/32インチ(約0.79mm)厚みの燃焼試験片を射出成形した時の成形品が充填する最低圧力である成形下限圧力を求めた。成形下限圧力が小さいほど小さな圧力で成形品が得られ、流動性に優れる。
上記2項の難燃性において、1/32インチ(約0.79mm)厚みの燃焼試験片を射出成形した時の成形品が充填する最低圧力である成形下限圧力を求めた。成形下限圧力が小さいほど小さな圧力で成形品が得られ、流動性に優れる。
6.色調
前記1項の引張物性に用いたASTM1号ダンベル成形品の色調をスガ試験機(株)製SMカラーコンピューター、型式SM−3を用いて、黄色度(YI値)を測定した。数値が高くなるほど黄味を増し、数値が小さいほど白色に近い色調を示す。
前記1項の引張物性に用いたASTM1号ダンベル成形品の色調をスガ試験機(株)製SMカラーコンピューター、型式SM−3を用いて、黄色度(YI値)を測定した。数値が高くなるほど黄味を増し、数値が小さいほど白色に近い色調を示す。
7.平均粒径
東芝機械製IS55EPN射出成形機を用いて、上記1項の引張物性と同一射出条件で3mm厚×80mm×80mmの角板の中央部を薄肉切片とし、オリンパス社製の光学顕微鏡“STM6”を用いて200倍の倍率で観察し、スケールと共に写真撮影後、デジタイザーにて測定し、100個の球状粒子の円形断面の直径の数平均をとることにより算出した。
東芝機械製IS55EPN射出成形機を用いて、上記1項の引張物性と同一射出条件で3mm厚×80mm×80mmの角板の中央部を薄肉切片とし、オリンパス社製の光学顕微鏡“STM6”を用いて200倍の倍率で観察し、スケールと共に写真撮影後、デジタイザーにて測定し、100個の球状粒子の円形断面の直径の数平均をとることにより算出した。
8.樹脂温度
日本製鋼所製(TEX−30α)2軸押出機を用い、後述の条件で溶融混練を行い、2軸押出機に備え付けられている熱電対の予熱部を除く箇所の樹脂温度を測定してその平均値を算出した。
日本製鋼所製(TEX−30α)2軸押出機を用い、後述の条件で溶融混練を行い、2軸押出機に備え付けられている熱電対の予熱部を除く箇所の樹脂温度を測定してその平均値を算出した。
[実施例1〜22]、[比較例1〜10]
スクリュウ径30mm、L/D35の同方向回転ベント付き2軸押出機(日本製鋼所製、TEX−30α)を用いて、(A)〜(B)の各成分およびさらに必要に応じて配合する成分を表1〜表3に示した配合組成で混合し、2軸押出機の元込め部から添加した。なお、繊維強化材の<D−6>のGFは、元込め部とベント部の途中にサイドフィーダーを設置して添加した。さらに、混練温度250℃、スクリュウ回転150rpm、混練エネルギー0.45kWh/kgの押出条件で溶融混練を行い、ストランド状に吐出し、冷却バスを通し、ストランドカッターによりペレット化した。なお、実施例8、9においては、スクリュウブロックの組み合わせにより混練エネルギーをそれぞれ0.25kWh/kg、0.85kWh/kgに制御し、溶融混練を行い、ストランド状に吐出し、冷却バスを通し、ストランドカッターによりペレット化した。
スクリュウ径30mm、L/D35の同方向回転ベント付き2軸押出機(日本製鋼所製、TEX−30α)を用いて、(A)〜(B)の各成分およびさらに必要に応じて配合する成分を表1〜表3に示した配合組成で混合し、2軸押出機の元込め部から添加した。なお、繊維強化材の<D−6>のGFは、元込め部とベント部の途中にサイドフィーダーを設置して添加した。さらに、混練温度250℃、スクリュウ回転150rpm、混練エネルギー0.45kWh/kgの押出条件で溶融混練を行い、ストランド状に吐出し、冷却バスを通し、ストランドカッターによりペレット化した。なお、実施例8、9においては、スクリュウブロックの組み合わせにより混練エネルギーをそれぞれ0.25kWh/kg、0.85kWh/kgに制御し、溶融混練を行い、ストランド状に吐出し、冷却バスを通し、ストランドカッターによりペレット化した。
得られたペレットを110℃の熱風乾燥機で6時間乾燥後、東芝機械製IS55EPN射出成形機を用い、各種成形品を得た。前記の測定方法で種々の値を測定し、表1〜表3にその結果を示した。なお、実施例14、21、比較例5、7、9においては、引張物性の評価において引張降伏強度と引張降伏伸びが認められなかった。
実施例1および実施例22と比較例1、実施例6と比較例2、実施例7と比較例3の比較から、(A)成分と(B)成分を含有する本発明の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物により、優れた引張物性を維持しながら難燃性が付与され、高い熱変形温度を有することが分かる。また、実施例1の成形品中の(B)成分の平均粒径は2.1μmであり、粗大な凝集物は観察されなかった。
また、実施例8から、混練温度250℃、スクリュウ回転150rpmの押出条件でスクリュウブロックの組み合わせにより混練エネルギーを0.25kWh/kgに制御して溶融混練した難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、成形品の引張破断伸びが実施例1に比べて約40%低下した。また、成形品中の(B)成分の平均粒径は5.1μmであり、引張破断伸びの低下原因と推察される。また、実施例9の混練エネルギーを0.85kWh/kgに制御して溶融混練した難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、混練エネルギーを大きくしたことにより成形品中における(B)成分の平均粒径が実施例1に比べて小さくなり、やや熱変形温度が低下した。
また、(B)成分を35重量%より多く含有した比較例9は、引張試験片が破壊する際、引張降伏強度と引張降伏伸びを示さず、成形品の靭性を大きく損なう難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物であると言える。
また、(B)成分に替えて、ベーマイトを含有した比較例4〜5の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、難燃性が不十分であった。
また、(B)成分に替えて、公知の水酸化アルミニウムを含有した比較例6は、溶融混練時に発泡が認められ、ストランド状に吐出することが困難で難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂のペレットが得られなかった。
また、(B)成分に替えて、水酸化マグネシウムを含有した比較例7の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、成形品の靭性に劣り、さらに、難燃性も不十分であった。また、難燃性付与のため、水酸化マグネシウムの配合量を15%に増量した比較例8は、溶融混練時に発泡が認められ、ストランド状に吐出することが困難で難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂のペレットが得られなかった。
また、リン系難燃剤を含有した比較例10の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、成形品の熱変形温度が不十分であった。
上記から、(B)成分の本発明の水酸化アルミニウムを用いることにより、溶融混練時に発泡を起こさず、優れた引張物性を維持しながら難燃性が付与され、高い熱変形温度を有する成形品が得られ、ベーマイト、公知の水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムおよびリン系難燃剤からは得られない特異的な効果と言える。
また、実施例10〜11から、(B)成分の一部を(C)成分のMC塩や酸化マグネシウムに替えた難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、高度な難燃性と高い熱変形温度が得られることが分かった。特に実施例10の(B)成分の一部を(C)成分のMC塩に替えた難燃性ポリエステル樹脂組成物は、実施例1と比較し、熱変形温度が大きく向上することが分かった。
また、実施例5と実施例12〜13の比較から、(C)成分としてハロゲン系難燃剤とリン系難燃剤を併用すると、さらに高度な難燃性V−0の性能を持つ難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物が得られた。
また、実施例14から、実施例13の組成物にGFを配合した難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、高度な難燃性V−0を維持しながら、GFの補強効果によって、高い引張強度と熱変形温度を持つ難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物が得られると言える。
また、実施例13の組成物にPC樹脂とGFを配合した難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の実施例21においても、高度な難燃性V−0を維持しながら、GFの補強効果によって、高い引張強度と熱変形温度を持つ難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物が得られると言える。
また、表2の実施例15のPC樹脂を配合した難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、難燃性と熱変形温度を維持しながら、成形収縮率1.4%の成形品が得られ、実施例1の2.1%より低い値を示した。つまり、成形収縮率が低下し、寸法安定性に優れる方向にあると推察される。また、PLA樹脂を使用した実施例16のPCを配合した難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物についても同様に難燃性と熱変形温度を維持しながら寸法安定性が改善されることが分かった。
また、表2の実施例17〜18のビニル系樹脂とエチレン共重合体を配合した難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、難燃性と熱変形温度を維持しながら、靭性を大きく改善した。
また、実施例1の成形下限圧力3.8MPa・ゲージ圧力に対し、実施例19の多価アルコールを配合した難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、2.9MPa・ゲージ圧力で成形品が充填され、より低い圧力で成形品が得られることから、流動性に優れていると言える。
また、実施例20の酸化防止剤のIR−1010を配合した難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物と実施例1の成形品の色調を測定したところ、18の値を示し、実施例1の25より低い値を示した。つまり、黄味が低下し白くなっていることを意味し、色調が向上する性能を有していた。
Claims (5)
- (A)熱可塑性ポリエステル樹脂および(B)水酸化アルミニウムとベーマイト化を遅延させる反応遅延剤とを混合した原料に水を加えることなく、圧力容器内で170℃〜300℃の温度で加熱することにより得られる水酸化アルミニウムを含有し、(A)成分および(B)成分の合計100重量%中、(A)成分を65〜99.5重量%、(B)成分を0.5〜35重量%含有する難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
- さらに、(A)成分と(B)成分の合計100重量部に対し、(C)難燃助剤0.1〜20重量部を含有する請求項1に記載の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
- 請求項1または請求項2に記載の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を溶融成形して得られる成形品であって、成形品中における(B)成分の平均粒径が1μm〜9μmの範囲にある成形品。
- 請求項1または請求項2に記載の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を溶融成形して得られる成形品であって、難燃性規格UL−94V−2に適合する難燃性を有する成形品。
- 少なくとも(A)成分および(B)成分を溶融混練する難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の製造方法であって、樹脂温度を200℃〜300℃に制御しつつ、0.3kWh/kg〜1kWh/kgの混練エネルギーを付与することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の難燃性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の製造方法。
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