図1(A)、図1(B)には、本発明で用いられるイオンビーム1の例が描かれている。これらのイオンビーム1は、後述する図2(A)、(B)に記載のイオン源1と質量分離マグネット3との間のビーム経路を飛行するイオンビーム1を切り取ったときの様子を表したものである。イオンビーム1は、後述するイオン源2で生成され、図示されるZ軸の方向(本発明では、Z方向、あるいはイオンビーム1の進行方向とも呼ぶ)に沿って進行し、後述する質量分離マグネット3に入射する。
図1(A)に記載のイオンビーム1は、その進行方向に垂直な平面で切断したとき、X軸の方向(本発明では、X方向、あるいはイオンビーム1の長さ方向とも呼ぶ)に幅WXの長さを有し、Y軸の方向(本発明では、Y方向、あるいはイオンビーム1の厚み方向とも呼ぶ)に幅WXよりも十分に狭い幅WYの厚みを有している。このような長方形状の断面を有するイオンビーム1は、一般に、リボン状あるいはシート状のイオンビームと呼ばれている。また、XZ平面内に位置するリボン状のイオンビームの面は、他の面に比べて、幅が広いことから、本発明ではこの面を主面と呼んでいる。
このようなイオンビーム1を生成するイオン源の一例としては、バケット型のイオン源が知られている。より具体的には、カスプ磁場を生成する複数の永久磁石を備えた長方形状のプラズマ生成容器と、プラズマ生成容器内に容器の長さ方向に沿って配置された複数のフィラメントと、プラズマ生成容器の一側面に形成された開口部と、当該開口部に隣接して配置された複数枚の電極群から構成される引出電極系を備えている。
図1(A)に記載のイオンビーム1は、長さ方向の両端部がZ方向に沿って互いに平行である。しかしながら、実際には完全に平行な状態にはならず、略平行な状態となる。なぜなら、イオンビーム1は空間電荷効果の影響を受けて、Z方向に進むにつれて発散する。発散の程度は、イオンビーム1のエネルギーや正の電荷を有するイオンビーム1であればビーム経路内に存在している電子の割合によっても変化する。また、引出電極系を構成する複数枚の電極群の配置誤差がイオンビーム1の平行性に影響を及ぼす場合も考えられる。その為、長さ方向においてイオンビーム1を完全に平行な状態にすることは難しい。
上記した事項を考慮して、本発明では、図1(A)に例示されたイオンビーム1を、イオンビーム1の長さ方向が略平行なイオンビーム1、あるいは、設計上、イオンビーム1の長さ方向が平行なイオンビーム1と呼んでいる。
これに対して、図1(B)に記載のイオンビーム1では、イオンビーム1の長さ方向がZ方向に沿って発散(拡大)している。この発散については、図1(B)に記載の長さ方向における幅WX1がZ方向にイオンビーム1が進むことで、幅WX2に拡大されていることから容易に理解できるであろう。
このようなイオンビーム1であっても、図1(A)に描かれているイオンビーム1と同じく、リボン状あるいはシート状のイオンビームと呼ばれていて、本発明に適用することができる。なお、このようなイオンビーム1を生成するイオン源の一例としては、バーナス型のイオン源が知られている。より具体的には、長方形状のプラズマ生成容器と、当該プラズマ生成容器内に配置されたフィラメントと、プラズマ生成容器の一側面に形成された開口部と、当該開口部に隣接配置され、スリット状の開口を有する少なくとも1枚の電極を備えている。なお、図1(B)に示したイオンビーム1の場合も、図1(A)に示されるイオンビーム1と同じく、空間電荷効果の影響により若干の発散が発生する。
図2(A)、図2(B)には、本発明に係るイオン注入装置IMの一例が描かれている。図2(A)と図2(B)では、描かれている平面が異なっている。これらの図には、前述した図1(A)に記載のイオンビーム1が描かれているが、これに代えて図1(B)に記載のイオンビーム1を用いても良い。
イオン源2で生成されたイオンビーム1は、一対の磁極9を備えた質量分離マグネット3内で発生する磁場Bの方向に対して斜めに交差する方向に進行する。質量分離マグネット3に入射したイオンビーム1は、磁場Bによって、図2(B)に描かれているようにその進行方向が長さ方向に偏向される。
イオン源2で生成されたイオンビーム1には様々なイオン種が含まれており、所望するイオン種を含むイオンビーム1のみが、質量分離マグネット3の下流側(Z方向側)に配置された分析スリット4を通過するように、質量分離マグネット3内の磁場Bの強度が調整される。
分析スリット4を通過したイオンビーム1は、処理室5内に導入される。この際、イオンビーム1の長さ方向における寸法は、同方向における基板6(例えば、ガラス基板やシリコンウェーハ等)の寸法よりも長くなるように設定されている。そして、処理室5内に配置された基板6は、矢印Aの方向に沿って図示されない駆動機構により往復駆動されて、基板6の全面にイオン注入処理が施される。
本発明では、図2(A)に描かれているように、質量分離マグネット3に入射するイオンビーム1の進行方向が、質量分離マグネット3で発生する磁場Bの方向に対して斜めに交差している。換言すると、質量分離マグネット3を通過するイオンビーム1の主面(XZ平面内に位置する面)を斜めに横切るように質量分離マグネット3内で磁場Bが発生していると言える。このような構成にすることで、イオンビーム1の進行方向をイオンビーム1の長さ方向に偏向させるとともに、イオンビーム1の厚み方向において、分析スリット4で所望するイオン種を含むイオンビーム1を選択的に通過させることを可能にしている。
図3(A)〜図3(C)には、図2(A)に記載の線分C1〜C3によって、質量分離マグネット3を切断した時の様子が描かれている。各図に示されているように、質量分離マグネット3は、H状のヨーク7と当該ヨーク7より突出し、イオンビーム1の主面を介して対向配置された一対の磁極9を有している。イオンビーム1の長さ方向において、各
磁極9の寸法は、イオンビーム1の寸法よりも十分に長い。そして、各磁極9には、コイル8が巻回されており、図示されない電源を用いてコイル8に流す電流量や電流の向きが調整される。これにより、磁極9間で一方向に向けて磁場Bが生成されている。なお、ここではヨーク形状をH状としたが、これに限らず、別の形状にしても良い。例えば、C状のヨークを用いても構わない。
この例の場合、イオンビーム1の長さ方向(X方向)の各場所において、質量分離マグネット3内を通過するイオンビーム1の軌道の長さはおおよそ等しい。具体例を挙げると、図2(B)の質量分離マグネット3の点P1と点P3を通過するイオンビーム1の軌道と、点P2と点P4を通過するイオンビーム1の軌道の長さを比較すると、おおよそ同じになる。ここでは、イオンビーム1の両端部での軌道を例として挙げたが、例えば、質量分離マグネット3内で、イオンビーム1の長さ方向における中央部での軌道の長さも両端部での軌道の長さとほぼ等しくなる。
その為、質量分離マグネット3を通過した後の同一の質量を有するイオン種を含むイオンビームに着目すると、X方向に渡って、磁場Bの方向における位置がほぼ同一になる。これについては、図4(D)を用いて後述する。また、図2(B)に記載のX軸、Y軸、Z軸の各軸は、イオン源2と質量分離マグネット3との間を通過するイオンビーム1に対応しており、その他の場所をイオンビーム1が通過する場合、各軸の方向は、場所に応じて適宜変更される。この各軸の方向がビーム経路で適宜変更される点については、後述する図4(B)、図5(A)、図8(A)〜図8(C)、図9(B)についても同じことが言える。
イオンビーム1は磁場Bの方向に対して斜めに交差する方向に進行する。その為、図3(A)〜図3(C)において、イオンビーム1がビーム経路を進行するのに従って、磁極9間を飛行するイオンビーム1の位置は、一方の磁極9(図示される紙面右側の磁極9)から他方の磁極9(図示される紙面左側の磁極9)に向けて変化している。また、質量分離マグネット3を構成する磁極9間の距離は、Z方向に沿って一定であり、磁極9間で発生する磁場Bによって、イオンビーム1の進行方向はイオンビーム1の長さ方向に偏向される。その為、質量分離マグネット3内を通過するイオンビーム1の進行方向は概略して図3の紙面左上方向に向けて変化している。
図4(A)〜図4(D)は、図2(A)と図2(B)に記載の質量分離マグネット3と分析スリット4によるイオンビーム1の質量分離についての説明図である。質量分離マグネット3に入射した長さ方向が略平行なイオンビーム1は、質量分離マグネット3内で発生する磁場Bの方向と斜交する向きに進行する。このイオンビーム1は、図4(A)に記載されるように磁場Bの方向に平行な成分(ZB)と磁場Bの方向に垂直な成分(ZB⊥)とに分けることができる。
磁場Bの方向に平行な成分であるZBは、磁場Bによる偏向作用を受けない。一方、磁場Bの方向に垂直な成分であるZB⊥は磁場による偏向作用を受け、イオンビーム1の電荷が正であれば、紙面手前方向に向けてローレンツ力が発生する。このローレンツ力によってイオンビーム1の進行方向はイオンビーム1の長さ方向に偏向される。
図4(B)には、質量分離マグネット3内を進行するイオンビーム1の長さ方向における両端部での軌道が描かれている。質量分離マグネット3に入射するイオンビーム1には所望するイオン種、それよりも質量の軽いイオン種、そして、それよりも質量の重いイオン種が含まれている。ここでは、それぞれのイオン種を含む各イオンビームの軌道が質量分離マグネット3内で分離される様子が描かれている。
図4(B)において、実線は所望するイオン種を含むイオンビーム1の軌道(IBd)であり、破線は所望するイオン種よりも質量の重いイオン種を含むイオンビーム1の軌道(IBh)である。そして、一点鎖線は所望するイオン種よりも質量の軽いイオン種を含むイオンビーム1の軌道(IBl)である。
イオンビーム1のエネルギーが同じであれば、質量分離マグネット3でのイオンビーム1の偏向量(ここでは、イオンビーム1の長さ方向に、イオンビーム1の進行方向が曲げられる量)は、おおよそイオン種の質量に依存する。その為、質量が重いイオン種を含むイオンビーム1であればその偏向量は小さく、質量が軽いイオン種を含むイオンビーム1であればその偏向量は大きい。偏向量が異なると、図4(B)に描かれているように質量分離マグネット3内を通過するそれぞれのイオン種を含む各イオンビームの軌道に違いが生じる。なお、図4(B)には、イオンビーム1が質量分離マグネット3から射出される場所に、X、Y、Z軸が描かれているが、これは質量分離マグネット3を通過した後の所望するイオン種を含むイオンビーム1に対するものである。
図4(C)には各イオン種を含むイオンビーム1ごとの軌道が描かれている。この図において、縦軸は磁場Bの方向での位置を表し、横軸はビーム経路上での位置を表す。また、この図の原点は質量分離マグネット3の入口(イオンビーム1が質量分離マグネット3に入射する場所)であり、図4(B)と同様に、所望するイオン種を含むイオンビームの軌道を実線で表し、所望するイオン種よりも質量の軽いイオンビーム1の軌道を一点鎖線で表し、所望するイオン種よりも質量の重いイオンビーム1の軌道を破線で表している。なお、質量分離マグネット3に入射するイオンビーム1は磁極9間に位置している。その為、図4(C)の原点において、磁場Bの方向での位置については、イオンビーム1が入射した磁極9間での位置を基準にしている。ここでの原点は、磁場Bの方向での位置がゼロ、つまり、磁極9上にイオンビーム1が位置しているという意味ではない。
図4(C)に描かれているように、ビーム経路上の同じ位置で磁場Bの方向での位置を比較すると、質量の異なるイオン種を含む各イオンビーム1の軌道は、それぞれ異なっている。この違いについて説明する。図4(B)を参照するとわかるように、質量の軽いイオン種を含むイオンビームの質量分離マグネット3内を通過する距離(質量分離マグネット3内でのIBlの長さ)は所望のイオン種を含むイオンビーム1の距離(質量分離マグネット3内でのIBdの長さ)に比べて長く、質量の重いイオン種を含むイオンビーム1の質量分離マグネット3内を通過する距離(質量分離マグネット3内でのIBhの長さ)は所望のイオン種を含むイオンビーム1の距離(質量分離マグネット3内でのIBdの長さ)に比べて短くなる。
前述したように、イオンビーム1は質量分離マグネット3内で発生する磁場Bの方向と斜交する方向に進む。その為、質量の軽いイオン種を含むイオンビーム1は、質量分離マグネット3内を通過する距離が長い分、他の質量のイオン種を含むイオンビーム1と比べて、磁場Bの方向と斜交する方向に進む距離は長くなる。反対に、質量の重いイオン種を含むイオンビーム1は、質量分離マグネット3内を通過する距離が短い分、他の質量のイオン種を含むイオンビーム1と比べて、磁場Bの方向と斜交する方向に進む距離は短くなる。図4(A)で述べたように、磁場B中を進むイオンビーム1は磁場Bの方向の成分を含んでいるので、イオンビーム1が磁場B中を進む距離が長くなるほど、磁場Bの方向に進む距離も長くなる。その為、図4(C)に描かれているように、ビーム経路上の同じ場所で比較すると、質量の異なるイオン種を含む各イオンビーム1の磁場Bの方向における位置に違いが生じることになる。
図4(C)に記載の分析スリット4には、紙面奥から手前方向に沿って細長いスリットが形成されている。このスリットの長手方向の寸法(X方向の寸法)は、イオンビーム1の長さ方向の寸法よりも大きい。そして、スリットの短手方向の寸法(Y方向の寸法)を所望するイオン種を含むイオンビーム1のみが通過するように設定しておく。具体的には、図4(C)に描かれているように、所望するイオン種よりも質量の軽いイオン種や質量の重いイオン種を含むイオンビーム1が分析スリット4に衝突し、所望するイオン種を含むイオンビーム1のみが通過できるように構成されている。なお、この短手方向におけるスリットの寸法は、取り扱うイオン種の種類や質量分離する際の分解能によって、適当な寸法に設定されている。このようにして、本発明での質量分離が行われる。
図4(C)を参酌するとわかるように、図4(D)において、磁場Bの方向は図示されていないが、おおよそY方向に一致している。図2(B)で説明したように、イオンビーム1の長さ方向において、質量分離マグネット3内を通過するイオンビーム1の軌道はおおよそ等しい。その為、図4(D)に描かれているように、イオンビーム1の長さ方向において、所望するイオン種を含むイオンビーム1の磁場Bの方向(この図はZ方向から見ているので、磁場Bの方向はおおよそY方向となる)における位置はおおよそ等しくなる。ここでは、イオンビーム1の長さ方向における両端部の軌道しか図示されていないが、その他の場所(例えば、長さ方向における中央部)を通過するイオンビーム1の軌道についても磁場Bの方向における位置はほぼ同じになる。
一方で、イオンビーム1の長さ方向において、質量分離マグネット3内を通過するイオンビーム1の各場所における軌道の長さが異なっていても良い。その場合、イオンビーム1の長さ方向における両端部での軌道を例に取ると、一端部を通過する軌道が他端部を通過する軌道に比べて、磁場Bの方向での位置が低く、もしくは、高くなってしまう。磁場Bの方向での位置の差が大きくなってしまうと、イオンビーム1の長さ方向において、イオンビーム1の特性に違いが生じることが懸念される。ただし、イオン注入処理された基板6上に製造される半導体デバイスの特性がほぼ均一となるような程度のものであれば、イオンビーム1の長さ方向における特性上の違いは、全く問題にならない。その為、半導体デバイスの特性のバラツキが許容される範囲内で、適宜、イオンビーム1の長さ方向における各場所での軌道の長さが異なるように、質量分離マグネット3を構成しておいても構わない。
また、質量分離マグネット3内で生じたイオンビーム1の長さ方向における特性のバラツキを補正する為に、イオン源2からイオンビーム1が照射される基板6までの間で、イオンビーム1の長さ方向において各場所を通過するイオンビーム1の軌道が、磁場Bの方向に対して差が生じないようにしておくことが考えられる。これについては、例えば、基板6を傾けながら駆動させたり、各部材の配置を適当なものに設定したりして、磁場Bの方向における軌道の差を補正するようにしておけば良い。
図5(A)、図5(B)には、質量分離マグネット3内を通過するイオンビーム1の長さ方向における各場所での軌道を異ならせた時の様子が描かれている。軌道が異なる点を除いて、基本的な構成は図4(A)〜図4(D)で説明したものと同じである為、ここでは重複する内容についての詳細な説明は省略する。
図5(A)には、質量分離マグネット3内を進行するイオンビーム1の長さ方向における両端部での軌道の長さが異なる例が示されている。具体的には、ここでは、P1-P3曲線(点P1と点P3を結ぶイオンビームの軌道であるIBd)の寸法は、P2-P4曲線(点P2と点P4を結ぶイオンビームの軌道であるIBd)の寸法よりも長い。質量の異なる他のイオン種が描く軌道(IBhとIBl)についても同様であり、点P1を通過する軌道は、点P2を通過する軌道よりも距離が長い。
図5(B)には、図5(A)の質量分離マグネット3内を通過した所望のイオン種を含む各イオンビーム1の軌道(IBd)が分析スリット4を通過する様子が描かれている。図5(A)で点P1を通過したイオンビーム1の軌道(IBd、IBh、IBl)は、図5(B)の紙面左側に描かれており、点P2を通過したイオンビーム1の軌道(IBd、IBh、IBl)は、図5(B)の紙面右側に描かれている。図5(A)で説明したように、点P1を通過したイオンビーム1の軌道は、点P2を通過したイオンビーム1の軌道よりも距離が長くなる。その為、図5(B)に描かれているように、磁場Bの方向(おおよそ紙面の上方向)において、各点を通過したイオンビーム1の軌道の位置が異なっている。また、質量の異なるイオン種を含むイオンビーム1が描く軌道についても同様のことが言える。
イオンビーム1の長さ方向において、磁場Bの方向での軌道の位置が異なった場合、所望するイオン種を含むイオンビーム1の軌道と質量の異なるそれ以外のイオン種を含むイオンビーム1の軌道との間の関係においても違いが生じる。具体的には、図5(B)において、紙面右側に描かれた各イオン種を含むイオンビーム1の軌道(IBd、IBh、IBl)間の開きが、紙面左側に描かれた各イオン種を含むイオンビーム1の軌道(IBd、IBh、IBl)間の開きよりも大きくなる。このようなイオンビーム1の長さ方向における性質の違いから、イオンビーム1の長さ方向における特性(例えば、空間電荷効果によるイオンビーム1の広がりが大きい、小さいといったもの)に違いが発生する。しかしながら、前述したように、基板6上に製造される半導体デバイスの特性が許容できる範囲内に収まるのであれば、このような構成であっても構わない。
長さ方向において、イオンビーム1は略平行な状態で基板6に照射されることが望まれる。長さ方向が発散や収束した状態で基板6に照射されると、長さ方向において、基板6へのイオンビーム1の照射角度が一様とならない為に、基板6上に製造される半導体デバイスの特性にムラができてしまう恐れがある。その為、長さ方向で略平行なイオンビーム1を基板6に照射させる為に、磁極9の端部形状を次のようにして構成しておくことが考えられる。
図6(A)、図6(B)は、磁極9の端部構成についての説明図である。図6(A)に示すように、長さ方向が略平行なイオンビーム1が半円形の質量分離マグネット3に入射する場合を考える。この質量分離マグネット3内では、磁場Bが紙面奥から手前に向けて発生している。また、磁極9の形状は破線で描かれていて、便宜上、ここでは質量分離マグネット3の入口側端面と出口側端面が磁極9の端面と一致するように描かれている。ただし、実際には、質量分離マグネット3の内側領域に磁極9が配置されることになるので、各端面が一致するということにはならない。なお、平面で図示している為、イオンビーム1は磁場Bの方向に対して垂直となる方向に進行しているように見えるが、そうではない。この例の場合も、前述した実施例の構成と同じく、紙面奥から手前に向けて発生している磁場Bの方向に対して、イオンビーム1は斜めに斜交する方向に進行している。
この図に記載されているように長さ方向で略平行なイオンビーム1を半円状に偏向させると、質量分離マグネット3から長さ方向で略平行なイオンビーム1を射出させることができる。しかしながら、この場合、質量分離マグネット3の寸法を、従来の質量分離マグネットよりも、更に大きなものにしなければならない。その為、このような構成は実用的ではない。
よって、質量分離マグネット3の寸法を小さなものにする為に、本発明では長さ方向におけるイオンビーム1の軌道が収束する焦点位置Fよりも質量分離マグネット3の入口側に磁極9の端部が位置するように構成している。質量分離マグネット3から射出されるイオンビーム1の進行方向は、質量分離マグネット3の出口近傍を通過するイオンビーム1の軌道上に引かれた接線の方向となる。その為、本発明では、焦点位置Fよりも質量分離マグネット3の入口側の場所で、かつ、イオンビーム1の長さ方向において、2箇所以上の場所を通過するイオンビーム1の軌道上に引かれた接線がおおよそ平行となる場所を結んだ線上に磁極9の端部が配置されるように構成されている。
具体的に説明すると、イオンビーム1の長さ方向において図示される紙面左側を通過するイオンビーム1の軌道上に引かれた接線をL1とし、イオンビーム1の長さ方向において図示される紙面右側を通過するイオンビーム1の軌道上に引かれた接線をL2とする。そして、両接線がおおよそ平行となる位置である点P3と点P4とを結ぶ線U-U上に磁極9の端部を配置する。ここでは、イオンビーム1の長さ方向において、その両端部を通過する軌道上に引かれた接線を例に挙げて説明したが、もちろん、その他の場所を通過するイオンビーム1の軌道上に引かれた接線であっても構わない。
図6(A)で説明した磁極9の端部の構成手法に基づいて作成された質量分離マグネット3が、図6(B)に描かれている。このようにして磁極9の端部形状を構成すると、質量分離マグネット3の寸法を小さくするだけでなく、質量分離マグネット3から略平行なイオンビーム1を射出させることも可能となる。ただし、この場合、イオンビーム1の長さ方向における寸法は、質量分離マグネット3に入射される際にW1であったのに対して、質量分離マグネット3から射出される際には、W1よりも小さいW2となる。その為、基板6の寸法が大きい場合、W1を十分に大きなものにしておかなければならない。
質量分離マグネット3を通過することで、イオンビーム1の長さ方向における寸法が縮小されることを改善する為に、図6(C)に示す構成が考えられる。この例では、質量分離マグネット3を通過するイオンビーム1の進行方向を図6(B)のものと逆にしている。また、磁場Bは紙面手前から奥に向けて発生している。このような構成にしておくと、質量分離マグネット3でイオンビーム1の長さ方向における寸法を拡大させることができる。なお、この例においても前述したように、質量分離マグネット3の出口側に設けられた磁極9の端部は、イオンビーム1の軌道上に引かれた接線が略平行になる点P1と点P2を結ぶ線上に配置されていることがわかる。
図7(A)〜図7(D)ではイオン源2で生成されるイオンビーム1は、図1(B)に記載のイオンビーム1を想定している。図6(A)と同様に、図7(A)には半円形の質量分離マグネット3内を通過するイオンビーム1の軌道が描かれている。質量分離マグネット3やイオンビーム1の軌道に対する接線等の考え方は、図6(A)で説明したものと同じである為、ここではその詳細な説明を省略し、簡単に述べるにとどめる。
図6(A)の例と同様に、質量分離マグネット3内を通過するイオンビーム1の軌道上に引かれた接線L1と接線L2が互いに略平行となる位置である点P1と点P2を結ぶ線U-U上に磁極9端部が配置されるように構成する。
その結果、図7(B)に示すような質量分離マグネット3が作成され、入射時のイオンビーム1の長さ方向における寸法がW3であるのに対して、射出時にはそれよりも大きなW4の寸法を有するイオンビーム1に拡大させることができる。
反対に、図7(C)に示すようにイオンビーム1の進行方向を図7(B)の例と逆向きにして、イオンビーム1の長さ方向における寸法を狭めるようにしておいても構わない。これは、基板6の寸法が小さければ、イオンビーム1の長さ方向における幅をそれほど大きなものにしておく必要はないからである。また、基板6へのイオン注入処理を短時間で行うようにする為に、イオンビーム1の単位面積あたりのビーム電流量を増加させておくことが考えられる。この場合、図7(C)に示される構成を用いて、イオンビーム1の長さ方向の寸法を狭めて、ビーム電流量を増加させても良い。もちろん、先に説明した図6(A)に示した構成を用いて、ビーム電流量を増加させても良い。
上記したように、質量分離マグネット3から射出されるイオンビーム1の長さ方向における寸法を変更させるには、元々、備え付けられているイオン源2を長さ方向における寸法が異なるイオンビーム1を生成する別のイオン源2に交換したり、イオン源2を傾けて質量分離マグネット3に入射するイオンビーム1の寸法を狭めたり、あるいは広げたりすることが考えられる。同様に、質量分離マグネット3の配置を変更しても、質量分離マグネット3から射出されるイオンビーム1の長さ方向における寸法を狭めたり、あるいは広げたりすることができる。
図7(D)には、質量分離マグネット3の配置を変更させることで、イオンビーム1の長さ方向における寸法を拡大する例が描かれている。図7(D)には、図7(B)に記載の質量分離マグネット3を点P2を中心にして、角度θ1回転させた時の構成が描かれている。この場合、質量分離マグネット3内を通過するイオンビーム1の軌道が、図7(B)の例で示したものと異なってくる。具体的には、紙面左側の端部を通過するイオンビーム1の軌道は、図7(B)の例に比べて、角度θ2だけ外側に広がることになる。その為、W4よりも大きいW5の寸法を有するイオンビーム1を質量分離マグネット3から射出させることが可能となる。
なお、上記した図7(D)の例では、質量分離マグネット3から長さ方向で発散するイオンビーム1が射出されることになるが、発散の程度がある程度のものであれば、このようなイオンビーム1が基板6に照射されても問題にはならない。なぜなら、基板6上に製造される半導体デバイスの特性が許容される範囲内に収まるのであれば、長さ方向で発散するイオンビーム1であっても問題にはならないからである。
図2(A)、図2(B)に挙げたイオン注入装置IMに代えて、図8(A)〜図8(C)のイオン注入装置IMを用いても良い。
図8(A)のイオン注入装置IMには、イオン源2と質量分離マグネット3との間に、一対の静電偏向電極10が配置されている。図2(A)の例では、質量分離マグネット3の一対の磁極9間で発生される磁場Bの方向に対して、斜めとなる方向にイオン源2からイオンビーム1を射出(進行)させていた。これに対して、図8(A)の例では、質量分離マグネット3の一対の磁極9間で発生される磁場Bの方向と直交する方向に、イオン源2よりイオンビーム1を射出させている。そして、静電偏向電極10によって、磁場Bの方向に対して斜めになるようにイオンビーム1の進行方向をイオンビーム1の厚み方向に偏向させている。
この例において、イオンビーム1は正の電荷を有するイオンビームである。また、各静電偏向電極10は、イオンビーム1の長さ方向において、イオンビーム1よりも長い寸法を有しており、イオンビーム1の主面を介して対向配置されている。そして、各静電偏向電極10には図示されない電源が接続されており、図示されるように、紙面上側に配置された電極には負(−)の電圧が印加され、紙面下側に配置された電極には正(+)の電圧が印加されている。このような構成を用いることで、正の電荷を有するイオンビーム1を負電圧が印加された紙面上側の電極へ向けて偏向させることができる。
電源の電圧は固定であってもいいが、可変に設定変更ができるようにしておく方が望ましい。その場合、イオン源2や質量分離マグネット3等の配置に多少の誤差が生じたとしても、静電偏向電極10に印加する電圧の値を変更させることで、その誤差を補正することができる。
図8(A)では、静電偏向電極10をイオン源2と質量分離マグネット3の間に配置していたが、図8(B)に示されるように、質量分離マグネット3内に配置しても良い。静電偏向電極10が重金属で構成されていれば、それがイオンビーム1によってスパッタリングされて基板6に混入した場合、半導体デバイスの製造不良を引き起こす可能性がある。その為、静電偏向電極10をカーボンで構成することや基板6がシリコンウェーハであれば、シリコンで構成することが考えられる。また、磁場B内に一対の静電偏向電極10を配置する場合、静電偏向電極10間で発生される電界Eの方向は、磁場Bの方向に平行となるようにしておくことが望ましい。このような構成を用いることで、質量分離マグネット3内を通過するイオンビーム1に対して、E×Bドリフトによる偏向作用を生じなくさせることができる。
イオンビーム1の厚み方向において、イオンビーム1を曲げ戻すには、質量分離マグネット3と処理室5との間に、第二の静電偏向電極11を配置しておくことが考えられる。この例が図8(C)に描かれている。静電偏向電極10と第二の静電偏向電極11とは、イオンビーム1の主面を介して配置された電極に印加される電圧の極性が逆であることを除いて、同じ構成が採用されている。このような構成を用いることで、基板6に照射されるイオンビーム1の厚み方向における照射角度を調整することが可能となる。
さらに、図9(A)、図9(B)に描かれているイオン注入装置IMを用いても良い。図9(A)に描かれているように、この例では、イオン源2と質量分離マグネット3との間に、小さな偏向電磁石12が配置されている。この点が、図2(A)、図2(B)の例と異なる。偏向電磁石12は、イオンビーム1の主面を介して対向配置された一対の磁極13を有しており、磁極13間で発生される磁場Bの方向は、イオン源2より射出されたイオンビーム1の進行方向と直交している。
図9(B)に示されているように、偏向電磁石12によって、イオンビーム1は長さ方向に向けて偏向される。この偏向作用によって、XZ平面内で、質量分離マグネット3に入射するイオンビーム1の長さ方向の寸法を変更させることができるので、質量分離マグネット3から射出されるイオンビーム1の長さ方向における寸法を調整することが可能となる。また、イオン源2やその他イオン光学要素の部材配置に関する裕度を向上させることもできる。なお、この偏向電磁石12を質量分離マグネット3と処理室5の間に、もう1つ設けておいても良い。そうすると、基板6に照射されるイオンビーム1の進行方向や長さ方向における寸法を補正することができる。
また、質量分離マグネット3で発生する磁場Bの方向とイオンビーム1の進行方向との相対的な位置関係が変更されなければ良いので、質量分離マグネット3のヨーク7からイオンビーム1側へ突出する一対の磁極9の寸法(ヨーク7からの距離)を、Z方向に沿って、一方の磁極9で徐々に短くなるように変化させておき、他方の磁極9で徐々に長くなるように変化させておく。そして、磁極9間の寸法は一定となるようにしておく。その上で、磁極9の形状に合わせて、イオンビーム1の進行方向が適切なものとなるようにイオン源2を傾ける等しておいても良い。
これまでの実施例では、説明を簡略化させる為に、質量分離マグネット3の磁極9の端部で発生する磁場(フリンジフィールド)についての説明を省略していた。このフリンジフィールドを考慮すると、分析スリット4の配置は、図10(A)に示されるように、イオンビーム1の厚み方向における寸法が略最小となる位置になる。
図10(A)には、質量分離マグネット3のイオンビーム1の入口側と出口側の磁極9の端部で発生するフリンジフィールド(Bf)を考慮した場合に、イオンビーム1の厚み方向の寸法が変化する様子が描かれている。
従来から知られているように、一対の磁極を有するダイポールマグネットの磁極端面に垂直な方向に対して、イオンビームを斜めに入射した場合、フリンジフィールド(Bf)によってイオンビームには収束もしくは発散の力が働く。なお、ダイポールマグネットの磁極間で発生する磁場の方向によるが、本発明に照らして考えると、ここで述べた磁極端面に垂直な方向とイオンビームの入射方向の関係は、磁極9間で発生する磁場Bの方向に垂直な平面での関係である。
具体例に基づいて、説明を行う。図10(A)に記載のイオン注入装置IMの磁場Bに垂直な平面での様子が、図10(B)に描かれている。この図10(B)に示されているように、イオンビーム1が入射する入口側の磁極9の端面に垂直な方向(P⊥)に対して、イオンビーム1は角度θ3をもって入射する。この際、磁場の向きは紙面手前から奥になるので、フリンジフィールド(Bf)によって、イオンビーム1は厚み方向に収束される。
一方で、イオンビーム1が射出される出口側の磁極9の端面に垂直な方向(P⊥)に対して、イオンビーム1は水平に出射されている。その為、ここではフリンジフィールド(Bf)によるイオンビーム1への収束、発散作用は働かない。
図10(A)に描かれているように、質量分離マグネット3の入口側で、フリンジフィールド(Bf)によって、厚み方向に収束作用が働く。そして、質量分離マグネット3の出口側では、フリンジフィールド(Bf)による収束、発散作用は働かないので、イオンビーム1は厚み方向で収束されたまま進行し、質量分離マグネット3の下流側で焦点を結び、この場所に配置された分析スリット4によって、不要なイオン種を含むイオンビームの分離がなされる。
このように、分析スリット4は、イオンビーム1の厚み方向における焦点位置に配置しておくと、分析スリット4の短手方向の寸法を狭めることができる。その結果、所望するイオン種を含むイオンビームとそれ以外のイオン種を含むイオンビームとの分離精度を高めることが可能となる。ここでは、焦点位置に分析スリット4を配置する例を示したが、もちろん、焦点位置付近に配置されていれば同等の効果を奏することが期待できる。その為、分析スリット4の配置は、必ずしも、ちょうど焦点位置に配置しなければならないといったものではなく、略焦点位置に配置しておけばいい。また、イオンビーム1のエネルギーや空間電荷効果の影響によっては、焦点を結ばない場合も考えられる。このようなことを考慮すると、分析スリット4の配置としては、イオンビーム1の厚み方向での寸法が略最小となる位置に配置することが考えられる。
この例では、図10(A)に示されているように、質量分離マグネット3の入口側に入射されるイオンビーム1は、入口側の磁極9間の中央付近を通過しているので、Y方向とY方向と反対の方向から、イオンビーム1に内向きの力が等しく働いている。一方、イオンビーム1がY方向側に配置された磁極9に寄った位置を通過する場合、イオンビーム1にはY方向反対側に向けた力のみが作用する。この場合であっても、イオンビーム1の磁極9に近い側(イオンビーム1の紙面上側部分)と遠い側(イオンビーム1の紙面下側部分)とでは、Y方向反対側に向けて作用する力の大きさが異なるので、イオンビーム1は厚み方向で収束することになる。その為、YZ平面内で、イオンビーム1が磁極9間を通過する位置は、図10(A)に示される中央付近に限定されない。
また、図10(B)では、質量分離マグネット3の出口側での磁極9の端面に垂直となる方向(P⊥)とイオンビーム1の進行方向(IBZ)とが水平な関係となっているが、これに代えて、両者の関係を斜めになるようにしておいても良い。
例えば、磁極9の端面に垂直な方向(P⊥)に対して、紙面斜め下方向あるいは上方向に向けて角度を有するようにイオンビーム1を射出させるように構成しておく。そうすると、質量分離マグネット3の出口側で発生するフリンジフィールド(Bf)によって、イオンビーム1は厚み方向でさらに収束することになる。これは、質量分離マグネット3の出口側で図10(A)に示すようにイオンビーム1は片方の磁極9側に寄っているからである。このようにして、2段階でイオンビーム1を厚み方向で収束させるようにしておいても良い。
さらに、図10(B)で、イオンビーム1の進行方向(IBZ)を磁極9の端面に垂直な方向(P⊥)に対して、紙面下側から入射するようにしておく。そうすると、質量分離マグネット3の入口側でイオンビーム1は厚み方向で発散する。その後、前述したように質量分離マグネット3の出口側で、イオンビーム1を磁極9の端面に垂直な方向(P⊥)に対して斜めに射出させる。その際、磁極9の端面に垂直な方向に対する射出角度を入口側での入射角度よりも大きくしておくことで、質量分離マグネット3を通過する前後で、イオンビーム1の厚み方向の寸法を総合的に小さくすることが期待できる。
前述した以外に、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良および変更を行っても良いのはもちろんである。
このようなイオンビーム1であっても、図1(A)に描かれているイオンビーム1と同じく、リボン状あるいはシート状のイオンビームと呼ばれていて、本発明に適用することができる。なお、このようなイオンビーム1を生成するイオン源の一例としては、バーナス型のイオン源が知られている。より具体的には、直方体形状のプラズマ生成容器と、当該プラズマ生成容器内に配置されたフィラメントと、プラズマ生成容器の一側面に形成された開口部と、当該開口部に隣接配置され、スリット状の開口を有する少なくとも1枚の電極を備えている。なお、図1(B)に示したイオンビーム1の場合も、図1(A)に示されるイオンビーム1と同じく、空間電荷効果の影響により若干の発散が発生する。
図4(C)には各イオン種を含むイオンビーム1ごとの軌道が描かれている。この図において、縦軸は磁場Bの方向での位置を表し、横軸はビーム経路上での位置を表す。また、この図の原点は質量分離マグネット3の入口(イオンビーム1が質量分離マグネット3に入射する場所)であり、図4(B)と同様に、所望するイオン種を含むイオンビームの軌道を実線で表し、所望するイオン種よりも質量の軽いイオン種を含むイオンビーム1の軌道を一点鎖線で表し、所望するイオン種よりも質量の重いイオン種を含むイオンビーム1の軌道を破線で表している。なお、質量分離マグネット3に入射するイオンビーム1は磁極9間に位置している。その為、図4(C)の原点において、磁場Bの方向での位置については、イオンビーム1が入射した磁極9間での位置を基準にしている。ここでの原点は、磁場Bの方向での位置がゼロ、つまり、磁極9上にイオンビーム1が位置しているという意味ではない。
図4(C)に描かれているように、ビーム経路上の同じ位置で磁場Bの方向での位置を比較すると、質量の異なるイオン種を含む各イオンビーム1の軌道は、それぞれ異なっている。この違いについて説明する。図4(B)を参照するとわかるように、質量の軽いイオン種を含むイオンビームの質量分離マグネット3内を通過する距離(質量分離マグネット3内でのIBlの長さ)は所望のイオン種を含むイオンビーム1の質量分離マグネット3内を通過する距離(質量分離マグネット3内でのIBdの長さ)に比べて長く、質量の重いイオン種を含むイオンビーム1の質量分離マグネット3内を通過する距離(質量分離マグネット3内でのIBhの長さ)は所望のイオン種を含むイオンビーム1の質量分離マグネット3内を通過する距離(質量分離マグネット3内でのIBdの長さ)に比べて短くなる。
反対に、図7(C)に示すようにイオンビーム1の進行方向を図7(B)の例と逆向きにして、イオンビーム1の長さ方向における寸法を狭めるようにしておいても構わない。これは、基板6の寸法が小さければ、イオンビーム1の長さ方向における幅をそれほど大きなものにしておく必要はないからである。また、基板6へのイオン注入処理を短時間で行うようにする為に、イオンビーム1の単位面積あたりのビーム電流量を増加させておくことが考えられる。この場合、図7(C)に示される構成を用いて、イオンビーム1の長さ方向の寸法を狭めて、ビーム電流量を増加させても良い。もちろん、先に説明した図6(B)に示した構成を用いて、ビーム電流量を増加させても良い。