以下、本発明の多層構造体及びその製造方法並びに容器の実施形態について、適宜図面を参照にしつつ詳述する。
(多層構造体)
図1の多層構造体10は、ガスバリア性樹脂を含む樹脂組成物からなるA層1(ガスバリア層)と、熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物からなるB層2とを備える。A層1とB層2とは、B層2が最表面となるように交互に積層されている。つまり、(AB)nAの積層構造を有している。具体的には、具体的には、一方の面から順に第一のB層2a、第一のA層1a、第二のB層2b及び第二のA層1bが積層されている。
第一のB層2aの平均厚みの下限は、0.01μmであり、0.05μmが好ましく、0.1μmがさらに好ましく、0.3μmが特に好ましい。一方、第一のB層2aの平均厚みの上限は、20μmであり、10μmが好ましく、7μmがより好ましく、5μmがさらに好ましく、2μmが特に好ましい。当該多層構造体10は、このように、最表面に積層され、熱可塑性樹脂を含む第一のB層が上記範囲の厚みで薄く設けられている。このため、当該多層構造体10によれば、第一のB層2a同士又はこの層2aとガスバリア層を有する他の材料とを熱融着させた際、この熱融着部分におけるガスバリア層間距離(後に詳述する図2中の距離X参照)が短く、優れたガスバリア性を発揮することができる。
第一のB層2aの平均厚みが上記下限未満の場合は、十分な熱可塑性樹脂の厚み及び量が無いため熱融着性が低く、熱融着部分におけるガスバリア性が低下する。逆に、第一のB層2aの平均厚みが上記上限を超える場合は、熱融着部分におけるガスバリア層間距離が長くなり、この部分におけるガスバリア性が低下する。
第一のA層1a及び第二のB層2bそれぞれの平均厚みの下限は、0.01μmであり、0.05μmが好ましく、0.1μmがさらに好ましく、0.3μmが特に好ましい。一方、これらの層の平均厚みの上限は、10μmであり、7μmが好ましく、5μmがより好ましく、2μmがさらに好ましい。当該多層構造体10は、このように、最表面の第一のB層2aに隣接する第一のA層1a(ガスバリア層)の厚みも上記範囲に薄く設けていることで、薄い第一のA層1aを2つのB層(2a及び2b)で挟んだ構造となり、その結果、少なくとも熱融着される面側の柔軟性に優れる。従って、当該多層構造体10によれば、熱融着部分における振動や変形等によるクラックや剥離の発生を抑制することができる。さらに、当該多層構造体10は、表面から第二のA層1b(ガスバリア層)までの距離も短いため、第一のA層1aが十分に機能しない場合も、熱融着部分等におけるガスバリア性の低下を抑えることができる。
A層1及びB層2の層数としては、それぞれ4層以上が好ましく、5層以上がより好ましく、7層以上がさらに好ましく、9層以上が特に好ましい。このようにA層とB層を計8層以上交互に積層することで、より優れた柔軟性及び積層される各層間に高い接着性を発現することができる。その結果、当該多層構造体を用いた熱融着部分等のガスバリア性を格段に向上させることができる。また、このような8層以上の多層構造とすることで、ピンホール、割れなどの欠陥が連続して発生することを抑制できる結果、当該多層構造体は高いガスバリア性、耐久性等の特性を有している。
A層一層の平均厚みの下限としては、0.01μmが好ましく、0.05μmがより好ましく、0.1μmがさらに好ましい。一方、A層一層の平均厚みの上限としては、10μmが好ましく、7μmがより好ましく、5μmがさらに好ましく、2μmが特に好ましい。A層一層の平均厚みが上記下限より小さいと、均一な厚さで成形することが困難になり、当該多層構造体10のガスバリア性及びその耐久性が低下するおそれがある。逆に、A層一層の平均厚みが上記上限を超えると、当該多層構造体10全体の平均厚みが同じである場合、層数を多くすることが困難になり、上述の多層によるガスバリア性向上効果が期待できなくなるおそれがあり、また、当該多層構造体10の柔軟性、延伸性、熱成形性等が低下するおそれがある。なお、A層の一層の平均厚みとは、当該多層構造体10に含まれる全A層の厚みの合計をA層の層数で除した値をいう。
同様の理由により、B層一層の平均厚みの下限としては、0.01μmが好ましく0.05μmがより好ましく、0.1μmがさらに好ましい。一方、B層一層の平均厚みの上限としては、10μmが好ましく、7μmがより好ましく、5μmがさらに好ましく、2μmが特に好ましい。なお、B層の一層の平均厚みも、当該多層構造体10に含まれる全B層の厚みの合計をB層の層数で除した値をいう。
当該多層構造体10の厚みの下限としては、0.1μmが好ましく、1μmがより好ましく、5μmがさらに好ましい。一方、当該多層構造体10の厚みの上限としては、1,000μmが好ましく、700μmがより好ましく、500μmがさらに好ましい。当該多層構造体10の厚みが上記下限より小さいと、強度が不足し、使用が困難になるおそれがある。逆に、当該多層構造体10の厚みが上記上限を超えると、柔軟性、成形性等が低下し、製造コストの上昇を招来するおそれがある。ここで、多層構造体10の厚みは、多層構造体の任意に選ばれた点での断面の厚みを測定することにより得られる。
〈A層〉
A層は、ガスバリア性樹脂を含む樹脂組成物からなる層である。なお、各A層は、単一の樹脂組成物からなるものでもよく、ガスバリア性樹脂を含む限り、複数種類の樹脂組成物からなるものでもよい。A層を構成する樹脂組成物がガスバリア性樹脂を含むことでガスバリア性に優れる多層構造体を得ることができる。
ガスバリア性樹脂とは、気体の透過を防止する機能を有する樹脂であり、具体的には20℃−65%RH条件下で、JIS−K7126(等圧法)に記載の方法に準じて測定した酸素透過速度が、100mL・20μm/(m2・day・atm)以下の樹脂をいう。なお、本発明に用いられるガスバリア性樹脂の酸素透過速度は、50mL・20μm/(m2・day・atm)以下が好ましく、10mL・20μm/(m2・day・atm)以下がさらに好ましい。
このようなガスバリア性樹脂としては、エチレン−ビニルアルコール共重合体(以下、「EVOH」ともいう。)、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニリデン、アクリロニトリル共重合体、ポリフッ化ビニリデン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリビニルアルコール等を挙げることができる。
これらのガスバリア性樹脂の中でも、ガスバリア性の点から、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂EVOH、が好ましく、より優れたガスバリア性に加え、溶融成形性、B層との接着性などの点からEVOHが特に好ましい。
〈ポリアミド樹脂〉
上記ポリアミド樹脂は、アミド結合を有するポリマーであり、ラクタムの開環重合、又はアミノカルボン酸若しくはジアミンとジカルボン酸との重縮合等によって得ることができる。
上記ラクタムとしては、例えばε−カプロラクタム、ω−ラウロラクタム等を挙げることができる。
上記アミノカルボン酸としては、例えば6−アミノカプロン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸、パラアミノメチル安息香酸等を挙げることができる。
上記ジアミンとしては、例えばテトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、5−メチルノナメチレンジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1−アミノー3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、アミノエチルピペラジン等を挙げることができる。
上記ジカルボン酸としては、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、デカリンジカルボン酸、ノルボルナンジカルボン酸、トリシクロデカンジカルボン酸、ペンタシクロドデカンジカルボン酸、イソホロンジカルボン酸、3,9−ビス(2−カルボキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、トリカルバリル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2−メチルテレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸、テトラリンジカルボン酸等を挙げることができる。
ポリアミド樹脂を合成する際の重縮合の方法としては、例えば、溶融状態において重縮合する方法や、一旦溶融状態で重縮合して低粘度ポリアミドを得た後、固相状態で加熱処理する方法(いわゆる固相重合)を挙げることができる。溶融状態における重縮合方法としては、例えばジアミンとジカルボン酸とのナイロン塩の水溶液を加圧下で加熱し、水及び縮合水を除きながら溶融状態で重縮合させる方法、ジアミンを溶融状態のジカルボン酸に直接加えて、常圧下で重縮合する方法等を挙げることができる。
上記化合物等の重縮合物である具体的なポリアミド樹脂としては、例えば、ポリカプロラクタム(ナイロン6)、ポリラウロラクタム(ナイロン12)、ポリヘキサメチレンジアジパミド(ナイロン66)、ポリヘキサメチレンアゼラミド(ナイロン69)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ナイロン46、ナイロン6/66、ナイロン6/12、11−アミノウンデカン酸の縮合生成物(ナイロン11)等の脂肪族系ポリアミド樹脂や、ポリヘキサメチレンイソフタラミド(ナイロン6IP)、メタキシレンジアミン/アジピン酸共重合体(ナイロンMXD6)、メタキシレンジアミン/アジピン酸/イソフタル酸共重合体等の芳香族系ポリアミド樹脂等を挙げることができる。これらは、1種又は2種以上を混合して用いることができる。
これらのポリアミド樹脂の中でも、優れたガスバリア性を有するナイロンMXD6が好ましい。このナイロンMXD6のジアミン成分としては、メタキシリレンジアミンが70モル%以上含まれることが好ましく、ジカルボン酸成分としては、アジピン酸が70モル%以上含まれることが好ましい。ナイロンMXD6が上記配合範囲のモノマーから得られることで、より優れたガスバリア性や機械的性能を発揮することができる。
〈ポリエステル樹脂〉
上記ポリエステル樹脂とは、エステル結合を有するポリマーであり、多価カルボン酸とポリオールとの重縮合等によって得ることができる。当該多層構造体のガスバリア性樹脂として用いられるポリエステル樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリグリコール酸(PGA)、芳香族系液晶ポリエステル等を挙げることができる。これらは1種又は2種以上を混合して用いることができる。これらのポリエステル樹脂の中でも、ガスバリア性の高さの点から、PGA及び全芳香族系液晶ポリエステルが好ましい。
〈PGA〉
PGAは、−O−CH2−CO−で表される構造単位(GA)を有する単独重合体又は共重合体である。PGAにおける上記構造単位(GA)の含有割合は、60質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましい。また、この上限としては100質量%が好ましい。構造単位(GA)の含有割合が上記下限より小さいと、ガスバリア性が十分に発揮されないおそれがある。
PGAの製造方法としては、(1)グリコール酸の脱水重縮合により合成する方法、(2)グリコール酸アルキルエステルの脱アルコール重縮合により合成する方法、(3)グリコリド(1,4−ジオキサン−2,5−ジオン)の開環重合により合成する方法等を挙げることができる。
共重合体としてのPGAを合成する方法としては、上記の各合成方法において、コモノマーとして、例えば、
シュウ酸エチレン(1,4−ジオキサン−2,3−ジオン)、ラクチド、ラクトン類(例えば、β−プロピオラクトン、β−ブチロラクトン、ピバロラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、β−メチル−δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン等)、トリメチレンカーボネート、1,3−ジオキサン等の環状モノマー;
乳酸、3−ヒドロキシプロパン酸、3−ヒドロキシブタン酸、4−ヒドロキシブタン酸、6−ヒドロキシカプロン酸等のヒドロキシカルボン酸又はそのアルキルエステル;
エチレングリコール、1,4−ブタンジオール等の脂肪族ジオールと、コハク酸、アジピン酸等の脂肪族ジカルボン酸又はそのアルキルエステルとの実質的に等モルの混合物;
等を、グリコリド、グリコール酸又はグリコール酸アルキルエステルと適宜組み合わせて共重合する方法を挙げることができる。
上記(3)の開環重合の具体的方法としては、グリコリドを少量の触媒(例えば、有機カルボン酸スズ、ハロゲン化スズ、ハロゲン化アンチモン等のカチオン触媒)の存在下で約120℃〜約250℃の温度に加熱して行う方法が挙げられる。この開環重合は、塊状重合法又は溶液重合法によることが好ましい。
上記開環重合において、モノマーとして使用するグリコリドは、グリコール酸オリゴマーの昇華解重合法や、溶液相解重合法等によって得ることができる。
上記溶液相解重合法としては、例えば(1)グリコール酸オリゴマーと230〜450℃の範囲内の沸点を有する少なくとも1種の高沸点極性有機溶媒とを含む混合物を、常圧下または減圧下に、このオリゴマーの解重合が起こる温度に加熱して、(2)このオリゴマーの融液相の残存率(容積比)が0.5以下になるまで、このオリゴマーを溶媒に溶解させ、(3)同温度でさらに加熱を継続してこのオリゴマーを解重合させ、(4)生成した2量体環状エステル(グリコリド)を高沸点極性有機溶媒と共に留出させ、(5)留出物からグリコリドを回収する方法を挙げることができる。
上記高沸点極性有機溶媒としては、例えばジ(2−メトキシエチル)フタレート等のフタル酸ビス(アルコキシアルキルエステル)、ジエチレングリコールジベンゾエート等のアルキレングリコールジベンゾエート、ベンジルブチルフタレートやジブチルフタレート等の芳香族カルボン酸エステル、トリクレジルホスフェート等の芳香族リン酸エステル等を挙げることができる。また、高沸点極性有機溶媒と共に、必要に応じて、オリゴマーの可溶化剤として、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、テトラエチレングリコールなどを併用することができる。
〈全芳香族系液晶ポリエステル〉
全芳香族系液晶ポリエステルは、モノマーである多価カルボン酸とポリオールとが共に芳香族系の化合物である液晶性のポリエステルである。この全芳香族系液晶ポリエステルは、通常のポリエステルと同様、公知の方法で重合して得ることができる。
芳香族系の多価カルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸、3,3’−ビフェニルジカルボン酸、4,4’−メチレンジ安息香酸、ジフェン酸などを挙げることができる。これらは1種または2種以上を混合して用いることができる。
芳香族系のポリオールとしては、ヒドロキノン、メチルヒドロキノン、4,4’−ジヒドロキシジフェニル、レゾルシノール、フェニルヒドロキノン、3,4’−ビスフェノールA等を挙げることができる。これらは1種または2種以上を混合して用いることができる。
また、全芳香族系液晶ポリエステルは、ヒドロキシ安息香酸、ヒドロキシナフトエ酸等のヒドロキシ基及びカルボキシル基を有する芳香族化合物等を重合することにより、または上記芳香族系の多価カルボン酸及び芳香族系のポリオールを共重合することによっても得ることができる。
〈EVOH〉
以下、本発明の多層構造体のガスバリア性樹脂として好適に用いられるEVOHについて詳説する。
A層の樹脂組成物に含まれるEVOHは、主構造単位として、エチレン単位及びビニルアルコール単位を有する。なお、このEVOHとしては、エチレン単位及びビニルアルコール単位以外に、他の構造単位を1種類又は複数種含んでいてもよい。
このEVOHは、通常、エチレンとビニルエステルとを重合し、得られるエチレン−ビニルエステル共重合体をケン化して得られる。
EVOHのエチレン単位含有量(すなわち、EVOH中の単量体単位の総数に対するエチレン単位の数の割合)の下限としては、3モル%が好ましく、10モル%がより好ましく、20モル%がさらに好ましく、25モル%が特に好ましい。一方、EVOHのエチレン単位含有量の上限としては、70モル%が好ましく、60モル%がより好ましく、55モル%がさらに好ましく、50モル%が特に好ましい。EVOHのエチレン単位含有量が上記下限より小さいと、多層構造体の耐水性、耐熱水性、及び高湿度下でのガスバリア性が低下するおそれや、多層構造体の溶融成形性が悪化するおそれがある。逆に、EVOHのエチレン単位含有量が上記上限を超えると、当該多層構造体のガスバリア性が低下するおそれがある。
EVOHのケン化度(すなわち、EVOH中のビニルアルコール単位及びビニルエステル単位の総数に対するビニルアルコール単位の数の割合)の下限としては、80モル%が好ましく、95モル%がより好ましく、99モル%が特に好ましい。一方、EVOHのケン化度の上限としては99.99モル%が好ましい。EVOHのケン化度が上記下限より小さいと、溶融成形性が低下するおそれがあり、加えて当該多層構造体のガスバリア性が低下するおそれや、耐着色性や耐湿性が不満足なものとなるおそれがある。逆に、EVOHのケン化度が上記上限を超えると、EVOHの製造コストの増加に対するガスバリア性等の上昇もそれほど期待できない。かかるEVOHは単独で用いることも可能であるが、ケン化度が99モル%を超えるEVOHとブレンドして用いる実施形態も好適である。
EVOHの1,2−グリコール結合構造単位の含有量G(モル%)が下記式(2)を満たし、かつ固有粘度が0.05L/g以上0.2L/g以下が好ましい。下記式(2)中EはEVOH中のエチレン単位含有量(モル%)(但し、E≦64(モル%))である。
G≦1.58−0.0244×E ・・・(2)
A層の樹脂組成物がこのような1,2−グリコール結合構造単位の含有量G及び固有粘度を有するEVOHを含むことによって、得られる多層構造体のガスバリア性の湿度依存性が小さくなるという特性が発揮されると共に、良好な透明性及び光沢を有し、また他の熱可塑性樹脂との積層も容易になる。従って、当該多層構造体の食品包装用等の材料としての適性を向上することができる。なお、1,2−グリコール結合構造単位の含有量GはS.Aniyaら(Analytical Science Vol.1,91(1985))に記載された方法に準じて、EVOH試料をジメチルスルホキシド溶液とし、温度90℃における核磁気共鳴法によって測定することができる。
EVOHは、上記構造単位(I)及び(II)からなる群より選ばれる少なくとも1種を有することが好ましい。上記構造単位(I)又は(II)の全構造単位に対する含有量の下限としては、0.5モル%が好ましく、1モル%がより好ましく、1.5モル%がさらに好ましい。一方上記構造単位(I)又は(II)の含有量の上限としては、30モル%が好ましく、15モル%がより好ましく、10モル%がさらに好ましい。A層の樹脂組成物が上記(I)又は(II)に示す構造単位を上記範囲の割合で有することによって、A層を構成する樹脂組成物の柔軟性及び加工特性が向上する結果、熱融着部分のガスバリア性、当該多層構造体の延伸性及び熱成形性を向上することができる。
上記構造単位(I)及び(II)において、上記炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基としてはアルキル基、アルケニル基等が挙げられ、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基としてはシクロアルキル基、シクロアルケニル基等が挙げられ、炭素数6〜10の芳香族炭化水素基としてはフェニル基等が挙げられる。
上記構造単位(I)において、上記R1、R2及びR3は、それぞれ独立に水素原子、メチル基、エチル基、水酸基、ヒドロキシメチル基又はヒドロキシエチル基であることが好ましく、これらの中でも、それぞれ独立に水素原子、メチル基、水酸基又はヒドロキシメチル基であることがさらに好ましい。そのようなR1、R2及びR3であることによって、当該多層構造体のガスバリア性、延伸性及び熱成形性等をさらに向上させることができる。
EVOH中に上記構造単位(I)を含有させる方法については、特に限定されないが、例えば、上記エチレンとビニルエステルとの重合において、構造単位(I)に誘導されるモノマーを共重合させる方法などが挙げられる。この構造単位(I)に誘導されるモノマーとしては、プロピレン、ブチレン、ペンテン、ヘキセンなどのアルケン;3−ヒドロキシ−1−プロペン、3−アシロキシ−1−プロペン、3−アシロキシ−1−ブテン、4−アシロキシ−1−ブテン、3,4−ジアシロキシ−1−ブテン、3−アシロキシ−4−ヒドロキシ−1−ブテン、4−アシロキシ−3−ヒドロキシ−1−ブテン、3−アシロキシ−4−メチル−1−ブテン、4−アシロキシ−2−メチル−1−ブテン、4−アシロキシ−3−メチル−1−ブテン、3,4−ジアシロキシ−2−メチル−1−ブテン、4−ヒドロキシ−1−ペンテン、5−ヒドロキシ−1−ペンテン、4,5−ジヒドロキシ−1−ペンテン、4−アシロキシ−1−ペンテン、5−アシロキシ−1−ペンテン、4,5−ジアシロキシ−1−ペンテン、4−ヒドロキシ−3−メチル−1−ペンテン、5−ヒドロキシ−3−メチル−1−ペンテン、4,5−ジヒドロキシ−3−メチル−1−ペンテン、5,6−ジヒドロキシ−1−ヘキセン、4−ヒドロキシ−1−ヘキセン、5−ヒドロキシ−1−ヘキセン、6−ヒドロキシ−1−ヘキセン、4−アシロキシ−1−ヘキセン、5−アシロキシ−1−ヘキセン、6−アシロキシ−1−ヘキセン、5,6−ジアシロキシ−1−ヘキセンなどの水酸基やエステル基を有するアルケンが挙げられる。その中で、共重合反応性、及び得られる多層構造体のガスバリア性の観点からは、プロピレン、3−アシロキシ−1−プロペン、3−アシロキシ−1−ブテン、4−アシロキシ−1−ブテン、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンが好ましい。具体的には、その中でも、プロピレン、3−アセトキシ−1−プロペン、3−アセトキシ−1−ブテン、4−アセトキシ−1−ブテン、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンが好ましく、その中でも、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンが特に好ましい。エステルを有するアルケンの場合は、ケン化反応の際に、上記構造単位(I)に誘導される。
上記構造単位(II)において、R4及びR5は共に水素原子であることが好ましい。特に、R4及びR5が共に水素原子であり、上記R6及びR7のうちの一方が炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、他方が水素原子であることがより好ましい。この脂肪族炭化水素基は、アルキル基又はアルケニル基が好ましい。当該多層構造体のガスバリア性を特に重視する観点からは、R6及びR7のうちの一方がメチル基又はエチル基、他方が水素原子であることが特に好ましい。また上記R6及びR7のうちの一方が(CH2)hOHで表される置換基(但し、hは1〜8の整数)、他方が水素原子であることも特に好ましい。この(CH2)hOHで表される置換基において、hは、1〜4の整数であることが好ましく、1又は2であることがより好ましく、1であることが特に好ましい。
EVOH中に上記構造単位(II)を含有させる方法については、特に限定されないが、ケン化反応によって得られたEVOHに一価エポキシ化合物を反応させることにより含有させる方法などが用いられる。一価エポキシ化合物としては、下記式(III)〜(IX)で示される化合物が好適に用いられる。
上記式(III)〜(IX)中、R8、R9、R10、R11及びR12は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基(アルキル基又はアルケニル基など)、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基(シクロアルキル基又はシクロアルケニル基など)又は炭素数6〜10の脂肪族炭化水素基(フェニル基など)を表す。また、i、j、k、p及びqは、1〜8の整数を表す。
上記式(III)で表される一価エポキシ化合物としては、例えばエポキシエタン(エチレンオキサイド)、エポキシプロパン、1,2−エポキシブタン、2,3−エポキシブタン、3−メチル−1,2−エポキシブタン、1,2−エポキシペンタン、2,3−エポキシペンタン、3−メチル−1,2−エポキシペンタン、4−メチル−1,2−エポキシペンタン、4−メチル−2,3−エポキシペンタン、3−エチル−1,2−エポキシペンタン、1,2−エポキシヘキサン、2,3−エポキシヘキサン、3,4−エポキシヘキサン、3−メチル−1,2−エポキシヘキサン、4−メチル−1,2−エポキシヘキサン、5−メチル−1,2−エポキシヘキサン、3−エチル−1,2−エポキシヘキサン、3−プロピル−1,2−エポキシヘキサン、4−エチル−1,2−エポキシヘキサン、5−メチル−1,2−エポキシヘキサン、4−メチル−2,3−エポキシヘキサン、4−エチル−2,3−エポキシヘキサン、2−メチル−3,4−エポキシヘキサン、2,5−ジメチル−3,4−エポキシヘキサン、3−メチル−1,2−エポキシヘプタン、4−メチル−1,2−エポキシヘプタン、5−メチル−1,2−エポキシヘプタン、6−メチル−1,2−エポキシヘプタン、3−エチル−1,2−エポキシヘプタン、3−プロピル−1,2−エポキシヘプタン、3−ブチル−1,2−エポキシヘプタン、4−エチル−1,2−エポキシヘプタン、4−プロピル−1,2−エポキシヘプタン、5−エチル−1,2−エポキシヘプタン、4−メチル−2,3−エポキシヘプタン、4−エチル−2,3−エポキシヘプタン、4−プロピル−2,3−エポキシヘプタン、2−メチル−3,4−エポキシヘプタン、5−メチル−3,4−エポキシヘプタン、5−エチル−3,4−エポキシヘプタン、2,5−ジメチル−3,4−エポキシヘプタン、2−メチル−5−エチル−3,4−エポキシヘプタン、1,2−エポキシヘプタン、2,3−エポキシヘプタン、3,4−エポキシヘプタン、1,2−エポキシオクタン、2,3−エポキシオクタン、3,4−エポキシオクタン、4,5−エポキシオクタン、1,2−エポキシノナン、2,3−エポキシノナン、3,4−エポキシノナン、4,5−エポキシノナン、1,2−エポキシデカン、2,3−エポキシデカン、3,4−エポキシデカン、4,5−エポキシデカン、5,6−エポキシデカン、1,2−エポキシウンデカン、2,3−エポキシウンデカン、3,4−エポキシウンデカン、4,5−エポキシウンデカン、5,6−エポキシウンデカン、1,2−エポキシドデカン、2,3−エポキシドデカン、3,4−エポキシドデカン、4,5−エポキシドデカン、5,6−エポキシドデカン、6,7−エポキシドデカン、エポキシエチルベンゼン、1−フェニル−1,2−プロパン、3−フェニル−1,2−エポキシプロパン、1−フェニル−1,2−エポキシブタン、3−フェニル−1,2−エポキシペンタン、4−フェニル−1,2−エポキシペンタン、5−フェニル−1,2−エポキシペンタン、1−フェニル−1,2−エポキシヘキサン、3−フェニル−1,2−エポキシヘキサン、4−フェニル−1,2−エポキシヘキサン、5−フェニル−1,2−エポキシヘキサン、6−フェニル−1,2−エポキシヘキサン等が挙げられる。
上記式(IV)で表される一価エポキシ化合物としては、例えばメチルグリシジルエーテル、エチルグリシジルエーテル、n−プロピルグリシジルエーテル、イソプロピルグリシジルエーテル、n−ブチルグリシジルエーテル、イソブチルグリシジルエーテル、tert−ブチルグリシジルエーテル、1,2−エポキシ−3−ペンチルオキシプロパン、1,2−エポキシ−3−ヘキシルオキシプロパン、1,2−エポキシ−3−ヘプチルオキシプロパン、1,2−エポキシ−4−フェノキシブタン、1,2−エポキシ−4−ベンジルオキシブタン、1,2−エポキシ−5−メトキシペンタン、1,2−エポキシ−5−エトキシペンタン、1,2−エポキシ−5−プロポキシペンタン、1,2−エポキシ−5−ブトキシペンタン、1,2−エポキシ−5−ペンチルオキシペンタン、1,2−エポキシ−5−ヘキシルオキシペンタン、1,2−エポキシ−5−フェノキシペンタン、1,2−エポキシ−6−メトキシヘキサン、1,2−エポキシ−6−エトキシヘキサン、1,2−エポキシ−6−プロポキシヘキサン、1,2−エポキシ−6−ブトキシヘキサン、1,2−エポキシ−6−ヘプチルオキシヘキサン、1,2−エポキシ−7−メトキシヘプタン、1,2−エポキシ−7−エトキシヘプタン、1,2−エポキシ−7−プロポキシヘプタン、1,2−エポキシ−7−ブトキシヘプタン、1,2−エポキシ−8−メトキシオクタン、1,2−エポキシ−8−エトキシオクタン、1,2−エポキシ−8−ブトキシオクタン、グリシドール、3,4−エポキシ−1−ブタノール、4,5−エポキシ−1−ペンタノール、5,6−エポキシ−1−ヘキサノール、6,7−エポキシ−1−ヘプタノール、7,8−エポキシ−1−オクタノール、8,9−エポキシ−1−ノナノール、9,10−エポキシ−1−デカノール、10,11−エポキシ−1−ウンデカノール等が挙げられる。
上記式(V)で表される一価エポキシ化合物としては、例えばエチレングリコールモノグリシジルエーテル、プロパンジオールモノグリシジルエーテル、ブタンジオールモノグリシジルエーテル、ペンタンジオールモノグリシジルエーテル、ヘキサンジオールモノグリシジルエーテル、ヘプタンジオールモノグリシジルエーテル、オクタンジオールモノグリシジルエーテル等が挙げられる。
上記式(VI)で表される一価エポキシ化合物としては、例えば3−(2,3−エポキシ)プロポキシ−1−プロペン、4−(2,3−エポキシ)プロポキシ−1−ブテン、5−(2,3−エポキシ)プロポキシ−1−ペンテン、6−(2,3−エポキシ)プロポキシ−1−ヘキセン、7−(2,3−エポキシ)プロポキシ−1−ヘプテン、8−(2,3−エポキシ)プロポキシ−1−オクテン等が挙げられる。
上記式(VII)で表される一価エポキシ化合物としては、例えば3,4−エポキシ−2−ブタノール、2,3−エポキシ−1−ブタノール、3,4−エポキシ−2−ペンタノール、2,3−エポキシ−1−ペンタノール、1,2−エポキシ−3−ペンタノール、2,3−エポキシ−4−メチル−1−ペンタノール、2,3−エポキシ−4,4−ジメチル−1−ペンタノール、2,3−エポキシ−1−ヘキサノール、3,4−エポキシ−2−ヘキサノール、4,5−エポキシ−3−ヘキサノール、1,2−エポキシ−3−ヘキサノール、2,3−エポキシ−4−メチル−1−ヘキサノール、2,3−エポキシ−4−エチル−1−ヘキサノール、2,3−エポキシ−4,4−ジメチル−1−ヘキサノール、2,3−エポキシ−4,4−ジエチル−1−ヘキサノール、2,3−エポキシ−4−メチル−4−エチル−1−ヘキサノール、3,4−エポキシ−5−メチル−2−ヘキサノール、3,4−エポキシ−5,5−ジメチル−2−ヘキサノール、3,4−エポキシ−2−ヘプタノール、2,3−エポキシ−1−ヘプタノール、4,5−エポキシ−3−ヘプタノール、2,3−エポキシ−4−ヘプタノール、1,2−エポキシ−3−ヘプタノール、2,3−エポキシ−1−オクタノール、3,4−エポキシ−2−オクタノール、4,5−エポキシ−3−オクタノール、5,6−エポキシ−4−オクタノール、2,3−エポキシ−4−オクタノール、1,2−エポキシ−3−オクタノール、2,3−エポキシ−1−ノナノール、3,4−エポキシ−2−ノナノール、4,5−エポキシ−3−ノナノール、5,6−エポキシ−4−ノナノール、3,4−エポキシ−5−ノナノール、2,3−エポキシ−4−ノナノール、1,2−エポキシ−3−ノナノール、2,3−エポキシ−1−デカノール、3,4−エポキシ−2−デカノール、4,5−エポキシ−3−デカノール、5,6−エポキシ−4−デカノール、6,7−エポキシ−5−デカノール、3,4−エポキシ−5−デカノール、2,3−エポキシ−4−デカノール、1,2−エポキシ−3−デカノール等が挙げられる。
上記式(VIII)で表される一価エポキシ化合物としては、例えば1,2−エポキシシクロペンタン、1,2−エポキシシクロヘキサン、1,2−エポキシシクロヘプタン、1,2−エポキシシクロオクタン、1,2−エポキシシクロノナン、1,2−エポキシシクロデカン、1,2−エポキシシクロウンデカン、1,2−エポキシシクロドデカン等が挙げられる。
上記式(IX)で表される一価エポキシ化合物としては、例えば3,4−エポキシシクロペンテン、3,4−エポキシシクロヘキセン、3,4−エポキシシクロヘプテン、3,4−エポキシシクロオクテン、3,4−エポキシシクロノネン、1,2−エポキシシクロデセン、1,2−エポキシシクロウンデセン、1,2−エポキシシクロドデセン等が挙げられる。
上記一価エポキシ化合物の中では炭素数が2〜8のエポキシ化合物が好ましい。特に、化合物の取り扱いの容易さ、及びEVOHとの反応性の観点から、一価エポキシ化合物の炭素数としては、2〜6がより好ましく、2〜4がさらに好ましい。また一価エポキシ化合物は上記式のうち式(III)又は(IV)で表される化合物であることが特に好ましい。具体的には、EVOHとの反応性及び得られる多層構造体のガスバリア性の観点からは、1,2−エポキシブタン、2,3−エポキシブタン、エポキシプロパン、エポキシエタン及びグリシドールが好ましく、その中でもエポキシプロパン及びグリシドールが特に好ましい。食品包装用途、飲料包装用途、医薬品包装用途などの衛生性を要求される用途においては、エポキシ化合物として、1,2−エポキシブタン、2,3−エポキシブタン、エポキシプロパン、又はエポキシエタンを用いることが好ましく、エポキシプロパンを用いることが特に好ましい。
次に、EVOHの製造方法を具体的に説明する。エチレンとビニルエステルとの共重合方法としては、特に限定されず、例えば溶液重合、懸濁重合、乳化重合、バルク重合のいずれであってもよい。また、連続式、回分式のいずれであってもよい。
重合に用いられるビニルエステルとしては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニルなどの脂肪酸ビニルなどを用いることができる。
上記重合において、共重合成分として、上記成分以外にも共重合し得る単量体、例えば上記以外のアルケン;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸等の不飽和酸又はその無水物、塩、又はモノ若しくはジアルキルエステル等;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル;アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド;ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸又はその塩;アルキルビニルエーテル類、ビニルケトン、N−ビニルピロリドン、塩化ビニル、塩化ビニリデンなどを少量共重合させることもできる。また、共重合成分として、ビニルシラン化合物を0.0002モル%以上0.2モル%以下含有することができる。ここで、ビニルシラン化合物としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリ(β−メトキシ−エトキシ)シラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルメトキシシランなどが挙げられる。この中で、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランが好適に用いられる。
重合に用いられる溶媒としては、エチレン、ビニルエステル及びエチレン−ビニルエステル共重合体を溶解し得る有機溶剤であれば特に限定されない。そのような溶媒として、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、n−ブタノール、tert−ブタノール等のアルコール;ジメチルスルホキシドなどを用いることができる。その中で、反応後の除去分離が容易である点で、メタノールが特に好ましい。
重合に用いられる触媒としては、例えば2,2−アゾビスイソブチロニトリル、2,2−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2−アゾビス−(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2−アゾビス−(2−シクロプロピルプロピオニトリル)等のアゾニトリル系開始剤;イソブチリルパーオキサイド、クミルパーオキシネオデカノエイト、ジイソプロピルパーオキシカーボネート、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシネオデカノエイト、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物系開始剤などを用いることができる。
重合温度としては、20〜90℃であり、好ましくは40〜70℃である。重合時間としては、2〜15時間であり、好ましくは3〜11時間である。重合率は、仕込みのビニルエステルに対して10〜90%であり、好ましくは30〜80%である。重合後の溶液中の樹脂分は、5〜85%であり、好ましくは20〜70%である。
所定時間の重合後又は所定の重合率に達した後、必要に応じて重合禁止剤を添加し、未反応のエチレンガスを蒸発除去した後、未反応のビニルエステルを除去する。未反応のビニルエステルを除去する方法としては、例えば、ラシヒリングを充填した塔の上部から上記共重合体溶液を一定速度で連続的に供給し、塔下部よりメタノール等の有機溶剤蒸気を吹き込み、塔頂部よりメタノール等の有機溶剤と未反応ビニルエステルの混合蒸気を留出させ、塔底部より未反応のビニルエステルを除去した共重合体溶液を取り出す方法などが採用される。
次に、上記共重合体溶液にアルカリ触媒を添加し、上記共重合体をケン化する。ケン化方法は、連続式、回分式のいずれも可能である。このアルカリ触媒としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アルカリ金属アルコラートなどが用いられる。
ケン化の条件としては、例えば回分式の場合、共重合体溶液濃度が10〜50%、反応温度が30〜65℃、触媒使用量がビニルエステル構造単位1モル当たり0.02〜1.0モル、ケン化時間が1〜6時間である。
ケン化反応後のEVOHは、アルカリ触媒、酢酸ナトリウムや酢酸カリウムなどの副生塩類、その他不純物を含有するため、これらを必要に応じて中和、洗浄することにより除去することが好ましい。ここで、ケン化反応後のEVOHを、イオン交換水等の金属イオン、塩化物イオン等をほとんど含まない水で洗浄する際、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム等を一部残存させてもよい。
A層を構成する樹脂組成物に、実施態様に応じ、リン酸化合物、カルボン酸及びホウ素化合物から選ばれる1種又は複数種の化合物を含有させるとよい。かかるリン酸化合物、カルボン酸又はホウ素化合物をA層の樹脂組成物中に含有することによって、当該多層構造体の各種性能を向上させることができる。
具体的には、EVOH等を含むA層の樹脂組成物中にリン酸化合物を含有することで、当該多層構造体の溶融成形時の熱安定性を改善することができる。リン酸化合物としては、特に限定されず、例えばリン酸、亜リン酸等の各種の酸やその塩等が挙げられる。リン酸塩としては、例えば第1リン酸塩、第2リン酸塩、第3リン酸塩のいずれの形で含まれていてもよく、その対カチオン種としても特に限定されないが、アルカリ金属イオン又はアルカリ土類金属イオンが好ましい。特に、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素ナトリウム又はリン酸水素カリウムが、熱安定性改善効果が高い点で好ましい。
リン酸化合物の含有量(A層の乾燥樹脂組成物中のリン酸化合物のリン酸根換算含有量)の下限としては、1ppmが好ましく、10ppmがより好ましく、30ppmがさらに好ましい。一方、リン酸化合物の含有量の上限としては、10,000ppmが好ましく、1,000ppmがより好ましく、300ppmがさらに好ましい。リン酸化合物の含有量が上記下限より小さいと、溶融成形時の着色が激しくなるおそれがある。特に、熱履歴を重ねるときにその傾向が顕著であるために、前記樹脂組成物ペレットを成形して得られた成形物が回収性に乏しいものとなるおそれがある。逆に、リン酸化合物の含有量が上記上限を超えると、成形物のゲル・ブツが発生し易くなるおそれがある。
また、EVOH等を含むA層の樹脂組成物中にカルボン酸を含有することで、樹脂組成物のpHを制御し、ゲル化を防止して熱安定性を改善する効果がある。カルボン酸としては、コストなどの観点から酢酸又は乳酸が好ましい。
カルボン酸の含有量(A層の乾燥樹脂組成物中のカルボン酸の含有量)の下限としては1ppmが好ましく、10ppmがより好ましく、50ppmがさらに好ましい。一方、カルボン酸の含有量の上限としては、10,000ppmが好ましく、1,000ppmがより好ましく、500ppmがさらに好ましい。このカルボン酸の含有量が上記下限より小さいと、溶融成形時に着色が発生するおそれがある。逆に、カルボン酸の含有量が上記上限を超えると、層間接着性が不充分となるおそれがある。
さらに、EVOH等を含むA層の樹脂組成物中にホウ素化合物を含有することで、熱安定性向上の効果がある。詳細には、EVOHからなる樹脂組成物にホウ素化合物を添加した場合、EVOHとホウ素化合物との間にキレート化合物が生成すると考えられ、かかるEVOHを用いることによって、通常のEVOHよりも熱安定性の改善、機械的性質を向上させることが可能である。ホウ素化合物としては、特に限定されるものではなく、例えばホウ酸類、ホウ酸エステル、ホウ酸塩、水素化ホウ素類等が挙げられる。具体的には、ホウ酸類としては、例えばオルトホウ酸(H3BO3)、メタホウ酸、四ホウ酸等が挙げられ、ホウ酸エステルとしては、例えばホウ酸トリエチル、ホウ酸トリメチルなどが挙げられ、ホウ酸塩としては、上記各種ホウ酸類のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、ホウ砂などが挙げられる。これらの中でもオルトホウ酸が好ましい。
ホウ素化合物の含有量(A層の乾燥樹脂組成物中のホウ素化合物のホウ素換算含有量)の下限としては、1ppmが好ましく、10ppmがより好ましく、50ppmがさらに好ましい。一方、ホウ素化合物の含有量の上限としては、2,000ppmが好ましく、1,000ppmがより好ましく、500ppmがさらに好ましい。ホウ素化合物の含有量が上記下限より小さいと、ホウ素化合物を添加することによる熱安定性の改善効果が得られないおそれがある。逆に、ホウ素化合物の含有量が上記上限を超えると、ゲル化しやすく、成形不良となるおそれがある。
上記リン酸化合物、カルボン酸又はホウ素化合物をEVOHを含む樹脂組成物に含有させる方法は、特に限定されるものではなく、例えばEVOHを含む樹脂組成物のペレット等を調製する際に樹脂組成物に添加して混練する方法が好適に採用される。この樹脂組成物に添加する方法も、特に限定されないが、乾燥粉末として添加する方法、溶媒を含浸させたペースト状で添加する方法、液体に懸濁させた状態で添加する方法、溶媒に溶解させて溶液として添加する方法などが例示される。これらの中で均質に分散させる観点から、溶媒に溶解させて溶液として添加する方法が好ましい。これらの方法に用いられる溶媒は特に限定されないが、添加剤の溶解性、コスト的メリット、取り扱いの容易性、作業環境の安全性等の観点から水が好適に用いられる。これらの添加の際、後述の金属塩、EVOH以外の樹脂やその他の添加剤などを同時に添加することができる。
また、リン酸化合物、カルボン酸、ホウ素化合物を含有させる方法として、それらの物質が溶解した溶液に、上記ケン化の後押出機等により得られたペレット又はストランドを浸漬させる方法も、均質に分散させることができる点で好ましい。この方法においても、溶媒としては、上記と同様の理由で、水が好適に用いられる。この溶液に後述する金属塩を溶解させることで、リン酸化合物等と同時に金属塩を含有させることができる。
A層の樹脂組成物は、分子量1,000以下の共役二重結合を有する化合物を含有することが好ましい。このような化合物を含有することによって、A層の樹脂組成物の色相が改善されるので、外観の良好な多層構造体とすることができる。このような化合物としては、例えば少なくとも2個の炭素−炭素二重結合と1個の炭素−炭素単結合とが交互に繋がってなる構造の共役ジエン化合物、3個の炭素−炭素二重結合と2個の炭素−炭素単結合とが交互に繋がってなる構造のトリエン化合物、それ以上の数の炭素−炭素二重結合と炭素−炭素単結合とが交互に繋がってなる構造の共役ポリエン化合物、2,4,6−オクタトリエンのような共役トリエン化合物等が挙げられる。また、この共役二重結合を有する化合物には、共役二重結合が1分子中に独立して複数組あってもよく、例えば桐油のように共役トリエンが同一分子内に3個ある化合物も含まれる。
上記共役二重結合を有する化合物は、例えばカルボキシル基及びその塩、水酸基、エステル基、カルボニル基、エーテル基、アミノ基、イミノ基、アミド基、シアノ基、ジアゾ基、ニトロ基、スルホン基、スルホキシド基、スルフィド基、チオール基、スルホン酸基及びその塩、リン酸基及びその塩、フェニル基、ハロゲン原子、二重結合、三重結合等の他の各種官能基を有していてもよい。かかる官能基は、共役二重結合中の炭素原子に直接結合されていてもよく、共役二重結合から離れた位置に結合されていてもよい。官能基中の多重結合は上記共役二重結合と共役可能な位置にあってもよく、例えばフェニル基を有する1−フェニルブタジエンやカルボキシル基を有するソルビン酸などもここでいう共役二重結合を有する化合物に含まれる。この化合物の具体例としては、例えば2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン、1,3−ジフェニル−1−ブテン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、4−メチル−1,3−ペンタジエン、1−フェニル−1,3−ブタジエン、ソルビン酸、ミルセン等を挙げることができる。
この共役二重結合を有する化合物における共役二重結合とは、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、ソルビン酸のような脂肪族同士の共役二重結合のみならず、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン、1,3−ジフェニル−1−ブテンのような脂肪族と芳香族との共役二重結合も含まれる。但し、外観がより優れた多層構造体を得る観点からは、上記脂肪族同士の共役二重結合を含む化合物が好ましく、またカルボキシル基及びその塩、水酸基等の極性基を有する共役二重結合を含む化合物も好ましい。さらに極性基を有しかつ脂肪族同士の共役二重結合を含む化合物が特に好ましい。
この共役二重結合を有する化合物の分子量としては、1,000以下が好ましい。分子量が1,000を超えると、多層構造体の表面平滑性、押出安定性等が悪化するおそれがある。この分子量が1,000以下の共役二重結合を有する化合物の含有量の下限としては、奏される効果の点から、0.1ppmが好ましく、1ppmがより好ましく、3ppmがさらに好ましく、5ppm以上が特に好ましい。一方、この化合物の含有量の上限としては、奏される効果の点から、3,000ppmが好ましく、2,000ppmがより好ましく、1,500ppmがさらに好ましく、1,000ppmが特に好ましい。
上記共役二重結合を有する化合物の添加方法としては、例えばEVOHの場合は、上述のように重合した後、かつ上記ケン化の前に添加するのが、表面平滑性と押出安定性を改善する点で好ましい。この理由については必ずしも明らかではないが、共役二重結合を有する化合物が、ケン化の前及び/又はケン化反応中のEVOHの変質を防止する作用を有することに基づくものと考えられる。
A層の樹脂組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、上記添加物以外に、ガスバリア性樹脂以外の他の樹脂、又は熱安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、着色剤、フィラーなど種々の添加剤を含んでいてもよい。A層の樹脂組成物が上記添加物以外の添加剤を含む場合、その量は樹脂組成物の総量に対して50質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがよりこのましく、10質量%以下であることが特に好ましい。
A層又はB層、好ましくはA層の樹脂組成物のビカット軟化温度より30℃高い温度において、A層の樹脂組成物の剪断速度10/秒での溶融粘度(η1A)が1×102Pa・s以上1×104Pa・s以下、剪断速度1,000/秒での溶融粘度(η2A)が1×101Pa・s以上1×103Pa・s以下であり、かつ、これらの溶融粘度比(η2A/η1A)が下記式(1A)を満たすことが好ましい。
−0.8≦(1/2)log10(η2A/η1A)≦−0.1 ・・(1A)
溶融粘度(η1A)が1×102Pa・sより小さいと、溶融共押出しラミネートや溶融押出しなどによる押出し製膜時にネックインや膜揺れが著しくなり、得られる多層構造体や積層前のA層の厚み斑や幅の縮小が大きくなって、均質で目的寸法どおりの多層構造体を得ることができなくなるおそれがある。逆に、溶融粘度(η1A)が1×104Pa・sを超えると、特に100m/分を超えるような高速引き取り条件下で溶融共押出しラミネートや溶融押出成形を行う場合に膜切れが起こり易くなり、高速成膜性が顕著に損なわれ、またダイスウエルが起こり易くなって薄肉の多層構造体や積層前のA層を得るのが困難になるおそれがある。
また、溶融粘度(η2A)が、1×101Pa・sより小さいと、溶融共押出しラミネートや溶融押出などによる押出し成膜時にネックインや膜揺れが著しくなって、得られる多層構造体や積層する前のA層の厚み斑や幅の縮小が大きくなるおそれがある。逆に、溶融粘度(η2A)が、1×103Pa・sを超えると、押出機に加わるトルクが高くなりすぎ、押出し斑やウエルドラインが発生し易くなるおそれがある。
上記溶融粘度比(η2A/η1A)から算出される(1/2)log10(η2A/η1A)の値が−0.8より小さいと、溶融共押出しラミネートや溶融押出などによる押出し成膜時に膜切れを生じ易くなって高速成膜性が損なわれるおそれがある。一方、(1/2)log10(η2A/η1A)の値が−0.1を越えると、溶融共押出しラミネートや溶融押出による押出し成膜時にネックインや膜揺れが起こって、得られる多層構造体や積層前のA層に厚み斑や幅の縮小などを生じるおそれがある。かかる観点から、この(1/2)log10(η2A/η1A)の値は、−0.6以上であることがより好ましく、−0.2以下であることがより好ましい。なお、上記式における(1/2)log10(η2A/η1A)の値は、溶融粘度を縦軸とし、剪断速度を横軸とする両自然対数グラフにおける溶融粘度(η1A)及び溶融粘度(η2A)の2点を結ぶ直線の傾きとして求められる。また、本明細書でいう溶融粘度(η1A)及び溶融粘度(η2A)の値は、下記実施例欄に記載した方法で測定した際の値をいう。
A層の樹脂組成物は、その融点より10〜80℃高い温度の少なくとも1点における溶融混練時間とトルクの関係において、粘度挙動安定性(M100/M20、但しM20は混練開始20分後のトルク、M100は混練開始から100分後のトルクを表す)の値が0.5〜1.5の範囲であることが好ましい。粘度挙動安定性の値は1に近いほど粘度変化が少なく、熱安定性(ロングラン性)に優れていることを示す。
〈B層〉
B層は、熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物からなる層である。なお、各B層は、単一の樹脂組成物からなるものでもよく、熱可塑性樹脂を含む複数種類の樹脂組成物からなるものでもよい。当該多層構造体は、熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物からなるB層を積層することで、延伸性及び熱成形性を向上することができる。また、当該多層構造体は、このB層とA層との層間接着性を強固にすることができるので、耐久性が高く、変形させて使用してもガスバリア性や延伸性を維持できる。
上記熱可塑性樹脂としては、ガラス転移温度又は融点まで加熱することにより軟化して塑性を示す樹脂であれば特に限定されないが、熱可塑性ポリウレタン(以下、「TPU」ともいう。)、ポリアミド、及び上記ガスバリア性樹脂の有する基と反応し得る官能基を分子内に有する樹脂(以下、単に「官能基含有樹脂」ともいう。)からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂であるとよい。これらの樹脂の中でも、意図する多層構造体を安価に且つ素材の融点が低い観点から、官能基含有樹脂が特に好ましい。当該多層構造体によれば、熱可塑性樹脂として上記樹脂を用いることで、熱融着性や層間接着性等をさらに高めることができ、熱融着部分等のガスバリア性をより高めることができる。
〈TPU〉
TPUは、高分子ポリオール、有機ポリイソシアネート、鎖伸長剤等から構成される。この高分子ポリオールは、複数の水酸基を有する物質であり、重縮合、付加重合(例えば開環重合)、重付加などによって得られる。高分子ポリオールとしては、例えばポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール又はこれらの共縮合物(例えばポリエステル−エーテル−ポリオール)などが挙げられる。これらの高分子ポリオールは1種類を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。これらの中で、A層中のガスバリア性樹脂の水酸基等と反応するカルボニル基を有し、得られる多層構造体の層間接着性が高くなることから、ポリエステルポリオール又はポリカーボネートポリオールが好ましく、ポリエステルポリオールが特に好ましい。
上記ポリエステルポリオールは、例えば、常法に従い、ジカルボン酸、そのエステル、その無水物等のエステル形成性誘導体と低分子ポリオールとを直接エステル化反応若しくはエステル交換反応によって縮合させるか、又はラクトンを開環重合することにより製造することができる。
ポリエステルポリオールを構成するジカルボン酸としては、特に限定されず、ポリエステルの製造において一般的に使用されるものを用いることができる。このジカルボン酸としては、具体例にはコハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、メチルコハク酸、2−メチルグルタル酸、トリメチルアジピン酸、2−メチルオクタン二酸、3,8−ジメチルデカン二酸、3,7−ジメチルデカン二酸などの炭素数4〜12の脂肪族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸;テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸などが挙げられる。これらのジカルボン酸は、1種類を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。この中でも、A層中のガスバリア性樹脂の水酸基等とより反応し易いカルボニル基を有し、当該多層構造体の層間接着性がより高くなる点で、炭素数が6〜12の脂肪族ジカルボン酸が好ましく、アジピン酸、アゼライン酸又はセバシン酸が特に好ましい。
ポリエステルポリオールを構成する低分子ポリオールとしては、特に限定されず、ポリエステルの製造において一般的に使用されているものを用いることができる。この低分子ポリオールとしては、具体例にはエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、2,7−ジメチル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、2−メチル−1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオールなどの炭素数2〜15の脂肪族ジオール;1,4−シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、シクロオクタンジメタノール、ジメチルシクロオクタンジメタノールなどの脂環式ジオール;1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼンなどの芳香族2価アルコールなどが挙げられる。これらの低分子ポリオールは、1種類を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。この中でも、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、2,7−ジメチル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、2,8−ジメチル−1,9−ノナンジオールなどの側鎖にメチル基を有する炭素数5〜12の脂肪族ジオールが、ポリエステルポリオール中のエステル基とA層中のガスバリア性樹脂の水酸基等との反応が起こり易く、得られる多層構造体の層間接着性がより高くなる点で好ましい。また、低分子ポリオールとして2種以上を混合して用いる場合は、かかる側鎖にメチル基を有する炭素数5〜12の脂肪族ジオールを低分子ポリオールの全量に対して50モル%以上の割合で用いることがより好ましい。さらに、上記低分子ポリオールと共に、少量の3官能以上の低分子ポリオールを併用することができる。3官能以上の低分子ポリオールとしては、例えばトリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、グリセリン、1,2,6−ヘキサントリオールなどが挙げられる。
上記ラクトンとしては、例えばε−カプロラクトン、β−メチル−δ−バレロラクトンなどを挙げることができる。
ポリエーテルポリオールとしては、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリ(メチルテトラメチレン)グリコールなどが挙げられる。これらのポリエーテルポリオールは、1種類を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。この中でもポリテトラメチレングリコールが好ましい。
ポリカーボネートポリオールとしては、例えば1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、1,10−デカンジオールなどの炭素数2〜12の脂肪族ジオール又はこれらの混合物に炭酸ジフェニル若しくはホスゲンなどを作用させて縮重合して得られるものが好適に用いられる。
上記高分子ポリオールの数平均分子量の下限としては、500が好ましく、600がより好ましく、700がさらに好ましい。一方、高分子ポリオールの数平均分子量の上限としては、8,000が好ましく、5,000がより好ましく、3,000がさらに好ましい。高分子ポリオールの数平均分子量が上記下限より小さいと、有機ポリイソシアネートとの相溶性が良すぎて得られるTPUの弾性が乏しくなるため、得られる多層構造体の延伸性などの力学的特性や熱成形性が低下するおそれがある。逆に、高分子ポリオールの数平均分子量が上記上限を超えると、有機ポリイソシアネートとの相溶性が低下して、重合過程での混合が困難になり、その結果、ゲル状物の塊の発生等により安定したTPUが得られなくなるおそれがある。なお、高分子ポリオールの数平均分子量は、JIS−K−1577に準拠して測定し、水酸基価に基づいて算出した数平均分子量である。
有機ポリイソシアネートとしては、特に限定されるものではなく、TPUの製造に一般的に使用される公知の有機ジイソシアネートが用いられる。この有機ジイソシアネートとしては、例えば4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート、3,3’−ジクロロ−4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、トルイレンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、水素化キシリレンジイソシアネートなどの脂肪族又は脂環族ジイソシアネートなどを挙げることができる。この中でも、得られる多層構造体の強度、耐屈曲性が向上できる点で、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートが好ましい。これらの有機ジイソシアネートは、1種類を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
鎖伸長剤としては、TPUの製造に一般的に使用される鎖伸長剤が使用され、イソシアネート基と反応し得る活性水素原子を分子中に2個以上有する分子量300以下の低分子化合物が好適に使用される。鎖伸長剤としては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、1,4−シクロヘキサンジオール、ビス(β−ヒドロキシエチル)テレフタレート、キシリレングリコールなどのジオールなどが挙げられる。この中でも、得られる多層構造体の延伸性及び熱成形性がさらに良好になる点で、炭素数2〜10の脂肪族ジオールが好ましく、1,4−ブタンジオールが特に好ましい。これらの鎖伸長剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
TPUの製造方法としては、上記高分子ポリオール、有機ポリイソシアネート及び鎖伸長剤を使用し、公知のウレタン化反応技術を利用して製造され、プレポリマー法及びワンショット法のいずれを用いても製造することができる。その中でも、実質的に溶剤の不存在下に溶融重合することが好ましく、特に多軸スクリュー型押出機を用いる連続溶融重合することが好ましい。
TPUにおいて、高分子ポリオールと鎖伸長剤の合計質量に対する有機ポリイソシアネートの質量の比(イソシアネート/(高分子ポリオール+鎖伸長剤))が、1.02以下であることが好ましい。該比が1.02を超えると、成形時の長期運転安定性が悪化するおそれがある。
TPUの窒素含有量は、高分子ポリオール及び有機ジイソシアネートの使用割合を適宜選択することにより決定されるが、実用的には1〜7%の範囲であることが好ましい。また、B層の樹脂組成物は、必要に応じて有機ポリイソシアネートと高分子ポリオールとの反応を促進する適当な触媒を用いてもよい。
TPUの硬度は、ショアーA硬度として50〜95が好ましく、55〜90がより好ましく、60〜85がさらに好ましい。硬度が上記範囲にあるものを用いると、機械的強度及び耐久性に優れ、且つ柔軟性に優れる積層構造体が得られるので好ましい。
〈ポリアミド〉
ポリアミドは、主鎖内にアミド基を有する重合体であり、3員環以上のラクタム、重合可能なω−アミノ酸、または二塩基酸とジアミンとの重縮合などによって得られる。ポリアミドの具体例としては、ポリカプラミド(ナイロン6)、ポリ−ω−アミノヘプタン酸(ナイロン7)、ポリ−ω−アミノノナン酸(ナイロン9)、ポリウンデカンアミド(ナイロン11)、ポリラウリルラクタム(ナイロン12)、ポリエチレンジアミンアジパミド(ナイロン26)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリオクタメチレンアジパミド(ナイロン86)、ポリデカメチレンアジパミド(ナイロン108)、あるいはカプロラクタム/ラウリルラクタム共重合体(ナイロン6/12)、カプロラクタム/ω−アミノノナン酸共重合体(ナイロン6/9)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体(ナイロン6/66)、ラウリルラクタム/ヘキサミチレンジアンモニウムアジペート共重合体(ナイロン12/66)、ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムセバケート共重合体(ナイロン66/610)、エチレンジアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体(ナイロン26/66)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムセバケート共重合体(ナイロン6/66/610)、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド(ナイロン6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド(ナイロン6T)、ヘキサメチレンイソフタルアミド/テレフタルアミド共重合体(ナイロン6I/6T)などが挙げられる。
また、これらのポリアミドにおいて、ジアミンとして、2,2,4−又は2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミンなどの置換基導入した脂肪族ジアミンや、メチレンジベンジルアミン、メタキシリレンジアミンなどの芳香族ジアミンを用いてもよく、またそれらを用いてポリアミドへの変性をしても構わない。また、ジカルボン酸として、2,2,4−又は2,4,4−トリメチルアジピン酸などの置換基導入した脂肪族ジカルボン酸や、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸のような脂環式ジカルボン酸や、フタル酸、キシリレンジカルボン酸、アルキル置換テレフタル酸、イソフタル酸、又はナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸を用いてもよく、またそれらを用いてポリアミドへの変性をしても構わない。
これらのポリアミドとしては、1種類又は複数種を用いることができる。これらのポリアミドの中では、ポリアミド中のアミド基がA層中のガスバリア性樹脂の水酸基等とより反応し易いため、当該多層構造体の層間接着性がより高くなる点で、ヘキサメチレンイソフタルアミド/テレフタルアミド共重合体(ナイロン6I/6T)が好ましい。当該ヘキサメチレンイソフタルアミド/テレフタルアミド共重合体においては、イソフタル酸(I)単位/テレフタル酸(T)単位のモル比(I/T)が60/40〜100/0(モル比)の範囲にあることが好ましく、65/35〜90/10(モル比)の範囲にあることがより好ましい。また、ポリアミドとしては、カプロラクタム/ラウリルラクタム共重合体、すなわちナイロン6/12を主成分とするものも好ましい。当該ポリアミドに含まれる6成分(カプロラクタム成分)と12成分(ラウリルラクタム成分)の比率は特に限定されないが、当該ポリアミド全質量に対する12成分の割合が5〜60質量%であることが好ましく、5〜50質量%であることがより好ましい。また、これらのポリアミドの相対粘度は特に限定されないが、得られる多層構造体におけるA層とB層との間の接着力がさらに強くなる観点から、1.0〜4.0であることが好ましい。
また、これらのポリアミドの中では、柔軟性の観点から、脂肪族系ポリアミドが好ましい。
ポリアミドの末端カルボキシル基量の下限としては、1μeq(当量)/gが好ましく、3μeq/gがさらに好ましく、5μeq/gがさらに好ましい。一方、この末端カルボキシル基量の上限としては、1000μeq/gが好ましく、800μeq/gがより好ましく、600μeq/gがさらに好ましい。末端カルボキシル基量を当該範囲に設定することによって、A層中のガスバリア性樹脂の水酸基等が、B層中のポリアミドのアミド基だけでなく末端カルボキシル基とも反応することにより、A層とB層とがより強固に結合することができ、当該多層構造体の層間接着性をさらに向上することができる。末端カルボキシル基量が上記下限より小さいと、当該多層構造体の層間接着性が低下するおそれがある。逆に、末端カルボキシル基量が上記上限を超えると、当該多層構造体の耐候性が悪化するおそれがある。なお、ポリアミドの末端カルボキシル基量は、ポリアミド試料をベンジルアルコールに溶解させ、指示薬にフェノールフタレインを用い、水酸化ナトリウム溶液で滴定を行うことによって定量することができる。
〈官能基含有樹脂〉
上記官能基含有樹脂は、上記ガスバリア性樹脂の有する基と反応し得る官能基を分子内に有する。このガスバリア性樹脂の有する基は、例えば、EVOH等が有する水酸基、ポリアミド樹脂等が有するアミド基、ポリエステル樹脂等が有するエステル基等を挙げることができる。当該多層構造体は、このような官能基含有樹脂を含む樹脂組成物からなるB層を積層することで延伸性や熱成形性を向上させることができる。また、当該多層構造体においては、このB層とA層との界面において結合反応が生じ、層間接着性を強固にすることができるので、耐久性が高く、変形させて使用してもガスバリア性や延伸性を維持できる。
上記A層に含まれるガスバリア性樹脂の有する基と反応し得る官能基としては、ガスバリア性樹脂の有する基と反応し得る官能基である限り、特に限定されないが、例えば、カルボキシル基又はその無水物基、金属カルボキシレート基、ボロン酸基、水の存在下でボロン酸基に転化し得るホウ素含有基、エステル基、ウレア基、カーボネート基、エーテル基、イミノ基、アセタール基、エポキシ基、イソシアネート基などが例示される。この中で、A層とB層との層間接着性が非常に高くなり、得られる多層構造体の耐久性が特に優れる点で、カルボキシル基、金属カルボキシレート基、ボロン酸基、水の存在下でボロン酸基に転化し得るホウ素含有基、エステル基が好ましい。
上記官能基含有樹脂としては、カルボン酸変性ポリオレフィン又はその金属塩、ボロン酸基又は水の存在下でボロン酸基に転化し得るホウ素含有基を有する熱可塑性樹脂、ビニルエステル系共重合体、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ブチラール系樹脂、アルキッド樹脂、ポリエチレンオキサイド樹脂、セルロース系樹脂、メラミン系樹脂、スチレン−アクリル酸共重合体、フェノール系樹脂、ユリア樹脂、メラミン−アルキッド樹脂、エポキシ樹脂、ポリイソシアネート樹脂などが挙げられる。また、これらの樹脂の共重合体や変性物も使用することができる。中でも、層間接着性が非常に高くなり、得られる多層構造体の耐久性が特に優れる点、及びその延伸性及び熱成形性も向上する点から、カルボン酸変性ポリオレフィンもしくはその金属塩、ボロン酸基もしくは水の存在下でボロン酸基に転化し得るホウ素含有基を有する熱可塑性樹脂、又はビニルエステル系共重合体が好ましく、カルボン酸変性ポリオレフィンが特に好ましい。上記官能基含有樹脂としては、1種類又は複数種を用いることができる。
カルボン酸変性ポリオレフィンは、分子中にカルボキシル基又はその無水物基を有するポリオレフィンである。また、カルボン酸変性ポリオレフィンの金属塩とは、分子中にカルボキシル基又はその無水物基を有するポリオレフィン又はポリオレフィン中に含有されるカルボキシル基又はその無水物基の全部又は一部が金属カルボキシレート基の形で存在しているものである。このようなカルボン酸変性ポリオレフィン又はその金属塩は1種類又は複数種を用いることができる。
上記カルボン酸変性ポリオレフィンは、例えば、オレフィン系重合体にエチレン性不飽和カルボン酸もしくはその無水物を化学的に(たとえば付加反応、グラフト反応により)結合させることにより、又はオレフィンと不飽和カルボン酸もしくはその無水物等を共重合させることなどによって得ることができる。また、カルボン酸変性ポリオレフィンの金属塩は、例えば、上記カルボン酸変性ポリオレフィンに含有されるカルボキシル基の水素イオンの全部又は一部を金属イオンで置換することによって得ることができる。
カルボン酸変性ポリオレフィンを、オレフィン系重合体にエチレン性不飽和カルボン酸又はその無水物を化学的に結合させることによって得る場合、当該オレフィン系重合体としては、ポリエチレン(低圧、中圧、高圧)、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ボリブテンなどのポリオレフィン;オレフィンと当該オレフィンと共重合し得るコモノマー(酢酸ビニル、不飽和カルボン酸エステルなど)の共重合体、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エチルエステル共重合体などが挙げられる。この中で、得られる多層構造体において、層間接着性、延伸性及び熱成形性が特に向上する点から、直鎖状低密度ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体(酢酸ビニルの含有量5〜55質量%)、又はエチレン−アクリル酸エチルエステル共重合体(アクリル酸エチルエステルの含有量8〜35質量%)が好ましく、直鎖状低密度ポリエチレン又はエチレン−酢酸ビニル共重合体(酢酸ビニルの含有量5〜55質量%)が特に好ましい。
また、上記オレフィン系重合体と化学的に結合させるエチレン性不飽和カルボン酸又はその無水物としては、エチレン性不飽和モノカルボン酸、エチレン性不飽和ジカルボン酸又はその無水物等が挙げられる。また、そのようなカルボン酸のカルボキシル基の全部又は一部がエステル化されている化合物も用いることができ、上記重合の後に、エステル基を加水分解させることによって、カルボン酸変性ポリオレフィンを得ることができる。これらの化合物の具体例としては、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、マレイン酸モノメチルエステル、マレイン酸モノエチルエステル、マレイン酸ジエチルエステル、フマル酸モノメチルエステルなどが挙げられる。この中で、A層を構成するEVOH等の水酸基と反応し易い酸無水物基を有し、得られる多層構造体が層間接着性に優れる点で、エチレン性不飽和ジカルボン酸無水物が特に好ましく、具体的な化合物としては、無水マレイン酸が特に好ましい。
このようなエチレン性不飽和カルボン酸又はその無水物の、オレフィン系重合体への付加量又はグラフト量(変性度)の下限値としては、オレフィン系重合体に対して0.01質量%が好ましく、0.02質量%がより好ましい。一方、この付加量又はグラフト量(変性度)の上限値としては、15質量%が好ましく、10質量%がさらに好ましい。付加量又はグラフト量が上記下限より小さいと、層間接着性が低くなり、当該多層構造体の耐久性が低くなるおそれがある。逆に、付加量又はグラフト量が上記上限を超えると、樹脂組成物の着色が激しくなり、多層構造体の外観が悪化するおそれがある。
オレフィン系重合体に、エチレン性不飽和カルボン酸又はその無水物を、付加反応やグラフト反応によって化学的に結合させる方法としては、例えば溶媒(キシレンなど)、触媒(過酸化物など)の存在下でラジカル反応を行うことなどが挙げられる。
また、カルボン酸変性ポリオレフィンを、オレフィンと不飽和カルボン酸等との共重合によって得る場合、すなわち、上記カルボン酸変性ポリオレフィンが、オレフィン−不飽和カルボン酸共重合体である場合においては、用いるオレフィンは、得られる多層構造体の延伸性及び熱成形性が向上する観点から、エチレン、プロピレン、1−ブテン等のα−オレフィンが好ましく、エチレンが特に好ましい。一方、用いる不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタアクリル酸、エタアクリル酸、マレイン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、無水マレイン酸などが挙げられる。その中でも、入手が容易である点から、アクリル酸又はメタアクリル酸が特に好ましい。また、当該オレフィン−不飽和カルボン酸共重合体は、オレフィン及び不飽和カルボン酸以外の他の単量体を共重合成分として含んでいてもよい。そのような他の単量体としては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタアクリル酸メチル、メタアクリル酸イソブチル、マレイン酸ジエチル等の不飽和カルボン酸エステル;一酸化炭素などが例示される。
このオレフィン−不飽和カルボン酸共重合体における不飽和カルボン酸単位の含有量の下限値としては、共重合体中の全構造単位に対する不飽和カルボン酸単位の含有量として2モル%が好ましく、3モル%がさらに好ましい。一方、この不飽和カルボン酸単位の含有量の上限値としては15モル%が好ましく、12モル%がさらに好ましい。不飽和カルボン酸単位の含有量が上記下限より小さいと、層間接着性が低くなり、当該多層構造体の耐久性が低くなるおそれがある。逆に、不飽和カルボン酸単位の含有量が上記上限を超えると、樹脂組成物の着色が激しくなり、多層構造体の外観が悪化するおそれがある。
このオレフィン−不飽和カルボン酸共重合体としては、オレフィンと不飽和カルボン酸又はその無水物をランダム共重合して得られる重合体が好ましく、その中でも、エチレンと不飽和カルボン酸又はその無水物をランダム共重合して得られる重合体がさらに好ましい。
上記カルボン酸変性ポリオレフィンの金属塩を構成する金属イオンとしてはリチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属イオン;マグネシウム、カルシウムなどのアルカリ土類金属イオン;亜鉛などのdブロック金属イオンなどが例示される。カルボン酸変性ポリオレフィンの金属塩における中和度、すなわち、カルボン酸変性ポリオレフィンの金属塩におけるカルボキシル基及び金属カルボキシレート基の総数に対する金属カルボキシレート基の割合は特に限定されないが、中和度の下限値としては、5モル%が好ましく、10モル%がより好ましく、30モル%がさらに好ましい。一方、この中和度の上限値としては90モル%が好ましく、80モル%がより好ましく、70モル%がさらに好ましい。中和度が上記下限より小さいと、層間接着性が低くなり、当該多層構造体の耐久性が低くなるおそれがある。逆に、中和度が上記上限を超えると、樹脂組成物の着色が激しくなり、多層構造体の外観が悪化するおそれがある。
カルボン酸変性ポリオレフィン又はその金属塩のメルトフローレート(MFR)(190℃、2160g荷重下)の下限値としては、0.05g/10分が好ましく、0.2g/10分がより好ましく、0.5g/10分がさらに好ましい。一方、このメルトフローレートの上限値としては、50g/10分が好ましく、40g/10分がより好ましく、30g/10分がさらに好ましい。
ボロン酸基又は水の存在下でボロン酸基に転化し得るホウ素含有基(これらを以下「ボロン酸誘導基」ともいう)を有する熱可塑性樹脂は、下記式(X)で表されるボロン酸基を分子内に有し、又はボロン酸基に転化し得るホウ素含有基を分子内に有する熱可塑性樹脂である。
水の存在下でボロン酸基に転化し得るホウ素含有基としては、水の存在下で加水分解を受けてボロン酸基に転化し得るホウ素含有基である限り特に限定されないが、例えば下記式(XI)で表されるボロン酸エステル基、下記式(XII)で表されるボロン酸無水物基、下記式(XIII)で表されるボロン酸塩基などが挙げられる。ここで、水存在下でボロン酸基に転化し得るホウ素含有基とは、水、水と有機溶媒(トルエン、キシレン、アセトンなど)との混合液体、又は5%ホウ酸水溶液と上記有機溶媒との混合液体中で、反応時間が10分〜2時間、反応温度が室温〜150℃の条件下に加水分解を行った場合において、ボロン酸基に転化し得る基を意味する。
上記式(XI)中、X、Yは水素原子、脂肪族炭化水素基(炭素数1〜20の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基又はアルケニル基など)、脂環式炭化水素基(シクロアルキル基又はシクロアルケニル基など)、芳香族炭化水素基(フェニル基又はビフェニル基など)を表わす。X、Yは同じ基でもよく、異なる基でもよい。XとYは結合していてもよい(但し、X,Yの少なくとも一方が水素原子の場合は除く)。また上記脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基又は芳香族炭化水素基は他の基、例えば、水酸基、カルボキシル基、ハロゲン原子などを有していてもよい。
上記式(XIII)中、R13,R14,R15は、それぞれ独立して水素原子、脂肪族炭化水素基(炭素数1〜20の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、又はアルケニル基など)、脂環式炭化水素基(シクロアルキル基又はシクロアルケニル基など)、芳香族炭化水素基(フェニル基又はビフェニル基など)を表わす。R13,R14,R15は同じ基でもよく、異なる基でもよい。Mは、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を表わす。また、上記脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基又は芳香族炭化水素基は他の基、例えば、水酸基、カルボキシル基、ハロゲン原子などを有していてもよい。
上記式(XI)で示されるボロン酸エステル基の具体例としては、ボロン酸ジメチルエステル基、ボロン酸ジエチルエステル基、ボロン酸ジブチルエステル基、ボロン酸ジシクロヘキシル基、ボロン酸エチレングリコールエステル基、ボロン酸プロピレングリコールエステル基(ボロン酸1,2−プロパンジオールエステル基、ボロン酸1,3−プロパンジオールエステル基)、ボロン酸ネオペンチルエステル基、ボロン酸カテコールエステル基、ボロン酸グリセリンエステル基、ボロン酸トリメチロールエタンエステル基、ボロン酸ジエタノールアミンエステル基などが挙げられる。また、上記式(XIII)で示されるボロン酸塩基の具体例としては、ボロン酸ナトリウム塩基、ボロン酸カリウム塩基、ボロン酸カルシウム塩基等が挙げられる。
上記ボロン酸誘導基の熱可塑性樹脂中における含有量は特に限定されないが、多層構造体における層間接着性を高くする観点から、熱可塑性樹脂を構成する重合体の全構成単位に対するボロン酸誘導基の含有量の下限値としては0.0001meq(当量)/gが好ましく、0.001meq/gがより好ましい。一方、このボロン酸誘導基の含有量の上限値としては1meq/gが好ましく、0.1meq/gがより好ましい。ボロン酸誘導基の含有量が上記下限より小さいと、層間接着性が低くなり、当該多層構造体の耐久性が低くなるおそれがある。逆に、ボロン酸誘導基の含有量が上記上限を超えると、樹脂組成物の着色が激しくなり、多層構造体の外観が悪化するおそれがある。
上記ボロン酸誘導基を有する熱可塑性樹脂の好適なベースポリマーの例としては、ポリエチレン(超低密度、低密度、中密度、高密度)、エチレン−アクリル酸メチル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体等のオレフィン系重合体;ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、スチレン−ジエン系ブロック共重合体の水添物(スチレン−イソプレン−ブロック共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体等の水添物)等のスチレン系重合体;ポリメチルアクリレート、ポリエチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル系重合体;ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニル系重合体;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等の半芳香族ポリエステル;ポリバレロラクトン、ポリカプロラクトン、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート等の脂肪族ポリエステル等が挙げられる。
上記ボロン酸誘導基を有する熱可塑性樹脂のメルトフローレート(MFR)(230℃、2160g荷重下で測定した値)としては、0.01〜500g/10分が好ましく、0.1〜50g/10分がより好ましい。このようなボロン酸誘導基を有する熱可塑性樹脂としては、1種類又は複数種を用いることができる。
次に、当該ボロン酸誘導基を有する熱可塑性樹脂の代表的製法について述べる。第1の製法:ボロン酸誘導基を有するオレフィン系重合体は、窒素雰囲気下、炭素−炭素二重結合を有するオレフィン系重合体にボラン錯体及びホウ酸トリアルキルエステルを反応させることによって、ボロン酸ジアルキルエステル基を有するオレフィン系重合体を得た後、水あるいはアルコール類を反応させることによって得られる。この製法において原料として末端に二重結合を有するオレフィン系重合体を使用すれば、末端にボロン酸誘導基を有するオレフィン系重合体が得られる。また、側鎖及び主鎖に二重結合を有するオレフィン系重合体を原料として使用すれば、主に側鎖にボロン酸誘導基を有するオレフィン系重合体が得られる。
原料である二重結合を有するオレフィン系重合体の代表製造例としては、1)通常のオレフィン系重合体を用い、末端に微量に存在する二重結合を利用する方法;2)通常のオレフィン系重合体を無酸素条件下、熱分解し、末端に二重結合を有するオレフィン系重合体を得る製法;3)オレフィン系単量体とジエン系単量体との共重合により二重結合を有するオレフィン系重合体を得る製法が挙げられる。1)については、公知のオレフィン系重合体の製法を用いることができるが、フィリップス法による製法や連鎖移動剤として水素を用いず、重合触媒としてメタロセン系重合触媒を用いる製法(例えば、DE4030399)が好ましい。2)については、公知の方法(例えばUS2835659,3087922)によりオレフィン系重合体を窒素雰囲気下や真空条件下等の無酸素条件下で300〜500℃の温度で熱分解することによって得ることができる。3)については公知のチーグラー系触媒を用いたオレフィン−ジエン系共重合体の製法(例えば特開昭50−44281、DE3021273)を用いることができる。
上記で用いるボラン錯体としては、ボラン−テトラヒドロフラン錯体、ボラン−ジメチルスルフィド錯体、ボラン−ピリジン錯体、ボラン−トリメチルアミン錯体、ボラン−トリエチルアミン錯体等が好ましい。これらの中でボラン−ジメチルスルフィド錯体、ボラン−トリメチルアミン錯体およびボラン−トリエチルアミン錯体がより好ましい。ボラン錯体の反応仕込み量としては、オレフィン系重合体の二重結合の総数に対して、1/3当量〜10当量の範囲にするのが好ましい。また、ホウ酸トリアルキルエステルとしては、トリメチルボレート、トリエチルボレート、トリプロピルボレート、トリブチルボレート等のホウ酸低級アルキルエステルが好ましい。ホウ酸トリアルキルエステルの反応仕込み量としては、オレフィン系重合体の二重結合の総数に対し1当量〜100当量の範囲が好ましい。溶媒は特に使用する必要はないが、使用する場合は、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、シクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、デカリン等の飽和炭化水素系溶媒が好ましい。
上記ボラン錯体又はホウ酸トリアルキルエステルとオレフィン系重合体との反応を行う場合の反応温度は通常、室温〜300℃であり、好ましくは100〜250℃である。また、反応時間は通常1分〜10時間であり、好ましくは5分〜5時間である。
上記で得られたボロン酸ジアルキルエステル基を有するオレフィン系重合体を、水又はアルコール類と反応させる条件としては通常、トルエン、キシレン、アセトン、酢酸エチル等の有機溶媒を反応溶媒として用い、水;メタノール、エタノール、ブタノール等の1価アルコール類;エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール,ネオペンチルグリコール、グリセリン、トリメチロールメタン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール等の多価アルコール類をボロン酸ジアルキルエステル基に対し、1〜100当量またはそれ以上の大過剰量を反応させることによって得られる。
ボロン酸誘導基を有する熱可塑性樹脂の第2の製法:末端にボロン酸誘導基を有するオレフィン系重合体は、ボロン酸誘導基を有するチオール存在下でオレフィン系単量体、ビニル系単量体又はジエン系単量体から選ばれる少なくとも1種をラジカル重合することによって得られる。
原料であるボロン酸誘導基を有するチオールは、窒素雰囲気下、二重結合を有するチオールにジボラン又はボラン錯体を反応後、アルコール類または水を加えることによって得られる。ここで、二重結合を有するチオールとしては2−プロペン−1−チオール、2−メチル−2−プロペン−1−チオール、3−ブテン−1−チオール、4−ペンテン−1−チオール等が挙げられる。この中で、2−プロペン−1−チオール又は2−メチル−2−プロペン−1−チオールが好ましい。ここで用いられるボラン錯体としては、上記と同様のものが使用されるが、この中で、ボラン−テトラヒドロフラン錯体又はボラン−ジメチルスルフィド錯体が特に好ましく用いられる。ジボラン又はボラン錯体の添加量は二重結合を有するチオールに対して1当量程度が好ましい。反応条件としては室温から200℃が好ましい。溶媒としてはテトラヒドロフラン(THF)、ジグライム等のエーテル系溶媒;ヘキサン、ヘプタン、エチルシクロヘキサン、デカリン等の飽和炭化水素系溶媒等が挙げられるが、この中で、テトラヒドロフランが好ましい。反応後に添加するアルコール類としては、メタノール、エタノール等の炭素数1〜6の低級アルコールが好ましく、特に、メタノールが好ましい。
このようにして得られた、ボロン酸誘導基を有するチオールの存在下、オレフィン系単量体、ビニル系単量体、ジエン系単量体から選ばれる少なくとも1種をラジカル重合することによって末端にボロン酸誘導基を有する重合体が得られる。重合にはアゾ系あるいは過酸化物系の開始剤が通常用いられる。重合温度としては、室温から150℃の温度範囲が好ましい。ボロン酸誘導基を有するチオールの添加量としては単量体1g当たり0.001ミリモルから1ミリモル程度が好ましく、チオールの添加方法としては、特に制限はないが、単量体として酢酸ビニル、スチレンなどの連鎖移動しやすいものを使用する場合は、重合時にチオールを重合系中にフィードすることが好ましく、メタクリル酸メチル等の連鎖移動しにくいものを使用する場合はチオールを重合系に最初に仕込んでおくことが好ましい。
ボロン酸誘導基を有する熱可塑性樹脂の第3の製法:側鎖にボロン酸誘導基を有する熱可塑性樹脂は、ボロン酸誘導基を有する単量体と上記オレフィン系単量体、ビニル系単量体及びジエン系単量体から選ばれる少なくとも1種の単量体とを共重合させることによって得られる。ここでボロン酸誘導基を有する単量体としては、例えば、3−アクリロイルアミノベンゼンボロン酸、3−アクリロイルアミノベンゼンボロン酸エチレングリコールエステル、3−メタクリロイルアミノベンゼンボロン酸、3−メタクリロイルアミノベンゼンボロン酸エチレングリコールエステル、4−ビニルフェニルボロン酸、4−ビニルフェニルボロン酸エチレングリコールエステル等が挙げられる。
また、側鎖にボロン酸誘導基を有する熱可塑性樹脂は、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、シトラコン酸、フマル酸、および無水マレイン酸などの不飽和カルボン酸と上記オレフィン系単量体、ビニル系単量体およびジエン系単量体から選ばれる少なくとも1種の単量体とのランダム共重合体又はグラフト共重合体を製造し、重合体に含有されるカルボキシル基をカルボジイミド等の縮合剤を用いてまたは用いずに、m−アミノフェニルベンゼンボロン酸、m−アミノフェニルボロン酸エチレングリコールエステルなどのアミノ基含有ボロン酸又はアミノ基含有ボロン酸エステルとアミド化反応させることによって得られる。
上記ビニルエステル系共重合体は、この共重合体を構成する全構造単位に対して少なくとも30モル%以上がビニルエステル単位である共重合体である。この共重合体中のビニルエステル単位の割合が30モル%未満だと、多層構造体の層間接着性が低下するおそれがある。上記ビニルエステルとしては、酢酸ビニル、蟻酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニルなどの脂肪酸ビニルが挙げられる。その中でも、入手容易である点から、酢酸ビニルが特に好ましい。また、上記ビニルエステル系共重合体において、ビニルエステルと共重合させることが可能な共重合成分としては、エチレン、プロピレン等のオレフィン;スチレン、p−メチルスチレン等のスチレン類;塩化ビニル等のハロゲン含有オレフィン;メチルアクリレート、エチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート等の(メタ)アクリルエステル;ブタジエン、イソプレン等のジエン;アクリロニトリル等の不飽和ニトリルなどを例示することができる。これらの共重合成分は1種類又は複数種を用いることができる。上記ビニルエステル共重合体のガラス転移点(Tg)は、共重合成分の種類と量を変化させることによって調節することができる。当該ビニルエステル系共重合体の具体例としては、エチレン−酢酸ビニル共重合体、プロピレン−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、メチルアクリレート−酢酸ビニル共重合体、アクリロニトリル−酢酸ビニル共重合体などが例示される。この中で、得られる多層構造体の層間接着性、延伸性及び熱成形性が特に向上する点から、エチレン−酢酸ビニル共重合体が特に好ましい。
上記官能基含有樹脂を他の樹脂とブレンドしたものを、B層の樹脂組成物として用いることもできる。他の樹脂とのブレンドにより、B層の樹脂組成物に含まれる官能基濃度を制御でき、熱安定性、溶融粘度およびA層との接着性等の物性を制御することができる。
このような他の樹脂としては、積層体を形成し得る性状であることが必要であり、ポリオレフィンが好ましい樹脂として挙げられる。特に官能基含有樹脂が変性により得られる樹脂である場合には、当該他の樹脂は変性前の樹脂と同じモノマーユニットを有することが好ましい。すなわち、例えば官能基含有樹脂として上述のカルボン酸変性ポリオレフィンを用いる場合、その未変性ポリオレフィンを他の樹脂として用いること(例えば、無水マレイン酸変性直鎖状低密度ポリエチレンと未変性直鎖状低密度ポリエチレンとのブレンドを使用するなど)が好ましい。上記官能基含有樹脂と他の樹脂との比率は、必要な性能により適宜選択されるが、官能基含有樹脂/他の樹脂の質量比が2/98〜40/60であることが好ましい。
また、他の樹脂として、当該多層構造体の耐湿性を向上させるために、脂環式オレフィン重合体をB層の樹脂組成物に含有させることも好ましい。脂環式オレフィン重合体をB層の樹脂組成物に含有させる場合の、官能基含有樹脂/脂環式オレフィン重合体の質量比としては、2/98〜40/60が好ましく、5/95〜30/70がさらに好ましい。
脂環式オレフィン重合体とは、脂環式構造を含有してなる繰り返し単位を有する重合体である。この脂環式構造としては、飽和環状炭化水素(シクロアルカン)構造、不飽和環状炭化水素(シクロアルケン)構造などが挙げられるが、機械強度、耐熱性などの観点から、シクロアルカン構造やシクロアルケン構造が好ましく、中でもシクロアルカン構造が最も好ましい。脂環式構造は主鎖にあっても良いし、側鎖にあっても良いが、機械強度、耐熱性などの観点から、主鎖に脂環式構造を含有するものが好ましい。脂環式構造を構成する炭素原子数は、特に限定されないが、通常4〜30個、好ましくは5〜20個、より好ましくは5〜15個の範囲であるときに、機械強度、耐熱性、及び樹脂層の成形性等の特性が高度にバランスされる。
脂環式オレフィン重合体には、脂環式オレフィンの単独重合体及び共重合体並びにこれらの誘導体(水素添加物等)が含まれる。また、重合の方法は、付加重合であっても開環重合であってもよい。
脂環式オレフィン重合体としては、例えば、ノルボルネン環を有する単量体(以下、ノルボルネン単量体という)の開環重合体及びその水素添加物、ノルボルネン単量体の付加重合体、ノルボルネン単量体とビニル化合物との付加共重合体、単環シクロアルケン付加重合体、脂環式共役ジエン重合体、ビニル系脂環式炭化水素重合体及びその水素添加物等を挙げることができる。さらに、芳香族オレフィン重合体の芳香環水素添加物等の、重合後の水素化によって脂環構造が形成されて、脂環式オレフィン重合体と同等の構造を有するに至った重合体も含まれる。脂環式オレフィンの重合方法、及び必要に応じて行われる水素添加の方法は、格別な制限はなく、公知の方法に従って行うことができる。
また、脂環式オレフィン重合体には、極性基を有するものも含まれる。この極性基としては、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アルコキシル基、エポキシ基、グリシジル基、オキシカルボニル基、カルボニル基、アミノ基、エステル基、カルボン酸無水物基などが挙げられ、特に、カルボキシル基及びカルボン酸無水物基が好適である。極性基を有する脂環式オレフィン重合体を得る方法は特に限定されないが、例えば、(i)極性基を含有する脂環式オレフィン単量体を、単独重合し、又は、他の単量体と共重合する方法;(ii)極性基を含有しない脂環式オレフィン重合体に、極性基を有する炭素−炭素不飽和結合含有化合物を、例えばラジカル開始剤存在下で、グラフト結合させることにより、極性基を導入する方法;等が挙げられる。
(i)の方法に用いられる極性基を含有する脂環式オレフィン単量体としては、8−ヒドロキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、5−ヒドロキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−メチル−5−ヒドロキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−カルボキシメチル−5−ヒドロキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、8−メチル−8−ヒドロキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−カルボキシメチル−8−ヒドロキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、5−エキソ−6−エンド−ジヒドロキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、8−エキソ−9−エンド−ジヒドロキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エンなどのカルボキシル基含有脂環式オレフィン単量体;ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン−5,6−ジカルボン酸無水物、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン−8,9−ジカルボン酸無水物、ヘキサシクロ[6.6.1.13,6.110,13.02,7.09,14]ヘプタデカ−4−エン−11,12−ジカルボン酸無水物などの酸無水物基含有脂環式オレフィン単量体;が挙げられる。
(ii)の方法に用いられる極性基を含有しない脂環式オレフィン重合体を得るための単量体の具体例としては、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン(慣用名:ノルボルネン)、5−エチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−ブチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−エチリデン−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−メチリデン−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−ビニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3,7−ジエン(慣用名:ジシクロペンタジエン)、テトラシクロ[8.4.0.111,14.02,8]テトラデカ−3,5,7,12,11−テトラエン、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]デカ−3−エン(慣用名:テトラシクロドデセン)、8−メチル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−エチル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−メチリデン−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−エチリデン−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−ビニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−プロペニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13]ペンタデカ−3,10−ジエン、ペンタシクロ[7.4.0.13,6.110,13.02,7]ペンタデカ−4,11−ジエン、シクロペンテン、シクロペンタジエン、1,4−メタノ−1,4,4a,5,10,10a−ヘキサヒドロアントラセン、8−フェニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エンなどが挙げられる。
また、(ii)の方法に用いられる極性基を有する炭素−炭素不飽和結合含有化合物としては、アクリル酸、メタクリル酸、α−エチルアクリル酸、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマール酸、イタコン酸、エンドシス−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボン酸、メチル−エンドシス−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボン酸などの不飽和カルボン酸化合物;無水マレイン酸、クロロ無水マレイン酸、ブテニル無水コハク酸、テトラヒドロ無水フタル酸、無水シトラコン酸などの不飽和カルボン酸無水物;などが挙げられる。
上記官能基含有樹脂を他の樹脂とブレンドする方法は、均一にブレンドされれば特に制限はなく、固体状のままブレンドするドライブレンドでもよいし、ドライブレンドした混合物を溶融押出機にてペレット化するメルトブレンドでもよい。メルトブレンドの手段としては、リボンブレンダー、ミキサーコニーダー、ペレタイザー、ミキシングロール、押出機、インテンシブミキサーを用いる方法が例示される。これらの中でも、工程の簡便さおよびコストの観点から、単軸または2軸スクリューの押出機を使用するのが好ましい。ブレンド温度は設備の性質、樹脂の種類や配合割合などにより適宜選択されるが、多くの場合150〜300℃の範囲である。また、多層構造体を形成する際に、成形機に付属している押出機を用いて溶融混練することもできる。
B層の樹脂組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、熱可塑性樹脂以外の樹脂、又は熱安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、着色剤、フィラーなど種々の添加剤を含んでいてもよい。B層の樹脂組成物が添加剤を含む場合、その量は樹脂組成物の総量に対して50質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがよりこのましく、10質量%以下であることが特に好ましい。
上記A層の樹脂組成物と同様の理由により、A層又はB層の樹脂組成物のビカット軟化温度より30℃高い温度において、B層の樹脂組成物の剪断速度10/秒での溶融粘度(η1B)が1×102Pa・s以上1×104Pa・s以下、剪断速度1,000/秒での溶融粘度(η2B)が1×101Pa・s以上1×103Pa・s以下であり、かつ、これらの溶融粘度比(η2B/η1B)が下記式(1B)を満たすことが好ましい。
−0.8≦(1/2)log10(η2B/η1B)≦−0.1 ・・(1B)
また、A層と同様の理由により、この(1/2)log10(η2B/η1B)の値は、−0.6以上であることがより好ましく、−0.2以下であることがより好ましい。
〈金属塩〉
A層及びB層の少なくとも一方の樹脂組成物中に金属塩を含むことが好ましい。このように隣接するA層及びB層の少なくとも一方に金属塩を含むことによって、非常に優れたA層及びB層の層間接着性が発揮される。このような非常に優れた層間接着性により、当該多層構造体が高い耐久性を有している。かかる金属塩が層間接着性を向上させる理由は、必ずしも明らかではないが、A層の樹脂組成物中のガスバリア性樹脂とB層の樹脂組成物中の熱可塑性樹脂との間で起こる結合生成反応が、金属塩の存在によって加速されることなどが考えられる。そのような結合生成反応としては、TPUのカーバメート基やポリアミドのアミノ基等とガスバリア性樹脂の水酸基等との間で起こる水酸基交換反応や、TPU中の残存イソシアネート基へのガスバリア性樹脂の水酸基等の付加反応、ポリアミドの末端カルボキシル基とEVOHの水酸基とのアミド生成反応、その他ガスバリア性樹脂と官能基含有樹脂との間で起こる結合性反応等が考えられる。なお、金属塩はA層の樹脂組成物とB層の樹脂組成物の両方に含有されていてもよく、A層の樹脂組成物又はB層の樹脂組成物のどちらか一方に含有されていてもよい。
金属塩としては、特に限定されるものではないが、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩又は周期律表の第4周期に記載されるdブロック金属塩が層間接着性をより高める点で好ましい。この中でも、アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩がさらに好ましく、特にアルカリ金属塩が好ましい。
アルカリ金属塩としては、特に限定されないが、例えばリチウム、ナトリウム、カリウムなどの脂肪族カルボン酸塩、芳香族カルボン酸塩、リン酸塩、金属錯体等が挙げられる。このアルカリ金属塩としては、具体的には、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸リチウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、エチレンジアミン四酢酸のナトリウム塩等が挙げられる。この中でも、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、リン酸ナトリウムが、入手容易である点から特に好ましい。
アルカリ土類金属塩としては、特に限定されないが、例えば、マグネシウム、カルシウム、バリウム、ベリリウムなどの酢酸塩又はリン酸塩が挙げられる。この中でも、マグネシウム又はカルシウムの酢酸塩又はリン酸塩が、入手容易である点から特に好ましい。かかるアルカリ土類金属塩を含有させると、溶融成形時における熱劣化した樹脂の成形機のダイ付着量を低減できるという利点もある。
周期律表の第4周期に記載されるdブロック金属の金属塩としては、特に限定されないが、例えばチタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛などのカルボン酸塩、リン酸塩、アセチルアセトナート塩等が挙げられる。
金属塩の含有量(当該多層構造体全体を基準とする金属元素換算の含有量)の下限としては、1ppmが好ましく、5ppmがより好ましく、10ppmがさらに好ましく、20ppmが特に好ましい。一方、この金属塩の含有量の上限としては、10,000ppmが好ましく、5,000ppmがより好ましく、1,000ppmがさらに好ましく、500ppmが特に好ましい。金属塩の含有量が上記下限より小さいと、層間接着性が低くなり、当該多層構造体の耐久性が低くなるおそれがある。逆に、金属塩の含有量が上記上限を超えると、樹脂組成物の着色が激しくなり、多層構造体の外観が悪化するおそれがある。
金属塩を含有する各樹脂組成物に対する金属塩の含有量の下限としては、5ppmが好ましく、10ppmがより好ましく、20ppmがさらに好ましく、50ppmが特に好ましい。一方、この金属塩の含有量の上限としては、5,000ppmが好ましく、1,000ppmがより好ましく、500ppmがさらに好ましく、300ppmが特に好ましい。金属塩の含有量が上記下限より小さいと、隣接する他層に対する接着性が低くなり、当該多層構造体の耐久性が低くなるおそれがある。逆に、金属塩の含有量が上記上限を超えると、樹脂組成物の着色が激しくなり、多層構造体の外観が悪化するおそれがある。
この金属塩をA層やB層の樹脂組成物に含有する方法は、特に限定されるものではなく、上述のようなA層の樹脂組成物中にリン酸化合物等を含有する方法と同様の方法が採用される。
〈酸素掃去剤〉
A層及びB層を構成する樹脂組成物は、上記金属塩等以外にも、種々の成分を含有することができる。そのような成分としては、例えば、酸素掃去剤が挙げられる。この酸素掃去剤は、B層を構成する樹脂組成物が官能基含有樹脂を含む場合、特に好適に用いることができる。酸素掃去剤は、A層及びB層を構成する樹脂組成物のいずれにも含有させることができるが、A層の樹脂組成物に含有させることが好ましい。
酸素掃去剤は、酸素掃去能(酸素吸収機能)を有する物質である。酸素掃去能とは、与えられた環境から酸素を吸収・消費し、又はその量を減少させる機能をいう。樹脂組成物に含有することができる酸素掃去剤は、そのような性質を有するものであればよく、特に限定されない。樹脂組成物が酸素掃去剤を含有することによって、酸素掃去能が付加される結果、当該多層構造体のガスバリア性をさらに向上させることができる。酸素掃去剤としては種々のものを用いることができ、例えば酸素掃去能を有する熱可塑性樹脂、アスコルビン酸等の有機系酸素掃去剤;鉄、亜硫酸塩等の無機系酸素掃去剤などが挙げられる。この中で、酸素掃去性が高く、また当該多層構造体の樹脂組成物に含有させることが容易である観点から、酸素掃去能を有する熱可塑性樹脂が好ましい。
〈酸素掃去能を有する熱可塑性樹脂〉
酸素掃去能を有する熱可塑性樹脂としては、酸素を掃去することができる熱可塑性樹脂であれば特に限定されないが、例えば、炭素−炭素二重結合を有するエチレン系不飽和炭化水素のポリマー又はポリマーのブレンド(分子量1,000以下かつ共役二重結合を有するものを除く)(以下、単に「不飽和炭化水素ポリマー」ともいう。)などが挙げられる。
〈不飽和炭化水素ポリマー〉
不飽和炭化水素ポリマーは、置換基を有していてもよく、非置換であってもよい。非置換の不飽和炭化水素ポリマーは少なくとも1つの脂肪族炭素−炭素二重結合を有しかつ100質量%の炭素及び水素からなる任意の化合物と定義される。また、置換された不飽和炭化水素ポリマーは、少なくとも1つの脂肪族炭素−炭素二重結合を有しそして約50〜99質量%の炭素及び水素からなるエチレン系不飽和炭化水素として定義される。好ましい非置換又は置換の不飽和炭化水素ポリマーは1分子あたり2以上のエチレン系不飽和基を有するものである。より好ましくは、それは2以上のエチレン系不飽和基を有し、かつ1,000に等しいか、あるいはそれより大きい質量平均分子量を有するポリマー化合物である。エチレン系不飽和炭化水素のポリマーのブレンドは、2種またはそれ以上の置換または非置換のエチレン系不飽和炭化水素の混合物からなることができる。
非置換の不飽和炭化水素ポリマーの好ましい例は次のものを包含するが、これらに限定されない:ジエンポリマー、例えば、ポリイソプレン、(例えば、トランス−ポリイソプレン)、ポリブタジエン(ことに1,2−ポリブタジエン、これらは50%大きいか、あるいはそれに等しい1,2微小構造を有するポリブタジエンとして定義される)、及びそれらのコポリマー、例えば、スチレン−ブタジエン。このような炭化水素は、また、次のものを包含する:ポリマー化合物、例えば、ポリペンテナマー、ポリオクテナマー、及びオレフィンの複分解により製造された他のポリマー;ジエンオリゴマー、例えば、スクアレン;及びジシクロペンタジエン、ノルボルナジエン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、あるいは2以上の炭素−炭素二重結合(共役または非共役)を含有する他のモノマーから誘導されたポリマーまたはコポリマー。これらの炭化水素は、さらに、カロテノイド例えば、β−カロテンを包含する。
好ましい置換された不飽和炭化水素ポリマーは、酸素含有部分をもつもの、例えば、エステル、カルボン酸、アルデヒド、エーテル、ケトン、アルコール、パーオキシド、及び/又はヒドロパーオキシドを包含するが、これらに限定されない。このような炭化水素の特定の例は、縮合ポリマー、例えば、炭素−炭素二重結合を含有するモノマーから誘導されたポリエステル;不飽和脂肪酸、例えば、オレイン酸、リシノール酸、脱水リシノール酸、並びにリノール酸及びそれらの誘導体、例えば、エステルを包含するが、これらに限定されない。このような炭化水素は(メタ)アリル(メタ)アクリレートを包含する。
上記不飽和炭化水素ポリマーにおいては、炭素−炭素二重結合の含有量が、ポリマー100gあたり、0.01〜1.0当量であることが好ましい。ポリマーの二重結合の含量をこのような範囲に制限することによって、当該多層構造体の酸素掃去性及び物理的性質の両方を高く保持することができる。
このように二重結合が減少したポリマーは、ホモポリマー、コポリマー、及び/又はポリマーのブレンドであることができる。ポリマーのブレンドはことに望ましい。なぜなら不連続相における物理的性質の変化は、連続相が優位を占めるであろうブレンドの全体の物理的性質へ与える影響が比較的少ないので、不連続相の中に存在する二重結合の大部分を有することが望ましいことがあるからである。
ホモポリマーの適当な例は、100g当たり0.91当量の二重結合を有するポリ(オクテナマー)、及び100g当たり0.93当量の二重結合を有するポリ(4−ビニルシクロヘキセン)である。コポリマーの適当な例は、C1−C4アルキルアクリレート及びメタクリレートを包含する。他の例は、1,3−ブタジエン、イソプレン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、4−ビニルシクロヘキセン、1,4−ヘキサジエン、1,6−オクタジエン等と、1種または2種以上のビニルモノマー、例えばエチレン、プロピレン、スチレン、酢酸ビニル、及び/又はα−オレフィンとから誘導されたコポリマーを包含する。特定の例は、エチレン、プロピレン及び5−エチリデン−2−ノルボルネンのターポリマーである。このようなEPDMエラストマーは典型的には3〜14質量%の5−エチリデン−2−ノルボルネンを含有する。このようなポリマーは、ポリマーの100g当たり0.01〜1.0当量の二重結合の要件の範囲内である。また、水素化された二重結合の少なくとも約50%をもつ、部分的に水素化されたエチレン系不飽和のポリマー(例えば、ポリブタジエン)は適当である。ポリマーのブレンドの例は多数である。EPDM及び20〜40%のポリブタジエン、EPDM及び20〜40%のポリ(オクテナマー)のブレンド、並びにポリブタジエン及び飽和ポリオレフィンの50/50ブレンドはことに好ましい。
〈実質的に主鎖のみに炭素−炭素二重結合を有する熱可塑性樹脂〉
このような不飽和炭化水素ポリマーの中でも、酸素掃去性が非常に高く、また、当該多層構造体の樹脂組成物に非常に容易に含有させることができる観点から、実質的に主鎖のみに炭素−炭素二重結合を有する熱可塑性樹脂(以下、単に「二重結合含有熱可塑性樹脂」ともいう。)(分子量1,000以下かつ共役二重結合を有するものを除く)が特に好ましい。ここで、熱可塑性樹脂が「実質的に主鎖のみに炭素−炭素二重結合を有する」とは、熱可塑性樹脂の主鎖に存在する炭素−炭素二重結合が分子内の主鎖又は側鎖に含まれる全炭素−炭素二重結合の90%以上であることをいう。主鎖に存在する炭素−炭素二重結合は、好ましくは93%以上、さらに好ましくは95%以上である。
上記二重結合含有熱可塑性樹脂は、その分子内に炭素−炭素二重結合を有するため、酸素と効率よく反応することが可能であり、高い酸素掃去能が得られる。このような熱可塑性樹脂を、樹脂組成物に含有させることによって、当該多層構造体のガスバリア性を格段に向上させることができる。上記炭素−炭素二重結合とは、共役二重結合を包含するが、芳香環に含まれる多重結合は包含しない。
上記二重結合含有熱可塑性樹脂に含まれる炭素−炭素二重結合の含有量の下限としては、0.001当量/gが好ましく、0.005当量/gがより好ましく、0.01当量/gがさらに好ましい。一方、炭素−炭素二重結合の含有量の上限としては、0.04当量/gが好ましく、0.03当量/gがより好ましく、0.02当量/gがさらに好ましい。炭素−炭素二重結合の含有量が上記下限より小さいと、得られる多層構造体の酸素掃去機能が不十分となるおそれがある。逆に、炭素−炭素二重結合の含有量が上記上限を超えると、樹脂組成物の着色が激しくなり、得られる多層構造体の外観が悪化するおそれがある。
上述のように、上記二重結合含有熱可塑性樹脂は実質的に主鎖のみに炭素−炭素二重結合を有するため、酸素との反応により、側鎖の二重結合の開裂に伴う低分子量分解物の発生が極めて少ない。低分子量の分解物の一部は不快臭気物質であるが、このような分解物を生じにくいため不快臭を発生することが少ない。従って、そのような熱可塑性樹脂を樹脂組成物に含有させることによって、高いガスバリア性と耐久性を有するとともに、酸素掃去により不快な臭気を発生しない多層構造体とすることができる。これに対して、炭素−炭素二重結合が側鎖に多い熱可塑性樹脂を使用した場合、酸素掃去性の点では問題とならないが、上述のように側鎖の二重結合の開裂によって分解物が生成する。そのため、不快な臭気が発生し、周囲の環境を著しく損ねるおそれがある。
上記二重結合含有熱可塑性樹脂において、主鎖中の炭素−炭素二重結合が酸素と反応した際には、アリル炭素(二重結合に隣接する炭素)の部位で酸化を受けるため、アリル炭素は4級炭素でないことが好ましい。さらに、主鎖の開裂によっても低分子量の分解物が生成する可能性は否定できないので、これを抑制するためにも、上記アリル炭素は、置換されていない炭素、すなわち、メチレン炭素であることが好ましい。以上の点から、二重結合含有熱可塑性樹脂は、下記式(XIV)及び(XV)で示される単位のうちの少なくとも1種を有することが好ましい。
上記式(XIV)及び(XV)中、R16、R17、R18及びR19はそれぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいアルキルアリール基、−COOR20、−OCOR21、シアノ基又はハロゲン原子を表す。R18とR19とはメチレン基又はオキシメチレン基によって環を形成していてもよい(但し、R18とR19とが共に水素原子の場合を除く)。R20及びR21は置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基又は置換基を有していてもよいアルキルアリール基を表す。
上記R16、R17、R18及びR19がアルキル基である場合の炭素原子数は、好ましくは1〜5であり、アリール基である場合の炭素原子数は好ましくは6〜10であり、アルキルアリール基である場合の炭素原子数は好ましくは7〜11である。そのようなアルキル基の具体例としてはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基が、アリール基の具体例としてはフェニル基が、アルキルアリール基の例としてはトリル基が、ハロゲン原子の例としては塩素原子が、それぞれ挙げられる。
また二重結合含有熱可塑性樹脂に含まれていてもよい置換基としては、各種親水性基が挙げられる。ここでいう親水性基としては水酸基、炭素数1〜10のアルコキシ基、アミノ基、アルデヒド基、カルボキシル基、金属カルボキシレート基、エポキシ基、エステル基、カルボン酸無水物基、ボロン酸基、水の存在下でボロン酸基に転化し得るホウ素含有基(例えば、ボロン酸エステル基、ボロン酸無水物基、ボロン酸塩基等)等が挙げられる。これらの親水性基の中で、アルデヒド基、カルボキシル基、金属カルボキシレート基、エポキシ基、エステル基、カルボン酸無水物基、ボロン酸基、水の存在下でボロン酸基に転化し得るホウ素含有基が、EVOHの水酸基等と反応し得る点で好ましい。上記二重結合含有熱可塑性樹脂がこれらの親水性基を含有することによって、この熱可塑性樹脂が樹脂組成物中の分散性が高くなって、得られる多層構造体の酸素掃去機能が向上する。また、それとともに、この親水性基が隣接する層のEVOHの水酸基や官能基等と反応して化学的な結合を形成することによって、層間接着性が向上し、得られる多層構造体のガスバリア性等の特性及び耐久性がさらに向上する。
また、上記二重結合含有熱可塑性樹脂のうちでも、上記式(XIV)及び(XV)の各単位において、R16、R17、R18及びR19のすべてが水素原子である化合物が、臭気を防止する観点からは特に好ましい。この理由については必ずしも明らかではないが、R16、R17、R18及びR19が水素原子以外である場合には、熱可塑性樹脂が酸素と反応する際にこれらの基が、酸化、切断されて臭気物質に変化する場合があるためと推定される。
上記二重結合含有熱可塑性樹脂において、上記式(XIV)及び(XV)の単位の中でも、ジエン化合物由来の単位であることが好ましい。ジエン化合物由来の単位であることによって、そのような構造単位を有する熱可塑性樹脂を容易に製造することができる。このようなジエン化合物としては、イソプレン、ブタジエン、2−エチルブタジエン、2−ブチルブタジエン、クロロプレンなどが挙げられる。これらの1種のみを使用してもよく、複数種を併用してもよい。これらジエン化合物由来の単位を含む二重結合含有熱可塑性樹脂の例としては、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリクロロプレン、ポリオクテニレンなどが挙げられる。これらの中でも、酸素掃去機能が特に高い点で、ポリブタジエン、ポリオクテニレンが特に好ましい。また、二重結合含有熱可塑性樹脂として、上記構造単位以外の構造単位を共重合成分として含有する共重合体も使用可能である。そのような共重合成分としてはスチレン、アクリロニトリル、プロピレンなどが挙げられる。二重結合含有熱可塑性樹脂がこのような共重合体である場合、上記式(X)及び(XI)で示される単位の含有量は、熱可塑性樹脂の全構造単位に対するその合計の単位数が50モル%以上が好ましく、70モル%以上がより好ましい。
二重結合含有熱可塑性樹脂の数平均分子量の下限としては、1,000が好ましく、5,000がより好ましく、10,000がさらに好ましく、40,000が特に好ましい。一方、この数平均分子量の上限としては、500,000が好ましく、300,000がより好ましく、250,000がさらに好ましく、200,000が特に好ましい。二重結合含有熱可塑性樹脂の分子量が1,000未満の場合又は500,000を超える場合には、得られる多層構造体の成形加工性、及びハンドリング性に劣り、また多層構造体の強度や伸度などの機械的性質が低下するおそれがある。また、樹脂組成物中における分散性が低下し、その結果、多層構造体のガスバリア性及び酸素掃去性能が低下するおそれがある。二重結合含有熱可塑性樹脂は1種類又は複数種を用いることができる。
上記のような実質的に主鎖のみに炭素−炭素二重結合を有する熱可塑性樹脂を製造する方法としては、熱可塑性樹脂の種類によっても異なるが、例えば、ポリブタジエン(cis−1,4−ポリブタジエン)の場合、触媒としてコバルト系や、ニッケル系触媒を使用することにより合成することができる。触媒の具体例としては、例えば、CoCl2・2C5H5N錯体とジエチルアルミニウムクロライドの組み合わせなどが挙げられる。使用可能な溶媒としては、不活性な有機溶媒が挙げられ、中でも、炭素原子数が6〜12の炭化水素、例えばヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカンなどの脂環式炭化水素類、またはトルエン、ベンゼン、キシレンなどの芳香族炭化水素類が好適である。重合は通常、−78℃〜70℃の温度範囲で、1〜50時間の時間の範囲で行われる。
なお、重合後に存在する炭素−炭素二重結合は、多層構造体の機械的性質やガスバリア性や酸素掃去性能等の効果を阻害しない範囲で、その一部が水素により還元されていても構わない。このとき、特に側鎖に残存する炭素−炭素二重結合を選択的に水素によって還元することが好ましい。
〈遷移金属塩〉
樹脂組成物は、上記不飽和炭化水素ポリマー(二重結合含有熱可塑性樹脂を含む)とともに、さらに遷移金属塩(上記金属塩を除く)を含むことが好ましい。このような遷移金属塩を、上記不飽和炭化水素ポリマーとともに含有することによって、得られる多層構造体の酸素掃去機能がさらに向上する結果、ガスバリア性がさらに高くなる。この理由としては、遷移金属塩が、上記不飽和炭化水素ポリマーと多層構造体の内部に存在する酸素又は当該多層構造体中を透過しようとする酸素との反応を促進するためであることなどが考えられる。
遷移金属塩を構成する遷移金属イオンとしては、鉄、ニッケル、銅、マンガン、コバルト、ロジウム、チタン、クロム、バナジウム又はルテニウム等の各イオンが挙げられるが、これらに限定されない。これらの中でも、鉄、ニッケル、銅、マンガン又はコバルトの各イオンが好ましく、マンガン又はコバルトの各イオンがより好ましく、コバルトイオンが特に好ましい。
遷移金属塩を構成する遷移金属イオンの対アニオンとしては、カルボン酸イオン又はハロゲンアニオンなどが挙げられる。対アニオンの具体例としては、例えば、酢酸、ステアリン酸、アセチルアセトン、ジメチルジチオカルバミン酸、パルミチン酸、2−エチルへキサン酸、ネオデカン酸、リノール酸、トール酸、オレイン酸、樹脂酸、カプリン酸、ナフテン酸などから水素イオンが電離して生成するアニオン、塩化物イオン又はアセチルアセトネートイオンなどが挙げられるが、これらに限定されない。特に好ましい遷移金属塩の具体例としては、2−エチルへキサン酸コバルト、ネオデカン酸コバルト又はステアリン酸コバルトが挙げられる。また、遷移金属塩は重合体性の対アニオンを有する、いわゆるアイオノマーであってもよい。
上記遷移金属塩の含有量の下限値としては、樹脂組成物に対して、金属元素換算で1ppmが好ましく、5ppmがより好ましく、10ppmがさらに好ましい。一方、この遷移金属塩の含有量の上限値は、50,000ppmが好ましく、10,000ppmがより好ましく、5,000ppmがさらに好ましい。遷移金属塩の含有量が上記下限より小さいと、得られる多層構造体の酸素掃去効果が不十分となるおそれがある。一方、遷移金属塩の含有量が上記上限を超えると、樹脂組成物の熱安定性が低下し、分解ガスの発生や、ゲル・ブツの発生が著しくなるおそれがある。
〈乾燥剤〉
A層及びB層を構成する樹脂組成物のその他の含有成分として、乾燥剤が挙げられる。この乾燥剤も、B層を構成する樹脂組成物が官能基含有樹脂を含む場合、特に好適に用いることができる。乾燥剤は、A層及びB層を構成する樹脂組成物のいずれにも含有させることができるが、A層の樹脂組成物に含有させることが好ましい。
上記乾燥剤は、水分を吸収し、与えられた環境から除去することができる物質である。当該多層構造体の樹脂組成物に含有することができる乾燥剤は、そのような性質を有するものである限り、特に限定されない。樹脂層の樹脂組成物がこのような乾燥剤を含有することによって乾燥状態に保たれるため、ガスバリア性樹脂を含む樹脂層のガスバリア性を高度に保つことができる。
このような乾燥剤としては、例えば、水和物形成性の塩類、すなわち結晶水として水分を吸収する塩類、とりわけリン酸塩、特にその無水物がその効果において最も適しているが、その他の水和物形成性の塩類、例えばホウ酸ナトリウム、硫酸ナトリウム等の塩類、特にその無水物も適しており、またその他の吸湿性化合物、例えば塩化ナトリウム、硝酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、砂糖、シリカゲル、ベントナイト、モレキュラーシーブ、高級水性樹脂等も使用可能である。これらは、単独で又は複数種を使用することもできる。
上記乾燥剤はガスバリア性樹脂を含む樹脂層のマトリックス中に微細な粒子として分散されていることが好ましく、とりわけ乾燥剤粒子が長径10μm以上の粒子の体面積平均径が30μm以下、好適には25μm、最適には20μm以下であると効果的であり、かかる微細な分散状態を形成せしめると従来達せられたことのない高度なガスバリア性の多層構造体を得ることができる。このような微細な分散状態を有する組成物は目的にあった特殊な加工方法を注意深く組合せることによりはじめて達成することができる。
樹脂層を構成するガスバリア性樹脂と乾燥剤の使用比率は特に制限はないが、質量比で97:3〜50:50とりわけ95:5〜70:30の範囲の比率が好ましい。
樹脂層を構成する樹脂組成物中の乾燥剤粒子のうち長径10μm以上の粒子の体面積平均径がこの樹脂組成物を層として含む多層構造体のガスバリア性に大きい影響を与える。この理由は必ずしも明らかではないが、粒径が大きい粒子は吸湿効果あるいはガスバリア性樹脂のガスバリア性に特に不都合な効果を有するものと推定される。
上記乾燥剤の中でも、水和物を形成可能なリン酸塩が特に好ましい。多くのリン酸塩は複数の水分子を結晶水として含む水和物を形成するので、単位質量あたりの吸収する水の質量が多く、当該多層構造体のガスバリア性の向上への寄与が大きい。また、リン酸塩を含むことの可能な結晶水の分子数は、湿度の上昇に従って段階的に増加することが多いので、湿度環境の変化に伴って、徐々に水分を吸収することができる。
このようなリン酸塩としてはリン酸ナトリウム(Na3PO4)、リン酸三リチウム(Li3PO4)、リン酸水素二ナトリウム(Na2HPO4)、リン酸二水素ナトリウム(NaH2PO4)、ポリリン酸ナトリウム、リン酸リチウム、リン酸水素二リチウム、リン酸二水素リチウム、ポリリン酸リチウム、リン酸カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸一水素ナトリウム、ポリリン酸カリウム、リン酸カルシウム(Ca3(PO4)2)、リン酸水素カルシウム(CaHPO4)、リン酸二水素カルシウム(Ca(H2PO4)2)、ポリリン酸カルシウム、リン酸アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、ポリリン酸アンモニウムなどが例示される。ここで、ポリリン酸塩は、二リン酸塩(ピロリン酸塩)、三リン酸塩(トリポリリン酸塩)などを含むものである。これらのリン酸塩のうち、結晶水を含まない無水物が好適である。また、リン酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウムが好適である。
上記リン酸塩は、通常粉体である。通常市販されているリン酸塩の粉体は、平均粒径が15〜25μmで、含まれる最大粒子の寸法が40〜100μmである。このような大きい粒子を含有する粉体を用いたのでは、当該多層構造体の樹脂層のガスバリア性が不十分になるおそれがある。当該多層構造体の樹脂層の厚さよりも大きい粒子を含有すると、ガスバリア性が大きく低下するおそれがある。従って、リン酸塩の粉体の粒径は、当該多層構造体の樹脂層の厚さ程度以下とすることが好ましい。
すなわち、リン酸塩の粉体は、その平均粒径が10μm以下であることが好ましい。平均粒径は、より好適には1μm以下である。このような平均粒径は例えば、光散乱法などによって粒度分析計を用いて測定することができる。
乾燥剤としてリン酸塩を用いる場合は、分散剤と共に配合するのが好ましい。このような分散剤を配合することによって、ガスバリア性樹脂を含む樹脂組成物中に乾燥剤であるリン酸塩を良好に分散させることができる。このような分散剤としては、例えば、脂肪酸塩、グリセリン脂肪酸エステル及び脂肪酸アミドなどが挙げられる。なお、芳香族カルボン酸のグリセリンエステルは、一般的に室温において液体であり、リン酸塩とドライブレンドするのに適していない。
上記脂肪酸塩としては、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム等が挙げられる。上記グリセリン脂肪酸エステルとしては、グリセリンモノステアリン酸エステル、モノデカノイルオクタノイルグリセリド等が挙げられる。上記脂肪酸アミドとしては、エチレンビスステアリン酸アミド等が挙げられる。
これらの分散剤のうちでも、リン酸塩粉体の滑り性改善や、溶融混練時の押出機のスクリーン閉塞防止の観点からは脂肪酸塩が好適に用いられる。中でも、カルシウム塩、亜鉛塩等が好適である。また、特に良好な分散性を得る観点からはグリセリン脂肪酸エステルが好適に用いられる。中でも、グリセリンのモノ又はジ脂肪酸エステルが好ましく、グリセリンモノ脂肪酸エステルがより好ましく、グリセリンモノステアリン酸エステルが特に好ましい。
また、これらの分散剤は、炭素数8〜40の化合物からなることが好ましい。このような範囲の炭素数を有することによって良好な分散性が得られる。より好適な炭素数の下限値は12であり、より好適な炭素数の上限値は30である。
分散剤の配合量はリン酸塩100質量部に対して1〜20質量部である。分散剤の含有量がリン酸塩100質量部に対して1質量部未満である場合、リン酸塩の凝集物の発生を抑制することができない。分散剤の含有量は、好適には2質量部以上であり、より好適には3質量部以上である。一方、分散剤の含有量がリン酸塩100重量部に対して20重量部を超える場合、樹脂組成物のペレットの滑りが大きくなりすぎて押出機へのフィードが困難になるとともに、多層構造体を製造する際の層間接着力が低下する。分散剤の含有量は、好適には15質量部以下であり、より好適には10質量部以下である。
〈A層及びB層の関係〉
当該多層構造体において、隣接するA層とB層との層間接着力としては、450g/15mm以上が好ましく、500g/15mm以上がより好ましく、600g/15mm以上がさらに好ましく、700g/15mm以上がさらに好ましく、800g/15mm以上が特に好ましい。このようにA層とB層との層間接着力を上記範囲とすることで、非常に優れる層間接着性を有することとなり、当該多層構造体の高いガスバリア性等の特性が延伸や屈曲等の変形に対しても維持され、非常に高い耐久性を有している。ここで、A層とB層との層間接着力とは、幅15mmの測定試料を用い、23℃、50%RHの雰囲気下、オートグラフを用いて、引張速度250mm/分の条件で測定したA層とB層とのT型剥離強度の値(単位:g/15mm)をいう。
当該多層構造体の層間関係に関し、A層とB層との界面で積極的に結合反応を生じさせるとよい。上述のように金属塩の含有によりA層の樹脂組成物中のガスバリア性樹脂とB層の樹脂組成物中の熱可塑性樹脂との間で結合生成反応、例えばTPUのカーバメート基やポリアミドのアミノ基等とガスバリア性樹脂の水酸基等との間で起こる水酸基交換反応、TPU中の残存イソシアネート基へのガスバリア性樹脂の水酸基等の付加反応、ポリアミドの末端カルボキシル基とEVOHの水酸基とのアミド生成反応、その他ガスバリア性樹脂と官能基含有樹脂との間で起こる結合性反応等を生じさせることで、より高い層間接着性が発揮される。その結果、当該多層構造体のガスバリア性、耐久性等をより向上させることができる。
A層及びB層を構成する各樹脂組成物の粘度の関係に関し、A層の樹脂組成物のビカット軟化温度より30℃高い温度におけるA層の樹脂組成物の剪断速度1,000/秒での溶融粘度(η2A)とB層の樹脂組成物の溶融粘度(η2B)との比(η2B/η2A)の下限としては、0.3が好ましく、0.4がより好ましく、0.5がさらに好ましい。一方、A層及びB層の溶融粘度の当該比(η2B/η2A)の上限としては、3が好ましく、2がより好ましく、1.5がさらに好ましく、1.3が特に好ましい。当該粘度比(η2B/η2A)を上記範囲とすることによって、当該多層構造体の多層共押出法による成形において、外観が良好となり、また、A層及びB層間の接着が良好となって、当該多層構造体の耐久性を向上することができる。
〈用途〉
当該多層構造体は、上述のように熱融着部分のガスバリア性に優れ、高いガスバリア性、延伸性、熱成形性及び耐久性を有している。そのため、当該多層構造体は、熱融着により成形される食品包装材、医療用容器包装材、その他の容器包装材、工業用シート材等、建築材用シート材、農業用シート材、その他のシート材、その他各種のパイプ等に用いることができる。
食品包装用としての用途である食品包装材としては、例えば、食品・菓子包装用の袋(フレキシブルパッケージ)、食品用ラップフィルム、スキンパックフィルム、ストレッチフィルム、シュリンクフィルム、レトルト容器等が挙げられる。当該多層構造体を備える食品包装材は、高いガスバリア性、延伸性、熱成形性及び耐久性を有しているため、長期保存性、耐レトルト性を高めることができ、このようなレトルト容器は金属缶の代替として用いることもできる。
その他の容器包装材としては、例えば、化粧品、工業薬品、農薬、肥料、洗剤、燃料等各種の容器包装材、ショッピングバッグ、ゴミ袋、コンポストバッグ、バッグインボックス、フレキシブルタンクなどが挙げられる。
バッグインボックスとは、折り畳み可能な薄肉内容器と、積み重ね性、持ち運び性、内容器保護性、印刷適性等を有するダンボール箱等の外箱とを組み合わせた容器のことである。外箱の基材としては段ボール紙の他に、プラスチックや金属であってもよく、形状についても箱形以外に、円柱形状などであってもよい。このバッグインボックスの内容器に本発明の多層構造体を好適に用いることができる。このバッグインボックスは、ワイン、ジュース、みりん、醤油、ソース、麺つゆ、牛乳、ミネラルウォーター、日本酒、焼酎、コーヒー、紅茶、各種食用油等の食料品や液体肥料、現像液、バッテリー液、他の工業用薬品等の非食品などの輸送、保管、陳列等に用いることができる。
フレキシブルタンクとは、柔軟性を有する基材で形成された容器をいい、この容器を支えるフレームを備えるもの、又は、フレームを備えず、容器に貯蔵される気体、液体等の圧力により形状を保つものがある。このフレキシブルタンクは、不使用時は折り畳めてコンパクトに収納でき、使用時には組立てて、あるいは拡げてタンクとして使用することができる。本発明の多層構造体をこのフレキシブルタンクの基材に用いることで、フレキシブルタンクの耐久性やガスバリア性を高めることができる。
工業用シート材等としては、例えば、デバイス封止材用フィルム、気体捕集フィルム、バイオリアクター等を挙げることができる。
デバイス封止材用フィルムとしては、例えば、太陽電池用のバックシートなど、優れた接着性、ガスバリア性、耐久性等が要求される各用途に好適に用いられる。
気体捕集フィルムとしては、排ガス分析のための捕集バッグや、燃料電池車の水素ステーションにおける水素捕集バッグ、燃料電池車の高圧水素容器の内面等に積層される水素バリアフィルム等が挙げられる。
バイオリアクターとは、生体触媒を用いて生化学反応を行う装置をいう。本発明の多層構造体は、このバイオリアクターの反応槽やパイプ等に好適に用いられることができる。当該多層構造体をバイオリアクターに用いることで、バイオリアクターのガスバリア性、耐久性等が向上し、また、熱成形性にも優れる。
建築材用シート材としては、例えば、真空断熱板、壁紙等を挙げることができる。本発明の多層構造体を備える真空断熱板は、ガスバリア性が高く、優れた真空保持能を発現することができる。また、本発明の多層構造体を備える壁紙は、延伸性、熱成形性に優れているため生産性及び施工性が向上し、また、耐久性に優れているため、長期間使用することができる。
農業用シート材としては、例えば、農業薫蒸用マルチフィルム、温室用フィルム等を挙げることができる。本発明の多層構造体を、例えば農業薫蒸用マルチフィルムとして用いると、ガスバリア性が高いため、薫蒸を効率よく行うことができ、また、耐久性に優れているため破れにくく、作業性が向上する。
その他のシート材としては、例えば、ジオメンブレン、ラドンバリアフィルム等として用いることができる。ジオメンブレンとは、廃棄物処理場などに遮水工として使用されるシートである。また、ラドンバリアフィルムは、ウラン廃棄物処理場において、ウランが崩壊して発生する気体状のラドンの拡散を防止するフィルムである。本発明の多層構造体は、上述のようにガスバリア性や耐久性等に優れているため、これらの用途にも好適に用いることができる。
本発明の多層構造体は、これらの各用途の中でも、特に高いガスバリア性、延伸性、耐久性、透明性等が要求される食品包装材に好適に適用される。なお、上述の各用途の分類は、一般的な使用に基づいてしたものであり、各製品がその分野の用途に限定されるものではない。例えば、真空断熱板は、建築材用シート材に用いる以外にも、工業用シート材等にも用いることができる。
(当該多層構造体の製造方法)
当該多層構造体の製造方法は、A層とB層とが良好に積層・接着される方法であれば特に限定されるものではなく、例えば共押出し、はり合わせ、コーティング、ボンディング、付着などの公知の方法を採用することができる。当該多層構造体の製造方法としては、具体的には、(1)EVOH等のガスバリア性樹脂を含むA層用樹脂組成物と熱可塑性樹脂を含むB層用樹脂組成物とを用い、多層共押出法によりA層及びB層を有する多層構造体を製造する方法や、(2)EVOH等のガスバリア性樹脂を含むA層用樹脂組成物と熱可塑性樹脂を含むB層用樹脂組成物とを用い、まず共押出法によりA層となる層及びB層となる層を有する積層体を製造し、接着剤を介して複数の積層体を重ね合わせ、延伸することでA層及びB層を有する多層構造体を製造する方法などが例示される。この中でも、生産性が高く、層間接着性に優れる観点から、(1)のEVOH等のガスバリア性樹脂を含む樹脂組成物と熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物とを用いた多層共押出法により成形する方法が好ましい。
多層共押出法においては、A層の樹脂組成物とB層の樹脂組成物は加熱溶融され、異なる押出機やポンプからそれぞれの流路を通って押出ダイに供給され、押出ダイから多層に押し出された後に積層接着することで、当該多層構造体が形成される。この押出ダイとしては、例えばマルチマニホールドダイ、フィールドブロック、スタティックミキサーなどを用いることができる。
(容器)
図2の容器20は、図1の多層構造体10における一方の面側(第一のB層2a)同士を熱融着により接着させて成形されたものである。
上記熱融着の手段としては、特に限定されず公知の方法を用いることができるが、例えばヒートシール、インパルスシール、高周波シール、超音波シール等、各種シール法の他、多層構造体10の製造と一体的に成形可能なブロー成形法を用いることができる。
当該容器20によれば、このように本発明の多層構造体10を用いた熱融着により成形されているため、熱融着部分21のガスバリア層間距離が短くかつ耐久性に優れ、高いガスバリア性を発揮することができる。
当該容器20における熱融着部分21を介して隣接するA層間距離Xとしては、0.01μm以上100μm以下が好ましく、1.5μm以上50μm以下がさらに好ましい。当該容器20によれば、このように、熱融着部分21を介して隣接するA層間距離Xを上記範囲とすることで、熱融着部分のガスバリア性及び耐久性を共に高めることができる。
また、熱融着される各多層構造体10の第一のB層2aを形成する樹脂組成物の融点差としては、100℃以下が好ましく、80℃以下がより好ましく、50℃以下がさらに好ましい。このように熱融着される層の樹脂組成物の融点差を狭めることで、熱融着性を高めることができる。
当該容器20は、ガスバリア性が要求される各種用途に用いることができ、例えば、食品・菓子包装用の袋(フレキシブルパッケージ)、レトルト容器等の食品用容器(パウチ等)、化粧品、工業薬品、農薬、肥料、洗剤、燃料等各種の容器、フレキシブルタンク等として用いることができる。
本発明の多層構造体及び容器は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、本発明の多層構造体は、A層及びB層以外に他の層を含んでいてもよい。この他の層を構成する樹脂組成物の種類は、特に限定されないが、A層及び/又はB層との間の接着性が高いものが好ましい。他の層としては、A層中のガスバリア性樹脂の有する水酸基等や、B層中の官能基(例えばTPUの分子鎖中のカーバメート基又はイソシアネート基)と反応して、結合を生成する官能基を有する分子鎖を有しているものが特に好ましい。
また、本発明の多層構造体は、上述のA層及びB層からなる構造の他方の面側に、支持層が積層されてもよい。この支持層としては特に限定されず、樹脂層でなくてもよく、例えば一般的な合成樹脂層、合成樹脂フィルム等も用いられる。また、支持層の積層手段としては、特に限定されず、接着剤による接着や押出ラミネートなどが採用される。
さらに、本発明の容器は、本発明の多層構造体と、その他の公知の多層構造体を用い、一方の面側同士の熱融着により成形される容器であってもよい。なお、上記公知の多層構造体において、ガスバリア性樹脂を備える樹脂組成物からなるA’層と、熱可塑性樹脂層を含む樹脂組成物からなるB’層を備え、一方の面側表面に上記B’層が位置する。このように、少なくとも一方に本発明の多層構造体を用いて熱融着させれば、本発明の多層構造体の構造から、熱融着部分のガスバリア性を高めることができる。なお、この際も、熱融着される一方の面側の当該多層構造体のB層と、公知の多層構造体のB’層との樹脂組成物の融点差としては、100℃以下が好ましく、80℃以下がより好ましく、50℃以下がさらに好ましい。このように熱融着される層の樹脂組成物の融点差を狭めることで、熱融着性を高めることができる。
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。実施例及び比較例において使用した樹脂を以下に示す。
[EVOH]
エチレン−ビニルアルコール共重合体:クラレ社製「エバール」F171を使用した。
[MXD6]
ナイロンMXD6:三菱ガス化学社製MXナイロンS6007を使用した。
[PA6]
下記の要領にて製造したナイロン6を使用した。
30L耐圧反応器に、ポリアミドモノマーとしてε−カプロラクタム(10kg)、分子量調節剤として1,6−ヘキサンジアミン(82g)、水(1.0kg)を仕込み、撹拌しながら260℃に加熱し0.5MPaの圧力まで昇圧した。その後、常圧まで放圧し、260℃で3時間重合した。重合の終了した時点で反応生成物をストランド状に払い出し、冷却、固化後、切断してナイロン6樹脂ペレットとした。得られたペレットを95℃の熱水で処理し、乾燥して、ポリアミドとしてナイロン6(PA6)を得た。得られたPA6の融点は225℃であった。
[AD1]
無水マレイン酸変性ポリエチレン:三井石油化学社製「アドマー」SF600を使用した。
[AD2]
無水マレイン酸変性ポリプロピレン:三井石油化学社製「アドマー」QF500を使用した。
[PP]
ポリプロピレン:日本ポリケム社製「ノバテック」EA7Aを使用した。
[LLDPE]
線状低密度ポリエチレン:プライムポリマー社製「ウルトゼックス」3520Lを使用した。
[PET]
下記の要領にて製造した熱可塑性ポリエステル樹脂を使用した。
(1)テレフタル酸100.000質量部及びエチレングリコール44.830質量部とからなるスラリーをつくり、これに二酸化ゲルマニウム0.010質量部、亜リン酸0.010質量部及びテトラエチルアンモニウムヒドロキシド0.010質量部を加えた。このスラリーを加圧下(絶対圧2.5Kg/cm2)で250℃の温度に加熱して、エステル化率が95%になるまでエステル化反応を行って低重合体を製造した。続いて、得られた低重合体を、1mmHgの減圧下に、270℃の温度で上記の低重合体を溶融重縮合させて、極限粘度0.50dl/gのポリエステルを生成させた。得られたポリエステルをノズルからストランド状に押出し、水冷した後、切断し、円柱状ペレット(直径約2.5mm、長さ約2.5mm)にした。次いで、得られたポリエステルのペレットを160℃で5時間予備乾燥を行なって結晶化し、ポリエステルプレポリマーを得た。
(2)得られたポリエステルプレポリマーの各構造単位の含有率をNMRで測定したところ、ポリエステルにおけるテレフタル酸単位、エチレングリコール単位、及び副生したジエチレングリコール単位の含有率はそれぞれ50.0モル%、48.9モル%及び1.1モル%であった。また、末端カルボキシル基濃度及び融点を上記方法で測定したところ、それぞれ38μ当量/g及び253℃であった。
次いで、得られたポリエステルプレポリマーを160℃で5時間予備乾燥を行なって結晶化した。
(3)結晶化したポリエステルプレポリマーを、転動式真空固相重合装置を用い、0.1mmHgの減圧下に、220℃で固相重合を10時間行って、高分子量化されたポリエステル樹脂を得た。
(4)上記(3)で得られたポリエステル樹脂の各構造単位の含有率をNMRで測定したところ、ポリエステルにおけるテレフタル酸単位、エチレングリコール単位、及びジエチレングリコール単位の含有率はそれぞれ50.0モル%、48.9モル%及び1.1モル%であった。また、極限粘度、融点、ガラス転移温度TGa、末端カルボキシル基濃度及びサイクリックトリマー含有率はそれぞれ0.83dl/g、252℃、80℃、22μ当量/g及び0.32質量%であった。
実施例1[多層構造フィルム(多層構造体)の製造]
PET(外層)/9層のAD1(B層)及び8層のEVOH(A層)が交互に積層される多層構造/PET(内層)の多層構造体を以下の方法で製造した。19層フィードブロックにて、共押出機に280℃の溶融状態として各樹脂を供給し、共押出を行い合流させることによって、多層構造体を得た。合流するAD1及びEVOHの溶融物は、フィードブロック内にて各層流路を表面側から中央側に向かうにつれ徐々に厚くなるように変化させることにより、押出された多層構造体の各層の厚みが均一になるように押出された。また、隣接するA層とB層の層厚みはほぼ同じになるようにスリット形状を設計した。このようにして得られた計19層からなる積層体を、表面温度25℃に保たれ静電印加したキャスティングドラム上で急冷固化した。急冷固化して得られたキャストフィルムを離型紙上に圧着し巻取りを行った。なお、得られた多層構造体の溶融物が合流してからキャスティングドラム上で急冷固化されるまでの時間が約4分となるように流路形状及び総吐出量を設定した。
上記のようにして得られたキャストフィルムはDIGITAL MICROSCOPE VHX−900(KEYENCE社製)にて断面観察を行った結果、A層及びB層それぞれの平均厚みが1μm、外層及び内層の平均厚みが26μmである多層構造体であった。なお、各厚みはランダムに選択された9点での測定値の平均値とした。
このようにして得られた多層構造体から外層及び内層に設置したPETを剥離した。得られたフィルムの片面に、市販の無延伸ポリプロピレンフィルム(CPP)(トーセロCP、厚み50μm、透湿度7g/m2・day)をドライラミネートし、CPP/9層のAD1(B層)及び8層のEVOH(A層)が交互に積層される多層構造の多層構造フィルム(多層構造体)を得た。ドライラミネート用接着剤としては武田薬品工業社製タケラックA−385を主剤とし、武田薬品工業社製タケネートA−50を硬化剤として使用した。またラミネート後に40℃、3日間養生を実施した。
実施例2〜6
表1に記載されている樹脂を採用し、表1に記載のA層及びB層の厚みになるようにした以外は、実施例1と同様にして、これらの実施例に係る多層構造フィルム(多層構造体)を製造した。
比較例1
PET、AD1及びEVOHを別々の押出機に仕込み、T型ダイを備えた共押出機にて3種5層(PET(外層)/AD1(B層)/EVOH(A層)/AD1(B層)/PET(内層)=20μm/5μm/8μm/5μm/20μm)の構成を有する全層厚み58μmの多層構造体を得た。このようにして得られた多層構造体から外層及び内層に設置したPETを剥離した。得られたフィルムの片面に、市販の無延伸ポリプロピレンフィルム(CPP)(トーセロCP、厚み50μ、透湿度7g/m2・day)をドライラミネートし、CPP/B層/A層/B層からなる4層構造のフィルムを得た。ドライラミネート用接着剤としては武田薬品工業社製タケラックA−385を主剤とし、武田薬品工業社製タケネートA−50を硬化剤として使用した。またラミネート後に40℃、3日間養生を実施した。
比較例2
LLDPEをヒートシール層とし、PP、AD1、EVOH及びLLDPEを別々の押出機に仕込み、T型ダイを備えた共押出機にて4種5層(PP(外層)/AD1(B層)/EVOH(A層)/AD1(B層)/LLDPE(内層)=50μm/5μm/10μm/5μm/50μm)の構成を有する全層厚み120μmの多層フィルムを得た。
得られた多層構造フィルムの評価は、以下の記載の方法に従って行った。これらの評価結果を表1に示す。
[多層構造体を蓋剤として用いた容器の作成]
LLDPEをヒートシール層とし、EVOH、PP、AD1、AD2及びLLDPEを別々の押出機に仕込み、T型ダイを備えた共押出機にて5種5層(PP/AD2/EVOH/AD1/LLDPE=400μm/50μm/100μm/50μm/40μm)の構成を有する全層厚み640μmの多層シートを得た。押出成形はPP及びLLDPEが直径65mm、L/D=22の一軸スクリューを備えた押出機を200〜240℃の温度とし、AD1及びAD2は直径40mm、L/D=26の一軸スクリューを備えた押出機を175〜220℃の温度とし、EVOHは直径40mm、L/D=22の一軸スクリューを備えた押出機を190〜240℃の温度として、フィードブロック型ダイ(巾600mm)を240℃で運転した。
こうして得られたシートを熱成形機(浅野製作所製)にて、カップ形状(金型形状70φx70mm、絞り比S=1.0)に熱成形(圧空:5kg/cm2、プラグ:45φx65mm、シンタックスフォーム、プラグ温度:150℃、金型温度:70℃を使用)を行い、熱成形容器を得た。
各多層構造フィルムのCPP側(比較例2については、PP(外層)側)を外側として蓋剤として用い、上記の熱成形容器にヒートシールを実施し、容器を得た。
[多層構造体を用いたパウチの作成]
各多層構造フィルムのCPP側(比較例2については、PP(外層)側)を外側として、内層同士が向き合うようにしてヒートシールを実施し筒状とした。更に、上下部をヒートシールすることでパウチを得た。
(1)内容物保存試験
容器又はパウチを作成する際に、市販のミンチ肉を容器又はパウチに対しほぼ一杯となるように充填した。その後室温下で3日間保管し、このミンチ肉の変色度合いを観察し以下の通り評価した。
◎:変色はなかった。
○:少し変色していた。
×:こげ茶に変色していた。
(2)輸送後内容物保存試験
容器又はパウチを作成する際に、市販のミンチ肉を容器又はパウチに対しほぼ一杯となるように充填した。
アイデックス社製の振動試験機BF−50UTを使用し輸送試験を5℃にて行った。試験時間は6000km輸送に相当するように条件設定した。すなわち、10から25Hzまでの振動を2分周期で120分間行った。
輸送試験後の容器又はパウチを室温下で3日間保管し、このミンチ肉の変色度合いを観察し、(1)と同様に評価した。
(3)落下試験
容器又はパウチを作成する際に、水を充填した。その後、容器又はパウチをコンクリート上に高さ50cmから落下させ、破壊(内部の水の漏れ)の有無を確認した。
○:内部の水の漏れはなかった。
×:内部の水の漏れが確認された。
表1に示されるように、実施例1〜6の多層構造フィルム(多層構造体)を用いた容器及びパウチは、内容物保存試験、輸送後内容物保存試験及び落下試験の評価に優れ、熱融着部分におけるガスバリア性が高いことがわかる。