JP2012250356A - 多層構造体及びその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】溶融成形性に優れ、その結果、高いガスバリア性を有し、かつ延伸や屈曲等の変形をさせて使用してもガスバリア性等の特性を維持できる多層構造体を提供することを目的とする。また、そのような特性を有する多層構造体を製造コストの上昇を抑制しつつ製造する方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、8層以上の樹脂層を備える多層構造体であって、この樹脂層として、ガスバリア性樹脂を含む樹脂組成物からなるA層と、このA層に隣接し、熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物からなるB層とを有し、所定温度におけるA層の樹脂組成物の伸張粘度ηとB層の樹脂組成物の伸張粘度ηとが共に1,000Pa・s以上であり、かつ、この伸張粘度比η/ηが0.02以上50以下であることを特徴とする。
【選択図】なし

Description

本発明は、8層以上の樹脂層を備える多層構造体及びその製造方法に関し、詳細には、優れたガスバリア性、溶融成形性及び耐久性を有する多層構造体及びその製造方法に関する。
今日では、エチレン−ビニルアルコール共重合体層を有する積層フィルムが、その高いガスバリア性、延伸性、熱成形性等を利用し、食品用及び医療用包装材料等の用途に使用されている。最近では、ガスバリア性等の各種性能を向上させる目的で、1層の厚みがミクロンオーダー又はサブミクロンオーダーの樹脂層が複数積層された種々の多層構造体が提案されている。
かかるエチレン−ビニルアルコール共重合体の樹脂層が複数積層された従来の多層構造体としては、例えば(1)エチレン−ビニルアルコール共重合体等の流体バリヤー材料及び熱可塑性ポリウレタン等のエラストマー材料により形成されるミクロレイヤー高分子複合物が交互に10層以上積層されるエラストマー性バリヤー膜(特表2002−524317号公報参照)や、(2)エチレン−ビニルアルコール共重合体等の硬質ポリマー材料と可撓性ポリマー材料との交互の層を有する多層フィルム(特表2003−512201号公報参照)などが開発されている。
上述のような多層構造体は、通常、共押出法等によって成形される。ここで、この多層構造体は、1層毎の厚みが小さく、かつ、多層の積層体であるが故に、各層及び全体の溶融成形が容易ではない。溶融成形性が良好ではないと、各層の厚みが不均一になることにより耐久性が低下したり、十分なガスバリア性を発揮できなくなったりする場合がある。しかしながら、上記従来の多層構造体(1)及び(2)においては、特段の溶融成形性の向上策は施されていない。
特表2002−524317号公報 特表2003−512201号公報
本発明はこれらの不都合に鑑みてなされたものであり、溶融成形性に優れ、その結果、高いガスバリア性を有し、かつ延伸や屈曲等の変形をさせて使用してもガスバリア性等の特性を維持できる多層構造体を提供することを目的とする。また、そのような特性を有する多層構造体を製造コストの上昇を抑制しつつ製造する方法を提供することを目的とする。
上記課題を解決するためになされた発明は、
8層以上の樹脂層を備える多層構造体であって、
この樹脂層として、ガスバリア性樹脂を含む樹脂組成物からなるA層と、このA層に隣接し、熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物からなるB層とを有し、
以下の測定条件下でのA層の樹脂組成物の伸張粘度ηとB層の樹脂組成物の伸張粘度ηとが共に1,000Pa・s以上であり、かつ、この伸張粘度比η/ηが0.02以上50以下であることを特徴とする。
(測定条件)
温度:A層の樹脂組成物の融点及びB層の樹脂組成物の融点における高い方の融点(融点がない樹脂組成物については流出開始温度)より25℃高い温度
伸張速度:500(1/sec)
当該多層構造体は、上記多層構造を備えるため優れたガスバリア性を有している。また、当該多層構造体は、この層構造を構成するA層の樹脂組成物及びB層の樹脂組成物の伸張粘度及びこの比を限定することで、各層1層の厚みをミクロンオーダー又はサブミクロンオーダーとした場合であっても各層及び全体の溶融成形性に優れる。従って、当該多層構造体によれば、耐久性に優れ、延伸や屈曲等の変形をさせて使用してもガスバリア性等の特性を維持することができる。
上記A層とB層とが交互に積層されるとよい。このようにA層とB層とを交互に積層することで、積層される各層間に高い接着性を発現することができる。その結果、当該多層構造体の層間接着性ひいてはガスバリア性、耐久性等をより向上させることができる。
上記A層及び/又はB層の一層の平均厚みとしては、0.01μm以上10μm以下が好ましい。A層及び/又はB層の平均厚みを上記範囲とすることで、多層構造体の全体の厚みが同じである場合でも、層数を増やすことができ、その結果、当該多層構造体のガスバリア性、耐久性等をさらに向上させることができる。
上記A層の樹脂組成物の伸張粘度ηとこの一層の平均厚みTとの積η・T、及び上記B層の樹脂組成物の伸張粘度ηとこの一層の平均厚みTとの積η・Tとしては、共に500Pa・s・μm以上500,000Pa・s・μm以下が好ましい。このように各層の樹脂組成物の伸張粘度とこの一層の平均厚みとの積を上記範囲とすることで、溶融成形性をさらに高めることができる。
上記積η・Tとη・Tとの比(η・T)/(η・T)としては、0.01以上100以下が好ましい。このようにA層及びB層における上記積の比を所定範囲内とすることで、例えば共押出により成形する際、各層を所望する厚さに制御しやすくなるなど、溶融成形性をさらに高めることができる。
当該多層構造体の厚みとしては、0.1μm以上1,000μm以下が好ましい。当該多層構造体の厚みを上記範囲とすることで、上記A層及び/又はB層の平均厚みを上記範囲とすることと相まって、上記食品包装材等への適用性を維持しつつガスバリア性、溶融成形性、耐久性等をさらに向上させることができる。
上記ガスバリア性樹脂がエチレン−ビニルアルコール共重合体であるとよい。ガスバリア性樹脂としてエチレン−ビニルアルコール共重合体を用いることで、当該多層構造体のガスバリア性をより高めることができる。
上記エチレン−ビニルアルコール共重合体のエチレン単位含有量としては、3モル%以上70モル%以下が好ましい。このようにエチレン単位含有量を上記範囲にすることによって、当該多層構造体のガスバリア性が向上し、加えて溶融成形性を向上させることができ、この高い溶融成形性により耐久性等を向上することができる。
上記エチレン−ビニルアルコール共重合体のケン化度としては、80モル%以上が好ましい。このようにケン化度を上記範囲にすることによって、当該多層構造体のガスバリア性をさらに向上させることができると共に、耐湿性を向上させることができる。加えて、ケン化度を上記範囲にすることによってB層との層間接着性、ひいては耐久性等を向上させることができる。
上記エチレン−ビニルアルコール共重合体としては、下記構造単位(I)及び(II)からなる群より選ばれる少なくとも1種を有し、
これらの構造単位(I)又は(II)の全構造単位に対する含有量が0.5モル%以上30モル%以下であるとよい。
Figure 2012250356
Figure 2012250356
(上記式(I)中、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基、炭素数6〜10の芳香族炭化水素基又は水酸基を表す。また、R、R及びRのうちの一対が結合していてもよい(但し、R、R及びRのうちの一対が共に水素原子の場合は除く)。また、上記炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基又は炭素数6〜10の芳香族炭化水素基は水酸基、カルボキシル基又はハロゲン原子を有していてもよい
上記式(II)中、R、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基、炭素数6〜10の芳香族炭化水素基又は水酸基を表す。また、RとR又はRとRとは結合していてもよい(但し、RとR又はRとRが共に水素原子の場合は除く)。また、上記炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基又は炭素数6〜10の芳香族炭化水素基は、水酸基、アルコキシ基、カルボキシル基又はハロゲン原子を有していてもよい。)
このように、A層のエチレン−ビニルアルコール共重合体が上記構造単位(I)又は(II)を上記含有量の範囲で有することによって、A層を構成する樹脂組成物の柔軟性及び加工特性が向上するため、当該多層構造体の層間接着性、延伸性及び溶融成形性等を向上させることができる。
上記熱可塑性樹脂が、熱可塑性ポリウレタン、ポリアミド、上記ガスバリア性樹脂の有する基と反応し得る官能基を分子内に有する樹脂、及びエラストマーからなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂であるとよい。当該多層構造体によれば、熱可塑性樹脂として上記樹脂を用いることで、層間接着性、耐久性等をさらに高めることができる。
上記熱可塑性樹脂がポリアミドを含み、このポリアミドがハードセグメントにナイロンを有するブロックコポリマーからなるポリアミド系エラストマーであることが好ましい。このようなポリアミド系エラストマーを用いることで、溶融成形性等をさらに高めることができる。
上記ポリアミド系エラストマーのハードセグメントがナイロン6からなることが好ましい。このようなポリアミド系エラストマーを用いることで、溶融成形性等をさらに高めることができる。
上記熱可塑性樹脂が、上記ガスバリア性樹脂の有する基と反応し得る官能基を分子内に有する樹脂を含み、この樹脂が、カルボン酸変性ポリオレフィン及びその金属塩、ボロン酸基又は水の存在下でボロン酸基に転化し得るホウ素含有基を有する熱可塑性樹脂、並びにビニルエステル系共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂であるとよい。上記樹脂を用いることによって、A層とB層との層間接着性がさらに向上する。従って、当該多層構造体は、ガスバリア性、耐久性等をさらに向上させることができる。
上記熱可塑性樹脂が、エラストマーを含み、このエラストマーが、上記ガスバリア性樹脂の有する基と反応し得る官能基を分子内に有するスチレン系エラストマーであることが好ましい。このようなスチレン系エラストマーをB層の樹脂組成物に用いることで、当該多層構造体の耐久性等をさらに高めることができる。
当該多層構造体において、A層とB層との界面で結合反応が生じているとよい。このように、A層とB層を構成する樹脂組成物の分子間で共有結合又はイオン結合により結合されることによって、より高い層間接着性が発揮される。その結果、当該多層構造体のガスバリア性、耐久性等をより向上させることができる。
また、上記課題を解決するためになされた別の発明は、
当該多層構造体の製造方法であって、
ガスバリア性樹脂を含む樹脂組成物と熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物とを用いた多層共押出法により成形することを特徴とする。当該多層構造体の製造方法は、各層及び全体の溶融成形性に優れ、その結果、高いガスバリア性や耐久性等を有する多層構造体を、製造コストの上昇を抑制しつつ容易かつ確実に製造することができる。
以上説明したように、本発明の多層構造体は、溶融成形性に優れ、その結果、高いガスバリア性を有し、かつ延伸や屈曲等の変形をさせて使用してもガスバリア性等の特性を維持することができる。また、また、本発明の多層構造体の製造方法によれば、そのような特性を有する多層構造体を製造コストの上昇を抑制しつつ容易かつ確実に製造することができる。
以下、本発明の実施形態を詳述する。
当該多層構造体は、8層以上の樹脂層を備えている。この樹脂層として、ガスバリア性樹脂を含む樹脂組成物からなるA層と、熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物からなるB層とを有している。
以下、当該多層構造体の層構造、A層及びB層の伸張粘度、A層、B層、A層及びB層の関係並びに製造方法に関し、この順に説明する。
〈当該多層構造体の層構造〉
当該多層構造体は、8層以上の樹脂層を備えている。このように8層以上の樹脂層を積層した構造により、ピンホール、割れなどの欠陥が連続して発生することを抑制できる結果、当該多層構造体はその構造自体により高いガスバリア性、耐久性等の特性を有している。かかる観点と製造上の観点から、樹脂層の合計の層数としては、10層以上が好ましく、15層以上がさらに好ましく、18層以上が特に好ましい。また、同様の理由から、A層及びB層それぞれの層数としては、4以上が好ましく、6以上がより好ましく、8以上がさらに好ましい。
この樹脂層としては、少なくともA層及びB層の2種を有し、その他のC層等を有することも可能である。このようにガスバリア性樹脂含有樹脂組成物からなるA層及び熱可塑性樹脂含有樹脂組成物からなるB層を含む2種以上の層を合計8層以上積層させることによって、A層が有する高いガスバリア性と、B層が有する高い延伸性及び熱成形性とを併せ持つ多層構造体とすることができる。また、当該多層構造体は、A層及びB層の積層構造により、延伸や屈曲等の変形を繰り返して使用してもガスバリア性を保持できる。
なお、A層は、単一の樹脂組成物からなるものでもよく、ガスバリア性樹脂を含む限り、複数種類の樹脂組成物からなるものでもよい。また、B層も、A層と同様に単一の樹脂組成物からなるものでもよく、熱可塑性樹脂を含む複数種類の樹脂組成物からなるものでもよい。
A層及びB層の積層順としては、少なくともA層及びB層が隣接する個所を有する構造であれば特に限定されるものではなく、例えば、
(1)A,B,A,B・・・A,B(つまり、(AB)
(2)A,B,A,B・・・・・A(つまり、(AB)A)
(3)B,A,B,A・・・・・B(つまり、(BA)B)
(4)A,A,B,B・・・B,B(つまり、(AABB)
などの積層順を採用することができる。また、その他のC層を有する場合、例えば、
(5)A,B,C・・・A,B,C(つまり、(ABC)
などの積層順を採用することができる。
特に、A層及びB層の積層順としては、上記(1)、(2)又は(3)のように、A層とB層とが交互に積層されていることが好ましい。このように交互に積層されていることによって、当該多層構造体がガスバリア性や柔軟性に優れたものとなる。また、後述するA層及びB層間の強い接着力を全層間で作用させることができ、層間剥離等の欠陥の発生が格段に低減され、その結果、当該多層構造体のガスバリア性等の特性及びその特性の耐久性を高めるという本発明の効果がより有効に発揮される。
当該多層構造体の厚みの下限としては、0.1μmが好ましく、1μmがより好ましく、5μmがさらに好ましい。一方、当該多層構造体の厚みの上限としては、1,000μmが好ましく、700μmがより好ましく、500μmがさらに好ましい。当該多層構造体の厚みが上記下限より小さいと、強度が不足し、使用が困難になるおそれがある。逆に、当該多層構造体の厚みが上記上限を超えると、柔軟性、成形性等が低下し、製造コストの上昇を招来するおそれがある。ここで、多層構造体の厚みは、多層構造体の任意に選ばれた点での断面の厚みを測定することにより得られる。
A層一層の平均厚みの下限としては、0.01μmが好ましく、0.05μmがより好ましく、0.1μmがさらに好ましい。一方、A層一層の平均厚みの上限としては、10μmが好ましく、7μmがより好ましく、5μmがさらに好ましく、2μmが特に好ましい。A層一層の平均厚みが上記下限より小さいと、均一な厚さで成形することが困難になり、当該多層構造体のガスバリア性及びその耐久性が低下するおそれがある。逆に、A層一層の平均厚みが上記上限を超えると、当該多層構造体全体の平均厚みが同じである場合、層数を多くすることが困難になり、上述の多層によるガスバリア性向上効果が期待できなくなるおそれがあり、また当該多層構造体の延伸性や溶融成形性が低下するおそれがある。なお、A層の一層の平均厚みとは、当該多層構造体に含まれる全A層の厚みの合計をA層の層数で除した値をいう。
同様の理由により、B層一層の平均厚みの下限としては、0.01μmが好ましく0.05μmがより好ましく、0.1μmがさらに好ましい。一方、B層一層の平均厚みの上限としては、10μmが好ましく、7μmがより好ましく、5μmがさらに好ましく、2μmが特に好ましい。なお、B層の一層の平均厚みも、当該多層構造体に含まれる全B層の厚みの合計をB層の層数で除した値をいう。
〈A層及びB層の伸張粘度〉
A層の樹脂組成物の伸張粘度ηとB層の樹脂組成物の伸張粘度ηとしては、以下の測定条件下で、共に1,000Pa・s以上であり、2,000Pa・s以上が好ましく、3,000Pa・s以上がさらに好ましい。一方、伸張粘度η及びηは、共に50,000Pa・s以下が好ましく、20,000Pa・s以下がより好ましく、10,000Pa・s以下がさらに好ましい。伸張粘度η及びηを上記範囲とすることで、各層及び全体の溶融成形性が高まり、得られる当該多層構造体のガスバリア性や耐久性を向上させることができる。
伸張粘度η及びηが、上記下限より小さいと、溶融共押出しラミネートや溶融押出しなどによる押出し製膜時にネックインや膜揺れが著しくなり、得られる多層構造体や積層前の各層の厚み斑や幅の縮小が大きくなって、均質で目的寸法どおりの多層構造体を得ることができなくなる。逆に、伸張粘度η及びηが上記上限を超えると、例えば高速引き取り条件下で溶融共押出しラミネートや溶融押出成形を行う場合に膜切れが起こり易くなり、高速成膜性が顕著に損なわれ、またダイスウエルが起こり易くなって薄肉の多層構造体や積層前の各層を得るのが困難になるおそれがある。また、伸張粘度η及びηが上記上限を超えると、押出機に加わるトルクが高くなりすぎ、押出し斑やウエルドラインが発生し易くなる場合もある。
(測定条件)
温度:A層の樹脂組成物の融点及びB層の樹脂組成物の融点における高い方の融点(融点がない樹脂組成物については流出開始温度)より25℃高い温度
伸張速度:500(1/sec)
なお、本発明における伸張粘度は、キャピラリーフロー測定法により測定される値を言う。
A層の樹脂組成物の伸張粘度ηとB層の樹脂組成物の伸張粘度ηとの伸張粘度比η/ηとしては、0.02以上50以下であり、0.2以上5以下が好ましく、0.3以上3以下がさらに好ましい。このように、両樹脂組成物の伸張粘度を近づけることで、各層1層の厚みをミクロンオーダー又はサブミクロンオーダーとした多層構造体であっても、溶融成形性に優れる。従って、当該多層構造体によれば、耐久性に優れ、延伸や屈曲等の変形をさせて使用してもガスバリア性等の特性を維持することができる。上記伸張粘度比η/ηが上記範囲外の場合は、例えば共押出により両層を成形しようとした際、両層を共に好ましい状態に成形することが困難となり、外観や耐久性の低下が生じるおそれがある。
また、上記測定温度で、かつ、伸張速度100(1/sec)及び1,000(1/sec)におけるA層及びB層の樹脂組成物の伸張粘度がいずれも上記範囲を満たし、伸張粘度比もいずれの伸張速度においても上記範囲を満たすことが好ましい。このように、伸張速度100(1/sec)及び1,000(1/sec)の場合も同様な伸張粘度の関係を満たす樹脂組成物を用いることで、当該多層構造体の溶融成形性をさらに高めることができる。
上記ηとA層一層の平均厚みTとの積η・T、及び上記伸張粘度ηとB層一層の平均厚みTとの積η・Tとのとしては、共に500Pa・s・μm以上500,000Pa・s・μm以下が好ましく、1,000Pa・s・μm以上100,000Pa・s・μm以下がより好ましく、2,000Pa・s・μm以上50,000Pa・s・μm以下がさらに好ましく、3,000Pa・s・μm以上30,000Pa・s・μm以下が特に好ましい。このように各層の樹脂組成物の伸張粘度とこの一層の平均厚みとの積を上記範囲とすることで、溶融成形性をさらに高めることができる。
各層の厚みが薄くなりすぎると溶融成形が困難になるため、これを補うため、樹脂組成物がある程度の伸張粘度を有することが好ましい。このため、上記積(η・T及びη・T)が、上記下限未満の場合は、溶融成形性が低下する場合があり、具体的には、溶融共押出しラミネートや溶融押出しなどによる押出し製膜時にネックインや膜揺れが著しくなり、得られる多層構造体や積層前の各層の厚み斑や幅の縮小が大きくなって、均質で目的寸法どおりの多層構造体を得ることができなくなるおそれがある。逆に、この積が上記上限を超える場合も、例えば各層の表面の荒れ、膜切れ、ダイスウエル、押出斑、ウエルドラインの発生等が生じやすくなるなど、熱成形性が低下するおそれがある。
上記積η・Tとη・Tとの比(η・T)/(η・T)としては、0.01以上100以下が好ましく、0.1以上10以下がより好ましく、0.2以上5以下がさらに好ましい。このようにA層及びB層における上記積の比を所定範囲内とすることで、例えば共押出により成形する際、各層を所望する厚さに制御しやすくなるなど、溶融成形性をさらに高めることができる。上記積の比が上記範囲を外れる場合は、一方の層の表面の荒れ、膜切れ、厚み斑、幅の縮小、接着性の低下が生じるなど、両層の成形性を良好に維持することができない場合がある。
〈A層〉
A層は、ガスバリア性樹脂を含む樹脂組成物からなる層である。A層を構成する樹脂組成物がガスバリア性樹脂を含むことでガスバリア性に優れる多層構造体を得ることができる。
ガスバリア性樹脂とは、気体の透過を防止する機能を有する樹脂であり、具体的には20℃−65%RH条件下で、JIS−K7126(等圧法)に記載の方法に準じて測定した酸素透過速度が、100mL・20μm/(m・day・atm)以下の樹脂をいう。なお、本発明に用いられるガスバリア性樹脂の酸素透過速度は、50mL・20μm/(m・day・atm)以下が好ましく、10mL・20μm/(m・day・atm)以下がさらに好ましい。
このようなガスバリア性樹脂としては、エチレン−ビニルアルコール共重合体(以下、「EVOH」ともいう。)、ポリアミド、ポリエステル、ポリ塩化ビニリデン、アクリロニトリル共重合体、ポリフッ化ビニリデン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリビニルアルコール等を挙げることができる。
これらのガスバリア性樹脂の中でも、ガスバリア性の点から、ポリアミド、ポリエステル樹脂及びEVOHが好ましく、ガスバリア性に加え、溶融成形性、B層との接着性などの点からEVOHが特に好ましい。
〈ポリアミド〉
上記ポリアミドは、アミド結合を有するポリマーであり、ラクタムの開環重合、アミノカルボン酸又はジアミンとジカルボン酸との重縮合等によって得ることができる。
上記ラクタムとしては、例えばε−カプロラクタム、ω−ラウロラクタム等を挙げることができる。
上記アミノカルボン酸としては、例えば6−アミノカプロン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸、パラアミノメチル安息香酸等を挙げることができる。
上記ジアミンとしては、例えばテトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、5−メチルノナメチレンジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1−アミノー3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、アミノエチルピペラジン等を挙げることができる。
上記ジカルボン酸としては、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、デカリンジカルボン酸、ノルボルナンジカルボン酸、トリシクロデカンジカルボン酸、ペンタシクロドデカンジカルボン酸、イソホロンジカルボン酸、3,9−ビス(2−カルボキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、トリカルバリル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2−メチルテレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸、テトラリンジカルボン酸等を挙げることができる。
ポリアミドを合成する際の重縮合の方法としては、例えば、溶融状態において重縮合する方法や、一旦溶融状態で重縮合して低粘度ポリアミドを得た後、固相状態で加熱処理する方法(いわゆる固相重合)を挙げることができる。溶融状態における重縮合方法としては、例えばジアミンとジカルボン酸とのナイロン塩の水溶液を加圧下で加熱し、水及び縮合水を除きながら溶融状態で重縮合させる方法、ジアミンを溶融状態のジカルボン酸に直接加えて、常圧下で重縮合する方法等を挙げることができる。
上記化合物等の重縮合物である具体的なポリアミドとしては、例えば、ポリカプロラクタム(ナイロン6)、ポリラウロラクタム(ナイロン12)、ポリヘキサメチレンジアジパミド(ナイロン66)、ポリヘキサメチレンアゼラミド(ナイロン69)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ナイロン46、ナイロン6/66、ナイロン6/12、11−アミノウンデカン酸の縮合生成物(ナイロン11)等の脂肪族系ポリアミドや、ポリヘキサメチレンイソフタラミド(ナイロン6IP)、メタキシレンジアミン/アジピン酸共重合体(ナイロンMXD6)、メタキシレンジアミン/アジピン酸/イソフタル酸共重合体等の芳香族系ポリアミド等を挙げることができる。これらは、1種又は2種以上を混合して用いることができる。
これらのポリアミドの中でも、優れたガスバリア性を有するナイロンMXD6が好ましい。このナイロンMXD6のジアミン成分としては、メタキシリレンジアミンが70モル%以上含まれることが好ましく、ジカルボン酸成分としては、アジピン酸が70モル%以上含まれることが好ましい。ナイロンMXD6が上記配合範囲のモノマーから得られることで、より優れたガスバリア性や機械的性能を発揮することができる。
〈ポリエステル〉
上記ポリエステルとは、エステル結合を有するポリマーであり、多価カルボン酸とポリオールとの重縮合等によって得ることができる。当該多層構造体のガスバリア性樹脂として用いられるポリエステルとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリグリコール酸(PGA)、芳香族系液晶ポリエステル等を挙げることができる。これらは1種又は2種以上を混合して用いることができる。これらのポリエステルの中でも、ガスバリア性の高さの点から、PGA及び全芳香族系液晶ポリエステルが好ましい。
〈PGA〉
PGAは、−O−CH−CO−で表される構造単位(GA)を有する単独重合体又は共重合体である。PGAにおける上記構造単位(GA)の含有割合は、60質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましい。また、この上限としては100質量%が好ましい。構造単位(GA)の含有割合が上記下限より小さいと、ガスバリア性が十分に発揮されないおそれがある。
PGAの製造方法としては、(1)グリコール酸の脱水重縮合により合成する方法、(2)グリコール酸アルキルエステルの脱アルコール重縮合により合成する方法、(3)グリコリド(1,4−ジオキサン−2,5−ジオン)の開環重合により合成する方法等を挙げることができる。
共重合体としてのPGAを合成する方法としては、上記の各合成方法において、コモノマーとして、例えば、
シュウ酸エチレン(1,4−ジオキサン−2,3−ジオン)、ラクチド、ラクトン類(例えば、β−プロピオラクトン、β−ブチロラクトン、ピバロラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、β−メチル−δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン等)、トリメチレンカーボネート、1,3−ジオキサン等の環状モノマー;
乳酸、3−ヒドロキシプロパン酸、3−ヒドロキシブタン酸、4−ヒドロキシブタン酸、6−ヒドロキシカプロン酸等のヒドロキシカルボン酸又はそのアルキルエステル;
エチレングリコール、1,4−ブタンジオール等の脂肪族ジオールと、コハク酸、アジピン酸等の脂肪族ジカルボン酸又はそのアルキルエステルとの実質的に等モルの混合物;
等を、グリコリド、グリコール酸又はグリコール酸アルキルエステルと適宜組み合わせて共重合する方法を挙げることができる。
上記(3)の開環重合の具体的方法としては、グリコリドを少量の触媒(例えば、有機カルボン酸スズ、ハロゲン化スズ、ハロゲン化アンチモン等のカチオン触媒)の存在下で約120℃〜約250℃の温度に加熱して行う方法が挙げられる。この開環重合は、塊状重合法又は溶液重合法によることが好ましい。
上記開環重合において、モノマーとして使用するグリコリドは、グリコール酸オリゴマーの昇華解重合法や、溶液相解重合法等によって得ることができる。
上記溶液相解重合法としては、例えば(1)グリコール酸オリゴマーと230〜450℃の範囲内の沸点を有する少なくとも1種の高沸点極性有機溶媒とを含む混合物を、常圧下または減圧下に、このオリゴマーの解重合が起こる温度に加熱して、(2)このオリゴマーの融液相の残存率(容積比)が0.5以下になるまで、このオリゴマーを溶媒に溶解させ、(3)同温度でさらに加熱を継続してこのオリゴマーを解重合させ、(4)生成した2量体環状エステル(グリコリド)を高沸点極性有機溶媒と共に留出させ、(5)留出物からグリコリドを回収する方法を挙げることができる。
上記高沸点極性有機溶媒としては、例えばジ(2−メトキシエチル)フタレート等のフタル酸ビス(アルコキシアルキルエステル)、ジエチレングリコールジベンゾエート等のアルキレングリコールジベンゾエート、ベンジルブチルフタレートやジブチルフタレート等の芳香族カルボン酸エステル、トリクレジルホスフェート等の芳香族リン酸エステル等を挙げることができる。また、高沸点極性有機溶媒と共に、必要に応じて、オリゴマーの可溶化剤として、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、テトラエチレングリコールなどを併用することができる。
〈全芳香族系液晶ポリエステル〉
全芳香族系液晶ポリエステルは、モノマーである多価カルボン酸とポリオールとが共に芳香族系の化合物である液晶性のポリエステルである。この全芳香族系液晶ポリエステルは、通常のポリエステルと同様、公知の方法で重合して得ることができる。
芳香族系の多価カルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸、3,3’−ビフェニルジカルボン酸、4,4’−メチレンジ安息香酸、ジフェン酸などを挙げることができる。これらは1種または2種以上を混合して用いることができる。
芳香族系のポリオールとしては、ヒドロキノン、メチルヒドロキノン、4,4’−ジヒドロキシジフェニル、レゾルシノール、フェニルヒドロキノン、3,4’−ビスフェノールA等を挙げることができる。これらは1種または2種以上を混合して用いることができる。
また、全芳香族系液晶ポリエステルは、ヒドロキシ安息香酸、ヒドロキシナフトエ酸等のヒドロキシ基及びカルボキシル基を有する芳香族化合物等を重合することにより、または上記芳香族系の多価カルボン酸及び芳香族系のポリオールを共重合することによっても得ることができる。
〈EVOH〉
以下、本発明の多層構造体のガスバリア性樹脂として好適に用いられるEVOHについて詳説する。
A層の樹脂組成物に含まれるEVOHは、主構造単位として、エチレン単位及びビニルアルコール単位を有する。なお、このEVOHとしては、エチレン単位及びビニルアルコール単位以外に、他の構造単位を1種類又は複数種含んでいてもよい。
このEVOHは、通常、エチレンとビニルエステルとを重合し、得られるエチレン−ビニルエステル共重合体をケン化して得られる。
EVOHのエチレン単位含有量(すなわち、EVOH中の単量体単位の総数に対するエチレン単位の数の割合)の下限としては、3モル%が好ましく、10モル%がより好ましく、20モル%がさらに好ましく、25モル%が特に好ましい。一方、EVOHのエチレン単位含有量の上限としては、70モル%が好ましく、60モル%がより好ましく、55モル%がさらに好ましく、50モル%が特に好ましい。EVOHのエチレン単位含有量が上記下限より小さいと、多層構造体の耐水性、耐熱水性、及び高湿度下でのガスバリア性が低下するおそれや、多層構造体の溶融成形性が悪化するおそれがある。逆に、EVOHのエチレン単位含有量が上記上限を超えると、当該多層構造体のガスバリア性が低下するおそれがある。
EVOHのケン化度(すなわち、EVOH中のビニルアルコール単位及びビニルエステル単位の総数に対するビニルアルコール単位の数の割合)の下限としては、80モル%が好ましく、95モル%がより好ましく、99モル%が特に好ましい。一方、EVOHのケン化度の上限としては99.99モル%が好ましい。EVOHのケン化度が上記下限より小さいと、溶融成形性が低下するおそれがあり、加えて当該多層構造体のガスバリア性が低下するおそれや、耐着色性や耐湿性が不満足なものとなるおそれがある。逆に、EVOHのケン化度が上記上限を超えると、EVOHの製造コストの増加に対するガスバリア性等の上昇もそれほど期待できない。かかるEVOHは単独で用いることも可能であるが、ケン化度が99モル%を超えるEVOHとブレンドして用いる実施形態も好適である。
EVOHの1,2−グリコール結合構造単位の含有量G(モル%)が下記式(2)を満たし、かつ固有粘度が0.05L/g以上0.2L/g以下が好ましい。下記式(2)中EはEVOH中のエチレン単位含有量(モル%)(但し、E≦64(モル%))である。
G≦1.58−0.0244×E ・・・(2)
A層の樹脂組成物がこのような1,2−グリコール結合構造単位の含有量G及び固有粘度を有するEVOHを含むことによって、得られる多層構造体のガスバリア性の湿度依存性が小さくなるという特性が発揮されると共に、良好な透明性及び光沢を有し、また他の熱可塑性樹脂との積層も容易になる。従って、当該多層構造体の食品包装用等の材料としての適性を向上することができる。なお、1,2−グリコール結合構造単位の含有量GはS.Aniyaら(Analytical Science Vol.1,91(1985))に記載された方法に準じて、EVOH試料をジメチルスルホキシド溶液とし、温度90℃における核磁気共鳴法によって測定することができる。
EVOHは、上記構造単位(I)及び(II)からなる群より選ばれる少なくとも1種を有することが好ましい。上記構造単位(I)又は(II)の全構造単位に対する含有量の下限としては、0.5モル%が好ましく、1モル%がより好ましく、1.5モル%がさらに好ましい。一方上記構造単位(I)又は(II)の含有量の上限としては、30モル%が好ましく、15モル%がより好ましく、10モル%がさらに好ましい。A層の樹脂組成物が上記(I)又は(II)に示す構造単位を上記範囲の割合で有することによって、A層を構成する樹脂組成物の柔軟性及び加工特性が向上する結果、当該多層構造体の延伸性及び溶融成形性を向上することができる。
上記構造単位(I)及び(II)において、上記炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基としてはアルキル基、アルケニル基等が挙げられ、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基としてはシクロアルキル基、シクロアルケニル基等が挙げられ、炭素数6〜10の芳香族炭化水素基としてはフェニル基等が挙げられる。
上記構造単位(I)において、上記R、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、メチル基、エチル基、水酸基、ヒドロキシメチル基又はヒドロキシエチル基であることが好ましく、これらの中でも、それぞれ独立に水素原子、メチル基、水酸基又はヒドロキシメチル基であることがさらに好ましい。そのようなR、R及びRであることによって、当該多層構造体の延伸性及び溶融成形性をさらに向上させることができる。
EVOH中に上記構造単位(I)を含有させる方法については、特に限定されないが、例えば、上記エチレンとビニルエステルとの重合において、構造単位(I)に誘導されるモノマーを共重合させる方法などが挙げられる。この構造単位(I)に誘導されるモノマーとしては、プロピレン、ブチレン、ペンテン、ヘキセンなどのアルケン;3−ヒドロキシ−1−プロペン、3−アシロキシ−1−プロペン、3−アシロキシ−1−ブテン、4−アシロキシ−1−ブテン、3,4−ジアシロキシ−1−ブテン、3−アシロキシ−4−ヒドロキシ−1−ブテン、4−アシロキシ−3−ヒドロキシ−1−ブテン、3−アシロキシ−4−メチル−1−ブテン、4−アシロキシ−2−メチル−1−ブテン、4−アシロキシ−3−メチル−1−ブテン、3,4−ジアシロキシ−2−メチル−1−ブテン、4−ヒドロキシ−1−ペンテン、5−ヒドロキシ−1−ペンテン、4,5−ジヒドロキシ−1−ペンテン、4−アシロキシ−1−ペンテン、5−アシロキシ−1−ペンテン、4,5−ジアシロキシ−1−ペンテン、4−ヒドロキシ−3−メチル−1−ペンテン、5−ヒドロキシ−3−メチル−1−ペンテン、4,5−ジヒドロキシ−3−メチル−1−ペンテン、5,6−ジヒドロキシ−1−ヘキセン、4−ヒドロキシ−1−ヘキセン、5−ヒドロキシ−1−ヘキセン、6−ヒドロキシ−1−ヘキセン、4−アシロキシ−1−ヘキセン、5−アシロキシ−1−ヘキセン、6−アシロキシ−1−ヘキセン、5,6−ジアシロキシ−1−ヘキセンなどの水酸基やエステル基を有するアルケンが挙げられる。その中で、共重合反応性、及び得られる多層構造体のガスバリア性の観点からは、プロピレン、3−アシロキシ−1−プロペン、3−アシロキシ−1−ブテン、4−アシロキシ−1−ブテン、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンが好ましい。具体的には、その中でも、プロピレン、3−アセトキシ−1−プロペン、3−アセトキシ−1−ブテン、4−アセトキシ−1−ブテン、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンが好ましく、その中でも、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンが特に好ましい。エステルを有するアルケンの場合は、ケン化反応の際に、上記構造単位(I)に誘導される。
上記構造単位(II)において、R及びRは共に水素原子であることが好ましい。特に、R及びRが共に水素原子であり、上記R及びRのうちの一方が炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、他方が水素原子であることがより好ましい。この脂肪族炭化水素基は、アルキル基又はアルケニル基が好ましい。当該多層構造体のガスバリア性を特に重視する観点からは、R及びRのうちの一方がメチル基又はエチル基、他方が水素原子であることが特に好ましい。また上記R及びRのうちの一方が(CHOHで表される置換基(但し、hは1〜8の整数)、他方が水素原子であることも特に好ましい。この(CHOHで表される置換基において、hは、1〜4の整数であることが好ましく、1又は2であることがより好ましく、1であることが特に好ましい。
EVOH中に上記構造単位(II)を含有させる方法については、特に限定されないが、ケン化反応によって得られたEVOHに一価エポキシ化合物を反応させることにより含有させる方法などが用いられる。一価エポキシ化合物としては、下記式(III)〜(IX)で示される化合物が好適に用いられる。
Figure 2012250356
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上記式(III)〜(IX)中、R、R、R10、R11及びR12は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基(アルキル基又はアルケニル基など)、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基(シクロアルキル基又はシクロアルケニル基など)又は炭素数6〜10の脂肪族炭化水素基(フェニル基など)を表す。また、i、j、k、p及びqは、1〜8の整数を表す。
上記式(III)で表される一価エポキシ化合物としては、例えばエポキシエタン(エチレンオキサイド)、エポキシプロパン、1,2−エポキシブタン、2,3−エポキシブタン、3−メチル−1,2−エポキシブタン、1,2−エポキシペンタン、2,3−エポキシペンタン、3−メチル−1,2−エポキシペンタン、4−メチル−1,2−エポキシペンタン、4−メチル−2,3−エポキシペンタン、3−エチル−1,2−エポキシペンタン、1,2−エポキシヘキサン、2,3−エポキシヘキサン、3,4−エポキシヘキサン、3−メチル−1,2−エポキシヘキサン、4−メチル−1,2−エポキシヘキサン、5−メチル−1,2−エポキシヘキサン、3−エチル−1,2−エポキシヘキサン、3−プロピル−1,2−エポキシヘキサン、4−エチル−1,2−エポキシヘキサン、5−メチル−1,2−エポキシヘキサン、4−メチル−2,3−エポキシヘキサン、4−エチル−2,3−エポキシヘキサン、2−メチル−3,4−エポキシヘキサン、2,5−ジメチル−3,4−エポキシヘキサン、3−メチル−1,2−エポキシヘプタン、4−メチル−1,2−エポキシヘプタン、5−メチル−1,2−エポキシヘプタン、6−メチル−1,2−エポキシヘプタン、3−エチル−1,2−エポキシヘプタン、3−プロピル−1,2−エポキシヘプタン、3−ブチル−1,2−エポキシヘプタン、4−エチル−1,2−エポキシヘプタン、4−プロピル−1,2−エポキシヘプタン、5−エチル−1,2−エポキシヘプタン、4−メチル−2,3−エポキシヘプタン、4−エチル−2,3−エポキシヘプタン、4−プロピル−2,3−エポキシヘプタン、2−メチル−3,4−エポキシヘプタン、5−メチル−3,4−エポキシヘプタン、5−エチル−3,4−エポキシヘプタン、2,5−ジメチル−3,4−エポキシヘプタン、2−メチル−5−エチル−3,4−エポキシヘプタン、1,2−エポキシヘプタン、2,3−エポキシヘプタン、3,4−エポキシヘプタン、1,2−エポキシオクタン、2,3−エポキシオクタン、3,4−エポキシオクタン、4,5−エポキシオクタン、1,2−エポキシノナン、2,3−エポキシノナン、3,4−エポキシノナン、4,5−エポキシノナン、1,2−エポキシデカン、2,3−エポキシデカン、3,4−エポキシデカン、4,5−エポキシデカン、5,6−エポキシデカン、1,2−エポキシウンデカン、2,3−エポキシウンデカン、3,4−エポキシウンデカン、4,5−エポキシウンデカン、5,6−エポキシウンデカン、1,2−エポキシドデカン、2,3−エポキシドデカン、3,4−エポキシドデカン、4,5−エポキシドデカン、5,6−エポキシドデカン、6,7−エポキシドデカン、エポキシエチルベンゼン、1−フェニル−1,2−プロパン、3−フェニル−1,2−エポキシプロパン、1−フェニル−1,2−エポキシブタン、3−フェニル−1,2−エポキシペンタン、4−フェニル−1,2−エポキシペンタン、5−フェニル−1,2−エポキシペンタン、1−フェニル−1,2−エポキシヘキサン、3−フェニル−1,2−エポキシヘキサン、4−フェニル−1,2−エポキシヘキサン、5−フェニル−1,2−エポキシヘキサン、6−フェニル−1,2−エポキシヘキサン等が挙げられる。
上記式(IV)で表される一価エポキシ化合物としては、例えばメチルグリシジルエーテル、エチルグリシジルエーテル、n−プロピルグリシジルエーテル、イソプロピルグリシジルエーテル、n−ブチルグリシジルエーテル、イソブチルグリシジルエーテル、tert−ブチルグリシジルエーテル、1,2−エポキシ−3−ペンチルオキシプロパン、1,2−エポキシ−3−ヘキシルオキシプロパン、1,2−エポキシ−3−ヘプチルオキシプロパン、1,2−エポキシ−4−フェノキシブタン、1,2−エポキシ−4−ベンジルオキシブタン、1,2−エポキシ−5−メトキシペンタン、1,2−エポキシ−5−エトキシペンタン、1,2−エポキシ−5−プロポキシペンタン、1,2−エポキシ−5−ブトキシペンタン、1,2−エポキシ−5−ペンチルオキシペンタン、1,2−エポキシ−5−ヘキシルオキシペンタン、1,2−エポキシ−5−フェノキシペンタン、1,2−エポキシ−6−メトキシヘキサン、1,2−エポキシ−6−エトキシヘキサン、1,2−エポキシ−6−プロポキシヘキサン、1,2−エポキシ−6−ブトキシヘキサン、1,2−エポキシ−6−ヘプチルオキシヘキサン、1,2−エポキシ−7−メトキシヘプタン、1,2−エポキシ−7−エトキシヘプタン、1,2−エポキシ−7−プロポキシヘプタン、1,2−エポキシ−7−ブトキシヘプタン、1,2−エポキシ−8−メトキシオクタン、1,2−エポキシ−8−エトキシオクタン、1,2−エポキシ−8−ブトキシオクタン、グリシドール、3,4−エポキシ−1−ブタノール、4,5−エポキシ−1−ペンタノール、5,6−エポキシ−1−ヘキサノール、6,7−エポキシ−1−ヘプタノール、7,8−エポキシ−1−オクタノール、8,9−エポキシ−1−ノナノール、9,10−エポキシ−1−デカノール、10,11−エポキシ−1−ウンデカノール等が挙げられる。
上記式(V)で表される一価エポキシ化合物としては、例えばエチレングリコールモノグリシジルエーテル、プロパンジオールモノグリシジルエーテル、ブタンジオールモノグリシジルエーテル、ペンタンジオールモノグリシジルエーテル、ヘキサンジオールモノグリシジルエーテル、ヘプタンジオールモノグリシジルエーテル、オクタンジオールモノグリシジルエーテル等が挙げられる。
上記式(VI)で表される一価エポキシ化合物としては、例えば3−(2,3−エポキシ)プロポキシ−1−プロペン、4−(2,3−エポキシ)プロポキシ−1−ブテン、5−(2,3−エポキシ)プロポキシ−1−ペンテン、6−(2,3−エポキシ)プロポキシ−1−ヘキセン、7−(2,3−エポキシ)プロポキシ−1−ヘプテン、8−(2,3−エポキシ)プロポキシ−1−オクテン等が挙げられる。
上記式(VII)で表される一価エポキシ化合物としては、例えば3,4−エポキシ−2−ブタノール、2,3−エポキシ−1−ブタノール、3,4−エポキシ−2−ペンタノール、2,3−エポキシ−1−ペンタノール、1,2−エポキシ−3−ペンタノール、2,3−エポキシ−4−メチル−1−ペンタノール、2,3−エポキシ−4,4−ジメチル−1−ペンタノール、2,3−エポキシ−1−ヘキサノール、3,4−エポキシ−2−ヘキサノール、4,5−エポキシ−3−ヘキサノール、1,2−エポキシ−3−ヘキサノール、2,3−エポキシ−4−メチル−1−ヘキサノール、2,3−エポキシ−4−エチル−1−ヘキサノール、2,3−エポキシ−4,4−ジメチル−1−ヘキサノール、2,3−エポキシ−4,4−ジエチル−1−ヘキサノール、2,3−エポキシ−4−メチル−4−エチル−1−ヘキサノール、3,4−エポキシ−5−メチル−2−ヘキサノール、3,4−エポキシ−5,5−ジメチル−2−ヘキサノール、3,4−エポキシ−2−ヘプタノール、2,3−エポキシ−1−ヘプタノール、4,5−エポキシ−3−ヘプタノール、2,3−エポキシ−4−ヘプタノール、1,2−エポキシ−3−ヘプタノール、2,3−エポキシ−1−オクタノール、3,4−エポキシ−2−オクタノール、4,5−エポキシ−3−オクタノール、5,6−エポキシ−4−オクタノール、2,3−エポキシ−4−オクタノール、1,2−エポキシ−3−オクタノール、2,3−エポキシ−1−ノナノール、3,4−エポキシ−2−ノナノール、4,5−エポキシ−3−ノナノール、5,6−エポキシ−4−ノナノール、3,4−エポキシ−5−ノナノール、2,3−エポキシ−4−ノナノール、1,2−エポキシ−3−ノナノール、2,3−エポキシ−1−デカノール、3,4−エポキシ−2−デカノール、4,5−エポキシ−3−デカノール、5,6−エポキシ−4−デカノール、6,7−エポキシ−5−デカノール、3,4−エポキシ−5−デカノール、2,3−エポキシ−4−デカノール、1,2−エポキシ−3−デカノール等が挙げられる。
上記式(VIII)で表される一価エポキシ化合物としては、例えば1,2−エポキシシクロペンタン、1,2−エポキシシクロヘキサン、1,2−エポキシシクロヘプタン、1,2−エポキシシクロオクタン、1,2−エポキシシクロノナン、1,2−エポキシシクロデカン、1,2−エポキシシクロウンデカン、1,2−エポキシシクロドデカン等が挙げられる。
上記式(IX)で表される一価エポキシ化合物としては、例えば3,4−エポキシシクロペンテン、3,4−エポキシシクロヘキセン、3,4−エポキシシクロヘプテン、3,4−エポキシシクロオクテン、3,4−エポキシシクロノネン、1,2−エポキシシクロデセン、1,2−エポキシシクロウンデセン、1,2−エポキシシクロドデセン等が挙げられる。
上記一価エポキシ化合物の中では炭素数が2〜8のエポキシ化合物が好ましい。特に、化合物の取り扱いの容易さ、及びEVOHとの反応性の観点から、一価エポキシ化合物の炭素数としては、2〜6がより好ましく、2〜4がさらに好ましい。また一価エポキシ化合物は上記式のうち式(III)又は(IV)で表される化合物であることが特に好ましい。具体的には、EVOHとの反応性及び得られる多層構造体のガスバリア性の観点からは、1,2−エポキシブタン、2,3−エポキシブタン、エポキシプロパン、エポキシエタン及びグリシドールが好ましく、その中でもエポキシプロパン及びグリシドールが特に好ましい。食品包装用途、飲料包装用途、医薬品包装用途などの衛生性を要求される用途においては、エポキシ化合物として、1,2−エポキシブタン、2,3−エポキシブタン、エポキシプロパン、又はエポキシエタンを用いることが好ましく、エポキシプロパンを用いることが特に好ましい。
次に、EVOHの製造方法を具体的に説明する。エチレンとビニルエステルとの共重合方法としては、特に限定されず、例えば溶液重合、懸濁重合、乳化重合、バルク重合のいずれであってもよい。また、連続式、回分式のいずれであってもよい。
重合に用いられるビニルエステルとしては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニルなどの脂肪酸ビニルなどを用いることができる。
上記重合において、共重合成分として、上記成分以外にも共重合し得る単量体、例えば上記以外のアルケン;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸等の不飽和酸又はその無水物、塩、又はモノ若しくはジアルキルエステル等;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル;アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド;ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸又はその塩;アルキルビニルエーテル類、ビニルケトン、N−ビニルピロリドン、塩化ビニル、塩化ビニリデンなどを少量共重合させることもできる。また、共重合成分として、ビニルシラン化合物を0.0002モル%以上0.2モル%以下含有することができる。ここで、ビニルシラン化合物としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリ(β−メトキシ−エトキシ)シラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルメトキシシランなどが挙げられる。この中で、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランが好適に用いられる。
重合に用いられる溶媒としては、エチレン、ビニルエステル及びエチレン−ビニルエステル共重合体を溶解し得る有機溶剤であれば特に限定されない。そのような溶媒として、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、n−ブタノール、tert−ブタノール等のアルコール;ジメチルスルホキシドなどを用いることができる。その中で、反応後の除去分離が容易である点で、メタノールが特に好ましい。
重合に用いられる触媒としては、例えば2,2−アゾビスイソブチロニトリル、2,2−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2−アゾビス−(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2−アゾビス−(2−シクロプロピルプロピオニトリル)等のアゾニトリル系開始剤;イソブチリルパーオキサイド、クミルパーオキシネオデカノエイト、ジイソプロピルパーオキシカーボネート、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシネオデカノエイト、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物系開始剤などを用いることができる。
重合温度としては、20〜90℃であり、好ましくは40〜70℃である。重合時間としては、2〜15時間であり、好ましくは3〜11時間である。重合率は、仕込みのビニルエステルに対して10〜90%であり、好ましくは30〜80%である。重合後の溶液中の樹脂分は、5〜85%であり、好ましくは20〜70%である。
所定時間の重合後又は所定の重合率に達した後、必要に応じて重合禁止剤を添加し、未反応のエチレンガスを蒸発除去した後、未反応のビニルエステルを除去する。未反応のビニルエステルを除去する方法としては、例えば、ラシヒリングを充填した塔の上部から上記共重合体溶液を一定速度で連続的に供給し、塔下部よりメタノール等の有機溶剤蒸気を吹き込み、塔頂部よりメタノール等の有機溶剤と未反応ビニルエステルの混合蒸気を留出させ、塔底部より未反応のビニルエステルを除去した共重合体溶液を取り出す方法などが採用される。
次に、上記共重合体溶液にアルカリ触媒を添加し、上記共重合体をケン化する。ケン化方法は、連続式、回分式のいずれも可能である。このアルカリ触媒としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アルカリ金属アルコラートなどが用いられる。
ケン化の条件としては、例えば回分式の場合、共重合体溶液濃度が10〜50%、反応温度が30〜65℃、触媒使用量がビニルエステル構造単位1モル当たり0.02〜1.0モル、ケン化時間が1〜6時間である。
ケン化反応後のEVOHは、アルカリ触媒、酢酸ナトリウムや酢酸カリウムなどの副生塩類、その他不純物を含有するため、これらを必要に応じて中和、洗浄することにより除去することが好ましい。ここで、ケン化反応後のEVOHを、イオン交換水等の金属イオン、塩化物イオン等をほとんど含まない水で洗浄する際、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム等を一部残存させてもよい。
A層を構成する樹脂組成物に、実施態様に応じ、リン酸化合物、カルボン酸及びホウ素化合物から選ばれる1種又は複数種の化合物を含有させるとよい。かかるリン酸化合物、カルボン酸又はホウ素化合物をA層の樹脂組成物中に含有することによって、当該多層構造体の各種性能を向上させることができる。
具体的には、EVOH等を含むA層の樹脂組成物中にリン酸化合物を含有することで、当該多層構造体の溶融成形時の熱安定性を改善することができる。リン酸化合物としては、特に限定されず、例えばリン酸、亜リン酸等の各種の酸やその塩等が挙げられる。リン酸塩としては、例えば第1リン酸塩、第2リン酸塩、第3リン酸塩のいずれの形で含まれていてもよく、その対カチオン種としても特に限定されないが、アルカリ金属イオン又はアルカリ土類金属イオンが好ましい。特に、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素ナトリウム又はリン酸水素カリウムが、熱安定性改善効果が高い点で好ましい。
リン酸化合物の含有量(A層の乾燥樹脂組成物中のリン酸化合物のリン酸根換算含有量)の下限としては、1ppmが好ましく、10ppmがより好ましく、30ppmがさらに好ましい。一方、リン酸化合物の含有量の上限としては、10,000ppmが好ましく、1,000ppmがより好ましく、300ppmがさらに好ましい。リン酸化合物の含有量が上記下限より小さいと、溶融成形時の着色が激しくなるおそれがある。特に、熱履歴を重ねるときにその傾向が顕著であるために、前記樹脂組成物ペレットを成形して得られた成形物が回収性に乏しいものとなるおそれがある。逆に、リン酸化合物の含有量が上記上限を超えると、成形物のゲル・ブツが発生し易くなるおそれがある。
また、EVOH等を含むA層の樹脂組成物中にカルボン酸を含有することで、樹脂組成物のpHを制御し、ゲル化を防止して熱安定性を改善する効果がある。カルボン酸としては、コストなどの観点から酢酸又は乳酸が好ましい。
カルボン酸の含有量(A層の乾燥樹脂組成物中のカルボン酸の含有量)の下限としては1ppmが好ましく、10ppmがより好ましく、50ppmがさらに好ましい。一方、カルボン酸の含有量の上限としては、10,000ppmが好ましく、1,000ppmがより好ましく、500ppmがさらに好ましい。このカルボン酸の含有量が上記下限より小さいと、溶融成形時に着色が発生するおそれがある。逆に、カルボン酸の含有量が上記上限を超えると、層間接着性が不充分となるおそれがある。
さらに、EVOH等を含むA層の樹脂組成物中にホウ素化合物を含有することで、熱安定性向上の効果がある。詳細には、EVOHからなる樹脂組成物にホウ素化合物を添加した場合、EVOHとホウ素化合物との間にキレート化合物が生成すると考えられ、かかるEVOHを用いることによって、通常のEVOHよりも熱安定性の改善、機械的性質を向上させることが可能である。ホウ素化合物としては、特に限定されるものではなく、例えばホウ酸類、ホウ酸エステル、ホウ酸塩、水素化ホウ素類等が挙げられる。具体的には、ホウ酸類としては、例えばオルトホウ酸(HBO)、メタホウ酸、四ホウ酸等が挙げられ、ホウ酸エステルとしては、例えばホウ酸トリエチル、ホウ酸トリメチルなどが挙げられ、ホウ酸塩としては、上記各種ホウ酸類のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、ホウ砂などが挙げられる。これらの中でもオルトホウ酸が好ましい。
ホウ素化合物の含有量(A層の乾燥樹脂組成物中のホウ素化合物のホウ素換算含有量)の下限としては、1ppmが好ましく、10ppmがより好ましく、50ppmがさらに好ましい。一方、ホウ素化合物の含有量の上限としては、2,000ppmが好ましく、1,000ppmがより好ましく、500ppmがさらに好ましい。ホウ素化合物の含有量が上記下限より小さいと、ホウ素化合物を添加することによる熱安定性の改善効果が得られないおそれがある。逆に、ホウ素化合物の含有量が上記上限を超えると、ゲル化しやすく、成形不良となるおそれがある。
上記リン酸化合物、カルボン酸又はホウ素化合物をEVOHを含む樹脂組成物に含有させる方法は、特に限定されるものではなく、例えばEVOHを含む樹脂組成物のペレット等を調製する際に樹脂組成物に添加して混練する方法が好適に採用される。この樹脂組成物に添加する方法も、特に限定されないが、乾燥粉末として添加する方法、溶媒を含浸させたペースト状で添加する方法、液体に懸濁させた状態で添加する方法、溶媒に溶解させて溶液として添加する方法などが例示される。これらの中で均質に分散させる観点から、溶媒に溶解させて溶液として添加する方法が好ましい。これらの方法に用いられる溶媒は特に限定されないが、添加剤の溶解性、コスト的メリット、取り扱いの容易性、作業環境の安全性等の観点から水が好適に用いられる。これらの添加の際、後述の金属塩、EVOH以外の樹脂やその他の添加剤などを同時に添加することができる。
また、リン酸化合物、カルボン酸、ホウ素化合物を含有させる方法として、それらの物質が溶解した溶液に、上記ケン化の後押出機等により得られたペレット又はストランドを浸漬させる方法も、均質に分散させることができる点で好ましい。この方法においても、溶媒としては、上記と同様の理由で、水が好適に用いられる。この溶液に後述する金属塩を溶解させることで、リン酸化合物等と同時に金属塩を含有させることができる。
A層の樹脂組成物は、分子量1,000以下の共役二重結合を有する化合物を含有することが好ましい。このような化合物を含有することによって、A層の樹脂組成物の色相が改善されるので、外観の良好な多層構造体とすることができる。このような化合物としては、例えば少なくとも2個の炭素−炭素二重結合と1個の炭素−炭素単結合とが交互に繋がってなる構造の共役ジエン化合物、3個の炭素−炭素二重結合と2個の炭素−炭素単結合とが交互に繋がってなる構造のトリエン化合物、それ以上の数の炭素−炭素二重結合と炭素−炭素単結合とが交互に繋がってなる構造の共役ポリエン化合物、2,4,6−オクタトリエンのような共役トリエン化合物等が挙げられる。また、この共役二重結合を有する化合物には、共役二重結合が1分子中に独立して複数組あってもよく、例えば桐油のように共役トリエンが同一分子内に3個ある化合物も含まれる。
上記共役二重結合を有する化合物は、例えばカルボキシル基及びその塩、水酸基、エステル基、カルボニル基、エーテル基、アミノ基、イミノ基、アミド基、シアノ基、ジアゾ基、ニトロ基、スルホン基、スルホキシド基、スルフィド基、チオール基、スルホン酸基及びその塩、リン酸基及びその塩、フェニル基、ハロゲン原子、二重結合、三重結合等の他の各種官能基を有していてもよい。かかる官能基は、共役二重結合中の炭素原子に直接結合されていてもよく、共役二重結合から離れた位置に結合されていてもよい。官能基中の多重結合は上記共役二重結合と共役可能な位置にあってもよく、例えばフェニル基を有する1−フェニルブタジエンやカルボキシル基を有するソルビン酸などもここでいう共役二重結合を有する化合物に含まれる。この化合物の具体例としては、例えば2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン、1,3−ジフェニル−1−ブテン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、4−メチル−1,3−ペンタジエン、1−フェニル−1,3−ブタジエン、ソルビン酸、ミルセン等を挙げることができる。
この共役二重結合を有する化合物における共役二重結合とは、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、ソルビン酸のような脂肪族同士の共役二重結合のみならず、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン、1,3−ジフェニル−1−ブテンのような脂肪族と芳香族との共役二重結合も含まれる。但し、外観がより優れた多層構造体を得る観点からは、上記脂肪族同士の共役二重結合を含む化合物が好ましく、またカルボキシル基及びその塩、水酸基等の極性基を有する共役二重結合を含む化合物も好ましい。さらに極性基を有しかつ脂肪族同士の共役二重結合を含む化合物が特に好ましい。
この共役二重結合を有する化合物の分子量としては、1,000以下が好ましい。分子量が1,000を超えると、多層構造体の表面平滑性、押出安定性等が悪化するおそれがある。この分子量が1,000以下の共役二重結合を有する化合物の含有量の下限としては、奏される効果の点から、0.1ppmが好ましく、1ppmがより好ましく、3ppmがさらに好ましく、5ppm以上が特に好ましい。一方、この化合物の含有量の上限としては、奏される効果の点から、3,000ppmが好ましく、2,000ppmがより好ましく、1,500ppmがさらに好ましく、1,000ppmが特に好ましい。
上記共役二重結合を有する化合物の添加方法としては、例えばEVOHの場合は、上述のように重合した後、かつ上記ケン化の前に添加するのが、表面平滑性と押出安定性を改善する点で好ましい。この理由については必ずしも明らかではないが、共役二重結合を有する化合物が、ケン化の前及び/又はケン化反応中のEVOH等の変質を防止する作用を有することに基づくものと考えられる。
A層の樹脂組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、上記添加物以外に、ガスバリア性樹脂以外の他の樹脂、又は熱安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、着色剤、フィラーなど種々の添加剤を含んでいてもよい。A層の樹脂組成物が上記添加物以外の添加剤を含む場合、その量は樹脂組成物の総量に対して50質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがよりこのましく、10質量%以下であることが特に好ましい。
〈B層〉
B層は、熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物からなる層である。当該多層構造体は、熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物からなるB層を積層することで、延伸性及び熱成形性を向上することができる。また、当該多層構造体は、このB層とA層との層間接着性を強固にすることができるので、耐久性が高く、変形させて使用してもガスバリア性や延伸性を維持できる。
上記熱可塑性樹脂としては、ガラス転移温度又は融点まで加熱することにより軟化して塑性を示す樹脂であれば特に限定されないが、熱可塑性ポリウレタン(以下、「TPU」ともいう。)、ポリアミド、上記ガスバリア性樹脂の有する基と反応し得る官能基を分子内に有する樹脂(以下、単に「官能基含有樹脂」ともいう。)及びエラストマーからなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂であるとよい。当該多層構造体によれば、熱可塑性樹脂として上記樹脂を用いることで、熱成形性や層間接着性等をさらに高めることができる。
〈TPU〉
TPUは、高分子ポリオール、有機ポリイソシアネート、鎖伸長剤等から構成される。この高分子ポリオールは、複数の水酸基を有する物質であり、重縮合、付加重合(例えば開環重合)、重付加などによって得られる。高分子ポリオールとしては、例えばポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール又はこれらの共縮合物(例えばポリエステル−エーテル−ポリオール)などが挙げられる。これらの高分子ポリオールは1種類を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。これらの中で、A層中のガスバリア性樹脂の水酸基等と反応するカルボニル基を有し、得られる多層構造体の層間接着性が高くなることから、ポリエステルポリオール又はポリカーボネートポリオールが好ましく、ポリエステルポリオールが特に好ましい。
上記ポリエステルポリオールは、例えば、常法に従い、ジカルボン酸、そのエステル、その無水物等のエステル形成性誘導体と低分子ポリオールとを直接エステル化反応若しくはエステル交換反応によって縮合させるか、又はラクトンを開環重合することにより製造することができる。
ポリエステルポリオールを構成するジカルボン酸としては、特に限定されず、ポリエステルの製造において一般的に使用されるものを用いることができる。このジカルボン酸としては、具体例にはコハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、メチルコハク酸、2−メチルグルタル酸、トリメチルアジピン酸、2−メチルオクタン二酸、3,8−ジメチルデカン二酸、3,7−ジメチルデカン二酸などの炭素数4〜12の脂肪族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸;テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸などが挙げられる。これらのジカルボン酸は、1種類を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。この中でも、A層中のガスバリア性樹脂の水酸基等とより反応し易いカルボニル基を有し、当該多層構造体の層間接着性がより高くなる点で、炭素数が6〜12の脂肪族ジカルボン酸が好ましく、アジピン酸、アゼライン酸又はセバシン酸が特に好ましい。
ポリエステルポリオールを構成する低分子ポリオールとしては、特に限定されず、ポリエステルの製造において一般的に使用されているものを用いることができる。この低分子ポリオールとしては、具体例にはエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、2,7−ジメチル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、2−メチル−1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオールなどの炭素数2〜15の脂肪族ジオール;1,4−シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、シクロオクタンジメタノール、ジメチルシクロオクタンジメタノールなどの脂環式ジオール;1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼンなどの芳香族2価アルコールなどが挙げられる。これらの低分子ポリオールは、1種類を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。この中でも、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、2,7−ジメチル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、2,8−ジメチル−1,9−ノナンジオールなどの側鎖にメチル基を有する炭素数5〜12の脂肪族ジオールが、ポリエステルポリオール中のエステル基とA層中のガスバリア性樹脂の水酸基等との反応が起こり易く、得られる多層構造体の層間接着性がより高くなる点で好ましい。また、低分子ポリオールとして2種以上を混合して用いる場合は、かかる側鎖にメチル基を有する炭素数5〜12の脂肪族ジオールを低分子ポリオールの全量に対して50モル%以上の割合で用いることがより好ましい。さらに、上記低分子ポリオールと共に、少量の3官能以上の低分子ポリオールを併用することができる。3官能以上の低分子ポリオールとしては、例えばトリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、グリセリン、1,2,6−ヘキサントリオールなどが挙げられる。
上記ラクトンとしては、例えばε−カプロラクトン、β−メチル−δ−バレロラクトンなどを挙げることができる。
ポリエーテルポリオールとしては、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリ(メチルテトラメチレン)グリコールなどが挙げられる。これらのポリエーテルポリオールは、1種類を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。この中でもポリテトラメチレングリコールが好ましい。
ポリカーボネートポリオールとしては、例えば1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、1,10−デカンジオールなどの炭素数2〜12の脂肪族ジオール又はこれらの混合物に炭酸ジフェニル若しくはホスゲンなどを作用させて縮重合して得られるものが好適に用いられる。
上記高分子ポリオールの数平均分子量の下限としては、500が好ましく、600がより好ましく、700がさらに好ましい。一方、高分子ポリオールの数平均分子量の上限としては、8,000が好ましく、5,000がより好ましく、3,000がさらに好ましい。高分子ポリオールの数平均分子量が上記下限より小さいと、有機ポリイソシアネートとの相溶性が良すぎて得られるTPUの弾性が乏しくなるため、得られる多層構造体の延伸性などの力学的特性や熱成形性が低下するおそれがある。逆に、高分子ポリオールの数平均分子量が上記上限を超えると、有機ポリイソシアネートとの相溶性が低下して、重合過程での混合が困難になり、その結果、ゲル状物の塊の発生等により安定したTPUが得られなくなるおそれがある。なお、高分子ポリオールの数平均分子量は、JIS−K−1577に準拠して測定し、水酸基価に基づいて算出した数平均分子量である。
有機ポリイソシアネートとしては、特に限定されるものではなく、TPUの製造に一般的に使用される公知の有機ジイソシアネートが用いられる。この有機ジイソシアネートとしては、例えば4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート、3,3’−ジクロロ−4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、トルイレンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、水素化キシリレンジイソシアネートなどの脂肪族又は脂環族ジイソシアネートなどを挙げることができる。この中でも、得られる多層構造体の強度、耐屈曲性が向上できる点で、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートが好ましい。これらの有機ジイソシアネートは、1種類を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
鎖伸長剤としては、TPUの製造に一般的に使用される鎖伸長剤が使用され、イソシアネート基と反応し得る活性水素原子を分子中に2個以上有する分子量300以下の低分子化合物が好適に使用される。鎖伸長剤としては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、1,4−シクロヘキサンジオール、ビス(β−ヒドロキシエチル)テレフタレート、キシリレングリコールなどのジオールなどが挙げられる。この中でも、得られる多層構造体の延伸性及び熱成形性がさらに良好になる点で、炭素数2〜10の脂肪族ジオールが好ましく、1,4−ブタンジオールが特に好ましい。これらの鎖伸長剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
TPUの製造方法としては、上記高分子ポリオール、有機ポリイソシアネート及び鎖伸長剤を使用し、公知のウレタン化反応技術を利用して製造され、プレポリマー法及びワンショット法のいずれを用いても製造することができる。その中でも、実質的に溶剤の不存在下に溶融重合することが好ましく、特に多軸スクリュー型押出機を用いる連続溶融重合することが好ましい。
TPUにおいて、高分子ポリオールと鎖伸長剤の合計質量に対する有機ポリイソシアネートの質量の比(イソシアネート/(高分子ポリオール+鎖伸長剤))が、1.02以下であることが好ましい。該比が1.02を超えると、成形時の長期運転安定性が悪化するおそれがある。
TPUの窒素含有量は、高分子ポリオール及び有機ジイソシアネートの使用割合を適宜選択することにより決定されるが、実用的には1〜7%の範囲であることが好ましい。また、B層の樹脂組成物は、必要に応じて有機ポリイソシアネートと高分子ポリオールとの反応を促進する適当な触媒を用いてもよい。
TPUの硬度は、ショアーA硬度として50〜95が好ましく、55〜90がより好ましく、60〜85がさらに好ましい。硬度が上記範囲にあるものを用いると、機械的強度及び耐久性に優れ、且つ柔軟性に優れる積層構造体が得られるので好ましい。
〈ポリアミド〉
ポリアミドは、主鎖内にアミド基を有する重合体であり、3員環以上のラクタム、重合可能なω−アミノ酸、または二塩基酸とジアミンとの重縮合などによって得られる。ポリアミドの具体例としては、ポリカプラミド(ナイロン6)、ポリ−ω−アミノヘプタン酸(ナイロン7)、ポリ−ω−アミノノナン酸(ナイロン9)、ポリウンデカンアミド(ナイロン11)、ポリラウリルラクタム(ナイロン12)、ポリエチレンジアミンアジパミド(ナイロン26)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリオクタメチレンアジパミド(ナイロン86)、ポリデカメチレンアジパミド(ナイロン108)、あるいはカプロラクタム/ラウリルラクタム共重合体(ナイロン6/12)、カプロラクタム/ω−アミノノナン酸共重合体(ナイロン6/9)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体(ナイロン6/66)、ラウリルラクタム/ヘキサミチレンジアンモニウムアジペート共重合体(ナイロン12/66)、ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムセバケート共重合体(ナイロン66/610)、エチレンジアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体(ナイロン26/66)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムセバケート共重合体(ナイロン6/66/610)、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド(ナイロン6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド(ナイロン6T)、ヘキサメチレンイソフタルアミド/テレフタルアミド共重合体(ナイロン6I/6T)などが挙げられる。
また、これらのポリアミドにおいて、ジアミンとして、2,2,4−又は2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミンなどの置換基導入した脂肪族ジアミンや、メチレンジベンジルアミン、メタキシリレンジアミンなどの芳香族ジアミンを用いてもよく、またそれらを用いてポリアミドへの変性をしても構わない。また、ジカルボン酸として、2,2,4−又は2,4,4−トリメチルアジピン酸などの置換基導入した脂肪族ジカルボン酸や、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸のような脂環式ジカルボン酸や、フタル酸、キシリレンジカルボン酸、アルキル置換テレフタル酸、イソフタル酸、又はナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸を用いてもよく、またそれらを用いてポリアミドへの変性をしても構わない。
これらのポリアミドとしては、1種類又は複数種を用いることができる。これらのポリアミドの中では、ポリアミド中のアミド基がA層中のガスバリア性樹脂の水酸基等とより反応し易いため、当該多層構造体の層間接着性がより高くなる点で、ポリカプラミド(ナイロン6)又はヘキサメチレンイソフタルアミド/テレフタルアミド共重合体(ナイロン6I/6T)が好ましい。当該ヘキサメチレンイソフタルアミド/テレフタルアミド共重合体においては、イソフタル酸(I)単位/テレフタル酸(T)単位のモル比(I/T)が60/40〜100/0(モル比)の範囲にあることが好ましく、65/35〜90/10(モル比)の範囲にあることがより好ましい。また、ポリアミドとしては、カプロラクタム/ラウリルラクタム共重合体、すなわちナイロン6/12を主成分とするものも好ましい。当該ポリアミドに含まれる6成分(カプロラクタム成分)と12成分(ラウリルラクタム成分)の比率は特に限定されないが、上記ポリアミド全質量に対する12成分の割合が5〜60質量%であることが好ましく、5〜50質量%であることがより好ましい。また、これらのポリアミドの相対粘度は特に限定されないが、得られる多層構造体におけるA層とB層との間の接着力がさらに強くなる観点から、1.0〜4.0であることが好ましい。
また、これらのポリアミドの中では、柔軟性の観点から、脂肪族系ポリアミドが好ましい。
また、ポリアミドとしてハードセグメントにナイロン(ポリアミド部)を有するブロックコポリマーからなるポリアミド系エラストマーであることが柔軟性の観点から好ましい。典型的なポリアミド系エラストマーを下記式に示す。このエラストマーはポリアミド部とポリエーテル部を縮合させたものであることが好ましい。上記ポリアミド部がハードセグメントとなり、上記ポリエーテル部がソフトセグメントとなる。
Figure 2012250356
上記式中、pは5又は11である。l、m及びnは、任意の自然数である。
上記ポリアミド系エラストマーに使われるポリアミド部としてはナイロン6、ナイロン10、ナイロン6−6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6−12、ナイロン6−10、ナイロン6/6−6共重合体、ナイロン6−6/6−10共重合体、ナイロン6−11、ナイロン6−6/6−10/6共重合体等が挙げられる。これらの中でも柔軟性とA層との接着性の観点からナイロン6を用いたエラストマーが好ましい。
上記ポリアミド系エラストマーに使われるポリエーテル部としてはポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール等のポリアルキレングリコールを挙げることができる。
上記ポリアミド系エラストマーにおけるポリアミド部/ポリエーテル部の質量比は、特に限定されないが、例えば80/20〜20/80の範囲で任意に選ぶことができる。
ポリアミドの末端カルボキシル基量の下限としては、1μeq(当量)/gが好ましく、3μeq/gがさらに好ましく、5μeq/gがさらに好ましい。一方、この末端カルボキシル基量の上限としては、1000μeq/gが好ましく、800μeq/gがより好ましく、600μeq/gがさらに好ましい。末端カルボキシル基量を当該範囲に設定することによって、A層中のガスバリア性樹脂の水酸基等が、B層中のポリアミドのアミド基だけでなく末端カルボキシル基とも反応することにより、A層とB層とがより強固に結合することができ、当該多層構造体の層間接着性をさらに向上することができる。末端カルボキシル基量が上記下限より小さいと、当該多層構造体の層間接着性が低下するおそれがある。逆に、末端カルボキシル基量が上記上限を超えると、当該多層構造体の耐候性が悪化するおそれがある。なお、ポリアミドの末端カルボキシル基量は、ポリアミド試料をベンジルアルコールに溶解させ、指示薬にフェノールフタレインを用い、水酸化ナトリウム溶液で滴定を行うことによって定量することができる。
〈官能基含有樹脂〉
上記官能基含有樹脂は、上記ガスバリア製樹脂の有する基と反応しえる官能基を分子内に有する。このガスバリア性樹脂の有する基としては、例えば、EVOH等が有する水酸基、ポリアミド樹脂等が有するアミド基、ポリエステル樹脂等が有するエステル基等を挙げることができる。当該多層構造体は、このような官能基含有樹脂を含む樹脂組成物からなるB層を積層することで延伸性や熱成形性を向上させることができる。また、当該多層構造体においては、このB層とA層との界面において結合反応が生じ、層間接着性を強固にすることができるので、耐久性が高く、変形させて使用してもガスバリア性や延伸性を維持できる。
上記A層に含まれるガスバリア性樹脂の有する基と反応し得る官能基としては、ガスバリア性樹脂の有する基と反応し得る官能基である限り、特に限定されないが、例えば、カルボキシル基又はその無水物基、金属カルボキシレート基、ボロン酸基、水の存在下でボロン酸基に転化し得るホウ素含有基、エステル基、ウレア基、カーボネート基、エーテル基、イミノ基、アセタール基、エポキシ基、イソシアネート基などが例示される。この中で、A層とB層との層間接着性が非常に高くなり、得られる多層構造体の耐久性が特に優れる点で、カルボキシル基、金属カルボキシレート基、ボロン酸基、水の存在下でボロン酸基に転化し得るホウ素含有基、エステル基が好ましい。
上記官能基含有性樹脂としては、カルボン酸変性ポリオレフィン又はその金属塩、ボロン酸基もしくは水の存在下でボロン酸基に転化し得るホウ素含有基を有する熱可塑性樹脂、ビニルエステル系共重合体、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ブチラール系樹脂、アルキッド樹脂、ポリエチレンオキサイド樹脂、セルロース系樹脂、メラミン系樹脂、スチレン−アクリル酸共重合体、フェノール系樹脂、ユリア樹脂、メラミン−アルキッド樹脂、エポキシ樹脂、ポリイソシアネート樹脂などが挙げられる。また、これらの樹脂の共重合体や変性物も使用することができる。中でも、層間接着性が非常に高くなり、得られる多層構造体の耐久性が特に優れる点、及びその延伸性及び溶融成形性も向上する点から、カルボン酸変性ポリオレフィンもしくはその金属塩、ボロン酸基もしくは水の存在下でボロン酸基に転化し得るホウ素含有基を有する熱可塑性樹脂、又はビニルエステル系共重合体が好ましく、カルボン酸変性ポリオレフィンが特に好ましい。当該官能基含有性樹脂としては、1種類又は複数種を用いることができる。
カルボン酸変性ポリオレフィンは、分子中にカルボキシル基又はその無水物基を有するポリオレフィンである。なお、後述するカルボン酸変性されたスチレン系エラストマー等もこのカルボン酸変性ポリオレフィンに含まれる。また、カルボン酸変性ポリオレフィンの金属塩とは、分子中にカルボキシル基又はその無水物基を有するポリオレフィン又はポリオレフィン中に含有されるカルボキシル基又はその無水物基の全部又は一部が金属カルボキシレート基の形で存在しているものである。このようなカルボン酸変性ポリオレフィン又はその金属塩は1種類又は複数種を用いることができる。
上記カルボン酸変性ポリオレフィンは、例えば、オレフィン系重合体にエチレン性不飽和カルボン酸もしくはその無水物を化学的に(たとえば付加反応、グラフト反応により)結合させることにより、又はオレフィンと不飽和カルボン酸もしくはその無水物等を共重合させることなどによって得ることができる。また、カルボン酸変性ポリオレフィンの金属塩は、例えば、上記カルボン酸変性ポリオレフィンに含有されるカルボキシル基の水素イオンの全部又は一部を金属イオンで置換することによって得ることができる。
カルボン酸変性ポリオレフィンを、オレフィン系重合体にエチレン性不飽和カルボン酸又はその無水物を化学的に結合させることによって得る場合、当該オレフィン系重合体としては、ポリエチレン(低圧、中圧、高圧)、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ボリブテン、ポリスチレンなどのポリオレフィン;オレフィンと当該オレフィンと共重合し得るコモノマー(酢酸ビニル、不飽和カルボン酸エステル、共役ジエン化合物など)の共重合体、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エチルエステル共重合体、スチレンと共役ジエン化合物との共重合体などが挙げられる。この中で、得られる多層構造体において、層間接着性、延伸性及び熱成形性が特に向上する点から、直鎖状低密度ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体(酢酸ビニルの含有量5〜55質量%)、又はエチレン−アクリル酸エチルエステル共重合体(アクリル酸エチルエステルの含有量8〜35質量%)が好ましく、直鎖状低密度ポリエチレン又はエチレン−酢酸ビニル共重合体(酢酸ビニルの含有量5〜55質量%)が特に好ましい。
また、上記オレフィン系重合体と化学的に結合させるエチレン性不飽和カルボン酸又はその無水物としては、エチレン性不飽和モノカルボン酸、エチレン性不飽和ジカルボン酸又はその無水物等が挙げられる。また、そのようなカルボン酸のカルボキシル基の全部又は一部がエステル化されている化合物も用いることができ、上記重合の後に、エステル基を加水分解させることによって、カルボン酸変性ポリオレフィンを得ることができる。これらの化合物の具体例としては、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、マレイン酸モノメチルエステル、マレイン酸モノエチルエステル、マレイン酸ジエチルエステル、フマル酸モノメチルエステルなどが挙げられる。この中で、A層を構成するEVOH等の水酸基と反応し易い酸無水物基を有し、得られる多層構造体が層間接着性に優れる点で、エチレン性不飽和ジカルボン酸無水物が特に好ましく、具体的な化合物としては、無水マレイン酸が特に好ましい。
このようなエチレン性不飽和カルボン酸又はその無水物の、オレフィン系重合体への付加量又はグラフト量(変性度)の下限値としては、オレフィン系重合体に対して0.01質量%が好ましく、0.02質量%がより好ましい。一方、この付加量又はグラフト量(変性度)の上限値としては、15質量%が好ましく、10質量%がさらに好ましい。付加量又はグラフト量が上記下限より小さいと、層間接着性が低くなり、当該多層構造体の耐久性が低くなるおそれがある。逆に、付加量又はグラフト量が上記上限を超えると、樹脂組成物の着色が激しくなり、多層構造体の外観が悪化するおそれがある。
オレフィン系重合体に、エチレン性不飽和カルボン酸又はその無水物を、付加反応やグラフト反応によって化学的に結合させる方法としては、例えば溶媒(キシレンなど)、触媒(過酸化物など)の存在下でラジカル反応を行うことなどが挙げられる。
また、カルボン酸変性ポリオレフィンを、オレフィンと不飽和カルボン酸等との共重合によって得る場合、すなわち、当該カルボン酸変性ポリオレフィンが、オレフィン−不飽和カルボン酸共重合体である場合においては、用いるオレフィンは、得られる多層構造体の延伸性及び溶融成形性が向上する観点から、エチレン、プロピレン、1−ブテン等のα−オレフィンが好ましく、エチレンが特に好ましい。一方、用いる不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタアクリル酸、エタアクリル酸、マレイン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、無水マレイン酸などが挙げられる。その中でも、入手が容易である点から、アクリル酸又はメタアクリル酸が特に好ましい。また、当該オレフィン−不飽和カルボン酸共重合体は、オレフィン及び不飽和カルボン酸以外の他の単量体を共重合成分として含んでいてもよい。そのような他の単量体としては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタアクリル酸メチル、メタアクリル酸イソブチル、マレイン酸ジエチル等の不飽和カルボン酸エステル;一酸化炭素などが例示される。
このオレフィン−不飽和カルボン酸共重合体における不飽和カルボン酸単位の含有量の下限値としては、共重合体中の全構造単位に対する不飽和カルボン酸単位の含有量として2モル%が好ましく、3モル%がさらに好ましい。一方、この不飽和カルボン酸単位の含有量の上限値としては15モル%が好ましく、12モル%がさらに好ましい。不飽和カルボン酸単位の含有量が上記下限より小さいと、層間接着性が低くなり、当該多層構造体の耐久性が低くなるおそれがある。逆に、不飽和カルボン酸単位の含有量が上記上限を超えると、樹脂組成物の着色が激しくなり、多層構造体の外観が悪化するおそれがある。
このオレフィン−不飽和カルボン酸共重合体としては、オレフィンと不飽和カルボン酸又はその無水物をランダム共重合して得られる重合体が好ましく、その中でも、エチレンと不飽和カルボン酸又はその無水物をランダム共重合して得られる重合体がさらに好ましい。
上記カルボン酸変性ポリオレフィンの金属塩を構成する金属イオンとしてはリチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属イオン;マグネシウム、カルシウムなどのアルカリ土類金属イオン;亜鉛などのdブロック金属イオンなどが例示される。カルボン酸変性ポリオレフィンの金属塩における中和度、すなわち、カルボン酸変性ポリオレフィンの金属塩におけるカルボキシル基及び金属カルボキシレート基の総数に対する金属カルボキシレート基の割合は特に限定されないが、中和度の下限値としては、5モル%が好ましく、10モル%がより好ましく、30モル%がさらに好ましい。一方、この中和度の上限値としては90モル%が好ましく、80モル%がより好ましく、70モル%がさらに好ましい。中和度が上記下限より小さいと、層間接着性が低くなり、当該多層構造体の耐久性が低くなるおそれがある。逆に、中和度が上記上限を超えると、樹脂組成物の着色が激しくなり、多層構造体の外観が悪化するおそれがある。
カルボン酸変性ポリオレフィン又はその金属塩のメルトフローレート(MFR)(190℃、2160g荷重下)の下限値としては、0.05g/10分が好ましく、0.2g/10分がより好ましく、0.5g/10分がさらに好ましい。一方、このメルトフローレートの上限値としては、50g/10分が好ましく、40g/10分がより好ましく、30g/10分がさらに好ましい。
ボロン酸基又は水の存在下でボロン酸基に転化し得るホウ素含有基(これらを以下「ボロン酸誘導基」ともいう)を有する熱可塑性樹脂は、下記式(X)で表されるボロン酸基を分子内に有し、又はボロン酸基に転化し得るホウ素含有基を分子内に有する熱可塑性樹脂である。
Figure 2012250356
水の存在下でボロン酸基に転化し得るホウ素含有基としては、水の存在下で加水分解を受けてボロン酸基に転化し得るホウ素含有基である限り特に限定されないが、例えば下記式(XI)で表されるボロン酸エステル基、下記式(XII)で表されるボロン酸無水物基、下記式(XIII)で表されるボロン酸塩基などが挙げられる。ここで、水存在下でボロン酸基に転化し得るホウ素含有基とは、水、水と有機溶媒(トルエン、キシレン、アセトンなど)との混合液体、又は5%ホウ酸水溶液と上記有機溶媒との混合液体中で、反応時間が10分〜2時間、反応温度が室温〜150℃の条件下に加水分解を行った場合において、ボロン酸基に転化し得る基を意味する。
Figure 2012250356
上記式(XI)中、X、Yは水素原子、脂肪族炭化水素基(炭素数1〜20の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基又はアルケニル基など)、脂環式炭化水素基(シクロアルキル基又はシクロアルケニル基など)、芳香族炭化水素基(フェニル基又はビフェニル基など)を表わす。X、Yは同じ基でもよく、異なる基でもよい。XとYは結合していてもよい(但し、X,Yの少なくとも一方が水素原子の場合は除く)。また上記脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基又は芳香族炭化水素基は他の基、例えば、水酸基、カルボキシル基、ハロゲン原子などを有していてもよい。
Figure 2012250356
Figure 2012250356
上記式(XIII)中、R13、R14及びR15は、それぞれ独立して水素原子、脂肪族炭化水素基(炭素数1〜20の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、又はアルケニル基など)、脂環式炭化水素基(シクロアルキル基又はシクロアルケニル基など)、芳香族炭化水素基(フェニル基又はビフェニル基など)を表わす。R13、R14及びR15は同じ基でもよく、異なる基でもよい。Mは、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を表わす。また、上記脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基又は芳香族炭化水素基は他の基、例えば、水酸基、カルボキシル基、ハロゲン原子などを有していてもよい。
上記式(XI)で示されるボロン酸エステル基の具体例としては、ボロン酸ジメチルエステル基、ボロン酸ジエチルエステル基、ボロン酸ジブチルエステル基、ボロン酸ジシクロヘキシル基、ボロン酸エチレングリコールエステル基、ボロン酸プロピレングリコールエステル基(ボロン酸1,2−プロパンジオールエステル基、ボロン酸1,3−プロパンジオールエステル基)、ボロン酸ネオペンチルエステル基、ボロン酸カテコールエステル基、ボロン酸グリセリンエステル基、ボロン酸トリメチロールエタンエステル基、ボロン酸ジエタノールアミンエステル基などが挙げられる。また、上記式(XIII)で示されるボロン酸塩基の具体例としては、ボロン酸ナトリウム塩基、ボロン酸カリウム塩基、ボロン酸カルシウム塩基等が挙げられる。
上記ボロン酸誘導基の熱可塑性樹脂中における含有量は特に限定されないが、多層構造体における層間接着性を高くする観点から、熱可塑性樹脂を構成する重合体の全構成単位に対するボロン酸誘導基の含有量の下限値としては0.0001meq(当量)/gが好ましく、0.001meq/gがより好ましい。一方、このボロン酸誘導基の含有量の上限値としては1meq/gが好ましく、0.1meq/gがより好ましい。ボロン酸誘導基の含有量が上記下限より小さいと、層間接着性が低くなり、当該多層構造体の耐久性が低くなるおそれがある。逆に、ボロン酸誘導基の含有量が上記上限を超えると、樹脂組成物の着色が激しくなり、多層構造体の外観が悪化するおそれがある。
上記ボロン酸誘導基を有する熱可塑性樹脂の好適なベースポリマーの例としては、ポリエチレン(超低密度、低密度、中密度、高密度)、エチレン−アクリル酸メチル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体等のオレフィン系重合体;ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、スチレン−ジエン系ブロック共重合体の水添物(スチレン−イソプレン−ブロック共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体等の水添物)等のスチレン系重合体;ポリメチルアクリレート、ポリエチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル系重合体;ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニル系重合体;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等の半芳香族ポリエステル;ポリバレロラクトン、ポリカプロラクトン、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート等の脂肪族ポリエステル等が挙げられる。
上記ボロン酸誘導基を有する熱可塑性樹脂のメルトフローレート(MFR)(230℃、2160g荷重下で測定した値)としては、0.01〜500g/10分が好ましく、0.1〜50g/10分がより好ましい。このようなボロン酸誘導基を有する熱可塑性樹脂としては、1種類又は複数種を用いることができる。
次に、当該ボロン酸誘導基を有する熱可塑性樹脂の代表的製法について述べる。第1の製法:ボロン酸誘導基を有するオレフィン系重合体は、窒素雰囲気下、炭素−炭素二重結合を有するオレフィン系重合体にボラン錯体及びホウ酸トリアルキルエステルを反応させることによって、ボロン酸ジアルキルエステル基を有するオレフィン系重合体を得た後、水あるいはアルコール類を反応させることによって得られる。この製法において原料として末端に二重結合を有するオレフィン系重合体を使用すれば、末端にボロン酸誘導基を有するオレフィン系重合体が得られる。また、側鎖及び主鎖に二重結合を有するオレフィン系重合体を原料として使用すれば、主に側鎖にボロン酸誘導基を有するオレフィン系重合体が得られる。
原料である二重結合を有するオレフィン系重合体の代表製造例としては、1)通常のオレフィン系重合体を用い、末端に微量に存在する二重結合を利用する方法;2)通常のオレフィン系重合体を無酸素条件下、熱分解し、末端に二重結合を有するオレフィン系重合体を得る製法;3)オレフィン系単量体とジエン系単量体との共重合により二重結合を有するオレフィン系重合体を得る製法が挙げられる。1)については、公知のオレフィン系重合体の製法を用いることができるが、フィリップス法による製法や連鎖移動剤として水素を用いず、重合触媒としてメタロセン系重合触媒を用いる製法(例えば、DE4030399)が好ましい。2)については、公知の方法(例えばUS2835659,3087922)によりオレフィン系重合体を窒素雰囲気下や真空条件下等の無酸素条件下で300〜500℃の温度で熱分解することによって得ることができる。3)については公知のチーグラー系触媒を用いたオレフィン−ジエン系共重合体の製法(例えば特開昭50−44281、DE3021273)を用いることができる。
上記で用いるボラン錯体としては、ボラン−テトラヒドロフラン錯体、ボラン−ジメチルスルフィド錯体、ボラン−ピリジン錯体、ボラン−トリメチルアミン錯体、ボラン−トリエチルアミン錯体等が好ましい。これらの中でボラン−ジメチルスルフィド錯体、ボラン−トリメチルアミン錯体およびボラン−トリエチルアミン錯体がより好ましい。ボラン錯体の反応仕込み量としては、オレフィン系重合体の二重結合の総数に対して、1/3当量〜10当量の範囲にするのが好ましい。また、ホウ酸トリアルキルエステルとしては、トリメチルボレート、トリエチルボレート、トリプロピルボレート、トリブチルボレート等のホウ酸低級アルキルエステルが好ましい。ホウ酸トリアルキルエステルの反応仕込み量としては、オレフィン系重合体の二重結合の総数に対し1当量〜100当量の範囲が好ましい。溶媒は特に使用する必要はないが、使用する場合は、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、シクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、デカリン等の飽和炭化水素系溶媒が好ましい。
上記ボラン錯体又はホウ酸トリアルキルエステルとオレフィン系重合体との反応を行う場合の反応温度は通常、室温〜300℃であり、好ましくは100〜250℃である。また、反応時間は通常1分〜10時間であり、好ましくは5分〜5時間である。
上記で得られたボロン酸ジアルキルエステル基を有するオレフィン系重合体を、水又はアルコール類と反応させる条件としては通常、トルエン、キシレン、アセトン、酢酸エチル等の有機溶媒を反応溶媒として用い、水;メタノール、エタノール、ブタノール等の1価アルコール類;エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール,ネオペンチルグリコール、グリセリン、トリメチロールメタン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール等の多価アルコール類をボロン酸ジアルキルエステル基に対し、1〜100当量またはそれ以上の大過剰量を反応させることによって得られる。
ボロン酸誘導基を有する熱可塑性樹脂の第2の製法:末端にボロン酸誘導基を有するオレフィン系重合体は、ボロン酸誘導基を有するチオール存在下でオレフィン系単量体、ビニル系単量体又はジエン系単量体から選ばれる少なくとも1種をラジカル重合することによって得られる。
原料であるボロン酸誘導基を有するチオールは、窒素雰囲気下、二重結合を有するチオールにジボラン又はボラン錯体を反応後、アルコール類または水を加えることによって得られる。ここで、二重結合を有するチオールとしては2−プロペン−1−チオール、2−メチル−2−プロペン−1−チオール、3−ブテン−1−チオール、4−ペンテン−1−チオール等が挙げられる。この中で、2−プロペン−1−チオール又は2−メチル−2−プロペン−1−チオールが好ましい。ここで用いられるボラン錯体としては、上記と同様のものが使用されるが、この中で、ボラン−テトラヒドロフラン錯体又はボラン−ジメチルスルフィド錯体が特に好ましく用いられる。ジボラン又はボラン錯体の添加量は二重結合を有するチオールに対して1当量程度が好ましい。反応条件としては室温から200℃が好ましい。溶媒としてはテトラヒドロフラン(THF)、ジグライム等のエーテル系溶媒;ヘキサン、ヘプタン、エチルシクロヘキサン、デカリン等の飽和炭化水素系溶媒等が挙げられるが、この中で、テトラヒドロフランが好ましい。反応後に添加するアルコール類としては、メタノール、エタノール等の炭素数1〜6の低級アルコールが好ましく、特に、メタノールが好ましい。
このようにして得られた、ボロン酸誘導基を有するチオールの存在下、オレフィン系単量体、ビニル系単量体、ジエン系単量体から選ばれる少なくとも1種をラジカル重合することによって末端にボロン酸誘導基を有する重合体が得られる。重合にはアゾ系あるいは過酸化物系の開始剤が通常用いられる。重合温度としては、室温から150℃の温度範囲が好ましい。ボロン酸誘導基を有するチオールの添加量としては単量体1g当たり0.001ミリモルから1ミリモル程度が好ましく、チオールの添加方法としては、特に制限はないが、単量体として酢酸ビニル、スチレンなどの連鎖移動しやすいものを使用する場合は、重合時にチオールを重合系中にフィードすることが好ましく、メタクリル酸メチル等の連鎖移動しにくいものを使用する場合はチオールを重合系に最初に仕込んでおくことが好ましい。
ボロン酸誘導基を有する熱可塑性樹脂の第3の製法:側鎖にボロン酸誘導基を有する熱可塑性樹脂は、ボロン酸誘導基を有する単量体と上記オレフィン系単量体、ビニル系単量体及びジエン系単量体から選ばれる少なくとも1種の単量体とを共重合させることによって得られる。ここでボロン酸誘導基を有する単量体としては、例えば、3−アクリロイルアミノベンゼンボロン酸、3−アクリロイルアミノベンゼンボロン酸エチレングリコールエステル、3−メタクリロイルアミノベンゼンボロン酸、3−メタクリロイルアミノベンゼンボロン酸エチレングリコールエステル、4−ビニルフェニルボロン酸、4−ビニルフェニルボロン酸エチレングリコールエステル等が挙げられる。
また、側鎖にボロン酸誘導基を有する熱可塑性樹脂は、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、シトラコン酸、フマル酸、および無水マレイン酸などの不飽和カルボン酸と上記オレフィン系単量体、ビニル系単量体およびジエン系単量体から選ばれる少なくとも1種の単量体とのランダム共重合体又はグラフト共重合体を製造し、重合体に含有されるカルボキシル基をカルボジイミド等の縮合剤を用いて又は用いずに、m−アミノフェニルベンゼンボロン酸、m−アミノフェニルボロン酸エチレングリコールエステルなどのアミノ基含有ボロン酸又はアミノ基含有ボロン酸エステルとアミド化反応させることによって得られる。
上記ビニルエステル系共重合体においては、この共重合体を構成する全構造単位に対して少なくとも30モル%以上がビニルエステル単位であることが好ましい。上記共重合体中のビニルエステル単位の割合が30モル%未満だと、多層構造体の層間接着性が低下するおそれがある。当該ビニルエステルとしては、酢酸ビニル、蟻酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニルなどの脂肪酸ビニルが挙げられる。その中でも、入手容易である点から、酢酸ビニルが特に好ましい。また、当該ビニルエステル系共重合体において、ビニルエステルと共重合させることが可能な共重合成分としては、エチレン、プロピレン等のオレフィン;スチレン、p−メチルスチレン等のスチレン類;塩化ビニル等のハロゲン含有オレフィン;メチルアクリレート、エチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート等の(メタ)アクリルエステル;ブタジエン、イソプレン等のジエン;アクリロニトリル等の不飽和ニトリルなどを例示することができる。これらの共重合成分は1種類又は複数種を用いることができる。上記ビニルエステル共重合体のガラス転移点(Tg)は、共重合成分の種類と量を変化させることによって調節することができる。当該ビニルエステル系共重合体の具体例としては、エチレン−酢酸ビニル共重合体、プロピレン−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、メチルアクリレート−酢酸ビニル共重合体、アクリロニトリル−酢酸ビニル共重合体などが例示される。この中で、得られる多層構造体の層間接着性、延伸性及び溶融成形性が特に向上する点から、エチレン−酢酸ビニル共重合体が特に好ましい。
上記官能基含有樹脂を他の樹脂とブレンドしたものを、B層の樹脂組成物として用いることもできる。他の樹脂とのブレンドにより、B層の樹脂組成物に含まれる官能基濃度を制御でき、熱安定性、溶融粘度およびA層との接着性等の物性を制御することができる。
このような他の樹脂としては、積層体を形成し得る性状であることが必要であり、ポリオレフィンが好ましい樹脂として挙げられる。特に官能基含有樹脂が変性により得られる樹脂である場合には、当該他の樹脂は変性前の樹脂と同じモノマーユニットを有することが好ましい。すなわち、例えば官能基含有樹脂として上述のカルボン酸変性ポリオレフィンを用いる場合、その未変性ポリオレフィンを他の樹脂として用いること(例えば、無水マレイン酸変性直鎖状低密度ポリエチレンと未変性直鎖状低密度ポリエチレンとのブレンドを使用するなど)が好ましい。また、カルボン酸変性スチレン系エラストマーを用いる場合、その未変性スチレン系エラストマーを他の樹脂として用いることが好ましい。上記官能基含有樹脂と他の樹脂との比率は、必要な性能により適宜選択されるが、官能基含有樹脂/他の樹脂の質量比が2/98〜40/60であることが好ましい。
また、他の樹脂として、当該多層構造体の耐湿性を向上させるために、脂環式オレフィン重合体をB層の樹脂組成物に含有させることも好ましい。脂環式オレフィン重合体をB層の樹脂組成物に含有させる場合の、官能基含有樹脂/脂環式オレフィン重合体の質量比としては、2/98〜40/60が好ましく、5/95〜30/70がさらに好ましい。
脂環式オレフィン重合体とは、脂環式構造を含有してなる繰り返し単位を有する重合体である。この脂環式構造としては、飽和環状炭化水素(シクロアルカン)構造、不飽和環状炭化水素(シクロアルケン)構造などが挙げられるが、機械強度、耐熱性などの観点から、シクロアルカン構造やシクロアルケン構造が好ましく、中でもシクロアルカン構造が最も好ましい。脂環式構造は主鎖にあっても良いし、側鎖にあっても良いが、機械強度、耐熱性などの観点から、主鎖に脂環式構造を含有するものが好ましい。脂環式構造を構成する炭素原子数は、特に限定されないが、通常4〜30個、好ましくは5〜20個、より好ましくは5〜15個の範囲であるときに、機械強度、耐熱性、及び樹脂層の成形性等の特性が高度にバランスされる。
脂環式オレフィン重合体には、脂環式オレフィンの単独重合体及び共重合体並びにこれらの誘導体(水素添加物等)が含まれる。また、重合の方法は、付加重合であっても開環重合であってもよい。
脂環式オレフィン重合体としては、例えば、ノルボルネン環を有する単量体(以下、ノルボルネン単量体という)の開環重合体及びその水素添加物、ノルボルネン単量体の付加重合体、ノルボルネン単量体とビニル化合物との付加共重合体、単環シクロアルケン付加重合体、脂環式共役ジエン重合体、ビニル系脂環式炭化水素重合体及びその水素添加物等を挙げることができる。さらに、芳香族オレフィン重合体の芳香環水素添加物等の、重合後の水素化によって脂環構造が形成されて、脂環式オレフィン重合体と同等の構造を有するに至った重合体も含まれる。脂環式オレフィンの重合方法、及び必要に応じて行われる水素添加の方法は、格別な制限はなく、公知の方法に従って行うことができる。
また、脂環式オレフィン重合体には、極性基を有するものも含まれる。この極性基としては、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アルコキシル基、エポキシ基、グリシジル基、オキシカルボニル基、カルボニル基、アミノ基、エステル基、カルボン酸無水物基などが挙げられ、特に、カルボキシル基及びカルボン酸無水物基が好適である。極性基を有する脂環式オレフィン重合体を得る方法は特に限定されないが、例えば、(i)極性基を含有する脂環式オレフィン単量体を、単独重合し、又は、他の単量体と共重合する方法;(ii)極性基を含有しない脂環式オレフィン重合体に、極性基を有する炭素−炭素不飽和結合含有化合物を、例えばラジカル開始剤存在下で、グラフト結合させることにより、極性基を導入する方法;等が挙げられる。
(i)の方法に用いられる極性基を含有する脂環式オレフィン単量体としては、8−ヒドロキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、5−ヒドロキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−メチル−5−ヒドロキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−カルボキシメチル−5−ヒドロキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、8−メチル−8−ヒドロキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−カルボキシメチル−8−ヒドロキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、5−エキソ−6−エンド−ジヒドロキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、8−エキソ−9−エンド−ジヒドロキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エンなどのカルボキシル基含有脂環式オレフィン単量体;ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン−5,6−ジカルボン酸無水物、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン−8,9−ジカルボン酸無水物、ヘキサシクロ[6.6.1.13,6.110,13.02,7.09,14]ヘプタデカ−4−エン−11,12−ジカルボン酸無水物などの酸無水物基含有脂環式オレフィン単量体;が挙げられる。
(ii)の方法に用いられる極性基を含有しない脂環式オレフィン重合体を得るための単量体の具体例としては、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン(慣用名:ノルボルネン)、5−エチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−ブチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−エチリデン−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−メチリデン−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−ビニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3,7−ジエン(慣用名:ジシクロペンタジエン)、テトラシクロ[8.4.0.111,14.02,8]テトラデカ−3,5,7,12,11−テトラエン、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]デカ−3−エン(慣用名:テトラシクロドデセン)、8−メチル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−エチル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−メチリデン−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−エチリデン−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−ビニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−プロペニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13]ペンタデカ−3,10−ジエン、ペンタシクロ[7.4.0.13,6.110,13.02,7]ペンタデカ−4,11−ジエン、シクロペンテン、シクロペンタジエン、1,4−メタノ−1,4,4a,5,10,10a−ヘキサヒドロアントラセン、8−フェニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エンなどが挙げられる。
また、(ii)の方法に用いられる極性基を有する炭素−炭素不飽和結合含有化合物としては、アクリル酸、メタクリル酸、α−エチルアクリル酸、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマール酸、イタコン酸、エンドシス−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボン酸、メチル−エンドシス−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボン酸などの不飽和カルボン酸化合物;無水マレイン酸、クロロ無水マレイン酸、ブテニル無水コハク酸、テトラヒドロ無水フタル酸、無水シトラコン酸などの不飽和カルボン酸無水物;などが挙げられる。
上記官能基含有樹脂を他の樹脂とブレンドする方法は、均一にブレンドされれば特に制限はなく、固体状のままブレンドするドライブレンドでもよいし、ドライブレンドした混合物を溶融押出機にてペレット化するメルトブレンドでもよい。メルトブレンドの手段としては、リボンブレンダー、ミキサーコニーダー、ペレタイザー、ミキシングロール、押出機、インテンシブミキサーを用いる方法が例示される。これらの中でも、工程の簡便さおよびコストの観点から、単軸または2軸スクリューの押出機を使用するのが好ましい。ブレンド温度は設備の性質、樹脂の種類や配合割合などにより適宜選択されるが、多くの場合150〜300℃の範囲である。また、多層構造体を形成する際に、成形機に付属している押出機を用いて溶融混練することもできる。
〈エラストマー〉
上記熱可塑性樹脂として、エラストマーを用いることで、当該多層構造体の延伸性及び熱成形性等を向上させることができる。
エラストマーとは、常温付近で弾性を有する樹脂をいい、具体的には、室温(20℃)の条件下で、2倍に伸ばし、その状態で1分間保持した後、1分以内に元の長さの1.5倍未満に収縮する性質を有する樹脂をいう。また、エラストマーは、構造的には、通常、重合体鎖中にハードセグメントとソフトセグメントとを有する重合体である。
このようなエラストマーとしては、例えば、スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ポリジエン系エラストマー、ポリ塩化ビニル系エラストマー、塩素化ポリエチレン系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー及びフッ素樹脂系エラストマーからなる群より選ばれる少なくとも1種を挙げることができる。これらの中でも、成形容易性の観点から、スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ポリジエン系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー及びポリアミド系エラストマーからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましく用いられ、スチレン系エラストマーがより好ましく用いられる。
また、このようなエラストマーとしては、公知の熱可塑性エラストマー及び非熱可塑性エラストマーの中から適宜選択して用いることができるが、溶融成形のためには熱可塑性エラストマーを用いることが好ましい。
この熱可塑性エラストマーとしては、例えば、スチレン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリジエン系熱可塑性エラストマー、ポリ塩化ビニル系熱可塑性エラストマー、塩素化ポリエチレン系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー及びフッ素樹脂系熱可塑性エラストマーからなる群より選ばれる少なくとも1種を挙げることができる。これらの中でも、成形容易性の観点から、スチレン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリジエン系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー及びポリアミド系熱可塑性エラストマーからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましく用いられ、スチレン系熱可塑性エラストマーがより好ましく用いられる。
〈スチレン系熱可塑性エラストマー〉
上記スチレン系エラストマーとしては、特に限定されないが、ビニル芳香族化合物と共役ジエン化合物/又はその水素添加物からなる共重合体を挙げることができる。
上記ビニル芳香族としては、特に限定されないが、例えば、スチレン、α―メチルスチレン、2−メチルスチレン、4−メチルスチレン、4−プロピルスチレン、4−t−ブチルスチレン、4−シクロヘキシルスチレン、4−ドデシルスチレン、2−エチルー4−ベンジルスチレン、4−(フェニルブチル)スチレン、2,4,6−トリメチルスチレン、モノフルオロスチレン、ジフルオロスチレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン、メトキシスチレン、t−ブトキシスチレン等のスチレン類;1−ビニルナフタレン、2−ビニルナフタレン等のビニルナフタレン類などのビニル基含有芳香族化合物;インデン、アセナフチレン等のビニレン基含有芳香族化合物などを挙げることが出来る。ビニル芳香族モノマー単位は1種のみでも良く、2種以上であっても良い。但し、スチレンから誘導される単位であることが好ましい。
上記共役ジエン化合物としては、特に限定されないが、例えば、ブタジエン、イソプレン、3,4−重合イソプレン、2,3−ジメチルブタジエン、ペンタジエン、ヘキサジエン等を挙げることが出来る。これらのジエン化合物は、上記共役ジエン化合物からなるポリマーブロックの水素添加物であってもよい。
上記スチレン系エラストマーは、A層に含まれるガスバリア性樹脂の有する基と反応し得る官能基を有することが好ましい(なお、このような官能基を有するスチレン系エラストマーも、上記官能基含有樹脂に含まれる。)。この官能基としては、官能基含有樹脂が有する官能基として上述したカルボキシル基、金属カルボキシレート基、ボロン酸基、水の存在下でボロン酸基に転化し得るホウ素含有基、エステル基等が挙げられる。
上記官能基を有するスチレン系エラストマーの一例として、カルボキシル基を有するスチレン系エラストマー(カルボン酸変性スチレン系エラストマー)は、例えば、(1)スチレン系エラストマーにエチレン性不飽和カルボン酸若しくはその無水物を化学的に(たとえば付加反応、グラフト反応により)結合させることにより、又は(2)ビニル芳香族化合物と、共役ジエン化合物/又はその水素添加物と、不飽和カルボン酸若しくはその無水物等とを共重合させることなどによって得ることができる。また、金属カルボキシレート基を有するスチレン系エラストマーは、例えば、上記スチレン系エラストマーに含有されるカルボキシル基の水素イオンの全部又は一部を金属イオンで置換することによって得ることができる。
上記官能基を有するスチレン系エラストマーを他の樹脂とブレンドしたものを、B層の樹脂組成物として用いることもできる。他の樹脂とのブレンドにより、B層の樹脂組成物に含まれる官能基濃度等を制御でき、熱安定性、溶融粘度およびA層との接着性等の物性を制御することができる。
このような他の樹脂としては、積層体を形成し得る性状であることが必要であり、未変性スチレン系エラストマーが好ましい樹脂として挙げられる。すなわち、カルボン酸変性スチレン系エラストマーを用いる場合、その未変性スチレン系エラストマーを他の樹脂として用いることが好ましい。上記官能基含有樹脂と他の樹脂との比率は、必要な性能により適宜選択されるが、官能基含有スチレン系エラストマー/他の樹脂(未変性スチレン系エラストマー等)の質量比が2/98〜40/60であることが好ましい。
〈オレフィン系熱可塑性エラストマー〉
オレフィン系熱可塑性エラストマーとしては、ハードセグメントにポリプロピレンやポリエチレンなどのポリオレフィンを、ソフトセグメントとしてエチレン−プロピレン−ジエン共重合ゴムなどを用いた熱可塑性エラストマーを挙げることができる。これには、ブレンド型とインプラント化型がある。また、無水マレイン酸変性エチレン−ブテン−1共重合体、無水マレイン酸変性エチレン−プロピレン共重合体、ハロゲン化ブチル系ゴム、変性ポリプロピレン、変性ポリエチレンなども挙げることができる。
〈ポリジエン系熱可塑性エラストマー〉
ポリジエン系熱可塑性エラストマーとしては、1,2−ポリブタジエン系TPE及びトランス1,4−ポリイソプレン系TPE、水添共役ジエン系TPE、エポキシ化天然ゴム、これらの無水マレイン酸変性物などを挙げることができる。
1,2−ポリブタジエン系TPEは、分子中に1,2−結合を90%以上含むポリブタジエンであって、ハードセグメントとしての結晶性シンジオタクチック1,2−ポリブタジエンと、ソフトセグメントとしての無定形1,2−ポリブタジエンとからなっている。
一方、トランス1,4−ポリイソプレン系TPEは、98%以上のトランス1,4−構造を有し、ハードセグメントとしての結晶性トランス1,4−セグメントと、ソフトセグメントとしての非結晶性トランス1,4−セグメントからなっている。
〈ポリ塩化ビニル(PVC)系熱可塑性エラストマー〉
ポリ塩化ビニル系熱可塑性エラストマー(TPVC)は、一般に、下記の3種のタイプのものが挙げられる。なお、このTPVCも、無水マレイン酸変性PVC等の変性物を用いてもよい。
(1)高分子量PVC/可塑化PVCブレンド型TPVC
このタイプのTPVCは、ハードセグメントに高分子量のPVCを用いて微結晶部分で架橋点の働きを持たせ、ソフトセグメントに、可塑剤で可塑化されたPVCを用いたものである。
(2)部分架橋PVC/可塑化PVCブレンド型TPVC
このタイプのTPVCは、ハードセグメントに部分架橋又は分岐構造を導入したPVCを、ソフトセグメントに可塑剤で可塑化されたPVCを用いたものである。
(3)PVC/エラストマーアロイ型TPVC
このタイプのTPVCは、ハードセグメントにPVCを、ソフトセグメントに部分架橋NBR、ポリウレタン系TPE、ポリエステル系TPEなどのゴム、TPEを用いたものである。
〈塩素化ポリエチレン(CPE)系熱可塑性エラストマー〉
塩素化ポリエチレン系熱可塑性エラストマーは、ポリエチレンを水性懸濁液として、あるいは四塩化炭素等の溶媒中で、塩素ガスと反応させて得られる軟質樹脂である。CPEは、ハードセグメントには結晶性ポリエチレン部が、ソフトセグメントには塩素化ポリエチレン部が用いられる。CPEには、両部がマルチブロック又はランダム構造として混在している。
CPEは、原料ポリエチレンの種類、塩素化度、製造条件などによって、塩素含有量、ブロック性、残存結晶化度などの分子特性がかわり、その結果、樹脂からゴムまでの広範囲な硬度をもつ、多岐にわたる性質が得られている。CPEは、また架橋することによって加硫ゴムと同じような性質も可能であり、無水マレイン酸変性などによる変性物とすることもできる。
〈ポリエステル系熱可塑性エラストマー〉
ポリエステル系熱可塑性エラストマー(TPEE)は、分子中のハードセグメントとしてポリエステルを、ソフトセグメントとしてガラス転移温度(Tg)の低いポリエーテル又はポリエステルを用いたマルチブロックコポリマーである。TPEEは分子構造によって以下のようなタイプがあるが、その中でも(1)ポリエステル・ポリエーテル型及び(2)ポリエステル・ポリエステル型が一般的である。
(1)ポリエステル・ポリエーテル型TPEE
このタイプのTPEEは、一般的には、ハードセグメントとして芳香族系結晶性ポリエステルを、ソフトセグメントとしてはポリエーテルを用いたものである。
(2)ポリエステル・ポリエステル型TPEE
このタイプのTPEEは、ハードセグメントとして芳香族系結晶性ポリエステルを、ソフトセグメントに脂肪族系ポリエステルを用いたものである。
(3)液晶性TPEE
このタイプのTPEEは、特別なものとして、ハードセグメントとして剛直な液晶分子を、ソフトセグメントとして脂肪族系ポリエステルを用いたものである。
〈ポリアミド系熱可塑性エラストマー〉
ポリアミド系熱可塑性エラストマー(TPA)は、ハードセグメントとしてポリアミドを、ソフトセグメントとしてTgの低いポリエーテルやポリエステルを用いたマルチブロックコポリマーである。ポリアミド系エラストマーの詳細は、ポリアミドの好ましい例として上述したとおりである。
〈フッ素樹脂系熱可塑性エラストマー〉
フッ素樹脂系熱可塑性エラストマーは、ハードセグメントとしてのフッ素樹脂と、ソフトセグメントとしてのフッ素ゴムとからなるABA型ブロックコポリマーである。ハードセグメントのフッ素樹脂は、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合ポリマー又はポリフッ化ビニリデン(PVDF)が用いられ、ソフトセグメントのフッ素ゴムには、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン三元共重合ポリマーなどが用いられる。より具体的には、フッ化ビニリデン系ゴム、四フッ化エチレン−プロピレンゴム、四フッ化エチレン−パーフルオロメチルビニルエーテルゴム、フォスファゼン系フッ素ゴムや、フルオロポリエーテル、フルオロニトロソゴム、パーフルオロトリアジンを含むものが挙げられる。
フッ素樹脂系TPEは、他のTPEと同じようにミクロ相分離してハードセグメントが架橋点を形成している。
〈ポリウレタン系熱可塑性エラストマー〉
ポリウレタン系熱可塑性エラストマーは、(1)ハードセグメントとして短鎖グリコール(低分子ポリオール)とイソシアネートの反応で得られるポリウレタンと、(2)ソフトセグメントとして長鎖グリコール(高分子ポリオール)とイソシアネートの反応で得られるポリウレタンとの、直鎖状のマルチブロックコポリマー等である。ここでポリウレタンとは、イソシアネート(−NCO)とアルコール(−OH)の重付加反応(ウレタン化反応)で得られる、ウレタン結合(−NHCOO−)を有する化合物の総称である。この各セグメントを構成する低分子ポリオール、高分子ポリオール、イソシアネート(有機ポリイソシアネート等)等は、ポリウレタンの説明として上述したとおりである。
B層の樹脂組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、熱可塑性樹脂以外の樹脂、又は熱安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、着色剤、フィラーなど種々の添加剤を含んでいてもよい。B層の樹脂組成物が添加剤を含む場合、その量は樹脂組成物の総量に対して50質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがよりこのましく、10質量%以下であることが特に好ましい。
〈金属塩〉
当該多層構造体は、隣接するA層及びB層の少なくとも一方の樹脂組成物中に金属塩を含むことが好ましい。このように隣接するA層及びB層の少なくとも一方に金属塩を含むことによって、非常に優れたA層及びB層の層間接着性が発揮される。このような非常に優れた層間接着性により、当該多層構造体が高い耐久性を有している。かかる金属塩が層間接着性を向上させる理由は、必ずしも明らかではないが、A層の樹脂組成物中のガスバリア性樹脂とB層の樹脂組成物中の熱可塑性樹脂との間で起こる結合生成反応が、金属塩の存在によって加速されることなどが考えられる。そのような結合生成反応としては、TPUのカーバメート基やポリアミドのアミノ基等とガスバリア性樹脂の水酸基等との間で起こる水酸基交換反応や、TPU中の残存イソシアネート基へのガスバリア性樹脂の水酸基等の付加反応、ポリアミドの末端カルボキシル基とEVOHの水酸基とのアミド生成反応、その他ガスバリア性樹脂と官能基含有樹脂との間で起こる結合性反応等が考えられる。なお、金属塩はA層の樹脂組成物とB層の樹脂組成物の両方に含有されていてもよく、A層の樹脂組成物又はB層の樹脂組成物のどちらか一方に含有されていてもよい。
金属塩としては、特に限定されるものではないが、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩又は周期律表の第4周期に記載されるdブロック金属塩が層間接着性をより高める点で好ましい。この中でも、アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩がさらに好ましく、特にアルカリ金属塩が好ましい。
アルカリ金属塩としては、特に限定されないが、例えばリチウム、ナトリウム、カリウムなどの脂肪族カルボン酸塩、芳香族カルボン酸塩、リン酸塩、金属錯体等が挙げられる。このアルカリ金属塩としては、具体的には、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸リチウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、エチレンジアミン四酢酸のナトリウム塩等が挙げられる。この中でも、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、リン酸ナトリウムが、入手容易である点から特に好ましい。
アルカリ土類金属塩としては、特に限定されないが、例えば、マグネシウム、カルシウム、バリウム、ベリリウムなどの酢酸塩又はリン酸塩が挙げられる。この中でも、マグネシウム又はカルシウムの酢酸塩又はリン酸塩が、入手容易である点から特に好ましい。かかるアルカリ土類金属塩を含有させると、溶融成形時における熱劣化した樹脂の成形機のダイ付着量を低減できるという利点もある。
周期律表の第4周期に記載されるdブロック金属の金属塩としては、特に限定されないが、例えばチタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛などのカルボン酸塩、リン酸塩、アセチルアセトナート塩等が挙げられる。
金属塩の含有量(当該多層構造体全体を基準とする金属元素換算の含有量)の下限としては、1ppmが好ましく、5ppmがより好ましく、10ppmがさらに好ましく、20ppmが特に好ましい。一方、この金属塩の含有量の上限としては、10,000ppmが好ましく、5,000ppmがより好ましく、1,000ppmがさらに好ましく、500ppmが特に好ましい。金属塩の含有量が上記下限より小さいと、層間接着性が低くなり、当該多層構造体の耐久性が低くなるおそれがある。逆に、金属塩の含有量が上記上限を超えると、樹脂組成物の着色が激しくなり、多層構造体の外観が悪化するおそれがある。
金属塩を含有する各樹脂組成物に対する金属塩の含有量の下限としては、5ppmが好ましく、10ppmがより好ましく、20ppmがさらに好ましく、50ppmが特に好ましい。一方、この金属塩の含有量の上限としては、5,000ppmが好ましく、1,000ppmがより好ましく、500ppmがさらに好ましく、300ppmが特に好ましい。金属塩の含有量が上記下限より小さいと、隣接する他層に対する接着性が低くなり、当該多層構造体の耐久性が低くなるおそれがある。逆に、金属塩の含有量が上記上限を超えると、樹脂組成物の着色が激しくなり、多層構造体の外観が悪化するおそれがある。
この金属塩をA層やB層の樹脂組成物に含有する方法は、特に限定されるものではなく、上述のようなA層の樹脂組成物中にリン酸化合物等を含有する方法と同様の方法が採用される。
〈酸素掃去剤〉
A層及びB層を構成する樹脂組成物は、上記金属塩等以外にも、種々の成分を含有することができる。そのような成分としては、例えば、酸素掃去剤が挙げられる。この酸素掃去剤は、B層を構成する樹脂組成物が官能基含有樹脂を含む場合、特に好適に用いることができる。酸素掃去剤は、A層及びB層を構成する樹脂組成物のいずれにも含有させることができるが、A層の樹脂組成物に含有させることが好ましい。
酸素掃去剤は、酸素掃去能(酸素吸収機能)を有する物質である。酸素掃去能とは、与えられた環境から酸素を吸収・消費し、又はその量を減少させる機能をいう。樹脂組成物に含有することができる酸素掃去剤は、そのような性質を有するものであればよく、特に限定されない。樹脂組成物が酸素掃去剤を含有することによって、酸素掃去能が付加される結果、当該多層構造体のガスバリア性をさらに向上させることができる。酸素掃去剤としては種々のものを用いることができ、例えば酸素掃去能を有する熱可塑性樹脂、アスコルビン酸等の有機系酸素掃去剤;鉄、亜硫酸塩等の無機系酸素掃去剤などが挙げられる。この中で、酸素掃去性が高く、また当該多層構造体の樹脂組成物に含有させることが容易である観点から、酸素掃去能を有する熱可塑性樹脂が好ましい。
〈酸素掃去能を有する熱可塑性樹脂〉
酸素掃去能を有する熱可塑性樹脂としては、酸素を掃去することができる熱可塑性樹脂であれば特に限定されないが、例えば、炭素−炭素二重結合を有するエチレン系不飽和炭化水素のポリマー又はポリマーのブレンド(分子量1,000以下かつ共役二重結合を有するものを除く)(以下、単に「不飽和炭化水素ポリマー」ともいう。)などが挙げられる。
〈不飽和炭化水素ポリマー〉
不飽和炭化水素ポリマーは、置換基を有していてもよく、非置換であってもよい。非置換の不飽和炭化水素ポリマーは少なくとも1つの脂肪族炭素−炭素二重結合を有しかつ100質量%の炭素及び水素からなる任意の化合物と定義される。また、置換された不飽和炭化水素ポリマーは、少なくとも1つの脂肪族炭素−炭素二重結合を有しそして約50〜99質量%の炭素及び水素からなるエチレン系不飽和炭化水素として定義される。好ましい非置換又は置換の不飽和炭化水素ポリマーは1分子あたり2以上のエチレン系不飽和基を有するものである。より好ましくは、それは2以上のエチレン系不飽和基を有し、かつ1,000に等しいか、あるいはそれより大きい質量平均分子量を有するポリマー化合物である。エチレン系不飽和炭化水素のポリマーのブレンドは、2種またはそれ以上の置換または非置換のエチレン系不飽和炭化水素の混合物からなることができる。
非置換の不飽和炭化水素ポリマーの好ましい例は次のものを包含するが、これらに限定されない:ジエンポリマー、例えば、ポリイソプレン、(例えば、トランス−ポリイソプレン)、ポリブタジエン(ことに1,2−ポリブタジエン、これらは50%大きいか、あるいはそれに等しい1,2微小構造を有するポリブタジエンとして定義される)、及びそれらのコポリマー、例えば、スチレン−ブタジエン。このような炭化水素は、また、次のものを包含する:ポリマー化合物、例えば、ポリペンテナマー、ポリオクテナマー、及びオレフィンの複分解により製造された他のポリマー;ジエンオリゴマー、例えば、スクアレン;及びジシクロペンタジエン、ノルボルナジエン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、あるいは2以上の炭素−炭素二重結合(共役または非共役)を含有する他のモノマーから誘導されたポリマーまたはコポリマー。これらの炭化水素は、さらに、カロテノイド例えば、β−カロテンを包含する。
好ましい置換された不飽和炭化水素ポリマーは、酸素含有部分をもつもの、例えば、エステル、カルボン酸、アルデヒド、エーテル、ケトン、アルコール、パーオキシド、及び/又はヒドロパーオキシドを包含するが、これらに限定されない。このような炭化水素の特定の例は、縮合ポリマー、例えば、炭素−炭素二重結合を含有するモノマーから誘導されたポリエステル;不飽和脂肪酸、例えば、オレイン酸、リシノール酸、脱水リシノール酸、並びにリノール酸及びそれらの誘導体、例えば、エステルを包含するが、これらに限定されない。このような炭化水素は(メタ)アリル(メタ)アクリレートを包含する。
上記不飽和炭化水素ポリマーにおいては、炭素−炭素二重結合の含有量が、ポリマー100gあたり、0.01〜1.0当量であることが好ましい。ポリマーの二重結合の含量をこのような範囲に制限することによって、当該多層構造体の酸素掃去性及び物理的性質の両方を高く保持することができる。
このように二重結合が減少したポリマーは、ホモポリマー、コポリマー、及び/又はポリマーのブレンドであることができる。ポリマーのブレンドはことに望ましい。なぜなら不連続相における物理的性質の変化は、連続相が優位を占めるであろうブレンドの全体の物理的性質へ与える影響が比較的少ないので、不連続相の中に存在する二重結合の大部分を有することが望ましいことがあるからである。
ホモポリマーの適当な例は、100g当たり0.91当量の二重結合を有するポリ(オクテナマー)、及び100g当たり0.93当量の二重結合を有するポリ(4−ビニルシクロヘキセン)である。コポリマーの適当な例は、C−Cアルキルアクリレート及びメタクリレートを包含する。他の例は、1,3−ブタジエン、イソプレン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、4−ビニルシクロヘキセン、1,4−ヘキサジエン、1,6−オクタジエン等と、1種または2種以上のビニルモノマー、例えばエチレン、プロピレン、スチレン、酢酸ビニル、及び/又はα−オレフィンとから誘導されたコポリマーを包含する。特定の例は、エチレン、プロピレン及び5−エチリデン−2−ノルボルネンのターポリマーである。このようなEPDMエラストマーは典型的には3〜14質量%の5−エチリデン−2−ノルボルネンを含有する。このようなポリマーは、ポリマーの100g当たり0.01〜1.0当量の二重結合の要件の範囲内である。また、水素化された二重結合の少なくとも約50%をもつ、部分的に水素化されたエチレン系不飽和のポリマー(例えば、ポリブタジエン)は適当である。ポリマーのブレンドの例は多数である。EPDM及び20〜40%のポリブタジエン、EPDM及び20〜40%のポリ(オクテナマー)のブレンド、並びにポリブタジエン及び飽和ポリオレフィンの50/50ブレンドはことに好ましい。
〈実質的に主鎖のみに炭素−炭素二重結合を有する熱可塑性樹脂〉
このような不飽和炭化水素ポリマーの中でも、酸素掃去性が非常に高く、また、当該多層構造体の樹脂組成物に非常に容易に含有させることができる観点から、実質的に主鎖のみに炭素−炭素二重結合を有する熱可塑性樹脂(以下、単に「二重結合含有熱可塑性樹脂」ともいう。)(分子量1,000以下かつ共役二重結合を有するものを除く)が特に好ましい。ここで、熱可塑性樹脂が「実質的に主鎖のみに炭素−炭素二重結合を有する」とは、熱可塑性樹脂の主鎖に存在する炭素−炭素二重結合が分子内の主鎖又は側鎖に含まれる全炭素−炭素二重結合の90%以上であることをいう。主鎖に存在する炭素−炭素二重結合は、好ましくは93%以上、さらに好ましくは95%以上である。
上記二重結合含有熱可塑性樹脂は、その分子内に炭素−炭素二重結合を有するため、酸素と効率よく反応することが可能であり、高い酸素掃去能が得られる。このような熱可塑性樹脂を、樹脂組成物に含有させることによって、当該多層構造体のガスバリア性を格段に向上させることができる。上記炭素−炭素二重結合とは、共役二重結合を包含するが、芳香環に含まれる多重結合は包含しない。
上記二重結合含有熱可塑性樹脂に含まれる炭素−炭素二重結合の含有量の下限としては、0.001当量/gが好ましく、0.005当量/gがより好ましく、0.01当量/gがさらに好ましい。一方、炭素−炭素二重結合の含有量の上限としては、0.04当量/gが好ましく、0.03当量/gがより好ましく、0.02当量/gがさらに好ましい。炭素−炭素二重結合の含有量が上記下限より小さいと、得られる多層構造体の酸素掃去機能が不十分となるおそれがある。逆に、炭素−炭素二重結合の含有量が上記上限を超えると、樹脂組成物の着色が激しくなり、得られる多層構造体の外観が悪化するおそれがある。
上述のように、上記二重結合含有熱可塑性樹脂は実質的に主鎖のみに炭素−炭素二重結合を有するため、酸素との反応により、側鎖の二重結合の開裂に伴う低分子量分解物の発生が極めて少ない。低分子量の分解物の一部は不快臭気物質であるが、このような分解物を生じにくいため不快臭を発生することが少ない。従って、そのような熱可塑性樹脂を樹脂組成物に含有させることによって、高いガスバリア性と耐久性を有するとともに、酸素掃去により不快な臭気を発生しない多層構造体とすることができる。これに対して、炭素−炭素二重結合が側鎖に多い熱可塑性樹脂を使用した場合、酸素掃去性の点では問題とならないが、上述のように側鎖の二重結合の開裂によって分解物が生成する。そのため、不快な臭気が発生し、周囲の環境を著しく損ねるおそれがある。
上記二重結合含有熱可塑性樹脂において、主鎖中の炭素−炭素二重結合が酸素と反応した際には、アリル炭素(二重結合に隣接する炭素)の部位で酸化を受けるため、アリル炭素は4級炭素でないことが好ましい。さらに、主鎖の開裂によっても低分子量の分解物が生成する可能性は否定できないので、これを抑制するためにも、上記アリル炭素は、置換されていない炭素、すなわち、メチレン炭素であることが好ましい。以上の点から、二重結合含有熱可塑性樹脂は、下記式(XIV)及び(XV)で示される単位のうちの少なくとも1種を有することが好ましい。
Figure 2012250356
Figure 2012250356
上記式(XIV)及び(XV)中、R16、R17、R18及びR19はそれぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいアルキルアリール基、−COOR20、−OCOR21、シアノ基又はハロゲン原子を表す。R18とR19とはメチレン基又はオキシメチレン基によって環を形成していてもよい(但し、R18とR19とが共に水素原子の場合を除く)。R20及びR21は置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基又は置換基を有していてもよいアルキルアリール基を表す。
上記R16、R17、R18及びR19がアルキル基である場合の炭素原子数は、好ましくは1〜5であり、アリール基である場合の炭素原子数は好ましくは6〜10であり、アルキルアリール基である場合の炭素原子数は好ましくは7〜11である。そのようなアルキル基の具体例としてはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基が、アリール基の具体例としてはフェニル基が、アルキルアリール基の例としてはトリル基が、ハロゲン原子の例としては塩素原子が、それぞれ挙げられる。
また二重結合含有熱可塑性樹脂に含まれていてもよい置換基としては、各種親水性基が挙げられる。ここでいう親水性基としては水酸基、炭素数1〜10のアルコキシ基、アミノ基、アルデヒド基、カルボキシル基、金属カルボキシレート基、エポキシ基、エステル基、カルボン酸無水物基、ボロン酸基、水の存在下でボロン酸基に転化し得るホウ素含有基(例えば、ボロン酸エステル基、ボロン酸無水物基、ボロン酸塩基等)等が挙げられる。これらの親水性基の中で、アルデヒド基、カルボキシル基、金属カルボキシレート基、エポキシ基、エステル基、カルボン酸無水物基、ボロン酸基、水の存在下でボロン酸基に転化し得るホウ素含有基が、EVOHの水酸基等と反応し得る点で好ましい。上記二重結合含有熱可塑性樹脂がこれらの親水性基を含有することによって、この熱可塑性樹脂が樹脂組成物中の分散性が高くなって、得られる多層構造体の酸素掃去機能が向上する。また、それとともに、この親水性基が隣接する層のEVOHの水酸基や官能基等と反応して化学的な結合を形成することによって、層間接着性が向上し、得られる多層構造体のガスバリア性等の特性及び耐久性がさらに向上する。
また、上記二重結合含有熱可塑性樹脂のうちでも、上記式(XIV)及び(XV)の各単位において、R16、R17、R18及びR19のすべてが水素原子である化合物が、臭気を防止する観点からは特に好ましい。この理由については必ずしも明らかではないが、R16、R17、R18及びR19が水素原子以外である場合には、熱可塑性樹脂が酸素と反応する際にこれらの基が、酸化、切断されて臭気物質に変化する場合があるためと推定される。
上記二重結合含有熱可塑性樹脂において、上記式(XIV)及び(XV)の単位の中でも、ジエン化合物由来の単位であることが好ましい。ジエン化合物由来の単位であることによって、そのような構造単位を有する熱可塑性樹脂を容易に製造することができる。このようなジエン化合物としては、イソプレン、ブタジエン、2−エチルブタジエン、2−ブチルブタジエン、クロロプレンなどが挙げられる。これらの1種のみを使用してもよく、複数種を併用してもよい。これらジエン化合物由来の単位を含む二重結合含有熱可塑性樹脂の例としては、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリクロロプレン、ポリオクテニレンなどが挙げられる。これらの中でも、酸素掃去機能が特に高い点で、ポリブタジエン、ポリオクテニレンが特に好ましい。また、二重結合含有熱可塑性樹脂として、上記構造単位以外の構造単位を共重合成分として含有する共重合体も使用可能である。そのような共重合成分としてはスチレン、アクリロニトリル、プロピレンなどが挙げられる。二重結合含有熱可塑性樹脂がこのような共重合体である場合、上記式(X)及び(XI)で示される単位の含有量は、熱可塑性樹脂の全構造単位に対するその合計の単位数が50モル%以上が好ましく、70モル%以上がより好ましい。
二重結合含有熱可塑性樹脂の数平均分子量の下限としては、1,000が好ましく、5,000がより好ましく、10,000がさらに好ましく、40,000が特に好ましい。一方、この数平均分子量の上限としては、500,000が好ましく、300,000がより好ましく、250,000がさらに好ましく、200,000が特に好ましい。二重結合含有熱可塑性樹脂の分子量が1,000未満の場合又は500,000を超える場合には、得られる多層構造体の成形加工性、及びハンドリング性に劣り、また多層構造体の強度や伸度などの機械的性質が低下するおそれがある。また、樹脂組成物中における分散性が低下し、その結果、多層構造体のガスバリア性及び酸素掃去性能が低下するおそれがある。二重結合含有熱可塑性樹脂は1種類又は複数種を用いることができる。
上記のような実質的に主鎖のみに炭素−炭素二重結合を有する熱可塑性樹脂を製造する方法としては、熱可塑性樹脂の種類によっても異なるが、例えば、ポリブタジエン(cis−1,4−ポリブタジエン)の場合、触媒としてコバルト系や、ニッケル系触媒を使用することにより合成することができる。触媒の具体例としては、例えば、CoCl・2CN錯体とジエチルアルミニウムクロライドの組み合わせなどが挙げられる。使用可能な溶媒としては、不活性な有機溶媒が挙げられ、中でも、炭素原子数が6〜12の炭化水素、例えばヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカンなどの脂環式炭化水素類、またはトルエン、ベンゼン、キシレンなどの芳香族炭化水素類が好適である。重合は通常、−78℃〜70℃の温度範囲で、1〜50時間の時間の範囲で行われる。
なお、重合後に存在する炭素−炭素二重結合は、多層構造体の機械的性質やガスバリア性や酸素掃去性能等の効果を阻害しない範囲で、その一部が水素により還元されていても構わない。このとき、特に側鎖に残存する炭素−炭素二重結合を選択的に水素によって還元することが好ましい。
〈遷移金属塩〉
樹脂組成物は、上記不飽和炭化水素ポリマー(二重結合含有熱可塑性樹脂を含む)とともに、さらに遷移金属塩(上記金属塩を除く)を含むことが好ましい。このような遷移金属塩を、上記不飽和炭化水素ポリマーとともに含有することによって、得られる多層構造体の酸素掃去機能がさらに向上する結果、ガスバリア性がさらに高くなる。この理由としては、遷移金属塩が、上記不飽和炭化水素ポリマーと多層構造体の内部に存在する酸素又は当該多層構造体中を透過しようとする酸素との反応を促進するためであることなどが考えられる。
遷移金属塩を構成する遷移金属イオンとしては、鉄、ニッケル、銅、マンガン、コバルト、ロジウム、チタン、クロム、バナジウム又はルテニウム等の各イオンが挙げられるが、これらに限定されない。これらの中でも、鉄、ニッケル、銅、マンガン又はコバルトの各イオンが好ましく、マンガン又はコバルトの各イオンがより好ましく、コバルトイオンが特に好ましい。
遷移金属塩を構成する遷移金属イオンの対アニオンとしては、カルボン酸イオン又はハロゲンアニオンなどが挙げられる。対アニオンの具体例としては、例えば、酢酸、ステアリン酸、アセチルアセトン、ジメチルジチオカルバミン酸、パルミチン酸、2−エチルへキサン酸、ネオデカン酸、リノール酸、トール酸、オレイン酸、樹脂酸、カプリン酸、ナフテン酸などから水素イオンが電離して生成するアニオン、塩化物イオン又はアセチルアセトネートイオンなどが挙げられるが、これらに限定されない。特に好ましい遷移金属塩の具体例としては、2−エチルへキサン酸コバルト、ネオデカン酸コバルト又はステアリン酸コバルトが挙げられる。また、遷移金属塩は重合体性の対アニオンを有する、いわゆるアイオノマーであってもよい。
上記遷移金属塩の含有量の下限値としては、樹脂組成物に対して、金属元素換算で1ppmが好ましく、5ppmがより好ましく、10ppmがさらに好ましい。一方、この遷移金属塩の含有量の上限値は、50,000ppmが好ましく、10,000ppmがより好ましく、5,000ppmがさらに好ましい。遷移金属塩の含有量が上記下限より小さいと、得られる多層構造体の酸素掃去効果が不十分となるおそれがある。一方、遷移金属塩の含有量が上記上限を超えると、樹脂組成物の熱安定性が低下し、分解ガスの発生や、ゲル・ブツの発生が著しくなるおそれがある。
〈乾燥剤〉
A層及びB層を構成する樹脂組成物のその他の含有成分として、乾燥剤が挙げられる。この乾燥剤も、B層を構成する樹脂組成物が官能基含有樹脂を含む場合、特に好適に用いることができる。乾燥剤は、A層及びB層を構成する樹脂組成物のいずれにも含有させることができるが、A層の樹脂組成物に含有させることが好ましい。
上記乾燥剤は、水分を吸収し、与えられた環境から除去することができる物質である。当該多層構造体の樹脂組成物に含有することができる乾燥剤は、そのような性質を有するものである限り、特に限定されない。樹脂層の樹脂組成物がこのような乾燥剤を含有することによって乾燥状態に保たれるため、ガスバリア性樹脂を含む樹脂層のガスバリア性を高度に保つことができる。
このような乾燥剤としては、例えば、水和物形成性の塩類、すなわち結晶水として水分を吸収する塩類、とりわけリン酸塩、特にその無水物がその効果において最も適しているが、その他の水和物形成性の塩類、例えばホウ酸ナトリウム、硫酸ナトリウム等の塩類、特にその無水物も適しており、またその他の吸湿性化合物、例えば塩化ナトリウム、硝酸ナトリウム、砂糖、シリカゲル、ベントナイト、モレキュラーシーブ、高級水性樹脂等も使用可能である。これらは単独で又は複数種を使用することもできる。
上記乾燥剤はガスバリア性樹脂を含む樹脂層のマトリックス中に微細な粒子として分散されていることが好ましく、とりわけ乾燥剤粒子が長径10μm以上の粒子の体面積平均径が30μm以下、好適には25μm、最適には20μm以下であると効果的であり、かかる微細な分散状態を形成せしめると従来達せられたことのない高度なガスバリア性の多層構造体を得ることができる。このような微細な分散状態を有する組成物は目的にあった特殊な加工方法を注意深く組合せることによりはじめて達成することができる。
樹脂層を構成するガスバリア性樹脂と乾燥剤の使用比率は特に制限はないが、質量比で97:3〜50:50とりわけ95:5〜70:30の範囲の比率が好ましい。
樹脂層を構成する樹脂組成物中の乾燥剤粒子のうち長径10μm以上の粒子の体面積平均径がこの樹脂組成物を層として含む多層構造体のガスバリア性に大きい影響を与える。この理由は必ずしも明らかではないが、粒径が大きい粒子は吸湿効果あるいはガスバリア性樹脂のガスバリア性に特に不都合な効果を有するものと推定される。
上記乾燥剤の中でも、水和物を形成可能なリン酸塩が特に好ましい。多くのリン酸塩は複数の水分子を結晶水として含む水和物を形成するので、単位質量あたりの吸収する水の質量が多く、当該多層構造体のガスバリア性の向上への寄与が大きい。また、リン酸塩を含むことの可能な結晶水の分子数は、湿度の上昇に従って段階的に増加することが多いので、湿度環境の変化に伴って、徐々に水分を吸収することができる。
このようなリン酸塩としてはリン酸ナトリウム(NaPO)、リン酸三リチウム(LiPO)、リン酸水素二ナトリウム(NaHPO)、リン酸二水素ナトリウム(NaHPO)、ポリリン酸ナトリウム、リン酸リチウム、リン酸水素二リチウム、リン酸二水素リチウム、ポリリン酸リチウム、リン酸カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸一水素ナトリウム、ポリリン酸カリウム、リン酸カルシウム(Ca(PO)、リン酸水素カルシウム(CaHPO)、リン酸二水素カルシウム(Ca(HPO)、ポリリン酸カルシウム、リン酸アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、ポリリン酸アンモニウムなどが例示される。ここで、ポリリン酸塩は、二リン酸塩(ピロリン酸塩)、三リン酸塩(トリポリリン酸塩)などを含むものである。これらのリン酸塩のうち、結晶水を含まない無水物が好適である。また、リン酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウムが好適である。
上記リン酸塩は、通常粉体である。通常市販されているリン酸塩の粉体は、平均粒径が15〜25μmで、含まれる最大粒子の寸法が40〜100μmである。このような大きい粒子を含有する粉体を用いたのでは、当該多層構造体の樹脂層のガスバリア性が不十分になるおそれがある。当該多層構造体の樹脂層の厚さよりも大きい粒子を含有すると、ガスバリア性が大きく低下するおそれがある。従って、リン酸塩の粉体の粒径は、当該多層構造体の樹脂層の厚さ程度以下とすることが好ましい。
すなわち、リン酸塩の粉体は、その平均粒径が10μm以下であることが好ましい。平均粒径は、より好適には1μm以下である。このような平均粒径は例えば、光散乱法などによって粒度分析計を用いて測定することができる。
乾燥剤としてリン酸塩を用いる場合は、分散剤と共に配合するのが好ましい。このような分散剤を配合することによって、ガスバリア性樹脂を含む樹脂組成物中に乾燥剤であるリン酸塩を良好に分散させることができる。このような分散剤としては、例えば、脂肪酸塩、グリセリン脂肪酸エステル及び脂肪酸アミドなどが挙げられる。なお、芳香族カルボン酸のグリセリンエステルは、一般的に室温において液体であり、リン酸塩とドライブレンドするのに適していない。
上記脂肪酸塩としては、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム等が挙げられる。上記グリセリン脂肪酸エステルとしては、グリセリンモノステアリン酸エステル、モノデカノイルオクタノイルグリセリド等が挙げられる。上記脂肪酸アミドとしては、エチレンビスステアリン酸アミド等が挙げられる。
これらの分散剤のうちでも、リン酸塩粉体の滑り性改善や、溶融混練時の押出機のスクリーン閉塞防止の観点からは脂肪酸塩が好適に用いられる。中でも、カルシウム塩、亜鉛塩等が好適である。また、特に良好な分散性を得る観点からはグリセリン脂肪酸エステルが好適に用いられる。中でも、グリセリンのモノ又はジ脂肪酸エステルが好ましく、グリセリンモノ脂肪酸エステルがより好ましく、グリセリンモノステアリン酸エステルが特に好ましい。
また、これらの分散剤は、炭素数8〜40の化合物からなることが好ましい。このような範囲の炭素数を有することによって良好な分散性が得られる。より好適な炭素数の下限値は12であり、より好適な炭素数の上限値は30である。
分散剤の配合量はリン酸塩100質量部に対して1〜20質量部である。分散剤の含有量がリン酸塩100質量部に対して1質量部未満である場合、リン酸塩の凝集物の発生を抑制することができない。分散剤の含有量は、好適には2質量部以上であり、より好適には3質量部以上である。一方、分散剤の含有量がリン酸塩100重量部に対して20重量部を超える場合、樹脂組成物のペレットの滑りが大きくなりすぎて押出機へのフィードが困難になるとともに、多層構造体を製造する際の層間接着力が低下する。分散剤の含有量は、好適には15質量部以下であり、より好適には10質量部以下である。
〈A層及びB層の関係〉
当該多層構造体において、隣接するA層とB層との層間接着力は、450g/15mm以上が好ましく、500g/15mm以上がより好ましく、600g/15mm以上がさらに好ましく、700g/15mm以上がさらに好ましく、800g/15mm以上が特に好ましい。このようにA層とB層との層間接着力を上記範囲とすることで、非常に優れる層間接着性を有することとなり、当該多層構造体の高いガスバリア性等の特性が延伸や屈曲等の変形に対しても維持され、非常に高い耐久性を有している。ここで、A層とB層との層間接着力とは、幅15mmの測定試料を用い、23℃、50%RHの雰囲気下、オートグラフを用いて、引張速度250mm/分の条件で測定したA層とB層とのT型剥離強度の値(単位:g/15mm)をいう。
当該多層構造体の層間関係に関し、A層とB層との界面で積極的に結合反応を生じさせるとよい。上述のように金属塩の含有によりA層の樹脂組成物中のガスバリア性樹脂とB層の樹脂組成物中の熱可塑性樹脂との間で結合生成反応、例えばTPUのカーバメート基やポリアミドのアミノ基等とガスバリア性樹脂の水酸基等との間で起こる水酸基交換反応、TPU中の残存イソシアネート基へのガスバリア性樹脂の水酸基等の付加反応、ポリアミドの末端カルボキシル基とEVOHの水酸基とのアミド生成反応、その他ガスバリア性樹脂と官能基含有樹脂との間で起こる結合性反応等を生じさせることで、より高い層間接着性が発揮される。その結果、当該多層構造体のガスバリア性、耐久性等をより向上させることができる。
〈当該多層構造体の製造方法〉
当該多層構造体の製造方法は、A層とB層とが良好に積層・接着される方法であれば特に限定されるものではなく、例えば共押出し、はり合わせ、コーティング、ボンディング、付着などの公知の方法を採用することができる。当該多層構造体の製造方法としては、具体的には、(1)EVOH等のガスバリア性樹脂を含むA層用樹脂組成物と熱可塑性樹脂を含むB層用樹脂組成物とを用い、多層共押出法によりA層及びB層を有する多層構造体を製造する方法や、(2)EVOH等のガスバリア性樹脂を含むA層用樹脂組成物と熱可塑性樹脂を含むB層用樹脂組成物とを用い、まず共押出法によりA層となる層及びB層となる層を有する積層体を製造し、接着剤を介して複数の積層体を重ね合わせ、延伸することでA層及びB層を有する多層構造体を製造する方法などが例示される。この中でも、生産性が高く、層間接着性に優れる観点から、(1)のEVOH等のガスバリア性樹脂を含む樹脂組成物と熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物とを用いた多層共押出法により成形する方法が好ましい。
多層共押出法においては、A層の樹脂組成物とB層の樹脂組成物は加熱溶融され、異なる押出機やポンプからそれぞれの流路を通って押出ダイに供給され、押出ダイから多層に押し出された後に積層接着することで、当該多層構造体が形成される。この押出ダイとしては、例えばマルチマニホールドダイ、フィールドブロック、スタティックミキサーなどを用いることができる。
〈用途〉
当該多層構造体は、上述のように溶融成形性に優れ、高いガスバリア性及び耐久性を有している。そのため、当該多層構造体は、食品包装材、医療用容器包装材、その他の容器包装材、工業用シート材等、建築材用シート材、農業用シート材、その他のシート材、その他各種のパイプ等に用いることができる。
食品包装用としての用途である食品包装材としては、例えば、食品・菓子包装用の袋(フレキシブルパッケージ)、食品用ラップフィルム、スキンパックフィルム、ストレッチフィルム、シュリンクフィルム、レトルト容器等が挙げられる。当該多層構造体を備える食品包装材は、高いガスバリア性、延伸性、熱成形性及び耐久性を有しているため、長期保存性、耐レトルト性を高めることができ、このようなレトルト容器は金属缶の代替として用いることもできる。
その他の容器包装材としては、例えば、化粧品、工業薬品、農薬、肥料、洗剤等各種の容器包装材、ショッピングバッグ、ゴミ袋、コンポストバッグ、バッグインボックス、フレキシブルタンクなどが挙げられる。
バッグインボックスとは、折り畳み可能な薄肉内容器と、積み重ね性、持ち運び性、内容器保護性、印刷適性等を有するダンボール箱等の外箱とを組み合わせた容器のことである。外箱の基材としては段ボール紙の他に、プラスチックや金属であってもよく、形状についても箱形以外に、円柱形状などであってもよい。このバッグインボックスの内容器に本発明の多層構造体を好適に用いることができる。このバッグインボックスは、ワイン、ジュース、みりん、醤油、ソース、麺つゆ、牛乳、ミネラルウォーター、日本酒、焼酎、コーヒー、紅茶、各種食用油等の食料品や液体肥料、現像液、バッテリー液、他の工業用薬品等の非食品などの輸送、保管、陳列等に用いることができる。
フレキシブルタンクとは、柔軟性を有する基材で形成された容器をいい、この容器を支えるフレームを備えるもの、又は、フレームを備えず、容器に貯蔵される気体、液体等の圧力により形状を保つものがある。このフレキシブルタンクは、不使用時は折り畳めてコンパクトに収納でき、使用時には組立てて、あるいは拡げてタンクとして使用することができる。本発明の多層構造体をこのフレキシブルタンクの基材に用いることで、フレキシブルタンクの耐久性やガスバリア性を高めることができる。
工業用シート材等としては、例えば、デバイス封止材用フィルム、気体捕集フィルム、バイオリアクター等を挙げることができる。
デバイス封止材用フィルムとしては、例えば、太陽電池用のバックシートなど、優れた接着性、ガスバリア性、耐久性等が要求される各用途に好適に用いられる。
気体捕集フィルムとしては、排ガス分析のための捕集バッグや、燃料電池車の水素ステーションにおける水素捕集バッグ、燃料電池車の高圧水素容器の内面等に積層される水素バリアフィルム等が挙げられる。
バイオリアクターとは、生体触媒を用いて生化学反応を行う装置をいう。本発明の多層構造体は、このバイオリアクターの反応槽やパイプ等に好適に用いられることができる。当該多層構造体をバイオリアクターに用いることで、バイオリアクターのガスバリア性、耐久性等が向上し、また、熱成形性にも優れる。
建築材用シート材としては、例えば、真空断熱板、壁紙等を挙げることができる。本発明の多層構造体を備える真空断熱板は、ガスバリア性が高く、優れた真空保持能を発現することができる。また、本発明の多層構造体を備える壁紙は、延伸性、熱成形性に優れているため生産性及び施工性が向上し、また、耐久性に優れているため、長期間使用することができる。
農業用シート材としては、例えば、農業薫蒸用マルチフィルム、温室用フィルム等を挙げることができる。本発明の多層構造体を、例えば農業薫蒸用マルチフィルムとして用いると、ガスバリア性が高いため、薫蒸を効率よく行うことができ、また、耐久性に優れているため破れにくく、作業性が向上する。
その他のシート材としては、例えば、ジオメンブレン、ラドンバリアフィルム等として用いることができる。ジオメンブレンとは、廃棄物処理場などに遮水工として使用されるシートである。また、ラドンバリアフィルムは、ウラン廃棄物処理場において、ウランが崩壊して発生する気体状のラドンの拡散を防止するフィルムである。本発明の多層構造体は、上述のようにガスバリア性や耐久性等に優れているため、これらの用途にも好適に用いることができる。
なお、上述の各用途の分類は、一般的な使用に基づいてしたものであり、各製品がその分野の用途に限定されるものではない。例えば、真空断熱板は、建築材用シート材に用いる以外にも、工業用シート材等にも用いることができる。
本発明の多層構造体は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、A層及びB層以外に他の層を含んでいてもよい。この他の層を構成する樹脂組成物の種類は、特に限定されないが、A層及び/又はB層との間の接着性が高いものが好ましい。他の層としては、A層中のガスバリア性樹脂の有する水酸基等や、B層中の官能基(例えばTPUの分子鎖中のカーバメート基又はイソシアネート基)と反応して、結合を生成する官能基を有する分子鎖を有しているものが特に好ましい。
また、本発明の多層構造体は、上述の8層以上の樹脂層の積層体の両面又は片面に、支持層が積層されてもよい。この支持層としては特に限定されず、樹脂層でなくてもよく、例えば一般的な合成樹脂層、合成樹脂フィルム等も用いられる。また、支持層の積層手段としては、特に限定されず、接着剤による接着や押出ラミネートなどが採用される。
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(製造例1[EVOH1の製造])
冷却装置及び攪拌機を有する重合槽に酢酸ビニル20,000質量部、メタノール1020質量部、重合開始剤として2,2’−アゾビス−(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)3.5質量部を仕込み、攪拌しながら窒素置換後、エチレンを導入、内温60℃、エチレン圧力59Kg/cmに調節し、4時間、その温度及び圧力を保持、攪拌し重合させた。次いで、ソルビン酸(SA)10質量部(仕込み酢酸ビニルに対して0.05質量%)をメタノールに溶解し、1.5質量%溶液にして添加した。重合率は、仕込み酢酸ビニルに対して30%であった。この共重合反応液を追出に供給し、塔下部からのメタノール蒸気の導入により未反応酢酸ビニルを塔頂より除去した後、この共重合体の40質量%のメタノール溶液を得た。この共重合体はエチレン単位含有量44.5モル%、酢酸ビニル単位含有量55.5モル%であった。
この共重合体のメタノール溶液をケン化反応器に導入し、次いで水酸化ナトリウム/メタノール溶液(85g/L)を共重合体中の酢酸ビニル成分に対して0.5当量となるように添加し、更にメタノールを添加して共重合体濃度が15質量%になるように調整した。反応器内温度を60℃に昇温し、反応器内に窒素ガスを吹き込みながら5時間反応させた。その後、酢酸で中和し反応を停止させ内容物を反応器より取り出し、常温に放置し粒子状に析出した。析出後の粒子を遠心分離機で脱液しさらに大量の水を加え脱液する操作を繰り返し、ケン化度99.5%のEVOH1(密度:1.19g/cm)を得た。このEVOH1の融点は165℃であった。
(製造例2[EVOH2の製造])
冷却装置及び攪拌機を有する重合槽に酢酸ビニル20,000質量部、メタノール1020質量部、重合開始剤として2,2’−アゾビス−(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)3.5質量部を仕込み、攪拌しながら窒素置換後、エチレンを導入、内温60℃、エチレン圧力59Kg/cmに調節し、4時間、その温度及び圧力を保持、攪拌し重合させた。次いで、ソルビン酸(SA)10質量部(仕込み酢酸ビニルに対して0.05質量%)をメタノールに溶解し、1.5質量%溶液にして添加した。重合率は、仕込み酢酸ビニルに対して30%であった。この共重合反応液を追出に供給し、塔下部からのメタノール蒸気の導入により未反応酢酸ビニルを塔頂より除去した後、この共重合体の40質量%のメタノール溶液を得た。この共重合体はエチレン単位含有量44.5モル%、酢酸ビニル単位含有量55.5モル%であった。
この共重合体のメタノール溶液をケン化反応器に導入し、次いで水酸化ナトリウム/メタノール溶液(85g/L)を共重合体中の酢酸ビニル成分に対して0.5当量となるように添加し、更にメタノールを添加して共重合体濃度が15質量%になるように調整した。反応器内温度を60℃に昇温し、反応器内に窒素ガスを吹き込みながら5時間反応させた。その後、酢酸で中和し反応を停止させ内容物を反応器より取り出し、常温に放置し粒子状に析出した。析出後の粒子は遠心分離機で脱液しさらに大量の水を加え脱液する操作を繰り返し、ケン化度99.5%のEVOHを得た。
上記で得られたEVOHを用い、東芝機械社製二軸押出機「TEM−35BS」(37mmφ、L/D=52.5)を使用し、下記押出条件にて触媒添加下でEVOHにエポキシプロパンを反応させ、未反応のエポキシプロパンをベントより除去し、次いで触媒失活剤としてエチレンジアミン四酢酸三ナトリウム水和物8.2質量%水溶液を添加し、ペレット化を行った後、乾燥を行い、エチレン単位及びビニルアルコール単位以外の構造単位(II)として下記の構造を有するエポキシプロパン変性のエチレン−ビニルアルコール共重合体EVOH2(密度:1.13g/cm)を得た。
Figure 2012250356
シリンダー、ダイ温度設定:
樹脂フィード口/シリンダー部入口/アダプター/ダイ
=160/200/240/240(℃)
スクリュー回転数:400rpm
エチレン−ビニルアルコール共重合体フィード量:16kg/hr
エポキシプロパンフィード量:2.4kg/hrの割合(フィード時の圧力6MPa)
触媒溶液フィード量:0.32kg/hr
触媒調整:亜鉛アセチルアセトナート一水和物28質量部を、1,2−ジメトキシエタン957質量部と混合し、混合溶液を得た。得られた混合溶液に、攪拌しながらトリフルオロメタンスルホン酸15質量部を添加し、触媒溶液を得た。すなわち、亜鉛アセチルアセトナート一水和物1モルに対して、トリフルオロメタンスルホン酸1モルを混合した溶液を調整した。
触媒失活剤水溶液フィード量:0.16kg/hr
得られたEVOH2のエチレン単位及びビニルアルコール単位以外の構造単位(II)の導入量(エポキシブタン変性量)はH−NMR(内部標準物質:テトラメチルシラン、溶媒:d6−DMSO)の測定より、5.8モル%であった。また、このEVOH2の融点は106℃であった。
以下の製造例3〜6において、得られたTPUの流出開始温度及び溶融粘度は、以下の記載の方法に従って測定した。
(流出開始温度)
高化式フローテスターを用いて昇温法によって3℃間隔でポリマー流出速度を測定し(ノズル:孔径1mm,孔長10mm;荷重:100kgf;昇温速度:5℃/分)、ポリマー流出速度を1×10−3〜5×10−3ml/秒の範囲で温度に対してプロットし、流出速度が0ml/秒となる温度を外挿法によって求め、それを流出開始温度とした。
(溶融粘度)
高化式フローテスター(株式会社島津製作所製)を使用して、80℃で2時間減圧乾燥(1.3×10Pa〔10Torr〕以下)したTPUの溶融粘度を、荷重490.3N(50kgf)、ノズル寸法=直径1mm×長さ10mm、温度200℃の条件下で測定した。
(製造例3 TPU1)
数平均分子量が1000であるポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMEG)、1,4−ブタンジオール(1,4−BD)および4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)を、PTMEG:1,4−BD:MDI=1.0:1.2:2.2のモル比で、且つこれらの合計供給量が200g/分となるようにして同軸方向に回転する二軸スクリュー型押出機(30mmφ、L/D=36;加熱ゾーンを前部、中央部、後部の3つの帯域に分けた)の加熱ゾーンの前部に連続的に供給して、260℃で連続溶融重合させた。得られた溶融物をストランド状に水中に連続的に押し出し、次いでペレタイザーで切断して、得られたペレットを60℃で12時間除湿乾燥することによってTPU1を製造した。得られたTPU1の溶融粘度は1080Pa・s、流出開始温度は171℃であった。
(製造例4 TPU2)
上記製造例3の熱可塑性ポリウレタン組成をPTMEG:1,4−BD:MDI=1.0:1.4:2.4に変更した以外は、製造例3と同様にしてTPU2の製造を行った。得られたTPU2の溶融粘度は3210Pa・s、流出開始温度は185℃であった。
(製造例5 TPU3)
上記製造例3の熱可塑性ポリウレタン組成をPTMEG:1,4−BD:MDI=1.0:0.6:1.6に変更した以外は、製造例3と同様にしてTPU3の製造を行った。得られたTPU3の溶融粘度は1115Pa・s、流出開始温度は145℃であった。
(製造例6 TPU4)
上記製造例3の熱可塑性ポリウレタン組成をPTMEG:1,4−BD:MDI=1.0:0.4:1.4に変更した以外は、製造例3と同様にしてTPU4の製造を行った。得られたTPU4の溶融粘度は1043Pa・s、流出開始温度は123℃であった。
(製造例7[PA6の製造])
30L耐圧反応器に、ポリアミドモノマーとしてε−カプロラクタム(10kg)、分子量調節剤として1,6−ヘキサンジアミン(82g)、水(1.0kg)を仕込み、撹拌しながら260℃に加熱し0.5MPaの圧力まで昇圧した。その後、常圧まで放圧し、260℃で3時間重合した。重合の終了した時点で反応生成物をストランド状に払い出し、冷却、固化後、切断してナイロン6樹脂ペレットとした。得られたペレットを95℃の熱水で処理し、乾燥して、ポリアミドとしてナイロン6(PA6)を得た。得られたPA6の融点は225℃であった。
(製造例8[MAh−PEの製造])
MFRが2.4g/10分(190℃、2,160g荷重下)、密度0.92g/cmの低密度ポリエチレン100質量部、無水マレイン酸12質量部、t−ブチルベンゼン330質量部を混合し、窒素雰囲気にした後、160℃にて低密度ポリエチレンを溶解させた。溶解後、ジ−t−ブチルパーオキサイド1.7質量部をt−ブチルベンゼン17質量部に混合したものを攪拌しながら加え、2時間反応させた。次いで反応液を取り出し、室温で攪拌させることで、粉体にて樹脂を析出させた。得られた粉体をアセトンにて洗浄後、真空乾燥させることで白色粉末の無水マレイン酸変性低密度ポリエチレンMAh−PEを得た。得られたMAh−PEの融点は105℃であった。
[実施例1]
TPU1(外層)/9層のEVOH1(A層)及び8層のTPU1(B層)が交互に積層される多層構造/TPU(内層)の多層構造体を以下の方法で製造した。19層フィードブロックにて、共押出機に190℃の溶融状態として各樹脂を供給し、共押出を行い合流させることによって、多層構造体を得た。合流するEVOH1及びTPU1の溶融物は、フィードブロック内にて各層流路を表面側から中央側に向かうにつれ徐々に厚くなるように変化させることにより、押出された多層構造体の各層の厚みが均一になるように押出された。また、隣接するA層とB層の層厚みはほぼ同じになるようにスリット形状を設計した。このようにして得られた計19層からなる積層体を、表面温度25℃に保たれ静電印加したキャスティングドラム上で急冷固化した。急冷固化して得られたキャストフィルムを離型紙上に圧着し巻取りを行った。なお、EVOH1及びTPU1の溶融物が合流してからキャスティングドラム上で急冷固化されるまでの時間が約4分となるように流路形状及び総吐出量を設定した。
上記のようにして得られたキャストフィルムはDIGITAL MICROSCOPE VHX−900(KEYENCE社製)にて断面観察を行った結果、A層及びB層それぞれの平均厚みが1μm、外層及び内層の平均厚みが26μmである多層構造体であった。なお、各厚みはランダムに選択された9点での測定値の平均値とした。
[実施例2〜14、比較例1]
表1に記載されている樹脂を採用し、表1に記載のA層及びB層の厚みとなるように、かつ表1に記載の溶融温度で共押出を行ったこと以外は、実施例1と同様にして、これらの実施例及び比較例に係る多層構造体を製造した。なお、実施例11及び12ではポリアミド系エラストマー(PA Elas)としてアルケマ社製PEBAX MP1878(融点:195℃)を使用した。また、実施例13及び14ではスチレン系エラストマー(St Elas)として旭化成社製タフテック H1041X(未変性物)に旭化成社製タフテック M1911(無水マレイン酸変性物)を20質量%混合したもの(流出開始温度:180℃)を使用した。
表1中には、A層及びB層を形成する各樹脂(樹脂組成物)の伸張速度500(1/sec)における伸張粘度を、測定温度(共押出の際の溶融温度)と共に示す。なお、伸張粘度は、東洋精機社製のキャピログラフ1D型を用いて測定した。
(多層構造体の評価方法)
実施例1〜14及び比較例1で得られた多層構造体の各特性は、以下の記載の方法に従って評価した。これらの特性の評価結果を表1に示す。
(1)多層構造体の外観(溶融成形性の評価)
得られた多層構造物の流れ斑、ストリーク、及びフィッシュアイの有無を目視にて確認した。多層構造物の外観を、以下の基準に従って判断した。
◎:流れ斑、ストリーク、フィッシュアイは皆無に近かった。
○:流れ斑、ストリーク、フィッシュアイが存在するが、少なかった。
△:流れ斑、ストリーク、フィッシュアイが、目立つ程度に存在した。
×:流れ斑、ストリークが著しく、フィッシュアイが多数存在した。
(2)多層構造体の酸素透過速度(ガスバリア性の評価)
得られた多層構造体を、20℃−65%RHで5日間調湿し、調湿済みの多層構造体のサンプルを2枚使用して、モダンコントロ−ル社製 MOCON OX−TRAN2/20型を用い、20℃−65%RH条件下でJIS−K7126(等圧法)に記載の方法に準じて、酸素透過速度を測定し、その平均値を求めた(単位:mL・20μm/m・day・atm)。
(3)多層構造体の屈曲後酸素透過速度(屈曲後のガスバリア性の評価)
ASTM−F392−74に準じて、理学工業社製「ゲルボフレックステスター」を使用し、屈曲を5,000回繰り返した後、上記同様に多層構造体の酸素透過速度を測定した。
Figure 2012250356
表1の結果から、実施例の各多層構造体は、伸張粘度及びその比が適当である樹脂組成物をA層及びB層に用いているため、外観(溶融成形性)に優れ、その結果、ガスバリア性及び屈曲後のガスバリア性に優れることがわかる。
以上のように、本発明の多層構造体は、高いガスバリア性等の特性が延伸や屈曲等の変形に対しても維持されるので、食品包装材、各種容器などに好適に用いられる。

Claims (17)

  1. 8層以上の樹脂層を備える多層構造体であって、
    この樹脂層として、ガスバリア性樹脂を含む樹脂組成物からなるA層と、このA層に隣接し、熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物からなるB層とを有し、
    以下の測定条件下でのA層の樹脂組成物の伸張粘度ηとB層の樹脂組成物の伸張粘度ηとが共に1,000Pa・s以上であり、かつ、この伸張粘度比η/ηが0.02以上50以下であることを特徴とする多層構造体。
    (測定条件)
    温度:A層の樹脂組成物の融点及びB層の樹脂組成物の融点における高い方の融点(融点がない樹脂組成物については流出開始温度)より25℃高い温度
    伸張速度:500(1/sec)
  2. 上記A層とB層とが交互に積層されている請求項1に記載の多層構造体。
  3. 上記A層及び/又はB層の一層の平均厚みが0.01μm以上10μm以下である請求項1又は請求項2に記載の多層構造体。
  4. 上記A層の樹脂組成物の伸張粘度ηとこの一層の平均厚みTとの積η・T、及び上記B層の樹脂組成物の伸張粘度ηとこの一層の平均厚みTとの積η・Tが、共に500Pa・s・μm以上500,000Pa・s・μm以下である請求項1、請求項2又は請求項3に記載の多層構造体。
  5. 上記積η・Tとη・Tとの比(η・T)/(η・T)が0.01以上100以下である請求項4に記載の多層構造体。
  6. 厚みが0.1μm以上1,000μm以下である請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の多層構造体。
  7. 上記ガスバリア性樹脂が、エチレン−ビニルアルコール共重合体である請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の多層構造体。
  8. 上記エチレン−ビニルアルコール共重合体のエチレン単位含有量が3モル%以上70モル%以下である請求項7に記載の多層構造体。
  9. 上記エチレン−ビニルアルコール共重合体のケン化度が80モル%以上である請求項7又は請求項8に記載の多層構造体。
  10. 上記エチレン−ビニルアルコール共重合体が、下記構造単位(I)及び(II)からなる群より選ばれる少なくとも1種を有し、
    これらの構造単位(I)又は(II)の全構造単位に対する含有量が0.5モル%以上30モル%以下である請求項7、請求項8又は請求項9に記載の多層構造体。
    Figure 2012250356
    Figure 2012250356
    (式(I)中、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基、炭素数6〜10の芳香族炭化水素基又は水酸基を表す。また、R、R及びRのうちの一対が結合していてもよい(但し、R、R及びRのうちの一対が共に水素原子の場合は除く)。また、上記炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基又は炭素数6〜10の芳香族炭化水素基は、水酸基、カルボキシル基又はハロゲン原子を有していてもよい。
    式(II)中、R、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基、炭素数6〜10の芳香族炭化水素基又は水酸基を表す。また、RとR又はRとRとは結合していてもよい(但し、RとR又はRとRが共に水素原子の場合は除く)。また、上記炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基又は炭素数6〜10の芳香族炭化水素基は、水酸基、アルコキシ基、カルボキシル基又はハロゲン原子を有していてもよい。)
  11. 上記熱可塑性樹脂が、熱可塑性ポリウレタン、ポリアミド、上記ガスバリア性樹脂の有する基と反応し得る官能基を分子内に有する樹脂、及びエラストマーからなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂である請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の多層構造体。
  12. 上記熱可塑性樹脂がポリアミドを含み、このポリアミドがハードセグメントにナイロンを有するブロックコポリマーからなるポリアミド系エラストマーである請求項11に記載の多層構造体。
  13. 上記ポリアミド系エラストマーのハードセグメントがナイロン6からなる請求項12に記載の多層構造体。
  14. 上記熱可塑性樹脂が、上記ガスバリア性樹脂の有する基と反応し得る官能基を分子内に有する樹脂を含み、
    この樹脂が、カルボン酸変性ポリオレフィン及びその金属塩、ボロン酸基又は水の存在下でボロン酸基に転化し得るホウ素含有基を有する熱可塑性樹脂、並びにビニルエステル系共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂である請求項11に記載の多層構造体。
  15. 上記熱可塑性樹脂が、エラストマーを含み、
    このエラストマーが、上記ガスバリア性樹脂の有する基と反応し得る官能基を分子内に有するスチレン系エラストマーである請求項11に記載の多層構造体。
  16. 上記A層とB層との界面で結合反応が生じている請求項1から請求項15のいずれか1項に記載の多層構造体。
  17. 請求項1から請求項16のいずれか1項に記載の多層構造体の製造方法であって、
    ガスバリア性樹脂を含む樹脂組成物と熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物とを用いた多層共押出法により成形することを特徴とする多層構造体の製造方法。
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