以下、本発明を実施するための形態を図1〜図9に基づいて詳細に説明する。
本発明の実施形態に係るブレーキ装置1は、図1に示すように、車両を駆動するための電動モータ111によって回生制動力を発生させる回生制動装置110と、電動倍力装置100と、該電動倍力装置100からの液圧が伝達されるタンデム型のマスタシリンダ2と、該マスタシリンダ2からの液圧が伝達され各車輪に制動力を付与するブレーキキャリパ71とを備えている。
回生制動装置110は、図1に示すように、回生システムコントローラ112のECU113からの回生ブレーキトルク指令(以下、回生トルク指令という)が車両駆動用の電動モータ111に出力されて各車輪に回生制動力を発生させるものである。
図2に示すように、マスタシリンダ2は、略有底円筒状のシリンダ本体2Aを含み、その開口部側が、電動倍力装置100を組み込むハウジング4の前部にスタッドボルト6A及びナット6Bによって結合されている。マスタシリンダ2にはリザーバ5が接続されている。また、電動倍力装置100のハウジング4の後部には平坦な取付座面7が形成され、該取付座面7からマスタシリンダ2と同心の円筒状の円筒部8が突出している。そして、本ブレーキ装置1は、車両のエンジンルーム内に配置され、電動倍力装置100の円筒部8をエンジンルームと車室との隔壁Wに貫通させて車室内に延ばし、取付座面7を隔壁Wに当接させて取付座面7に設けられたスタッドボルト9を用いて固定される。
電動倍力装置100は、ブレーキペダルBの操作により進退移動する入力部材である入力ロッド34と、該入力ロッド34に対して相対移動可能に配置されるアシスト部材であるプライマリピストン10と、該プライマリピストン10を進退移動させる電動アクチュエータである電動モータ40及びボールネジ機構41とを備えている。
マスタシリンダ2のシリンダ本体2A内には、開口側に、先端部がカップ状に形成される円筒状のプライマリピストン10が嵌装され、底部側にカップ状のセカンダリピストン11が嵌装されている。プライマリピストン10の後端部は、マスタシリンダ2の開口部から電動倍力装置100のハウジング4内に突出して円筒部8付近まで延びている。プライマリピストン10及びセカンダリピストン11は、シリンダ本体2Aのシリンダボア12内に嵌合されたスリーブ13の両端側に配置された環状のガイド部材14、15によって摺動可能に案内されている。マスタシリンダ2のシリンダ本体2A内は、プライマリピストン10及びセカンダリピストン11によってプライマリ室16及びセカンダリ室17の2つの圧力室が形成されている。これらプライマリ室16及びセカンダリ室17には、液圧ポート18、19がそれぞれ設けられている。液圧ポート18、19は、2系統の液圧回路からなる液圧制御装置70を介して各車輪のブレーキキャリパ71に接続されている。
ブレーキキャリパ71は、図1も参照して、液圧制御装置70からキャリパ本体76にブレーキ液が供給されることにより一対のブレーキパッド75、75がディスクロータ77を押圧することで制動力が発生して車輪を制動するものである。
図2に示すように、マスタシリンダ2のシリンダ本体2Aの側壁の上部側には、プライマリ室16及びセカンダリ室17をリザーバ5に接続するためのリザーバポート20、21が設けられている。シリンダ本体2Aのシリンダボア12と、プライマリピストン10及びセカンダリピストン11との間は、それぞれ2つのシール部材22A、22B及び23A、23Bによってシールされている。シール部材22A、22Bは、軸方向に沿ってリザーバポート20を挟むように配置されている。これらのうちシール部材22Aにより、プライマリピストン10が図2に示す非制動位置にあるときに、プライマリ室16がプライマリピストン10の側壁に設けられたポート24を介してリザーバポート20に連通する。プライマリピストン10が非制動位置から前進したとき、シール部材22Aによってプライマリ室16がリザーバポート20から遮断される。同様に、シール部材23A、23Bは、軸方向に沿ってリザーバポート21を挟むように配置されている。これらのうちシール部材23Aにより、セカンダリピストン11が図2に示す非制動位置にあるとき、セカンダリ室17がセカンダリピストン11の側壁に設けられたポート25を介してリザーバポート21に連通する。セカンダリピストン11が非制動位置から前進したとき、シール部材23Aによってセカンダリ室17がリザーバポート21から遮断される。
マスタシリンダ2のシリンダ本体2A内において、プライマリ室16内のプライマリピストン10とセカンダリピストン11との間には、バネアセンブリ26が介装されている。また、セカンダリ室17内のマスタシリンダ2の底部とセカンダリピストン11との間には、圧縮コイルバネである戻しバネ27が介装されている。バネアセンブリ26は、圧縮コイルバネである戻しばね28を伸縮可能な円筒状のリテーナ29によって所定の圧縮状態で保持し、そのバネ力に抗して圧縮可能としたものである。
プライマリピストン10は、カップ状の先端部と、円筒状の後部と、内部を軸方向に仕切る中間壁30とを備え、中間壁30には、案内ボア31が軸方向に沿って貫通されている。案内ボア31には、入力部材である段部32Aを有する段付形状の入力ピストン32の小径先端部が摺動可能かつ液密的に挿入されており、入力ピストン32の先端部は、プライマリ室16内に挿入されている。
入力ピストン32の後端部には、ハウジング4の円筒部8及びプライマリピストン10の後部に挿入された入力ロッド34の先端部が連結されている。入力ロッド34の後端側は、円筒部8から外部に延出され、その端部には、ブレーキ指示を出すために操作されるブレーキペダルBが連結される。プライマリピストン10の後端部には、フランジ状のバネ受35が取付けられている。プライマリピストン10は、ハウジング4の前壁側とバネ受35との間に介装された圧縮コイルバネである戻しバネ36によって後退方向に付勢されている。入力ピストン32は、プライマリピストン10の中間壁30との間及びバネ受35との間にそれぞれ介装されたバネ部材であるバネ37、38によって、図2に示す中立位置に弾性的に保持されている。入力ロッド34の後退位置は、ハウジング4の円筒部8の後端部に設けられたストッパ39によって規定されている。
電動倍力装置100のハウジング4内には、電動アクチュエータである電動モータ40及び該電動モータ40の回転を直線運動に変換してプライマリピストン10にアシスト推力を付与するボールネジ機構41が設けられている。
電動モータ40は、ハウジング4に固定されたステータ42と、ステータ42に対向させてベアリング43、44によってハウジング4に回転可能に支持された中空のロータ45とを備えている。ボールネジ機構41は、電動モータ40のロータ45の内周部に固定されたナット部材46と、ナット部材46及びハウジング4の円筒部8内に挿入されて軸方向に沿って移動可能で、かつ、軸回りに回転しないように支持された中空のネジ軸47と、これらの対向面に形成されたネジ溝間に装填された複数のボール48とを備えている。ボールネジ機構41は、ナット部材46の回転により、ネジ溝に沿ってボール48が転動することにより、ネジ軸47が軸方向に移動するようになっている。なお、ボールネジ機構41は、ナット部材46とネジ軸47との間で、回転及び直線運動を相互に変換可能となっている。
なお、電動モータ40とボールネジ機構41との間に、遊星歯車機構、差動減速機構等の公知の減速機構を介装して、電動モータ40の回転を減速してボールネジ機構41に伝達するようにしてもよい。
ボールネジ機構41のネジ軸47は、ハウジング4の前壁側との間に介装された圧縮テーパコイルバネである戻しバネ49によって後退方向に付勢され、ハウジング4の円筒部8に設けられたストッパ39によって後退位置が規制されている。ネジ軸47内には、プライマリピストン10の後端部が挿入され、ネジ軸47の内周部に形成された段部50にバネ受35が当接してプライマリピストン10の後退位置が規制されている。これにより、プライマリピストン10は、電動モータ40の駆動によりネジ軸47と共に前進し、また、段部50から離間して単独で前進することができ、プライマリピストン10に付与されるアシスト推力によりマスタシリンダ2内に倍力されたブレーキ液圧を発生させることが可能になる。なお、図2に示すように、ストッパ39に当接したネジ軸47の段部50によってプライマリピストン10の後退位置が規定され、後退位置にあるプライマリピストン10及びバネアセンブリ26の最大長によって、セカンダリピストン11の後退位置が規定されている。
ブレーキ装置1には、ブレーキペダルBや、入力ピストン32、入力ロッド34の変位を検出するためのストロークセンサ78(図1に示す)、電動モータ40のロータ45の回転位置を検出する回転位置センサ60(図1及び2に示し、ロータ45に連結されたプライマリピストン10の位置を検出するためのセンサ)、プライマリ室16及びセカンダリ室17の液圧を検出する液圧センサ72(図2に示す)、電動モータ40の通電電流を検出する電流センサ79(図1に示す)及びこれらを含む各種センサが設けられている。
そして、図2に示すように、電動倍力装置100のハウジング4の上部に、ECU80及びRAM81(図1参照)等を含むマイクロプロセッサベースの電子制御装置であるコントローラCが取り付けられており、該コントローラCにおいて、上述の各種センサからの検出信号に基づき、電動モータ40の回転を制御する。これにより、本ブレーキ装置1では、一定倍力制御、可変倍力制御、ジャンプイン制御、ブレーキアシスト制御、ビルドアップ制御、減倍力制御及び回生協調制御等が行えるようになっている。なお、回生制動装置110の回生システムコントローラ112及び電動倍力装置100のコントローラCが、回生協調制御時に、ドライバからの制動トルク指令に基づき適切な回生トルク指令及び液圧トルク指令を算出すると共に、電動モータ40からの液圧ブレーキトルク及び電動モータ111からの回生ブレーキトルクにより各車輪に制動力を発生させる回生液圧制御手段に相当するものである。
次に、本実施形態に係るブレーキ装置1の回生協調制御を図3の制御フローに基づいて詳細に説明する。電動倍力装置100のコントローラCに、ストロークセンサ78からの出力によりブレーキペダルBの操作量として入力ピストン32の位置が入力される。この入力により、ステップS1において、コントローラCにてブレーキペダルBの操作量に応じて決定される、プライマリピストン10の暫定目標位置の算出処理が行われ、該プライマリピストン10の暫定目標位置が算出される。ここで、プライマリピストン10の暫定目標位置とは、制動力が全て液圧ブレーキトルクにより実現される場合のプライマリピストン10の目標位置のことである。そして、プライマリピストン10の暫定目標位置の算出方法としては、コントローラCのRAM80に予め記憶した入力ピストン32の位置とプライマリピストン10の動作量との関係の特性マップや入力ピストン32の位置に基づいた数式を利用して算出する。
ステップS2において、プライマリピストン10の暫定目標位置がピストン液量算出処理に入力されて、該プライマリピストン10からのピストン目標液量が算出される。この処理では、プライマリピストン10の位置をコントローラCのRAM80にて保存されている変換係数に基づいてピストン液量に変換している。一方、ステップS3では、ストロークセンサ78からの出力による入力ピストン32の位置に基づいて入力ピストン32からのピストン液量が算出される。この処理では、入力ピストン32の位置をコントローラCのRAM80にて保存されている変換係数に基づいてピストン液量に変換している。
ステップS4では、プライマリピストン10からのピストン目標液量と入力ピストン32からのピストン液量とを加算した値が、コントローラCの液圧算出処理へ入力されて目標液圧が算出される。この処理では、前記加算された液量をコントローラCのRAM80に保存されている液量−液圧テーブル情報に基づいて目標液圧に変換する。ステップS5では、ステップS4で算出された目標液圧が、コントローラCの制動トルク算出処理に入力されて制動トルク指令が算出される。この処理では、目標液圧をコントローラCのRAM80に保存されている変換係数に基づいて制動トルク指令に変換する。
ステップS6では、ステップS5に算出された制動トルク指令が回生協調ロジックに入力され、該回生協調ロジックにおいて、制動トルク指令が回生トルク指令と液圧ブレーキトルク指令(以下、液圧トルク指令という)とに分けられて算出される。なお、制動トルク指令から回生トルク指令と液圧トルク指令とに分けてそれぞれ算出する方法は、車両状態(バッテリ充電可能量、発生可能な最大回生制動力)によって回生システムコントローラ112により回生トルク指令を決定し、制動トルク指令に対して不足している分を液圧トルク指令として設定する。
そこで、回生トルク指令の算出方法は後で詳述するが、回生トルク指令は図4または図7に記載されているような回生トルクリミット線図が回生システム用コントローラ112のECU113(図1参照)から出力されて、車両速度に応じた最大の回生トルク指令が算出されるようになっている。なお、回生トルクリミット線図は、車両諸元や車両駆動モータシステムの諸元、車両駆動モータのバッテリの充電量等によって変化するようになっている。そして、回生トルク指令は、回生制御システム用コントローラ112から車両駆動用の電動モータ111に出力されて回生制動力を発生させる。
ステップS7では、ステップS6にて算出された液圧トルク指令がコントローラCの液圧算出処理に入力されて液圧トルク指令分の液圧が算出される。この処理では、液圧トルク指令をコントローラCのRAM80に保存されている変換係数に基づいて液圧トルク指令分の液圧に変換する。ステップS8では、ステップS7にて算出された液圧トルク指令分の液圧がコントローラCの目標液量算出処理に入力されて液圧トルク指令分の液量が算出される。この処理では、液圧トルク指令分の液圧をコントローラCのRAM80に保存されている液圧−液量テーブル情報に基づいて液圧トルク指令分の液量に変換する。ここで、液圧−液量テーブルでは増圧および減圧によるヒステリシス特性を考慮するようになっている。
ステップS9にて、ステップS8にて算出された液圧トルク指令分の液量を、ステップS4にて算出した、プライマリピストン10からのピストン目標液量と入力ピストン32からのピストン液量とを加算した液量から差し引いて回生トルク指令分に相当する液量を算出する。次に、ステップS10にて、ステップS9にて算出された回生トルク指令分に相当する液量を、コントローラCのプライマリピストン位置調整処理に入力して、プライマリピストン10の位置戻し量を算出する。この処理では、回生トルク指令分の液量をコントローラCのRAM80に保存されている変換係数に基づいてプライマリピストン位置戻し量に変換する。ステップS11では、ステップS1にて算出されたプライマリピストン10の暫定目標位置から、ステップS9で算出されたプライマリピストン位置戻し量を差し引くことによって、プライマリピストン10の目標位置を算出する。
次に、ステップS12では、ステップS11にて算出されたプライマリピストン目標位置がコントローラCの位置制御処理に入力されて、回転位置センサ60によって検出されたモータ回転位置とピストン目標位置との差異に基づいて電動モータ40へ戻り方向の回転加速度(目標加速度)が算出される。ここで、回転加速度の計算方法はPID制御やオブザーバを用いたものが挙げられる。次に、ステップS13では、ステップS12にて算出された回転加速度値がコントローラCの電流制御処理へ入力されて、回転加速度値に対応した電流値が算出されて、電動モータ40へ駆動指令が出力される。ここで、電流値は、モータトルク定数および慣性モーメントに基づいて算出される。なお、電動モータ40の駆動時のモータ回転位置の変位およびモータ電流値を回転位置センサ60および電流センサ79によって計測される。
上述したステップS6において、回生トルク指令を算出する際には、図4(a)に示す回生トルクリミット線図が適用される。該回生トルクリミット線図は、車両が発生可能な回生制動力の最大値に応じて算出される。本実施形態では、回生トルクリミット線図の回生トルクリミット(回生制動力)を、所定の車両速度領域(V2以上かつV1以下)において、ドライバからの制動トルク指令の大きさに基づいてその制限率が決定される。このことによって、回生協調制御中に発生する減速度変動及びペダル踏力変動の影響を抑制することが可能になる。
図4(a)には、(b)も参照して、制動トルク指令がg0より小さい時に使用する制限率0%の回生トルクリミット線図、制動トルク指令がg1((g0+g2)/2)の時に使用する制限率50%の回生トルクリミット線図及び制動トルク指令がg2より大きい時に使用する制限率100%の回生トルクリミット線図が示されている。このように、本実施形態では、回生トルクリミット線図の制限率を、ドライバによる制動トルク指令が大きくなる程連続的に増大させることにより、車両速度に対する回生トルク指令の変動率を低減させるようにする。図4(a)では、制限率100%の回生トルクリミット線図を、車両速度V1〜V2間で一定の傾きの直線状となるように設定しているが、滑らかな曲線状となるように設定してもよい。図4(a)から解るように、本実施の形態では、定められる車両速度領域(V1以上かつV2以下)が、制限率0%の回生トルクリミット線図における変動率の大きい箇所を含むように設定している。図4(a)から解るように、本実施の形態では、所定の車両速度領域の高い側の速度(V1)を、制限率0%の回生トルクリミット線図における最大の回生制動力が発生する車両速度V’よりも高い速度として設定している。また、所定の車両速度領域の低い側の速度(V2)を、制限率0%の回生トルクリミット線図における最大の回生制動力が発生する車両速度V’よりも低い速度として設定している。
次に、上述した図3のステップS6に係る回生トルク指令の算出方法を図5の制御フロー基づいて詳細に説明する。ステップS101では、図4(a)に示す制限率0%の回生トルクリミット線図を読み込んでステップ102に進む。ステップS102では、ブレーキ装置がON状態であるか否かが判定され、ON状態(Y)であればステップS103に進み、OFF状態(N)であればルーチンが終了する。ステップS103では、ドライバがブレーキペダルBを操作したか否かが判定され、成立した場合(Y)にはステップS104に進み、不成立の場合(N)にはステップS102に戻る。
次に、ステップS104では、ブレーキペダルBの操作量に基づいて算出された制動トルク指令を読み込んで、ステップS105に進む。ここで、制動トルク指令の他、制動トルク指令から算出される車両減速度指令を用いてもよい。ここまでは、図3のステップS5までの処理と同様である。次に、ステップS105では、車両速度がV1を越えているか、または、V2未満か否かが判定されて、成立した場合(Y)には、所定の車両速度領域外であるため、回生制動力の制限は不要である。このため、ステップS106及び107に進み、制限率0%の回生トルクリミット線図が固定テーブルとして使用されて回生トルク指令が算出されて、ステップS108に進む。該ステップS108では、ステップS107で算出された回生トルク指令に基づいて上述した図3のステップS7〜S13の工程が実行される。ステップS108の処理後は、ステップS102に戻る。
次に、ステップS105において、車両速度がV1を越えているか、または、V2未満か否かの判定が不成立、すなわち、車両速度がV1以下かつV2以上であった場合(N)には、所定の車両速度領域であるため、回生制動力の制限が必要であるので、ステップS109に進む。
ステップS109では、車両速度領域(V2以上かつV1以下)で用いる回生トルクリミット線図(後述のステップS114で記憶される固定テーブル)が決定済みであるか否かが判定される。このステップS109の判定が、成立した場合(Y)には、ステップS110及びS107に進み、該固定テーブルに基づいて回生トルク指令が算出される。その後、ステップS108では、ステップS107で算出された回生トルク指令に基づいて上述した図3のステップS7〜S11の工程が実行される。
一方、ステップS109において、回生トルクリミット線図(固定テーブル)が決定されていない場合(N)には、ステップS111に進む。該ステップS111では、ステップS104で読み込んだ制動トルク指令がg0以上かつg2以下であるか否か、すなわち、回生トルクリミット制限が必要な制動トルク指令となっているか否かが判定され、成立した場合(Y)にはステップS112に進む。ステップS112にて、制動トルク指令に基づいた回生トルクリミット線図の制限率Xを図4(b)に示す制限率算出テーブルに基づいて算出して、ステップS113、S114及びS107に進む。該ステップS113及び107において、算出された制限率Xの回生トルクリミット線図に基づいて回生トルク指令が算出されてステップS108に進む。なお、ステップS114では、ステップS112で算出された、制動トルク指令に基づいた制限率Xの回生トルクリミット線図が固定テーブルに記憶される。また、ステップS112における制限率Xの算出方法としては、制限率算出テーブル(図4(b))のように制動トルク指令の増加に比例して算出してもよいし、制動トルク指令の増加に応じた多項式によって算出してもよい。
一方、ステップS111にて、ステップS104で読み込んだ制動トルク指令がg0未満またはg2を越えていると判定された場合(N)にはステップS115に進み、該ステップS115にて制動トルク指令がg0未満であるか否かが判定される。ステップS115の判定が成立した場合(Y)にはステップS116、S114及びS107に進み、制限率0%の回生トルクリミット線図に基づいて回生トルク指令が算出されてステップS108に進む。また、ステップS115にて、制動トルク指令がg0未満ではないと判定された場合(N)には、制動トルク指令がg2を越えているので、ステップS117、S114及びS107に進み、制限率100%の回生トルクリミット線図に基づいて回生トルク指令が算出されてステップS108に進む。なお、ステップS114では、制動トルク指令に基づいた制限率0または100%の回生トルクリミット線図が固定テーブルに記憶される。
このように、ステップS6の回生トルク指令の算出は、制限率0%の回生トルクリミット線図における最大の回生制動力が発生する車両速度V’の前後となる所定の車両速度領域となったときに、そのときの制動トルク指令の大きさに応じて回生トルク指令が制限されて算出されるようになっている。ここで、所定の車両速度領域(V1〜V2)は、制限率0%の回生トルクリミット線図における最大の回生制動力が発生する車両速度V’を中央値として10〜15km/hぐらいの速度幅で設定する。例えば、上記車両速度V’が15km/h近傍であれば、速度V1を20km/hで、速度V2を8km/hで設定する。
次に、回生協調制御のタイムチャートを図6に基づいて詳細に説明する。
まず、時刻0付近においてドライバによる制動トルク指令がg0以上相当で入力され、該制動トルク指令(g0以上)は全て液圧トルク指令によって実行される。その後、回生トルク指令が増加し始め、回生協調動作が開始されると、それに伴って液圧トルク指令が減少する。時刻t1’において、車両速度がV1に到達(減速)すると、制動トルク指令がg0以上となっているので、制限された、すなわち、制限率100%または制動トルク指令に基づいた制限率X%の回生トルクリミット線図に基づいて回生トルク指令が算出される。
ここで、図6の実線は本発明の回生協調制動の制御方法、すなわち回生トルクリミットを制限した場合の液圧ブレーキトルク指令、ペダル踏力、減速度及び回生ブレーキトルク指令の推移を示しており、図6の点線は従来の回生協調制動の制御方法、すなわち回生トルクリミットを制限しない場合の上記項目の推移を示している。この図6からも分かるように、所定の車両速度領域において、制動トルク指令に基づいた制限された回生トルクリミット線図により回生トルク指令を算出することにより、回生トルク指令の変動率、言い換えれば、車両速度V1以降の減少率、すなわち、回生制動力の変化量を制限して、従来よりも緩やかにして、液圧トルク指令の急激な増加に起因する踏力変動を軽減することができる。すなわち、図6に示すペダル踏力の推移を参照すると、明らかに本発明が従来よりもその変動が少ない(車両速度V1以降)ことが解る。また、液圧トルク指令の増加量(図6の実線)と回生トルク指令の減少量(図6の実線)が整合性を保っているために車両の減速度変動も発生せず、ドライバに減速度変動による違和感を与えることはない。
次に、回生協調制御中に制動トルク指令が変化(踏力を緩める)した場合の回生協調制御、すなわち、回生協調制御中にブレーキペダルBに対する踏力が緩められ、制動トルク指令が減少するように変化した場合の制御方法について、以下に変形例として説明する。この変形例の場合、例えば、所定の車両速度領域(V2以上かつV1以下)では図7(a)に示すような太線の回生トルクリミット線図が適用されることになる。
まず、図7(c)も参照して、時刻0でドライバ入力の制動トルク指令がgst(g2よりも大きい)であると、車両速度がV1以下になった時点で、制限率100%の回生トルクリミット線図が適用される。続いて、時刻t0にて制動トルク指令がgstからg’(g0以上かつg2以下)に減少したとき、図5に示す制御方法では制限率100%の回生トルクリミット線図がそのまま適用されるのに対して、この変形例では、制動トルク指令がg’になった時点(t0)における回生トルク指令(制限率100%の回生トルクリミット線図により算出)が、制動トルク指令g’に対応した制限率X%の回生トルクリミット線図と交わるまで一定に維持されるように推移する(図7のA範囲参照)。
時刻t1にて制動トルク指令がg’からg”(g0未満)に変化したとき、制動トルク指令がg”になった時点(t1)における回生トルク指令(制動トルク指令g’に基づく制限率X%の回生トルクリミット線図より算出)が、制限率0%の回生トルクリミット線図と交わるまで一定に維持されるように推移する(図7のB範囲参照)。その後は、制動トルク指令がg”(g0未満)のままであるため、制限率0%の回生トルクリミット線図が適用される。このような制御方法を適用する理由として、該変形例で算出される回生トルクリミット線図は、制動トルク指令に応じて踏力変動の影響が軽減されるように考慮されている。すなわち、制動トルク指令が低下すれば、低下した分、回生トルク指令を制限(減少)させなくてもよくなり、液圧トルク指令の増加が抑えられ、踏力変動の影響を小さくしたままとすることが可能なためである。
次に、回生協調制御の変形例に係る回生トルク指令の算出方法を図8に示す制御フローに基づいて説明する。まず、ステップS201〜ステップ207は、図5に示す制御フローのステップS101〜S107と同様の処理が実行される。次に、ステップS208では、前回制動トルク指令がステップS204で読み込んだ当該制動トルク指令に更新される。続いて、ステップS209では、前回回生トルク指令がステップS207で算出された当該回生トルク指令に更新される。そして、ステップS210では、ステップS207で算出された当該回生トルク指令に基づいて上述した図3のステップS7〜S11の工程が実行される。次に、ステップS210の処理後は再びステップS202に戻る。
ステップS205にて、車両速度がV1を越えるかV2未満ではない、すなわち車両速度がV1以上かつV2以下であった場合(N)には、回生制動力の制限が必要であるので、ステップS211に進み、該ステップS211にて、当該制動トルク指令と前回制動トルク指令との比較が実行されて、当該制動トルク指令が前回制動トルク指令以上(本変形例では、gst≧0、gst≧gst、g’≧g’、g”≧g”のとき)の場合(Y)は、ステップS212に進む。なお、制動トルク指令の前回値の初期値はゼロとなっており、ステップS202において、ブレーキ装置がON状態でないと判断されて処理を終了するときに、ゼロリセットされるようになっている。
ステップS212では、車両速度領域(V2以上かつV1以下)で用いる回生トルクリミット線図(固定テーブル)が決定済みであるか否かが判定され、成立した場合(Y)には、ステップS213及びS214に進み、該固定テーブルに基づいて回生トルク指令が算出される。その後、ステップS223に進む。
次に、ステップS223では、ステップS214で算出された当該回生トルク指令が前回回生トルク指令よりも大きい場合(Y)は、ステップS224に進み、該ステップS224にて、当該回生トルク指令を前回回生トルク指令に変換してステップS208〜S210へ順次進む。この場合は、ステップS210では、前回回生トルク指令にて電動倍力装置制御(図3のステップS7〜S13)が実行される。一方、ステップS223において、ステップS214で算出された当該回生トルク指令が前回回生トルク指令よりも小さい場合(N)は、ステップS208〜S210へ順次進む。この場合、ステップS210では、ステップS214で算出された当該回生トルク指令にて電動倍力装置制御(図3のステップS7〜S13)が実行される。
このステップS223及びS224の処理によって、図7のA範囲に示すように、回生トルク指令が所定値で維持されるように設定される。すなわち、回生トルク指令の上昇が行われないために、液圧トルク指令の降下がなく、踏力変動を抑制することが可能になっている。
ステップS211において、当該制動トルク指令が前回制動トルク指令よりも小さい場合(N)の場合、また、ステップS212において、回生トルクリミット線図(固定テーブル)が決定されていない場合(N)には(本変形例では、gst≧0の場合)、いずれもステップS215に進む。
次に、該ステップS215では、ステップS204で読み込んだ当該制動トルク指令がg0以上かつg2以下であるか否かが判定され、成立した場合(Y)にはステップS216に進む。ステップS216にて、当該制動トルク指令に基づいた回生トルクリミット線図の制限率Xを図4(b)または図7(b)に示す制限率算出テーブルに基づいて算出して、ステップS217〜S219に進み、該ステップS217及びS219において、算出された制限率Xの回生トルクリミット線図に基づいて回生トルク指令が算出されてステップS223、S224、S208、S209及びS210に順次進む。なお、ステップS216における制限率Xの算出方法としては、制限率算出テーブル(図4(b)または図7(b))のように制動トルク指令の増加に比例して算出してもよいし、制動トルク指令の増加に応じた多項式によって算出してもよい。
一方、ステップS215にて、ステップS204で読み込んだ当該制動トルク指令がg0未満またはg2を越えていると判定された場合(N)にはステップS220に進む。該ステップS220にて当該制動トルク指令がg0未満であるか否かが判定されて、成立した場合(Y)にはステップS221、S218及びS219に進み、該ステップS221及びS219において、制限率0%の回生トルクリミット線図に基づいて回生トルク指令が算出されてステップS223、S224、S208、S209及びS210に順次進む。一方、ステップS220において、制動トルク指令がg0未満ではないと判定された場合(N)には、制動トルク指令がg2を越えているので、ステップS222、S218及びS219に進み、該ステップS222及びS219において、制限率100%の回生トルクリミット線図に基づいて回生トルク指令が算出されてステップS223、S224、S208、S209及びS210に順次進む。なお、ステップS218では、当該制動トルク指令に基づいた制限率0または100%の回生トルクリミット線図が固定テーブルに記憶される。
次に、回生協調制御の変形例に係るタイムチャートを図9に基づいて詳細に説明する。まず、時刻0付近においてドライバによる制動トルク指令がg2以上相当の制動トルク指令gstが入力され、その制動トルク指令gstは全て液圧トルク指令によって実行される。その後、回生トルク指令が増加し始め、回生協調動作が開始されると、それに伴って液圧トルク指令が減少する。
時間t0において、車両速度がV1に到達すると、制動トルク指令がg2より大きいgstであるために、制限率100%の回生トルクリミット線図(図7(a)参照)に基づいて回生トルク指令が算出される。時刻t1において、制動トルク指令がgst(g2よりも大きい)からg’(g0以上かつg2以下)に減少すると、その時点の回生トルク指令が制動トルク指令g’相当の制限率X%の回生トルクリミット線図と交わるまで維持される(図7のA範囲参照)。時刻t2において、制動トルク指令がg’(g0以上かつg2以下)からg”(g0未満)に減少すると、その時点の回生トルク指令が制限率0%の回生トルクリミット線図(図7(a)参照)と交わるまで維持される(図7のB範囲参照)。なお、図9の実線は本発明の回生協調制御の変形例における制動トルク指令、液圧ブレーキトルク指令、ペダル踏力、減速度及び回生ブレーキトルク指令の推移を示し、点線は制動トルク指令が減少した場合でも同じ制限率の回生トルクリミット線図がそのまま適用された際の上記各項目の推移を示す。
この図9からも分かるように、所定の車両速度領域において、回生協調制御中に制動トルク指令が減少した場合には、読み込まれた制動トルク指令毎に回生トルクリミット線図をその都度算出すると共に、回生トルク指令を必要以上に大きくすることなく一定に維持するように制御するので、回生トルク指令の変動率(車両速度V1以降の減少率)が緩やかとなり、液圧トルク指令の急激な増加に起因する踏力変動を軽減することができる。また、液圧トルク指令の増加量(図9の実線)と回生トルク指令の減少量(図9の実線)が整合性を保っているために車両の減速度変動も発生せず、ドライバに減速度変動による違和感を与えることはない。
上記実施形態や変形例のブレーキ装置においては、車両を駆動する電動モータによって回生制動力を発生する回生制動装置と、ブレーキペダルの操作により進退移動する入力部材に対して相対移動可能に配置されるアシスト部材を進退移動させる電動アクチュエータを制御して前記ブレーキペダルによる前記入力部材の移動に応じて、前記電動アクチュエータによる前記アシスト部材に付与されるアシスト推力によりマスタシリンダ内に倍力されたブレーキ液圧を発生させる電動倍力装置と、前記回生制動力による制動中、所定の車両速度領域における車両速度の低下に伴う前記回生制動力の変化量を制限し、前記回生制動力の低下にあわせて前記電動倍力装置によって前記ブレーキ液圧を増大させる回生液圧制御手段と、を備えている。
このような構成により、回生制動力の変化量を緩やかにするとともに、電動倍力装置のブレーキ液圧を増大させる制御を行うことになるため、踏力変動と減速度変動とを同時に抑制することができ、回生協調ブレーキ作動中の運転者への違和感を抑制することができる。