JP2012220417A - タイヤのシミュレーション方法及びシミュレーション用コンピュータプログラム並びに構造体のシミュレーション方法 - Google Patents

タイヤのシミュレーション方法及びシミュレーション用コンピュータプログラム並びに構造体のシミュレーション方法 Download PDF

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Abstract

【課題】複合材料を有するタイヤ又は構造物のマルチスケールシミュレーションを実行する場合において、マクロモデルの弾性マトリックスを効率的に同定すること。
【解決手段】変形解析の結果から、複数の変形モードにおける応力とひずみとの関係又は力と変位との関係を取得し、応力とひずみとの関係又は力と変位との関係から、マクロ構造物モデルの剛性が最大になるときの第1の弾性マトリックスと、剛性が最小になるときの第2の弾性マトリックスとを求める。そして、第1の弾性マトリックス及び第2の弾性マトリックスを用いて、マクロ構造物モデルの弾性マトリックスを同定するための初期値及び探索範囲を設定し、マクロ構造物モデルを変形させたときにおける応力とひずみとの関係が、応力とひずみとの関係と合うように、マクロ構造物モデルの弾性マトリックスを同定する。
【選択図】図3

Description

本発明は、複合材料を均質材料で表現してシミュレーションする場合の技術に関する。
従来のタイヤは、試作と試験との繰り返しによって開発されていたので、開発効率が悪いという問題点があった。この問題点を解決するために、近年ではコンピュータを用いた数値解析によって、試作品を製造しなくともタイヤの物理的性質、すなわちタイヤの性能を予測することができる手法が提案され、実用化されている。コンピュータを用いた数値解析によってタイヤの性能を予測する場合、タイヤをコンピュータで解析可能な解析モデル化する必要がある。タイヤは、ゴムをカーカスやベルトといった補強コードによって補強した複合材料の構造体である。
タイヤの補強コードのシミュレーションを実行する場合、接地又は転動等によってタイヤが変形したときにおいては、補強コードの変形解析を実行して評価することが望ましい。補強コードの解析モデル化については、例えば、特許文献1に、タイヤコードの二次元モデルを作成し、作成された二次元モデルをタイヤコードの長手方向に展開して3次元形状を作成するタイヤコードの解析モデル作成方法が記載されている。
特開2008−230375号公報
補強コードの性能を解析する場合、補強コードが母材に埋め込まれた複合材料をモデル化したり、補強コードが撚り構造である場合には、これをモデル化して解析したりする必要がある。複合材料をそのままモデル化したり、撚り構造までをモデル化したりすると、モデルの自由度が膨大になり、タイヤの変形解析を実行することは困難である。この問題を解決する手法の一つに、マルチスケールシミュレーションと呼ばれる解析手法によりタイヤ変形時の補強コードを評価する手法がある。この解析手法は、スケールが大きく異なる二つの事象が関連し合っている問題を解析する際に用いられる。
マルチスケールシミュレーションを用いてタイヤの補強コードの性能や特性を解析する場合において、補強コードのマクロモデルに線形の直交異方性材料の使用を仮定した場合には、補強コードの撚り構造をモデル化したミクロモデルの変形解析結果からマクロモデルの弾性マトリックスを同定する必要がある。本発明は、複合材料を有するタイヤ又は構造物のマルチスケールシミュレーションを実行する場合において、マクロモデルの弾性マトリックスを効率的に同定することを目的とする。
本発明は、タイヤの複合材料部分をモデル化したマクロ構造物モデルを用いて、コンピュータによるシミュレーションを実行するにあたり、前記複合材料部分の解析モデルであるミクロ構造物モデルを作成する手順と、前記ミクロ構造物モデルの変形解析を実行する手順と、前記変形解析の結果から、複数の変形モードにおける応力とひずみとの関係又は力と変位との関係を取得する手順と、前記複合材料部分のシミュレーションにおいて前記複合材料部分を変形させる範囲内で、前記応力とひずみとの関係又は前記力と変位との関係から、前記マクロ構造物モデルの剛性が最大になるときの第1の弾性マトリックスと、前記剛性が最小になるときの第2の弾性マトリックスとを求める手順と、前記第1の弾性マトリックス及び前記第2の弾性マトリックスを用いて、前記マクロ構造物モデルの弾性マトリックスを同定するための初期値及び探索範囲を設定する手順と、前記マクロ構造物モデルを変形させたときにおける前記応力とひずみとの関係又は前記力と変位との関係が、前記応力とひずみとの関係又は前記力と変位との関係と合うように、前記マクロ構造物モデルの弾性マトリックスを同定する手順と、を含むことを特徴とするタイヤのシミュレーション方法である。
本発明において、前記第1の弾性マトリックス及び前記第2の弾性マトリックスを求める際には、少なくとも6つの変形モードにおける応力とひずみとの関係を取得することが好ましい。
本発明において、前記第1の弾性マトリックスの各成分と、前記第2の弾性マトリックスの各成分との平均値を、前記マクロ構造物モデルの弾性マトリックスの各成分の初期値とすることが好ましい。
本発明において、前記第1の弾性マトリックスを前記探索範囲の上限とし、前記第2の弾性マトリックスを前記探索範囲の下限とすることが好ましい。
本発明において、前記複合材料部分は、補強材が連続している構造であることが好ましい。
本発明において、前記マクロ構造物モデルと、前記同定によって得られた弾性マトリックスとを用いて、前記複合材料部分の特性をシミュレーションすることが好ましい。
本発明は、前記タイヤのシミュレーション方法をコンピュータに実行させることを特徴とするタイヤのシミュレーション用コンピュータプログラムである。
本発明は、構造物の複合材料部分をモデル化したマクロ構造物モデルを用いて、コンピュータによるシミュレーションを実行するにあたり、前記複合材料部分の解析モデルであるミクロ構造物モデルを作成する手順と、前記ミクロ構造物モデルの変形解析を実行する手順と、前記変形解析の結果から、複数の変形モードにおける応力とひずみとの関係又は力と変位との関係を取得する手順と、前記複合材料部分のシミュレーションにおいて前記複合材料部分を変形させる範囲内で、前記応力とひずみとの関係又は力と変位との関係から、前記マクロ構造物モデルの剛性が最大になるときの第1の弾性マトリックスと、前記剛性が最小になるときの第2の弾性マトリックスとを求める手順と、前記第1の弾性マトリックス及び前記第2の弾性マトリックスを用いて、前記マクロ構造物モデルの弾性マトリックスを同定するための初期値と探索範囲とを設定する手順と、前記マクロ構造物モデルを変形させたときにおける前記応力とひずみとの関係又は前記力と変位との関係が、前記応力とひずみとの関係又は前記力と変位との関係と合うように、前記マクロ構造物モデルの弾性マトリックスを同定する手順と、を含むことを特徴とする構造体のシミュレーション方法である。
本発明は、複合材料を有するタイヤ又は構造物のマルチスケールシミュレーションを実行する場合において、マクロモデルの弾性マトリックスを効率的に同定することができる。
図1は、空気入りタイヤの回転軸を通る子午断面を示す断面図である。 図2は、本実施形態に係るタイヤ又は構造体のシミュレーション構成を示す説明図である。 図3は、本実施形態に係るシミュレーション方法の手順を示すフローチャートである。 図4は、ミクロ構造物モデルの一例を示す斜視図である。 図5は、マクロ構造物モデルの一例を示す斜視図である。 図6は、変形解析の結果得られる反力と変位との関係の一例を示す図である。 図7は、変形解析の結果得られる反力と変位との関係の他の例を示す図である。 図8は、応力を弾性マトリックスとひずみとの関係で表した数式を示す図である。 図9は、応力を弾性マトリックスとひずみとの関係で表した数式を示す図である。 図10は、第1の弾性マトリックスの一例を示す模式図である。 図11は、第2の弾性マトリックスの一例を示す模式図である。 図12は、マクロ構造物モデルの弾性マトリックスを探索する範囲の説明図である。 図13は、弾性マトリックスの探索を開始する際における初期値の概念図である。 図14は、同定されたマクロ構造物モデルの弾性マトリックスを示す概念図である。
以下、本発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の内容によりこの発明が限定されるものではない。また、以下の構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。本発明は、複合材料の部分(複合材料部分)を含む構造物であれば適用できる。このような構造物としては、例えば、タイヤ、ベルト又はホース等の構造物に対して適用できる。以下においては、タイヤのシミュレーションに本発明を適用した例を説明する。以下の説明においては、空気入りタイヤを例とするが、複合材料部分を含むタイヤであれば、種類は問わない。
図1は、空気入りタイヤの回転軸を通る子午断面を示す断面図である。図1に示すように、空気入りタイヤ(以下、必要に応じてタイヤという)1の子午断面には、カーカス2、ベルト3、ベルトカバー4、ビードコア5が現れている。タイヤ1は、母材であるゴムを、強化材であるカーカス2、ベルト3、あるいはベルトカバー4等の補強コードによって補強した複合材料部分を有する構造体である。ここで、カーカス2、ベルト3、ベルトカバー4等の、金属繊維や有機繊維等のコード材料で構成される補強コードの層を、コード層という。
カーカス2は、タイヤ1に空気を充填した際に圧力容器としての役目を果たす強度メンバーであり、その内圧によって荷重を支え、走行中の動的荷重に耐えるようになっている。ベルト3は、キャップトレッド6とカーカス2との間に配置されたゴム引きコードを束ねた補強コードの層である。なお、バイアスタイヤの場合にはブレーカと呼ぶ。ラジアルタイヤにおいて、ベルト3は形状保持及び強度メンバーとして重要な役割を担っている。
ベルト3の接地面G側には、ベルトカバー4が配置されている。ベルトカバー4は、例えば有機繊維材料を層状に配置したものであり、ベルト3の保護層としての役割や、ベルト3の補強層としての役割を持つ。ビードコア5は、内圧によってカーカス2に発生するコード張力を支えているスチールワイヤの束である。ビードコア5は、カーカス2、ベルト3、ベルトカバー4及びトレッドとともに、タイヤ1の強度部材となる。キャップトレッド6の接地面G側には、溝7が形成される。これによって、雨天走行時の排水性を向上させる。また、タイヤ1の側部はサイドウォール8と呼ばれており、ビードコア5とキャップトレッド6との間を接続する。また、キャップトレッド6とサイドウォール8との間はショルダー部Shである。次に、本実施形態に係るタイヤ又は構造体のシミュレーション方法(以下、必要に応じてシミュレーション方法という)を実行する装置について説明する。
図2は、本実施形態に係るタイヤ又は構造体のシミュレーション構成を示す説明図である。図2に示すタイヤ又は構造体のシミュレーション装置(以下、シミュレーション装置という)50は、マルチスケールシミュレーションに用いるミクロ構造物モデルの作成と、マクロ構造物モデルの作成及び弾性マトリックスの同定と、マルチスケールシミュレーションとを実行する。
シミュレーション装置50は、処理部50pと記憶部50mと入出力部50ioとを含む。処理部50pは、ミクロ構造物モデル作成部51と、マクロ構造物モデル作成部52と、解析部53と、弾性マトリックス同定部54と、を含む。これらが本実施形態に係るシミュレーション方法を実行する。また、シミュレーション装置50には、入出力部50ioに入出力装置60が接続されており、これに入力装置61及び表示装置62が接続される。入出力装置60は、入出力部50ioを介してミクロ構造物モデル及びマクロ構造物モデルの作成等に必要な情報を処理部50p又は記憶部50mへ入力する。
ミクロ構造物モデル作成部51は、複合材料部分を有する構造物について、複合材料部分を不均質材料として、前記複合材料部分の解析モデル、すなわち、ミクロ構造物モデルを作成する。解析モデルとは、有限要素法又は有限差分法等の数値解析手法を用いて、解析対象(例えばタイヤその他の構造体)に対して騒音解析、振動解析又は転動解析等を行うために用いるモデルで、コンピュータで解析可能なモデルであり、数学的モデルや数学的離散化モデルを含む。解析モデルは、コンピュータが取り扱うことのできる数値データの集合体である。本実施形態では、作成されたタイヤモデルを用いたシミュレーション等に用いる解析手法として、有限要素法を使用する。解析手法に有限要素法を用いる場合、解析モデルは、解析対象を複数の節点で構成された有限個の要素に分割して作成される。
マクロ構造物モデル作成部52は、ミクロ構造物モデルの対象となった前記複合材料部分について、複合材料を均質材料として、前記複合材料部分の解析モデル、すなわち、マクロ構造物モデルを作成する。解析部53は、ミクロ構造物モデル又はマクロ構造物モデルに対して変形解析等を実行する。弾性マトリックス同定部54は、マクロ構造物モデルの弾性マトリックスを同定する。
記憶部50mには、後述する本実施形態に係るシミュレーション方法の処理手順を含むコンピュータプログラム及び各種のデータ等が格納されている。ここで、記憶部50mは、RAM(Random Access Memory)のような揮発性のメモリ、不揮発性のメモリ、ハードディスク装置、あるいはこれらの組み合わせにより構成することができる。また、処理部50pは、メモリ及びCPU(Central Processing Unit)により構成することができる。
上記コンピュータプログラムは、処理部50pが備えるミクロ構造物モデル作成部51又はマクロ構造物モデル作成部52等へ既に記録されているコンピュータプログラムとの組み合わせによって、本実施形態に係るシミュレーション方法の処理手順を実現できるものであってもよい。また、このシミュレーション装置50は、前記コンピュータプログラムの代わりに専用のハードウェアを用いて、処理部50pが備えるミクロ構造物モデル作成部51と、マクロ構造物モデル作成部52と、解析部53と、弾性マトリックス同定部54との機能を実現するものであってもよい。次に、本実施形態のタイヤ又は構造体のシミュレーション方法(以下、必要に応じてシミュレーション方法という)を説明する。本実施形態に係るシミュレーション方法は、シミュレーション装置50によって実現される。
図3は、本実施形態に係るシミュレーション方法の手順を示すフローチャートである。図4は、ミクロ構造物モデルの一例を示す斜視図である。図5はマクロ構造物モデルの一例を示す斜視図である。本実施形態では、ゴムの母材を撚りワイヤーで強化した複合材料部分(例えば、ベルト又はカーカス等の補強コードが母材であるゴムに埋め込まれた構造物、あるいはタイヤのゴム引きコード等)を対象として、これらのミクロ構造物モデル及びマクロ構造物モデルを作成し、マクロ構造物モデルの弾性マトリックスを同定する。
ステップS101において、シミュレーション装置50のミクロ構造物モデル作成部51は、図4に示すようなミクロ構造物モデル10を作成する。例えば、タイヤは、ベルト又はカーカス等の補強コードが母材であるゴムに埋め込まれている。ミクロ構造物モデル10は、前記補強コードと、前記補強コードが埋め込まれるゴムとを解析モデル化したものである。ミクロ構造物モデル10は、前記補強コードを解析モデル化したコードモデル11と、前記ゴムを解析モデル化した母材モデル12とを含む。例えば、ミクロ構造物モデル作成部51は、コードを複数の節点を有する複数の要素で分割してコードモデル11を作成するとともに、母材を複数の節点を有する複数の要素で分割して母材モデル12を作成し、母材モデル12内にコードモデル11を埋め込むことによってミクロ構造物モデル10を作成する。本実施形態において、コードモデル11は、3本のワイヤーを寄った1×3の撚り構造である。コードモデル11が延在する方向をz方向、z方向と直交する方向をx方向、y方向とする。ミクロ構造物モデル作成部51は、作成したミクロ構造物モデル10の情報(座標情報や材料定数等)をシミュレーション装置50の記憶部50mへ一時的に格納する。
本実施形態では、ミクロ構造物モデル10の作成とともに、シミュレーション装置50のマクロ構造物モデル作成部52は、図5に示すようなマクロ構造物モデル20を作成する。マクロ構造物モデル20は、均質材料の解析モデルである。マクロ構造物モデル20は、例えば、ソリッドモデルである。ソリッドモデルとは、3次元モデリングの一技法により作成されるモデルである。ソリッドとは固体を意味し、ワイヤーフレームモデルやサーフェイスモデルでは表現できない立体の内部構造の表現ができるものである。ソリッドモデルは、立体の面だけでなく、面で囲まれる中身の情報も備える。マクロ構造物モデル20は、直方体形状の解析モデルであり、その長手方向が、ミクロ構造物モデル10が有するコードモデル11の延在する方向に相当する。マクロ構造物モデル作成部52は、作成したマクロ構造物モデル20の情報(座標情報や材料定数等)をシミュレーション装置50の記憶部50mへ一時的に格納する。本実施形態に係るシミュレーション方法は、撚り構造を有する解析対象、すなわち、ミクロ構造物モデル10と同様の挙動を、均質材料の構造物で表現されたマクロ構造物モデル20が示すように、マクロ構造物モデル20の弾性マトリックスを同定する。本実施形態において、マクロ構造物モデル20は、ミクロ構造物モデル10の作成時に作成されるが、マクロ構造物モデル20は、これの弾性マトリックスを求めるときまでに作成されていればよい。
次に、ステップS102へ進み、シミュレーション装置50の解析部53は、ミクロ構造物モデル10の情報を記憶部50mから読み出して、ミクロ構造物モデル10に対して変形解析を実行する。変形解析は、x(又はy)方向1軸伸長、z方向1軸伸長、z方向固定x(又はy)方向1軸伸長、x(又はy)方向固定z方向1軸伸長、xyせん断、xz(又はyz)せん断の6個の変形モードにおいて実行され、反力(力)−変位又は応力−ひずみの関係が取得される。実際の計測が困難な変形モードも存在するので、本実施形態において、変形解析は、コンピュータを用いたシミュレーション、すなわち、シミュレーション装置50が実行する。解析部53は、変形解析の結果を記憶部50mに保存する。変形解析は、予め定めた変位又はひずみの範囲で実行される。どの程度の変位又はひずみの範囲で変形解析を実行するかは、例えば、マクロ構造物モデル20を対象として実行した予備の解析の結果に基づいて設定することができる。
変形解析は、第1の弾性マトリックスを求めるために、2%ひずみのときの変位を境界条件として与えたものと、第2の弾性マトリックスを求めるために、0.1%ひずみのときの変位を境界条件として与えたものとを実行する。表1は、2%ひずみ時における各変形モードにおける各方向の変位を示している。表2は、0.1%ひずみ時における各変形モードにおける各方向の変位を示している。表1、表2中の−は、その方向について、拘束がないことを意味している。表1、表2中の1はx方向、2はy方向、3はz方向を示す。11はx方向の変形、22はy方向の変形、33はz方向の変形、12、21はxy平面内の変形、13、31はxz平面内の変形、23、32はyz平面内の変形を意味する(以下同様)。これらの変位を境界条件として与え、各変形モードで変形解析を実行する。
Figure 2012220417
Figure 2012220417
図6は、変形解析の結果得られる反力と変位との関係の一例を示す図である。図6のAで示す実線は、変形モードがz方向1軸伸長での反力(力)と変位との関係を示している。ステップS102においては、6個の変形モードの変形解析が実行されるので、反力と変位との関係は、他に5個得られる。変形解析が終了したら、ステップS103に進み、シミュレーション装置50の弾性マトリックス同定部54は、記憶部50mから、それぞれの変形モードにおける反力と変位との関係を読み出すことにより取得する。図6の結果から、複合材料は、反力(応力)と変位(ひずみ)とが非線形に変化する関係を有している。
次に、ステップS104に進み、弾性マトリックス同定部54は、第1の弾性マトリックスと第2の弾性マトリックスとを求める。第1の弾性マトリックスは、ミクロ構造物モデル10の剛性が最大となるひずみ(変位)の弾性マトリックスであり、第2の弾性マトリックスは、前記剛性が最小となるひずみ(初期剛性)の弾性マトリックスである。複合材料は、変位(ひずみ)に対する力(応力)の変化が非線形である。このため、マクロ構造物モデル20の弾性マトリックスは、第1の弾性マトリックスと第2の弾性マトリックスとの間にあると考えられるので、本実施形態では、後述するように、両者の間でマクロ構造物モデル20の弾性マトリックスを探索し、同定する。
第1の弾性マトリックスは、ミクロ構造物モデル10の剛性が最大となるひずみ(変位)の弾性マトリックスである。本実施形態では、2%ひずみの場合に、前記剛性が最大になるとする。これは、後述するマルチスケールシミュレーションの対象がタイヤである場合、ひずみは大きくても2%であることから、ひずみが2%の場合の前記剛性を最大値とする。マルチスケールシミュレーションの対象によって、前記剛性が最大となるときのひずみの値は適宜変更される。図6に示す例では、原点と2%ひずみ(図6のC1で示す点線)における座標とを結んだ直線Amaxの傾きが、最大の剛性になる。
第2の弾性マトリックスは、ミクロ構造物モデル10の剛性が最小となるひずみ(変位)の弾性マトリックスである。本実施形態では、0.1%ひずみの場合に、前記剛性が最小になるとする。マルチスケールシミュレーションの対象によって、前記剛性が最小となるときのひずみの値は適宜変更される。図6に示す例では、原点と0.1%ひずみ(図6のC2で示す点線)における座標とを結んだ直線Aminの傾きが、最小の剛性になる。微小なひずみ(本実施形態では0.1%程度)を与えることで、シミュレーションの対象となる複合材料部分の初期の剛性に近い結果を得ることができる。
図7は、変形解析の結果得られる反力と変位との関係の他の例を示す図である。上述した霊は、初期において剛性が最小となる例である。しかし、図7の実線Aに示す反力(力)と変位との関係のように、極値Pmi、Pmaを有する場合がある。この場合、初期(例えば、0.1%ひずみ)が剛性最小とは限らず、また、2%ひずみが剛性最大とは限らない。この場合、剛性が最大、最小となるポイントを使用した弾性マトリックスを、それぞれ第1の弾性マトリックスM1、第2の弾性マトリックスM2とする。原点と結んだ傾き(剛性)が最大となるポイントは、この例ではPmaであり、原点と結んだ傾き(剛性)が最小となるポイントは、この例ではPmiである。第1の弾性マトリックスM1は、原点とPmaとを結んだ直線Amaxの傾きから求められ、第1の弾性マトリックスM1は、原点とPmiとを結んだ直線Aminの傾きから求められる。
実線Aで示す反力(力)と変位との関係は、ミクロ構造物モデル10の変位解析、すなわち、コンピュータを用いたシミュレーションによってデータである。このため、離散的なデータしか存在しない。その結果、剛性が最大又は最小になるポイントPma、Pmiのデータは存在しないことがある。したがって、離散的なデータの中から最大又は最小になるデータを使用することになる。このため、第1の弾性マトリックスM1及び第2の弾性マトリックスM2は、剛性が最大となるポイントPma、最小となるポイントPmiを用いて求めたものに加え、これらに最も近いポイントを用いて求めたものも含まれる。
図8、図9は、応力を弾性マトリックスとひずみとの関係で表した数式を示す図である。図10は、第1の弾性マトリックスの一例を示す模式図である。図11は、第2の弾性マトリックスの一例を示す模式図である。上述した2%ひずみに対応する変形解析によって得られた力(応力S)と変位(ひずみN)とを、例えば、図8に示す数式(1)のN11〜N23と、S11〜S23とに与えて前記数式を解くことにより、弾性マトリックスMsの各成分A〜Iを求める。このようにして、剛性が最大のときの弾性マトリックス、すなわち、第1の弾性マトリックスM1を求める。同様に、0.1%ひずみに対応する変形解析によって得られた力(応力S)と変位(ひずみN)とから、弾性マトリックスMsの各成分A〜Iを求める。このようにして、剛性が最小のときの弾性マトリックス、すなわち、第2の弾性マトリックスM2を求める。
1方向にのみ異方性を有し、その方向に垂直な断面の幅と高さが同じ場合(横等方性)、線形の直交異方性の弾性マトリックスの成分は9個から6個に縮退できるため、6個の変形モードの解析結果から、第1弾性マトリックスM1及び第2弾性マトリックスM2の成分を同定することができる。本実施形態では、マクロ構造物モデル20等の元となった複合材料部分が線形の直交異方性を有することから、x方向の挙動とy方向の挙動は同一とみなすことができる。すると、図8の数式(1)は、図9に示す数式(2)のように書き改められる。このように、前記複合材料部分が線形の直交異方性を有する場合には、弾性マトリックスMは、A〜Fの合計6個の成分を有することになる。数式(2)を展開すると6個の式が得られるが、未知数がA〜Fの6個なので、すべての未知数を求めることができる。なお、異方性の弾性マトリックスの成分は6個以下には縮退できないので、6個よりも少ない変形モードの結果だけでは定まらない第1弾性マトリックスM1及び第2弾性マトリックスM2を求めることができない。
ステップS104において、弾性マトリックス同定部54は、2%ひずみに対応する変形解析によって得られた力(応力S)と変位(ひずみN)とを与えた数式(2)から、図10に示すような第1の弾性マトリックスM1(求める成分は、A1、B1、C1、D1、E1、F1)を求めて、記憶部50mに保存する。また、弾性マトリックス同定部54は、0.1%ひずみに対応する変形解析によって得られた力(応力S)と変位(ひずみN)とを与えた数式(2)から、図11に示すような第2の弾性マトリックスM2(求める成分は、A2、B2、C2、D2、E2、F2)を求めて、記憶部50mに保存する。第1の弾性マトリックスM1及び第2の弾性マトリックスM2が求められたら、ステップS105へ進む。
図12は、マクロ構造物モデルの弾性マトリックスを探索する範囲の説明図である。ステップS105において、弾性マトリックス同定部54は、これから求めようとするマクロ構造物モデル20の弾性マトリックスを探索する範囲(探索範囲)SA及び最初に探索を開始する値(初期値)設定する。本実施形態では、探索の対象とする弾性マトリックスの各成分の値を変化させて、様々な方向の応答を総合的に表現できる弾性マトリックスを求め、これをマクロ構造物モデル20の弾性マトリックスとして同定する。このようにして同定された弾性マトリックスを用いたマクロ構造物モデル20は、ミクロ構造物モデル10の挙動を適切に再現できる。
本実施形態においては、第1の弾性マトリックスM1と第2の弾性マトリックスM2とに基づいて、探索範囲SAが設定される。例えば、第1の弾性マトリックスM1を探索範囲の上限(図12の直線Amaxで示す範囲)とし、第2の弾性マトリックスM2を探索範囲の下限(図12の直線Aminで示す範囲)とする。探索の対象とする弾性マトリックスの各成分は、この範囲で変更されて、複数の変形モード(本実施形態では、ステップS102の変形解析における6個の変形モード)それぞれを最もよく再現できる弾性マトリックスが、マクロ構造物モデル20の弾性マトリックスとして同定される。すなわち、探索の対象とする弾性マトリックスの各成分は、第1の弾性マトリックスM1の対応する各成分が上限となり、第2の弾性マトリックスM2の対応する各成分が下限となる。なお、探索範囲は、第1の弾性マトリックスM1を上限、第2の弾性マトリックスM2を下限とする必要はなく、例えば、第1の弾性マトリックスM1を中心とした所定の範囲に存在する1つの弾性マトリックスを上限とし、第2の弾性マトリックスM2を中心とした所定の範囲にある1つの弾性マトリックスを下限としてもよい。
図13は、弾性マトリックスの探索を開始する際における初期値の概念図である。初期値M0は、探索を開始する時点における弾性マトリックスである。例えば、第1の弾性マトリックスM1の各成分と、第2の弾性マトリックスM2の各成分との平均値を、探索の対象とする弾性マトリックスの初期値M0としてもよい。すなわち、初期値M0の成分A0=(A1+A2)/2、B0=(B1+B2)/2、C0=(C1+C2)/2、D0=(D1+D2)/2、E0=(E1+E2)/2、F0=(F1+F2)/2となる。このようにすると、最適解に比較的近い初期値M0を設定することができるので、マクロ構造物モデル20の弾性マトリックスを効率的に探索することができる。なお、第2の弾性マトリックスM2を初期値M0としてもよいし、第1の弾性マトリックスM1を初期値M0としてもよい。このようにすれば、比較的容易に初期値を設定できる。
弾性マトリックス同定部54は、第1の弾性マトリックスM1と第2の弾性マトリックスM2とに基づいて、探索範囲SA及び初期値M0を設定し、記憶部50mに保存する。その後、ステップS106に進み、弾性マトリックス同定部54は、探索の対象とする弾性マトリックスの各成分を前記探索範囲内で変化させて、マクロ構造物モデル20の弾性マトリックスを同定する。
図14は、同定されたマクロ構造物モデルの弾性マトリックスを示す概念図である。弾性マトリックス同定部54は、例えば、上述した変形解析において得られたミクロ構造物モデル10の反力−変位の関係と、探索の対象とする弾性マトリックスをマクロ構造物モデル20の弾性マトリックスとして変形解析した場合に得られる反力−変位の関係との偏差の自乗和が、6個の変形モードにおいて最小となったときの探索の対象とする弾性マトリックスをマクロ構造物モデル20の弾性マトリックスMdとして同定することができる。また、特定の変形モードに注目し、その変形モードに対して弾性マトリックスを合わせ込んでもよい。例えば、Z方向の応答が一番大きい場合、Z方向における変形モードであるZ方向一軸伸長に着目する。そして、弾性マトリックス同定部54は、Z方向一軸伸長での偏差の自乗和が最も小さくなったときの探索の対象とする弾性マトリックスを、マクロ構造物モデル20の弾性マトリックスMdとして同定してもよい。
弾性マトリックス同定部54は、マクロ構造物モデル20の弾性マトリックスMdを同定したら、記憶部50mに格納する。その後、ステップS107に進み、解析部53は、同定された弾性マトリックスMdを記憶部50mから読み出して、マクロ構造物モデル20に与える。そして、解析部53は、ミクロ構造物モデル10と、同定された弾性マトリックスMdを有するマクロ構造物モデル20とを用いて、シミュレーション(マルチスケールシミュレーション)を実行する。
本実施形態は、第1の弾性マトリックスM1と第2の弾性マトリックスM2とに基づき、探索の対象とする弾性マトリックスの探索範囲及び初期値を定めてから探索する。このようにすることで、マクロ構造物モデル20の弾性マトリックスMdを同定するまでの探索時間を短縮することができる。本実施形態に係るシミュレーション方法は、連続しているミクロ不均質構造を有する複合材料部分がを対象とすることが好ましい。このような構造は、挙動が線形でもなく、強い非線形性を示す場合も少ないので、本実施形態に係るシミュレーション方法が有効である。したがって、本実施形態に係るシミュレーション方法は、このような構造の変形挙動を近似することができる。
例えば、ミクロ構造物モデル10を、1×3のワイヤーが母材に埋め込まれた撚り構造物で、サイズを1.5mm×1.5mm×14.4mmとし、ワイヤーのヤング率Eを150GPa、ポアソン比ν=0.3、母材のヤング率を3MPa、ポアソン比ν=0.49とした。このミクロ構造物モデル10について、変形解析時において、材料モデルとして、Neo−Hookeanモデルを用い、C10=0.504、D=0.04として解析した。このミクロ構造物モデル10と同様の挙動を示す均質材料の構造物のモデル、すなわち、マクロ構造物モデル20の弾性マトリックスを、本実施形態に係るシミュレーション方法で同定したところ、同定に要した探索時間は5分であった。探索範囲を設定しない方法で同定したところ、同定に要した探索時間は20分であった。このように、本実施形態に係るシミュレーション方法は、探索範囲を設定しない方法と比較して同定に要する時間を短縮する効果が認められた。
1 タイヤ(空気入りタイヤ)
2 カーカス
3 ベルト
4 ベルトカバー
5 ビードコア
6 キャップトレッド
7 溝
8 サイドウォール
10 ミクロ構造物モデル
11 コードモデル
12 母材モデル
20 マクロ構造物モデル
50 シミュレーション装置
50m 記憶部
50p 処理部
51 ミクロ構造物モデル作成部
52 マクロ構造物モデル作成部
53 解析部
54 弾性マトリックス同定部

Claims (8)

  1. タイヤの複合材料部分をモデル化したマクロ構造物モデルを用いて、コンピュータによるシミュレーションを実行するにあたり、
    前記複合材料部分の解析モデルであるミクロ構造物モデルを作成する手順と、
    前記ミクロ構造物モデルの変形解析を実行する手順と、
    前記変形解析の結果から、複数の変形モードにおける応力とひずみとの関係又は力と変位との関係を取得する手順と、
    前記複合材料部分のシミュレーションにおいて前記複合材料部分を変形させる範囲内で、前記応力とひずみとの関係又は前記力と変位との関係から、前記マクロ構造物モデルの剛性が最大になるときの第1の弾性マトリックスと、前記剛性が最小になるときの第2の弾性マトリックスとを求める手順と、
    前記第1の弾性マトリックス及び前記第2の弾性マトリックスを用いて、前記マクロ構造物モデルの弾性マトリックスを同定するための初期値及び探索範囲を設定する手順と、
    前記マクロ構造物モデルを変形させたときにおける前記応力とひずみとの関係又は前記力と変位との関係が、前記応力とひずみとの関係又は前記力と変位との関係と合うように、前記マクロ構造物モデルの弾性マトリックスを同定する手順と、
    を含むことを特徴とするタイヤのシミュレーション方法。
  2. 前記第1の弾性マトリックス及び前記第2の弾性マトリックスを求める際には、少なくとも6つの変形モードにおける応力とひずみとの関係を取得する請求項1に記載のタイヤのシミュレーション方法。
  3. 前記第1の弾性マトリックスの各成分と、前記第2の弾性マトリックスの各成分との平均値を、前記マクロ構造物モデルの弾性マトリックスの各成分の初期値とする請求項1又は2に記載のタイヤのシミュレーション方法。
  4. 前記第1の弾性マトリックスを前記探索範囲の上限とし、前記第2の弾性マトリックスを前記探索範囲の下限とする請求項1から3のいずれか1項に記載のタイヤのシミュレーション方法。
  5. 前記複合材料部分は、補強材が連続している構造である請求項1から4のいずれか1項に記載のタイヤのシミュレーション方法。
  6. 前記マクロ構造物モデルと、前記同定によって得られた弾性マトリックスとを用いて、前記複合材料部分の特性をシミュレーションする請求項1から5のいずれか1項に記載のタイヤのシミュレーション方法。
  7. 請求項1から6のいずれか1項に記載のタイヤのシミュレーション方法をコンピュータに実行させることを特徴とするタイヤのシミュレーション用コンピュータプログラム。
  8. 構造物の複合材料部分をモデル化したマクロ構造物モデルを用いて、コンピュータによるシミュレーションを実行するにあたり、
    前記複合材料部分の解析モデルであるミクロ構造物モデルを作成する手順と、
    前記ミクロ構造物モデルの変形解析を実行する手順と、
    前記変形解析の結果から、複数の変形モードにおける応力とひずみとの関係又は力と変位との関係を取得する手順と、
    前記複合材料部分のシミュレーションにおいて前記複合材料部分を変形させる範囲内で、前記応力とひずみとの関係又は前記力と変位との関係から、前記マクロ構造物モデルの剛性が最大になるときの第1の弾性マトリックスと、前記剛性が最小になるときの第2の弾性マトリックスとを求める手順と、
    前記第1の弾性マトリックス及び前記第2の弾性マトリックスを用いて、前記マクロ構造物モデルの弾性マトリックスを同定するための初期値と探索範囲とを設定する手順と、
    前記マクロ構造物モデルを変形させたときにおける前記応力とひずみとの関係又は前記力と変位との関係が、前記応力とひずみとの関係又は前記力と変位との関係と合うように、前記マクロ構造物モデルの弾性マトリックスを同定する手順と、
    を含むことを特徴とする構造体のシミュレーション方法。
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