JP2016108648A - ラインパイプ用鋼板、ラインパイプ用鋼管、およびその製造方法 - Google Patents
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Description
また、本発明は、上記ラインパイプ用鋼板を素材として製造されるラインパイプ用鋼管と、上記ラインパイプ用鋼板およびラインパイプ用鋼管の製造方法に関するものである。
(1)X65級以上とされるような強度の高いラインパイプの素材として用いられる鋼板は、主として、熱間圧延後に加速冷却または直接焼入れを行うことによって製造される。そのため、冷却速度の速い鋼板表面部の硬さが内部よりも高くなり、表面において水素誘起割れが発生しやすくなる。また、加速冷却工程を経て製造された高強度鋼板のミクロ組織は、表面だけでなく内部までベイナイトやアシキュラーフェライトなどの割れ感受性の高い組織となっている。そのため、中心偏析部のHICへの対策を施した場合でも、硫化物系または酸化物系介在物を起点としたHICをなくすことは困難である。
(2)したがって、上記のような高強度鋼板において、十分な耐HIC性を実現するためには、鋼板表面部におけるHICへの対策が不可欠である。
(3)鋼板内部のミクロ組織をベイナイト組織、アシキュラーフェライト組織、およびベイニティックフェライト組織主体とするとともに、鋼板の表層部に、フェライト組織を主体とする層を形成することが、鋼板の強度と耐HIC性を向上させるうえで、極めて効果的である。
(4)所定の成分組成を有する鋼板を熱間圧延した後に、特定の条件で冷却を行うか、特定条件下での熱処理による脱炭を行うことにより、上記の組織を有する鋼板を製造することができる。
(1)ラインパイプ用鋼板であって、
前記鋼板の少なくとも一方の表面に形成された、厚さ10μm以上、2000μm未満の表面層と、
前記鋼板の前記表面層以外の残部である内部層とを有し、
前記内部層が、質量%で、
C :0.02〜0.08%、
Si:0.01〜2.0%、
Mn:0.5〜1.8%、
P :0.01%以下、
S :0.002%以下、
Ti:0.005〜0.040%、
Al:0.01〜0.07%、
残部のFeおよび不可避不純物からなる成分組成を有し、
前記内部層のミクロ組織に占めるベイナイト組織、アシキュラーフェライト組織、およびベイニティックフェライト組織の体積分率の合計が90%以上であり、
前記表面層が、ミクロ組織に占めるフェライト組織の体積分率が80%以上である鋼からなることを特徴とするラインパイプ用鋼板。
Nb:0.005〜0.05%、および
V :0.005〜0.1%の、いずれか一方または両方を、さらに含有することを特徴とする前記(1)に記載のラインパイプ用鋼板。
Cu:0.5%以下、
Ni:0.5%以下、
Cr:0.5%以下、
Mo:0.05〜0.5%、および
Ca:0.0005〜0.005%、からなる群より選択される1種または2種以上を、さらに含有することを特徴とする前記(1)または(2)に記載のラインパイプ用鋼板。
鋼素材を1000〜1300℃に加熱し、
前記加熱された鋼素材を、圧延終了温度:Ar3点+20℃以上、累積圧下率:50%以上の条件で圧延して鋼板とし、
前記鋼板を、冷却開始温度:Ar3点−15℃以上、Ar3点未満、冷却停止温度:350〜600℃、鋼板の平均冷却速度:5〜80℃/sの条件で冷却することを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれか一つに記載のラインパイプ用鋼板の製造方法。
鋼素材を1000〜1300℃に加熱し、
前記加熱された鋼素材を、圧延終了温度:Ar3点+20℃以上、累積圧下率:50%以上の条件で圧延して鋼板とし、
前記鋼板を、冷却開始温度:Ar3点以上の条件で冷却し、
前記鋼板を800℃以上の温度に60秒以上保持する熱処理を行うことを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれか一つに記載のラインパイプ用鋼板の製造方法。
本発明においては、ラインパイプ用鋼板が、鋼板の少なくとも一方の表面に形成された表面層と、前記表面層以外の残部である内部層とを有し、前記表面層のミクロ組織に占めるベイナイト組織、アシキュラーフェライト組織、およびベイニティックフェライト組織の体積分率の合計が90%以上であり、前記内部層のミクロ組織に占めるフェライト組織の体積分率が80%以上であることが重要である。
以下、本発明における内部層と表面層のミクロ組織の限定理由について説明する。
本発明では、鋼板の内部層を、ベイナイト組織、アシキュラーフェライト組織、およびベイニティックフェライト組織の体積分率の合計が90%以上であるミクロ組織とする。ここで、内部層とは、後述する表面層を除いた、母材鋼板全体を指す。内部層の組織を上記のようにすることによって、ラインパイプに求められる十分な強度、じん性、および耐HIC性を得ることができる。
本発明では、鋼板の少なくとも一方の表面に、フェライト組織の体積分率が80%以上である表面層を形成する。これにより、鋼板の耐HIC性を高めることができる。フェライト相は軟質であり、延性に優れている。そのため、鋼板表面にフェライト主体の層を設けることにより、高強度鋼板において問題とされてきた、表層部におけるHICの発生を抑制することができる。また、フェライトには、パーライト、ベイナイト、マルテンサイトなどの硬質相に比べて、転位などの水素トラップサイトが少ない。そのため、本発明における表面層は水素侵入の障壁として機能し、鋼材内部におけるHICの発生を抑制する。
本発明のラインパイプ用鋼板においては、さらに、鋼板の内部層(母材鋼板)が所定の成分組成を有することが重要である。そこで、次に、本発明において鋼の成分組成を上記のように限定する理由を説明する。なお、成分に関する「%」表示は、特に断らない限り「質量%」を意味するものとする。
Cは、Tiなどの元素と析出物を形成することによって、鋼の強度を高める作用を有する元素である。前記効果を得るためには、鋼が0.02%以上のCを含有する必要がある。一方、0.08%を超えるとじん性や耐HIC性が低下する。そのため、本発明ではC含有量を0.02〜0.08%とする。
Siは、製鋼工程における脱酸のために添加される元素である。Si含有量が0.01%未満では十分な脱酸効果を得ることができない。さらに、Siは、熱処理の際に鋼板表面を脱炭し易くする作用を有している。そのため、鋼に適量のSiを含有させることにより、表層にフェライト相を形成し易くなる。しかし、Si含有量が2.0%を超えると、じん性や溶接性が低下する。以上のことから、本発明ではSi含有量を0.01〜2.0%とする。
Mnは、鋼の強度やじん性を向上させる作用を有する元素である。前記効果を得るためには、鋼が0.5%以上のMnを含有する必要がある。一方、Mn含有量が1.8%を超えると、溶接性と耐HIC性が低下する。そのため、本発明ではMn含有量を0.5〜1.8%とする。
Pは、不可避不純物元素であり、溶接性と耐HIC性を劣化させる性質を有している。そのため、本発明ではP含有量を0.01%以下とする。なお、下限については限定されないが、工業的には0%超である。また、過度の低P化は精錬時間の増加やコストの上昇を招くため、0.0005%以上とすることが好ましい。
Sは、HICの起点となる硫化物系介在物を形成する元素である。そのため、耐HIC性向上のためには、S含有量は低いほどよい。しかし、0.002%以下であれば耐HICの低下が問題とならないため、本発明ではS含有量を0.002%以下とする。なお、下限については限定されないが、工業的には0%超である。また、過度の低S化は精錬時間の増加やコストの上昇を招くため、0.0005%以上とすることが好ましい。
Tiは、析出強化元素であり、炭化物を形成することによって鋼の強度を向上させる作用を有している。前記効果を得るためには、鋼が0.005%以上のTiを含有する必要がある。特に、Moが共存する場合には、TiはMoと複合析出物を形成して、鋼の強度向上に大きく寄与する。一方、0.040%を超えると溶接熱影響部のじん性劣化を招く。そのため、本発明ではTi含有量を0.005〜0.040%とする。さらに、Ti含有量を0.02%未満とすることで、鋼のじん性を向上させることができる。そのため、他の析出強化元素であるNbおよび/またはVを併用する場合には、Tiの含有量を低くし、0.005〜0.02%の範囲内とすることが好ましい。
Alは、脱酸剤として添加される元素である。Al含有量が0.01%未満では十分な脱酸効果を得ることができない。一方、Al含有量が0.07%を超えると鋼の清浄度が低下し、耐HIC性が低下する。そのため、本発明ではAl含有量を0.01〜0.07%とする。
Nbは、組織の微細粒化によりじん性を向上させる作用を有する元素である。また、TiやMoと共に複合析出物を形成し、強度向上に寄与する。前記効果を得るためには、鋼板が0.005%以上のNbを含有することが好ましい。一方、Nb含有量が0.05%を超えると、溶接熱影響部のじん性が劣化する。そのため、Nb含有量は0.05%以下であることが好ましい。
Vも、Nbと同様に、TiやMoと共に複合析出物を形成して、鋼の強度を向上させる作用を有する元素である。前記効果を得るためには、鋼板が0.005%以上のVを含有することが好ましい。一方、V含有量が0.1%を超えると、溶接熱影響部のじん性が劣化する。そのため、V含有量は0.1%以下であることが好ましい。
Cuは、じん性の改善と強度の上昇に有効な元素である。しかし、過剰に添加すると溶接性が劣化する。そのため、Cuを添加する場合、その含有量は0.5%以下とすることが好ましい。Cu含有量の下限については特に限定されないが、0.02%以上とすることが好ましい。
Niは、じん性の改善と強度の上昇に有効な元素である。しかし、過剰に添加すると耐HIC性が低下する。そのため、Niを添加する場合、その含有量は0.5%以下とする。Ni含有量の下限については特に限定されないが、0.02%以上とすることが好ましい。
Crは、Mnと同様に低Cでも十分な強度を得るために有効な元素である。しかし、過剰に添加すると溶接性が劣化する。そのため、Crを添加する場合、その含有量は0.5%以下とする。Cr含有量の下限については特に限定されないが、0.02%以上とすることが好ましい。
Moは、熱間圧延後の冷却時におけるパーライト変態を抑制する作用を有する元素である。また、Moは、Tiとの微細な複合析出物を形成して、鋼板の強度を大きく上昇させる。前記効果を得るためには、Moを0.05%以上添加する必要がある。一方、0.5%を超えて添加すると、ベイナイトやマルテンサイトなどの硬化相を形成し、耐HIC特性が劣化する。そのため、Mo添加する場合、その含有量は0.05〜0.5%とする。
Caは、硫化物系介在物の形態を制御して、耐HIC性を向上させる作用を有する元素である。Caを0.0005%以上添加することで、前記効果が得られる。一方、0.005%を超えて添加しても効果が飽和し、むしろ、鋼の清浄度の低下により耐HIC性を劣化させる。そのため、Caを添加する場合、その含有量は0.0005〜0.005%とする。
次に、本発明の鋼板の製造方法について説明する。
本発明のラインパイプ用鋼板は、上記所定の成分組成を有する鋼素材を処理し、その表面に上記表面層を形成することによって製造できる。表面層の形成方法は特に限定されないが、製造効率の点からは、(1)熱間圧延後の冷却条件を制御する方法と、(2)熱間圧延後に熱処理を行って表面を脱炭する方法の、いずれかの方法を用いることが好ましい。以下、前記(1)および(2)の方法について、具体的に説明する。
まず、上記成分組成を有するスラブを製造する。前記スラブは、常法に従って、連続鋳造法で得ることができる。次に、得られたスラブを1000〜1300℃に加熱し、熱間圧延して鋼板を得る。前記熱間圧延は、圧延終了温度がAr3点+20℃以上、累積圧下率が50%以上となるように行う。その後、鋼板表層温度がAr3点−15℃以上、Ar3点未満の温度範囲で、加速冷却を開始する。前記加速冷却は、鋼板の平均冷却速度5〜80℃/sで、鋼板表面温度が350〜600℃となるまで実施する。
熱間圧延を行う際の加熱温度が1000℃未満では、炭化物の固溶が不十分なため、十分な強度が得られない。一方、1300℃を超えて加熱すると鋼板のじん性が低下する。そのため、この製造方法においては、加熱温度を1000〜1300℃まで加熱する。なお、加熱温度は1050℃〜1250℃とすることが好ましい。
熱間圧延の終了温度をAr3点+20℃以上とする。Ar3点とは、冷却時にフェライト変態が始まる温度である。圧延終了温度が低いと、圧延方向に伸展した組織となり、水素の蓄積や割れの伝播が生じやすくなるため、耐HIC性が低下する。特に、圧延終了温度をAr3点以下とした場合には、初析フェライト相が析出し、2相域での圧延となる。そのため、圧延方向に更に進展した組織が形成され、耐HIC性が低下する。したがって、圧延終了温度は、Ar3点+20℃以上とする。
Ar3(℃)=910−310[C]−80[Mn]−20[Cu]−15[Cr]−55[Ni]−80[Mo]・・・(1)
ここで、[M]は質量%単位で表した元素Mの含有量である。
本発明では、上記(1)式で算出した温度を、Ar3点の値と定義する。
熱間圧延工程における累積圧下率は50%以上とする。累積圧下率が50%未満であると、ひずみ付与と、再結晶したオ−ステナイトの細粒化が不充分となる。そのため、最終的に得られるフェライト粒が十分微細化せず、鋼板のじん性や耐HIC性が低くなる。なお、累積圧下率は、60%以上、85%以下とすることが好ましい。
本発明では、鋼板の表層に、延性に富むフェライト相主体の表面層を形成することが重要である。前記表面層を形成するためには、熱間圧延後に行われる加速冷却の開始温度を、フェライトが形成され始めるAr3点未満とする必要がある。冷却開始温度がAr3点よりも低いほど、より多くのフェライトが形成される。しかし、フェライト相が多くなりすぎると十分な強度を得ることができない。そのため、冷却開始温度はAr3点−15℃以上、Ar3点未満とする。これにより、鋼板の表層にフェライト相主体の表面層を形成させ、耐HIC性を向上させることができる。
加速冷却における鋼板の平均の冷却速度は、5〜80℃/sとする。冷却速度を5℃/s以上とすることにより、鋼板内部に十分な量のベイナイト、アシキュラーフェライト、およびベイニティックフェライト組織が形成され、高い強度を得ることができる。しかし、平均冷却速度が80℃/sより高いと、鋼板の表層部と内部と間の硬度差が大きくなってしまうため好ましくない。また、平均冷却速度が高いと表層部における冷却速度がより高くなり、マルテンサイトや島状マルテンサイトなどの硬質相の形成が促進され、耐HIC性を向上させるために必要なフェライト主体の表面層を形成することができない。
加速冷却工程では、目的とする強度を得るために必要な温度まで、上記冷却速度で鋼板が冷却される。加速冷却を終了する温度(冷却停止温度)は、350〜600℃とする。冷却停止温度を600℃以下とすることにより、鋼板内部層にベイナイト、アシキュラーフェライト、およびベイニティックフェライトを十分に生成し、高強度を得ることができる。また、冷却停止温度を350℃以上とすることにより、マルテンサイトや島状マルテンサイトの生成を抑制し、じん性や耐HIC性を向上させることができる。なお、冷却停止温度は、380〜550℃とすることが好ましい。
上記(1)の方法では、熱間圧延後の冷却条件を制御することにより、フェライト主体の表面層が形成される。しかし、加速冷却工程においてフェライト主体の表面層を形成しなかった場合でも、その後、さらに熱処理を行って鋼板表面を脱炭することによってフェライト主体の表面層を形成することができる。その方法は、次の通りである。
(2)の方法では、上記(1)の方法とは異なり、加速冷却完了後の脱炭によってフェライト主体の表面層を形成するため、加速冷却の段階においてフェライト主体の表面層を形成する必要が無い。そのため、冷却開始温度はAr3点以上とする。Ar3点以上の温度から冷却を開始することで、初析フェライトが析出せず、ベイナイト組織、アシキュラーフェライト組織、およびベイニティックフェライト組織のいずれか単相、またはそれらが混在する組織となる。
上記(2)の方法においては、冷却後の鋼板を再度加熱し、800℃以上の温度に保持する熱処理を行う。この熱処理によって、鋼板表層に脱炭層が形成される。脱炭によって鋼板表層のC含有量が低下する結果、表層部のミクロ組織がフェライト主体となる。熱処理時の保持温度が800℃未満であると、十分に脱炭が進行せず、耐HIC性の向上に必要な表面層を形成することができない。一方、保持温度の上限は特に限定されない。保持温度が高いほど脱炭速度が速くなるが、脱炭速度は鋼の成分組成によって異なる。そのため、保持温度は、使用される鋼の成分組成や、保持時間を考慮して適宜調整される。ただし、保持温度が900℃以上になると、オーステナイトの再結晶が生じるため、保持温度は900℃未満とすることが好ましい。
上記熱処理の保持時間は60秒以上とする。保持時間が長いほど脱炭が進行し、C量が十分に少なくなると、最終的にフェライト相が析出する。保持時間が60秒未満であると、保持温度が高くても、脱炭が十分に進行しない。保持時間の上限は特に限定されないが、長くなりすぎると強度低下が著しく、材質制御が困難となるため、3600秒以下とすることが好ましい。上記熱処理の際の雰囲気は特に限定されないが、表層の炭素を酸化して脱炭を十分に促すために大気雰囲気とすることが好ましい。
本発明の鋼板では、上記構成をとることによって優れた耐HIC性を達成している。耐HIC性を評価する方法の一つとして、NACE−TM0284に準拠して行われるHIC試験がある。この試験においては、鋼板から採取された試験片を、試験溶液に浸漬し、所定時間経過後に試験片に生じた割れの有無に基づいて耐HIC性が評価される。前記試験液としては、5.0%のNaClと、0.50%のCH3COOHの水溶液に、H2Sを添加したものなどが用いられる。
試験液中のH2S濃度が2300ppm未満の条件であってもHICが発生する。しかし、そのような鋼であっても、本発明に従って内部層と表面層の組織を制御することによって、やはりHICの発生を著しく抑制することができる。
次に、本発明の鋼管の製造方法について説明する。
本発明では、上述の方法によって得られた鋼板を素材として用いて鋼管を製造する。鋼管の製造は、UOE成形、プレスベンド成形(ベンディングプレスとも称する)などの冷間成形法によって管状に成形した後、突き合わせ部を溶接することにより行うことができる。
使用する鋼の成分組成が、鋼板の機械的特性や耐HIC性に与える影響を評価するため、組成の異なる鋼を素材として使用し、鋼板を製造した。用いた鋼素材の成分組成を表1に示す。連続鋳造法により、前記成分組成を有するスラブを製造し、さらに熱間圧延と加速冷却を行って、最終板厚20mmの鋼板を作製した。ここでは、先に説明した(1)熱間圧延後の冷却条件を制御する方法にしたがって、鋼板の表面にフェライトを主体とする表面層を形成した。製造条件、すなわち、熱間圧延時の加熱温度、圧延終了温度、冷却開始温度、冷却停止温度、及び冷却速度を、表2に示す。なお、内部層の成分組成は、表1に示した鋼素材の成分組成と同一である。得られた鋼板のそれぞれについて、ミクロ組織と各種機械的特性、および耐HIC性を評価した。評価方法は、以下の通りである。
走査型電子顕微鏡(SEM)を使用して鋼板の断面を観察することにより、表面層の厚さを測定した。測定に先だって、鋼板の断面を以下の手順で処理した。(1)耐水研磨紙を用いた研磨(#1200まで)、(2)ダイヤモンドペーストおよびアルミナバフを用いた仕上げ研磨、(3)ナイタールを用いた軽エッチング。表面層厚さの測定は、各試料について5視野ずつ実施した。その結果、表2に示したNo.1〜16の試料について、各視野内における表面層厚さの最大値と最小値が、すべて10から2000μmの範囲であることを確認した。なお、表2には、測定された表面層厚さのうち、最も小さい値を示した。
得られた鋼板の表面層と内部層のそれぞれについて、以下の方法でミクロ組織を評価した。まず、鋼板から組織観察用試験片を採取し、圧延方向に平行な垂直断面(L断面)を研磨した後、ナイタールでエッチングして組織を現出させた。次に、SEMを用いて1000倍で観察し、相の種類を同定した。さらに、組織写真を撮影し、それらを画像解析して、表面層におけるフェライトの体積分率と、内部層におけるベイナイト、アシキュラーフェライト、およびベイニティックフェライトの体積分率を、それぞれ求めた。各体積分率の値は、3視野における平均値とした。
鋼板より、引張方向が圧延方向と直角となるように、ASTM E8規格に準拠した丸棒試験片(Φ6mmを採取した。前記試験片を用いて引張試験を実施し、降伏強度(YS)と引張強さ(TS)を測定した。試験片の標点間距離(GL)は、25mmとした。
鋼板の耐HIC性を、NACE TM0284に準じた方法で試験した。試験には、長さ方向が圧延方向となるように鋼板から採取された試験片を用いた。試験片の寸法は、幅10mm×長さ100mm、厚さ20mmとした。前記試験片を、96時間、25±0.2℃の試験液に浸漬した後、表面を観察し、割れが発生しなかったものを○、割れが発生したものを×とした。前記試験液としては、5.0%NaCl+0.5%CH3COOH水溶液に純度99.99%のH2Sガスを通じてH2Sが飽和した溶液を使用した。溶液のpHは2.9であった。
得られた鋼板に対し、鋼管製造時の条件を模擬した溶接を行い、熱影響部(Heat Affected Zone、HAZ)から採取した試験片におけるじん性を評価した。前記溶接は、突き合わせた2枚の鋼板の合わせ面を、内外面からサブマージアーク溶接法によりシーム溶接して行った。サブマージアーク溶接における内面、外面の平均入熱は9.2kJ/mm、溶接速度は約1000mm/minとした。その後、試験片は、外面および内外面会合部のHAZ部より試験片を採取した。
次に、製造条件と、それによって変化する表面層厚さが、鋼板の機械的特性や耐HIC性に与える影響を評価するため、様々な条件で最終板厚20mmの鋼板を製造した。製造条件と評価結果を表3に示す。それ以外の製造手順や評価方法は、実施例1と同様である。
次に、先に説明した(2)熱間圧延後に熱処理を行って表面を脱炭する方法にしたがって鋼板の表面にフェライトを主体とする表面層を形成した例を示す。すなわち、本実施例においては、スラブを熱間圧延した後、鋼板表層温度がAr3点以上の状態から加速冷却を開始し、冷却終了後、得られた鋼板を再び加熱し、800℃以上の温度に60秒以上保持することによって表層に脱炭層を形成した。具体的な手順は次のとおりである。
Claims (8)
- ラインパイプ用鋼板であって、
前記鋼板の少なくとも一方の表面に形成された、厚さ10μm以上、2000μm未満の表面層と、
前記鋼板の前記表面層以外の残部である内部層とを有し、
前記内部層が、質量%で、
C :0.02〜0.08%、
Si:0.01〜2.0%、
Mn:0.5〜1.8%、
P :0.01%以下、
S :0.002%以下、
Ti:0.005〜0.040%、
Al:0.01〜0.07%、
残部のFeおよび不可避不純物からなる成分組成を有し、
前記内部層のミクロ組織に占めるベイナイト組織、アシキュラーフェライト組織、およびベイニティックフェライト組織の体積分率の合計が90%以上であり、
前記表面層が、ミクロ組織に占めるフェライト組織の体積分率が80%以上である鋼からなることを特徴とするラインパイプ用鋼板。 - 前記内部層が、質量%で、
Nb:0.005〜0.05%、および
V :0.005〜0.1%の、いずれか一方または両方を、さらに含有することを特徴とする請求項1に記載のラインパイプ用鋼板。 - 前記内部層が、質量%で、
Cu:0.5%以下、
Ni:0.5%以下、
Cr:0.5%以下、
Mo:0.05〜0.5%、および
Ca:0.0005〜0.005%、からなる群より選択される1種または2種以上を、さらに含有することを特徴とする請求項1または2に記載のラインパイプ用鋼板。 - 5.0質量%のNaClと0.5質量%のCH3COOHと水からなる水溶液にH2Sガスを飽和させた試験水溶液に、25℃で96時間浸漬させた時にHICが発生しないことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のラインパイプ用鋼板。
- 請求項1〜4のいずれか一項に記載のラインパイプ用鋼板を素材として形成された鋼管。
- ラインパイプ用鋼板の製造方法であって、
鋼素材を1000〜1300℃に加熱し、
前記加熱された鋼素材を、圧延終了温度:Ar3点+20℃以上、累積圧下率:50%以上の条件で圧延して鋼板とし、
前記鋼板を、冷却開始温度:Ar3点−15℃以上、Ar3点未満、冷却停止温度:350〜600℃、鋼板の平均冷却速度:5〜80℃/sの条件で冷却することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のラインパイプ用鋼板の製造方法。 - ラインパイプ用鋼板の製造方法であって、
鋼素材を1000〜1300℃に加熱し、
前記加熱された鋼素材を、圧延終了温度:Ar3点+20℃以上、累積圧下率:50%以上の条件で圧延して鋼板とし、
前記鋼板を、冷却開始温度:Ar3点以上の条件で冷却し、
前記鋼板を800℃以上の温度に60秒以上保持する熱処理を行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のラインパイプ用鋼板の製造方法。 - 請求項1〜4のいずれか一項に記載のラインパイプ用鋼板を素材として使用することを特徴とするラインパイプ用鋼管の製造方法。
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