JP2012241272A - 耐圧潰性および溶接熱影響部靱性に優れた高強度ラインパイプ及びその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】質量%で、厚鋼板からなる母材を管状に成形し、その突合せ部を2層以上の溶接によって接合し、拡管した溶接鋼管であって、
質量%で、C: 0.03〜0.08%、Si: 0.01〜0.20%Mn: 1.5超、2.5%以下、P: 0.015%以下、Al: 0.001〜0.05%、Nb: 0.005〜0.050%、Ti: 0.005〜0.030%、N: 0.0020〜0.0080%を含有し、さらに、Cu、Ni、Cr、Mo、V、の中から選ばれる1種以上を含有し、所定のCeqを満たし、母材表層部、母材管厚中心部の金属組織、および硬度を規定したことを特徴とする耐圧潰性および溶接熱影響部靱性に優れた高強度ラインパイプ。
【選択図】図1
Description
[1] 厚鋼板からなる母材を管状に成形し、その突合せ部を2層以上の溶接によって接合し、拡管した溶接鋼管であって、
質量%で、
C: 0.03〜0.08%
Si: 0.01〜0.20%
Mn: 1.5超、2.5%以下
P: 0.015%以下
Al: 0.001〜0.05%
Nb: 0.005〜0.050%
Ti: 0.005〜0.030%
N: 0.0020〜0.0080%
を含有し、さらに、
Cu: 0.10〜0.50%
Ni: 0.10〜1.00%
Cr: 0.10〜0.40%
Mo: 0.10〜0.30%
V: 0.005〜0.030%
の中から選ばれる1種以上を含有し、
さらに、式(1)で規定されるCeqが0.30≦Ceq≦0.50を満たし、
式(2)で規定されるPMAが5.5以下、
式(3)で規定されるPCPが0.011以下、
残部Feおよび不可避的不純物からなり、
母材表層部の金属組織がフェライト及び上部ベイナイトの混合組織であり、
母材管厚中心部の金属組織がフェライトと上部ベイナイトの混合組織であるか又は上部ベイナイト単相であり、
母材管厚全域で島状マルテンサイト(M−A)の体積分率が2%以下、
管厚方向で同じ位置における管周方向の硬度差の最大値が30以下、
管周方向で同じ位置における管厚方向の硬度差の最大値が30以下である
ことを特徴とする耐圧潰性および溶接熱影響部靱性に優れた高強度ラインパイプ。
Ceq=C+Mn/6+(Cu+Ni)/15+(Cr+Mo+V)/5 式(1)
PMA=100000(C−0.0218)(0.2Si+0.5Al){2(C+Si/30+Mn/20+Cu/20+Ni/60+Cr/20+Mo/15+V/10+5B)+2.5Nb}{10/(50P+2.5)}−2 式(2)
PCP=Nb(25V+0.2)+V/2 式(3)
ここで、各式の右辺の元素記号はそれぞれの含有量(質量%)を表し、含有しない場合は0とする。
[2]さらに、質量%で、
Ca:0.0005〜0.0100%
Mg: 0.0005〜0.0100%
REM: 0.0005〜0.0200%
Zr: 0.0005〜0.0300%
の内から選ばれる1種以上を含有することを特徴とする[1]に記載の耐圧潰性および溶接熱影響部靱性に優れた高強度ラインパイプ。
[3] 前記母材管厚中心部の金属組織が、フェライトと上部ベイナイトとの混合組織である場合には、
それらの組織の硬度の差が150以下であることを特徴とする前記[1]または[2]に記載の耐圧潰性および溶接熱影響部靱性に優れた高強度ラインパイプ。
[4] 前記溶接鋼管の突合せ溶接部の溶接熱影響部において、
島状マルテンサイト(M−A)の体積分率が2%以下であり、
平均旧オーステナイト粒径が200μm以下である
ことを特徴とする前記[1]〜[3] のいずれか1つに記載の耐圧潰性および溶接熱影響部靱性に優れたに高強度ラインパイプ。
[5] 真円度(Dmax−Dmin)が下記の(4)又は(5)式を満たすことを特徴とする前記[1]〜[4]のいずれか1つに記載の耐圧潰性および溶接熱影響部靱性に優れた高強度ラインパイプ。
D/t0.6≦135の場合は、真円度(Dmax−Dmin)≦3.0 式(4)
D/t0.6>135 の場合は、真円度(Dmax−Dmin)≦0.04D/ t0.6−2.4 式(5)
ここで、D: 公称外径(mm)、t: 管厚(mm)、Dmax−Dmin: 真円度(mm)、Dmax:測定最大外径(mm)、Dmin:測定最小外径(mm)である。
[6] 鋼素材を、900〜1200℃に加熱後、900℃以下の累積圧下率を30〜90%とし圧延終了温度を(Ar3点−40℃)以上850℃以下とした熱間圧延を行った後、
加速冷却の直前に鋼板表面での噴射流衝突圧が1MPa以上のデスケーリングを行い、
直ちに(Ar3−90℃)以上の温度から表層の冷却速度が200℃/s以下かつ平均の冷却速度が10℃/s以上で冷却停止温度が250℃〜450℃になる加速冷却を行い、
続いて、表層温度が冷却停止温度以上かつ(500℃〜Ac1点)、
管厚中央温度が冷却停止温度以上かつ400〜550℃、
表層と管厚中央の到達温度差が40℃以上
となるように再加熱を実施し、
その後、室温まで冷却した後、冷間で管状に成形し、
その突合せ部を溶接し鋼管とした後、さらに0.5〜1.1%の拡管率で拡管を行うことによって製造する
ことを特徴とする前記[1]〜[5]のいずれか1つに記載の耐圧潰性および溶接熱影響部靱性に優れた高強度ラインパイプの製造方法。
[7] 前記突合せ部の溶接を、2層以上で行い、該溶接の最大溶接入熱量が式(6)を満たすことを特徴とする前記[6]に記載の耐圧潰性および溶接熱影響部靱性に優れた高強度ラインパイプの製造方法。
HImax≦0.0376t1.45+2.4 式(6)
ここで、HImax:最大溶接入熱量(kJ/mm)、t: 管厚(mm)である。
以下に本発明に係る鋼管の成分組成の限定理由を説明する。なお、成分組成を示す単位の%は、全て質量%とする。
Cは低温変態組織においては、過飽和に固溶することで強度上昇に寄与する。この効果を得るためには、0.03%以上の添加が必要であるが、0.08%を超えて添加すると母材の第2相硬さが増大し圧縮強度が低下するだけでなく、溶接熱影響部においてM−Aが生成し、靱性を著しく劣化させるため上限を0.08%とする。より好ましくは、上限は0.07%である。
Siは脱酸材として作用し、さらに固溶強化により鋼材の強度を増加させる元素であるが、溶接熱影響部の組織が上部ベイナイトであるときは、セメンタイトの生成を遅延する効果により島状マルテンサイトの生成を助長し、溶接熱影響部靱性を著しく劣化させる。Siは製鋼工程で不可避的に含まれる元素であるため、下限を0.01%とする。一方で、0.20%を超えると溶接熱影響部にM−Aが多数生成し、靱性が著しく劣化するため、上限を0.20%とする。より好ましくは、0.01〜0.12%である。さらに、低温での靱性の確保が必要である場合は、0.01〜0.06%まで低減することがより好ましい。
Mnは焼入れ性を向上させる元素であり、添加量を多くすることで、組織が微細化し、母材靱性が向上する。また、本発明では、C、Si、Nb、Vなどの溶接熱影響部の靱性劣化を助長する元素を低減するため、520MPa以上の引張強度を確保するためには、1.5%を超えて添加する必要がある。一方で、Mnは連続鋳造の鋳片の板厚中央に偏析する元素としても知られ、2.5%を超える添加を行うと偏析部の靭性が劣化するため、上限を2.5%とする。より好ましくは、1.5%超、2.0%以下である。
Pは固溶強化により強度を増加させる元素であるが、母材および溶接熱影響部の靭性や溶接性を劣化させるため、一般的にその含有量を低減することが望まれる。本発明では、Pを低減することによりミクロ偏析の生成を抑制し、溶接熱影響部に生成するM−Aを低減することで、溶接熱影響部靭性を向上させる。Pの低減の効果は、0.015%以下に抑制することで、発揮されるため、上限を0.015%とする。より好ましくは、0.010%以下である。
Alは脱酸に用いられる元素であり、いかなる手順の製鋼方法を用いても0.001%は不可避的に含まれる。一方で、0.05%を超えて添加すると鋼中の清浄度が低下し母材靱性が劣化するだけでなく、セメンタイトの生成を抑制する効果によりM−Aの生成を助長し、溶接熱影響部の靱性を劣化させるため上限を0.05%とする。より好ましくは0.001〜0.035%である。
Nbは、熱間圧延時のオーステナイト未再結晶領域を拡大する効果があり、特に900℃まで未再結晶領域とするためには、0.005%以上の添加が必要である。一方で、Nbの添加量を増大させると、特に溶接熱影響部に島状マルテンサイトが生成し、さらに多層溶接時の再熱溶接熱影響部では析出脆化を引き起こして靭性が著しく劣化するため、上限を0.050%とする。なお、Nbの添加量は、溶接熱影響部靭性の観点からは低いほど好ましく、より好ましくは0.005〜0.025%である。
Tiは窒化物を形成し、鋼中の固溶N量低減に有効である。析出したTiNはピンニング効果で熱間圧延前のスラブ加熱時の母材および溶接熱影響部、特に溶接熱影響部のオーステナイト粒の粗大化を抑制して、母材および溶接熱影響部の靭性の向上に寄与する。この効果を得るためには、0.005%以上の添加が必要であるが、0.030%を超えて添加すると、粗大化したTiNや炭化物の析出により母材および溶接熱影響部靭性が劣化するようになるため上限を0.030%とする。
Nは通常鋼中に不可避的不純物として存在するが、前述の通りTi添加を行うことで、オーステナイト粗大化を抑制するTiNを形成するため規定する。必要とするピンニング効果を得るためには、0.0020%以上鋼中に存在することが必要であるが、0.0080%を超える場合は、固溶Nの増大による母材および溶接熱影響部の靭性劣化が著しいため、上限を0.0080%とする。
Cuは、0.10%以上添加することで鋼の焼入れ性向上に寄与する。一方で、過剰に添加すると母材および溶接熱影響部の靭性を劣化させるため、添加する場合は、上限を0.50%とする。
Niは、0.10%以上添加することで鋼の焼入れ性向上に寄与する。特に多量に添加しても他の元素に比べ靭性劣化が小さく、強靭化には有効な元素である。しかし、高価な元素で、1.00%を超えて添加すると焼入れ性が過剰に増加して溶接熱影響部靭性が劣化するので、添加する場合は、上限を1.00%とする。
Crは、0.10%以上添加することで鋼の焼入れ性向上に寄与する。一方で、過剰に添加すると母材および溶接熱影響部の靭性を劣化させるため、添加する場合は、上限を0.40%とする。
Moは、0.10%以上添加することで鋼の焼入れ性向上に寄与する。一方で、Moの添加量を増大させると大入熱溶接部の靭性が劣化するようになる。また、多層溶接時の再熱溶接熱影響部で析出脆化を引き起こし靭性が劣化するようになるため、添加する場合は、上限を0.30%とする。なお、Moの添加量は、溶接熱影響部靭性の観点からは低いほど好ましいので、0.20%以下であることがさらに好ましい。
Vは0.005%以上添加することで鋼の焼入れ性の向上に付与する。一方で、Vの添加量を増大させると再熱を受けた溶接熱影響部で析出し、析出脆化を引き起こすため、添加する場合は、上限を0.030%以下とする。なお、Vの添加量は溶接熱影響部靱性の観点からは低いほどより好ましいので、0.010%以下であることがさらに好ましい。
Caは、鋼中の硫化物の形態制御に有効な元素であり、0.0005%以上添加することで靭性に有害なMnSの生成を抑制する。しかし、0.0100%を超えて添加するとCaO−CaSのクラスタを形成し、靭性を劣化させるようになるので、添加する場合は、0.0005〜0.0100%とすることが好ましい。
Mgは、製鋼過程で鋼中に微細な酸化物として生成し、特に溶接熱影響部においてオーステナイト粒の粗大化を抑制するピンニング効果をもたらす。十分なピンニング効果を得るためには、0.0005%以上の添加が必要であるが、0.0100%を超えて添加すると鋼中の清浄度が低下し、靭性が低下するようになるため、添加する場合は、0.0005〜0.0100%とすることが好ましい。
REMは、鋼中の硫化物の形態制御に有効な元素であり、0.0005%以上添加することで靭性に有害なMnSの生成を抑制する。しかし、高価な元素であり、かつ0.0200%を超えて添加しても効果が飽和するため、添加する場合は、0.0005〜0.0200%とすることが好ましい。
Zrは、鋼中で炭窒化物を形成し、特に溶接熱影響部においてオーステナイト粒の粗大化を抑制するピンニング効果をもたらす。十分なピンニング効果を得るためには0.0005%以上の添加が必要であるが、0.0300%を超えて添加すると鋼中の清浄度が著しく低下し、靭性が低下するようになるので、添加する場合は0.0005〜0.0300%とすることが好ましい。
下記式(1)で定義されるCeqは溶接熱影響部の最高硬さを評価するために有効なパラメータであるが、同時に母材強度を評価する指標として用いることができる。Ceqが0.30未満であると母材で所望の強度を得ることができないため下限を0.30とする。一方で、0.50を超えると溶接熱影響部靱性の確保が困難になるため、上限を0.50とする。より好ましくは、0.34〜0.45である。
Ceq=C+Mn/6+(Cu+Ni)/15+(Cr+Mo+V)/5 式(1)
ここで、式の右辺の元素記号はそれぞれの含有量(質量%)を表し、含有しない場合は0とする。
下記の式(2)で定義されるPMAは溶接熱影響部におけるM−Aの生成度合いをパラメータ化したものであり、溶接熱影響部靱性を向上させるためには、低いほどよく、5.5を上限とする。より好ましくは、5.0以下である。
PMA=100000(C−0.0218)(0.2Si+0.5Al){2(C+Si/30+Mn/20+Cu/20+Ni/60+Cr/20+Mo/15+V/10+5B)+2.5Nb}{10/(50P+2.5)}−2 式(2)
ここで、式の右辺の元素記号はそれぞれの含有量(質量%)を表わし、含有しない場合は0とする。
下記の式(3)で定義されるPCPはNb、Vによる再熱溶接熱影響部の析出脆化をNb,Vの複合添加の影響を加味して作成したパラメータで、この指標が大きいほど再熱熱影響部の靱性劣化が大きく、会合部FL(Fusion line)靱性の確保が困難となる。その影響は0.011を超えると顕著になるため、上限を0.011とする。
PCP=Nb(25V+0.2)+V/2 式(3)
ここで、式の右辺の元素記号はそれぞれの含有量(質量%)を表わし、含有しない場合は0とする。
本発明では、母材である鋼板の金属組織の形態および体積分率を規定する。以下これらを説明する。
本発明では、加速冷却の直前にデスケーリングを行うことで、厚いスケールの生成に起因した表層での硬化組織の生成を抑制し、なおかつ表層組織をフェライトと上部ベイナイトとの混合組織(「フェライト+上部ベイナイト」と表記することもある)主体にすることで、表層硬さの過度な上昇を防いでいる。なお、これらの表層組織はフェライトと上部ベイナイトとの混合組織である主体組織以外としては、マルテンサイト、M−A、下部ベイナイト、パーライトおよびセメンタイトがあり、いずれも、フェライト、上部ベイナイトにくらべて硬い組織であるため、少ない方が好ましい。なお、主体組織の体積分率は、85%以上であることが好ましい。主体組織の体積分率の測定の際、上部ベイナイトのラス間に生成するセメンタイトは上部ベイナイトの一部として測定する。また、表層とは最表層から管厚方向2mmまでの領域のことである。
管厚中心部の金属組織は、母材強度を確保する上で重要な因子である。圧縮強度確保の観点からは、できるだけ均一な組織であることが望ましい。しかしながら、DWTT性能などの低温靱性を確保するためには、フェライトを生成させた方がよい。また、後述する硬質相と軟質相の硬さ差を小さくすることにより、圧縮強度を確保することが可能となるので、組織形態としては、上部ベイナイト単相であるかまたはフェライト+上部ベイナイトのいずれかであればよい。
M−Aは上述した硬質第2相の中でも、最も硬度が大きい組織であり、圧縮強度を顕著に劣化させるため、できるだけ少ない方がよい。本発明では、加速冷却後の再加熱によりM−Aを分解し、実質的に含まない程度まで低減することができる。なお、再加熱によっても若干M−Aが残留することがあるが、M−Aの体積分率は2%までは許容することができる。母材管厚全域とは、中央偏析部を除く鋼管母材全域のことである。
母材管厚中心部の金属組織がフェライト+ベイナイトである場合、両者の硬さ差が大きくなると圧縮強度が低下する。その影響は硬さ差が150を超えると顕著であるため、上限を150とすることが好ましい。ここで、管厚中心部の金属組織が上部ベイナイト単相である場合には、金属組織に起因する硬さの差は生じないので、この要件は混合組織である場合にのみ適用される。
本発明では、管周方向、管厚方向の硬さ分布および硬さの最大値を規定する。なお、管周方向、管厚方向の硬さ分布を測定する場合には、ビッカース硬さ試験機で荷重10kgf(98N)で測定する。
管周方向の硬度差は、主に加速冷却時の表面性状に起因して発生する。スケールが厚い箇所は過度に冷却されて表層が著しく硬化し、一方スケール厚が薄い箇所では、それほど表層が硬化しないため表層硬さに大きな差が出ることになる。管周方向の硬度差が大きいと、UOE造管時のC−U−O成形における形状の乱れが生じ、その結果、所望の真円度を得るためにより大きな拡管率を必要としてしまう。拡管率が大きくなると、バウシンガー効果により圧縮強度が低下するため、耐圧潰性が低下することになる。
管厚方向の硬度差は、主に加速冷却前の表層組織形態、加速冷却の冷却速度、加速冷却時の表面性状に起因して発生し、管周方向の硬度差と同じく、UOE造管時のC−U−O成形における形状の乱れが生じ、その結果、所望の真円度を得るためにより大きな拡管率を必要としてしまう。拡管率が大きくなると、バウシンガー効果により圧縮強度が低下するため、耐圧潰性が低下することになる。一方で、管厚方向の硬度差が小さいと、拡管率が小さくても高い真円度を得ることができ、圧縮強度の低下の抑制および真円度の確保の両面から耐圧潰性を向上させることができる。その効果は、管周方向の硬度差を30以下にすることにより顕著に現れるため、上限を30とする。より好ましくは20以下である。なお、管厚方向の硬度差は管周方向および管長方向の同じ位置で測定したものについて比較するものとする。
真円度が高いほど、耐圧潰性が向上する。ここで、真円度とは、Dmax−Dminと定義する。Dmaxは測定最大外径(mm)で、Dminは測定最小外径(mm)である。真円度は、製造された鋼管の任意の管長位置で管周を12等分あるいは24等分して対向する位置での外直径を測定し、それらのうちの最大値と最小値をそれぞれDmax、Dminとすることで求めることができる。
D/t0.6≦135の場合は、真円度(Dmax−Dmin)≦3.0 式(4)
D/t0.6>135 の場合は、真円度(Dmax−Dmin)≦0.04D/ t0.6−2.4 式(5)
ここで、D:公称外径(mm)、t:管厚(mm)である。
なお、本発明で高強度鋼板とは、DNV−OS−F101のSAWL415グレードに相当する520MPa以上の引張強度を有する鋼板をいう。
本発明では、さらに突合せ溶接部の溶接熱影響部ミクロ組織形態および溶接条件を規定する。本発明で溶接熱影響部の靭性に優れたとは、−20℃での吸収エネルギを各条件について3本ずつ測定し、その平均値および最低値を求め、目標値はDNV−OS−F101に準拠して平均値50J以上、最低値40J以上の性能を示すものをいうこととする。
M−A分率は溶接熱影響部靱性に大きな影響を及ぼし、M−A分率を少なくするほど溶接熱影響部靱性は向上するが、2%までは許容される。
平均旧オーステナイト粒径(平均旧γ粒径ともいう。)は溶接熱影響部靱性に大きな影響を及ぼし、平均旧γ粒径を小さくするほど溶接熱影響部靱性は向上する。平均旧γ粒径が200μmを超えるとM−A分率や溶接部形状などの他の因子を制御しても所望の靱性を得ることができないため、上限を200μmとすることが好ましい。より好ましくは上限を150μmとする。なお、ここでいう平均旧オーステナイト粒径とは、溶接部断面において溶融線に接している10個以上の旧オーステナイト粒から測定される平均円相当径のことを表す。
溶接入熱が上がるほど、溶接熱影響部の組織の粗大化およびHAZ幅の拡大により溶接熱影響部靱性が低下する。また、同じ溶接入熱でも管厚が小さいほど溶接後の冷却時間がかかり、実質的に溶接入熱を大きくした場合と同じ影響があるため注意が必要である。一方で過度に溶接入熱を小さくすると溶接欠陥の発生などが顕著になる。以上のことを踏まえて、溶接熱影響部靱性を確保するために多層溶接パスのうち最も高い溶接入熱量を下記の式(6)をみたした範囲で設定することが好ましい。
HImax≦0.0376t1.45+2.4 式(6)
ここで、HImax:最大溶接入熱量(kJ/mm)、t: 管厚(mm)である。
本発明では、上記の母材ミクロ組織および硬さ分布および所望の性能を得るための、鋼管素材および鋼管の製造方法を規定する。
スラブをオーステナイト化しつつ、最低限のNbの固溶量を得るため、下限温度は900℃とした。一方、1200℃を超える温度までスラブを加熱すると、NbCおよびTiNによるピンニング効果が弱まり、オーステナイト粒が著しく成長し、母材靭性が劣化する。このため、スラブ加熱温度は900〜1200℃の範囲とする。
本発明に係る鋼では、Nb添加によって900℃以下はオーステナイト未再結晶温度領域である。この温度域以下において累積で大圧下の圧延を行うことにより、オーステナイト粒を伸展させ、特に板厚方向で細粒とし母材靭性を向上させる。累積圧下率が30%未満の場合は、細粒化が十分でなく靱性が劣化するため、900℃以下の温度域での累積圧下率は30%以上とする。累積圧下率が大きいほど圧延時の鋼板の反りや圧延能率の低下などが問題となり、また90%を超える圧下率を確保しても材質特性に大きな変化がみられないため、上限を90%とする。好ましくは50〜90%の範囲内である。
圧延終了温度は、低い方が母材靱性確保の観点からは有利であるが、(Ar3−40℃)を下回ると板厚中央すなわち管厚中央付近の母材組織に粗大な加工フェライトが多数生成するようになり、圧縮強度が低下するため、下限を(Ar3−40℃)とする。より好ましくは、(Ar3−40℃)以上である。また、DWTT性能確保の観点から上限を850℃以下とする。より好ましくは、830℃以下である。なお、温度の測定は、圧延終了後ただちに放射温度計により鋼板表面温度を測定するものとする。Ar3点は実質的に同一とみなせる化学成分の鋼の熱膨張試験で加工後の変態開始温度を測定することがのぞましいが、下記の式(7)で代用してもよい。
Ar3(℃)=910−310C−80Mn−20Cu−55Ni−15Cr−80Mo 式(7)
ここで、各式の右辺の元素記号はそれぞれの含有量(質量%)を表し、含有しない場合は0とする。
さらに、上記製造工程に加えて、加速冷却の直前に高衝突圧の噴射流によるデスケーリングを行う。鋼板内の材質均一性に優れた高強度鋼板とするためには、鋼板内の硬さのばらつきを低減することが必要であり、特に鋼板内部の強度を保ちながら、表層部の硬さを抑制することが重要である。圧延後の鋼板においては、圧延前および圧延中のデスケーリング等により幅方向にスケールの厚さにむらが生じることがある。また、スケール厚さが大きい場合には、部分的にスケールの剥離が生じることがある。
加速冷却開始温度が低いと管厚中央にフェライトのみが生成し、圧縮強度が低下するため、(Ar3−90℃)以上とする。より好ましくは、(Ar3−90℃)〜(Ar3+10℃)である。なお、温度の測定は、加速冷却前デスケーリングの直前に放射温度計により表面温度を測定するものとする。Ar3は式(7)を代用してもよい。
表層の加速冷却速度は表層の組織および硬さを決定する重要な因子であり、表層の冷却速度が200℃/sを超えると表層組織にマルテンサイトや下部ベイナイトが多数生成し、表層硬さが大きくなるため上限を200℃/sとする。好ましくは板厚中央の冷却速度以上、150℃/s以下である。
鋼板の平均の冷却速度は、鋼板の板厚中央、すなわち、管厚中央の組織および硬さを決定する重要な因子であり、鋼板の板厚方向の平均の冷却速度が10℃/s未満では管厚中央にフェライトが過剰に生成し、圧縮強度が確保できないめ、下限を10℃/sとする。より好ましくは、10〜100℃/sである。
圧延終了後の鋼板を、ベイナイト変態の温度域である250〜450℃まで加速冷却することにより、ベイナイト相を生成させる。冷却停止温度が250℃を下回ると加速冷却時に未変態であったオーステナイトから多くのM−Aが生成し再加熱後もセメンタイトとして残留し、圧縮強度が低下するため、下限を250℃とする。一方で450℃を超えると、再加熱時に未変態オーステナイトにCが濃化しM−Aが生成してしまうため、上限を450℃とする。加速冷却停止温度の測定は、復熱で表層と板厚中央の温度差が小さくなったときに表面を放射温度計で測定することが出来る。
また、鋼板全体の水冷が終了してから10〜120秒の時間の範囲内で測定することが好ましい。
加速冷却停止後の鋼板に再加熱を行うことにより表層組織に生成するM−Aの分解および表層組織の焼戻しにより表層硬さを低減できる。その効果は、冷却停止温度以上かつ500℃以上に加熱しないと現れないため下限を冷却停止温度以上かつ500℃とする。一方で、Ac1点を超える温度まで加熱すると逆変態がおき、圧縮強度が低下するため、上限をAc1点とする。なお、Ac1点は熱膨張試験などにより求めることが好ましいが、以下の式(8)を用いて求めてもよい。
Ac1=750.8−26.6C+17.6Si−11.6Mn−169.4Al−22.9Cu−23Ni+24.1Cr+22.5Mo+232.6Nb−39.7V−5.7Ti−894.7B 式(8)
ここで、各式の右辺の元素記号はそれぞれの含有量(質量%)を表し、含有しない場合は0とする。
加速冷却停止後の鋼板に再加熱を行うことにより管厚中央(すなわち母材である鋼板の板厚中央)に生成するM−Aを分解し、圧縮強度を向上させることができる。その効果は400℃以上に加熱しないと現れないため下限を400℃にする。一方で、550℃を超えて加熱するとセメンタイトが析出、粗大化し、DWTT性能が劣化するため、上限を550℃とする。管厚中央(すなわち母材である鋼板の板厚中央)の温度については、物理的に直接測定することはできないが、鋼板表面の温度変化を基にしたシミュレーション計算を行うことで、リアルタイムに求めることができる。
上述の再加熱を実施することにより表層は管厚中央(すなわち母材である鋼板の板厚中央)、よりも高温に加熱されるが、その際、管厚方向の硬さ分布を規定の範囲内にするためには、表層と管厚中央の到達温度差を40℃以上にする必要がある。40℃未満であると表層の焼戻しが十分でない、もしくは管厚中央が過度に焼戻される、などの現象によってそれぞれ規定の管厚方向硬さ差を満足できない。
室温まで冷却;
本発明の再加熱温度では、その後の冷却過程により鋼板の材質や形状に影響を与えない。そのため、再加熱後の鋼板を室温まで冷却するための冷却手段は、例えば、空冷でよい。放冷してもよいし、また、鋼板に空気を吹き付けて積極的に空冷してもよい。これ以外に、水冷や、その他の手段でもかまわない。
一般に厚肉高強度UOE鋼管は、0.9〜1.2%程度の範囲の拡管率で造管を行う。拡管率は、耐圧潰性を確保する上で重要な因子であり、拡管率を低くするほど圧縮強度が上昇するが、真円度が低下する。一方で、拡管率を高くするほど真円度は高くなるが、圧縮強度は下がり、さらにはダイスによる鋼管の傷つきが問題になる。拡管率を0.5%より小さくしても圧縮強度上昇効果はあまり期待できないので、下限を0.5%とする。一方で、本発明では、管厚および管周方向の硬さを均一化することによって成形性を著しく向上させているため、拡管率が低くても、所望の真円度を得ることができる。真円度は拡管率が1.1%を超えるとそれ以降は拡管率増加による真円度向上効果が飽和するため、上限を1.1%とする。以上、規定した拡管率を0.5〜1.1%の範囲で造管すれば、優れた耐圧潰性能が得られる。また、拡管率を0.5〜1.0%とすることがより好ましい。
2 溶接金属
3 外面溶接の溶接ボンド部のVノッチシャルピー試験片採取位置
3a 内面溶接の溶接ボンド部のVノッチシャルピー試験片採取位置
3b 中央部(t/2)の溶接ボンド部のVノッチシャルピー試験片採取位置
4 シャルピー試験片のノッチ位置
11 母材外表面
12 母材内表面
Claims (7)
- 厚鋼板からなる母材を管状に成形し、その突合せ部を2層以上の溶接によって接合し、拡管した溶接鋼管であって、
質量%で、
C: 0.03〜0.08%
Si: 0.01〜0.20%
Mn: 1.5超、2.5%以下
P: 0.015%以下
Al: 0.001〜0.05%
Nb: 0.005〜0.050%
Ti: 0.005〜0.030%
N: 0.0020〜0.0080%
を含有し、さらに、
Cu: 0.10〜0.50%
Ni: 0.10〜1.00%
Cr: 0.10〜0.40%
Mo: 0.10〜0.30%
V: 0.005〜0.030%
の中から選ばれる1種以上を含有し、
さらに、式(1)で規定されるCeqが0.30≦Ceq≦0.50を満たし、
式(2)で規定されるPMAが5.5以下、
式(3)で規定されるPCPが0.011以下、
残部Feおよび不可避的不純物からなり、
母材表層部の金属組織がフェライト及び上部ベイナイトの混合組織であり、
母材管厚中心部の金属組織がフェライトと上部ベイナイトの混合組織であるか又は上部ベイナイト単相であり、
母材管厚全域で島状マルテンサイト(M−A)の体積分率が2%以下、
管厚方向で同じ位置における管周方向の硬度差の最大値が30以下、
管周方向で同じ位置における管厚方向の硬度差の最大値が30以下である
ことを特徴とする耐圧潰性および溶接熱影響部靱性に優れた高強度ラインパイプ。
Ceq=C+Mn/6+(Cu+Ni)/15+(Cr+Mo+V)/5 式(1)
PMA=100000(C−0.0218)(0.2Si+0.5Al){2(C+Si/30+Mn/20+Cu/20+Ni/60+Cr/20+Mo/15+V/10+5B)+2.5Nb}{10/(50P+2.5)}−2 式(2)
PCP=Nb(25V+0.2)+V/2 式(3)
ここで、各式の右辺の元素記号はそれぞれの含有量(質量%)を表し、含有しない場合は0とする。 - さらに、質量%で、
Ca:0.0005〜0.0100%
Mg: 0.0005〜0.0100%
REM: 0.0005〜0.0200%
Zr: 0.0005〜0.0300%
の内から選ばれる1種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の耐圧潰性および溶接熱影響部靱性に優れた高強度ラインパイプ。 - 前記母材管厚中心部の金属組織が、フェライトと上部ベイナイトとの混合組織である場合には、
それらの組織の硬度の差が150以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の耐圧潰性および溶接熱影響部靱性に優れた高強度ラインパイプ。 - 前記溶接鋼管の突合せ溶接部の溶接熱影響部において、
島状マルテンサイト(M−A)の体積分率が2%以下であり、
平均旧オーステナイト粒径が200μm以下である
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の耐圧潰性および溶接熱影響部靱性に優れたに高強度ラインパイプ。 - 真円度(Dmax−Dmin)が下記の(4)又は(5)式を満たすことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の耐圧潰性および溶接熱影響部靱性に優れた高強度ラインパイプ。
D/t0.6≦135の場合は、真円度(Dmax−Dmin)≦3.0 式(4)
D/t0.6>135の場合は、真円度(Dmax−Dmin)≦0.04D/ t0.6−2.4 式(5)
ここで、D: 公称外径(mm)、t: 管厚(mm)、Dmax−Dmin: 真円度(mm)、Dmax:測定最大外径(mm)、Dmin:測定最小外径(mm)である。 - 鋼素材を、900〜1200℃に加熱後、900℃以下の累積圧下率を30〜90%とし圧延終了温度を(Ar3点−40℃)以上850℃以下とした熱間圧延を行った後、
加速冷却の直前に鋼板表面での噴射流衝突圧が1MPa以上のデスケーリングを行い、
直ちに(Ar3−90℃)以上の温度から表層の冷却速度が200℃/s以下かつ平均の冷却速度が10℃/s以上で冷却停止温度が250℃〜450℃になる加速冷却を行い、
続いて、表層温度が冷却停止温度以上かつ(500℃〜Ac1点)、
管厚中央温度が冷却停止温度以上かつ400〜550℃以下、
表層と管厚中央の到達温度差が40℃以上
となるように再加熱を実施し、
その後、室温まで冷却した後、冷間で管状に成形し、
その突合せ部を溶接し鋼管とした後、さらに0.5〜1.1%の拡管率で拡管を行うことによって製造する
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の耐圧潰性および溶接熱影響部靱性に優れた高強度ラインパイプの製造方法。 - 前記突合せ部の溶接を、2層以上で行い、該溶接の最大溶接入熱量が式(6)を満たすことを特徴とする請求項6に記載の耐圧潰性および溶接熱影響部靱性に優れた高強度ラインパイプの製造方法。
HImax≦0.0376t1.45+2.4 式(6)
ここで、HImax:最大溶接入熱量(kJ/mm)、t: 管厚(mm)である。
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