JP2013001928A - 被削性に優れた高周波焼入れ用鋼、及びその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】本発明の高周波焼入れ用鋼は、C:0.40〜0.65%、Si:0.010〜0.5%、Mn:0.20〜2.0%、P:0.03%以下(0%を含まない)、S:0.002〜0.10%、Cr:0.010〜0.3%、Al:0.5超〜1.0%、B:0.010超〜0.020%、N:0.002〜0.020%を含有し、残部は鉄及び不可避的不純物からなると共に、鋼の金属組織が、フェライト、パーライト及びベイナイトを有し、全組織に対するフェライト、パーライト及びベイナイトの合計面積率は95面積%以上であって、且つ全組織に対するフェライト、及びベイナイトの各面積率は、フェライトは1〜5面積%、ベイナイトは20〜50面積%であると共に、フェライト結晶粒の平均アスペクト比が5以上であって、且つ、フェライト結晶粒の粒子間距離が5〜50μmである。
【選択図】図1
Description
上記したようにベイナイトとパーライトは鋼の内部の高硬度化、及び疲労特性向上に寄与する金属組織である。一方、フェライトは鋼の被削性向上に寄与する金属組織である。したがって鋼の金属組織をフェライト、パーライト、及びベイナイトの混合組織とすることによって、強度と被削性を向上させることができる。もっとも上記したように単にフェライトやベイナイト等を含む金属組織とするだけでは所望の強度と被削性が得られないことから、以下で詳述する様に、各組織の面積率、並びにフェライトの平均アスペクト比、及び粒子間距離等も満足する必要がある。
上記したように本発明の鋼の強度と被削性は、フェライトとパーライトの混合組織に、ベイナイトが導入された混合組織とすることによって発現するものである。このような効果を得るためには、全組織に対するフェライト、パーライト、及びベイナイトの合計面積率は95面積%以上、好ましくは97面積%以上、より好ましくは99面積%以上である。なお、フェライト、パーライト、及びベイナイト以外の金属組織には、例えば製造上不可避的に生成し得るマルテンサイトや残留オーステナイトなどが含まれるが、これら組織の面積率が高くなると被削性が劣化することがあるため、全く含まれていなくてもよい。したがって全組織に対するフェライト、パーライト、及びベイナイトの合計面積率は更に好ましくは100面積%である。
フェライトは、パーライトやベイナイトよりも軟質相であるため、切削時に他の組織よりも優先的に破断・分離の起点となり、き裂の発生、進展に有効に作用して被削性向上に寄与する組織である。このような作用を得るためには、フェライトの面積率は全組織に対して1面積%以上、好ましくは1.5面積%以上、より好ましくは2面積%以上である。一方、全組織に占めるフェライトの面積率が高くなりすぎると、強度を低下させるだけでなく、工具刃先に凝着しやすくなって被削性が劣化することがある。したがってフェライトの面積率の上限は全組織に対して5面積%以下、好ましくは4.5面積%以下、より好ましくは4面積%以下である。
ベイナイトは、フェライトやパーライトよりも硬質相であるため、高周波焼入れ処理後の部品強度、及び疲労特性の向上に寄与する組織である。このような作用を得るためには、全組織に対するベイナイトの面積率は20面積%以上、好ましくは22.5面積%以上、より好ましくは25面積%以上である。一方、全組織に占めるベイナイトの面積率が高くなりすぎると、部品強度は向上するものの、被削性が低下する。したがってベイナイトの面積率の上限は全組織に対して50面積%以下、好ましくは45面積%以下、より好ましくは40面積%以下である。
フェライトは軟質相であるため、切削時の破断・分離の起点となって被削性を高める作用を有するが、このような効果を発揮させるためには、フェライトの面積率が上記範囲内にあるだけでなく、フェライト結晶粒の形状が細長いことが必要である。すなわち、フェライト結晶粒の形状が細長ければ硬質相中で切り欠きとして作用し、被削性が向上すると考えられる。このような効果は、フェライト結晶粒の平均アスペクト比を5以上とする必要がある。好ましい平均アスペクト比は6以上、より好ましくは7以上である。フェライト結晶粒のアスペクト比が大きいほど切り欠きとして有効に作用するようになるため、上限は特に定めない。
フェライトは上記の通り切削時のき裂発生、進展に有効に作用するが、旧オーステナイト粒界に沿ってフェライトの結晶粒が連続していると、切削加工量が多くなるにしたがって工具刃先が凝着摩耗して被削性が劣化する。したがってこのような被削性の劣化を防止する観点から隣接するフェライト結晶粒の粒子間距離を5μm以上、好ましくは10μm以上、より好ましくは15μm以上とするのがよい。このように適切に粒子間距離を確保して隣接するフェライト粒子同士を互いに独立させておくことで、フェライト結晶粒の粒子間に存在する硬質相が凝着を抑制する作用を発揮し、被削性が改善される。一方、フェライト結晶粒の粒子間距離が離れすぎていると、硬質相による工具への負担が大きくなり被削性が劣化することがある。したがってフェライト結晶粒の粒子間距離の上限は50μm以下、好ましくは45μm以下とするのがよい。
Cは、強度を確保するために必要な元素であり、0.40%以上含有させることによって、部品として必要な強度(高周波焼入れ後の鋼表面と内部の硬度、及び疲労特性)を確保できる。Cは、好ましくは0.43%以上、より好ましくは0.45%以上である。しかしC量が過剰になると、鋼が硬くなり過ぎて被削性や靱性が劣化する。従ってC量は0.65%以下とする。C量は、好ましくは0.62%以下であり、より好ましくは0.60%以下である。
Siは、脱酸元素として作用し、鋼の内部品質を向上させるのに必要な元素である。Siが少なすぎると、脱酸が不十分となり、溶製時にガス欠陥が発生しやすくなる。したがってSiは、0.010%以上、好ましくは0.03%以上、より好ましくは0.05%以上とする。しかしSi量が過剰になると、鋼が硬くなり過ぎて被削性が劣化する。したがってSiは、0.5%以下、好ましくは0.45%以下、より好ましくは0.40%以下とする。
Mnは、焼入れ性を向上させて鋼の強度を向上させるのに必要な元素であり、0.20%以上、好ましくは0.4%以上、より好ましくは0.6%以上とする。しかしMnが過剰になると、焼入れ性が向上し過ぎて過剰にベイナイトが生成したり、マルテンサイトが生成し易くなり、被削性が低下する。従ってMnは、2.0%以下、好ましくは1.8%以下、より好ましくは1.6%以下とする。
Pは、鋼に不可避的に含まれる不純物元素であり、P量が過剰になると加工時に割れが発生するのを助長するので、できるだけ低減する必要がある。従ってPは、0.03%以下、好ましくは0.02%以下、より好ましくは0.015%以下とする。なお、P量を0%とすることは工業的に困難である。
Sは、鋼に不可避的に含まれる不純物であるが、鋼中のMnと結合してMnS介在物を形成し、鋼の被削性を向上させるのに有効に作用する元素であり、0.002%以上、好ましくは0.005%以上、より好ましくは0.008%以上とする。しかしS量が過剰になると、MnS系介在物量が増大し、この介在物が加工時(例えば、熱間圧延や熱間鍛造など)に加工方向に伸展するため、加工方向に直角な方向の靱性(横目靱性)が劣化する原因となる。従ってS量は0.10%以下、好ましくは0.08%以下、より好ましくは0.06%以下とする。
Crは、鋼の焼入れ性を高め、強度を向上させるために有効に作用する元素である。また、Alとの複合添加によって、鋼の被削性(特に、断続切削性)を高めるのにも有効に作用する元素である。こうした効果を発揮させるには、Crは0.010%以上、好ましくは0.03%以上、より好ましくは0.05%以上である。しかし、Cr量が過剰になると、粗大な炭化物が生成するか、或いは過冷組織が過剰に生成して被削性を却って劣化させるので、Cr量は0.3%以下、好ましくは0.27%以下、より好ましくは0.25%以下である。
Alは、鋼中に固溶状態で存在させることによって断続切削したときの被削性を向上させる(工具表面の酸化摩耗を抑制する)ために必要な元素である。また、Alは、脱酸剤としても作用する。更に、Al添加量を増やすと鋼材の分断性(脆化)を促進する効果を発現する。こうした効果を発揮させるためには、Alは、0.5%超、好ましくは0.55%以上、より好ましくは0.60%以上とする。しかしAlが過剰になると、熱間加工時に鋼材が割れやすくなったり、またAlNが多量に析出して被削性や疲労特性が劣化することがある。従ってAlは1.0%以下、好ましくは0.90%以下、より好ましくは0.80%以下とする。
Bは、焼入れ性向上元素であり、またAlの固溶量を確保して断続切削したときの被削性を向上させるのに寄与する元素である。また、Bは、鋼中のNと結合してBNを析出させる。析出したBNは、フェライト析出の核となり、被削性の向上に寄与する。更に、B添加量を多くすると、高周波焼入れ後の表面硬さを安定して得ることができる。こうした効果を発揮させるには、Bは、0.010%超、好ましくは0.011%以上、より好ましくは0.012%以上とする。しかしBが過剰になると、鋼が硬くなり過ぎ、被削性が劣化する。従ってBは0.020%以下、好ましくは0.019%以下、より好ましくは0.018%以下とする。
Nは、BNを析出して被削性を向上させるのに寄与する元素である。こうした効果を発揮させるには、Nは0.002%以上、好ましくは0.004%以上、より好ましくは0.006%以上とする。しかしNが過剰になると、固溶N量が増加して動的ひずみ時効が生じ、鋼材の加工硬化が進行して被削性が劣化する。従ってNは、0.020%以下、好ましくは0.018%以下、より好ましくは0.016%以下とする。
Moは、鋼の焼入れ性を高め、焼入れされていない組織が生成するのを抑制するのに作用する元素である。こうした作用は、その含有量が増加するにつれて増大するが、好ましくは0.04%以上、より好ましくは0.06%以上、更に好ましくは0.08%以上である。しかしMoを過剰に含有すると、過冷組織が過剰に生成して被削性が低下するため、1%以下とすることが好ましい。より好ましくは0.8%以下であり、更に好ましくは0.5%以下である。
Ti、Nb、Vは、熱間加工時に結晶粒が異常成長するのを防止し、鋼の靭性や疲労特性が低下するのを防止する作用を有する元素であり、少なくとも任意の1種以上含有することによってこうした作用が発揮される。こうした作用は、その含有量が増加するにつれて増大するが、Ti、Nb、Vは夫々好ましくは0.005%以上、より好ましくは0.010%以上含有することが望ましい。しかし、これらの元素を過剰に含有すると、硬質の炭化物が多量に生成して鋼の被削性が低下するので、Ti、Nb、Vは夫々、0.2%以下、好ましくは0.15%以下、より好ましくは0.10%以下である。なお、Ti、Nb、およびVは、単独で含有させてもよいし、任意に選ばれる2種以上を含有させてもよい。
Cu、およびNiは、焼入れ性を向上させて強度を高めるのに有効に作用する元素である。こうした作用は、これらの元素の含有量が増加するにつれて増大するが、有効に発揮させるには、Cu、Niは夫々好ましくは0.05%以上、より好ましくは0.1%以上である。しかし過剰に含有させると過冷組織が過剰に生成し、延性や靭性が低下するので、Cu、Niは夫々3%以下とすることが好ましい。より好ましくは2%以下、更に好ましくは1%以下である。なお、Cu、およびNiは、夫々、単独で含有させてもよいし、両方を含有させてもよく、また両方を含有させる場合の含有量は夫々上記範囲で任意の含有量でよい。
Ca、Mg、Li、及びREMは、MnS等の硫化化合物系介在物を球状化させ、被削性を向上させるのに有効な元素である。こうした作用はその含有量が増加するにつれて増大するが、有効に発揮させるためには、CaとMgは夫々好ましくは0.0005%以上、より好ましくは0.0010%以上、LiとREMは夫々好ましくは0.0001%以上、より好ましくは0.0002%以上である。しかし過剰に含有させてもその効果は飽和し、含有量に見合う効果が期待できないので、CaとMgは夫々好ましくは0.005%以下、より好ましくは0.0040%以下、更に好ましくは0.0030%以下、Liは好ましくは0.001%以下、REMは好ましくは0.0010%以下であって、LiとREMはより好ましくは0.0008%以下、更に好ましくは0.0005%以下である。なお、Ca、Mg、Li、およびREMは、単独で含有させてもよいし、任意に選ばれる2種以上を含有させてもよい。REMとは、ランタノイド元素(LaからLuまでの15元素)およびSc(スカンジウム)とY(イットリウム)を含む意味であり、これらの中から任意に選ばれる1種または2種以上を含有してもよい。
更にビレットの端部を切断し、ダミービレット(155mm角×長さ:9〜10m)を溶接した。溶接後、該ビレットを1200℃に加熱した後、熱間圧延してφ45mmの丸棒とした後、空冷した。
ビレットを1200℃に加熱した後、熱間鍛造してφ45mmの丸棒としてから空冷した。
上記各試験片について、下記に示す手順で金属組織、及び金属組織の面積割合を測定した。
試験片を長手方向に対して垂直に切断した後、エメリー紙、ダイヤモンドバフ、電解研磨によって切断面を鏡面研磨した。試験片の鏡面研磨面を電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM:観察倍率1000倍、加速電圧20kV)で観察・画像撮影した。任意の5箇所で観察を行い、各観察箇所の写真を撮影した(全5枚)。撮影した画像を結晶方位解析装置(EBSP)を使って画像の解析を行い、フェライト(解析ではBCC)のアスペクト比、及びフェライトの粒子間距離を測定し、その平均値を求めた。
上記試験片を切削加工して、長さ:150mm×幅:100mm×厚み:10mmの板材(試験片)に仕上げた。この板材の被削性を評価するために、ホブ切削試験を行い、板材を断続切削したときの工具摩耗量を測定した。切削工具としてTiAlNコーティングハイスホブ(すくい面コーティングなし)を用いて以下の切削条件で断続切削を行った。
切削条件:
・切り込み量:1.0mm
・送り速度:42mm/s
・切削速度:165m/min
・切削雰囲気:乾式
・切削長:150mm/カット
断続切削を50カット(1カットの切削長さ:150mm)行った後、工具表面を光学顕微鏡(観察倍率100倍)で観察し、逃げ面摩耗量(工具摩耗量)を測定し、平均値を求めた。本発明では、断続切削後の逃げ面摩耗量が70μm以下のものを、合格(○)と評価した。
上記試験片の中央位置付近からJIS Z2274に基づいて1号疲労試験片(標点間部の直径:φ6mm)を採取し、疲労試験片に高周波焼入れ処理(加熱温度:850℃、冷却条件:水冷)を施して強度試験片を得た。この強度試験片を用いて以下の条件でビッカース硬さ、及び疲労特性の評価を行った。
上記強度試験片の標点間中央で垂直に切断し、横断面が測定面となるように冷間樹脂に埋め込んだ。硬度試験片の横断面を鏡面状態に研磨して仕上げた後、ビッカース硬さ試験機を用いて測定した。
上記強度試験片の疲労特性を回転曲げ試験機を用いて回転曲げ疲労特性の評価を行った。具体的には周波数20Hz、負荷応力を700MPa〜100MPaの間で変化させ、107回寿命に相当する応力(MPa)を求めて、この値を疲労特性の指標とした。本実施例では、疲労限応力が220MPa以上を合格(高強度)、220MPa未満を不合格(強度不足)と判定した。
以下の方法で部品の表面硬さの安定性を評価した。上記記載に基づいて同一成分の鋼種からなる試験片を3片作製(2B−1〜3、2X−1〜3)し、各試験片について高周波焼入れ後の表面硬さ(試験片最表面から0.05mm内側のビッカース硬さ)について上記ビッカース硬さの試験に基づいて測定した。得られた試験結果のうち、表面硬さの最大値と最小値の差を計算し、その差が20Hv以下であれば同一鋼材内での表面硬さのバラツキや、鋼材間でのバラツキがなく合格(安定性確保)とし、20Hv以上を不合格(ばらつき大)と評価した。
Claims (6)
- C:0.40〜0.65%(質量%の意味、化学成分について以下同じ)、
Si:0.010〜0.5%、
Mn:0.20〜2.0%、
P:0.03%以下(0%を含まない)、
S:0.002〜0.10%、
Cr:0.010〜0.3%、
Al:0.5超〜1.0%、
B:0.010超〜0.020%、
N:0.002〜0.020%
を含有し、残部は鉄、及び不可避的不純物からなると共に、
鋼の金属組織が、フェライト、パーライト、及びベイナイトを有し、全組織に対するフェライト、パーライト、及びベイナイトの合計面積率は95面積%以上であって、且つ全組織に対するフェライト、及びベイナイトの各面積率は、フェライトは1〜5面積%、ベイナイトは20〜50面積%であると共に、フェライト結晶粒の平均アスペクト比が5以上であって、且つ、フェライト結晶粒の粒子間距離が5〜50μmであることを特徴とする被削性に優れた高周波焼入れ用鋼。 - 更に他の元素として、
Mo:1%以下(0%を含まない)を含有するものである請求項1に記載の高周波焼入れ用鋼。 - 更に他の元素として、
Ti:0.2%以下(0%を含まない)、Nb:0.2%以下(0%を含まない)、及びV:0.2%以下(0%を含まない)よりなる群から選択される少なくとも一種の元素を含有するものである請求項1または2に記載の高周波焼入れ用鋼。 - 更に他の元素として、
Cu:3%以下(0%を含まない)、および/またはNi:3%以下(0%を含まない)を含有するものである請求項1〜3のいずれかに記載の高周波焼入れ用鋼。 - 更に他の元素として、
Ca:0.005%以下(0%を含まない)、
Mg:0.005%以下(0%を含まない)、
Li:0.001%以下(0%を含まない)、および
REM:0.0010%以下(0%を含まない)よりなる群から選択される少なくとも一種を含有するものである請求項1〜4のいずれかに記載の高周波焼入れ用鋼。 - 請求項1〜5のいずれかに記載の成分組成を満足する鋼を、
850〜1250℃の温度域で熱間加工した後、前記温度域で5秒〜60分間保持してから、前記温度域から500℃までの温度域を0.5〜5℃/sの平均冷却速度で冷却することを特徴とする被削性に優れた高周波焼入れ用鋼の製造方法。
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