JP2012214897A - 耐加工肌荒れ性に優れるフェライト系ステンレス鋼板 - Google Patents

耐加工肌荒れ性に優れるフェライト系ステンレス鋼板 Download PDF

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Abstract

【課題】成形性を低下させることなく、成形時に発生する加工肌荒れが生じ難いフェライト系ステンレス鋼板を提供する。
【解決手段】質量%で、C:0.001〜0.01%、Si:0.01〜0.2%、Mn:0.01〜0.3%、P:0.01〜0.04%、S:0.0001〜0.01%、Cr:13〜20%、N:0.001〜0.02%、B:0.0003〜0.005%、Nb:0.01〜0.5%、Al:0.005〜0.10%及びMg:0.0002〜0.005%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなるフェライト系ステンレス鋼板であって、0.2%耐力が230〜300N/mm2かつ均一伸びが18〜22%である中間鋼板に2〜10%の軽冷延を施し、該軽冷延による表面加工硬化量を、前記軽冷延前後のビッカース硬度差で15〜35とする。
【選択図】図3

Description

本発明は、フェライト系ステンレス鋼板に関する。特に、本発明は、絞り加工等の成形後に鋼板表面に生じる加工肌荒れが少ない、耐加工肌荒れ性に優れるフェライト系ステンレス鋼板に関する。
フェライト系ステンレス鋼板は、家電製品、厨房機器、及び電子機器など、幅広い分野で使用されている。しかしながら、オーステナイト系ステンレス鋼板に比べ、絞り加工性などの成形性に劣るため、用途が限定される場合があった。近年、精錬技術の向上により、極低炭素・窒素化が可能となり、更に、Ti及びNbなどの安定化元素の添加をすることで、成形性と耐食性を高めたフェライト系ステンレス鋼板は、広範囲の成形用途へ適用されつつある。
特許文献1には、極低炭素及び極低窒素であり、Tiを含有し、かつ、面内異方性を低減する集合組織を有し、優れた成形性と耐食性とを兼備するフェライト系ステンレス鋼板、及びその製造技術が開示されている。しかしながら、特許文献1に開示されるフェライト系ステンレス鋼板は、深絞りや張出し等の加工性に優れるものの、オ−ステナイト系ステンレス鋼板と比較して、加工後の表面品質が十分でない。
これまで、フェライト系ステンレス鋼板の加工後の表面品質は、鋼板をプレス成形したときに圧延方向に沿って生じる微細な凹凸、いわゆるリジングと呼ばれる現象によって著しく劣化すると理解されてきた。そのため、リジングを抑制する方法については、従来から多くの方法が提案されている。例えば、特許文献2、特許文献3、特許文献4、及び特許文献5には、成分組成を規定してリジングを抑制するフェライト系ステンレス鋼板、及びその製造方法について開示されている。
しかしながら、フェライト系ステンレス鋼板の耐リジング性を改善しても、実際の成形において、オ−ステナイト系ステンレス鋼板と比べて加工肌荒れを生じやすく、加工後の表面品質が低下する場合がある。この原因は、オレンジピールと呼ばれる粗粒による加工肌荒れである。
特許文献6には、成分組成と製造条件を規定して加工肌荒れを改善するフェライト系ステンレス鋼板が開示されている。また、そのフェライト系ステンレス鋼板の成形方法が開示されている。特許文献6に開示される製造方法は、TiとNbの複合添加により鋼の結晶粒細粒化域を拡大することによって加工肌荒れを軽減するものである。しかし、特許文献6に開示される製造方法は、Cr量が16%未満のフェライト系ステンレス鋼板に限定されるものである。したがって、一般的な耐食性を必要とする厨房機器等に使用可能な16%以上のCrを含有するフェライト系ステンレス鋼板には適用されない。
Cr量が16%以上であっても、極低炭素・窒素化した上で、成分組成を規定し、加工肌荒れを改善するフェライト系ステンレス鋼板、及びその製造方法、並びにこのようなフェライト系ステンレス鋼板の成形方法について開示されている文献としては、以下に示す特許文献7〜9が挙げられる。
特許文献7には、鋼の結晶粒径に応じて成形歪み量と結晶粒径の関係式を規定し、成形歪量を制御することにより加工肌荒れを軽減するフェライト系ステンレス鋼板の成形方法が開示されている。
また、特許文献8には、成分組成と析出物を制御し、結晶粒径を20μm以下とするフェライト系ステンレス、及びその製造方法が開示されている。そして、特許文献8には、プレス成形方法の選択により、加工肌荒れを改善することも開示されている。しかしながら、実際の成形において、加工肌荒れを軽減するには、結晶粒径と成形方法を規定するだけでは、肌荒れの軽減効果には限界がある。
特許文献9には、極低炭素及び極低窒素であり、Tiを含有させたフェライト系ステンレス鋼板、及びその製造方法が開示されている。特許文献9に開示されるフェライト系ステンレス鋼板及びその製造方法は、結晶粒径と成形方法の規定を特別なものとすることなく、加工肌荒れを小さくすることができる。しかしながら、広範囲の用途に適用可能なフェライト系ステンレス鋼板とは言い難い。また、生産性・経済性の点からも、特許文献9に開示されるステンレス鋼板及びその製造方法は、加工肌荒れ対策として、簡便なものではない。
この他にも、加工肌荒れについては、従来から種々の検討が行われている。例えば、非特許文献1には、成形肌荒れは、成形真歪み量と被成形材の結晶粒径の両者が大きい程、加工肌荒れが顕著になることが開示されている。
特開2005−163139公報 特開平6−81036公報 特開平8−333639公報 特開平10−280046公報 特開2005−307234公報 特開平7−292417公報 特開2005−139533公報 特開2007−224342公報 特開2010−43321公報
塑性と加工、第27巻、第310号、第1261頁(1986)
本発明は、成形性を低下させることなく、成形時に発生する加工肌荒れが生じ難いフェライト系ステンレス鋼板を提供することを目的とする。
上記課題を解決するため、本発明者らは、被成形材となるフェライト系ステンレス鋼板の絞り加工等の成形前における特性と、成形後における被成形材の加工肌荒れの発生状況との関係を詳細に調査した。
その結果、本発明者らは、次のことを知見した。フェライト系ステンレス鋼片を圧延して得た、0.2%耐力が230〜300N/mm2かつ均一伸びが18〜22%のフェライト系ステンレス鋼材を中間鋼材とする。そして、この中間鋼板に軽冷延を施し、鋼板表面を所定の範囲の硬さに加工硬化させる。この鋼板表面を加工硬化させたフェライト系ステンレス鋼板は、絞り加工等の成形に供された場合、成形性を損なうことなく、優れた耐肌荒れ性を有する。
本発明は、上記の知見に基づきなされたもので、その要旨は、次のとおりである。
(1)質量%で、C:0.001〜0.01%、Si:0.01〜0.2%、Mn:0.01〜0.3%、P:0.01〜0.04%、S:0.0001〜0.01%、Cr:13〜20%、N:0.001〜0.02%、B:0.0003〜0.005%、Nb:0.01〜0.5%、Al:0.005〜0.10%及びMg:0.0002〜0.005%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなるフェライト系ステンレス鋼板であって、0.2%耐力が230〜300N/mm2かつ均一伸びが18〜22%である中間鋼板に2〜10%の軽冷延を施したときの加工硬化量が、前記軽冷延前後のビッカース硬度差で、15〜35であることを特徴とする耐加工肌荒れ性に優れるフェライト系ステンレス鋼板。
(2)更に、質量%で、Ti:0.05〜0.2%、Mo:0.1〜2%、Ni:0.1〜2%、Cu:0.1〜2%及びSn:0.05〜0.5%の1種又は2種以上を含有することを特徴とする上記(1)に記載の耐加工肌荒れ性に優れるフェライト系ステンレス鋼板。
本発明は、成形性を低下させることなく、成形時に発生する加工肌荒れが生じ難く、オーステナイト系ステンレス鋼板を成形した場合に匹敵する表面粗さを有する成形品が得られるフェライト系ステンレス鋼板を提供することができる。
所定の成分組成を有するフェライト系ステンレス鋼板に付与した真歪み量と真歪み付与後の鋼板の表面粗さとの関係を、真歪み付与前に鋼板表面を加工硬化させる軽冷延を行う前後の鋼板表面のビッカース硬度差ΔHvで層別して表した図である。 ビッカース硬度差ΔHvと限界絞り比の関係を、0.2%耐力及び均一伸びで層別して示した図である。 軽冷延における圧下率とビッカース硬度差ΔHvとの関係を示す図である。
まず、上記の知見を得るにあたって行った検討内容について説明する。なお、以下の説明で、成分組成に関する%は、特に断りのない限り、質量%を意味するものとする。
図1は、所定の成分組成を有するフェライト系ステンレス鋼板に付与した真歪み量と真歪み付与後の鋼板の表面粗さとの関係を、真歪み付与前に鋼板表面を加工硬化させる軽冷延を行う前後の鋼板表面のビッカース硬度差ΔHvで層別して表した図である。
供試材として、成分組成が、0.005%C−0.06%Si−0.2%Mn−0.015%P−0.0004%S−18.1%Cr−0.014%N−0.0005%B−0.25%Nb−0.017%Al−0.0010%Mgのフェライト系ステンレス鋼材を用いた。この供試材の結晶粒度GSNは6.7であった。なお、供試材には、軽冷延を施して、鋼板表面をあらかじめ加工硬化させた。表面加工硬化量は、軽冷延前後の鋼板表面のビッカース硬度差ΔHvで評価した。ビッカース硬度差ΔHvは、0、7、15及び40の4水準とした。なお、ビッカース硬度差ΔHvが0とは、軽冷延を行わない場合である。
上記の供試材から、JIS5号B引張試験片を複数採取し、これら試験片の圧延方向に、引張試験機で、種々の量の真歪みを付与した。これらの試験片に付与した種々の真歪み量は、実際の鋼板を絞り加工等の成形をしたときに加わる真歪み量に相当する。
そして、真歪みを付与した後の試験片表面に発生した加工肌荒れを、試験片表面の表面粗さで評価した。表面粗さの評価には最大粗さRzを用いた。最大粗さRzは、JIS B0601に準拠して、2次元粗さ計を用いて測定した。
評価の基準としては、試験片表面の最大粗さRzが5μm以下を良好とした。最大粗さRzが5μmを超えると、外観上美観を損なうからである。また、最大粗さRzが5μmを超えると、美観を回復させるために、成形後に研磨工程が追加される。この研磨工程により、製造工程数が増加する。一般の市場において、この研磨工程を追加しないで美観が問題とならない加工肌荒れは、最大粗さRzが5μm以下である。そして、最大粗さRzが5μm以下であれば、加工肌荒れのレベルは、オーステナイト系ステンレス鋼と同等である。
図1は,同一素材で軽冷延を付与しΔHvと最大粗さRzの関係を明確にした結果である.図から明らかなように、ビッカース硬度差ΔHvを15以上にすることにより、実際の鋼板における絞り加工等で鋼板に付与される真歪み量の範囲内において、加工肌荒れが最大粗さRzで5μm以下となる。
実際の鋼板の成形では、ビッカース硬度差ΔHvが小さいほど、成形性の低下が抑制され素材の成形能が残存する。したがって、図1において、ΔHvが小さいと軽冷延による加工肌荒れの低減効果が小さく、ΔHvが大きいと軽冷延による加工肌荒れの低減効果が大きいことを示している。即ち、ΔHvが7の場合、真歪みが0.115であっても、最大粗さRzが5μmを超える。また、ΔHvが40の場合、加工肌荒れの低減効果は大きいものの、軽冷延による加工硬化が著しく、成形限界が著しく低下する。ΔHvが15の場合は、軽冷延によって鋼板の表面を加工硬化させた場合であっても、成形性が著しく低下することはなく、成形性と加工肌荒れの低減との両立が可能である。なお、ΔHvが40の場合、真歪みが0.14を超える前に試験片に破断が生じたため、真歪み0.14超の場合の最大粗さRzは測定できなかった。△Hvが15の場合、真歪みが0.162を超える前に試験片に破断が生じたため、真歪み0.162以上の場合の最大粗さRzは測定できなかった。
図1には結晶粒度の影響は示されていないが、ビッカース硬度差ΔHvが上記の条件を満たせば、被成形材の結晶粒径が大きい場合(結晶粒度GSNが小さい)においても、加工肌荒れが最大粗さ5μm以下に抑制されていることが確認された。したがって、本発明によれば、被成形材の結晶粒径の大きさに影響されず、ビッカース硬度差ΔHvを制御することにより、加工肌荒れを抑制することが可能である。
図2は、ビッカース硬度差ΔHvと限界絞り比の関係を、0.2%耐力及び均一伸びで層別して示した図である。ここで、0.2%耐力及び均一伸びとは、軽冷延前の中間鋼板を引張試験して得られた結果である。また、限界絞り比とは、軽冷延後の鋼板を絞り加工して得られた結果である。図2において、0.2%耐力が230〜300N/mm2かつ均一伸びが18〜22%である試験片を四角で示した。なお、図2において、0.2%耐力が230〜300N/mm2かつ均一伸びが18〜22%であれば、成分組成が本発明の範囲内のものは、すべて四角で示した。例えば、0.2%耐力が288N/mm2、均一伸びが20%を示した0.005%C−0.06Si−0.2%Mn−0.015%P−0.0004%S−18.1%Cr−0.014%N−0.0005%B−0.25%Nb−0.017%Al−0.0010%Mgの成分組成を有する試験片においては、ビッカース硬度差ΔHvが20で、限界絞り比は2.05であった。また、0.2%耐力が295N/mm2かつ均一伸びが18%を示した0.008%C−0.17Si−0.08%Mn−0.020%P−0.0011%S−16.2%Cr−0.011%N−0.0003%B−0.24%Nb−0.052%Al−0.0003%Mgの成分組成を有する試験片においては、ビッカース硬度差ΔHvが38で35を超えると限界絞り比は1.7まで低下した。即ち、0.2%耐力が230〜300N/mm2かつ均一伸びが18〜22%である中間鋼板を軽冷延し、鋼板表面のビッカース硬度差ΔHvを35以下とした場合、限界絞り比は実用上問題とならない1.8以上となる。実用上問題とならない理由は後述する。
一方、図2において、0.2%耐力が300N/mm2超、又は、均一伸びが18%未満の試験片を三角で示した。なお、これらの試験片は、0.2%耐力が300N/mm2超、又は、均一伸びが18%未満であれば、成分組成にかかわらず、すべて三角で示した。図2から明らかなように、0.2%耐力が300N/mm2超、又は、均一伸びが18%未満の試験片においては、軽冷延による表面硬化で、限界絞り比の低下が顕著になる。例えば、0.2%耐力が301N/mm2かつ均一伸びが17%であり、0.015%C−0.12Si−0.21%Mn−0.030%P−0.0008%S−16.2%Cr−0.012%N−0.0003%B−0.05%Nb−0.020%Al−0.0020%Mgの成分組成を有する試験片では、ビッカース硬度差ΔHvが20であっても限界絞り比は1.7となる。一般用途において、絞り加工等の成形条件は多種多様である。したがって、限界絞り比が1.8未満となると、成形条件の制約が生じる。即ち、限界絞り比が1.8以上であれば実用上問題はない。よって、ビッカース硬度差ΔHvは15〜35の範囲とする。好ましくは、15〜25の範囲である。一般に、0.2%耐力が低く軟質な場合には均一伸びが大きくなり成形の条件範囲は大きくなるが、本発明に記載の方法では、0.2%耐力、均一伸びともに適正な範囲が存在する。本発明成分例のようなC,Nが極微量の場合には0.2%耐力が低くなりやすいが、230N/mm2未満の場合には軽圧延の歪み導入時に局所的な集中が生じ、均一な硬化が得られにくく部分的に肌荒れが大きくなる場合がある。また、0.2%耐力が300N/mm2超える場合には軽圧延時のΔHv制御が難しく、加工硬化による成形性低下の原因となる。同様に、均一伸びにおいても、18%未満では軽圧延後の成形性が著しく低下する。均一伸びが22%を超える場合では、素材の軟化が著しいため、0.2%耐力が230N/mm2未満の場合と同様に均一な硬化が得られ難い。
次に、ビッカース硬度差ΔHvを制御する方法について説明する。プレス成形用の被成形材となる鋼板は、均一な歪みを導入するため、上記の中間鋼板に軽冷延が施して製造される。軽冷延による均一な歪みの導入により、軽冷延後の製品板を絞り加工等の成形に供したときに加工肌荒れが発生することを防止して、成形品歩留を向上させるためである。図3は、軽冷延における圧下率とビッカース硬度差ΔHvとの関係を示す図である。
図3から明らかなように、成分組成が本発明の範囲内であり、0.2%耐力が230〜300N/mm2以下かつ均一伸びが18〜22%である中間鋼板であれば、この中間鋼板に、圧下率が2〜10%の軽冷延を施して鋼板表面を加工硬化させ、軽冷延前後の鋼板表面のビッカース硬度差ΔHvを10〜35の範囲とすることで、限界絞り比2.0における加工肌荒れを最大粗さRzで5μm以下とすることができる。
通常行われる軽冷延は、圧下率が1%以下の調質圧延、もしくは、JIS SUS301Lに代表されるハード材の材質調整用の数10%の圧延である。本発明においては、0.2%耐力が230〜300N/mm2以下かつ均一伸びが18〜22%である中間鋼板を、圧下率2〜10%で軽冷延する必要がある。圧下率が2%未満であると、成形後の鋼板に加工肌荒れが発生する。一方、圧下率が10%を超えると、限界絞り比が低下して、軽冷延後の鋼板の成形性を劣化させる。
次に、本発明の耐加工肌荒れ性に優れるフェライト系ステンレス鋼の成分組成の限定理由について説明する。
Cは、成形性と耐食性を劣化させるため、その含有量は少ないほど良い。したがって、上限を0.01%とする。一方、過度の低減は精錬コストの増加に繋がるため、下限を0.001%とする。更に、製造コストと耐食性を考慮すると、Cは0.002〜0.005%の範囲とすることが好ましい。
Siは、脱酸元素として添加される。しかし、固溶強化元素であるため、0.2%耐力の低下の観点から、Siの含有量は少ないほど良い。したがって、上限を0.2%とする。一方、過度の低減は精錬コストの増加に繋がるため、下限を0.01%とする。更に、製造コストと耐食性を考慮すると、Siは0.05〜0.15%の範囲とすることが好ましい。
Mnは、Si同様、固溶強化元素であるため、0.2%耐力の低下の観点から、Mnの含有量は少ないほど良い。したがって、上限を0.3%とする。一方、過度の低減は精錬コストの増加に繋がるため、下限を0.01%とする。更に、製造コストと耐食性を考慮すると、Mnは0.01〜0.15%の範囲とすることが好ましい。
Pは、Mn及びSi同様、固溶強化元素であるため、均一伸びの観点から、Pの含有量は少ないほど良い。したがって、上限を0.04%とする。一方、過度の低減は精錬コストの増加に繋がるため、下限を0.01%とする。更に、製造コストと耐食性を考慮すると、Pは0.015〜0.025%の範囲とすることが好ましい。
Sは、Ti添加鋼の場合、Ti、CとでTi422を形成し、Cを固定する作用を有する。Ti422は高温で析出する粗大析出物であるため,再結晶、粒成長挙動への影響は少ないが、多量に析出すると発銹の基点となるため耐食性が劣化する。よって、上限を0.01%とする。一方、過度の低減は精錬コストの増加に繋がるため、下限を0.0001%とする。更に、製造コストと耐食性を考慮すると、Sは0.002〜0.006%の範囲とすることが好ましい。また、Tiを添加しないフェライト系ステンレス鋼の場合であっても、Tiは脱酸に用いられるので不可避的に混入する。この不可避的に混入したTiに対しても、Sは上記の作用、効果を発揮する。
Crは、耐食性の向上のために13%以上の添加が必要である。一方、20%超の添加は靱性を劣化させ製造性が悪くなる。また、0.2%耐力も上昇する。よって、Crは13〜20%の範囲とする。更に、耐食性と成形性を考慮すると、Crは14〜17%の範囲とすることが好ましい。
Nは、Cと同様に成形性と耐食性を劣化させるため、Nの含有量は少ないほど良い。したがって、上限を0.02%とする。一方、過度の低下は熱処理時にフェライト粒の粒成長をピンニングするNbCNが析出せず、再結晶組織が粗粒化する。そして、製品板に絞り成形等の成形を施したときに加工肌荒れを生じさせ、成形品の最大粗さRzを上昇させる懸念がある。また,Nが過剰に添加された場合、固溶Nにより伸びの低下をもたらす。したがって、下限を0.001%とする。更に、製造コストと耐食性を考慮すると、Nは0.004〜0.015%の範囲とすることが好ましい。
Bは、2次成形性を向上させる元素である。低C、N含有量のフェライト系ステンレス鋼では粒界の強度が低下し、2次成形の際に粒界割れが生じやすくなる。Bを0.0003%以上添加することで、この粒界割れを防止できる。一方、過度の添加は、伸びの低下をもたらす。したがって、Bは0.0003〜0.005%の範囲とする。更に、耐食性と精錬コストを考慮すると、Bは0.0005〜0.002%の範囲とすることが好ましい。
Nbは、成形性と耐食性を向上させる元素である。成形性と耐食性は、Nbを0.01%以上添加することにより向上する。一方、過度の添加は表面疵や光沢ムラなどの不具合や、延性の低下をもたらす。したがって、Nbは0.01〜0.5%の範囲とする。更に、製造性や延性を考慮すると、Nbは0.1〜0.3%の範囲とすることが好ましい。
Alは、脱酸元素として添加される。しかし、過度の添加は成形性、溶接性及び表面品質の劣化をもたらす。したがって、Alは0.005〜0.1%の範囲とする。更に、精錬コストを考慮すると、Alは0.01〜0.07%の範囲とすることが好ましい。
Mgは、溶鋼中でAlとともにMg酸化物を形成し脱酸剤として作用する。また、Mgは、TiNの晶出核として作用する。TiNは凝固過程においてフェライト相の凝固核となり、TiNの晶出を促進させることで、凝固時にフェライト相を微細生成させることができる。凝固組織を微細化させることにより、製品のリジングやローピングなどの粗大凝固組織に起因した表面欠陥を防止できるほか、成形性の向上をもたらす。TiNの晶出核となるMg酸化物の溶鋼中での積極的な形成は、Mgが0.0002%から発現する。一方、0.005%を超えると溶接性が劣化する。したがって、Mgは0.0002〜0.005%の範囲とする。更に、精錬コストを考慮すると、Mgは0.0003〜0.002%の範囲とすることが好ましい。また、Tiを添加しないフェライト系ステンレス鋼の場合であっても、Tiは脱酸に用いられるので不可避的に混入する。この不可避的に混入したTiに対しても、Mgは上記の作用、効果を発揮する。
本発明は、以上のような成分組成を有し、残部をFe及び不可避的不純物よりなる鋼板を基本とするが、必要に応じて以下の元素を含有させることができる。
Tiは、C、N及びSの少なくとも1種と結合して耐食性、耐粒界腐食性及び深絞り性を向上させる。深絞り性の向上は、再結晶集合組織の発達に起因する。したがって、Ti添加によりTiC、Ti422及びTiNが析出し、粒界が純化することで、再結晶焼鈍時に{111}面強度が強く発達する。これにより、深絞り性の指標であるr値が著しく向上する。しかしながら、Tiは固溶強化元素であるため、過度の添加は固溶Tiの増加に繋がり、張り出し性の指標である伸びの低下を招く。したがって、Tiは0.05〜0.3%の範囲とすることが好ましい。更に、精錬コストと溶接部の粒界腐食性を考慮すると、Tiは0.1〜0.2%の範囲とすることがより好ましい。
Mo、Ni及びCuは耐食性を向上させる元素であり、耐食性が要求される用途では1種又は2種以上を添加する.Mo、Ni及びCuは、それぞれ、0.1%以上添加することにより耐食性向上の効果が発現する。一方、過度の添加は成形性、特に延性の劣化をもたらす。したがって、Mo、Ni及びCuは、それぞれ、0.1〜2%の範囲とすることが好ましい。更に、製造性や強度などを考慮すると、Mo、Ni及びCuは、それぞれ、0.5〜1.5%の範囲とすることがより好ましい。
Snは、耐食性を向上させる元素である。しかし、固溶強化元素でもある。したがって、0.2%耐力低下の観点から、Snの上限は0.5%とする。一方、耐食性を向上させる効果は、Snを0.05%以上添加することによって発揮される。したがって、Snは0.05〜0.5%の範囲とすることが好ましい。より好ましくは、0.1〜0.3%の範囲である。
次に、本発明を実施例でさらに説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
表1に示す成分組成のフェライト系ステンレス鋼を溶製、鋳造した。その後、熱間圧延して、5.0mm厚の熱延板とした。その後、熱延板連続焼鈍を施し、酸洗した後、0.8mm厚まで冷間圧延し、連続焼鈍及び酸洗して中間鋼板とした。この中間鋼板に種々の圧下率で軽冷延を施して製品板とした。軽冷延による各実施例の硬化量、即ちビッカース硬度差ΔHvは、軽冷延工程における圧下率で制御した。
Figure 2012214897
このようにして得られた製品板に伸び率15%加工を施した後、ミツヨト製SV3000CNC3次元粗さ計(触針径:2μm)を用い、JIS B0601 2001に準拠し、高さ倍率2000倍として圧延方向に対して90°方向の最大粗さRzを3回実施し平均値を求めた。
中間鋼板の0.2%耐力及び均一伸びを測定のための引張試験は、圧延方向に対して0°方向から採取したJIS13号B試験片を用い、JISに準拠した条件で2回測定し平均値を求めた。
限界絞り比の測定は、エリクセン社製142/40型薄板成形試験機を用い、パンチ径40mm、ダイ径42mmの金型を用い、試験片径を72〜90mmまで2mmピッチ(絞り比:試験片径/パンチ径)の円筒深絞りを実施し、絞り抜けた最大の絞り比とした。なお、成形条件は、クッション圧を1tf(9.8kN)、潤滑剤をワックス成分を含有する高成形性潤滑剤(JW#122ワックス)とした。
結果を表2に示す。
Figure 2012214897
表2から明らかなように、本発明の範囲内の成分組成を有する本発明鋼から得られた230〜300N/mm2の0.2%耐力かつ18〜22%の均一伸びの中間鋼板に対して、2〜10%の軽冷延を施して鋼板の表面を加工硬化し、ビッカース硬度差ΔHvを15〜35の範囲とした本発明例は、最大粗さRzが5μm以下であり、耐加工肌あれ性に優れることを確認できた。また、本発明例は、限界絞り比が1.8以上であることから、絞り加工等の成形用鋼板として、十分な成形性を有することを確認できた。
これに対し、比較例は、最大粗さRzが5μm超で加工肌荒れが発生していることを確認できた。あるいは、比較例は、最大粗さRzが5μm以下で加工肌荒れは発生していなくても、限界絞り値が1.8未満であり、絞り加工等の成形用鋼板として、十分な成形性を有していないことを確認できた。
具体的には、No.2及びNo.10は、成分組成と中間鋼板の0.2%耐力及び均一伸びが本発明の範囲を満足していても、軽冷延の圧下率が大きく、ビッカース硬度差ΔHvで示される加工硬化量が大きいため、加工肌荒れは小さいものの、限界絞り比が1.7と小さい。No.6及びNo.13は、軽冷圧の圧下率が小さいことから、ビッカース硬度差ΔHvも小さく、結晶粒の影響を反映し、加工肌荒れが大きい。
本発明の成分組成の範囲外であるNo.18〜No.39は、最大粗さRzが5μmよりも大きく加工肌荒れが発生しているか、最大粗さRzが5μm以下で加工肌荒れは発生していなくても限界絞り比が1.8未満であった。即ち、成分組成が本発明の範囲外であると、中間鋼板の0.2%耐力及び均一伸びが適正範囲とならない場合がある。あるいは、成分組成が本発明の範囲外であると、中間鋼板の0.2%耐力及び均一伸びが適正範囲となり、かつ、軽冷延の圧下率が適正でビッカース硬度差ΔHvが15〜35を満足していても、最大粗さRzが5μm超となるか、限界絞り比が1.8未満となることを確認できた。
なお、上述したところは、本発明の実施形態を例示したものにすぎず、本発明は、特許請求の範囲において種々変更を加えることができる。
例えば、軽冷延は、調質圧延機及び冷間圧延機等を適宜選択して行えばよい。また、冷間圧延においては、圧下率、ロール粗度、圧延油、圧延パス数、及び圧延速度などは適宜選択すればよい。そして、軽冷延前の焼鈍は、必要であれば水素ガスあるいは窒素ガスなどの無酸化雰囲気で焼鈍する光輝焼鈍でもよいし、大気中での焼鈍でもよい。
また、本発明の耐肌荒れ性に優れるフェライト系ステンレス鋼板に適用される成形は、絞り加工に限られず、鋼板に真歪みが加わるものであれば、いずれにも適用される。例えば、曲げ加工などがある。
本発明によれば、成形後の耐肌荒れ性に優れたフェライト系ステンレス鋼板を、特別な新規設備を用いることなく、安価で効率的に提供することができる。本発明は、産業上、利用価値の高いものである。

Claims (2)

  1. 質量%で、
    C:0.001〜0.01%、
    Si:0.01〜0.2%、
    Mn:0.01〜0.3%、
    P:0.01〜0.04%、
    S:0.0001〜0.01%、
    Cr:13〜20%、
    N:0.001〜0.02%、
    B:0.0003〜0.005%、
    Nb:0.01〜0.5%、
    Al:0.005〜0.10%及び
    Mg:0.0002〜0.005%
    を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなるフェライト系ステンレス鋼板であって、0.2%耐力が230〜300N/mm2かつ均一伸びが18〜22%である中間鋼板に2〜10%の軽冷延を施したときの表面加工硬化量が、前記軽冷延前後のビッカース硬度差で、15〜35であることを特徴とする耐加工肌荒れ性に優れるフェライト系ステンレス鋼板。
  2. 更に、質量%で、
    Ti:0.05〜0.2%、
    Mo:0.1〜2%、
    Ni:0.1〜2%、
    Cu:0.1〜2%及び
    Sn:0.05〜0.5%の1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の耐加工肌荒れ性に優れるフェライト系ステンレス鋼板。
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