JP2013001928A - 被削性に優れた高周波焼入れ用鋼、及びその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】被削性に優れた特性を有する高周波焼入れ用鋼を提供すること。
【解決手段】本発明の高周波焼入れ用鋼は、C:0.40〜0.65%、Si:0.010〜0.5%、Mn:0.20〜2.0%、P:0.03%以下(0%を含まない)、S:0.002〜0.10%、Cr:0.010〜0.3%、Al:0.5超〜1.0%、B:0.010超〜0.020%、N:0.002〜0.020%を含有し、残部は鉄及び不可避的不純物からなると共に、鋼の金属組織が、フェライト、パーライト及びベイナイトを有し、全組織に対するフェライト、パーライト及びベイナイトの合計面積率は95面積%以上であって、且つ全組織に対するフェライト、及びベイナイトの各面積率は、フェライトは1〜5面積%、ベイナイトは20〜50面積%であると共に、フェライト結晶粒の平均アスペクト比が5以上であって、且つ、フェライト結晶粒の粒子間距離が5〜50μmである。
【選択図】図1

Description

本発明は、切削加工後、高周波焼入れによって鋼部品を製造するための鋼に関し、特に被削性に優れた高周波焼入れ用鋼、およびその製造方法に関するものである。
自動車や各種機械類に用いられる鋼部品(具体的には、自動車用変速機や作動装置をはじめとする各種歯車伝達装置に利用される歯車、シャフト、プーリーや等速ジョイント等、更にはクランクシャフト、コンロッド等の機械構造部品)は、通常、熱間加工(例えば、熱間圧延や熱間鍛造など)した鋼に、切削加工を施して最終形状(部品形状)に仕上げて製造される。切削加工後の鋼部品は、硬度(例えば、ビッカース硬度)が高く、また回転曲げ疲労強度などの疲労特性に優れていることが求められるが(以下、硬度と疲労特性を合わせて「強度」ということがある)、鋼部品の強度を高めるために、切削加工前の鋼の強度を高めると切削加工が困難となる。一方、切削加工に要するコストは、部品制作費全体中に占める割合が高いことから、切削加工前の鋼は被削性が良いことが要求される。そこで、切削加工前の鋼は、その硬さを低くして被削性を改善し、切削加工後に、焼入れ焼戻し(調質)や浸炭焼入れ等の熱処理を行うことによって鋼部品の強度を高めることが行われている。
ここで切削加工について詳しく説明すると、上記機械構造部品のうち特に歯車を製造するときの切削加工においては、ホブによる歯切りを行うのが一般的であり、この場合の切削加工は断続切削と呼ばれている。ホブ加工に用いられる工具としては、高速度工具鋼にAlTiNなどのコーティングを施したもの(以下、「ハイス工具」と略称することがある)が現在の主流である。ハイス工具を用いたホブ加工(断続切削)による歯切りは、低速(具体的には、切削速度150m/分程度以下)、低温(具体的には、200〜600℃程度)であるが、断続切削のため工具が空気と触れ易く、酸化摩耗し易くなる。そのためホブ加工等の断続切削に供される鋼は、特に工具寿命を伸ばすことが求められている。
本出願人は、断続切削における被削性(特に、工具寿命)を向上させた機械構造用鋼を特許文献1、2に提案している。これらのうち特許文献1では、酸化物系介在物の各成分を適切に調整して介在物の全体が低融点で変形し易くすることによってハイス工具での連続切削における被削性を改善している。一方、特許文献2では、Feより酸化傾向の大きい元素を機械構造用鋼に添加して固溶させることによって、断続切削における機械構造用鋼の急速な酸化を防止して、工具の酸化摩耗を抑制し、鋼の被削性を改善している。しかし上記特許文献1、2では、上述したように、鋼部品の強度を高めるために、切削加工後に焼入れ焼戻し(調質)や浸炭焼入れ等の熱処理を行う必要がある。
ところで、近年では、地球環境への負荷を低減すると共に、作業環境を改善するために、焼入れ焼戻し(調質)や浸炭焼入れ等の熱処理に代えて高周波焼入れ処理が行われている。高周波焼入れ処理は、鋼の表層付近のみを急速加熱・冷却する方法であり、短時間で鋼部品の表層部の硬度や疲労特性を高めることができる。一方で、浸炭処理と同程度の表面および内部の硬度を確保するためには、マルテンサイト変態によって強度が十分向上するように鋼中のC含有量を高める必要がある。また、鋼部品の内部硬度は高周波焼入れ処理の前後で変化しないため、切削加工前の鋼の硬度を予め高めておく必要があった。
疲労特性を確保しつつ、被削性を向上させた高周波焼入れ用鋼として、例えば特許文献3が知られている。この特許文献3には、鋼の化学組成と組織を最適化することで被削性を向上させると共に、フェライト組織がパーライト組織の周りを数珠状に取り囲んだ組織とすることで疲労強度を確保する技術が開示されている。
しかし上記特許文献3では低温変態相(ベイナイト、マルテンサイト)の生成によって被削性が十分に改善されていない。また鋼の内部がフェライト−パーライト組織であるため内部硬さが不十分となり、鋼部品としての要求特性に十分対応しきれていない。
更に工業的規模の生産においては、鋼材毎に、或いは同一鋼材内で焼入れ性が異なり、表面硬さにバラツキが生じることがあった。
特開2009−30160号公報 特開2009−287111号公報 特開2006−28598号公報
本発明はこのような事情に着目してなされたものであって、その目的は、切削加工時の被削性(特に断続切削における工具寿命)に優れた特性を有すると共に、部品形状に切削加工し、高周波焼入れ後の鋼部品に要求される高い硬度(表層部と内部のビッカース硬度)や高い疲労特性(回転曲げ疲労特性)を確保でき、しかも表面硬さのバラツキがなく、安定している高周波焼入れ用鋼、およびその製造方法を提供することにある。
上記課題を解決し得た本発明とは、C:0.40〜0.65%(質量%の意味、化学成分について以下同じ)、Si:0.010〜0.5%、Mn:0.20〜2.0%、P:0.03%以下(0%を含まない)、S:0.002〜0.10%、Cr:0.010〜0.3%、Al:0.5超〜1.0%、B:0.010超〜0.020%、N:0.002〜0.020%を含有し、残部は鉄、及び不可避的不純物からなると共に、鋼の金属組織が、フェライト、パーライト、及びベイナイトを有し、全組織に対するフェライト、パーライト、及びベイナイトの合計面積率は95面積%以上であって、且つ全組織に対するフェライト、及びベイナイトの各面積率は、フェライトは1〜5面積%、ベイナイトは20〜50面積%であると共に、フェライト結晶粒の平均アスペクト比が5以上であって、且つ、フェライト結晶粒の粒子間距離が5〜50μmであることに要旨を有する高周波焼入れ用鋼である。
本発明では更に他の元素として、Mo:1%以下(0%を含まない)を含有するものであることも好ましく、また更に他の元素として、Ti:0.2%以下(0%を含まない)、Nb:0.2%以下(0%を含まない)、及びV:0.2%以下(0%を含まない)よりなる群から選択される少なくとも一種の元素を含有するものであることも好ましい実施態様である。
更に他の元素として、Cu:3%以下(0%を含まない)、および/またはNi:3%以下(0%を含まない)を含有するものであることも好ましく、また更に他の元素として、Ca:0.005%以下(0%を含まない)、Mg:0.005%以下(0%を含まない)、Li:0.001%以下(0%を含まない)、およびREM:0.0010%以下(0%を含まない)よりなる群から選択される少なくとも一種を含有するものも好ましい実施態様の一つである。
また上記課題を解決し得た本発明に係る高周波焼入れ用鋼の製造方法は、上記成分組成を満足する鋼を、850〜1250℃の温度域で熱間加工した後、前記温度域で5秒〜60分間保持してから、前記温度域から500℃までの温度域を0.5〜5℃/sの平均冷却速度で冷却することに要旨を有するものである。
本発明によれば、鋼の成分組成を規定すると共に、鋼の金属組織の割合やフェライトの分散状態を適切に制御することによって、切削加工時の被削性と、鋼部品の強度(鋼部品の表層、及び内部の硬度と疲労特性を含む)との双方に優れ、しかも高周波焼入れ後の表面硬さのバラツキがない高周波焼入れ用鋼を提供できる。本発明の高周波焼入れ用鋼は、切削加工したときの被削性、特に、断続切削したときの工具寿命が良好であり、しかも切削加工後、高周波焼入れして形成された鋼部品は、硬度や、疲労特性だけでなく、表面硬さの安定性も確保できている。
図1(a)は、表1の鋼種1A(実施例)の金属組織写真であり、図1(b)は、表1の鋼種1G−18(比較例)の金属組織写真である。
本発明者らは、切削加工時の被削性が良好で、しかも切削加工後に高周波焼入れすることによって鋼部品として要求されるビッカース硬度と疲労特性を確保できると共に、表面硬さの安定性を確保できる高周波焼入れ用鋼を提供するために検討を重ねてきた。その結果、鋼の成分組成を適切に調整(特にAlとBの複合添加)したうえで、鋼の金属組織を適切に制御、具体的には、全金属組織に占めるフェライト、パーライト、及びベイナイトの面積率と、全金属組織に占めるフェライトとベイナイトの面積率を適切に制御すると共に、フェライト結晶粒の形状(平均アスペクト比)と分散状態(粒子間距離)を特定の範囲に制御することによって、これらの特性を全て兼ね備えた高周波焼入れ用鋼を提供できることを見出し、本発明を完成した。
鋼材部品の強度とは、鋼部品の表層部の硬度:670Hv以上、内部(D/4)の硬度:250Hv以上、及び疲労特性は220MPa以上を意味する。被削性は切削加工時(焼入れ前)に要求される特性であり、強度(鋼部品の表層部と内部の硬度、及び疲労特性)は焼入れ後の鋼部品に要求される特性である。表面硬さの安定性とは、表面硬さの最大値と最小値の差が20Hv以下であることをいう。
以下、本発明に至った経緯について順次説明した後、本発明の高周波焼入れ用鋼について説明する。
本発明者らは、鋼の金属組織を、フェライトとパーライトの混合組織とすれば、切削加工したときの被削性(特に、断続切削したときの工具寿命)を改善できるのではないかとの考えに基づいて検討を重ねた。ところが、鋼の金属組織をフェライトとパーライトの混合組織にすると、鋼の硬度が低下することがあり、鋼部品として要求される強度(硬度と疲労特性)を確保できない場合があった。特に高周波焼入れ処理をした場合、鋼の表面付近の硬度は向上するものの、内部硬度は高周波焼入れの前後で変化しないことから、浸炭処理した場合と同等の表面硬度と内部硬度を得るためには、鋼の内部硬度を向上させることが必要である。鋼の金属組織については、ベイナイトが鋼の高強度化に有効であることが一般に知られている。そこで鋼の金属組織をフェライトとパーライトに加えてベイナイトを含む混合組織とすれば、内部硬度と疲労特性の向上が図れると考えた。ところが、ベイナイトは硬質相であるため、高強度化に寄与する一方で被削性を低下させるため、要求される被削性を確保できない。
そこで本発明者らは、鋼の金属組織をフェライト、パーライト、ベイナイトの混合組織とすることで鋼の表面及び内部の硬度と疲労特性の向上を図る一方で、低下した被削性の向上について鋼中成分及びフェライトの形状・形態を制御する観点から検討を重ねた。
鋼の化学成分については、鋼にAlを固溶状態で存在させると被削性が向上することが知られているが、上記金属組織の鋼にAlを固溶状態で存在させても得られる被削性向上効果は十分でなく、更なる改善が必要であることが判明した。そこで本発明者らは被削性について詳細に検討した。切削は、工具刃先が接触する鋼材表面を強い力で破断・分離させることによって表面を切断する作用であり、切削部分(工具刃先と接触する部分)の鋼の金属組織が同一である場合は、常に一定の力が工具刃先に加わっている。そのため、鋼が硬い(硬質相が多い)と工具刃先が受ける力も強いため、切削時の摩擦による発熱も加わって、酸化摩耗が生じて工具刃先は早期に劣化して被削性が低下することがわかった。一方、特許文献3の被削性改善技術のようにフェライトを数珠つなぎにするなど、フェライトを多くして切削部分の鋼を軟質化すると、切削し易くなるものの、フェライトを主体として切削が進むため、柔らかい部分ばかりを削ることになり、工具刃先に凝着が生じて該凝着によって摩耗が促進されて、時間が経過するにしたがって被削性が低下することが明らかになった。そこで本発明では、鋼を切削し易くしつつも凝着および酸化摩耗を防ぐために種々の検討を重ねた。その結果、フェライトの形状や分布状態を制御することによって被削性を改善できることが判明した。具体的にはフェライトを旧オーステナイト粒界上に分散させ、且つ、フェライト粒のアスペクト比を大きくすることによって、鋼全体(鋼の表面と内部)の硬度と鋼の疲労特性を高レベルに確保したまま、被削性を劇的に改善できることを見出した。
このように強度を確保しつつ被削性を改善できるメカニズムについては以下に限定されるものではないが、次のように考えられる。即ち、強度を維持しつつ被削性を改善するためには金属組織のフェライト、パーライト、及びベイナイトの面積率を制御することが有効であるが、フェライト面積率を制御しただけでは、切削時にフェライトが連続することで上記したような凝着が生じてしまう。そこで硬質相であるベイナイトまたはパーライトと、軟質相であるフェライトとが、適当な間隔で交互に切削されるような分散状態とすれば、硬質相や軟質相による上記工具刃先に対する負担を低減できる。更にフェライトのアスペクト比を高くすることによって、フェライト先端の一部が硬質相中に入り込んで切り欠きとして作用し、硬質相のき裂が進展し易くなって切削性が向上すると考えられる。
そして本発明者らはこのような効果を発揮するフェライト粒の分散状態とするには後記するようにBの添加が必要であること、また上記作用を有するフェライトのアスペクト比や分散状態とするには製造条件を制御することが有効であることを見出した。
もっとも、上記のような金属組織の制御だけでは断続切削した際の酸化摩耗を十分に抑制できず、また焼入れ後の表面硬さにバラツキが生じることがわかった。そこで本発明者らが検討した結果、上記強度と被削性を阻害することなく、酸化摩耗を抑制すると共に、焼入れ後の表面硬さのバラツキを抑えるには、AlとBの添加量を多くすることが有効であることを見出した。
まず、Bに関し、Bは少量の添加でも十分な焼入れ性向上効果が得られることが知られているため、コスト削減の観点からもBの添加量の低減が望ましいとされている。ところが、工業的規模の生産においては、上述したBの添加効果が十分発揮されず、鋼材毎に焼入れ性が異なり、表面硬さにバラツキが生じることがあった。こうした問題を究明すべく、検討した結果、B添加量が少ない場合は、鋼材毎に、或いは同一鋼材内においても焼入れ性が異なるという問題が生じることがわかった。本発明者らがこの点について詳細に検討した結果、B添加量の増加に伴い焼入れ性が向上するが、ある添加量を超えると焼入れ性の効果が安定し、工業的規模の生産においては鋼材毎、或いは同一鋼材内における表面硬さのバラツキが抑制され、焼入れ後の表面硬さが安定することを見出した。B添加量を増加させると表面硬さが安定するメカニズムについては、次のように推定される。すなわち、高周波焼入れによって再固溶されるB量は一定量であり、その量は同一成分系の鋼材では同じであることから、その一定量を超えるB量を添加するようにすれば、常に同じ一定量で固溶B量を確保できるため、焼入れの効果についても安定するものと考えられる。
もっとも、B添加量のみを増加させて焼入れ性を高めると、被削性が劣化することから、B添加量を増加させた場合の被削性の改善について更に検討を重ねた。その結果、Al添加量を高めれば、工具表面の酸化摩耗を抑制するだけでなく、鋼材を脆化させて切削時の分断性を促進できるようになるため、B添加量増加に伴う被削性の劣化を抑制できることを見出した。一般にAlは過剰添加すると、AlNが多量に析出して加工性を低下させることが知られているが、上記のようにB添加量を増加させると、Alと結合し得るNがBと結合してBNを析出してAlNの析出を抑制するため、加工性を確保できる。
本発明は以上の知見に基づきなされたものであって、フェライト、パーライト、およびベイナイトの面積率を適切に制御する点、フェライト結晶粒の平均アスペクト比とフェライト結晶粒の粒子間距離を特定の範囲に制御する点、鋼の化学成分として特定量のAlとBの添加を必須とする点に特徴を有している。以下、本発明について具体的に説明する。
まず、鋼の金属組織について説明する。
金属組織:フェライト、パーライト、およびベイナイトを有すること
上記したようにベイナイトとパーライトは鋼の内部の高硬度化、及び疲労特性向上に寄与する金属組織である。一方、フェライトは鋼の被削性向上に寄与する金属組織である。したがって鋼の金属組織をフェライト、パーライト、及びベイナイトの混合組織とすることによって、強度と被削性を向上させることができる。もっとも上記したように単にフェライトやベイナイト等を含む金属組織とするだけでは所望の強度と被削性が得られないことから、以下で詳述する様に、各組織の面積率、並びにフェライトの平均アスペクト比、及び粒子間距離等も満足する必要がある。
フェライト、パーライト、及びベイナイトの合計面積率:全組織に対して95面積%以上
上記したように本発明の鋼の強度と被削性は、フェライトとパーライトの混合組織に、ベイナイトが導入された混合組織とすることによって発現するものである。このような効果を得るためには、全組織に対するフェライト、パーライト、及びベイナイトの合計面積率は95面積%以上、好ましくは97面積%以上、より好ましくは99面積%以上である。なお、フェライト、パーライト、及びベイナイト以外の金属組織には、例えば製造上不可避的に生成し得るマルテンサイトや残留オーステナイトなどが含まれるが、これら組織の面積率が高くなると被削性が劣化することがあるため、全く含まれていなくてもよい。したがって全組織に対するフェライト、パーライト、及びベイナイトの合計面積率は更に好ましくは100面積%である。
フェライトの面積率:全組織に対して1〜5面積%
フェライトは、パーライトやベイナイトよりも軟質相であるため、切削時に他の組織よりも優先的に破断・分離の起点となり、き裂の発生、進展に有効に作用して被削性向上に寄与する組織である。このような作用を得るためには、フェライトの面積率は全組織に対して1面積%以上、好ましくは1.5面積%以上、より好ましくは2面積%以上である。一方、全組織に占めるフェライトの面積率が高くなりすぎると、強度を低下させるだけでなく、工具刃先に凝着しやすくなって被削性が劣化することがある。したがってフェライトの面積率の上限は全組織に対して5面積%以下、好ましくは4.5面積%以下、より好ましくは4面積%以下である。
ベイナイトの面積率:全組織に対して20〜50面積%
ベイナイトは、フェライトやパーライトよりも硬質相であるため、高周波焼入れ処理後の部品強度、及び疲労特性の向上に寄与する組織である。このような作用を得るためには、全組織に対するベイナイトの面積率は20面積%以上、好ましくは22.5面積%以上、より好ましくは25面積%以上である。一方、全組織に占めるベイナイトの面積率が高くなりすぎると、部品強度は向上するものの、被削性が低下する。したがってベイナイトの面積率の上限は全組織に対して50面積%以下、好ましくは45面積%以下、より好ましくは40面積%以下である。
フェライト結晶粒の平均アスペクト比:5以上
フェライトは軟質相であるため、切削時の破断・分離の起点となって被削性を高める作用を有するが、このような効果を発揮させるためには、フェライトの面積率が上記範囲内にあるだけでなく、フェライト結晶粒の形状が細長いことが必要である。すなわち、フェライト結晶粒の形状が細長ければ硬質相中で切り欠きとして作用し、被削性が向上すると考えられる。このような効果は、フェライト結晶粒の平均アスペクト比を5以上とする必要がある。好ましい平均アスペクト比は6以上、より好ましくは7以上である。フェライト結晶粒のアスペクト比が大きいほど切り欠きとして有効に作用するようになるため、上限は特に定めない。
フェライト結晶粒の粒子間距離:5〜50μm
フェライトは上記の通り切削時のき裂発生、進展に有効に作用するが、旧オーステナイト粒界に沿ってフェライトの結晶粒が連続していると、切削加工量が多くなるにしたがって工具刃先が凝着摩耗して被削性が劣化する。したがってこのような被削性の劣化を防止する観点から隣接するフェライト結晶粒の粒子間距離を5μm以上、好ましくは10μm以上、より好ましくは15μm以上とするのがよい。このように適切に粒子間距離を確保して隣接するフェライト粒子同士を互いに独立させておくことで、フェライト結晶粒の粒子間に存在する硬質相が凝着を抑制する作用を発揮し、被削性が改善される。一方、フェライト結晶粒の粒子間距離が離れすぎていると、硬質相による工具への負担が大きくなり被削性が劣化することがある。したがってフェライト結晶粒の粒子間距離の上限は50μm以下、好ましくは45μm以下とするのがよい。
被削性と強度に優れた特性を有する本発明の鋼は、上記鋼の金属組織を満足するだけでなく、鋼の成分組成も満足することが必要である。
C:0.40〜0.65%
Cは、強度を確保するために必要な元素であり、0.40%以上含有させることによって、部品として必要な強度(高周波焼入れ後の鋼表面と内部の硬度、及び疲労特性)を確保できる。Cは、好ましくは0.43%以上、より好ましくは0.45%以上である。しかしC量が過剰になると、鋼が硬くなり過ぎて被削性や靱性が劣化する。従ってC量は0.65%以下とする。C量は、好ましくは0.62%以下であり、より好ましくは0.60%以下である。
Si:0.010〜0.5%
Siは、脱酸元素として作用し、鋼の内部品質を向上させるのに必要な元素である。Siが少なすぎると、脱酸が不十分となり、溶製時にガス欠陥が発生しやすくなる。したがってSiは、0.010%以上、好ましくは0.03%以上、より好ましくは0.05%以上とする。しかしSi量が過剰になると、鋼が硬くなり過ぎて被削性が劣化する。したがってSiは、0.5%以下、好ましくは0.45%以下、より好ましくは0.40%以下とする。
Mn:0.20〜2.0%
Mnは、焼入れ性を向上させて鋼の強度を向上させるのに必要な元素であり、0.20%以上、好ましくは0.4%以上、より好ましくは0.6%以上とする。しかしMnが過剰になると、焼入れ性が向上し過ぎて過剰にベイナイトが生成したり、マルテンサイトが生成し易くなり、被削性が低下する。従ってMnは、2.0%以下、好ましくは1.8%以下、より好ましくは1.6%以下とする。
P:0.03%以下(0%を含まない)
Pは、鋼に不可避的に含まれる不純物元素であり、P量が過剰になると加工時に割れが発生するのを助長するので、できるだけ低減する必要がある。従ってPは、0.03%以下、好ましくは0.02%以下、より好ましくは0.015%以下とする。なお、P量を0%とすることは工業的に困難である。
S:0.002〜0.10%
Sは、鋼に不可避的に含まれる不純物であるが、鋼中のMnと結合してMnS介在物を形成し、鋼の被削性を向上させるのに有効に作用する元素であり、0.002%以上、好ましくは0.005%以上、より好ましくは0.008%以上とする。しかしS量が過剰になると、MnS系介在物量が増大し、この介在物が加工時(例えば、熱間圧延や熱間鍛造など)に加工方向に伸展するため、加工方向に直角な方向の靱性(横目靱性)が劣化する原因となる。従ってS量は0.10%以下、好ましくは0.08%以下、より好ましくは0.06%以下とする。
Cr:0.010〜0.3%
Crは、鋼の焼入れ性を高め、強度を向上させるために有効に作用する元素である。また、Alとの複合添加によって、鋼の被削性(特に、断続切削性)を高めるのにも有効に作用する元素である。こうした効果を発揮させるには、Crは0.010%以上、好ましくは0.03%以上、より好ましくは0.05%以上である。しかし、Cr量が過剰になると、粗大な炭化物が生成するか、或いは過冷組織が過剰に生成して被削性を却って劣化させるので、Cr量は0.3%以下、好ましくは0.27%以下、より好ましくは0.25%以下である。
Al:0.5超〜1.0%
Alは、鋼中に固溶状態で存在させることによって断続切削したときの被削性を向上させる(工具表面の酸化摩耗を抑制する)ために必要な元素である。また、Alは、脱酸剤としても作用する。更に、Al添加量を増やすと鋼材の分断性(脆化)を促進する効果を発現する。こうした効果を発揮させるためには、Alは、0.5%超、好ましくは0.55%以上、より好ましくは0.60%以上とする。しかしAlが過剰になると、熱間加工時に鋼材が割れやすくなったり、またAlNが多量に析出して被削性や疲労特性が劣化することがある。従ってAlは1.0%以下、好ましくは0.90%以下、より好ましくは0.80%以下とする。
B:0.010超〜0.020%
Bは、焼入れ性向上元素であり、またAlの固溶量を確保して断続切削したときの被削性を向上させるのに寄与する元素である。また、Bは、鋼中のNと結合してBNを析出させる。析出したBNは、フェライト析出の核となり、被削性の向上に寄与する。更に、B添加量を多くすると、高周波焼入れ後の表面硬さを安定して得ることができる。こうした効果を発揮させるには、Bは、0.010%超、好ましくは0.011%以上、より好ましくは0.012%以上とする。しかしBが過剰になると、鋼が硬くなり過ぎ、被削性が劣化する。従ってBは0.020%以下、好ましくは0.019%以下、より好ましくは0.018%以下とする。
N:0.002〜0.020%
Nは、BNを析出して被削性を向上させるのに寄与する元素である。こうした効果を発揮させるには、Nは0.002%以上、好ましくは0.004%以上、より好ましくは0.006%以上とする。しかしNが過剰になると、固溶N量が増加して動的ひずみ時効が生じ、鋼材の加工硬化が進行して被削性が劣化する。従ってNは、0.020%以下、好ましくは0.018%以下、より好ましくは0.016%以下とする。
本発明に係る高強度鋼の成分組成は上記の通りであり、残部は、鉄および不可避的不純物である。不可避的不純物としては、原料、資材、製造設備等の状況によって持ち込まれる微量元素(例えば、As、Sb、Snなど)の混入が許容される。
また、本発明の効果を損なわない範囲で、更に他の元素として、Mo、Ti、Nb、V、Cu、Ni、Ca、Mg、Li、REMなどを積極的に含有させてもよい。
Mo:1%以下(0%を含まない)
Moは、鋼の焼入れ性を高め、焼入れされていない組織が生成するのを抑制するのに作用する元素である。こうした作用は、その含有量が増加するにつれて増大するが、好ましくは0.04%以上、より好ましくは0.06%以上、更に好ましくは0.08%以上である。しかしMoを過剰に含有すると、過冷組織が過剰に生成して被削性が低下するため、1%以下とすることが好ましい。より好ましくは0.8%以下であり、更に好ましくは0.5%以下である。
Ti:0.2%以下(0%を含まない)、Nb:0.2%以下(0%を含まない)、及びV:0.2%以下(0%を含まない)よりなる群から選択される少なくとも一種の元素
Ti、Nb、Vは、熱間加工時に結晶粒が異常成長するのを防止し、鋼の靭性や疲労特性が低下するのを防止する作用を有する元素であり、少なくとも任意の1種以上含有することによってこうした作用が発揮される。こうした作用は、その含有量が増加するにつれて増大するが、Ti、Nb、Vは夫々好ましくは0.005%以上、より好ましくは0.010%以上含有することが望ましい。しかし、これらの元素を過剰に含有すると、硬質の炭化物が多量に生成して鋼の被削性が低下するので、Ti、Nb、Vは夫々、0.2%以下、好ましくは0.15%以下、より好ましくは0.10%以下である。なお、Ti、Nb、およびVは、単独で含有させてもよいし、任意に選ばれる2種以上を含有させてもよい。
Cu:3%以下(0%を含まない)、および/またはNi:3%以下(0%を含まない)
Cu、およびNiは、焼入れ性を向上させて強度を高めるのに有効に作用する元素である。こうした作用は、これらの元素の含有量が増加するにつれて増大するが、有効に発揮させるには、Cu、Niは夫々好ましくは0.05%以上、より好ましくは0.1%以上である。しかし過剰に含有させると過冷組織が過剰に生成し、延性や靭性が低下するので、Cu、Niは夫々3%以下とすることが好ましい。より好ましくは2%以下、更に好ましくは1%以下である。なお、Cu、およびNiは、夫々、単独で含有させてもよいし、両方を含有させてもよく、また両方を含有させる場合の含有量は夫々上記範囲で任意の含有量でよい。
Ca:0.005%以下(0%を含まない)、Mg:0.005%以下(0%を含まない)、Li:0.001%以下(0%を含まない)、およびREM:0.0010%以下(0%を含まない)よりなる群から選択される少なくとも一種の元素
Ca、Mg、Li、及びREMは、MnS等の硫化化合物系介在物を球状化させ、被削性を向上させるのに有効な元素である。こうした作用はその含有量が増加するにつれて増大するが、有効に発揮させるためには、CaとMgは夫々好ましくは0.0005%以上、より好ましくは0.0010%以上、LiとREMは夫々好ましくは0.0001%以上、より好ましくは0.0002%以上である。しかし過剰に含有させてもその効果は飽和し、含有量に見合う効果が期待できないので、CaとMgは夫々好ましくは0.005%以下、より好ましくは0.0040%以下、更に好ましくは0.0030%以下、Liは好ましくは0.001%以下、REMは好ましくは0.0010%以下であって、LiとREMはより好ましくは0.0008%以下、更に好ましくは0.0005%以下である。なお、Ca、Mg、Li、およびREMは、単独で含有させてもよいし、任意に選ばれる2種以上を含有させてもよい。REMとは、ランタノイド元素(LaからLuまでの15元素)およびSc(スカンジウム)とY(イットリウム)を含む意味であり、これらの中から任意に選ばれる1種または2種以上を含有してもよい。
こうした本発明の鋼は、上記成分組成を満足する鋼を、850〜1250℃の温度域で熱間加工した後、前記温度域で5秒〜60分間保持してから、前記温度域から500℃までの温度域を0.5〜5℃/sの平均速度で冷却することによって製造できる。
上記金属組織を満足する鋼とするには、熱間加工及びその後の冷却速度等の製造条件を適切に制御することが望ましい。
すなわち、熱間加工温度を850〜1250℃の範囲とすることで低い変形抵抗下で鋼を加工できる。850℃未満の場合、鋼の変形抵抗が十分に低下していないため所望の加工が困難となる。好ましくは875℃以上、より好ましくは900℃以上である。変形抵抗の低減による加工性向上の観点からは加熱温度の上限は特に限定されないが、温度が高くなりすぎると、鋼端部にだれが生じて鋼の取扱い性が悪くなったり、変形抵抗が低くなりすぎて過剰な加工が施されることがあるため、上限は1250℃以下、好ましくは1225℃以下、より好ましくは1200℃以下とする。なお、熱間加工とは上記加熱を伴う加工処理であり、熱間圧延や熱間鍛造などの塑性加工が例示される。
上記熱間加工後、該熱間加工温度で一定時間保持することによって、フェライト析出の核となるBNをオーステナイト粒界上に析出させることができ、このようにBNを析出させることによってフェライトを上記粒子間距離に分散させることができる。このような効果を得るには、保持時間は5秒以上、好ましくは10秒以上、より好ましくは15秒以上とすることが望ましい。保持時間は長いほど、BNの成長には有効であるが、保持時間が長くなればなる程、Bと結合したNがAlと結合するようになるため、上記BNの析出効果が十分に得られなくなる。したがって保持時間は60分以下、好ましくは45分以下、より好ましくは30分以下である。
「熱間加工温度で一定時間保持する」とは、保持時間中の鋼表面の温度の低下が約0.5℃/s未満に制御されている状態を意味する。例えば鋼材は空冷されると温度が平均で0.5℃/s以上低下するため、カバーやヒーターなどで鋼材表面の温度低下を防ぐことが望ましい。
上記所定時間保持した後、該保持温度から500℃までの範囲を平均0.5〜5℃/sの速度で冷却することによって、鋼の金属組織に対するフェライト、パーライト、及びベイナイトの合計面積率を95面積%以上であって、且つ全組織に対するフェライト、及びベイナイトの各面積率をフェライト1〜5面積%、ベイナイト20〜50面積%とすることができると共に、フェライトのアスペクト比を上記範囲内とすることができる。平均冷却速度が0.5℃/s未満の場合、ベイナイトが20面積%未満となってしまい、強度が不足する。一方、平均冷却速度が5℃/sを超えるとマルテンサイトが生成しやすくなってベイナイトの生成が不足するため、被削性が低下する。またフェライト粒が十分に成長できず、アスペクト比が上記範囲外となる。好ましい平均冷却速度は0.7℃/s以上、より好ましくは0.9℃/s以上であり、好ましくは4.5℃/s以下、更に好ましくは4℃/s以下である。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
下記表1〜3に示す化学成分組成の鋼(残部は鉄および不可避的不純物)150kgを真空誘導炉で溶解し、上面:φ245mm×下面:φ210mm×長さ:480mmのインゴットに鋳造し、上記インゴットを1200℃に加熱後、熱間鍛造してビレット(155mm角)を得てから冷却した。以下のいずれかの条件([熱間圧延A]、[熱間鍛造B])で熱間圧延又は鍛造してφ45mmの丸棒とした。
[熱間圧延A]
更にビレットの端部を切断し、ダミービレット(155mm角×長さ:9〜10m)を溶接した。溶接後、該ビレットを1200℃に加熱した後、熱間圧延してφ45mmの丸棒とした後、空冷した。
[熱間鍛造B]
ビレットを1200℃に加熱した後、熱間鍛造してφ45mmの丸棒としてから空冷した。
上記のようにして作製した各丸棒を、長さ150mm毎に切断して試料とした。各試料は加熱して800〜1300℃の温度域(表中、「加熱温度(℃)」)で30分間保持した後、丸棒を熱間鍛造(試料の厚みが12mmになるまで)して板状に成形した。その後、該熱間鍛造温度で0〜5000秒の時間保持した後(表中、「保持時間(sec)」)、該保持温度から0.3〜10℃/sの平均冷却速度(表中、「冷却速度(℃/sec)」)で500℃まで冷却した後、室温まで放冷して試験片を作製した。以下の評価をおこなった。
(金属組織の観察)
上記各試験片について、下記に示す手順で金属組織、及び金属組織の面積割合を測定した。
各試験片を、長手方向(又は圧延方向)に対して垂直に切断し、D/4位置(Dは板厚)を3%ナイタール液腐食し、光学顕微鏡(観察倍率400倍)で観察・画像(写真)撮影した。任意の10箇所で撮影した画像(全10枚)のうち、任意の100箇所について画像分析し、各箇所のフェライト、パーライト、ベイナイト、及びその他(マルテンサイトや残留オーステナイト等)の組織の面積率を測定し、その平均値を求めた。参考のため図1(a)(No.1A)、及び図1(b)(No.1G−18)を示す。図1(a)に示すように組織内が白く、濃淡のない領域はフェライトであり、それ以外の濃淡のある部分が分散して混在している暗いコントラストの領域はパーライトである。また図1(b)に示すように暗いコントラストの領域のうち、白い部分が針状に混在している領域はベイナイトであり、黒い部分はパーライトであり、その他の白い部分の針状の領域がマルテンサイト等である。各組織の面積率を下記に示す。
(フェライトのアスペクト比、及びフェライトの粒子間距離)
試験片を長手方向に対して垂直に切断した後、エメリー紙、ダイヤモンドバフ、電解研磨によって切断面を鏡面研磨した。試験片の鏡面研磨面を電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM:観察倍率1000倍、加速電圧20kV)で観察・画像撮影した。任意の5箇所で観察を行い、各観察箇所の写真を撮影した(全5枚)。撮影した画像を結晶方位解析装置(EBSP)を使って画像の解析を行い、フェライト(解析ではBCC)のアスペクト比、及びフェライトの粒子間距離を測定し、その平均値を求めた。
(被削性の評価)
上記試験片を切削加工して、長さ:150mm×幅:100mm×厚み:10mmの板材(試験片)に仕上げた。この板材の被削性を評価するために、ホブ切削試験を行い、板材を断続切削したときの工具摩耗量を測定した。切削工具としてTiAlNコーティングハイスホブ(すくい面コーティングなし)を用いて以下の切削条件で断続切削を行った。
切削条件:
・切り込み量:1.0mm
・送り速度:42mm/s
・切削速度:165m/min
・切削雰囲気:乾式
・切削長:150mm/カット
断続切削を50カット(1カットの切削長さ:150mm)行った後、工具表面を光学顕微鏡(観察倍率100倍)で観察し、逃げ面摩耗量(工具摩耗量)を測定し、平均値を求めた。本発明では、断続切削後の逃げ面摩耗量が70μm以下のものを、合格(○)と評価した。
(部品強度の評価)
上記試験片の中央位置付近からJIS Z2274に基づいて1号疲労試験片(標点間部の直径:φ6mm)を採取し、疲労試験片に高周波焼入れ処理(加熱温度:850℃、冷却条件:水冷)を施して強度試験片を得た。この強度試験片を用いて以下の条件でビッカース硬さ、及び疲労特性の評価を行った。
(ビッカース硬さ)
上記強度試験片の標点間中央で垂直に切断し、横断面が測定面となるように冷間樹脂に埋め込んだ。硬度試験片の横断面を鏡面状態に研磨して仕上げた後、ビッカース硬さ試験機を用いて測定した。
具体的には、鋼材全体の硬度を評価するため、上記鏡面仕上げした試験片の表層部(試験片最表面から0.05mm内側)とD/4部(Dは試験片厚み)の2箇所で測定を行った。測定に際しては測定荷重を300gとし、3回測定して平均値を求めた。本発明では、D/4部のビッカース硬さは、250Hv以上を合格(高強度)、250Hv未満を不合格(強度不足)と評価した。また表層部のビッカース硬さは、670Hv以上を合格(高強度)、670Hv未満を不合格(強度不足)と判定した。
(疲労特性)
上記強度試験片の疲労特性を回転曲げ試験機を用いて回転曲げ疲労特性の評価を行った。具体的には周波数20Hz、負荷応力を700MPa〜100MPaの間で変化させ、10回寿命に相当する応力(MPa)を求めて、この値を疲労特性の指標とした。本実施例では、疲労限応力が220MPa以上を合格(高強度)、220MPa未満を不合格(強度不足)と判定した。
(表面硬さの安定性)
以下の方法で部品の表面硬さの安定性を評価した。上記記載に基づいて同一成分の鋼種からなる試験片を3片作製(2B−1〜3、2X−1〜3)し、各試験片について高周波焼入れ後の表面硬さ(試験片最表面から0.05mm内側のビッカース硬さ)について上記ビッカース硬さの試験に基づいて測定した。得られた試験結果のうち、表面硬さの最大値と最小値の差を計算し、その差が20Hv以下であれば同一鋼材内での表面硬さのバラツキや、鋼材間でのバラツキがなく合格(安定性確保)とし、20Hv以上を不合格(ばらつき大)と評価した。
上記結果より、本発明の要件を満足する例は強度及び被削性に優れており、表面硬さの安定性にも優れていた。一方で本発明の要件を満足しない例では以下の様な不具合を有していた。
本発明の製造条件(熱間加工温度、保持温度、平均冷却速度)を満足しない1G−1、1G−6、1G−7、1G−8、1G−12、1G−13、1G−18、1G−19では、本発明で規定する金属組織の要件(面積率、フェライト結晶粒の平均アスペクト比、フェライト結晶粒の粒子間距離)を満足せず、被削性および/または強度を満足しなかった。
詳細には熱間加工温度が低い1G−1では、フェライトやベイナイトの面積率が規定範囲を外れると共にフェライト結晶粒の粒子間距離が短いため、鋼内部の硬度が不足した。
熱間加工温度が高い1G−6では、フェライト結晶粒の平均アスペクト比が本発明の範囲を下回っており、十分な被削性が得られなかった。
加熱後の保持時間が短かった1G−7ではフェライトが生成しなかった。1G−8ではフェライトは存在するものの殆ど確認できないため0%と表記した。これらはフェライトの面積率が規定範囲を下回ると共に、フェライト結晶粒の平均アスペクト比やフェライト結晶粒の粒子間距離を満足しなかったため、十分な被削性が得られなかった(1G−7では測定できなかったため「−」と表記した)。
また加熱後の保持時間が長かった1G−12では、フェライトが生成しなかったため、十分な被削性が得られなかった。
冷却速度が遅かった1G−13では、フェライトとベイナイトの面積率が規定範囲を外れると共に、フェライト結晶粒のアスペクト比も本発明の範囲を下回っており、鋼内部の硬度が不足した。
冷却速度が速かった1G−18、19では、フェライトが生成しなかったため、十分な被削性が得られなかった。
また本発明の鋼の化学成分を満足しない2K〜2Zでも、被削性および/または硬度を満足しなかった。
詳細には、C含有量が少ない2Kでは、ベイナイト面積率が規定範囲を下回ると共に、フェライト結晶粒のアスペクト比も規定の範囲を外れており、鋼の内部及び表面の硬度や疲労特性を確保できなかった。C含有量が多い2Lでは、金属組織の面積率が規定の範囲を外れており、被削性が悪かった。
Si含有量が少ない2Mでは、疲労特性が劣った。Si含有量が多い2Nでは、被削性が悪かった。
Mn含有量が少ない2Oでは、フェライト面積率が高く、疲労特性が劣った。またMn含有量が多い2Pでは、全組織に占めるフェライト、パーライト、及びベイナイトの合計面積率が低くなり、被削性が悪かった。
P含有量が多い2Qでは、疲労特性が劣った。
S含有量が少ない2Rでは、被削性が悪かった。またS含有量が多い2Sでは、疲労特性が劣った。
Cr含有量が少ない2Tでは、フェライトの面積率が高くなると共にフェライト結晶粒の粒子間距離が規定範囲を下回っており、疲労特性が劣った。またCr含有量が多い2Uでは、ベイナイト面積率が高く鋼が硬くなり過ぎて被削性が悪かった。
Al含有量が少ない2Vでは、被削性が悪かった。この例では、ベイナイト面積率も過剰となっており、焼入れ性が高くなり、鋼が硬くなりすぎたため、被削性が劣化した。またAl含有量が多い2Wでは、被削性と疲労特性が悪かった。
B含有量が少ない2X−1〜3では、フェライト面積率が高い一方でベイナイト面積率が低く、またフェライト結晶粒の平均アスペクト比も小さかったため、内部硬さと疲労特性に劣った。またB含有量が少ない同一成分系の鋼材の場合、得られる鋼材毎に焼入れの効果(表面硬さ)にバラツキが生じており、表面硬さの安定性に欠けていた。
なお、本発明で規定する所定量のBを含む同一成分系の鋼材であれば(2B−1〜3)、表面硬さのバラツキがほとんどなく安定性に優れていた。
B含有量が多い2Yでは、ベイナイト分率が高く、被削性が悪かった。
N含有量が外れる2Zでは、フェライト面積率が高く、またフェライト粒の平均アスペクト比を満足しなかったため、被削性および疲労特性を満足しなかった。

Claims (6)

  1. C:0.40〜0.65%(質量%の意味、化学成分について以下同じ)、
    Si:0.010〜0.5%、
    Mn:0.20〜2.0%、
    P:0.03%以下(0%を含まない)、
    S:0.002〜0.10%、
    Cr:0.010〜0.3%、
    Al:0.5超〜1.0%、
    B:0.010超〜0.020%、
    N:0.002〜0.020%
    を含有し、残部は鉄、及び不可避的不純物からなると共に、
    鋼の金属組織が、フェライト、パーライト、及びベイナイトを有し、全組織に対するフェライト、パーライト、及びベイナイトの合計面積率は95面積%以上であって、且つ全組織に対するフェライト、及びベイナイトの各面積率は、フェライトは1〜5面積%、ベイナイトは20〜50面積%であると共に、フェライト結晶粒の平均アスペクト比が5以上であって、且つ、フェライト結晶粒の粒子間距離が5〜50μmであることを特徴とする被削性に優れた高周波焼入れ用鋼。
  2. 更に他の元素として、
    Mo:1%以下(0%を含まない)を含有するものである請求項1に記載の高周波焼入れ用鋼。
  3. 更に他の元素として、
    Ti:0.2%以下(0%を含まない)、Nb:0.2%以下(0%を含まない)、及びV:0.2%以下(0%を含まない)よりなる群から選択される少なくとも一種の元素を含有するものである請求項1または2に記載の高周波焼入れ用鋼。
  4. 更に他の元素として、
    Cu:3%以下(0%を含まない)、および/またはNi:3%以下(0%を含まない)を含有するものである請求項1〜3のいずれかに記載の高周波焼入れ用鋼。
  5. 更に他の元素として、
    Ca:0.005%以下(0%を含まない)、
    Mg:0.005%以下(0%を含まない)、
    Li:0.001%以下(0%を含まない)、および
    REM:0.0010%以下(0%を含まない)よりなる群から選択される少なくとも一種を含有するものである請求項1〜4のいずれかに記載の高周波焼入れ用鋼。
  6. 請求項1〜5のいずれかに記載の成分組成を満足する鋼を、
    850〜1250℃の温度域で熱間加工した後、前記温度域で5秒〜60分間保持してから、前記温度域から500℃までの温度域を0.5〜5℃/sの平均冷却速度で冷却することを特徴とする被削性に優れた高周波焼入れ用鋼の製造方法。
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