以下に、本発明の実施例を図面を用いて詳細に説明する。
炭化珪素単結晶基板の表面を酸素プラズマに晒すことによって炭化珪素単結晶基板の表面に厚さ5nm未満の二酸化シリコンを主成分とする膜を形成し、炭化珪素表面に形成された二酸化シリコンを主成分とする膜を、炭化珪素の単結晶基板を、フッ酸を含むエッチング液に浸漬することによって除去する金属汚染除去工程を炭化珪素単結晶基板を用いた半導体装置の製造方法に適用する。これにより、製造する半導体素子の初期特性が改善され、良品率が増加する。また、長期信頼性も向上する。
図1乃至図6を用いて説明する。本実施例は、pn接合ダイオードの製造に適用した実施例である。図1に、本発明によるpn接合ダイオードの製造方法の工程フローを図示する。炭化珪素単結晶基板を作るために、まず、炭化珪素の単結晶(4H−SiC)からなるインゴットを作製した。このインゴットの製造には、現在、最も一般的な昇華法を用いたが、溶融法などの他の炭化珪素単結晶成長技術を用いてもよい。単結晶としては、4H−SiCの他にも、2H−SiC、6H−SiC、3C−SiC等、他の結晶形の炭化珪素単結晶を用いることも出来る。インゴットの単結晶炭化珪素には、窒素が3×1018cm−3含まれていて高濃度のn型となっている。次に、作製したインゴットから薄い板状に単結晶基板を切り出した。この工程は一般にスライス工程と呼ばれている。単結晶基板の表面が(0001)面から[11−20]方向に4°のオフ角を有するように切り出した。(0001)面の他、(000−1)面や(11−20)面が表面になるように切り出してもよい。また、オフ角は4°に限らず、0〜8°程度であれば他の角度でも構わない。直径は最大部で76.2mmであり、主副2つのオリエンテーションフラットが形成してある。直径は76.2mmに限らず、他の寸法でも構わない。
次に、切り出した基板を、研削工程で適当な厚さまで粗削りした。研削工程の代わりに、研磨工程を用いてもよい。その後、研削した基板の表面や裏面を平坦かつ鏡面に仕上げるために研磨工程で磨いた。研磨方法としては、化学機械研磨(CMP; Chemical Mechanical Polishing)を適用した。本実施例では、この研磨工程で、スライス工程や研削工程で基板に導入された欠陥や傷の除去を兼ねたが、必要に応じて、プラズマを利用したドライエッチング等の特別な処理を加えて表面の変質層を除去してもよい。その場合、これらの工程は研磨工程の前、または後に挿入する。CMPによる研磨は、3段階に分けて行い、スラリーや研磨条件を選択することにより、基板表面の平坦度を徐々に高め、3段階目の研磨で鏡面とした。基板裏面の研磨は表面とは異なる条件で、2段階目に分けて行った。研磨後の基板の厚さは350μmとしたが、厚さは他の寸法としても構わない。スライスから研磨に至る工程の間に、基板に付着した有機物や金属汚染を除去するための薬液洗浄、水洗、乾燥工程を適宜実施したが、最終的な清浄化は、研磨工程後に本発明の金属汚染除去工程を適用して実現した。研磨後の炭化珪素単結晶基板の表面と裏面を酸素プラズマに晒すことにより酸化し、その後、フッ酸を含むエッチング液に基板を浸漬することにより、この酸化膜を除去した。
研磨後の金属汚染除去工程の詳細を記す。酸素プラズマ処理にはマイクロ波を用いたドライエッチング装置を用いて行った。処理の条件は、酸素流量200sccm、反応室内圧力5Pa、マイクロ波のソース電力800W、RFバイアス電力5Wで時間は表面、裏面共に60秒である。装置の電極形状はほぼ直径200mmの円形である。従って、単位面積当りのRFバイアス電力は、0.016W/cm2ということになる。まず、炭化珪素単結晶基板の表面を上向きにして表面側の処理を施し、次に、炭化珪素シリコン基板の裏面を上向きにして裏面側の処理を施した。この酸素ブラズマ処理によって、炭化珪素シリコン基板の表面、裏面には二酸化シリコンを主成分とする膜が形成される。シリコン面からなる表面に形成された二酸化シリコンを主成分とする膜の厚さを測定すると、2nm未満であった。
酸素プラズマ処理の後、まず、炭化珪素単結晶基板を王水に180秒浸漬し、水洗後、120℃に保った硫酸・過酸化水素水混合液に180秒浸した。硫酸と過酸化水素水(31%水溶液)の混合比は、7:3である。水洗の後、フッ酸水溶液に180秒浸漬した。フッ酸(55%水溶液)と水の混合比は、1:20である。このフッ酸水溶液への浸漬により、酸素プラズマ処理で炭化珪素単結晶基板の表面、裏面に形成された二酸化シリコンを主成分とする膜が除去される。最後に、アンモニア・過酸化水素混合液に120秒浸漬した後、水洗を施し、スピンドライヤーにより基板を乾燥した。比較のために、従来の製造方法による炭化珪素単結晶基板も作製した。インゴットから切り出した後、化学機械研磨により、表面、裏面を磨く工程までは本実施例中の本発明の製造方法による炭化珪素単結晶基板と同様である。最終的な清浄化は、研磨工程後に従来の金属汚染除去工程を適用した。すなわち、本発明とは異なり、基板を酸素プラズマに晒す処理は用いず、王水、硫酸・過酸化水素水混合液、フッ酸水溶液、アンモニア・過酸化水素水混合液による薬液洗浄のみを基板に施した。用いた薬液の成分や洗浄の条件は、本実施例中の本発明による炭化珪素単結晶基板と同様である。
図2Cに本発明を適用した本実施例の炭化珪素単結晶基板の表面の金属汚染を分析した結果を示す。図3に従来の製造方法による炭化珪素炭化珪素単結晶基板の表面の金属汚染を分析した結果を示す。分析には全反射蛍光X線分析を用い、チタン、クロム、鉄、ニッケル、銅、亜鉛について、基板表面の5点について測定した。図2Aの炭化珪素単結晶基板21の表面には、主オリエンテーションフラット22と、副オリエンテーションフラット23が形成されている。図2Bに示すように、中心24が測定点1である。測定点1を中心とした直径20mmの円上に測定点2、3、4、5が均等に配置されている。なお、測定点1〜5は、図2のウエハ面上の24、25、26、27、28にそれぞれ対応している。図2Bの29に示す形式で、各測定点における各金属元素の表面濃度を表示した。単位は図中にも示したように、x1010atoms/cm2である。管理基準値は、3x1010atoms/cm2としている。
図3についても、図2Cと同様の測定点について、図2Cと同様の形式で、各測定点における各金属元素の表面濃度を表示した。図3に示したように、従来の製造方法による基板表面には、鉄、銅の元素が残存しているが、図2Cから分かるように、本発明の製造方法による基板表面では、鉄、銅を含む全ての元素が管理基準値限界以下しか存在していない。鉄、銅がどの段階で基板表面に付着するかは不明であるが、スライス工程、研削工程の工具類や、研磨工程のスラリーなどからの汚染が疑われる。残存する金属汚染の違いは、炭化珪素単結晶基板表面の酸化の有無によると考えられる。
すなわち、本発明の製造方法による場合には、酸素プラズマに晒されることで基板表面に薄い二酸化シリコンを主成分とする膜が形成される。元々、基板表面に存在していた金属元素は、この酸化膜の上に持ち上げられたり、酸化膜中に取り込まれたりする場合が多い。フッ酸水溶液でこの酸化膜を除去すると、酸化膜上や酸化膜中の金属元素も同時に除去される。従来の製造方法は、シリコン半導体素子の製造方法を転用したものであるが、シリコン単結晶基板の場合とは異なり、炭化珪素単結晶基板では、過酸化水素を含む薬液中に浸漬しても、二酸化シリコンを主成分とする膜が殆ど形成されない。このため、酸化膜が形成されることによって金属元素が除去される機構が実現しないと考えられる。
本実施例では炭化珪素単結晶基板自体の化学機械研磨の後に本発明の金属汚染除去工程を適用したが、デバイス作製の途中で二酸化シリコン膜や多結晶シリコン膜等を研磨した後に適用しても有効である。本実施例と同様に金属汚染を除去する効果がある。
上述のようにして作製した炭化珪素単結晶基板をパワーデバイスの作製に適用するために、ドリフト層(電界緩和層)として、基板表面に窒素を含む炭化珪素のn型エピタキシャル層を形成した。エピタキシャル成長装置に本発明の製造方法による基板と従来の製造方法による基板各2枚を同時に設置し、水素の流量を10slmに調整して反応室内圧力を10kPaとした。高周波誘導加熱により基板を1400℃に加熱し、10分間保った。この際、基板表面がエッチングされ、基板加工時に導入され、残存していた欠陥や傷を含む損傷層が除去される。基板温度を1500℃まで昇温した後、水素10slmに加え、プロパン0.6sccm、モノシラン2.5sccm、窒素0.2sccmを同時に反応室に供給した。この状態を140分間維持した後、プロパン、モノシラン、窒素の供給と加熱を止め、水素中で基板を冷却した。しかる後、2枚の炭化珪素単結晶基板を取り出し、エピタキシャル層の濃度と厚さを測定した。4枚共に、エピタキシャル層の窒素濃度は2x1016cm−3、厚さは8μmであった。
基板表面を光学顕微鏡で観察することにより、コメット欠陥、キャロット欠陥等のエピ欠陥を目視により数えたところ、本発明の製造方法による炭化珪素単結晶基板では、従来の製造方法による炭化珪素単結晶基板の約60%にまで、エピ欠陥の密度が減少していることが分かった。次に、本発明の製造方法による基板と従来の製造方法による基板各1枚について、水酸化カリウム溶融液を用いてエッチピットを形成し、基底面転位密度を比較した。この方法は転位の観察方法としてよく知られている方法である。本発明による炭化珪素単結晶基板上のエピタキシャル層では260cm−2、従来の製造方法による炭化珪素単結晶基板上のエピタキシャル層では380cm−2であった。基底面転位密度については、本発明による炭化珪素基板上の方が、従来の製造方法による炭化珪素基板上よりも、約30%低減された。
n型エピタキシャル層を形成した本発明の製造方法による基板と、比較のために従来の製造方法による基板の各1枚を用いて、pnダイオードを作製した。図4A−Fは、本実施例のpn接合ダイオードの製造工程を示す断面図である。pn接合ダイオードの周囲には、電界を緩和するためのターミネーション領域を形成したが、ターミネーション領域は、図4A−Fでは省略して記載した。図4Fに示すように、本実施例のpn接合ダイオードは、単結晶炭化珪素基板41の主表面上に設けられ窒素を含む厚さ8μmのn型のドリフト層42と、ドリフト層42の表面の一部に設けられ、アルミニウムを含む厚さが約0.5μmのp型ドープ層43と、p型ドープ層43の表面に設けられアルミニウムを含む厚さが0.1μmの高濃度p型層44層を備えている。単結晶炭化珪素基板41、n型ドリフト層42の窒素濃度(ドナー濃度)はそれぞれ、3×1018cm−3、2×1016cm−3であり、p型ドープ層43、高濃度p型層44のアルミニウム濃度(アクセプタ濃度)は、それぞれ、2×1018cm−3、5×1019cm−3である。図4Bに示すように、ドリフト層42の表面の一部にアルミニウムのイオン注入を行い、p型ドープ層43を形成する。
続いて、図4Cに示すように、p型ドープ層43の表面にp型、ドリフト層43よりも高濃度となるようにアルミニウムのイオン注入を行い、高濃度p型層44を形成する。p型ドープ層43、高濃度p型層44のイオン注入を行った後、アルゴン雰囲気中で1850℃1分の活性化熱処理を施した。その後、図4Dに図示するように、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法により二酸化シリコン膜45形成し、ダイオードの電極部分を開口した。次にスパッタ装置を用いて表面と裏面にそれぞれ厚さ50nmのニッケル膜を形成し、RTA(Rapid Thermal Anneal)装置を用いて、アルゴン雰囲気中で800℃1分の熱処理を施す。しかる後に、アンモニア・過酸化水素混合液中に炭化珪素単結晶基板41を浸漬して未反応のニッケル膜を除去すると図4Eのようになり、表面開口部の炭化珪素単結晶基板上と、裏面にニッケル珪化物を主成分とする層46、47が形成された。ここでもう一度RTA装置を用いて、今度はアルゴン雰囲気中で1000℃1分の熱処理を施した。図4Fに示すように表面側には厚さ3μmのアルミニウム電極48を形成した。アルミニウム膜の形成にはスパッタ装置を用い、公知のリソグラフィ工程とウェットエッチング技術によりパターニングを施した。裏面には、スパッタ装置を用いて、厚さ100nmのニッケル膜49を形成し、裏面電極とした。最後に、ポリイミド樹脂からなる保護膜50を形成し、ダイオード電極のアルミニウム膜48上を開口した。以上のように、本発明の製造方法により、本実施例のpn接合ダイオードを作製した。
2枚の単結晶炭化珪素基板上に作製した1枚当たり200個のpn接合ダイオードの初期特性を評価した。本発明の製造方法によるpn接合ダイオードと、従来の製造方法によるpn接合ダイオードの耐圧分布を図5A、Bにそれぞれ示す。耐圧600V以上(電流<0.1mAで定義)を良品とすると、良品率は、本発明の製造方法によるpn接合ダイオードでは87%(図5A)、従来の製造方法によるpn接合ダイオードでは47%(図5B)であった。これは、主として、本発明の製造方法によるpn接合ダイオードでは、従来の製造方法によるpn接合ダイオードの約60%にまで、ドリフト層中のエピ欠陥の密度が減少していることの効果であると考えられる。
次にpn接合ダイオードに、50A/cm2の電流を通電し、そのままで10時間保持して、オン電圧の増大を調べた。従来の製造方法で作製したpn接合ダイオードでは、測定した25個のダイオード中8個で約1Vのオン電圧の増加が観測されたが、本発明の製造方法を用いたpn接合ダイオードでは、測定した25個全てのダイオードで0.1V以下の増加に抑制された。これは、単結晶炭化珪素基板を作製する最後で実施された金属汚染除去工程の効果の違いを反映していると考えられる。このような通電時の特性変動の機構は、まだ研究途上にあり、全てが解明されている訳ではないが、一般にpn接合ダイオードのオン電圧の変動には、基底面転位が関与していると考えられている。本発明の製造方法によるエピタキシャル成長層の方が、従来の製造方法によるエピタキシャル成長層よりも基底面転位密度が小さいことが、この違いをもたらしたと考えられる。さらに、通電時の特性変動に作用するのは、全ての基底面転位ではなく、基底面転位の一部であるとも言われている。変動に作用する基底面転位には、何らかの金属不純物が修飾されているという説もある。この説が正しいとすると、基底面転位密度そのものの違いよりも、本発明の製造方法では、基板表面の研磨後に、基板表面に残存する金属汚染を大幅に減らしたことにより、エピタキシャル層中に取り込まれる金属汚染が減少し、その結果、通電変動に作用する基底面転位の密度を低減させた効果である可能性がある。
金属不純物が捕らえられた基底面転位の密度が低減したことは、耐圧不良品の数を減らし、良品率を向上させることにも寄与した可能性がある。
本発明の製造方法を適用することにより、従来の製造方法を用いた場合よりもpn接合ダイオードの良品率が向上し、通電時の特性変動も大幅に抑制された。なお、本実施例では、二酸化シリコンを主成分とする膜の形成には、ドライエッチング装置による酸素プラズマ処理を用いたが、アッシャ装置等、他の装置を用いて酸素プラズマ処理を実施することも可能である。本実施例でドライエッチング装置を用いた理由は、反応室のクリーニングが可能なためである。本実施例の装置では、本実施例の酸素プラズマ処理を完了した後に、塩素と酸素の混合ガスのプラズマで反応室内をクリーニングした。清浄なシリコン基板に対するアルゴンプラズマ処理を施して金属汚染を検査したところ、処理前の清浄度と同レベルであり、この処理に用いたことよる装置汚染の影響はなかった。クリーニング機構のない装置を用いる場合には、装置の清浄度の維持が困難となる。酸化方法として、陽極酸化、熱酸化、オゾンによる酸化等を用いることも可能である。ただし、熱酸化の場合には温度が1000℃程度の高温となるため、装置の清浄度維持がさらに困難となる欠点がある。オゾンを用いた酸化の場合には、通常の酸素を用いた熱酸化よりも低温化が可能である。オゾンは、熱酸化で用いる他、紫外線照射と併用したり、酸素プラズマ処理と併用することで、炭化珪素単結晶基板表面の酸化を促す効果を有する。
また、表面に形成する二酸化シリコンを主成分とする膜の厚さは、5nm未満であることが望ましい。5nm以上の膜厚まで酸化すると、後のフッ酸水溶液を用いた酸化膜除去の際に、炭化珪素単結晶基板表面に僅ではあるが凹凸が生じる。基板表面に生じた凹凸は、pn接合ダイオードの逆方向リーク電流を増加させる原因となることが分かっているためである。厚さが5nm未満の酸化は、酸素プラズマ処理では、RFバイアス電力等を選択することにより、容易に実現することが出来た。他の酸化方法を用いた場合にも、処理条件を適切に選択すれば、本実施例と同様に膜厚5nm未満の酸化は可能である。
図6乃至図10を用いて説明する。本実施例は、pn接合ダイオードの製造に適用した実施例である。本実施例で用いた4H−SiC、4°オフ単結晶炭化珪素基板は、仕様を指定して、ある基板メーカーから購入した物である。結晶面は表面がシリコン面((0001)面)、裏面がカーボン面((000−1)面)だが、表面は(0001)面から[11−20]方向に4°のオフ角を有する。基板上へのドリフト層のエピタキシャル成長も基板メーカーで実施した。納入後の基板を検査したところ、直径は最大部で76.2mmであり、主副2つのオリエンテーションフラットが形成してある。厚さは350μmである。
エピタキシャル層の窒素濃度は2x1016cm−3、厚さは8μmと、指定した仕様の通りであった。図6に、納入後の基板について、表面の金属汚染を分析した結果を示す。測定方法、測定箇所や結果の表示形式は実施例1中の図2Cと同様である。基板表面には、チタン、クロム、鉄、ニッケル、銅、亜鉛全ての元素が残存していた。これらの金属元素がどの段階で基板表面に付着したかは不明であるが、単結晶炭化珪素基板を作製するためのスライス工程、研削工程の工具類や、研磨工程のスラリーなどからの汚染が疑われる。さらには、エピタキシャル成長中に汚染が取り込まれている可能性もある。基板の研磨工程の後には、実施例1に記したような本発明の金属汚染除去工程は実施されていないので、基板表面に残存していた金属元素がエピタキシャル層に取り込まれたと考えられるし、エピタキシャル成長装置内で、金属元素が表面に残存した基板が繰り返し加熱されることにより、エピタキシャル成長装置自体も金属元素によって汚染されている可能性が高く、そこからエピタキシャル成長中に金属元素を取り込む可能性もあると考えられる。さらに、エピタキシャル成長装置の部材に金属元素が含まれていて、エピタキシャル成長のための加熱時に部材が高温となり、そこから金属元素が飛び出し、基板がそれを取り込む可能性もある。
まず、2枚を共に、王水に180秒浸漬し、水洗後、120℃に保った硫酸・過酸化水素水混合液に180秒浸した。硫酸と過酸化水素水(31%水溶液)の混合比は、7:3である。水洗の後、フッ酸水溶液に180秒浸漬した。フッ酸(55%水溶液)と水の混合比は、1:20である。このフッ酸水溶液への浸漬により、酸素プラズマ処理で炭化珪素単結晶基板の表面、裏面に形成された二酸化シリコンを主成分とする膜が除去される。最後に、アンモニア・過酸化水素混合液に120秒浸漬した後、水洗を施し、スピンドライヤーにより基板を乾燥した。この一連の洗浄工程は、金属汚染の除去という点では必ずしも不可欠ではないが、酸素プラズマ処理を行うマイクロ波を用いたドライエッチング装置の汚染を少しでも防ぐ目的で実施した。図7に一連の洗浄工程後に再度、2枚中1枚の基板表面の金属汚染を分析した結果を示す。洗浄により、チタン、クロム、ニッケル、銅の汚染は除去されたが、鉄と亜鉛は洗浄後も残存している。
次いで、2枚中1枚に対して、酸素プラズマ処理を施した。酸素プラズマ処理にはマイクロ波を用いたドライエッチング装置を用いて行った。処理の条件は、酸素流量200sccm、反応室内圧力5Pa、マイクロ波のソース電力800W、RFバイアス電力7Wで時間は表面、裏面共に60秒である。装置の電極形状はほぼ直径200mmの円形である。従って、単位面積当りのRFバイアス電力は、0.022W/cm2ということになる。まず、炭化珪素単結晶基板の表面を上向きにして表面側の処理を施し、次に、炭化珪素シリコン基板の裏面を上向きにして裏面側の処理を施した。この酸素ブラズマ処理によって、炭化珪素単結晶基板の表面、裏面には二酸化シリコンを主成分とする膜が形成される。二酸化シリコンを主成分とする膜の厚さは、シリコン面からなる表面では3nm未満であった。この段階で、再度基板表面の金属汚染を分析した結果を図8に示す。酸素プラズマ処理だけでは金属汚染は低減されず、鉄と亜鉛が残存していた。本発明の製造方法では、炭化珪素単結晶基板に損傷が導入されないように、RFバイアス電力を十分に低く設定している。このため、金属汚染がイオンの衝突によって物理的に除去される機構は、ほとんど発現しないためと考えられる。処理に用いたエッチング装置は、塩素と酸素の混合ガスを用いた反応室内クリーニングを実施した後に、シリコン基板を用いて金属汚染を検査したところ、処理前の清浄度と同レベルであり、この処理に用いたことよる装置汚染の影響が残ることはなかった。
しかる後、王水、硫酸・過酸化水素水混合液、フッ酸水溶液、アンモニア・過酸化水素水混合液による薬液洗浄を再び基板に施した。用いた薬液の成分や洗浄の条件は、本実施例中の本発明による炭化珪素単結晶基板に対する洗浄と同様である。この一連の薬液洗浄は、酸素プラズマ処理を施していない基板についても行い、再び表面を分析した。
図9に本実施例の炭化珪素単結晶基板の表面の金属汚染を分析した結果を示す。図10に酸素プラズマ処理を用いない従来の製造方法による炭化珪素炭化珪素単結晶基板の表面の金属汚染を分析した結果を示す。従来の製造方法による基板表面には、鉄、亜鉛の元素が残存しているが、本発明の製造方法による基板表面では、鉄、亜鉛を含む全ての元素が検出限界以下しか存在していない。残存する金属汚染の違いは、炭化珪素単結晶基板表面の酸化の有無によると考えられる。すなわち、本発明の製造方法による場合には、酸素プラズマに晒されることで基板表面に薄い二酸化シリコンを主成分とする膜が形成される。元々、基板表面に存在していた金属元素は、この酸化膜の上に持ち上げられたり、酸化膜中に取り込まれたりする場合が多い。フッ酸水溶液でこの酸化膜を除去すると、酸化膜上や酸化膜中の金属元素も同時に除去される。これに対して、シリコン半導体素子の製造で用いられていた従来の製造方法を炭化珪素半導体素子の製造にそのまま適用すると、シリコンシリコン単結晶基板の場合とは異なり、炭化珪素単結晶基板では、過酸化水素を含む薬液中に浸漬しても、二酸化シリコンを主成分とする膜が殆ど形成されない。このため、上記のような金属汚染除去の機構が実現しないと考えられる。
本発明の製造方法と従来の製造方法によって金属汚染を除去した基板各1枚を用いて、実施例1と同様のpn接合ダイオードを作製し、pn接合ダイオードの初期特性を評価した。評価したpnダイオードの個数は基板1枚当たり200個である。耐圧600V以上(電流<0.1mAで定義)を良品とすると、良品率は、本発明の製造方法によるpn接合ダイオードでは75%、従来の製造方法によるpn接合ダイオードでは45%であった。ドリフト層中のエピ欠陥の密度は、本発明の製造方法によるpn接合ダイオードでも、来の製造方法によるpn接合ダイオードでも大きな違いはないはずである。また、ドリフト層中の基底面転位の密度も同様に、大きな違いはないはずである。実施例1中でも述べたように、何らかの金属不純物が修飾されている基底面転位が耐圧を低下させる原因となるという説がある。ドリフト層表面の金属汚染を低減したことにより、pn接合ダイオードの作成中の活性化熱処理中等にドリフト層に取り込まれる金属元素が減少し、その結果、ドリフト層中の、金属不純物が捕らえられた基底面転位の密度が低減したことが、耐圧不良品の数を減らし、良品率を向上させることにも寄与した可能性があるが、機構の詳細は不明である。
次にpn接合ダイオードに、50A/cm2の電流を通電し、そのままで10時間保持して、オン電圧の増大を調べた。従来の製造方法で作製したpn接合ダイオードを25個測定した結果、13個で約1Vのオン電圧の増加が観測されたが、本発明の製造方法を用いたpn接合ダイオードでは、25個全てが0.2V以下の増加に抑制された。この違いも耐圧と同様に、本発明の製造方法によるpn接合ダイオードでは、ドリフト層中の、金属不純物が捕らえられた基底面転位の密度が減少したためと考えられるが、機構の詳細は不明である。
なお、本実施例で用いた(0001)面の他、(000−1)面や(11−20)面の基板を用いてもよい。また、オフ角は4°に限らず、0〜8°程度であれば他の角度でも構わない。また、基板の直径や厚さは、他の寸法でも構わない。これらの基板を用いても、本発明と同様の効果がもたらされる。
図11A−Gを用いて説明する。本実施例は、本発明をショットキー障壁とpn接合の複合したJBSダイオードの製造に適用した実施例である。図11A−Cは、実施例のJBSダイオードの製造工程を示す断面図である。JBSダイオードの周囲には、電界を緩和するためのターミネーション領域を形成したが、ターミネーション領域は、図11では省略して記載した。図11Cに示すように、本実施例のJBSダイオードは、炭化珪素単結晶基板111の主表面上に設けられ、窒素を含む厚さ約20μmのn型のドリフト層112と、ドリフト層112の表面の一部に設けられ、Alを含む厚さが1μmのp型ドープ層113と、p型ドープ層113の上部に設けられ、Alを含む厚さが0.1μmの高濃度p型層114を備えている。炭化珪素単結晶基板111、n型ドリフト層112のドナー濃度は、それぞれ、それぞれ、3×1018cm−3、2×1015cm−3であり、p型ドープ層113、高濃度p型層114のアクセプタ濃度は、それぞれ、2×1018cm−3、5×1019cm−3である。
本実施例のJBSダイオードの製造方法について説明する。まず、図11Aに示すような、炭化珪素単結晶基板111を用意する。炭化珪素単結晶基板111は、[11−20]方向に4°のオフ角を有する4H−SiC、4°オフ炭化珪素単結晶基板である。直径は最大部で76.2mmで、厚さは350μmである。表面は(0001)面である。基板111表面にはドリフト層112が形成されている。
次に図11Bの工程で、ドリフト層112の表面の一部にAlのイオン注入を行い、p型ドープ層113を形成する。続いて、p型ドープ層113の表面に、Alのイオン注入をさらに高ドーズで行い、高濃度p型層114を形成する。p型ドープ層113、高濃度p型層114を形成した後に、本発明の金属汚染除去工程を適用した。不純物活性化のための高温熱処理の前に、炭化珪素単結晶基板111を清浄化することが目的である。
まず、炭化珪素単結晶基板111の表裏に、酸素プラズマ処理を施した。酸素プラズマ処理にはアッシャ装置を用いて行った。処理の条件は、酸素流量100sccm、反応室内圧力10Pa、RF電力50Wで時間は表面、裏面共に30秒である。単位面積当りのRF電力は、0.1W/cm2とした。炭化珪素単結晶基板に損傷が導入されないように、RF電力は十分に低く設定している。まず、炭化珪素単結晶基板の表面を上向きにして表面側の処理を施し、次に、炭化珪素単結晶基板111の裏面を上向きにして裏面側の処理を施した。この酸素ブラズマ処理によって、炭化珪素単結晶基板111の表面、裏面には二酸化シリコンを主成分とする膜が形成される。二酸化シリコンを主成分とする膜の厚さは、シリコン面からなる表面では2nm未満であった。
しかる後、王水、硫酸・過酸化水素水混合液、フッ酸水溶液、アンモニア・過酸化水素水混合液による薬液洗浄を基板に施した。用いた薬液の成分や洗浄の条件は、本実施例1の本発明による炭化珪素単結晶基板に対する洗浄と同様である。次に、炭化珪素単結晶基板111の表面、裏面が、高温で変質するのを防止するため、図11Cに示すように、基板111の表面、裏面に厚さ100nmのカーボン膜115、116を形成した。カーボン膜の形成には、スパッタ法を用いたが、メタンを原料とするプラズマCVD法等、他の成膜方法で形成してもよい。基板の裏面にもカーボン膜116を形成するのは、裏面のコンタクト抵抗を低減する効果があるためと、裏面電極の基板111に対する接着力を強化するのに有効だからである。この状態で、次に、真空中で、1800℃で活性化アニールを行った。1,800℃に保った時間は1分である。その後、カーボン膜を酸素を用いたドライエッチングにより除去したところ、図11Dのようになった。処理の条件は、酸素流量100sccm、反応室内圧力10Pa、RF電力50Wで時間は表面、裏面共に90秒である。単位面積当りのRF電力は、0.1W/cm2とした。炭化珪素単結晶基板に損傷が導入されないように、RF電力は十分に低く設定している。カーボン膜が除去された後に、炭化珪素単結晶基板111の表面は、酸素プラズマに晒される。炭化珪素単結晶基板111の表面に形成された二酸化シリコンを主成分とする膜の厚さは、シリコン面からなる表面では2nm未満であった。しかる後、フッ酸水溶液、アンモニア・過酸化水素水混合液による薬液洗浄を基板に施した。用いた薬液の成分や洗浄の条件は、本実施例1の本発明による炭化珪素単結晶基板に対する洗浄と同様である。
次に、図11Eに図示するように、プラズマCVD法により二酸化シリコン膜117を形成し、さらに裏面ニッケル膜を形成し、RTA装置を用いて、アルゴン中で1000℃、1分の熱処理を施した。裏面にはニッケル珪化物を主成分とする層118が形成された。次に、二酸化シリコン膜117に開口部を形成すると図11Fのようになった。二酸化シリコン膜117のエッチングには、ウェットエッチング技術を用いた。次に、図11Gに示すように表面側には厚さ50nmのニッケル膜119と厚さ3μmのアルミニウム膜119の積層膜からなる電極を形成した。ニッケル膜、アルミニウム膜の形成にはスパッタ装置を用い、公知のリソグラフィ工程とウェットエッチング技術によりパターニングを施した。裏面には、スパッタ装置を用いて、厚さ100nmのニッケル膜121を形成し、裏面電極とした。最後に、ポリイミド樹脂からなる保護膜を形成したが、図9Fには図示していない。以上のように、本発明の製造方法により、本実施例のJBSダイオードを作製した。
本発明の製造方法によるJBSダイオードの初期特性を評価した。評価したJBSダイオードの個数は100個である。耐圧3.5kV以上(電流<0.1mAで定義)を良品とすると、良品率は63%であった。従来の製造方法による場合には45%であったので大幅に向上した。ダイオードの逆方向リーク電流を2kVで測定すると、100個のダイオードの平均値が、従来の製造方法による場合よりの約40%にまで低減した。リーク電流は主にショットキー障壁ダイオード部分を流れていると考えられる。本発明の製造方法では、活性化熱処理前後等に、炭化珪素単結晶基板表面の金属汚染を除去することにより、従来の製造方法による場合よりも清浄な電極/炭化珪素単結晶基板界面を実現している。これが、リーク電流の低減に寄与した可能性が高い。
次にJBS接合ダイオードに、70A/cm2の電流を通電し、そのままで10時間保持して、オン電圧の増大を調べた。従来の製造方法で作製したJBSダイオードを25個測定した時には、14個で約1Vのオン電圧の増加が観測されたが、本発明の製造方法を用いたJBSダイオードでは、25個全てが0.3V以下の増加に抑制された。機構の詳細は不明であるが、本発明の製造方法を適用することにより、従来の製造方法を用いた場合よりJBSダイオードの良品率が向上し、逆方向のリーク電流が低減し、通電時の特性変動も大幅に抑制された。なお、本実施例で用いた(0001)面の他、(000−1)面や(11−20)面の基板を用いてもよい。また、オフ角は4°に限らず、0〜8°程度であれば他の角度でも構わない。また、基板の直径や厚さは他の寸法でも構わない。これらの基板を用いても、本発明と同様の効果がもたらされる。
図12A−H、13A−Gを用いて説明する。本実施例は、本発明をMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)の製造に適用した実施例である。nチャネルのプレー型MOSFETである。図12A−H、13A−Gは、実施例のMOSFETの製造工程を示す断面図である。図12Bに示すような炭化珪素単結晶基板131を用意する。本発明の効果を確認するために、2枚の基板131を用いた。炭化珪素単結晶基板131は、[11−20]方向に4°のオフ角を有する4H−SiC、4°オフ炭化珪素単結晶基板である。直径は最大部で100.0mmで、厚さは380μmである。表面は(0001)面である。基板131表面には厚さ10μmのドリフト層132が形成されている。基板131はn+基板であり、ドリフト層132はn―層である。図12Bの工程で、ドリフト層132の表面の一部に硼素のイオン注入を行い、p型のベース層133を形成した。注入は二酸化シリコンをマスクとして用いて、基板温度を500℃に保った状態で行った。ドーズ量は1.5X1016cm−2であり、濃度は約1.5X1017cm−3となる。ドーパントとしては、硼素の他にアルミニウムを用いることも可能である。注入後、マスクの二酸化シリコンは、基板をフッ酸水溶液に浸漬することにより除去した。次に2枚の基板131のうちの1枚に対して、本発明の金属汚染除去工程を適用し、まず酸素プラズマ処理を行った。酸素プラズマ処理は、実施例2と同様に、マイクロ波を用いたドライエッチング装置を用いて行った。処理の条件は、酸素流量200sccm、反応室内圧力5Pa、マイクロ波のソース電力800W、RFバイアス電力7Wで時間は表面60秒である。装置の電極形状はほぼ直径200mmの円形である。
従って、単位面積当りのRFバイアス電力は、0.022W/cm2ということになる。この酸素ブラズマ処理によって、炭化珪素単結晶基板131の表面には二酸化シリコンを主成分とする膜が形成される。二酸化シリコンを主成分とする膜の厚さは、シリコン面からなる表面では3nm未満であった。炭化珪素単結晶基板に対する酸素プラズマ処理に用いたドライエッチング装置は、処理の後に塩素、酸素混合ガスを用いてクリーニングした。これは、炭化珪素単結晶基板131に対する処理によって、ドライエッチングの内部が汚染され、その汚染が後に処理を施す他の基板に付着するのを防ぐための処置である。しかる後、王水、硫酸・過酸化水素水混合液、フッ酸水溶液、アンモニア・過酸化水素水混合液による薬液洗浄を再び基板に施した。用いた薬液の成分や洗浄の条件は、実施例2中の本発明による炭化珪素単結晶基板に対する洗浄と同様である。この一連の薬液洗浄は、酸素プラズマ処理を施していないもう1枚の基板131についても行った。次に、洗浄後の基板131に対して活性化熱処理を施した。1850℃3分間、100sccmのArを流しながら、約1Paの減圧下で行った。熱処理の際には、実施例3と同様に、厚さ100nmのカーボン膜を保護膜として用いた。実施例3とは異なり、保護膜は基板131の表面側のみに形成し、熱処理後に実施例3と同様の方法、条件で除去した。
続いて、2枚の基板131の表面に、図12Cに示すように、n―エピタキシャル層134をエピタキシャル成長により形成した。このn―エピタキシャル層134にMOSFETのチャネル層が形成される。エピタキシャル成長の条件は、2枚の基板131に共通である。エピタキシャル成長層には窒素がドーパントとして含まれ、その濃度は1X1016cm−3である。エピタキシャル成長の後、図12Dに示すように、一部の領域に窒素のイオン注入によってn+ソース層135を形成した。この注入も基板温度を500℃に保って行われ、ドーズ量は1X1015cm2とした。次に図12Eに示すように、エピタキシャル層134の一部136を反応性イオンエッチングによりエッチング除去した。この際、エッチングのマスクには二酸化シリコン膜を用いた。しかる後、再びイオン注入により、深いベース層137を形成すると図12Fのようになった。エッチングマスクをフッ酸水溶液で除去した後、再び2枚の基板131のうちの1枚に対して、本発明の金属汚染除去工程を適用した。適用した基板は、エピタキシャル成長前に本発明の金属汚染除去工程を適用した基板と同じ基板である。酸素プラズマ処理に用いた装置や、処理の条件は、エピタキシャル成長前と同様である。プラズマ処理後の装置のクリーニングも同様とした。酸素プラズマ処理後に行った一連の薬液洗浄は、酸素プラズマ処理を施した基板131だけではなく、酸素プラズマ処理を施していないもう1枚の基板131に対しても行った。
次に、図12Gに示すように、ゲート酸化膜138を形成した。酸化方法はドライ酸化であり、酸化温度は1250℃である。ゲート酸化膜138の厚さは50nmとした。ゲート酸化の後、基板131に対して一酸化窒素雰囲気中で1150℃、10分の熱処理を施した。この熱処理によって界面準位密度が低減され、チャネル移動度が向上することが分かっている。次に図12Hに示す多結晶シリコン膜139を形成し、通常の反応性ドライエッチング法により加工し、図13Aのようにゲート電極140を形成した。ゲート電極を囲むパターンでゲート酸化膜の不要部分をエッチング除去すると図13Bのように、MOSFETのゲート酸化膜141が残った。図13Cのように、プラズマCVD法による二酸化シリコン膜142を形成し、ゲート電極上の膜143以外をエッチング除去すると図13Dのようになった。引き続き、図13Eのように基板の表裏面にスパッタ法でニッケル膜144、145を形成した。この状態で、900℃3分のアルゴン中熱処理を施し、炭化珪素単結晶基板131や炭化珪素エピタキシャル層134とニッケル膜144、145が接触した部分にニッケル珪化物を主成分とする膜146、147を形成し、未反応のニッケル膜144、145を除去すると図13Fのようになった。未反応のニッケル膜144、145は、硫酸、過酸化水素水溶液の混合液を用いて選択的に除去した。しかる後に、表面側にアルミニウムからなるソース電極148、裏面側にニッケルからなるドレイン電極149を形成すると図13Gのようになった。なお、図示されていないが、ゲート電極140上にはコンタクト孔が開口され、アルミニウムからなるゲート電極パッドと接続されている。
上記のように作製したMOSFETの特性と信頼性を評価した。本発明の金属汚染除去工程を適用した基板上と、従来の方法による基板上のMOSFETを比較した。MOSFETのチップ寸法は5.2mmX5.2mmで、アクティブ領域は5.0mmx5.0mmである。まず、耐圧を調べた。耐圧>1200Vを良品とすると、本発明の方法によるMOSFETの良品率は77%、従来の方法によるMOSFETの良品率は39%であった。エピタキシャル成長前に本発明の金属汚染除去工程を適用したことにより、エピタキシャル層に含まれる致命欠陥の密度が減少し、耐圧の良品率が向上したと考えられる。チャネル移動度は、本発明によるMOSFETも、従来の方法によるMOSFETも同等で、最大60cm2/Vs程度であった。次にゲート絶縁膜の信頼性を評価するために、本発明によるMOSFET、従来の方法によるMOSFETそれぞれ30チップについて、TZDB(Time Zero Dielectric Breakdown)と、TDDB(Time Dipendent Dielectric Breakdown)の測定を行った。結果をそれぞれ図14、15に示す。TZDBについては、本発明によるMOSFETは全て10.0MV/cm以上の高い絶縁破壊強度を示した。これに対して、従来の方法によるMOSFETでは、9.0MV/cm以下の低めの値となるチップも相当数含まれていた。またストレス電界9.5MV/cmで行ったTDDBの結果を、累積絶縁破壊率が63%となる絶縁破壊電荷総量で比較すると、本発明のMOSFETは従来の方法によるMOSFETの約4倍の0.6C/cm2という結果であった。
これは、従来の方法によるMOSFETの多くが比較的短時間のストレスで絶縁破壊に至ったことを反映している。ゲート酸化前に本発明の本発明の金属汚染除去工程を適用したことにより、ゲート酸化膜の信頼性が向上し、TZDBの絶縁破壊強度や、TDDBの寿命の向上がもたらされたと考えられる。
なお、本実施例で用いた(0001)面の他、(000−1)面や(11−20)面の基板を用いてもよい。また、オフ角は4°に限らず、0〜8°程度であれば他の角度でも構わない。また、基板の直径や厚さは他の寸法でも構わない。これらの基板を用いても、本発明と同様の効果がもたらされる。
図16A−G、17A−Eを用いて説明する。本実施例は、本発明をトレンチ型MOSFETの製造に適用した実施例である。図16A−G、図17A−Eは、実施例のMOSFETの製造工程を示す断面図である。図16Aに示すような炭化珪素単結晶基板171を用意する。炭化珪素単結晶基板171は、[11−20]方向に4°のオフ角を有する4H−SiC、4°オフ炭化珪素単結晶基板である。直径は最大部で100.0mmで、厚さは380μmである。表面は(0001)面である。基板171表面には、厚さ7μmのドリフト層172が形成されている。基板171はn+基板であり、ドリフト層172は不純物濃度1X1016cm−3のn―層である。ドリフト層172の上には、厚さ1μm、不純物濃度1X1017cm−3のp型ベース層173、厚さ0.5μm、不純物濃度1X1019cm−3のn+型ソース層174が形成されている。これらの層はいずれもエピタキシャル成長で形成したが、少なくとも一部の層をイオン注入で作ることも可能である。その場合には、イオン注入後に、基板171に実施例3、4と同様の活性化熱処理を施す。続いて、図16Bに示すようなトレンチ175を形成する。トレンチ175の形成はドライエッチング法によった。エッチングに用いた装置は、ICP(Inductively Coupled Plasma)を用いた高密度プラズマエッチング装置である。エッチングガスは六フッ化硫黄とし、マスクには二酸化シリコンを用いたが、六フッ化硫黄に酸素を加えた混合ガスや、塩素と酸素の混合ガスを用いても同様な加工が可能である。マスクの二酸化シリコンをフッ酸水溶液で除去した後に、基板171に本発明の金属汚染除去工程を適用した。最初に、オゾンによる酸化処理を行った。処理に用いたのは酸化炉である。700℃に保った基板171上に、高濃度のオゾン発生器から体積濃度約50%のオゾンを供給し、基板171表面を酸化した。本実施例ではオゾンによる酸化を適用したが、実施例2と同様の酸素プラズマ処理でも同様の効果が得られる。また、ドライ酸化、ウェット酸化、ISSG(In−situ Steam Generation)酸化等の熱酸化や、陽極酸化等の他の方法によって酸化膜を形成してもよい。それぞれの方法に応じて、酸化温度や酸化時間を調整して、炭化珪素単結晶基板171表面に形成される二酸化シリコンを主成分とする膜の厚さが5nm未満とすることが望ましい。しかる後、王水、硫酸・過酸化水素水混合液、フッ酸水溶液、アンモニア・過酸化水素水混合液による薬液洗浄を再び基板に施した。用いた薬液の成分や洗浄の条件は、実施例2中の本発明による炭化珪素単結晶基板に対する洗浄と同様である。次に、図16Cに示すように第1のゲート絶縁膜176を形成した。第1のゲート絶縁膜176は厚さ7nmの薄い熱酸化膜であり、図16Dに示すように、その上に第2のゲート絶縁膜となる厚いCVD膜177を積層した。本実施例の熱酸化膜176は1300℃、ドライ酸化で形成した。CVD膜177はTEOS(Tetra Ethyl Ortho Silicate)と酸素を原料とする減圧CVD法で形成した。CVD膜形成時の基板171の温度は700℃である。積層したゲート絶縁膜176、177を形成後に、一酸化窒素中で1200℃、5分の熱処理を施した。熱処理後のゲート絶縁膜176、177の厚さ合計は55nmである。本実施例のゲート絶縁膜176、177は上記の方法で作成したが、ゲート絶縁膜176、177の形成方法はこれに限らない。例えば、熱酸化膜の代りに予め形成した非晶質シリコン膜や多結晶シリコン膜の酸化による膜を用いて、その上に本実施例と同様のCVD膜を積層する等、他の方法により形成することも可能である。非晶質シリコン膜や多結晶シリコン膜を用いる場合には、非晶質シリコン膜や多結晶シリコン膜の形成前に、本実施例と同様の本発明の金属汚染除去工程を適用する。
次に、図16Eのように、ホウ素をドーピングした多結晶シリコン膜178を形成し、パターニングを施すと、図16Fに示すようなゲート電極179となる。さらに、層間絶縁膜となる二酸化シリコン膜180をTEOSと酸素を原料とするプラズマCVD法で形成すると図16Gのようになった。トレンチの両側の部分181を炭化珪素単結晶基板171表面のp型ベース層173が露出するまでエッチングすると図17Aのようになった。二酸化シリコンのエッチングと炭化珪素のエッチングは、共にドライエッチング法により行った。引続き基板171の表裏面にニッケル膜182、183をスパッタ法で形成し、RTA装置を用いて、アルゴン中で1000℃、1分の熱処理を施した。未反応のニッケルを硫酸、過酸化水素水混合液で除去すると図17Cのようになった。表面のp型ベース層が露出した部分と、裏面にはニッケル珪化物を主成分とする層184、185が形成された。裏面にドレイン電極となるニッケル膜186をスパッタ法で追加して形成した後、図17Eに示すように、ソース電極となるアルミニウム膜187をスパッタ法で形成した。なお、図示されていないが、ゲート電極179上にはコンタクト孔が開口され、アルミニウムからなるゲート電極パッドと接続されている。
上記のように作製したトレンチ型MOSFETの電流−電圧特性を評価した。本発明の金属汚染除去工程を適用した基板上と、従来の方法による基板上のMOSFETを比較した。MOSFETのチップ寸法は4.2mmX4.2mmで、アクティブ領域は4.0mmx4.0mmである。本発明の方法によるMOSFETの良品率は63%で、従来の方法によるMOSFETの良品率は35%よりも大幅に向上した。トレンチ加工後、ゲート酸化膜の形成前に金属汚染除去工程を適用したことにより、ゲート酸化膜に含まれる致命欠陥の密度が減少し、MOSFETの良品率が向上したと考えられる。実施例4と同様に、本発明によるMOSFETと、従来の方法によるMOSFETについて、TZDBとTDDBの測定も行った。その結果、実施例4と同様に、本発明のMOSFETの方が従来のMOSFETよりも高い絶縁破壊強度を示した。また、本発明のMOSFETの累積絶縁破壊率が63%となる絶縁破壊電荷総量は、従来の方法によるMOSFETの約5倍であった。トレンチ加工後、ゲート酸化前に本発明の本発明の金属汚染除去工程を適用したことにより、ゲート酸化膜の信頼性が向上し、TZDBの絶縁破壊強度や、TDDBの寿命の向上がもたらされたと考えられる。
一般にドライエッチング装置は反応性ガスのプラズマを用いるために、晴浄度を保つのが困難である。従って、エッチング中にドライエッチング装置から基板に移る金属汚染を皆無とすることは難しい。このため、トレンチ加工後の基板表面には、金属汚染が存在する可能性が高い。本発明の金属汚染除去工程が、トレンチ型MOSFETの良品率や信頼性の向上に有効であったのは、この段階で金属汚染を除去出来たためと考えられる。
本実施例ではトレンチ型MOSFETについて記したが、MOSFETと同様にトレンチ型の接合FETでも良品率向上や高信頼化の効果がもたらされる。
なお、本実施例で用いた(0001)面の他、(000−1)面や(11−20)面の基板を用いてもよい。また、オフ角は4°に限らず、0〜8°程度であれば他の角度でも構わない。また、基板の直径や厚さは他の寸法でも構わない。これらの基板を用いても、本発明と同様の効果がもたらされる。