JP2013015676A - 定着部材および定着装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】 本発明は、柔軟なゴム層からなる表面層の利点である紙表面凹部への追従性の良さを維持しつつ、紙表面の凸部のトナー粒子に対しても十分な押圧力を印加可能であり、かつ、表面に汚れが付着しにくく、定着性能が変化しにくい定着部材に関する。
【解決手段】 該定着部材は、トナーと接触する表面層を有し、該表面層はフッ素ゴムが海相、架橋構造を有するシリコーン化合物が島相の海島構造を有しており、該表面層の応力−歪み曲線が、歪み0.25〜0.8の範囲において、歪みが大きくなるにしたがって曲線の傾きである接線弾性係数が大きくなるように構成されてなり、かつ、イオン液体を含有している。
【選択図】 図8
【解決手段】 該定着部材は、トナーと接触する表面層を有し、該表面層はフッ素ゴムが海相、架橋構造を有するシリコーン化合物が島相の海島構造を有しており、該表面層の応力−歪み曲線が、歪み0.25〜0.8の範囲において、歪みが大きくなるにしたがって曲線の傾きである接線弾性係数が大きくなるように構成されてなり、かつ、イオン液体を含有している。
【選択図】 図8
Description
本発明は電子写真画像の熱定着に用いる定着部材および定着装置に関する。
電子写真画像形成装置で得られるトナー画像は様々な記録材上に形成される。中でも記録材として最もよく使用される紙は、表面に紙の繊維による凹凸が存在し、その凹凸の上にトナー像が形成される。かかる紙上に形成された未定着のトナー粒子は定着部材で押圧されつつ加熱されることで押し潰されて紙の表面に定着する。このとき、定着部材の表面層が硬い場合、紙表面の凸部に存在するトナーはよく押し潰される。しかしながら、紙表面の凹部に存在するトナーは、定着部材によって十分に押圧されないため、トナーが粒子形状を保ったままで光沢に乏しい部分が生じることがある。その結果として、1枚の紙上に形成された定着トナー像には高光沢の部分と、低光沢の部分とが混在することとなる。一方、表面が柔軟な定着部材は、表面層が紙の表面の凹部によく追従するため、紙の表面の凹部に位置するトナー粒子ともよく接触して当該トナー粒子に押圧力を印加することができる。柔軟な表面層を有する定着部材として、特許文献1には、分子内にエーテル結合を有するフッ素ゴムとポリエーテル構造を有するポリシロキサン系界面活性剤とを含むトナー離型層を有する定着用部材が開示されている。
しかしながら、本発明者等の検討の結果、以下のような知見を得た。すなわち、定着部材の表面層を柔軟化することで紙の凹部への追従性を高めれば高めるほど、紙の凸部に存在するトナー粒子に対する押圧力が不足し、当該トナー粒子の粒子形状が維持されてしまい、紙の表面凸部におけるトナー像の光沢が不十分となることがあった。また、定着部材に対しては、表面へのトナー等の付着の抑制が求められている。
そこで、本発明の目的は、柔軟なゴム層からなる表面層の利点である紙表面凹部への追従性の良さを維持しつつ、紙表面の凸部のトナー粒子に対しても十分な押圧力を印加可能であり、かつ、表面に汚れが付着しにくく、定着性能が変化しにくい定着部材を提供することにある。また、本発明の他の目的は、均一な光沢感を示す、高品位な電子写真画像を安定して形成することのできる定着装置を提供することである。
本発明の一態様によれば、フッ素ゴムを含む海相と架橋構造を有するシリコーン化合物からなる島相とを含む表面を有する表面層を具備している定着部材であって、該表面層は、該表面層の応力−歪み曲線が、歪みが0.25〜0.8の範囲において、歪みが大きくなるに連れて該応力−歪み曲線の傾きである接線弾性係数が大きくなるように構成されてなり、かつ、イオン液体を含有する定着部材が提供される。
また、本発明の他の態様によれば、上記の定着部材を有する定着装置が提供される。
本発明によれば、高光沢な電子写真画像を安定して形成することに貢献し得る定着部材を提供することができる。
さらに本発明によれば、紙凹部でトナーの粒子形状を保ったままの部分が生じにくく、高光沢な定着画像を安定して形成することに貢献し得る定着装置を得ることができる。
本発明に係る定着部材は、フッ素ゴムを含む海相と、架橋構造を有するシリコーン化合物からなる島相とを含む表面を有する表面層を具備している。そして、該表面層は、該表面層の応力−歪み曲線における、歪みが0.25〜0.8の範囲において、歪みが大きくなるに連れて該応力−歪み曲線の傾きである接線弾性係数が大きくなるように構成されている。更に、該表面層は、イオン液体を含有する。
ここで、応力―歪み曲線における歪みの数値範囲の下限値である「0.25」なる値は、ゴムを含む表面層を備えた定着部材を用いてトナーを定着させる場合において、当該表面層に不可避的に生じる歪みの値である。また、歪みが0.8を超えることは通常使用される定着条件の高圧力下でも考えにくいことから、上限値として0.8を設定した。そして、歪みが0.25〜0.8の範囲において、歪みが大きくなるに連れて接線弾性係数が大きくなる表面層を有する定着部材とすることで、ゴム表面層の利点である紙凹部への追従性がよいことを維持しつつ、高光沢のトナー定着画像を得ることができる。紙の表面凹凸は、紙繊維の配列によるものであり、凹凸高さにはある範囲内でばらつきが存在する。つまり、1枚の紙表面に様々な表面凹凸高さが存在する。したがって、定着部材が紙表面に圧接する際、定着部材の表面層ゴムの歪みも一様ではなく、圧接面内において局所的に様々な歪みが生じることになる。
本発明に係る表面層は、図1及び図2に示すように、当該表面層の応力−歪み曲線の歪みが0.25〜0.8の範囲において、歪みが大きくなるに連れて、当該曲線の傾きである接線弾性係数が大きくなる。ある歪みにおける接線弾性係数は、その歪みにおけるゴムの硬さを表している。すなわち本発明に係る表面層は、歪みの大きさによってゴムの硬さが変化し、歪みが小さいときは相対的にゴムが軟らかく、歪みが大きいときはゴムが相対的に硬いという特性を有する。従って、図3に模式的に示したように、本発明に係る表面層の紙表面の凹部に接している部分は相対的に歪みが小さい。その一方で、紙凸部に接している部分は相対的に歪みが大きくなる(図3参照)。
つまり、凹部に接している部分は相対的に軟らかい。従って、表面層は凹部内の未定着トナー粒子に追従し、当該トナー粒子に対して押圧力を十分に印加できる。また、凸部に接している表面層は相対的に硬い。よって、凸部に存在する未定着トナー粒子は良く押し潰されることとなる。その結果として、均一な光沢感を有する電子写真画像を得ることができる。
先に述べたように、紙の表面の凹凸には、ばらつきが存在するため、表面層の歪みも大きいところと小さいところの2種類ではなく、部分的に様々な歪みが生じることになる。したがって、歪みが大きくなるにしたがって、曲線の傾きである接線弾性係数が一様に大きくなる表面層は、凹部に対する追従性とトナーを押し潰すこととをよく両立できる。
本発明者等の検討によれば、通常のゴムは、本発明に係る表面層とは逆に、歪みが大きくなるに従って接線弾性係数が小さくなるとの知見を得ている。すなわち、歪みが小さいほどゴムは相対的に硬く、歪みが大きいほどゴムは相対的に軟らかくなる。そのため、一般的なゴムを含む表面層を備えた定着部材は、トナーが粒子形状を保ったままの部分を少なくしつつ、高光沢の画像を得るには不利と考えられる。
また、歪み−応力の関係が線形のものは、歪みが変わっても、硬さは同じなので、紙凹部でトナーが粒子形状を保ったままの部分を少なくすることと、光沢を高くすることとを両立することは困難であると考えられる。
通常の電子写真画像の定着条件では、表面層の歪みが0.8を超えることは考えにくい。ここでの定着条件とは、定着ニップ部における圧力条件のことである。定着器の設定によって圧力は異なるが、実用範囲内の高圧設定でも、表面層の歪みが0.8を超えることは考えにくい。ここでいう表面層の歪みとは、単軸引張りにおける伸張長さ/初期長さのことであるが、引張り方向と垂直の方向にはゴムは拘束されていない状態である。ゴムのポアソン比は0.5に近く体積はほとんど変化しない。実際の定着ニップ部においては、通紙方向を引張り方向とすると通紙方向と垂直の方向であるニップ長手方向にも拘束されていると考えられる。したがって、本発明における表面層の歪み0.8の状態は、たとえば表面が平滑なコート紙の場合、定着ニップ部において表面層が厚み方向に約44%圧縮されている状態に相当すると考えられる。表面層歪みが0.8を超える定着条件にすると、表面層が厚み方向にさらに圧縮されることに相当し、表面層の耐久性に問題が生じやすくなるので、実用上考えにくい。また、本発明における表面層歪み0.25の状態は、たとえば表面が平滑なコート紙の場合、定着ニップ部において表面層が厚み方向に約20%圧縮されている状態に相当する。
歪みが0.8以下の範囲において、例えば汎用のフッ素ゴムは、歪みが増加するにしたがって接線弾性係数は小さくなる。汎用のフッ素ゴムとは、ポリアミン架橋、ポリオール架橋、あるいはパーオキサイド架橋したものである。これらは通常、架橋させるのに必要な各種配合剤を添加し、加熱することで架橋反応させたものである。架橋反応を促進するエネルギーは熱であり、通常高温でも200℃以下で行われる。エネルギーとしては大きくても100 kcal/mol未満である。ただし、加熱架橋させたフッ素ゴムでも、歪みが0.8を超えて極端に大きい範囲では、歪みが大きくなるにしたがって接線弾性係数が大きくなる。
これらの従来から用いられている加熱架橋方法と異なり、歪みが0.8以下の範囲において、歪みが増加するにしたがって接線弾性係数が大きくなる表面層は、電子線の照射により形成することができる。すなわち、物質に電子を照射すると、照射された電子が物質中の核外電子と相互作用し、二次電子が発生する。二次電子の平均エネルギーは2600kcal/mol程度といわれており、加熱架橋のエネルギーよりも格段に大きく、この二次電子により架橋反応が進行する。このため、従来の加熱架橋よりも架橋反応がさらに進行し、架橋密度が高くなることで、歪みが0.8以下の範囲においても、歪みが増加するにしたがって接線弾性係数が大きくなると考えられる。電子線は、加熱架橋反応をさせた表面層に照射してもよいし、加熱架橋反応をさせていない表面層に照射してもよい。
電子線を照射する雰囲気としては、不活性ガス雰囲気、好ましくは窒素ガス雰囲気で、酸素濃度が20ppm以下であることが望ましい。酸素濃度を低くすることで、表面層のゴムの酸化が抑えられ、ゴムの表面エネルギーが高くなることを抑制できる。その結果として、トナー離型性の悪化、あるいは紙に含まれている充填剤がゴムの表面に付着することをよく抑えることができる。また、電子線の加速電圧は、表面層の厚みによって適宜設定すればよい。加速電圧を変えると、表面層表面から内部方向への電子が到達できる深さが変わるので、表面層の厚みによって設定する必要がある。例えば、表面層厚みが30μmの場合、加速電圧は80kV以上にすることが望ましい。また、照射電流値、照射時間などの条件を変更することにより、ゴム表面層の架橋程度を変えることができる。
本発明に係る表面層は、フッ素ゴムを含む海相と、架橋構造を有するシリコーン化合物からなる島相とを含む海島構造を有する。海相を構成するフッ素ゴムポリマー(フルオロポリマー)の具体例を以下に挙げる。ビニリデンフルオライドとヘキサフルオロプロピレンとの二元共重合体、ビニリデンフルオライドとヘキサフルオロプロピレンとテトラフルオロエチレンの三元共重合体、エーテル基を有するビニリデンフルオライドとテトラフルオロエチレンとパーフルオロアルキルビニルエーテルとの三元共重合体。反応点として分子内にヨウ素または臭素を含有するビニリデンフルオライドとテトラフルオロエチレンとパーフルオロメチルビニルエーテルとの三元共重合体は公知の方法で合成できる。また、このような三元共重合体は市販されている。具体例を以下に挙げる。
「ダイエル LT−302」(ダイキン工業(株)製)。
「バイトン GLT」、「バイトンGLT−305」、「バイトンGLT−505」、「バイトンGFLT」、「バイトンGFLT−300」、「バイトンGFLT−301」、「バイトンGFLT−501」、「バイトンGFLT−600」(デュポン ダウ エラストマー ジャパン(株)製)。
「ダイエル LT−302」(ダイキン工業(株)製)。
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島相を構成するシリコーン化合物は、親水基であるポリオキシアルキレンと疎水基であるジメチルポリシロキサンを含む構造よりなるポリシロキサン系界面活性剤(シリコーン系界面活性剤)であることがトナー離型性の観点から好ましい。ポリシロキサン系界面活性剤は、ジメチルポリシロキサンを例とすると下記の3種類の構造に分類することができる。
(1)ジメチルポリシロキサン骨格の側鎖にポリオキシアルキレンが結合した構造からなる側鎖変性型、
(2)ジメチルポリシロキサン骨格の末端にポリオキシアルキレンが結合した構造からなる末端変性型、
(3)ジメチルポリシロキサンとポリオキシアルキレンが交互に繰り返し結合した構造からなる共重合型。
(1)ジメチルポリシロキサン骨格の側鎖にポリオキシアルキレンが結合した構造からなる側鎖変性型、
(2)ジメチルポリシロキサン骨格の末端にポリオキシアルキレンが結合した構造からなる末端変性型、
(3)ジメチルポリシロキサンとポリオキシアルキレンが交互に繰り返し結合した構造からなる共重合型。
中でも上記(3)の共重合型が、フッ素ゴムに対する分散性が最も優れているため、より好ましい。また、ポリシロキサン系界面活性剤の配合量は、フッ素ゴムポリマーを100質量部とすると、フッ素ゴムポリマーのF含有率が低い場合は40質量部以上60質量部以下であることが望ましい。これに対してフッ素ゴムポリマーのF含有率が高い場合は20質量部以上40質量部以下であることが望ましい。
フッ素ゴムとしては、分子鎖末端又は側鎖にヨウ素または臭素を導入したタイプのものが好ましい。このようなフッ素ゴムにおいては、電子線照射によって、ヨウ素または臭素原子の引き抜き反応と架橋助剤のアリル基へのラジカル反応等により架橋が行われると考えられる。架橋助剤としては、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレートなどを挙げることができ、特にトリアリルイソシアヌレートが好ましく用いられる。
また、ポリシロキサン系界面活性剤を含む島相に電子線を照射することにより生じると考えられる架橋反応の概略を図10に示す。すなわち、電子線の照射によって、ポリシロキサン系界面活性剤中のジメチルシリコーン部分のSi−CH3の結合の一部が切断され(図10(b)、当該切断部分同士が酸素原子を介して再結合することでジメチルシリコーンの鎖同士が結合される(図10(c))。かかる結合の形成は、例えば、13C固体NMRによる分析で、通常の(CH3)2SiO−由来の炭素原子の存在を示すピークよりも高磁場側に現れる、図10(c)の構造中に新たに存在することとなった下記化学式(3)に示す構造由来の炭素原子のピークにより確認することができる。
また、本発明に係るポリシロキサン系界面活性剤としては、分子鎖両末端に炭素−炭素不飽和結合を有するものが好ましい。かかるポリシロキサン系界面活性剤の電子線照射による架橋は、ジメチルシロキサン部分でのレジン化に加えて、不飽和結合へのラジカル反応と、架橋助剤のアリル基へのラジカル反応により行われると考えられる。また、海相であるフッ素ゴムのポリマーと島相であるポリシロキサン系界面活性剤の界面においてもラジカル反応による架橋が起こっていると考えられる。
ところで、定着部材の表面へのトナー等の付着性を低減させるための一つの方法として、定着部材の表面層の体積抵抗を低くすることで、当該表面の帯電を抑制し、トナーおよび紙に含まれている充填剤等の静電的な付着を抑制する方法がある。
そこで、本発明者らは、フッ素ゴムを含む海相と、架橋構造を有するシリコーン化合物からなる島相とを含む海島構造を有し、かつ、応力−歪み曲線の歪みが0.25〜0.8の範囲において、歪みが大きくなるに連れて、当該曲線の傾きである接線弾性係数が大きくなるような特性を示す表面層にイオン導電剤を含有させ、その体積抵抗を低減させることを試みた。その結果、イオン導電剤の添加量に対する当該表面層の体積抵抗の低減効果が極めて小さい場合があることを見出した。以下にこの点について詳細に説明する。
即ち、本発明者は、上記の特性を有する表面層に、イオン導電剤として、ノナフルオロ−1−ブタンスルホン酸リチウムやトリフルオロメタンスルホン酸カリウム等を含有させたところ、表面層の体積抵抗は、約4.0〜6.0×1011Ω・cm程度であった。また、表面層に加わる歪みの量に比例した体積抵抗値の上昇が観察された。
一方、加熱のみによって架橋させた表面層中に、同量の上記イオン導電剤を含有させた場合、その体積抵抗は約4.0〜6.0×109Ω・cm程度であり、上記特性を示す表面層の体積抵抗値の約1%であった。また、表面層に加わる歪み量の変化に対する体積抵抗の顕著な上昇は認められなかった。
このことから、本発明に係る特性を示す表面層は、海相を構成しているフッ素ゴムが緻密に架橋しているためにイオンの移動が阻害され、また、当該表面層に加わる歪みの増加に連れて、イオンがより一層移動し難くなっていることが推測される。
そこで、本発明者らは、本発明に係る表面層に対して、十分な導電性を付与することについて検討を重ねた。その結果、本発明に係る表面層にイオン液体を含有させることによって、当該表面層の電気抵抗を十分に低下させることができることを見出した。
<イオン液体(ionic liquids)>
イオン液体とは、一般に25℃〜100℃の温度域でも液体状態で存在することのできる塩をいう。NaClなどで代表される無機塩は、800℃以上程度の高温でないと液体にはならない。これはイオンサイズが小さく、イオン間の相互作用が非常に強いためと考えられている。これに対してイオン液体は一般的な無機塩と比較して相対的にイオンサイズが大きく、その結果として、イオン間の相互作用が弱いため、比較的低い温度で液体状態になるものと考えられる。
イオン液体とは、一般に25℃〜100℃の温度域でも液体状態で存在することのできる塩をいう。NaClなどで代表される無機塩は、800℃以上程度の高温でないと液体にはならない。これはイオンサイズが小さく、イオン間の相互作用が非常に強いためと考えられている。これに対してイオン液体は一般的な無機塩と比較して相対的にイオンサイズが大きく、その結果として、イオン間の相互作用が弱いため、比較的低い温度で液体状態になるものと考えられる。
イオン液体の例としては、イミダゾリウム塩、ピロリジニウム塩、ピリジニウム塩、アンモニウム塩、ホスホニウム塩、スルホニウム塩などが挙げられる。
本発明においては、イミダゾリウムイオン、ピロリジニウムイオン、および、ピリジニウムイオンから選ばれる何れかのカチオンと、フルオロアルキル基を有するアニオンからなるイオン性液体が特に好適に用いられる。上記したような含窒素環を含むカチオンは、耐熱性が高いと考えられ、また、フッ化アルキル基を含むアニオンは、表面層の海相をなすフッ素ゴムへの分散性に優れると考えられるからである。以下に具体的なイオン液体の例を下記表1に示す。
本発明に係る表面層の導電化のためのイオン導電剤として、上記イオン液体No.2、3、5および6は、本発明に係る表面層中に含有させたときの、当該表面層に加わる歪み量に対する表面層の体積抵抗の変化が特に小さいため、好ましい。具体的には、上記イオン液体No.1、2および3を同量含有させた本発明に係る表面層の歪み量が0のときの体積抵抗値を基準としたときの、歪み量が0.4のときの体積抵抗値の変化率を下記表2に示す。
イオン液体4〜6についても同様の結果が得られた。このことから、本発明に係る表面層の導電化には、歪み量に対する体積抵抗の変化率が小さい上記イオン液体No.2、3、5および6が特に好ましいものである。
本発明に係る定着部材の構成としては以下の構成を挙げることができる。
・金属あるいは樹脂製の基材上に表面層を形成したもの;
・基材上に熱伝導性シリコーンゴム層を形成し、その外周面に表面層を形成したもの;
・基材上に熱伝導性シリコーンゴム層を形成し、その外周面に中間層を形成し、さらにその外周面に表面層を形成したもの。ただし、本発明の定着部材はこれらの構成に限られるものではなく、5層以上の構成でもよい。
・金属あるいは樹脂製の基材上に表面層を形成したもの;
・基材上に熱伝導性シリコーンゴム層を形成し、その外周面に表面層を形成したもの;
・基材上に熱伝導性シリコーンゴム層を形成し、その外周面に中間層を形成し、さらにその外周面に表面層を形成したもの。ただし、本発明の定着部材はこれらの構成に限られるものではなく、5層以上の構成でもよい。
特に4層構成の場合は、中間層が基層と表面層よりも硬い樹脂にすることが好ましい。基層と表面層はゴム製であるのに対し、中間層は耐熱樹脂製であることが好ましい。このような構成にすることで、ゴム表面層の利点を維持しつつ、紙繊維への過度の追従を抑制することで、さらに高い光沢の画像を得ることができる。
本発明に係る定着部材は、例えば次のように製造することができる。
まず、好ましくはエーテル基を有するフルオロポリマーと、好ましくはエーテル構造を有するポリシロキサン系界面活性剤と、架橋助剤としてのトリアリルイソシアヌレートと、イオン液体とを少なくともケトン系溶剤に溶解し、よく攪拌する。その後、ローラあるいはベルトの外表面にコーティングし、乾燥後、電子線照射による一次架橋、通常の加熱オーブン中における二次架橋、あるいは不活性ガス中での加熱による二次架橋の工程を経ることにより製造することができる。
コーティングの方法としては、スプレーコーティング、スリットコーティング、ブレードコーティング、ロールコーティング、ディップコーティング等の公知の方法を用いることができる。表面層の厚さの目安としては、10μm以上、500μm以下である。十分な耐キズ付き性、耐摩耗性と、優れた熱伝導性とを高いレベルで両立させられるためである。
また、熱伝導性シリコーンゴム層を形成する場合は、公知の方法、例えばシリコーンゴム材料を成形型内に注入し、加熱硬化する方法、あるいはコーティングによりシリコーンポリマー層を形成し、加熱オーブンなどで硬化させる方法等で作製すればよい。シリコーンゴム層の厚さは、紙などの記録材に対する追従性を確保するため等の理由から50μm以上が好ましく、熱伝導性等の点から5mm以下であることが好ましい。
このようにして製造することができる定着部材の断面層構成を図4に示す。図4において、1は海相がフッ素ゴム、島相が架橋構造を有するシリコーン化合物からなる表面層であり、2はシリコーンゴムからなる熱伝導層、3は基材である。本発明に係る表面層1を設けることで、トナー粒子形状を保ったままの部分が生じにくく、高光沢な画像が安定して形成することに貢献し得る定着部材を提供することができる。
なお、本発明の定着部材は定着ベルト、定着ローラ、加圧ベルト、あるいは加圧ローラなどいずれの形態のものでもよい。
<定着装置>
本発明に係る定着装置について説明する。本発明に係る定着装置は、電子写真画像形成装置に用いる定着装置であって、前述のような本発明の定着部材が定着ベルトあるいは定着ローラ、および/または加圧ベルトあるいは加圧ローラとして配置されているものである。電子写真画像形成装置としては、感光体、潜像形成手段、形成した潜像をトナーで現像する手段、現像したトナー像を記録材に転写する手段、および、記録材上のトナー像を定着する手段等を有する電子写真画像形成装置が挙げられる。
本発明に係る定着装置について説明する。本発明に係る定着装置は、電子写真画像形成装置に用いる定着装置であって、前述のような本発明の定着部材が定着ベルトあるいは定着ローラ、および/または加圧ベルトあるいは加圧ローラとして配置されているものである。電子写真画像形成装置としては、感光体、潜像形成手段、形成した潜像をトナーで現像する手段、現像したトナー像を記録材に転写する手段、および、記録材上のトナー像を定着する手段等を有する電子写真画像形成装置が挙げられる。
本発明に係る定着装置の一実施態様を示す断面図を図5に示す。定着装置には、定着ローラ4および加圧ベルト5が配置されている。この定着ローラ4に本発明の定着部材が少なくとも用いられる。この定着ローラ4は内部に配置されているハロゲンヒーター6により加熱される。加圧ベルト5は入り口ローラ7、分離ローラ8、ステアリングローラ9により張架されている。分離ローラ8は加圧ベルト5を定着ローラ4に圧接している。ステアリングローラ9は移動可能となっていて、加圧ベルト5の寄りを修正している。また、入り口ローラ7と分離ローラ8の間には加圧パッド10が配置されている。加圧パッド10は加圧ベルト5を定着ローラ4に圧接している。
定着ローラ4は図示していない駆動源により、矢印方向に所定の周速度で回転し、加圧ベルト5もそれに合わせて矢印方向に回転する。定着温度は、定着ローラ4の表面温度をサーミスタ11により測定された温度をもとに、ハロゲンヒーター6への出力が制御されることにより設定温度に保たれている。定着ローラ4の表面温度(定着温度)は特に限定されないが、通常、130℃〜220℃程度である。
そして、紙などの記録材上に形成されたトナー画像は、定着ローラ4と加圧ベルト5の間に挟持、搬送され、ハロゲンヒーター6からの熱と、定着ローラ4と加圧ベルト5との圧力により定着される。定着ローラ4の表面に付着したトナーあるいは紙充填剤等の汚れは金属製の回収ローラ12の表面に移動し、ウェブローラ13により回収ローラ12に押し付けられているクリーニングウェブ14によって拭き取られる。なお、この定着器は、高加圧力タイプの定着器である。なお、ここでは、定着ローラと加圧ベルトの定着装置を例として挙げたが、本発明に係る定着装置は、本発明の定着部材を定着ベルトあるいは定着ローラ、および/または加圧ベルトあるいは加圧ローラとして有していればよい。
以下に、実施例により本発明の詳細を説明する。
はじめに、各実施例および比較例に係る定着部材または表面層の評価、測定方法について説明する.
〔応力−歪み曲線測定〕
表面層の応力と歪みとの関係を以下のように測定した。各実施例および比較例に係る表面層のサンプルについて、歪と応力との関係を測定した。サンプルサイズおよび測定条件を下記表3に示す。また、測定には、動的粘弾性測定装置(商品名:Rheogel−E4000、株式会社ユービーエム製)を用いた。
〔応力−歪み曲線測定〕
表面層の応力と歪みとの関係を以下のように測定した。各実施例および比較例に係る表面層のサンプルについて、歪と応力との関係を測定した。サンプルサイズおよび測定条件を下記表3に示す。また、測定には、動的粘弾性測定装置(商品名:Rheogel−E4000、株式会社ユービーエム製)を用いた。
そして、測定結果に基づき、応力−歪曲線を作成した。なお、本発明における応力は、荷重を試料の初期断面積で除した、公称応力(nominal stress)であり、また、歪は、伸びを試料の初期長さで除した、公称歪である。したがって、本発明に係る応力−歪曲線は、公称応力−公称歪み曲線である。また、歪みの値が「0.8」とは、初期長10mmに対して1.8倍の18mmに伸張された状態を意味する。また、試料が伸長された状態での厚みは、ゴムの体積が変わらないとした時の計算値を用いた。
更に、接線弾性係数−歪み曲線は、上述の方法で得られた応力−歪み曲線を多項式近似(6次数)し、得られた多項式を歪みの変数で微分することにより求めた。
〔電気抵抗値と歪みとの関係の測定〕
各実施例および比較例に係る表面層を、下記表2に示すサンプルサイズに切り出し、抵抗率計(商品名:ハイレスタUP(MCP−HT450型)、三菱化学アナリテック社製)を用いて電気抵抗値(体積抵抗[Ω・cm])と表面層の歪みとの関係を測定した。測定条件を下記表4に示す。
各実施例および比較例に係る表面層を、下記表2に示すサンプルサイズに切り出し、抵抗率計(商品名:ハイレスタUP(MCP−HT450型)、三菱化学アナリテック社製)を用いて電気抵抗値(体積抵抗[Ω・cm])と表面層の歪みとの関係を測定した。測定条件を下記表4に示す。
なお、歪は、伸びを試料の初期長さで除した、公称歪である。歪みの値が0.4とは、初期長40mmに対して1.4倍の56mmに伸張された状態を意味する。また、試料が伸長された状態での厚みは、ゴムの体積が変わらないとした時の計算値を用いた。
〔定着部材の評価方法〕
各実施例および比較例に係る定着部材を図5に示す定着装置に装着し、この定着装置をカラー複写機(商品名:イメージプレス(ImagePress)C1+、キヤノン製)に組み込んだ。なお、上記カラー複写機においては、A4サイズの紙が横方向に搬送される。また、上記カラー複写機は、図5に示した構造の定着器を具備している。
各実施例および比較例に係る定着部材を図5に示す定着装置に装着し、この定着装置をカラー複写機(商品名:イメージプレス(ImagePress)C1+、キヤノン製)に組み込んだ。なお、上記カラー複写機においては、A4サイズの紙が横方向に搬送される。また、上記カラー複写機は、図5に示した構造の定着器を具備している。
そして、上記のカラー複写機を用いて、A4サイズの普通紙の短手方向を上にしたときの上半分にのみシアントナーのベタ画像(トナー載り量=0.4mg/cm2)が形成されるような画像のプリントを連続して1000枚作成した。なお、定着条件は以下の通りとした。
<定着条件>
ニップ部のピーク加圧力:0.3MPa、
定着ローラの表面温度:170℃、
プロセススピード:300mm/sec。
ニップ部のピーク加圧力:0.3MPa、
定着ローラの表面温度:170℃、
プロセススピード:300mm/sec。
<定着部材の紙の表面への追従性評価、および光沢度評価>
定着部材の紙凹部への追従性を以下のように評価した。すなわち、1枚目のプリントの、シアントナーを定着させたベタ画像の部分を共焦点(コンフォーカル)顕微鏡(レーザーテック株式会社製)を用いて倍率10倍にて観察し、グレースケールの観察像を得た。この観察像を画像処理ソフトウェア(商品名:Image−Pro Plus、Media Cybernetics社製)を用いて、トナーが粒子形状を保っていない部分とトナーが粒子形状を維持している部分とで2値化した。そして、観察視野の全面積に対する、トナーが粒子形状を保っていない部分の面積の比率(%)を求めた。この値が大きいほど、紙上のより多くのトナーが定着部材と接したこととなる。
定着部材の紙凹部への追従性を以下のように評価した。すなわち、1枚目のプリントの、シアントナーを定着させたベタ画像の部分を共焦点(コンフォーカル)顕微鏡(レーザーテック株式会社製)を用いて倍率10倍にて観察し、グレースケールの観察像を得た。この観察像を画像処理ソフトウェア(商品名:Image−Pro Plus、Media Cybernetics社製)を用いて、トナーが粒子形状を保っていない部分とトナーが粒子形状を維持している部分とで2値化した。そして、観察視野の全面積に対する、トナーが粒子形状を保っていない部分の面積の比率(%)を求めた。この値が大きいほど、紙上のより多くのトナーが定着部材と接したこととなる。
また、上記1枚目のプリントのシアントナーを定着させたベタ画像部分の光沢度をハンディグロスメーター(商品名:PG−1M、堀場製作所製)により60°グロス値で測定した。この値が大きいほど、紙上に乗せられたトナーがより良く定着されたこととなる。
<定着部材表面への汚れ付着性評価>
1000枚のプリントを作成後の、上記カラー複写機の定着装置内の、定着部材のクリーニングウェブの表面を目視で観察し、その汚れの程度で定着部材の汚れ難さを評価した。すなわち、定着部材の表面が汚れやすい場合には、その汚れがクリーニングウェブによってクリーニングされることとなるため、クリーニングウェブの表面の汚れの付着の程度をみることで、定着部材の表面の汚れ難さを知ることができる.
なお、クリーニングウェブの観察部位は、上記のプリント形成の際に、紙上のシアントナーが乗った部分とは接しなかった定着部材の表面をクリーニングした部位とした。汚れ付着性の評価から、トナーの影響を排除するためである。
1000枚のプリントを作成後の、上記カラー複写機の定着装置内の、定着部材のクリーニングウェブの表面を目視で観察し、その汚れの程度で定着部材の汚れ難さを評価した。すなわち、定着部材の表面が汚れやすい場合には、その汚れがクリーニングウェブによってクリーニングされることとなるため、クリーニングウェブの表面の汚れの付着の程度をみることで、定着部材の表面の汚れ難さを知ることができる.
なお、クリーニングウェブの観察部位は、上記のプリント形成の際に、紙上のシアントナーが乗った部分とは接しなかった定着部材の表面をクリーニングした部位とした。汚れ付着性の評価から、トナーの影響を排除するためである。
<表面層の歪み>
各実施例および比較例の定着過程における表面層の歪みの値を以下のように計算した。
各実施例および比較例の定着過程における表面層の歪みの値を以下のように計算した。
まず、各実施例および比較例において画像形成に用いたA4サイズの普通紙(商品名:PB PAPER GF−500、キヤノン製)の表面を共焦点(コンフォーカル)顕微鏡(レーザーテック株式会社製)により倍率10倍にて観察した。得られた観察像から紙の最大凹凸高さRzを求めたところ、17μmであった。
また、紙の表面粗さについて、紙繊維による短い周期の凹凸(カットオフ値:8μmおよび80μm)と、紙繊維による長い周期の凹凸(カットオフ値:80μmおよび800μm)を計測した。なお、粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)の値を凹凸の周期とし、粗さ曲線要素の平均高さ(Rc)の値を凹凸の高さとして求めた。
その結果、RSm=25μmで、Rc=5μmの短い周期の凹凸、およびRSm=200μmで、Rc=12μmの長い周期の凹凸の合成波で紙の表面の凹凸をモデル化した。
上記の紙の表面の凹凸モデルに対して、各実施例および各比較例に係る定着ローラを所定の圧力で押圧したときの表面層の歪みを有限要素法による静的構造解析計算により求めた。具体的には、上記の紙の表面凹凸モデル、および、各々の定着部材の断面モデルを、3次元CAD/CAEソフトウェア(商品名:NX、Siemens PLM Software社製)を用いて作成し、0.5mmピッチで要素分割した。次いで、解析ソルバー(商品名:ABAQUS、SIMULIA社製)を使用して静的構造解析計算を行った。このとき、表面層の物性は、各々の表面層の応力−歪み曲線を超弾性の3次OGDENモデルで近似した(ポアソン比は0.48)。また、紙の物性は、線形弾性率を150MPa、ポアソン比を0.4として計算した。
(実施例1)
外径77mmのアルミ製の中空円筒状の芯金の外周面に付加反応型の液状シリコーンゴムを金型で成形し、温度130℃で1時間加熱したあとに脱型して、温度200℃で4時間二次架橋し、厚み1.5mmのシリコーンゴムからなる弾性体層を形成した。該弾性体層の周面をプライマー(商品名:MEGUM3290、Chemetall社製)を厚み2μmとなるように塗布し、乾燥させた。
外径77mmのアルミ製の中空円筒状の芯金の外周面に付加反応型の液状シリコーンゴムを金型で成形し、温度130℃で1時間加熱したあとに脱型して、温度200℃で4時間二次架橋し、厚み1.5mmのシリコーンゴムからなる弾性体層を形成した。該弾性体層の周面をプライマー(商品名:MEGUM3290、Chemetall社製)を厚み2μmとなるように塗布し、乾燥させた。
一方、下記表5の材料を有機溶剤であるメチルエチルケトン186gに溶解し、表面層形成用の溶液を調製した。
プライマーを塗布し、乾燥させた弾性層の周面に、上記の表面層形成用の溶液を、乾燥膜厚が50μmとなるようにスプレーコートし、当該溶液の塗膜を形成した。次いで、150℃の窒素置換オーブン(イナートガスオーブン INL−60、光洋サーモシステム(株)製)で1時間加熱することにより通常の架橋を行った後、この芯金を300rpmで回転させながら、酸素濃度10ppmの雰囲気下で、塗膜の表面に対して、加速電圧110kV、照射電流10mAで、14秒間電子線を照射した(電子線照射装置:岩崎電気株式会社製、吸収線量280kGy)。その後、温度180℃のオーブン中で24時間加熱して二次架橋させて塗膜を硬化させて表面層を形成し、本実施例に係る定着ローラを得た。この定着ローラを前述の方法で評価した。
一方、上記で調製した表面層形成用の溶液を、外径80mmのアルミ製の中空円筒状の芯金の外周面に、乾燥膜厚が50μmとなるようにスプレーコ−トし、当該溶液の塗膜を形成した。次いで、150℃の窒素置換オーブン(イナートガスオーブン INL−60、光洋サーモシステム(株)製)で1時間加熱することにより通常の架橋を行った後、この芯金を300rpmで回転させながら、該塗膜の表面に対して上記と同じ条件で電子線を照射し、その後、二次架橋させて表面層を形成した。この表面層を用いて、本実施例に係る表面層の「応力−歪み曲線」、および電気抵抗値(体積抵抗[Ω・cm])とゴム歪みとの関係を前述の方法で測定した。
なお、本実施例に係る定着ローラの表面層を13C固体NMRによって分析した結果、(CH3)2SiO−由来の炭素原子のピークよりも高磁場側に前記化学式(3)で示される構造に由来する炭素原子のピークが存在していた。このことから、島相を構成してなるシリコーン系界面活性剤が架橋構造を有していることを確認した。ここで、13CNMRの分析条件は以下の通りである。
装置:Chemagnetics社製 「CMX−300」
温度:25℃
基準物質:HMB(外部基準:17.35ppm)
測定核:13C核
パルス幅:4.5μsec(90°パルス)
パルス繰り返し時間:ACQTM 34.13msec
PD=5sec(CP/MAS)
データ点:POINT8192、SAMPO 1024
スペクトル幅:30.03kHz
パルスモード:CP/MAS
試料回転数:4kHz
コンタクトタイム:1.5msec。
温度:25℃
基準物質:HMB(外部基準:17.35ppm)
測定核:13C核
パルス幅:4.5μsec(90°パルス)
パルス繰り返し時間:ACQTM 34.13msec
PD=5sec(CP/MAS)
データ点:POINT8192、SAMPO 1024
スペクトル幅:30.03kHz
パルスモード:CP/MAS
試料回転数:4kHz
コンタクトタイム:1.5msec。
(実施例2)
下記表6に記載の材料を186gのメチルエチルケトンに溶解して表面層形成用の溶液を調製した。
下記表6に記載の材料を186gのメチルエチルケトンに溶解して表面層形成用の溶液を調製した。
上記の表面層形成用の溶液を用いた以外は実施例1と同様にして定着部材を製造し、実施例1と同様にして評価した。また、実施例1と同様にして表面層の応力−歪み曲線、および電気抵抗値(体積抵抗[Ω・cm])とゴム歪みとの関係を測定した。
(実施例3)
下記表7に記載の材料を186gのメチルエチルケトンに溶解して表面層形成用の溶液を調製した。
下記表7に記載の材料を186gのメチルエチルケトンに溶解して表面層形成用の溶液を調製した。
上記の表面層形成用の溶液を用いた以外は実施例1と同様にして定着部材を製造し、実施例1と同様にして評価した。また、実施例1と同様にして表面層の応力−歪み曲線、および電気抵抗値(体積抵抗[Ω・cm])とゴム歪みとの関係を測定した。
(実施例4)
下記表8に記載の材料を186gのメチルエチルケトンに溶解して表面層形成用の溶液を調製した。
下記表8に記載の材料を186gのメチルエチルケトンに溶解して表面層形成用の溶液を調製した。
上記の表面層形成用の溶液を用いた以外は実施例1と同様にして定着部材を製造し、実施例1と同様にして評価した。また、実施例1と同様にして表面層の応力−歪み曲線、および電気抵抗値(体積抵抗[Ω・cm])とゴム歪みとの関係を測定した。
(実施例5)
下記表9に記載の材料を186gのメチルエチルケトンに溶解して表面層形成用の溶液を調製した。
下記表9に記載の材料を186gのメチルエチルケトンに溶解して表面層形成用の溶液を調製した。
上記の表面層形成用の溶液を用いた以外は実施例1と同様にして定着部材を製造し、実施例1と同様にして評価した。また、実施例1と同様にして表面層の応力−歪み曲線、および電気抵抗値(体積抵抗[Ω・cm])とゴム歪みとの関係を測定した。
(実施例6)
下記表10に記載の材料を186gのメチルエチルケトンに溶解して表面層形成用の溶液を調製した。
下記表10に記載の材料を186gのメチルエチルケトンに溶解して表面層形成用の溶液を調製した。
上記の表面層形成用の溶液を用いた以外は実施例1と同様にして定着部材を製造し、実施例1と同様にして評価した。また、実施例1と同様にして表面層の応力−歪み曲線、および電気抵抗値(体積抵抗[Ω・cm])とゴム歪みとの関係を測定した。
(比較例1)
下記表11に記載の材料を186gのメチルエチルケトンに溶解して表面層形成用の溶液を調製した。
下記表11に記載の材料を186gのメチルエチルケトンに溶解して表面層形成用の溶液を調製した。
上記の表面層形成用の溶液を用いた以外は実施例1と同様にして定着部材を製造し、実施例1と同様にして評価した。また、実施例1と同様にして表面層の応力−歪み曲線、および電気抵抗値(体積抵抗[Ω・cm])とゴム歪みとの関係を測定した。
(比較例2)
プライマーを塗布し、乾燥させた弾性層の周面に、比較例1の表面層形成用の溶液を、乾燥膜厚が50μmとなるようにスプレーコートし、当該溶液の塗膜を形成した。次いで、150℃の窒素置換オーブン(イナートガスオーブン INL−60、光洋サーモシステム(株)製)で1時間加熱することにより通常の架橋を行った後、温度180℃のオーブン中で24時間加熱して二次架橋させて塗膜を硬化させ、表面層を形成し、本比較例に係る定着ローラを得た。
プライマーを塗布し、乾燥させた弾性層の周面に、比較例1の表面層形成用の溶液を、乾燥膜厚が50μmとなるようにスプレーコートし、当該溶液の塗膜を形成した。次いで、150℃の窒素置換オーブン(イナートガスオーブン INL−60、光洋サーモシステム(株)製)で1時間加熱することにより通常の架橋を行った後、温度180℃のオーブン中で24時間加熱して二次架橋させて塗膜を硬化させ、表面層を形成し、本比較例に係る定着ローラを得た。
一方、上記で調製した表面層形成用の溶液を、外径80mmのアルミ製の中空円筒状の芯金の外周面に、乾燥膜厚が50μmとなるようにスプレーコ−トし、当該溶液の塗膜を形成した。次いで、150℃の窒素置換オーブン(イナートガスオーブン INL−60、光洋サーモシステム(株)製)で1時間加熱することにより通常の架橋を行った後、二次架橋させて表面層を形成した。
上記の架橋条件以外は比較例1と同様にして定着部材を製造し、比較例1と同様にして評価した。また、比較例1と同様にして表面層の応力−歪み曲線、および電気抵抗値(体積抵抗[Ω・cm])とゴム歪みとの関係を測定した。
(比較例3)
下記表12に記載の材料を186gのメチルエチルケトンに溶解して表面層形成用の溶液を調製した。
下記表12に記載の材料を186gのメチルエチルケトンに溶解して表面層形成用の溶液を調製した。
上記の表面層形成用の溶液を用いた以外は実施例1と同様にして定着部材を製造し、実施例1と同様にして評価した。また、実施例1と同様にして表面層の応力−歪み曲線、および電気抵抗値(体積抵抗[Ω・cm])とゴム歪みとの関係を測定した。
(比較例4)
下記表13に記載の材料を186gのメチルエチルケトンに溶解して表面層形成用の溶液を調製した。
下記表13に記載の材料を186gのメチルエチルケトンに溶解して表面層形成用の溶液を調製した。
上記の表面層形成用の溶液を用いた以外は実施例1と同様にして定着部材を製造し、実施例1と同様にして評価した。また、実施例1と同様にして表面層の応力−歪み曲線、および電気抵抗値(体積抵抗[Ω・cm])とゴム歪みとの関係を測定した。
実施例1〜6および比較例1と2の応力−歪み曲線を図6に示す。また、実施例1〜6および比較例1と2の接線弾性係数−歪み曲線のグラフを図7に示す。応力−歪み曲線と接線弾性係数−歪み曲線のグラフは、グラフの右側に、応力の大きい曲線から順に上からどの実施例あるいは比較例かを示した。なお、実施例3と6、実施例2と5、実施例1と4は各々ほぼ同じ曲線であり、比較例3と4の曲線は示していないが、実施例2と5の曲線に最も似たものであった。
次に、実施例3および比較例1、3〜4に係る表面層の電気抵抗値(体積抵抗[Ω・cm])と歪みとの関係を図8に示す。また、実施例1〜3および比較例2に係る表面層の電気抵抗値(体積抵抗[Ω・cm])と歪みとの関係を図9(a)示す。更に、実施例4〜6および比較例2に係る表面層の電気抵抗(体積抵抗[Ω・cm])と歪みとの関係を図9(b)示す。
実施例1〜6および比較例1〜4の応力−歪み曲線、および体積抵抗値とゴム歪みとの関係の評価結果について以下説明する。
まず、イオン導電剤を配合していない比較例1と比較例2を比較すると、電子線を照射している比較例1は電子線を照射していない比較例2よりも体積抵抗値が1桁以上大きく、かつゴムが歪むことによりさらに体積抵抗値が大きくなることがわかる。これより電子線架橋することで、歪みが0.25〜0.8の範囲において、歪みが大きくなるに連れて応力−歪み曲線の傾きである接線弾性係数が大きくなる表層ゴムは、電子線照射していない表層ゴムよりも帯電しやすくなっていると考えられる。
これに対して本発明のイオン液体を配合している実施例1〜6では、電子線を照射していても、体積抵抗値が比較例2と同程度に小さくなっていることがわかる。これより、イオン液体を配合している表層ゴムは、電子線架橋していても、帯電しやすくなっていないと考えられる。
さらに、イオン液体のカチオン種が同じ実施例1〜3、および実施例4〜6をそれぞれ比較すると、イオン液体のアニオンのフッ化炭素数が多いものほど、体積抵抗値が小さく、かつゴムが歪んでも体積抵抗値が大きくなりにくくなっていることがわかる。この理由としては、応力−歪み曲線から、アニオンのフッ化炭素数の少ないものは電子線照射でゴムがより架橋していることが推察され、このことが影響してフッ化炭素数の多いものよりも体積抵抗値がやや大きくなっていると考えられる。
これらに対してアルカリ金属塩の一種であるリチウム塩を配合している比較例3と4は、イオン液体を配合している実施例に比べて体積抵抗値が大きく、かつゴムが歪むことで体積抵抗値が大きくなりやすいことがわかる。このことより本発明のイオン液体を配合している実施例の表層ゴムと比べると、リチウム塩を配合している表層ゴムは帯電しやすくなっていると考えられる。
次に、実施例1〜6および比較例1〜4に係る定着部材の評価結果について以下説明する。紙充填剤等付着汚れの評価結果を表14に示す。また、定着後の画像の光沢度、定着後の画像における光沢部分の面積比率と、定着器における定着ローラ表面層の歪の量(紙の表面の凸部に当接している歪の大きい部分、および紙の凹部に当接している歪の小さい部分)を表14に示す。
なお、表14において、表面層の汚れ難さは、実施例1に係る定着部材を装着した定着装置のクリーニングウェブの汚れの程度の評価基準は以下の通りである.
A1:クリーニングウェブに紙粉、紙の填料由来の汚れの付着が認められない。
A2:A1と比較すると、クリーニングウェブに紙粉、紙の填料由来の汚れの付着が多いと感じられる程度。
A3:A2と比較して、クリーニングウェブへの汚れの付着が多い。
A4:A3と比較して、クリーニングウェブへの汚れの付着が明らかに多い。
A1:クリーニングウェブに紙粉、紙の填料由来の汚れの付着が認められない。
A2:A1と比較すると、クリーニングウェブに紙粉、紙の填料由来の汚れの付着が多いと感じられる程度。
A3:A2と比較して、クリーニングウェブへの汚れの付着が多い。
A4:A3と比較して、クリーニングウェブへの汚れの付着が明らかに多い。
実施例1〜6、比較例1〜4に係る定着部材の、紙表面の凹凸に対する表面層の歪みは、歪みの小さい部分が0.05〜0.25、歪みの大きい部分が0.3〜0.5に相当するものであった。これは、合成波でモデル化した紙表面の凹凸に対して圧力0.3MPaで定着部材を押し付けたときの接触構造解析による計算結果に基づく。
実施例1〜6は表層ゴム表面が帯電しにくくなっているために、紙成分が付着しにくくなっていると考えられる。また、実施例1〜6に係る定着部材によるシアントナーの定着画像の光沢度は全て9°以上で、紙の凹部への追従性を評価したトナー接触割合も全て80%以上であり、総じて定着後画像の画質は良好であった。これに対して比較例1は、定着後画像の画質は良好だが、表層ゴム表面が帯電しやすいために、紙成分が付着しやすいと考えられる。また、比較例2は表層ゴム表面が帯電しにくいために、紙成分が付着しにくいが、定着後画像の画質は光沢度が低いものであった。比較例3と4は、定着後画像の画質は良好だが、表層ゴム表面がやや帯電しやすいために、紙成分がやや付着しやすくなっていると考えられる。
以上説明したように、本発明の定着部材は、ゴム表面層の利点である紙凹部への追従性を維持しつつ、高光沢のトナー定着画像を得るのに有利であり、かつ表面に汚れが付着しにくく、高画質な定着画像を安定して形成することに貢献し得る定着部材である。
1 本発明に係るゴム表面層
2 シリコーンゴムからなる熱伝導層
3 基材
4 定着ローラ
5 加圧ベルト
6 ハロゲンヒーター
7 入り口ローラ
8 分離ローラ
9 ステアリングローラ
10 加圧パッド
11 サーミスタ
12 回収ローラ
13 ウェブローラ
14 クリーニングウェブ
2 シリコーンゴムからなる熱伝導層
3 基材
4 定着ローラ
5 加圧ベルト
6 ハロゲンヒーター
7 入り口ローラ
8 分離ローラ
9 ステアリングローラ
10 加圧パッド
11 サーミスタ
12 回収ローラ
13 ウェブローラ
14 クリーニングウェブ
Claims (5)
- フッ素ゴムを含む海相と架橋構造を有するシリコーン化合物からなる島相とを含む表面を有する表面層を具備している定着部材であって、
該表面層は、
該表面層の応力−歪み曲線が、歪みが0.25〜0.8の範囲において、歪みが大きくなるに連れて該応力−歪み曲線の傾きである接線弾性係数が大きくなるように構成されてなり、かつ、
イオン液体を含有していることを特徴とする定着部材。 - 前記表面層が、フルオロポリマーとシリコーン系界面活性剤と前記イオン性液体とを含む表面層形成用の溶液の塗膜に対して、電子線の照射および加熱によって該塗膜を硬化させることによって形成されたものである請求項1または2に記載の定着部材。
- 前記溶液が、
反応点として分子内にヨウ素または臭素を有するビニリデンフルオライドとテトラフルオロエチレンとパーフルオロメチルビニルエーテルの三元共重合体からなるフルオロポリマーと、
ジメチルポリシロキサンとポリオキシアルキレンとが交互に繰り返し結合してなる共重合型のシリコーン系界面活性剤と、
トリアリルイソシアヌレートと、
前記イオン液体とを含む請求項3に記載の定着部材。 - 請求項1〜4の何れか一項に記載の定着部材を有することを特徴とする定着装置。
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